ベクトル解析4:Euclid空間内の多様体上の測度と積分
この章では、Euclid空間内の多様体上に自然に定義される測度(Riemann測度)による積分について述べる。この測度はEuclid空間のLebesgue測度の一般化である。例えば $\mathbb{R^N}$ 内の $N-1$ 次元多様体(超曲面)のRiemann測度は面積を表す。
- ベクトル解析1:Euclid空間内の多様体上の関数の微分
- ベクトル解析2:微分形式
- ベクトル解析3:Euclid空間内の多様体の計量
- ベクトル解析4:Euclid空間内の多様体上の測度と積分
- ベクトル解析5:多様体の向き
- ベクトル解析6:Stokesの定理
15. 多様体におけるUrysohnの補題と $1$ の分割
注意15.1(Euclid空間内の多様体は第二可算局所コンパクトHausdorff空間)
Euclid空間内の多様体の各点はEuclid空間の開集合と同相な開近傍を持つので局所コンパクトである。またEuclid空間は第二可算であるからEuclid空間内の多様体は第二可算である。
定義15.2($C^k(M), C^k_c(M)$)
$M$ をEuclid空間内の多様体とし、$M\rightarrow\mathbb{C}$の $C^k$ 級関数全体を $C^k(M)$ とする。そして、 $$ \begin{aligned} &C^k_c(M)\colon=\{f\in C^k(M):\text{supp}(f)\text{ はコンパクト}\},\\ &C^k_{c,\mathbb{R}}(M)\colon=\{f\in C^k_c(M):\forall p\in M,\text{ }f(p)\in \mathbb{R}\},\\ &C^k_{c,+}(M)\colon=\{f\in C^k_c(M):\forall p\in M,\text{ }f(p)\in [0,\infty)\} \end{aligned} $$ とおく。
補題15.3
次が成り立つ。
- $(1)$
$$ h(t)\colon=\left\{\begin{array}{cl}e^{-\frac{1}{t}}&(t>0)\\0&(t\leq0)\end{array}\right. $$ として定義される $h\colon\mathbb{R}\rightarrow[0,\infty)$ は $C^\infty$ 級である。
- $(2)$ 任意の $x_0\in \mathbb{R}^N$ と任意の $\epsilon\in (0,\infty)$ に対し $f\in C_{c,+}^{\infty}(\mathbb{R}^N)$ で、
$$ (f>0)=\{x\in\mathbb{R}^N:\lvert x-x_0\rvert<\epsilon\},\quad f(x)=f(y)\quad(\forall x,y\in\mathbb{R}^N\colon\lvert x-x_0\rvert=\lvert y-x_0\rvert) $$ なるものが存在する。
Proof.
- $(1)$
$$ \lim_{t\rightarrow+0}\frac{1}{t^k}e^{-\frac{1}{t}}=0\quad(\forall k\in\mathbb{N}) $$ であることによる。
- $(2)$ $(1)$ における $h$ に対し $f(x)\colon=h(\epsilon^2-\lvert x-x_0\rvert^2)$ $(\forall x\in\mathbb{R}^N)$ とおけばよい。
補題15.4
$M$ をEuclid空間内の多様体とする。次が成り立つ。
- $(1)$ 任意の $p_0\in M$ と $p_0$ の開近傍 $V\subset M$ に対し $f\in C_{c,+}^\infty(M)$ で、
$$ f(p_0)>0,\quad \text{supp}(f)\subset U $$ を満たすものが存在する。
- $(2)$ $K\subset V\subset M$ なる $M$ のコンパクト集合 $K$ と開集合 $V$ に対し $f\in C_{c,+}^\infty(M)$で、
$$ f(p)>0\quad(\forall p\in K),\quad \text{supp}(f)\subset V $$ を満たすものが存在する。
Proof.
- $(1)$ $p_0$ の周りの $M$ の局所座標 $(U,\varphi)$ で $U\subset V$ なるものを取る。補題15.3の $(2)$ より $h\in C_{c,+}^{\infty}(\varphi(U))$ で $h(\varphi(p_0))>0$ なるものが取れる。$\varphi^{-1}(\text{supp}(h))$ は $U$ に含まれるコンパクト集合であることに注意して、
$$ f(p)\colon=\left\{\begin{array}{cl}h(\varphi(p))&(p\in U)\\0&(p\in M\backslash U)\end{array}\right. $$ として $f:M\rightarrow [0,\infty)$ を定義する。 $$ M=U\cup M\backslash \varphi^{-1}(\text{supp}(h)) $$ であり、$f$ は開集合 $U$ 上で $C^\infty$ 級であり、開集合 $M\backslash \varphi^{-1}(\text{supp}(h))$ 上で $0$ であるから、$f$ は $M$ 上で $C^\infty$ 級である。$\text{supp}(f)\subset \varphi^{-1}(\text{supp}(h))$ であり、右辺はコンパクトであるから $f\in C^\infty_{c,+}(M)$ である。$f(p_0)=h(\phi(p_0))>0$、$\text{supp}(f)\subset U\subset V$ であるから $f$ は条件を満たす。
- $(2)$ 任意の $p\in K$ に対し $(1)$ より $f_p\in C_{c,+}^{\infty}(M)$ で $f_p(p)>0$, $\text{supp}(f_p)\subset V$ なるものが取れる。$K$ はコンパクトなので有限個の $p_1,\ldots,p_n\in K$ が取れて、
$$ K\subset \bigcup_{j=1}^{n}(f_{p_j}>0) $$ となる。$f\colon=\sum_{j=1}^{n}f_{p_j}\in C_{c,+}^{\infty}(M)$ とおけば、 $$ K\subset \bigcup_{j=1}^{n}(f_{p_j}>0)=(f>0)\subset \text{supp}(f)\subset \bigcup_{j=1}^{n}\text{supp}(f_{p_j})\subset V $$ である。
□定理15.5(多様体におけるUrysohnの補題)
$M$ をEuclid空間内の多様体とする。$K\subset V\subset M$ なる $M$ のコンパクト集合 $K$ と開集合 $V$ に対し台がコンパクトな $C^\infty$級関数 $f\colon M\rightarrow[0,1]$ で、 $$ f(p)=1\quad(\forall p\in K),\quad \text{supp}(f)\subset V $$ なるものが存在する。
Proof.
補題15.4の $(2)$ より $f_1\in C_{c,+}^{\infty}(M)$ で、 $$ K\subset (f_1>0)\subset \text{supp}(f_1)\subset V $$ なるものが取れる。$\text{supp}(f_1)\backslash (f_1>0)\subset V\backslash K$ であり左辺はコンパクト、右辺は開集合なので再び補題15.4の $(2)$ より $f_2\in C_{c,+}^{\infty}(M)$ で、 $$ \text{supp}(f_1)\backslash (f_1>0)\subset (f_2>0)\subset \text{supp}(f_2)\subset V\backslash K $$ なるものが取れる。今、$f\colon M\rightarrow [0,1]$ を、 $$ f(p)\colon=\left\{\begin{array}{cl}\frac{f_1(p)}{f_1(p)+f_2(p)}&(p\in (f_1+f_2)>0) )\\ 0&(p\in (f_1+f_2=0) )\end{array}\right. $$ として定義する。$\text{supp}(f_1)\backslash (f_1>0)\subset (f_2>0)$ より $\text{supp}(f_1)\subset (f_1+f_2>0)$ であり、$M\backslash\text{supp}(f_1)$ 上で $f=0$ であるから $\text{supp}(f)\subset \text{supp}(f_1)\subset V$、$f\in C_{c,+}^{\infty}(M)$である。また $K\subset (f_1>0)\cap (f_2=0)$ であるから $K$ 上で $f=1$である。よって $f$ は条件を満たす。
□系15.6(多様体における $1$ の有限分割)
$M$ をEuclid空間内の多様体、$K\subset M$ をコンパクト集合、 $V_1,\ldots,V_n\subset M$ を開集合とし $K\subset \bigcup_{j=1}^{n}V_j$ とする。 このとき台がコンパクトな $C^\infty$ 級関数 $f_1,\ldots,f_n\colon M\rightarrow [0,1]$ で、 $$ \text{supp}(f_j)\subset V_j\quad(j=1,\ldots,n),\quad \sum_{j=1}^{n}f_j(x)=1\quad(\forall x\in K) $$ を満たすものが存在する。
Proof.
