Hilbert空間上の作用素論

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本稿においては、Hilbert空間上の作用素論を展開する。特に量子力学の数学的構造に関わる関数解析学と相性の良い、Hilbert空間上の非有界線形作用素(非有界反線形作用素)の理論、Hilbert空間上の射影値測度(projection-valued measure、PVM)による積分の一般論について詳しく論じる。射影値測度の典型例として、Hilbert空間上の(有界とは限らない)自己共役作用素に付随するスペクトル測度がある。このスペクトル測度による積分(Borel汎関数計算、Borel functional calculus)により、自己共役作用素 $T$ と $T$ のスペクトル $\sigma(T)$ 上で定義されたBorel関数 $f\colon\sigma(T)\rightarrow\mathbb{C}$ に対し $f(T)$ と表すに相応しい作用素が定義できる。こうして、例えば量子力学において基本的な物理量を表す自己共役作用素に対し、その関数で表される作用素が定義できる。(量子力学の数学的構造に関わる関数解析Stone-von Neumannの一意性定理水素様原子の離散スペクトルの決定などを参照。)また、境界条件の付いたラプラシアン(より一般には楕円型偏微分作用素)は自己共役作用素であるが、境界条件付きの波動方程式、熱方程式などの一般解を、そのラプラシアンの関数として表すことが可能である。(微分方程式の初歩を参照。)さらに射影値測度は局所コンパクト群のユニタリ表現の理論を展開する上でも重要な役割を演じる。
本稿では、直和Hilbert空間、テンソル積Hilbert空間上の作用素の一般論、トレースクラスとHilbert-Schmidtクラスについても展開している。直和Hilbert空間、テンソル積Hilbert空間上の作用素の一般論はFock空間上の作用素論(Fock空間、CCRとCARの表現)を展開する上で基礎となり、Fock空間上の作用素論は、トレースクラスとHilbert-Schmidtクラス、von Neumann環と共に量子統計力学の数理の基礎となる(無限量子系のための作用素環論)。
本稿で仮定する知識は、Hilbert空間と有界線形作用素の初歩的な知識(位相線形空間1:ノルムと内積の内容)、セミノルム位相、汎弱位相の初歩的な知識(位相線形空間2:セミノルム位相と汎弱位相の内容)、測度論(入門テキスト「測度と積分」の程度の内容)、$C^*$-環のスペクトルの初歩的な知識(Banach環とC*-環のスペクトル理論の程度の内容)である。本稿では Hilbert空間と言えば、特に断ることのない限り $\mathbb{C}$ 上のものとする。また、Hilbert空間の内積は第二変数に関して線形とし、$\mathbb{N}=\{1,2,3,\ldots\}$、$\mathbb{Z}_+=\{0,1,2,3,\ldots\}$ とする。

1. $C^*$-環 $\mathbb{B}(\mathcal{H})$ の元の作用素としての特徴付け

定義1.1(Hilbert空間 $\mathcal{H}$ 上の正規作用素、有界(非負)自己共役作用素、射影作用素、部分等長作用素)

$\mathcal{H}$ をHilbert空間とする。位相線形空間1:ノルムと内積系7.5より $\mathcal{H}$ 上の有界線形作用素全体 $\mathbb{B}(\mathcal{H})$ は単位的 $C^*$-環をなす。$C^*$-環 $\mathbb{B}(\mathcal{H})$ の正規元、自己共役元、非負元、射影、部分等長元(Banach環とC*-環のスペクトル理論定義3.3定義7.2定義8.1定義8.4)をそれぞれ $\mathcal{H}$ 上の正規作用素、有界自己共役作用素、有界非負自己共役作用素、射影作用素、部分等長作用素と言う。すなわち、$T\in \mathbb{B}(\mathcal{H})$ が正規作用素であるとは $T^*T=TT^*$ が成り立つこと、$T\in \mathbb{B}(\mathcal{H})$ が有界自己共役作用素であるとは $T^*=T$ が成り立つこと、$T\in \mathbb{B}(\mathcal{H})$ が有界非負自己共役作用素であるとは $T^*=T$ かつ $\sigma(T)\subset [0,\infty)$ が成り立つこと、$P\in \mathbb{B}(\mathcal{H})$ が射影作用素であるとは $P^2=P$ かつ $P^*=P$ が成り立つこと、$V\in \mathbb{B}(\mathcal{H})$ が部分等長作用素であるとは $V^*V$ が射影作用素であることを言う。

注意1.2($C^*$-環 $\mathbb{B}(\mathcal{H})$ のユニタリ元はユニタリ作用素)

$\mathcal{H}$ をHilbert空間とする。共役作用素の定義(位相線形空間1:ノルムと内積定義7.3)より、$U\colon\mathcal{H}\rightarrow\mathcal{H}$ に対し次は互いに同値である。

命題1.3($C^*$-環 $\mathbb{B}(\mathcal{H})$ の可逆元の作用素としての特徴付け)

$\mathcal{H}$ をHilbert空間、$T\in \mathbb{B}(\mathcal{H})$ とする。このとき次は互いに同値である。

  • $(1)$ $T$ は単位的 $C^*$-環 $\mathbb{B}(\mathcal{H})$ の可逆元である。
  • $(2)$ $T\colon\mathcal{H}\rightarrow\mathcal{H}$ は全単射である。
  • $(3)$ ある $\epsilon\in(0,\infty)$ に対し、

$$ \lVert Tv\rVert\geq\epsilon\lVert v\rVert,\quad\lVert T^*v\rVert\geq \epsilon\lVert v\rVert\quad(\forall v\in\mathcal{H})\quad\quad(*) $$ が成り立つ。

Proof.

$(1)\Rightarrow(2)$ は自明である。$(2)\Rightarrow(1)$ は開写像定理(位相線形空間4:Fréchet空間と関数解析の基本定理定理18.2)による。$(1)$ が成り立つならば $T^*$ も $\mathbb{B}(\mathcal{H})$ の可逆元であり、任意の $v\in \mathcal{H}$ に対し、 $$ \begin{aligned} &\lVert v\rVert=\lVert T^{-1}Tv\rVert\leq \lVert T^{-1}\rVert\lVert Tv\rVert,\\ &\lVert v\rVert=\lVert {T^*}^{-1}T^*v\rVert\leq \lVert {T^*}^{-1}\rVert\lVert T^*v\rVert \end{aligned} $$ となる。よって $(3)$ が成り立つ。$(3)\Rightarrow(2)$ を示す。$(3)$ が成り立つとする。このとき明らかに ${\rm Ker}(T)={\rm Ker}(T^*)=\{0\}$ であり、${\rm Ran}(T), {\rm Ran}(T^*)$ は閉である[1]。よって位相線形空間1:ノルムと内積命題6.12命題7.4の $(6)$ より、 $$ \begin{aligned} &{\rm Ran}(T)=\overline{{\rm Ran}(T)}=({\rm Ran}(T))^{\perp\perp}=({\rm Ker}(T^*))^{\perp}=\{0\}^{\perp}=\mathcal{H},\\ &{\rm Ran}(T^*)=\overline{{\rm Ran}(T^*)}=({\rm Ran}(T^*))^{\perp\perp}=({\rm Ker}(T))^{\perp}=\{0\}^{\perp}=\mathcal{H} \end{aligned} $$ である。ゆえに $(2)$ が成り立つ。

命題1.4(Hilbert空間上の有界(非負)自己共役作用素の特徴付け)

$\mathcal{H}$ をHilbert空間、$T\in \mathbb{B}(\mathcal{H})$ とする。このとき、

  • $(1)$ $T$ が有界自己共役作用素であるための必要十分条件は任意の $v\in \mathcal{H}$ に対し $(v\mid Tv)\in \mathbb{R}$ が成り立つことである。
  • $(2)$ $T$ が有界非負自己共役作用素であるための必要十分条件は任意の $v\in\mathcal{H}$ に対し $(v\mid Tv)\geq0$ が成り立つことである。
Proof.

  • $(1)$ $T$ が有界自己共役作用素ならば $T^*=T$ より任意の $v\in \mathcal{H}$ に対し $(v\mid Tv)=(T^*v\mid v)=(Tv\mid v)=\overline{(v\mid Tv)}$ であるから $(v\mid Tv)\in\mathbb{R}$ である。逆に任意の $v\in \mathcal{H}$ に対し $(v\mid Tv)\in \mathbb{R}$、したがって $(v\mid Tv)=\overline{(v\mid Tv)}=(Tv\mid v)$ ならば、偏極恒等式(測度と積分6:数え上げ測度と $\ell^p$ 空間定義25.2)より 任意の $u,v\in \mathcal{H}$ に対し、

$$ (u\mid Tv)=\frac{1}{4}\sum_{k=0}^{3}i^k(i^ku+v\mid T(i^ku+v))=\frac{1}{4}\sum_{k=0}^{3}i^k(T(i^ku+v)\mid i^ku+v)=(Tu\mid v) $$ である。よって $T=T^*$ であるから $T$ は有界自己共役作用素である。

  • $(2)$ $T$ が有界非負自己共役作用素ならば Banach環とC*-環のスペクトル理論命題7.5より $T=\sqrt{T}^2$ なる有界非負自己共役作用素 $\sqrt{T}$ が取れるので、任意の $v\in \mathcal{H}$ に対し $(v\mid Tv)=(v\mid \sqrt{T}^2v)=(\sqrt{T}v\mid \sqrt{T}v)=\lVert \sqrt{T}v\rVert^2\geq0$ である。逆に任意の $v\in \mathcal{H}$ に対し $(v\mid Tv)\geq0$ が成り立つとして $T$ が有界非負自己共役作用素であることを示す。$(1)$ より $T$ は有界自己共役作用素であるので $\sigma(T)\subset [0,\infty)$ が成り立つことを示せばよい。 $T$ は自己共役であるので $\sigma(T)\subset \mathbb{R}$ (Banach環とC*-環のスペクトル理論命題3.6)である。 そこで今、$\lambda\in \sigma(T)$ で $\lambda<0$ なるものが存在すると仮定して矛盾を導く。$\lambda-T$ は自己共役であり、可逆ではないので命題1.3より任意の $\epsilon\in (0,\infty)$ に対し $v_{\epsilon}\in \mathcal{H}$ で、

$$ \lVert (\lambda-T)v_{\epsilon}\rVert<\epsilon\lVert v_{\epsilon}\rVert $$ を満たすものが取れる。$-\lambda(v_{\epsilon}\mid Tv_{\epsilon})\geq0$ より、 $$ \begin{aligned} \epsilon^2\lVert v_{\epsilon}\rVert^2>\lVert (\lambda-T)v_{\epsilon}\rVert^2 =\lvert\lambda\rvert^2\lVert v_{\epsilon}\rVert^2-2\lambda(v_{\epsilon}\mid Tv_{\epsilon})+\lVert Tv_{\epsilon}\rVert^2\geq\lvert\lambda\rvert^2\lVert v_{\epsilon}\rVert^2 \end{aligned} $$ となり $\epsilon>\lvert\lambda\rvert$ を得る。$\epsilon\in (0,\infty)$ は任意であるからこれは $\lambda=0$ を意味し、$\lambda<0$ に矛盾する。よって $\sigma(T)\subset [0,\infty)$ が成り立つ。

命題1.5(Hilbert空間上の射影作用素の特徴付け)

$\mathcal{H}$ をHilbert空間、$P\in \mathbb{B}(\mathcal{H})$ とする。このとき次は互いに同値である。

  • $(1)$ $P$ は $\mathcal{H}$ 上の射影作用素である。
  • $(2)$ $\mathcal{H}$ の閉部分空間 $\mathcal{K}$ が存在し、直交分解 $\mathcal{H}=\mathcal{K}\oplus \mathcal{K}^{\perp}$(位相線形空間1:ノルムと内積定理6.11)に対し、

$$ Pv=v_1\quad(\forall v=v_1+v_2\in \mathcal{K}\oplus \mathcal{K}^{\perp}=\mathcal{H}) $$ が成り立つ。

そして $(1),(2)$ が成り立つとき $\mathcal{K}={\rm Ran}(P)$、$\mathcal{K}^{\perp}={\rm Ran}(1-P)$ である。

Proof.

$(1)\Rightarrow(2)$ を示す。$(1)$ が成り立つとすると $P^2=P$ より ${\rm Ran}(P)={\rm Ker}(1-P)$ であるから ${\rm Ran}(P)$ は $\mathcal{H}$ の閉部分空間である。そして $1-P$ も射影作用素であるから $\Ran(1-P)=\Ker(1-(1-P))=\Ker(P)$ であるので、位相線形空間1:ノルムと内積命題7.4の $(6)$ より、 $$ {\rm Ran}(P)^{\perp}={\rm Ker}(P^*)={\rm Ker}(P)={\rm Ran}(1-P) $$ である。よって任意の $v\in \mathcal{H}$ に対し、 $$ v=Pv+(1-P)v\in {\rm Ran}(P)\oplus {\rm Ran}(P)^{\perp}=\mathcal{H} $$ であるから、$\mathcal{K}={\rm Ran}(P)$ とおけば $(2)$ が成り立つ。
$(2)\Rightarrow(1)$ を示す。$(2)$ が成り立つとする。任意の $u,v\in \mathcal{H}$ に対し、 $$ u=u_1+u_2,\quad v=v_1+v_2\quad(u_1,v_1\in\mathcal{K}, u_2,v_2\in\mathcal{K}^{\perp}) $$ と直交分解すると、 $$ (u\mid Pv)=(u\mid v_1)=(u_1\mid v_1)=(u_1\mid v)=(Pu\mid v) $$ であるから $P^*=P$ が成り立つ。また $P^2v=Pv_1=v_1=Pv$ であるから $P^2=P$ が成り立つ。よって $P$ は射影作用素である。

定義1.6(閉部分空間の上への射影作用素)

$\mathcal{H}$ をHilbert空間、$\mathcal{K}\subset \mathcal{H}$ を閉部分空間とする。命題1.5の $(2)\Rightarrow(1)$ の証明より、直交分解 $\mathcal{H}=\mathcal{K}\oplus \mathcal{K}^{\perp}$ に対し、 $$ Pv\colon=v_1\quad(\forall v=v_1+v_2\in \mathcal{K}\oplus \mathcal{K}^{\perp}=\mathcal{H}) $$ として射影作用素 $P\in \mathbb{B}(\mathcal{H})$ が定まる。この $P$ を閉部分空間 $\mathcal{K}$ の上への射影作用素と言う。 $1-P$ は $\mathcal{K}^{\perp}$ の上への射影作用素である。

命題1.7(Hilbert空間上の部分等長作用素の特徴付け)

$\mathcal{H}$ をHilbert空間、$V\in \mathbb{B}(\mathcal{H})$ とする。このとき次は互いに同値である。

  • $(1)$ $V$ は $\mathcal{H}$ 上の部分等長作用素である。
  • $(2)$ $\mathcal{H}$ の閉部分空間 $\mathcal{K}$ が存在し、

$$ \lVert Vv\rVert=\lVert v\rVert\quad(\forall v\in \mathcal{K}),\quad {\rm Ker}(V)=\mathcal{K}^{\perp} $$ が成り立つ。

そして $(1),(2)$ が成り立つとき $V^*V$ は $\mathcal{K}$ の上への射影作用素である。

Proof.

$(1)\Rightarrow(2)$ を示す。$(1)$ が成り立つとする。$V^*V\in\mathbb{B}(\mathcal{H})$ は命題1.5より $\mathcal{H}$ の閉部分空間 $\mathcal{K}={\rm Ran}(V^*V)$ の上への射影作用素であるから、任意の $v\in \mathcal{K}$ に対し、 $$ \lVert Vv\rVert^2=(Vv\mid Vv)=(v\mid V^*Vv)=(v\mid v)=\lVert v\rVert^2 $$ であり、任意の $v\in \mathcal{K}^{\perp}$ に対し、 $$ \lVert Vv\rVert^2=(Vv\mid Vv)=(v\mid V^*Vv)=0 $$ である。よって、 $$ \lVert Vv\rVert=\lVert v\rVert\quad(\forall v\in \mathcal{K}),\quad \mathcal{K}^{\perp}\subset {\rm Ker}(V) $$ である。任意の $v\in {\rm Ker}(V)$ に対し、 $$ v=v_1+v_2\in \mathcal{K}\oplus \mathcal{K}^{\perp}=\mathcal{H} $$ と直交分解すると、$\lVert Vv_1\rVert=\lVert v_1\rVert$、$Vv_2=0$ であるから、 $$ 0=\lVert Vv\rVert=\lVert Vv_1\rVert=\lVert v_1\rVert, $$ よって $v=v_2\in \mathcal{K}^{\perp}$ であるから ${\rm Ker}(V)=\mathcal{K}^{\perp}$ である。ゆえに $(2)$ が成り立つ。
$(2)\Rightarrow(1)$ を示す。$(2)$ が成り立つとする。任意の $v\in \mathcal{K}$ に対し、 $$ (v\mid v)=\lVert v\rVert^2=\lVert Vv\rVert^2=(Vv\mid Vv) $$ であるから、偏極恒等式(測度と積分6:数え上げ測度と $\ell^p$ 空間定義25.2)より 任意の $u,v\in \mathcal{K}$ に対し、 $$ (u\mid v)=\frac{1}{4}\sum_{k=0}^{3}i^k(i^ku+v\mid i^ku+v)=\frac{1}{4}\sum_{k=0}^{3}i^k(V(i^ku+v)\mid V(i^ku+v))=(Vu\mid Vv) $$ である。よって任意の $u,v\in \mathcal{H}$ に対し、 $$ u=u_1+u_2,\quad v=v_1+v_2\quad(u_1,v_1\in\mathcal{K}, u_2,v_2\in\mathcal{K}^{\perp}) $$ と直交分解すると、 $$ (u\mid V^*Vv)=(Vu\mid Vv)=(Vu_1\mid Vv_1)=(u_1\mid v_1)=(u\mid v_1) $$ となる。ゆえに $V^*Vv=v_1$ であるから、$V^*V$ は $\mathcal{K}$ の上への射影作用素であり、したがって $V$ は部分等長作用素である。

2. $\mathbb{B}(\mathcal{H})$ のWOT(weak operator topology)とSOT(strong operator topology)、射影作用素の直交族の(無限)和

この節ではセミノルム位相と汎弱位相の基本的な知識を自由に用いる。これらについては位相線形空間2:セミノルム位相と汎弱位相の8,9を参照されたい。

定義2.1($\mathbb{B}(\mathcal{H})$ のWOT(weak operator topology)とSOT(strong operator topology))

$\mathcal{H}$ をHilbert空間とする。任意の $u,v\in\mathcal{H}$ に対し線形空間 $\mathbb{B}(\mathcal{H})$ 上の線形汎関数 $\varphi_{u,v}\colon\mathbb{B}(\mathcal{H})\rightarrow\mathbb{C}$ とセミノルム $p_v\colon\mathbb{B}(\mathcal{H})\rightarrow [0,\infty)$ を、 $$ \varphi_{u,v}(T)\colon=(u\mid Tv),\quad p_v(T):=\lVert Tv\rVert\quad(\forall T\in\mathbb{B}(\mathcal{H})) $$ として定義する。このとき $\{\varphi_{u,v}\}_{u,v\in\mathcal{H}}$ は $\mathbb{B}(\mathcal{H})$ 上の線形汎関数の分離族、$\{p_v\}_{v\in\mathcal{H}}$ は $\mathbb{B}(\mathcal{H})$ 上のセミノルムの分離族である。$\{\varphi_{u,v}\}_{u,v\in\mathcal{H}}$ が誘導する $\mathbb{B}(\mathcal{H})$ 上の汎弱位相を $\mathbb{B}(\mathcal{H})$ のWOT(weak operator topology)と言い、$\{p_v\}_{v\in \mathcal{H}}$ が誘導する $\mathbb{B}(\mathcal{H})$ 上のセミノルム位相を $\mathbb{B}(\mathcal{H})$ 上のSOT(strong operator topology)と言う。セミノルム位相、汎弱位相による収束の特徴付け(位相線形空間2:セミノルム位相と汎弱位相命題8.6の $(1)$、命題9.3の $(1)$)より、$\mathbb{B}(\mathcal{H})$ のネット $(T_{\lambda})_{\lambda\in\Lambda}$ と $T\in \mathbb{B}(\mathcal{H})$ に対し、 $$ \begin{aligned} T_{\lambda}\rightarrow T\quad(\text{ w.r.t. WOT })\quad&\iff\quad (u\mid T_{\lambda}v)\rightarrow (u\mid Tv)\quad(\forall u,v\in \mathcal{H}),\quad\quad(*)\\ T_{\lambda}\rightarrow T\quad(\text{ w.r.t. SOT })\quad&\iff\quad \lVert T_{\lambda}v-Tv\rVert\rightarrow0\quad(\forall v\in\mathcal{H})\quad\quad(**) \end{aligned} $$ である。

注意2.2($\mathbb{B}(\mathcal{H})$ のノルム位相、SOT、WOTの強弱)

$\mathbb{B}(\mathcal{H})$ のネット $(T_{\lambda})_{\lambda\in\Lambda}$ と $T\in \mathbb{B}(\mathcal{H})$ に対し、$T_{\lambda}\rightarrow T$ がSOTに関して成り立つならばWOTに関して成り立つ(定義2.1の $(*),(**)$を参照)。よってネットの収束による連続性の特徴付け(ネットによる位相空間論定理3)よりSOTはWOTより強い。また $\mathbb{B}(\mathcal{H})$ のノルムに関して収束する列はSOTに関して収束するので、ノルム位相はSOTより強い。

命題2.3($\mathbb{B}(\mathcal{H})_{\rm sa}, \mathbb{B}(\mathcal{H})_+$ はWOT閉)

$\mathcal{H}$ をHilbert空間とする。有界自己共役作用素全体 $\mathbb{B}(\mathcal{H})_{\rm sa}$ と有界非負自己共役作用素全体 $\mathbb{B}(\mathcal{H})_+$ はそれぞれ $\mathbb{B}(\mathcal{H})$ においてWOT閉(したがってSOT閉、ノルム閉)である。

Proof.

$T$ を $\mathbb{B}(\mathcal{H})_{\rm sa}$(resp. $\mathbb{B}(\mathcal{H})_+$)のWOT閉包の元とすると、$\mathbb{B}(\mathcal{H})_{\rm sa}$(resp. $\mathbb{B}(\mathcal{H})_+$)のネット $(T_{\lambda})_{\lambda\in\Lambda}$ でWOTで $T$ に収束するものが取れる(ネットによる位相空間論命題2.4)。命題1.4より任意の $v\in \mathcal{H}$、任意の $\lambda\in \Lambda$ に対し $(v\mid T_{\lambda}v)\in\mathbb{R}$(resp. $(v\mid T_{\lambda}v)\in [0,\infty)$)であるから、$(v\mid Tv)=\lim_{\lambda\in\Lambda}(v\mid T_{\lambda}v)\in \mathbb{R}$(resp. $(v\mid Tv)=\lim_{\lambda\in\Lambda}(v\mid T_{\lambda}v)\in [0,\infty)$)である。よって命題1.4より $T\in \mathbb{B}(\mathcal{H})_{\rm sa}$(resp. $T\in \mathbb{B}(\mathcal{H})_+$)であるから $\mathbb{B}(\mathcal{H})_{\rm sa}$(rsep. $\mathbb{B}(\mathcal{H})_+$)はWOTに関して閉である。SOTとノルム位相はWOTより強いので、WOTに関して閉であることは、SOTとノルム位相に関しても閉であることを意味する。

定理2.4($\mathbb{B}(\mathcal{H})_{\rm sa}$ の有界単調増加ネットの上限へのSOT収束)

$\mathcal{H}$ をHilbert空間、$(T_{\lambda})_{\lambda\in\Lambda}$ を $\mathbb{B}(\mathcal{H})_{\rm sa}$ の単調増加ネットとし($\mathbb{B}(\mathcal{H})_{\rm sa}$ の順序に関してはBanach環とC*-環のスペクトル理論定義7.8を参照)、ある $M\in [0,\infty)$ に対し $\lVert T_{\lambda}\rVert\leq M$ $(\forall \lambda\in \Lambda)$ が成り立つとする。このとき $\sup_{\lambda\in\Lambda}T_{\lambda}\in \mathbb{B}(\mathcal{H})_{\rm sa}$ が存在し、$(T_{\lambda})_{\lambda\in\Lambda}$ は $\sup_{\lambda\in\Lambda}T_{\lambda}$ にSOTで収束する。(WOTはSOTより弱いのでWOTでも収束する。)

Proof.

任意の $v\in\mathcal{H}$ に対し、$( (v\mid T_{\lambda}v))_{\lambda\in\Lambda}$ は $\mathbb{R}$ の上に有界な単調増加ネットであるから上限に収束する。すなわち、 $$ \lim_{\lambda\in\Lambda}(v\mid T_{\lambda}v)=\sup_{\lambda\in\Lambda}(v\mid T_{\lambda}v) $$ が成り立つ。偏極恒等式より任意の $u,v\in\mathcal{H}$ に対し、 $$ (u\mid T_{\lambda}v)=\frac{1}{4}\sum_{k=0}^{3}i^k(i^ku+v\mid T_{\lambda}(i^ku+v))\quad(\forall \lambda\in\Lambda) $$ であるから、$\mathbb{C}$ のネット $( (u\mid T_{\lambda}v))_{\lambda\in\Lambda}$ は収束する。そこで、 $$ \Phi\colon\mathcal{H}\times \mathcal{H}\ni (u,v)\mapsto \lim_{\lambda\in\Lambda}(u\mid T_{\lambda}v)\in \mathbb{C} $$ とおくと、$\Phi$ は準双線形汎関数(位相線形空間1:ノルムと内積定義6.4)であり、 $$ \lvert\Phi(u,v)\rvert=\lim_{\lambda\in\Lambda}\lvert (u\mid T_{\lambda}v)\rvert\leq M\lVert u\rVert\lVert v\rVert\quad(\forall u,v\in \mathcal{H}) $$ より $\Phi$ は有界であり、そのノルムは $\lVert\Phi\rVert\leq M$ を満たす。よって位相線形空間1:ノルムと内積定理7.1より $T\in \mathbb{B}(\mathcal{H})$ で、 $$ (u\mid Tv)=\Phi(u,v)\quad(\forall u,v\in\mathcal{H}),\quad \lVert T\rVert=\lVert\Phi\rVert\leq M $$ を満たすものが定まる。 $$ (v\mid Tv)=\Phi(v,v)=\lim_{\lambda\in\Lambda}(v\mid T_{\lambda}v)=\sup_{\lambda\in\Lambda}(v\mid T_{\lambda}v)\quad(\forall v\in\mathcal{H}) $$ であるから、命題1.4より $T\in \mathbb{B}(\mathcal{H})_{\rm sa}$ であり、$T\geq T_{\lambda}$ $(\forall \lambda\in\Lambda)$ である。また $S\geq T_{\lambda}$ $(\forall \lambda\in\Lambda)$ なる任意の $S\in \mathbb{B}(\mathcal{H})_{\rm sa}$ に対し、 $$ (v\mid Sv)\geq\sup_{\lambda}(v\mid T_{\lambda}v)=(v\mid Tv)\quad(\forall v\in\mathcal{H}) $$ であるから、$S\geq T$ である。よって $T=\sup_{\lambda\in\Lambda}T_{\lambda}$ である。後は $(T_{\lambda})_{\lambda\in\Lambda}$ が $T$ にSOTで収束することを示せばよい。 Banach環とC*-環のスペクトル理論命題7.12より、 $$ 0\leq T-T_{\lambda}\leq \lVert T-T_{\lambda}\rVert\leq 2M\quad(\forall\lambda\in\Lambda) $$ であり、 $$ 0\leq (T-T_{\lambda})^2\leq \sqrt{T-T_{\lambda}}(T-T_{\lambda})\sqrt{T-T_{\lambda}}\leq 2M(T-T_{\lambda})\quad(\forall \lambda\in\Lambda) $$ である。よって任意の $v\in \mathcal{H}$ に対し、 $$ \lVert Tv-T_{\lambda}v\rVert^2=(v\mid(T-T_{\lambda})^2v)\leq 2M(v\mid(T-T_{\lambda})v)=2M( (v\mid Tv)-(v\mid T_{\lambda}v))\rightarrow0 $$ であるから、$(T_{\lambda})_{\lambda\in\Lambda}$ は $T$ にSOTで収束する。

命題2.5(射影作用素からなる単調増加ネットの上限(SOT(WOT)極限)は射影作用素)

$\mathcal{H}$ をHilbert空間、$(P_{\lambda})_{\lambda\in\Lambda}$ を $\mathcal{H}$ 上の射影作用素からなる単調増加ネットとする。このとき $P\colon=\sup_{\lambda\in\Lambda}P_{\lambda}\in \mathbb(B)(\mathcal{H})_+$(定理2.4を参照)は射影作用素である。

Proof.

$P^2=P$ が成り立つことを示せばよい。任意の $\lambda_0\in\Lambda$ を取り固定する。任意の $\lambda\geq\lambda_0$ に対し $P_{\lambda}\geq P_{\lambda_0}$ であるから、Banach環とC*-環のスペクトル理論命題8.2の $(3)$ より、 $$ P_{\lambda_0}=P_{\lambda_0}P_{\lambda}\quad(\forall \lambda\geq\lambda_0) $$ である。$(P_{\lambda})_{\lambda\in\Lambda}$ は $P$ にSOT収束するから、 $$ P_{\lambda_0}v=\lim_{\lambda\in\Lambda}P_{\lambda_0}P_{\lambda}v=P_{\lambda_0}Pv\quad(\forall v\in\mathcal{H}) $$ である。$\lambda_0\in\Lambda$ は任意であるから $P_{\lambda}v=P_{\lambda}Pv$ $(\forall\lambda\in\Lambda,\forall v\in\mathcal{H})$ であるので、 $$ Pv=\lim_{\lambda\in\Lambda}P_{\lambda}v=\lim_{\lambda\in\Lambda}P_{\lambda}Pv=P^2v\quad(\forall v\in\mathcal{H}) $$ である。ゆえに $P=P^2$ であるから $P$ は射影作用素である。

定義2.6(射影作用素の直交族の和)

$\mathcal{H}$ をHilbert空間とする。$\mathcal{H}$ 上の射影作用素の族 $(P_j)_{j\in J}$ が直交族であるとは、$P_iP_j=0$ $(\forall i,j\in J:i\neq j)$ が成り立つことを言う。$(P_j)_{j\in J}$ を射影作用素の直交族とし、$\mathcal{F}_J$ を $J$ の有限部分集合全体に集合の包含関係による順序を入れた有向集合とする。このとき $(\sum_{j\in F}P_j)_{F\in \mathcal{F}_J}$ は $\mathcal{H}$ 上の射影作用素からなる単調増加ネットであるから、命題2.5よりその上限(SOT極限)は射影作用素である。そこでこの射影作用素を射影作用素の直交族 $(P_j)_{j\in J}$ の和と言い、 $$ \sum_{j\in J}P_j\colon=\sup_{F\in \mathcal{F}_J}\sum_{j\in F}P_j=\text{SOT-}\lim_{F\in\mathcal{F}_J}\sum_{j\in J}P_j $$ と表す。

3. Hilbert空間上の有界とは限らない線形作用素の定義と基本的性質

定義3.1(Hilbert空間上の有界とは限らない線形作用素)

$\mathcal{H},\mathcal{K}$ をHilbert空間とする。$T$ が $\mathcal{H}$ から $\mathcal{K}$ への線形作用素であると言うとき、$T$ は $\mathcal{H}$ 全体で定義されているとは限らず、$\mathcal{H}$ のある線形部分空間 $D(T)$ 上で定義され、$\mathcal{K}$ に値を取る線形作用素であることを意味することとする。$D(T)\subset \mathcal{H}$ を $T$ の定義域、${\rm Ran}(T)=T(D(T))\subset \mathcal{K}$ を $T$ の値域と言う。 そして直和Hilbert空間 $\mathcal{H}\oplus \mathcal{K}$(測度と積分6:数え上げ測度と $\ell^p$ 空間定義26.3)の線形部分空間 $$ G(T)\colon=\{(v,Tv)\in \mathcal{H}\oplus \mathcal{K}:v\in D(T)\} $$ を $T$ のグラフと言う。
Hilbert空間 $\mathcal{H}$ からHilbert空間 $\mathcal{H}$ への線形作用素のことを単にHilbert空間 $\mathcal{H}$ 上の線形作用素と言う。
$T$ がHilbert空間 $\mathcal{H}$ からHilbert空間 $\mathcal{K}$ への有界線形作用素であると言うとき、それは $T\in \mathbb{B}(\mathcal{H},\mathcal{K})$ を意味することとする。すなわち $D(T)=\mathcal{H}$ かつ $G(T)\subset \mathcal{H}\oplus \mathcal{K}$ が閉であることを言う。(閉グラフ定理(位相線形空間4:Fréchet空間と関数解析の基本定理定理19.3)を参照。)

定義3.2(稠密に定義された線形作用素、閉線形作用素)

$T$ をHilbert空間 $\mathcal{H}$ からHilbert空間 $\mathcal{K}$ への線形作用素とする。$T$ が稠密に定義されているとは、$D(T)$ が $\mathcal{H}$ で稠密であることを言う。また $T$ が閉であるとは $T$ のグラフ $G(T)$ が $\mathcal{H}\oplus \mathcal{K}$ において閉であることを言う。

定義3.3(線形作用素の包含関係)

$S,T$ をそれぞれHilbert空間 $\mathcal{H}$ から $\mathcal{K}$ への線形作用素とする。 $$ S\subset T\quad \iff\quad G(S)\subset G(T) $$ と定義する。これを $T$ は $S$ を包含する($S$ は $T$ に包含される)と言う。明らかにこの包含関係は $\mathcal{H}$ から $\mathcal{K}$ への線形作用素全体における順序である。

定義3.4(単射線形作用素の逆作用素)

$T$ をHilbert空間 $\mathcal{H}$ からHilbert空間 $\mathcal{K}$ への単射線形作用素とする。このとき線形同型写像 $D(T)\ni v\mapsto Tv\in {\rm Ran}(T)$ の逆写像として定義される $\mathcal{K}$ から $\mathcal{H}$ への線形作用素を、 $$ T^{-1}:D(T^{-1})\colon={\rm Ran}(T)\ni Tv\mapsto v\in \mathcal{H} $$ と表す。

定義3.5(線形作用素の和、スカラー倍、積)

$S,T$ をHilbert空間 $\mathcal{H}$ から $\mathcal{K}$ への線形作用素とする。このとき $\mathcal{H}$ から $\mathcal{K}$ への線形作用素 $S+T$ を、 $$ S+T\colon D(S+T)\colon=D(S)\cap D(T)\ni v\mapsto Sv+Tv\in \mathcal{K} $$ と定義する。また $\alpha\in \mathbb{C}$ に対し $\mathcal{H}$ から $\mathcal{K}$ への線形作用素 $\alpha T$ を、 $$ \begin{aligned} &\alpha T\colon D(\alpha T)\colon=D(T)\ni v\mapsto \alpha Tv\in \mathcal{K}\quad(\alpha\neq0\text{ の場合 }),\\ &\alpha T:D(\alpha T):=\mathcal{H}\ni v\mapsto 0\in \mathcal{K}\quad(\alpha=0\text{ の場合 }) \end{aligned} $$ と定義する。
$\mathcal{H},\mathcal{K},\mathcal{L}$ をそれぞれHilbert空間とし、$T$ を $\mathcal{H}$ から $\mathcal{K}$ への線形作用素、$S$ を $\mathcal{K}$ から $\mathcal{L}$ への線形作用素とする。このとき $\mathcal{H}$ から $\mathcal{L}$ への線形作用素 $ST$ を、 $$ ST:D(ST)\colon=\{v\in D(T):Tv\in D(S)\}\ni v\mapsto STv\in \mathcal{L} $$ と定義する。

定義3.6(稠密に定義された線形作用素の共役作用素)

$T$ をHilbert空間 $\mathcal{H}$ からHilbert空間 $\mathcal{K}$ への稠密に定義された線形作用素とする。$\mathcal{K}$ の線形部分空間 $$ D\colon=\{v\in \mathcal{K}: D(T)\ni u\mapsto (v\mid Tu)\in \mathbb{C}\text{ は有界線形汎関数 }\} $$ を考える。任意の $v\in D$ に対し、有界線形汎関数 $D(T)\ni u\mapsto (v\mid Tu)\in \mathbb{C}$ は $\mathcal{H}=\overline{D(T)}$ 上の有界線形汎関数に一意拡張できる(位相線形空間1:ノルムと内積命題3.6)から、Rieszの定理(位相線形空間1:ノルムと内積定理6.13)より、$T^*v\in \mathcal{H}$ で、 $$ (v\mid Tu)=(T^*v\mid u)\quad(\forall u\in D(T)) $$ を満たすものが定まる。こうして定義される $\mathcal{K}$ から $\mathcal{H}$ への線形作用素 $$ T^*:D(T^*)\colon=D\ni v\mapsto T^*v\in \mathcal{H} $$ を $T$ の共役作用素と言う。この共役作用素の定義は有界線形作用素 $T\in \mathbb{B}(\mathcal{H},\mathcal{K})$ の共役作用素 $T^*\in \mathbb{B}(\mathcal{K},\mathcal{H})$ の定義(位相線形空間1:ノルムと内積定義7.3)と矛盾しない。

定義3.7(可閉線形作用素とその閉包)

$T$ をHilbert空間 $\mathcal{H}$ からHilbert空間 $\mathcal{K}$ への線形作用素とする。$T$ を包含する閉線形作用素が存在するとき、$T$ は可閉であると言う。 $T$ を $\mathcal{H}$ から $\mathcal{K}$ への可閉線形作用素とする。 $$ \pi\colon\mathcal{H}\oplus \mathcal{K}\ni (v,w)\mapsto v\in \mathcal{H} $$ に対し、線形部分空間 $$ D\colon=\pi(\overline{G(T)})\subset \mathcal{H} $$ を定義する。このとき任意の $v\in D$ に対し $(v,w)\in \overline{G(T)}$ を満たす $w\in \mathcal{K}$ は唯一つである。実際、$T$ が可閉であることから $T\subset S$ を満たす閉線形作用素が存在し、$\overline{G(T)}\subset G(S)$ であるから、 $(v,w_1),(v,w_2)\in \overline{G(T)}$ ならば $w_1=Sv=w_2$ である。そこで任意の $v\in D$ に対し $(v,w)\in \overline{G(T)}$ として定まる $w$ に対し $w:=\overline{T}v$ とおき、線形作用素 $$ \overline{T}\colon D(\overline{T}):=D\ni v\mapsto \overline{T}v\in \mathcal{K} $$ を定義する。このとき明らかに $G(\overline{T})=\overline{G(T)}$ である。閉線形作用素 $\overline{T}$ を可閉線形作用素 $T$ の閉包と言う。$\overline{T}$ は $T$ を包含する閉線形作用素の中で最小のものとして特徴付けられる。

定義3.8(閉線形作用素の芯)

$T$ をHilbert空間 $\mathcal{H}$ から Hilbert空間 $\mathcal{K}$ への閉線形作用素とする。線形部分空間 $D\subset D(T)$ で、 $$ \overline{T|_D}=T $$ を満たすものを $T$ の芯と言う。ただし $T|_D$ は $T$ の $D$ 上への制限である。

命題3.9(Hilbert空間上の有界とは限らない線形作用素の基本的性質)

$\mathcal{H},\mathcal{K},\mathcal{L}$ をそれぞれHilbert空間とする。

  • $(1)$ $T_1,T_2$ を $\mathcal{H}$ から $\mathcal{K}$ への線形作用素、$S$ を $\mathcal{K}$ から $\mathcal{L}$ への線形作用素とする。このとき、

$$ S(T_1+T_2)\supset ST_1+ST_2 $$ が成り立つ。また、$T$ を $\mathcal{H}$ から $\mathcal{K}$ への線形作用素、$S_1,S_2$ を $\mathcal{K}$ から $\mathcal{L}$ への線形作用素とすると、 $$ (S_1+S_2)T=S_1T+S_2T $$ が成り立つ。

  • $(2)$ $T$ を $\mathcal{H}$ から $\mathcal{K}$ への線形作用素、$S$ を $\mathcal{K}$ から $\mathcal{L}$ への線形作用素とし、$\alpha\in \mathbb{C}\backslash \{0\}$ とすると、

$$ S(\alpha T)=(\alpha S)T=\alpha(ST) $$ が成り立つ。

  • $(3)$ $T$ を $\mathcal{H}$ から $\mathcal{K}$ への単射線形作用素とし、$S$ を $\mathcal{K}$ から $\mathcal{L}$ への単射線形作用素とすると、$ST$ は $\mathcal{H}$ から $\mathcal{L}$ への単射線形作用素であり、

$$ (ST)^{-1}=T^{-1}S^{-1} $$ が成り立つ。

  • $(4)$ $T$ を $\mathcal{H}$ から $\mathcal{K}$ への稠密に定義された線形作用素とし、$\alpha\in \mathbb{C}\backslash \{0\}$ とすると、

$$ (\alpha T)^*=\overline{\alpha}T^* $$ が成り立つ。

  • $(5)$ $T$ を $\mathcal{H}$ から $\mathcal{K}$ への稠密に定義された線形作用素とすると、

$$ ({\rm Ran}(T))^{\perp}={\rm Ker}(T^*) $$ が成り立つ。

  • $(6)$ $T$ を $\mathcal{H}$ から $\mathcal{K}$ への稠密に定義された線形作用素とすると、$T^*$ は $\mathcal{K}$ から $\mathcal{H}$ への閉線形作用素である。
  • $(7)$ $S,T$ を $\mathcal{H}$ から $\mathcal{K}$ への稠密に定義された線形作用素とし、$S\subset T$ であるとすると、$T^*\subset S^*$ が成り立つ。
  • $(8)$ $T$ を $\mathcal{H}$ から $\mathcal{K}$ への稠密に定義された可閉線形作用素とすると、$(\overline{T})^*=T^*$ が成り立つ。
  • $(9)$ $T$ を $\mathcal{H}$ から $\mathcal{K}$ への稠密に定義された線形作用素、$S$ を $\mathcal{K}$ から $\mathcal{L}$ への稠密に定義された線形作用素とし、$ST$ が $\mathcal{H}$ から $\mathcal{L}$ への稠密に定義された線形作用素であるとすると、

$$ (ST)^*\supset T^*S^* $$ が成り立つ。またもし $S\in \mathbb{B}(\mathcal{K},\mathcal{L})$ であれば、 $$ (ST)^*=T^*S^* $$ が成り立つ。

  • $(10)$ $S,T$ を $\mathcal{H}$ から $\mathcal{K}$ への稠密に定義された線形作用素とし、$S+T$ も $\mathcal{H}$ から $\mathcal{K}$ への稠密に定義された線形作用素であるとすると、

$$ (S+T)^*\supset S^*+T^* $$ が成り立つ。またもし $S\in \mathbb{B}(\mathcal{H},\mathcal{K})$ であれば、 $$ (S+T)^*=S^*+T^* $$ が成り立つ。

  • $(11)$ $T\in \mathbb{B}({\cal H},{\cal K})$、$S$ を ${\cal K}$ から ${\cal L}$ への閉線型作用素とすると、$ST$ は ${\cal H}$ から ${\cal L}$ への閉線型作用素である。
  • $(12)$ $T\in \mathbb{B}({\cal H},{\cal K})$、$S$ を ${\cal H}$ から ${\cal K}$ への閉線型作用素とすると、$S+T$ は ${\cal H}$ から ${\cal K}$ への閉線型作用素である。
Proof.

$(1),(2)$ は線形作用素の和、スカラー倍、積の定義(定義3.5)より明らかである。$(3)$ は単射線形作用素の逆作用素の定義(定義3.4)より明らかである。$(4)$ は稠密に定義された線形作用素の共役作用素の定義(定義3.6)より明らかである。
$(5)$ を示す。任意の $v\in ({\rm Ran}(T))^{\perp}$ に対し、 $$ (v\mid Tu)=0\quad(\forall u\in D(T)) $$ であるから、$v\in D(T^*)$ であり、 $$ (T^*v\mid u)=(v\mid Tu)=0\quad(\forall u\in D(T)) $$ である。$\overline{D(T)}=\mathcal{H}$ であるからこれは $v\in {\rm Ker}(T^*)$ を意味する。逆に $v\in {\rm Ker}(T^*)$ ならば、 $$ (v\mid Tu)=(T^*v\mid u)=0\quad(\forall u\in D(T)) $$ であるから $v\in ({\rm Ran}(T))^{\perp}$ である。
$(6)$ を示す。$\mathcal{K}\oplus \mathcal{H}$ において、 $$ (v_n,T^*v_n)\rightarrow (v,w)\quad(n\rightarrow\infty) $$ であるとすると、任意の $u\in D(T)$ に対し、 $$ (w\mid u)=\lim_{n\rightarrow\infty}(T^*v_n\mid u)=\lim_{n\rightarrow\infty}(v_n\mid Tu)=(v\mid Tu) $$ であるから $v\in D(T^*)$ であり、$w=T^*v$ である。よって $G(T^*)$ は $\mathcal{K}\oplus \mathcal{H}$ の閉部分空間なので $T^*$ は閉である。
$(7)$ を示す。任意の $v\in D(T^*)$ を取る。任意の $u\in D(S)$ に対し $Su=Tu$ であるから、 $$ (v\mid Su)=(v\mid Tu)=(T^*v\mid u) $$ である。よって $v\in D(S^*)$ であり、$S^*v=T^*v$ である。ゆえに $T^*\subset S^*$ である。
$(8)$ を示す。$(7)$ より $(\overline{T})^*\subset T^*$ であるから逆の包含関係を示す。任意の $u\in D(\overline{T})$ と任意の $v\in D(T^*)$ を取る。$(u,\overline{T}u)\in G(\overline{T})=\overline{G(T)}$ より $D(T)$ の列 $(u_n)_{n\in\mathbb{N}}$ で、 $$ (u_n,Tu_n)\rightarrow (u,\overline{T}u)\quad(n\rightarrow\infty) $$ なるものが取れる。これより、 $$ (T^*v\mid u)=\lim_{n\rightarrow\infty}(T^*v\mid u_n)=\lim_{n\rightarrow\infty}(v\mid Tu_n)=(v\mid \overline{T}u) $$ であるから、$v\in D((\overline{T})^*)$ であり、$(\overline{T})^*v=T^*v$ である。よって $T^*\subset (\overline{T})^*$ が成り立つ。
$(9)$ を示す。任意の $v\in D(T^*S^*)$、任意の $u\in D(ST)$ に対し、 $$ (v\mid STu)=(S^*v\mid Tu)=(T^*S^*v\mid u) $$ であるから $v\in D((ST)^*)$ であり、$T^*S^*v=(ST)^*v$ である。よって $T^*S^*\subset (ST)^*$ が成り立つ。$S\in \mathbb{B}(\mathcal{K},\mathcal{L})$ であるとき逆の包含関係 $(ST)^*\subset T^*S^*$ が成り立つことを示す。任意の $v\in D(ST)^*$、任意の $u\in D(T)$ に対し、 $$ (S^*v\mid Tu)=(v\mid STu)=( (ST)^*v\mid u) $$ であるから、$S^*v\in D(T^*)$ であり、$T^*S^*v=(ST)^*v$ である。よって$(ST)^*\subset T^*S^*$ が成り立つ。
$(10)$ を示す。任意の $v\in D(S^*+T^*)=D(S^*)\cap D(T^*)$、任意の $u\in D(S+T)=D(S)\cap D(T)$ に対し、 $$ (v\mid (S+T)u)=(v\mid Su)+(v\mid Tu)=(S^*v\mid u)+(T^*v\mid u)=((S^*+T^*)v\mid u) $$ であるから、$v\in D( (S+T)^*)$ であり、$(S+T)^*v=(S^*+T^*)v$ である。よって $S^*+T^*\subset (S+T)^*$ が成り立つ。$S\in \mathbb{B}(\mathcal{H},\mathcal{K})$ であるとき逆の包含関係 $(S+T)^*\subset S^*+T^*$ が成り立つことを示す。任意の $v\in D( (S+T)^*)$、任意の $u\in D(T)$ に対し、 $$ (v\mid Tu)=(v\mid (S+T)u)-(v\mid Su)=( (S+T)^*v\mid u)-(S^*v\mid u) $$ であるから、$v\in D(T^*)=D(S^*)\cap D(T^*)=D(S^*+T^*)$ であり、$(S+T)^*v=S^*v+T^*v$ である。よって $(S+T)^*\subset S^*+T^*$ が成り立つ。
$(11)$ を示す。任意の $(v,w)\in \overline{G(ST)}$ に対し $\lim_{n\rightarrow\infty}(v_n,STv_n)=(v,w)$ なる $D(ST)$ の列 $(v_n)_{n\in \mathbb{N}}$ を取る。 $T\in \mathbb{B}({\cal H},{\cal K})$ より $\lim_{n\rightarrow\infty}Tv_n=Tv$ であるので、 $$ (Tv,w)=\lim_{n\rightarrow\infty}(Tv_n,STv_n)\in \overline{G(S)}=G(S) $$ である。よって $w=STv$ であるから $(v,w)=(v,STv)\in G(ST)$ である。これより $\overline{G(ST)}=G(ST)$ なので $ST$ は閉である。
$(12)$を示す。任意の $(v,w)\in \overline{G(S+T)}$ に対し $\lim_{n\rightarrow\infty}(v_n,(S+T)v_n)=(v,w)$ なる $D(S+T)$ の列 $(v_n)_{n\in\mathbb{N}}$ を取る。$T\in \mathbb{B}({\cal H},{\cal K})$ より $\lim_{n\rightarrow\infty}Tv_n=Tv$ であるので、 $$ (v,w-Tv)=\lim_{n\rightarrow\infty}(v_n,(S+T)v_n-Tv_n)=\lim_{n\rightarrow\infty}(v_n,Sv_n)\in \overline{G(S)}=G(S) $$ である。よって $w-Tv=Sv$ であるから $(v,w)=(v,(S+T)v)\in G(S+T)$ である。これより $\overline{G(S+T)}=G(S+T)$ なので $S+T$ は閉である。

定理3.10(稠密に定義された閉線形作用素の性質)

$T$ をHilbert空間 $\mathcal{H}$ からHilbert空間 $\mathcal{K}$ への稠密に定義された閉線形作用素とする。このとき、

  • $(1)$ $D(T^*T)$ は $T$ の芯であり、$1+T^*T\colon D(T^*T)\rightarrow\mathcal{H}$ は全単射である。
  • $(2)$ $T^*$ は $\mathcal{K}$ から $\mathcal{H}$ への稠密に定義された閉線形作用素である。
  • $(3)$ $T^{**}=T$ が成り立つ。
  • $(4)$ $(T^*T)^*=T^*T$ が成り立つ。
Proof.

  • $(1)$ $T$ は閉線形作用素であるから $G(T)$ はHilbert空間 $\mathcal{H}\oplus \mathcal{K}$ の閉部分空間である。よって $G(T)$ は $\mathcal{H}\oplus \mathcal{K}$ の内積によりHilbert空間である。Hilbert空間 $G(T)$ からHilbert空間 $\mathcal{H}$ への有界線形作用素

$$ \pi\colon G(T)\ni (v,Tv)\mapsto v\in \mathcal{H} $$ を考える。$\pi$ は単射であるから命題3.9の $(5)$ より、 $$ (\pi^*(\mathcal{H}))^{\perp}={\rm Ker}(\pi)=\{0\} $$ である。よって、 $$ \overline{\pi^*(\mathcal{H})}=( (\pi^*(\mathcal{H}))^{\perp})^{\perp}=\{0\}^{\perp}=G(T) $$ である(位相線形空間1:ノルムと内積命題6.12)。そこで、 $$ D\colon=\pi(\pi^*(\mathcal{H}))\subset D(T) $$ とおけば $G(T|_D)=\pi^*(\mathcal{H})$ であるから、 $$ \overline{G(T|_D)}=\overline{\pi^*(\mathcal{H})}=G(T) $$ である。よって $D$ は $T$ の芯である。今、任意の $v=\pi(\pi^*(w))\in \pi(\pi^*(\mathcal{H}))=D$ を取る。このとき $\pi^*(w)=(v,Tv)$ であるから、任意の $u\in D(T)$ に対し、 $$ (v\mid u)+(Tv\mid Tu)=( (v,Tv)\mid (u,Tu))=(\pi^*(w)\mid (u,Tu))=(w\mid u) $$ である。よって、 $$ (w-v\mid u)=(Tv\mid Tu)\quad(\forall u\in D(T)) $$ であるから、$v\in D(T^*T)$、$w=v+T^*Tv$ である。これより $D\subset D(T^*T)$ であるから $D(T^*T)$ も $T$ の芯であり、また $w\in {\cal H}$ の任意性より $\mathcal{H}={\rm Ran}(1+T^*T)$ である。後は $1+T^*T$ が単射であることを示せばよい。そこで任意の $v\in {\rm Ker}(1+T^*T)$ を取る。 $$ 0=(v\mid (1+T^*T)v)=(v\mid v)+(v\mid T^*Tv)=\lVert v\rVert^2+\lVert Tv\rVert^2 $$ であるから $v=0$ である。ゆえに $1+T^*T$ は単射である。

  • $(2)$ $(1)$ より $D(T^*T)$ は $T$ の芯であるから任意の $v\in D(T)$ に対し $D(T^*T)$ の列 $(v_n)_{n\in \mathbb{N}}$ で、

$$ (v_n,Tv_n)\rightarrow (v,Tv)\quad(n\rightarrow\infty) $$ なるものが取れる。よって、 $$ Tv=\lim_{n\rightarrow\infty}Tv_n\in \overline{D(T^*)} $$ であるから、 $$ {\rm Ran}(T)\subset \overline{D(T^*)} $$ が成り立つ。これと命題3.9の $(5)$ より、 $$ (D(T^*))^{\perp}=(\overline{D(T^*)})^{\perp}\subset ({\rm Ran}(T))^{\perp}={\rm Ker}(T^*)\subset D(T^*) $$ であるから $(D(T^*))^{\perp}=\{0\}$ である。よって $$ \overline{D(T^*)}=( (D(T^*))^{\perp})^{\perp}=\{0\}^{\perp}=\mathcal{K} $$ であるから $T^*$ は稠密に定義された線形作用素である。$T^*$ が閉であることは命題3.9の $(6)$ による。

  • $(3)$ 

$$ (u\mid T^*v)=(Tu\mid v)\quad(\forall v\in D(T^*),\forall u\in D(T)) $$ であるから $T\subset T^{**}$ である。同様に $T^*\subset T^{***}$ である。ここで $T\subset T^{**}$ と命題3.9の $(7)$ より $T^{***}\subset T^*$ であるので $T^*=T^{***}$ である。$T=T^{**}$ を示すにはHilbert空間 $G(T^{**})$ における閉部分空間 $G(T)$ の直交補空間 $G(T^{**})\cap (G(T))^{\perp}$ が $\{0\}$ であることを示せばよい。そこで任意の $(v,T^{**}v)\in G(T^{**})\cap (G(T))^{\perp}$ を取る。 $$ 0=( (u,Tu)\mid (v,T^{**}v))=(u\mid v)+(Tu\mid T^{**}v)\quad(\forall u\in D(T)) $$ であるから $v\in D(T^*T^{**})=D(T^{***}T^{**})$ であり、 $$ 0=(1+T^*T^{**})v=(1+T^{***}T^{**})v $$ である。$T^{**}$ は稠密に定義された閉線形作用素であるので $(1)$ より $1+T^{***}T^{**}$ は単射である。よって $v=0$、したがって $(v,T^{**}v)=0$ であるので $G(T^{**})\cap (G(T))^{\perp}=\{0\}$ である。ゆえに $T=T^{**}$ である。

  • $(4)$ $(1)$ より $T^*T$ は稠密に定義された線形作用素であり、

$$ (u\mid T^*Tv)=(Tu\mid Tv)=(T^*Tu\mid v)\quad(\forall u,v\in D(T^*T)) $$ であるから $T^*T\subset (T^*T)^*$ である。$T^*T=(T^*T)^*$ を示すには $D( (T^*T)^*)\subset D(T^*T)$ を示せばよい。任意の $w\in D( (T^*T)^*)=D(1+(T^*T)^*)=D( (1+T^*T)^*)$ を取る。$(1)$ より ${\rm Ran}(1+T^*T)=\mathcal{H}$ であるから、 $$ (1+T^*T)^*w=(1+T^*T)v $$ なる $v\in D(T^*T)$ が取れる。 $1+T^*T\subset 1+(T^*T)^*=(1+T^*T)^*$ なので、 $$ (1+T^*T)^*(w-v)=0 $$ である。よって命題3.9の $(5)$ より、 $$ w-v\in {\rm Ker}( (1+T^*T)^*)=({\rm Ran}(1+T^*T))^{\perp}=\mathcal{H}^{\perp}=\{0\} $$ である。ゆえに $w=v\in D(T^*T)$ であるので $D( (T^*T)^*)\subset D(T^*T)$ である。よって $T^*T=(T^*T)^*$ である。

4. 対称作用素、自己共役作用素、Cayley変換

定義4.1(対称作用素、自己共役作用素)

$\mathcal{H}$ をHilbert空間、$T$ を $\mathcal{H}$ 上の稠密に定義された線形作用素とする。$T\subset T^*$ が成り立つとき $T$ を $\mathcal{H}$ 上の対称作用素と言う。また $T=T^*$ が成り立つとき $T$ を $\mathcal{H}$ 上の自己共役作用素と言う。

命題4.2(対称作用素の特徴付け)

$T$ をHilbert空間 $\mathcal{H}$ 上の稠密に定義された線形作用素とする。このとき次は互いに同値である。

  • $(1)$ $T$ は $\mathcal{H}$ 上の対称作用素(つまり $T\subset T^*$)である。
  • $(2)$ 任意の $u,v\in D(T)$ に対し $(u\mid Tv)=(Tu\mid v)$ が成り立つ。
  • $(3)$ 任意の $v\in D(T)$ に対し $(v\mid Tv)\in\mathbb{R}$ が成り立つ。
  • $(4)$ $G(T)\ni (v,Tv)\mapsto (T\pm i)v\in {\rm Ran}(T\pm i)$ は等長線形同型写像である。
Proof.

$(1)\Leftrightarrow(2)\Rightarrow(3)$ は自明である。$(3)\Rightarrow(2)$ は偏極恒等式 $$ (u\mid Tv)=\frac{1}{4}\sum_{k=0}^{3}i^k(i^ku+v\mid T(i^ku+v))\quad(\forall u,v\in D(T)) $$ による。$(3)\Leftrightarrow(4)$ は、 $$ \lVert (T\pm i)v\rVert^2=\lVert Tv\rVert^2 \pm 2{\rm Im}(v\mid Tv)+\lVert v\rVert^2\quad(\forall v\in D(T)) $$ による。

命題4.3(対称作用素の閉包は対称作用素)

$T$ がHilbert空間 $\mathcal{H}$ 上の対称作用素ならば $T$ は可閉であり、$\overline{T}$ も $\mathcal{H}$ 上の対称作用素である。また、 $$ {\rm Ran}(\overline{T}\pm i)=\overline{{\rm Ran}(T\pm i)}\quad\quad(*) $$ が成り立つ。

Proof.

命題3.9の $(6)$ より $T^*$ は閉である。よって $T\subset T^*$ より $T$ は可閉であり、$\overline{T}\subset T^*$ である。また命題3.9の $(8)$ より $(\overline{T})^*=T^*$ である。ゆえに $\overline{T}\subset (\overline{T})^*$ であるから $\overline{T}$ は対称作用素である。命題4.2より、 $$ \begin{aligned} U:G(\overline{T})\ni (v,\overline{T}v)\mapsto (\overline{T}\pm i)v\in {\rm Ran}(\overline{T}\pm i) \end{aligned} $$ は等長線形同型写像であり、$T$ の閉包 $\overline{T}$ の定義より $G(\overline{T})=\overline{G(T)}$ であるから、 $$ {\rm Ran}(\overline{T}\pm i)=U(G(\overline{T}))=U(\overline{G(T)})=\overline{U(G(T))}=\overline{{\rm Ran}(T\pm i)} $$ であるから $(*)$ が成り立つ。

定義4.4(対称作用素のCayley変換)

$T$ をHilbert空間 $\mathcal{H}$ 上の対称作用素とする。このとき命題4.2より、 $$ C(T)\colon=(T-i)(T+i)^{-1}:{\rm Ran}(T+i)\ni (T+i)v\mapsto (T-i)v\in \mathcal{H} $$ なる等長線形作用素が定義できる。$C(T)$ を $T$ のCayley変換と言う。$C(T)$ は定義域が $D(C(T))={\rm Ran}(T+i)$、値域が ${\rm Ran}(C(T))={\rm Ran}(T-i)$ である ${\cal H}$ 上の線型作用素である。

命題4.5(対称作用素のCayley変換からの再現)

$T$ をHilbert空間 $\mathcal{H}$ 上の対称作用素とする。$T$ のCayley変換 $C(T)=(T-i)(T+i)^{-1}$ に対し $1-C(T)$ は単射であり、${\rm Ran}(1-C(T))=D(T)$ である。そして、 $$ T=i(1+C(T))(1-C(T))^{-1} $$ が成り立つ。

Proof.

任意の $(T+i)v\in {\rm Ran}(T+i)=D(C(T))$ に対し、 $$ (1-C(T))(T+i)v=(T+i)v-(T-i)v=2iv $$ であるから、${\rm Ran}(1-C(T))=D(T)$ であり、$1-C(T)$ は単射である。そして任意の $v\in D(T)$ に対し、 $$ (1+C(T))(1-C(T))^{-1}2iv=(1+C(T))(T+i)v=(T+i)v+(T-i)v=2Tv $$ であるから、 $$ i(1+C(T))(1-C(T))^{-1}=T $$ である。

定理4.6(自己共役作用素のCayley変換)

$T$ をHilbert空間 $\mathcal{H}$ 上の対称作用素、$C(T)$ を $T$ のCayley変換とする。このとき次は互いに同値である。

  • $(1)$ $T$ は $\mathcal{H}$ 上の自己共役作用素である。
  • $(2)$ $C(T)$ は $\mathcal{H}$ 上のユニタリ作用素である。
Proof.

$(1)\Rightarrow(2)$ を示す。$(1)$ が成り立つならば $T=T^*$ であるから、命題3.9の $(5)$ より、 $$ ({\rm Ran}(T\pm i))^{\perp}={\rm Ker}(T^*\mp i)={\rm Ker}(T\mp i)=\{0\} $$ であり、命題3.9の $(6)$ より $T=T^*$ は閉なので、命題4.3より、 $$ {\rm Ran}(T\pm i)={\rm Ran}(\overline{T}\pm i)=\overline{{\rm Ran}(T\pm i)} =( ({\rm Ran}(T\pm i))^{\perp\perp}=\{0\}^{\perp}=\mathcal{H} $$ である。よって $D(C(T))={\rm Ran}(T+i)=\mathcal{H}$、${\rm Ran}(C(T))={\rm Ran}(T-i)=\mathcal{H}$ であり、$C(T)$ は等長であるから、$C(T)$ は $\mathcal{H}$ 上のユニタリ作用素である。
$(2)\Rightarrow(1)$ を示す。$(2)$ が成り立つならば ${\rm Ran}(T\pm i)=\mathcal{H}$ であるから、任意の $v\in D(T^*)$ に対し、 $$ (T^*+i)v=(T+i)u $$ を満たす $u\in D(T)$ が取れる。$T\subset T^*$ より $T+i\subset T^*+i$ であるから、 $$ (T^*+i)(v-u)=0 $$ である。命題3.9の $(5)$ より、 $$ {\rm Ker}(T^*+i)=({\rm Ran}(T-i))^{\perp}=\mathcal{H}^{\perp}=\{0\} $$ であるから、$v=u\in D(T)$ である。よって $D(T^*)=D(T)$ であるので $T=T^*$ である。

定義4.7(対称作用素の自己共役拡張)

$T$ をHilbert空間 $\mathcal{H}$ 上の対称作用素とする。$\mathcal{H}$ 上の自己共役作用素 $S$ で、$T\subset S$ なるものを $T$ の自己共役拡張と言う。そして対称作用素 $T$ が自己共役拡張を持つとき、$T$ は自己共役拡張可能と言う。

定義4.8(対称作用素の本質的自己共役性)

Hilbert空間上の対称作用素 $T$ が本質的に自己共役であるとは、$T$ の閉包 $\overline{T}$ が自己共役作用素であることを言う。$T$ が本質的に自己共役であるならば、$T$ の自己共役拡張は $\overline{T}$ のみである。実際 $S$ が $T$ の自己共役拡張ならば、命題3.9の $(6),(7)$ より、 $$ \overline{T}\subset S=S^*\subset \overline{T}^*=\overline{T} $$ であるから、$S=\overline{T}$ である。

定理4.9(対称作用素が自己共役拡張可能であるための条件)

$T$ をHilbert空間 $\mathcal{H}$ 上の対称作用素とする。このとき次は互いに同値である。

  • $(1)$ $T$ は自己共役拡張可能である。
  • $(2)$ $({\rm Ran}(T+i))^{\perp}\rightarrow ({\rm Ran}(T-i))^{\perp}$ の等長線形同型写像が存在する。

そして $(2)$ が成り立つとき、各等長線形同型写像 $V\colon({\rm Ran}(T+i))^{\perp}\rightarrow ({\rm Ran}(T-i))^{\perp}$ に対し、ユニタリ作用素 $$ \begin{aligned} U\colon=C(\overline{T})\oplus V\colon\mathcal{H}={\rm Ran}(\overline{T}+i)\oplus ({\rm Ran}(T+i))^{\perp}&\rightarrow {\rm Ran}(\overline{T}-i)\oplus ({\rm Ran}(T-i))^{\perp}=\mathcal{H}\\ (\overline{T}+i)v+u&\mapsto (\overline{T}-i)v+Vu\quad\quad(*) \end{aligned} $$ (命題4.3より $({\rm Ran}(T\pm i) )^{\perp}=(\overline{{\rm Ran}(T\pm i)})^{\perp}=({\rm Ran}(\overline{T}\pm i) )^{\perp}$ であることに注意)をCayley変換とする $T$ の自己共役拡張が存在する。

Proof.

$(1)\Rightarrow(2)$ を示す。$(1)$ が成り立つとし、$S$ を $T$ の自己共役拡張とする。定理4.6より $S$ のCayley変換 $C(S)=(S-i)(S+i)^{-1}$ は $\mathcal{H}$ 上のユニタリ作用素であり、 $$ C(S)^*=C(S)^{-1}=(S+i)(S-i)^{-1} $$ である。よって任意の $v\in ({\rm Ran}(T+i))^{\perp}$ と任意の $(T-i)u\in {\rm Ran}(T-i)$ に対し、 $$ (C(S)v\mid (T-i)u)=(v\mid C(S)^*(S-i)u)=(v\mid (S+i)u)=(v\mid (T+i)u)=0 $$ であるから、 $$ C(S)({\rm Ran}(T+i))^{\perp}\subset ({\rm Ran}(T-i))^{\perp} $$ である。また任意の $v\in ({\rm Ran}(T-i))^{\perp}$ と任意の $(T+i)u\in {\rm Ran}(T+i)$ に対し、 $$ (C(S)^*v\mid (T+i)u)=(v\mid C(S)(S+i)u)=(v\mid (S-i)u)=(v\mid (T-i)u)=0 $$ であるから、 $$ C(S)^*({\rm Ran}(T-i))^{\perp}\subset ({\rm Ran}(T+i))^{\perp}, $$ すなわち、 $$ ({\rm Ran}(T-i))^{\perp}\subset C(S)({\rm Ran}(T+i))^{\perp} $$ である。よって、 $$ ({\rm Ran}(T+i))^{\perp}\ni v\mapsto C(S)v\in ({\rm Ran}(T-i))^{\perp} $$ は等長線形同型写像であるから、$(2)$ が成り立つ。
$(2)\Rightarrow(1)$ を示す。$(2)$ が成り立つとする。$V:({\rm Ran}(T+i))^{\perp}\rightarrow({\rm Ran}(T-i))^{\perp}$ を等長線形同型写像とし、$(*)$ におけるユニタリ作用素 $U=C(\overline{T})\oplus V$ を考える。まず $1-U$ が単射であることを示す。そこで $(\overline{T}+i)u\in {\rm Ran}(\overline{T}+i)$ と $v\in ({\rm Ran}(T+i))^{\perp}$ が $(1-U)( (\overline{T}+i)u+v)=0$ を満たすとする。このとき、 $$ 0=(1-U)( (\overline{T}+i)u+v)=(\overline{T}+i)u+v-(\overline{T}-i)u-Vv=2iu+(1-V)v $$ であり、$v\in ({\rm Ran}(T+i))^{\perp}={\rm Ker}(T^*-i)$、$Vv\in ({\rm Ran}(T-i))^{\perp}={\rm Ker}(T^*+i)$(命題3.9の $(5)$ )であるから、 $$ 0=(T^*+i)(2iu+(1-V)v)=2i(\overline{T}+i)u+(T^*-i)v+2iv-(T^*+i)Vv=2i(\overline{T}+i)u+2iv $$ である。よって、 $$ v=-(\overline{T}+i)u\in {\rm Ran}(\overline{T}+i)\cap ({\rm Ran}(\overline{T}+i))^{\perp}=\{0\} $$ であるから $(\overline{T}+i)u+v=0$ である。ゆえに $1-U$ は単射である。 $$ S\colon=i(1+U)(1-U)^{-1} $$ とおく。$C(\overline{T})\subset U$ であるから、 $$ S(1-C(\overline{T}))=i(1+C(\overline{T})) $$ であるので、命題4.5より、 $$ \overline{T}=i(1+C(\overline{T}))(1-C(\overline{T}))^{-1}\subset S\quad\quad(**) $$ である。任意の $u=(1-U)v\in {\rm Ran}(1-U)=D(S)$ に対し、 $$ (u\mid Su)=( (1-U)v\mid i(1+U)v)=i( (v\mid Uv)-(Uv\mid v) )\in \mathbb{R} $$ であるから、命題4.2より $S$ は対称作用素である。そして、 $$ \begin{aligned} &(S+i)(1-U)v=i(1+U)v+i(1-U)v=2iv\quad(\forall v\in \mathcal{H}),\\ &(S-i)(1-U)v=i(1+U)v-i(1-U)v=2iUv\quad(\forall v\in\mathcal{H}) \end{aligned} $$ であるから、$S$ のCayley変換は $C(S)=(S-i)(S+i)^{-1}=U$ である。よって $C(S)$ はユニタリ作用素であるから定理4.6より $S$ は自己共役作用素であり、$(**)$ より $S$ は $T$ の自己共役拡張である。

系4.10(対称作用素が本質的に自己共役であるための条件)

$T$ をHilbert空間 $\mathcal{H}$ 上の対称作用素とする。このとき次は互いに同値である。

  • $(1)$ $T$ は本質的に自己共役である。
  • $(2)$ $T$ の自己共役拡張が唯一つ存在する。

また、$T$ が自己共役拡張可能であり、本質的に自己共役ではないならば、$T$ の自己共役拡張は非可算無限個存在する。

Proof.

$(1)\Rightarrow(2)$ は定義4.8で述べてある。$(2)\Rightarrow(1)$ を示す。$(2)$ が成り立つとする。このとき定理4.9より $({\rm Ran}(T+i))^{\perp}\rightarrow({\rm Ran}(T-i))^{\perp}$ の等長線形同型写像が存在する。 $({\rm Ran}(T\pm i))^{\perp}\neq\{0\}$ であると仮定し、等長線形同型写像 $V_0\colon({\rm Ran}(T+i))^{\perp}\rightarrow({\rm Ran}(T-i))^{\perp}$ と $\theta\in [0,2\pi)$ に対し、 等長線形同型写像 $V_{\theta}\colon=e^{i\theta}V_0:({\rm Ran}(T+i) )^{\perp}\rightarrow({\rm Ran}(T-i) )^{\perp}$ を定義する。定理4.9より、各 $\theta\in [0,2\pi)$ に対し、$T$ の自己共役拡張 $S_{\theta}$ で、Cayley変換が $C(S_{\theta})=C(\overline{T})\oplus V_{\theta}$ であるものが取れる。 $\theta_1,\theta_2\in [0,2\pi)$ が $\theta_1\neq\theta_2$ である限り、$V_{\theta_1}\neq V_{\theta_2}$ であるから $C(S_{\theta_1})\neq C(S_{\theta_2})$、したがって $S_{\theta_1}\neq S_{\theta_2}$ である。よって $T$ の自己共役拡張は非可算無限個存在することになり、$(2)$ が成り立つことに矛盾する。ゆえに $({\rm Ran}(T\pm i))^{\perp}=\{0\}$ であるから、 $$ {\rm Ran}(\overline{T}\pm i)=\overline{{\rm Ran}(T\pm i)}=( ({\rm Ran}(T\pm i))^{\perp})^{\perp}=\{0\}^{\perp}=\mathcal{H} $$ である。これより $\overline{T}$ のCayley変換 $C(\overline{T})$ はユニタリ作用素であるから、定理4.6より $\overline{T}$ は自己共役作用素、すなわち $T$ は本質的に自己共役である。

5. Hilbert空間上の閉線形作用素のスペクトルとレゾルベント集合

定義5.1(Hilbert空間上の閉線形作用素のスペクトル、レゾルベント集合、点スペクトル、固有値、固有ベクトル)

$T$ をHilbert空間 $\mathcal{H}$ 上の閉線形作用素とする。このとき、 $$ \rho(T)\colon=\{\lambda\in \mathbb{C}: \lambda-T:D(T)\rightarrow\mathcal{H}\text{ は全単射}\} $$ を $T$ のレゾルベント集合と言い、 $$ \sigma(T)\colon=\mathbb{C}\backslash\rho(T) $$ を $T$ のスペクトルと言う。そして $T$ のスペクトルの部分集合 $$ \sigma_{\rm p}(T)\colon=\{\lambda\in \mathbb{C}:{\rm Ker}(\lambda-T)\neq\{0\}\} $$ を $T$ の点スペクトルと言い、$\sigma_{\rm p}(T)$ の元を $T$ の固有値と言う。$T$ の固有値 $\lambda\in \sigma_{\rm p}(T)$ に対し、${\rm Ker}(\lambda-T)$ を $T$ の固有値 $\lambda$ に対する固有空間と言い、${\rm Ker}(\lambda-T)$ の $0$ ではない元を $T$ の固有値 $\lambda$ に対する固有ベクトルと言う。

定義5.2(Hilbert空間上の閉線形作用素のレゾルベント)

$T$ をHilbert空間 $\mathcal{H}$ 上の閉線形作用素、$\rho(T)$ を $T$ のレゾルベント集合とする。任意の $\lambda\in \rho(T)$ に対し閉線形作用素 $\lambda-T$ のグラフ $G(\lambda-T)$ は $(\lambda-T)^{-1}$ のグラフ $G( (\lambda-T)^{-1})$ と等長線形同型であるから $G( (\lambda-T)^{-1})$ は閉である。よって $(\lambda-T)^{-1}\colon\mathcal{H}\rightarrow\mathcal{H}$ は閉線形作用素であるので、閉グラフ定理(位相線形空間4:Fréchet空間と関数解析の基本定理定理19.3)より $(\lambda-T)^{-1}\in \mathbb{B}(\mathcal{H})$ である。 $$ \rho(T)\ni \lambda-\mapsto (\lambda-T)^{-1}\in \mathbb{B}(\mathcal{H}) $$ を $T$ のレゾルベントと言う。

注意5.3

Hilbert空間 $\mathcal{H}$ 上の閉線形作用素のスペクトルとレゾルベント集合の定義は $C^*$-環 $\mathbb{B}(\mathcal{H})$ の元のスペクトルとレゾルベント集合の定義(Banach環とC*-環のスペクトル理論定義1.5)と矛盾しない。

命題5.4(レゾルベント等式)

$T$ をHilbert空間 $\mathcal{H}$ 上の閉線形作用素、$\rho(T)$ を $T$ のレゾルベント集合とする。このとき、

  • $(1)$ 任意の $\lambda_1,\lambda_2\in \rho(T)$ に対し、

$$ (\lambda_1-T)^{-1}-(\lambda_2-T)^{-1}=(\lambda_2-\lambda_1)(\lambda_1-T)^{-1}(\lambda_2-T)^{-1} $$ が成り立つ。

  • $(2)$ $\rho(T)$ は $\mathbb{C}$ の開集合であり、レゾルベント

$$ \rho(T)\ni \lambda\mapsto (\lambda-T)^{-1}\in \mathbb{B}(\mathcal{H}) $$ はBanach空間 $\mathbb{B}(\mathcal{H})$ 値正則関数である。

Proof.

