局所コンパクト群のユニタリ表現
本稿においては、局所コンパクト群のユニタリ表現論について初歩的なことを論じる。仮定する知識は、位相空間論(入門テキスト「位相空間論」、ネットによる位相空間論)、測度論(入門テキスト「測度と積分」、特に測度と積分7:局所コンパクトHausdorff空間上のRadon測度、測度と積分9:Bochner積分の内容)、位相線形空間論(入門テキスト「位相線形空間」)、Banach環と$C^*$ -環のスペクトル理論(Banach環とC*-環のスペクトル理論)、Hilbert空間上の作用素論(Hilbert空間上の作用素論)である。
本稿ではHilbert空間と言えば、特に断ることのない限り $\mathbb{C}$ 上のものとする。また、Hilbert空間の内積は第二変数に関して線形とし、$\mathbb{N}=\{1,2,3,\ldots\}$、$\mathbb{Z}_+=\{0,1,2,3,\ldots\}$ とする。
1. 局所コンパクト群のHaar測度、モジュラー関数、$L^1$ 群環、測度群環
定義1.1(局所コンパクト群)
群 $G$ が局所コンパクト群であるとは、$G$ が局所コンパクトHausdorff空間であり、群演算 $$ G\times G\ni (x,y)\mapsto xy\in G,\quad G\ni x\mapsto x^{-1}\in G $$ が(直積位相に関して)連続であることを言う。特に離散位相による局所コンパクト群を離散群と言い、コンパクトな局所コンパクト群をコンパクト群と言う。以後、局所コンパクト群と言えば、特に断らない限り、第二可算公理を満たすものとする。
定義1.2
$G$ を群とする。$A,B\subset G$, $y\in G$ に対し、 $$ A^{-1}\colon=\{x^{-1}:x\in A\},\quad AB\colon =\{xy:x\in A,y\in B\}, $$ $$ yA\colon =\{yx:x\in A\},\quad Ay\colon=\{xy:x\in A\} $$ とおく。$A=A^{-1}$ であるとき $A$ は対称であると言う。$G$ 上で定義された関数 $f$ に対し $G$ 上で定義された関数 $L_yf, R_yf$ を、 $$ L_yf(x)\colon =f(y^{-1}x),\quad R_yf(x)\colon =f(xy)\quad(\forall x\in G) $$ として定義する。 $$ L_{y_1}L_{y_2}f=L_{y_1y_2}f,\quad R_{y_1}R_{y_2}f=R_{y_1y_2}f\quad(\forall y_1,y_2\in G) $$ であることに注意する。
命題1.3($C_0(G)$ の元の一様連続性)
$G$ を局所コンパクト群とし、$f\in C_0(G)$(無限遠で消える連続関数)とする。このとき、
- $(1)$ 任意の $\epsilon\in G$ に対し、単位元 $1\in G$ の対称な近傍 $V$ が存在し、
$$ yx^{-1}\in V\quad \text{or}\quad x^{-1}y\in V\quad\Rightarrow\quad \lvert f(y)-f(x)\rvert<\epsilon $$ が成り立つ。
- $(2)$ $G\ni y\mapsto L_yf\in C_0(G)$ は($\sup$ ノルムに関して)連続である。
- $(3)$ $G\ni y\mapsto R_yf\in C_0(G)$ は($\sup$ ノルムに関して)連続である。
Proof.
- $(1)$ 任意の $\epsilon\in (0,\infty)$ を取り固定する。$f$ は無限遠で消える連続関数(測度と積分7:局所コンパクトHausdorff空間上のRadon測度の定義28.2)であるから $K\colon =(\lvert f\rvert\geq \frac{\epsilon}{2})$ はコンパクトである。$f$ は連続であるから、各 $x\in K$ に対し $1\in G$ の開近傍 $U_x$ で、
$$ \lvert f(y)-f(x)\rvert<\frac{\epsilon}{2}\quad(\forall y\in (U_x)x\cup x(U_x)) $$ を満たすものが取れる。$1\in G$ の対称開近傍 $V_x$ で $V_xV_x\subset U_x$ なるものを取る。[1]$K$ はコンパクトであるから有限個の $x_1,\ldots,x_n\in K$ が取れて、 $$ K\subset \bigcup_{j=1}^{n}((V_{x_j})x_j\cap x_j(V_{x_j})) $$ となる。$1\in G$ の対称開近傍 $$ V\colon=\bigcap_{j=1}^{n}V_{x_j} $$ を考える。今、$x,y\in G$ が $x^{-1}y\in V$ か $yx^{-1}\in V$ のいずれかを満たすとする。もし $x,y\notin K$ ならば $K$ の定義より、 $$ \lvert f(x)-f(y)\rvert\leq \lvert f(x)\rvert+\lvert f(y)\rvert<\epsilon $$ である。またもし $x\in K$ ならば、$x\in (V_{x_j})x_j\cap x_j(V_{x_j})$ なる $j\in \{1,\ldots,n\}$ が取れて、 $$ y=(yx^{-1})x=x(x^{-1}y)\in (VV_{x_j})x_j\cup x_j(V_{x_j}V)\subset (U_{x_j})x_j\cup x_j(U_{x_j}) $$ となる。よって、 $$ x,y\in (U_{x_j})x_j\cup x_j(U_{x_j}) $$ であるから、 $$ \lvert f(y)-f(x)\rvert\leq \lvert f(y)-f(x_j)\rvert+\lvert f(x_j)-f(x)\rvert<\epsilon\quad\quad(*) $$ が成り立つ。$V$ の対称性より $y^{-1}x=(x^{-1}y)^{-1}\in V$ か $xy^{-1}=(yx^{-1})^{-1}\in V$ のいずれかが成り立つので、$y\in K$ の場合も同様にして $(*)$ が成り立つことがわかる。これより $x,y\in G$ が $x^{-1}y\in V$ か $yx^{-1}\in V$ のいずれかを満たすとき $\lvert f(y)-f(x)\rvert<\epsilon$ が成り立つ。
- $(2)$ 任意の $\epsilon\in (0,\infty)$ を取る。$(1)$ より $1\in G$ の近傍 $V$ で、
$$ y_1y_2^{-1}\in V\quad\Rightarrow\quad \lvert f(y_1)-f(y_2)\rvert\leq\epsilon $$ を満たすものが取れる。よって任意の $y_0\in G$ に対し $y_0$ の近傍 $y_0V$ を考えれば、任意の $y\in y_0V$ に対し、 $$ (y_0^{-1}x)(y^{-1}x)^{-1}=y_0^{-1}y\in V\quad(\forall x\in G) $$ であるから、 $$ \sup_{x\in G}\lvert L_{y_0}f(x)-L_yf(x)\rvert=\sup_{x\in G}\lvert f(y_0^{-1}x)-f(y^{-1}x)\rvert\leq\epsilon $$ となる。よって $G\ni y\mapsto L_yf\in C_0(G)$ は連続である。
- $(3)$ 任意の $\epsilon\in (0,\infty)$ を取る。$(1)$ より $1\in G$ の近傍 $V$ で、
$$ y_1^{-1}y_2\in V\quad\Rightarrow\quad \lvert f(y_1)-f(y_2)\rvert\leq\epsilon $$ を満たすものが取れる。よって任意の $y_0\in G$ に対し $y_0$ の近傍 $y_0 V$ を考えれば、 任意の $y\in y_0V$ に対し、 $$ (xy_0)^{-1}(xy)=y_0^{-1}y\in V\quad(\forall x\in G) $$ であるから、 $$ \sup_{x\in G}\lvert R_{y_0}f(x)-R_yf(x)\rvert=\sup_{x\in G}\lvert f(xy_0)-f(xy)\rvert\leq\epsilon $$ となる。よって $G\ni y\mapsto R_yf\in C_0(G)$ は連続である。
□定義1.4(Haar測度)
$G$ を局所コンパクト群とする。$G$ 上のRadon測度(測度と積分7:局所コンパクトHausdorff空間上のRadon測度の定義29.3)$\mu\colon \mathcal{B}_G\rightarrow [0,\infty]$ が、 $$ \mu(G)>0,\quad \mu(yB)=\mu(B)\quad(\forall y\in G,\forall B\in \mathcal{B}_G) $$ を満たすとき、$\mu$ を $G$ 上の左Haar測度と言う。また $G$ 上のRadon測度 $\mu\colon \mathcal{B}_G\rightarrow [0,\infty]$ が、 $$ \mu(G)>0,\quad \mu(B)=\mu(By)\quad(\forall y\in G,\forall B\in \mathcal{B}_G) $$ を満たすとき、$\mu$ を $G$ 上の右Haar測度と言う。以後、左Haar測度のことを単にHaar測度と言う。
注意1.5(局所コンパクトHausdorff空間の第二可算性とRadon測度)
本稿においては局所コンパクト群は特に断らない限り第二可算公理を満たすとしているが、第二可算公理を満たす局所コンパクトHausdorff空間においては、Borel測度がRadon測度であるための必要十分条件は、任意のコンパクト集合に対して有限測度を与えることである(測度と積分7:局所コンパクトHausdorff空間上のRadon測度の定理31.5)。また第二可算公理を満たす局所コンパクトHausdorff空間は $\sigma$-コンパクトである(測度と積分7:局所コンパクトHausdorff空間上のRadon測度の命題31.2)ので、Radon測度は $\sigma$-有限である。
例1.6(Lebesgue測度、離散群の数え上げ測度はHaar測度)
- $\mathbb{R}^N$ は加法群として局所コンパクト群であり、Lebesgue測度の平行移動不変性より、$\mathbb{R}^N$ 上のLebesgue測度は $\mathbb{R}^N$ 上のHaar測度である。
- 離散群 $G$ の数え上げ測度(測度と積分6:数え上げ測度と $\ell^p$ 空間の定義24.1)はHaar測度である。
命題1.7(Haar測度による積分の左不変性)
$G$ を局所コンパクト群、$\mu\colon \mathcal{B}_G\rightarrow [0,\infty]$ を $G$ 上のHaar測度とする。このとき任意の非負値Borel関数 $f\colon G\rightarrow [0,\infty]$ と $y\in G$ に対し、 $$ \int_{G}L_yf(x)d\mu(x)=\int_{G}f(x)d\mu(x) $$ が成り立つ。
Proof.