定理15.5を用いて、測度と積分7:局所コンパクトHausdorff空間上のRadon測度の定理27.7の証明と全く同様にして証明できる。
□補題15.7
$X$ を第二可算局所コンパクトHausdorff空間とする。このとき閉包がコンパクトな $X$ の開集合の単調増加列 $(\Omega_n)_{n\in\mathbb{N}}$ で、 $$ X=\bigcup_{n\in\mathbb{N}}\Omega_n,\quad \overline{\Omega_n}\subset \Omega_{n+1}\quad(\forall n\in\mathbb{N}) $$ なるものが取れる。
Proof.
測度と積分7:局所コンパクトHausdorff空間上のRadon測度の命題27.4より $X$ の開集合の可算基で閉包がコンパクトな開集合からなるもの $\{U_n\}_{n\in\mathbb{N}}$ が取れる。$X=\bigcup_{n\in \mathbb{N}}U_n$ である。$\Omega_1\colon=U_1$とおく。 $$ \overline{\Omega_1}\subset U_1\cup\ldots\cup U_{k(2)} $$ なる $k(2)>1$ を取り $\Omega_2:=U_1\cup\ldots\cup U_{k(2)}$ とおく。 $$ \overline{\Omega_2}\subset U_1\cup\ldots\cup U_{k(3)} $$ なる $k(3)>k(2)$ を取り $\Omega_3:=U_1\cup\ldots\cup U_{k(3)}$ とおく。同様のことを繰り返せば条件を満たす開集合の列 $(\Omega_n)_{n\in\mathbb{N}}$ が構成できる。
□定理15.8(多様体における $1$ の可算分割)
$M$ をEuclid空間内の多様体とする。$M$ の任意の開被覆 $\mathcal{O}$ に対し $C_{c,+}^{\infty}(M)$ の列 $(f_i)_{i\in \mathbb{N}}$ で次の条件を満たすものが取れる。
- $(1)$ 任意の $i\in \mathbb{N}$ に対し $\text{supp}(f_i)\subset V_i$ なる $V_i\in \mathcal{O}$ が存在する。
- $(2)$ 任意の $i\in \mathbb{N}$ に対し $(f_i>0)\cap (f_j>0)\neq\emptyset$ なる $j\in \mathbb{N}$ は有限個である。
- $(3)$ 任意の $p\in M$ に対し $\sum_{i\in \mathbb{N}}f_i(p)=1$.
Proof.
補題15.7より閉包がコンパクトな開集合の単調増加列 $(\Omega_n)_{n\in\mathbb{N}}$ で、 $$ M=\bigcup_{n\in\mathbb{N}}\Omega_n,\quad \overline{\Omega_n}\subset \Omega_{n+1}\quad(\forall n\in\mathbb{N}) $$ なるものが取れる。$\Omega_0=\Omega_{-1}=\emptyset$ とおく。 $$ \overline{\Omega_n}\backslash \Omega_{n-1}\subset \Omega_{n+1}\backslash\overline{\Omega_{n-2}}\quad(\forall n\in\mathbb{N})\quad\quad(*) $$ であり、 $$ M=\bigcup_{n\in\mathbb{N}}\overline{\Omega_n}\backslash \Omega_{n-1},\quad\quad(**) $$ $$ (\Omega_{n+1}\backslash\overline{\Omega_{n-2}})\cap (\Omega_{m+1}\backslash\overline{\Omega_{m-2}})=\emptyset\quad(\forall n,m\in\mathbb{N}:\lvert n-m\rvert\geq 3)\quad\quad(***) $$ である。任意の $n\in\mathbb{N}$ を取る。任意の $p\in \overline{\Omega_n}\backslash \Omega_{n-1}$ に対し $p\in V_p$ なる $V_p\in \mathcal{O}$ を取り $(*)$ とUrysohnの補題(定理15.5)により $C^\infty$ 級関数 $h_p\colon M\rightarrow[0,1]$ で、 $$ h_p(p)>0,\quad \text{supp}(h_p)\subset V_p\cap\Omega_{n+1}\backslash\overline{\Omega_{n-2}} $$ なるものを取る。$\overline{\Omega_n}\backslash \Omega_{n-1}$ はコンパクトなので有限個の $p_1,\ldots,p_k\in \overline{\Omega_n}\backslash \Omega_{n-1}$ が取れて、 $$ \overline{\Omega_n}\backslash \Omega_{n-1}\subset \bigcup_{j=1}^{k}(h_{p_j}>0)\subset \bigcup_{j=1}^{k}\text{supp}(h_{p_j})\subset\Omega_{n+1}\backslash \overline{\Omega_{n-2}} $$ となる。$h_{p_1},\ldots,h_{p_k}$ を改めて $h_{n,1},\ldots,h_{n,m(n)}\in C_{c,+}^{\infty}(M)$ と書き直す。そして $C_{c,+}^{\infty}(M)$ の列 $$ h_{1,1},\ldots,h_{1,m(1)},h_{2,1},\ldots,h_{2,m(2)},h_{3,1},\ldots,h_{3,m(3)},\ldots $$ を改めて $h_1,h_2,h_3,\ldots$ とする。このとき $(****)$ より任意の $i\in\mathbb{N}$ に対し $\text{supp}(h_i)\subset V_i$ なる $V_i\in \mathcal{O}$ が取れる。そして $(***)$ より任意の $i\in\mathbb{N}$ に対し $(h_i>0)\cap (h_j>0)\neq\emptyset$ なる $j\in\mathbb{N}$ は有限個である。また $(**)$ より $M=\bigcup_{i\in\mathbb{N}}(h_i>0)$ である。これより、 $$ h(p)\colon=\sum_{i\in \mathbb{N}}h_i(p)\quad(\forall p\in M) $$ として正数値 $C^\infty$ 級関数 $h:M\rightarrow(0,\infty)$ が定義できる。そこで任意の $i\in\mathbb{N}$ に対し $C^\infty$ 級関数 $f_i:M\rightarrow [0,1]$ を、 $$ f_i(p):=\frac{h_i(p)}{h(p)}\quad(\forall p\in M) $$ として定義すれば $(f_i)_{i\in\mathbb{N}}$ は条件 $(1),(2),(3)$ を満たす。
□命題15.9
$M$ をEuclid空間内の多様体とする。$F\subset V\subset M$ とし $F$ を閉集合、 $V$ を開集合とする。このとき $C^\infty$ 級関数 $f\colon M\rightarrow [0,1]$ で、 $$ f(p)=1\quad(\forall p\in F),\quad f(p)=0\quad(\forall p\in M\backslash V) $$ なるものが取れる。
Proof.