  • $(1)$ 任意の $\lambda_1,\lambda_2\in \rho(\mathbb{C})$ に対し、

$$ \begin{aligned} (\lambda_1-T)^{-1}-(\lambda_2-T)^{-1}&=(\lambda_1-T)^{-1}( (\lambda_2-T)-(\lambda_1-T))(\lambda_2-T)^{-1}\\ &=(\lambda_2-\lambda_1)(\lambda_1-T)^{-1}(\lambda_2-T)^{-1}. \end{aligned} $$

  • $(2)$ 任意の $\lambda_0\in \rho(T)$ と $\lvert \lambda-\lambda_0\rvert<\lVert (\lambda_0-T)^{-1}\rVert^{-1}$ なる任意の $\lambda\in \mathbb{C}$ を取る。このとき、

$$ \lambda-T=(\lambda_0-T)-(\lambda_0-\lambda)=(1-(\lambda_0-\lambda)(\lambda_0-T)^{-1})(\lambda_0-T)\quad\quad(*) $$ であり、$\lVert(\lambda_0-\lambda)(\lambda_0-T)^{-1}\rVert<1$ であるから、Banach環とC*-環のスペクトル理論命題1.2より、$1-(\lambda_0-\lambda)(\lambda_0-T)^{-1}\in \mathbb{B}(\mathcal{H})$ は可逆であり、 $$ \{1-(\lambda_0-\lambda)(\lambda_0-T)^{-1}\}^{-1}=\sum_{m\in\mathbb{Z}_+}(\lambda_0-\lambda)^n(\lambda_0-T)^{-n}\quad\quad(**) $$ が成り立つ。よって $(*)$ より $\lambda-T:D(T)\rightarrow \mathcal{H}$ は全単射であるから $\lambda\in \rho(T)$ であり、$(*),(**)$ より、 $$ \begin{aligned} (\lambda-T)^{-1}&=\{1-(\lambda_0-\lambda)(\lambda_0-T)^{-1}\}^{-1}(\lambda_0-T)^{-1}\\ &=\sum_{m\in\mathbb{Z}_+}(\lambda_0-\lambda)^n(\lambda_0-T)^{-(n+1)}\quad\quad(***) \end{aligned} $$ である。これより任意の $\lambda_0\in \rho(T)$ に対し $\lambda_0$ を中心とする半径 $\lVert (\lambda_0-T)^{-1}\rVert^{-1}$ の $\mathbb{C}$ の開球は $\rho(T)$ に含まれるから $\rho(T)$ は $\mathbb{C}$ の開集合であり、その開球の任意の元 $\lambda$ に対し $(***)$ が成り立つから、冪級数関数の複素微分可能性(複素解析の初歩定理2.5)より、$\rho(T)\ni \lambda\mapsto (\lambda-T)^{-1}\in \mathbb{B}(\mathcal{H})$ はBanach空間 $\mathbb{B}(\mathcal{H})$ 値正則関数である。

系5.5(スペクトルは $\mathbb{C}$ の閉集合)

Hilbert空間上の閉線形作用素のスペクトルは $\mathbb{C}$ の閉集合である。

Proof.

Hilbert空間上の閉線形作用素のレゾルベント集合は、命題5.4より $\mathbb{C}$ の開集合であるから、レゾルベント集合の $\mathbb{C}$ における補集合であるスペクトルは $\mathbb{C}$ の閉集合である。

命題5.6(自己共役作用素のスペクトルは $\mathbb{R}$ の部分集合)

$T$ をHilbert空間 $\mathcal{H}$ 上の自己共役作用素とする。このとき $T$ のスペクトル $\sigma(T)$ は $\mathbb{R}$ の部分集合である。

Proof.

$T$ のレゾルベント集合 $\rho(T)=\mathbb{C}\backslash \sigma(T)$ に対し $\mathbb{C}\backslash \mathbb{R}\subset \rho(T)$ であることを示せばよい。そこで $\alpha,\beta\in \mathbb{R}$、$\beta\neq0$ とし、$\lambda\colon=\alpha+i\beta\in \mathbb{C}\backslash \mathbb{R}$ とおく。このとき $(v\mid (\alpha-T)v)\in \mathbb{R}$ $(\forall v\in D(T))$ であることから、 $$ \begin{aligned} &\lVert(\lambda-T)v\rVert^2=\lVert (\alpha-T)v+i\beta v\rVert^2=\lVert (\alpha-T)v\rVert^2+\beta^2\lVert v\rVert^2\geq \beta^2\lVert v\rVert^2\quad(\forall v\in D(T)),\quad\quad(*)\\ &\lVert (\overline{\lambda}-T)v\rVert^2=\lVert(\alpha-T)v-i\beta v\rVert^2 =\lVert (\alpha-T)v\rVert^2+\beta^2\lVert v\rVert^2\geq \beta^2\lVert v\rVert^2\quad(\forall v\in D(T))\quad\quad(**) \end{aligned} $$ である。よって $(*)$ と $\beta\neq0$ より ${\rm Ker}(\lambda-T)=\{0\}$、$\overline{{\rm Ran}(\lambda-T)}={\rm Ran}(\lambda-T)$($\lambda-T$ が閉線形作用素であることに注意)である。そして $(**)$ より ${\rm Ker}(\overline{\lambda}-T)=\{0\}$ であるから、命題3.9の $(5)$ より、 $$ {\rm Ran}(\lambda-T)=\overline{{\rm Ran}(\lambda-T)}=( ({\rm Ran}(\lambda-T))^{\perp})^{\perp}=({\rm Ker}(\overline{\lambda}-T))^{\perp}=\{0\}^{\perp}=\mathcal{H} $$ である。よって $\lambda-T\colon D(T)\rightarrow \mathcal{H}$ は全単射であるから $\lambda\in \rho(T)$ である。ゆえに $\mathbb{C}\backslash \mathbb{R}\subset \rho(T)$ であるから、$\sigma(T)\subset \mathbb{R}$ が成り立つ。

定理5.7(自己共役作用素のスペクトルとそのCayley変換のスペクトルの関係)

$T$ をHilbert空間 $\mathcal{H}$ 上の自己共役作用素とする。このとき $T$ のスペクトル $\sigma(T)$ は $\mathbb{R}$ の空でない閉集合であり、同相写像 $$ C\colon\mathbb{R}\ni t\mapsto (t-i)(t+i)^{-1}\in \mathbb{T}\backslash \{1\} $$ (逆写像は $\mathbb{T}\backslash \{1\}\ni \lambda\mapsto i(1+\lambda)(1-\lambda)^{-1}\in \mathbb{R}$ である。)に対し、 $$ C(\sigma(T))=\sigma(C(T))\backslash \{1\} $$ が成り立つ。ただし $C(T)$ は $T$ のCayley変換である。

Proof.

系5.5命題5.6より $\sigma(T)$ は $\mathbb{R}$ の閉集合である。また定理4.6より $C(T)$ は $\mathcal{H}$ 上のユニタリ作用素である。任意の $t\in \mathbb{R}$ に対し、 $$ \begin{aligned} C(t)-C(T)&=(t-i)(t+i)^{-1}-(T-i)(T+i)^{-1}\\ &=(t+i)^{-1}\{(t-i)(T+i)-(t+i)(T-i)\}(T+i)^{-1}\\ &=2i(t+i)^{-1}(t-T)(T+i)^{-1} \end{aligned} $$ であるから、$C(t)-C(T)\colon \mathcal{H}\rightarrow\mathcal{H}$ が全単射であることと、$t-T\colon D(T)\rightarrow\mathcal{H}$ が全単射であることは同値である。よって $t\in \mathbb{R}$ に対し、 $$ C(t)\in \sigma(C(T))\backslash \{1\}\quad\Leftrightarrow\quad t\in\sigma(T)\quad\quad(*) $$ が成り立つ。$C(T)$ は $\mathcal{H}$ 上のユニタリ作用素であるから、Banach環とC*-環のスペクトル理論命題3.5より、$\sigma(C(T))\backslash\{1\}\subset \mathbb{T}\backslash \{1\}=C(\mathbb{R})$ である。よって $(*)$ より、 $$ C(\sigma(T))=\sigma(C(T))\backslash \{1\}\quad\quad(**) $$ が成り立つ。また $\sigma(C(T))\neq\emptyset$(Banach環とC*-環のスペクトル理論命題1.8)であるから、もし $\sigma(C(T))\backslash \{1\}=\emptyset$ ならば $\sigma(C(T))=\{1\}$ となり、連続汎関数計算(Banach環とC*-環のスペクトル理論定義6.6)より $C(T)=1$ となる。よって $1-C(T)$ が単射であること(命題4.5)に矛盾する。ゆえに $\sigma(C(T))\backslash \{1\}\neq\emptyset$ であるので、$(**)$ より $\sigma(T)\neq\emptyset$ である。

6. 射影値測度による積分

定義6.1(Hilbert空間 $\mathcal{H}$ 上の射影作用素全体 $\mathbb{P}(\mathcal{H})$)

Hilbert空間 $\mathcal{H}$ 上の射影作用素全体を $\mathbb{P}(\mathcal{H})$ と表す。

定義6.2(射影値測度)

$\mathcal{H}$ をHilbert空間、$(X,\mathfrak{M})$ を可測空間とする。$E\colon\mathfrak{M}\rightarrow \mathbb{P}(\mathcal{H})$ が次の条件を満たすとき、$E$ を射影値測度と言う。

命題6.3(射影値測度の基本的性質)

$\mathcal{H}$ をHilbert空間、$(X,\mathfrak{M})$ を可測空間、$E\colon\mathfrak{M}\rightarrow \mathcal{P}(\mathcal{H})$ を射影値測度とする。このとき、

  • $(1)$ $E(\emptyset)=0$.
  • $(2)$(単調性)$A\subset B$ なる任意の $A,B\in \mathfrak{M}$ に対し $E(A)\leq E(B)$.
  • $(3)$ 任意の $A,B\in \mathfrak{M}$ に対し $E(A\cap B)=E(A)E(B)$ が成り立つ。特に $A\cap B=\emptyset$ ならば $E(A)$ と $E(B)$ は直交する。
  • $(4)$($\sigma$-加法性)$(B_n)_{n\in \mathbb{N}}$ が $\mathfrak{M}$ の非交叉列であるならば、$(E(B_n))_{n\in \mathbb{N}}$ は射影作用素の直交族であり、

$$ E\left(\bigcup_{n\in \mathbb{N}}B_n\right)=\sum_{n\in \mathbb{N}}E(B_n) $$ が成り立つ。(射影作用素の直交族の和の定義(定義2.6)を参照。)

  • $(5)$(単調収束性)$(B_n)_{n\in \mathbb{N}}$ が $\mathfrak{M}$ の単調増加列であるならば、$(E(B_n))_{n\in \mathbb{N}}$ は $\mathbb{B}(\mathcal{H})_{\rm sa}$ の単調増加列であり、

$$ E\left(\bigcup_{n\in \mathbb{N}}B_n\right)=\text{SOT -}\lim_{n\rightarrow\infty} E(B_n)=\sup_{n\in \mathbb{N}}E(B_n) $$ が成り立つ。

  • $(6)$(単調収束性)$(B_n)_{n\in \mathbb{N}}$ が $\mathfrak{M}$ の単調減少列であるならば、$(E(B_n))_{n\in \mathbb{N}}$ は $\mathbb{B}(\mathcal{H})_{\rm sa}$ の単調減少列であり、

$$ E\left(\bigcap_{n\in \mathbb{N}}B_n\right)=\text{SOT -}\lim_{n\rightarrow\infty} E(B_n)=\inf_{n\in \mathbb{N}}E(B_n) $$ が成り立つ。

Proof.

  • $(1)$ 任意の $u,v\in \mathcal{H}$ に対し $(u\mid E(\emptyset)v)=E_{u,v}(\emptyset)=0$ であるから $E(\emptyset)=0$ である。
  • $(2)$ $\mathbb{P}(\mathcal{H})\subset \mathbb{B}_+(\mathcal{H})$ であるから任意の $v\in \mathcal{H}$ に対し $E_{v,v}$ は非負値測度である。よって非負値測度の単調性より $A,B\in \mathfrak{M}$ が $A\subset B$ を満たすならば、

$$ (v\mid E(A)v)=E_{v,v}(A)\leq E_{v,v}(B)=(v\mid E(B)v)\quad(\forall v\in \mathcal{H}) $$ であるから、命題1.4より $E(A)\leq E(B)$ が成り立つ。

  • $(3)$ $A,B\in \mathfrak{M}$ が $A\cap B=\emptyset$ を満たすとすると、任意の $u,v\in \mathcal{H}$ に対し、

$$ (u\mid E(A\cup B)v)=E_{u,v}(A\cup B)=E_{u,v}(A)+E_{u,v}(B)=(u\mid (E(A)+E(B))v) $$ であるから、$E(A)+E(B)=E(A\cup B)\in \mathbb{P}(\mathcal{H})$ である。よってBanach環とC*-環のスペクトル理論命題8.3より $E(A)$ と $E(B)$ は直交するので $E(A)E(B)=0=E(A\cap B)$ である。
任意の $A,B\in \mathfrak{M}$ を取る。$A=(A\backslash B)\cup (A\cap B)$ であり、$(A\backslash B)\cap (A\cap B)=\emptyset$ であるから上段の結果より、 $$ E(A)=E(A\backslash B)+E(A\cap B) $$ である。そして $(A\backslash B)\cap B=\emptyset$ であるので、再び上段の結果より、 $$ E(A\backslash B) E(B)=0 $$ である。$(2)$ より $E(A\cap B)\leq E(B)$ であるからBanach環とC*-環のスペクトル理論命題8.2より、 $$ E(A\cap B)=E(A\cap B)E(B) $$ である。よって、 $$ E(A)E(B)=(E(A\backslash B)+E(B))E(B)=E(A\backslash B)E(B)+E(A\cap B)E(B)=E(A\cap B) $$ である。

  • $(4)$ $(B_n)_{n\in \mathbb{N}}$ が $\mathfrak{M}$ の非交叉列ならば $(3)$ より $(E(B_n))_{n\in \mathbb{N}}$ は射影作用素の直交族であるから $\sum_{n\in\mathbb{N}}E(B_n)$ はSOTで収束する(定義2.6を参照)。よって任意の $u,v\in \mathcal{H}$ に対し、

$$ \left(u\mid E\left(\bigcup_{n\in \mathbb{N}}B_n\right)v\right) =E_{u,v}\left(\bigcup_{n\in\mathbb{N}}B_n\right) =\sum_{n\in\mathbb{N}}E_{u,v}(B_n) =\sum_{n\in \mathbb{N}}(u\mid E(B_n)v) =(u\mid \sum_{n\in \mathbb{N}}E(B_n)v) $$ であるから $E(\bigcup_{n\in \mathbb{N}}B_n)=\sum_{n\in \mathbb{N}}E(B_n)$ が成り立つ。

$$ \left(u\mid E\left(\bigcup_{n\in \mathbb{N}}B_n\right)v\right) =E_{u,v}\left(\bigcup_{n\in\mathbb{N}}B_n\right) =\lim_{n\rightarrow\infty}E_{u,v}(B_n)=\lim_{n\rightarrow\infty}(u\mid E(B_n)v) $$ である。そして $(2)$ より $(E(B_n))_{n\in \mathbb{N}}$ は射影作用素の単調増加列であるから定理2.4より、 $$ \text{SOT-}\lim_{n\rightarrow\infty}E(B_n)=\sup_{n\in \mathbb{N}}E(B_n) $$ である。よって任意の $u,v\in \mathcal{H}$ に対し、 $$ \left(u\mid E\left(\bigcup_{n\in \mathbb{N}}B_n\right)v\right) =\lim_{n\rightarrow\infty}(u\mid E(B_n)v) =(u\mid \text{SOT-}\lim_{n\rightarrow\infty}E(B_n)v) =(u\mid \sup_{n\in\mathbb{N}}E(B_n)v) $$ であるから、 $$ E\left(\bigcup_{n\in \mathbb{N}}B_n\right)=\text{SOT-}\lim_{n\rightarrow\infty}E(B_n)=\sup_{n\in \mathbb{N}}E(B_n) $$ である。

  • $(6)$ $(B_n)_{n\in \mathbb{N}}$ が $\mathfrak{M}$ の単調減少列ならば $(X\backslash B_n)_{n\in \mathbb{N}}$ は $\mathfrak{M}$ の単調増加列であり、$X\backslash \bigcap_{n\in \mathbb{N}}B_n=\bigcup_{n\in\mathbb{N}}(X\backslash B_n)$ である。このことと $(5)$ より分かる。

命題6.4

$\mathcal{H}$ をHilbert空間、$(X,\mathfrak{M})$ を可測空間とし、$E\colon\mathfrak{M}\rightarrow \mathbb{P}(\mathcal{H})$ を射影値測度とする。また $\mathcal{L}_{\rm b}(X,\mathfrak{M})$ を $X\rightarrow \mathbb{C}$ の有界可測関数全体に各点ごとの演算と $\sup$ ノルムを入れた単位的可換 $C^*$-環とする。このとき $*$-環準同型写像 $$ \Phi_E\colon\mathcal{L}_{\rm b}(X,\mathfrak{M})\rightarrow \mathbb{B}(\mathcal{H}) $$ で、 $$ (u\mid \Phi_E(f)v)=\int_{X}f(x)dE_{u,v}(x)\quad(\forall f\in \mathcal{L}_{\rm b}(X,\mathfrak{M}), \forall u,v\in \mathcal{H}) $$ を満たすものが唯一つ存在する。そして、 $$ \Phi_E(\chi_B)=E(B)\quad(\forall B\in \mathfrak{M}) $$ である。

Proof.

一意性は自明である。存在を示す。まず任意の $u,v\in \mathcal{H}$ に対し複素数値測度 $E_{u,v}\colon\mathfrak{M}\ni B\mapsto (u\mid E(B)v)\in \mathbb{C}$ の全変動(測度と積分4:測度論の基本定理(2)定義19.1)$\lvert E_{u,v}\rvert\colon\mathfrak{M}\rightarrow \mathbb{C}$ が $\lvert E_{u,v}\rvert(X)\leq \lVert u\rVert\lVert v\rVert$ を満たすことを示す。そのためには $\mathfrak{M}$ の有限非交叉列 $B_1,\ldots,B_n$ で $X=\bigcup_{j=1}^{n}B_j$ なるものを取り、 $$ \sum_{j=1}^{n}\lvert E_{u,v}(B_j)\rvert\leq \lVert u\rVert\lVert v\rVert\quad\quad(*) $$ が成り立つことを示せばよい。そこで各 $j\in \{1,\ldots,n\}$ に対し $\lvert E_{u,v}(B_j)\rvert=\alpha_jE_{u,v}(B_j)$、$\lvert\alpha_j\rvert=1$ を満たす $\alpha_j\in \mathbb{C}$ を取る。このとき、 $$ \sum_{j=1}^{n}\lvert E_{u,v}(B_j)\rvert=\sum_{j=1}^{n}\alpha_jE_{u,v}(B_j) =\sum_{j=1}^{n}(u\mid \alpha_jE(B_j)v)\leq \lVert u\rVert\left\lVert\sum_{j=1}^{n}\alpha_jE(B_j)v\right\rVert $$ であり、$B_1,\ldots,B_n$ が非交叉であることから $E(B_1)v,\ldots,E(B_n)v$ は互いに直交する(命題6.3)ので、 $$ \left\lVert\sum_{j=1}^{n}\alpha_jE(B_j)v\right\rVert^2=\sum_{j=1}^{n}\lVert \alpha_jE(B_j)v\rVert^2=\sum_{j=1}^{n}\lVert E(B_j)v\rVert^2 =\left\lVert \sum_{j=1}^{n}E(B_j)v\right\rVert^2=\lVert E(X)v\rVert^2=\lVert v\rVert^2 $$ である。よって、 $$ \sum_{j=1}^{n}\lvert E_{u,v}(B_j)\rvert\leq\lVert u\rVert\left\lVert\sum_{j=1}^{n}\alpha_jE(B_j)v\right\rVert=\lVert u\rVert\lVert v\rVert $$ より $(*)$ が成り立つので、 $$ \lvert E_{u,v}\rvert(X)\leq \lVert u\rVert\lVert v\rVert\quad(\forall u,v\in \mathcal{H})\quad\quad(**) $$ が成り立つ。任意の $f\in \mathcal{L}_{\rm b}(X,\mathfrak{M})$ を取り固定する。$f$ は可測単関数によって一様近似できる(測度と積分5:$L^p$ 空間の完備性と双対性命題22.2)から、 $$ \mathcal{H}\times \mathcal{H}\ni (u,v)\mapsto \int_{X}f(x)dE_{u,v}(x)\in \mathbb{C}\quad\quad(***) $$ は準双線形汎関数であり、$(**)$ より、 $$ \left\lvert \int_{X}f(x)dE_{u,v}(x)\right\rvert\leq\lVert f\rVert\lvert E_{u,v}\rvert (X)\leq \lVert f\rVert\lVert u\rVert\lVert v\rVert\quad(\forall u,v\in \mathcal{H}) $$ であるから、$(***)$ はノルムが $\lVert f\rVert$ 以下の有界準双線形汎関数である。よって位相線形空間1:ノルムと内積定理7.1より任意の $f\in \mathcal{L}_{\rm b}(X,\mathfrak{M})$ に対し $\Phi_E(f)\in \mathbb{B}(\mathcal{H})$ で、 $$ (u\mid \Phi_E(f)v)=\int_{X}f(x)dE_{u,v}(x)\quad(\forall u,v\in \mathcal{H}) $$ を満たすものが定まり、$\lVert \Phi_E(f)\rVert\leq \lVert f\rVert$ である。こうしてノルム減少な有界線形作用素 $$ \Phi_E:\mathcal{L}_{\rm b}(X,\mathfrak{M})\ni f\mapsto \Phi_E(f)\in \mathbb{B}(\mathcal{H}) $$ が定義される。$\Phi_E$ が $*$-環準同型写像であることを示す。任意の $f\in \mathcal{L}_{\rm b}(X,\mathfrak{M})$ に対し、 $$(v\mid \Phi_E(\overline{f})v)=\int_{X}\overline{f(x)}dE_{v,v}(x)=\overline{\int_{X}f(x)dE_{v,v}(x)}=\overline{(v\mid \Phi_E(f)v)}=(\Phi_E(f)v\mid v)=(v\mid \Phi_E(f)^*v) \quad(\forall v\in \mathcal{H}) $$ であるから、偏極恒等式(測度と積分6:数え上げ測度と $\ell^p$ 空間定義25.2)より、 $$ \Phi_E(\overline{f})=\Phi_E(f)^*\quad(\forall f\in \mathcal{L}_{\rm b}(X,\mathfrak{M})) $$ である。よって $\Phi_E$ は対合を保存する。後は任意の $f,g\in \mathcal{L}_{\rm b}(X,\mathfrak{M})$ に対し、 $$ \Phi_E(fg)=\Phi_E(f)\Phi_E(g)\quad\quad(****) $$ が成り立つことを示せばよい。任意の $B\in \mathfrak{M}$、任意の $u,v\in \mathcal{H}$ に対し、 $$ (u\mid \Phi_E(\chi_B)v)=\int_{X}\chi_B(x)dE_{u,v}(x)=E_{u,v}(B)=(u\mid E(B)v) $$ であるから、 $$ \Phi_E(\chi_B)=E(B)\quad(\forall B\in \mathfrak{M}) $$ である。よって任意の $A,B\in \mathfrak{M}$ に対し命題6.3より、 $$ \Phi_E(\chi_A\chi_B)=\Phi_E(\chi_{A\cap B})=E(A\cap B)=E(A)E(B)=\Phi_E(\chi_A)\Phi_E(\chi_B) $$ であるから、$\Phi_E$ の線形性より $(****)$ は任意の可測単関数 $f,g$ に対して成り立つ。任意の有界可測関数は可測単関数によって一様近似できること(測度と積分5:$L^p$ 空間の完備性と双対性命題22.2)と、$\Phi_E$ が有界線形作用素であることから、$(****)$ は任意の $f,g\in \mathcal{L}_{\rm b}(X,\mathfrak{M})$ に対して成り立つ。よって $\Phi_E$ は*-環準同型写像である。

定義6.5(射影値測度による有界可測関数の積分)

$\mathcal{H}$ をHilbert空間、$(X,\mathfrak{M})$ を可測空間、$E\colon\mathfrak{M}\rightarrow \mathbb{P}(\mathcal{H})$ を射影値測度とする。命題6.4より $*$-環準同型写像 $$ \mathcal{L}_{\rm b}(X,\mathfrak{M})\ni f\mapsto \int_{X}f(x)dE(x)\in \mathbb{B}(\mathcal{H}) $$ で、 $$ \left(u\mid \left(\int_{X}f(x)dE(x)\right)v\right)=\int_{X}f(x)dE_{u,v}(x)\quad(\forall f\in \mathcal{L}_{\rm b}(X,\mathfrak{M}),\forall u,v\in \mathcal{H}) $$ を満たすものが唯一つ存在する。任意の有界可測関数 $f\in \mathcal{L}_{\rm b}(X,\mathfrak{M})$ に対し、 $$ \int_{X}f(x)dE(x)\in \mathbb{B}(\mathcal{H}) $$ を $f$ の $E$ による積分と言う。 $$ \int_{X}\chi_B(x)dE(x)=E(B)\quad(\forall B\in \mathfrak{M}) $$ である。

命題6.6

$\mathcal{H}$ をHilbert空間、$(X,\mathfrak{M})$ を可測空間、$E\colon\mathfrak{M}\rightarrow\mathbb{P}(\mathcal{H})$ を射影値測度、$f\colon X\rightarrow\mathbb{C}$ を任意の可測関数とする。そして、 $$ D_E(f)\colon=\left\{v\in \mathcal{H}:\int_{X}\lvert f(x)\rvert^2dE_{v,v}(x)<\infty\right\} $$ とおく。このとき、

  • $(1)$ $D_E(f)$ は $\mathcal{H}$ の稠密な線形部分空間である。そして任意の $v\in \mathcal{H}$ に対し、

$$ v_n\colon=E( (\lvert f\rvert\leq n))v\quad(\forall n\in \mathbb{N}) $$ とおくと、 $$ v_n\in D_E(f)\quad(\forall n\in \mathbb{N}),\quad \lim_{n\rightarrow\infty}\lVert v_n-v\rVert=0 $$ が成り立つ。

  • $(2)$ 任意の $u\in \mathcal{H}$、$v\in D_E(f)$ に対し $f\in \mathcal{L}^1(X,\mathfrak{M},\lvert E_{u,v}\rvert)$ であり、

$$ \left\lvert \int_{X}f(x)dE_{u,v}(x)\right\rvert\leq \lVert u\rVert\left(\int_{X}\lvert f(x)\rvert^2dE_{v,v}(x)\right)^{\frac{1}{2}} $$ が成り立つ。

  • $(3)$

$$ \mathcal{H}\times D_E(f)\ni (u,v)\mapsto \int_{X}f(x)dE_{u,v}(x)\in \mathbb{C} $$ は準双線形汎関数である。

  • $(4)$ 線形作用素 $\Phi_E(f):D_E(f)\rightarrow \mathcal{H}$ で、

$$ (u\mid \Phi_E(f)v)=\int_{X}f(x)dE_{u,v}(x)\quad(\forall u\in \mathcal{H},\forall v\in D_E(f)) $$ を満たすものが唯一つ存在する。そして、 $$ \lVert \Phi_E(f)v\rVert^2=\int_{X}\lvert f(x)\rvert^2dE_{v,v}(x)\quad(\forall v\in D_E(f)) $$ が成り立つ。

Proof.

  • $(1)$ 任意の $v\in D_E(f)$、任意の $\alpha\in \mathbb{C}$ に対し、

$$ E_{\alpha v,\alpha v}(B)=\lVert E(B)\alpha v\rVert^2=\lvert\alpha\rvert^2\lVert E(B)v\rVert^2=\lvert \alpha\rvert^2E_{v,v}(B)\quad(\forall B\in \mathfrak{M}) $$ であるから、非負値可測関数の非負値可測単関数の各点単調増加列による近似より、 $$ \int_{X}\lvert f(x)\rvert^2dE_{\alpha v,\alpha v}(x)=\lvert\alpha\rvert^2\int_{X}\lvert f(x)\rvert^2dE_{v,v}(x)<\infty $$ である。よって $\alpha v\in D_E(f)$ である。また任意の $u,v\in D_E(f)$ に対し、 $$ E_{u+v,u+v}(B)=\lVert E(B)u+E(B)v\rVert^2 \leq 2(\lVert E(B)u\rVert^2+\lVert E(B)v\rVert^2)=2(E_{u,u}(B)+E_{v,v}(B))\quad(\forall B\in\mathfrak{M}) $$ であるから、非負値可測関数の非負値可測単関数の各点単調増加列による近似より、 $$ \int_{X}\lvert f(x)\rvert^2dE_{u+v,u+v}(x)\leq 2\left(\int_{X}\lvert f(x)\rvert^2dE_{u,u}(x)+\int_{X}\lvert f(x)\rvert^2dE_{v,v}(x)\right)<\infty $$ である。よって $u+v\in D_E(f)$ であるので $D_E(f)$ は $\mathcal{H}$ の線形部分空間である。任意の $v\in \mathcal{H}$ に対し $v_n=E( (\lvert f\rvert\leq n))v$ $(\forall n\in \mathbb{N})$ とおくと、 $$ E_{v_n,v_n}(B)=\lVert E(B)v_n\rVert^2=\lVert E(B\cap (\lvert f\rvert\leq n))v\rVert^2 =E_{v,v}(B\cap (\lvert f\rvert\leq n))\quad(\forall n\in\mathbb{N},\forall B\in \mathfrak{M}) $$ であるから、 $$ \int_{X}\lvert f(x)\rvert^2dE_{v_n,v_n}(x)=\int_{(\lvert f\rvert\leq n)}\lvert f(x)\rvert^2dE_{v,v}(x)\leq n^2\lVert v\rVert^2<\infty\quad(\forall n\in\mathbb{N}) $$ である。よって $v_n\in D_E(f)$ $(\forall n\in\mathbb{N})$ である。また命題6.3より、 $$ \text{SOT-}\lim_{n\rightarrow\infty}E( (\lvert f\rvert\leq n))=E(X)=1 $$ であるから、 $$ \lim_{n\rightarrow\infty}v_n=\lim_{n\rightarrow\infty}E( (\lvert f\rvert\leq n))v=v $$ である。よって $D_E(f)$ は $\mathcal{H}$ の稠密部分空間である。

  • $(2)$ $f_n\colon=f\chi_{(\lvert f\rvert\leq n)}$ $(\forall n\in \mathbb{N})$ として有界可測関数の列 $(f_n)_{n\in\mathbb{N}}$ を定義する。任意の $u\in \mathcal{H}$、任意の $v\in D_E(f)$ を取り固定する。複素数値測度 $E_{u,v}\colon\mathfrak{M}\rightarrow \mathbb{C}$ の全変動 $\lvert E_{u,v}\rvert\colon\mathfrak{M}\rightarrow [0,\infty)$ に対するRadon-Nikodym微分を $h\in\mathcal{L}(X,\mathfrak{M},\lvert E_{u,v}\rvert)$ とする(複素数値測度による積分の定義(測度と積分4:測度論の基本定理(2)定義19.5)を参照)と、射影値測度による有界可測関数の積分の定義(定義6.5)より、

$$ \begin{aligned} \int_{X}\lvert f_n(x)\rvert d\lvert E_{u,v}\rvert(x)&=\int_{X}\lvert f_n(x)\rvert\overline{h(x)}dE_{u,v}(x)=\left(u\mid \left(\int_{X}\lvert f_n(x)\rvert\overline{h(x)}dE(x)\right)v\right)\\ &\leq \lVert u\rVert\left\lVert\left(\int_{X}\lvert f_n(x)\rvert \overline{h(x)}dE(x)\right)v\right\rVert \end{aligned} $$ であり、 $$ \begin{aligned} \left\lVert\int_{X}\lvert f_n(x)\rvert\overline{h(x)}dE(x)v\right\rVert^2 &=\left(\int_{X}\lvert f_n(x)\rvert\overline{h(x)}dE(x)v\mid \int_{X}\lvert f_n(x)\rvert \overline{h(x)}dE(x)v\right)\\ &=\left(v\mid \left(\int_{X}\lvert f_n(x)\rvert^2dE(x)\right)v\right)=\int_{X}\lvert f_n(x)\rvert^2dE_{v,v}\\ &\leq \int_{X}\lvert f(x)\rvert^2dE_{v,v}(x)\quad(\forall n\in\mathbb{N}) \end{aligned} $$ であるから、 $$ \int_{X}\lvert f_n(x)\rvert d\lvert E_{u,v}\rvert(x)\leq \lVert u\rVert\left(\int_{X}\lvert f(x)\rvert^2dE_{v,v}(x)\right)^{\frac{1}{2}}\quad(\forall n\in\mathbb{N}) $$ が成り立つ。よって単調収束定理より、 $$ \int_{X}\lvert f(x)\rvert d\lvert E_{u,v}\rvert(x) =\sup_{n\in \mathbb{N}}\int_{X}\lvert f_n(x)\rvert d\lvert E_{u,v}\rvert(x) \leq\lVert u\rVert\left(\int_{X}\lvert f(x)\rvert^2dE_{v,v}(x)\right)^{\frac{1}{2}}<\infty $$ であるから $f\in \mathcal{L}^1(X,\mathfrak{M},\lvert E_{u,v}\rvert)$ であり、 $$ \left\lvert\int_{X}f(x)dE_{u,v}(x)\right\rvert \leq\int_{X}\lvert f(x)\rvert d\lvert E_{u,v}\rvert(x)\leq \lVert u\rVert\left(\int_{X}\lvert f(x)\rvert^2dE_{v,v}(x)\right)^{\frac{1}{2}} $$ が成り立つ。

  • $(3)$ $f_n\colon=f\chi_{(\lvert f\rvert\leq n)}$ $(\forall n\in \mathbb{N})$ として有界可測関数の列 $(f_n)_{n\in\mathbb{N}}$ を定義する。有界可測関数は可測単関数により一様近似できるから、任意の $n\in \mathbb{N}$ に対し、

$$ \mathcal{H}\times D_E(f)\ni (u,v)\mapsto \int_{X}f_n(x)dE_{u,v}(x)\in \mathbb{C} $$ は準双線形汎関数である。そしてLebesgue優収束定理より、 $$ \int_{X}f(x)dE_{u,v}(x)=\lim_{n\rightarrow\infty}\int_{X}f_n(x)dE_{u,v}(x) $$ であるから、 $$ \mathcal{H}\times D_E(f)\ni (u,v)\mapsto \int_{X}f(x)dE_{u,v}(x)\in \mathbb{C} $$ は準双線形汎関数である。

  • $(4)$ 任意の $v\in D_E(f)$ に対し $(2),(3)$ より、

$$ \mathcal{H}\ni u\mapsto \int_{X}f(x)dE_{u,v}(x)\in \mathbb{C} $$ は有界反線形汎関数であるから、Rieszの定理(位相線形空間1:ノルムと内積定理6.13)より $\Phi_E(f)v\in \mathcal{H}$ で、 $$ (u\mid \Phi_E(f)v)=\int_{X}f(x)dE_{u,v}(x)\quad(\forall u\in \mathcal{H}) $$ を満たすものが一意的に定まる。そして $(3)$ より、 $$ \Phi_E(f)\colon D_E(f)\ni v\mapsto \Phi_E(f)v\in \mathcal{H} $$ は線形作用素であり、$(2)$ より、 $$ \lVert\Phi_E(f)v\rVert\leq \left(\int_{X}\lvert f(x)\rvert^2dE_{v,v}(x)\right)^{\frac{1}{2}}\quad(\forall v\in D_E(f)) $$ である。よって 任意の $v\in D_E(f)$ に対し、 $$ \lVert \Phi_E(f)v-\Phi_E(f_n)v\rVert=\lVert\Phi_E(f-f_n)v\rVert\leq\left(\int_{X}\lvert f(x)-f_n(x)\rvert^2dE_{v,v}(x)\right)^{\frac{1}{2}}\quad(\forall n\in\mathbb{N}) $$ であり、右辺はLebesgue優収束定理より $n\rightarrow\infty$ で $0$ に収束するので、 $$ \lVert\Phi_E(f)v\rVert=\lim_{n\rightarrow\infty}\lVert\Phi_E(f_n)v\rVert $$ が成り立つ。ここで射影値測度による有界可測関数の積分の性質(定義6.5)より、任意の $n\in \mathbb{N}$ に対し、 $$ \lVert\Phi_E(f_n)v\rVert^2=\left(\int_{X}f_n(x)dE(x)v\mid \int_{X}f_n(x)dE(x)v\right) =\left(v\mid \int_{X}\lvert f_n(x)\rvert^2dE(x)v\right) =\int_{X}\lvert f_n(x)\rvert^2dE_{v,v}(x) $$ であるから、単調収束定理より、 $$ \lVert\Phi_E(f)v\rVert^2=\lim_{n\rightarrow\infty}\lVert\Phi_E(f_n)v\rVert^2 =\lim_{n\rightarrow\infty}\int_{X}\lvert f_n(x)\rvert^2dE_{v,v}(x) =\int_{X}\lvert f(x)\rvert^2dE_{v,v}(x) $$ となる。

定義6.7(射影値測度による可測関数の積分)

$\mathcal{H}$ をHilbert空間、$(X,\mathfrak{M})$ を可測空間、$E\colon\mathfrak{M}\rightarrow \mathbb{P}(\mathcal{H})$ を射影値測度、$f\colon X\rightarrow\mathbb{C}$ を任意の可測関数とする。このとき命題6.6より、 $$ D_E(f)\colon=\left\{v\in \mathcal{H}:\int_{X}\lvert f(x)\rvert^2dE_{v,v}(x)<\infty\right\} $$ は $\mathcal{H}$ の稠密な線形部分空間である。そして、 $$ \left(u\mid \int_{X}f(x)dE(x)v\right)=\int_{X}f(x)dE_{u,v}(x)\quad(\forall u\in \mathcal{H},\forall v\in D_E(f)) $$ を満たす稠密に定義された線形作用素 $$ \int_{X}f(x)dE(x)\colon D_E(f) \ni v\mapsto \int_{X}f(x)dE(x)v\in\mathcal{H} $$ が定まる。これを $f$ の $E$ による積分と言う。命題6.6の $(4)$ より、 $$ \left\lVert \int_{X}f(x)dE(x)v\right\rVert^2=\int_{X}\lvert f(x)\rvert^2dE_{v,v}(x)\quad(\forall v\in D_E(f)) $$ である。

命題6.8(射影値測度による積分の基本性質)

$\mathcal{H}$ をHilbert空間、$(X,\mathfrak{M})$ を可測空間、$E\colon\mathfrak{M}\rightarrow \mathbb{P}(\mathcal{H})$ を射影値測度とする。このとき、

  • $(1)$ 任意の可測関数$f,g\colon X\rightarrow\mathbb{C}$ に対し、

$$ D\left(\int_{X}f(x)dE(x)\int_{X}g(x)dE(x)\right)=D_E(fg)\cap D_E(g), $$ $$ \int_{X}f(x)dE(x)\int_{X}g(x)dE(x)\subset \int_{X}f(x)g(x)dE(x) $$ が成り立つ。

  • $(2)$ 任意の可測関数 $f\colon X\rightarrow \mathbb{C}$ に対し、

$$ \int_{X}\overline{f(x)}dE(x)=\left(\int_{X}f(x)dE(x)\right)^* $$ が成り立つ。

  • $(3)$ 任意の可測関数 $f\colon X\rightarrow\mathbb{C}$ に対し、

$$ \int_{X}f(x)dE(x)\colon D_E(f)\rightarrow \mathcal{H} $$ は稠密に定義された閉線形作用素である。そして任意の可測関数 $f,g\colon X\rightarrow\mathbb{C}$ に対し、 $$ \overline{\int_{X}f(x)dE(x)+\int_{X}g(x)dE(x)}=\int_{X}f(x)+g(x)dE(x), $$ $$ \overline{\int_{X}f(x)dE(x)\int_{X}g(x)dE(x)}=\int_{X}f(x)g(x)dE(x) $$ が成り立つ。

  • $(4)$ 任意の可測関数 $f\colon X\rightarrow\mathbb{C}$ に対し、

$$ \left(\int_{X}f(x)dE(x)\right)^n=\int_{X}f(x)^ndE(x)\quad(\forall n\in\mathbb{N}), $$ $$ \left(\int_{X}f(x)dE(x)\right)^*\left(\int_{X}f(x)dE(x)\right)=\int_{X}\lvert f(x)\rvert^2dE(x) $$ が成り立つ。

  • $(5)$ 任意の可測関数 $f\colon X\rightarrow\mathbb{C}$ に対し、

$$ {\rm Ker}\left(\int_{X}f(x)dE(x)\right)={\rm Ran}E( (f=0)) $$ が成り立つ。そして、 $$ \int_{X}f(x)dE(x)\colon D_E(f)\rightarrow \mathcal{H} $$ が単射、すなわち $E((f=0))=0$ であるとき、 $$ f^{-1}(x)=f(x)^{-1}\quad(\forall x\in X\backslash (f=0)) $$ なる任意の可測関数 $f^{-1}\colon X\rightarrow\mathbb{C}$ に対し、 $$ \left(\int_{X}f(x)dE(x)\right)^{-1}=\int_{X}f^{-1}(x)dE(x) $$ が成り立つ。

Proof.

  • $(1)$ 任意の $n\in \mathbb{N}$ に対し $f_n=f\chi_{(\lvert f\rvert\leq n)}$、$g_n=g\chi_{\lvert g\rvert\leq n}$ として有界可測関数の列 $(f_n)_{n\in\mathbb{N}}$、$(g_n)_{n\in\mathbb{N}}$ を定義する。任意の $u\in\mathcal{H}$ と任意の $v\in D_E(g)$ に対し、Lebesgue優収束定理より、

$$ \begin{aligned} &\left(u\mid \int_{X}f_n(x)dE(x)\int_{X}g(x)dE(x)v\right)=\lim_{m\rightarrow\infty}\left(u\mid \int_{X}f_n(x)dE(x)\int_{X}g_m(x)dE(x)v\right)\\ &=\lim_{m\rightarrow\infty}\left(u\mid \int_{X}f_n(x)g_m(x)dE(x)v\right) =\left(u\mid \int_{X}f_n(x)g(x)dE(x)v\right) \end{aligned} $$ であるから、 $$ \int_{X}f_n(x)dE(x)\int_{X}g(x)dE(x)v=\int_{X}f_n(x)g(x)dE(x)v\quad(\forall v\in D_E(g),\forall n\in\mathbb{N}) $$ である。よって任意の $v\in D_E(g)$ に対し、 $$ w:=\int_{X}g(x)dE(x)v\in \mathcal{H} $$ とおけば、 $$ \int_{X}f_n(x)dE(x)w=\int_{X}f_n(x)g(x)dE(x)v\quad(\forall n\in\mathbb{N}) $$ であるから、ノルムの二乗を取れば、 $$ \int_{X}\lvert f_n(x)\rvert^2dE_{w,w}(x)=\int_{X}\lvert f_n(x)g(x)\rvert^2dE_{v,v}(x)\quad(\forall n\in \mathbb{N}) $$ となる。よって単調収束定理より、 $$ \int_{X}\lvert f(x)\rvert^2dE_{w,w}(x)=\int_{X}\lvert f(x)g(x)\rvert^2dE_{v,v}(x) $$ となる。これが任意の $v\in D_E(g)$ に対して成り立つので、 $$ D\left(\int_{X}f(x)dE(x)\int_{X}g(x)dE(x)\right)=D_E(fg)\cap D_E(g) $$ が成り立つ。そして任意の $v\in D_E(fg)\cap D_E(g)=D(\int_{X}f(x)dE(x)\int_{X}g(x)dE(x))$ と任意の $u\in \mathcal{H}$ に対し、Lebesgue優収束定理より、 $$ \begin{aligned} &\left(u\mid \int_{X}f(x)dE(x)\int_{X}g(x)dE(x)v\right)= \lim_{n\rightarrow\infty}\left(u\mid \int_{X}f_n(x)dE(x)\int_{X}g(x)dE(x)v\right)\\ &=\lim_{n\rightarrow\infty}\left(u\mid \int_{X}f_n(x)g(x)dE(x)v\right)= \left(u\mid\int_{X}f(x)g(x)dE(x)v\right) \end{aligned} $$ となる。よって、 $$ \int_{X}f(x)dE(x)\int_{X}g(x)dE(x)\subset \int_Xf(x)g(x)dE(x) $$ が成り立つ。

  • $(2)$ 有界可測関数の列 $f_n=f\chi_{(\lvert f\rvert\leq n)}$ $(\forall n\in \mathbb{N})$ を考える。任意の $u,v\in D_E(f)=D_E(\overline{f})$ に対し Lebesgue優収束定理より、

$$ \begin{aligned} &\left(u\mid \int_{X}f(x)dE(x)v\right)=\lim_{n\rightarrow\infty}\left(u\mid \int_{X}f_n(x)dE(x)\right)\\ &=\lim_{n\rightarrow\infty}\left(\int_{X}\overline{f_n(x)}dE(x)u\mid v\right) =\left(\int_{X}\overline{f(x)}dE(x)u\mid v\right) \end{aligned} $$ となるので、 $$ \int_{X}\overline{f(x)}dE(x)\subset \left(\int_{X}f(x)dE(x)\right)^* $$ が成り立つ。逆の包含関係を示す。任意の $$ v\in D\left(\left(\int_{X}f(x)dE(x)\right)^*\right) $$ を取り、$v\in D_E(\overline{f})$ を示せばよい。まず $(1)$ より、 $$ \int_{X}f_n(x)dE(x)=\left(\int_{X}f(x)dE(x)\right)E( (\lvert f\rvert\leq n))\quad(\forall n\in\mathbb{N}) $$ であるから、命題3.9の $(9)$ より、 $$ E( (\lvert f\rvert\leq n))\left(\int_{X}f(x)dE(x)\right)^*\subset \left(\int_{X}f_n(x)dE(x)\right)^*=\int_{X}\overline{f_n(x)}dE(x)\quad(\forall n\in \mathbb{N}) $$ である。よって単調収束定理より、 $$ \begin{aligned} &\int_{X}\lvert f(x)\rvert^2dE_{v,v}(x)=\sup_{n\in \mathbb{N}}\int_{X}\lvert f_n(x)\rvert^2dE_{v,v}(x)=\sup_{n\in\mathbb{N}}\left\lVert\int_{X}\overline{f_n(x)}dE(x)v\right\rVert^2\\ &=\sup_{n\in\mathbb{N}}\left\lVert E( (\lvert f\rvert\leq n))\left(\int_{X}f(x)dE(x)\right)^*v\right\rVert^2\leq \left\lVert \left(\int_{X}f(x)dE(x)\right)^*v\right\rVert^2<\infty \end{aligned} $$ であるから、$v\in D_E(\overline{f})$ である。

  • $(3)$ 任意の可測関数 $f\colon X\Rightarrow \mathbb{C}$ に対し $(2)$ より、

$$ \int_{X}f(x)dE(x)=\left(\int_{X}\overline{f(x)}dE(x)\right)^* $$ であるから、命題3.9の $(6)$ より $\int_{X}f(x)dE(x)$ は閉線形作用素である。 任意の可測関数 $f,g\colon X\rightarrow\mathbb{C}$ に対し $D_E(f)\cap D_E(g)\subset D_E(f+g)$ であることと射影値測度による積分が閉線形作用素であることから、 $$ \overline{\int_{X}f(x)dE(x)+\int_{X}g(x)dE(x)}\subset \int_{X}f(x)+g(x)dE(x) $$ が成り立つ。逆の包含関係を示す。 $$ B_n\colon=(\lvert f\rvert\leq n)\cap (\lvert g\rvert\leq n)\in \mathfrak{M}\quad(\forall n\in\mathbb{N}) $$ とおくと、SOTで $\lim_{n\rightarrow\infty}E(B_n)=1$ であるから、任意の $v\in D_E(f+g)$ に対しLebesgue優収束定理と $(1)$ より、 $$ \begin{aligned} &\int_{X}f(x)+g(x)dE(x)v=\lim_{n\rightarrow\infty}\int_{X}(f(x)+g(x))\chi_{B_n}(x)dE(x)v\\ &=\lim_{n\rightarrow\infty}\left(\int_{X}f(x)\chi_{B_n}(x)dE(x)v+\int_{X}g(x)\chi_{B_n}(x)dE(x)v\right)\\ &=\lim_{n\rightarrow\infty}\left(\int_{X}f(x)dE(x)+\int_{X}g(x)dE(x)\right)E(B_n)v\\ &=\left(\overline{\int_{X}f(x)dE(x)+\int_{X}g(x)dE(x)}\right)v \end{aligned} $$ である。よって逆の包含関係が成り立つ。$(1)$ と射影値測度による積分が閉線形作用素であることから、 $$ \overline{\int_{X}f(x)dE(x)\int_{X}g(x)dE(x)}\subset \int_{X}f(x)g(x)dE(x) $$ である。この逆の包含関係を示す。任意の $v\in D_E(fg)$ に対しLebesgue優収束定理と $(1)$ より、 $$ \begin{aligned} &\int_{X}f(x)g(x)dE(x)v=\lim_{n\rightarrow\infty}\int_{X}f(x)g(x)\chi_{B_n}(x)dE(x)v\\ &=\lim_{n\rightarrow\infty}\int_{X}f(x)dE(x)\int_{X}g(x)\chi_{B_n}(x)dE(x)v\\ &=\lim_{n\rightarrow\infty}\int_{X}f(x)dE(x)\int_{X}g(x)dE(x)E(B_n)v\\ &=\left(\overline{\int_{X}f(x)dE(x)\int_{X}g(x)dE(x)}\right)v \end{aligned} $$ である。よって逆の包含関係が成り立つ。

  • $(4)$ 任意の $n\in \mathbb{N}$、$v\in D_E(f^n)$ に対し $E_{v,v}$ が有限測度であることから、Hölderの不等式より、

$$ \lvert f\rvert^2\in \mathcal{L}^n(X,\mathfrak{M},E_{v,v})\subset \mathcal{L}^1(X,\mathfrak{M},E_{v,v}) $$ である。よって、 $$ D_E(f^n)\subset D_E(f)\quad(\forall n\in\mathbb{N}) $$ が成り立つ。今、ある $n\in\mathbb{N}$ に対し、 $$ \left(\int_{X}f(x)dE(x)\right)^n=\int_{X}f(x)^ndE(x)\quad\quad(*) $$ が成り立つと仮定すると、$(1)$ より、 $$ \left(\int_{X}f(x)dE(x)\right)^{n+1}=\int_{X}f(x)^ndE(x)\int_{X}f(x)dE(x)\subset \int_{X}f(x)^{n+1}dE(x) $$ であり、$(1)$ と $D_E(f^{n+1})\subset D_E(f)$ より、 $$ D_E\left(\left(\int_{X}f(x)dE(x)\right)^{n+1}\right)=D_E(f^{n+1})\cap D_E(f)=D_E(f^{n+1}) $$ である。よって $(*)$ は $n+1$ の場合も成り立つので、帰納法より $(*)$ は任意の $n\in \mathbb{N}$ に対して成り立つ。また $(1),(2)$ より、 $$ \left(\int_{X}f(x)dE(x)\right)^*\left(\int_{X}f(x)dE(x)\right) =\int_{X}\overline{f(x)}dE(x)\int_{X}f(x)dE(x)\subset \int_{X}\lvert f(x)\rvert^2dE(x) $$ であり、$(1)$ と $D_E(\lvert f\rvert^2)\subset D_E(f)$ より、 $$ D_E\left(\left(\int_{X}f(x)dE(x)\right)^*\left(\int_{X}f(x)dE(x)\right)\right) =D_E(\lvert f\rvert^2)\cap D_E(f)=D_E(\lvert f\rvert^2) $$ であるから、$(\int_{X}f(x)dE(x))^*(\int_{X}f(x)dE(x))=\int_{X}\lvert f(x)\rvert^2dE(x)$ が成り立つ。

  • $(5)$ 任意の $v\in {\rm Ker}(\int_{X}f(x)dE(x))$ に対し、

$$ \int_{X}\lvert f(x)\rvert^2dE_{v,v}(x)=\left\lVert \int_{X}f(x)dE(x)v\right\rVert^2=0 $$ であるから、 $$ \lVert E( (\lvert f\rvert>0))v\rVert^2=E_{v,v}( (\lvert f\rvert>0))=0 $$ である。よって、 $$ v=E( (f=0))v+E( (\lvert f\rvert>0))v=E( (f=0))v\in {\rm Ran} E( (f=0)) $$ であるから ${\rm Ker}(\int_{X}f(x)dE(x))\subset {\rm Ran}E( (f=0))$ が成り立つ。また $(1)$ より、 $$ \int_{X}f(x)dE(x)E( (f=0))=\int_{X}f(x)\chi_{(f=0)}(x)dE(x)=0 $$ であるから ${\rm Ran}E( (f=0))\subset {\rm Ker}(\int_{X}f(x)dE(x))$ も成り立つ。 $\int_{X}f(x)dE(x)$ が単射、すなわち $E( (f=0))=0$ であるとし、$f^{-1}(x)=f(x)^{-1}$ $(\forall x\in X\backslash (f=0))$ なる可測関数 $f^{-1}:X\rightarrow \mathbb{C}$ を考えると、$(1)$ より、 $$ \int_{X}f(x)dE(x)\int_{X}f^{-1}(x)dE(x)\subset \int_{X}f(x)f^{-1}(x)dE(x)=E( (f\neq0))=E(X)=1, $$ $$ D\left(\int_{X}f(x)dE(x)\int_{X}f^{-1}(x)dE(x)\right)=D_E(f^{-1}) $$ であるから、 $$ \int_{X}f(x)\int_{X}f^{-1}(x)dE(x)v=v\quad(\forall v\in D_E(f^{-1})) $$ である。よって $\int_{X}f^{-1}(x)dE(x)\subset (\int_{X}f(x)dE(x))^{-1}$ が成り立つ。また $(1)$ より、 $$ \int_{X}f^{-1}(x)dE(x)\int_{X}f(x)dE(x)\subset \int_{X}f^{-1}(x)f(x)dE(x)=E( (f\neq0))=E(X)=1, $$ $$ D\left(\int_{X}f^{-1}(x)dE(x)\int_{X}f(x)dE(x)\right)=D_E(f) $$ であるから、 $$ \int_{X}f^{-1}(x)dE(x)\int_{X}f(x)dE(x)v=v\quad(\forall v\in D_E(f)) $$ が成り立つ。よって $(\int_{X}f(x)dE(x))^{-1}\subset \int_{X}f^{-1}(x)dE(x)$ も成り立つ。

命題6.9(射影値測度のユニタリ作用素による変換)

$\mathcal{H},\mathcal{K}$ をHilbert空間、$U\colon\mathcal{H}\rightarrow \mathcal{K}$ をユニタリ作用素、$(X,\mathfrak{M})$ を可測空間、$E\colon\mathfrak{M}\rightarrow \mathbb{P}(\mathcal{H})$ を射影値測度とする。このとき、 $$ UEU^*\colon\mathfrak{M}\ni B\mapsto UE(B)U^*\in \mathbb{P}(\mathcal{K}) $$ は射影値測度であり、任意の可測関数 $f\colon X\rightarrow\mathbb{C}$ に対し、 $$ \int_{X}f(x)d(UEU^*)(x)=U\left(\int_{X}f(x)dE(x)\right)U^*\quad\quad(*) $$ が成り立つ。

Proof.

$UEU^*$ が射影値測度の定義(定義6.2)の条件を満たすことは容易に分かる。$(*)$ は $f\colon X\rightarrow \mathbb{C}$ が可測単関数である場合は明らかに成り立ち、有界可測関数は可測単関数により一様近似できること(測度と積分5:$L^p$ 空間の完備性と双対性命題22.2)から、$f\colon X\rightarrow \mathbb{C}$ が有界可測関数の場合も $(*)$ は成り立つ。今、任意の可測関数 $f\colon X\rightarrow\mathbb{C}$ に対し、有界可測関数の列 $f_n\colon=f\chi_{(\lvert f\rvert\leq n)}$ $(\forall n\in \mathbb{N})$ を考えると、任意の $v\in \mathcal{K}$ に対し単調収束定理より、 $$ \begin{aligned} \int_{X}\lvert f(x)\rvert^2d(UEU^*)_{v,v}(x)&=\sup_{n\in \mathbb{N}}\int_{X}\lvert f_n(x)\rvert^2d(UEU^*)_{v,v}(x)=\sup_{n\in\mathbb{N}}\left\lVert \int_{X}f_n(x)d(UEU^*)(x)v\right\rVert^2\\ &=\sup_{n\in\mathbb{N}}\left\lVert \left(\int_{X}f_n(x)dE(x)\right)U^*v\right\rVert^2 =\sup_{n\in\mathbb{N}}\int_{X}\lvert f_n(x)\rvert^2dE_{U^*v,U^*v}(x)\\ &=\int_{X}\lvert f(x)\rvert^2dE_{U^*v,U^*v}(x) \end{aligned} $$ であるから $D_{UEU^*}(f)=UD_E(f)$ が成り立つ。そして任意の $u\in \mathcal{H}$ と任意の $v\in D_{UEU^*}(f)$ に対しLebesgue優収束定理より、 $$ \begin{aligned} &\left(u\mid \int_{X}f(x)d(UEU^*)(x)v\right)=\lim_{n\rightarrow\infty}\left(u\mid \left(\int_{X}f_n(x)d(UEU^*)(x)\right)v\right)\\ &=\lim_{n\rightarrow\infty}\left(u\mid U\left(\int_{X}f_n(x)dE(x)\right)U^*v\right) =\left(u\mid U\left(\int_{X}f(x)dE(x)\right)U^*v\right) \end{aligned} $$ である。よって $(*)$ は任意の可測関数 $f:X\rightarrow \mathbb{C}$ に対して成り立つ。

命題6.10

$\mathcal{H}$ をHilbert空間、$(X,\mathfrak{M})$ を可測空間、$E\colon\mathfrak{M}\rightarrow \mathbb{P}(\mathcal{H})$ を射影値測度、$f\colon X\rightarrow\mathbb{C}$ を可測関数とする。このとき $\mathbb{C}$ の開集合 $U$ で $E(f^{-1}(U))=0$ を満たすもの全ての合併を $U_0$ とおけば $E(f^{-1}(U_0))=0$ が成り立つ。

Proof.

任意の $v\in \mathcal{H}$ を取り、$\mathbb{C}$ 上の有限Borel測度 $$ \mathcal{B}_{\mathbb{C}}\ni B\mapsto E_{v,v}(f^{-1}(B))\in \mathbb{C}\quad\quad(*) $$ を考える。$\mathbb{C}$ は第二可算局所コンパクトHausdorff空間であるから、測度と積分7:局所コンパクトHausdorff空間上のRadon測度定理31.5より $(*)$ はRadon測度である。よって、 $$ E_{v,v}(f^{-1}(U_0))=\sup\{E_{v,v}(K):K\subset U_0\text{ はコンパクト}\}\quad\quad(**) $$ が成り立つ。任意のコンパクト集合 $K\subset U_0$ を取る。$U_0$ の定義より $\mathbb{C}$ の有限個の開集合 $U_1,\ldots,U_n$ で、 $$ K\subset \bigcup_{k=1}^{n}U_k,\quad E_{v,v}(f^{-1}(U_k))=0\quad(k=1,\ldots,n) $$ を満たすものが取れる。よって、 $$ E_{v,v}(f^{-1}(K))\leq \sum_{k=1}^{n}E_{v,v}(f^{-1}(U_k))=0 $$ より $E_{v,v}(f^{-1}(K))=0$ であるから、$K$ の任意性と $(**)$ より $E_{v,v}(f^{-1}(U_0))=0$ である。$v\in \mathcal{H}$ の任意性と偏極恒等式より、任意の $u,v\in \mathcal{H}$ に対し $E_{u,v}(U_0)=\frac{1}{4}\sum_{k=0}^{3}i^kE_{i^ku+v,i^ku+v}(U_0)=0$ であるから、$E(U_0)=0$ である。

定義6.11(可測関数の射影値測度に関する本質的値域)

$\mathcal{H}$ をHilbert空間、$(X,\mathfrak{M})$ を可測空間、$E\colon\mathfrak{M}\rightarrow \mathbb{P}(\mathcal{H})$ を射影値測度、$f\colon X\rightarrow\mathbb{C}$ を可測関数とする。命題6.10より $E(f^{-1}(U))=0$ を満たす $\mathbb{C}$ の開集合 $U$ のうち最大のもの $U_0$ が存在する。そこで $\mathbb{C}$ の閉集合 $$ {\rm ess.Ran}_E(f)\colon=\mathbb{C}\backslash U_0 $$ を $f$ の $E$ に関する本質的値域と言う。${\rm ess.Ran}_E(f)$ は明らかに次のように特徴付けられる。 $$ {\rm ess.Ran}_E(f)=\{\lambda\in \mathbb{C}:\forall \epsilon\in(0,\infty),\text{ }E( (\lvert\lambda-f\rvert)<\epsilon)>0\}. $$ ただし $(\lvert \lambda-f\rvert<\epsilon)=\{x\in X:\lvert\lambda-f(x)\rvert<\epsilon \}=f^{-1}(B(\lambda,\epsilon))$ である。

命題6.12(射影値測度による積分のスペクトルと本質的値域)

$\mathcal{H}$ をHilbert空間、$(X,\mathfrak{M})$ を可測空間、$E\colon \mathfrak{M}\rightarrow \mathbb{P}(\mathcal{H})$ を射影値測度、$f\colon X\rightarrow\mathbb{C}$ を可測関数とする。このとき $f$ の $E$ による積分 $\int_{X}f(x)dE(x)$ のスペクトルと、$f$ の $E$ に関する本質的値域は一致する。すなわち、 $$ \sigma\left(\int_{X}f(x)dE(x)\right)={\rm ess.Ran}_E(f) $$ が成り立つ。

Proof.

本質的値域の定義より、 $$ {\rm ess.Ran}_E(f)=\{\lambda\in \mathbb{C}:\forall \epsilon\in(0,\infty),\text{ }E( (\lvert\lambda-f\rvert)<\epsilon)>0\}\quad\quad(*) $$ である。任意の $\lambda\in {\rm ess.Ran}_E(f)$ を取る。$(*)$ より各 $n\in \mathbb{N}$ に対し $E( (\lvert\lambda-f\rvert<\frac{1}{n}))>0$ であるので、単位ベクトル $$ v_n\in {\rm Ran}E\left(\left(\lvert\lambda-f\rvert<\frac{1}{n}\right)\right) $$ が取れる。そして命題6.8の $(1)$ より、 $$ \left(\lambda-\int_{X}f(x)dE(x)\right)E\left(\left(\lvert\lambda-f\rvert<\frac{1}{n}\right)\right)=\int_{X}(\lambda-f(x))\chi_{(\lvert\lambda-f\rvert<\frac{1}{n})}(x)dE(x)\in\mathbb{B}(\mathcal{H}) $$ であるから、$v_n\in D_E(\lambda-f)=D_E(f)$ であり、 $$ \left\lVert \left(\lambda-\int_{X}f(x)dE(x)\right)v_n\right\rVert =\left\lVert\int_{X}(\lambda-f(x))\chi_{(\lvert\lambda-f\rvert<\frac{1}{n})}(x)dE(x)v_n\right\rVert\leq\frac{1}{n} $$ である。よってもし $\lambda\notin \sigma(\int_{X}f(x)dE(x))$ ならば、任意の $n\in \mathbb{N}$ に対し、 $$ 1=\lVert v_n\rVert=\left\lVert \left(\lambda-\int_{X}f(x)dE(x)\right)^{-1}\left(\lambda-\int_{X}f(x)dE(x)\right)v_n\right\rVert\leq \frac{1}{n}\left\lVert\left(\lambda-\int_{X}f(x)dE(x)\right)^{-1}\right\rVert $$ となり矛盾する。ゆえに $\lambda\in \sigma(\int_{X}f(x)dE(x))$ である。これより、 $$ {\rm ess.Ran}_E(f)\subset \sigma\left(\int_{X}f(x)dE(x)\right)\quad\quad(**) $$ が成り立つ。逆の包含関係を示す。そのためには $\lambda\notin {\rm ess.Ran}_E(f)$ なる任意の $\lambda\in \mathbb{C}$ を取り、$\lambda\notin \sigma(\int_{X}f(x)dE(x))$ が成り立つことを示せばよい。$(*)$ よりある $\epsilon\in(0,\infty)$ に対し、 $$ E( (\lvert\lambda-f\rvert<\epsilon))=0 $$ である。特に、 $$ E( (\lambda-f=0))\leq E( (\lvert\lambda-f\rvert<\epsilon))=0 $$ であるから、命題6.8の $(5)$ より、 $$ \lambda-\int_{X}f(x)dE(x)=\int_{X}\lambda-f(x)dE(x):D_E(f)\rightarrow\mathcal{H}\quad\quad(***) $$ は単射である。今、可測関数 $g\colon X\rightarrow\mathbb{C}$ を、 $$ g(x)=\begin{cases}(\lambda-f(x))^{-1}&(\lvert\lambda-f(x)\rvert\geq\epsilon)\\ 0&(\lvert\lambda-f(x)\rvert<\epsilon)\end{cases} $$ とおくと $g$ は有界であり、命題6.8の $(1)$ より、 $$ \left(\lambda-\int_{X}f(x)dE(x)\right)\int_{X}g(x)dE(x)=\int_{X}(\lambda-f(x))g(x)dE(x)=E( (\lvert\lambda-f\rvert\geq\epsilon) )=1 $$ であるから $(***)$ は全射でもある。ゆえに $\lambda\notin \sigma(\int_{X}f(x)dE(x))$ であるから $(**)$ の逆の包含関係が成り立つ。

系6.13

$\mathcal{H}$ をHilbert空間、$X$ を位相空間、$E\colon\mathcal{B}_X\rightarrow \mathbb{P}(\mathcal{H})$ を射影値測度とし、任意の空でない開集合 $U\subset X$ に対し $E(U)>0$ が成り立つと仮定する。このとき任意の連続関数 $f\colon X\rightarrow\mathbb{C}$ に対し、 $$ \sigma\left(\int_{X}f(x)dE(x)\right)=\overline{f(X)} $$ が成り立つ。

Proof.

$f^{-1}(\mathbb{C}\backslash \overline{f(X)})=\emptyset$ であるから本質的値域の定義(定義6.10)より、 $$ {\rm ess.Ran}_E(f)\subset \overline{f(X)} $$ である。逆の包含関係を示す。${\rm ess.Ran}_E(f)$ は閉集合であるので $f(X)\subset {\rm ess.Ran}_E(f)$ が成り立つことを示せばよい。そのためには、定義6.10の最後における ${\rm ess.Ran}_E(f)$ の特徴付けより、任意の $x_0\in X$ と 任意の $\epsilon\in (0,\infty)$ に対し、 $$ E(\lvert f-f(x_0)\rvert<\epsilon)>0\quad\quad(*) $$ が成り立つことを示せばよい。$f$ の $x_0\in X$ における連続性より、$x_0$ の開近傍 $U\subset X$ が存在し、 $$ U\subset (\lvert f-f(x_0)\rvert<\epsilon) $$ となる。よって仮定より、 $$ 0<E(U)\leq E( (\lvert f-f(x_0)\rvert<\epsilon)) $$ であるから、$(*)$ が成り立つ。

7. Radon射影値測度とRiesz-Markov-角谷の表現定理

定義7.1(局所コンパクトHausdorff空間上のRadon射影値測度)

$\mathcal{H}$ をHilbert空間、$X$ を局所コンパクトHausdorff空間、$E\colon\mathcal{B}_X\rightarrow\mathbb{P}(\mathcal{H})$ を射影値測度とする。任意の $u,v\in \mathcal{H}$ に対し複素数値Borel測度 $E_{u,v}\colon\mathcal{B}_X\ni B\mapsto (u\mid E(B)v)\in\mathbb{C}$ が複素数値Radon測度(測度と積分7:局所コンパクトHausdorff空間上のRadon測度定義33.1)であるとき、$E$ をRadon射影値測度と言う。

注意7.2(第二可算局所コンパクトHausdorff空間上の射影値Borel測度は自動的にRadon射影値測度)

$\mathcal{H}$ をHilbert空間、$X$ を第二可算局所コンパクトHausdorff空間、$E\colon\mathcal{B}_X\rightarrow\mathbb{P}(\mathcal{H})$ を射影値測度とする。このとき測度と積分7:局所コンパクトHausdorff空間上のRadon測度注意33.2より、 $E$ は自動的にRadon射影値測度である。

定理7.3(射影値測度に関するRiesz-Markov-角谷の表現定理)

$\mathcal{H}$ をHilbert空間、$X$ を局所コンパクトHausdorff空間、$\Phi\colon C_0(X)\rightarrow \mathbb{B}(\mathcal{H})$ を $*$-環準同型写像とし、 $$ \Phi(C_0(X))\mathcal{H}={\rm span}\{\Phi(f)v:f\in C_0(X),v\in \mathcal{H}\}\quad\quad(*) $$ が $\mathcal{H}$ において稠密であるとする。(ただし $C_0(X)$ は $X$ 上の無限遠で消える連続関数全体に各点ごとの演算と $\sup$ ノルムを入れた可換 $C^*$-環である。)このときRadon射影値測度 $E\colon\mathcal{B}_X\rightarrow\mathbb{P}(\mathcal{H})$ で、 $$ \Phi(f)=\int_{X}f(x)dE(x)\quad(\forall f\in C_0(X)) $$ を満たすものが唯一つ存在する。

Proof.

Banach環とC*-環のスペクトル理論定理10.1より $\Phi$ はノルム減少であるから任意の $u,v\in \mathcal{H}$ に対し、 $$ C_0(X)\ni f\mapsto (u\mid \Phi(f)v)\in \mathbb{C} $$ はノルムが $\lVert u\rVert\lVert v\rVert$ 以下の有界線形汎関数である。よってRiesz-Markov-角谷の表現定理(測度と積分7:局所コンパクトHausdorff空間上のRadon測度定理30.4)より、任意の $u,v\in \mathcal{H}$ に対し複素数値Radon測度 $\nu_{u,v}\in M(X)$ で、 $$ \int_{X}f(x)d\nu_{u,v}(x)=(u\mid \Phi(f)v)\quad(\forall f\in C_0(X))\quad\quad(*) $$ を満たすものが定まり、 $$ \mathcal{H}\times \mathcal{H}\ni (u,v)\mapsto \nu_{u,v}\in M(X) $$ はノルムが $1$ 以下の有界準双線形写像である。今、$X\rightarrow\mathbb{C}$ の有界Borel関数全体に各点ごとの演算と $\sup$ ノルムを入れた可換 $C^*$-環を $\mathcal{L}_{\rm b}(X,{\cal B}_X)$ とおくと、任意の $f\in \mathcal{L}_{\rm b}(X,{\cal B}_X)$ に対し、 $$ \mathcal{H}\times \mathcal{H}\ni (u,v)\mapsto \int_{X}f(x)d\nu_{u,v}(x)\in \mathbb{C} $$ はノルムが $f$ 以下の有界準双線形汎関数であるから、位相線形空間1:ノルムと内積定理7.1より $\Psi(f)\in \mathbb{B}(\mathcal{H})$ で、 $$ \int_{X}f(x)d\nu_{u,v}(x)=(u\mid \Psi(f)v)\quad(\forall u,v\in \mathcal{H})\quad\quad(**) $$ を満たすものが定まり、$\lVert \Psi(f)\rVert\leq \lVert f\rVert$ が成り立つ。こうしてノルム減少な線形写像 $$ \Psi:\mathcal{L}_{\rm b}(X,{\cal B}_X)\ni f\mapsto \Psi(f)\in \mathbb{B}(\mathcal{H}) $$ が定義できる。$(*),(**)$ より、 $$ \Psi(f)=\Phi(f)\quad(\forall f\in C_0(X)) $$ である。今、$\Psi$ が $*$-環準同型写像であることを示す。任意の $v\in \mathcal{H}$ に対し、 $$ (v\mid \Phi(f)v)=(\Phi(\sqrt{f})v\mid \Phi(\sqrt{f})v)\geq0\quad(\forall f\in C_{c,+}(X)) $$ であるから、Riesz-Markov-角谷の表現定理(測度と積分7:局所コンパクトHausdorff空間上のRadon測度定理34.1)より $\nu_{v,v}$ は非負値測度である。よって任意の $f\in \mathcal{L}_{\rm b}(X,\mathcal{B}_X)$、任意の $v\in \mathcal{H}$ に対し、 $$ (v\mid \Psi(\overline{f})v)=\int_{X}\overline{f(x)}d\nu_{v,v}(x)=\overline{\int_{X}f(x)d\nu_{v,v}(x)}=\overline{(v\mid \Psi(f)v)}=(v\mid \Psi(f)^*v) $$ であるから、偏極恒等式より、 $$ \Psi(\overline{f})=\Psi(f)^*\quad(\forall f\in \mathcal{L}_{\rm b}(X,\mathcal{B}_X)) $$ が成り立つ。ゆえに $\Psi$ は対合を保存する。$\Psi$ が乗法を保存すること、すなわち、 $$ \Psi(fg)=\Psi(f)\Psi(g)\quad(\forall f,g\in \mathcal{L}_{\rm b}(X,\mathcal{B}_X))\quad\quad(***) $$ が成り立つことを示す。まず $\Phi\colon C_0(X)\rightarrow \mathbb{B}(\mathcal{H})$ は $*$-環準同型写像であるので任意の $f,g\in C_0(X)$、$u,v\in \mathcal{H}$ に対し、 $$ \int_{X}f(x)g(x)d\nu_{u,v}(x)=(u\mid \Phi(fg)v)=(u\mid \Phi(f)\Phi(g)v)=\int_{X}f(x)d\nu_{u,\Phi(g)v}(x) $$ である。よって任意の $g\in C_0(X)$、$u,v\in \mathcal{H}$ に対し、 $$ (\nu_{u,v})_g\colon \mathcal{B}_X\ni B\mapsto \int_{B}g(x)d\nu_{u,v}(x)\in \mathbb{C} $$ なる $(\nu_{u,v})_g\in M(X)$($(\nu_{u,v})_g$ が複素数値Radon測度であることについては測度と積分7:局所コンパクトHausdorff空間上のRadon測度命題33.4の $(3)$ を参照)を考えれば、任意の $f\in C_0(X)$ に対し、測度と積分4:測度論の基本定理(2)命題19.6より、 $$ \int_{X}f(x)d(\nu_{u,v})_g(x)=\int_{X}f(x)g(x)d\nu_{u,v}(x)=\int_{X}f(x)d\nu_{u,\Phi(g)v}(x) $$ である。よってRiesz-Markov-角谷の表現定理(測度と積分7:局所コンパクトHausdorff空間上のRadon測度定理34.1)より、 $$ (\nu_{u,v})_g=\nu_{u,\Phi(g)v}\quad(\forall g\in C_0(X),\forall u,v\in \mathcal{H})\quad\quad(****) $$ が成り立つ。次に任意の $f\in \mathcal{L}_{\rm b}(X,\mathcal{B}_X)$, $u,v\in {\cal H}$ に対し、 $$ (\nu_{u,v})_f:\mathcal{B}_X\ni B\mapsto \int_{B}f(x)d\nu_{u,v}(x)\in \mathbb{C} $$ なる $(\nu_{u,v})_f\in M(X)$ を考えると、測度と積分4:測度論の基本定理(2)命題19.6と $(****)$ より、任意の $g\in C_0(X)$ に対し、 $$ \begin{aligned} \int_{X}g(x)d(\nu_{u,v})_f(x)&=\int_{X}f(x)g(x)d\nu_{u,v}(x)=\int_{X}f(x)d(\nu_{u,v})_g(x) =\int_{X}f(x)d\nu_{u,\Phi(g)v}(x) =(u\mid \Psi(f)\Phi(g)v)\\ &=(\Psi(f)^*u\mid \Phi(g)v)=\int_{X}g(x)d\nu_{\Psi(f)^*u,v}(x) \end{aligned} $$ が成り立つ。よってRiesz-Markov-角谷の表現定理(測度と積分7:局所コンパクトHausdorff空間上のRadon測度定理34.1)より、 $$ (\nu_{u,v})_f=\nu_{\Psi(f)^*u,v}\quad(\forall f\in \mathcal{L}_{\rm b}(X,\mathfrak{M}),\forall u,v\in \mathcal{H}) $$ が成り立つ。ゆえに任意の $f,g\in \mathcal{L}_{\rm b}(X,\mathcal{B}_X)$、任意の $u,v\in \mathcal{H}$ に対し、測度と積分4:測度論の基本定理(2)命題19.6より、 $$ \begin{aligned} (u\mid \Psi(fg)v)&=\int_{X}f(x)g(x)d\nu_{u,v}(x)=\int_{X}g(x)d(\nu_{u,v})_f(x)=\int_{X}g(x)d\nu_{\Psi(f)^*u,v}(x)\\ &=(\Psi(f)^*u\mid\Psi(g)v)=(u\mid\Psi(f)\Psi(g)v) \end{aligned} $$ が成り立つので $(***)$ が成り立つ。これより $\Psi\colon\mathcal{L}_{\rm b}(X,\mathcal{B}_X)\rightarrow \mathbb{B}(\mathcal{H})$ は*-環準同型写像である。そして、 $$ \Psi(1)\Phi(f)v=\Psi(1)\Psi(f)v=\Psi(f)v=\Phi(f)v\quad(\forall f\in C_0(X),\forall v\in \mathcal{H}) $$ であり、$\Phi(C_0(X)){\cal H}$ は $\mathcal{H}$ で稠密であるので、$\Psi(1)=1$ である。 任意の $B\in \mathcal{B}_X$ に対し $E(B)\colon=\Psi(\chi_B)$ とおけば、 $$ E(B)=\Psi(\chi_B)\in \mathbb{P}(\mathcal{H})\quad(\forall B\in\mathcal{B}_X),\quad E(X)=1 $$ であり、 $$ (u\mid E(B)v)=(u\mid \Psi(\chi_B)v)=\nu_{u,v}(B)\quad(\forall B\in \mathcal{B}_X,\forall u,v\in \mathcal{H}) $$ であるから $E\colon\mathcal{B}_X\ni B\mapsto E(B)\in \mathbb{P}(\mathcal{H})$ はRadon射影値測度であり、任意の $f\in C_0(X)$、$u,v\in \mathcal{H}$ に対し、 $$ \left(u\mid \int_{X}f(x)dE(x)v\right)=\int_{X}f(x)dE_{u,v}(x)=\int_{X}f(x)d\nu_{u,v}(x)=(u\mid \Phi(f)v) $$ であるので、 $$ \int_{X}f(x)dE(x)=\Phi(f)\quad(\forall f\in C_0(X)) $$ が成り立つ。これで存在が示せた。一意性を示す。$E'\colon\mathcal{B}_X\rightarrow\mathbb{P}(\mathcal{H})$ もRadon射影値測度であり、 $$ \int_{X}f(x)dE'(x)=\Phi(f)\quad(\forall f\in C_0(X)) $$ を満たすならば、任意の $u,v\in \mathcal{H}$ に対し、 $$ \int_{X}f(x)dE_{u,v}(x)=(u\mid \Phi(f)v)=\int_{X}f(x)dE'_{u,v}(x)\quad(\forall f\in C_0(X)) $$ であるから、Riesz-Markov-角谷の表現定理(測度と積分7:局所コンパクトHausdorff空間上のRadon測度定理34.1)より $E_{u,v}=E'_{u,v}$ である。よって $E=E'$ である。これで一意性が示せた。

8. スペクトル測度、Borel汎関数計算

命題8.1(正規作用素に付随するスペクトル測度の一意存在)

$\mathcal{H}$ をHilbert空間とし、$T\in \mathbb{B}(\mathcal{H})$ を正規作用素とする。このとき射影値測度 $E^T\colon\mathcal{B}_{\sigma(T)}\rightarrow\mathbb{P}(\mathcal{H})$ で、 $$ T=\int_{\sigma(T)}\lambda dE^T(\lambda) $$ を満たすものが唯一つ存在する。(注意7.2より$E^T$ は必然的にRadon射影値測度である。)そして、 $$ f(T)=\int_{\sigma(T)}f(\lambda)dE^T(\lambda)\quad(\forall f\in C(\sigma(T))) $$ が成り立つ。ただし左辺は $T$ に関する連続汎関数計算(Banach環とC*-環のスペクトル理論定義6.6)である。

Proof.