非負値Borel関数の非負値Borel単関数による各点単調増加列による近似(測度と積分1:測度論の基礎用語の定理5.5)より、$f$ がある $B\in \mathcal{B}_G$ の指示関数である、すなわち $f=\chi_B$ である場合を示せば十分であるが、Haar測度の定義より、 $$ \int_{G}L_y\chi_B(x)d\mu(x)=\int_{G}\chi_B(y^{-1}x)d\mu(x)=\int_{G}\chi_{yB}(x)d\mu(x)=\mu(yB)=\mu(B)=\int_{G}\chi_B(x)d\mu(x) $$ である。
□命題1.8(空でない開集合のHaar測度は正)
$G$ を局所コンパクト群、$\mu\colon\mathcal{B}_G\rightarrow [0,\infty]$ をHaar測度とする。このとき任意の空でない開集合 $U\subset G$ に対し $\mu(U)>0$ が成り立つ。
Proof.
空でない開集合 $U\subset G$ で $\mu(U)=0$ なるものが存在すると仮定して矛盾を導く。任意のコンパクト集合 $K\subset G$ に対し、 $$ K\subset \bigcup_{x\in G}xU $$ であるから、有限個の $x_1,\ldots,x_n\in G$ が取れて、 $$ K\subset \bigcup_{j=1}^{n}x_jU $$ となる。よって、 $$ \mu(K)\leq \sum_{j=1}^{n}\mu(x_jU)=\sum_{j=1}^{n}\mu(U)=0 $$ となるので、Radon測度の内部正則性(測度と積分7:局所コンパクトHausdorff空間上のRadon測度の定義29.3)より、 $$ \mu(G)=\sup\{\mu(K):\text{$K\subset G$ はコンパクト}\}=0 $$ となる。これはHaar測度の定義と矛盾する。
□
任意の局所コンパクト群がHaar測度を持つことと、それは正数倍を除いて一意的であること(定理1.13、定理1.14)を示すため、いくつか準備をする。
定義1.9
$G$ を局所コンパクト群とする。 $$ C_{c,+}(G)\colon =\{f\in C_c(G):\forall x\in G,f(x)\geq0\},\quad C_{c,++}(G)\colon=C_{c,+}(G)\backslash \{0\} $$ とおく。Urysohnの補題(測度と積分7:局所コンパクトHausdorff空間上のRadon測度の定理27.6)より $C_{c,++}(G)\neq \emptyset$ である。今、任意の $f,g\in C_{c,++}(G)$ に対し、 $$ (f,g)\colon=\inf\left\{\sum_{j=1}^{n}c_j:\begin{array}{l}&n\in \mathbb{N}, c_1,\ldots,c_n\in [0,\infty):\\&\exists x_1,\ldots,x_n\in G\text{ s.t. }\forall x\in G, f(x)\leq \sum_{j=1}^{n}c_jL_{x_j}g(x)\end{array}\right\}\quad\quad(*) $$ と定義する。ここで $(*)$ の右辺の集合は空ではない。実際、$0<\lVert g\rVert=\sup_{x\in G}g(x)$ より $U\colon=\left(\frac{\lVert g\rVert}{2}<g\right)$ は空ではない開集合であり、${\rm supp}(f)$ はコンパクトであるから、有限個の $x_1,\ldots,x_n\in G$ が存在し、 $$ {\rm supp}(f)\subset \bigcup_{j=1}^{n}x_jU $$ となる。そこで、 $$ c_j\colon=\frac{2\lVert f\rVert}{\lVert g\rVert}\quad(j=1,\ldots,n) $$ とおく。任意の $x\in {\rm supp}(f)$ に対し $x\in x_iU$ なる $i\in\{1,\ldots,n\}$ が取れて、 $$ f(x)\leq \lVert f\rVert=c_i\frac{\lVert g\rVert}{2}<c_ig(x_i^{-1}x)=c_iL_{x_i}g(x)\leq \sum_{j=1}^{n}c_jL_{x_j}g(x) $$ となる。よって $\sum_{j=1}^{n}c_j$ は $(*)$ の右辺の集合に属する。
補題1.10
定義1.9における $(f,g)$ について次が成り立つ。
- $(1)$ 任意の $f,g\in C_{c,++}(G)$ に対し、$0<\frac{\lVert f\rVert}{\lVert g\rVert}<(f,g)$.
- $(2)$ 任意の $f_1,f_2,g\in C_{c,++}(G)$ に対し、$(f_1+f_2,g)\leq (f_1,g)+(f_2,g)$.
- $(3)$ 任意の $f,g\in C_{c,++}(G)$ と任意の $\alpha\in (0,\infty)$ に対し、$(\alpha f,g)=\alpha(f,g)$.
- $(4)$ 任意の $f,g\in C_{c,++}(G)$ と任意の $y\in G$ に対し $(L_yf,g)=(f,g)$.
- $(5)$ 任意の $f,g,h\in C_{c,++}(G)$ に対し、$(f,h)\leq (f,g)(g,h)$.
Proof.
- $(1)$ $f(x)\leq \sum_{j=1}^{n}c_jL_{x_j}g(x)$ $(\forall x\in G)$ を満たす任意の有限個の $c_1,\ldots,c_n\in [0,\infty)$, $x_1,\ldots,x_n\in G$ を取る。このとき、
$$ f(x)\leq \sum_{j=1}^{n}c_jL_{x_j}g(x)\leq \sum_{j=1}^{n}c_j\lVert g\rVert\quad(\forall x\in G) $$ であるから $\lVert f\rVert\leq \sum_{j=1}^{n}c_j\lVert g\rVert$ である。よって $\frac{\lVert f\rVert}{\lVert g\rVert}\leq \sum_{j=1}^{n}c_j$ であるから $\frac{\lVert g\rVert}{\lVert f\rVert}\leq (f,g)$ である。
- $(2)$ 定義1.9より明らかである。
- $(3)$ 定義1.9より明らかである。
- $(4)$ 定義1.9より明らかである。
- $(5)$ $f(x)\leq \sum_{j=1}^{n}c_jL_{x_j}g(x)$ $(\forall x\in G)$ を満たす任意の有限個の $c_1,\ldots,c_n\in [0,\infty)$, $x_1,\ldots,x_n\in G$ と $g(x)\leq \sum_{k=1}^{m}d_kL_{y_k}h(x)$ $(\forall x\in G)$ を満たす任意の有限個の $d_1,\ldots,d_m\in [0,\infty)$ と $y_1,\ldots,y_m\in G$ を取る。このとき任意の $x\in G$ に対し、
$$ f(x)\leq \sum_{j=1}^{n}c_jL_{x_j}g(x)=\sum_{j=1}^{n}c_jg(x_j^{-1}x) \leq \sum_{j=1}^{n}\sum_{k=1}^{m}c_jd_kL_{y_k}h(x_j^{-1}x)=\sum_{j=1}^{n}\sum_{k=1}^{m}c_jd_kL_{x_jy_k}h(x) $$ であるから、$(f,h)\leq \sum_{j=1}^{n}c_j\sum_{k=1}^{m}d_k$ である。よって $(f,h)\leq (f,g)(g,h)$ が成り立つ。
□定義1.11
任意の $f_0\in C_{c,++}(G)$ を取り固定する。そして任意の $\varphi\in C_{c,++}(G)$ に対し $\Lambda_{\varphi}\colon C_{c,++}(G)\rightarrow (0,\infty)$ を、 $$ \Lambda_{\varphi}(f)\colon=\frac{(f,\varphi)}{(f_0,\varphi)}\quad(\forall f\in C_{c,++}(G)) $$ (補題1.10の $(1)$ より右辺の分母は正であることに注意)として定義する。補題1.10より $\Lambda_{\varphi}\colon C_{c,++}(G)\rightarrow(0,\infty)$ は次を満たすことが直ちに分かる。
- $(1)$ 任意の $f_1,f_2\in C_{c,++}(G)$ に対し、$\Lambda_{\varphi}(f_1+f_2)\leq \Lambda_{\varphi}(f_1)+\Lambda_{\varphi}(f_2)$.
- $(2)$ 任意の $f\in C_{c,++}(G)$ と任意の $\alpha\in (0,\infty)$ に対し、$\Lambda_{\varphi}(\alpha f)=\alpha\Lambda_{\varphi}(f)$.
- $(3)$ 任意の $f\in C_{c,++}(G)$ と任意の $y\in G$ に対し、$\Lambda_{\varphi}(L_yf)=\Lambda_{\varphi}(f)$.
- $(4)$ 任意の $f\in C_{c,++}(G)$ に対し、$\frac{1}{(f_0,f)}\leq \Lambda_{\varphi}(f)\leq (f,f_0)$.
補題1.12
定義1.11で定義したものについて考える。任意の $f_1,f_2\in C_{c,++}(G)$ と任意の $\epsilon\in (0,\infty)$ に対し、単位元 $1\in G$ の開近傍 $U$ が存在し、 $$ \Lambda_{\varphi}(f_1)+\Lambda_{\varphi}(f_2)\leq \Lambda_{\varphi}(f_1+f_2)+\epsilon\quad(\forall \varphi\in C_{c,++}(G):{\rm supp}(\varphi)\subset U) $$ が成り立つ。
Proof.