$C_{c,+}^{\infty}(M)$ の列 $(f_i)_{i\in \mathbb{N}}$ で定理14.8の $(2),(3)$ の条件を満たすものを取る。各 $i\in\mathbb{N}$ に対し $F\cap \text{supp}(f_i)$ はコンパクトであるからUrysohnの補題(定理15.5)より $C^\infty$ 級関数 $\omega_i\colon M\rightarrow [0,1]$ で、 $$ \omega_i(p)=1\quad(\forall p\in F\cap \text{supp}(f_i)),\quad \text{supp}(\omega_i)\subset V $$ なるものが取れる。そこで、 $$ f(p)\colon=\sum_{i\in\mathbb{N}}f_i(p)\omega_i(p)\quad(\forall p\in M) $$ として $C^\infty$ 級関数 $f\colon M\rightarrow [0,1]$ を定義する。任意の $p\in F$ を取る。$f_i(p)>0$ なる任意の $i\in\mathbb{N}$ に対し $\omega_i(p)=1$ であるから $f(p)=1$ である。また任意の $p\in M\backslash V$、任意の $i\in\mathbb{N}$ に対し $\omega_i(p)=0$ であるから $f(p)=0$ である。
□16. Euclid空間内の多様体のRiemann測度
定義16.1
$M$ をEuclid空間内の $n$ 次元多様体とする。$M$ の任意の局所座標 $(U,\varphi)$ に対し $U$ 上のBorel測度 $\mu_{(U,\varphi)}:\mathcal{B}_U\rightarrow [0,\infty]$ を、 $$ \mu_{(U,\varphi)}(B)\colon=\int_{\varphi(U)}\left(\chi_{B}\sqrt{G_{(U,\varphi)}}\right)(\varphi^{-1}(x))dx\quad(\forall B\in \mathcal{B}_U) $$ として定義する。ただし $G_{(U,\varphi)}(p)$ $(\forall p\in U)$ は $(U,\varphi)$ に対する計量行列の行列式(定義12.2)であり、右辺の積分は $\mathbb{R}^n$ のLebesgue測度に関する積分である。
注意16.2
任意の非負値Borel関数 $f\colon U\rightarrow [0,\infty]$ に対し、非負値Borel単関数による各点単調増加列による近似(測度と積分1:測度論の基礎用語の定理5.5)と単調収束定理(測度と積分2:測度空間上の積分の定理8.4)より、 $$ \int_{U}f(p)d\mu_{(U,\varphi)}(p)=\int_{\varphi(U)}\left(f\sqrt{G_{(U,\varphi)}}\right)(\varphi^{-1}(x))dx $$ である。
補題16.3
$M$をEuclid空間内の多様体、$(U,\varphi)$, $(V,\psi)$ を $M$ の局所座標で $U\cap V\neq\emptyset$ なるものとする。このとき任意の $B\in \mathcal{B}_{U\cap V}=\mathcal{B}_U\cap \mathcal{B}_V$ に対し、 $$ \mu_{(U,\varphi)}(B)=\mu_{(V,\psi)}(B) $$ が成り立つ。
Proof.
命題1.5より、 $$ \psi\circ\varphi^{-1}:\varphi(U\cap V)\ni \varphi(p)\mapsto \psi(p)\in \psi(U\cap V) $$ は $C^\infty$ 級同相写像である。そして命題12.3より、 $$ \sqrt{G_{(V,\psi)}}(\psi^{-1}(x))=\sqrt{G_{(U,\varphi)}(\psi^{-1}(x))}\left\lvert {\rm det}(\varphi\circ\psi^{-1})'(x)\right\rvert $$ である。よって変数変換公式(測度と積分8:Lebesgue測度の基本的性質の補題40.3)より、 $$ \begin{aligned} \mu_{(U,\varphi)}(B)&=\int_{\varphi(U\cap V)}\left(\chi_{B}\sqrt{G_{(U,\varphi)}}\right)(\varphi^{-1}(x))dx\\ &=\int_{\psi(U\cap V)}\left(\chi_{B}\sqrt{G_{(U,\varphi)}}\right)(\psi^{-1}(x))\left\lvert{\rm det}(\varphi\circ\psi^{-1})'(x)\right\rvert dx\\ &=\int_{\psi(U\cap V)}\left(\chi_{B}\sqrt{G_{(V,\psi)}}\right)(\psi^{-1}(x))dx\\ &=\mu_{(V,\psi)}(B). \end{aligned} $$
□注意16.4
Euclid空間内の多様体 $M$ は第二可算性より可算なアトラス $\{(U_i,\varphi_i)\}_{i\in\mathbb{N}}$ を持つ。そして任意の $B\in \mathcal{B}_M$ に対し $\mathcal{B}_M$ の非交叉列 $(B_i)_{i\in\mathbb{N}}$ で、 $$ B=\bigcup_{i\in\mathbb{N}}B_i,\quad B_i\subset U_i\quad(\forall i\in \mathbb{N}) $$ なるものが取れる。実際、$B_1\colon=B\cap U_1$, $B_i\colon=(B\cap U_i)\backslash(U_1\cup\ldots\cup U_{i-1})$ $(\forall i\geq2)$ とおけばよい。
定理16.5(Euclid空間内の多様体上のRiemann測度の一意存在)
$M$ をEuclid空間内の多様体とする。このときBorel測度 $\mu_M\colon\mathcal{B}_M\rightarrow [0,\infty]$ で $M$ の任意の局所座標 $(U,\varphi)$ に対し、 $$ \mu_M(B)=\mu_{(U,\varphi)}(B)\quad(\forall B\in \mathcal{B}_U) $$ を満たすものが唯一つ存在する。
Proof.
一意性は注意16.4による。存在を示す。 $1$の分割(定理15.8)より $C_{c,+}^{\infty}(M)$ の列 $(f_i)_{i\in \mathbb{N}}$ と $M$ の局所座標の列 $( (U_i,\varphi_i) )_{i\in\mathbb{N}}$ で、 $$ \text{supp}(f_i)\subset U_i\quad(\forall i\in \mathbb{N}),\quad \sum_{i\in\mathbb{N}}f_i(p)=1\quad(\forall p\in M) $$ を満たすものが取れる。これに対し $\mu_M\colon\mathcal{B}_M\rightarrow [0,\infty]$ を、 $$ \mu_M(B)\colon=\sum_{i\in\mathbb{N}}\int_{U_i}f_i(p)\chi_{B}(p)d\mu_{(U_i,\varphi_i)}(p)\quad(\forall B\in \mathcal{B}_M) $$ として定義する。単調収束定理(測度と積分2:測度空間上の積分の定理8.4)より $\mu_M$ は $\sigma$-加法性を持つ。$M$ の任意の局所座標 $(U,\varphi)$ を取る。任意の $B\in \mathcal{B}_U$ に対し ${\rm supp}(f_i \chi_B)\subset U_i\cap U$ であるから補題16.3より、 $$ \int_{U_i}f_i(p)\chi_{B}(p)d\mu_{(U_i,\varphi_i)}(p)=\int_{U}f_i(p)\chi_{B}(p)d\mu_{(U,\varphi)}(p)\quad(\forall i\in\mathbb{N}:U\cap U_i\neq\emptyset) $$ であるから、 $$ \begin{aligned} \mu_M(B)&=\sum_{i\in\mathbb{N}}\int_{U_i}f_i(p)\chi_{B}(p)d\mu_{(U_i,\varphi_i)}(p) =\sum_{i\in\mathbb{N}}\int_{U}f_i(p)\chi_{B}(p)d\mu_{(U,\varphi)}(p)\\ &=\int_{U}\sum_{i\in\mathbb{N}}f_i(p)\chi_{B}(p)d\mu_{(U,\varphi)}(p) =\mu_{(U,\varphi)}(B) \end{aligned} $$ である。これで存在が示された。
□定義16.6(Euclid空間内の多様体上のRiemann測度)
$M$ をEuclid空間内の多様体とする。定理16.6よりBorel測度 $\mu_M\colon\mathcal{B}_M\rightarrow [0,\infty]$ で $M$ の任意の局所座標 $(U,\varphi)$ に対し、 $$ \mu_M(B)=\int_{\varphi(U)}\left(\chi_{B}\sqrt{G_{(U,\varphi)}}\right)(\varphi^{-1}(x))dx\quad(\forall B\in \mathcal{B}_U)\quad\quad(*) $$ を満たすものが唯一つ存在する。これを $M$ のRiemann測度と言う。
注意16.7
- $M$ をEuclid空間内の多様体、$D\subset M$ を空でない開集合とする。このとき $D$ の任意の局所座標は $M$ の局所座標である。よって注意16.4より $D$ のRiemann測度は $M$ のRiemann測度の制限である。
- $\mathbb{R}^N$ の標準座標 $(\mathbb{R}^N,\text{id})$ に対する計量行列は単位行列であるから、その行列式 $\sqrt{G_{(\mathbb{R}^N,\text{id})}}$ は $1$ である。よって定義16.6の $(*)$ より $\mathbb{R}^N$ のRiemann測度はLebesgue測度である。
定義16.8(超曲面の面積測度)
$M$ が $\mathbb{R}^N$ の超曲面の場合、$M$ の任意の局所座標 $(U,\varphi;x_1,\ldots,x_{N-1})$ と任意の $p\in U$ に対し、 $$ \sqrt{G_{(U,\varphi)}(p)}=\left\lvert \frac{\partial}{\partial x_1}p\times\ldots \times \frac{\partial}{\partial x_{N-1}}p\right\rvert $$ であり(定義12.2を参照)、これは $M$ の $p$ における接ベクトル $$ \frac{\partial}{\partial x_1}p,\ldots,\frac{\partial}{\partial x_{N-1}}p\in \mathbb{R}^N $$ が張る面の面積である(注意11.3を参照)。このことと定義16.6の $(*)$ より超曲面 $M$ のRiemann測度 $\mu_M$ は $M$ の面積を与えると考えられる。そこで超曲面のRiemann測度を面積測度と呼ぶ。