連続汎関数計算 $$ C(\sigma(T))\ni f\mapsto f(T)\ni C^*(\{1,T\})\subset\mathbb{B}(\mathcal{H}) $$ は単位元を単位元に写す $*$-環準同型写像であるから、射影値測度に関するRiesz-Markov-角谷の表現定理(定理7.3)より、射影値測度 $E^T\colon \mathcal{B}_{\sigma(T)}\rightarrow \mathbb{P}(\mathcal{H})$ で、 $$ f(T)=\int_{\sigma(T)}f(\lambda)dE^T(\lambda)\quad(\forall f\in C(\sigma(T))) $$ を満たすものが存在する。特に、 $$ T=\int_{\sigma(T)}\lambda dE^T(\lambda) $$ である。よって存在が示せた。射影値測度 $E,F\colon\mathcal{B}_{\sigma(T)}\rightarrow\mathbb{P}(\mathcal{H})$ が、 $$ \int_{\sigma(T)}\lambda dE(\lambda)=T=\int_{\sigma(T)}\lambda dF(\lambda) $$ を満たすとする。恒等写像 ${\rm id}\colon\sigma(T)\ni \lambda\mapsto \lambda\in \mathbb{C}$ に対し、Stone-Weierstrassの定理(測度と積分7:局所コンパクトHausdorff空間上のRadon測度定理35.4)より、 $$ C(\sigma(T))=\overline{\text{span}\left\{\overline{\rm id}^n{\rm id}^m:n,m\in\mathbb{Z}_+\right\}} $$ であるから、任意の $f\in C(\sigma(T))$ に対し、 $$ \int_{\sigma(T)}f(\lambda)dE(\lambda)=\int_{\sigma(T)}f(\lambda)dF(\lambda) $$ が成り立つ。ここで $\sigma(T)$ は第二可算コンパクトHausdorff空間であるから注意7.2より $E,F\colon\mathcal{B}_{\sigma(T)}\rightarrow\mathbb{P}(\mathcal{H})$ は自動的にRadon射影値測度である。ゆえに定理7.3より $E=F$ である。これで一意性が示せた。

定義8.2(正規作用素に付随するスペクトル測度)

Hilbert空間 $\mathcal{H}$ 上の正規作用素 $T\in \mathbb{B}(\mathcal{H})$ に対し、命題8.1における射影値測度 $E^T\colon \mathcal{B}_X\rightarrow \mathbb{P}(\mathcal{H})$ を、$T$ に付随するスペクトル測度と言う。

定理8.3(自己共役作用素に付随するスペクトル測度の一意存在)

$\mathcal{H}$ をHilbert空間、$T$ を $\mathcal{H}$ 上の自己共役作用素とする。このとき射影値測度 $E^T\colon\mathcal{B}_{\sigma(T)}\rightarrow \mathbb{P}(\mathcal{H})$(定理5.7より $\sigma(T)$ は $\mathbb{R}$ の空でない閉集合であることに注意)で、 $$ T=\int_{\sigma(T)}\lambda dE^T(\lambda) $$ を満たすものが唯一つ存在する。

Proof.

$$ C\colon\mathbb{R}\ni t\mapsto (t-i)(t+i)^{-1}\in \mathbb{T}\backslash \{1\}\quad\quad(*) $$ は同相写像であり、逆写像は、 $$ C^{-1}\colon\mathbb{T}\backslash \{1\}\ni \lambda\mapsto i(1+\lambda)(1-\lambda)^{-1}\in\mathbb{R} $$ である。定理4.6より $T$ のCayley変換 $C(T)=(T-i)(T+i)^{-1}$ は $\mathcal{H}$ 上のユニタリ作用素であり、定理5.7より、 $$ C(\sigma(T))=\sigma(C(T))\backslash\{1\}\quad\quad(**) $$ が成り立つ。$C(T)\in \mathbb{B}(\mathcal{H})$ はユニタリ作用素であるから正規作用素である。そこで $C(T)$ に付随するスペクトル測度(定義8.2)を、 $$ F\colon\mathcal{B}_{\sigma(C(T))}\rightarrow\mathbb{P}(\mathcal{H}),\quad C(T)=\int_{\sigma(C(T))}\lambda dF(\lambda) $$ とおく。命題4.5より、 $$ 1-C(T)=\int_{\sigma(C(T))}(1-\lambda)dF(\lambda) $$ は単射であるから、命題6.8の $(5)$ より、 $$ \{0\}={\rm Ker}(1-C(T))={\rm Ran} F(\{\lambda\in \sigma(C(T)):1-\lambda=0\})={\rm Ran}F(\sigma(C(T))\cap \{1\}) $$ である。よって $(**)$ より、 $$ F(C(\sigma(T)))=F(\sigma(C(T))\backslash\{1\})=F(\sigma(C(T)))=1 $$ である。これと $(*)$ が同相写像であることから、 $$ E\colon\mathcal{B}_{\sigma(T)}\ni B\mapsto F(C(B))\in \mathbb{P}(\mathcal{H})\quad\quad(***) $$ は射影値測度である。今、任意のBorel関数 $f\colon\sigma(T)\rightarrow\mathbb{C}$ に対し、 $$ \int_{\sigma(T)}f(t)dE(t)=\int_{\sigma(C(T))\backslash \{1\}}f(C^{-1}(\lambda))dF(\lambda)\quad\quad(****) $$ が成り立つことを示す。$E$ の定義より $f\colon\sigma(T)\rightarrow\mathbb{C}$ がBorel単関数である場合は明らかに成り立つ。また任意の有界Borel関数はBorel単関数の列により一様近似できる(測度と積分5:$L^p$ 空間の完備性と双対性命題22.2)ので、$(****)$ は $f\colon\sigma(T)\rightarrow\mathbb{C}$ が有界Borel関数の場合も成り立つ。任意のBorel関数 $f\colon\sigma(T)\rightarrow\mathbb{C}$ に対し $f_n:=f\chi_{(\lvert f\rvert\leq n)}$ $(\forall n\in\mathbb{N})$ として有界Borel関数の列 $(f_n)_{n\in\mathbb{N}}$ を定義すると、単調収束定理より、任意の $v\in\mathcal{H}$ に対して、 $$ \begin{aligned} \int_{\sigma(T)}\lvert f(t)\rvert^2dE_{v,v}(t)&=\sup_{n\in\mathbb{N}}\int_{\sigma(T)}\lvert f_n(t)\rvert^2dE_{v,v}(t)=\sup_{n\in\mathbb{N}}\int_{\sigma(C(T))\backslash\{1\}}\lvert f_n(C^{-1}(\lambda))\rvert^2dF_{v,v}(\lambda)\\ &=\int_{\sigma(C(T))\backslash\{1\}}\lvert f(C^{-1}(\lambda))\rvert^2dF_{v,v}(\lambda) \end{aligned} $$ となるから、$D_E(f)=D_F(f\circ C^{-1})$ である。よって任意の $v\in D_E(f)=D_F(f\circ C^{-1})$、任意の $u\in\mathcal{H}$ に対し、Lebesgue優収束定理より、 $$ \begin{aligned} \left(u\mid \int_{\sigma(T)}f(t)dE(t)v\right)&=\lim_{n\rightarrow\infty}\left(u\mid \int_{\sigma(T)}f_n(t)dE(t)v\right) =\lim_{n\rightarrow\infty}\left(u\mid \int_{\sigma(C(T))\backslash \{1\}}f_n(C^{-1}(\lambda))dF(\lambda)v\right)\\ &=\left(u\mid \int_{\sigma(C(T))\backslash \{1\}}f(C^{-1}(\lambda))dF(\lambda)v\right) \end{aligned} $$ となる。これより $(****)$ は任意のBorel関数 $f\colon\sigma(T)\rightarrow\mathbb{C}$ に対して成り立つ。命題4.5命題6.8の $(1),(5)$ より、 $$ \begin{aligned} T&=i(1+C(T))(1-C(T))^{-1}=i\int_{\sigma(\sigma(T))}(1+\lambda)dF(\lambda)\int_{\sigma(C(T))\backslash\{1\}}(1-\lambda)^{-1}dF(\lambda)\\ &\subset \int_{\sigma(C(T))\backslash\{1\}}i(1+\lambda)(1-\lambda)^{-1}dF(\lambda) =\int_{\sigma(C(T))\backslash\{1\}}C^{-1}(\lambda)dF(\lambda) =\int_{\sigma(T)}tdE(t) \end{aligned} $$ であるので、命題6.8の $(2)$ より、 $$ T\subset \int_{\sigma(T)}tdE(t)=\left(\int_{\sigma(T)}tdE(t)\right)^*\subset T^*=T $$ である。ゆえに、 $$ T=\int_{\sigma(T)}tdE(t) $$ が成り立つ。これで存在が示せた。一意性を示す。射影値測度 $E'\colon\mathcal{B}_{\sigma(T)}\rightarrow\mathbb{P}(\mathcal{H})$ も、 $$ T=\int_{\sigma(T)}tdE'(t) $$ を満たすとし、$E'=E$(ただし $E$ は $(***)$ によって定義したもの)が成り立つことを示す。射影値測度 $$ F'\colon\mathcal{B}_{\sigma(C(T))}\ni B\mapsto E'(C^{-1}(B))\in\mathbb{P}(\mathcal{H}) $$ を考えると、$(****)$ を示したのと全く同様にして、任意のBorel関数 $g\colon\sigma(C(T))\rightarrow\mathbb{C}$ に対し、 $$ \int_{\sigma(C(T))}g(\lambda)dF'(\lambda)=\int_{\sigma(T)}g(C(t))dE'(t) $$ が成り立つことが分かる。よって命題6.8の $(1),(5)$ より、 $$ \begin{aligned} \int_{\sigma(C(T))}\lambda dF'(\lambda)&=\int_{\sigma(T)}C(t)dE'(t) =\int_{\sigma(T)}(t-i)(t+i)^{-1}dE'(t)\\ &=\int_{\sigma(T)}(t-i)dE'(t)\int_{\sigma(T)}(t+i)^{-1}dE'(t)\\ &=(T-i)(T+i)^{-1}=C(T) \end{aligned} $$ となるので、$C(T)$ のスペクトル測度の一意性(命題8.1)より $F'=F$ である。ゆえに任意の $B\in \mathcal{B}_{\sigma(T)}$ に対し、 $$ E'(B)=E'(C^{-1}(C(B)))=F'(C(B))=F(C(B))=E(B) $$ である。よって $E'=E$ であるので一意性が示せた。

定義8.4(自己共役作用素に付随するスペクトル測度)

Hilbert空間 $\mathcal{H}$ 上の自己共役作用素 $T$ に対し、定理8.3における射影値測度 $E^T\colon\mathcal{B}_{\sigma(T)}\rightarrow\mathbb{P}(\mathcal{H})$ を、$T$ に付随するスペクトル測度と言う。

定義8.5(Borel汎関数計算)

$T$ をHilbert空間 $\mathcal{H}$ 上の自己共役作用素か正規作用素とし、$E^T\colon\mathcal{B}_{\sigma(T)}\rightarrow\mathbb{P}(\mathcal{H})$ を $T$ に付随するスペクトル測度とする。このとき任意のBorel関数 $f\colon\sigma(T)\rightarrow\mathbb{C}$ に対し $f$ の $E^T$ による積分を、 $$ f(T)\colon=\int_{\sigma(T)}f(\lambda)dE^T(\lambda) $$ と表す。$f\mapsto f(T)$ を $T$ に関するBorel汎関数計算と言う。命題8.1より、Borel汎関数計算は連続汎関数計算と矛盾しない。

命題8.6

$\mathcal{H}$ をHilbert空間、$(X,\mathfrak{M})$ を可測空間、$E\colon\mathfrak{M}\rightarrow\mathbb{P}(\mathcal{H})$ を射影値測度、$f\colon X\rightarrow\mathbb{R}$ を実数値可測関数とし、$\mathcal{H}$ 上の自己共役作用素 $$ T\colon=\int_{X}f(x)dE(x)\colon D_E(f)\rightarrow\mathcal{H} $$ (自己共役作用素であることは命題6.8の $(2)$ による)を考える。このとき任意のBorel関数 $g\colon\sigma(T)\rightarrow\mathbb{C}$ に対し、 $$ g(T)=\int_{X}g(f(x))dE(x) $$ が成り立つ。ただし右辺の被積分関数は $g\circ f\colon f^{-1}(\sigma(T))=f^{-1}({\rm ess.Ran}_E(f))\rightarrow\mathbb{C}$ である。(命題6.12より $\sigma(T)={\rm ess.Ran}_E(f)$ であること、および本質的値域の定義より $E(f^{-1}({\rm ess.Ran}_E(f)))=1$ であることに注意。)

Proof.

$$ F\colon\mathcal{B}_{\sigma(T)}\ni B\mapsto E(f^{-1}(B))\in \mathbb{P}(\mathcal{H})\quad\quad(*) $$ とおく。命題6.12より $\sigma(T)={\rm ess.Ran}_E(f)$ であるから、 $$ F(\sigma(T))=E(f^{-1}(\sigma(T)))=E(f^{-1}({\rm ess.Ran}_E(f)))=1 $$ である。よって $F$ は射影値測度である。任意のBorel関数 $g\colon\sigma(T)\rightarrow\mathbb{C}$ に対し、 $$ \int_{\sigma(T)}g(\lambda)dF(\lambda)=\int_{X}g(f(x))dE(x)\quad\quad(**) $$ が成り立つことを示す。$(*)$ より $g$ がBorel単関数である場合は成り立つ。有界Borel関数はBorel単関数の列により一様近似できる(測度と積分5:$L^p$ 空間の完備性と双対性命題22.2)ので、$(**)$ は $g$ が有界Borel関数の場合も成り立つ。任意のBorel関数 $g\colon\sigma(T)\rightarrow\mathbb{C}$ に対し、$g_n\colon=g\chi_{(\lvert g\rvert\leq n)}$ $(\forall n\in\mathbb{N})$ として $\sigma(T)$ 上の有界Borel関数の列 $(g_n)_{n\in\mathbb{N}}$ を定義すると、任意の $v\in\mathcal{H}$ に対し、単調収束定理より、 $$ \begin{aligned} \int_{\sigma(T)}\lvert g(\lambda)\rvert^2dF_{v,v}(\lambda) &=\sup_{n\in\mathbb{N}}\int_{\sigma(T)}\lvert g_n(\lambda)\rvert^2dF_{v,v}(\lambda) =\sup_{n\in\mathbb{N}}\int_{X}\lvert g_n(f(x))\rvert^2dE_{v,v}(x)\\ &=\int_{X}\lvert g(f(x))\rvert^2dE_{v,v}(x) \end{aligned} $$ であるから、$D_F(g)=D_E(g\circ f)$ であり、任意の $v\in D_F(g)=D_E(g\circ f)$、任意の $u\in \mathcal{H}$ に対し、Lebesgue優収束定理より、 $$ \begin{aligned} \left(u\mid \int_{\sigma(T)}g(\lambda)dF(\lambda)v\right) &=\lim_{n\rightarrow\infty}\left(u\mid \int_{\sigma(T)}g_n(\lambda)dF(\lambda)v\right) =\lim_{n\rightarrow\infty}\left(u\mid \int_{X}g_n(f(x))dE(x)v\right)\\ &=\left(u\mid \int_{X}g(f(x))dE(x)v\right) \end{aligned} $$ である。これより $(**)$ は任意のBorel関数 $g\colon\sigma(T)\rightarrow\mathbb{C}$ に対して成り立つ。よって特に、 $$ \int_{\sigma(T)}\lambda dF(\lambda)=\int_{X}f(x)dE(x)=T $$ であるから、$F$ は $T$ のスペクトル測度である。よって任意のBorel関数 $g\colon\sigma(T)\rightarrow\mathbb{C}$ に対し、$(**)$ より、 $$ g(f(T))=\int_{\sigma(T)}g(\lambda)dF(\lambda)=\int_{X}g(f(x))dE(x) $$ である。

命題8.7(スペクトル測度とBorel汎関数計算の基本的性質)

$T$ をHilbert空間 $\mathcal{H}$ 上の自己共役作用素か正規作用素とし、$E^T\colon\mathcal{B}_\sigma(T)\rightarrow\mathbb{P}(\mathcal{H})$ を $T$ のスペクトル測度とする。このとき、

  • $(1)$ 任意のBorel関数 $f,g\colon\sigma(T)\rightarrow\mathbb{C}$ に対し、

$$ \overline{f}(T)=f(T)^*,\quad (f+g)(T)=\overline{f(T)+g(T)},\quad (fg)(T)=\overline{f(T)g(T)} $$ が成り立つ。

  • $(2)$ 任意のBorel関数 $f\colon\sigma(T)\rightarrow\mathbb{C}$ に対し、

$$ f(T)^*f(T)=\lvert f\rvert^2(T),\quad (f(T))^n=f^n(T)\quad(\forall n\in\mathbb{N}) $$ が成り立つ。

  • $(3)$ 任意のBorel関数 $f\colon\sigma(T)\rightarrow\mathbb{C}$ に対し、

$$ {\rm Ker}(f(T))={\rm Ran} E^T( (f=0)) $$ が成り立つ。また $f(T)$ が単射、すなわち $E^T( (f=0))=0$ であるとき、 $$ f^{-1}(\lambda)=f(\lambda)^{-1}\quad(\lambda\notin (f=0)) $$ を満たす任意のBorel関数 $f^{-1}:\sigma(T)\rightarrow\mathbb{C}$ に対し $f(T)^{-1}=f^{-1}(T)$ が成り立つ。

  • $(4)$ $\sigma(T)$ の任意の空でない開集合 $U$ に対し $E^T(U)>0$ が成り立つ。
  • $(5)$ $T$ の点スペクトル $\sigma_{\rm p}(T)$($T$ の固有値全体)は、

$$ \sigma_{\rm p}(T)=\{\lambda\in \sigma(T):E^T(\{\lambda\})>0\} $$ と表せる。そして $\lambda\in \sigma_{\rm p}(T)$ に対する固有空間は ${\rm Ker}(\lambda-T)={\rm Ran}E^T(\{\lambda\})$ である。

  • $(6)$ $\sigma(T)$ の任意の孤立点[2]は $T$ の固有値である。
  • $(7)$ 任意のBorel関数 $f\colon\sigma(T)\rightarrow\mathbb{C}$ に対し、

$$ \sigma(f(T))={\rm ess.Ran}_{E^T}(f)=\{\lambda\in\mathbb{C}:\forall\epsilon\in(0,\infty), E^T( (\lvert \lambda-f\rvert<\epsilon))>0\}, $$ $$ \sigma_{\rm p}(f(T))=\{\lambda\in \mathbb{C}:E^T( (f=\lambda))>0\} $$ が成り立つ。

  • $(8)$ 任意の連続関数 $f\colon\sigma(T)\rightarrow\mathbb{C}$ に対し、

$$ \sigma(f(T))=\overline{f(\sigma(T))} $$ が成り立つ。

  • $(9)$ 任意の実数値Borel関数 $f\colon\sigma(T)\rightarrow\mathbb{R}$ と複素数値Borel関数 $g\colon\sigma(f(T))\rightarrow\mathbb{C}$ に対し、

$$ g(f(T))=(g\circ f)(T) $$ が成り立つ。ただし右辺の $g\circ f$ の定義域は $f^{-1}(\sigma(f(T)))=f^{-1}({\rm ess.Ran}_{E^T}(f))$ である。

Proof.

  • $(1)$ 命題6.8の $(1),(2),(3)$ による。
  • $(2)$ 命題6.8の $(4)$ による。
  • $(3)$ 命題6.8の $(5)$ による。
  • $(4)$ 恒等写像 ${\rm id}\colon\sigma(T)\rightarrow\mathbb{C}$ に対し 定理6.12より、

$$ \sigma(T)=\sigma\left(\int_{\sigma(T)}\lambda dE^T(\lambda)\right) ={\rm ess.Ran}_{E^T}({\rm id})=\{\lambda\in\mathbb{C}:\forall\epsilon\in(0,\infty),E^T( (\lvert\lambda-{\rm id}\rvert<\epsilon))>0\} $$ である。$\sigma(T)$ の任意の空でない開集合 $U$ を取り、任意の $\lambda_0\in U$ を取る。$U$ が $\sigma(T)$ の開集合であることから、ある $\epsilon\in (0,\infty)$ に対し $(\lvert \lambda_0-{\rm id}\rvert<\epsilon)\subset U$ となる。よって、 $$ E^T(U)\geq E^T( (\lvert \lambda_0-{\rm id}\rvert<\epsilon))>0 $$ である。

  • $(5)$ $\lambda\in\sigma(T)$ に対し命題6.8の $(5)$ より、

$$ {\rm Ker}(\lambda-T)={\rm Ran}E^T( (\lambda-{\rm id}=0))={\rm Ran}E^T(\{\lambda\}) $$ であるから、 $$ \sigma_{\rm p}(T)=\{\lambda\in\sigma(T):{\rm Ker}(\lambda-T)\neq\{0\}\} =\{\lambda\in\sigma(T):E^T(\{\lambda\})>0\} $$ である。

  • $(6)$ $\lambda\in\sigma(T)$ が $\sigma(T)$ の孤立点であるならば、$\{\lambda\}$ は $\sigma(T)$ の開集合であるから、$(4)$ より $E^T(\{\lambda\})>0$ である。よって $(5)$ より $\lambda$ は $T$ の固有値である。
  • $(7)$ 定理6.12より、

$$ \sigma(f(T))=\sigma\left(\int_{\sigma(T)}f(\lambda)dE^T(\lambda)\right) ={\rm ess.Ran}_{E^T}(f)=\{\lambda\in\mathbb{C}:\forall\epsilon\in(0,\infty), E^T( (\lvert \lambda-f\rvert<\epsilon))>0\} $$ である。また命題6.8の $(5)$ より、任意の $\lambda\in \mathbb{C}$ に対し ${\rm Ker}(\lambda-f(T))={\rm Ran}E^T( (f=\lambda))$ であるから、 $$ \sigma_{\rm p}(f(T))=\{\lambda\in \mathbb{C}:E^T( (f=\lambda))>0\} $$ である。

  • $(8)$ $(4)$ と系6.13による。
  • $(9)$ 命題8.6による。

定義8.8(非負自己共役作用素)

$T$ をHilbert空間 $\mathcal{H}$ 上の自己共役作用素とする。$\sigma(T)\subset[0,\infty)$ であるとき $T$ を $\mathcal{H}$ 上の非負自己共役作用素と言う。この定義は有界非負自己共役作用素の定義(定義1.1)と矛盾しない。

命題8.9(非負自己共役作用素の冪乗根の一意存在)

$T$ をHilbert空間 $\mathcal{H}$ 上の非負自己共役作用素とする。このとき任意の $n\in\mathbb{N}$ に対し $\mathcal{H}$ 上の非負自己共役作用素 $S$ で $S^n=T$ を満たすものが唯一つ存在し、 $$ S=\sqrt[n]{T}=\int_{\sigma(T)}\sqrt[n]{\lambda}dE^T(\lambda) $$ である。

Proof.

Borel汎関数計算により、 $$ \sqrt[n]{T}=\int_{\sigma(T)}\sqrt[n]{\lambda}dE^T(\lambda) $$ を考えると、命題8.7の $(1),(8)$ より $\sqrt[n]{T}$ は非負自己共役作用素であり、命題8.7の $(2)$ より、 $$ (\sqrt[n]{T}))^n=\int_{\sigma(T)}(\sqrt[n]{\lambda})^ndE^T(\lambda)=\int_{\sigma(T)}\lambda dE^T(\lambda)=T $$ である。また非負自己共役作用素 $S$ が $S^n=T$ を満たすとすると、命題8.7の $(2), (9)$ より、 $$ \sqrt[n]{T}=\sqrt[n]{S^n}=\int_{\sigma(S)}\sqrt[n]{\lambda^n}dE^S(\lambda)=\int_{\sigma(S)}\lambda dE^S(\lambda)=S $$ である。

命題8.10(非負自己共役作用素の特徴付け)

$T$ をHilbert空間 $\mathcal{H}$ 上の自己共役作用素とする。このとき次は互いに同値である。

  • $(1)$ $T$ は $\mathcal{H}$ 上の非負自己共役作用素である。
  • $(2)$ 任意の $v\in D(T)$ に対し $(v\mid Tv)\geq0$ が成り立つ。
Proof.

$(1)\Rightarrow(2)$ を示す。$(1)$ が成り立つとすると、$T=\sqrt{T}^2$ であるから、任意の $v\in D(T)$ に対し、 $$ (v\mid Tv)=(\sqrt{T}v\mid \sqrt{T}v)=\lVert \sqrt{T}v\rVert^2\geq0 $$ である。よって $(2)$ が成り立つ。
$(2)\Rightarrow(1)$ を示す。$(2)$ が成り立つとする。任意の $\lambda\in \sigma(T)$ を取る。このとき任意の $\epsilon\in (0,\infty)$ に対し $v_{\epsilon}\in D(T)$ で、$\lVert (\lambda-T)v_{\epsilon}\rVert<\epsilon\lVert v_{\epsilon}\rVert$ を満たすものが存在する。実際、もしある $\epsilon_0\in (0,\infty)$ に対し、 $$ \lVert (\lambda-T)v\rVert\geq\epsilon_0\lVert v\rVert\quad(\forall v\in D(T))\quad\quad(*) $$ が成り立つとすると、${\rm Ker}(\lambda-T)=\{0\}$ であり、$\lambda-T$ が閉線形作用素であることと $(*)$ より ${\rm Ran}(\lambda-T)$ は $\mathcal{H}$ の閉部分空間である。よって命題3.9の $(5)$ より、 $$ {\rm Ran}(\lambda-T)=( ({\rm Ran}(\lambda-T))^{\perp})^{\perp}=({\rm Ker}(\lambda-T))^{\perp}=\mathcal{H} $$ であるから、$\lambda-T\colon D(T)\rightarrow\mathcal{H}$ は全単射であることになる。これは $\lambda\in \sigma(T)$ であることに矛盾する。ゆえに任意の $\epsilon\in (0,\infty)$ に対し $v_{\epsilon}\in D(T)$ で、$\lVert (\lambda-T)v_{\epsilon}\rVert<\epsilon\lVert v_{\epsilon}\rVert$ を満たすものが取れる。今、$\lambda\geq0$ であることを示す。もし $\lambda<0$ ならば、任意の $\epsilon\in (0,\infty)$ に対し $-\lambda(v_{\epsilon}\mid Tv_{\epsilon})\geq0$ であるから、 $$ \epsilon^2\lVert v_{\epsilon}\rVert^2>\lVert (\lambda-T)v_{\epsilon}\rVert^2 =\lambda^2\lVert v_{\epsilon}\rVert^2-2\lambda(v_{\epsilon}\mid Tv_{\epsilon})+\lVert Tv_{\epsilon}\rVert^2\geq \lambda^2\lVert v_{\epsilon}\rVert^2 $$ となる。よって任意の $\epsilon\in (0,\infty)$ に対し $\epsilon>\lvert\lambda\rvert$ となる。これは $\lambda=0$ を意味するので、$\lambda<0$ であることに矛盾する。ゆえに $\lambda\geq0$ である。こうして任意の $\lambda\in \sigma(T)$ に対し $\lambda\geq0$ であるから $\sigma(T)\subset [0,\infty)$ であるので、$T$ は非負自己共役作用素である。

9. 稠密に定義された閉線形作用素の極分解

定義9.1(稠密に定義された閉線形作用素の絶対値作用素)

$T$ をHilbert空間 $\mathcal{H}$ 上の稠密に定義された閉線形作用素とする。このとき定理3.10より $T^*T$ は $\mathcal{H}$ 上の自己共役作用素であり、任意の $v\in D(T^*T)$ に対し、 $$ (v\mid T^*Tv)=(Tv\mid Tv)=\lVert Tv\rVert^2\geq0 $$ であるから、命題8.10より $T^*T$ は非負自己共役作用素である。そこで $\mathcal{H}$ 上の非負自己共役作用素 $\lvert T\rvert$ を、 $$ \lvert T\rvert\colon=\sqrt{T^*T} $$ として定義する。これを $T$ の絶対値作用素と呼ぶ。

定義9.2(自己共役作用素の台射影作用素)

$T$ を $\mathcal{H}$ 上の自己共役作用素とする。$\mathcal{H}$ の閉部分空間 $\overline{{\rm Ran}(T)}$ の上への射影作用素(定義1.6)を $S(T)$ と表す。$S(T)$ を $T$ の台射影作用素と呼ぶ。

命題9.3(台射影作用素の特徴付け)

Hilbert空間 $\mathcal{H}$ 上の自己共役作用素 $T$ に対し、$T$ の台射影作用素 $S(T)$ は、$\{P\in \mathbb{P}(\mathcal{H}):PT=T\}$ の最小元である。

Proof.

${\rm Ran}(S(T))=\overline{{\rm Ran}(T)}$ なので、$S(T)Tv=Tv$ $(\forall v\in D(T))$、よって $S(T)T=T$ である。$PT=T$ なる任意の射影作用素 $P$ に対し、 $$ {\rm Ran}(S(T))=\overline{{\rm Ran}(T)}\subset {\rm Ran}(P) $$ であるから、$S(T)=PS(T)=PS(T)P\leq P$ である。

定理9.4(稠密に定義された閉線形作用素の極分解)

$T$ をHilbert空間 $\mathcal{H}$ 上の稠密に定義された閉線形作用素とする。このとき $T$ の絶対値作用素 $\lvert T\rvert$ と $\lvert T\rvert$ の台射影作用素 $S(\lvert T\rvert)$ に対し、部分等長作用素 $V\in \mathbb{B}(\mathcal{H})$(定義1.1)で、 $$ V^*V=S(\lvert T\rvert),\quad T=V\lvert T\rvert $$ を満たすものが唯一つ存在する。この $T=V\lvert T\rvert$ なる分解を $T$ の極分解と言う。

Proof.

$T^*T=\lvert T\rvert^2$ であるから、定理3.10の $(1)$ より $D(T^*T)=D(\lvert T\rvert^2)$ は、$T,\lvert T\rvert$ の共通の芯である。 $$ D\colon=D(T^*T)=D(\lvert T\rvert^2) $$ とおく。任意の $v\in D$ に対し、 $$ \lVert Tv\rVert^2=(Tv\mid Tv)=(v\mid T^*Tv)=(v\mid \lvert T\rvert^2v)=(\lvert T\rvert v\mid \lvert T\rvert v)=\lVert \lvert T\rvert v\rVert^2 $$ であるから、 $$ V_0\colon\lvert T\rvert(D)\ni \lvert T\rvert v\mapsto Tv\in \mathcal{H} $$ なる等長線形作用素が定義できる。位相線形空間1:ノルムと内積命題3.6より $V_0$ は等長線形作用素 $$ V_1\colon\overline{{\rm Ran}(\lvert T\rvert)}=\overline{\lvert T\rvert(D)}\rightarrow\mathcal{H} $$ に一意拡張できる。($\overline{{\rm Ran}(\lvert T\rvert)}=\overline{\lvert T\rvert(D)}$ であることは $D$ が $\lvert T\rvert$ の芯であることによる。)そこでHilbert空間 $\mathcal{H}$ の直交分解 $$ \mathcal{H}=\overline{{\rm Ran}(\lvert T\rvert)}\oplus ({\rm Ran}(\lvert T\rvert))^{\perp}\quad\quad(*) $$ を考えて、 $$ V\colon\mathcal{H}=\overline{{\rm Ran}(\lvert T\rvert)}\oplus ({\rm Ran}(\lvert T\rvert))^{\perp}\ni v+u\mapsto V_1v\in \mathcal{H} $$ として $V\in \mathbb{B}(\mathcal{H})$ を定義する。このとき、 $$ \lVert Vv\rVert=\lVert v\rVert\quad(\forall v\in \overline{{\rm Ran}(\lvert T\rvert)}),\quad Vu=0\quad(\forall u\in ({\rm Ran}(\lvert T\rvert))^{\perp}) $$ であるから、命題1.7より $V$ は部分等長作用素で、$V^*V$ は $\overline{{\rm Ran}(\lvert T\rvert)}$ の上への射影作用素、すなわち $V^*V=S(\lvert T\rvert)$ である。そして、 $$ V\lvert T\rvert v=V_1\lvert T\rvert v=V_0\lvert T\rvert v=Tv\quad(\forall v\in D)\quad\quad(**) $$ である。任意の $v\in D(\lvert T\rvert)$ を取る。$D$ は $\lvert T\rvert$ の芯であるので $D$ の点列 $(v_n)_{n\in \mathbb{N}}$ で、 $$ (v_n,\lvert T\rvert v_n)\rightarrow (v,\lvert T\rvert v)\quad(n\rightarrow\infty) $$ なるものが取れる。$(**)$ と $V_0$ が等長線形作用素であることから、 $$ \lVert Tv_n-Tv_m\rVert=\lVert V_0\lvert T\rvert v_n-V_0\lvert T\rvert v_m\rVert =\lVert \lvert T\rvert v_n-\lvert T\rvert v_m\rVert\rightarrow0\quad(n,m\rightarrow\infty) $$ である。よって $(T v_n)_{n\in \mathbb{N}}$ は収束するので、$T$ が閉であることから、 $$ (v_n,T v_n)\rightarrow (v,T v)\quad(n\rightarrow\infty) $$ である。これより、 $$ V\lvert T\rvert v=\lim_{n\rightarrow\infty}V\lvert T\rvert v_n=\lim_{n\rightarrow\infty} Tv_n=Tv $$ であるから $V\lvert T\rvert\subset T$ が成り立つ。逆の包含関係を示す。任意の $v\in D(T)$ を取り、$v\in D(\lvert T\rvert)$ が成り立つことを示せばよい。$D$ は $T$ の芯であるので、$D$ の点列 $(v_n)_{n\in \mathbb{N}}$ で、 $$ (v_n,Tv_n)\rightarrow (v,Tv)\quad(n\rightarrow\infty) $$ なるものが取れる。$(**)$ と $V_0$ が等長線形作用素であることから、 $$ \lVert \lvert T\rvert v_n-\lvert T\rvert v_m\rVert =\lVert V_0\lvert T\rvert v_n-V_0\lvert T\rvert v_m\rVert =\lVert Tv_n-Tv_m\rVert\rightarrow0\quad(n,m\rightarrow\infty) $$ である。よって $(\lvert T\rvert v_n)_{n\in \mathbb{N}}$ は収束するので、$\lvert T\rvert$ が閉であることから、 $$ (v_n,\lvert T\rvert v_n)\rightarrow (v,\lvert T\rvert v)\quad(n\rightarrow\infty) $$ である。これより $v\in D(\lvert T\rvert)$ であるから $V\lvert T\rvert=T$ が成り立つ。以上で存在が示せた。~ 一意性を示す。$V,W\in \mathbb{B}(\mathcal{H})$ がそれぞれ部分等長作用素であり、 $$ V^*V=S(\lvert T\rvert)=W^*W,\quad V\lvert T\rvert=T=W\lvert T\rvert $$ を満たすとする。命題1.7より、 $$ Vu=Wu=0\quad(\forall u\in ({\rm Ran}(\lvert T\rvert))^{\perp}) $$ である。また、 $$ V\lvert T\rvert v=Tv=W\lvert T\rvert v\quad(\forall v\in \mathcal{H}) $$ であるから、$V$ と $W$ は ${\rm Ran}(\lvert T\rvert)$ 上で一致する。$V,W$ の連続性より $V,W$ は $\overline{{\rm Ran}(\lvert T\rvert)}$ 上でも一致するから、$(*)$ より $V=W$ である。

定理9.5(稠密に定義された閉線形作用素の共役作用素の極分解)

$T$ をHilbert空間 $\mathcal{H}$ 上の稠密に定義された閉線形作用素とし、$T$ の極分解 $$ T=V\lvert T\rvert,\quad V^*V=S(\lvert T\rvert) $$ を考える。このとき $T^*$(定理3.10より $T^*$ も稠密に定義された閉線形作用素である)の極分解は、 $$ T^*=V^*\lvert T^*\rvert,\quad VV^*=S(\lvert T^*\rvert) $$ である。(Banach環とC*-環のスペクトル理論命題8.5より $V^*$ は部分等長作用素であることに注意。)

Proof.

定理3.10の $(3)$ より $T=T^{**}$ であるから、 $$ \lvert T^*\rvert=\sqrt{TT^*} $$ である。$V^*V=S(\lvert T\rvert)$ より $V^*V\lvert T\rvert=\lvert T\rvert$ であり、命題3.9の $(9)$ より、$T^*=(V\lvert T\rvert)^*=\lvert T\rvert V^*$ であるから、 $$ (V\lvert T\rvert V^*)(V\lvert T\rvert V^*)=(V\lvert T\rvert)(V^*V\lvert T\rvert V^*) =(V\lvert T\rvert)(\lvert T\rvert V^*)=TT^*=\lvert T^*\rvert^2\quad\quad(*) $$ である。そして命題3.9の $(9)$ より、 $$ (V\lvert T\rvert V^*)^*=(VT^*)^*=T^{**}V^*=TV^*=V\lvert T\rvert V^* $$ であるから $V\lvert T\rvert V^*$ は自己共役作用素であり、 $$ (v\mid V\lvert T\rvert V^*v)=(V^*v\mid \lvert T\rvert V^*v)\geq0\quad(\forall v\in D(V\lvert T\rvert V^*)) $$ であるから、命題8.10より $V\lvert T\rvert V^*$ は非負自己共役作用素である。よって $(*)$ と命題8.9より、 $$ \lvert T^*\rvert=V\lvert T\rvert V^*\quad\quad(**) $$ が成り立つ。これより、 $$ V^*\lvert T^*\rvert=V^*V\lvert T\rvert V^*=\lvert T\rvert V^*=(V\lvert T\rvert)^*=T^* $$ であり、 $$ VV^*\lvert T^*\rvert=VT^*=V\lvert T\rvert V^*=\lvert T^*\rvert $$ である。よって命題9.3より、 $$ S(\lvert T^*\rvert)\leq VV^* $$ が成り立つ。この逆の不等式を示す。 $$ \lvert T^*\rvert=S(\lvert T^*\rvert)\lvert T^*\rvert $$ であるから、$(**)$ より、 $$ V\lvert T\rvert V^*=S(\lvert T^*\rvert)V\lvert T\rvert V^*\quad\quad(***) $$ である。 $$ \lvert T\rvert=\lvert T\rvert^*=(V^*V\lvert T\rvert)^*=\lvert T\rvert V^*V $$ であるから $(***)$ の両辺に右から $V$ を掛ければ、 $$ V\lvert T\rvert=S(\lvert T^*\rvert)V\lvert T\rvert $$ を得る。ゆえに、 $$ VS(\lvert T\rvert)=S(\lvert T^*\rvert)VS(\lvert T\rvert) $$ が成り立つ。$VS(\lvert T\rvert)=VV^*V=V$ より、 $$ V=S(\lvert T^*\rvert)V $$ であり、両辺に右から $V^*$ を掛けて、 $$ VV^*=S(\lvert T^*\rvert)VV^* $$ を得る。これより、 $$ VV^*=S(\lvert T^*\rvert)VV^*=S(\lvert T^*\rvert)VV^*S(\lvert T^*\rvert)\leq S(\lvert T^*\rvert) $$ であるから、$VV^*=S(\lvert T^*\rvert)$ が成り立つ。

命題9.6(射影値測度による積分の極分解)

$\mathcal{H}$ をHilbert空間、$(X,\mathfrak{M})$ を可測空間、$E\colon\mathfrak{M}\rightarrow \mathbb{P}(\mathcal{H})$ を射影値測度、$f\colon X\rightarrow\mathbb{C}$ を可測関数とし、$\mathcal{H}$ 上の稠密に定義された閉線形作用素 $$ T\colon=\int_{X}f(x)dE(x):D_E(f)\rightarrow\mathcal{H} $$ を考える。このとき、 $$ \lvert T\rvert=\int_{X}\lvert f(x)\rvert dE(x) $$ である。そして、 $$ \omega(x)\colon=\left\{\begin{array}{cl}\frac{f(x)}{\lvert f(x)\rvert}&(f(x)\neq0)\\0&(f(x)=0)\end{array}\right. $$ なる有界可測関数 $\omega\colon X\rightarrow\mathbb{C}$ に対し、 $$ V\colon=\int_{X}\omega(x)dE(x)\in \mathbb{B}(\mathcal{H}) $$ を定義すると、 $$ T=V\lvert T\rvert,\quad V^*V=S(\lvert T\rvert) $$ が成り立つ。すなわち $T=V\lvert T\rvert$ は $T$ の極分解である。

Proof.

命題6.8の $(4)$ より、 $$ T^*T=\int_{X}\lvert f(x)\rvert^2dE(x) $$ であるから、命題8.6より、 $$ \lvert T\rvert=\sqrt{T^*T}=\int_{X}\sqrt{\lvert f(x)\rvert^2}dE(x)=\int_{X}\lvert f(x)\rvert dE(x) $$ である。また命題6.8の $(1)$ より、 $$ V\lvert T\rvert=\int_{X}\omega(x)\lvert f(x)\rvert dE(x)=\int_{X}f(x)dE(x)=T $$ であり、 $$ V^*V=\int_{X}\lvert \omega(x)\rvert^2dE(x)=E( (f\neq 0)) $$ である。台射影作用素 $S(\lvert T\rvert)$ は閉部分空間 $\overline{{\rm Ran}(\lvert T\rvert)}$ の上への射影作用素であるから、$1-S(\lvert T\rvert)$ は、 $$ ({\rm Ran}(\lvert T\rvert))^{\perp}={\rm Ker}(\lvert T\rvert)={\rm Ker}\left(\int_{X}\lvert f(x)\rvert dE(x)\right)={\rm Ran}E( (f=0)) $$ (三番目の等号は命題6.8の $(5)$ による)の上への射影作用素である。よって $1-S(\lvert T\rvert)=E( (f=0))$ であるから、 $$ S(\lvert T\rvert)=1-E( (f=0))=E( (f\neq 0)), $$ ゆえに $V^*V=S(\lvert T\rvert)$ である。

系9.7(Borel汎関数計算の極分解)

$T$ をHilbert空間 $\mathcal{H}$ 上の自己共役作用素か正規作用素とする。そしてBorel関数 $f\colon\sigma(T)\rightarrow\mathbb{C}$ に対し、 $$ \omega(\lambda)\colon=\left\{\begin{array}{cl}\frac{ f(\lambda)}{\lvert f(\lambda)\rvert}&(f(\lambda)\neq0)\\0&(f(\lambda)=0)\end{array}\right. $$ なる有界Borel関数 $\omega\colon\sigma(T)\rightarrow\mathbb{C}$ を定義する。このときBorel汎関数計算 $f(T)$ の極分解を $f(T)=V\lvert f(T)\rvert$ とすると、 $$ \lvert f(T)\rvert=\lvert f\rvert(T),\quad V=\omega(T) $$ が成り立つ。

10. 掛け算作用素

命題10.1(掛け算作用素の定義の前)

$(X,\mathfrak{M},\mu)$ を測度空間とし、任意の $B\in \mathfrak{M}$ に対しHilbert空間 $L^2(X,{\frak M},\mu)$ 上の射影作用素 $$ E^{\mu}(B)\colon L^2(X,\mathfrak{M},\mu)\ni [f]\mapsto [\chi_Bf]\in L^2(X,{\frak M},\mu) $$ を考える。このとき、 $$ E^{\mu}:{\frak M}\ni B\mapsto E^{\mu}(B)\in \mathbb{P}(L^2(X,{\frak M},\mu)) $$ は射影値測度(定義6.2)である。そして任意の可測関数 $f\colon X\rightarrow\mathbb{C}$ に対し、$f$ の $E_{\mu}$ による積分(定義6.7)の定義域は、 $$ D_{E^{\mu}}(f)=\{[g]\in L^2(X,\mathfrak{M},\mu):[fg]\in L^2(X,\mathfrak{M},\mu)\} $$ であり、 $$ \int_{X}f(x)dE^{\mu}(x)[g]=[fg]\quad(\forall [g]\in D_{E_{\mu}}(f))\quad\quad(*) $$ が成り立つ。

Proof.

任意の $[f],[g]\in L^2(X,\mathfrak{M},\mu)$ に対し $[\overline{f}g]\in L^1(X,\mathfrak{M},\mu)$ であるから、 $$ \mathfrak{M}\ni B\mapsto E^{\mu}_{[f],[g]}(B)=([f]\mid E^{\mu}(B)[g])=\int_{B}\overline{f(x)}g(x)d\mu(x)\in\mathbb{C} $$ は複素数値測度である。よって $E^{\mu}$ は射影値測度である。任意の可測単関数 $f\colon X\rightarrow\mathbb{C}$ に対し明らかに、 $$ \int_{X}f(x)dE^{\mu}(x)[g]=[fg]\quad(\forall [g]\in L^2(X,\mathfrak{M},\mu))\quad\quad(**) $$ が成り立つ。有界可測関数は可測単関数列によって一様近似できる(測度と積分5:$L^p$ 空間の完備性と双対性命題22.2)ので、$(**)$ は $f\colon X\rightarrow \mathbb{C}$が 有界可測関数の場合も成り立つ。今、任意の可測関数 $f\colon X\rightarrow\mathbb{C}$ を取り、有界可測関数の列 $f_n=f\chi_{(\lvert f\rvert\leq n)}$ $(\forall n\in\mathbb{N})$ を定義すると、任意の $[g]\in L^2(X,\mathfrak{M},\mu)$ に対し、単調収束定理より、 $$ \begin{aligned} \int_{X}\lvert f(x)\rvert^2dE^{\mu}_{[g],[g]}(x)&=\sup_{n\in\mathbb{N}}\int_{X}\lvert f_n(x)\rvert^2dE^{\mu}_{[g],[g]}(x)=\sup_{n\in\mathbb{N}}\left\lVert\int_{X}f_n(x)dE^{\mu}(x)[g]\right\rVert_2^2\\ &=\sup_{n\in\mathbb{N}}\int_{X}\lvert f_n(x)g(x)\rvert^2d\mu(x)=\int_{X}\lvert f(x)g(x)\rvert^2d\mu(x) \end{aligned} $$ であるから、 $$ \begin{aligned} D_E(f)&=\left\{[g]\in L^2(X,\mathfrak{M},\mu):\int_{X}\lvert f(x)\rvert^2dE^{\mu}_{[g],[g]}(x)<\infty\right\}\\ &=\{[g]\in L^2(X,\mathfrak{M},\mu):[fg]\in L^2(X,\mathfrak{M},\mu)\} \end{aligned} $$ であり、任意の $[g]\in D_{E^{\mu}}(f)$ と任意の $[h]\in L^2(X,\mathfrak{M},\mu)$ に対し、Lebesgue優収束定理より、 $$ \begin{aligned} \left([h]\mid \int_{X}f(x)dE^{\mu}(x)[g]\right) &=\lim_{n\rightarrow\infty}\left([h]\mid \int_{X}f_n(x)dE^{\mu}(x)[g]\right) =\lim_{n\rightarrow\infty}\int_{X}\overline{h(x)}f_n(x)g(x)d\mu(x)\\ &=\int_{X}\overline{h(x)}f(x)g(x)d\mu(x) =([h]\mid [fg]) \end{aligned} $$ である。よって $(*)$ が成り立つ。

定義10.2(掛け算作用素)

$(X,\mathfrak{M},\mu)$ を測度空間とする。可測関数 $f\colon X\rightarrow\mathbb{C}$ に対し、命題10.1における $$ \int_{X}f(x)dE^{\mu}(x)\colon D_{E^{\mu}}([f])\ni [g]\mapsto [fg]\in L^2(X,\mathfrak{M,\mu}) $$ を $f$ による $L^2(X,\mathfrak{M},\mu)$ 上の掛け算作用素と言う。混乱の恐れがない場合は、$\int_{X}f(x)dE^{\mu}(x)$ はそのまま $f$ と表す。また、射影値測度 $E^{\mu}\colon\mathfrak{M}\rightarrow\mathbb{P}(L^2(X,\mathfrak{M},\mu))$ を掛け算作用素を表す射影値測度と呼ぶこととする。

命題10.3($L^\infty(X,\mathfrak{M},\mu)$ の $\mathbb{B}(L^2(X,\mathfrak{M},\mu))$ への埋め込み)

$(X,\mathfrak{M},\mu)$ を $\sigma$-有限測度空間とし、$E^{\mu}\colon\mathfrak{M}\rightarrow\mathbb{P}(L^2(X,\mathfrak{M},\mu))$ を掛け算作用素を表す射影値測度とする。このとき、 $$ L^\infty(X,\mathfrak{M},\mu)\ni [f]\mapsto \int_{X}f(x)dE^{\mu}(x)\in \mathbb{B}(L^2(X,\mathfrak{M},\mu))\quad\quad(*) $$ は等長 $*$-環準同型写像である。

Proof.

$(*)$ が $*$-環準同型写像であることは明らかである。$L^\infty(X,\mathfrak{M},\mu)$ は $C^*$-環であるから、Banach環とC*-環のスペクトル理論定理10.2より、 $(*)$ が単射であることを示せば等長性も示せたことになる。そこで $[f]\in L^\infty(X,\mathfrak{M},\mu)$ に対し $\int_{X}f(x)dE^{\mu}(x)=0$ であるとして、$[f]=0$ が成り立つことを示す。$\sigma$-有限性より $\mathfrak{M}$ の単調増加列 $(X_n)_{n\in\mathbb{N}}$ で、 $$ X=\bigcup_{n\in \mathbb{N}}X_n,\quad \mu(X_n)<\infty\quad(\forall n\in \mathbb{N}) $$ なるものが取れる。任意の $n\in\mathbb{N}$ に対し、$[\chi_{X_n}]\in L^2(X,\mathfrak{M},\mu)$ であるから、 $$ 0=\int_{X}f(x)dE^{\mu}(x)[\chi_{X_n}]=[\chi_{X_n}f]\quad(\forall n\in\mathbb{N},\forall B\in\mathfrak{M}) $$ である。よって単調収束定理より、 $$ \int_{X}\lvert f(x)\rvert d\mu(x)=\sup_{n\in \mathbb{N}}\int_{X_n}\lvert f(x)\rvert d\mu(x)=0 $$ であるので、$[f]=0$ である。

命題10.4(連続関数による掛け算作用素に関するスペクトル写像定理)

$X$ を位相空間、$\mu\colon\mathcal{B}_X\rightarrow [0,\infty]$ を $\sigma$-有限なBorel測度とし、任意の空でない開集合 $U\subset X$ に対し $\mu(U)>0$ が成り立つとする。そして $E^{\mu}\colon\mathfrak{M}\rightarrow \mathbb{P}(L^2(X,\mathcal{B}_X,\mu))$ を掛け算作用素を表す射影値測度とする。このとき任意の連続関数 $f\colon X\rightarrow\mathbb{C}$ に対し、 $$ \sigma\left(\int_{X}f(x)dE^{\mu}(x)\right)=\overline{f(X)}\quad\quad(*) $$ が成り立つ。

Proof.

任意の空でない開集合 $U\subset X$ に対し $\mu(U)>0$ であるから、命題10.3より、 $$ E^{\mu}(U)=\int_{X}\chi_U(x)dE^{\mu}(x)>0 $$ である。よって系6.13より $(*)$ が成り立つ。

11. 直和Hilbert空間上の線形作用素

定義11.1(Hilbert空間上の線形作用素の直和)

$J$ を空でない集合とし、各 $j\in J$ に対しHilbert空間 $\mathcal{H}_j$ からHilbert空間 $\mathcal{K}_j$ への線形作用素 $T_j$ が与えられているとする。このとき直和Hilbert空間(測度と積分6:数え上げ測度と $\ell^p$ 空間定義26.3)$\bigoplus_{j\in J}\mathcal{H}_j$ から直和Hilbert空間 $\bigoplus_{j\in J}\mathcal{K}_j$ への線形作用素 $\bigoplus_{j\in J}T_j$ を、 $$ D\left(\bigoplus_{j\in J}T_j\right)\colon=\left\{(v_j)_{j\in J}\in \bigoplus_{j\in J}\mathcal{H}_j: v_j\in D(T_j)\text{ }(\forall j\in J),\text{ } (T_jv_j)_{j\in J}\in \bigoplus_{j\in J}\mathcal{K}_j \right\}, $$ $$ \bigoplus_{j\in J}T_j\colon D\left(\bigoplus_{j\in J}T_j\right)\ni (v_j)_{j\in J}\mapsto (T_jv_j)_{j\in J}\in \bigoplus_{j\in J}\mathcal{K}_j $$ と定義する。$\bigoplus_{j\in J}T_j$ を $(T_j)_{j\in J}$ の直和と言う。

命題11.2(Hilbert空間上の線形作用素の直和の基本的性質)

$J$ を空でない集合とし、各 $j\in J$ に対しHilbert空間 $\mathcal{H}_j$ からHilbert空間 $\mathcal{K}_j$ への線形作用素 $T_j,S_j$ と、Hilbert空間 $\mathcal{K}_j$ からHilbert空間 $\mathcal{L}_j$ への線形作用素 $R_j$ が与えられているとする。このとき、

  • $(1)$ $(T_j)_{j\in J}\in \bigoplus_{j\in J}^{(\infty)}\mathbb{B}(\mathcal{H}_j,\mathcal{K}_j)$[3] ならば、

$$ \bigoplus_{j\in J}T_j\in \mathbb{B}\left(\bigoplus_{j\in J}\mathcal{H}_j,\text{ }\bigoplus_{j\in J}\mathcal{K}_j\right),\quad \left\lVert \bigoplus_{j\in J}T_j\right\rVert=\sup_{j\in J}\lVert T_j\rVert=\lVert (T_j)_{j\in J}\rVert_{\infty} $$ が成り立つ。

  • $(2)$ 各 $j\in J$ に対し $T_j$ が可閉ならば $\oplus_{j\in J}T_j$ も可閉であり、

$$ \overline{\bigoplus_{j\in J}T_j}=\bigoplus_{j\in J}\overline{T_j} $$ が成り立つ。そして、 $$ D\colon=\text{span}\bigcup_{j\in J}D_j(T_j)\subset \bigoplus_{j\in J}\mathcal{H}_j $$ は $\bigoplus_{j\in J}\overline{T_j}$ の芯である。

  • $(3)$ 各 $j\in J$ に対し $T_j$ が稠密に定義された線形作用素ならば $\oplus_{j\in J}T_j$ も稠密に定義された線形作用素であり、

$$ \left(\bigoplus_{j\in J}T_j\right)^*=\bigoplus_{j\in J}T_j^* $$ が成り立つ。

  • $(4)$ 

$$ \bigoplus_{j\in J}S_j+\bigoplus_{j\in J}T_j\subset \bigoplus_{j\in J}(S_j+T_j) $$ であり、もし各 $j\in J$ に対し $S_j+T_j$ が可閉ならば、 $$ \overline{\bigoplus_{j\in J}S_j+\bigoplus_{j\in J}T_j}=\bigoplus_{j\in J}\overline{S_j+T_j} $$ が成り立つ。

  • $(5)$

$$ \bigoplus_{j\in J}R_j\bigoplus_{j\in J}T_j\subset \bigoplus_{j\in J}R_jT_j $$ であり、もし各 $j\in J$ に対し $R_jT_j$ が可閉ならば、 $$ \overline{\bigoplus_{j\in J}R_j\bigoplus_{j\in J}T_j}=\bigoplus_{j\in J}\overline{R_jT_j} $$ が成り立つ。

Proof.

$$ \mathcal{H}\colon=\bigoplus_{j\in J}\mathcal{H}_j,\quad \mathcal{K}\colon=\bigoplus_{j\in J}\mathcal{K}_j,\quad \mathcal{L}\colon=\bigoplus_{j\in J}\mathcal{L}_j $$ とおき、自然に、 $$ \mathcal{H}_j\subset \mathcal{H},\quad \mathcal{K}_j\subset \mathcal{K},\quad \mathcal{L}_j\subset \mathcal{L}\quad(\forall j\in J) $$ とみなす。

  • $(1)$ $T=\bigoplus_{j\in J}T_j$ とおく。任意の $v=(v_j)_{j\in J}\in \mathcal{H}$ に対し、

$$ \sum_{j\in J}\lVert T_jv_j\rVert^2\leq (\sup_{j\in J}\lVert T_j\rVert)^2\sum_{j\in J}\lVert v_j\rVert^2=(\sup_{j\in J}\lVert T_j\rVert)^2 \lVert v\rVert^2 $$ であるから $T\in \mathbb{B}(\mathcal{H},\mathcal{K})$ であり、$\lVert T\rVert\leq \sup_{j\in J}\lVert T_j\rVert$ である。また任意の $j\in J$、任意の $v_j\in \mathcal{H}_j$ に対し、 $$ \lVert T_jv_j\rVert=\lVert Tv_j\rVert\leq\lVert T\rVert\lVert v_j\rVert $$ であるから $\lVert T_j\rVert\leq \lVert T\rVert$ である。よって $\lVert T\rVert=\sup_{j\in J}\lVert T_j\rVert$ が成り立つ。

  • $(2)$

$$ U\colon\mathcal{H}\oplus \mathcal{K}\ni ( (u_j)_{j\in J},(v_j)_{j\in J})\mapsto (u_j,v_j)_{j\in J}\in \bigoplus_{j\in J}(\mathcal{H}_j\oplus \mathcal{K}_j) $$ は明らかにユニタリ作用素である。そして、 $$ U\left(G\left(\bigoplus_{j\in J}\overline{T_j}\right)\right) =\bigoplus_{j\in J}G(\overline{T_j})=\bigoplus_{j\in J}\overline{G(T_j)} $$ である。右辺は $\bigoplus_{j\in J}(\mathcal{H}_j\oplus \mathcal{K}_j)$ の閉部分空間であるから、$G(\bigoplus_{j\in J}\overline{T_j})$ は $\mathcal{H}\oplus \mathcal{K}$ の閉部分空間である。よって $\bigoplus_{j\in J}\overline{T_j}$ は閉線形作用素である。また、 $$ U\left(\overline{G\left(\bigoplus_{j\in J}T_j\right)}\right) =\overline{\bigoplus_{j\in J}G(T_j)}=\bigoplus_{j\in J}\overline{G(T_j)}=\bigoplus_{j\in J}G(\overline{T_j})=U\left(G\left(\bigoplus_{j\in J}\overline{T_j}\right)\right) $$ であるから、 $$ \overline{\bigoplus_{j\in J}T_j}=\bigoplus_{j\in J}\overline{T_j} $$ である。$T=\bigoplus_{j\in J}T_j$ とおく。任意の $v=(v_j)_{j\in J}\in D(T)$ を取り、$\mathcal{F}_J$ を $J$ の有限部分集合全体に集合の包含関係を入れた有向集合とする。 $$ v_F\colon=\sum_{j\in F}v_j\in D=\text{span}\bigcup_{j\in J}D(T_j)\quad(\forall F\in \mathcal{F}_J) $$ とおけば、 $$ Tv_F=\sum_{j\in F}T_jv_j\quad(\forall F\in \mathcal{F}_J) $$ なので、 $$ (v_F,Tv_F)\rightarrow(v,Tv)\quad(F\rightarrow J) $$ である。よって $G(T)\subset \overline{G(T|_D)}$ であるから、 $$ G(\overline{T})=\overline{G(T)}\subset \overline{G(T|_D)}\subset G(\overline{T}) $$ である。ゆえに $D$ は $\overline{T}$ の芯である。

  • $(3)$ $T\colon=\bigoplus_{j\in J}T_j$、$T'\colon=\bigoplus_{j\in J}T_j^*$ とおく。

$\text{span}\bigcup_{j\in J}D(T_j)\subset D(T)$ であり、左辺は $\mathcal{H}$ において稠密であるので $T$ は稠密に定義された線形作用素である。任意の $u=(u_j)_{j\in J}\in D(T)$、任意の $v=(v_j)_{j\in J}\in D(T')$ に対し、 $$ (v\mid Tu)=\sum_{j\in J}(v_j\mid T_ju_j)=\sum_{j\in J}(T_j^*v_j\mid u_j) =(T'v\mid u) $$ であるから、$T'\subset T^*$ である。逆の包含関係を示す。任意の $v=(v_j)_{j\in J}\in D(T^*)$ を取り、$v\in D(T')$ であることを示せばよい。 $$ w=(w_j)_{j\in J}=T^*v\in \mathcal{H} $$ とおく。このとき任意の $j\in J$、任意の $u_j\in D(T_j)$ に対し、 $$ (v_j\mid T_ju_j)=(v\mid Tu_j)=(T^*v\mid u_j)=(w_j\mid u_j) $$ であるから $v_j\in D(T_j^*)$ であり、$w_j=T_j^*v_j$ である。よって、 $$ (T_j^*v_j)_{j\in J}=(w_j)_{j\in J}=w\in \mathcal{H} $$ であるから、$v\in D(T')$ である。

  • $(4)$ 

$$ \bigoplus_{j\in J}S_j+\bigoplus_{j\in J}T_j\subset \bigoplus_{j\in J}(S_j+T_j) $$ は自明である。各 $j\in J$ に対し $S_j+T_j$ が可閉であるとすると、$(2)$ より $\bigoplus_{j\in J}\overline{S_j+T_j}$ は閉線形作用素であり、 $$ D\colon=\text{span}\bigcup_{j\in J}D(S_j+T_j) $$ は $\bigoplus_{j\in J}(\overline{S_j+T_j})$ の芯である。そして $D$ 上で、 $$ \bigoplus_{j\in J}S_j+\bigoplus_{j\in J}T_j= \bigoplus_{j\in J}(\overline{S_j+T_j}) $$ であるから、 $$ \overline{\bigoplus_{j\in J}S_j+\bigoplus_{j\in J}T_j}= \bigoplus_{j\in J}(\overline{S_j+T_j}) $$ が成り立つ。

  • $(5)$ 

$$ \bigoplus_{j\in J}R_j\bigoplus_{j\in J}T_j\subset\bigoplus_{j\in J}R_jT_j $$ は自明である。各 $j\in J$ に対し $R_jT_j$ が可閉であるとすると、$(2)$ より $\bigoplus_{j\in J}\overline{R_jT_j}$ は閉線形作用素であり、 $$ D\colon=\text{span}\bigcup_{j\in J}D(R_jT_j) $$ は $\bigoplus_{j\in J}\overline{R_jT_j}$ の芯である。そして $D$ 上で、 $$ \bigoplus_{j\in J}R_j\bigoplus_{j\in J}T_j=\bigoplus_{j\in J}\overline{R_jT_j} $$ であるから、 $$ \overline{\bigoplus_{j\in J}R_j\bigoplus_{j\in J}T_j}=\bigoplus_{j\in J}\overline{R_jT_j} $$ が成り立つ。

定理11.3(射影値測度の直和)

$(X,\mathfrak{M})$ を可測空間、$J$ を空でない集合とし、各 $j\in J$ に対しHilbert空間 $\mathcal{H}_j$ と射影値測度 $E_j\colon\mathfrak{M}\rightarrow\mathbb{P}(\mathcal{H})$ が与えられているとする。このとき、 $$ \bigoplus_{j\in J}E_j\colon\mathfrak{M}\ni B\mapsto \bigoplus_{j\in J}E_j(B_j)\in \mathbb{P}\left(\bigoplus_{j\in J}\mathcal{H}_j\right) $$ は射影値測度であり、任意の可測関数 $f\colon X\rightarrow\mathbb{C}$ に対し、 $$ \int_{X}f(x)d\left(\bigoplus_{j\in J}E_j\right)(x)=\bigoplus_{j\in J}\int_{X}f(x)dE_j(x)\quad\quad(*) $$ が成り立つ。そして点スペクトル(定義5.1)に関して、 $$ \sigma_{\rm p}\left(\int_{X}f(x)d\left(\bigoplus_{j\in J}E_j\right)(x)\right) =\bigcup_{j\in J}\sigma_{\rm p}\left(\int_{X}f(x)dE_j(x)\right),\quad\quad(**) $$ スペクトルに関して、 $$ \sigma\left(\int_{X}f(x)d\left(\bigoplus_{j\in J}E_j\right)(x)\right) =\overline{\bigcup_{j\in J}\sigma\left(\int_{X}f(x)dE_j(x)\right)}\quad\quad(***) $$ が成り立つ。

Proof.

$\mathcal{H}\colon=\bigoplus_{j\in J}\mathcal{H}_j$、$E\colon=\bigoplus_{j\in J}E_j\colon\mathfrak{M}\rightarrow\mathbb{P}(\mathcal{H})$ とおく。$\mathfrak{M}$ の任意の非交叉列 $(B_n)_{n\in \mathbb{N}}$ を取り $B=\bigcup_{n\in \mathbb{N}}B_n$ とおく。任意の $v=(v_j)_{j\in J}\in \mathcal{H}$ に対し、 $$ \begin{aligned} (v\mid E(B)v)=\sum_{j\in J}E_{j,v_j,v_j}(B)=\sum_{j\in J}\sum_{n\in\mathbb{N}}E_{j,v_j,v_j}(B_n) =\sum_{n\in\mathbb{N}}\sum_{j\in J}E_{j,v_j,v_j}(B_n) =\sum_{n\in\mathbb{N}}(v\mid E(B_n)v) \end{aligned} $$ であり、偏極恒等式より任意の $u,v\in \mathcal{H}$ に対し、 $$ (u\mid E(B)v)=\frac{1}{4}\sum_{k=0}^{3}i^k(i^ku+v\mid E(B)(i^ku+v)) $$ であるから、任意の $u,v\in {\cal H}$ に対し $E_{u,v}\colon\mathfrak{M}\in B\mapsto (u\mid E(B)v)\in \mathbb{C}$ は複素数値測度である。よって $E\colon\mathfrak{M}\rightarrow\mathbb{P}(\mathcal{H})$ は射影値測度である。今、任意の可測関数 $f\colon X\rightarrow\mathbb{C}$ に対し $(*)$ が成り立つこと、すなわち、 $$ \int_{X}f(x)dE(x)=\bigoplus_{j\in J}\int_{X}f(x)dE_j(x) $$ が成り立つことを示す。$f$ が可測単関数である場合は明らかに成り立つ。また有界可測関数は可測単関数の列によって一様近似できる(測度と積分5:$L^p$ 空間の完備性と双対性命題22.2)ので、$f$ が有界可測関数の場合も成り立つ。そこで任意の可測関数 $f\colon X\rightarrow\mathbb{C}$ に対し $f_n=f\chi_{(\lvert f\rvert\leq n)}$ $(\forall n\in \mathbb{N})$ として有界可測関数の列を定義すると、任意の $v=(v_j)_{j\in J}\in \mathcal{H}$ に対し単調収束定理より、 $$ \begin{aligned} &\int_{X}\lvert f(x)\rvert^2dE_{v,v}(x)=\sup_{n\in \mathbb{N}}\int_{X}\lvert f_n(x)\rvert^2dE_{v,v}(x)=\sup_{n\in\mathbb{N}}\left\lVert\int_{X}f_n(x)dE(x)v\right\rVert^2\\ &=\sup_{n\in\mathbb{N}}\sum_{j\in J}\left\lVert\int_{X}f_n(x)dE_j(x)v_j\right\rVert^2 =\sup_{n\in \mathbb{N}}\sum_{j\in J}\int_{X}\lvert f_n(x)\rvert^2dE_{j,v_j,v_j}(x)\\ &=\sum_{j\in J}\sup_{n\in\mathbb{N}}\int_{X}\lvert f_n(x)\rvert^2dE_{j,v_j,v_j}(x) =\sum_{j\in J}\int_{X}\lvert f(x)\rvert^2dE_{j,v_j,v_j}(x) \quad\quad(****) \end{aligned} $$ であるから、 $$ \begin{aligned} D_E(f)&=\left\{v\in \mathcal{H}: \int_{X}\lvert f(x)\rvert^2dE_{v,v}(x)<\infty\right\}\\ &=\left\{(v_j)_{j\in J}\in \mathcal{H}:\sum_{j\in J} \int_{X}\lvert f(x)\rvert^2dE_{j,v_j,v_j}(x)<\infty\right\}\\ &=\left\{(v_j)_{j\in J}\in \mathcal{H}:v_j\in D_{E_j}(f)\text{ }(\forall j\in J),\text{ }\sum_{j\in J}\left\lVert \int_{X}f(x)dE_{j}(x)v_j\right\rVert^2<\infty\right\}\\ &=D\left(\bigoplus_{j\in J}\int_{X}f(x)dE_j(x)\right) \end{aligned} $$ である。そして任意の $v=(v_j)_{j\in J}\in \mathcal{H}$、任意の $n\in \mathbb{N}$ に対し $(****)$ で $f$ を $f-f_n$ に置き換えたものを考えると、 $$ \int_{X}\lvert f(x)-f_n(x)\rvert^2dE_{v,v}(x)=\sum_{j\in J}\int_{X}\lvert f(x)-f_n(x)\rvert^2dE_{j,v_j,v_j}(x) $$ であるから、任意の $v=(v_j)_{j\in J}\in D_E(f)=D(\bigoplus_{j\in J}\int_{X}f(x)dE_j(x))$ に対し、 $$ \begin{aligned} &\left\lVert\int_{X}f(x)dE(x)v-\int_{X}f_n(x)dE(x)v\right\rVert^2=\left\lVert \int_{X}(f(x)-f_n(x) )dE(x)v\right\rVert^2\\ &=\int_{X}\lvert f(x)-f_n(x)\rvert^2dE_{v,v}(x)=\sum_{j\in J}\int_{X}\lvert f(x)-f_n(x)\rvert^2dE_{j,v_j,v_j}(x)\\ &=\left\lVert\left(\bigoplus_{j\in J}\int_{X}(f(x)-f_n(x))dE_j(x)\right)v\right\rVert^2\\ &=\left\lVert\left(\bigoplus_{j\in J}\int_{X}f(x)dE_j(x)\right)v-\left(\bigoplus_{j\in J}\int_{X}f_n(x)dE_j(x)\right)v\right\rVert^2\quad(\forall n\in\mathbb{N})\quad\quad(*****) \end{aligned} $$ であり、Lebesgue優収束定理より $(*****)$ の左から$3$ 番目の式は $n\rightarrow\infty$ で $0$ に収束するので、 $$ \int_{X}f(x)dE(x)v=\lim_{n\rightarrow\infty}\int_{X}f_n(x)dE(x)v=\lim_{n\rightarrow\infty}\left(\bigoplus_{j\in J}\int_{X}f_n(x)dE_j(x)\right)v=\left(\bigoplus_{j\in J}\int_{X}f(x)dE_j(x)\right)v $$ である。よって $(*)$ が成り立つ。
$(**)$ が成り立つことを示す。任意の可測関数 $f\colon X\rightarrow\mathbb{C}$ を取る。任意の $\lambda\in\mathbb{C}$ に対し、 $$ \lambda-\int_{X}f(x)dE(x)=\int_{X}(\lambda-f(x))dE(x)=\bigoplus_{j\in J}\int_{X}(\lambda-f(x))dE_j(x)\quad\quad(******) $$ であり、明らかに $\bigoplus_{j\in J}\int_{X}(\lambda-f(x))dE_j(x)$ が単射であることと全ての $j\in J$ に対し $\int_{X}(\lambda-f(x))dE_j(x)=\lambda-\int_{X}f(x)dE_j(x)$ が単射であることは同値である。よって $(**)$ が成り立つ。
$(***)$ が成り立つことを示す。$\lambda\in \mathbb{C}$ に対し、$\bigoplus_{j\in J}\int_{X}(\lambda-f(x))dE_j(x)$ が単射かつ値域が $\mathcal{H}$ ならば、明らかに全ての $j\in J$ に対し $\int_{X}(\lambda-f(x))dE_j(x)$ は単射で値域は $\mathcal{H}_j$ である。よって $(******)$ よりレゾルベント集合に関して、 $$ \rho\left(\int_{X}f(x)dE(x)\right)\subset \bigcap_{j\in J}\rho\left(\int_{X}f(x)dE_j(x)\right) $$ が成り立つ。これより、 $$ \overline{\bigcup_{j\in J}\sigma\left(\int_{X}f(x)dE_j(x)\right)}\subset \sigma\left(\int_{X}f(x)dE(x)\right) $$ が成り立つ。逆の包含関係を示す。任意の $$ \lambda_0\in \mathbb{C}\backslash \overline{\bigcup_{j\in J}\sigma\left(\int_{X}f(x)dE_j(x)\right)}\quad\quad(*******) $$ を取り、 $$ \lambda_0-\int_{X}f(x)dE(x)=\bigoplus_{j\in J}\int_{X}(\lambda_0-f(x))dE_j(x)\colon D_E(f)\rightarrow\mathcal{H} $$ が全単射であることを示せばよい。各 $j\in J$ に対し $\lambda_0\in \mathbb{C}\backslash \sigma(\int_{X}f(x)dE_j(x))$ であるから $\lambda_0-\int_{X}f(x)dE_j(x)\colon D_{E_j}(f)\rightarrow\mathcal{\mathcal{H}}$ は全単射である。よって $\lambda_0-\int_{X}f(x)dE(x)$ は単射であり、任意の $u=(u_j)_{j\in J}\in \mathcal{H}$ に対し、$v_j\in D_{E_j}(f)$ $(\forall j\in J)$ で、 $$ u_j=\int_{X}(\lambda_0-f(x))dE_j(x)v_j\quad(\forall j\in J) $$ を満たすものが取れる。$(v_j)_{j\in J}\in {\cal H}$ であることを示す。$(*******)$ よりある $\epsilon\in (0,\infty)$ に対し、 $$ \{\lambda\in \mathbb{C}:\lvert\lambda-\lambda_0\rvert<\epsilon\}\cap \sigma\left(\int_{X}f(x)dE_j(x)\right)=\emptyset\quad(\forall j\in J) $$ が成り立つから、命題6.12より、 $$ \{\lambda\in \mathbb{C}:\lvert\lambda-\lambda_0\rvert<\epsilon\}\cap {\rm ess.Ran}_{E_j}(f)=\emptyset\quad(\forall j\in J), $$ よって本質的値域の定義(定義6.11)より、 $$ E_j( (\lvert\lambda_0-f\rvert<\epsilon) )=0\quad(\forall j\in J) $$ である。これより、 $$ \begin{aligned} \lVert u_j\rVert^2&=\left\lVert \int_{X}(\lambda_0-f(x))dE_j(x)v_j\right\rVert^2 =\left\lVert \int_{(\lvert\lambda_0-f\rvert\geq\epsilon)}(\lambda_0-f(x))dE_j(x)v_j\right\rVert^2\\ &=\int_{(\lvert \lambda_0-f\rvert\geq\epsilon)}\lvert\lambda_0-f(x)\rvert^2dE_{j,v_j,v_j}(x)\geq \epsilon^2\lVert v_j\rVert^2\quad(\forall j\in J), \end{aligned} $$ したがって、 $$ \sum_{j\in J}\lVert v_j\rVert^2\leq \sum_{j\in J}\frac{1}{\epsilon^2}\lVert u_j\rVert^2=\frac{1}{\epsilon^2}\lVert u\rVert^2<\infty $$ である。よって $v:=(v_j)_{j\in J}\in \bigoplus_{j\in J}\mathcal{H}_j=\mathcal{H}$ であり、 $$ u=(u_j)_{j\in J}=\left(\int_{X}(\lambda_0-f(x))dE_j(x)v_j\right)_{j\in J} $$ であるから、$v=(v_j)_{j\in J}\in D(\bigoplus_{j\in J}(\lambda_0-f(x))dE_j(x))=D(\lambda_0-\int_{X}f(x)dE(x))$ である。これより、 $$ u=\left(\int_{X}(\lambda_0-f(x))dE_j(x)v_j\right)_{j\in J}=\left(\bigoplus_{j\in J}\int_{X}(\lambda_0-f(x))dE_j(x)\right)v=\left(\lambda_0-\int_{X}f(x)dE(x)\right)v $$ であり、$u\in \mathcal{H}$ は任意なので、$\lambda_0-\int_{X}f(x)dE(x)$ は全射である。ゆえに $\lambda_0\in \mathbb{C}\backslash \sigma(\int_{X}f(x)dE(x))$ であるから $(***)$ が成り立つ。

定理11.4(自己共役作用素の直和とBorel汎関数計算)

$J$ を空でない集合とし、各 $j\in J$ に対しHilbert空間 $\mathcal{H}_j$ 上の自己共役作用素 $T_j$ が与えられているとする。このとき直和Hilbert空間 $\bigoplus_{j\in J}\mathcal{H}_j$ 上の線形作用素 $T\colon=\bigoplus_{j\in J}T_j$ は 自己共役作用素であり、 $$ \sigma(T)=\overline{\bigcup_{j\in J}\sigma(T_j)} $$ が成り立つ。さらに任意のBorel関数 $f\colon\sigma(T)\rightarrow\mathbb{C}$ に対し、 $$ f(T)=\bigoplus_{j\in J}f(T_j) $$ であり、 $$ \sigma_{\rm p}(f(T))=\bigcup_{j\in J}\sigma_{\rm p}(f(T_j)),\quad \sigma(f(T))=\overline{\bigcup_{j\in J}\sigma(f(T))} $$ が成り立つ。

Proof.