Urysohnの補題(測度と積分7:局所コンパクトHausdorff空間上のRadon測度の定義27.6)により ${\rm supp}(f_1+f_2)\subset (g>0)$ なる $g\in C_{c,++}(G)$ を取る。そして任意の $\delta\in (0,\infty)$ を取り固定する。 $$ h\colon =f_1+f_2+\delta g\in C_{c,++}(G) $$ とおき、$h_1,h_2\colon G\rightarrow [0,\infty)$ を、 $$ h_k(x)\colon=\begin{cases}\frac{f_k(x)}{h(x)}\quad&(x\in (h>0))\\ 0&(x\notin (h>0))\end{cases}\quad(k=1,2) $$ と定義する。${\rm supp}(f_k)\subset {\rm supp}(f_1+f_2)\subset (g>0)\subset (h>0)$ より、 $$ G=(h>0)\cup (G\backslash {\rm supp}(f_k))\quad(k=1,2) $$ であり、 $$ h_k(x)=0\quad(\forall x\in G\backslash {\rm supp}(f_k))\quad(k=1,2) $$ であるから、$h_1,h_2\in C_{c,+}(G)$ である。また、 $$ 0\leq h_1(x)+h_2(x)\leq 1,\quad f_1(x)=h_1(x)h(x),\quad f_2(x)=h_2(x)h(x)\quad(\forall x\in G)\quad\quad(*) $$ である。命題1.3より $1\in G$ の開近傍 $U$ で、 $$ x^{-1}y\in U\quad\Rightarrow\quad \lvert h_k(x)-h_k(y)\rvert<\frac{\delta}{2}\quad(k=1,2)\quad\quad(**) $$ を満たすものが取れる。${\rm supp}(\varphi)\subset U$ を満たす任意の $\varphi\in C_{c,++}(G)$ を取る。 $$ h(x)\leq \sum_{j=1}^{n}c_jL_{x_j}\varphi(x)\quad(\forall x\in G) $$ を満たす任意の有限個の $c_1,\cdots,c_n\in [0,\infty)$ と $x_1,\ldots,x_n\in G$ に対し、${\rm supp}(\varphi)\subset U$ と $(*),(**)$ より、 $$ f_k(x)=h_k(x)h(x)\leq \sum_{j=1}^{n}c_jh_k(x)\varphi(x_j^{-1}x)\leq \sum_{j=1}^{n}c_j\left(h_k(x_j)+\frac{\delta}{2}\right)L_{x_j}\varphi(x)\quad(\forall x\in G,k=1,2) $$ であるから、 $$ (f_k,\varphi)\leq \sum_{j=1}^{n}c_j\left(h_k(x_j)+\frac{\delta}{2}\right)\quad(k=1,2). $$ よって $(*)$ より、 $$ (f_1,\varphi)+(f_2,\varphi)\leq \sum_{j=1}^{n}c_j(h_1(x_j)+h_2(x_j)+\delta)\leq (1+\delta)\sum_{j=1}^{n}c_j. $$ ゆえに、 $$ (f_1,\varphi)+(f_2,\varphi)\leq (1+\delta)(h,\varphi). $$ したがって、 $$ \Lambda_{\varphi}(f_1)+\Lambda_{\varphi}(f_2)\leq (1+\delta)\Lambda_{\varphi}(h)\quad\quad(***) $$ が成り立つ。定義1.11における $(1)\sim(4)$ より、 $$ \begin{aligned} (1+\delta)\Lambda_{\varphi}(h)&=(1+\delta)\Lambda_{\varphi}(f_1+f_2+\delta g)\leq (1+\delta)\Lambda_{\varphi}(f_1+f_2)+(1+\delta)\delta\Lambda_{\varphi}(g)\\ &\leq \Lambda_{\varphi}(f_1+f_2)+\delta(f_1+f_2,f_0)+(1+\delta)\delta(g,f_0)\quad\quad(****) \end{aligned} $$ であるから、 $$ \delta(f_1+f_2,f_0)+(1+\delta)\delta(g,f_0)\leq \epsilon $$ となるように $\delta$ を取っておけば、$(***), (****)$ より、 $$ \Lambda_{\varphi}(f_1)+\Lambda_{\varphi}(f_2)\leq \Lambda_{\varphi}(f_1+f_2)+\epsilon $$ となる。
□定理1.13(Haar測度の存在)
任意の局所コンパクト群はHaar測度を持つ。
Proof.
$G$ を任意の局所コンパクト群とする。定義1.9、定義1.11における記号を用いる。各 $f\in C_{c,++}(G)$ に対し $\mathbb{R}$ の有界閉区間 $[(f_0,f)^{-1},(f,f_0)]$ はコンパクトであるから、Tychonoffの定理(ネットによる位相空間論の定理7.5)より直積位相空間 $$ X\colon =\prod_{f\in C_{c,++}(G)}[(f_0,f)^{-1},(f,f_0)] $$ はコンパクトである。定義1.11の $(4)$ より、 $$ \Lambda_{\varphi}=(\Lambda_{\varphi}(f))_{f\in C_{c,++}(G)}\in X\quad(\forall\varphi\in C_{c,++}(G)) $$ である。単位元 $1\in G$ の任意の開近傍 $U$ に対し、 $$ K(U)\colon=\{\Lambda_{\varphi}:\varphi\in C_{c,++}(G),{\rm supp}(\varphi)\subset U\}\subset X $$ と定義すると、Urysohnの補題(測度と積分7:局所コンパクトHausdorff空間上のRadon測度の定理27.6)より $K(U)\neq \emptyset$ である。$U_1\subset U_2$ ならば $K(U_1)\subset K(U_2)$ であるから、$X$ のコンパクト性より、 $$ \Lambda\in \bigcap_{\text{$U$ は $1\in G$ の開近傍}}\overline{K(U)} $$ が存在する。$1\in G$ の任意の開近傍 $U$ に対し $\Lambda\in \overline{K(U)}$ であるから、直積位相の定義(ネットによる位相空間論の定義7.3)より、任意の $\epsilon\in (0,\infty)$ と任意の有限個の $f_1,\ldots,f_n\in C_{c,++}(G)$ に対し、${\rm supp}(\varphi)\subset U$ なる $\varphi\in C_{c,++}(G)$ が存在し、 $$ \lvert \Lambda(f_j)-\Lambda_{\varphi}(f_j)\rvert<\epsilon\quad(j=1,\ldots,n) $$ が成り立つ。このことと定義1.11における $(1)\sim (4)$ より、
- $(1)$ 任意の $f_1,f_2\in C_{c,++}(G)$ に対し、$\Lambda(f_1+f_2)\leq \Lambda(f_1)+\Lambda(f_2)$.
- $(2)$ 任意の $f\in C_{c,++}(G)$ と任意の $\alpha\in(0,\infty)$ に対し、$\Lambda(\alpha f)=\alpha\Lambda(f)$.
- $(3)$ 任意の $f\in C_{c,++}(G)$ と任意の $y\in G$ に対し、$\Lambda(L_yf)=\Lambda(f)$.
- $(4)$ 任意の $f\in C_{c,++}(G)$ に対し、$\Lambda(f)>0$.
が成り立つことが分かる。さらに補題1.12より、
- $(5)$ 任意の $f_1,f_2\in C_{c,++}(G)$ に対し、$\Lambda(f_1)+\Lambda(f_2)\leq\Lambda(f_1+f_2)$.
も成り立つことが分かる。$\Lambda(0)\colon=0$ とおいて $\Lambda$ を $C_{c,+}(G)=C_{c,++}(G)\cup \{0\}$ まで拡張し、さらに任意の $f\in C_{c,\mathbb{R}}(G)$($G$ 上の台がコンパクトな実数値連続関数)に対し、 $$ \Lambda(f)\colon=\Lambda(f_+)-\Lambda(f_-)\quad(f_{\pm}={\rm max}(\pm f,0)\in C_{c,+}(G)) $$ として $\Lambda$ を $C_{c,\mathbb{R}}(G)$ まで拡張すると、$(1),(2),(5)$ より $\Lambda\colon C_{c,\mathbb{R}}(G)\rightarrow \mathbb{R}$ はRadon汎関数(測度と積分7:局所コンパクトHausdorff空間上のRadon測度の定義30.2)となる。[2]よってRiesz-Markov-角谷の表現定理(測度と積分7:局所コンパクトHausdorff空間上のRadon測度の定理30.4)よりRadon測度(測度と積分7:局所コンパクトHausdorff空間上のRadon測度の定義29.3)$\mu\colon \mathcal{B}_G\rightarrow [0,\infty]$ で、 $$ \Lambda(f)=\int_{G}f(x)d\mu(x)\quad(\forall f\in C_{c,\mathbb{R}}(G)) $$ を満たすものが唯一つ存在する。$(3)$ と測度と積分7:局所コンパクトHausdorff空間上のRadon測度命題29.4より、任意の $y\in G$ と任意の開集合 $U\subset G$ に対し、 $$ \mu(yU)=\sup\{\Lambda(f):f\prec yU\}=\sup\{\Lambda(L_yf):f\prec U\} =\sup\{\Lambda(f):f\prec U\}=\mu(U) $$ が成り立つので、Radon測度 $\mu$ の外部正則性より、任意の $y\in G$ と任意の $B\in \mathcal{B}_G$ に対し、 $$ \mu(yB)=\inf\{\mu(yU):\text{$U\supset B$ は開集合}\}=\inf\{\mu(U):\text{$U\supset B$ は開集合}\}=\mu(B) $$ が成り立つ。また $(4)$ より $\mu(G)>0$ である。よって $\mu$ は $G$ のHaar測度である。
□定理1.14(Haar測度の一意性)
局所コンパクト群のHaar測度は正数倍を除いて一意的である。すなわち $\mu_1,\mu_2\colon \mathcal{B}_G\rightarrow [0,\infty]$ がいずれも局所コンパクト群 $G$ のHaar測度であるならば、ある正数 $c$ が存在し、$\mu_1(B)=c\mu_2(B)$ $(\forall B\in\mathcal{B}_G)$ が成り立つ。
Proof.