定義16.9($1$ 次元多様体の線測度)
$M$ が $\mathbb{R}^N$ 内の $1$ 次元多様体の場合、$M$ の任意の局所座標 $(U,x)$ と任意の $p\in U$ に対し、 $$ \sqrt{G_{(U,x)}(p)}=\left\lvert \frac{\partial}{\partial x}p\right\rvert\quad(\forall p\in U) $$ である(定義12.2を参照)。よって定義16.6の $(*)$ より $1$ 次元多様体 $M$ のRiemann測度 $\mu_M$ は $M$ の長さを与えると考えられる。そこで $1$ 次元多様体のRiemann測度を線測度と呼ぶ。
命題16.10(次元の小さい部分多様体のRiemann測度は$0$)
$M$ をEuclid空間内の $n$ 次元多様体、$H$ を $M$ の $k$ 次元部分多様体とし $k<n$ とする。このとき $\mu_M(H)=0$ である。
証明
命題2.5と第二可算性より $H$ を被覆する $M$ の局所座標の可算族 $\{(U_i,\varphi_i)\}_{i\in\mathbb{N}}$ で、 $$ \varphi_i(U_i\cap H)=\varphi_i(U_i)\cap (\mathbb{R}^k\times\{0\})\quad(\forall i\in \mathbb{N}) $$ を満たすものが取れる。$\mathbb{R}^k\times \{0\}$ の $\mathbb{R}^n$ におけるLebesgue測度は $0$ であるから任意の $i\in\mathbb{N}$ に対し、 $$ \begin{aligned} \mu_M(U_i\cap H)&=\int_{\varphi_i(U_i)}\left(\chi_{U_i\cap H}\sqrt{G_{(U_i,\varphi_i)}}\right)(\varphi_i^{-1}(x))dx\\ &=\int_{\varphi_i(U_i)\cap(\mathbb{R}^k\times\{0\})}\sqrt{G_{(U,\varphi)}(\varphi_i^{-1}(x))}dx=0 \end{aligned} $$ である。$H=\bigcup_{i\in\mathbb{N}}(U_i\cap H)$ であるから $\mu_M(H)\leq \sum_{i\in\mathbb{N}}\mu_M(U_i\cap H)=0$ である。
□命題16.11(Riemann測度はRadon測度)
Riemann測度はRadon測度(測度と積分7:局所コンパクトHausdorff空間上のRadon測度の定義29.3)である。
Proof.
$M$ をEuclid空間内の多様体、$\mu_M\colon\mathcal{B}_M\rightarrow [0,\infty]$ を $M$ のRiemann測度とする。$M$ は第二可算局所コンパクトHausdorff空間であるから、測度と積分7:局所コンパクトHausdorff空間上のRadon測度の定理31.5より任意のコンパクト集合 $K\subset M$ に対し $\mu_M(K)<\infty$ であることを示せばよい。$K$ のコンパクト性より有限個の局所座標 $(U_i,\varphi_i)$ $(i=1,\ldots,k)$ で、 $$ K\subset \bigcup_{i=1}^{k}U_i $$ なるものが取れる。そして $1$ の有限分割(系15.6)より $f_1,\ldots,f_k\in C_{c,+}^{\infty}(M)$ で、 $$ \text{supp}(f_i)\subset U_i\quad(i=1,\ldots,k),\quad \sum_{i=1}^{k}f_i(p)=1\quad(\forall p\in K) $$ なるものが取れる。$\varphi_i(K\cap \text{supp}(f_i))$ はコンパクトであり、$\left(f_i\sqrt{G_{(U_i,\phi_i)}}\right)\circ\varphi_i^{-1}:\varphi_i(K\cap \text{supp}(f_i))\rightarrow [0,\infty)$ は連続であるから、 $$ \begin{aligned} \mu_M(K)&=\sum_{i=1}^{k}\int_{M}f_i(p)\chi_K(p)d\mu_{M}(p) =\sum_{i=1}^{k}\int_{U_i}f_i(p)\chi_{K\cap \text{supp}(f_i)}(p)d\mu_{(U_i,\varphi_i)}(p)\\ &=\sum_{i=1}^{k}\int_{\varphi_i(K\cap \text{supp}(f_i))}\left(f_i\sqrt{G_{U_i,\varphi_i}}\right)(\varphi_i^{-1}(x))dx<\infty \end{aligned} $$ である。よって $\mu_M$ はRadon測度である。
□系16.12
$M$ をEuclid空間内の多様体、$\mu_M\colon\mathcal{B}_M\rightarrow[0,\infty]$ をRiemann測度とする。このとき次が成り立つ。
- $(1)$ 任意の開集合 $V\subset M$ に対し、
$$ \mu_M(V)=\sup\left\{\int_{M}f(p)d\mu_M(p):f\in C_{c,+}^\infty(M),\text{ } \text{supp}(f)\subset V,\text{ }f(M)\subset [0,1]\right\}. $$
- $(2)$ 任意のコンパクト集合 $K\subset M$ に対し、
$$ \mu_M(K)=\inf\left\{\int_{M}f(p)d\mu_M(p):f\in C_{c,+}^{\infty}(M),\text{ }f|_K=1,\text{ }f(M)\subset [0,1]\right\}. $$
- $(3)$ 任意の $p\in [1,\infty)$ と任意の $f\in \mathcal{L}^p(M,\mathcal{B}_M,\mu_M)$ に対し $C_{c}^{\infty}(M)$ の列 $(f_i)_{i\in\mathbb{N}}$ で、
$$ \lim_{i\rightarrow\infty}\lVert f_i-f\rVert_{\mu_M,p}=0 $$ なるものが取れる。
Proof.
測度と積分7:局所コンパクトHausdorff空間上のRadon測度の命題29.4と命題32.1の証明で局所コンパクトHausdorff空間におけるUrysohnの補題を用いたところで、多様体におけるUrysohnの補題(定理15.5)を用いればよい。
□注意16.13(Euclid空間内の多様体の直積)
$M_1,\ldots,M_k$ をそれぞれEuclid空間 $\mathbb{R}^{N_1},\ldots, \mathbb{R}^{N_k}$ 内の $n_1,\ldots,n_k$ 次元多様体とし、$(U_1,\varphi_1),\ldots,(U_k,\varphi_k)$ をそれぞれ $M_1,\ldots,M_k$ の任意の局所座標とする。 このとき、 $$ \varphi_1\times\ldots\times \varphi_k:U_1\times\ldots\times U_k\ni (p_1,\ldots,p_k)\mapsto (\varphi_1(p_1),\ldots,\varphi_k(p_k))\in \varphi_1(U_1)\times\ldots\times\varphi_k(U_k) $$ は $M_1\times\ldots\times M_k\subset \mathbb{R}^{N_1+\ldots+N_k}$ の局所座標である。 実際、 $$ \begin{aligned} \left\{(\varphi_1\times\ldots\times \varphi_k)^{-1}\right\}'(\varphi_1(p_1),\ldots,\varphi_k(p_k))\in \mathbb{M}_{(N_1+\ldots+N_k)\times (n_1+\ldots+n_k)}(\mathbb{R}) \end{aligned} $$ は $(\varphi_1^{-1})'(\varphi_1(p_1))\in \mathbb{M}_{N_1\times n_1}(\mathbb{R})$, $\ldots$, $(\varphi_k^{-1})'(\varphi_k(p_k))\in \mathbb{M}_{N_k\times n_k}(\mathbb{R})$ を対角に並べてその他を $0$ とした行列であるから、ランクは $n_1+\ldots+n_k$ である。$(U_1,\varphi_1),\ldots,(U_k,\varphi_k)$ は任意であるから $M_1\times\ldots\times M_k$ はEuclid空間 $\mathbb{R}^{N_1+\ldots+N_k}$ 内の $n_1+\ldots+n_k$ 次元多様体である。局所座標 $(U_1\times\ldots\times U_k,\varphi_1\times\ldots\times \varphi_k)$ に対する計量行列の行列式(定義12.2)は、 $$ G_{(U_1\times\ldots\times U_k,\varphi_1\times\ldots\times\varphi_k)}(p_1,\ldots,p_k)=G_{(U_1,\varphi_1)}(p_1)\ldots G_{(U_k,\varphi_k)}(p_k) $$ であるからTonelliの定理と直積測度の一意性(測度と積分3:測度論の基本定理(1)の定理14.4、定理14.1)より、 $$ \begin{aligned} \mu_{(U_1\times\ldots\times U_k,\varphi_1\times\ldots\times \varphi_k)}= \mu_{(U_1,\varphi_1)}\otimes\ldots\otimes\mu_{(U_k,\varphi_k)} =(\mu_{M_1}\otimes\ldots\otimes \mu_{M_k})|_{U_1\times\ldots\times U_k} \end{aligned} $$ である。よって注意16.4より $M_1\times\ldots\times M_k$ のRiemann測度は、 $$ \mu_{M_1\times\ldots\times M_k}=\mu_{M_1}\otimes\ldots\otimes \mu_{M_k} $$ である[1]。
17. Riemann測度に関する変数変換公式
補題17.1
$M,H$ をEuclid空間内の $n$ 次元多様体、$\Phi\colon M\rightarrow H$ を $C^1$ 級関数とする。$B\in \mathcal{B}_M$ が $¥sigma$-コンパクトな $\mu_M$-零集合であるとき、$\Phi(B)$ は $\sigma$-コンパクトな $\mu_H$ 零集合である。
Proof.