$T$ が自己共役作用素であることは命題11.2による。各 $j\in J$ に対し 自己共役作用素 $T_j$ のスペクトル測度を $E^{T_j}\colon\mathcal{B}_{\sigma(T_j)}\rightarrow\mathbb{P}(\mathcal{H}_j)$ とおき、射影値測度 $$ E_j\colon\mathcal{B}_{\mathbb{R}}\ni B\mapsto E^{T_j}(B\cap \sigma(T_j))\in \mathbb{P}(\mathcal{H}_j) $$ を定義する。このとき明らかに任意のBorel関数 $f\colon\mathbb{R}\rightarrow\mathbb{C}$ に対し、 $$ \int_{\mathbb{R}}f(\lambda)dE_j(\lambda)=\int_{\sigma(T_j)}f(\lambda)dE^{T_j}(\lambda)=f(T_j) $$ である。定理11.3により射影値測度 $$ E\colon=\bigoplus_{j\in J}E_j\colon\mathcal{B}_{\mathbb{R}}\ni B\mapsto \bigoplus_{j\in J}E_j(B)\in \mathbb{P}\left(\bigoplus_{j\in J}\mathcal{H}_j\right) $$ を定義すると、 $$ \int_{\mathbb{R}}\lambda dE(\lambda)=\bigoplus_{j\in J}\int_{\mathbb{R}}\lambda dE_j(\lambda)=\bigoplus_{j\in J}T_j=T $$ である。そして命題8.6より任意のBorel関数 $f\colon\mathbb{R}\rightarrow\mathbb{C}$ に対し、 $$ f(T)=f\left(\int_{\mathbb{R}}\lambda dE(\lambda)\right)=\int_{\mathbb{R}}f(\lambda)dE(\lambda) $$ であるから、定理11.3より、 $$ f(T)=\int_{\mathbb{R}}f(\lambda)dE(\lambda)=\bigoplus_{j\in J}\int_{\mathbb{R}}f(\lambda)dE_j(\lambda)=\bigoplus_{j\in J}f(T_j) $$ である。さらに定理11.3より、 $$ \sigma_{\rm p}(f(T))=\sigma_{\rm p}\left(\int_{\mathbb{R}}f(\lambda)dE(\lambda)\right)=\bigcup_{j\in J}\sigma_{\rm p}\left(\int_{\mathbb{R}}f(\lambda)dE_j(\lambda)\right)= \bigcup_{j\in J}\sigma_{\rm p}(f(T_j)), $$ $$ \sigma(f(T))=\sigma\left(\int_{\mathbb{R}}f(\lambda)dE(\lambda)\right)=\overline{\bigcup_{j\in J}\sigma\left(\int_{\mathbb{R}}f(\lambda)dE_j(\lambda)\right)}= \overline{\bigcup_{j\in J}\sigma(f(T_j))} $$ である。

12. 完備化、テンソル積Hilbert空間上の線形作用素

命題12.1

任意のノルム空間 $X$ に対しBanach空間 $\widetilde{X}$ と等長線形写像 $\iota\colon X\rightarrow\widetilde{X}$ で、$\iota(X)$ が $\widetilde{X}$ において稠密であるようなものが存在する。

Proof.

直積線形空間 $\prod_{n\in \mathbb{N}}X$ の線形部分空間 $$ \mathcal{C}\colon=\left\{(x_n)_{n\in \mathbb{N}}\in \prod_{n\in \mathbb{N}}X: (x_n)_{n\in \mathbb{N}}\text{ はCauchy列}\right\} $$ と、$\mathcal{C}$ 上のセミノルム $$ p\colon\mathcal{C}\ni (x_n)_{n\in \mathbb{N}}\mapsto \lim_{n\rightarrow\infty}\lVert x_n\rVert\in [0,\infty) $$ を考える。そして $\mathcal{C}$ の線形部分空間 $$ \mathcal{N}\colon=\{(x_n)_{n\in\mathbb{N}}\in \mathcal{C}: p( (x_n)_{n\in\mathbb{N}})=0\} $$ に対し、商線形空間(速習「線形空間論」定義3.2)$\mathcal{C}/\mathcal{N}$ を考え、商写像を、 $$ \mathcal{C}\ni z\mapsto [z]\in \mathcal{C}/\mathcal{N} $$ とおく。このとき、 $$ \lVert \cdot\rVert\colon\mathcal{C}/\mathcal{N}\ni [z]\mapsto \lVert [z]\rVert:=p(z)\in [0,\infty) $$ は $\mathcal{C}/\mathcal{N}$ 上のノルムである。$\mathcal{C}/\mathcal{N}$ にこのノルムを入れたノルム空間を $\widetilde{X}$ とおく。 $$ \iota\colon X\ni x\mapsto [(x)_{n\in\mathbb{N}}]\in \widetilde{X} $$ として等長線形写像を定義する。任意の $\omega=[(x_n)_{n\in\mathbb{N}}]\in \widetilde{X}$、任意の $\epsilon\in (0,\infty)$ に対し、 $$ \lVert x_n-x_m\rVert\leq\epsilon\quad(\forall n,m\geq n_0) $$ なる $n_0\in \mathbb{N}$ を取ると、 $$ \lVert \omega-\iota(x_{n_0})\rVert=\lim_{n\rightarrow\infty}\lVert x_n-x_{n_0}\rVert\leq\epsilon $$ であるから、$\iota(X)$ は $\widetilde{X}$ において稠密である。$\widetilde{X}$ の任意のCauchy列 $(\omega_n)_{n\in \mathbb{N}}$ に対し、 $$ \lVert \omega_n-\iota(x_n)\rVert<\frac{1}{n}\quad(\forall n\in\mathbb{N}) $$ なる $(x_n)_{n\in\mathbb{N}}\in \prod_{n\in\mathbb{N}}X$ を取ると、 $$ \lVert x_n-x_m\rVert\leq \lVert \iota(x_n)-\omega_n\rVert+\lVert \omega_n-\omega_m\rVert+\lVert \omega_m-\iota(x_m)\rVert<\frac{1}{n}+\lVert \omega_n-\omega_m\rVert+\frac{1}{m}\quad(\forall n,m\in\mathbb{N}) $$ であるから $(x_n)_{n\in\mathbb{N}}\in \mathcal{C}$ である。そこで $\omega\colon=[(x_n)_{n\in\mathbb{N}}]\in \widetilde{X}$ とおけば、任意の $n\in\mathbb{N}$ に対し、 $$ \lVert \omega-\omega_n\rVert\leq \lVert \omega-\iota(x_n)\rVert+\lVert \iota(x_n)-\omega_n\rVert<\lim_{m\rightarrow\infty}\lVert x_m-x_n\rVert+\frac{1}{n} $$ であるから $\lim_{n\rightarrow\infty}\omega_n=\omega$ である。よって $\widetilde{X}$ はBanach空間である。

命題12.2

任意の内積空間 $X$ に対し、Hilbert空間 $\widetilde{X}$ と内積を保存する線形写像 $\iota\colon X\rightarrow\widetilde{X}$ で $\iota(X)$ が $\widetilde{X}$ で稠密であるようなものが存在する。

Proof.

命題12.1の証明における $\mathcal{C},p,\mathcal{N},\widetilde{X},\iota$ をそのまま用いる。 $$ [\cdot,\cdot]\colon\mathcal{C}\times \mathcal{C}\ni ( (x_n)_{n\in\mathbb{N}}, (y_n)_{n\in\mathbb{N}})\mapsto [(x_n)_{n\in\mathbb{N}},(y_n)_{n\in\mathbb{N}}]\colon=\lim_{n\rightarrow\infty}(x_n\mid y_n)\in \mathbb{C} $$ は準双線形汎関数であり、任意の $z,w\in \mathcal{C}$ に対し、 $$ \overline{[z,w]}=[w,z],\quad [z,z]=p(z)^2\geq0\quad(*), $$ $$ \lvert [z,w]\rvert\leq p(z)p(w)\quad\quad(**) $$ である。$[\cdot,\cdot]$ の準双線形性と $(**)$ より、 $$ (\cdot\mid \cdot)\colon\widetilde{X}\times \widetilde{X}\ni ([z],[w])\mapsto ([z]\mid [w]):=[z,w]\in \mathbb{C} $$ はwell-definedであり、$(*)$ よりこれは $\widetilde{X}$ 上の内積で、この内積が定めるノルムはBanach空間 $\widetilde{X}$ のノルムである。よって $\widetilde{X}$ はHilbert空間である。そして、 $$ (\iota(x)\mid \iota(y))=([(x)_{n\in\mathbb{N}}]\mid [(y)_{n\in\mathbb{N}}])=(x\mid y)\quad(\forall x,y\in X) $$ であるから、$\iota\colon X\rightarrow \widetilde{X}$ は内積を保存する。

定義12.3(完備化Banach空間、完備化Hilbert空間)

命題12.1においてノルム空間 $X$ と $\iota(X)$ を同一視することにより、$X$ をBanach空間 $\widetilde{X}$ の稠密部分空間とみなす。このとき $\widetilde{X}$ を $X$ の完備化Banach空間と言う。
命題12.2において内積空間 $X$ と $\iota(X)$ を同一視することにより、$X$ をHilbert空間 $\widetilde{X}$ の稠密部分空間とみなす。このとき $\widetilde{X}$ を $X$ の完備化Hilbert空間と言う。


命題12.4(内積空間のテンソル積)

$\mathcal{H}_1,\ldots,\mathcal{H}_N$ をそれぞれHilbert空間とし、 $$ \bigodot_{j=1}^{N}\mathcal{H}_j=\mathcal{H}_1\odot \cdots\odot\mathcal{H}_N $$ をテンソル積線形空間(速習「線形空間論」定義8.1)とする。このとき $\bigodot_{j=1}^{N}\mathcal{H}_j$ 上の内積で、任意の $u_j,v_j\in \mathcal{H}_j$ $(j=1,\ldots,N)$ に対し、 $$ (u_1\otimes\cdots\otimes u_N\mid v_1\otimes\cdots\otimes v_N)=(u_1\mid v_1)\cdots (u_N\mid v_N) $$ を満たすものが唯一つ存在する。

Proof.

一意性はテンソル積線形空間 $\bigodot_{j=1}^{N}\mathcal{H}_j$ の任意の元が $v_1\otimes\cdots\otimes v_N$ なる形の元の線形結合全体であることによる。存在を示す。任意の $v_j\in \mathcal{H}_j$ $(j=1,\ldots,N)$ に対し、 $$ \mathcal{H}_1\times\cdots\times \mathcal{H}_N\ni (u_1,\ldots,u_N)\mapsto (v_1\mid u_1)\cdots (v_N\mid u_N)\in \mathbb{C} $$ は多重線形写像であるから、速習「線形空間論」定理8.4より線形汎関数 $$ \bigodot_{j=1}^{N}\mathcal{H}_j\ni u_1\otimes\cdots\otimes u_N\mapsto (v_1\mid u_1)\cdots (v_N\mid u_N)\in \mathbb{C} $$ が定まる。この線形汎関数の各点ごとの複素共役を取ることで反線形汎関数 $$ (\cdot\mid v_1)\otimes\cdots\otimes (\cdot\mid v_N):\bigodot_{j=1}^{N}\mathcal{H}_j\ni u_1\otimes\cdots\otimes u_N\mapsto (u_1\mid v_1)\cdots (u_N\mid v_N)\in \mathbb{C} $$ が定まる。 $\bigodot_{j=1}^{N}\mathcal{H}_j$ 上の反線形汎関数全体 $AL(\bigodot_{j=1}^{N}\mathcal{H}_j,\mathbb{C})$ は各点ごとの演算で $\mathbb{C}$ 上の線形空間をなし、 $$ \mathcal{H}_1\times \cdots\times \mathcal{H}\ni (v_1,\ldots,v_N)\mapsto (\cdot \mid v_1)\otimes \cdots \otimes (\cdot \mid v_N)\in AL\left(\bigodot_{jh=1}^{N}\mathcal{H}_j,\mathbb{C}\right) $$ は多重線形写像である。よって速習「線形空間論」定理8.4より線形写像 $$ M\colon\bigodot_{j=1}^{N}\mathcal{H}_j\ni v_1\otimes \cdots\otimes v_N\mapsto (\cdot \mid v_1)\otimes \cdots \otimes (\cdot \mid v_N)\in AL\left(\bigodot_{jh=1}^{N}\mathcal{H}_j,\mathbb{C}\right) $$ が定まる。そこで準双線形汎関数 $$ (\cdot \mid \cdot)\colon\bigodot_{j=1}^{N}\mathcal{H}_j\times \bigodot_{j=1}^{N}\mathcal{H}_j\rightarrow\mathbb{C},\quad (T\mid S)\colon=M(S)(T)\quad(\forall S,T\in \bigodot_{j=1}^{N}\mathcal{H}_j)\quad\quad(*) $$ を定義する。このとき任意の $u_j,v_j\in \mathcal{H}_j$ $(j=1,\ldots,N)$ に対し、 $$ (u_1\otimes\cdots \otimes u_N\mid v_1\otimes\cdots\otimes v_N) =(u_1\mid v_1)\cdots (u_N\mid v_N) $$ であるので、$(*)$ が $\bigodot_{j=1}^{N}\mathcal{H}_j$ 上の内積であることを示せばよい。明らかに任意の $S,T\in \bigodot_{j=1}^{N}\mathcal{H}_j$ に対し $\overline{(S\mid T)}=(T\mid S)$ が成り立つ。任意の $$ T=\sum_{l=1}^{n}v_{1,l}\otimes\cdots\otimes v_{N,l}\in \bigodot_{j=1}^{N}\mathcal{H}_j $$ を取る。各 $j\in \{1,\ldots,N\}$ に対し $\mathcal{H}_j$ の有限次元部分空間 $\text{span}\{v_{j,1},\ldots,v_{j,n}\}$ のCONS $\{e_{j,1},\ldots,e_{j,m(j)}\}$ を取れば、ある $\alpha_{k_1,\ldots,k_N}\in \mathbb{C}$ に対し、 $$ T=\sum_{k_1,\ldots,k_N}\alpha_{k_1,\ldots,k_N}e_{1,k_1}\otimes \cdots\otimes e_{N,k_N} $$ と表せる。よって、 $$ (T\mid T)=\sum_{k_1,\ldots,k_N}\lvert \alpha_{k_1,\ldots,k_N}\rvert^2\geq0 $$ であり、$(T\mid T)=0$ であるならば $T=0$ であるから $(*)$ は $\bigodot_{j=1}^{N}\mathcal{H}_j$ 上の内積である。

定義12.5(テンソル積Hilbert空間)

$\mathcal{H}_1,\ldots,\mathcal{H}_N$ をそれぞれHilbert空間とする。命題12.4における内積による内積空間 $\bigodot_{j=1}^{N}\mathcal{H}_j$ の完備化Hilbert空間(定義12.3)を、 $$ \bigotimes_{j=1}^{N}\mathcal{H}_j=\mathcal{H}_1\otimes\cdots\otimes\mathcal{H}_N $$ と表し、これを $\mathcal{H}_1,\ldots,\mathcal{H}_N$ のテンソル積Hilbert空間と言う。 $$ \bigotimes_{j=1}^{N}\mathcal{H}_j=\overline{\text{span}\{v_1\otimes\cdots\otimes v_N:v_1\in \mathcal{H}_1,\ldots,v_N\in \mathcal{H}_N\}} $$ である。


定義12.6(線形部分空間のテンソル積線形空間の表記)

$\mathcal{H}_1,\ldots,\mathcal{H}_N$ をそれぞれHilbert空間とし、$D_j\subset \mathcal{H}_j$ $(j=1,\ldots,N)$ をそれぞれ線形部分空間とする。これに対しテンソル積Hilbert空間 $\bigotimes_{j=1}^{N}\mathcal{H}_j$ の線形部分空間 $$ \bigodot_{j=1}^{N}D_j=D_1\odot\cdots\odot D_N:=\text{span}\{v_1\otimes\cdots\otimes v_N:v_1\in D_1,\ldots,v_N\in D_N\} $$ を定義する。

命題12.7(テンソル積Hilbert空間の典型的な稠密部分空間とCONS)

$\mathcal{H}_1,\ldots,\mathcal{H}_N$ をそれぞれHilbert空間とする。

  • $(1)$ $D_1\subset \mathcal{H}_1,\cdots,D_N\subset \mathcal{H}_N$ がそれぞれ稠密部分空間であるならば、

$$ D_1\odot \cdots\odot D_N\subset \mathcal{H}_1\otimes\cdots\otimes \mathcal{H}_N $$ も稠密部分空間である。

$$ (e_{1,i_1}\otimes\cdots\otimes e_{N,i_N})_{(i_1,\ldots,i_N)\in I_1\times\cdots\times I_N}\quad\quad(*) $$ は $\mathcal{H}_1\otimes\cdots\otimes \mathcal{H}_N$ のCONSである。

Proof.

  • $(1)$

$$ \lVert v_1\otimes\cdots\otimes v_N\rVert=\lVert v_1\rVert\cdots\lVert v_N\rVert\quad(\forall v_1\in \mathcal{H}_1,\ldots,v_N\in \mathcal{H}_N) $$ であるから、 $$ \mathcal{H}_1\times\cdots\times \mathcal{H}_N\ni (v_1,\ldots,v_N)\mapsto v_1\otimes\cdots\otimes v_N\in \mathcal{H}_1\otimes\cdots\otimes \mathcal{H}_N $$ は有界多重線形写像である。よって任意の $j\in \{1,\ldots,N\}$、任意の $v_j\in \mathcal{H}_j$ に対し $v_j$ に収束する $D_j$ の列 $(v_{j,n})_{n\in \mathbb{N}}$ を取れば、 $$ v_1\otimes\cdots\otimes v_N=\lim_{n\rightarrow\infty}v_{1,n}\otimes\cdots\otimes v_{N,n}\in \overline{D_1\odot\cdots \odot D_N} $$ である。ゆえに、 $$ \mathcal{H}_1\otimes\cdots\otimes \mathcal{H}_N=\overline{\mathcal{H}_1\odot \cdots \odot\mathcal{H}_N}=\overline{D_1\odot \cdots\odot D_N} $$ である。

  • $(2)$ $(*)$ は明らかに $\mathcal{H}_1\otimes \cdots\otimes \mathcal{H}_N$ のONSである。CONSの定義より各 $j\in\{1,\ldots,N\}$ に対し $D_j:=\text{span}\{e_{j,i}\}_{i\in I_j}$ は $\mathcal{H}_j$ の稠密部分空間であるから、$(1)$ より、

$$ D_1\odot \cdots\odot D_N=\text{span}\{e_{1,i_1}\otimes\cdots\otimes e_{N,i_N}:(i_1,\ldots,i_N)\in I_1\times\cdots\times I_N\} $$ は $\mathcal{H}_1\otimes\cdots\otimes \mathcal{H}_N$ の稠密部分空間である。よって $(*)$ は $\mathcal{H}_1\otimes\cdots\otimes \mathcal{H}_N$ のCONSである。

命題12.8

$X_j$ を第二可算局所コンパクトHausdorff空間、$\mu_j\colon\mathcal{B}_{X_j}\rightarrow[0,\infty]$ をコンパクト集合に対して有限測度を与えるBorel測度(測度と積分7:局所コンパクトHausdorff空間上のRadon測度定理31.5よりRadon測度)とする $(j=1,\ldots,N)$。そして$f_j\colon X_j\rightarrow\mathbb{C}$($j=1,\ldots,N$) に対し、 $$ f_1\times\cdots\times f_N\colon X_1\times \cdots\times X_N\ni (x_1,\ldots,x_N)\mapsto f_1(x_1)\ldots f_N(x_N)\in \mathbb{C} $$ と定義する。このときユニタリ作用素 $$ U\colon\bigotimes_{j=1}^{N}L^2(X_j,\mu_j)\rightarrow L^2(X_1\times\cdots\times X_N,\mu_1\otimes\cdots \otimes \mu_N) $$ で、 $$ U([f_1]\otimes\cdots\otimes [f_N])=[f_1\times\cdots\times f_N]\quad(\forall [f_1]\in L^2(X_1,\mu_1),\ldots,[f_N]\in L^2(X_N,\mu_N)) $$ を満たすものが唯一つ存在する。

Proof.

まず各 $X_j$ は第二可算局所コンパクトHausdorff空間であるから、測度と積分1:測度論の基礎用語命題2.8より、 $$ X\colon=X_1\times \cdots\times X_N $$ も第二可算局所コンパクトHausdorff空間であり、 $$ \mathcal{B}_X=\mathcal{B}_{X_1}\otimes\cdots\otimes \mathcal{B}_{X_N} $$ である。また各 $\mu_j$ は $\sigma$-有限であるので、直積測度 $$ \mu=\mu_1\otimes\cdots\otimes \mu_N $$ が定義でき、$X$ の任意のコンパクト集合はコンパクト集合の直積に含まれる[4]から、測度と積分7:局所コンパクトHausdorff空間上のRadon測度定理31.5より、$\mu$ は自動的にRadon測度である。任意の $[f_1]\in L^2(X_1,\mu_1),\ldots,[f_N]\in L^2(X_N,\mu_N)$ に対しTonelliの定理より $[f_1\times\cdots\times f_N]\in L^2(X,\mu)$ であり、 $$ \prod_{j=1}^{N}L^2(X_j,\mu_j)\ni ([f_1],\ldots,[f_N])\mapsto [f_1\times\cdots\times f_N]\in L^2(X,\mu) $$ はwell-definedな多重線形写像である。よって速習「線形空間論」定理8.4より線形作用素 $$ U_0:\bigodot_{j=1}^{N}L^2(X_j,\mu_j)\ni [f_1]\otimes\cdots\otimes [f_N]\mapsto [f_1\times\cdots\times f_N]\in L^2(X,\mu) $$ が定まり、Fubiniの定理より $U_0$ は内積を保存する。よって $U_0$ は内積を保存する線形作用素 $$ U:\bigotimes_{j=1}^{N}L^2(X_j,\mu_j)\rightarrow L^2(X,\mu) $$ に一意拡張できる。$\mu$ はRadon測度なので測度と積分7:局所コンパクトHausdorff空間上のRadon測度定理32より、 $$ L^2(X,\mu)=\overline{[C_c(X)]}^{\lVert \cdot\rVert_2} $$ が成り立つ。任意の $f\in C_c(X)$ を取る。各 $j\in\{1,\ldots,N\}$ に対し $\text{supp}(f)$ の $X_j$ 上への自然な射影 $\pi_j(\text{supp}(f))\subset X_j$ はコンパクトであるから、測度と積分7:局所コンパクトHausdorff空間上のRadon測度命題27.4より、閉包がコンパクトな開集合 $V_j\supset \pi_j(\text{supp}(f))$ が取れる。 $$ \text{supp}(f)\subset \pi_1(\text{supp}(f))\times\cdots\times \pi_N(\text{supp}(f))\subset V_1\times\cdots\times V_N $$ より、 $$ f\in C_c(V_1\times\cdots\times V_N)\subset C_0(V_1\times\cdots\times V_N) $$ であり、Urysohnの補題とStone-Weierstrassの定理(測度と積分7:局所コンパクトHausdorff空間上のRadon測度定理27.6定理35.5)より、 $$ C_0(V_1\times\cdots\times V_N)=\overline{\text{span}\{\varphi_1\times\cdots\times\varphi_N:\varphi_1\in C_0(V_1),\ldots,\varphi_N\in C_0(V_N)\}}^{\sup\text{ノルム}} $$ であるから、 $$ \mu(V_1\times\cdots\times V_N)\leq \mu_1(\overline{V_1})\cdots\mu_N(\overline{V_N})<\infty $$ より、 $$ [f]\in \overline{U(L^2(X_1,\mu_1)\odot \cdots\odot L^2(X_N,\mu_N))}^{\lVert \cdot\rVert_2} $$ である。よって、 $$ \begin{aligned} &L^2(X,\mu)=\overline{[C_c(X)]}^{\lVert \cdot\rVert_2}\subset \overline{U(L^2(X_1,\mu_1)\odot \cdots\odot L^2(X_N,\mu_N))}^{\lVert \cdot\rVert_2}\\ &=U(\overline{L^2(X_1,\mu_1)\odot \cdots \odot L^2(X_N,\mu_N)}^{\lVert \cdot\rVert_2})=U(L^2(X_1,\mu_1)\otimes\cdots\otimes L^2(X_N,\mu_N))\subset L^2(X,\mu) \end{aligned} $$ であるから、$U$ はユニタリ作用素である。

定義12.9($L^2$ 空間のテンソル積)

$X_j$ を第二可算局所コンパクトHausdorff空間、$\mu_j\colon\mathcal{B}_{X_j}\rightarrow[0,\infty]$ をコンパクト集合に対して有限測度を与えるBorel測度(測度と積分7:局所コンパクトHausdorff空間上のRadon測度定理31.5よりRadon測度)とする $(j=1,\ldots,N)$。このとき命題12.8より、ユニタリ作用素 $$ U\colon\bigotimes_{j=1}^{N}L^2(X_j,\mu_j)\rightarrow L^2(X_1\times\cdots\times X_N,\mu_1\otimes\cdots \otimes \mu_N) $$ で、 $$ U([f_1]\otimes\cdots\otimes [f_N])=[f_1\times\cdots\times f_N]\quad(\forall [f_1]\in L^2(X_1,\mu_1),\ldots,[f_N]\in L^2(X_N,\mu_N)) $$ を満たすものが唯一つ存在する。そこで以後、 $$ [f_1]\otimes\cdots\otimes [f_N]=[f_1\times\cdots\times f_N]\quad(\forall [f_1]\in L^2(X_1,\mu_1),\ldots,[f_N]\in L^2(X_N,\mu_N)) $$ なる同一視により、 $$ \bigotimes_{j=1}^{N}L^2(X_j,\mu_j)=L^2(X_1\times\cdots\times X_N,\mu_1\otimes\cdots\otimes \mu_N) $$ とみなす。

定義12.10(Hilbert空間上の線形作用素のテンソル積)

各 $j\in \{1,\ldots,N\}$ に対しHilbert空間 $\mathcal{H}_j$ からHilbert空間 $\mathcal{K}_j$ への線形作用素 $T_j$ が与えられているとする。このとき、 $$ \prod_{j=1}^{N}D(T_j)\ni (v_1,\ldots,v_N)\mapsto T_1v_1\otimes \cdots\otimes T_Nv_N\in \bigotimes_{j=1}\mathcal{K}_j $$ は多重線形写像であるから、速習「線形空間論」定理8.4より線形作用素 $$ T_1\odot \cdots\odot T_N\colon\bigodot_{j=1}^{N}D(T_j)\ni v_1\otimes\cdots\otimes v_N\mapsto T_1v_1\otimes\cdots\otimes T_Nv_N\in \bigotimes_{j=1}^{N}\mathcal{K}_j $$ が定まる。もし $T_1,\ldots,T_N$ がそれぞれ稠密に定義された線形作用素であるならば、命題12.7より $\bigodot_{j=1}^{N}D(T_j)$ は $\bigotimes_{j=1}^{N}\mathcal{H}_j$ において稠密であるから、$T_1\odot \cdots\odot T_N$ はHilbert空間 $\bigotimes_{j=1}^{N}\mathcal{H}_j$ からHilbert空間 $\bigotimes_{j=1}^{N}\mathcal{K}_j$ への稠密に定義された線形作用素である。よって $T_1\odot \cdots\odot T_N$ は共役作用素を持ち、明らかに、 $$ T_1^*\odot \cdots\odot T_N^*\subset (T_1\odot \cdots\odot T_N)^* $$ である。これよりもし $T_1,\ldots,T_N$ が稠密に定義された閉線形作用素ならば、定理3.10より $T_j=T_j^{**}$ であるから、 $$ T_1\odot \cdots\odot T_N=T_1^{**}\odot \cdots\odot T_N^{**}\subset (T_1^*\odot \cdots\odot T_N^*)^* $$ であり、右辺は閉線形作用素である(命題3.9の $(6)$ より共役作用素は閉である)から、$T_1\odot \cdots\odot T_N$ は稠密に定義された可閉線形作用素である。そこで $\mathcal{H}_j$ から $\mathcal{K}_j$ への稠密に定義された閉線形作用素 $T_j$ $(j=1,\ldots,N)$ に対し、$\bigotimes_{j=1}^{N}\mathcal{H}_j$ から $\bigotimes_{j=1}^{N}\mathcal{K}_j$ への稠密に定義された閉線形作用素 $T_1\otimes\cdots\otimes T_N$ を、 $$ T_1\otimes\cdots\otimes T_N\colon=\overline{T_1\odot \cdots \odot T_N} $$ と定義する。$T_1\otimes\cdots\otimes T_N$ を $T_1,\ldots,T_N$ のテンソル積と言う。

補題12.11(Russo-Dyeの定理)

$\mathcal{A}$ を単位的 $C^*$-環とし、$A\in \mathcal{A}$ と $n\in \mathbb{N}$ が、 $$ \lVert A\rVert<1-\frac{2}{n} $$ を満たすとする。このとき $n$ 個のユニタリ元 $U_1,\ldots,U_n\in \mathcal{A}$ で、 $$ A=\frac{1}{n}(U_1+\cdots+U_n) $$ を満たすものが取れる。特に $\mathcal{A}$ の任意の元はユニタリ元の線形結合である。

Proof.

  • $(1)$ $A\in {\rm GL}(\mathcal{A})$ かつ $\lVert A\rVert<1$ を満たす任意の $A$ に対し、ユニタリ元 $U_+,U_-\in \mathcal{A}$ で、

$$ A=\frac{1}{2}(U_++U_-) $$ を満たすものが取れることを示す。$A^*A\in {\rm GL}(\mathcal{A})\cap \mathcal{A}_+$ であるから連続汎関数計算(Banach環とC*-環のスペクトル理論定義6.6)より $\lvert A\rvert=\sqrt{A^*A}\in {\rm GL}(\mathcal{A})\cap \mathcal{A}_+$ である。そこで、 $$ W\colon=A\lvert A\rvert^{-1}\in {\rm GL}(\mathcal{A}) $$ とおくと、$W^*W=\lvert A\rvert^{-1}A^*A\lvert A\rvert^{-1}=\lvert A\rvert^{-1}\lvert A\rvert^2\lvert A\rvert^{-1}=1$ であるから $W$ はユニタリであり、$A=W\lvert A\rvert$ である。$\lVert \lvert A\rvert\rVert^2=\lVert A^*A\rVert=\lVert A\rVert^2<1$ であるから $1-\lvert A\rvert^2\in \mathcal{A}_+$ である。そこで、 $$ V_{\pm}\colon=\lvert A\rvert\pm i\sqrt{1-\lvert A\rvert^2} $$ とおけば連続汎関数計算より、 $$ V_{\pm}V_{\mp}=\lvert A\rvert^2+(1-\lvert A\rvert^2)=1 $$ であるから $V_{\pm}$ はユニタリである。そして $\lvert A\rvert=\frac{1}{2}(V_++V_-)$ であるから、 $$ A=W\lvert A\rvert=\frac{1}{2}(WV_++WV_-) $$ である。$U_{\pm}=WV_{\pm}$ とおけば $U_{\pm}$ はユニタリであり、$A=\frac{1}{2}(U_++U_-)$ である。

  • $(2)$ $\lVert A\rVert<1$ を満たす任意の $A\in \mathcal{A}$ に対し、ユニタリ元 $U,V$ で、

$$ 1+A=U+V $$ を満たすものが取れることを示す。Banach環とC*-環のスペクトル理論命題1.2より $1+A\in {\rm GL}(\mathcal{A})$ であるから、 $$ \frac{1}{2}(1+A)\in {\rm GL}(\mathcal{A}),\quad \left\lVert \frac{1}{2}(1+A)\right\rVert<1 $$ である。よって $(1)$ よりユニタリ元 $U,V\in \mathcal{A}$ で、 $$ \frac{1}{2}(1+A)=\frac{1}{2}(U+V) $$ なるものが取れる。

  • $(3)$ $\lVert A\rVert<1$ を満たす任意の $A\in \mathcal{A}$ と任意の $n\in \mathbb{N}$ に対し、$n+1$ 個のユニタリ $U_1,\ldots,U_n,V_n\in \mathcal{A}$ で、

$$ 1+nA=U_1+\cdots+U_n+V_n $$ を満たすものが取れることを示す。$n\in \mathbb{N}$ に関する帰納法で示す。$n=1$ の場合は $(2)$ より成り立つ。ある $n-1\in \mathbb{N}$ に対して成り立つと仮定する。すなわち $n$ 個のユニタリ元 $U_1,\ldots,U_{n-1},V_{n-1}\in \mathcal{A}$ で、 $$ 1+(n-1)A=U_1+\cdots+U_{n-1}+V_{n-1} $$ を満たすものが取れるとする。このとき $V_{n-1}+A=V_{n-1}(1+V_{n-1}^*A)$ であり、$\lVert V_{n-1}^*A\rVert<1$ であるから、$(2)$ よりユニタリ元 $U_n,V_n$ で、 $$ V_{n-1}+A=U_n+V_n $$ なるものが取れる。よって、 $$ 1+nA=1+(n-1)A+A=U_1+\cdots+U_{n-1}+V_{n-1}+A=U_1+\cdots+U_n+V_n $$ であるから $n$ の場合も成り立つ。

  • $(4)$ $A\in \mathcal{A}$ と $n\in \mathbb{N}$ が $\lVert A\rVert<1-\frac{2}{n}$ を満たすとき、$n$ 個のユニタリ元 $U_1,\ldots,U_n$ で、

$$ A=\frac{1}{n}(U_1+\cdots+U_n) $$ を満たすものが取れることを示す。 $$ B\colon=\frac{1}{n-1}(1-nA)\in\mathcal{A} $$ とおくと、 $$ \lVert B\rVert\leq \frac{1}{n-1}(1+n\lVert A\rVert)<\frac{1}{n-1}(1+n-2)=1 $$ であるから、$(3)$ より $n$ 個のユニタリ元 $U_1,\ldots,U_n$ で、 $$ nA=1+(n-1)B=U_1+\cdots+U_n $$ を満たすものが取れる。よって $A=\frac{1}{n}(U_1+\cdots+U_n)$ である。

定理12.12(有界線形作用素のテンソル積)

$\mathcal{H}_j,\mathcal{K}_j$ をそれぞれHilbert空間とし、$T_j\in \mathbb{B}(\mathcal{H}_j,\mathcal{K}_j)$ $(j=1,\ldots,N)$ とする。このとき $T_1,\ldots,T_N$ のテンソル積は、 $$ T_1\otimes\cdots\otimes T_N\in \mathbb{B}\left(\bigotimes_{j=1}^{N}\mathcal{H}_j,\text{ }\bigotimes_{j=1}^{N}\mathcal{K}_j\right) $$ を満たし、作用素ノルムに関して、 $$ \lVert T_1\otimes\cdots\otimes T_N\rVert=\lVert T_1\rVert\cdots\lVert T_N\rVert $$ が成り立つ。

Proof.

  • $(1)$ まず $\mathcal{H}_j=\mathcal{K}_j$ $(j=1,\ldots,N)$ の場合に成り立つことを示す。このときRusso-Dyeの定理(補題12.11)より各 $j\in \{1,\ldots,N\}$ に対し $T_j\in \mathbb{B}(\mathcal{H}_j)$ は $\mathcal{H}_j$ 上のユニタリ作用素の線形結合で表せる。ここで $U_j\in \mathbb{B}(\mathcal{H}_j)$ $(j=1,\ldots,N)$ をユニタリ作用素とすると、

$$ U_1\odot\cdots\odot U_N\colon\bigodot_{j=1}^{N}\mathcal{H}_j\ni v_1\otimes\cdots\otimes v_N\mapsto U_1v_1\otimes\cdots\otimes U_Nv_N\in \bigotimes_{j=1}^{N}\mathcal{H}_j $$ は内積を保存するので有界作用素であり、 $$ T_1\odot \cdots\odot T_N\colon\bigodot_{j=1}^{N}\mathcal{H}_j\rightarrow\bigotimes_{j=1}^{N}\mathcal{H}_j $$ はこのタイプの線形作用素の線形結合であるから有界線形作用素である。よって、 $$ T_1\otimes\cdots\otimes T_N=\overline{T_1\odot \cdots\odot T_N}\in \mathbb{B}\left(\bigotimes\mathcal{H}_j\right) $$ が成り立つ。任意の $k\in \{1,\ldots,N\}$ に対し、 $$ \mathbb{B}(\mathcal{H}_k)\ni T_k\mapsto 1\otimes\cdots\otimes 1\otimes \overset{k\text{番目}}{T_k}\otimes1\otimes\cdots\otimes 1 $$ は $C^*$-環から $C^*$-環への単射 $*$-環準同型写像であるので、Banach環とC*-環のスペクトル理論定理10.2よりノルムを保存する。よって、 $$ \lVert T_1\otimes\cdots\otimes T_N\rVert\leq \lVert T_1\rVert\cdots\lVert T_N\rVert $$ が成り立つ。逆の不等式を示す。任意の $v_j\in \mathcal{H}_j$ $(j=1,\ldots,N)$ に対し、 $$ \lVert T_1v_1\rVert\cdots\lVert T_Nv_N\rVert=\lVert T_1v_1\otimes\cdots\otimes T_Nv_N\rVert\leq \lVert T_1\otimes\cdots\otimes T_N\rVert\lVert v_1\rVert\cdot\lVert v_N\rVert $$ であるから、 $$ \lVert T_1\rVert\cdots\lVert T_N\rVert=\sup\{(\lVert T_1v_1\rVert\cdots\lVert T_Nv_N\rVert:v_j\in \mathcal{H}_j,\text{ }\lVert v_j\rVert\leq 1\text{ }(j=1,\ldots,N)\}\leq\lVert T_1\otimes\cdots\otimes T_N\rVert $$ である。よって $\lVert T_1\otimes\cdots\otimes T_N\rVert=\lVert T_1\rVert\cdots\lVert T_N\rVert$ が成り立つ。

  • $(2)$ 一般の場合を示す。$T_j^*T_j\in \mathbb{B}(\mathcal{H}_j)$、$\lVert T_j^*T_j\rVert=\lVert T_j\rVert^2$ $(j=1,\ldots,N)$ であるから $(1)$ より、

$$ \lVert T_1^*T_1\otimes\cdots\otimes T_N^*T_N\rVert=\lVert T_1^*T_1\rVert\cdots\lVert T_N^*T_N\rVert=(\lVert T_1\rVert\cdots\lVert T_N\rVert)^2 $$ である。よって、 $$ T_1\odot\cdots\odot T_N\colon\bigodot_{j=1}^{N}\mathcal{H}_j\ni v_1\otimes\cdots\otimes v_N\mapsto T_1v_1\otimes\cdots\otimes T_Nv_N\in \bigotimes_{j=1}^{N}\mathcal{K}_j $$ は任意の $v\in \bigodot_{j=1}^{N}\mathcal{H}_j$ に対し、 $$ \lVert (T_1\odot \cdots\odot T_N)v\rVert^2=(v\mid (T_1^*T_1\odot \cdots\odot T_N^*T_N)v)\leq \lVert (\lVert T_1\rVert\cdots\lVert T_N\rVert\lVert v\rVert)^2 $$ を満たすので有界線形作用素であり、 $$ \lVert T_1\odot \cdots\odot T_N\rVert\leq \lVert T_1\rVert\cdots\lVert T_N\rVert $$ が成り立つ。ゆえに、 $$ T_1\otimes\cdots\otimes T_N=\overline{T_1\odot \cdots \odot T_N}\in \mathbb{B}\left(\bigotimes_{j=1}^{N}\mathcal{H}_j,\text{ }\bigotimes_{j=1}^{N}\mathcal{K}_j\right) $$ であり、 $$ \lVert T_1\otimes\cdots\otimes T_N\rVert=\lVert T_1\odot \cdots\odot T_N\rVert\leq \lVert T_1\rVert\cdots\lVert T_N\rVert $$ が成り立つ。逆の不等式が成り立つことは $(1)$ と全く同様にして示せる。

定理12.13(テンソル積射影値測度の一意存在)

$\mathcal{H}_j$ をHilbert空間、$X_j$ を第二可算局所コンパクトHausdorff空間、$E_j\colon\mathcal{B}_{X_j}\rightarrow \mathbb{P}(\mathcal{H}_j)$ を射影値測度とする $(j=1,\ldots,N)$。このとき射影値測度 $$ E\colon\mathcal{B}_{X_1\times\cdots\times X_N}\rightarrow\mathbb{P}(\mathcal{H}_1\otimes\cdots\otimes \mathcal{H}_N) $$ で、 $$ E(B_1\times\cdots\times B_N)=E_1(B_1)\otimes\cdots\otimes E_N(B_N)\quad(\forall B_1\in\mathcal{B}_{X_1},\ldots,B_N\in\mathcal{B}_{X_N}) $$ を満たすものが唯一つ存在する。

Proof.

存在を示す。$\mathcal{H}\colon=\mathcal{H}_1\otimes\cdots\otimes \mathcal{H}_N$ とおく。 各 $X_j$ は第二可算局所コンパクトHausdorff空間であるから、測度と積分1:測度論の基礎用語命題2.8より、 $$ X\colon=X_1\times \cdots\times X_N $$ も第二可算局所コンパクトHausdorff空間であり、 $$ \mathcal{B}_X=\mathcal{B}_{X_1}\otimes\cdots\otimes \mathcal{B}_{X_N}=\sigma(\mathcal{C}) $$ である。ただし $\mathcal{C}$ は半集合代数(測度と積分3:測度論の基本定理(1)定義12.1) $$ \mathcal{C}=\mathcal{B}_{X_1}\times\cdots\times \mathcal{B}_{X_N}=\{B_1\times\cdots\times B_N:B_1\in \mathcal{B}_{X_1},\ldots,B_N\in \mathcal{B}_{X_N}\} $$ である。今、 $$ E^{(0)}\colon\mathcal{C}\ni B_1\times\cdots\times B_N\mapsto E_1(B_1)\otimes\cdots\otimes E_N(B_N)\in \mathbb{P}(\mathcal{H}) $$ とおく。$C_1,C_2\in\mathcal{C}$ が互いに交わらないならば、$E^{(0)}(C_1),E^{(0)}(C_2)\in \mathbb{P}(\mathcal{H})$ は明らかに直交する。$E^{(0)}$ が $\mathcal{C}$ 上で $\sigma$-加法的であること、すなわち $\mathcal{C}$ の非交叉列 $(C_n)_{n\in \mathbb{N}}$ で $\bigcup_{n\in\mathbb{N}}C_n\in\mathcal{C}$ なるものに対し、 $$ E^{(0)}\left(\bigcup_{n\in\mathbb{N}}C_n\right)=\sum_{n\in \mathbb{N}}E^{(0)}(C_n)\quad\quad(*) $$ が成り立つことを示す。そのためには $\mathcal{H}$ における $$ \bigodot_{j=1}^{N}\mathcal{H}_j=\text{span}\{v_1\otimes\cdots\otimes v_N:v_1\in\mathcal{H}_1,\ldots,v_N\in\mathcal{H}_N\} $$ の稠密性より、任意の $u_1,v_1\in\mathcal{H}_1,\ldots,u_N,v_N\in\mathcal{H}_N$ に対し、 $$ u=u_1\otimes\cdots\otimes u_N,\quad v=v_1\otimes\cdots\otimes v_N $$ とおいて、 $$ \left(u\mid E^{(0)}\left(\bigcup_{n\in\mathbb{N}}C_n\right)v\right) =\left(u\mid \sum_{n\in \mathbb{N}}E^{(0)}(C_n)v\right) $$ が成り立つことを示せば十分である。しかし任意の $B_1\in\mathcal{B}_{X_1},\ldots,B_N\in\mathcal{B}_{X_N}$ に対し、 $$ \begin{aligned} (u\mid E^{(0)}(B_1\times\cdots\times B_N)v)&=(u_1\mid E_1(B_1)v_1)\cdots(u_N\mid E_N(B_N)v_N)\\ &=E_{1,u_1,v_1}(B_1)\cdots E_{N,u_N,v_N}(B_N)\quad\quad(**) \end{aligned} $$ であり、偏極恒等式より各 $j\in \{1,\ldots,N\}$ に対し複素数値Borel測度 $E_{j,u_j,v_j}\colon\mathcal{B}_{X_j}\rightarrow\mathbb{C}$ は有限Borel測度の線形結合であるから、有限Borel測度の直積測度を考えることにより、 $$ \mathcal{C}\ni B_1\times\cdots\times B_N\mapsto E_{1,u_1,v_1}(B_1)\cdots E_{N,u_N,v_N}(B_N)\in \mathbb{C} $$ は $\mathcal{B}_X=\sigma(\mathcal{C})$ 上のある複素数値Borel測度 $$ E^{(0)}_{u,v}\colon\mathcal{B}_X\rightarrow \mathbb{C} $$ に拡張できることが分かる。$(**)$ より、 $$ (u\mid E^{(0)}(C)v)=E^{(0)}_{u,v}(C)\quad(\forall C\in\mathcal{C}) $$ であるから、 $$ \left(u\mid E^{(0)}\left(\bigcup_{n\in\mathbb{N}}C_n\right)v\right) =E^{(0)}_{u,v}\left(\bigcup_{n\in\mathbb{N}}C_n\right)=\sum_{n\in\mathbb{N}}E^{(0)}_{u,v}(C_n)=\sum_{n\in\mathbb{N}}(u\mid E^{(0)}(C_n)v) =\left(u\mid \sum_{n\in\mathbb{N}}E^{(0)}(C_n)v\right) $$ である。($(E^{(0)}(C_n))_{n\in\mathbb{N}}$ は射影作用素の直交族であることに注意。)ゆえに $(*)$ が成り立つ。$\mathcal{A}(\mathcal{C})$ を半集合代数 $\mathcal{C}$ から生成される有限加法族とすると、測度と積分3:測度論の基本定理(1)命題13.2と全く同様にして、$E^{(0)}\colon\mathcal{C}\rightarrow\mathbb{P}(\mathcal{H})$ は、$\sigma$-加法的な $$ E^{(1)}\colon\mathcal{A}(\mathcal{C})\rightarrow\mathbb{P}(\mathcal{H}) $$ に一意拡張できる。任意の $v\in\mathcal{H}$ に対し、 $$ \mathcal{A}(\mathcal{C})\ni A\mapsto (v\mid E^{(1)}(A)v)\in [0,\infty) $$ は有限加法族 $\mathcal{A}(\mathcal{C})$ 上の $\sigma$-加法的測度であるからCarathéodoryの拡張定理(測度と積分3:測度論の基本定理(1)定理13.7)より $\mathcal{B}_X=\sigma(\mathcal{A}(\mathcal{C}))$ 上の有限Borel測度に一意拡張できる。よって偏極恒等式より任意の $u,v\in\mathcal{H}$ に対し複素数値Borel測度 $\mu_{u,v}\colon\mathcal{B}_X\rightarrow\mathbb{C}$ で、 $$ \mu_{u,v}(A)=(u\mid E^{(1)}(A)v)\quad(\forall A\in\mathcal{A}(\mathcal{C}))\quad\quad(***) $$ を満たすものが存在する。そして単調族定理(測度と積分3:測度論の基本定理(1)定理12.8)により $(***)$ を満たす複素数値Borel測度は $\mu_{u,v}$ は唯一つである。[5] この一意性より任意の $B\in \mathcal{B}_X$ に対し、 $$ \mathcal{H}\times \mathcal{H}\ni (u,v)\mapsto \mu_{u,v}(B)\in \mathbb{C} $$ は準双線形汎関数である。今、任意の $B\in\mathcal{B}_X$ に対し、 $$ \lvert \mu_{u,v}(B)\rvert\leq \lVert u\rVert\lVert v\rVert\quad(\forall u,v\in\mathcal{H})\quad\quad(****) $$ が成り立つことを示す。$X$ は第二可算局所コンパクトHausdorff空間であるから、測度と積分7:局所コンパクトHausdorff空間上のRadon測度定理31.5より任意の $u,v\in\mathcal{H}$ に対し $\mu_{u,v}\colon\mathcal{B}_X\rightarrow\mathbb{C}$ は複素数値Radon測度である。よって $B$ を含む開集合の列 $(U_n)_{n\in\mathbb{N}}$ で $\lim_{n\rightarrow\infty}\mu_{u,v}(U_n)=\mu_{u,v}(B)$ を満たすものが取れるので、$(****)$ を示すには任意の開集合 $U\subset X$ に対し、 $$ \lvert \mu_{u,v}(U)\rvert\leq \lVert u\rVert\lVert v\rVert\quad(\forall u,v\in\mathcal{H}) $$ が成り立つことを示せばよい。$X$ の開集合の可算基底として $\mathcal{C}$ の元からなるものが取れるから、$U$ は $\mathcal{A}(\mathcal{C})$ の非交叉列の合併で表される。そこで $(A_n)_{n\in \mathbb{N}}$ を $\mathcal{A}(\mathcal{C})$ の非交叉列で $U=\bigcup_{n\in\mathbb{N}}A_n$ なるものとすると、$(E^{(1)}(A_n))_{n\in\mathbb{N}}$ は射影作用素の直交族であるので、その和 $\sum_{n\in\mathbb{N}}E^{(0)}(A_n)$ も射影作用素であるから、 $$ \begin{aligned} \lvert \mu_{u,v}(U)\rvert&=\left\lvert \sum_{n\in\mathbb{N}}\mu_{u,v}(A_n)\right\rvert=\left\lvert\sum_{n\in\mathbb{N}}(u\mid E^{(1)}(A_n)v)\right\rvert =\left\lvert \left(u\mid \sum_{n\in\mathbb{N}}E^{(1)}(A_n)v\right)\right\rvert\\ &\leq\lVert u\rVert \left\lVert \sum_{n\in\mathbb{N}}E^{(1)}(A_n)v\right\rVert\leq \lVert u\rVert\lVert v\rVert \end{aligned} $$ となる。よって $(****)$ が成り立つ。これより任意の $B\in\mathcal{B}_X$ に対し、$\mathcal{H}\times \mathcal{H}\ni (u,v)\mapsto \mu_{u,v}(B)\in\mathbb{C}$ はノルムが $1$ 以下の有界準双線形汎関数であるから、位相線形空間1:ノルムと内積定理7.1より作用素ノルムが $1$ 以下の $E(B)\in\mathbb{B}(\mathcal{H})$ で、 $$ (u\mid E(B)v)=\mu_{u,v}(B)\quad(\forall u,v\in\mathcal{H}) $$ を満たすものが一意的に定まる。これにより $E\colon\mathcal{B}_X\ni B\mapsto E(B)\in\mathbb{B}(\mathcal{H})$ を定義する。$(***)$ より、 $$ E(A)=E^{(1)}(A)\quad(\forall A\in {\cal A}({\cal C})$ $$ であり、特に $E(X)=E^{(1)}(A)=1$ である。任意の $u,v\in\mathcal{H}$ に対し、 $$ \mathcal{B}_X\ni B\mapsto (u\mid E(B)v)=\mu_{u,v}(B)\in\mathbb{C} $$ は複素数値測度であるから、$E(B)\in\mathbb{P}(\mathcal{H})$ $(\forall B\in\mathcal{B}_X)$ が成り立つことを示せば $E$ が求める射影値測度であることになる。任意の $v\in\mathcal{H}$ に対し $\mu_{v,v}$ は $\mathcal{A}(\mathcal{C})$ 上の $\sigma$-加法的測度 $\mathcal{A}(\mathcal{C})\ni A\mapsto (v\mid E^{(1)}(A)v)\in [0,\infty)$ をCarathéodoryの拡張定理により $\mathcal{B}_X=\sigma(\mathcal{A}(\mathcal{C}))$ 上に拡張した非負値測度であるから、 $$ (v\mid E(B)v)=\mu_{v,v}(B)\geq0\quad(\forall B\in\mathcal{B}_X) $$ である。よって $E(B)=E(B)^*$ $(\forall B\in\mathcal{B}_X)$ である。$E(A)=E^{(1)}(A)$ $(\forall A\in\mathcal{A}(\mathcal{C}))$ であるから、$E$ の $\mathcal{A}(\mathcal{C})$ 上への制限 $\mathcal{A}(\mathcal{C})\ni A\mapsto E(A)\in \mathbb{P}(\mathcal{H})$ は加法的である。よって、 $$ E(A\cap B)=E(A)E(B)\quad(\forall A,B\in\mathcal{A}(\mathcal{C})) $$ が成り立つ[6]。今、 $$ E(A\cap B)=E(A)E(B)\quad(\forall A,B\in\mathcal{B}_X)\quad\quad(*****) $$ が成り立つことを示す。これが成り立てば任意の $B\in\mathcal{B}_X$ に対し $E(B)^2=E(B)$ であるので、$E(B)\in \mathbb{P}(\mathcal{H})$ を示せたことになる。任意の $u,v\in\mathcal{H}$ を取り固定する。任意の $A\in \mathcal{A}(\mathcal{C})$ に対し、 $$ \begin{aligned} &\mathcal{B}_X\ni B\mapsto (u\mid E(A)E(B)v)\in \mathbb{C},\\ &\mathcal{B}_X\ni B\mapsto (u\mid E(A\cap B)v)\in \mathbb{C} \end{aligned} $$ はそれぞれ複素数値Borel測度であり、$\mathcal{A}(\mathcal{C})$ 上で一致する。よって単調族定理より、 $$ (u\mid E(A)E(B)v)=(u\mid E(A\cap B)v)\quad(\forall A\in\mathcal{A}(\mathcal{C}),\forall B\in\mathcal{B}_X) $$ が成り立つ。次に任意の $B\in\mathcal{B}_X$ に対し、 $$ \begin{aligned} &\mathcal{B}_X\ni A\mapsto (u\mid E(A)E(B)v)\in \mathbb{C},\\ &\mathcal{B}_X\ni A\mapsto (u\mid E(A\cap B)v)\in \mathbb{C} \end{aligned} $$ はそれぞれ複素数値Borel測度であり、$\mathcal{A}(\mathcal{C})$ 上で一致する。よって単調族定理より、 $$ (u\mid E(A)E(B)v)=(u\mid E(A\cap B)v)\quad(\forall A, B\in\mathcal{B}_X) $$ が成り立つ。$u,v\in\mathcal{H}$ は任意であるので、$(*****)$ が成り立つ。
一意性を示す。$E,F:{\cal B}_X\rightarrow \mathbb{P}({\cal H})$ が条件を満たす射影値測度であるとすると、$E,F$ は ${\cal A}({\cal C})$ 上で 一致する。$\{B\in {\cal B}_X:E(B)=F(B)\}$ は ${\cal A}({\cal C})$ を含む単調族であるから、${\cal A}({\cal C})$ から生成される単調族 ${\cal M}({\cal A}({\cal C}))$ を含む。単調族定理(測度と積分3:測度論の基本定理(1)定理12.8)より ${\cal B}_X=\sigma({\cal A}({\cal C}))={\cal M}({\cal A}({\cal C}))$ であるから、任意の $B\in {\cal B}_X$ に対し $E(B)=F(B)$ である。

定義12.14(テンソル積射影値測度)

$\mathcal{H}_j$ をHilbert空間、$X_j$ を第二可算局所コンパクトHausdorff空間、$E_j\colon\mathcal{B}_{X_j}\rightarrow \mathbb{P}(\mathcal{H}_j)$ を射影値測度とする $(j=1,\ldots,N)$。このとき定理12.13より、射影値測度 $$ E_1\otimes\cdots\otimes E_N\colon\mathcal{B}_{X_1\times\cdots\times X_N}\rightarrow\mathbb{P}(\mathcal{H}_1\otimes\cdots\otimes \mathcal{H}_N) $$ で、 $$ (E_1\otimes\cdots\otimes E_N)(B_1\times\cdots\times B_N)=E_1(B_1)\otimes\cdots\otimes E_N(B_N)\quad(\forall B_1\in\mathcal{B}_{X_1},\ldots,B_N\in\mathcal{B}_{X_N}) $$ を満たすものが唯一つ存在する。これを $E_1,\ldots,E_N$ のテンソル積射影値測度と言う。$E_1\otimes\cdots\otimes E_N$ は $\bigotimes_{j=1}^{N}E_j$ とも表す。

命題12.15(掛け算作用素を表す射影値測度のテンソル積は掛け算作用素を表す)

$X_j$ を第二可算局所コンパクトHausdorff空間、$\mu_j:\mathcal{B}_{X_j}\rightarrow[0,\infty]$ をRadon測度とする($j=1,\ldots,N$)。各 $j\in \{1,\ldots,N\}$ に対し $L^2(X_j,\mu_j)$ 上の掛け算作用素を表す射影値測度(定義10.2)を、 $$ E_{\mu_j}\colon\mathcal{B}_{X_j}\rightarrow \mathbb{P}(L^2(X_j,\mu_j)) $$ とおく。このとき、 $$ L^2(X_1\times \cdots\times X_N,\mu_1\otimes\cdots\otimes \mu_N)=\bigotimes_{j=1}^{N}L^2(X_j,\mu_j) $$ (定義12.9を参照)上の掛け算作用素を表す射影値測度 $$ E_{\mu_1\otimes\cdots\otimes \mu_N}\colon\mathcal{B}_{X_1\times\cdots\times X_N}\rightarrow \mathbb{P}(L^2(X_1\times\cdots\times X_N,\mu_1\otimes\cdots\otimes\mu_N)) $$ は、テンソル積射影値測度 $$ E_{\mu_1}\otimes\cdots\otimes E_{\mu_N}\colon\mathcal{B}_{X_1\times\cdots\times X_N}\rightarrow \mathbb{P}\left(\bigotimes_{j=1}^{N}L^2(X_j,\mu_j)\right) $$ に等しい。

Proof.

任意の $B_1\in\mathcal{B}_{X_1},\ldots,B_N\in\mathcal{B}_{X_N}$ に対し、 $$ E_{\mu_1\otimes\cdots\otimes \mu_N}(B_1\times\cdots\times B_N)=E_{\mu_1}(B_1)\cdots E_{\mu_N}(B_N) $$ が成り立つことを示せばよい。そのためには、 $$ \bigodot_{j=1}^{N}L^2(X_j,\mu_j)=\text{span}\left\{[f_1]\otimes\cdots\otimes [f_N]:[f_1]\in L^2(X_1,\mu_1),\ldots,[f_N]\in L^2(X_N,\mu_N)\right\} $$ の $\bigotimes_{j=1}^{N}L^2(X_j,\mu_j)$ における稠密性より、任意の $[f_1]\in L^2(X_1,\mu_1),\ldots,[f_N]\in L^2(X_N,\mu_N)$ に対し、 $$ E_{\mu_1\otimes\cdots\otimes \mu_N}(B_1\times\cdots\times B_N)([f_1]\otimes\cdots\otimes [f_N])=(E_{\mu_1}(B_1)\otimes\cdots\otimes E_{\mu_N}(B_N))([f_1]\otimes\cdots\otimes [f_N]) $$ が成り立つことを示せば十分であるが、 $$ \begin{aligned} &E_{\mu_1\otimes\cdots\otimes \mu_N}(B_1\times\cdots\times B_N)([f_1]\otimes\cdots\otimes [f_N])=[\chi_{B_1}f_1]\otimes\cdots\otimes [\chi_{B_N}f_N]\\ &=E_{\mu_1}(B_1)[f_1]\otimes\cdots\otimes E_{\mu_N}(B_N)[f_N]=(E_{\mu_1}(B_1)\otimes\cdots\otimes E_{\mu_N}(B_N))([f_1]\otimes\cdots\otimes [f_N]) \end{aligned} $$ である。よって成り立つ。

定理12.16(テンソル積射影値測度による積分)

$\mathcal{H}_j$ をHilbert空間、$X_j$ を第二可算局所コンパクトHausdorff空間、$E_j\colon\mathcal{B}_{X_j}\rightarrow \mathbb{P}(\mathcal{H}_j)$ を射影値測度とする $(j=1,\ldots,N)$。このとき任意のBorel関数 $f_j\colon X_j\rightarrow\mathbb{C}$ $(j=1,\ldots,N)$ に対し、 $$ \begin{aligned} &\int_{X_1\times\cdots\times X_N}f_1(x_1)\cdots f_N(x_N)d(E_1\otimes\cdots\otimes E_N)(x_1,\ldots,x_N)\\ &=\left(\int_{X_1}f_1(x_1)dE_1(x_1)\right)\otimes\cdots \otimes \left(\int_{X_N}f_N(x_N)dE_N(x_N)\right)\quad\quad(*) \end{aligned} $$ が成り立つ。

Proof.

$$ \mathcal{H}\colon=\mathcal{H}_1\otimes\cdots\otimes \mathcal{H}_N,\quad X\colon=X_1\times \cdots\times X_N,\quad E\colon=E_1\otimes \cdots\otimes E_N\colon\mathcal{B}_X\rightarrow\mathbb{P}(\mathcal{H}) $$ とおく。各 $f_j\colon X_j\rightarrow\mathbb{C}$ がBorel単関数である場合は $(*)$ は明らかに成り立つ。また、 $$ \mathbb{B}(\mathcal{H_1})\times \cdots\times \mathbb{B}(\mathcal{H}_N) \ni (T_1,\ldots,T_N)\mapsto T_1\otimes\cdots\otimes T_N\in \mathbb{B}(\mathcal{H}) $$ は有界多重線形写像であり(定理12.12)、任意の有界Borel関数はBorel単関数の列により一様近似できる(測度と積分5:$L^p$ 空間の完備性と双対性命題22.2)ので、$(*)$ は各 $f_j\colon X_j\rightarrow\mathbb{C}$ が有界Borel関数の場合も成り立つ。各 $f_j\colon X_j\rightarrow\mathbb{C}$ が一般のBorel関数の場合に $(*)$ が成り立つことを示す。各 $j\in\{1,\ldots,N\}$ について有界Borel関数の列 $f_{j,n}\colon=f_{j}\chi_{(\lvert f_j\rvert\leq n)}$ $(\forall n\in\mathbb{N})$ を定義する。任意の $v_j\in D_{E_j}(f_j)$ $(j=1,\ldots,N)$ に対しLebesgue優収束定理より、 $$ \int_{X_j}f_j(x_j)dE_j(x_j)v_j=\lim_{n\rightarrow\infty}\int_{X_j}f_{j,n}(x_j)dE_j(x_j)v_j\quad(j=1,\ldots,N) $$ であるから、 $$ B_n\colon=(\lvert f_1\rvert\leq n)\times \cdots\times (\lvert f_N\rvert\leq n)\in \mathcal{B}_X\quad(\forall n\in\mathbb{N}) $$ とおけば、 $$ \begin{aligned} &\left\{\left(\int_{X_1}f_1(x_1)dE_1(x_1)\right)\otimes \cdots\otimes \left(\int_{X_N}f_N(x_N)dE_N(x_N)\right)\right\}(v_1\otimes\cdots\otimes v_N)\\ &=\left(\int_{X_1}f_1(x_1)dE_1(x_1)\right)v_1\otimes \cdots\otimes \left(\int_{X_N}f_N(x_N)dE_N(x_N)\right)v_N\\ &=\lim_{n\rightarrow\infty}\left(\int_{X_1}f_{1,n}(x_1)dE_1(x_1)\right)v_1\otimes \cdots\otimes \left(\int_{X_N}f_{N,n}(x_N)dE_N(x_N)\right)v_N\\ &=\lim_{n\rightarrow\infty}\left\{\left(\int_{X_1}f_{1,n}(x_1)dE_1(x_1)\right)\otimes \cdots\otimes \left(\int_{X_N}f_{N,n}(x_N)dE_N(x_N)\right)\right\}(v_1\otimes\cdots\otimes v_N)\\ &=\lim_{n\rightarrow\infty}\int_{X}f_{1,n}(x_1)\cdots f_{N,n}(x_N)dE(x_1,\ldots,x_N)(v_1\otimes\cdots\otimes v_N)\\ &=\lim_{n\rightarrow\infty}\int_{X}f_1(x_1)\cdots f_N(x_N)dE(x_1,\ldots,x_N)E(B_n)(v_1\otimes\cdots\otimes v_N)\\ &=\int_{X}f_1(x_1)\cdots f_N(x_N)dE(x_1,\ldots,x_N)(v_1\otimes\cdots\otimes v_N) \end{aligned} $$ となる。ただし $4$ 番目の等号で有界Borel関数に対して $(*)$ が成り立つことを用い、最後の等号で $\lim_{n\rightarrow\infty}E(B_n)(v_1\otimes\cdots\otimes v_N)=v_1\otimes\cdots\otimes v_N$ であること射影値測度による積分が閉線形作用素であることを用いた。よって、 $$ \bigotimes_{j=1}^{N}\int_{X_j}f_j(x_j)dE_j(x_j)=\overline{\bigodot_{j=1}^{N}\int_{X_j}f_j(x_j)dE_j(x_j)}\subset \int_{X}f_1(x_1)\cdots f_N(x_N)dE(x_1,\ldots,x_N)\quad\quad(**) $$ が成り立つ。逆の包含関係を示す。任意の $v\in D_E(f_1\times\cdots\times f_N)$ を取り、 $$ v_m\in \bigodot_{j=1}^{N}\mathcal{H}_j\quad(\forall m\in\mathbb{N}),\quad \lim_{m\rightarrow\infty}\lVert v-v_m\rVert=0 $$ なるものを取る。このとき、$v=\lim_{n\rightarrow\infty}E(B_n)v=\lim_{n\rightarrow\infty}\lim_{m\rightarrow\infty}E(B_n)v_m$ であるから、 $$ \begin{aligned} &\left(\int_{X}f_1(x_1)\cdots f_N(x_N)dE(x_1,\ldots,x_N)\right)v =\lim_{n\rightarrow\infty}\left(\int_{X}f_{1,n}(x_1)\cdots f_{N,n}(x_N)dE(x_1,\ldots,x_N)\right)v\\ &=\lim_{n\rightarrow\infty}\left(\bigotimes_{j=1}^{N}\int_{X_j}f_{j,n}(x_j)dE_j(x_j)\right)v =\lim_{n\rightarrow\infty}\lim_{m\rightarrow\infty}\left(\bigodot_{j=1}^{N}\int_{X_j}f_{j,n}(x_j)dE_j(x_j)\right)v_m\\ &=\lim_{n\rightarrow\infty}\lim_{m\rightarrow\infty}\left(\bigodot_{j=1}^{N}\int_{X_j}f_{j}(x_j)dE_j(x_j)\right)E(B_n)v_m =\lim_{n\rightarrow\infty}\left(\bigotimes_{j=1}^{N}\int_{X_j}f_{j}(x_j)dE_j(x_j)\right)E(B_n)v\\ &=\left(\bigotimes_{j=1}^{N}\int_{X_j}f_j(x_j)dE_j(x_j)\right)v \end{aligned} $$ となる。ただし $1$ 番目の等号でLebesgue優収束定理を用い、$2$ 番目の等号で有界Borel関数に対して $(*)$ が成り立つことを用い、 $3$ 番目の等号で、 $$ \bigotimes_{j=1}^{N}\int_{X_j}f_{j,n}(x_j)dE_j(x_j)\in \mathbb{B}({\cal H})\quad(\forall n\in \mathbb{N}) $$ であることを用いた。よって $(**)$ の逆の包含関係が成り立つ。

定理12.17(自己共役作用素のテンソル積のBorel汎関数計算)

各 $j\in \{1,\ldots,N\}$ に対しHilbert空間 $\mathcal{H}_j$ 上の自己共役作用素 $T_j$ が与えられているとする。このとき $T_1\otimes\cdots\otimes T_N$ は $\mathcal{H}_1\otimes\cdots\otimes \mathcal{H}_N$ 上の自己共役作用素であり、 $$ \sigma(T_1\otimes\cdots\otimes T_N)=\overline{\{\lambda_1\cdots\lambda_N:\lambda_1\in \sigma(T_1),\ldots,\lambda_N\in \sigma(T_N)\}}\quad\quad(*) $$ が成り立つ。また各 $T_j$ のスペクトル測度を $E^{T_j}\colon\mathcal{B}_{\sigma(T_j)}\rightarrow\mathbb{P}(\mathcal{H}_j)$ とすると、任意のBorel関数 $f_j\colon\sigma(T_j)\rightarrow\mathbb{C}$ $(j=1,\ldots,N)$ に対し、 $$ f_1(T_1)\otimes\cdots\otimes f_N(T_N)=\int_{\sigma(T_1)\times\cdots\times \sigma(T_N)}f_1(\lambda_1)\cdots f_N(\lambda_N)d(E^{T_1}\otimes\cdots\otimes E^{T_N})(\lambda_1,\ldots,\lambda_N)\quad\quad(**) $$ が成り立ち、連続関数 $f_j\colon\sigma(T_j)\rightarrow\mathbb{C}$ $(j=1,\ldots,N)$ に対し、 $$ \sigma(f_1(T_1)\otimes\cdots\otimes f_N(T_N))=\overline{\{f_1(\lambda_1)\cdots f_N(\lambda_N):\lambda_1\in\sigma(T_1),\ldots,\lambda_N\in \sigma(T_N)\}}\quad\quad(***) $$ が成り立つ。また、任意のBorel関数 $f:\sigma(T_1\otimes \cdots\otimes T_N)\rightarrow\mathbb{C}$ に対し、 $$ f(T_1\otimes \cdots\otimes T_N)=\int_{\sigma(T_1)\times\cdots\times \sigma(T_N)}f(\lambda_1\cdots \lambda_N)d(E^{T_1}\otimes\cdots\otimes E^{T_N})(\lambda_1,\ldots,\lambda_N) $$ が成り立ち、連続関数 $f\colon\sigma(T_1\otimes\cdots\otimes T_N)\rightarrow\mathbb{C}$ に対し、 $$ \sigma(f(T_1\otimes\cdots\otimes T_N))=\overline{\{f(\lambda_1\cdots\lambda_N):\lambda_1\in \sigma(T_1),\ldots,\lambda_N\in\sigma(T_N)\}}\quad\quad(****) $$ が成り立つ。

Proof.

Borel汎関数計算の定義(定義8.5)より、任意のBorel関数 $f_j\colon\sigma(T_j)\rightarrow\mathbb{C}$ に対し、 $$ f_j(T_j)=\int_{\sigma(T_j)}f_j(\lambda_j)dE^{T_j}(\lambda_j)\quad(j=1,\ldots,N) $$ であるから、定理12.16より $(**)$ が成り立つ。特に、 $$ T_1\otimes\cdots\otimes T_N=\int_{\sigma(T_1)\times\cdots\times \sigma(T_N)}\lambda_1\cdots \lambda_Nd(E^{T_1}\otimes\cdots\otimes E^{T_N})(\lambda_1,\ldots,\lambda_N)\quad\quad(*****) $$ であり、右辺の被積分関数は実数値であるから $T_1\otimes\cdots\otimes T_N$ は $\mathcal{H}_1\otimes\cdots\otimes \mathcal{H}_N$ 上の自己共役作用素である(命題6.8の $(2)$ を参照)。そして任意のBorel関数 $f\colon\sigma(T_1\otimes\cdots\otimes T_N)\rightarrow \mathbb{C}$ に対し $(*****)$ と命題8.6より、 $$ f(T_1\otimes\cdots\otimes T_N)=\int_{\sigma(T_1)\times\cdots\times \sigma(T_N)}f(\lambda_1\cdots\lambda_N)d(E^{T_1}\otimes\cdots\otimes E^{T_N})(\lambda_1,\ldots,\lambda_N) $$ が成り立つ。$\sigma(T_1)\times\cdots\times \sigma(T_N)$ の任意の空でない開集合 $U$ に対し、$U_1\times\cdots\times U_N\subset U$ を満たす空でない開集合 $U_j\subset \sigma(T_j)$ $(j=1,\ldots,N)$ が取れる。命題8.7の $(4)$ より $E^{T_j}(U_j)>0$ であるので、定理12.12より、 $$ (E^{T_1}\otimes\cdots\otimes E^{T_N})(U)\geq E^{T_1}(U_1)\otimes\cdots\otimes E^{T_N}(U_N)>0 $$ である。よって系6.13より連続関数 $f_j\colon\sigma(T_j)\rightarrow\mathbb{C}$ $(j=1,\ldots,N)$ に対し $(***)$ が成り立つ。特に $(*)$ が成り立つ。また系6.13より連続関数 $f:\sigma(T_1\otimes\cdots\otimes T_N)\rightarrow\mathbb{C}$ に対し $(****)$ が成り立つ。

13. コンパクト作用素

定義13.1(有限階作用素)

$\mathcal{H}$ をHilbert空間とする。$T\in \mathbb{B}(\mathcal{H})$ が有限階作用素であるとは ${\rm dim}{\rm Ran}(T)<\infty$ が成り立つことを言う。有限階作用素全体を $\mathbb{B}_{\rm f}(\mathcal{H})$ と表すこととする。

命題13.2

Hilbert空間 $\mathcal{H}$ 上の有限階作用素全体 $\mathbb{B}_{\rm f}(\mathcal{H})$ は $C^*$-環 $\mathbb{B}(\mathcal{H})$ の $*$-イデアル(速習「線形空間論」定義2.2)である。

Proof.

$\mathbb{B}_{\rm f}(\mathcal{H})$ が対合演算で閉じていることのみを示す。(それ以外は自明である。)任意の $T\in \mathbb{B}_{\rm f}(\mathcal{H})$ を取る。${\rm Ran}(T)$ は有限次元であるので $\mathcal{H}$ の閉部分空間である(位相線形空間1:ノルムと内積系4.3)から、$\mathcal{H}$ は、 $$ \mathcal{H}={\rm Ran}(T)\oplus ({\rm Ran}(T))^{\perp}={\rm Ran}(T)\oplus {\rm Ker}(T^*) $$ と直交分解される。よって、 $$ {\rm Ran}(T^*)=T^*(\mathcal{H})=T^*({\rm Ran}(T)) $$ であるので、${\rm Ran}(T^*)$ は有限次元である。ゆえに $T^*\in \mathbb{B}_{\rm f}(\mathcal{H})$ であるから $\mathbb{B}_{\rm f}(\mathcal{H})$ は対合演算で閉じている。

定義13.3(コンパクト作用素環 $\mathbb{B}_0(\mathcal{H})$)

$\mathcal{H}$ をHilbert空間とする。$\mathcal{H}$ 上の有限階作用素全体 $\mathbb{B}_{\rm f}(\mathcal{H})$ の作用素ノルムによる閉包を、 $$ \mathbb{B}_0(\mathcal{H})\colon=\overline{\mathbb{B}_{\rm f}(\mathcal{H})}^{\lVert \cdot\rVert} $$ と表し、$\mathbb{B}_0(\mathcal{H})$ の元を $\mathcal{H}$ 上のコンパクト作用素と言う。命題13.2 より $\mathbb{B}_0(\mathcal{H})$ は $C^*$-環 $\mathbb{B}(\mathcal{H})$ の閉 $*$ -イデアルである。$\mathbb{B}_0(\mathcal{H})$ を $\mathcal{H}$ 上のコンパクト作用素環と言う。

命題13.4(Hilbert空間が無限次元であることと恒等作用素がコンパクト作用素であることは同値)

$\mathcal{H}$ をHilbert空間とする。次は互いに同値である。

  • $(1)$ $\mathcal{H}$ は有限次元である。
  • $(2)$ $\mathbb{B}_{\rm f}(\mathcal{H})=\mathbb{B}_0(\mathcal{H})=\mathbb{B}(\mathcal{H})$ が成り立つ。
  • $(3)$ コンパクト作用素環 $\mathbb{B}_0(\mathcal{H})$ は $\mathbb{B}(\mathcal{H})$ の単位元 $1$(恒等作用素)を含む。
Proof.