Radon測度の外部正則性(測度と積分7:局所コンパクトHausdorff空間上のRadon測度の定義29.3)よりある正数 $c$ が存在し、任意の開集合 $U\subset G$ に対して $\mu_1(U)=c\mu_2(U)$ が成り立つことを示せば十分である。さらにそのことを示すには、測度と積分7:局所コンパクトHausdorff空間上のRadon測度の命題29.4より、ある正数 $c$ に対し、 $$ \int_{G}f(x)d\mu_1(x)=c\int_{G}f(x)d\mu_2(x)\quad(\forall f\in C_{c,++}(G)) $$ が成り立つことを示せば十分である。そのためには任意の $f,g\in C_{c,++}(G)$ に対し、 $$ \frac{\int_{G}f(x)d\mu_1(x)}{\int_{G}f(y)d\mu_2(y)}=\frac{\int_{G}g(x)d\mu_1(x)}{\int_{G}g(y)d\mu_2(y)}\quad\quad(*) $$ が成り立つことを示せばよい。[3]そこで任意の $f,g\in C_{c,++}(G)$ を取り固定する。また単位元 $1\in G$ のコンパクトな対称近傍 $V$ を取り固定する。このとき、 $$ A\colon=V{\rm supp}(f)\cup {\rm supp}(f)V,\quad B\colon=V{\rm supp}(g)\cup {\rm supp}(g)V $$ はそれぞれコンパクトであり、 $$ {\rm supp}(R_yf-L_{y^{-1}}f)\subset A,\quad {\rm supp}(R_yg-L_{y^{-1}}g)\subset B\quad(\forall y\in V)\quad\quad(**) $$ が成り立つ。命題1.3より任意の正数 $\epsilon$ に対し $1\in G$ の対称近傍 $V_0\subset V$ で、 $$ \lvert f(xy)-f(yx)\rvert<\epsilon,\quad \lvert g(xy)-g(yx)\rvert<\epsilon\quad(\forall y\in V_0,\forall x\in G)\quad\quad(***) $$ を満たすものが取れる。Urysohnの補題(測度と積分7:局所コンパクトHausdorff空間上のRadon測度の定理27.6)により ${\rm supp}(h_0)\subset V_0$ なる $h_0\in C_{c,++}(G)$ を取り、 $$ h(x)\colon=\frac{1}{2}(h_0(x)+h_0(x^{-1}))\quad(\forall x\in G) $$ とおく。このとき $h(x^{-1})=h(x)$ $(\forall x\in G)$ であり、$V_0$ の対称性より ${\rm supp}(h)\subset {\rm supp}(h_0)\cup {\rm supp}(h_0)^{-1}\subset V_0$ である。Haar測度による積分の性質(命題1.7)より、 $$ \begin{aligned} \left(\int_{G}f(x)d\mu_1(x)\right)\left(\int_{G}h(y)d\mu_2(y)\right) &=\int_{G}\left(\int_{G}f(x)h(y)d\mu_1(x)\right)d\mu_2(y)\\ &=\int_{G}\left(\int_{G}f(yx)h(y)d\mu_1(x)\right)d\mu_2(y) \end{aligned} $$ であり、$h(y^{-1}x)=h((x^{-1}y)^{-1})=h(x^{-1}y)$ $(\forall x,y\in G)$ であることとFubiniの定理より、 $$ \begin{aligned} &\left(\int_{G}h(x)d\mu_1(x)\right)\left(\int_{G}f(y)d\mu_2(y)\right)=\int_{G}\left(\int_{G}h(x)f(y)d\mu_1(x)\right)d\mu_2(y)\\ &=\int_{G}\left(\int_{G}h(y^{-1}x)f(y)d\mu_1(x)\right)d\mu_2(y)=\int_{G}\left(\int_{G}h(x^{-1}y)f(y)d\mu_1(x)\right)d\mu_2(y)\\ &=\int_{G}\left(\int_{G}h(x^{-1}y)f(y)d\mu_2(y)\right)d\mu_1(x)=\int_{G}\left(\int_{G}h(y)f(xy)d\mu_2(y)\right)d\mu_1(x)\\ &=\int_{G}\left(\int_{G}h(y)f(xy)d\mu_1(x)\right)d\mu_2(y) \end{aligned} $$ であるから、 $$ \begin{aligned} &\left(\int_{G}f(x)d\mu_1(x)\right)\left(\int_{G}h(y)d\mu_2(y)\right)-\left(\int_{G}h(x)d\mu_1(x)\right)\left(\int_{G}f(y)d\mu_2(y)\right)\\ &=\int_{G}h(y)\left(\int_{G}(f(yx)-f(xy))d\mu_1(x)\right)d\mu_2(y) \end{aligned} $$ が成り立つ。よって ${\rm supp}(h)\subset V_0\subset V$ であることと $(**),(***)$ より、 $$ \begin{aligned} &\left\lvert \left(\int_{G}f(x)d\mu_1(x)\right)\left(\int_{G}h(y)d\mu_2(y)\right)-\left(\int_{G}h(x)d\mu_1(x)\right)\left(\int_{G}f(y)d\mu_2(y)\right)\right\rvert\\ &\leq \int_{G}h(y)\left(\int_{G}\lvert f(yx)-f(xy)\rvert d\mu_1(x)\right)d\mu_2(y)\\ &\leq \int_{G}h(y)\left(\int_{G}\epsilon\chi_A(x)d\mu_1(x)\right)d\mu_2(y) =\epsilon\mu_1(A)\int_{G}h(y)d\mu_2(y) \end{aligned} $$ であるから、両辺を $\left(\int_{G}f(y)d\mu_2(y)\right)\left(\int_{G}h(y)d\mu_2(y)\right)$ で割って、 $$ \left\lvert \frac{\int_{G}f(x)d\mu_1(x)}{\int_{G}f(y)d\mu_2(y)}-\frac{\int_{G}h(x)d\mu_1(x)}{\int_{G}h(y)d\mu_2(y)}\right\rvert\leq \left(\frac{\mu_1(A)}{\int_{G}f(y)d\mu_2(y)}\right)\epsilon $$ を得る。全く同様にして、 $$ \left\lvert \frac{\int_{G}g(x)d\mu_1(x)}{\int_{G}g(y)d\mu_2(y)}-\frac{\int_{G}h(x)d\mu_1(x)}{\int_{G}h(y)d\mu_2(y)}\right\rvert\leq \left(\frac{\mu_1(B)}{\int_{G}g(y)d\mu_2(y)}\right)\epsilon $$ が成り立つことも示せる。よって、 $$ \left\lvert \frac{\int_{G}f(x)d\mu_1(x)}{\int_{G}f(y)d\mu_2(y)}-\frac{\int_{G}g(x)d\mu_1(x)}{\int_{G}g(y)d\mu_2(y)}\right\rvert\leq\left(\frac{\mu_1(A)}{\int_{G}f(y)d\mu_2(y)}+\frac{\mu_1(B)}{\int_{G}g(y)d\mu_2(y)}\right) \epsilon $$ が成り立つ。ここで $\epsilon$ は $f,g,A,B$ によらない任意の正数であるから $(*)$ が成り立つ。
□定義1.15(局所コンパクト群のモジュラー関数)
$G$ を局所コンパクト群、$\mu\colon \mathcal{B}_G\rightarrow [0,\infty]$ を $G$ のHaar測度とする。任意の $x\in G$ に対し、
$$
\mathcal{B}_G\ni B\mapsto \mu(Bx)\in [0,\infty]
$$
も $G$ のHaar測度であるから、定理1.14より、$\Delta\colon G\rightarrow (0,\infty)$ で、
$$
\mu(Bx)=\Delta(x)\mu(B)\quad(\forall B\in \mathcal{B}_G,\forall x\in G)
$$
を満たすものが定まる。$\Delta\colon G\rightarrow (0,\infty)$ を $G$ のモジュラー関数と言う。
定理1.14より、局所コンパクト群に対しそのモジュラー関数は一意的に定まる。
命題1.16(モジュラー関数の基本性質)
$G$ を局所コンパクト群、$\mu\colon \mathcal{B}_G\rightarrow [0,\infty]$ を $G$ のHaar測度、$\Delta\colon G\rightarrow (0,\infty)$ を $G$ のモジュラー関数とする。このとき、
- $(1)$ 任意の非負値Borel関数 $f\colon G\rightarrow [0,\infty]$ と任意の $y\in G$ に対し、
$$ \Delta(y)\int_{G}f(x)d\mu(x)=\int_{G}f(xy^{-1})d\mu(x) $$ が成り立つ。
- $(2)$ $\Delta\colon G\rightarrow (0,\infty)$ は $G$ から乗法群 $(0,\infty)$ への連続な群準同型写像である。
- $(3)$ 任意の非負値Borel関数 $f\colon G\rightarrow [0,\infty]$ に対し、
$$ \int_{G}f(x)\Delta(x^{-1})d\mu(x)=\int_{G}f(x^{-1})d\mu(x) $$ が成り立つ。
Proof.