$M$の局所座標 $(U,\varphi)$ と $H$ の局所座標 $(V,\psi)$ に対し $B\subset U\cap \Phi^{-1}(V)$ であるとして示せば十分である[2]。 $$ 0=\mu_M(B)=\int_{\varphi(U)}\left(\chi_{B}\sqrt{G_{(U,\varphi)}}\right)(\varphi^{-1}(x))dx =\int_{\varphi(B)}\sqrt{G_{(U,\varphi)}}(\varphi^{-1}(x))dx $$ であり $\sqrt{G_{(U,\varphi)}}>0$ であるから $\varphi(B)\subset\mathbb{R}^n$ のLebesgue測度は $0$ である。よって $\varphi(B)$ の $C^1$ 級関数 $$ \psi\circ \Phi\circ\varphi^{-1}:\varphi(U\cap \Phi^{-1}(V))\rightarrow \mathbb{R}^n $$ による像 $\psi(\Phi(B))\subset\mathbb{R}^n$ のLebesgue測度も $0$ である(測度と積分8:Lebesgue測度の基本的性質の補題40.2)。ゆえに、 $$ \begin{aligned} \mu_H(\Phi(B))=\int_{\psi(V)}\left(\chi_{\Phi(B)}\sqrt{G_{(V,\psi)}}\right)(\psi^{-1}(x))dx =\int_{\psi(\Phi(B))}\sqrt{G_{(V,\psi)}}(\psi^{-1}(x))dx=0 \end{aligned} $$ である。
□定義17.2(ヤコビアン)
$M,H$ をEuclid空間内の $n$ 次元多様体、$\Phi\colon M\rightarrow H$ を $C^1$ 級関数とする。任意の $p\in M$ に対し $p$ の周りの $M$ の局所座標 $(U,\varphi;x_1,\ldots,x_n)$ と $\Phi(p)$ の周りの $H$ の局所座標 $(V,\psi;y_1,\ldots,y_n)$ を取り、 $$ \begin{aligned} J\Phi(p):&=\frac{\sqrt{G_{(V,\psi)}(\Phi(p))}}{\sqrt{G_{(U,\varphi)}(p)}}\left\lvert{\rm det}\left(\frac{\partial(y_i\circ\Phi)}{\partial x_j}(p)\right)_{i,j}\right\rvert\\ &=\frac{\sqrt{G_{(V,\psi)}(\Phi(p))}}{\sqrt{G_{(U,\varphi)}(p)}}\left\lvert{\rm det}\left(\psi\circ\Phi\circ\varphi^{-1}\right)'(\varphi(p))\right\rvert \end{aligned} $$ と定義する。命題12.3より $J\Phi(p)$ は $p$ の周りの $M$ の局所座標 $(U,\varphi;x_1,\ldots,x_n)$ と $\Phi(p)$ の周りの $H$ の局所座標 $(V,\psi;y_1,\ldots,y_n)$ の取り方によらない。こうして定義される連続関数 $J\Phi\colon M\ni p\mapsto J\Phi(p)\in [0,\infty)$ を $\Phi$ のヤコビアンと言う。
注意17.3
$\left(\frac{\partial(y_i\circ\Phi)}{\partial x_j}(p)\right)_{i,j}\in \mathbb{M}_{n\times n}(\mathbb{R})$ は $T_p(M)$ の基底 $(\frac{\partial}{\partial x_j}p)_{j=1,\ldots,n}$ と $T_{\Phi(p)}(H)$ の基底 $(\frac{\partial}{\partial y_i}\Phi(p))_{i=1,\ldots,n}$ に関する $d\Phi_p\colon T_p(M)\rightarrow T_{\Phi(p)}(H)$ の行列表現である(命題5.2)から $J\Phi(p)>0$ であることと $d\Phi_p:T_p(M)\rightarrow T_{\Phi(p)}(H)$ が単射(つまり線形同型写像)であることは同値である。
補題17.4
$M,H$ をEuclid空間内の $n$ 次元多様体、$\Phi\colon M\rightarrow H$ を $C^1$ 級同相写像とする。このとき任意の非負値Borel関数 $f\colon H\rightarrow [0,\infty]$ に対し、 $$ \int_{H}f(p)d\mu_H(p)=\int_{M}f(\Phi(p))J\Phi(p)d\mu_M(p) $$ が成り立つ。
Proof.
非負値Borel関数の非負値Borel単関数による各点単調増加列による近似(測度と積分1:測度論の基礎用語の定理5.5)と単調収束定理(測度と積分2:測度空間上の積分の定理8.4)より、任意の $B\in \mathcal{B}_M$ に対し、 $$ \mu_H(\Phi(B))=\int_{B}J\Phi(p)d\mu_M(p) $$ が成り立つことを示せば十分である。さらに注意16.4より $M, H$ のある局所座標 $(U,\varphi)$, $(V,\psi)$ に対し $B\subset U\cap \Phi^{-1}(V)$ であると仮定して示せば十分である。像の上への $C^1$ 級同相写像 $$ \psi\circ\Phi\circ\varphi^{-1}:\varphi(U\cap \Phi^{-1}(V))\rightarrow \psi(\Phi(U\cap \Phi^{-1}(V))) $$ に対して変数変換公式(測度と積分8:Lebesgue測度の基本的性質の補題40.3)を適用すれば、 $$ \begin{aligned} \mu_H(\Phi(B))&=\int_{\psi(V)}\left(\chi_{\Phi(B)}\sqrt{G_{(V,\psi)}}\right)(\psi^{-1}(x))dx\\ &=\int_{\psi(\Phi(U\cap \Phi^{-1}(V)))}\left(\chi_{\Phi(B)}\sqrt{G_{(V,\psi)}}\right)(\psi^{-1}(x))dx\\ &=\int_{\varphi(U\cap \Phi^{-1}(V))}\chi_B(\varphi^{-1}(x))\sqrt{G_{(V,\psi)}}(\Phi(\varphi^{-1}(x)))\left\lvert{\rm det}\left(\psi\circ\Phi\circ\varphi^{-1}\right)'(x)\right\rvert dx\\ &=\int_{\varphi(U)}\left(\chi_B\sqrt{G_{(U,\varphi)}}\right)(\varphi^{-1}(x))J\Phi(\varphi^{-1}(x))dx\\ &=\int_{B}J\Phi(p)d\mu_M(p) \end{aligned} $$ となる。よって成り立つ。
□定理17.5(Riemann測度に関する変数変換公式)
$M,H$ をEuclid空間内の $n$ 次元多様体とする。$B\in \mathcal{B}_M$ とし $\Phi\colon B\rightarrow H$ を $B$ を含む $M$ の開集合上で定義された $C^1$ 級写像を $B$ 上に制限したものとする。また $B_0$ を $B$ に含まれる $M$ の開集合とする。そして次が成り立つとする。
- $(1)$ $\Phi(B)\in \mathcal{B}_H$.