$(1)\Leftrightarrow(2)\Rightarrow(3)$ は自明である。
$(3)$ が成り立つとすると $\lVert 1-T\rVert<1$ を満たす $T\in \mathbb{B}_{\rm f}(\mathcal{H})$ が取れる。よってBanach環とC*-環のスペクトル理論命題1.2より $T=1-(1-T)$ は $\mathbb{B}(\mathcal{H})$ の可逆元であるから $1=TT^{-1}\in \mathbb{B}_{\rm f}(\mathcal{H})$ である。ゆえに $\mathcal{H}={\rm Ran}(1)$ は有限次元なので $(1)$ が成り立つ。

定義13.5(Schatten形式)

$\mathcal{H},\mathcal{K}$ をHilbert空間、$u\in \mathcal{H},v\in \mathcal{K}$ とする。このとき $u\odot v\in\mathbb{B}(\mathcal{K},\mathcal{H})$ を、 $$ u\odot v\colon \mathcal{K}\ni w\mapsto (v\mid w)u\in \mathcal{H} $$ と定義する。 $$ \mathcal{H}\times \mathcal{K}\ni (u,v)\mapsto u\odot v\in \mathbb{B}(\mathcal{K},\mathcal{H}) $$ をSchatten形式と言う。

命題13.6(Schattten形式の基本的性質)

$\mathcal{H},\mathcal{K}$ をHilbert空間とする。Schatten形式に関して次が成り立つ。

  • $(1)$ $\mathcal{H}\times \mathcal{K}\ni (u,v)\mapsto u\odot v\in \mathbb{B}(\mathcal{K},\mathcal{H})$ は第一成分に関して線形、第二成分に関して反線形である。
  • $(2)$ 任意の $u\in \mathcal{H},v\in \mathcal{K}$ に対し $\lVert u\odot v\rVert=\lVert u\rVert\lVert v\rVert$.
  • $(3)$ 任意の $u\in \mathcal{H}, v\in \mathcal{K}$ に対し $(u\odot v)^*=v\odot u$.
  • $(4)$ 任意の $u\in \mathcal{H},v\in \mathcal{K},T\in \mathbb{B}(\mathcal{H}),S\in \mathbb{B}(\mathcal{K})$ に対し、

$$ T(u\odot v)=(Tu) \odot v,\quad (u\odot v)T=(u\odot T^*v) $$ が成り立つ。

Proof.

全て定義13.5より直接的に示せる。

命題13.7(Schatten形式と射影作用素)

$\mathcal{H}$ をHilbert空間とする。

  • $(1)$ 任意の単位ベクトル $e\in \mathcal{H}$ に対し $e\odot e\in \mathbb{B}_{\rm f}(\mathcal{H})$ は $1$ 次元部分空間 $\mathbb{C}e\subset \mathcal{H}$ の上への射影作用素である。また $e_1,e_2\in\mathcal{H}$ が互いに直交する単位ベクトルであるならば射影作用素 $e_1\odot e_1$ と $e_2\odot e_2$ は直交する。
  • $(2)$ $\mathcal{K}\subset \mathcal{H}$ を $\{0\}$ ではない閉部分空間、$P\in\mathbb{B}(\mathcal{H})$ を $\mathcal{K}$ の上への射影作用素とし、$\mathcal{K}$ の添字付けられたCONSを $(e_j)_{j\in J}$ とすると、

$$ P=\sum_{j\in J}e_j\odot e_j $$ が成り立つ。(右辺は射影作用素の直交族 $(e_j\odot e_j)_{j\in J}$ の和(定義2.6)である。)

Proof.

$(1)$ は 命題13.6の $(3),(4)$ より自明である。$(2)$ を示す。$(1)$ より $(e_j\odot e_j)_{j\in J}$ は射影作用素の直交族である。そして $(e_j)_{j\in J}$ が $\mathcal{K}$ のCONSであることから、任意の $v\in \mathcal{H}$ に対し、 $$ Pv=\sum_{j\in J}(e_j\mid Pv)e_j=\sum_{j\in J}(Pe_j\mid v)e_j=\sum_{j\in J}(e_j\mid v)e_j=\left(\sum_{j\in J}e_j\odot e_j\right)v $$ が成り立つ。よって $P=\sum_{j\in J}e_j\odot e_j$ が成り立つ。

補題13.8(Hilbert空間上の単位ノルム閉球の弱コンパクト性)

$\mathcal{H}$ をHilbert空間とする。このとき単位ノルム閉球 $(\mathcal{H})_1=\{v\in\mathcal{H}:\lVert v\rVert\leq 1\}$ は弱位相(位相線形空間3:Hahn-Banachの定理とKrein-Milmanの端点定理定義12.2)に関してコンパクトである。

Proof.

$\mathcal{H}^*$ の単位ノルム閉球 $(\mathcal{H}^*)_1=\{\varphi\in \mathcal{H}^*:\lVert\varphi\rVert\leq1\}$ はAlaogluの定理(位相線形空間2:セミノルム位相と汎弱位相定理10.3)より弱 $*$-位相でコンパクトである。Rieszの定理より $\mathcal{H}\ni v\mapsto (v\mid \cdot)\in \mathcal{H}^*$ はノルムを保存する全単射であり、$\mathcal{H}$ のネット $(v_{\lambda})_{\lambda\in\Lambda}$ と $v\in \mathcal{H}$ に対し、 $$ \begin{aligned} v_{\lambda}\rightarrow v\quad(\text{w.r.t.弱位相})\quad\Leftrightarrow\quad (u\mid v_{\lambda})\rightarrow(u\mid v)\quad(\forall u\in\mathcal{H})\quad\Leftrightarrow\quad \Leftrightarrow\quad (v_{\lambda}\mid \cdot)\rightarrow(v\mid \cdot)\quad(\text{w.r.t.弱 $*$-位相}) \end{aligned} $$ であるから、$\mathcal{H}\ni v\mapsto (v\mid \cdot)\in \mathcal{H}^*$ は弱位相と弱 $*$-位相に関して同相写像である(ネットによる位相空間論定理3)。よって $({\cal H}^*)_1$の弱$*$-位相に関するコンパクト性より $(\mathcal{H})_1$ は弱位相でコンパクトである。

補題13.9(有限階作用素の弱位相 - ノルム位相に関する連続性)

$\mathcal{H}$ をHilbert空間、$T\in \mathbb{B}_{\rm f}(\mathcal{H})$ とする。このとき $T\colon\mathcal{H}\rightarrow\mathcal{H}$ は弱位相とノルム位相に関して連続である。

Proof.

有限次元部分空間 ${\rm Ran}(T)\subset \mathcal{H}$ のCONSを $e_1,\ldots,e_N$ とすると、命題13.7の $(2)$ より、 $$ P\colon=\sum_{j=1}^{N}e_j\odot e_j $$ は ${\rm Ran}(T)$ の上への射影作用素である。よって、 $$ Tv=PTv=\sum_{j=1}^{N}(e_j\odot e_j)Tv=\sum_{j=1}^{N}(e_j\mid Tv)e_j=\sum_{j=1}^{N}(T^*e_j\mid v)e_j\quad(\forall v\in\mathcal{H}) $$ である。$\mathcal{H}$ のネット $(v_{\lambda})_{\lambda\in\Lambda}$ が $v\in \mathcal{H}$ に弱位相で収束するならば、 $$ (T^*e_j\mid v_{\lambda})\rightarrow(T^*e_j\mid v)\quad(j=1,\ldots,N) $$ であるから、ノルム位相で、 $$ Tv_{\lambda}=\sum_{j=1}^{N}(T^*e_j\mid v_{\lambda})\rightarrow\sum_{j=1}^{N}(T^*e_j\mid v)=Tv $$ が成り立つ。よってネットによる位相空間論定理3より $T:\mathcal{H}\rightarrow\mathcal{H}$ は弱位相とノルム位相に関して連続である。

定理13.10(コンパクト作用素の特徴付け)

$\mathcal{H}$ をHilbert空間、$(e_j)_{j\in J}$ を $\mathcal{H}$ の添字付けられたCONS、$\mathcal{F}_J$ を $J$ の有限部分集合全体に集合の包含関係による順序を入れた有向集合とし、 $$ P_F\colon =\sum_{j\in F}e_j\odot e_j\quad(\forall F\in\mathcal{F}_J) $$ として有限階射影作用素からなる単調増加ネット $(P_F)_{F\in \mathcal{F}_J}$ を定義する。また $(\mathcal{H})_1=\{v\in \mathcal{H}:\lVert v\rVert\leq1\}$ とおく。このとき $T\in \mathbb{B}(\mathcal{H})$ に対し次は互いに同値である。

  • $(1)$ $T\in \mathbb{B}_0(\mathcal{H})$.
  • $(2)$ $(\mathcal{H})_1\ni v\mapsto Tv\in \mathcal{H}$ は弱位相とノルム位相に関して連続である。
  • $(3)$ $T((\mathcal{H})_1)$ はノルム位相に関してコンパクトである。
  • $(4)$ $T((\mathcal{H})_1)$ はノルム位相に関してコンパクトな集合に含まれる。
  • $(5)$ $\lVert P_FT-T\rVert\rightarrow0$ が成り立つ。
Proof.

$(1)\Rightarrow(2)$ を示す。$(1)$ が成り立つとして $(2)$ が成り立つことを示す。そのためには $(\mathcal{H})_1$ のネット $(v_{\lambda})_{\lambda\in\Lambda}$ が弱位相で $v\in (\mathcal{H})_1$ に収束すると仮定して $\lVert Tv_{\lambda}-Tv\rVert\rightarrow0$ が成り立つことを示せばよい。任意の $\epsilon\in (0,\infty)$ に対しコンパクト作用素の定義より、 $$ \lVert T-S\rVert<\frac{\epsilon}{3} $$ を満たす $S\in \mathbb{B}_{\rm f}(\mathcal{H})$ が取れる。そして補題13.9より、 $$ \lVert Sv_{\lambda}-Sv\rVert<\frac{\epsilon}{3}\quad(\forall \lambda\geq\lambda_0) $$ を満たす $\lambda_0\in\Lambda$ が取れる。よって任意の $\lambda\geq\lambda_0$ に対し、 $$ \lVert Tv_{\lambda}-Tv\rVert\leq \lVert Tv_{\lambda}-Sv_{\lambda}\rVert+\lVert Sv_{\lambda}-Sv\rVert+\lVert Sv-Tv\rVert \leq 2\lVert T-S\rVert+\lVert Sv_{\lambda}-Sv\rVert<\epsilon $$ が成り立つので、$\lVert Tv_{\lambda}-Tv\rVert\rightarrow0$ が成り立つ。
$(2)\Rightarrow(3)$ は 補題13.8による。$(3)\Rightarrow(4)$ は自明である。
$(4)\Rightarrow(5)$ を示す。$(4)$ が成り立ち、$(5)$ が成り立たないと仮定して矛盾を導く。このときある $\epsilon\in(0,\infty)$ が存在し、任意の $F\in \mathcal{F}_J$ に対し $F'\in \mathcal{F}_J$ で、 $$ F'\supset F,\quad \lVert P_{F'}T-T\rVert>\epsilon $$ を満たすものが取れる。よって作用素ノルムの定義より任意の $F\in \mathcal{F}_J$ に対し $v_F\in (\mathcal{H})_1$ で、 $$ \lVert P_{F'}Tv_F-Tv_F\rVert>\epsilon $$ を満たすものが取れる。$(Tv_F)_{F\in \mathcal{F}_J}$ はノルム位相でコンパクトな集合のネットであるから、ネットによる位相空間論定理5より、$(Tv_F)_{F\in\mathcal{F}_J}$ はノルム位相に関する堆積点 $u$ を持つ。 $$ \begin{aligned} \epsilon&<\lVert P_{F'}Tv_F-Tv_F\rVert=\lVert (1-P_{F'})Tv_F\rVert\leq \lVert (1-P_{F'})(Tv_F-u)\rVert+\lVert (1-P_{F'})u\rVert\\ &\leq \lVert Tv_F-u\rVert+\lVert u-P_{F'}u\rVert\quad(\forall F\in\mathcal{F}_J)\quad\quad(*) \end{aligned} $$ であり、$(e_j)_{j\in J}$ は $\mathcal{H}$ のCONSなので $\lVert u-P_Fu\rVert\rightarrow0$ であるから、十分大きい $F_0\in \mathcal{F}_J$ を取れば、 $$ \lVert u-P_{F'}u\rVert<\frac{\epsilon}{2}\quad (\forall F\supset F_0) $$ となる。よって $(*)$ より、 $$ \frac{\epsilon}{2}<\lVert Tv_F-u\rVert\quad(\forall F\supset F_0) $$ となる。しかしこれは $u$ が $(Tv_F)_{F\in\mathcal{F}_J}$ の堆積点であることに矛盾する。ゆえに $(4)\Rightarrow(5)$ が成り立つ。
$(5)\Rightarrow(1)$ は自明である。

命題13.11

$\mathcal{H}$ をHilbert空間、$T\in \mathbb{B}_0(\mathcal{H})$ とする。このとき ${\rm Ran}(1-T)$ は $\mathcal{H}$ の閉部分空間である。

Proof.

$\mathcal{H}$ の直交分解 $\mathcal{H}={\rm Ker}(1-T)\oplus ({\rm Ker}(1-T))^{\perp}$ より、 $$ {\rm Ran}(1-T)=(1-T)(({\rm Ker}(1-T))^{\perp}) $$ である。これが $\mathcal{H}$ の閉部分空間であることを示すには、ある $\epsilon\in (0,\infty)$ に対し、 $$ \lVert (1-T)v\rVert\geq\epsilon\lVert v\rVert\quad(\forall v\in ({\rm Ker}(1-T))^{\perp}) $$ が成り立つことを示せば十分である。そこでこれが成り立たないと仮定して矛盾を導く。このとき $({\rm Ker}(1-T))^{\perp}$ の列 $(v_n)_{n\in\mathbb{N}}$ で、 $$ \lVert v_n\rVert=1,\quad \lVert (1-T)v_n\rVert<\frac{1}{n}\quad(\forall n\in\mathbb{N})\quad\quad(*) $$ を満たすものが取れる。$Tv_n\in T((\mathcal{H})_1)$ であるから、定理13.10より $(Tv_n)_{n\in\mathbb{N}}$ はノルム位相で収束する部分列 $(Tv_{k(n)})_{n\in\mathbb{N}}$ を持つ。そこでその収束点を、 $$ u=\lim_{n\rightarrow\infty}Tv_{k(n)} $$ とおく。$(*)$ より $\lim_{n\rightarrow\infty}(1-T)v_{k(n)}=0$ であるから、 $$ v_{k(n)}=(1-T)v_{k(n)}+Tv_{k(n)}\rightarrow u\quad\quad(**) $$ である。よって、 $$ u=\lim_{n\rightarrow\infty}v_{k(n)}\in ({\rm Ker}(1-T))^{\perp} $$ であり、 $$ (1-T)u=\lim_{n\rightarrow\infty}(1-T)v_{k(n)}=0 $$ であるから、$u\in {\rm Ker}(1-T)\cap ({\rm Ker}(1-T))^{\perp}=\{0\}$ である。しかし $(*),(**)$ より、 $$ \lVert u\rVert=\lim_{n\rightarrow\infty}\lVert v_{k(n)}\rVert=1 $$ であるから矛盾する。ゆえに ${\rm Ran}(1-T)$ は閉部部分空間である。

補題13.12(互いに直交する単位ベクトルの列は弱位相で $0$ に収束する)

$\mathcal{H}$ をHilbert空間、$(e_n)_{n\in \mathbb{N}}$ をONSとする。このとき弱位相で $\lim_{n\rightarrow\infty}e_n=0$ が成り立つ。

Proof.

任意の $v\in \mathcal{H}$ に対し、Besselの不等式より $$ \sum_{n\in\mathbb{N}}\lvert (e_n\mid v)\rvert^2\leq \lVert v\rVert^2<\infty $$ であるから $\lim_{n\rightarrow\infty}(e_n\mid v)=0$ が成り立つ。よってRieszの定理より 弱位相で $\lim_{n\rightarrow\infty}e_n\rightarrow 0$ が成り立つ。

定理13.13(Fredholmの択一性定理)

$\mathcal{H}$ をHilbert空間、$T\in \mathbb{B}_0(\mathcal{H})$ とする。このとき次は互いに同値である。

  • $(1)$ ${\rm Ran}(1-T)=\mathcal{H}$.
  • $(2)$ ${\rm Ker}(1-T)=\{0\}$.
Proof.

$(1)\Rightarrow(2)$ を示す。$(1)$ が成り立ち、$(2)$ が成り立たないと仮定して矛盾を導く。 $$ \mathcal{K}_n\colon={\rm Ker}((1-T)^n)\quad(\forall n\in\mathbb{Z}_+) $$ (ただし $(1-T)^0=1$)とおくと、 $$ \mathcal{K}_n\supset \mathcal{K}_{n-1}\quad(\forall n\in \mathbb{N}) $$ であり、$(2)$ が成り立たないと言う仮定より、 $$ \mathcal{K}_1={\rm Ker}(1-T)\supsetneq \{0\}=\mathcal{K}_0 $$ である。今、ある $n\in \mathbb{N}$ に対し $\mathcal{K}_n\supsetneq \mathcal{K}_{n-1}$ が成り立つと仮定すると、$(1)$ が成り立つことから $(1-T)v\in \mathcal{K}_n\backslash \mathcal{K}_{n-1}$ を満たす $v\in {\cal H}$ が取れ、$v\in \mathcal{K}_{n+1}\backslash \mathcal{K}_n$ である。よって $\mathcal{K}_{n+1}\supsetneq \mathcal{K}_n$ が成り立つので、帰納法より、 $$ \mathcal{K}_n\supsetneq \mathcal{K}_{n-1}\quad(\forall n\in\mathbb{N})\quad\quad(*) $$ が成り立つ。各 $n\in\mathbb{N}$ についてHilbert空間 $\mathcal{K}_n$ の直交分解 $$ \mathcal{K}_n=\mathcal{K}_{n-1}\oplus (\mathcal{K}_n\cap \mathcal{K}_{n-1}^{\perp}) $$ を考えると、$(*)$ より、単位ベクトル $$ e_n\in \mathcal{K}_n\cap \mathcal{K}_{n-1}^{\perp}\quad(\forall n\in\mathbb{N})\quad\quad(**) $$ が取れる。このとき $(e_n)_{n\in\mathbb{N}}$ は $\mathcal{H}$ のONSであるから補題13.12より弱位相に関して $\lim_{n\rightarrow\infty}e_n=0$ が成り立つ。よって定理13.10より、 $$ \lim_{n\rightarrow\infty}\lVert Te_n\rVert=0\quad\quad(***) $$ が成り立つ。しかし $(**)$ より、 $$ (1-T)e_n\perp e_n\quad(\forall n\in\mathbb{N}) $$ であるから、 $$ \lVert Te_n\rVert^2=\lVert e_n-(1-T)e_n\rVert^2=\lVert e_n\rVert^2+\lVert (1-T)e_n\rVert^2\geq1\quad(\forall n\in\mathbb{N}) $$ である。これは $(***)$ と矛盾する。よって $(1)\Rightarrow(2)$ が成り立つ。
$(2)\Rightarrow(1)$ を示す。$(2)$ が成り立つとする。$T^*\in\mathbb{B}_0(\mathcal{H})$ であるから命題13.11より ${\rm Ran}(1-T^*)$ は $\mathcal{H}$ の閉部分空間である。よって、 $$ {\rm Ran}(1-T^*)=\overline{{\rm Ran}(1-T^*)}=({\rm Ker}(1-T))^{\perp}=\{0\}^{\perp}=\mathcal{H} $$ であるから、上段の結果より ${\rm Ker}(1-T^*)=\{0\}$ である。さらに命題13.11より ${\rm Ran}(1-T)$ は $\mathcal{H}$ の閉部分空間であるから、 $$ {\rm Ran}(1-T)=\overline{{\rm Ran}(1-T)}=({\rm Ker}(1-T^*))^{\perp}=\{0\}^{\perp}=\mathcal{H} $$ である。

命題13.14

$\mathcal{H}$ をHilbert空間、$T\in \mathbb{B}_0(\mathcal{H})$ とする。このとき、 $$ {\rm dim}{\rm Ker}(1-T)={\rm dim}{\rm Ker}(1-T^*)<\infty $$ が成り立つ。

Proof.

まず ${\rm dim}{\rm Ker}(1-T)<\infty$ が成り立つことを示す。もし ${\rm dim}{\rm Ker}(1-T)=\infty$ ならばSchmidtの直行化により ${\rm Ker}(1-T)$ の元からなるONS $(e_n)_{n\in\mathbb{N}}$ が取れる。補題13.12より $\mathcal{H}$ の弱位相で $\lim_{n\rightarrow\infty}e_n=0$ が成り立つので、定理13.10より、$\lim_{n\rightarrow\infty}\lVert Te_n\rVert=0$ である。しかし、 $$ 1=\lVert e_n\rVert=\lVert Te_n+(1-T)e_n\rVert=\lVert Te_n\rVert\quad(\forall n\in \mathbb{N}) $$ であるので矛盾する。よって ${\rm dim}{\rm Ker}(1-T)<\infty$ が成り立つ。$T^*\in \mathbb{B}_0(\mathcal{H})$ であることから ${\rm dim}{\rm Ker}(1-T^*)<\infty$ も成り立つ。次に ${\rm dim}{\rm Ker}(1-T)={\rm dim}{\rm Ker}(1-T^*)$ が成り立つことを示す。${\rm dim}{\rm Ker}(1-T^*)\leq {\rm dim}{\rm Ker}(1-T)$ を示せば十分である。そこで ${\rm dim}{\rm Ker}(1-T)<{\rm dim}{\rm Ker}(1-T^*)$ であると仮定して矛盾を導く。${\rm Ker}(1-T)$ のCONS $(e_1,\ldots,e_n)$と ${\rm Ker}(1-T^*)$ のCONS $(f_1,\ldots,f_m)$ $(n<m)$ を取り、 $$ V_1\colon {\rm Ker}(1-T)\ni \sum_{j=1}^{n}\alpha_je_j\mapsto \sum_{j=1}^{n}\alpha_jf_j\in {\rm Ker}(1-T^*) $$ とおくと、$V_1$ は等長線型作用素であり、 $$ {\rm Ran}(V_1)\subsetneq {\rm Ker}(1-T^*) $$ である。これに対し、 $$ V\colon \mathcal{H}={\rm Ker}(1-T)\oplus ({\rm Ker}(1-T))^{\perp}\ni v_1+v_2\mapsto V_1v_1\in \mathcal{H} $$ とおくと、$V$ は部分等長作用素であり、 $$ {\rm Ker}(V)=({\rm Ker}(1-T))^{\perp},\quad {\rm Ran}(V)={\rm Ran}(V_1)\subsetneq {\rm Ker}(1-T^*)=({\rm Ran}(1-T))^{\perp}\quad\quad(*) $$ である。任意の $v\in {\rm Ker}(1-(T+V))$ に対し $(*)$ の右の式より、 $$ (1-T)v=Vv\in {\rm Ran}(1-T)\cap {\rm Ran}(V)\subset {\rm Ran}(1-T)\cap ({\rm Ran}(1-T))^{\perp}=\{0\} $$ であるから、$(*)$ の左の式より、 $$ v\in {\rm Ker}(1-T)={\rm Ker}(V)={\rm Ker}(1-T)\cap ({\rm Ker}(1-T))^{\perp}=\{0\} $$ である。よって、 $$ {\rm Ker}(1-(T+V))=\{0\} $$ が成り立つ。$V$ は有限階作用素なので $T+V\in \mathbb{B}_0(\mathcal{H})$ であるから定理13.13より、 $$ \mathcal{H}={\rm Ran}(1-(T+V))={\rm Ran}(1-T)+{\rm Ran}(V) $$ となる。しかし $(*)$ より、 $$ {\rm Ran}(1-T)+{\rm Ran}(V)\subsetneq {\rm Ran}(1-T)\oplus ({\rm Ran}(1-T))^{\perp}=\mathcal{H} $$ であるから矛盾する。

補題13.15(互いに異なる固有値に対する固有ベクトルの線形独立性)

$\mathcal{H}$ をHilbert空間、$T$ を $\mathcal{H}$ 上の線形作用素とし、$\lambda_1,\ldots,\lambda_n\in \mathbb{C}$ を互いに異なる $T$ の固有値とする。そしてそれぞれの固有値に対する固有ベクトルを $v_j\in {\rm Ker}(\lambda_j-T)\backslash\{0\}$ $(j=1,\ldots,n)$ を取る。このとき $v_1,\ldots,v_n$ は線形独立である。

Proof.

帰納法よりある $k\in\{1,\ldots,n-1\}$ に対し $v_1,\ldots,v_k$ が線形独立であると仮定して $v_1,\ldots,v_{k+1}$ も線形独立であることを示せばよい。そこで $\alpha_1,\ldots,\alpha_{k+1}\in \mathbb{C}$ が、 $$ \sum_{j=1}^{k+1}\alpha_jv_j=0\quad\quad(*) $$ を満たすとする。$(*)$ に $T$ を作用させたものから $(*)$ に $\lambda_{k+1}$ を掛けたものを引けば、 $$ \sum_{j=1}^{k}\alpha_j(\lambda_j-\lambda_{k+1})v_j=0 $$ となる。よって $v_1,\ldots,v_k$ の線形独立性より $\alpha_j(\lambda_j-\lambda_{k+1})=0$ $(j=1,\ldots,k)$ であり、$\lambda_j\neq\lambda_{k+1}$ $(j=1,\ldots,k)$ であるから、$\alpha_1=\ldots=\alpha_{k}=0$ である。よって (*)より $\alpha_{k+1}v_{k+1}=0$ より $\alpha_{k+1}=0$ である。 ゆえに $v_1,\ldots,v_{k+1}$ は線形独立である。

定義13.16(固有値の重複度)

$T$ をHilbert空間上の線形作用素、$\lambda\in\mathbb{C}$ を $T$ の固有値とする。このとき ${\rm dim}{\rm Ker}(\lambda-T)$ を $T$ の固有値 $\lambda$ の重複度と言う。

定理13.17(コンパクト作用素のスペクトル特性)

$\mathcal{H}$ をHilbert空間、$T\in \mathbb{B}_0(\mathcal{H})$ とする。このとき、

  • $(1)$ 任意の $\lambda\in\sigma(T)\backslash \{0\}$ に対し $\lambda$ は $T$ の重複度有限の固有値であり、$\overline{\lambda}$ は $T^*$ の重複度有限の固有値である。そしてこれらの重複度は一致する。
  • $(2)$ 任意の $\lambda\in\sigma(T)\backslash \{0\}$ に対し $\lambda$ は $\sigma(T)$ の孤立点($\{\lambda\}$ は $\sigma(T)$ の開集合)である。また $\sigma(T)$ は可算集合である。
  • $(3)$ $T$ が正規作用素であるとすると、$T$ の固有ベクトルからなる $\mathcal{H}$ のCONSが存在する。また $T$ のスペクトル測度を $E^T\colon\mathcal{B}_{\sigma(T)}\rightarrow\mathbb{P}(\mathcal{H})$ とし、各 $\lambda\in\sigma(T)\backslash \{0\}$ に対し、${\rm Ker}(\lambda-T)$ のCONSを $\{e_{\lambda,1},\ldots,e_{\lambda,n(\lambda)}\}$ とすると、

$$ 1=\sum_{\lambda\in\sigma(T)}E^T(\{\lambda\}), $$ $$ E^T(\{\lambda\})=\sum_{j=1}^{n(\lambda)}e_{\lambda,j}\odot e_{\lambda,j}\quad(\forall \lambda\in \sigma(T)\backslash \{0\}), $$ $$ T=\sum_{\lambda\in \sigma(T)\backslash\{0\}}\lambda\sum_{j=1}^{n(\lambda)}e_{\lambda,j}\odot e_{\lambda,j} $$ が成り立つ。(ただし $\odot$ はSchatten形式を表す。)

Proof.

  • $(1)$ 任意の $\lambda\in\sigma(T)\backslash \{0\}$ に対し $\lambda^{-1}T\in \mathbb{B}_0(\mathcal{H})$ であり、

$$ {\rm Ran}(\lambda-T)={\rm Ran}(1-\lambda^{-1}T),\quad {\rm Ker}(\lambda-T)={\rm Ker}(1-\lambda^{-1}T) $$ である。$\lambda\in \sigma(T)$ より $\lambda-T:{\cal H}\rightarrow {\cal H}$ は全単射ではないから、定理13.13より ${\rm Ker}(\lambda-T)\neq \{0\}$ である。よって $\lambda$ は $T$ の固有値であり、命題13.15より、 $$ 0<{\rm dim}{\rm Ker}(\lambda-T)={\rm dim}{\rm Ker}(1-\lambda^{-1}T)={\rm dim}{\rm Ker}(1-\overline{\lambda}^{-1}T^*)={\rm dim}{\rm Ker}(\overline{\lambda}-T^*)<\infty $$ であるから、$\overline{\lambda}$ は $T^*$ の固有値である。そして $T$ の固有値 $\lambda$ の重複度と $T^*$ の固有値 $\overline{\lambda}$ の重複度は一致する。

  • $(2)$ 任意の $\lambda\in \sigma(T)\backslash\{0\}$ を取り、$\lambda$ が $\sigma(T)$ の孤立点ではないと仮定して矛盾を導く。このとき任意の $\epsilon\in (0,\infty)$ に対し $\{\lambda\}\neq B(\lambda,\epsilon)\cap \sigma(T)$ であるから、$\sigma(T)$ の点列 $(\lambda_n)_{n\in\mathbb{N}}$ で、

$$ 0<\lvert \lambda-\lambda_{n+1}\rvert<\lvert\lambda-\lambda_n\rvert<\lvert\lambda\rvert,\frac{1}{n}\quad(\forall n\in\mathbb{N})\quad\quad(*) $$ を満たすものが取れる。$(*)$ と $(1)$ より各 $n\in\mathbb{N}$ に対し $\lambda_n$ は $T$ の固有値であるから 固有ベクトル $v_n\in {\rm Ker}(\lambda-T)\backslash\{0\}$ が取れる。また $(*)$ より $(\lambda_n)_{n\in\mathbb{N}}$ は互いに異なるので補題13.15より $(v_n)_{n\in\mathbb{N}}$ は線形独立であり、Schmidtの直交化より ONS $(e_n)_{n\in\mathbb{N}}$ で、 $$ {\rm span}\{v_1,\ldots,v_n\}={\rm span}\{e_1,\ldots,e_n\}\quad(\forall n\in\mathbb{N}) $$ を満たすものが取れる。このとき、 $$ \lambda_ne_n-Te_n\in {\rm span}\{v_1,\ldots,v_{n-1}\}={\rm span}\{e_1,\ldots,e_{n-1}\}\quad(\forall n\geq 2) $$ であるから $\lambda_ne_n-Te_n$ と $\lambda_n e_n$ は互いに直交する。よって、 $$ \lVert Te_n\rVert^2=\lVert \lambda_ne_n-(\lambda_ne_n-Te_n)\rVert^2=\lvert\lambda_n\rvert^2+\lVert \lambda_ne_n-Te_n\rvert^2\geq\lvert\lambda_n\rvert^2\quad(\forall n\in\mathbb{N})\quad\quad(**) $$ となる。ここで補題13.12定理13.10より $\lim_{n\rightarrow\infty}\lVert Te_n\rVert=0$ であるから $(**)$ より $\lim_{n\rightarrow\infty}\lambda_n=0$ となる。しかし $(*)$ より $\lim_{n\rightarrow\infty}\lambda_n=\lambda$ であるから、$\lambda\neq0$ であることに矛盾する。よって任意の $\lambda\in\sigma(T)\backslash \{0\}$ に対し $\lambda$ は $\sigma(T)$ の孤立点である。$\{\{\lambda\}\}_{\lambda\in\sigma(T)\backslash\{0\}}$ は $\sigma(T)\backslash \{0\}$ の開被覆であり、$\sigma(T)\backslash \{0\}$ はLindelöfであるから可算部分開被覆が取れる。よって $\sigma(T)\backslash\{0\}$ は可算集合であり、したがって $\sigma(T)$ も可算集合である。

  • $(3)$ $(2)$ より $\sigma(T)$ は可算集合であるから、

$$ 1=E^T(\sigma(T))=\sum_{\lambda\in\sigma(T)}E^T(\{\lambda\}) $$ である。命題8.7の $(3)$ より、 $$ {\rm Ran}E^T(\{\lambda\})={\rm Ker}(\lambda-T)\quad(\forall \lambda\in\sigma(T))\quad\quad(***) $$ であるから、命題13.7より、 $$ E^T(\{\lambda\})=\sum_{j=1}^{n(\lambda)}e_{\lambda,j}\odot e_{\lambda,j}\quad(\forall \lambda\in\sigma(T)\backslash \{0\}) $$ である。よって、 $$ 1=E^T(\{0\})+\sum_{\lambda\in\sigma(T)\backslash \{0\}}E^T(\{\lambda\}) =E^T(\{0\})+\sum_{\lambda\in\sigma(T)\backslash\{0\}}\sum_{j=1}^{n(\lambda)}e_{\lambda,j}\odot e_{\lambda,j}\quad\quad(****) $$ が成り立ち、 $$ T=TE^T(\{0\})+\sum_{\lambda\in\sigma(T)\backslash \{0\}}TE^T(\{\lambda\})=\sum_{\lambda\in\sigma(T)\backslash \{0\}}TE^T(\{\lambda\}) =\sum_{\lambda\in\sigma(T)}\lambda\sum_{j=1}^{n(\lambda)}e_{\lambda,j}\odot e_{\lambda,j} $$ が成り立つ。$E^T(\{0\})=0$ の場合、$(****)$ より、 $$ 1=\sum_{\lambda\in\sigma(T)\backslash \{0\}}\sum_{j=1}^{n(\lambda)}e_{\lambda,j}\odot e_{\lambda,j} $$ であるから、$\{e_{\lambda,j}:\lambda\in\sigma(T)\backslash \{0\},j=1,\ldots,n(\lambda)\}$ は $\mathcal{H}$ のCONSである。また $E^T(\{0\})\neq0$ の場合、$(***)$ より $0$ は $T$ の固有値であり、$\{e_{0,j}:j\in J_0\}$ を 固有空間 ${\rm Ran}E^T(\{0\})={\rm Ker}(T)$ のCONSとすると、命題13.7より、 $$ E^T(\{0\})=\sum_{j\in J_0}e_{0,j}\odot e_{0,j} $$ であるから、$(****)$ より、 $$ 1=\sum_{j\in J_0}e_{0,j}\odot e_{0,j}+\sum_{\lambda\in\sigma(T)\backslash \{0\}}\sum_{j=1}^{n(\lambda)}e_{\lambda,j}\odot e_{\lambda,j} $$ である。よって $\{e_{0,j}:j\in J_0\}\cup\{e_{\lambda,j}:\lambda\in\sigma(T)\backslash\{0\},j=1,\ldots,n(\lambda)\}$ は $\mathcal{H}$ のCONSである。よって $T$ の固有ベクトルからなるCONSが取れる。

14. 自己共役作用素の離散スペクトルと真性スペクトル、min-max原理、Reyleigh-Ritzの原理

定義14.1(自己共役作用素の離散固有値、離散スペクトル、真性スペクトル)

$T$ をHilbert空間 $\mathcal{H}$ 上の自己共役作用素とする。$\lambda\in \sigma(T)$ が $\sigma(T)$ の孤立点(命題8.7の $(6)$ より $T$ の固有値)であり、重複度が有限、すなわち、 $$ {\rm dim}{\rm Ker}(\lambda-T)={\rm dim}{\rm Ran}E^T(\{\lambda\})<\infty $$ であるとき、$\lambda$ を $T$ の離散固有値と言う。そして $T$ の離散固有値全体を、 $$ \sigma_{\rm d}(T)\colon=\{\lambda\in \sigma(T):\text{$\lambda$ は $T$ の離散固有値}\} $$ と表し、これを $T$ の離散スペクトルと言う。また、$\sigma(T)$ における $T$ の離散スペクトルの補集合 $$ \sigma_{\rm ess}(T)\colon=\sigma(T)\backslash \sigma_{\rm d}(T)=\{\lambda\in\sigma(T):\text{$\lambda$ は $\sigma(T)$ の非孤立点であるか、重複度無限の孤立点}\} $$ と表し、これを $T$ の真性スペクトルと言う。

定理14.2(自己共役作用素の真性スペクトルの元の特徴付け)

$T$ をHilbert空間 $\mathcal{H}$ 上の自己共役作用素とし、$E^T\colon\mathcal{B}_{\sigma(T)}\rightarrow \mathbb{P}(\mathcal{H})$ を $T$ のスペクトル測度とする。このとき $\lambda\in\sigma(T)$ に対し次は互いに同値である。

  • $(1)$ $\lambda\in \sigma_{\rm ess}(T)$.
  • $(2)$ $D(T)$ の単位ベクトルの列 $(u_n)_{n\in\mathbb{N}}$ で $\lim_{n\rightarrow\infty}\lVert (\lambda-T)u_n\rVert=0$ かつ $\mathcal{H}$ の弱位相で $\lim_{n\rightarrow\infty}u_n=0$ を満たすものが存在する。
  • $(3)$ $\lambda$ を含む $\sigma(T)$ の任意の開集合 $U$ に対し ${\rm dim}{\rm Ran}E^T(U)=\infty$.
Proof.

任意の $t\in \sigma(T)$ と $\delta\in (0,\infty)$ に対し $\sigma(T)$ における中心 $t$、半径 $\delta$ の開球を、 $$ B_{\sigma(T)}(t,\delta)=\{s\in \sigma(T):\lvert s-t\rvert<\delta\} $$ と表す。$(1)\Rightarrow(2)$ を示す。$(1)$ が成り立つとする。もし $\lambda$ が $\sigma(T)$ の孤立点ならば ${\rm dim}{\rm Ker}(\lambda-T)=\infty$ であるので ${\rm Ker}(\lambda-T)$ のONS $(e_n)_{n\in \mathbb{N}}$ が取れる。このとき補題13.12より $\mathcal{H}$ の弱位相で $\lim_{n\rightarrow\infty}e_n=0$ であり、$(\lambda-T)e_n=0$ $(\forall n\in\mathbb{N})$ であるから $(2)$ が成り立つ。$\lambda$ が $\sigma(T)$ の孤立点ではないとすると、$\sigma(T)$ の点列 $(\lambda_n)_{n\in\mathbb{N}}$ で、 $$ 0<\lvert \lambda_{n+1}-\lambda\rvert<\frac{1}{3}\lvert\lambda_n-\lambda\rvert\quad(\forall n\in\mathbb{N})\quad\quad(*) $$ なるものが取れる。 $$ \epsilon_{n}\colon=\frac{1}{3}\lvert\lambda_n-\lambda\rvert\quad(\forall n\in\mathbb{N}) $$ とおく。このとき、 $$ B_{\sigma(T)}(\lambda_n,\epsilon_n)\cap B_{\sigma(T)}(\lambda_m,\epsilon_m)=\emptyset\quad(n\neq m)\quad\quad(**) $$ が成り立つ。実際、$n<m$ で $t\in B_{\sigma(T)}(\lambda_n,\epsilon_n)\cap B_{\sigma(T)}(\lambda_m,\epsilon_m)$ が存在するとすると、 $$ 2\epsilon_n\geq \lvert t-\lambda_n\rvert+\lvert t-\lambda_m\rvert\geq \lvert\lambda_n-\lambda_m\rvert\geq \lvert\lambda_n-\lambda\rvert-\lvert \lambda_m-\lambda\rvert>\lvert\lambda_n-\lambda\rvert-\epsilon_n=2\epsilon_n $$ となり、矛盾する。よって $(**)$ が成り立つ。命題8.7の $(7)$ より単位ベクトル $$ e_n\in {\rm Ran}E^T(B_{\sigma(T)}(\lambda_n,\epsilon_n))\quad(\forall n\in\mathbb{N}) $$ が取れて、$(**)$ より $(e_n)_{n\in\mathbb{N}}$ はONSなので、補題13.12より $\mathcal{H}$ の弱位相で $\lim_{n\rightarrow\infty}e_n=0$ である。そして $(*)$ より、 $$ \begin{aligned} \lVert (\lambda-T)e_n\rVert&\leq \lVert (\lambda-T)E^T(B_{\sigma(T)}(\lambda_n,\epsilon_n))\rVert\leq \sup_{t\in B_{\sigma(T)}(\lambda_n,\epsilon_n)}\lvert \lambda-t\rvert\leq \lvert \lambda-\lambda_n\rvert+\epsilon_n\\ &=\frac{4}{3}\lvert\lambda-\lambda_n\rvert<\frac{4}{3^n}\lvert\lambda-\lambda_1\rvert\rightarrow0\quad(n\rightarrow\infty) \end{aligned} $$ である。よって $(2)$ が成り立つ。
$(2)\Rightarrow(3)$ を示す。$(2)$ が成り立つとし、$(2)$ の条件を満たす単位ベクトルの列 $(u_n)_{n\in\mathbb{N}}$ を取る。任意の $\epsilon\in (0,\infty)$ に対し、 $$ \begin{aligned} \lVert (\lambda-T)u_n\rVert^2&=\int_{\sigma(T)}\lvert \lambda-t\rvert^2dE^T_{u_n,u_n}(t)\geq \int_{\sigma(T)\backslash B_{\sigma(T)}(\lambda,\epsilon)}\lvert\lambda-t\rvert^2dE^T_{u_n,u_n}(t)\\ &\geq \epsilon^2\lVert E^T(\sigma(T)\backslash B_{\sigma(T)}(\lambda,\epsilon))u_n\rVert^2\\ &=\epsilon^2\lVert u_n-E^T(B_{\sigma(T)}(\lambda,\epsilon))u_n\rVert^2\quad(\forall n\in\mathbb{N}) \end{aligned} $$ であるから、$\lim_{n\rightarrow\infty}\lVert (\lambda-T)u_n\rVert=0$ より、 $$ \lim_{n\rightarrow\infty}\lVert u_n-E^T(B_{\sigma(T)}(\lambda,\epsilon))u_n\rVert=0\quad(\forall \epsilon\in (0,\infty))\quad\quad(***) $$ である。もしある $\epsilon_0\in (0,\infty)$ に対し ${\rm dim}{\rm Ran}E^T(B_{\sigma(T)}(\lambda,\epsilon_0))<\infty$ が成り立つならば、$E^T(B_{\sigma(T)}(\lambda,\epsilon_0))$ は有限階作用素なので、$\mathcal{H}$ の弱位相で $\lim_{n\rightarrow\infty}e_n=0$ であることと、補題13.9より、 $$ \lim_{n\rightarrow\infty}\lVert E^T(B_{\sigma(T)}(\lambda,\epsilon_0))u_n\rVert=0 $$ が成り立つ。これを $(***)$ と合わせると、 $$ 1=\lVert u_n\rVert\leq \lVert u_n-E^T(B_{\sigma(T)}(\lambda,\epsilon_0))u_n\rVert+\lVert E^T(B_{\sigma(T)}(\lambda,\epsilon_0))u_n\rVert\rightarrow0\quad(n\rightarrow\infty) $$ となるので矛盾する。よって任意の $\epsilon\in (0,\infty)$ に対し ${\rm dim}{\rm Ran}E^T(B_{\sigma(T)}(\lambda,\epsilon))=\infty$ であるから $(3)$ が成り立つ。
$(3)\Rightarrow(1)$ を示す。$(3)$ が成り立つとする。もし $(1)$ が成り立たないならば、$\lambda$ は $T$ の離散固有値であるから、$\lambda$ は $\sigma(T)$ の孤立点であり、 $$ {\rm dim}E^T(\{\lambda\})=\dim {\rm Ker}(\lambda-T)<\infty\quad\quad(****) $$である。$\lambda$ は $\sigma(T)$ の孤立点なので、$\{\lambda\}$ は $\lambda$ を含む開集合であるから、$(****)$ は $(3)$ が成り立つことに矛盾する。よって $(1)$ が成り立つ。

定義14.3(純粋に離散的なスペクトルを持つ自己共役作用素)

$T$ をHilbert空間 $\mathcal{H}$ 上の自己共役作用素とする。$T$ のスペクトルが $T$ の離散スペクトル $\sigma_{\rm d}(T)$(定義14.1)と一致するとき、$T$ のスペクトルは純粋に離散的であると言う。

命題14.4(純粋に離散的なスペクトルを持つ自己共役作用素の対角化)

$T$ をHilbert空間 $\mathcal{H}$ 上の自己共役作用素で、純粋に離散的なスペクトルを持つとする。このとき $\sigma(T)$ は可算集合であり、各 $\lambda\in \sigma(T)=\sigma_{\rm d}(T)$ に対し ${\rm Ker}(\lambda-T)$ のCONSを $e_{\lambda,1},\ldots,e_{\lambda,n(\lambda)}$ とおけば、 $$ 1=\sum_{\lambda\in \sigma(T)}\sum_{j=1}^{n(\lambda)}e_{\lambda,j}\odot e_{\lambda,j} $$ (ただし $\odot$ はSchatten形式を表す)が成り立つ。

Proof.

$\sigma(T)=\sigma_{\rm d}(T)$ は孤立点のみからなるLindelöf空間であるから可算集合である。よって $T$ のスペクトル測度 $E^T\colon\mathcal{B}_{\sigma(T)}\rightarrow\mathbb{P}(\mathcal{H})$ に対し、 $$ 1=E^T(\sigma(T))=\sum_{\lambda\in\sigma(T)}E^T(\{\lambda\}) $$ が成り立つ。そして命題8.7の $(5)$ より ${\rm Ran}E^T(\{\lambda\})={\rm Ker}(\lambda-T)$ であるから、命題13.7より、 $$ E^T(\{\lambda\})=\sum_{j=1}^{n(\lambda)}e_{\lambda,j}\odot e_{\lambda,j}\quad(\forall \lambda\in \sigma(T)) $$ である。よって、 $$ 1=\sum_{\lambda\in\sigma(T)}E^T(\{\lambda\})=\sum_{\lambda\in \sigma(T)}\sum_{j=1}^{n(\lambda)}e_{\lambda,j}\odot e_{\lambda,j},\quad $$ が成り立つ。

命題14.5(自己共役作用素が純粋に離散的なスペクトルを持つための十分条件)

$T$ をHilbert空間 $\mathcal{H}$ 上の自己共役作用素とする。

  • $(1)$ ある $\lambda_0\in \rho(T)$ に対し $(\lambda_0-T)^{-1}\in \mathbb{B}_0(\mathcal{H})$ ならば $T$ は純粋に離散的なスペクトルを持つ。
  • $(2)$ ある $\alpha\in \mathbb{R}\backslash \{0\}$ に対し $e^{\alpha T}\in \mathbb{B}_0(\mathcal{H})$ ならば $T$ は純粋に離散的なスペクトルを持つ。
Proof.

  • $(1)$ $\lambda\in \sigma_{\rm ess}(T)$ が存在すると仮定して矛盾を導く。このとき定理14.2より $D(T)$ の単位ベクトルの列 $(u_n)_{n\in\mathbb{N}}$ で $\mathcal{H}$ の弱位相で $\lim_{n\rightarrow\infty}u_n=0$ であり、$\lim_{n\rightarrow\infty}\lVert (\lambda-T)u_n\rVert=0$ を満たすものが取れる。$(\lambda_0-T)^{-1}\in \mathbb{B}_0(\mathcal{H})$ であるから定理13.10の $(2)$ より、

$$ \lim_{n\rightarrow\infty}\lVert (\lambda_0-T)^{-1}u_n\rVert=0\quad\quad(*) $$ である。ここで、 $$ (\lambda_0-T)u_n=(\lambda_0-\lambda)u_n+(\lambda-T)u_n\quad(\forall n\in\mathbb{N}) $$ であるから、 $$ u_n=(\lambda_0-\lambda)(\lambda_0-T)^{-1}u_n+(\lambda_0-T)^{-1}(\lambda-T)u_n\quad(\forall n\in\mathbb{N}) $$ である。よって $(*)$ より、 $$ 1=\lVert u_n\rVert\leq \lvert\lambda_0-\lambda\rvert\lVert (\lambda_0-T)^{-1}u_n\rVert+\lVert (\lambda_0-T)^{-1}(\lambda-T)u_n\rVert\rightarrow0\quad(n\rightarrow\infty) $$ となり矛盾する。ゆえに $\sigma_{\rm ess}(T)=\emptyset$ であるから $T$ は純粋に離散的なスペクトルを持つ。

  • $(2)$ 任意の $\lambda\in \sigma(T)$ に対し、定理8.7の $(8)$ より、

$$ e^{\alpha \lambda}\in \sigma(e^{\alpha T})\backslash \{0\} $$ であり、$e^{\alpha T}\in \mathbb{B}_0(\mathcal{H})$ であるから、定理13.17の $(2)$ より $e^{\alpha\lambda}$ は $\sigma(e^{\alpha T})$ の孤立点である。よって $\sigma(T)\ni \lambda\mapsto e^{\alpha \lambda}\in \sigma(e^{\alpha T})\backslash \{0\}$ の連続性より、任意の $\lambda\in \sigma(T)$ に対し、十分小さい $\epsilon\in (0,\infty)$ を取れば、$\lambda'\in \sigma(T)$ について、 $$ \lvert\lambda'-\lambda\rvert<\epsilon\quad\Leftrightarrow\quad e^{\alpha\lambda'}=e^{\alpha\lambda}\quad\Leftrightarrow\quad \lambda'=\lambda $$ である。よって任意の $\lambda\in \sigma(T)$ に対し $\lambda$ は $\sigma(T)$ の孤立点である。$E^T\colon\mathcal{B}_{\sigma(T)}\rightarrow\mathbb{P}(\mathcal{H})$ を $T$ のスペクトル測度とする。定理8.7の $(3)$ より、任意の $\lambda\in \sigma(T)$ に対し、 $$ {\rm Ker}(\lambda-T)={\rm Ran}E^T(\{\lambda\})={\rm Ran}E^T(\{t\in \sigma(T):e^{\alpha \lambda}-e^{\alpha t}=0\})={\rm Ker}(e^{\alpha \lambda}-e^{\alpha T}) $$ であるから、定理13.17の $(1)$ より、 $$ {\rm dim}{\rm Ker}(\lambda-T)={\rm dim}{\rm Ker}(e^{\alpha\lambda}-e^{\alpha T})<\infty $$ である。よって $\lambda$ は $T$ の離散固有値なので $\sigma(T)=\sigma_{\rm d}(T)$ である。

命題14.6(有限次元の場合のmin-max原理)

$\mathcal{H}$ を有限次元Hilbert空間、$N={\rm dim}(\mathcal{H})$ とし、$T$ を $\mathcal{H}$ 上の自己共役作用素とする。このとき $T$ の固有値を重複度を込めて下から並べたものを $\lambda_1,\ldots,\lambda_N$(重複度だけ同じ値が続く)とおくと、 $$ \lambda_1=\inf\{(u\mid Tu):u\in \mathcal{H},\lVert u\rVert=1\}, $$ $$ \lambda_n=\sup_{v_1,\ldots,v_{n-1}\in \mathcal{H}}\inf\{(u\mid Tu):u\in \{v_1,\ldots,v_{n-1}\}^{\perp},\lVert u\rVert=1\}\quad(n=2,\ldots,N) $$ が成り立つ。

Proof.

$$ \mu_1(T)\colon=\inf\{(u\mid Tu):u\in \mathcal{H},\lVert u\rVert=1\}, $$ $$ \mu_n(T)\colon=\sup_{v_1,\ldots,v_{n-1}\in \mathcal{H}}\inf\{(u\mid Tu):u\in \{v_1,\ldots,v_{n-1}\}^{\perp},\lVert u\rVert=1\}\quad(n=2,\ldots,N) $$ とおく。定理13.17より $T$ の固有ベクトルからなる $\mathcal{H}$ のCONS $(e_1,\ldots,e_n)$ で、 $$ Te_j=\lambda_je_j\quad(j=1,\ldots,N) $$ なるものが取れる。$\lambda_1=(e_1\mid Te_1)$ であり、任意の単位ベクトル $u=\sum_{j=1}^{N}\alpha_je_j\in \mathcal{H}$ に対し、 $$ (u\mid Tu)=\sum_{j=1}^{N}\lambda_j\lvert\alpha_j\rvert^2\geq\lambda_1\sum_{j=1}^{N}\lvert\alpha_j\rvert^2=\lambda_1\lVert u\rVert^2=\lambda_1 $$ であるから $\lambda_1=\mu_1(T)$ が成り立つ。任意の $n\in \{2,\ldots,N\}$ を取る。任意の単位ベクトル $u=\sum_{j=n}^{N}\alpha_je_j\in\{e_1,\ldots,e_{n-1}\}^{\perp}$ に対し、 $$ (u\mid Tu)=\sum_{j=n}^{N}\lambda_j\lvert\alpha_j\rvert^2\geq\lambda_n\sum_{j=n}^{N}\lvert\alpha_j\rvert^2=\lambda_n\lVert u\rVert^2=\lambda_n $$ であるから、 $$ \mu_n(T)\geq \inf\{(u\mid Tu):u\in \{e_1,\ldots,e_{n-1}\}^{\perp},\lVert u\rVert=1\}\geq\lambda_n $$ である。また任意の $v_1,\ldots,v_{n-1}\in \mathcal{H}$ に対し、$v_1,\ldots,v_{n-1},e_{n+1},\ldots,e_N$ が張る部分空間は $N-1$ 次元以下であるから、単位ベクトル $u=\sum_{j=1}^{n-1}\alpha_je_j\in \{v_1,\ldots,v_{n-1},e_{n+1},\ldots,e_N\}^{\perp}$ が取れ、 $$ (u\mid Tu)=\sum_{j=1}^{n}\lambda_j\lvert\alpha_j\rvert^2\leq \lambda_n\sum_{j=1}^{n}\lvert\alpha_j\rvert^2=\lambda_n\lVert u\rVert^2=\lambda_n $$ である。よって任意の $v_1,\ldots,v_{n-1}\in \mathcal{H}$ に対し $\inf\{(u\mid Tu):u\in \{v_1,\ldots,v_{n-1}\}^{\perp},\lVert u\rVert=1\}\leq \lambda_n$ であるから $\mu_n(T)\leq \lambda_n$、よって $\lambda_n=\mu_n(T)$ である。

定義14.7(下に有界な対称作用素)

$T$ をHilbert空間上の対称作用素とする。 $$ \inf\{(u\mid Tu):u\in D(T),\lVert u\rVert=1\}>-\infty $$ であるとき、$T$ は下に有界であると言う。

命題14.8(下に有界な自己共役作用素のスペクトルによる特徴付け)

$T$ をHilbert空間 $\mathcal{H}$ 上の自己共役作用素とする。このとき次は互いに同値である。

  • $(1)$ $T$ は下に有界である。
  • $(2)$ $T$ のスペクトル $\sigma(T)\subset \mathbb{R}$ は下に有界である。

また $(1),(2)$ が成り立つとき、 $$ \inf\{(u\mid Tu):u\in D(T),\lVert u\rVert=1\}={\rm min}(\sigma(T))\quad\quad(*) $$ が成り立つ。

Proof.

$E^T\colon\mathcal{B}_{\sigma(T)}\rightarrow\mathbb{P}(\mathcal{H})$ を $T$ のスペクトル測度とする。$(2)$ が成り立つならば $\sigma(T)\subset \mathbb{R}$ は閉集合であることから最小値 ${\rm min}(\sigma(T))\in\mathbb{R}$ が存在し、任意の単位ベクトル $u\in D(T)$ に対し、 $$ (u\mid Tu)=\int_{\sigma(T)}\lambda dE^T_{u,u}(\lambda)\geq {\rm min}(\sigma(T))E^T_{u,u}(\sigma(T))={\rm min}(\sigma(T))\lVert E^T(\sigma(T))u\rVert^2={\rm min}(\sigma(T)) $$ である。よって $(1)$ が成り立ち、 $$ \inf\{(u\mid Tu):u\in D(T),\lVert u\rVert=1\}\geq {\rm min}(\sigma(T)) $$ である。逆に $(1)$ が成り立つとし、$\lambda_0\colon=\inf\{(u\mid Tu):u\in D(T),\lVert u\rVert=1\}$ とおけば、任意の単位ベクトル $u\in D(T)$ に対し、 $$ (u\mid (T-\lambda_0)u)=(u\mid Tu)-\lambda_0\geq 0 $$ であるから命題8.10より $T-\lambda_0$ は非負自己共役作用素である。よって、 $$ \{\lambda-\lambda_0:\lambda\in \sigma(T)\}=\sigma(T-\lambda_0)\subset [0,\infty) $$ であるから $(2)$ が成り立ち、 $$ {\rm min}(\sigma(T))\geq\lambda_0=\inf\{(u\mid Tu):u\in D(T),\lVert u\rVert=1\} $$ である。ゆえに $(1)\Leftrightarrow(2)$ であり、$(1),(2)$ が成り立つとき $(*)$ が成り立つ。

補題14.9

$\mathcal{H}$ をHilbert空間、$D\subset \mathcal{H}$ を部分空間とし、$n\in \mathbb{N}$ に対し ${\rm dim}(D)>n$ であるとする。このとき $n$ 個の任意の $v_1,\ldots,v_n\in \mathcal{H}$ に対し、 $$ D\cap\{v_1,\ldots,v_n\}^{\perp}\neq \{0\}\quad\quad(*) $$ が成り立つ。

Proof.

$\mathcal{H}$ の有限次元部分空間 ${\rm span}\{v_1,\ldots,v_n\}$ の上への射影作用素を $P\in \mathbb{P}(\mathcal{H})$ とおく。もし、 $$ D\ni v\mapsto Pv\in {\rm span}\{v_1,\ldots,v_n\}\quad\quad(**) $$ が単射ならば ${\rm dim}(D)\leq n$ となるので $(**)$ は単射ではない。よって $v\in D\backslash \{0\}$ で $Pv=0$ を満たすものが存在する。$Pv=0$ は $v\in \{v_1,\ldots,v_n\}^{\perp}$ であることと同値であるので $(*)$ が成り立つ。

定義14.10(下に有界な自己共役作用素の特性レベル)

$T$ を無限次元Hilbert空間 $\mathcal{H}$ 上の下に有界な自己共役作用素とする。 $$ \mu_1(T)\colon=\inf\{(u\mid Tu):u\in D(T),\lVert u\rVert=1\}={\rm min}(\sigma(T)), $$ (命題14.8を参照)とおき、$2$ 以上の任意の $n\in\mathbb{N}$ に対し、 $$ \mu_n(T)\colon=\sup_{v_1,\ldots,v_{n-1}\in \mathcal{H}}\inf\{(u\mid Tu):u\in D(T)\cap \{v_1,\ldots,v_{n-1}\}^{\perp},\lVert u\rVert=1\} $$ とおく。($D(T)\subset {\cal H}$ は稠密であるから${\rm dim}(D(T))=\infty$ である。 よって補題14.9より任意の $n\in \mathbb{N}$ と任意の $v_1,\ldots,v_{n-1}\in {\cal H}$ に対し$D(T)\cap \{v_1,\ldots,v_{n-1}\}^{\perp}\neq \{0\}$ である。)各 $n\in \mathbb{N}$ に対し $\mu_n(T)$ を $T$ の $n$ 番目の特性レベルと言う。

補題14.11

$T$ を無限次元Hilbert空間 $\mathcal{H}$ 上の下に有界な自己共役作用素、$(\mu_n(T))_{n\in\mathbb{N}}$ を $T$ の特性レベル、$E^T\colon\mathcal{B}_{\sigma(T)}\rightarrow\mathbb{P}(\mathcal{H})$ を $T$ のスペクトル測度とする。このとき、

  • $(1)$ $(\mu_n(T))_{n\in\mathbb{N}}$ は単調増加列である。
  • $(2)$ $\alpha\in\mathbb{R}$ と $n\in \mathbb{N}$ が $\alpha<\mu_n(T)$ を満たすならば、

$$ {\rm dim}{\rm Ran}E^T((-\infty,\alpha]\cap\sigma(T))\leq n-1 $$ が成り立つ。

  • $(3)$ $\alpha\in\mathbb{R}$ と $n\in \mathbb{N}$ が $\mu_n(T)<\alpha$ を満たすならば、

$$ {\rm dim}{\rm Ran}E^T((-\infty,\alpha]\cap\sigma(T))\geq n $$ が成り立つ。

  • $(4)$ 任意の $n\in\mathbb{N}$ に対し $\mu_n(T)<\infty$ である。
  • $(5)$ 任意の $n\in\mathbb{N}$ に対し $\mu_n(T)\in \sigma(T)$ である。
Proof.

  • $(1)$ 

$$ \mu_1(T)=\inf\{(u\mid Tu):u\in D(T)\cap \{0\}^{\perp},\lVert u\rVert=1\}\leq \mu_2(T) $$ であり、$2$ 以上の任意の自然数 $n$ と任意の $v_1,\ldots,v_{n-1}\in {\cal H}$ に対し、 $$ \begin{aligned} &\inf\{(u\mid Tu): u\in D(T)\cap \{v_1,\ldots,v_{n-1}\}^{\perp},\lVert u\rVert=1\}\\ &=\inf\{(u\mid Tu):u\in D(T)\cap \{v_1,\ldots,v_{n-1},0\}^{\perp},\lVert u\rVert=1\}\leq \mu_{n+1}(T) \end{aligned} $$ であるから $\mu_n(T)\leq \mu_{n+1}(T)$ である。

  • $(2)$ 対偶を示す。もし、

$$ {\rm dim}{\rm Ran}E^T((-\infty,\alpha]\cap \sigma(T))> n-1 $$ ならば、任意の $v_1,\ldots,v_{n-1}\in \mathcal{H}$ に対し 補題14.9より単位ベクトル $$ u_0\in {\rm Ran}E^T((-\infty,\alpha]\cap \sigma(T))\cap \{v_1,\ldots,v_{n-1}\}^{\perp} $$ が取れる。$(-\infty,\alpha]\cap \sigma(T)$ は有界であるから $u_0\in D(T)\cap \{v_1,\ldots,v_{n-1}\}^{\perp}$ であり、 $$ \inf\{(u\mid Tu):u\in D(T)\cap \{v_1,\ldots,v_{n-1}\}^{\perp}\}\leq (u_0\mid Tu_0)=\int_{(-\infty,\alpha]\cap\sigma(T)}\lambda dE^T_{u_0,u_0}(\lambda)\leq\alpha $$ である。$v_1,\ldots,v_{n-1}\in \mathcal{H}$ は任意であるので $\mu_n(T)\leq \alpha$ である。よって対偶が成り立つ。

  • $(3)$ 対偶を示す。もし、

$$ {\rm dim}{\rm Ran}E^T((-\infty,\alpha]\cap \sigma(T))<n $$ ならば、ある $v_1,\ldots,v_{n-1}\in \mathcal{H}$ に対し、 $$ {\rm Ran}E^T((-\infty,\alpha]\cap \sigma(T))={\rm span}\{v_1,\ldots,v_{n-1}\} $$ と表せる。このとき、 $$ \{v_1,\ldots,v_{n-1}\}^{\perp}={\rm Ran}E^T((\alpha,\infty)\cap \sigma(T)) $$ であるから、任意の単位ベクトル $$ u\in D(T)\cap\{v_1,\ldots,v_{n-1}\}^{\perp}=D(T)\cap {\rm Ran}E^T((\alpha,\infty)\cap \sigma(T)) $$ に対し、 $$ (u\mid Tu)=\int_{(\alpha,\infty)\cap\sigma(T)}\lambda dE^T_{u,u}(\lambda)\geq \alpha $$ である。よって $\mu_n(T)\geq \alpha$ であるので対偶が成り立つ。

  • $(4)$ 背理法で示す。もしある $n\in \mathbb{N}$ に対し $\mu_n(T)=\infty$ であるならば、任意の $m\in \mathbb{N}$ に対し $m<\mu_n(T)$ であるから、$(2)$ より、

$$ {\rm dim}{\rm Ran}E^T((-\infty,m]\cap \sigma(T))\leq n-1\quad(\forall m\in\mathbb{N}) $$ である。これより十分大きい $m_0\in\mathbb{N}$ を取れば、 $$ {\rm Ran}E^T((-\infty,m]\cap \sigma(T))={\rm Ran}E^T((-\infty,m_0]\cap \sigma(T))\quad(\forall m\geq m_0) $$ が成り立つので、 $$ E^T((-\infty,m]\cap \sigma(T))=E^T((-\infty,m_0]\cap \sigma(T))\quad(\forall m\geq m_0) $$ が成り立つ。よって、 $$ 1=E^T(\sigma(T))={\rm SOT-}\lim_{m\rightarrow\infty}E^T((-\infty,m]\cap \sigma(T))=E^T((-\infty,m_0]\cap \sigma(T)) $$ であるから、 $$ {\rm Ran}E^T((-\infty,m_0]\cap \sigma(T))=\mathcal{H} $$ を得るが、左辺は有限次元で右辺は無限次元であるので矛盾する。よって任意の $n\in \mathbb{N}$ に対し $\mu_n(T)<\infty$ である。

  • $(5)$ 任意の $n\in \mathbb{N}$ と任意の正数 $\epsilon\in (0,\infty)$ を取る。$(4)$ より $\mu_n(T)-\epsilon<\mu_n(T)<\mu_n(T)+\epsilon$ であるから $(2)$ より、

$$ {\rm dim}{\rm Ran}E^T((-\infty,\mu_n(T)-\epsilon]\cap \sigma(T))\leq n-1, $$ $(3)$ より、 $$ {\rm dim}{\rm Ran}E^T((-\infty,\mu_n(T)+\epsilon)\cap \sigma(T))\geq n $$ である。よって、 $$ \begin{aligned} &{\rm dim}{\rm Ran}E^T((\mu_n(T)-\epsilon,\mu_n(T)+\epsilon)\cap \sigma(T))\\ &={\rm dim}{\rm Ran}E^T((-\infty,\mu_n(T)+\epsilon)\cap \sigma(T)) -{\rm dim}{\rm Ran}E^T((-\infty,\mu_n(T)-\epsilon]\cap \sigma(T))\\ &\geq n-(n-1)=1 \end{aligned} $$ であるから、 $$ E^T((\mu_n(T)-\epsilon,\mu_n(T)+\epsilon)\cap \sigma(T))>0\quad(\forall n\in\mathbb{N},\forall \epsilon\in (0,\infty)), $$ したがって、 $$\mu_n(T)\in {\rm ess.Ran}_{E^T}({\rm id})=\sigma(T)\quad(\forall n\in\mathbb{N}) $$ (命題8.7の $(7)$ を参照)である。

定理14.12(min-max原理)

$\mathcal{H}$ を無限次元Hilbert空間、$T$ を $\mathcal{H}$ 上の下に有界な自己共役作用素、$(\mu_n(T))_{n\in \mathbb{N}}$ を $T$ の特性レベルとする。そして、 $$ s\colon=\sup_{n\in \mathbb{N}}\mu_n(T) $$ とおく。このとき、

  • $(1)$ 

$$ \{\lambda\in \sigma(T):\lambda<s\}=\{\lambda\in \sigma_{\rm d}(T):\lambda<s\}=\{\mu_n(T):\mu_n(T)<s\} $$ が成り立つ。

  • $(2)$ $s=\infty$ ならば $\sigma(T)=\sigma_{\rm d}(T)$($T$ のスペクトルは純粋に離散的)であり、$s<\infty$ ならば、$s={\rm min}(\sigma_{\rm ess}(T))$ である。
  • $(3)$ もし任意の $n\in \mathbb{N}$ に対し $\mu_n(T)<s$ ならば、$(\mu_n(T))_{n\in\mathbb{N}}$ は $s$ より小さい $T$ の離散固有値を重複度を込めて下から並べたもの(重複度だけ同じ値が続く)である。また $s$ より小さい $T$ の離散固有値は無限個存在する。
Proof.

  • $(1)$ $\lambda\in \sigma(T)$ が $\lambda<s$ を満たすならば、ある $n\in \mathbb{N}$ と $\epsilon\in (0,\infty)$ に対し、

$$ \lambda<\lambda+\epsilon<\mu_n(T) $$ となる。よって補題14.11の $(2)$ より、 $$ {\rm dim}{\rm Ran}E^T((\lambda-\epsilon,\lambda+\epsilon)\cap \sigma(T))\leq n-1<\infty $$ であるから、定理14.2より $\lambda\in\sigma_{\rm d}(T)$ である。よって、 $$ \{\lambda\in\sigma(T):\lambda<s\}=\{\lambda\in \sigma_{\rm d}(T):\lambda<s\}\quad\quad(*) $$ が成り立つ。$\lambda<s$ なる任意の $\lambda\in \sigma_{\rm d}(T)$ を取る。命題14.8より、 $$ \mu_1(T)={\rm min}(\sigma(T))\leq \lambda<s=\sup_{n\in\mathbb{N}}\mu_n(T) $$ であるから、 $$ \mu_{n_0}(T)\leq \lambda<\mu_{n_0+1}(T)\quad\quad(**) $$ を満たす $n_0\in\mathbb{N}$ が存在する。補題14.11の $(5)$ と $(*)$ より $\mu_{n_0}(T)\in \sigma_{\rm d}(T)$ であるから $\mu_{n_0}(T)$ は $\sigma(T)$ の孤立点である。よってある $\delta\in (0,\infty)$ が存在し、 $$ (-\infty,\mu_{n_0}(T)]\cap\sigma(T)=(-\infty,\mu_{n_0}(T)+\delta)\cap \sigma(T) $$ となるので、補題14.11の $(3)$ より、 $$ \begin{aligned} n_0&\leq {\rm dim}{\rm Ran}E^T((-\infty,\mu_{n_0}(T)+\delta)\cap \sigma(T))\\ &={\rm dim}{\rm Ran}E^T((-\infty,\mu_{n_0}(T)]\cap \sigma(T)) \end{aligned} $$ であり、$(**)$ と補題14.11の $(2)$ より、 $$ {\rm dim}{\rm Ran}E^T((-\infty,\lambda]\cap \sigma(T))\leq n_0 $$ であるから、 $$ n_0\leq {\rm dim}{\rm Ran}E^T((-\infty,\mu_{n_0}(T)]\cap \sigma(T)) \leq {\rm dim}{\rm Ran}E^T((-\infty,\lambda]\cap \sigma(T))\leq n_0 $$ である。よって、 $$ {\rm Ran}E^T((-\infty,\mu_{n_0}(T)]\cap \sigma(T))={\rm Ran}E^T((-\infty,\lambda]\cap \sigma(T)) $$ であるから、 $$ E^T((\mu_{n_0}(T),\lambda]\cap \sigma(T))=0 $$ である。もし $\mu_{n_0}(T)<\lambda$ ならば $\lambda\in (\mu_{n_0}(T),\lambda]\cap \sigma(T)$ であり、$\lambda\in \sigma_{\rm d}(T)$ であるから、 $$ 0<E^T(\{\lambda\})\leq E^T((\mu_{n_0}(T),\lambda]\cap \sigma(T))=0 $$ となり矛盾する。よって $\mu_{n_0}(T)=\lambda$ である。これより、 $$ \{\lambda\in \sigma_{\rm d}(T):\lambda<s\}\subset\{\mu_n(T):\mu_n(T)<s\} $$ が成り立つ。ゆえに補題14.11の $(5)$ と $(*)$ より、 $$ \{\lambda\in \sigma(T):\lambda<s\}=\{\lambda\in \sigma_{\rm d}(T):\lambda<s\}=\{\mu_n(T):\mu_n(T)<s\} $$ が成り立つ。

  • $(2)$ $s=\infty$ ならば、$(1)$ より $\sigma(T)=\sigma_{\rm d}(T)$ である。$s<\infty$ であるとする。$\sigma(T)$ が閉であることと補題14.11の $(5)$ より $s=\sup_{n\in\mathbb{N}}\mu_n(T)\in \sigma(T)$ である。任意の $\epsilon\in(0,\infty)$ を取る。

$$ \mu_n(T)<s+\epsilon\quad(\forall n\in\mathbb{N}) $$ であるから、補題14.11の $(3)$ より、 $$ {\rm dim}{\rm Ran}E^T((-\infty,s+\epsilon)\cap \sigma(T))=\infty $$ である。また $s-\epsilon<\mu_{n_0}(T)$ なる $n_0\in \mathbb{N}$ が存在するので補題14.11の $(2)$ より、 $$ {\rm dim}{\rm Ran}E^T((-\infty,s-\epsilon]\cap \sigma(T))\leq n_0-1<\infty $$ である。よって、 $$ {\rm dim}{\rm Ran}E^T((s-\epsilon,s+\epsilon)\cap \sigma(T))=\infty\quad(\forall \epsilon\in(0,\infty)) $$ であるから、定理14.2より $s\in \sigma_{\rm ess}(T)$ である。$(1)$ より、 $$ \{\lambda\in \sigma_{\rm ess}(T):\lambda<s\}\subset \sigma_{\rm ess}(T)\cap \sigma_{\rm d}(T)=\emptyset $$ であるから $s={\rm min}(\sigma_{\rm ess}(T))$ である。

  • $(3)$ 補題14.11の $(1)$ より $(\mu_n(T))_{n\in \mathbb{N}}$ は単調増加列であり $\mu_n(T)<s$ $(\forall n\in\mathbb{N})$、$s=\sup_{n\in \mathbb{N}}\mu_n(T)$ であるから、任意の $n\in \mathbb{N}$ に対し、$n<k$、$\mu_{n}(T)<\mu_{k}(T)$ なる $k\in\mathbb{N}$ が取れる。そこで $k(1)=1$ とし、$k(n)\in \mathbb{N}$ が定まったとき、$k(n)<k$、$\mu_{k(n)}(T)<\mu_k(T)$ を満たす最小の $k\in \mathbb{N}$ を $k(n+1)$ と定義する。こうして$(\mu_n(T))_{n\in \mathbb{N}}$ の部分列 $(\mu_{k(n)}(T))_{n\in \mathbb{N}}$ を帰納的に定義する。このとき、

$$ \mu_{k(n)}(T)<\mu_{k(n+1)}(T)\quad(\forall n\in \mathbb{N}),\quad \{\mu_n(T):n\in \mathbb{N}\}=\{\mu_{k(n)}(T):n\in \mathbb{N}\} $$ である。$(1)$ より、 $$ \{\lambda\in \sigma(T):\lambda<s\}=\{\lambda\in \sigma_{\rm d}(T):\lambda<s\}=\{\mu_n(T):n\in\mathbb{N}\}=\{\mu_{k(n)}(T):n\in\mathbb{N}\} $$ であるから、$s$ より小さい離散固有値は無限個存在する。$(\mu_n(T))_{n\in\mathbb{N}}$ が $s$ より小さい $T$ の離散固有値を重複度を込めて下から並べたものであることを示すには、 $$ {\rm dim}{\rm Ran}E^T(\{\mu_{k(n)}(T)\})=k(n+1)-k(n)\quad(\forall n\in\mathbb{N})\quad\quad(****) $$ が成り立つことを示せばよい。任意の $n\in \mathbb{N}$ を取る。 $$ \mu_{k(n)}(T)=\mu_{k(n+1)-1}(T)<\mu_{k(n+1)}(T) $$ であることと、$\mu_{k(n)}(T)=\mu_{k(n+1)-1}(T)\in \sigma_{\rm d}(T)$ が $\sigma(T)$ の孤立点であることに注意して、補題14.11の $(2),(3)$ を用いれば、 $$ {\rm dim}{\rm Ran}E^T((-\infty,\mu_{k(n)}(T)]\cap \sigma(T))=k(n+1)-1 $$ であることが分かる。ここで、 $$ (-\infty,\mu_{k(n)}(T)]\cap \sigma(T)=\bigcup_{j=1}^{n}\{\mu_{k(j)}(T)\} $$ であるから、 $$ E^T((-\infty,\mu_{k(n)}(T)]\cap \sigma(T))=\sum_{j=1}^{n}E^T(\{\mu_{k(j)}(T)\}) $$ なので、 $$ \sum_{j=1}^{n}{\rm dim}{\rm Ran}E^T(\{\mu_{k(j)}(T)\})={\rm dim}{\rm Ran}E^T((-\infty,\mu_{k(n)}(T)]\cap \sigma(T))=k(n+1)-1 $$ である。よって、 $$ {\rm dim}{\rm Ran}E^T(\{\mu_{k(1)}(T)\})=k(2)-1=k(2)-k(1) $$ であり、任意の $n\geq 2$ に対し、 $$ \begin{aligned} &{\rm dim}{\rm Ran}E^T(\{\mu_{k(n)}(T)\})\\ &=\sum_{j=1}^{n}{\rm dim}E^T(\{\mu_{k(j)}(T)\})-\sum_{j=1}^{n-1}{\rm dim}{\rm Ran}E^T(\{\mu_{k(j)}(T)\})\\ &=(k(n+1)-1)-(k(n)-1)=k(n+1)-k(n) \end{aligned} $$ であるから、$(****)$ が成り立つ。

命題14.13(Reyleigh-Ritzの原理)

$\mathcal{H}$ を無限次元Hilbert空間、$T$ を $\mathcal{H}$ 上の下に有界な自己共役作用素、$(\mu_n(T))_{n\in\mathbb{N}}$ を $T$ の特性レベルとする。任意の $N\in \mathbb{N}$ と $D(T)$ の任意の $N$ 次元部分空間 $\mathcal{K}$ に対し、$\mathcal{K}$ の上への射影作用素を $P_{\mathcal{K}}\in \mathbb{B}(\mathcal{H})$ として、 $$ T_{\mathcal{K}}:\mathcal{K}\ni v\mapsto P_{\mathcal{K}}Tv\in \mathcal{K} $$ なる $\mathcal{K}$ 上の自己共役作用素を定義する。そして $T_{\mathcal{K}}$ の固有値を重複度を込めて下から並べたものを $\lambda_1,\ldots,\lambda_N$(重複度の数だけ同じ値が続く)とする。このとき、 $$ \mu_n(T)\leq \lambda_n\quad(n=1,\ldots,N) $$ が成り立つ。

Proof.