- $(1)$ 非負値Borel関数の非負値Borel単関数の各点単調増加列による近似(測度と積分1:測度論の基礎用語の定理5.5)より、$f$ がある $B\in \mathcal{B}_G$ の指示関数である、すなわち $f=\chi_B$ である場合を示せば十分であるが、
$$ \int_{G}\chi_B(xy^{-1})d\mu(x)=\int_{G}\chi_{By}(x)d\mu(x)=\mu(By)=\Delta(y)\mu(B)=\Delta(y)\int_{G}\chi_B(x)d\mu(x) $$ であるから成り立つ。
- $(2)$ 閉包がコンパクトな空でない開集合 $U$ を取る。命題1.8より、
$$ 0<\mu(U)\leq \mu(\overline{U})<\infty\quad\quad(*) $$ である。任意の $x,y\in G$ に対し、 $$ \Delta(xy)\mu(U)=\mu(Uxy)=\Delta(y)\mu(Ux)=\Delta(x)\Delta(y)\mu(U) $$ であるから $(*)$ より $\Delta(xy)=\Delta(x)\Delta(y)$ である。よって $\Delta\colon G\rightarrow (0,\infty)$ は $G$ から乗法群 $(0,\infty)$ への群準同型写像である。$\Delta\colon G\rightarrow(0,\infty)$ が連続であることを示す。群準同型性より単位元 $1\in G$ において連続であることを示せば十分である。任意の $f\in C_{c,+}(G)\backslash \{0\}$ と $1\in G$ の任意のコンパクト近傍 $V_0\subset G$ を取り固定する。命題1.3より、任意の正数 $\epsilon$ に対し、$1\in G$ の十分小さい近傍 $V\subset V_0$ を取れば、 $$ y\in V\quad\Rightarrow\quad\lvert f(xy^{-1})-f(x)\rvert\leq \epsilon\quad(\forall x\in G) $$ となる。 $$ {\rm supp}(R_{y^{-1}}f)\subset {\rm supp}(f)V\subset {\rm supp}(f)V_0\quad(\forall y\in V) $$ であるから、 $$ \lvert f(xy^{-1})-f(x)\rvert\leq\epsilon\chi_{{\rm supp}(f)V_0}(x)\quad(\forall x\in G,\forall y\in V) $$ なので、$(1)$ より任意の $y\in V$ に対し、 $$ \begin{aligned} &\lvert \Delta(y)-1\rvert\int_{G}f(x)d\mu(x)=\left\lvert\int_{G}f(xy^{-1})-f(x)d\mu(x)\right\rvert\\ &\leq \int_{G}\lvert f(xy^{-1})-f(x)\rvert d\mu(x)\leq\epsilon\mu({\rm supp}(f)V_0)\quad\quad(**) \end{aligned} $$ となる。$f\in C_{c,+}(G)\backslash \{0\}$ であるから命題1.8より $\int_{G}f(x)d\mu(x)\in (0,\infty)$ である。よって $(**)$ より、 $$ y\in V\quad\Rightarrow\quad \lvert \Delta(y)-1\rvert\leq \epsilon\mu({\rm supp}(f)V_0)\left(\int_{G}f(x)d\mu(x)\right)^{-1} $$ が成り立つ。${\rm supp}(f)V_0$ はコンパクトなので $\mu({\rm supp}(f)V_0)<\infty$ であり、$\epsilon$ は $f,V_0$ によらない任意の正数なので、$\Delta\colon G\rightarrow(0,\infty)$ は $1\in G$ において連続である。
- $(3)$ 非負値Borel関数の非負値Borel単関数の各点単調増加列による近似(測度と積分1:測度論の基礎用語の定理5.5)より、$f$ がある $B\in \mathcal{B}_G$ の指示関数である($f=\chi_B$)場合を示せば十分である。すなわち、
$$ \int_{G}\chi_B(x)\Delta(x^{-1})d\mu(x)=\mu(B^{-1})\quad(\forall B\in\mathcal{B}_G) $$ を示せばよい。Borel測度 $\nu\colon \mathcal{B}_G\rightarrow [0,\infty]$ を、 $$ \nu(B)\colon=\int_{G}\chi_{B^{-1}}(x)\Delta(x^{-1})d\mu(x)\quad(\forall B\in \mathcal{B}_G) $$ として定義し、$\nu(B)=\mu(B)$ $(\forall B\in\mathcal{B}_G)$ が成り立つことを示せばよい。$(2)$ より $G\ni x\mapsto \Delta(x^{-1})\in (0,\infty)$ は連続であるから任意のコンパクト集合 $K\subset G$ に対し、 $$ \nu(K)=\int_{G}\chi_{K^{-1}}(x)\Delta(x^{-1})d\mu(x)<\infty $$ である。よって $G$ の第二可算性と測度と積分7:局所コンパクトHausdorff空間上のRadon測度の定理35.1より $\nu\colon \mathcal{B}_G\rightarrow [0,\infty]$ はRadon測度である。$\Delta\colon G\rightarrow (0,\infty)$ の群準同型性と $(1)$ より、任意の $y\in G$, $B\in \mathcal{B}_G$ に対し、 $$ \begin{aligned} \nu(yB)&=\int_{G}\chi_{(yB)^{-1}}(x)\Delta(x^{-1})d\mu(x)=\int_{G}\chi_{B^{-1}}(xy)\Delta(x)^{-1}d\mu(x)\\ &=\Delta(y)\int_{G}\chi_{B^{-1}}(xy)\Delta(xy)^{-1}d\mu(x)=\int_{G}\chi_{B^{-1}}(x)\Delta(x)^{-1}d\mu(x)=\nu(B) \end{aligned} $$ であるから $\nu$ は $G$ のHaar測度である。よって定理1.14よりある正数 $c$ が存在し $\nu(B)=c\mu(B)$ $(\forall B\in \mathcal{B}_G)$ が成り立つ。$c=1$ であることを示せばよい。そこで $c\neq 1$ であると仮定して矛盾を導く。このとき $\Delta\colon G\rightarrow (0,\infty)$ の連続性より単位元 $1\in G$ のコンパクト対称近傍 $V$ で、 $$ \lvert \Delta(x^{-1})-1\rvert<\frac{1}{2}\lvert c-1\rvert\quad(\forall x\in V) $$ を満たすものが取れる。命題1.8と $V$ のコンパクト性より、 $$ 0<\mu(V)<\infty $$ であり、$V$ の対称性より、 $$ \lvert c-1\rvert \mu(V)=\lvert \nu(V)-\mu(V)\rvert=\left\lvert\int_{G}\chi_V(x)(\Delta(x^{-1})-1)d\mu(x)\right\rvert\leq \frac{1}{2}\lvert c-1\rvert\mu(V) $$ である。よって、 $$ \lvert c-1\rvert\leq \frac{1}{2}\lvert c-1\rvert $$ が結論され、$c\neq 1$ と言う仮定に矛盾する。ゆえに $c=1$ である。
□定義1.17(ユニモジュラー)
局所コンパクト群がユニモジュラーであるとは、そのモジュラー関数が恒等的に $1$ であること、すなわち、Haar測度が右Haar測度(定義1.4)でもあることを言う。
命題1.18(局所コンパクト可換群、離散群、コンパクト群はユニモジュラー)
局所コンパクト可換群、離散群、コンパクト群はいずれもユニモジュラーである。
Proof.
局所コンパクト可換群のHaar測度は可換性より右Haar測度でもあり、離散群のHaar測度は数え上げ測度の正数倍であるから右Haar測度である。よって局所コンパクト可換群と離散群はユニモジュラーである。コンパクト群がユニモジュラーであることを示す。$G$ をコンパクト群、$\Delta\colon G\rightarrow(0,\infty)$ を $G$ のモジュラー関数とする。命題1.16の $(2)$ より $\Delta\colon G\rightarrow(0,\infty)$ は連続である(命題1.16)から、$G$ のコンパクト性よりある有界閉区間 $[a,b]\subset(0,\infty)$ が存在し、 $$ \Delta(x)\in [a,b]\quad(\forall x\in G)\quad\quad(*) $$ が成り立つ。任意の $x\in G$ を取る。命題1.16の $(2)$ より $\Delta\colon G\rightarrow(0,\infty)$ は群準同型写像であるから、$(*)$ より、 $$ \Delta(x)^n=\Delta(x^n)\in [a,b]\quad(\forall n\in \mathbb{N}) $$ が成り立つ。これは $\Delta(x)=1$ を意味する。よってコンパクト群はユニモジュラーである。
□命題1.19(平行移動の $L^p$ ノルムに関する連続性)
$G$ を局所コンパクト群、$\mu\colon \mathcal{B}_G\rightarrow [0,\infty]$ をHaar測度、$p\in [1,\infty)$ とする。このとき任意の $[f]\in L^p(G,\mu)$ に対し、 $$ G\ni y\mapsto L_y[f]\colon=[L_yf]\in L^p(G,\mu) $$ は $L^p$ ノルムで連続である。
Proof.
Haar測度による積分の左不変性(命題1.7)より任意の $[f]\in L^p(G,\mu)$ に対し、 $$ \lVert L_y[f]\rVert_p=\lVert [f]\rVert_p\quad(\forall y\in G) $$ である。また $\mu$ はRadon測度なので測度と積分7:局所コンパクトHausdorff空間上のRadon測度の命題32.1より $L^p(G,\mu)$ において $C_c(G)$ は稠密である。よって任意の $f\in C_c(G)$ に対し、 $$ G\ni y\mapsto L_yf\in L^p(G,\mu)\quad\quad(*) $$ が $L^p$ ノルムで連続であることを示せば十分である。$L_{y_1}L_{y_2}f=L_{y_1y_2}f$ $(\forall y_1,y_2\in G)$ であるから、単位元 $1\in G$ における連続性を示せば十分である。$1\in G$ のコンパクト近傍 $V_0$ を取り固定する。任意の正数 $\epsilon$ に対し、命題1.3より、$1\in G$ の近傍 $V\subset V_0$ で、 $$ y\in V\quad\Rightarrow\quad\lvert L_yf(x)-f(x)\rvert\leq \epsilon\quad(\forall x\in G) $$ なるものが取れる。 $$ {\rm supp}(L_yf-f)\subset V{\rm supp}(f)\subset V_0{\rm supp}(f)\quad(\forall y\in V) $$ であるから、 $$ \lvert L_yf(x)-f(x)\rvert \leq \epsilon\chi_{V_0{\rm supp}(f)}(x)\quad(\forall y\in V,\forall x\in G) $$ なので、任意の $y\in V$ に対し、 $$ \lVert L_yf-f\rVert_p=\left(\int_{G}\lvert L_yf(x)-f(x)\rvert^pd\mu(x)\right)^{\frac{1}{p}}\leq \epsilon\mu(V_0{\rm supp}(f))^{\frac{1}{p}} $$ が成り立つ。$V_0{\rm supp}(f)$ はコンパクトであるから $\mu(V_0{\rm supp}(f))^{\frac{1}{p}}<\infty$ であり、$\epsilon$ は $f,V_0$ によらない任意の正数なので $(*)$ は $1\in G$ において $L^p$ ノルムで連続である。
□定義1.20(局所コンパクト群における $L^1$ と $L^p$ の合成積)