- $(2)$ $\Phi$ は $B_0$ 上で単射であり任意の $p\in B_0$ に対し $J\Phi(p)>0$. [3]。
- $(3)$ $B\backslash B_0$ は $\sigma$-コンパクトな $\mu_M$-零集合に含まれる。
このとき任意の非負値Borel関数 $f\colon\Phi(B)\rightarrow [0,\infty]$ に対し、 $$ \int_{\Phi(B)}f(p)d\mu_H(p)=\int_{B}f(\Phi(p))J\Phi(p)d\mu_M(p) $$ が成り立つ。
Proof.
$(2)$ と多様体間の写像に関する逆関数定理(命題7.3)より $\Phi(B_0)$ は $H$ の開集合であり $B_0\ni p\mapsto \Phi(p)\in \Phi(B_0)$ は $C^1$ 級同相写像である。また$\Phi(B)\backslash \Phi(B_0)\subset \Phi(B\backslash B_0)$ であるから $(1),(3)$ と補題17.1より $\mu_H(\Phi(B)\backslash \Phi(B_0))=0$ である。ゆえに補題17.4より、 $$ \int_{\Phi(B)}f(p)d\mu_H(p)=\int_{\Phi(B_0)}f(p)d\mu_H(p) =\int_{B_0}f(\Phi(p))J\Phi(p)d\mu_M(p) =\int_{B}f(\Phi(p))J\Phi(p)d\mu_M(p) $$ である。
□18. 極座標変換
定義18.1(単位球面)
$\mathbb{R}^N$ の原点を中心とする単位球面を、 $$ S_{N-1}\colon=\{x\in\mathbb{R}^N:\lvert x\rvert=1\} $$ と表す。定理8.2より $S_{N-1}$ は $\mathbb{R}^N$ の超曲面($N-1$次元多様体)である[4]。
命題18.2(極座標変換の基本性質)
$$ \Phi_N\colon\mathbb{R}^N\ni (r,\theta_1,\ldots,\theta_{N-1})\mapsto \left(\begin{array}{l}r\cos(\theta_1)\\r\sin(\theta_1)\cos(\theta_2)\\ r\sin(\theta_1)\sin(\theta_2)\cos(\theta_3)\\ \vdots\\ r\sin(\theta_1)\ldots\sin(\theta_{N-2})\cos(\theta_{N-1})\\ r\sin(\theta_1)\ldots\sin(\theta_{N-2})\sin(\theta_{N-1})\end{array}\right)\in \mathbb{R}^N $$ なる $C^\infty$ 級関数を考える。このとき、
- $(1)$
$$ [0,\pi]\times\ldots\times [0,\pi]\times[0,2\pi)\ni (\theta_1,\ldots,\theta_{N-1}) \mapsto \Phi_N(1,\theta_1,\ldots,\theta_{N-1})\in S_{N-1} $$ は全射であり、$(0,\pi)\times \ldots \times (0,\pi)\times (0,2\pi)$ 上で単射である。
- $(2)$ 任意の $(r,\theta_1,\ldots,\theta_{N-1})\in\mathbb{R}^N$ に対し、
$$ {\rm det}\Phi_N'(r,\theta_1,\ldots,\theta_{N-1})=r^{N-1}\sin(\theta_1)^{N-2}\sin(\theta_2)^{N-3}\ldots\sin(\theta_{N-2}) $$ が成り立つ。特に任意の $(r,\theta_1,\ldots,\theta_{N-1})\in (0,\infty)\times (0,\pi)\times\ldots\times (0,\pi)\times(0,2\pi)$ に対し、 $$ {\rm det}\Phi_N'(r,\theta_1,\ldots,\theta_{N-1})>0 $$ が成り立つ。
- $(3)$
$$ \Omega_N\colon=\Phi_N( (0,\infty)\times(0,\pi)\times\ldots\times(0,\pi)\times(0,2\pi) ) $$ は $\mathbb{R}^N$ の開集合であり、 $$ (r,\theta_1,\ldots,\theta_{N-1}):\Omega_N\ni x\mapsto \Phi_N^{-1}(x)\in (0,\infty)\times (0,\pi)\times\ldots\times (0,\pi)\times(0,2\pi)\quad\quad(**) $$ とおくと $(\Omega_N,r,\theta_1,\ldots,\theta_{N-1})$ は $\mathbb{R}^N$ の正の向きの直交座標(定義13.6)である。そして任意の $x\in \Omega_N$ に対し、 $$ \left\lvert\frac{\partial}{\partial r}x\right\rvert=1,\quad \left\lvert\frac{\partial}{\partial \theta_{k}}x\right\rvert=r\sin(\theta_1)\ldots\sin(\theta_{k-1})\quad(k=1,\ldots,N-1)\quad\quad(***) $$ であり、局所座標 $(\Omega_N,r,\theta_1,\ldots,\theta_{N-1})$ の計量行列の行列式 $G_{(\Omega_N,r,\theta_1,\ldots,\theta_{N-1})}$(定義12.2)の平方根は、 $$ \sqrt{G_{(\Omega_N,r,\theta_1,\ldots,\theta_{N-1})}(x)}=r^{N-1}\sin(\theta_1)^{N-2}\sin(\theta_2)^{N-3}\ldots\sin(\theta_{N-2}) $$ である。
- $(3)$ $S_{N-1}$ の開集合
$$ S_{N-1,0}:=S_{N-1}\cap\Omega_N=\Phi_N(\{1\}\times(0,\pi)\times\ldots\times(0,\pi)\times(0,2\pi)) $$ に対し、 $$ \Phi_{N}^{-1}(x)=(1,\Theta_{N-1}(x))\quad(\forall x\in S_{N-1,0}) $$ として、 $$ \Theta_{N-1}=(\theta_1,\ldots,\theta_{N-1}):S_{N-1}\rightarrow(0,\pi)\times\ldots\times(0,\pi)\times(0,2\pi) $$ を定義すると $(S_{N-1,0},\Theta_{N-1})$ は超曲面 $S_{N-1}$ の局所座標である。そして任意の $x\in S_{N-1,0}$ に対し $S_{N-1}$ の接ベクトル $$ \frac{\partial}{\partial \theta_1}x,\ldots,\frac{\partial}{\partial_{N-1}}x\in \mathbb{R}^N $$ は互いに直交し、 $$ \left\lvert\frac{\partial}{\partial\theta_k}x\right\rvert=\sin(\theta_1)\ldots\sin(\theta_{k-1})\quad(k=1,\ldots,N -1) $$ であり、局所座標 $(S_{N-1,0},\Theta_{N-1})$ に対する計量行列の行列式 $G_{(S_{N-1,0},\Theta_{N-1})}$ の平方根は、 $$ \sqrt{G_{(S_{N-1,0},\Theta_{N-1})}(x)}=\sin(\theta_1)^{N-2}\sin(\theta_2)^{N-3}\ldots\sin(\theta_{N-2})\quad\quad(******) $$ である。
- $(4)$ 超曲面 $S_{N-1}$ の面積測度 $\mu_{S_{N-1}}\colon\mathcal{B}_{S_{N-1}}\rightarrow[0,\infty)$ に対し、
$$ \mu_{S_{N-1}}(S_{N-1}\backslash S_{N-1,0})=0 $$ が成り立ち、 $$ \mu_{S_{N-1}}(S_{N-1})=2\pi\int_{0}^{\pi}\int_{0}^{\pi}\ldots\int_{0}^{\pi}\sin(\theta_1)^{N-2}\sin(\theta_2)^{N-3}\ldots\sin(\theta_{N-2})d\theta_1\ldots d\theta_{N-2} $$ が成り立つ。
Proof.