命題14.6より、 $$ \begin{aligned} \mu_1(T)&=\inf\{(u\mid Tu):u\in D(T),\lVert u\rVert=1\}\leq \inf\{(u\mid Tu):u\in \mathcal{K},\lVert u\rVert=1\}\\ &=\inf\{(u\mid T_{\mathcal{K}}u):u\in\mathcal{K},\lVert u\rVert=1\}=\lambda_1 \end{aligned} $$ であり、任意の $n\in\{2,\ldots,N\}$、任意の $v_1,\ldots,v_{n-1}\in \mathcal{H}$ に対し、 $$ \begin{aligned} &\inf\{(u\mid Tu):u\in D(T)\cap \{v_1,\ldots,v_{N-1}\}^{\perp},\lVert u\rVert=1\}\\ &\leq\inf\{(u\mid Tu):u\in \mathcal{K}\cap \{v_1,\ldots,v_{N-1}\}^{\perp},\lVert u\rVert=1\}\\ &=\inf\{(u\mid T_{\mathcal{K}}u):u\in \mathcal{K}\cap \{P_{\mathcal{K}}v_1,\ldots,P_{\mathcal{K}}v_{N-1}\}^{\perp},\lVert u\rVert=1\}\leq \lambda_n \end{aligned} $$ であるから、$\mu_{n}(T)\leq \lambda_n$ である。

15. 加藤-Rellichの定理、相対コンパクトな摂動に対する真性スペクトルの安定性

定理15.1(加藤-Rellichの定理1)

$\mathcal{H}$ をHilbert空間、$T$ を $\mathcal{H}$ 上の自己共役作用素、$S$ を $\mathcal{H}$ 上の対称作用素とする。そして $D(T)\subset D(S)$ であり、ある $a\in [0,1)$ と $b\in [0,\infty)$ に対し、 $$ \lVert Sv\rVert\leq a\lVert Tv\rVert+b\lVert v\rVert\quad(\forall v\in D(T))\quad\quad(*) $$ が成り立つとする。このとき次が成り立つ。

  • $(1)$ $T+S\colon D(T)\rightarrow\mathcal{H}$ は $\mathcal{H}$ 上の自己共役作用素である。
  • $(2)$ $T$ の芯は $T+S$ の芯でもある。
  • $(3)$ $T$ が下に有界ならば $T+S$ も下に有界であり、$\gamma\colon ={\rm min}(\sigma(T))$ とおくと、

$$ {\rm min}(\sigma(T+S))\geq \gamma-{\rm max}\left(\frac{b}{1-a},a\lvert \gamma\rvert+b\right) $$ が成り立つ。

Proof.

  • $(1)$ $E^T\colon \mathcal{B}_{\sigma(T)}\rightarrow\mathbb{P}(\mathcal{H})$ を $T$ のスペクトル測度とする。任意の $n\in \mathbb{N}$ に対し、

$$ \begin{aligned} &\lVert T(T\pm in)^{-1}\rVert=\left\lVert \int_{\sigma(T)}\frac{t}{t\pm in}dE^T(t)\right\rVert \leq\sup_{t\in \sigma(T)}\left\lvert \frac{t}{t\pm in}\right\rvert\leq 1,\\ &\lVert (T\pm in)^{-1}\rVert=\left\lVert \int_{\sigma(T)}\frac{1}{t\pm in}dE^T(t)\right\rVert \leq\sup_{t\in \sigma(T)}\left\lvert \frac{1}{t\pm in}\right\rvert\leq \frac{1}{n} \end{aligned} $$ である。そこで、 $$ a+\frac{b}{n_0}<1 $$ を満たす $n_0\in \mathbb{N}$ を取れば $(*)$ より、 $$ \lVert S(T\pm in_0)^{-1}\rVert\leq a\lVert T(T\pm in_0)^{-1}\rVert+b\lVert (T\pm in_0)^{-1}\rVert \leq a+\frac{b}{n_0}<1 $$ であるから、Banach環とC*-環のスペクトル理論命題1.2より、 $$ (T+S\pm in_0)(T\pm in_0)^{-1}=1+S(T\pm in_0)^{-1}\in {\rm GL}(\mathbb{B}(\mathcal{H})) $$ である。特に、 $$ {\rm Ran}(T+S\pm in_0)=\mathcal{H} $$ であり、$T+S$ は対称作用素であるので、定理4.6より $T+S$ は自己共役作用素である。

  • $(2)$ $D\subset D(T)$ が $T$ の芯であるとすると、任意の $v\in D(T)=D(T+S)$ に対し、$D$ の点列 $(v_n)_{n\in \mathbb{N}}$ で、

$$ \lim_{n\rightarrow\infty}\lVert v_n-v\rVert=0,\quad \lim_{n\rightarrow\infty}\lVert Tv_n-Tv\rVert=0 $$ を満たすものが取れる。$(*)$ より、 $$ \lVert Sv_n-Sv\rVert\leq a\lVert Tv_n-Tv\rVert+b\lVert v_n-v\rVert\rightarrow0\quad(n\rightarrow\infty) $$ であるから、$D$ は $S+T$ の芯である。

  • $(3)$ 任意の $\lambda\in (-\infty,\gamma)$ に対し、

$$ \begin{aligned} \lVert T(T-\lambda)^{-1}\rVert&=\left\lVert \int_{\sigma(T)}\frac{t}{t-\lambda}dE^T(t)\right\rVert\leq \sup_{t\in \sigma(T)}\left\lvert \frac{t}{t-\lambda}\right\rvert\\ &=\sup_{t\in \sigma(T)}\left\lvert 1+\frac{\lambda}{t-\lambda}\right\rvert \leq \begin{cases}1\quad&(\lambda<0)\\ 1+\frac{\lambda}{\gamma-\lambda}&(\lambda\geq0)\end{cases}\\ &\leq {\rm max}\left(1,\frac{\lvert \gamma\rvert}{\gamma-\lambda}\right), \end{aligned} $$ $$ \begin{aligned} \lVert (T-\lambda)^{-1}\rVert=\left\lVert \int_{\sigma(T)}\frac{1}{t-\lambda}dE^T(t)\right\rVert \leq \sup_{t\in \sigma(T)}\frac{1}{t-\lambda}\leq \frac{1}{\gamma-\lambda} \end{aligned} $$ であるから、$(*)$ より、 $$ \begin{aligned} \lVert S(T-\lambda)^{-1}\rVert &\leq a\lVert T(T-\lambda)^{-1}\rVert+b\lVert (T-\lambda)^{-1}\rVert\\ &\leq{\rm max}\left(a+\frac{b}{\gamma-\lambda}, \frac{a\lvert \gamma\rvert+b}{\gamma-\lambda}\right) \end{aligned} $$ である。よって、 $$ \lambda<\gamma-{\rm max}\left(\frac{b}{1-a},a\lvert \gamma\rvert+b\right) $$ を満たす任意の $\lambda\in \mathbb{R}$ に対し $\lVert S(T-\lambda)^{-1}\rVert<1$ であるから、Banach環とC*-環のスペクトル理論命題1.2より、 $$ (T+S-\lambda)(T-\lambda)^{-1}=1+S(T-\lambda)^{-1}\in {\rm GL}(\mathbb{B}(\mathcal{H})), $$ したがって、$\lambda\notin \sigma(T+S)$ である。ゆえに $\lambda\in \sigma(T+S)$ ならば $\lambda\geq \gamma-{\rm max}\left(\frac{b}{1-a},a\lvert \gamma\rvert+b\right)$ であるから、$T+S$ は下に有界であり、 $$ {\rm min}(\sigma(T+S))\geq \gamma-{\rm max}\left(\frac{b}{1-a},a\lvert \gamma\rvert+b\right) $$ が成り立つ。

定義15.2(自己共役作用素に対して無限小な対称作用素)

$\mathcal{H}$ をHilbert空間、$T$ を $\mathcal{H}$ 上の自己共役作用素、$S$ を $\mathcal{H}$ 上の対称作用素とする。もし $D(T)\subset D(S)$ であり、任意の $\epsilon\in (0,1)$ に対し $\delta\in [0,\infty)$ が存在し、 $$ \lVert Sv\rVert\leq \epsilon\lVert Tv\rVert +\delta\lVert v\rVert\quad(\forall v\in D(T)) $$ が成り立つならば、$S$ は $T$ に対して無限小であると言う。

加藤-Rellichの定理(定理15.1)より、$S$ が $T$ に対して無限小であるならば、$T+S$ は自己共役作用素であり、$T$ の芯は $T+S$ の芯である。また $T$ が下に有界ならば $T+S$ も下に有界である。

定義15.3(自己共役作用素に対して相対コンパクトな対称作用素)

$\mathcal{H}$ をHilbert空間、$T$ を $\mathcal{H}$ 上の自己共役作用素、$S$ を $\mathcal{H}$ 上の対称作用素とする。もし $D(T)\subset D(S)$ であり、ある $\lambda_0\in \rho(T)$ に対し、 $$ S(T-\lambda_0)^{-1}\in \mathbb{B}_0(\mathcal{H}) $$ が成り立つならば、$S$ は $T$ に対して相対コンパクトであると言う。
このとき任意の $\lambda\in \rho(T)$ に対し $S(T-\lambda)^{-1}\in \mathbb{B}_0(\mathcal{H})$ であることに注意する。実際、 $$ \begin{aligned} S(T-\lambda_0)^{-1}-S(T-\lambda)^{-1}&=S(T-\lambda_0)^{-1}((T-\lambda)-(T-\lambda_0))(T-\lambda)^{-1}\\ &=(\lambda_0-\lambda)S(T-\lambda_0)^{-1}(T-\lambda)^{-1} \end{aligned} $$ であるから、 $$ S(T-\lambda)^{-1}=S(T-\lambda_0)^{-1}+(\lambda-\lambda_0)S(T-\lambda_0)^{-1}(T-\lambda)^{-1}\in \mathbb{B}_0(\mathcal{H}) $$ である。

補題15.4

$\mathcal{H}$ をHilbert空間、$T$ を $\mathcal{H}$ 上の自己共役作用素とし、$S$ を $T$ に対して相対コンパクトな対称作用素とする。このとき、 $$ \lim_{n\rightarrow\infty}\lVert S(T+in)^{-1}\rVert=0 $$ が成り立つ。

Proof.

定義15.3の注意で述べた様に $S(T+in)^{-1} \in \mathbb{B}_0(\mathcal{H})$ である。$E^T\colon\mathcal{B}_{\sigma(T)}\rightarrow\mathbb{P}(\mathcal{H})$ を $T$ のスペクトル測度とする。今、 $$ A\colon=S(T+i)^{-1}\in \mathbb{B}_0(\mathcal{H}), $$ $$ B_n\colon=(T+i)(T+in)^{-1}=\int_{\sigma(T)}\frac{t+i}{t+in}dE^T(t)\in \mathbb{B}(\mathcal{H})\quad(\forall n\in \mathbb{N}) $$ とおく。このとき、 $$ S(T+in)^{-1}=AB_n\quad(\forall n\in \mathbb{N}) $$ である。そして、 $$ \lVert B_n\rVert=\sup_{t\in \sigma(T)}\left\lvert \frac{t+i}{t+in}\right\rvert\leq1\quad(\forall n\in \mathbb{N})\quad\quad(*) $$ であり、任意の $v\in \mathcal{H}$ に対しLebesgue優収束定理より、 $$ \lVert B_n^*v\rVert^2=\int_{\sigma(T)}\left\lvert \frac{t-i}{t-in}\right\rvert^2dE^T_{v,v}(t)\rightarrow0\quad(n\rightarrow\infty)\quad\quad(**) $$ である。任意の $\epsilon\in (0,\infty)$ に対し、コンパクト作用素の定義(定義13.3)より有限階作用素 $A_0\in\mathbb{B}_{\rm f}(\mathcal{H})$ で、 $$ \lVert A-A_0\rVert<\frac{\epsilon}{2}\quad\quad(***) $$ を満たすものが取れる。有限次元部分空間 ${\rm Ran}(A_0)\subset \mathcal{H}$ のCONSを $e_1,\ldots,e_m$ とおけば、命題13.6より、 $$ A_0=\left(\sum_{j=1}^{m}e_j\odot e_j\right)A_0=\sum_{j=1}^{m}e_j\odot A_0^*e_j $$ であるから、$(**)$ と命題13.6より作用素ノルムで、 $$ A_0B_n=\left(\sum_{j=1}^{m}e_j\odot A_0^*e_j\right)B_n=\sum_{j=1}^{m}e_j\odot B_n^*A_0^*e_j\rightarrow0\quad(n\rightarrow\infty) $$ となる。よって十分大きい $n_0\in \mathbb{N}$ を取れば、 $$ \lVert A_0B_n\rVert<\frac{\epsilon}{2}\quad(\forall n\geq n_0) $$ となるので、$(*)$, $(***)$ より任意の $n\geq n_0$ に対し、 $$ \begin{aligned} \lVert S(T+in)^{-1}\rVert&=\lVert AB_n\rVert\leq \lVert (A-A_0)B_n\rVert+\lVert A_0B_n\rVert\\ &<\lVert A-A_0\rVert+\frac{\epsilon}{2}<\epsilon \end{aligned} $$ となる。ゆえに $\lim_{n\rightarrow\infty}\lVert S(T+in)^{-1}\rVert=0$ が成り立つ。

定理15.5(相対コンパクトな摂動に対する真性スペクトルの安定性)

$\mathcal{H}$ をHilbert空間、$T$ を $\mathcal{H}$ 上の自己共役作用素、$S$ を $T$ に対して相対コンパクトな対称作用素(定義15.3)とする。このとき、

  • $(1)$ $S$ は $T$ に対して無限小(定義15.2)である。(したがって $T+S\colon D(T)\rightarrow\mathcal{H}$ は自己共役作用素である。)
  • $(2)$ $S$ は $T+S$ に対しても相対コンパクトである。
  • $(3)$ $\sigma_{\rm ess}(T+S)=\sigma_{\rm ess}(T)$ が成り立つ。
Proof.

  • $(1)$ 補題15.4より任意の $\epsilon\in (0,1)$ に対し $\lVert S(T+in)^{-1}\rVert<\epsilon$ なる $n\in \mathbb{N}$ が取れる。よって任意の $v\in D(T)$ に対し、

$$ \lVert Sv\rVert\leq\lVert S(T+in)^{-1}(T+in)v\rVert \leq \epsilon\lVert Tv\rVert+n\lVert (S+in)^{-1}\rVert\lVert v\rVert $$ であるので、$\epsilon\in (0,1)$ の任意性より $S$ は $T$ に対して無限小である。

  • $(2)$ 任意の $n\in \mathbb{N}$ に対し、

$$ \begin{aligned} S(T+S+in)^{-1}-S(T+in)^{-1}&=S(T+S+in)^{-1}((T+in)-(T+S+in))(T+in)^{-1}\\ &=-S(T+S+in)^{-1}S(T+in)^{-1} \end{aligned} $$ であるから、 $$ S(T+S+in)^{-1}(1+S(T+in)^{-1})=S(T+in)^{-1}\quad\quad(*) $$ である。補題15.4より十分大きい $n_0\in \mathbb{N}$ を取れば、 $$ \lVert S(T+in_0)^{-1}\rVert<1 $$ となるので、Banach環とC*-環のスペクトル理論命題1.2より、 $$ 1+S(T+in_0)^{-1}\in {\rm GL}(\mathbb{B}(\mathcal{H})) $$ である。よって $(*)$ より、 $$ S(T+S+in_0)^{-1}=S(T+in_0)^{-1}(1+S(T+in_0)^{-1})^{-1}\in \mathbb{B}_0(\mathcal{H}) $$ であるから、$S$ は $T+S$ に対して相対コンパクトである。

  • $(3)$ 任意の $\lambda\in \sigma_{\rm ess}(T)$ を取る。定理14.2より $D(T)$ の単位ベクトルの列 $(u_n)_{n\in\mathbb{N}}$ で、$\lim_{n\rightarrow\infty}\lVert (T-\lambda)u_n\rVert=0$ かつ $\mathcal{H}$ の弱位相で $\lim_{n\rightarrow\infty}u_n=0$ となるものが取れる。任意の $n\in \mathbb{N}$ に対し、

$$ \begin{aligned} &(\lambda-(T+S))u_n=(\lambda-T)u_n-S(T-i)^{-1}(T-i)u_n\\ &=(\lambda-T)u_n-S(T-i)^{-1}((T-\lambda)u_n+(\lambda-i)u_n)\quad\quad(**) \end{aligned} $$ であり、$S$ は $T$ に対して相対コンパクトであるので $S(T-i)^{-1}\in \mathbb{B}_0(\mathcal{H})$ であるから、定理13.10より、 $$ \lim_{n\rightarrow\infty}\lVert S(T-i)^{-1}u_n\rVert=0 $$ である。よって $(**)$ より、 $$ \lim_{n\rightarrow\infty}\lVert (\lambda-(T+S))u_n\rVert=0 $$ であるから、定理14.2より $\lambda\in \sigma_{\rm ess}(T+S)$ である。ゆえに、 $$ \sigma_{\rm ess}(T)\subset \sigma_{\rm ess}(T+S) $$ が成り立つ。$(2)$ より $-S$ は $T+S$ に対して相対コンパクトであるので、上の結果より、 $$ \sigma_{\rm ess}(T+S)\subset \sigma_{\rm ess}(T+S-S)=\sigma_{\rm ess}(T) $$ も成り立つ。よって $\sigma_{\rm ess}(T)=\sigma_{\rm ess}(T+S)$ が成り立つ。

16. トレースクラス、Hilbert-Schmidtクラス、積分作用素

命題16.1

$\mathcal{H}$ をHilbert空間、$(e_j)_{j\in J}$, $(f_i)_{i\in I}$ をそれぞれ $\mathcal{H}$ の添字付けられたCONSとする。このとき、

  • $(1)$ 任意の $T\in \mathbb{B}(\mathcal{H})$ に対し、

$$ \sum_{j\in J}(e_j\mid T^*Te_j)=\sum_{j\in J}(e_j\mid TT^*e_j) $$ が成り立つ。

  • $(2)$ 任意の非負有界自己共役作用素 $T\in \mathbb{B}(\mathcal{H})_+$ に対し、

$$ \sum_{j\in J}(e_j\mid Te_j)=\sum_{i\in I}(f_i\mid Tf_i) $$ が成り立つ。

Proof.

  • $(1)$ $\mathcal{F}_J$ を $J$ の有限部分集合全体とする。また任意の $j,j'\in J$ に対し、

$$ \alpha_{j,j'}\colon=(e_{j'}\mid Te_j)(Te_j\mid e_{j'})=(T^*e_{j'}\mid e_j)(e_j\mid T^*e_{j'})\geq0 $$ とおく。すると、 $$ \begin{aligned} \sum_{j\in J}(e_j\mid T^*Te_j)&=\sum_{j\in J}(Te_j\mid Te_j) =\sum_{j\in J}\sum_{j'\in J}(e_{j'}\mid Te_j)(Te_j\mid e_{j'})\\ &=\sum_{j\in J}\sum_{j'\in J}\alpha_{j,j'}=\sum_{j'\in J}\sum_{j\in J}\alpha_{j,j'}=\sum_{j'\in J}\sum_{j\in J}(T^*e_{j'}\mid e_j)(e_j\mid T^*e_{j'})\\ &=\sum_{j'\in J}(T^*e_{j'}\mid T^*e_{j'})=\sum_{j'\in J}(e_{j'}\mid TT^*e_{j'}) \end{aligned} $$ (非負数の総和については位相線形空間1:ノルムと内積定義5.4を参照)となる。

$$ Ue_j=f_{\gamma(j)}\quad(\forall j\in J) $$ を満たすものが取れる。任意の $T\in \mathbb{B}(\mathcal{H})_+$ に対し、 $$ \sum_{i\in I}(f_i\mid Tf_i)=\sum_{j\in J}(f_{\gamma(j)}\mid Tf_{\gamma(j)}) =\sum_{j\in J}(e_j\mid U^*TUe_j) $$ であり、$U^*TU=(\sqrt{T}U)^*(\sqrt{T}U)$ であることと $(1)$ より、 $$ \sum_{j\in J}(e_j\mid U^*TUe_j)=\sum_{j\in J}\left(e_j\mid (\sqrt{T}U)^*(\sqrt{T}U)e_j\right) =\sum_{j\in J}\left(e_j\mid (\sqrt{T}U)(\sqrt{T}U)^*e_j\right) =\sum_{j\in J}(e_j\mid Te_j) $$ であるから、 $$ \sum_{i\in I}(f_i\mid Tf_i)=\sum_{j\in J}(e_j\mid U^*TUe_j)=\sum_{j\in J}(e_j\mid Te_j) $$ である。

定義16.2($\mathbb{B}(\mathcal{H})_+$ 上のトレース)

$\mathcal{H}$ をHilbert空間とする。$\mathcal{H}$ 上の非負有界自己共役作用素に対するトレース $$ {\rm Tr}\colon \mathbb{B}(\mathcal{H})_+\rightarrow [0,\infty] $$ を、$\mathcal{H}$ のCONS $(e_j)_{j\in J}$ に対し、 $$ {\rm Tr}(T)\colon =\sum_{j\in J}(e_j\mid Te_j) $$ として定義する。命題16.1の $(2)$ よりこの定義は $\mathcal{H}$ のCONSの取り方によらない。

命題16.3($\mathbb{B}(\mathcal{H})_+$ 上のトレースの基本的性質)

トレース ${\rm Tr}\colon \mathbb{B}(\mathcal{H})_+\rightarrow[0,\infty]$ に対し次が成り立つ。

  • $(1)$ $S,T\in \mathbb{B}(\mathcal{H})_+$ が $S\leq T$ を満たすならば ${\rm Tr}(S)\leq {\rm Tr}(T)$.
  • $(2)$ 任意の $S,T\in \mathbb{B}(\mathcal{H})_+$ に対し ${\rm Tr}(S+T)={\rm Tr}(S)+{\rm Tr}(T)$.
  • $(3)$ 任意の $T\in \mathbb{B}(\mathcal{H})_+$ と $\alpha\in [0,\infty)$ に対し ${\rm Tr}(\alpha T)=\alpha {\rm Tr}(T)$.
  • $(4)$ 任意の $T\in \mathbb{B}(\mathcal{H})_+$ と $V\in \mathbb{B}(\mathcal{H})$ に対し ${\rm Tr}(V^*TV)\leq \lVert V\rVert^2{\rm Tr}(T)$.
  • $(5)$ 任意の $T\in \mathbb{B}(\mathcal{H})$ に対し $\lVert T\rVert\leq {\rm Tr}(\lvert T\rvert)$.
Proof.

$(1),(2),(3)$ は自明である。$(4)$ を示す。$\mathcal{H}$ のCONS $(e_j)_{j\in J}$ に対し命題16.1の $(1)$ より、 $$ \begin{aligned} {\rm Tr}(V^*TV)&={\rm Tr}\left(\left(\sqrt{T}V\right)\left(\sqrt{T}V\right)^*\right) ={\rm Tr}\left(\sqrt{T}VV^*\sqrt{T}\right)=\sum_{j\in J}\left(e_j\mid \sqrt{T}VV^*\sqrt{T}e_j\right)\\ &=\sum_{j\in J}\lVert V^*\sqrt{T}e_j\rVert^2 \leq\lVert V\rVert^2\sum_{j\in J}\lVert \sqrt{T}e_j\rVert^2=\lVert V\rVert^2\sum_{j\in J}(e_j\mid Te_j) =\lVert V\rVert^2{\rm Tr}(T) \end{aligned} $$ である。$(5)$ を示す。 $$ \lVert T\rVert^2=\lVert T^*T\rVert=\lVert \lvert T\rvert^2\rVert=\lVert \lvert T\rvert\rVert^2 $$ より、 $$ \lVert T\rVert=\lVert \lvert T\rvert\rVert=\lVert \sqrt{\lvert T\rvert}^2\rVert=\lVert \sqrt{\lvert T\rvert}\rVert^2 $$ である。そして、 $$ \lVert \sqrt{\lvert T\rvert}\rVert^2=\sup\{\lVert \sqrt{T}e\rVert^2:e\in \mathcal{H},\lVert e\rVert=1\} =\sup\{(e\mid \lvert T\rvert e):e\in \mathcal{H},\lVert e\rVert=1\} $$ であるから、 $$ \lVert T\rVert=\lVert \sqrt{\lvert T\rvert}\rVert^2=\sup\{(e\mid \lvert T\rvert e):e\in \mathcal{H},\lVert e\rVert=1\}\quad\quad(*) $$ が成り立つ。任意の単位ベクトル $e\in \mathcal{H}$ に対し測度と積分6:数え上げ測度と $\ell^p$ 空間命題25.9より $e$ を含む $\mathcal{H}$ のCONSが存在するので、 $$ (e\mid \lvert T\rvert e)\leq {\rm Tr}(\lvert T\rvert) $$ が成り立つ。よって $(*)$ より $\lVert T\rVert\leq {\rm Tr}(\lvert T\rvert)$ が成り立つ。

定義16.4(トレースクラス $\mathbb{B}^1(\mathcal{H})$、Hilbert-Schmidtクラス $\mathbb{B}^2(\mathcal{H})$)

$\mathcal{H}$ をHilbert空間とする。 $$ \mathbb{B}^1(\mathcal{H})\colon=\{T\in \mathbb{B}(\mathcal{H}):{\rm Tr}(\lvert T\rvert)<\infty\} $$ を $\mathcal{H}$ 上のトレースクラス、 $$ \mathbb{B}^2(\mathcal{H})\colon=\{T\in \mathbb{B}(\mathcal{H}):{\rm Tr}(T^*T)<\infty\} $$ を $\mathcal{H}$ 上のHilbert-Schmidtクラスと言う。

命題16.5(トレースクラス $\mathbb{B}^1(\mathcal{H})$ は $\mathbb{B}(\mathcal{H})$ の $*$-イデアル)

トレースクラス $\mathbb{B}^1(\mathcal{H})$ は、 $$ \mathbb{B}^1(\mathcal{H})={\rm span}(\mathbb{B}^1(\mathcal{H})\cap \mathbb{B}(\mathcal{H})_+)={\rm span}\{T\in \mathbb{B}(\mathcal{H})_+: {\rm Tr}(T)<\infty\} $$ と表せる。そして $\mathbb{B}^1(\mathcal{H})$ は $\mathbb{B}(\mathcal{H})$ の $*$-イデアルである。

Proof.

$$ \mathcal{T}\colon={\rm span}(\mathbb{B}^1(\mathcal{H})\cap \mathbb{B}(\mathcal{H})_+)={\rm span}\{T\in \mathbb{B}(\mathcal{H})_+: {\rm Tr}(T)<\infty\} $$ とおく。まず $\mathcal{T}$ が $\mathbb{B}(\mathcal{H})$ の $*$-イデアルであることを示す。任意の $T\in \mathbb{B}^1(\mathcal{H})\cap \mathbb{B}(\mathcal{H})_+$、任意の $S\in \mathbb{B}(\mathcal{H})$ に対し、偏極恒等式(測度と積分6:数え上げ測度と $\ell^p$ 空間定義25.2)と命題16.3の $(4)$ より、 $$ \begin{aligned} ST&=(\sqrt{T}S^*)^*\sqrt{T}=\frac{1}{4}\sum_{k=0}^{3}i^k\left(i^k\sqrt{T}S^*+\sqrt{T}\right)^*\left(i^k\sqrt{T}S^*+\sqrt{T}\right)\\ &=\frac{1}{4}\sum_{k=0}^{3}i^k(i^kS^*+1)^*T(i^kS^*+1)\in \mathcal{T}, \end{aligned} $$ よって、 $$ ST\in \mathcal{T}\quad(\forall S\in \mathbb{B}(\mathcal{H}),\forall T\in \mathcal{T}) $$ が成り立つ。また $\mathcal{T}$ は明らかに $*$-演算で閉じているので、 $$ TS=(S^*T^*)^*\in \mathcal{T}\quad(\forall S\in \mathbb{B}(\mathcal{H}),\forall T\in \mathcal{T}) $$ も成り立つ。これより $\mathcal{T}$ は $\mathbb{B}(\mathcal{H})$ の $*$-イデアルである。次に $\mathbb{B}^1(\mathcal{H})=\mathcal{T}$ が成り立つことを示す。任意の $T\in \mathbb{B}^1(\mathcal{H})$ に対し $T=V\lvert T\rvert$ を $T$ の極分解(定理9.4)とすると、$\lvert T\rvert\in \mathcal{T}$ であり $\mathcal{T}$ はイデアルであるから $T=V\lvert T\rvert\in \mathcal{T}$ である。よって $\mathbb{B}^1(\mathcal{H})\subset \mathcal{T}$ が成り立つ。任意の $T\in \mathcal{T}$ に対し $T=V\lvert T\rvert$ を $T$ の極分解とすると、$\lvert T\rvert=V^*V\lvert T\rvert=V^*T$ であり $\mathcal{T}$ はイデアルであるから、$\lvert T\rvert\in\mathcal{T}$ である。よって ${\rm Tr}(\lvert T\rvert)<\infty$ であるから $T\in \mathbb{B}^1(\mathcal{H})$ である。ゆえに $\mathbb{B}^1(\mathcal{H})=\mathcal{T}$ が成り立つ。

命題16.6(Hilbert-Schmidtクラス $\mathbb{B}^2(\mathcal{H})$ は $\mathbb{B}(\mathcal{H})$ の $*$-イデアル)

Hilbert-Schmidtクラス $\mathbb{B}^2(\mathcal{H})$ は $\mathbb{B}(\mathcal{H})$ の $*$-イデアルである。

Proof.

任意の $T\in \mathbb{B}^2(\mathcal{H})$ に対し命題16.1の $(1)$ より ${\rm Tr}(TT^*)={\rm Tr}(T^*T)<\infty$ であるから $T^*\in \mathbb{B}^2(\mathcal{H})$ である。任意の $T\in \mathbb{B}^2(\mathcal{H})$ と任意の $S\in \mathbb{B}(\mathcal{H})$ に対し命題16.3の $(4)$ より、 $$ {\rm Tr}((TS)^*TS)={\rm Tr}(S^*T^*TS)\leq \lVert S\rVert^2{\rm Tr}(T^*T)<\infty $$ であるから、$TS\in \mathbb{B}^2(\mathcal{H})$ が成り立ち、$\mathbb{B}^2(\mathcal{H})$ は $*$-演算で閉じているから $ST=(T^*S^*)^*\in \mathbb{B}^2(\mathcal{H})$ が成り立つ。任意の $T\in \mathbb{B}^2(\mathcal{H})$ と任意の $\alpha\in \mathbb{C}$ に対し、 $$ {\rm Tr}((\alpha T)^*\alpha T)={\rm Tr}(\lvert\alpha\rvert^2T^*T)=\lvert\alpha\rvert^2{\rm Tr}(T^*T)<\infty $$ であるから $\alpha T\in \mathbb{B}^2(\mathcal{H})$ であり、任意の $S,T\in \mathbb{B}^2(\mathcal{H})$ に対し、 $$ (S+T)^*(S+T)\leq (S+T)^*(S+T)+(S-T)^*(S-T)=2(S^*S+T^*T) $$ であることと命題16.3の $(1),(2)$ より、 $$ {\rm Tr}((S+T)^*(S+T))\leq 2({\rm Tr}(S^*S)+{\rm Tr}(T^*T))<\infty $$ であるから $S+T\in \mathbb{B}^2(\mathcal{H})$ である。ゆえに $\mathbb{B}^2(\mathcal{H})$ は $\mathbb{B}(\mathcal{H})$ の $*$-イデアルである。

命題16.7($\mathbb{B}^1(\mathcal{H})\subset \mathbb{B}^2(\mathcal{H})\subset \mathbb{B}_0(\mathcal{H})$, $\mathbb{B}^2(\mathcal{H})\mathbb{B}^2(\mathcal{H})\subset \mathbb{B}^1(\mathcal{H})$)

$\mathcal{H}$ をHilbert空間とする。次が成り立つ。

  • $(1)$ $\mathbb{B}_{\rm f}(\mathcal{H})\subset \mathbb{B}^1(\mathcal{H})\subset \mathbb{B}^2(\mathcal{H})\subset \mathbb{B}_0(\mathcal{H})$.
  • $(2)$ 任意の $S,T\in \mathbb{B}^2(\mathcal{H})$ に対し $ST\in \mathbb{B}^1(\mathcal{H})$.
Proof.

  • $(1)$ $\mathbb{B}_{\rm f}(\mathcal{H})\subset \mathbb{B}^1(\mathcal{H})$ を示す。任意の $T\in \mathbb{B}_{\rm f}(\mathcal{H})$ を取る。有限次元部分空間 ${\rm Ran}(T)\subset \mathcal{H}$ の上への射影作用素を $P\in\mathbb{B}(\mathcal{H})_+$ とおき、${\rm Ran}(T)$ のCONSを $(e_1,\ldots,e_n)$ とおく。測度と積分6:数え上げ測度と $\ell^p$ 空間命題25.9より $\{e_1,\ldots,e_n\}$ を含む $\mathcal{H}$ のCONSが取れるので、

$$ {\rm Tr}(P)=\sum_{j=1}^{n}(e_j\mid Pe_j)=n<\infty $$ である。よって $P\in \mathbb{B}^1(\mathcal{H})$ であり、$\mathbb{B}^1(\mathcal{H})\subset \mathbb{B}(\mathcal{H})$ はイデアルである(命題16.5)から、$T=PT\in \mathbb{B}^1(\mathcal{H})$ である。ゆえに $\mathbb{B}_{\rm f}(\mathcal{H})\subset \mathbb{B}^1(\mathcal{H})$ が成り立つ。
$\mathbb{B}^1(\mathcal{H})\subset \mathbb{B}^2(\mathcal{H})$ を示す。任意の $T\in \mathbb{B}^1(\mathcal{H})$ を取り、$T=V\lvert T\rvert$ を $T$ の極分解(定理9.4)とする。このとき、 $$ {\rm Tr}(\sqrt{\lvert T\rvert}^2)={\rm Tr}(\lvert T\rvert)<\infty $$ であるから $\sqrt{\lvert T\rvert}\in \mathbb{B}^2(\mathcal{H})$ であり、$\mathbb{B}^2(\mathcal{H})$ は $\mathbb{B}(\mathcal{H})$ のイデアルである(命題16.6)から、$T=V\lvert T\rvert=V\sqrt{\lvert T\rvert}\sqrt{\lvert T\rvert}\in \mathbb{B}^2(\mathcal{H})$ である。ゆえに $\mathbb{B}^1(\mathcal{H})\subset \mathbb{B}^2(\mathcal{H})$ が成り立つ。
$\mathbb{B}^2(\mathcal{H})\subset \mathbb{B}_0(\mathcal{H})$ を示す。$(e_j)_{j\in J}$ を $\mathcal{H}$ のCONSとし、$\mathcal{F}_J$ を $J$ の有限部分集合全体とする。そして、 $$ P_F\colon=\sum_{j\in F}e_j\odot e_j\quad(\forall F\in \mathcal{F}_J) $$ とおく。命題16.3の $(5)$ より任意の $F\in\mathcal{F}_J$ に対し、 $$ \begin{aligned} \lVert T-TP_F\rVert^2&=\lVert(1-P_F)T^*T(1-P_F)\rVert\leq {\rm Tr}((1-P_F)T^*T(1-P_F))\\ &=\sum_{j\in J}(e_j\mid (1-P_F)T^*T(1-P_F)e_j)=\sum_{j\in J\backslash F}(e_j\mid T^*Te_j)\\ &={\rm Tr}(T^*T)-\sum_{j\in F}(e_j\mid T^*Te_j) \end{aligned} $$ であり、右辺は $F\rightarrow J$ で $0$ に収束するので $\lim_{F\rightarrow J}\lVert T-P_FT\rVert=0$ が成り立つ。よって、 $$ T=\lim_{F\rightarrow J}P_FT\in \overline{\mathbb{B}_{\rm f}(\mathcal{H})}=\mathbb{B}_0(\mathcal{H}) $$ である。ゆえに $\mathbb{B}^2(\mathcal{H})\subset \mathbb{B}_0(\mathcal{H})$ が成り立つ。

$$ ST=S^{**}T=\frac{1}{4}\sum_{k=0}^{3}i^k(i^kS^*+T)^*(i^kS^*+T) $$ であり、命題16.6より、 $$ {\rm Tr}((i^kS^*+T)^*(i^kS^*+T))<\infty\quad(k=0,1,2,3) $$ であるから $ST\in \mathbb{B}^1(\mathcal{H})$ である。

定義16.8(トレースクラス $\mathbb{B}^1(\mathcal{H})$ 上のトレース)

$\mathcal{H}$ をHilbert空間とする。任意の $T\in \mathbb{B}^1(\mathcal{H})$ に対し、命題16.5より、 $$ T=T_{1,+}-T_{1,-}+i(T_{2,+}-T_{2,-}) $$ を満たす $T_{1,\pm},T_{2,\pm}\in \mathbb{B}^1(\mathcal{H})\cap \mathbb{B}(\mathcal{H})_+$ が取れる。そこで $T$ のトレースを、 $$ {\rm Tr}(T)\colon={\rm Tr}(T_{1,+})-{\rm Tr}(T_{1,-})+i({\rm Tr}(T_{2,+})-{\rm Tr}(T_{2,-})) $$ として定義する。
この定義はwell-definedである。実際、$S_{1,\pm},S_{2,\pm}\in \mathbb{B}^1(\mathcal{H})\cap \mathbb{B}(\mathcal{H})_+$ も、 $$ T=S_{1,+}-S_{1,-}+i(S_{2,+}-S_{2,-}) $$ を満たすならば、 $$ \begin{aligned} &T_{1,+}-T_{1,-}=\frac{1}{2}(T+T^*)=S_{1,+}-S_{1,-},\\ &T_{2,+}-T_{2,-}=\frac{1}{2i}(T-T^*)=S_{2,+}-S_{2,-} \end{aligned} $$ であるから、 $$ T_{1,+}+S_{1,-}=S_{1,+}+T_{1,-},\quad T_{2,+}+S_{2,-}=S_{2,+}+T_{2,-} $$ である。よって非負有界自己共役作用素に対するトレースの加法性より、 $$ \begin{aligned} &{\rm Tr}(T_{1,+})+{\rm Tr}(S_{1,-})={\rm Tr}(S_{1,+})+{\rm Tr}(T_{1,-}),\\ &{\rm Tr}(T_{2,+})+{\rm Tr}(S_{2,-})={\rm Tr}(S_{2,+})+{\rm Tr}(T_{2,-}) \end{aligned} $$ であり、 $$ \begin{aligned} &{\rm Tr}(T_{1,+})-{\rm Tr}(T_{1,-})={\rm Tr}(S_{1,+})-{\rm Tr}(S_{1,-}),\\ &{\rm Tr}(T_{2,+})-{\rm Tr}(T_{2,-})={\rm Tr}(S_{2,+})-{\rm Tr}(S_{2,-}) \end{aligned} $$ である。ゆえにwell-definedである。

命題16.9(トレースクラス $\mathbb{B}^1(\mathcal{H})$ 上のトレースの基本的性質)

トレースクラス上のトレース ${\rm Tr}\colon\mathbb{B}^1(\mathcal{H})\ni T\mapsto {\rm Tr}(T)\in \mathbb{C}$ に対し次が成り立つ。

  • $(1)$ $\mathcal{H}$ の任意のCONS $(e_j)_{j\in J}$ と任意の $T\in \mathbb{B}^1(\mathcal{H})$ に対し、

$$ {\rm Tr}(T)=\sum_{j\in J}(e_j\mid Te_j). $$

  • $(2)$ ${\rm Tr}\colon\mathbb{B}^1(\mathcal{H})\rightarrow\mathbb{C}$ は線形汎関数である。
  • $(3)$ 任意の $S,T\in \mathbb{B}^2(\mathcal{H})$ に対し ${\rm Tr}(ST)={\rm Tr}(TS)$.
  • $(4)$ 任意の $S\in \mathbb{B}(\mathcal{H})$ と任意の $T\in \mathbb{B}^1(\mathcal{H})$ に対し ${\rm Tr}(ST)={\rm Tr}(TS)$.
Proof.

  • $(1)$ 定義16.8より $T_0,T_1,T_2,T_3\in \mathbb{B}^1(\mathcal{H})\cap \mathbb{B}(\mathcal{H})_+$ で $T=\sum_{k=0}^{3}i^kT_k$ なるものに対し、${\rm Tr}(T)=\sum_{k=0}^{3}i^k{\rm Tr}(T_k)$ であるから、

$$ {\rm Tr}(T)=\sum_{k=0}^{3}i^k{\rm Tr}(T_k)=\sum_{k=0}^{3}i^k\sum_{j\in J}(e_j\mid T_ke_j) =\sum_{j\in J}\sum_{k=0}^{3}i^k(e_j\mid T_ke_j)=\sum_{j\in J}(e_j\mid Te_j). $$

$$ \begin{aligned} {\rm Tr}(ST)&={\rm Tr}(S^{**}T)=\frac{1}{4}\sum_{k=0}^{3}i^k{\rm Tr}((i^kS^*+T)^*(i^kS^*+T))\\ &=\frac{1}{4}\sum_{k=0}^{3}i^k{\rm Tr}((i^kS^*+T)(i^kS^*+T)^*) =\frac{1}{4}\sum_{k=0}^{3}i^k{\rm Tr}((S+i^kT^*)^*(S+i^kT^*))\\ &={\rm Tr}(T^{**}S)={\rm Tr}(TS). \end{aligned} $$

  • $(4)$ $T\in \mathbb{B}^1(\mathcal{H})$ の極分解(定理9.4)を $T=V\lvert T\rvert$ とすると、$\sqrt{\lvert T\rvert},SV\sqrt{\lvert T\rvert}, \sqrt{\lvert T\rvert}S, V\sqrt{\lvert T\rvert}\in \mathbb{B}^2(\mathcal{H})$ であるから、$(3)$ より、

$$ \begin{aligned} {\rm Tr}(ST)={\rm Tr}(SV\sqrt{\lvert T\rvert}\sqrt{\lvert T\rvert}) ={\rm Tr}(\sqrt{\lvert T\rvert}SV\sqrt{\lvert T\rvert}) ={\rm Tr}(V\sqrt{\lvert T\rvert}\sqrt{\lvert T\rvert}S)={\rm Tr}(TS). \end{aligned} $$

定義16.10(Hilbert-Schmidtクラス $\mathbb{B}^2(\mathcal{H})$ の内積)

Hilbert-Schmidtクラス $\mathbb{B}^2(\mathcal{H})$ に対し、命題16.9より、 $$ (S\mid T)_{\rm HS}={\rm Tr}(S^*T)\quad(\forall S,T\in \mathbb{B}^2(\mathcal{H})) $$ として準双線形汎関数 $$ (\cdot\mid \cdot)_{\rm HS}\colon \mathbb{B}^2(\mathcal{H})\times \mathbb{B}^2(\mathcal{H})\rightarrow\mathbb{C} $$ が定義できる。命題16.9の$(1)$より、 $$ \overline{(S\mid T)_{\rm HS}}=\sum_{j\in J}\overline{(e_j\mid S^*T e_j)}=\sum_{j\in J}(S^*Te_j\mid e_j)=\sum_{j\in J}(e_j\mid T^*Se_j)=(T\mid S)_{\rm HS}\quad(\forall S,T\in \mathbb{B}({\cal H})({\cal H})) $$ であり、命題16.3の $(5)$ より、 $$ (T\mid T)_{\rm HS}={\rm Tr}(T^*T)\geq\lVert T^*T\rVert=\lVert T\rVert^2\quad(\forall T\in \mathbb{B}^2(\mathcal{H}))\quad\quad(*) $$ であるから、$(\cdot\mid \cdot)_{\rm HS}$ は $\mathbb{B}^2(\mathcal{H})$ の内積である。この内積をHilbert-Schmidt内積と呼び、Hilbert-Schmidt内積の定めるノルム $$ \lVert T\rVert_{\rm HS}\colon=\sqrt{(T\mid T)_{\rm HS}}=\sqrt{{\rm Tr}(T^*T)}\quad(\forall T\in\mathbb{B}^2(\mathcal{H})) $$ をHilbert-Schmidtノルムと言う。以後、Hilbert-Schmidtクラス $\mathbb{B}^2(\mathcal{H})$ にはこのHilbert-Schmidt内積が標準的に備わっているものとする。次の命題で見るようにHilbert-SchmidtクラスはHilbert空間である。

命題16.11(Hilbert-Schmidtクラス $\mathbb{B}^2(\mathcal{H})$ はHilbert空間)

Hilbert-Schmidtクラス $\mathbb{B}^2(\mathcal{H})$ はHilbert-Schmidt内積によりHilbert空間である。

Proof.

$\mathbb{B}^2(\mathcal{H})$ の任意のCauchy列 $(T_n)_{n\in \mathbb{N}}$ を取る。定義16.10 の $(*)$ より $(T_n)_{n\in \mathbb{N}}$ は作用素ノルムによるBanach空間 $\mathbb{B}(\mathcal{H})$ のCauchy列であるから、$T\in \mathbb{B}(\mathcal{H})$ で $\lim_{n\rightarrow\infty}\lVert T-T_n\rVert=0$ を満たすものが定まる。$(e_j)_{j\in J}$ を $\mathcal{H}$ のCONSとし、$\mathcal{F}_J$ を $J$ の有限部分集合全体とする。このとき任意の $m\in\mathbb{N}$、任意の $F\in\mathcal{F}_J$ に対し、 $$ \begin{aligned} &\sum_{j\in F}(e_j\mid (T-T_m)^*(T-T_m)e_j)=\sum_{j\in F}\lVert (T-T_m)e_j\rVert^2 =\lim_{n\rightarrow\infty}\sum_{j\in F}\lVert (T_n-T_m)e_j\rVert^2\\ &=\lim_{n\rightarrow\infty}\sum_{j\in F}(e_j\mid (T_n-T_m)^*(T_n-T_m)e_j) =\inf_{n\in\mathbb{N}}\sup_{k\geq n}\sum_{j\in F}(e_j\mid (T_k-T_m)^*(T_n-T_m)e_j)\\ &\leq \inf_{n\in \mathbb{N}}\sup_{k\geq n}\sum_{j\in J}(e_j\mid (T_k-T_m)^*(T_k-T_m)e_j) =\inf_{n\in \mathbb{N}}\sup_{k\geq n}\lVert T_k-T_m\rVert_{\rm HS}^2 \end{aligned} $$ であるから、 $$ {\rm Tr}((T-T_m)^*(T-T_m))\leq \inf_{n\in \mathbb{N}}\sup_{k\geq n}\lVert T_k-T_m\rVert_{\rm HS}^2\quad(\forall m\in\mathbb{N})\quad\quad(*) $$ が成り立つ。$(T_n)_{n\in\mathbb{N}}$ は $\mathbb{B}^2(\mathcal{H})$ のCauchy列であるから、任意の $\epsilon\in (0,\infty)$ に対し $n_0\in\mathbb{N}$ で、 $$ \lVert T_n-T_m\rVert_{\rm HS}\leq \epsilon\quad(\forall n,m\geq n_0) $$ を満たすものが取れるので、$(*)$ より任意の $m\geq n_0$ に対し、 $$ {\rm Tr}((T-T_m)^*(T-T_m))\leq \inf_{n\in\mathbb{N}}\sup_{k\geq n}\lVert T_k-T_m\rVert_{\rm HS}^2\leq\sup_{k\geq n_0}\lVert T_k-T_m\rVert_{\rm HS}^2\leq\epsilon^2 $$ となる。よって $T=T-T_m+T_m\in \mathbb{B}^2(\mathcal{H})$ であり、 $$ \lVert T-T_m\rVert_{\rm HS}\leq\epsilon\quad(\forall m\geq n_0) $$ である。ゆえに $(T_n)_{n\in \mathbb{N}}$ は $\mathbb{B}^2({\cal H})$ において $T$ に収束するので、$\mathbb{B}^2(\mathcal{H})$ はHilbert空間である。

命題16.12

$\mathcal{H}$ をHilbert空間とする。次が成り立つ。

  • $(1)$ 任意の $S\in \mathbb{B}(\mathcal{H})$ と任意の $T\in \mathbb{B}^1(\mathcal{H})$ に対し $\lvert {\rm Tr}(ST)\rvert\leq \lVert S\rVert{\rm Tr}(\lvert T\rvert)$.
  • $(2)$ $\mathbb{B}^1(\mathcal{H})\ni T\mapsto {\rm Tr}(\lvert T\rvert)\in [0,\infty)$ は $\mathbb{B}^1(\mathcal{H})$ 上のノルムである。
Proof.

  • $(1)$ $T$ の極分解(定理9.4)を $T=V\lvert T\rvert$ とおくと、$\sqrt{\lvert T\rvert},SV\sqrt{\lvert T\rvert}\in \mathbb{B}^2(\mathcal{H})$ であるから、Hilbert-Schmidt内積に関するSchwarzの不等式と命題16.3の $(4)$ より、

$$ \begin{aligned} \lvert {\rm Tr}(ST)\rvert^2&=\lvert {\rm Tr}(SV\sqrt{\lvert T\rvert}\sqrt{\lvert T\rvert})\rvert^2 =(\sqrt{\lvert T\rvert}\mid SV\sqrt{\lvert T\rvert})_{\rm HS}^2 \leq \lVert \sqrt{\lvert T\rvert}\rVert_{\rm HS}^2\lVert SV\sqrt{\lvert T\rvert}\rVert_{\rm HS}^2\\ &={\rm Tr}(\lvert T\rvert){\rm Tr}(SV\lvert T\rvert V^*S^*)\leq \lVert SV\rVert^2{\rm Tr}(\lvert T\rvert)^2\leq\lVert S\rVert^2{\rm Tr}(\lvert T\rvert)^2 \end{aligned} $$ である。よって $\lvert {\rm Tr}(ST)\rvert\leq \lVert S\rVert{\rm Tr}(\lvert T\rvert)$ が成り立つ。

  • $(2)$ 任意の $T\in \mathbb{B}^1(\mathcal{H})$, $\alpha\in \mathbb{C}$ に対し $\lvert\alpha T\rvert=\sqrt{(\alpha T)^*(\alpha T)}=\sqrt{\lvert \alpha\rvert^2T^*T}=\lvert \alpha\rvert\lvert T\rvert$ であるから、

$$ {\rm Tr}(\lvert \alpha T\rvert)={\rm Tr}(\lvert \alpha\rvert\lvert T\rvert)=\lvert\alpha\rvert{\rm Tr}(\lvert T\rvert)\quad(\forall T\in \mathbb{B}^1(\mathcal{H}),\forall \alpha\in \mathbb{C}) $$ である。また命題16.3の $(5)$ より $\lVert T\rVert\leq {\rm Tr}(\lvert T\rvert)$ であるから、$T\in \mathbb{B}^1(\mathcal{H})$ が ${\rm Tr}(\lvert T\rvert)=0$ を満たすならば $T=0$ である。任意の $S,T\in \mathbb{B}^1(\mathcal{H})$ に対し $S+T$ の極分解(定理9.4)を $S+T=W\lvert S+T\rvert$ とおくと、$\lvert S+T\rvert=W^*(S+T)=W^*S+W^*T$ であるから $(1)$ より、 $$ {\rm Tr}(\lvert S+T\rvert)={\rm Tr}(W^*S)+{\rm Tr}(W^*T)\leq\lVert W^*\rVert{\rm Tr}(\lvert S\rvert)+\lVert W^*\rVert{\rm Tr}(\lvert T\rvert)\leq {\rm Tr}(\lvert S\rvert)+{\rm Tr}(\lvert T\rvert) $$ となる。よって $\mathbb{B}^1(\mathcal{H})\ni T\mapsto {\rm Tr}(\lvert T\rvert)\in [0,\infty)$ はノルムである。

定義16.13(トレースクラス $\mathbb{B}^1(\mathcal{H})$ のトレースノルム)

トレースクラス $\mathbb{B}^1(\mathcal{H})$ に対し、命題16.12より、 $$ \lVert T\rVert_{\rm Tr}\colon={\rm Tr}(\lvert T\rvert)\quad(\forall T\in\mathbb{B}^1(\mathcal{H})) $$ とおけば、$\lVert \cdot\rVert_{\rm Tr}\colon \mathbb{B}^1(\mathcal{H})\rightarrow[0,\infty)$ はノルムである。これをトレースノルムと言う。トレースクラス $\mathbb{B}^1(\mathcal{H})$ にはこのトレースノルムが標準的に備わっているものとする。次の命題で見るようにトレースクラス $\mathbb{B}^1(\mathcal{H})$ はこのトレースノルムによりBanach空間である。

命題16.14(トレースクラス $\mathbb{B}^1(\mathcal{H})$ はBanach空間)

トレースクラス $\mathbb{B}^1(\mathcal{H})$ はトレースノルムによりBanach空間である。

Proof.

$\mathbb{B}^1(\mathcal{H})$ の任意のCauchy列 $(T_n)_{n\in \mathbb{N}}$ を取る。命題16.3の $(5)$ より、 $$ \lVert T_n-T_m\rVert_{\rm Tr}\leq \lVert T_n-T_m\rVert\quad(\forall n,m\in\mathbb{N}) $$ であるから $T\in \mathbb{B}(\mathcal{H})$ で $\lim_{n\rightarrow\infty}\lVert T-T_n\rVert=0$ を満たすものが存在する。$\mathcal{H}$ のCONS $\{e_j\}_{j\in J}$ に対し $\mathcal{F}_J$ を $J$ の有限部分集合全体とし、 $$ P_F\colon=\sum_{j\in F}e_j\odot e_j\quad(\forall F\in \mathcal{F}_J) $$ とおく(命題13.7を参照)。任意の $m\in \mathbb{N}$, 任意の $F\in \mathcal{F}_J$ を取る。$T-T_m$ の極分解(定理9.4)を $T-T_m=V_m\lvert T-T_m\rvert$(したがって $\lvert T-T_m\rvert=V_m^*(T-T_m)$)とすると、命題16.12の $(1)$ より、 $$ \begin{aligned} &\sum_{j\in F}(e_j\mid \lvert T-T_m\rvert e_j)=\sum_{j\in F}(V_me_j\mid (T-T_m)e_j) =\lim_{n\rightarrow\infty}\left\lvert\sum_{j\in F}(V_me_j\mid (T_n-T_m)e_j)\right\rvert\\ &=\inf_{n\in \mathbb{N}}\sup_{k\geq n}\left\lvert \sum_{j\in F}(V_me_j\mid (T_k-T_m)e_j)\right\rvert =\inf_{n\in \mathbb{N}}\sup_{k\geq n}\left\lvert \sum_{j\in J}(V_mP_Fe_j\mid (T_k-T_m)e_j)\right\rvert\\ &=\inf_{n\in \mathbb{N}}\sup_{k\geq n}\left\lvert {\rm Tr}(P_FV_m^*(T_k-T_m))\right\rvert \leq \inf_{n\in\mathbb{N}}\sup_{k\geq n}\lVert T_k-T_m\rVert_{\rm Tr} \end{aligned} $$ となるから、 $$ {\rm Tr}(\lvert T-T_m\rvert)\leq \inf_{n\in \mathbb{N}}\sup_{k\geq n}\lVert T_k-T_m\rVert_{\rm Tr}\quad(\forall m\in \mathbb{N})\quad\quad(*) $$ が成り立つ。$(T_n)_{n\in\mathbb{N}}$ は $\mathbb{B}^1(\mathcal{H})$ のCauchy列であるから、任意の $\epsilon\in(0,\infty)$ に対し $n_0\in \mathbb{N}$ で、 $$ \lVert T_n-T_m\rVert_{\rm Tr}\leq \epsilon\quad(\forall n,m\geq n_0) $$ を満たすものが取れ、$(*)$ より、任意の $m\geq n_0$ に対し、 $$ {\rm Tr}(\lvert T-T_m\rvert)\leq \inf_{n\in \mathbb{N}}\sup_{k\geq n}\lVert T_k-T_m\rVert_{\rm Tr} \leq \sup_{k\geq n_0}\lVert T_k-T_m\rVert_{\rm Tr}\leq \epsilon $$ となる。よって $T=T-T_m+T_m\in \mathbb{B}^1(\mathcal{H})$ であり、 $$ \lVert T-T_m\rVert_{\rm Tr}\leq \epsilon\quad(\forall m\geq n_0) $$ である。ゆえに $(T_n)_{n\in \mathbb{N}}$ は $\mathbb{B}^1({\cal H})$ において $T$ に収束するから、$\mathbb{B}^1(\mathcal{H})$ はBanach空間である。

命題16.15(Schatten形式とトレース)

Hilbert空間 $\mathcal{H}$ 上のSchatten形式(定義13.5)$\mathcal{H}\times \mathcal{H}\ni (u,v)\mapsto u\odot v\in \mathbb{B}_{\rm f}(\mathcal{H})$ とトレースについて次が成り立つ。

  • $(1)$ 任意の $u,v\in\mathcal{H}$ に対し ${\rm Tr}(u\odot v)=(v\mid u)$.
  • $(2)$ 任意の $u,v\in \mathcal{H}$ に対し $\lVert u\odot v\rVert_{\rm Tr}=\lVert u\odot v\rVert=\lVert u\rVert\lVert v\rVert$.
  • $(3)$ 空でない任意の集合 $J$ と任意の $(u_j)_{j\in J}, (v_j)_{j\in J}\in \bigoplus_{j\in J}\mathcal{H}$ に対し $\sum_{j\in J}u_j\odot v_j$ はBanach空間 $\mathbb{B}^1(\mathcal{H})$ において絶対収束する。
  • $(4)$ $\mathbb{B}^1(\mathcal{H})=\left\{\sum_{n\in \mathbb{N}}u_n\odot v_n: (u_n)_{n\in \mathbb{N}},(v_n)_{n\in \mathbb{N}}\in \bigoplus_{n\in \mathbb{N}}\mathcal{H}\right\}$、$\mathbb{B}^1(\mathcal{H})\cap \mathbb{B}(\mathcal{H})_+=\left\{\sum_{n\in \mathbb{N}}v_n\odot v_n:(v_n)_{n\in \mathbb{N}}\in \bigoplus_{n\in \mathbb{N}}\mathcal{H}\right\}$ が成り立つ。
Proof.

  • $(1)$ $v=\lVert v\rVert e$ を満たす単位ベクトル $e\in \mathcal{H}$ を取る。$e$ を含む ${\cal H}$ のCONS $(e_j)_{j\in J}$ を取れば、

$$ {\rm Tr}(u\odot v)=\sum_{j\in J}(e_j\mid (u\odot v)e_j)=(e\mid (u\odot v)e)=\lVert v\rVert(e\mid u)=(v\mid u). $$

  • $(2)$ 命題16.3の $(5)$ より $\lVert u\odot v\rVert\leq \lVert u\odot v\rVert_{\rm Tr}$ である。逆の不等式を示す。$u\odot v=V\lvert u\odot v\rvert$ を $u\odot v$ の極分解(定理9.4)とすると、

$$ \lvert u\odot v\rvert =V^*(u\odot v)=(V^*u)\odot v $$ であるから、$(1)$ より、 $$ \lVert u\odot v\rVert_{\rm Tr}={\rm Tr}(\lvert u\odot v\rvert)={\rm Tr}((V^*u)\odot v) =(v\mid V^*u)\leq\lVert u\rVert\lVert v\rVert=\lVert u\odot v\rVert. $$

  • $(3)$ 任意の $(u_j)_{j\in J},(v_j)_{j\in J}\in \bigoplus_{j\in J}\mathcal{H}$ に対し $(2)$ とHölderの不等式より、

$$ \sum_{j\in J}\lVert u_j\odot v_j\rVert_{\rm Tr}=\sum_{j\in J}\lVert u_j\rVert\lVert v_j\rVert \leq \lVert (u_j)_{j\in J}\rVert\lVert (v_j)_{j\in J}\rVert<\infty $$ であるから、$\sum_{j\in J}u_j\odot v_j$ は $\mathbb{B}^1(\mathcal{H})$ において絶対収束する。

  • $(4)$ 任意の $T\in \mathbb{B}^1(\mathcal{H})$ を取り、$T$ の極分解を $T=V\lvert T\rvert$ とおく。命題16.7より $\lvert T\rvert\in\mathbb{B}_0(\mathcal{H})$ であるから定理13.7の $(3)$ より $\lvert T\rvert$ の固有ベクトルからなる $\mathcal{H}$ のCONS $(e_j)_{j\in J}$ が取れる。そこで $\lvert T\rvert e_j=\lambda_je_j$ $(\forall j\in J)$ とおくと、

$$ \{\lambda_j\}_{j\in J}\subset \sigma(\lvert T\rvert)\subset [0,\infty),\quad \sum_{j\in J}\lambda_j=\sum_{j\in J}(e_j\mid \lvert T\rvert e_j)={\rm Tr}(\lvert T\rvert)<\infty $$ である。よって、 $$ v_j\colon=\sqrt{\lambda_j}e_j,\quad u_j\colon=\sqrt{\lambda_j}V e_j\quad (\forall j\in J) $$ とおけば $\sum_{j\in J}\lVert v_j\rVert^2=\sum_{j\in J}\lambda_j<\infty$、$\sum_{j\in J}\lVert u_j\rVert^2\leq\sum_{j\in J}\lambda_j<\infty$より $(u_j)_{j\in J},(v_j)_{j\in J}\in \bigoplus_{j\in J}{\cal H}$ であるから、$(3)$ より $\sum_{j\in J}u_j\odot v_j\in \mathbb{B}^1(\mathcal{H})$ はトレースノルムで収束する。命題13.7より $1=\sum_{j\in J}e_j\odot e_j$ (SOT収束)であるから、任意の $v\in {\cal H}$ に対し、 $$ Tv=T\sum_{j\in J}(e_j\odot e_j)v =\sum_{j\in J}((V\lvert T\rvert e_j)\odot e_j)v=\sum_{j\in J}(\lambda_j(Ve_j)\odot e_j)v =\sum_{j\in J}(u_j\odot v_j)v $$ である。よって、 $$ T=\sum_{j\in J}u_j\odot v_j\quad(\text{トレースノルムで収束}) $$ が成り立つ。ここで位相線形空間1:ノルムと内積命題5.3より、 $$ J_0\colon=\{j\in J:\lVert u_j\odot v_j\rVert_{\rm Tr}>0\} $$ は可算集合であり、 $$ T=\sum_{j\in J}u_j\odot v_j=\sum_{j\in J_0}u_j\odot v_j\quad(\text{トレースノルムで収束}) $$ となる。よって$\mathbb{B}^1(\mathcal{H})=\left\{\sum_{n\in \mathbb{N}}u_n\odot v_n: (u_n)_{n\in \mathbb{N}},(v_n)_{n\in \mathbb{N}}\in \bigoplus_{n\in \mathbb{N}}\mathcal{H}\right\}$が成り立つ。$T\in \mathbb{B}^1({\cal H})\cap \mathbb{B}({\cal H})_+$の場合は、 $$ T=\sum_{j\in J}v_j\odot v_j\quad\text{(トレースノルムで収束)} $$ と表されるので、ある可算集合 $J_1\subset J$に対し、 $$ T=\sum_{j\in J_1}v_j\odot v_j\quad\text{(トレースノルムで収束)} $$ となる。よって$\mathbb{B}^1(\mathcal{H})\cap \mathbb{B}(\mathcal{H})_+=\left\{\sum_{n\in \mathbb{N}}v_n\odot v_n:(v_n)_{n\in \mathbb{N}}\in \bigoplus_{n\in \mathbb{N}}\mathcal{H}\right\}$ が成り立つ。

定理16.16($(\mathbb{B}^1(\mathcal{H}))^*=\mathbb{B}(\mathcal{H})$)

任意の $A\in \mathbb{B}(\mathcal{H})$ に対し $\varphi_A\colon\mathbb{B}^1(\mathcal{H})\ni T\mapsto {\rm Tr}(AT)\in \mathbb{C}$ はBanach空間 $\mathbb{B}^1(\mathcal{H})$ 上の有界線形汎関数であり、 $$ \mathbb{B}(\mathcal{H})\ni A\mapsto \varphi_A\in (\mathbb{B}^1(\mathcal{H}))^*\quad\quad(*) $$ は等長線形同型写像である。

Proof.

命題16.12の $(1)$ より、$\varphi_A\colon \mathbb{B}^1(\mathcal{H})\ni T\mapsto {\rm Tr}(AT)\in \mathbb{C}$ は有界線型汎関数であり、 $(*)$ はノルム減少な線形写像である。$A_1,A_2\in \mathbb{B}(\mathcal{H})$ が $\varphi_{A_1}=\varphi_{A_2}$ を満たすならば、命題16.15の $(1)$ より、任意の $u,v\in \mathcal{H}$ に対し、 $$ (u\mid A_1v)={\rm Tr}(A_1v\odot u)=\varphi_{A_1}(v\odot u)=\varphi_{A_2}(v\odot u)={\rm Tr}(A_2v\odot u)=(u\mid A_2v) $$ であるから $A_1=A_2$ である。よって $(*)$ は単射である。$(*)$ が全射かつ等長であることを示す。任意の $\varphi\in (\mathbb{B}^1(\mathcal{H}))^*$ に対し命題16.15の $(2)$ より、 $$ \mathcal{H}\times \mathcal{H}\ni (u,v)\mapsto \varphi(v\odot u)\in \mathbb{C} $$ はノルムが $\lVert \varphi\rVert$ 以下の有界準双線形汎関数である。よって位相線形空間1:ノルムと内積定理7.1より $A\in \mathbb{B}(\mathcal{H})$ で、 $$ \varphi(v\odot u)=(u\mid Av)\quad(\forall u,v\in \mathcal{H}) $$ を満たすものが定まり、$\lVert A\rVert\leq\lVert \varphi\rVert$ である。命題16.15の $(1)$ より、 $$ \varphi(v\odot u)=(u\mid Av)={\rm Tr}(Av\odot u)=\varphi_{A}(v\odot u)\quad(\forall u,v\in \mathcal{H}) $$ であるから、命題16.15の $(4)$ より $\varphi=\varphi_{A}$ である。そして、 $$ \lVert A\rVert\leq \lVert \varphi\rVert=\lVert \varphi_A\rVert\leq \lVert A\rVert $$ であるから、$(*)$ は全射かつ等長である。

命題16.17(Hilbert-Schmidtクラス $\mathbb{B}^2(\mathcal{H})$ のCONS)

$\mathcal{H}$ をHilbert空間、$(e_j)_{j\in J}$ を $\mathcal{H}$ のCONSとする。このとき $(e_i\odot e_j)_{(i,j)\in J\times J}$ は $\mathbb{B}^2(\mathcal{H})$ のCONSである。

Proof.

任意の $(i,j),(i',j')\in J\times J$ に対し命題16.15の $(1)$ より、 $$ \begin{aligned} (e_i\odot e_j\mid e_{i'}\odot e_{j'})_{\rm HS}&={\rm Tr}((e_i\odot e_j)^*(e_{i'}\odot e_{j'})) ={\rm Tr}((e_j\odot e_i)(e_{i'}\odot e_{j'}))\\ &=(e_i\mid e_{i'}){\rm Tr}(e_j\odot e_{j'}) =(e_i\mid e_{i'})(e_{j'}\mid e_j) \end{aligned} $$ であるから $(e_i\odot e_j)_{(i,j)\in J\times J}$ は $\mathbb{B}^2(\mathcal{H})$ のONSである。$\{e_i\odot e_j\}_{(i,j)\in J\times J}\subset \mathbb{B}^2(\mathcal{H})$ の直交補空間の任意の元 $T$ に対し、 $$ \begin{aligned} (e_i\mid Te_j)={\rm Tr}(Te_j\odot e_i)={\rm Tr}((e_j\odot e_i)T)={\rm Tr}((e_i\odot e_j)^*T) =((e_i\odot e_j)\mid T)_{\rm Tr}=0 \end{aligned} $$ であるから、任意の $u,v\in \mathcal{H}$ に対し、 $$ (u\mid Tv)=\sum_{i\in J}(u\mid (e_i\mid Tv)e_i)=\sum_{i\in J}(e_i\mid Tv)(u\mid e_i)= \sum_{i\in J}\sum_{j\in J}(e_i\mid Te_j)(e_j\mid v)(u\mid e_i)=0 $$ である。よって $T=0$ であるから $(e_i\odot e_j)_{(i,j)\in J\times J}$ は $\mathbb{B}^2(\mathcal{H})$ のCONSである。

定理16.18(Hilbert-Schmidt積分作用素)

$X$ を第二可算局所コンパクトHausdorff空間、$\mu\colon\mathcal{B}_X\rightarrow[0,\infty]$ をRadon測度とする。このとき任意の $K\in L^2(X\times X,\mu\otimes \mu)=L^2(X,\mu)\otimes L^2(X,\mu)$($L^2$ 空間のテンソル積については定義12.9を参照)に対し、$\widehat{K}\in \mathbb{B}^2(L^2(X,\mu))$ で、 $$ ([f]\mid \widehat{K}[g])_2=\int_{X\times X}\overline{f(x)}K(x,y)g(y)d(\mu\otimes\mu)(x,y)\quad(\forall [f],[g]\in L^2(X,\mu)) $$ を満たすものが一意的に定まり、 $$ L^2(X\times X,\mu\otimes \mu)\ni K\mapsto \widehat{K}\in \mathbb{B}^2(L^2(X,\mu)) $$ はユニタリ作用素である。 また任意の $[\varphi],[\psi]\in L^2(X,\mu)$ に対し、 $$ \widehat{[\varphi]\otimes [\overline{\psi}]}=[\varphi]\odot [\psi] $$ (左辺はテンソル積、右辺はSchatten形式)が成り立つ。

Proof.

任意の $K\in L^2(X\times X,\mu\otimes\mu)$ に対しHölderの不等式とFubiniの定理より、 $$ L^2(X,\mu)\times L^2(X,\mu)\ni ([f],[g])\mapsto \int_{X\times X}\overline{f(x)}g(y)K(x,y)d(\mu\otimes\mu)(x,y)\in \mathbb{C} $$ はノルムが $\lVert K\rVert_2$ 以下の有界準双線形汎関数であるから、位相線形空間1:ノルムと内積定理7.1より、$\widehat{K}\in \mathbb{B}(L^2(X,\mu))$ で、 $$ ([f]\mid \widehat{K}[g])_2=\int_{X\times X}\overline{f(x)}g(y)K(x,y)d(\mu\otimes\mu)(x,y)\quad(\forall [f],[g]\in L^2(X,\mu)) $$ を満たすものが定まり、 $$ L^2(X\times X,\mu\otimes\mu)\ni K\mapsto \widehat{K}\in \mathbb{B}(L^2(X,\mu))\quad\quad(*) $$ はノルム減少な有界線形作用素である。定義12.9より、 $$ L^2(X\times X,\mu\otimes \mu)=L^2(X,\mu)\otimes L^2(X,\mu)=\overline{{\rm span}\{[\varphi]\otimes [\psi]:[\varphi],[\psi]\in L^2(X,\mu)\}} $$ であり、任意の $[\varphi],[\psi]\in L^2(X,\mu)$ に対し、Fubiniの定理より、 $$ \begin{aligned} &\left([f]\mid (\widehat{[\varphi]\otimes [\overline{\psi}]})[g]\right)_2 =\int_{X\times X}\overline{f(x)}\varphi(x)\overline{\psi(y)}g(y)d(\mu\otimes\mu)(x,y)\\ &=\int_{X}\overline{f(x)}\varphi(x)d\mu(x)\int_{X}\overline{\psi(y)}g(y)d\mu(y) =([f]\mid [\varphi])_2([\psi]\mid [g])_2\\ &=\left([f]\mid \left([\varphi]\odot [\psi]\right)[g]\right)\quad(\forall [f],[g]\in L^2(X,\mu)) \end{aligned} $$ であるから、 $$ \widehat{[\varphi]\otimes [\overline{\psi}]}=[\varphi]\odot [\psi]\quad(\forall [\varphi],[\psi]\in L^2(X,\mu)) $$ が成り立つ。任意の $[\varphi_1],[\psi_1],[\varphi_2],[\psi_2]\in L^2(X,\mu)$ に対し、 $$ \begin{aligned} &\left(\widehat{[\varphi_1]\otimes [\overline{\psi_1}]}\mid \widehat{[\varphi_2]\otimes [\overline{\psi_2}]}\right)_{\rm HS}=([\varphi_1]\odot [\psi_1]\mid [\varphi_2]\odot [\psi_2])_{\rm HS} ={\rm Tr}\left(([\varphi_1]\odot [\psi_1])^*([\varphi_2]\odot [\psi_2])\right)\\ &={\rm Tr}\left(([\psi_1]\odot [\varphi_1])([\varphi_2]\odot [\psi_2])\right) =([\varphi_1]\mid [\varphi_2])_2{\rm Tr}([\psi_1]\odot [\psi_2]) =([\varphi_1]\mid [\varphi_2])_2([\psi_2]\mid [\psi_1])_2\\ &=([\varphi_1]\mid [\varphi_2])_2([\overline{\psi_1}]\mid [\overline{\psi_2}])_2 =([\varphi_1]\otimes [\overline{\psi_1}]\mid [\varphi_2]\otimes [\overline{\psi_2}])_2 \end{aligned} $$ であるから、 $$ {\rm span}\{[\varphi]\otimes [\psi]:[\varphi],[\psi]\in L^2(X,\mu)\}\ni K\mapsto \widehat{K}\in \mathbb{B}^2(L^2(X,\mu))\quad\quad(**) $$ は内積を保存する線形作用素であり、その値域 $$ {\rm span}\{[\varphi]\odot [\psi]:[\varphi],[\psi]\in L^2(X,\mu)\}\subset \mathbb{B}^2(L^2(X,\mu)) $$ は定理16.17より $\mathbb{B}^2(L^2(X,\mu))$ において稠密である。よって $(**)$ を $L^2(X\times X,\mu\otimes \mu)$ 上に一意拡張したもの $$ U\colon L^2(X\times X,\mu\otimes\mu)\rightarrow \mathbb{B}^2(L^2(X,\mu)) $$ はユニタリ作用素である。後は任意の $K\in L^2(X\times X,\mu\otimes \mu)$ に対し $UK=\widehat{K}$ が成り立つことを示せばよい。そこで ${\rm span}\{[\varphi]\otimes [\psi]:[\varphi],[\psi]\in L^2(X,\mu)\}$ の列 $(K_n)_{n\in \mathbb{N}}$ で $\lim_{n\rightarrow\infty}\lVert K_n-K\rVert_2=0$ を満たすものを取る。すると $(*)$ がノルム減少であることから、 $$ \lVert \widehat{K}-\widehat{K_n}\rVert\leq \lVert K-K_n\rVert_2\rightarrow0\quad(n\rightarrow\infty) $$ が成り立ち、作用素ノルムがHilbert-Shcmidtノルム以下であることから、 $$ \lVert UK-\widehat{K_n}\rVert\leq \lVert UK-\widehat{K_n}\rVert_{\rm HS}=\lVert K-K_n\rVert_2\rightarrow0\quad(n\rightarrow\infty) $$ が成り立つ。よって、 $$ \lVert \widehat{K}-UK\rVert\leq \lVert \widehat{K}-\widehat{K_n}\rVert+\lVert \widehat{K_n}-UK\rVert\rightarrow0\quad(n\rightarrow\infty) $$ であるから $\widehat{K}=UK$ が成り立つ。

定理16.18における $\widehat{K}\in \mathbb{B}^2(L^2(X,\mu))$ を $K\in L^2(X\times X,\mu\otimes\mu)$ を積分核とするHilbert-Schmidt積分作用素と言う。Fubiniの定理より、 $$ \int_{X}\overline{f(x)}(\widehat{K}[g])(x)d\mu(x)= ([f]\mid \widehat{K}[g])_2=\int_{X}\overline{f(x)}\int_{X}K(x,y)g(y)d\mu(y)d\mu(x)\quad(\forall [f],[g]\in L^2(X,\mu)) $$ であるから、任意の$[g]\in L^2(X,\mu)$に対し $\widehat{K}[g]\in L^2(X,\mu)$ の代表元は、$\mu$ -a.e. $x\in X$ で、 $$ \int_{X}K(x,y)g(y)d\mu(y) $$ である。

17.加藤-Rellichの定理と中心力ポテンシャルを持つSchrödinger作用素

命題17.1($L^2(\mathbb{R}^N)$ 上のラプラシアンのFourier変換による対角化)

$\mathbb{R}^N$ 上のラプラシアン $-\Delta$ は、定義域をSobolev空間 $H^2(\mathbb{R}^N)$[7]とする $L^2(\mathbb{R}^N)$ 上の非負自己共役作用素である。そしてそのスペクトル $\sigma(-\Delta)$ と点スペクトル(固有値全体) $\sigma_{\rm p}(-\Delta)$ は、 $$ \sigma(-\Delta)=[0,\infty),\quad \sigma_{\rm p}(-\Delta)=\emptyset $$ であり、任意のBorel関数 $f\colon[0,\infty)\rightarrow \mathbb{C}$ に対し、 $$ f(-\Delta)=\mathcal{F}^{-1}f(\lvert {\rm id}\rvert^2)\mathcal{F} $$ が成り立つ。ただし $\mathcal{F}\colon L^2(\mathbb{R}^N)\rightarrow L^2(\mathbb{R}^N)$ はFourier変換[8]であり、 左辺の $f(-\Delta)$ は自己共役作用素 $-\Delta$ に関するBorel汎関数計算(定義8.5)、右辺の $f(\lvert {\rm id}\rvert^2)$ は、Borel関数 $f(\lvert {\rm id}\rvert^2)\colon\mathbb{R}^N\ni x\mapsto f(\lvert x\rvert^2)\in \mathbb{C}$ による掛け算作用素(定義10.2)である。また、$f$ が連続関数の場合は $f(-\Delta)$ のスペクトルは、 $$ \sigma(f(-\Delta))=\overline{f([0,\infty))} $$ である。

Proof.