$G$ を局所コンパクト群、$\mu\colon\mathcal{B}_G\rightarrow [0,\infty]$ を $G$ のHaar測度、$p\in [1,\infty)$ とする。任意の $[g]\in L^p(G,\mu)$ に対し命題1.19より、 $$ G\ni y\mapsto L_y[g]\in L^p(G,\mu) $$ はBanach空間 $L^p(G,\mu)$ 値の有界連続関数である。また $G$ の第二可算性よりBanach空間 $L^p(G,\mu)$ は可分である(測度と積分7:局所コンパクトHausdorff空間上のRadon測度の系35.7)から、任意の $[f]\in L^1(G,\mu)$ に対し $L^p(G,\mu)$ 値関数 $$ G\ni y\mapsto f(y)L_y[g]\in L^p(G,\mu)\quad\quad(*) $$ はBanach空間 $L^p(G,\mu)$ 値Bocoher可測関数(測度と積分9:Bochner積分の定義41.1)である。そして、 $$ \int_{G}\lVert f(y)L_y[g]\rVert_p d\mu(y)=\lVert [g]\rVert_p\int_{G}\lvert f(y)\rvert d\mu(y)=\lVert [f]\rVert_1\lVert [g]\rVert_p<\infty $$ であるから、$(*)$ は $\mu$ に関してBochner積分可能(測度と積分9:Bochner積分の定義44.1)である。そこで任意の $[f]\in L^1(G,\mu)$ と $[g]\in L^p(G,\mu)$ に対しBochner積分により、 $$ [f]*[g]\colon=\int_{G}f(y)L_y[g]d\mu(y)\in L^p(G,\mu) $$ と定義する。これを $[f]\in L^1(G,\mu)$ と $[g]\in L^p(G,\mu)$ の合成積と言う。$\mu(B)<\infty$ となる任意の $B\in \mathcal{B}_G$ に対しHölderの不等式より、 $$ L^p(G,\mu)\ni [h]\mapsto \int_{B}h(x)d\mu(x)\in \mathbb{C} $$ はBanach空間 $L^p(G,\mu)$ 上の有界線形汎関数であるから、Bochner積分の性質(測度と積分9:Bochner積分の命題44.2)とFubiniの定理より、 $$ \int_{B}([f]*[g])(x)d\mu(x)=\int_{G}\left(\int_{B}f(y)g(y^{-1}x)d\mu(x)\right)d\mu(y)=\int_{B}\left(\int_{G}f(y)g(y^{-1}x)d\mu(y)\right)d\mu(x) $$ となる。よって $\mu$ の $\sigma$-有限性より $[f]*[g]$は $\mu$ - a.e. $x\in G$ で、 $$ \int_{G}f(y)g(y^{-1}x)d\mu(y)\in \mathbb{C} $$ と一致する。
定義1.21(局所コンパクト群における $L^1$ と $C_0$ の合成積)
$G$ を局所コンパクト群、$\mu\colon\mathcal{B}_G\rightarrow [0,\infty]$ を $G$ のHaar測度とする。任意の $g\in C_0(G)$ に対し命題1.3より、 $$ G\ni y\mapsto L_yg\in C_0(G) $$ は $\sup$ ノルムによるBanach空間 $C_0(G)$ 値の有界連続関数である。また $G$ の第二可算性よりBanach空間 $C_0(G)$ は可分である(測度と積分7:局所コンパクトHausdorff空間上のRadon測度の系35.6)から、任意の $[f]\in L^1(G,\mu)$ に対し $C_0(G)$ 値関数 $$ G\ni y\mapsto f(y)L_yg\in C_0(G)\quad\quad(*) $$ はBanach空間 $C_0(G)$ 値のBochner可測関数(測度と積分9:Bochner積分の定義41.1)である。そして $$ \int_{G}\lVert f(y)L_yg\rVert d\mu(y)=\lVert g\rVert\int_{G}\lvert f(y)\rvert d\mu(y)=\lVert [f]\rVert_1\lVert g\rVert<\infty $$ であるから、$(*)$ は $\mu$ に関してBochner積分可能(測度と積分9:Bochner積分の定義44.1)である。そこで任意の $[f]\in L^1(G,\mu)$ と $g\in C_0(G)$ に対しBochner積分により、 $$ [f]*g\colon=\int_{G}f(y)L_yg d\mu(y)\in C_0(G) $$ と定義する。これを $[f]\in L^1(G,\mu)$ と $g\in C_0(G)$ の合成積と言う。任意の $x\in G$ に対し、 $$ \delta_x\colon C_0(G)\ni h\mapsto h(x)\in \mathbb{C} $$ はBanach空間 $C_0(G)$ 上の有界線形汎関数であるから、Bochner積分の性質(測度と積分9:Bochner積分の命題44.2)より、 $$ ([f]*g)(x)=\delta_x([f]*g)=\int_{G}f(y)\delta_x(L_yg)d\mu(y)=\int_{G}f(y)g(y^{-1}x)d\mu(y) $$ である。
命題1.22(Youngの不等式)
$G$ を局所コンパクト群、$\mu\colon\mathcal{B}_G\rightarrow [0,\infty]$ を $G$ のHaar測度、$p\in [1,\infty)$ とする。このとき、
- $(1)$ 任意の $[f]\in L^1(G,\mu)$, $[g]\in L^p(G,\mu)$ に対し、
$$ \lVert [f]*[g]\rVert_p\leq \lVert [f]\rVert_1\lVert [g]\rVert_p $$ が成り立つ。
- $(2)$ 任意の $[f]\in L^1(G,\mu)$, $g\in C_0(G)$ に対し、
$$ \lVert [f]*g\rVert \leq \lVert [f]\rVert_1\lVert g\rVert $$ が成り立つ。
Proof.
- $(1)$ 合成積の定義(定義1.20)とBochner積分の基本性質(測度と積分9:Bochner積分の命題44.2)より、
$$ \lVert [f]*[g]\rVert_p=\left\lVert \int_{G}f(y)L_y[g]d\mu(y)\right\rVert_p \leq \int_{G}\lVert f(y)L_y[g]\rVert_pd\mu(y)=\lVert [f]\rVert_1\lVert [g]\rVert_p. $$
- $(2)$ 合成積の定義(定義1.21)とBochner積分の基本性質より、
$$ \lVert [f]*g\rVert=\left\lVert \int_{G}f(y)L_ygd\mu(y)\right\rVert\leq \int_{G}\lVert f(y)L_yg\rVert d\mu(y)=\lVert [f]\rVert_1\lVert g\rVert. $$
□定義1.23($L^1$ 群環 $L^1(G,\mu)$)
$G$ を局所コンパクト群、$\mu\colon \mathcal{B}_G\rightarrow [0,\infty]$ を $G$ のHaar測度、$\Delta\colon G\rightarrow (0,\infty)$ を $G$ のモジュラー関数とする。任意の $f\colon G\rightarrow \mathbb{C}$ に対し、$f^*\colon G\rightarrow \mathbb{C}$ を、 $$ f^*(x)\colon=\Delta(x^{-1})\overline{f(x^{-1})}\quad(\forall x\in G) $$ として定義する。$f\in \mathcal{L}^1(G,\mu)$ ならば、命題1.16の $(3)$ より、 $$ \int_{G}\lvert f^*(x)\rvert d\mu(x)=\int_{G}\lvert f(x^{-1})\rvert \Delta(x^{-1})d\mu(x)=\int_{G}\lvert f(x)\rvert d\mu(x)<\infty $$ であるので $f^*\in \mathcal{L}^1(G,\mu)$, $\lVert f^*\rVert_1=\lVert f\rVert_1$ である。そこで、 $$ L^1(G,\mu)\ni [f]\mapsto [f]^*\colon=[f^*]\in L^1(G,\mu)\quad\quad(*) $$ なる等長反線形写像を定義する。このときBanach空間 $L^1(G,\mu)$ は、合成積 $$ L^1(G,\mu)\times L^1(G,\mu)\ni ([f],[g])\mapsto [f]*[g]\in L^1(G,\mu)\quad\quad(**) $$ を乗法、$(*)$ を対合としてBanach $*$-環をなす(次の命題1.24)。このBanach $*$-環 $L^1(G,\mu)$ を $G$ の $L^1$ 群環と言う。
命題1.24($L^1$ 群環はBanach $*$-環)
Banach空間 $L^1(G,\mu)$ は定義1.23における $(**)$ を乗法、$(*)$ を対合としてBanach $*$-環をなす。
Proof.
任意の $x\in G$ と任意の $[f],[g]\in L^1(G,\mu)$ に対し、合成積の定義(定義1.20)とBochner積分の基本性質(測度と積分9:Bochner積分の命題44.2)[4] 、Haar測度による積分の左不変性より、 $$ \begin{aligned} L_x([f]*[g])&=L_x\left(\int_{G}f(y)L_y[g]d\mu(y)\right) =\int_{G}L_x(f(y)L_y[g])d\mu(y)=\int_{G}f(y)L_{xy}[g]d\mu(y)\\ &=\int_{G}f(x^{-1}y)L_y[g]d\mu(y)=(L_x[f])*[g]\quad\quad(*) \end{aligned} $$ である。$(**)$ は合成積の定義より明らかに双線形写像であり、Youngの不等式(命題1.22)より有界(ノルムは $1$ 以下)である。よって任意の $[f],[g],[h]\in L^1(G,\mu)$ に対し、Bochner積分の基本性質(測度と積分9:Bochner積分の命題44.2)[5]より、 $$ \begin{aligned} &([f]*[g])*[h]=\left(\int_{G}f(y)L_y[g]d\mu(y)\right)*[h] =\int_{G}(f(y)L_y[g]*[h])d\mu(y)\\ &=\int_{G}f(y)((L_y[g])*[h])d\mu(y)=\int_{G}f(y)L_y([g]*[h])d\mu(y)=[f]*([g]*[h]) \end{aligned} $$ となる。ただし $4$ 番目の等号で $(*)$ を用いた。これより $L^1(G,\mu)$ は定義1.23の $(**)$ を乗法としてBanach環である。任意の $[f]\in L^1(G,\mu)$ に対し、 $$ f^{**}(x)=\Delta(x^{-1})\overline{f^*(x^{-1})}=\Delta(x^{-1})\Delta(x)f(x)=f(x)\quad(\forall x\in G) $$ であるから、$[f]^{**}=[f]$ である。また任意の $[f],[g]\in L^1(G,\mu)$ に対し $[f]*[g]$ の代表元 $h$ は $\mu$ -a.e. $x\in G$ で、 $$ h(x)=\int_{G}f(y)g(y^{-1}x)d\mu(y) $$ (定義1.20を参照)であるので、$([f]*[g])^*$ の代表元 $h^*$ は $\mu$ -a.e. $x\in G$ で、 $$ \begin{aligned} h^*(x)&=\Delta(x^{-1})\overline{h(x^{-1})}=\Delta(x^{-1})\int_{G}\overline{f(y)g(y^{-1}x^{-1})}d\mu(y)\\ &=\Delta(x^{-1})\int_{G}(\Delta(y^{-1})f^*(y^{-1}))(\Delta(xy)g^*(xy))d\mu(y)\\ &=\int_{G}f^*(y^{-1})g^*(xy)d\mu(y)=\int_{G}g^*(y)f^*(y^{-1}x)d\mu(y) \end{aligned} $$ である。よって $([f]*[g])^*$ の代表元 $h^*$ は $[g]^**[f]^*$ の代表元と $\mu$ -a.e. $x\in G$ で一致するので、 $$ ([f]*[g])^*=[g]^**[f]^* $$ が成り立つ。ゆえに $L^1(G,\mu)$ は定義1.23の $(*)$ を対合としてBanach $*$-環である。
□定理1.25($L^1(G,\mu)$ の近似単位元)
$G$ を局所コンパクト群、$\mu\colon \mathcal{B}_G\rightarrow [0,\infty]$ を $G$ のHaar測度とする。このとき $C_{c,+}(G)$ の列 $(\varphi_n)_{n\in \mathbb{N}}$ で次を満たすものが存在する。
- $(1)$ $\int_{G}\varphi_n(x)d\mu(x)=1$ $(\forall n\in \mathbb{N})$.