- $(1)$ 任意の $x\in S_{N-1}$ を取る。$\lvert x_1\rvert\leq1$ であり $\cos$ は $[0,\pi]$ で狭義単調減少であるから中間値の定理より $x_1=\cos(\theta_1)$ なる $\theta_1\in [0,\pi]$ が取れる。$x_2^2+x_3^2+\cdots +x_N^2=1-\cos^2(\theta_1)=\sin^2(\theta_1)$ より
$\lvert x_2\rvert\leq \sqrt{1-\lvert x_1\rvert^2}=\sin(\theta_1)$ であるから中間値の定理より $x_2=\sin(\theta_1)\cos(\theta_2)$ なる $\theta_2\in [0,\pi]$ が取れる。 $x_3^2+x_4^2+\cdots +x_N^2=\sin^2(\theta_1)-\sin^2(\theta_1)\cos^2(\theta_2)=\sin^2(\theta_1)\sin^2(\theta_2)$ より $\lvert x_3\rvert \leq \sin(\theta_1)\sin(\theta_2)$ であるから中間値の定理より $x_3=\sin(\theta_1)\sin(\theta_2)\cos(\theta_3)$ なる $\theta_3\in [0,\pi]$ が取れる。 以下同様にして、 $$ \begin{pmatrix}x_1\\x_2\\\vdots\\ x_{N-2}\end{pmatrix} =\left(\begin{array}{l}\cos(\theta_1)\\\sin(\theta_1)\cos(\theta_2)\\\vdots\\\sin(\theta_1)\cdots\sin(\theta_{N-3})\cos(\theta_{N-2})\end{array}\right) $$ を満たす $\theta_1,\ldots,\theta_{N-2}\in [0,\pi]$ が取れる。 $$ \lvert(x_{N-1},x_N)\rvert=\sqrt{1-(x_1^2+\ldots+x_{N-2}^2)}=\sin(\theta_1)\ldots\sin(\theta_{N-2}) $$ であるから $\theta_{N-1}\in [0,2\pi)$で、 $$ \begin{pmatrix}x_{N-1}\\x_N\end{pmatrix} =\left(\begin{array}{l}\sin(\theta_1)\ldots\sin(\theta_{N-3})\sin(\theta_{N-2})\cos(\theta_{N-1})\\\sin(\theta_1)\ldots\sin(\theta_{N-3})\sin(\theta_{N-2})\sin(\theta_{N-1})\end{array}\right) $$ なるものがとれる。ゆえに $(*)$ は全射である。$(*)$ が $(0,\pi)\times \cdots \times (0,\pi)\times (0,2\pi)$ 上で単射であることは $\cos$ が $(0,\pi)$ で単射であり、$\sin$ が $(0,\pi)$ 上で $0$ を取らないこと、$(0,2\pi)\ni \theta\mapsto (\cos(\theta),\sin(\theta))\in S_1$ が単射であることから分かる。
- $(2)$ $N$に関する帰納法で示す。$N=2$の場合は自明である。ある $N-1\geq2$ に対して成り立つと仮定する。
$$ \Phi_N(r,\theta_1,\ldots,\theta_{N-1})=(r\cos(\theta),\Phi_{N-1}(r\sin(\theta_1),\theta_2,\ldots,\theta_{N-1})) $$ であるから $\Phi_N$ は、 $$ \mathbb{R}^N\ni (r,\theta_1,\ldots,\theta_{N-1})\mapsto (r\cos(\theta_1),r\sin(\theta_1),\theta_2,\ldots,\theta_{N-1})\in \mathbb{R}^N $$ と、 $$ \mathbb{R}^N\ni(x,y,\theta_2,\ldots,\theta_{N-1})\mapsto (x,\Phi_{N-1}(y,\theta_2,\ldots,\theta_{N-1}))\in\mathbb{R}^N $$ の合成である。よってチェインルールと帰納法の仮定より、 $$ \begin{aligned} {\rm det}\Phi_N'(r,\theta_1,\ldots,\theta_{N-1}) &={\rm det}\Phi_{N-1}'(r\sin(\theta_1),\theta_2,\ldots,\theta_{N-1})\cdot {\rm det}\begin{pmatrix}\cos(\theta_1)&-r\sin(\theta_1)\\\sin(\theta_1)&r\cos(\theta_1)\end{pmatrix}\\ &=\left( (r\sin(\theta_1))^{N-2}\sin(\theta_2)^{N-3}\ldots\sin(\theta_{N-2})\right)r\\ &=r^{N-1}\sin(\theta_1)^{N-2}\sin(\theta_2)^{N-3}\ldots\sin(\theta_{N-2}) \end{aligned} $$ である。よって $N$ の場合も成り立つ。
- $(3)$ $(1)$ より $\Phi_N$ は $(0,\infty)\times(0,\pi)\times\ldots\times(0,\pi)\times(0,2\pi)$ 上で単射であり、$(2)$ より $\Phi_N$ の各点での微分は正則行列である。よって逆関数定理より $\Omega_N$ は $\mathbb{R}^N$ の開集合であり、
$$ (0,\infty)\times(0,\pi)\times\cdots\times(0,\pi)\times(0,2\pi)\ni (r,\theta_1,\ldots,\theta_{N-2},\theta_{N-1})\mapsto \Phi_N(r,\theta_1,\ldots,\theta_{N-2},\theta_{N-1})\in \Omega_N $$ は $C^\infty$ 級同相写像であるからその逆写像である $(**)$ は $\mathbb{R}^N$ の局所座標である。任意の $x=\Phi_N(r,\theta_1,\ldots,\theta_{N-1})\in \Omega_N$ に対し、 $$ \begin{aligned} &{\rm det}\left(\frac{\partial}{\partial r}x,\frac{\partial}{\partial\theta_1}x,\ldots,\frac{\partial}{\partial\theta_{N-1}}x\right)={\rm det}\Phi_N'(r,\theta_1,\ldots,\theta_{N-1})\\ &=r^{N-1}\sin(\theta_1)^{N-2}\sin(\theta_2)^{N-3}\ldots\sin(\theta_{N-2})>0 \end{aligned} $$ である。また、 $$ \frac{\partial}{\partial r}x= \left(\begin{array}{l}\cos(\theta_1)\\\sin(\theta_1)\cos(\theta_2)\\ \sin(\theta_1)\sin(\theta_2)\cos(\theta_3)\\ \vdots\\ \sin(\theta_1)\ldots\sin(\theta_{N-2})\cos(\theta_{N-1})\\ \sin(\theta_1)\ldots\sin(\theta_{N-2})\sin(\theta_{N-1})\end{array}\right) $$ であり、 $$ \frac{\partial}{\partial\theta_k}x=r\sin(\theta_1)\ldots\sin(\theta_{k-1}) \left(\begin{array}{l}0\\\vdots\\0\\-\sin(\theta_k)\\ \cos(\theta_k)\cos(\theta_{k+1})\\ \cos(\theta_k)\sin(\theta_{k+1})\cos(\theta_{k+2})\\\vdots\\ \cos(\theta_k)\ldots\sin(\theta_{N-2})\cos(\theta_{N-1})\\ \cos(\theta_k)\ldots\sin(\theta_{N-2})\sin(\theta_{N-1})\end{array}\right)\quad(k=1,\ldots,N-1), $$ $$ \frac{\partial}{\partial\theta_{N-1}}x=r\sin(\theta_1)\ldots\sin(\theta_{N-2})\left(\begin{array}{l}0\\\vdots\\0\\-\sin(\theta_{N-1})\\\cos(\theta_{N-1})\end{array}\right) $$ であるから、 $$ \frac{\partial}{\partial r}x,\frac{\partial}{\partial \theta_1}x,\ldots,\frac{\partial}{\partial\theta_{N-1}}x\in \mathbb{R}^N $$ は互いに直交する。よって $(\Omega_N,r,\theta_1,\ldots,\theta_{N-1})$ は $\mathbb{R}^N$ の正の向きの直交座標である。そして $(***)$ が成り立ち、 $$ \sqrt{G_{(\Omega_N,r,\theta_1,\ldots,\theta_{N-1})}(x)} =\left\lvert\frac{\partial}{\partial r}x\right\rvert\left\lvert\frac{\partial}{\partial\theta_1}x\right\rvert\ldots\left\lvert\frac{\partial}{\partial\theta_{N-1}}x\right\rvert =r^{N-1}\sin(\theta_1)^{N-2}\sin(\theta_2)^{N-3}\ldots\sin(\theta_{N-2}) $$ である。