Sobolev空間の基本事項命題38.1緩増加超関数とFourier変換命題18.3より、 $$ \begin{aligned} H^2(\mathbb{R}^N)&=\{u\in L^2(\mathbb{R}^N):(1+\lvert {\rm id}\rvert^2)\mathcal{F}u\in L^2(\mathbb{R}^N)\} =\{u\in L^2(\mathbb{R}^N):\lvert {\rm id}\rvert^2\mathcal{F}u\in L^2(\mathbb{R}^N)\}\\ &=\{u\in L^2(\mathbb{R}^N):-\mathcal{F}\Delta u\in L^2(\mathbb{R}^N)\}=\{u\in L^2(\mathbb{R}^N):-\Delta u\in L^2(\mathbb{R}^N)\} \end{aligned} $$ であり、 $$ -\Delta\colon H^2(\mathbb{R}^N)\ni u\mapsto -\Delta u\in L^2(\mathbb{R}^N)\quad\quad(*) $$ は、$\lvert{\rm id}\rvert^2\colon \mathbb{R}^N\ni x\mapsto \lvert x\rvert^2\in [0,\infty)$ による掛け算作用素により、 $$ -\Delta =\mathcal{F}^{-1}\lvert {\rm id}\rvert^2\mathcal{F} $$ と表せる。$\lvert {\rm id}\rvert^2$ による掛け算作用素は $L^2(\mathbb{R}^N)$ 上の非負自己共役作用素である[9]ので、$(*)$ も $L^2(\mathbb{R}^N)$ 上の非負自己共役作用素である。そして $\sigma(-\Delta)=\sigma(\lvert {\rm id}\rvert^2)$, $\sigma_{\rm p}(-\Delta)=\sigma_{\rm p}(\lvert {\rm id}\rvert^2)$ である。 命題10.4より $\sigma(\lvert {\rm id}\rvert^2)=[0,\infty)$ であるから $\sigma(-\Delta)=\sigma(\lvert {\rm id}\rvert^2)=[0,\infty)$ である。$\sigma_{\rm p}(-\Delta)=\emptyset$ を示せすためには $\sigma_{\rm p}(\lvert {\rm id}\rvert^2)=\emptyset$ を示せばよい。そこで $\lambda\in \sigma_{\rm p}(\lvert {\rm id}\rvert^2)$ が存在すると仮定して矛盾を導く。$L^2(\mathbb{R}^N)$ 上の掛け算作用素 $\lvert {\rm id}\rvert^2$ の固有値 $\lambda$ に対する固有ベクトル $[g]\in L^2(\mathbb{R}^N)$ を取る(固有ベクトルなので $[g]\neq0$ である)。このとき、 $$ 0=\lVert (\lambda-\lvert{\rm id}\rvert^2)[g]\rVert_2^2=\int_{\mathbb{R}^N}\lvert (\lambda-\lvert x\rvert^2)g(x)\rvert^2 dx $$ であるから、 $$ (\lambda-\lvert x\rvert^2)g(x)=0\quad(\text{Lebesgue測度に関して a.e. $x\in \mathbb{R}^N$})\quad\quad(**) $$ である。ここで、 $$ \{x\in \mathbb{R}^N:\lambda-\lvert x\rvert^2=0\}\quad\quad(***) $$ は $\lambda=0$ の場合は $\{0\}$ であり、$\lambda>0$ の場合は $\mathbb{R}^N$ 内の $N-1$ 次元多様体(球面)である[10]ので、ベクトル解析4:Euclid空間内の多様体上の測度と積分命題16.10より $(***)$ のLebesgue測度は $0$ である。ゆえにLebesgue測度に関して a.e. $x\in \mathbb{R}^N$ で、$\lvert x\rvert^2\neq\lambda$ であるから、$(**)$ よりLebesgue測度に関して a.e. $x\in \mathbb{R}^N$ で $g(x)=0$ である。これは $[g]\in L^2(\mathbb{R}^N)$ が $0$ であることを意味するので矛盾する。ゆえに $\sigma_{\rm p}(-\Delta)=\emptyset$ である。
今、$E\colon \mathcal{B}_{\mathbb{R}^N}\rightarrow \mathbb{P}(L^2(\mathbb{R}^N))$ を $L^2(\mathbb{R}^N)$ 上の掛け算作用素を表す射影値測度(定義10.2)とすると、 $$ -\Delta=\mathcal{F}^{-1}\lvert {\rm id}\rvert^2\mathcal{F}=\mathcal{F}^{-1}\int_{\mathbb{R}^N}\lvert x\rvert^2dE(x)\mathcal{F} $$ であるから、命題6.9より、射影値測度 $\mathcal{F}^{-1}E\mathcal{F}\colon \mathcal{B}_{\mathbb{R}^N}\rightarrow \mathbb{P}(L^2(\mathbb{R}^N))$ に対し、 $$ -\Delta=\int_{\mathbb{R}^N}\lvert x\rvert^2d(\mathcal{F}^{-1}E\mathcal{F})(x) $$ である。よって命題8.6命題6.9より、 $$ f(-\Delta)=\int_{\mathbb{R}^N}f(\lvert x\rvert^2)d(\mathcal{F}^{-1}E\mathcal{F})(x) =\mathcal{F}^{-1}\left(\int_{\mathbb{R}^N}f(\lvert x\rvert^2)dE(x)\right)\mathcal{F} =\mathcal{F}^{-1}f(\lvert {\rm id}\rvert^2)\mathcal{F} $$ である。
$f$ が連続関数の場合は命題8.7の $(8)$ より $f(-\Delta)=\overline{f(\sigma(-\Delta))}=\overline{f([0,\infty))}$ である。

補題17.2

任意の $V\in L^2(\mathbb{R}^3)$ に対し、 $$ V(-\Delta+1)^{-1}f\in L^2(\mathbb{R}^3)\quad(\forall f\in L^2(\mathbb{R}^3)) $$ であり、 $$ L^2(\mathbb{R}^3)\ni f\mapsto V(-\Delta+1)^{-1}f\in L^2(\mathbb{R}^3) $$ はHilbert-Schmidtクラス $\mathbb{B}(L^2(\mathbb{R}^3))$ に属する。特に $L^2(\mathbb{R}^3)$ 上のコンパクト作用素である(命題16.7)。

Proof.

Fourier変換 $\mathcal{F}\colon L^2(\mathbb{R}^3)\rightarrow L^2(\mathbb{R}^3)$ に対し、命題17.1より、 $$ (-\Delta+1)^{-1}=\mathcal{F}^{-1}(\lvert {\rm id}\rvert^2+1)^{-1}\mathcal{F} $$ である。$(\lvert {\rm id}\rvert^2+1)^{-1}\in L^2(\mathbb{R}^3)$ であるから、Hölderの不等式より、 $$ (\lvert {\rm id}\rvert^2+1)^{-1}\mathcal{F}f\in L^1(\mathbb{R}^3)\quad(\forall f\in L^2(\mathbb{R}^3)) $$ であり、緩増加超関数とFourier変換命題15.3の $(5)$ より $\mathcal{F}^{-1}(L^1(\mathbb{R}^3))\subset C_0(\mathbb{R}^3)$ であるので、 $$ (-\Delta+1)^{-1}f=\mathcal{F}^{-1}(\lvert {\rm id}\rvert^2+1)^{-1}\mathcal{F}f\in C_0(\mathbb{R}^3)\quad(\forall f\in L^2(\mathbb{R}^3)) $$ である。今、急減少関数空間 $\mathcal{S}_3$ の列 $(V_n)_{n\in \mathbb{N}}$ で $\lim_{n\rightarrow\infty}\lVert V-V_n\rVert_2=0$ なるものを取る。すると合成積とFourier変換定理24.3命題29.3(Youngの不等式)より $L^2(\mathbb{R}^3)$ において、 $$ \begin{aligned} V(-\Delta+1)^{-1}f&=\lim_{n\rightarrow\infty}V_n(-\Delta+1)^{-1}f =\lim_{n\rightarrow\infty}(\mathcal{F}^{-1}\mathcal{F}V_n)\mathcal{F}^{-1}(\lvert {\rm id}\rvert^2+1)\mathcal{F}f\\ &=\lim_{n\rightarrow\infty}\mathcal{F}^{-1}\left(\left((\lvert {\rm id}\rvert^2+1)^{-1}\mathcal{F}f\right)*\mathcal{F}V_n\right)\\ &=\mathcal{F}^{-1}\left(\left((\lvert {\rm id}\rvert^2+1)^{-1}\mathcal{F}f\right)*\mathcal{F}V\right)\quad(\forall f\in L^2(\mathbb{R}^3)) \end{aligned} $$ となる。そこで $K\in L^2(\mathbb{R}^3\times \mathbb{R}^3)$ を、 $$ K(x,y)=\frac{1}{(2\pi)^{\frac{3}{2}}}\frac{\mathcal{F}V(x-y)}{\lvert y\rvert^2+1}\quad(\forall (x,y)\in \mathbb{R}^3\times \mathbb{R}^3) $$ と定義し、$K$ を積分核とするHilbert-Schmidt積分作用素(定理16.18)を $\widehat{K}\in \mathbb{B}^2(L^2(\mathbb{R}^3))$ とおけば、 $$ V(-\Delta+1)^{-1}f=\mathcal{F}^{-1}\left(\left((\lvert {\rm id}\rvert^2+1)^{-1}\mathcal{F}f\right)*\mathcal{F}V\right)=\mathcal{F}^{-1}\widehat{K}\mathcal{F}f\quad(\forall f\in L^2(\mathbb{R}^3)) $$ である。Hilbert-Schmidtクラス $\mathbb{B}^2(L^2(\mathbb{R}^3))$ は $\mathbb{B}(L^2(\mathbb{R}^3))$ のイデアル(命題16.6)であるから、 $$ \mathcal{F}^{-1}\widehat{K}\mathcal{F}\in \mathbb{B}^2(L^2(\mathbb{R}^3)) $$ である。よって、 $$ L^2(\mathbb{R}^3)\ni f\mapsto V(-\Delta+1)^{-1}f\in L^2(\mathbb{R}^3) $$ はHilbert-Schmidtクラス $\mathbb{B}^2(L^2(\mathbb{R}^3))$ に属する。

定理17.3(加藤-Rellichの定理2)

実数値の $V\in L^2_{\rm loc}(\mathbb{R}^3)$ に対し $L^2(\mathbb{R}^3)$ の列 $(V_n)_{n\in \mathbb{N}}$ で、 $$ V-V_n\in L^\infty(\mathbb{R}^3)\quad(\forall n\in \mathbb{N}),\quad \lim_{n\rightarrow\infty}\lVert V-V_n\rVert_{\infty}=0 $$ を満たすものが取れるとする。このとき $V$ による $L^2(\mathbb{R}^3)$ 上の掛け算作用素(定義10.2)は、自己共役作用素 $-\Delta\colon H^2(\mathbb{R}^3)\rightarrow L^2(\mathbb{R}^3)$ に対して相対コンパクト(定義15.3)である。

Proof.

補題17.2より任意の $n\in \mathbb{N}$ に対し、 $$ V_n(-\Delta+1)^{-1}\colon L^2(\mathbb{R}^3)\ni f\mapsto V_n(-\Delta+1)^{-1}f\in L^2(\mathbb{R}^3) $$ は $L^2(\mathbb{R}^3)$ 上のコンパクト作用素である。 $$ V(-\Delta+1)^{-1}=(V-V_n)(-\Delta+1)^{-1}+V_n(-\Delta+1)^{-1}\in \mathbb{B}(L^2(\mathbb{R}^3)) $$ であり、 $$ \lVert V(-\Delta+1)^{-1}-V_n(-\Delta+1)^{-1}\rVert\leq \lVert V-V_n\rVert_{\infty}\lVert (-\Delta+1)^{-1}\rVert\rightarrow0\quad(n\rightarrow\infty) $$ であるから $V(-\Delta+1)^{-1}$ は $L^2(\mathbb{R}^3)$ 上のコンパクト作用素である[11]よって $V$ は $-\Delta$ に対して相対コンパクトである。

定理17.4(加藤-Rellichの定理3(中心力ポテンシャルを持つSchrödinger作用素))

$\alpha\in (0,\frac{3}{2})$ と $k\in (0,\infty)$ に対し、 $$ V(x)\colon=-\frac{k}{\lvert x\rvert^\alpha}\quad(\forall x\in \mathbb{R}^3) $$ として $V\in L^2_{\rm loc}(\mathbb{R}^3)$ を定義する。このとき、

  • $(1)$ $V$ による $L^2(\mathbb{R}^3)$ 上の掛け算作用素は自己共役作用素 $-\Delta\colon H^2(\mathbb{R}^3)\rightarrow L^2(\mathbb{R}^3)$ に対して相対コンパクト(定義15.3)である。そして $H_V\colon=-\Delta+V$ は $H^2(\mathbb{R}^3)$ を定義域とする $L^2(\mathbb{R}^3)$ 上の下に有界な自己共役作用素であり、$D(\mathbb{R}^3)$ は $H_V$ の芯である。また $H_V$ の真性スペクトル(定義14.1)は $\sigma_{\rm ess}(H_V)=[0,\infty)$ である。
  • $(2)$ $H_V$ は可算無限個の離散固有値(定義14.1)を持つ。そしてこれらを下から並べたものを $(\lambda_n)_{n\in\mathbb{N}}$ とおくと、$\lim_{n\rightarrow\infty}\lambda_n=\sup_{n\in\mathbb{N}}\lambda_n=0$ が成り立つ。
Proof.

$(1)$ 各 $n\in \mathbb{N}$ に対し $V_n\colon \mathbb{R}^3\rightarrow\mathbb{R}$ を、 $$ V_n(x)\colon=\begin{cases}V(x)\quad&(\lvert x\rvert\leq n)\\0&(n<\lvert x\rvert)\end{cases} $$ とおくと、極座標変換(ベクトル解析4:Euclid空間内の多様体上の測度と積分定理18.4)と $2\alpha<3$ より、 $$ \int_{\mathbb{R}^3}\lvert V_n(x)\rvert^2 dx=\mu_{S_2}(S_2)\int_{0}^{n}r^2\frac{k^2}{r^{2\alpha}}dr=\mu_{S_2}(S_2)\frac{k^2}{3-2\alpha}n^{3-2\alpha}<\infty $$ であるから $V_n\in L^2(\mathbb{R}^3)$ であり、$0<\alpha$ より、 $$ \lVert V-V_n\rVert_{\infty}\leq \frac{k}{n^{\alpha}}\rightarrow0\quad(n\rightarrow\infty) $$ である。よって定理17.3より $V$ は掛け算作用素として $-\Delta$ に対して相対コンパクトである。ここで命題17.1より $-\Delta\colon H^2(\mathbb{R}^3)\rightarrow L^2(\mathbb{R}^3)$ は $L^2(\mathbb{R}^3)$ 上の下に有界な自己共役作用素であり $\sigma_{\rm ess}(-\Delta)=\sigma(-\Delta)=[0,\infty)$ である。よって定理15.5定理15.1より $H_V=-\Delta+V\colon H^2(\mathbb{R}^3)\rightarrow L^2(\mathbb{R}^3)$ も $L^2(\mathbb{R}^3)$ 上の下に有界な自己共役作用素であり、$-\Delta$ の芯 $D(\mathbb{R}^3)$[12] は $H_V$ の芯でもあり、$\sigma_{\rm ess}(H_V)=\sigma_{\rm ess}(-\Delta)=[0,\infty)$ である。

  • $(2)$ $(1)$ より $H_V$ は下に有界な自己共役作用素である。そこで $H_V$ の特性レベル(定義14.10)を $(\mu_n(H_V))_{n\in \mathbb{N}}$ とおく。$(1)$ より $\sigma_{\rm ess}(H_V)=[0,\infty)$ であるから定理14.12の $(2)$ より、

$$ \sup_{n\in \mathbb{N}}\mu_n(H_V)={\rm min}(\sigma_{\rm ess}(H_V))=0 $$ である。よって定理14.12の $(3)$ より、 $$ \mu_n(H_V)<0\quad(\forall n\in \mathbb{N})\quad\quad(*) $$ が成り立つことを示せばよい。今、Urysohnの補題(ベクトル解析4:Euclid空間内の多様体上の測度と積分定理15.5)により非負値の $\psi\in D(\mathbb{R}^3)$ で、 $$ \lVert \psi\rVert_2=1,\quad {\rm supp}(\psi)\subset \{x\in \mathbb{R}^2:1<\lvert x\rvert<2\} $$ を満たすものを取る。そして任意の $R\in (0,\infty)$ に対し $\psi_R\in D(\mathbb{R}^3)$ を、 $$ \psi_R(x)\colon=R^{-\frac{3}{2}}\psi(R^{-1}x)\quad(\forall x\in \mathbb{R}^3) $$ として定義する。このとき変数変換より、 $$ \lVert \psi_R\rVert_2=1,\quad {\rm supp}(\psi_R)\subset \{x\in \mathbb{R}^3:R<\lvert x\rvert<2R\}\quad\quad(**) $$ であり、 $$ (\psi_R\mid -\Delta\psi_R)_2=R^{-2}(\psi\mid -\Delta\psi)_2,\quad (\psi_R\mid V\psi_R)_2=R^{-\alpha}(\psi\mid V\psi)_2\quad(\forall R\in (0,\infty))\quad\quad(***) $$ である。 $$ 2-\alpha>0,\quad(\psi\mid V\psi)_2<0 $$ であるから、$(***)$ より、十分大きい $R_0\in (0,\infty)$ を取れば、 $$ \begin{aligned} (\psi_R\mid H_V\psi_R)_2&=(\psi_R\mid -\Delta \psi_R)_2+(\psi_R\mid V\psi_R)_2=R^{-2}(\psi\mid -\Delta \psi)_2+R^{-\alpha}(\psi\mid V\psi)_2\\ &=R^{-2}\left((\psi\mid -\Delta\psi)_2+R^{2-\alpha}(\psi\mid V\psi)_2\right)<0\quad(\forall R\in [R_0,\infty))\quad\quad(****) \end{aligned} $$ となる。そこで、 $$ \varphi_n\colon=\psi_{2^nR_0}\in D(\mathbb{R}^3)\quad(\forall n\in \mathbb{N}) $$ とおくと、$(**)$, $(****)$ より、 $$ \lVert \varphi_n\rVert_2=1,\quad {\rm supp}(\varphi_n), {\rm supp}(H_V\varphi_n)\subset \{x\in \mathbb{R}^3:2^nR_0<\lvert x\rvert<2^{n+1}R_0\}\quad(\forall n\in\mathbb{N}),\quad\quad(*****) $$ $$ (\varphi_n\mid H_V\varphi_n)<0\quad(\forall n\in \mathbb{N})\quad\quad(******) $$ が成り立つ。$(*****)$ より特に $(\varphi_n)_{n\in \mathbb{N}}$ はHilbert空間 $L^2(\mathbb{R}^3)$ のONSである。各 $n\in \mathbb{N}$ に対し $\varphi_1,\ldots,\varphi_n$ によって張られる $L^2(\mathbb{R}^3)$ の $n$ 次元部分空間の上への射影作用素を $P_n$ とおき、 $$ H_{V,n}\colon {\rm Ran}(P_n)\ni f\mapsto P_nH_Vf\in {\rm Ran}(P_n) $$ なる ${\rm Ran}(P_n)$ 上の自己共役作用素を定義する。このとき $(*****)$ より $\varphi_1,\ldots,\varphi_n\in {\rm Ran}(P_n)$ は $H_{V,n}$ の単位固有ベクトルからなるCONSである。よって $H_{V,n}$ の固有値は $(\varphi_j\mid H_{V}\varphi_j)_2$ ($j=1,\ldots,n$) であるから、Reyleigh-Ritzの原理(命題14.13)と $(******)$ より、 $$ \mu_n(H_V)\leq \mu_n(H_{V,n})={\rm max}\{(\varphi_j\mid H_{V}\varphi_j)_2:j=1,\ldots,n\}<0 $$ である。よって $(*)$ が成り立つ。

定理17.5(加藤-Rellichの定理4(中心力ポテンシャルを持つSchrödinger作用素))

$\alpha\in (0,\frac{3}{2}), k_j,K_{j,k}\in [0,\infty)$ $(j,k\in \{1,\ldots,N\}, j\neq k)$ とし、 $$ V(x_1,\ldots,x_N)\colon=-\sum_{j=1}^{N}\frac{k_j}{\lvert x_j\rvert^{\alpha}}-\sum_{j\neq k}\frac{K_{j,k}}{\lvert x_j-x_k\rvert^{\alpha}} $$ として $V\in L^2_{\rm loc}(\mathbb{R}^{3N})$ を定義する。このとき $V$ による $L^2(\mathbb{R}^{3N})$ 上の掛け算作用素は自己共役作用素 $-\Delta \colon H^2(\mathbb{R}^{3N})\rightarrow L^2(\mathbb{R}^{3N})$ に対して無限小(定義15.2)である。そして $H_V\colon =-\Delta+V$ は $H^2(\mathbb{R}^{3N})$ を定義域とする下に有界な自己共役作用素であり、$D(\mathbb{R}^{3N})$ を芯として持つ。

Proof.

定理15.1より、掛け算作用素 $V$ が $-\Delta$ に対して無限小であることを示せば十分である。 任意の $j,k\in \{1,\ldots,N\}$ $(j\neq k)$ に対し $V_j,V_{j,k}\in L^2_{\rm loc}(\mathbb{R}^{3N})$ を、 $$ V_j(x_1,\ldots,x_N)\colon=-\frac{k_j}{\lvert x_j\rvert^{\alpha}},\quad V_{j,k}(x_1,\ldots,x_N)\colon=-\frac{K_{j,k}}{\lvert x_j-x_k\rvert^{\alpha}} $$ と定義する。掛け算作用素 $V$ が $-\Delta$ に対して無限小であることを示すには、掛け算作用素 $V_j,V_{j,k}$ がそれぞれ $-\Delta$ に対して無限小であることを示せばよい。

  • $(1)$ 各 $j\in \{1,\ldots,N\}$ に対し $V_j$ が $-\Delta$ に対して無限小であることを示す。定理17.4より $L^2(\mathbb{R}^3)$ 上の掛け算作用素 $-\frac{k_j}{\lvert {\rm id}\rvert^{\alpha}}$ は自己共役作用素 $-\Delta\colon H^2(\mathbb{R}^3)\rightarrow L^2(\mathbb{R}^3)$ に対して相対コンパクトであるので特に無限小である。よって任意の $\epsilon\in (0,1)$ に対し $b_{\epsilon}\in [0,\infty)$ が存在し、任意の $\varphi\in D(\mathbb{R}^{3N})$ に対し、

$$ \begin{aligned} &\left(\int_{\mathbb{R}^3}\lvert V_j(x_1,\ldots,x_N)\varphi(x_1,\ldots,x_N)\rvert^2dx_j\right)^{\frac{1}{2}}\\ &\leq \epsilon\left(\int_{\mathbb{R}^3}\lvert\Delta_{x_j}\varphi(x_1,\ldots,x_N)\rvert^2dx_j\right)^{\frac{1}{2}}+b_{\epsilon}\left(\int_{\mathbb{R}^3}\lvert \varphi(x_1,\ldots,x_N)\rvert^2dx_j\right)^{\frac{1}{2}} \end{aligned} $$ が成り立つ。よってMinkowskiの不等式とTonelliの定理より、 $$ \lVert V_j\varphi\rVert_2\leq \epsilon\lVert -\Delta_{x_j}\varphi\rVert_2+b_{\epsilon}\lVert\varphi\rVert_2\quad(\forall \varphi\in D(\mathbb{R}^{3N}))\quad\quad(*) $$ が成り立つ。命題17.1より、 $$ -\Delta_{x_j}=\mathcal{F}^{-1}\lvert {\rm id}_j\rvert^2\mathcal{F},\quad -\Delta=\mathcal{F}^{-1}\lvert {\rm id}\rvert^2\mathcal{F} $$ であるから、 $$ \lVert V_j\varphi\rVert_2=\lVert \lvert {\rm id}_j\rvert^2\mathcal{F}\varphi\rVert_2 \leq \lVert \lvert {\rm id}\rvert^2\mathcal{F}\varphi\rVert_2=\lVert-\Delta\varphi\rVert_2\quad(\forall \varphi\in D(\mathbb{R}^{3N}))\quad\quad(**) $$ である。よって $(*),(**)$ より、 $$ \lVert V_j\varphi\rVert_2\leq\epsilon\lVert -\Delta \varphi\rVert_2+b_{\epsilon}\lVert \varphi\rVert_2\quad(\forall \varphi\in D(\mathbb{R}^{3N}))\quad\quad(***) $$ が成り立つ。ここで $D(\mathbb{R}^{3N})$ は $-\Delta\colon H^2(\mathbb{R}^{3N})\rightarrow L^2(\mathbb{R}^{3N})$ の芯であり[13]、掛け算作用素は閉作用素であるから、$(***)$ より、 $$ \lVert V_jf\rVert_2\leq \epsilon\lVert -\Delta f\rVert_2+b_{\epsilon}\lVert f\rVert_2\quad(\forall f\in H^2(\mathbb{R}^{3N})) $$ が成り立つ。よって掛け算作用素 $V_j$ は $-\Delta$ に対して無限小である。

  • $(2)$ $j\neq k$ なる任意の $j,k\in \{1,\ldots,N\}$ に対し $V_{j,k}$ が $-\Delta$ に対して無限小であることを示す。定理17.4より $L^2(\mathbb{R}^3)$ 上の掛け算作用素 $-\frac{K_{j,k}}{\lvert {\rm id}\rvert^{\alpha}}$ は自己共役作用素 $-\Delta\colon H^2(\mathbb{R}^3)\rightarrow L^2(\mathbb{R}^3)$ に対して相対コンパクトであるので特に無限小である。よって任意の $\epsilon\in (0,1)$ に対し $b_{\epsilon}\in [0,\infty)$ が存在し、任意の $\varphi\in D(\mathbb{R}^{3N})$ に対し、

$$ \begin{aligned} &\left(\int_{\mathbb{R}^3}\lvert V_{j,k}(x_1,\ldots,x_N)\varphi(x_1,\ldots,x_N)\rvert^2dx_j\right)^{\frac{1}{2}} =\left(\int_{\mathbb{R}^3}\left\lvert\frac{K_{j,k}}{\lvert x_j\rvert}\varphi(x_1,\ldots,x_j+x_k,\ldots,x_N)\right\rvert^2\right)^{\frac{1}{2}}\\ &\leq \epsilon\left(\int_{\mathbb{R}^3}\lvert\Delta_{x_j}\varphi(x_1,\ldots,x_j+x_k,\ldots,x_N)\rvert^2dx_j\right)^{\frac{1}{2}}+b_{\epsilon}\left(\int_{\mathbb{R}^3}\lvert \varphi(x_1,\ldots,x_j+x_k,\ldots,x_N)\rvert^2dx_j\right)^{\frac{1}{2}}\\ &=\epsilon\left(\int_{\mathbb{R}^3}\lvert\Delta_{x_j}\varphi(x_1,\ldots,x_N)\rvert^2dx_j\right)^{\frac{1}{2}}+b_{\epsilon}\left(\int_{\mathbb{R}^3}\lvert \varphi(x_1,\ldots,x_N)\rvert^2dx_j\right)^{\frac{1}{2}} \end{aligned} $$ が成り立つ。よってMinkowskiの不等式とTonelliの定理より、 $$ \lVert V_{j,k}\varphi\rVert_2\leq \epsilon\lVert -\Delta_{x_j}\varphi\rVert_2+b_{\epsilon}\lVert\varphi\rVert_2\quad(\forall \varphi\in D(\mathbb{R}^{3N})) $$ であるから、後は $(1)$ と同様にすれば $V_{j,k}$ が $-\Delta$ に対して無限小であることが分かる。

18. $\sigma$-WOT、$\sigma$-SOT、von Neumann環、二重可換子環定理

定義18.1($\mathbb{B}(\mathcal{H})$ の $\sigma$-WOTと $\sigma$-SOT)

$\mathcal{H}$ をHilbert空間とする。任意の $u=(u_n)_{n\in \mathbb{N}}, v=(v_n)_{n\in \mathbb{N}}\in \bigoplus_{n\in \mathbb{N}}\mathcal{H}$ に対し線形汎関数 $\varphi_{u,v}\colon \mathbb{B}(\mathcal{H})\rightarrow \mathbb{C}$ とセミノルム $p_v\colon \mathbb{B}(\mathcal{H})\rightarrow [0,\infty)$ を、 $$ \varphi_{u,v}(A)\colon=((u_n)_{n\in\mathbb{N}}\mid (Av_n)_{n\in \mathbb{N}})=\sum_{n\in \mathbb{N}}(u_n\mid Av_n)\quad(\forall A\in\mathbb{B}(\mathcal{H})), $$ $$ p_v(A)\colon=\lVert (Av_n)_{n\in \mathbb{N}}\rVert=\sqrt{\sum_{n\in \mathbb{N}}\lVert Av_n\rVert^2}\quad(\forall A\in \mathbb{B}(\mathcal{H})) $$ として定義する。このとき $\{\varphi_{u,v}:u,v\in \bigoplus_{n\in \mathbb{N}}\mathcal{H}\}, \{p_v:v\in \bigoplus_{n\in \mathbb{N}}\mathcal{H}\}$ はそれぞれ $\mathbb{B}(\mathcal{H})$ 上の線形汎関数の分離族とセミノルムの分離族である(位相線形空間2:セミノルム位相と汎弱位相を参照)。$\{\varphi_{u,v}:u,v\in \bigoplus_{n\in \mathbb{N}}\mathcal{H}\}$ が誘導する汎弱位相を $\mathbb{B}(\mathcal{H})$ 上の $\sigma$-WOTと言い、$\{p_v\}_{v\in \bigoplus_{n\in\mathbb{N}}\mathcal{H}}$ が誘導するセミノルム位相を $\mathbb{B}(\mathcal{H})$ 上の $\sigma$-SOTと言う。

注意18.2($\sigma$-WOTと $\sigma$-SOTに関する収束の特徴付け)

位相線形空間2:セミノルム位相と汎弱位相命題9.3より $\mathbb{B}(\mathcal{H})$ のネット $(A_{\lambda})_{\lambda\in \Lambda}$ が $A\in \mathbb{B}(\mathcal{H})$ に$\sigma$-WOTに関して収束することは、任意の $(u_n)_{n\in\mathbb{N}},(v_n)_{n\in \mathbb{N}}\in \bigoplus_{n\in \mathbb{N}}\mathcal{H}$ に対し、 $$ ((u_n)_{n\in\mathbb{N}}\mid (A_{\lambda}v_n)_{n\in\mathbb{N}})\rightarrow((u_n)_{n\in\mathbb{N}}\mid (Av_n)_{n\in\mathbb{N}}), $$ すなわち、 $$ \sum_{n\in \mathbb{N}}(u_n\mid A_{\lambda}v_n)\rightarrow \sum_{n\in \mathbb{N}}(u_n\mid Av_n) $$ が成り立つことと同値である。また位相線形空間2:セミノルム位相と汎弱位相命題8.6より $\mathbb{B}(\mathcal{H})$ のネット $(A_{\lambda})_{\lambda\in \Lambda}$ が $A\in \mathbb{B}(\mathcal{H})$ に $\sigma$-SOTに関して収束することは、任意の $(v_n)_{n\in \mathbb{N}}\in \bigoplus_{n\in \mathbb{N}}\mathcal{H}$ に対し、 $$ \lVert ((A_{\lambda}-A)v_n)_{n\in \mathbb{N}}\rVert\rightarrow0, $$ すなわち、 $$ \sum_{n\in\mathbb{N}}\lVert (A_{\lambda}-A)v_n\rVert^2\rightarrow0 $$ が成り立つことと同値である。

注意18.3($\mathbb{B}(\mathcal{H})$ の位相の強弱)

注意18.2より、$\mathbb{B}(\mathcal{H})$ のネットが $\sigma$-WOT(resp. $\sigma$-SOT)に関して収束するならば、WOT(resp. SOT)に関しても収束するので、ネットによる連続性の特徴付け(ネットによる位相空間論定理3)より $\sigma$-WOTはWOTより強い。(resp. $\sigma$-SOT)はSOTより強い。)また注意18.2より $\mathbb{B}(\mathcal{H})$ のネットが $\sigma$-SOTに関して収束するならば $\sigma$-WOTに関しても収束するので、$\sigma$-SOTは $\sigma$-WOTより強い。さらに作用素ノルムで収束するネットは明らかに $\sigma$-SOTに関して収束するので作用素ノルム位相は $\sigma$-SOTより強い。

注意18.4($\sigma$-WOT、$\sigma$-SOTとトレース)

命題16.15よりトレースクラス $\mathbb{B}^1(\mathcal{H})$ は、 $$ \mathbb{B}^1(\mathcal{H})=\left\{\sum_{n\in \mathbb{N}}v_n\odot u_n:(u_n)_{n\in\mathbb{N}},(v_n)_{n\in\mathbb{N}}\in \bigoplus_{n\in \mathbb{N}}\mathcal{H}\right\} $$ であり、任意の $u=(u_n)_{n\in \mathbb{N}},v=(v_n)_{n\in \mathbb{N}}\in \bigoplus_{n\in \mathbb{N}}\mathcal{H}$ に対し $T=\sum_{n\in \mathbb{N}}v_n\odot u_n\in \mathbb{B}^1(\mathcal{H})$ とおけば、 $$ {\rm Tr}(AT)=\sum_{n\in \mathbb{N}}{\rm Tr}(A(v_n\odot u_n))=\sum_{n\in \mathbb{N}}(u_n\mid Av_n)=\varphi_{u,v}(A)\quad(\forall A\in \mathbb{B}(\mathcal{H})) $$ である。よって、 $$ \{\varphi_{u,v}:u,v\in \bigoplus_{n\in \mathbb{N}}\mathcal{H}\}=\{{\rm Tr}(\cdot T):T\in \mathbb{B}^1(\mathcal{H})\} $$ であるから、$\sigma$-WOTは $\mathbb{B}(\mathcal{H})$ 上の線形汎関数の分離族 $\{{\rm Tr}(\cdot T):T\in \mathbb{B}^1(\mathcal{H})\}$ が誘導する汎弱位相と一致し、位相線形空間2:セミノルム位相と汎弱位相命題9.5より、 $$ \{\text{$\mathbb{B}(\mathcal{H})$ 上の $\sigma$-WOT連続な線形汎関数}\}=\{{\rm Tr}(\cdot T):T\in \mathbb{B}^1(\mathcal{H})\} $$ が成り立つ。 また命題16.15より、 $$ \mathbb{B}^1(\mathcal{H})\cap\mathbb{B}(\mathcal{H})_+=\left\{\sum_{n\in \mathbb{N}}v_n\odot v_n:(v_n)_{n\in\mathbb{N}}\in \bigoplus_{n\in \mathbb{N}}\mathcal{H}\right\} $$ であり、任意の $v=(v_n)_{n\in \mathbb{N}}\in \bigoplus_{n\in \mathbb{N}}\mathcal{H}$ に対し $T=\sum_{n\in \mathbb{N}}v_n\odot v_n\in \mathbb{B}^1(\mathcal{H})\cap \mathbb{B}(\mathcal{H})_+$ とおけば、 $$ {\rm Tr}(A^*AT)=\sum_{n\in \mathbb{N}}{\rm Tr}(A^*A(v_n\odot v_n))=\sum_{n\in \mathbb{N}}(v_n\mid A^*Av_n) =\sum_{n\in \mathbb{N}}\lVert Av_n\rVert^2\quad(\forall A\in \mathbb{B}(\mathcal{H})) $$ である。よって注意18.2より $\mathbb{B}(\mathcal{H})$ のネット $(A_{\lambda})_{\lambda\in \Lambda}$ が $A\in \mathbb{B}(\mathcal{H})$ に $\sigma$-SOTに関して収束することは、任意の $T\in \mathbb{B}^1(\mathcal{H})$ に関して、 $$ {\rm Tr}((A_{\lambda}-A)^*(A_{\lambda}-A)T)\rightarrow0 $$ となることと同値である。そして命題16.5より $\mathbb{B}^1(\mathcal{H})={\rm span}(\mathbb{B}^1(\mathcal{H})\cap \mathbb{B}(\mathcal{H})_+)$ であるから、$\sigma$-SOTに関して $(A_{\lambda})_{\lambda\in\Lambda}$ が $A$ に収束することは、$\sigma$-WOTに関して $(A_{\lambda}-A)^*(A_{\lambda}-A)\rightarrow0$ が成り立つことと同値である。

命題18.5(弱 $*$-位相としての $\sigma$-WOT)

$\mathcal{H}$ をHilbert空間とする。このとき、 $$ \mathbb{B}(\mathcal{H})\ni A\mapsto {\rm Tr}(A\cdot )\in (\mathbb{B}^1(\mathcal{H}))^*\quad\quad(*) $$ は等長線形同型写像であり、$\sigma$-WOTと弱 $*$-位相に関して同相写像である。そして $\mathbb{B}(\mathcal{H})$ の単位ノルム閉球 $(\mathbb{B}(\mathcal{H}))_1=\{A\in \mathbb{B}(\mathcal{H}):\lVert A\rVert\leq 1\}$ は $\sigma$-WOTに関してコンパクトである。

Proof.

定理16.16より $(*)$ は等長線形同型写像であり、注意18.4より、$\mathbb{B}(\mathcal{H})$ のネット $(A_{\lambda})_{\lambda\in\Lambda}$ が $A\in \mathbb{B}(\mathcal{H})$ に $\sigma$-WOTに関して収束することは、任意の $T\in \mathbb{B}^1(\mathcal{H})$ に対し ${\rm Tr}(A_{\lambda}T)\rightarrow {\rm Tr}(AT)$ となること、すなわち $(\mathbb{B}^1(\mathcal{H}))^*$ の弱 $*$-位相に関して ${\rm Tr}( A_{\lambda}\cdot)\rightarrow {\rm Tr}(A\cdot )$ となることと同値である。よってネットによる連続性の特徴付け(ネットによる位相空間論定理3)より、 $(*)$ は $\sigma$-WOTと弱 $*$-位相に関して同相写像である。そしてAlaogluの定理(位相線形空間2:セミノルム位相と汎弱位相定理10.3)より $(\mathbb{B}^1(\mathcal{H}))^*$ の単位ノルム閉球は弱 $*$-位相でコンパクトであるので $(\mathbb{B}(\mathcal{H}))_1$ は $\sigma$-WOTコンパクトである。

命題18.6(ノルム有界集合上での $\sigma$-WOTとWOT(resp. $\sigma$-SOTとSOT)の一致)

$\mathbb{B}(\mathcal{H})$ の単位ノルム閉球 $(\mathbb{B}(\mathcal{H}))_1=\{A\in\mathbb{B}(\mathcal{H}):\lVert A\rVert\leq 1\}$ において $\sigma$-WOTとWOTは一致する。また $\sigma$-SOTとSOTも一致する。

Proof.

$$ (\mathbb{B}(\mathcal{H}))_1\ni A\mapsto A\in (\mathbb{B}(\mathcal{H}))_1\quad\quad(*) $$ が $\sigma$-WOTとWOTに関して同相写像であること(resp. $\sigma$-SOTとSOTに関して同相写像であること)を示せばよい。注意18.3より $(*)$ は $\sigma$-WOTとWOT(resp. $\sigma$-SOTとSOT)に関して連続である。そして命題18.5より $(\mathbb{B}(\mathcal{H}))_1$ は $\sigma$-WOTによりコンパクト空間であるから $(*)$ は $\sigma$-WOTとWOTに関して同相写像である。[14]後は$(*)$ がSOTと $\sigma$-SOTに関して連続であることを示せばよい。 $(\mathbb{B}(\mathcal{H}))_1$ のネット $(A_{\lambda})_{\lambda\in\Lambda}$ がSOTに関して $A\in (\mathbb{B}(\mathcal{H}))_1$ に収束するとする。任意の $\epsilon\in (0,\infty)$ と任意の $v=(v_n)_{n\in \mathbb{N}}\in \bigoplus_{n\in \mathbb{N}}\mathcal{H}$ を取る。十分大きい $N\in \mathbb{N}$ を取れば、 $$ \sum_{n\geq N+1}4\lVert v_n\rVert^2<\frac{\epsilon}{2} $$ となり、SOTに関して $A_{\lambda}\rightarrow A$ であることから、$\lambda_0\in \Lambda$ が存在し、 $$ \sum_{n=1}^{N}\lVert(A_{\lambda}-A)v_n\rVert^2<\frac{\epsilon}{2}\quad(\forall \lambda\geq \lambda_0) $$ となる。よって任意の $\lambda\geq\lambda_0$ に対し、 $$ \sum_{n\in \mathbb{N}}\lVert (A_{\lambda}-A)v_n\rVert^2 \leq\sum_{n=1}^{N}\lVert (A_{\lambda}-A)v_n\rVert^2+\sum_{n\geq N+1}4\lVert v_n\rVert^2<\epsilon $$ となるので、$\sigma$-SOTに関して $A_{\lambda}\rightarrow A$ が成り立つ。ゆえに $(*)$ はSOTと $\sigma$-SOTに関して連続である。

命題18.7

$\mathbb{B}(\mathcal{H})$ 上の線形汎関数 $\varphi\colon \mathbb{B}(\mathcal{H})\rightarrow \mathbb{C}$ に対し次は互いに同値である。

  • $(1)$ $\varphi$ はWOTに関して連続である。
  • $(2)$ $\varphi$ はSOTに関して連続である。

そして凸集合 $\mathcal{C}\subset \mathbb{B}(\mathcal{H})$ に対し $\mathcal{C}$ がWOTに関して閉であることとSOTに関して閉であることは同値である。

Proof.

SOTはWOTより強いので、$(1)\Rightarrow(2)$ は自明である。$(2)\Rightarrow(1)$ を示す。$(2)$ が成り立つとすると $\{A\in \mathbb{B}(\mathcal{H}):\lvert \varphi(A)\rvert<1\}$ はSOTに関する $0\in \mathbb{B}(\mathcal{H})$ の近傍であるから、位相線形空間2:セミノルム位相と汎弱位相命題8.6より有限個の $v_1,\ldots,v_n\in \mathcal{H}$ が取れて、 $$ \bigcap_{j=1}^{n}\{A\in \mathbb{B}(\mathcal{H}):\lVert Av_j\rVert<1\}\subset \{A\in \mathbb{B}(\mathcal{H}):\lvert\varphi(A)\rvert<1\} $$ となる。よって、 $$ \lvert\varphi(A)\rvert\leq \sqrt{\sum_{j=1}^{n}\lVert Av_j\rVert^2}\quad(\forall A\in \mathbb{B}(\mathcal{H})) $$ が成り立つので、直和Hilbert空間 $\mathcal{H}^n=\bigoplus_{j=1}^{n}\mathcal{H}$ の部分空間 $$ \mathcal{K}\colon=\{(Av_j)_{j=1,\ldots,n}:A\in \mathbb{B}(\mathcal{H})\} $$ を考えると、 $$ \psi\colon \mathcal{K}\ni (Av_j)_{j=1,\ldots,n}\mapsto \varphi(A)\in \mathbb{C} $$ はwell-definedな有界線形汎関数である。Hahn-Banachの拡張定理(位相線形空間3:Hahn-Banachの定理とKrein-Milmanの端点定理定理11.4)より $\psi$ は $\mathcal{H}^n$ 上のある有界線形汎関数 $\widetilde{\psi}$ に拡張でき、Rieszの定理により $\widetilde{\psi}$ に対応する $(u_j)_{j=1,\ldots,n}\in \mathcal{H}^n$ を取れば、 $$ \varphi(A)=\psi((Av_j)_{j=1,\ldots,n})=((u_j)_{j=1,\ldots,n}\mid (Av_j)_{j=1,\ldots,n})=\sum_{j=1}^{n}(u_j\mid Av_j)\quad(\forall A\in \mathbb{B}(\mathcal{H})) $$ となる。これより $\varphi$ はWOT連続であるので $(2)\Rightarrow(1)$ が成り立つ。
凸集合 $\mathcal{C}\subset \mathbb{B}(\mathcal{H})$ についてWOT閉であることとSOT閉であることが同値であることはHahn-Banachの分離定理の系(位相線形空間3:Hahn-Banachの定理とKrein-Milmanの端点定理系13.4)による。

補題18.8($\sigma$-SOTに関する $0\in \mathbb{B}(\mathcal{H})$ の基本近傍系)

定義18.1における $\mathbb{B}(\mathcal{H})$ の $\sigma$-SOTを誘導するセミノルムの族 $\{p_v\}_{v\in \bigoplus_{n\in\mathbb{N}}\mathcal{H}}$ に対し、$\{(p_v<1)\}_{v\in \bigoplus_{n\in\mathbb{N}}\mathcal{H}}$ は $\sigma$-SOTに関する $0\in\mathbb{B}(\mathcal{H})$ の基本近傍系である。ただし $(p_v<1)=\{A\in \mathbb{B}(\mathcal{H}):p_v(A)<1\}$ である。

Proof.

有限個の $v^j=(v^j_n)_{n\in \mathbb{N}}\in \bigoplus_{n\in \mathbb{N}}\mathcal{H}$ $(j=1,\ldots,m)$ に対し、 $$ v\colon=(v^1_1,\ldots,v^m_1,v^1_2,\ldots,v^m_2,v^1_3,\ldots,v^m_3,\ldots)\in \bigoplus_{n\in \mathbb{N}}\mathcal{H} $$ とおけば、$(p_v<1)\subset \bigcap_{j=1}^{m}(p_{v^j}<1)$ となる。このことと位相線形空間2:セミノルム位相と汎弱位相命題8.6による。

命題18.9

$\mathbb{B}(\mathcal{H})$ 上の線形汎関数 $\varphi\colon \mathbb{B}(\mathcal{H})\rightarrow \mathbb{C}$ に対しは互いに同値である。

  • $(1)$ $\varphi$ は $\sigma$-WOTに関して連続である。
  • $(2)$ $\varphi$ は $\sigma$-SOTに関して連続である。

そして凸集合 $\mathcal{C}\subset \mathbb{B}(\mathcal{H})$ に対し $\mathcal{C}$ が $\sigma$-WOTに関して閉であることと $\sigma$-SOTに関して閉であることは同値である。

Proof.

$\sigma$-SOTは $\sigma$-WOTより強いので、$(1)\Rightarrow(2)$ は自明である。$(2)\Rightarrow(1)$ を示す。$(2)$ が成り立つとすると $\{A\in \mathbb{B}(\mathcal{H}):\lvert \varphi(A)\rvert<1\}$ は $\sigma$-SOTに関する $0\in \mathbb{B}(\mathcal{H})$ の近傍であるから、補題18.9より $v=(v_n)_{n\in \mathbb{N}}\in \bigoplus_{n\in \mathbb{N}}\mathcal{H}$ が取れて、 $$ \{A\in \mathbb{B}(\mathcal{H}):\lVert (Av_n)_{n\in \mathbb{N}}\rVert<1\}\subset \{A\in \mathbb{B}(\mathcal{H}):\lvert\varphi(A)\rvert<1\} $$ となる。よって、 $$ \lvert\varphi(A)\rvert\leq \lVert (Av_n)_{n\in \mathbb{N}}\rVert\quad(\forall A\in \mathbb{B}(\mathcal{H})) $$ が成り立つので、$\bigoplus_{n\in \mathbb{N}}\mathcal{H}$ の部分空間 $$ \mathcal{K}\colon=\{(Av_n)_{n\in\mathbb{N}}:A\in \mathbb{B}(\mathcal{H})\} $$ を考えると、 $$ \psi\colon \mathcal{K}\ni (Av_n)_{n\in\mathbb{N}}\mapsto \varphi(A)\in \mathbb{C} $$ はwell-definedな有界線形汎関数である。Hahn-Banachの拡張定理(位相線形空間3:Hahn-Banachの定理とKrein-Milmanの端点定理定理11.4)より $\psi$ は $\bigoplus_{n\in\mathbb{N}}\mathcal{H}$ 上のある有界線形汎関数 $\widetilde{\psi}$ に拡張でき、Rieszの定理により $\widetilde{\psi}$ に対応する $(u_n)_{n\in\mathbb{N}}\in \bigoplus_{n\in\mathbb{N}}\mathcal{H}$ を取れば、 $$ \varphi(A)=\psi((Av_n)_{n\in\mathbb{N}})=((u_n)_{n\in\mathbb{N}}\mid (Av_n)_{n\in\mathbb{N}})=\sum_{n\in\mathbb{N}}(u_n\mid Av_n)\quad(\forall A\in \mathbb{B}(\mathcal{H})) $$ となる。これより $\varphi$ は $\sigma$-WOT連続であるので $(2)\Rightarrow(1)$ が成り立つ。
凸集合 $\mathcal{C}\subset \mathbb{B}(\mathcal{H})$ について $\sigma$-WOT閉であることと $\sigma$-SOT閉であることが同値であることはHahn-Banachの分離定理の系(位相線形空間3:Hahn-Banachの定理とKrein-Milmanの端点定理系13.4)による。

定義18.10(可換子環)

$\mathcal{H}$ をHilbert空間とする。空でない $\mathcal{M}\subset \mathbb{B}(\mathcal{H})$ に対し、 $$ \mathcal{M}'=\{A\in\mathbb{B}(\mathcal{H}):\forall B\in\mathcal{M},AB=BA\} $$ を $\mathcal{M}$ の可換子環と呼ぶ。

命題18.11(可換子環の基本性質)

$\mathcal{M}\subset \mathbb{B}(\mathcal{H})$ の可換子環 $\mathcal{M}'$ について次が成り立つ。

  • $(1)$ $\mathcal{M}'$ は $\mathbb{B}(\mathcal{H})$ の単位元を含む部分多元環であり、WOTに関して閉である。(したがってSOT, $\sigma$-SOT, $\sigma$-WOTに関して閉である。)
  • $(2)$ $\mathcal{M}$ が対合で閉じているならば $\mathcal{M}'$ も対合で閉じている。
  • $(3)$ $\mathcal{M}\subset \mathcal{M}' '$.
  • $(4)$ もし $\mathcal{M}$ が $\mathbb{B}(\mathcal{H})$ の部分 $*$-環であり、$\mathcal{M}\mathcal{H}={\rm span}\{Av:A\in \mathcal{M},v\in \mathcal{H}\}$ が $\mathcal{H}$ で稠密ならば、任意の $v\in \mathcal{H}$ に対し $\mathcal{M}' 'v\subset \overline{\mathcal{M}v}$ が成り立つ。
Proof.

  • $(1)$ $\mathcal{M}'$ が $\mathbb{B}(\mathcal{H})$ の単位元を含み、加法、スカラー倍、乗法で閉じていることは自明である。任意の $A\in \overline{\mathcal{M}'}^{\rm WOT}$ に対し、WOTに関して $A$ に収束する $\mathcal{M}'$ のネット $(A_{\lambda})_{\lambda\in \Lambda}$ が取れる(ネットによる位相空間論命題2.4)。任意の $B\in \mathcal{M}$、任意の $u,v\in \mathcal{H}$ に対し、

$$ (u\mid ABv)=\lim_{\lambda\in\Lambda}(u\mid A_{\lambda}Bv)=\lim_{\lambda\in\Lambda}(u\mid BA_{\lambda}v)=(u\mid BAv) $$ であるから $A\in \mathcal{M}'$ である。よって $\mathcal{M}'$ はWOT閉である。

  • $(2)$ 任意の $A\in \mathcal{M}'$ と任意の $B\in\mathcal{M}$ に対し、

$$ A^*B=(B^*A)^*=(AB^*)^*=BA^* $$ であるから、$A^*\in\mathcal{M}'$ である。

  • $(3)$ 自明である。
  • $(4)$ 任意の $v\in\mathcal{H}$ に対し閉部分空間 $\overline{\mathcal{M}v}$ の上への射影作用素を $P_v\in \mathbb{B}(\mathcal{H})$ とおく。すると、

$$ A\overline{\mathcal{M}v}\subset \overline{\mathcal{M}v}={\rm Ran}(P_v)\quad(\forall A\in\mathcal{M}) $$ であるから、 $$ AP_v=P_vAP_v\quad(\forall A\in \mathcal{M}) $$ である。よって、 $$ AP_v=P_vAP_v=(P_vA^*P_v)^*=(A^*P_v)^*=P_vA\quad(\forall A\in\mathcal{M}) $$ であるから $P_v\in \mathcal{M}'$ である。任意の $A\in \mathcal{M}$、$u\in \mathcal{H}$ に対し、 $$ (Au\mid (1-P_v)v)=(u\mid (1-P_v)A^*v)=(u\mid A^*v-A^*v)=0 $$ であり、$\mathcal{M}\mathcal{H}={\rm span}\{Au:A\in \mathcal{M},u\in \mathcal{H}\}$ は $\mathcal{H}$ で稠密であるから $(1-P_v)v=0$、したがって $v=P_vv$ である。よって、 $$ \mathcal{M}' 'v=\mathcal{M}' 'P_vv=P_v\mathcal{M}' 'v\subset {\rm Ran}(P_v)=\overline{{\mathcal{M}}v} $$ である。

補題18.12

$\mathcal{H}$ をHilbert空間とし、任意の $j\in \mathbb{N}$ に対し、 $$ P_j\colon\bigoplus_{n\in \mathbb{N}}\mathcal{H}\ni (v_n)_{n\in \mathbb{N}}\mapsto v_j\in \mathcal{H}, $$ $$ Q_j\colon\mathcal{H}\ni v\mapsto (0,\ldots,0,\overset{\text{$j$ 番}}{ v },0,\ldots)\in\bigoplus_{n\in \mathbb{N}}\mathcal{H} $$ とおく。そして任意の $T\in \mathbb{B}(\bigoplus_{n\in \mathbb{N}}\mathcal{H})$ に対し、 $$ T_{i,j}=P_iTQ_j\in \mathbb{B}(\mathcal{H})\quad(\forall i,j\in \mathbb{N}) $$ とおく。このとき $S,T\in \mathbb{B}(\bigoplus_{n\in \mathbb{N}}\mathcal{H})$ に対し、 $$ S=T\quad\Leftrightarrow\quad S_{i,j}=T_{i,j}\quad(\forall i,j\in\mathbb{N}) $$ が成り立つ。

Proof.

任意の $v=(v_n)_{n\in \mathbb{N}}\in \bigoplus_{n\in \mathbb{N}}\mathcal{H}$, 任意の $i\in \mathbb{N}$ に対し、 $$ P_i(T-S)v=P_i(T-S)\sum_{j\in \mathbb{N}}Q_jv_j=\sum_{j\in \mathbb{N}}P_i(T-S)Q_jv_j=\sum_{j\in \mathbb{N}}(T_{i,j}-S_{i,j})v_j $$ であることによる。

定理18.13(二重可換子環定理)

$\mathcal{H}$ をHilbert空間とし、$\mathcal{M}\subset \mathbb{B}(\mathcal{H})$ を部分 $*$-環で、 $$ \mathcal{M}\mathcal{H}={\rm span}\{Av:A\in \mathcal{M},v\in \mathcal{H}\} $$ が $\mathcal{H}$ で稠密であるものとする。このとき、 $$ \mathcal{M}' '=\overline{\mathcal{M}}^{\text{$\sigma$-SOT}}=\overline{\mathcal{M}}^{\text{$\sigma$-WOT}}=\overline{\mathcal{M}}^{\text{SOT}}=\overline{\mathcal{M}}^{\text{WOT}} $$ が成り立つ。

Proof.

$\mathcal{M}$ は凸集合であるから命題18.7命題18.9より $\overline{\mathcal{M}}^{\text{$\sigma$-SOT}}=\overline{\mathcal{M}}^{\text{$\sigma$-WOT}}$, $\overline{\mathcal{M}}^{\text{SOT}}=\overline{\mathcal{M}}^{\text{WOT}}$ である。また $\sigma$-WOTはWOTより強く、命題18.11より $\mathcal{M}' '$ は $\mathcal{M}$ を含み、WOT閉であるから、 $$ \overline{\mathcal{M}}^{\text{$\sigma$-SOT}}=\overline{\mathcal{M}}^{\text{$\sigma$-WOT}}\subset\overline{\mathcal{M}}^{\text{SOT}}=\overline{\mathcal{M}}^{\text{WOT}}\subset \mathcal{M}' ' $$ である。よって、 $$ \mathcal{M}' '\subset \overline{\mathcal{M}}^{\text{$\sigma$-SOT}}\quad\quad(*) $$ が成り立つことを示せばよい。そのためには補題18.8における $\sigma$-SOTに関する $0\in\mathbb{B}(\mathcal{H})$ の基本近傍系 $\{(p_v<1)\}_{v\in \bigoplus_{n\in\mathcal{H}}\mathcal{H}}$ を考え、任意の $A\in\mathcal{M}' '$ と任意の $v=(v_n)_{n\in\mathbb{N}}\in \bigoplus_{n\in\mathbb{N}}\mathcal{H}$ に対し、 $$ (A+(p_v<1))\cap \mathcal{M}\neq\emptyset\quad\quad(**) $$ が成り立つことを示せばよい。今、$\pi\colon \mathbb{B}(\mathcal{H})\rightarrow \mathbb{B}\left(\bigoplus_{n\in\mathbb{N}}\mathcal{H}\right)$ を、 $$ \pi(A)(v_n)_{n\in\mathbb{N}}\colon=(Av_n)_{n\in\mathbb{N}} \quad\left(\forall A\in \mathbb{B}(\mathcal{H}),\forall (v_n)_{n\in\mathbb{N}}\in \bigoplus_{n\in\mathbb{N}}\mathcal{H}\right) $$ として定義する。すると $\pi$ は $*$-環準同型写像であるから $\pi(\mathcal{M})$ は $\mathbb{B}\left(\bigoplus_{n\in\mathbb{N}}\mathcal{H}\right)$ の部分 $*$-環である。そして $\mathcal{M}\mathcal{H}$ が $\mathcal{H}$ で稠密であることから、 $$ \pi(\mathcal{M})\bigoplus_{n\in\mathbb{N}}\mathcal{H}={\rm span}\left\{(Av_n)_{n\in\mathbb{N}}:A\in \mathcal{M},(v_n)_{n\in\mathbb{N}}\in \bigoplus_{n\in\mathbb{N}}\mathcal{H}\right\} $$ は $\bigoplus_{n\in\mathbb{N}}\mathcal{H}$ において稠密である。よって命題18.11の $(4)$ より、 $$ \pi(\mathcal{M})' 'v\subset \overline{\pi(\mathcal{M})v}\quad\left(\forall v\in \bigoplus_{n\in\mathbb{N}}\mathcal{H}\right)\quad\quad(***) $$ が成り立つ。今、 $$ \pi(\mathcal{M}' ')\subset \pi(\mathcal{M})' '\quad\quad(****) $$ が成り立つことを示す。$R\in \mathbb{B}\left(\bigoplus_{n\in\mathbb{N}}\mathcal{H}\right)$ に対し、補題18.12より、 $$ \begin{aligned} R\in \pi(\mathcal{M})' \quad&\Leftrightarrow\quad R\pi(A)=\pi(A)R\quad(\forall A\in \mathcal{M})\\ &\Leftrightarrow\quad R_{i,j}A=AR_{i,j}\quad(\forall i,j\in \mathbb{N},\forall A\in \mathcal{M})\\ &\Leftrightarrow\quad R_{i,j}\in \mathcal{M}' \quad(\forall i,j\in \mathbb{N}) \end{aligned} $$ であるから、任意の $A\in \mathcal{M}' '$, 任意の $R\in \pi(\mathcal{M})'$ に対し、 $$ AR_{i,j}=R_{i,j}A\quad(\forall i,j\in \mathbb{N}), $$ したがって補題18.12より $\pi(A)R=R\pi(A)$ である。よって $(****)$ が成り立つので、$(***)$ より、 $$ \pi(\mathcal{M}' ')v\subset \pi(\mathcal{M})' 'v\subset \overline{\pi(\mathcal{M})v}\quad\left(\forall v\in \bigoplus_{n\in\mathbb{N}}\mathcal{H}\right) $$ であるから、任意の $A\in \mathcal{M}' '$ と任意の $v\in \bigoplus_{n\in\mathbb{N}}\mathcal{H}$ に対し、$B\in \mathcal{M}$ で、 $$ 1>\lVert \pi(A)v-\pi(B)v\rVert=p_v(A-B) $$ を満たすものが存在する。$B\in A+(p_v<1)$ であるから $(**)$ が成り立つ。よって $(*)$ が成り立つ。

定義18.14(von Neumann環)

$\mathcal{H}$ をHilbert空間とする。$\mathbb{B}(\mathcal{H})$ の部分 $*$-環 $\mathcal{M}$ で、$\mathcal{M}=\mathcal{M}' '$ を満たすものを $\mathcal{H}$ 上のvon Neumann環と言う。二重可換子環定理(定理18.13)より、$\mathbb{B}(\mathcal{H})$ の部分 $*$-環 $\mathcal{M}$ がvon Neumann環であることは、 $$ \mathcal{M}\mathcal{H}={\rm span}\{Av :A\in \mathcal{M},v\in \mathcal{H}\} $$ が $\mathcal{H}$ において稠密であり[15]、$\mathcal{M}$ が $\sigma$-WOT、$\sigma$-SOT、WOT、SOTのうちのいずれかで閉であることと同値である。

注意18.15

$\sigma$-WOT、$\sigma$-SOT、WOT、SOTはいずれも作用素ノルム位相よりも弱いので、$\mathcal{H}$ 上のvon Neumann環 $\mathcal{M}$ は作用素ノルム位相で閉である。よって $\mathcal{M}$ は $\mathbb{B}(\mathcal{H})$ の部分 $C^*$-環である。

対合演算で閉じた任意の空でない部分集合 $\mathcal{S}\subset \mathbb{B}(\mathcal{H})$ に対し、命題18.11より $\mathcal{S}'\subset \mathbb{B}(\mathcal{H})$ は $\mathcal{H}$ 上のvon Neumann環である。

$\mathbb{B}(\mathcal{H})$ と $\mathbb{C}1$ はいずれも $\mathcal{H}$ 上のvon Neumann環であり、 $(\mathbb{C}1)'=\mathbb{B}(\mathcal{H})$、$\mathbb{B}(\mathcal{H})'=\mathbb{C}1$ である。

19. von Neumann環とBorel汎関数計算

定義19.1(von Neumann環にアフィリエイトする線形作用素)

$\mathcal{H}$ をHilbert空間、$\mathcal{M}\subset \mathbb{B}(\mathcal{H})$ をvon Neumann環とする。$\mathcal{H}$ 上の(有界とは限らない)線形作用素 $T\colon D(T)\rightarrow\mathcal{H}$ が $\mathcal{M}$ にアフィリエイトするとは、 $$ ST\subset TS\quad(\forall S\in \mathcal{M}') $$ が成り立つことを言う。$\mathcal{M}$ にアフィリエイトする線形作用素全体を $\widetilde{\mathcal{M}}$ と表す。

注意19.2

$\widetilde{\mathcal{M}}$ は、次の命題で見るように、von Neumann環 $\mathcal{M}$ を非有界作用素を含む様に自然に拡張したものである。

命題19.3(von Neumann環 $\mathcal{M}$ にアフィリエイトする線形作用素全体 $\widetilde{\mathcal{M}}$ の基本性質)

Hilbert空間 $\mathcal{H}$ 上のvon Neumann環 $\mathcal{M}$ と $\mathcal{M}$ にアフィリエイトする線形作用素全体 $\widetilde{\mathcal{M}}$ に対し次が成り立つ。

  • $(1)$ $\widetilde{\mathcal{M}}\cap \mathbb{B}(\mathcal{H})=\mathcal{M}$.
  • $(2)$ 任意の $T,T_1,T_2\in \widetilde{\mathcal{M}}$、任意の $\alpha\in \mathbb{C}$ に対し、$\alpha T,T_1+T_2,T_1T_2\in \widetilde{\mathcal{M}}$.
  • $(3)$ $T\in \widetilde{\mathcal{M}}$ が稠密に定義されているならば、$T^*\in \widetilde{\mathcal{M}}$.
  • $(4)$ $T\in \widetilde{\mathcal{M}}$ が可閉であるならば、$\overline{T}\in\widetilde{\mathcal{M}}$.
  • $(5)$ $T\in\widetilde{\mathcal{M}}$ が単射であるならば、$T^{-1}\in \widetilde{\mathcal{M}}$.
Proof.

  • $(1)$ $\mathcal{M}=\mathcal{M}' '$ であることと $\widetilde{\mathcal{M}}$ の定義より明らかである。
  • $(2)$ 任意の $S\in \mathcal{M}'$ に対し、

$$ S(\alpha T)=\alpha ST\subset \alpha TS=(\alpha T)S, $$ $$ S(T_1+T_2)=ST_1+ST_2\subset T_1S+T_2S=(T_1+T_2)S, $$ $$ S(T_1T_2)\subset T_1ST_2\subset (T_1T_2)S $$ であるから成り立つ。

  • $(3)$ 任意の $S\in \mathcal{M}', u\in D(T),v\in D(T^*)$ を取る。$S^*T\subset TS^*$ より$S^*Tu=TS^*u$ なので、

$$ (u\mid ST^*v)=(S^*u\mid T^*v)=(TS^*u\mid v)=(S^*Tu\mid v)=(Tu\mid Sv), $$ よって $Sv\in D(T^*)$ であり、$(u\mid ST^*v)=(u\mid T^*Sv)$ である。これより $ST^*v=T^*Sv$ であるから $ST^*\subset T^*S$ である。ゆえに $T^*\in \widetilde{\mathcal{M}}$ である。

  • $(4)$ 任意の $S\in \mathcal{M}', v\in D(\overline{T})$ を取る。$D(T)$ の点列 $(v_n)_{n\in \mathbb{N}}$ で $\lim_{n\rightarrow\infty}(v_n,Tv_n)=(v,\overline{T}v)$ なるものを取ると、$ST\subset TS$と$\lim_{n\rightarrow\infty}Sv_n=Sv$ より、

$$ S\overline{T}v=\lim_{n\rightarrow\infty}STv_n =\lim_{n\rightarrow\infty}TSv_n=\overline{T}Sv $$ である。よって $S\overline{T}\subset \overline{T}S$ であるから $\overline{T}\in \widetilde{\mathcal{M}}$ である。

  • $(5)$ 任意の $S\in \mathcal{M}'$ を取る。任意の $v\in D(T^{-1})={\rm Ran}(T)$ に対し、$u=T^{-1}v\in D(T)$ とおけば $STu=TSu$ であるから、

$$ ST^{-1}v=Su=T^{-1}TSu=T^{-1}STu=T^{-1}Sv $$ である。よって $ST^{-1}\subset T^{-1}S$ であるから $T^{-1}\in \widetilde{\mathcal{M}}$ である。

定理19.4(von Neumann環とBorel汎関数計算、極分解)

Hilbert空間 $\mathcal{H}$ 上のvon Neumann環 $\mathcal{M}\subset \mathbb{B}(\mathcal{H})$ にアフィリエイトする線形作用素全体 $\widetilde{\mathcal{M}}$ について次が成り立つ。

  • $(1)$ $T\in {\cal M}$ が正規作用素ならば任意のBorel関数 $f\colon \sigma(T)\rightarrow\mathbb{C}$ に対し $f(T)\in \widetilde{\mathcal{M}}$.
  • $(2)$ $T\in \widetilde{\mathcal{M}}$ が自己共役作用素ならば任意のBorel関数 $f\colon \sigma(T)\rightarrow\mathbb{C}$ に対し $f(T)\in \widetilde{\mathcal{M}}$.
  • $(3)$ $T\in \widetilde{\mathcal{M}}$ が稠密に定義された閉線形作用素ならば $T$ の極分解(定理9.4) $T=V\lvert T\rvert$ に対し $V\in \mathcal{M}, \lvert T\rvert\in \widetilde{\mathcal{M}}$.
Proof.

  • $(1)$ $T$ のスペクトル測度を $E^T\colon \mathcal{B}_{\sigma(T)}\rightarrow \mathbb{P}(\mathcal{H})$ とする。任意の連続関数 $f\in C(\sigma(T))$ に対し、

$$ f(T)=\int_{\sigma(T)}f(\lambda)dE^T(\lambda)\in C^*(\{1,T\})\subset \mathcal{M} $$ であるから、任意の $S\in \mathcal{M}', u,v\in \mathcal{H}$ に対し、 $$ \int_{\sigma(T)}f(\lambda)dE^T_{S^*u,v}(\lambda)=\left(S^*u\mid f(T)v\right) =(u\mid f(T)Sv)=\int_{\sigma(T)}f(\lambda)dE^T_{u,Sv}(\lambda) $$ である。よってRiesz-Markov-角谷の表現定理(測度と積分7:局所コンパクトHausdorff空間上のRadon測度定理34.1)より、 $$ (u\mid SE^T(B)v)=(S^*u\mid E^T(B)v)=E^T_{S^*u,v}(B)=E^T_{u,Sv}(B)=(u\mid E^T(B)Sv)\quad(\forall B\in \mathcal{B}_{\sigma(T)}) $$ である。これより任意の $B\in \mathcal{B}_{\sigma(T)}$ に対し $E^T(B)\in \mathcal{M}' '=\mathcal{M}$ であるから、任意のBorel単関数 $f\colon \sigma(T)\rightarrow\mathbb{C}$ に対し、 $$ f(T)=\int_{\sigma(T)}f(\lambda)dE^T(\lambda)\in \mathcal{M}\quad\quad(*) $$ が成り立つ。有界Borel関数はBorel単関数の列によって一様近似できる(測度と積分5:$L^p$ 空間の完備性と双対性命題22.2)ので、$(*)$ は任意の有界Borel関数 $f\colon \sigma(T)\rightarrow\mathbb{C}$ に対しても成り立つ。そこで今、任意のBorel関数 $f\colon \sigma(T)\rightarrow\mathbb{C}$ に対し $f_n\colon=f\chi_{(\lvert f\rvert\leq n)}$ として有界Borel関数の列 $(f_n)_{n\in \mathbb{N}}$ を定義すると、$f_n(T)\in \mathcal{M}$ $(\forall n\in\mathbb{N})$ であり、任意の $v\in D(f(T))$ に対しLebesgue優収束定理より、 $$ \lVert f(T)v-f_n(T)v\rVert^2=\int_{\sigma(T)}\lvert f(\lambda)-f_n(\lambda)\rvert^2dE^T_{v,v}(\lambda)\rightarrow0\quad(n\rightarrow\infty) $$ であるから、任意の $S\in \mathcal{M}'$ に対し、 $$ Sf(T)v=\lim_{n\rightarrow\infty}Sf_n(T)v=\lim_{n\rightarrow\infty}f_n(T)Sv=\lim_{n\rightarrow\infty}f(T)E^T((\lvert f\rvert\leq n))Sv=f(T)Sv $$ である。ただし最後の等号において $f(T)$ が閉線形作用素であることと、$\lim_{n\rightarrow\infty}E^T((\lvert f\rvert\leq n))v=v$ であることを用いた。よって任意の $S\in \mathcal{M}'$ に対し $Sf(T)\subset f(T)S$ であるから $f(T)\in \widetilde{\mathcal{M}}$ である。

  • $(2)$ $T$ のCayley変換 $C(T)=(T-i)(T+i)^{-1}$ はユニタリ作用素であり(定理4.6)、命題19.3より $C(T)\in\mathcal{M}$ である。定理8.3の証明より任意のBorel関数 $f\colon \sigma(T)\rightarrow\mathbb{C}$ に対し、

$$ f(T)=\int_{\sigma(C(T))\backslash \{1\}}f(C^{-1}(\lambda))dF^{C(T)}(\lambda) $$ であるから、$(1)$ より $f(T)\in \widetilde{\mathcal{M}}$ である。

  • $(3)$ 命題19.3より $T^*T\in \widetilde{\mathcal{M}}$ であるから、$(2)$ より $\lvert T\rvert=\sqrt{T^*T}\in \widetilde{\mathcal{M}}$ である。よって任意の $S\in \mathcal{M}'$ に対し、

$$ S\lvert T\rvert v=\lvert T\rvert Sv\quad(\forall v\in D(\lvert T\rvert)) $$ であるから、 $$ S(\overline{{\rm Ran}(\lvert T\rvert)})\subset \overline{{\rm Ran}(\lvert T\rvert)} $$ である。そして $V^*V$ は $\overline{{\rm Ran}(\lvert T\rvert)}$ の上への射影作用素であるから、 $$ SV^*V=V^*VSV^*V\quad(\forall S\in \mathcal{M}') $$ である。これより、 $$ SV^*V=V^*VSV^*V=(V^*VS^*V^*V)^*=(S^*V^*V)^*=V^*VS\quad(\forall S\in \mathcal{M}') $$ であるので $V^*V\in \mathcal{M}' '=\mathcal{M}$ である。また任意の $S\in \mathcal{M}'$ に対し、 $$ SV\lvert T\rvert v=STv=TSv=V\lvert T\rvert Sv=VS\lvert T\rvert v\quad(\forall v\in D(\lvert T\rvert)) $$ であるから、${\rm Ran}(V^*V)=\overline{{\rm Ran}(\lvert T\rvert)}$ 上で $SV=VS$ が成り立つので、 $$ SV=SVV^*V=VSV^*V=VV^*VS=VS $$ である。よって $V\in \mathcal{M}' '=\mathcal{M}$ である。

定義19.5(von Neumann環 $\mathcal{M}$ の射影全体 $\mathbb{P}(\mathcal{M})$)

von Neumann環 $\mathcal{M}$ の射影全体を $\mathbb{P}(\mathcal{M})$ と表す。

定義19.6(非負値係数の線形結合全体)

線形空間 $V$ の空でない部分集合 $D$ に対し、 $$ {\rm span}_+(D)\colon=\left\{\sum_{j=1}^{n}\alpha_jv_j:n\in\mathbb{N},\alpha_1,\ldots,\alpha_n\in [0,\infty),v_1,\ldots,v_n\in D\right\} $$ と定義する。

定理19.7(von Neumann環は射影によって生成される)

$\mathcal{M}\subset \mathbb{B}(\mathcal{H})$ をvon Neumann環とする。このとき次が成り立つ。

  • $(1)$ $\mathcal{M}_+=\overline{{\rm span}_+(\mathbb{P}(\mathcal{M}))}^{\lVert \cdot\rVert}$.
  • $(2)$ 任意の $P\in \mathbb{P}(\mathcal{M})$ に対し $P\mathcal{M}_+P=\overline{{\rm span}_+\{Q\in \mathbb{P}(\mathcal{M}):Q\leq P\}}^{\lVert \cdot\rVert}$.
Proof.