- $(2)$ 単位元 $1\in G$ の任意の近傍 $U$ に対し、${\rm supp}(\varphi_n)\subset U$ $(\forall n\geq n_0)$ を満たす $n_0\in \mathbb{N}$ が存在する。
- $(3)$ $\varphi_n^*=\varphi_n$ $(\forall n\in \mathbb{N})$.
そしてこの $(\varphi_n)_{n\in \mathbb{N}}$ はBanach $*$-環 $L^1(G,\mu)$ の近似単位元(Banach環とC*-環のスペクトル理論の定義9.1)である。
Proof.
$G$ は第二可算公理を満たすので第一可算公理を満たす。よって単位元 $1\in G$ の可算基本近傍系 $\{U_n\}_{n\in \mathbb{N}}$ で、 $$ U_n^{-1}=U_n,\quad U_{n+1}\subset U_n\quad(\forall n\in \mathbb{N}) $$ を満たすものが取れる。Urysohnの補題(測度と積分7:局所コンパクトHausdorff空間上のRadon測度の定理27.6)より各 $n\in \mathbb{N}$ に対し $\psi_n\in C_{c,+}(G)$ で、 $$ {\rm supp}(\psi_n)\subset U_n,\quad \int_{G}\psi_n(x)d\mu(x)=1 $$ を満たすものが取れる。そして、 $$ \varphi_n\colon=\frac{1}{2}(\psi_n+\psi_n^*)\in C_{c,+}(G)\quad(\forall n\in \mathbb{N}) $$ とおくと、$\varphi_n^*=\varphi_n$ $(\forall n\in \mathbb{N})$ であり、 $$ {\rm supp}(\varphi_n)\subset {\rm supp}(\psi_n)\cup {\rm supp}(\psi_n)^{-1}\subset U_n\quad(\forall n\in \mathbb{N}). $$ $$ \int_{G}\varphi_n(x)d\mu(x)=\frac{1}{2}\left(\int_{G}\psi_n(x)d\mu(x)+\int_{G}\psi_n^*(x)d\mu(x)\right)=1\quad(\forall n\in \mathbb{N}) $$ となる。よって $(\varphi_n)_{n\in \mathbb{N}}$ は $(1),(2),(3)$ を満たす。$(1),(2),(3)$ を満たす $C_{c,+}(G)$ の列 $(\varphi_n)_{n\in \mathbb{N}}$ がBanach $*$-環 $L^1(G,\mu)$ の近似単位元であることを示す。任意の $[f]\in L^1(G,\mu)$ に対し、$(1)$ と合成積の定義(定義1.20)より、 $$ [\varphi_n]*[f]-[f]=\int_{G}\varphi_n(y)(L_y[f]-[f])d\mu(y)\quad(\forall n\in \mathbb{N}) $$ であるから、 $$ \lVert [\varphi_n]*[f]-[f]\rVert_1\leq \int_{G}\varphi_n(y)\lVert L_y[f]-[f]\rVert_1d\mu(y)\quad(\forall n\in \mathbb{N}) $$ であり、命題1.19より $G\ni y\mapsto L_y[f]\in L^1(G,\mu)$ は連続であるから、$(1),(2)$ より、 $$ \lVert [\varphi_n]*[f]-[f]\rVert_1\leq \int_{G}\varphi_n(y)\lVert L_y[f]-[f]\rVert_1d\mu(y)\rightarrow0\quad(n\rightarrow\infty) $$ となる。よって、 $$ \lim_{n\rightarrow \infty}[\varphi_n]*[f]=[f]\quad(\forall [f]\in L^1(G,\mu)) $$ が成り立つ。また $(3)$ より任意の $[f]\in L^1(G,\mu)$ に対し、 $$ [f]*[\varphi_n]=([\varphi_n]*[f]^*)^*\rightarrow [f]^{**}=[f]\quad(n\rightarrow\infty) $$ であるから、$(\varphi_n)_{n\in \mathbb{N}}$ は $L^1(G,\mu)$ の近似単位元である。
□命題1.26($L^1$ 群環が単位元を持つことと群が離散であることは同値)
$G$ を局所コンパクト群、$\mu\colon \mathcal{B}_G\rightarrow [0,\infty]$ を $G$ のHaar測度とする。このとき次は互いに同値である。
- $(1)$ $L^1$ 群環 $L^1(G,\mu)$ は単位元を持つ。
- $(2)$ $G$ は離散群である。
Proof.
$(1)\Rightarrow(2)$ を示す。$L^1(G,\mu)$ が単位元を持つとし、それを $[f]\in L^1(G,\mu)$ とする。
定理1.25における $L^1(G,\mu)$ の近似単位元 $(\varphi_n)_{n\in \mathbb{N}}$ を取ると、
$$
[\varphi_n]=[\varphi_n]*[f]\rightarrow [f]\quad(n\rightarrow\infty)\quad\quad(*)
$$
となる。定理1.25の条件 $(2)$ より $G$ の単位元 $1\in G$ の任意の近傍 $U$ に対し $[\chi_U\varphi_n]=[\varphi_n]$ $(\forall n\geq n_0)$ なる $n_0\in \mathbb{N}$ が存在するので、$(*)$ より、
$$
[\chi_Uf]=\lim_{n\rightarrow\infty}[\chi_U\varphi_n]=\lim_{n\rightarrow\infty}[\varphi_n]=[f]\quad\quad(**)
$$
となる。そこで $G$ の単位元 $1\in G$ の可算基本近傍系 $\{U_n\}_{n\in \mathbb{N}}$ で、
$$
U_{n+1}\subset U_n\quad(\forall n\in \mathbb{N})
$$
を満たすものを取れば、$(**)$ とLebesgue優収束定理より、
$$
\lVert f\rVert_1=\int_{G}\lvert f(x)\rvert d\mu(x)=\int_{G}\lvert f(x)\rvert \chi_{U_n}(x)d\mu(x)\rightarrow \int_{G}\lvert f(x)\rvert \chi_{\{1\}}(x)d\mu(x)=\lvert f(1)\rvert \mu(\{1\})\quad(n\rightarrow\infty)
$$
となる。ゆえに $\mu(\{1\})>0$ であり、
$$
\mu(\{x\})=\mu(x\{1\})=\mu(\{1\})>0\quad(\forall x\in G)
$$
である。これより $\mu(B)<\infty$ を満たす任意の $B\in \mathcal{B}_G$ は有限集合である。任意の $x_0\in G$ に対し $x_0$ の開近傍 $U$ で $\overline{U}$ がコンパクトであるものを取れば、$\mu(U)\leq \mu(\overline{U})<\infty$ であるので、$U$ は有限集合である。そこで $U=\{x_0,x_1,\ldots,x_m\}$ とおけば、
$$
\{x_0\}=U\backslash \{x_1,\ldots,x_m\}
$$
であるから、$\{x_0\}$ は開集合である。ゆえに任意の一点集合が開集合であるので $G$ は離散群である。
$(2)\Rightarrow(1)$ を示す。$G$ が離散群ならば $G$ のHaar測度 $\mu$ は数え上げ測度であり、$L^1(G,\mu)=\ell^1(G)$(測度と積分6:数え上げ測度と $\ell^p$ 空間の定義24.3を参照)である。任意の $f\in \ell^1(G)$, 任意の $x\in G$ に対し、
$$
(\chi_{\{1\}}*f)(x)=\sum_{y\in G}\chi_{\{1\}}(y)f(y^{-1}x)=f(x),
$$
$$
(f*\chi_{\{1\}})(x)=\sum_{y\in G}f(y)\chi_{\{1\}}(y^{-1}x)=f(x)
$$
であるから、$\chi_{\{1\}}$ は $L^1$ 群環 $\ell^1(G)$ の単位元である。
定義1.27(Dirac測度)
$G$ を局所コンパクト群とする。任意の $x\in G$ に対しBorel測度 $$ \delta_x\colon \mathcal{B}_G\ni B\mapsto \chi_B(x)\in [0,1] $$ を $x$ におけるDirac測度と言う。
定義1.28(測度群環 $M(G)$)
$G$ を局所コンパクト群、$M(G)$ を $G$ 上の複素数値Borel測度全体に全変動ノルムを入れたBanach空間とする(測度と積分7:局所コンパクトHausdorff空間上のRadon測度の33を参照)。任意の $\nu_1,\nu_2\in M(G)$ に対し、 $$ (\nu_1*\nu_2)(B)\colon=\int_{G}\left(\int_{G}\chi_B(xy)d\nu_1(x)\right)d\nu_2(y)\quad(\forall B\in \mathcal{B}_G) $$ とおけば $\nu_1*\nu_2\in M(G)$ であることが分かる。これを $\nu_1,\nu_2\in M(G)$ の合成積と言う。また任意の $\nu\in M(G)$ に対し $\nu^*\in M(G)$ を、 $$ \nu^*(B)\colon=\overline{\nu(B^{-1})}\quad(\forall B\in \mathcal{B}_G) $$ と定義する。このとき次の命題1.29よりBanach空間 $M(G)$ は、 $$ M(G)\times M(G)\ni (\nu_1,\nu_2)\mapsto \nu_1*\nu_2\in M(G)\quad\quad(*) $$ を乗法、 $$ M(G)\ni \nu\mapsto \nu^*\in M(G)\quad\quad(**) $$ を対合、$G$ の単位元 $1\in G$ におけるDirac測度 $\delta_1\in M(G)$ を単位元として単位的Banach $*$-環をなす。この単位的Banach $*$-環 $M(G)$ を $G$ の測度群環と言う。
命題1.29(測度群環は単位的Banach $*$-環)
Banach空間 $M(G)$ は定義1.28における $(*)$ を乗法、$(**)$ を対合、$\delta_1$ を単位元として単位的Banach $*$-環をなす。
Proof.