- $(4)$ $(1)$ より、
$$ \Phi_N^{-1}(S_{N-1}\cap \Omega_N)=\{1\}\times(0,\pi)^{N-2}\times(0,2\pi)=\Phi_N^{-1}(\Omega_N)\cap (\{1\}\times\mathbb{R}^{N-1}) $$ であるから命題2.4より $\Phi_N^{-1}(x)=(1,\Theta_{N-1}(x))$ $(\forall x\in S_{N-1,0}=S_{N-1}\cap\Omega_N)$ とおけば $(S_{N-1,0},\Theta_{N-1})$ は超曲面 $S_{N-1}$ の局所座標である。 $(****)$ が互いに直交することと $(*****)$ が成り立つことは $(3)$ による。そしてこれより、 $$ \sqrt{G_{(S_{N-1,0},\Theta_{N-1})}(x)} =\left\lvert\frac{\partial}{\partial\theta_1}x\right\rvert\ldots\left\lvert\frac{\partial}{\partial\theta_{N-1}}x\right\rvert =\sin(\theta_1)^{N-2}\sin(\theta_2)^{N-3}\ldots\sin(\theta_{N-2}) $$ である。
- $(5)$ $\mathbb{R}^{N-1}$ の部分集合
$$ E:=([0,\pi]^{N-2}\times[0,2\pi])\backslash ( (0,\pi)^{N-2}\times(0,2\pi) ) $$ は $\sigma$-コンパクトなLebesgue測度 $0$ の集合である。そして $C^\infty$ 級写像 $$ \Psi:\mathbb{R}^{N-1}\ni(\theta_1,\ldots,\theta_{N-1})\mapsto \Phi_N(1,\theta_1,\ldots,\theta_{N-1})\in S_{N-1} $$ に対し $S_{N-1}\backslash S_{N-1,0}\subset \Psi(E)$ であるから補題17.1より $\mu_{S_{N-1}}(S_{N-1}\backslash S_{N-1,0})\leq\mu_{S_{N-1}}(\Psi(E))=0$ である。よって、 $$ \begin{aligned} \mu_{S_{N-1}}(S_{N-1})&=\mu_{S_{N-1}}(S_{N-1,0})\\ &=\int_{(0,\pi)^{N-2}\times(0,2\pi)}\sqrt{G_{(S_{N-1,0},\Theta_{N-1})}(\Theta_{N-1}^{-1}(\theta_1,\ldots,\theta_{N-1}))}d\theta_1\ldots d\theta_{N-1}\\ &=2\pi\int_{(0,\pi)^{N-2}}\sin(\theta_1)^{N-2}\sin(\theta_2)^{N-3}\ldots\sin(\theta_{N-2})d\theta_1\ldots d\theta_{N-2} \end{aligned} $$ である。
□定義18.3(極座標)
命題18.2の $(3)$ における $\mathbb{R}^N$ の局所座標 $(\Omega_N,r,\theta_1,\ldots,\theta_{N-1})$ を $N$ 次元極座標と言う。また命題18.2の $(4)$ における $S_{N-1}$ の極座標 $(S_{N-1,0},\theta_1,\ldots,\theta_{N-1})$ を $S_{N-1}$ の極座標と言う。
定理18.4(極座標変換)
$a\in \mathbb{R}^N$ を中心とする半径 $R\in(0,\infty]$ の球 $$ B(a,R)=\{x\in \mathbb{R}^N:\lvert x-a\rvert<R\} $$ 上の任意の非負値Borel関数 $f\colon B(a,R)\rightarrow [0,\infty]$ に対し、 $$ \int_{B(a,R)}f(x)dx=\int_{0}^{R}\int_{S_{N-1}}f(a+r\omega)r^{N-1}d\mu_{S_{N-1}}(\omega)dr $$ が成り立つ。
Proof.
$$ \Phi\colon\mathbb{R}\times S_{N-1}\ni (r,\omega)\mapsto a+r\omega\in \mathbb{R}^N $$ なる $C^\infty$ 級関数を考えると、 $$ \Phi([0,R)\times S_{N-1})=B(a,R) $$ である。$S_{N-1}$ の極座標 $(S_{N-1,0},\Theta_{N-1})$ を考える。命題18.2の $(3),(4)$ より任意の $(r,\omega)\in (0,R)\times S_{N-1,0}$ に対し $\Phi$の $(r,\omega)$ におけるヤコビアン(定義17.2)は、 $$ \begin{aligned} J\Phi(r,\omega)&=\frac{1}{\sqrt{G_{(S_{N-1,0},\Theta_{N-1})}(\omega)}}\left\lvert{\rm det}(\Phi\circ( \text{id}\times\Theta_{N-1}^{-1} )'(r,\Theta_{N-1}(\omega)))\right\rvert\\ &=\frac{1}{\sin(\theta_1)^{N-2}\ldots\sin(\theta_{N-2})}r^{N-1}\sin(\theta_1)^{N-2}\ldots\sin(\theta_{N-2})\\ &=r^{N-1}>0 \end{aligned} $$ である。また $\Phi$ は $(0,R)\times S_{N-1,0}$ 上で単射である。命題18.2の $(4)$ より $\mu_{S_{N-1}}(S_{N-1}\backslash S_{N-1,0})=0$ であるから、 $$ ([0,R)\times S_{N-1})\backslash ((0,R)\times S_{N-1,0}) $$ は $\mathbb{R}\times S_{N-1}$ の $\sigma$-コンパクトなRiemann測度零の集合である。よってRiemann測度に関する変数変換公式(定理17.5)より、 $$ \begin{aligned} \int_{B(a,R)}f(x)dx&=\int_{\Phi([0,R)\times S_{N-1})}f(x)dx =\int_{[0,R)\times S_{N-1}}f(\Phi(r,\omega))J\Phi(r,\omega)drd\mu_{S_{N-1}}(\omega)\\ &=\int_{[0,R)}\int_{S_{N-1}}f(a+r\omega)r^{N-1}d\mu_{S_{N-1}}(\omega)dr \end{aligned} $$ である。
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脚注
- ↑ 第二可算性より $M_i$ は $\sigma$-コンパクトであるからRadon測度 $\mu_{M_i}$ は $\sigma$-有限である。また測度と積分1:測度論の基礎用語の命題2.8より $\mathcal{B}_{M_1\times\ldots\times M_k}=\mathcal{B}_{M_1}\otimes\ldots\otimes \mathcal{B}_{M_k}$ である。
- ↑ $M$ の可算なアトラス $\{(U_i,\varphi_i)\}_{i\in\mathbb{N}}$ と $H$ の可算なアトラス $\{(V_j,\psi_j)\}_{j\in\mathbb{N}}$ に対し $\{U_i\cap \Phi^{-1}(V_j)\}_{i,j\in\mathbb{N}}$ は $M$ の開被覆である。$M$ の開集合は $\sigma$-コンパクトであるから各 $i,j\in\mathbb{N}$ に対し $B\cap U_i\cap \Phi^{-1}(V_j)$ は $\sigma$-コンパクトな $mu_M$-零集合である。そして $\Phi(B)=\bigcup_{i,j\in\mathbb{N}}\Phi(B\cap U_i\cap \Phi^{-1}(V_j) )$ である。
- ↑ 注意17.3より任意の $p\in B_0$ に対し $d\Phi_p\colon T_p(M)\rightarrow T_{\Phi(p)}(H)$ は単射である。
- ↑ $f\colon\mathbb{R}^N\rightarrow \mathbb{R}$ を $f(x)\colon=\lvert x\rvert^2-1$ とおけば $S_{N-1}=\{x\in\mathbb{R}^N:f(x)=0\}$ であり任意の $x\in S_{N-1}$ に対し $df_x=\sum_{j=1}^{N}2x_jdx_j\neq0$ である。