  • $(1)$ 任意の $T\in \mathbb{B}(\mathcal{H})_+$ を取る。${\rm id}\colon \sigma(T)\ni \lambda\mapsto \lambda\in [0,\infty)$ は非負値有界Borel関数なので、$\sigma(T)$ 上の非負値Borel単関数の列 $(s_n)_{n\in \mathbb{N}}$ で ${\rm id}$ に一様収束するものが取れる(測度と積分5:$L^p$ 空間の完備性と双対性命題22.2)。定理19.4より、

$$ s_n(T)\in {\rm span}_+\mathbb{P}(\mathcal{M})\quad(\forall n\in \mathbb{N}) $$ であり、 $$ \lVert T-s_n(T)\rVert\leq \sup_{\lambda\in \sigma(T)}\lvert \lambda-s_n(\lambda)\rvert\rightarrow0\quad(n\rightarrow\infty) $$ であるから、$T=\lim_{n\rightarrow\infty}s_n(T)\in \overline{{\rm span}_+\mathbb{P}(\mathcal{M})}^{\lVert \cdot\rVert}$ である。

  • $(2)$ $P=0$ ならば自明なので $P>0$ とする。

$$ \Phi\colon P\mathbb{B}(\mathcal{H})P\ni PTP\mapsto PTP|_{{\rm Ran}(P)}\in \mathbb{B}({\rm Ran}(P)) $$ は等長 $*$-環同型写像である。そしてネットによる連続性の特徴付け(ネットによる位相空間論定理3)により $\Phi$ はWOTに関して同相写像であることが分かる。$P\in \mathbb{P}(\mathcal{M})$ であることとネットによる閉包の特徴付け(ネットによる位相空間論命題2.4)より、$P\mathcal{M}P$ は $P\mathbb{B}(\mathcal{H})P$ のWOT閉部分 $*$-環なので、 $\Phi(P\mathcal{M}P)$ は $\mathbb{B}({\rm Ran}(P))$ のWOT閉部分 $*$-環である。また $\Phi(P)\in \Phi(P\mathcal{M}P)$ は ${\rm Ran}(P)$ 上の恒等作用素なので、$\Phi(P\mathcal{M}P)$ は ${\rm Ran}(P)$ 上のvon Neumann環である。そして $\Phi$ が $*$-環同型写像であることから、 $$ \Phi(P\mathcal{M}_+P)=\Phi((P\mathcal{M}P)_+)=\Phi(P\mathcal{M}P)_+ $$ であり、 $$ \mathbb{P}(\Phi(P\mathcal{M}P))=\{\Phi(Q):Q\in \mathbb{P}(\mathcal{M}),Q\leq P\} $$ であるので、$(1)$ より、 $$ \Phi(P\mathcal{M}_+P)=\overline{{\rm span}_+\{\Phi(Q):Q\leq \mathbb{P}(\mathcal{M}),Q\leq P\}}^{\Vert \cdot\rVert} $$ である。よって $\Phi$ の等長性より、 $$ P\mathcal{M}_+P=\overline{{\rm span}_+\{Q\in \mathbb{P}(\mathbb{M}):Q\leq P\}}^{\lVert \cdot\rVert} $$ が成り立つ。

20. Hilbert空間上の有界とは限らない反線形作用素の基本的性質

定義20.1(Hilbert空間上の有界とは限らない反線形作用素)

$\mathcal{H},\mathcal{K}$ をHilbert空間とする。$T$ が $\mathcal{H}$ から $\mathcal{K}$ への反線形作用素[16]であると言うとき、$T$ は $\mathcal{H}$ 全体で定義されているとは限らず、$\mathcal{H}$ のある線形部分空間 $D(T)$ 上で定義され、$\mathcal{K}$ に値を取る反線形作用素であることを意味することとする。$D(T)\subset \mathcal{H}$ を $T$ の定義域、${\rm Ran}(T)=T(D(T))\subset \mathcal{K}$ を $T$ の値域と言う。 そして直和Hilbert空間の部分集合 $$ G(T)\colon=\{(v,Tv)\in \mathcal{H}\oplus \mathcal{K}:v\in D(T)\} $$ を $T$ のグラフと言う。
Hilbert空間 $\mathcal{H}$ からHilbert空間 $\mathcal{H}$ への反線形作用素のことを単にHilbert空間 $\mathcal{H}$ 上の反線形作用素と言う。

定義20.2(稠密に定義された反線形作用素、閉反線形作用素)

$T$ をHilbert空間 $\mathcal{H}$ からHilbert空間 $\mathcal{K}$ への反線形作用素とする。$T$ が稠密に定義されているとは、$D(T)$ が $\mathcal{H}$ で稠密であることを言う。また $T$ が閉であるとは $T$ のグラフ $G(T)$ が $\mathcal{H}\oplus \mathcal{K}$ において閉であることを言う。

定義20.3(反線形作用素の包含関係)

$S,T$ をそれぞれHilbert空間 $\mathcal{H}$ から $\mathcal{K}$ への反線形作用素とする。 $$ S\subset T\quad \iff\quad G(S)\subset G(T) $$ と定義する。これを $T$ は $S$ を包含する($S$ は $T$ に包含される)と言う。明らかにこの包含関係は $\mathcal{H}$ から $\mathcal{K}$ への反線形作用素全体における順序である。

定義20.4(単射反線形作用素の逆作用素)

$T$ をHilbert空間 $\mathcal{H}$ からHilbert空間 $\mathcal{K}$ への単射反線形作用素とする。このとき $D(T)\ni v\mapsto Tv\in {\rm Ran}(T)$ の逆写像として定義される $\mathcal{K}$ から $\mathcal{H}$ への反線形作用素を、 $$ T^{-1}\colon D(T^{-1})\colon={\rm Ran}(T)\ni Tv\mapsto v\in \mathcal{H} $$ と表す。

定義20.5(反線形作用素の和、スカラー倍、積)

$S,T$ をHilbert空間 $\mathcal{H}$ から $\mathcal{K}$ への反線形作用素とする。このとき $\mathcal{H}$ から $\mathcal{K}$ への反線形作用素 $S+T$ を、 $$ S+T\colon D(S+T)\colon=D(S)\cap D(T)\ni v\mapsto Sv+Tv\in \mathcal{K} $$ と定義する。また $\alpha\in \mathbb{C}$ に対し $\mathcal{H}$ から $\mathcal{K}$ への反線形作用素 $\alpha T$ を、 $$ \begin{aligned} &\alpha T\colon D(\alpha T)\colon=D(T)\ni v\mapsto \alpha Tv\in \mathcal{K}\quad(\alpha\neq0\text{ の場合 }),\\ &\alpha T\colon D(\alpha T)\colon=\mathcal{H}\ni v\mapsto 0\in \mathcal{K}\quad(\alpha=0\text{ の場合 }) \end{aligned} $$ と定義する。
$\mathcal{H},\mathcal{K},\mathcal{L}$ をそれぞれHilbert空間とし、$T$ を $\mathcal{H}$ から $\mathcal{K}$ への(反)線形作用素、$S$ を $\mathcal{K}$ から $\mathcal{L}$ への(反)線形作用素とする。このとき $\mathcal{H}$ から $\mathcal{L}$ への(反)線形作用素 $ST$ を、 $$ ST\colon D(ST)\colon=\{v\in D(T):Tv\in D(S)\}\ni v\mapsto STv\in \mathcal{L} $$ と定義する($S,T$ が共に反線形作用素ならば $ST$ は線形作用素であり、$S,T$ のうち一方が反線形作用素でもう一方が線形作用素ならば $ST$ は反線形作用素である)。

定義20.6(稠密に定義された反線形作用素の共役作用素)

$T$ をHilbert空間 $\mathcal{H}$ からHilbert空間 $\mathcal{K}$ への稠密に定義された反線形作用素とする。$\mathcal{K}$ の線形部分空間 $$ D\colon=\{v\in \mathcal{K}: D(T)\ni u\mapsto (v\mid Tu)\in \mathbb{C}\text{ は有界反線形汎関数 }\} $$ を考える。任意の $v\in D$ に対し、有界反線形汎関数 $D(T)\ni u\mapsto (v\mid Tu)\in \mathbb{C}$ は $\mathcal{H}=\overline{D(T)}$ 上の有界線形汎関数に一意拡張できる[17]から、Rieszの定理(位相線形空間1:ノルムと内積定理6.13)より、$T^*v\in \mathcal{H}$ で、 $$ (v\mid Tu)=(u\mid T^*v)\quad(\forall u\in D(T)) $$ を満たすものが定まる。こうして定義される $\mathcal{K}$ から $\mathcal{H}$ への反線形作用素 $$ T^*\colon D(T^*)\colon=D\ni v\mapsto T^*v\in \mathcal{H} $$ を $T$ の共役作用素と言う。

定義20.7(可閉反線形作用素とその閉包)

$T$ をHilbert空間 $\mathcal{H}$ からHilbert空間 $\mathcal{K}$ への反線形作用素とする。$T$ を包含する閉反線形作用素が存在するとき、$T$ は可閉であると言う。 $T$ を $\mathcal{H}$ から $\mathcal{K}$ への可閉反線形作用素とする。 $$ \pi\colon\mathcal{H}\oplus \mathcal{K}\ni (v,w)\mapsto v\in \mathcal{H} $$ に対し、線形部分空間 $$ D\colon=\pi(\overline{G(T)})\subset \mathcal{H} $$ を定義する。このとき任意の $v\in D$ に対し $(v,w)\in \overline{G(T)}$ を満たす $w\in \mathcal{K}$ は唯一つである。実際、$T$ が可閉であることから $T\subset S$ を満たす閉反線形作用素が存在し、$\overline{G(T)}\subset G(S)$ であるから、 $(v,w_1),(v,w_2)\in \overline{G(T)}$ ならば $w_1=Sv=w_2$ である。そこで任意の $v\in D$ に対し $(v,w)\in \overline{G(T)}$ として定まる $w$ に対し $w\colon=\overline{T}v$ とおき、反線形作用素 $$ \overline{T}\colon D(\overline{T})\colon=D\ni v\mapsto \overline{T}\in \mathcal{K} $$ を定義する。このとき明らかに $G(\overline{T})=\overline{G(T)}$ である。閉反線形作用素 $\overline{T}$ を可閉反線形作用素 $T$ の閉包と言う。$\overline{T}$ は $T$ を包含する反閉線形作用素の中で最小のものとして特徴付けられる。

定義20.8(閉反線形作用素の芯)

$T$ をHilbert空間 $\mathcal{H}$ から Hilbert空間 $\mathcal{K}$ への閉反線形作用素とする。線形部分空間 $D\subset D(T)$ で、 $$ \overline{T|_D}=T $$ を満たすものを $T$ の芯と言う。ただし $T|_D$ は $T$ の $D$ 上への制限である。

命題20.9(Hilbert空間上の有界とは限らない反線形作用素の基本的性質)

$\mathcal{H},\mathcal{K},\mathcal{L}$ をそれぞれHilbert空間とする。

  • $(1)$ $T_1,T_2$ を $\mathcal{H}$ から $\mathcal{K}$ への(反)線形作用素、$S$ を $\mathcal{K}$ から $\mathcal{L}$ への(反)線形作用素とする。このとき、

$$ S(T_1+T_2)\supset ST_1+ST_2 $$ が成り立つ。また、$T$ を $\mathcal{H}$ から $\mathcal{K}$ への(反)線形作用素、$S_1,S_2$ を $\mathcal{K}$ から $\mathcal{L}$ への(反)線形作用素とすると、 $$ (S_1+S_2)T=S_1T+S_2T $$ が成り立つ。

  • $(2)$ $T$ を $\mathcal{H}$ から $\mathcal{K}$ への(反)線形作用素、$S$ を $\mathcal{K}$ から $\mathcal{L}$ への反線形作用素とし、$\alpha\in \mathbb{C}\backslash \{0\}$ とすると、

$$ S(\alpha T)=(\overline{\alpha} S)T=\overline{\alpha}(ST) $$ が成り立つ。

  • $(3)$ $T$ を $\mathcal{H}$ から $\mathcal{K}$ への単射(反)線形作用素とし、$S$ を $\mathcal{K}$ から $\mathcal{L}$ への単射(反)線形作用素とすると、$ST$ は $\mathcal{H}$ から $\mathcal{L}$ への単射(反)線形作用素であり、

$$ (ST)^{-1}=T^{-1}S^{-1} $$ が成り立つ。

  • $(4)$ $T$ を $\mathcal{H}$ から $\mathcal{K}$ への稠密に定義された反線形作用素とし、$\alpha\in \mathbb{C}\backslash \{0\}$ とすると、

$$ (\alpha T)^*=\alpha T^* $$ が成り立つ。

  • $(5)$ $T$ を $\mathcal{H}$ から $\mathcal{K}$ への稠密に定義された反線形作用素とすると、

$$ ({\rm Ran}(T))^{\perp}={\rm Ker}(T^*) $$ が成り立つ。

  • $(6)$ $T$ を $\mathcal{H}$ から $\mathcal{K}$ への稠密に定義された反線形作用素とすると、$T^*$ は $\mathcal{K}$ から $\mathcal{H}$ への閉反線形作用素である。
  • $(7)$ $S,T$ を $\mathcal{H}$ から $\mathcal{K}$ への稠密に定義された反線形作用素とし、$S\subset T$ であるとすると、$T^*\subset S^*$ が成り立つ。
  • $(8)$ $T$ を $\mathcal{H}$ から $\mathcal{K}$ への稠密に定義された可閉反線形作用素とすると、$(\overline{T})^*=T^*$ が成り立つ。
  • $(9)$ $T$ を $\mathcal{H}$ から $\mathcal{K}$ への稠密に定義された(反)線形作用素、$S$ を $\mathcal{K}$ から $\mathcal{L}$ への稠密に定義された(反)線形作用素とし、$ST$ が $\mathcal{H}$ から $\mathcal{L}$ への稠密に定義された(反)線形作用素であるとすると、

$$ (ST)^*\supset T^*S^* $$ が成り立つ。またもし $S\colon \mathcal{K}\rightarrow \mathcal{L}$ が有界ならば、 $$ (ST)^*=T^*S^* $$ が成り立つ。

  • $(10)$ $S,T$ を $\mathcal{H}$ から $\mathcal{K}$ への稠密に定義された反線形作用素とし、$S+T$ も $\mathcal{H}$ から $\mathcal{K}$ への稠密に定義された反線形作用素であるとすると、

$$ (S+T)^*\supset S^*+T^* $$ が成り立つ。またもし $S\colon \mathcal{K}\rightarrow \mathcal{L}$ が有界反線形作用素であれば、 $$ (S+T)^*=S^*+T^* $$ が成り立つ。

Proof.

命題3.9の証明と全く同様である。

定義20.10(実化Hilbert空間)

$\mathcal{H}$ を $\mathbb{C}$ 上のHilbert空間とする。$\mathcal{H}$ を $\mathbb{R}$ 上の線形空間とみなしたものを $\mathcal{H}_{\mathbb{R}}$ と表すと、 $$ \mathcal{H}_{\mathbb{R}}\times \mathcal{H}_{\mathbb{R}}\ni (u,v)\mapsto {\rm Re}(u\mid v)\in \mathbb{R} $$ は $\mathcal{H}_{\mathbb{R}}$ 上の内積であり、この内積により $\mathcal{H}_{\mathbb{R}}$ は $\mathbb{R}$ 上のHilbert空間となる。この $\mathbb{R}$ 上のHilbert空間 $\mathcal{H}_{\mathbb{R}}$ を $\mathcal{H}$ の実化Hilbert空間と言う。任意の $E\subset \mathcal{H}=\mathcal{H}_{\mathbb{R}}$ に対し、$E$ の実化Hilbert空間 $\mathcal{H}_{\mathbb{R}}$ における直交補空間を、 $$ E_{\mathbb{R}}^{\perp}\colon=\{v\in \mathcal{H}:\forall u\in E, {\rm Re}(u\mid v)=0\} $$ と表す。

定理20.11(稠密に定義された閉反線形作用素の性質)

$T$ をHilbert空間 $\mathcal{H}$ からHilbert空間 $\mathcal{K}$ への稠密に定義された閉反線形作用素とする。このとき、

  • $(1)$ $D(T^*T)$ は $T$ の芯であり、$1+T^*T\colon D(T^*T)\rightarrow\mathcal{H}$ は全単射である。
  • $(2)$ $T^*$ は $\mathcal{K}$ から $\mathcal{H}$ への稠密に定義された閉反線形作用素である。
  • $(3)$ $T^{**}=T$ が成り立つ。
  • $(4)$ $T^*T$ は自己共役作用素である。
Proof.

  • $(1)$ $G(T)$ は実化Hilbert空間 $(\mathcal{H}\oplus \mathcal{K})_{\mathbb{R}}$ の閉部分空間であるので $(\mathcal{H}\oplus \mathcal{K})_{\mathbb{R}}$ の内積により $\mathbb{R}$ 上のHilbert空間である。$\mathbb{R}$上のHilbert空間 $G(T)$ から $\mathbb{R}$ 上のHilbert空間 $\mathcal{H}_{\mathbb{R}}$ への有界線形作用素

$$ \pi\colon G(T)\ni (v,Tv)\mapsto v\in \mathcal{H}_{\mathbb{R}} $$ を考える。$\pi$ は単射であるから 位相線形空間1:ノルムと内積命題7.4より、 $$ (\pi^*(\mathcal{H}_{\mathbb{R}}))^{\perp}={\rm Ker}(\pi)=\{0\} $$ である。よって、 $$ \overline{\pi^*(\mathcal{H}_{\mathbb{R}})}=( (\pi^*(\mathcal{H}_{\mathbb{R}}))^{\perp})^{\perp}=\{0\}^{\perp}=G(T) $$ である(位相線形空間1:ノルムと内積命題6.12)。そこで、 $$ D\colon=\pi(\pi^*(\mathcal{H}_{\mathbb{R}}))\subset D(T) $$ とおけば $G(T|_D)=\pi^*(\mathcal{H}_{\mathbb{R}})$ であるから、 $$ \overline{G(T|_D)}=\overline{\pi^*(\mathcal{H})}=G(T) $$ である。今、任意の $v=\pi(\pi^*(w))\in \pi(\pi^*(\mathcal{H}_{\mathbb{R}}))=D$ を取る。このとき $\pi^*(w)=(v,Tv)$ であるから、任意の $u\in D(T)$ に対し、 $$ {\rm Re}(u\mid v)+{\rm Re}(Tu\mid Tv)={\rm Re}( (u,Tu)\mid (v,Tv))={\rm Re}((u,Tu)\mid \pi^*(w))={\rm Re}(u\mid w)\quad\quad(*) $$ である。そして $T$ の反線形性より任意の $u\in D(T)$ に対し $(*)$ において $u$ を $iu$ に置き換えたものを考えれば、 $$ {\rm Im}(u\mid v)+{\rm Im}(Tv\mid Tu)={\rm Im}(u\mid w)\quad\quad(**) $$ を得る。よって $(*),(**)$ を合わせると、 $$ (u\mid v)+(Tv\mid Tu)=(u\mid w)\quad(\forall u\in D(T)) $$ となるから、$v\in D(T^*T)$, $w=(1+T^*T)v$ である。これより $D\subset D(T^*T)$ であるから $G(T)=\overline{G(T|_{D})}=\overline{G(T|_{D(T^*T)})}$ より $D(T^*T)$ は $T$ の芯であり、また $w\in {\cal H}$ の任意性より $\mathcal{H}={\rm Ran}(1+T^*T)$ である。後は $1+T^*T$ が単射であることを示せばよい。そこで任意の $v\in {\rm Ker}(1+T^*T)$ を取る。 $$ 0=(v\mid (1+T^*T)v)=(v\mid v)+(v\mid T^*Tv)=\lVert v\rVert^2+\lVert Tv\rVert^2 $$ であるから $v=0$ である。ゆえに $1+T^*T$ は単射である。

  • $(2)$ $(1)$ より $D(T^*T)$ は $T$ の芯であるから任意の $v\in D(T)$ に対し $D(T^*T)$ の列 $(v_n)_{n\in \mathbb{N}}$ で、

$$ (v_n,Tv_n)\rightarrow (v,Tv)\quad(n\rightarrow\infty) $$ なるものが取れる。よって、 $$ Tv=\lim_{n\rightarrow\infty}Tv_n\in \overline{D(T^*)} $$ であるから、 $$ {\rm Ran}(T)\subset \overline{D(T^*)} $$ が成り立つ。これと命題20.9の $(5)$ より、 $$ (D(T^*))^{\perp}=(\overline{D(T^*)})^{\perp}\subset ({\rm Ran}(T))^{\perp}={\rm Ker}(T^*)\subset D(T^*) $$ であるから $(D(T^*))^{\perp}=\{0\}$ である。よって $$ \overline{D(T^*)}=( (D(T^*))^{\perp})^{\perp}=\{0\}^{\perp}=\mathcal{K} $$ であるから $T^*$ は稠密に定義された反線形作用素である。$T^*$ が閉であることは命題10.9の $(6)$ による。

  • $(3)$ 

$$ (u\mid T^*v)=(v\mid Tu)\quad(\forall v\in D(T^*),\forall u\in D(T)) $$ であるから $T\subset T^{**}$ である。同様に $T^*\subset T^{***}$ である。ここで $T\subset T^{**}$ と命題20.9の $(7)$ より $T^{***}\subset T^*$ であるので $T^*=T^{***}$ である。$T=T^{**}$ を示すには $\mathbb{R}$ 上のHilbert空間 $G(T^{**})\subset (\mathcal{H}\oplus \mathcal{K})_{\mathbb{R}}$ における閉部分空間 $G(T)$ の直交補空間 $G(T^{**})\cap (G(T))_{\mathbb{R}}^{\perp}$ が $\{0\}$ であることを示せばよい。そこで任意の $(v,T^{**}v)\in G(T^{**})\cap (G(T))_{\mathbb{R}}^{\perp}$ を取る。 $$ 0={\rm Re}( (u,Tu)\mid (v,T^{**}v))={\rm Re}(u\mid v)+{\rm Re}(Tu\mid T^{**}v)\quad(\forall u\in D(T)) $$ であり、$T$ の反線形性より、 $$ 0={\rm Im}(u\mid v)+{\rm Im}(T^{**}v\mid Tu)\quad(\forall u\in D(T)) $$ であるから、 $$ 0=(u\mid v)+(T^{**}v\mid Tu)\quad(\forall u\in D(T)) $$ である。よって、 $$ v\in D(T^*T^{**})=D(T^{***}T^{**}) $$ であり、 $$ 0=(1+T^*T^{**})v=(1+T^{***}T^{**})v $$ である。$T^{**}$ は稠密に定義された閉線形作用素であるので $(1)$ より $1+T^{***}T^{**}$ は単射である。よって $v=0$、したがって $(v,T^{**}v)=0$ であるので $G(T^{**})\cap (G(T))_{\mathbb{R}}^{\perp}=\{0\}$ である。ゆえに $T=T^{**}$ である。

  • $(4)$ $(1)$ より $T^*T$ は稠密に定義された線形作用素であり、

$$ (u\mid T^*Tv)=(Tv\mid Tu)=(T^*Tu\mid v)\quad(\forall u,v\in D(T^*T)) $$ であるから $T^*T\subset (T^*T)^*$ である。$T^*T=(T^*T)^*$ を示すには $D( (T^*T)^*)\subset D(T^*T)$ を示せばよい。任意の $w\in D( (T^*T)^*)=D( (1+T^*T)^*)$ を取る。$(1)$ より ${\rm Ran}(1+T^*T)=\mathcal{H}$ であるから、 $$ (1+T^*T)^*w=(1+T^*T)v $$ なる $v\in D(T^*T)$ が取れる。 $1+T^*T\subset (1+T^*T)^*$ なので、 $$ (1+T^*T)^*(w-v)=0 $$ である。よって命題20.9の $(5)$ より、 $$ w-v\in {\rm Ker}( (1+T^*T)^*)=({\rm Ran}(1+T^*T))^{\perp}=\mathcal{H}^{\perp}=\{0\} $$ である。ゆえに $w=v\in D(T^*T)$ であるので $D( (T^*T)^*)\subset D(T^*T)$ である。よって $T^*T=(T^*T)^*$ である。

定義20.12(稠密に定義された閉反線形作用素の絶対値作用素)

$T$ をHilbert空間 $\mathcal{H}$ 上の閉反線形作用素とする。このとき定理20.11より $T^*T$ は $\mathcal{H}$ 上の自己共役作用素であり、 $$ (v\mid T^*Tv)=(Tv\mid Tv)=\lVert Tv\rVert^2\geq0\quad(\forall v\in D(T^*T)) $$ であるから、命題8.10より $T^*T$ は非負自己共役作用素である。そこで $\mathcal{H}$ 上の非負自己共役作用素 $$ \lvert T\rvert\colon=\sqrt{T^*T} $$ を定義する。これを $T$ の絶対値作用素と言う。

定義20.13(反線形部分等長作用素、反線形ユニタリ作用素、共役子)

$\mathcal{H}$ をHilbert空間とする。有界反線形作用素 $V\colon\mathcal{H}\rightarrow \mathcal{H}$ で $V^*V$ が射影作用素であるものを $\mathcal{H}$ 上の反線形部分等長作用素と言う。
有界反線形作用素 $U\colon \mathcal{H}\rightarrow\mathcal{H}$ で $U^*U=UU^*=1$ を満たすものを $\mathcal{H}$ 上の反線形ユニタリ作用素と言う。
有界反線形作用素 $J\colon\mathcal{H}\rightarrow\mathcal{H}$ で $J^*=J$, $J^2=1$ を満たすものを $\mathcal{H}$ 上の共役子と言う。

命題20.14(反線形部分等長作用素の基本性質)

$\mathcal{H}$ をHilbert空間、$V\colon\mathcal{H}\rightarrow\mathcal{H}$ を反線形部分等長作用素とする。このとき $V=VV^*V$ が成り立ち、$V^*\colon\mathcal{H}\rightarrow\mathcal{H}$ も反線形部分等長作用素である

Proof.

まず任意の有界反線形作用素 $T\colon\mathcal{H}\rightarrow\mathcal{H}$ に対し、 $$ \lVert T\rVert^2=\sup\{\lVert Tv\rVert^2:v\in \mathcal{H},\lVert v\rVert\leq1\} =\sup\{(v\mid T^*Tv):v\in \mathcal{H},\lVert v\rVert\leq1\}\leq \lVert T^*T\rVert\leq\lVert T^*\rVert\lVert T\rVert $$ であるから、$\lVert T\rVert\leq \lVert T^*\rVert\leq \lVert T\rVert$であり、$\lVert T\rVert^2=\lVert T^*T\rVert$ が成り立つ。よって、 $$ \lVert V(1-V^*V)\rVert^2=\lVert (1-V^*V)V^*V(1-V^*V)\rVert=0 $$ であるから、$V=VV^*V$ が成り立ち、$VV^*=VV^*VV^*$ であるから、$VV^*$ は射影作用素である。ゆえに $V^*$ は反線形部分等長作用素である。

命題20.15(反線形部分等長作用素の特徴付け)

$\mathcal{H}$ をHilbert空間、$V\colon\mathcal{H}\rightarrow\mathcal{H}$ を有界反線形作用素とする。このとき次は互いに同値である。

  • $(1)$ $V$ は反線形部分等長作用素である。
  • $(2)$ $\mathcal{H}$ の閉部分空間 $\mathcal{K}$ が存在し、

$$ \lVert Vv\rVert=\lVert v\rVert\quad(\forall v\in \mathcal{K}),\quad {\rm Ker}(V)=\mathcal{K}^{\perp} $$ が成り立つ。
そして $(1),(2)$ が成り立つとき $V^*V$ は $\mathcal{K}$ の上への射影作用素(${\rm Ran}(V^*V)=\mathcal{K}$) である。

Proof.

$(1)\Rightarrow(2)$ を示す。$(1)$ が成り立つとする。$V^*V$ は射影作用素であるから $\mathcal{K}={\rm Ran}(V^*V)$ は $\mathcal{H}$ の閉部分空間であり、任意の $v\in \mathcal{K}$ に対し、 $$ \lVert Vv\rVert^2=(Vv\mid Vv)=(v\mid V^*Vv)=(v\mid v)=\lVert v\rVert^2 $$ であり、任意の $v\in \mathcal{K}^{\perp}$ に対し、 $$ \lVert Vv\rVert^2=(Vv\mid Vv)=(v\mid V^*Vv)=0 $$ である。よって、 $$ \lVert Vv\rVert=\lVert v\rVert\quad(\forall v\in \mathcal{K}),\quad \mathcal{K}^{\perp}\subset {\rm Ker}(V) $$ である。任意の $v\in {\rm Ker}(V)$ に対し、 $$ v=v_1+v_2\in \mathcal{K}\oplus \mathcal{K}^{\perp}=\mathcal{H} $$ と直交分解すると、$\lVert Vv_1\rVert=\lVert v_1\rVert$, $Vv_2=0$ であるから、 $$ 0=\lVert Vv\rVert=\lVert Vv_1+Vv_2\rVert=\lVert Vv_1\rVert=\lVert v_1\rVert. $$ よって $v=v_2\in \mathcal{K}^{\perp}$ であるから ${\rm Ker}(V)=\mathcal{K}^{\perp}$ である。ゆえに $(2)$ が成り立つ。
$(2)\Rightarrow(1)$ を示す。$(2)$ が成り立つとする。任意の $v\in \mathcal{K}$ に対し、 $$ (v\mid v)=\lVert v\rVert^2=\lVert Vv\rVert^2=(Vv\mid Vv)=(v\mid V^*Vv) $$ であるから任意の $u,v\in \mathcal{K}$ に対し、 $$ (u\mid v)=\frac{1}{4}\sum_{k=0}^{3}i^k(i^ku+v\mid i^ku+v)=\frac{1}{4}\sum_{k=0}^{3}i^k(V(i^ku+v)\mid V(i^ku+v))= (Vv\mid Vu) $$ である。よって任意の $u,v\in \mathcal{H}$ に対し、 $$ u=u_1+u_2,\quad v=v_1+v_2\in \mathcal{K}\oplus \mathcal{K}^{\perp}=\mathcal{H} $$ と直交分解すると、 $$ (u\mid V^*Vv)=(Vv\mid Vu)=(Vv_1\mid Vu_1)=(u_1\mid v_1)=(u\mid v_1) $$ である。ゆえに $V^*Vv=v_1$ であるから $V^*V$ は $\mathcal{K}$ の上の射影作用素であり、$V$ は反線形部分等長作用素である。

定理20.16(稠密に定義された閉反線形作用素の極分解)

$T$ をHilbert空間 $\mathcal{H}$ 上の稠密に定義された閉反線形作用素とする。このとき $T$ の絶対値作用素 $\lvert T\rvert$ と $\lvert T\rvert$ の台射影作用素 $S(\lvert T\rvert)$(定義9.2)に対し、反線形部分等長作用素 $V\colon \mathcal{H}\rightarrow\mathcal{H}$ で、 $$ V^*V=S(\lvert T\rvert),\quad T=V\lvert T\rvert $$ を満たすものが唯一つ存在する。この $T=V\lvert T\rvert$ なる分解を $T$ の極分解と言う。

Proof.

$T^*T=\lvert T\rvert^2$ であるから、定理20.11定理3.10の $(1)$ より $D(T^*T)=D(\lvert T\rvert^2)$ は、$T,\lvert T\rvert$ の共通の芯である。 $$ D\colon=D(T^*T)=D(\lvert T\rvert^2) $$ とおく。任意の $v\in D$ に対し、 $$ \lVert Tv\rVert^2=(Tv\mid Tv)=(v\mid T^*Tv)=(v\mid \lvert T\rvert^2v)=(\lvert T\rvert v\mid \lvert T\rvert v)=\lVert \lvert T\rvert v\rVert^2 $$ であるから、 $$ V_0\colon\lvert T\rvert(D)\ni \lvert T\rvert v\mapsto Tv\in \mathcal{H} $$ なる等長反線形作用素が定義できる。位相線形空間1:ノルムと内積命題3.6と同様にして $V_0$ は等長反線形作用素 $$ V_1\colon\overline{{\rm Ran}(\lvert T\rvert)}=\overline{\lvert T\rvert(D)}\rightarrow\mathcal{H} $$ に一意拡張できる。($\overline{{\rm Ran}(\lvert T\rvert)}=\overline{\lvert T\rvert(D)}$ であることは $D$ が $\lvert T\rvert$ の芯であることによる。)そこでHilbert空間 $\mathcal{H}$ の直交分解 $$ \mathcal{H}=\overline{{\rm Ran}(\lvert T\rvert)}\oplus ({\rm Ran}(\lvert T\rvert))^{\perp}\quad\quad(*) $$ を考えて、 $$ V\colon\mathcal{H}=\overline{{\rm Ran}(\lvert T\rvert)}\oplus ({\rm Ran}(\lvert T\rvert))^{\perp}\ni v+u\mapsto V_1v\in \mathcal{H} $$ として有界反線形作用素 $V\colon \mathcal{H}\rightarrow\mathcal{H}$ を定義する。このとき、 $$ \lVert Vv\rVert=\lVert v\rVert\quad(\forall v\in \overline{{\rm Ran}(\lvert T\rvert)}),\quad Vu=0\quad(\forall u\in ({\rm Ran}(\lvert T\rvert))^{\perp}) $$ であるから、命題20.15より $V$ は反線形部分等長作用素で、$V^*V$ は $\overline{{\rm Ran}(\lvert T\rvert)}$ の上への射影作用素、すなわち $V^*V=S(\lvert T\rvert)$ である。そして、 $$ V\lvert T\rvert v=V_1\lvert T\rvert v=V_0\lvert T\rvert v=Tv\quad(\forall v\in D)\quad\quad(**) $$ である。任意の $v\in D(\lvert T\rvert)$ を取る。$D$ は $\lvert T\rvert$ の芯であるので $D$ の点列 $(v_n)_{n\in \mathbb{N}}$ で、 $$ (v_n,\lvert T\rvert v_n)\rightarrow (v,\lvert T\rvert v)\quad(n\rightarrow\infty) $$ なるものが取れる。$(**)$ と $V_0$ が等長反線形作用素であることから、 $$ \lVert Tv_n-Tv_m\rVert=\lVert V_0\lvert T\rvert v_n-V_0\lvert T\rvert v_m\rVert =\lVert \lvert T\rvert v_n-\lvert T\rvert v_m\rVert\rightarrow0\quad(n,m\rightarrow\infty) $$ である。よって $(T v_n)_{n\in \mathbb{N}}$ は収束するので、$T$ が閉であることから、 $$ (v_n,T v_n)\rightarrow (v,T v)\quad(n\rightarrow\infty) $$ である。これより、 $$ V\lvert T\rvert v=\lim_{n\rightarrow\infty}V\lvert T\rvert v_n=\lim_{n\rightarrow\infty} Tv_n=Tv $$ であるから $V\lvert T\rvert\subset T$ が成り立つ。逆の包含関係を示す。任意の $v\in D(T)$ を取り、$v\in D(\lvert T\rvert)$ が成り立つことを示せばよい。$D$ は $T$ の芯であるので、$D$ の点列 $(v_n)_{n\in \mathbb{N}}$ で、 $$ (v_n,Tv_n)\rightarrow (v,Tv)\quad(n\rightarrow\infty) $$ なるものが取れる。$(**)$ と $V_0$ が等長線形作用素であることから、 $$ \lVert \lvert T\rvert v_n-\lvert T\rvert v_m\rVert =\lVert V_0\lvert T\rvert v_n-V_0\lvert T\rvert v_m\rVert =\lVert Tv_n-Tv_m\rVert\rightarrow0\quad(n,m\rightarrow\infty) $$ である。よって $(\lvert T\rvert v_n)_{n\in \mathbb{N}}$ は収束するので、$\lvert T\rvert$ が閉であることから、 $$ (v_n,\lvert T\rvert v_n)\rightarrow (v,\lvert T\rvert v)\quad(n\rightarrow\infty) $$ である。これより $v\in D(\lvert T\rvert)$ であるから $V\lvert T\rvert=T$ が成り立つ。以上で存在が示せた。
一意性を示す。$V,W\in \mathbb{B}(\mathcal{H})$ がそれぞれ反線形部分等長作用素であり、 $$ V^*V=S(\lvert T\rvert)=W^*W,\quad V\lvert T\rvert=T=W\lvert T\rvert $$ を満たすとする。命題20.15より、 $$ Vu=Wu=0\quad(\forall u\in ({\rm Ran}(\lvert T\rvert))^{\perp}) $$ である。また、 $$ V\lvert T\rvert v=Tv=W\lvert T\rvert v\quad(\forall v\in \mathcal{H}) $$ であるから、$V$ と $W$ は ${\rm Ran}(\lvert T\rvert)$ 上で一致する。$V,W$ の連続性より $V,W$ は $\overline{{\rm Ran}(\lvert T\rvert)}$ 上でも一致するから、$(*)$ より $V=W$ である。


定理20.17(稠密に定義された閉反線形作用素の共役作用素の極分解)

$T$ をHilbert空間 $\mathcal{H}$ 上の稠密に定義された閉反線形作用素とし、$T$ の極分解 $$ T=V\lvert T\rvert,\quad V^*V=S(\lvert T\rvert) $$ を考える。このとき $T^*$(定理20.11より $T^*$ も稠密に定義された閉反線形作用素である)の極分解は、 $$ T^*=V^*\lvert T^*\rvert,\quad VV^*=S(\lvert T^*\rvert) $$ である。(命題20.14より $V^*$ も反線形部分等長作用素であることに注意。)

Proof.

定理20.11の $(3)$ より $T=T^{**}$ であるから、 $$ \lvert T^*\rvert=\sqrt{TT^*} $$ である。$V^*V=S(\lvert T\rvert)$ より $V^*V\lvert T\rvert=\lvert T\rvert$ であり、命題20.9の $(9)$ より、$T^*=(V\lvert T\rvert)^*=\lvert T\rvert V^*$ であるから、 $$ (V\lvert T\rvert V^*)(V\lvert T\rvert V^*)=(V\lvert T\rvert)(V^*V\lvert T\rvert V^*) =(V\lvert T\rvert)(\lvert T\rvert V^*)=TT^*=\lvert T^*\rvert^2\quad\quad(*) $$ である。そして命題20.9の $(9)$ より、 $$ (V\lvert T\rvert V^*)^*=(VT^*)^*=T^{**}V^*=TV^*=V\lvert T\rvert V^* $$ であるから $V\lvert T\rvert V^*$ は自己共役作用素であり、 $$ (v\mid V\lvert T\rvert V^*v)=(\lvert T\rvert V^*v\mid V^*v)\geq0\quad(\forall v\in D(V\lvert T\rvert V^*)) $$ であるから、命題8.10より $V\lvert T\rvert V^*$ は非負自己共役作用素である。よって $(*)$ と命題8.9より、 $$ \lvert T^*\rvert=V\lvert T\rvert V^*\quad\quad(**) $$ が成り立つ。これより、 $$ V^*\lvert T^*\rvert=V^*V\lvert T\rvert V^*=\lvert T\rvert V^*=(V\lvert T\rvert)^*=T^* $$ であり、 $$ VV^*\lvert T^*\rvert=VT^*=V\lvert T\rvert V^*=\lvert T^*\rvert $$ である。よって命題9.3より、 $$ S(\lvert T^*\rvert)\leq VV^* $$ が成り立つ。この逆の不等式を示す。 $$ \lvert T^*\rvert=S(\lvert T^*\rvert)\lvert T^*\rvert $$ であるから、$(**)$ より、 $$ V\lvert T\rvert V^*=S(\lvert T^*\rvert)V\lvert T\rvert V^*\quad\quad(***) $$ である。 $$ \lvert T\rvert=\lvert T\rvert^*=(V^*V\lvert T\rvert)^*=\lvert T\rvert V^*V $$ であるから $(***)$ の両辺に右から $V$ を掛ければ、 $$ V\lvert T\rvert=S(\lvert T^*\rvert)V\lvert T\rvert $$ を得る。ゆえに、 $$ VS(\lvert T\rvert)=S(\lvert T^*\rvert)VS(\lvert T\rvert) $$ が成り立つ。$VS(\lvert T\rvert)=VV^*V=V$ より、 $$ V=S(\lvert T^*\rvert)V $$ であり、両辺に右から $V^*$ を掛けて、 $$ VV^*=S(\lvert T^*\rvert)VV^* $$ を得る。これより、 $$ VV^*=S(\lvert T^*\rvert)VV^*=S(\lvert T^*\rvert)VV^*S(\lvert T^*\rvert)\leq S(\lvert T^*\rvert) $$ であるから、$VV^*=S(\lvert T^*\rvert)$ が成り立つ。


命題20.18(反線形ユニタリ作用素による射影値測度の変換)

$\mathcal{H},\mathcal{K}$ をHilbert空間、$U\colon\mathcal{H}\rightarrow \mathcal{K}$ を反線形ユニタリ作用素、$(X,\mathfrak{M})$ を可測空間、$E\colon\mathfrak{M}\rightarrow \mathbb{P}(\mathcal{H})$ を射影値測度とする。このとき、 $$ UEU^*\colon\mathfrak{M}\ni B\mapsto UE(B)U^*\in \mathbb{P}(\mathcal{K}) $$ は射影値測度であり、任意の可測関数 $f\colon X\rightarrow\mathbb{C}$ に対し、 $$ \int_{X}f(x)d(UEU^*)(x)=U\left(\int_{X}\overline{f(x)}dE(x)\right)U^*\quad\quad(*) $$ が成り立つ。

Proof.

$UEU^*$ が射影値測度の定義6.2を満たすことは自明である。$(*)$ は $f\colon X\rightarrow \mathbb{C}$ が可測単関数である場合は明らかに成り立ち、有界可測関数は可測単関数により一様近似できること(測度と積分5:$L^p$ 空間の完備性と双対性命題22.2)から、$f\colon X\rightarrow \mathbb{C}$ が有界可測関数の場合も $(*)$ は成り立つ。今、任意の可測関数 $f\colon X\rightarrow\mathbb{C}$ に対し、有界可測関数の列 $f_n\colon=f\chi_{(\lvert f\rvert\leq n)}$ $(\forall n\in \mathbb{N})$ を考えると、任意の $v\in \mathcal{K}$ に対し単調収束定理より、 $$ \begin{aligned} \int_{X}\lvert f(x)\rvert^2d(UEU^*)_{v,v}(x)&=\sup_{n\in \mathbb{N}}\int_{X}\lvert f_n(x)\rvert^2d(UEU^*)_{v,v}(x)=\sup_{n\in\mathbb{N}}\left\lVert \int_{X}f_n(x)d(UEU^*)(x)v\right\rVert^2\\ &=\sup_{n\in\mathbb{N}}\left\lVert \left(\int_{X}\overline{f_n(x)}dE(x)\right)U^*v\right\rVert^2 =\sup_{n\in\mathbb{N}}\int_{X}\lvert f_n(x)\rvert^2dE_{U^*v,U^*v}(x)\\ &=\int_{X}\lvert f(x)\rvert^2dE_{U^*v,U^*v}(x) \end{aligned} $$ であるから $D_{UEU^*}(f)=UD_E(f)$ が成り立つ。そして任意の $u\in \mathcal{H}$ と任意の $v\in D_{UEU^*}(f)$ に対しLebesgue優収束定理より、 $$ \begin{aligned} &\left(u\mid \int_{X}f(x)d(UEU^*)(x)v\right)=\lim_{n\rightarrow\infty}\left(u\mid \left(\int_{X}f_n(x)d(UEU^*)(x)\right)v\right)\\ &=\lim_{n\rightarrow\infty}\left(u\mid U\left(\int_{X}\overline{f_n(x)}dE(x)\right)U^*v\right) =\left(u\mid U\left(\int_{X}\overline{f(x)}dE(x)\right)U^*v\right) \end{aligned} $$ である。よって $(*)$ は任意の可測関数 $f:X\rightarrow \mathbb{C}$ に対して成り立つ。

定義20.19(共役子に関して実な線形作用素)

$\mathcal{H}$ をHilbert空間、$J\colon\mathcal{H}\rightarrow\mathcal{H}$ を共役子(定義20.13)とする。$\mathcal{H}$ 上の線形作用素 $T$ が $J$ に関して実であるとは、 $$ JT\subset TJ\quad\quad(*) $$ が成り立つことを言う。$J^2=1$ であるから $(*)$ は $JT=TJ$ であること、また $JTJ=T$ であることと同値である。

命題20.20(共役子に関して実な線形作用素の基本性質)

$\mathcal{H}$ をHilbert空間、$J\colon\mathcal{H}\rightarrow\mathcal{H}$ を共役子とする。このとき、

  • $(1)$ $T_1,T_2$ が $J$ に関して実な線形作用素ならば、$T_1+T_2, T_1T_2$ も $J$ に関して実である。
  • $(2)$ $T$ が $J$ に関して実な線形作用素ならば、任意の $\alpha\in \mathbb{R}$ に対し $\alpha T$ も $J$ に関して実である。
  • $(3)$ $T$ が $J$ に関して実な稠密に定義された線形作用素ならば、$T^*$ も $J$ に関して実である。
  • $(4)$ $T$ が $J$ に関して実な可閉線形作用素ならば、$\overline{T}$ も $J$ に関して実である。
  • $(5)$ $T$ が $J$ に関して実な単射線形作用素ならば、$T^{-1}$ も $J$ に関して実である。
Proof.

命題19.3と同様にして示せる。

定理20.21(共役子に関して実な対称作用素の自己共役拡張可能性)

$\mathcal{H}$ をHilbert空間、$J\colon\mathcal{H}\rightarrow\mathcal{H}$ を共役子、$T$ を $J$ に関して実な対称作用素とする。このとき $T$ は $J$ に関して実な自己共役拡張(定義4.7)を持つ。

Proof.

任意の $v_{\pm}\in ({\rm Ran}(T\pm i))^{\perp}$ に対し、 $$ (Jv_{\pm}\mid (T\mp i)u)=(J(T\mp i)u\mid v_{\pm})=((T\pm i)Ju\mid v_{\pm})=0\quad(\forall u\in D(T)) $$ であるから、 $$ J({\rm Ran}(T+i))^{\perp}=({\rm Ran}(T-i))^{\perp} $$ である。これより $({\rm Ran}(T+i))^{\perp}$ のCONSを $(e_k)_{k\in K}$ とすると、$(Je_k)_{k\in K}$ は $({\rm Ran}(T-i))^{\perp}$ のCONSなので、ユニタリ作用素 $$ V\colon ({\rm Ran}(T+i))^{\perp}\rightarrow ({\rm Ran}(T-i))^{\perp},\quad Ve_k=Je_k\quad(\forall k\in K) $$ が取れる。よって定理4.9より $T$ は自己共役拡張 $S$ で、そのCayley変換 $C(S)$ が、 $$ C(S)=C(\overline{T})\oplus V\colon {\rm Ran}(\overline{T}+i)\oplus ({\rm Ran}(T+i))^{\perp}\rightarrow {\rm Ran}(\overline{T}-i)\oplus ({\rm Ran}(T-i))^{\perp} $$ である様なものが取れる。今、$S$ が $J$ に関して実であることを示す。まず、 $$ JV^*Je_k=Je_k=Ve_k\quad(\forall k\in K) $$ であるから、 $$ JV^*J=V $$ である。またHilbert空間 ${\rm Ran}(\overline{T}+i)$ からHilbert空間 ${\rm Ran}(\overline{T}-i)$ へのユニタリ作用素 $$ C(\overline{T})=(\overline{T}-i)(\overline{T}+i)^{-1}\colon {\rm Ran}(\overline{T}+i)\rightarrow {\rm Ran}(\overline{T}-i) $$ の共役作用素 $$ C(\overline{T})^*=(\overline{T}+i)(\overline{T}-i)^{-1}\colon {\rm Ran}(\overline{T}-i)\rightarrow {\rm Ran}(\overline{T}+i) $$ に対し、命題20.20より、 $$ JC(\overline{T})^*J=J(\overline{T}+i)(\overline{T}-i)^{-1}J=(\overline{T}-i)(\overline{T}+i)^{-1}=C(\overline{T}) $$ である。よって、 $$ JC(S)^*J=(JC(\overline{T})^*J)\oplus(JV^*J)=C(\overline{T})\oplus V=C(S) $$ が成り立つ。ここで $S$ のスペクトル測度を $E_S\colon \mathcal{B}_{\sigma(S)}\rightarrow \mathbb{P}(\mathcal{H})$ とすると、命題20.18より、 $$ C(S)=JC(S)^*J=J\left(\int_{\sigma(S)}(s+i)(s-i)^{-1}dE_S(s)\right)J=\int_{\sigma(S)}(s-i)(s+i)^{-1}d(JE_SJ)(s) $$ であり、右辺は自己共役作用素 $$ \int_{\sigma(S)}sd(JE_SJ)(s)=J\left(\int_{\sigma(S)}sdE_S(s)\right)J=JSJ $$ のCayley変換 $C(JSJ)$ である。よって $C(S)=C(JSJ)$ なので命題4.5より $S=JSJ$ である。ゆえに $S$ は $J$ に関して実である。

21. 対称作用素の解析ベクトル、Nelsonの解析ベクトル定理

定義21.1(対称作用素の解析ベクトル、全解析ベクトル)

$T$ をHilbert空間 $\mathcal{H}$ 上の対称作用素とする。$v\in \bigcap_{n\in \mathbb{N}}D(T^n)$ に対し $\mathcal{H}$ の列 $(\frac{1}{n!}T^nv)_{n\in\mathbb{N}}$ を係数とする冪級数の収束半径(複素解析の初歩定義2.1)を、 $$ R_T(v)\colon=\frac{1}{\inf_{n\in \mathbb{N}}\sup_{k\geq n}\sqrt[k]{\frac{1}{k!}\lVert T^kv\rVert}}\in [0,\infty] $$ とおく。$R_T(v)>0$ であるとき $v$ を $T$ の解析ベクトルと言う。また $R_T(v)=\infty$ のとき $v$ を $T$ の全解析ベクトルと言う。

命題21.2(対称作用素の解析ベクトルの基本性質)

$T$ をHilbert空間 $\mathcal{H}$ 上の対称作用素とする。次が成り立つ。

  • $(1)$ 任意の $u,v\in \bigcap_{n\in\mathbb{N}}D(T^n)$ に対し ${\rm min}(R_T(u), R_T(v))\leq R_T(u+v)$.
  • $(2)$ 任意の $v\in \bigcap_{n\in \mathbb{N}}D(T^n)$ と任意の $\alpha\in \mathbb{C}\backslash\{0\}$ に対し $R_T(\alpha v)=R_T(v)$.
  • $(3)$ 任意の $v\in \bigcap_{n\in \mathbb{N}}D(T^n)$ と任意の $k\in\mathbb{N}$ に対し $R_T(T^kv)=R_T(v)$.
  • $(4)$ $T$ の解析ベクトル全体、$T$ の全解析ベクトル全体はそれぞれ $T$ の作用に対して不変な $\mathcal{H}$ の線形部分空間である。
Proof.

  • $(1)$ $\lvert z\rvert<{\rm min}(R_T(u),R_T(v))$ を満たす任意の $z\in \mathbb{C}$ に対し、

$$ \sum_{n\in\mathbb{Z}_+}\frac{1}{n!}\lVert T^n(u+v)\rVert\lvert z\rvert^n \leq \sum_{n\in\mathbb{Z}_+}\frac{1}{n!}\lVert T^nu\rVert \lvert z\rvert^n+\sum_{n\in\mathbb{Z}_+}\frac{1}{n!}\lVert T^nv\rVert\lvert z\rvert^n<\infty $$ であるから、複素解析の初歩命題2.2より $\lvert z\rvert\leq R_T(u+v)$ である。よって ${\rm min}(R_T(u),R_T(v))\leq R_T(u+v)$ が成り立つ。

  • $(2)$ $\lvert z\rvert<R_T(v)$ を満たす任意の $z\in \mathbb{C}$ に対し複素解析の初歩命題2.2より、

$$ \sum_{n\in\mathbb{Z}_+}\frac{1}{n!}\lVert T^n\alpha v\rVert\lvert z\rvert^n =\lvert \alpha\rvert\sum_{n\in\mathbb{Z}_+}\frac{1}{n!}\lVert T^nv\rVert \lvert z\rvert^n<\infty $$ であるから、$\lvert z\rvert\leq R_T(\alpha v)$ である。よって $R_T(v)\leq R_T(\alpha v)$ が成り立つ。またこれより $R_T(\alpha v)\leq R_T(\alpha^{-1}\alpha v)=R_T(v)$ も成り立つので $R_T(\alpha v)=R_T(v)$ が成り立つ。

  • $(3)$ 複素解析の初歩命題2.4より $\mathcal{H}$ の列 $(\frac{1}{n!}T^nv)_{n\in\mathbb{Z}_+}$ を係数とする冪級数の収束半径 $R_T(v)$ は $((n+1)\frac{1}{(n+1)!}T^{n+1}v)_{n\in\mathbb{Z}_+}=(\frac{1}{n!}T^{n+1}v)_{n\in\mathbb{Z}_+}$ を係数とする冪級数の収束半径 $R_T(Tv)$ と等しい。よって $R_T(v)=R_T(Tv)=R_T(T^2v)=\cdots$ であるから任意の $k\in \mathbb{N}$ に対し $R_T(v)=R_T(T^kv)$ が成り立つ。
  • $(4)$ $T$ の解析ベクトル全体を、

$$ \mathcal{A}_T\colon=\left\{v\in \bigcap_{n\in\mathbb{N}}D(T^n):R_T(v)>0\right\} $$  とおく。任意の $u,v\in \mathcal{A}_T$ と任意の $\alpha\in\mathbb{C}$ に対し $(1),(2),(3)$ より、 $$ 0<{\rm min}(R_T(u),R_T(v))\leq R_T(u+v),\quad 0<R_T(v)\leq R_T(\alpha v),\quad 0<R_T(v)=R_T(Tv) $$ であるから $u+v,\alpha v,Tv\in \mathcal{A}_T$ である。よって $\mathcal{A}_T$ は $T$ の作用に対して不変な $\mathcal{H}$ の線形部分空間である。また $T$ の全解析ベクトル全体を、 $$ \mathcal{TA}_T\colon=\left\{v\in \bigcap_{n\in\mathbb{N}}D(T^n):R_T(v)=\infty\right\} $$ とおくと、任意の $u,v\in \mathcal{TA}_T$ と任意の $\alpha\in\mathbb{C}$ に対し $(1),(2),(3)$ より、 $$ \infty={\rm min}(R_T(u),R_T(v))\leq R_T(u+v),\quad \infty=R_T(v)\leq R_T(\alpha v),\quad \infty=R_T(v)=R_T(Tv) $$ であるから $u+v,\alpha v, Tv\in \mathcal{TA}_T$ である。よって $\mathcal{TA}_T$ は $T$ の作用に対して不変な $\mathcal{H}$ の線形部分空間である。

補題21.3(自己共役作用素の定義域の微分による特徴付け)

$T$ をHilbert空間 $\mathcal{H}$ 上の自己共役作用素とする。このとき、 $$ D(T)=\left\{v\in \mathcal{H}:\exists\lim_{t\in\mathbb{R}, t\rightarrow 0}\frac{1}{t}(e^{itT}-1)v\in \mathcal{H}\right\},\quad Tv=\lim_{t\in\mathbb{R}, t\rightarrow0}\frac{1}{it}(e^{itT}-1)v\quad(\forall v\in D(T)) $$ が成り立つ。

Proof.

$$ D\colon=\left\{v\in \mathcal{H}:\exists\lim_{t\in\mathbb{R}, t\rightarrow 0}\frac{1}{t}(e^{itT}-1)v\in \mathcal{H}\right\},\quad Sv\colon=\lim_{t\in\mathbb{R}, t\rightarrow0}\frac{1}{it}(e^{itT}-1)v\quad(\forall v\in D) $$ とおく。このとき $S\colon D\ni v\mapsto Sv\in \mathcal{H}$ は $\mathcal{H}$ 上の線形作用素である。$E^T\colon \mathcal{B}_{\sigma(T)}\rightarrow\mathbb{P}(\mathcal{H})$ を $T$ のスペクトル測度とすると、任意の $v\in D(T)$ に対し微積分学の基本定理とLebesgue優収束定理より、 $$ \begin{aligned} &\left\lVert\frac{1}{it}(e^{itT}-1)v-Tv\right\rVert^2 =\int_{\sigma(T)}\left\lvert \frac{1}{it}(e^{it\lambda}-1)-\lambda \right\rvert^2dE^T_{v,v}(\lambda)\\ &=\int_{\sigma(T)}\left\lvert \lambda\int_{0}^{1}(e^{i\theta t\lambda}-1)d\theta \right\rvert^2dE^T_{v,v}(\lambda)\rightarrow0\quad(t\rightarrow0) \end{aligned} $$ であるから $v\in D$ であり、$Tv=Sv$ である。よって $T\subset S$である。Borel汎関数計算の基本性質(命題8.7)より $(e^{itT})^*=e^{-itT}$ $(\forall t\in \mathbb{R})$ であるので、任意の $u,v\in D$ に対し、 $$ (u\mid Sv)=\lim_{t\in \mathbb{R}, t\rightarrow0}\left(u\mid \frac{1}{it}(e^{itT}-1)v\right) =\lim_{t\in\mathbb{R}, t\rightarrow\infty}\left(\frac{1}{-it}(e^{-itT}-1)u\mid v\right) =(Su\mid v) $$ である。よって $S$ は $\mathcal{H}$ 上の対称作用素である。$T$ が自己共役作用素で $S$ が対称作用素であるから、$T\subset S\subset S^*\subset T^*=T$ である。ゆえに $T=S$ が成り立つ。

定理21.4(自己共役作用素の解析ベクトルの基本性質)

$T$ をHilbert空間 $\mathcal{H}$ 上の自己共役作用素とする。このとき次が成り立つ。

  • $(1)$ $T$ の全解析ベクトル全体は $T$ の芯である。
  • $(2)$ $v$ が $T$ の解析ベクトルならば、

$$ e^{zT}v=\sum_{n\in\mathbb{Z}_+}\frac{1}{n!}(zT)^nv\quad\left(\forall z\in \mathbb{C}: \lvert z\rvert<\frac{R_T(v)}{2}\right)\quad\quad(*) $$ が成り立つ。

  • $(3)$ $v\in \mathcal{H}$ に対し、$v$ が $T$ の全解析ベクトルであることと、

$$ \mathbb{R}\ni t\mapsto e^{itT}v\in \mathcal{H} $$ がBanach空間 $\mathcal{H}$ 値整関数に拡張できることは同値である。またその整関数としての拡張は、 $$ \mathbb{C}\ni z\mapsto e^{izT}v\in \mathcal{H} $$ である。

  • $(4)$ $v\in \mathcal{H}$ が $T$ の全解析ベクトルであるならば、任意の $z\in \mathbb{C}$ に対し $e^{izT}v$ も $T$ の全解析ベクトルであり、

$$ e^{iwT}e^{izT}v=e^{i(w+z)T}v\quad(\forall w,z\in\mathbb{C}) $$ が成り立つ。

Proof.

  • $(1)$ 命題21.2より $T$ の全解析ベクトル全体は $D(T)$ の線形部分空間である。$T$ のスペクトル測度 $E^T\colon \mathcal{B}_{\sigma(T)}\rightarrow\mathbb{P}(\mathcal{H})$ と 任意の $v\in D(T)$ に対し、

$$ v_m\colon =E^T([-m,m]\cap \sigma(T))v\in \bigcap_{n\in\mathbb{N}}D(T^n)\quad(\forall m\in \mathbb{N}) $$ とおくと、任意の $m\in \mathbb{N}$ に対し、 $$ \sum_{n\in\mathbb{Z}_+}\frac{1}{n!}\lVert T^nv_m\rVert \lvert z\rvert^n\leq \sum_{n\in\mathbb{Z}_+}\frac{1}{n!}m^n\lVert v\rVert \lvert z\rvert^n<\infty\quad(\forall z\in \mathbb{C}) $$ であるから、複素解析の初歩命題2.2より $(\frac{1}{n!}\lVert T^nv_m)_{n\in\mathbb{Z}_+}$ を係数とする冪級数の収束半径は $\infty$ なので、$v_m$ は $T$ の全解析ベクトルである。そして $v_m=E^T([-m,m]\cap \sigma(T))v\rightarrow v$ $(m\rightarrow\infty)$ であり、Lebesgue優収束定理より、 $$ \lVert Tv-Tv_m\rVert^2=\int_{\sigma(T)}\lvert \lambda-\lambda\chi_{\lvert {\rm id}\rvert\leq m}(\lambda)\rvert^2dE^T_{v,v}(\lambda)\rightarrow0\quad(m\rightarrow\infty) $$ であるから、$(v,Tv)=\lim_{m\rightarrow\infty}(v_m,Tv_m)$ が成り立つ。よって $T$ の全解析ベクトル全体は $T$ の芯である。

  • $(2)$ $\lvert z\rvert<\frac{R_T(v)}{2}$ なる任意の $z\in \mathbb{C}$ に対しHölderの不等式より、

$$ \begin{aligned} &\int_{\sigma(T)}\lvert e^{z\lambda}\rvert^2dE^T_{v,v}(\lambda)\leq \int_{\sigma(T)}e^{2\lvert z\lambda\rvert}dE^T_{v,v}(\lambda)=\sum_{n\in \mathbb{Z}_+}\frac{(2\lvert z\rvert)^n}{n!}\int_{\sigma(T)}\lvert \lambda\rvert^ndE^T_{v,v}(\lambda)\\ &\leq \sum_{n\in\mathbb{Z}_+}\frac{(2\lvert z\rvert)^n}{n!}\left(\int_{\sigma(T)}\lvert \lambda^n\rvert^2dE^T_{v,v}(\lambda)\right)^{\frac{1}{2}}\left(\int_{\sigma(T)}1dE^T_{v,v}(\lambda)\right)^{\frac{1}{2}}\\ &=\sum_{n\in\mathbb{Z}_+}\frac{(2\lvert z\rvert)^n}{n!}\lVert T^nv\rVert\lVert v\rVert<\infty \end{aligned} $$ となるから $v\in D(e^{zT})$ であり、Lebesgue優収束定理より、 $$ \begin{aligned} &\left\lVert e^{zT}v-\sum_{n=0}^{N}\frac{1}{n!}(zT)^nv\right\rVert^2 =\left\lVert \left(\int_{\sigma(T)}\left(e^{z\lambda}-\sum_{n=0}^{N}\frac{1}{n!}(z\lambda)^n\right)dE^T_{v,v}(\lambda)\right)v\right\rVert^2\\ &=\int_{\sigma(T)}\left\lvert e^{z\lambda}-\sum_{n=0}^{N}\frac{1}{n!}(z\lambda)^n\right\rvert^2dE^T_{v,v}(\lambda)\rightarrow0\quad(N\rightarrow\infty) \end{aligned} $$ であるから $(*)$ が成り立つ。

  • $(3)$ $v$ が $T$ の全解析ベクトルならば $(2)$ より $e^{izT}v=\sum_{n\in \mathbb{Z}_+}\frac{1}{n!}(izT)^nv$ $(\forall z\in \mathbb{C})$ であるから、冪級数関数の複素微分可能性(複素解析の初歩定理2.5)より $\mathbb{C}\ni z\mapsto e^{izT}v\in \mathcal{H}$ はBanach空間値整関数である。逆に $v\in \mathcal{H}$ に対し $\mathbb{R}\ni t\mapsto e^{itT}v\in \mathcal{H}$ がBanach空間 $\mathcal{H}$ 値整関数 $U\colon \mathbb{C}\ni z\mapsto U(z)\in \mathcal{H}$ に拡張できるとし、$v$ が $T$ の全解析ベクトルであることを示す。

$$ e^{isT}U(t)=e^{isT}e^{itT}v=e^{i(s+t)T}v=U(s+t)\quad(\forall s,t\in\mathbb{R}) $$ であるから、任意の $s\in \mathbb{R}$ に対しBanach空間値整関数 $$ \mathbb{C}\ni z\mapsto e^{isT}U(z)\in \mathcal{H},\quad \mathbb{C}\ni z\mapsto U(s+z)\in \mathcal{H} $$ は $\mathbb{R}$ 上で一致する。よって一致の定理(複素解析の初歩注意9.5定理6.6)より、 $$ e^{isT}U(z)=U(s+z)\quad(\forall s\in\mathbb{R},\forall z\in \mathbb{C}) $$ が成り立つ。任意の $z\in \mathbb{C}$ に対し補題21.3より、 $$ \frac{d}{dz}U(z)=\lim_{s\in\mathbb{R},s\rightarrow0}\frac{1}{s}(U(s+z)-U(z))=\lim_{s\in\mathbb{R},s\rightarrow0}\frac{1}{s}(e^{isT}-1)U(z)=iTU(z) $$ が成り立つ。今、ある $n\in \mathbb{N}$ に対し、 $$ \frac{d^n}{dz^n}U(z)=(iT)^nU(z)\quad(\forall z\in \mathbb{C})\quad\quad(**) $$ が成り立つと仮定する。このとき任意の $z\in \mathbb{C}$ に対し $(iT)^n=\int_{\sigma(T)}(i\lambda)^ndE^T(\lambda)$ が閉線形作用素であることと補題21.3より、 $$ \frac{d^{n+1}}{dz^{n+1}}U(z)=\lim_{s\in \mathbb{R}, s\rightarrow0}\frac{1}{s}(iT)^n(U(s+z)-U(z))=\lim_{s\in\mathbb{R}, s\rightarrow0}\frac{1}{s}(iT)^n(e^{isT}-1)U(z)=(iT)^{n+1}U(z) $$ となるので帰納法より $(**)$ は任意の $n\in \mathbb{N}$ に対して成り立つ。よって複素解析の初歩定理9.4より、 $$ U(z)=\sum_{n\in\mathbb{Z}_+}\frac{1}{n!}\left(\frac{d^n}{dz^n}U(z)\right)\big|_{z=0}z^n =\sum_{n\in\mathbb{Z}_+}\frac{1}{n!}(izT)^nv\quad(\forall z\in \mathbb{C})\quad\quad(***) $$ が成り立つので、複素解析の初歩命題2.2より $(\frac{1}{n!}T^nv)_{n\in\mathbb{Z}_+}$ を係数とする冪級数の収束半径 $R_T(v)$ は $\infty$ であるから $v$ は $T$ の全解析ベクトルである。そして $(***)$ と $(2)$ より、 $$ U(z)=\sum_{n\in\mathbb{Z}_+}\frac{1}{n!}(izT)^nv=e^{izT}v\quad(\forall z\in\mathbb{C}) $$ が成り立つ。

  • $(4)$ $v$ が $T$ の全解析ベクトルならば $(3)$ より任意の $s\in \mathbb{R}$ に対し、

$$ \mathbb{C}\ni z\mapsto e^{isT}e^{izT}v\in \mathcal{H},\quad \mathbb{C}\ni z\mapsto e^{i(s+z)T}v\in \mathcal{H} $$ はそれぞれBanach空間 $\mathcal{H}$ 値整関数である。そしてこれらは $\mathbb{R}$ 上で一致するので一致の定理より、 $$ e^{isT}e^{izT}v=e^{i(s+z)T}v\quad(\forall s\in\mathbb{R},\forall z\in \mathbb{C}) $$ が成り立つ。よって任意の $z\in \mathbb{C}$ に対し、$\mathbb{R}\ni s\mapsto e^{isT}e^{izT}v\in \mathcal{H}$ はBanach空間 $\mathcal{H}$ 値整関数 $\mathbb{C}\ni w\mapsto e^{i(w+z)T}v\in \mathcal{H}$ に拡張できるので $(3)$ より $e^{izT}v$ は $T$ の全解析ベクトルであり、任意の $w\in \mathbb{C}$ に対し $e^{iwT}e^{izT}v=e^{i(w+z)T}v$ が成り立つ。

補題21.5(Nelsonの解析ベクトル定理の補題)

$T$ をHilbert空間 $\mathcal{H}$ 上の対称作用素とし、$v\in \bigcap_{n\in\mathbb{N}}D(T^n)$ を $0$ ではない $T$ の解析ベクトルとする。 $$ D_T(v)\colon={\rm span}\{T^nv\}_{n\in\mathbb{Z}_+},\quad \mathcal{H}_T(v)\colon=\overline{D_T(v)} $$ とおき、Hilbert空間 $\mathcal{H}_T(v)$ 上の対称作用素 $$ T_v\colon D_T(v)\ni u\mapsto Tu\in \mathcal{H}_T(v) $$ を定義する。このとき $T_v$ は本質的に自己共役(定義4.8)である。

Proof.

$T$ は対称作用素で $v\in \bigcap_{n\in\mathbb{N}}D(T^n)$ であるから、 $$ (T^nv\mid T^mv)=(T^mv\mid T^nv)\quad(\forall n,m\in\mathbb{Z}_+) $$ が成り立つ。よって、 $$ J_0\colon D_T(v)\ni \sum_{n=0}^{N}\alpha_nT^nv\mapsto \sum_{n=0}^{N}\overline{\alpha_n}T_nv\in \mathcal{H}_T(v) $$ はwell-definedな等長反線形作用素であり、 $$ (J_0u\mid J_0w)=(w\mid u),\quad (u\mid J_0w)=(w\mid J_0u)\quad(\forall u,w\in D_T(v)) $$ が成り立つ。$J_0$ の $\mathcal{H}_T(v)=\overline{D_T(v)}$ 上の等長反線形作用素への拡張を $J\colon \mathcal{H}_T(v)\rightarrow\mathcal{H}_T(v)$ とおくと、 $$ (Ju\mid Jw)=(w\mid u),\quad (u\mid Jw)=(w\mid Ju)\quad(\forall u,v\in \mathcal{H}_T(v)) $$ より $J^*=J, J^2=1$ であるから、$J$ はHilbert空間 $\mathcal{H}_T(v)$ 上の共役子(定義20.13)である。$T_v$ は明らかに $J$ に関して実(定義20.19)であるから定理20.21より $T_v$ は自己共役拡張を持つ。$T_v$ が本質的に自己共役であることを示すには、系4.10より $T_v$ の自己共役拡張が唯一つであることを示せばよい。そこで $S_1,S_2$ をそれぞれ $T_v$ の自己共役拡張とし、$S_1=S_2$ が成り立つことを示す。任意の $u\in D_T(v)=D(T_v)\subset D(S_1)\cap D(S_2)$ に対し、 $$ S_j^nu=T_v^nu=T^nu\quad(\forall n\in\mathbb{Z}_+,j=1,2) $$ であることと命題21.2より、 $$ R_{S_j}(u)=R_T(u)\geq R_T(v)>0\quad(j=1,2) $$ であるから、定理21.4の $(2)$ より、 $$ e^{itS_j}u=\sum_{n\in\mathbb{Z}_+}\frac{1}{n!}(itS_j)^nu=\sum_{n\in\mathbb{Z}_+}\frac{1}{n!}(itT)^nu\quad(\forall t\in (-2^{-1}R_T(v),2^{-1}R_T(v)), j=1,2), $$ よって、 $$ e^{itS_1}u=e^{itS_2}u\quad(\forall u\in D_T(v), \forall t\in (-2^{-1}R_T(v),2^{-1}R_T(v)))\quad\quad(*) $$ が成り立つ。$t\in \mathbb{R}$ に対し $e^{itS_1}, e^{itS_2}$ はHilbert空間 $\mathcal{H}_T(v)$ 上のユニタリ作用素であり、$D_T(v)$ は $\mathcal{H}_T(v)$ の稠密部分空間であるから $(*)$ より、 $$ e^{itS_1}=e^{itS_2}\quad( \forall t\in (-2^{-1}R_T(v),2^{-1}R_T(v))) $$ が成り立つ。よって補題21.3より $S_1=S_2$ が成り立つ。ゆえに $T_v$ は本質的に自己共役である。

定理21.6(Nelsonの解析ベクトル定理)

$T$ をHilbert空間 $\mathcal{H}$ 上の対称作用素とする。もし $T$ の解析ベクトル全体が $\mathcal{H}$ で稠密であるならば $T$ は本質的に自己共役である。

Proof.

命題4.3定理4.6より ${\rm Ran}(T\pm i)$ が $\mathcal{H}$ で稠密であることを示せばよい。$0$ ではない任意の $u\in \mathcal{H}$ と任意の $\epsilon\in (0,2\lVert u\rVert)$ を取る。仮定より $T$ の解析ベクトル $v$ で、 $$ \lVert u-v\rVert<\frac{\epsilon}{2}\quad\quad(*) $$ なるものが取れる。$\epsilon<2\lVert u\rVert$ より $v\neq0$ である。よって補題21.5より、 $$ T_v\colon D_T(v)\ni w\mapsto Tw\in \mathcal{H}_T(v) $$ はHilbert空間 $\mathcal{H}_T(v)$ 上の本質的に自己共役な対称作用素である。ゆえに命題4.3定理4.6より、 $$ \mathcal{H}_T(v)={\rm Ran}(\overline{T_v}\pm i)=\overline{{\rm Ran}(T_v\pm i)} $$ であるから、$v\in \mathcal{H}_T(v)$ に対し $w_{\pm}\in D_T(v)$ で、 $$ \lVert v-(T_v\pm i)w_{\pm}\rVert<\frac{\epsilon}{2}\quad\quad(**) $$ を満たすものが取れる。よって $(*),(**)$ より、 $$ \lVert u-(T\pm i)w_{\pm}\rVert\leq \lVert u-v\rVert+\lVert v-(T_v\pm i)w_{\pm}\rVert<\epsilon $$ であるから、${\rm Ran}(T\pm i)$ は $\mathcal{H}$ で稠密である。

系21.7(Nelsonの解析ベクトル定理の系)

$T$ をHilbert空間 $\mathcal{H}$ 上の対称作用素とし、$D\subset D(T)$ が次を満たすとする。

  • $(1)$ $D$ は稠密な線形部分空間である。
  • $(2)$ $D$ は $T$ の作用に対して不変(すなわち $T(D)\subset D$)である。
  • $(3)$ $D$ の任意の元は $T$ の解析ベクトルである。

このとき $T$ は本質的に自己共役であり、$D$ は $\overline{T}$ の芯である。

Proof.

$(1)$ より $T|_D\colon D\ni v\mapsto Tv\in \mathcal{H}$ は $\mathcal{H}$ 上の対称作用素であり、$(2)$ より、 $$ (T|_D)^nv=T^nv\quad(\forall v\in D,\forall n\in \mathbb{Z}_+)\quad\quad(*) $$ である。$(*)$ と $(3)$ より、 $$ R_{T|_D}(v)=R_T(v)>0\quad(\forall v\in D) $$ であるから、$D$ の任意の元は対称作用素 $T|_D$ の解析ベクトルである。よってNelsonの解析ベクトル定理(定理21.6)より $T|_D$ は本質的に自己共役である。ゆえに、 $$ \overline{T|_D}\subset \overline{T}\subset (\overline{T})^*\subset (\overline{T|_D})^*=\overline{T|_D} $$ であるから $\overline{T}=\overline{T|_D}$ である。よって $T$ は本質的に自己共役であり、$D$ は $\overline{T}$ の芯である。

参考文献

脚注

  1. 任意の $v\in\overline{{\rm Ran}(T)}$ に対し $v$ に収束する ${\rm Ran}(T)$ の列 $(Tu_n)_{n\in\mathbb{N}}$ が取れる。$(*)$ より $(u_n)_{n\in\mathbb{N}}$ はCauchy列であるから $u=\lim_{n\rightarrow\infty}u_n\in \mathcal{H}$ が存在する。よって $v=\lim_{n\rightarrow\infty}Tu_n=Tu$ であるから $v\in{\rm Ran}(T)$ である。ゆえに ${\rm Ran}(T)$ は閉である。同様に ${\rm Ran}(T^*)$ も閉である。
  2. $X$ を位相空間とする。$x\in X$ が $X$ の孤立点であるとは $\{x\}$ が $X$ の開集合であることを言う。
  3. $\bigoplus_{j\in J}^{(\infty)}\mathbb{B}(\mathcal{H}_j,\mathcal{K}_j)$ はBanach空間の族 $(\mathbb{B}(\mathcal{H}_j,\mathcal{K}_j) )_{j\in J}$ の $\ell^\infty$ 直和Banach空間(測度と積分6:数え上げ測度と $\ell^p$ 空間定義26.1)である。
  4. $K\subset X$ をコンパクト集合、$\pi_j\colon X\rightarrow X_j$ を自然な射影 $(j=1,\ldots,N)$ とすると、各 $\pi_j(K)$ はコンパクトであり、$K\subset \pi_1(K)\times \cdots\times \pi_N(K)$ である。
  5. 複素数値Borel測度 $\mu_1,\mu_2:{\cal B}_X\rightarrow \mathbb{C}$ が ${\cal A}({\cal C})$ 上で一致するとする。$\{B\in {\cal B}_X: \mu_1(B)=\mu_2(B)\}$ は ${\cal A}({\cal C})$ を含む単調族であるから、${\cal A}({\cal C})$ から生成される単調族 ${\cal M}({\cal A}({\cal C}))$ を含む。単調族定理(測度と積分3:測度論の基本定理(1)定理12.8)より ${\cal B}_X=\sigma({\cal A}({\cal C}))={\cal M}({\cal A}({\cal C}))$ であるから、任意の $B\in {\cal B}_X$ に対し $\mu_1(B)=\mu_2(B)$ である。
  6. $\mathcal{A}(\mathcal{C})\ni A\mapsto E(A)\in\mathbb{P}(\mathcal{H})$ の加法性より、$A\subset B$ ならば $E(B)=E(A)+E(B\backslash A)\geq E(A)$ であるから、$E(A)=E(A)E(B)$ である。また $A\cap B=\emptyset$ ならば $E(A)$ と $E(B)$ は直交する。よって任意の $A,B\in\mathcal{A}(\mathcal{C})$ に対し $E(A)E(B)=E(A\cap B)E(B)+E(A\backslash B)E(B)=E(A\cap B)$ である。
  7. Sobolev空間の基本事項を参照。
  8. Plancherelの定理((緩増加超関数とFourier変換定理19.1)よりユニタリ作用素である。
  9. 非負値可測関数の射影値測度による積分は命題6.8の $(2)$ と命題6.12より非負自己共役作用素である。
  10. $h\colon\mathbb{R}^N\rightarrow \mathbb{R}$ を $h(x)=\lambda-\lvert x\rvert^2$ とおけば $(***)$ の任意の元 $x$ に対し $dh_x=-\sum_{j=1}^{N}2x_jdx_j\neq0$ であるからベクトル解析1:Euclid空間内の多様体上の関数の微分定理8.2(陰関数定理)より $(**)$ は $\mathbb{R^N}$ 内の $N-1$ 次元多様体である。
  11. コンパクト作用素環 $\mathbb{B}_0(L^2(\mathbb{R}^3))$ は作用素ノルムで閉であることによる。
  12. Sobolev空間の基本事項定理32.2を参照。
  13. Sobolev空間の基本事項定理32.2を参照。
  14. コンパクト空間からHausdorff空間への全単射連続写像は同相写像である。Banach環とC*-環のスペクトル理論補題6.4を参照。
  15. $\mathcal{M}$ が $\mathbb{B}(\mathcal{H})$ の単位元(恒等作用素)を含むならばこの条件は満たされる。
  16. 反線形写像については位相線形空間1:ノルムと内積定義6.3を参照。
  17. 位相線形空間1:ノルムと内積命題3.6と全く同様にして示すことができる。