定義1.28の $(*)$ がノルムが $1$ 以下の有界双線形写像であること、定義1.28の $(**)$ が全変動ノルムを保存する反線形写像であることは複素数値測度による積分の定義と全変動の定義より自明である(測度と積分4:測度論の基本定理(2)の定義19.1と定義19.5を参照)。また任意の $\nu\in M(G)$ に対し、 $$ \nu^{**}(B)=\overline{\nu^*(B^{-1})}=\nu(B)\quad(\forall B\in \mathcal{B}_G) $$ であるので $\nu^{**}=\nu$ である。任意の有界Borel関数はBorel単関数の列によって一様近似できる(測度と積分5:$L^p$ 空間の完備性と双対性の命題22.2)ので、任意の有界Borel関数 $f\colon G\rightarrow \mathbb{C}$ と任意の $\nu_1,\nu_2,\nu\in M(G)$ に対し、 $$ \int_{G}f(x)d(\nu_1*\nu_2)(x)=\int_{G}\left(\int_{G}f(xy)d\nu_1(x)\right)d\nu_2(y), $$ $$ \int_{G}f(x)d\nu^*(x)=\overline{\int_{G}\overline{f(x^{-1})}d\nu(x)} $$ が成り立つ。このことに注意すると、Fubiniの定理より、任意の $\nu_1,\nu_2,\nu_3\in M(G)$ に対し、 $$ \begin{aligned} (\nu_1*(\nu_2*\nu_3))(B)&=\int_{G}\left(\int_{G}\chi_B(xy)d\nu_1(x)\right)d(\nu_2*\nu_3)(y)=\int_{G}\left(\int_{G}\left(\int_{G}\chi_B(xyz)d\nu_1(x)\right)d\nu_2(y)\right)d\nu_3(z)\\ &=\int_{G}\left(\int_{G}\chi_B(xz)d(\nu_1*\nu_2)(x)\right)d\nu_3(z)=((\nu_1*\nu_2)*\nu_3)(B)\quad(\forall B\in\mathcal{B}_G) \end{aligned} $$ $$ \begin{aligned} (\nu_1*\nu_2)^*(B)&=\overline{(\nu_1*\nu_2)(B^{-1})}=\overline{\int_{G}\left(\int_{G}\chi_{B^{-1}}(xy)d\nu_1(x)\right)d\nu_2(y)}=\overline{\int_{G}\left(\int_{G}\chi_B(y^{-1}x^{-1})d\nu_1(x)\right)d\nu_2(y)}\\ &=\overline{\int_{G}\left(\overline{\int_{G}\chi_B(y^{-1}x)d\nu_1^*(x)}\right)d\nu_2(y)} =\int_{G}\left(\int_{G}\chi_B(yx)d\nu_1^*(x)\right)d\nu_2^*(y)\\ &=\int_{G}\left(\int_{G}\chi_B(yx)d\nu_2^*(y)\right)d\nu_1^*(x)=(\nu_2^**\nu_1^*)(B)\quad(\forall B\in\mathcal{B}_G) \end{aligned} $$ が成り立つことが分かる。よって $M(G)$ は定義1.28の $(*)$ を乗法、$(**)$ を対合としてBanach $*$-環をなす。任意の $\nu\in M(G)$ に対し、 $$ \begin{aligned} &(\delta_1*\nu)(B)=\int_{G}\left(\int_{G}\chi_B(xy)d\delta_1(x)\right)d\nu(y)=\int_{G}\chi_B(y)d\nu(y)=\nu(B)\quad(\forall B\in \mathcal{B}_G),\\ &(\nu*\delta_1)(B)=\int_{G}\left(\int_{G}\chi_B(xy)d\nu(x)\right)d\delta_1(y) =\int_{G}\chi_B(x)d\nu(x)=\nu(B)\quad(\forall B\in\mathcal{B}_G) \end{aligned} $$ であるから、$\delta_1$ はBanach $*$-環 $M(G)$ の単位元である。
□命題1.30($L^1$ 群環の測度群環への埋め込み)
$G$ を局所コンパクト群、$\mu\colon \mathcal{B}_G\rightarrow [0,\infty]$ を $G$ のHaar測度とする。任意の $[f]\in L^1(G,\mu)$ に対し $\mu_{[f]}\in M(G)$ を、 $$ \mu_{[f]}\colon \mathcal{B}_G\ni B\mapsto \int_{B}f(x)d\mu(x)\in \mathbb{C} $$ とすると、 $$ L^1(G,\mu)\ni [f]\mapsto \mu_{[f]}\in M(G)\quad\quad(*) $$ は等長 $*$-環準同型写像である。
Proof.
$(*)$ が線形写像であることは明らかであり、ノルムを保存することは測度と積分4:測度論の基本定理(2)の命題19.3による。命題1.16の $(3)$ より任意の $[f]\in L^1(G,\mu)$ に対し、 $$ \begin{aligned} \mu_{[f]^*}(B)&=\int_{G}f^*(x)\chi_B(x)d\mu(x)=\int_{G}\overline{f(x^{-1})}\Delta(x^{-1})\chi_B(x)d\mu(x)\\ &=\int_{G}\overline{f(x)}\chi_{B^{-1}}(x)d\mu(x)=\overline{\mu_{[f]}(B^{-1})} =\mu_{[f]}^*(B)\quad(\forall B\in \mathcal{B}_G) \end{aligned} $$ であるから $(*)$ は対合を保存する。また任意の $[f],[g]\in L^1(G,\mu)$ に対しHaar測度による積分の左不変性とFubiniの定理より、 $$ \begin{aligned} \mu_{[f]*[g]}(B)&=\int_{G}\chi_B(x)([f]*[g])(x)d\mu(x)=\int_{G}\left(\int_{G}\chi_B(x)f(y)g(y^{-1}x)d\mu(x)\right)d\mu(y)\\ &=\int_{G}\left(\int_{G}\chi_B(yx)f(y)g(x)d\mu(x)\right)d\mu(y)=\int_{G}\left(\int_{G}\chi_B(yx)f(y)g(x)d\mu(y)\right)d\mu(x)\\ &=\int_{G}\left(\int_{G}\chi_B(yx)d\mu_{[f]}(y)\right)d\mu_{[g]}(x) =(\mu_{[f]}*\mu_{[g]})(B)\quad(\forall B\in\mathcal{B}_G) \end{aligned} $$ であるから $(*)$ は乗法を保存する。
□命題1.31(群が可換であることと $L^1$ 群環(測度群環)が可換であることは同値)
$G$ を局所コンパクト群、$\mu\colon \mathcal{B}_G\rightarrow [0,\infty]$ を $G$ のHaar測度とする。このとき次は互いに同値である。
- $(1)$ $G$ は可換群である。
- $(2)$ 測度群環 $M(G)$ は可換である。
- $(3)$ $L^1$ 群環 $L^1(G,\mu)$ は可換である。
Proof.
$(1)\Rightarrow(2)$ を示す。$G$ が可換ならば、任意の $\nu_1,\nu_2\in M(G)$ に対しFubiniの定理より、
$$
\begin{aligned}
(\nu_1*\nu_2)(B)&=\int_{G}\left(\int_{G}\chi_B(xy)d\nu_1(x)\right)d\nu_2(y)=\int_{G}\left(\int_{G}\chi_B(yx)d\nu_1(x)\right)d\nu_2(y)\\
&=\int_{G}\left(\int_{G}\chi_B(yx)d\nu_2(y)\right)d\nu_1(x)=(\nu_2*\nu_1)(B)\quad(\forall B\in \mathcal{B}_G)
\end{aligned}
$$
であるから $\nu_1*\nu_2=\nu_2*\nu_1$ である。よって測度群環 $M(G)$ は可換である。
$(2)\Rightarrow(3)$ は命題1.30による。
$(3)\Rightarrow(1)$ を示す。$L^1(G,\mu)$ が可換であるとする。任意の $f,g\in C_c(G)$, 任意の $x\in G$ に対し命題1.16の $(3)$ より、
$$
\begin{aligned}
\int_{G}f(y)g(y^{-1}x)d\mu(y)&=(f*g)(x)=(g*f)(x)=\int_{G}g(y)f(y^{-1}x)d\mu(y)\\
&=\int_{G}g(xy)f(y^{-1})d\mu(y)=\int_{G}f(y)g(xy^{-1})\Delta(y^{-1})d\mu(y)
\end{aligned}
$$
であるから、
$$
\int_{G}f(y)(g(y^{-1}x)-g(xy^{-1})\Delta(y^{-1}))d\mu(y)=0
$$
である。$C_c(G)$ は $L^1(G,\mu)$ で稠密であること(測度と積分7:局所コンパクトHausdorff空間上のRadon測度の命題32.1)から、任意の $g\in C_c(G)$、任意の $x\in G$ に対し、有界連続関数
$$
G\ni y\mapsto g(y^{-1}x)-g(xy^{-1})\Delta(y^{-1})\in \mathbb{C}\quad\quad(*)
$$
は $\mu$- a.e. $y\in G$ で $0$ である。空でない開集合のHaar測度は正であること(命題1.8)から、連続関数 $(*)$ は恒等的に $0$ である。よって任意の $g\in C_c(G)$、任意の $x,y\in G$ に対し、
$$
g(y^{-1}x)-g(xy^{-1})\Delta(y^{-1})=0
$$
が成り立つ。Urysohnの補題(測度と積分7:局所コンパクトHausdorff空間上のRadon測度の定理27.6)より、これは $xy^{-1}=y^{-1}x$ $(\forall x,y\in G)$ を意味する。よって$G$ は可換である。
2. 局所コンパクト群のユニタリ表現、正定値連続関数に対するGNS表現、Gelfand-Raikovの定理
定義2.1(局所コンパクト群のユニタリ表現)
$G$ を局所コンパクト群、$\mathcal{H}\neq \{0\}$ をHilbert空間、$\mathbb{U}(\cal{H})\subset \mathbb{B}(\mathcal{H})$ を $\mathcal{H}$ 上のユニタリ作用素全体のなす乗法群とする。群準同型写像 $\pi\colon G\rightarrow \mathbb{U}(\mathcal{H})$ で SOT(Hilbert空間上の作用素論の定義2.1)に関して連続なものを、$G$ の $\mathcal{H}$ 上へのユニタリ表現と言う。このとき $\mathcal{H}$ を $G$ のユニタリ表現 $\pi$ の表現空間と言い、$\mathcal{H}_{\pi}$ と表す。また ${\rm dim}(\mathcal{H}_{\pi})$ を $\pi$ の次元と言い、${\rm dim}(\pi)$ とも表す。
例2.2(局所コンパクト群の正則表現)
$G$ を局所コンパクト群、$\mu\colon \mathcal{B}_G\rightarrow [0,\infty]$ を $G$ のHaar測度とする。Hilbert空間 $L^2(G,\mu)$ を考える。 $$ \pi(x)[f]\colon =[L_xf]\quad(\forall x\in G,\forall [f]\in L^2(G,\mu)) $$ とおくと、明らかに $\pi(x)\in \mathbb{U}(L^2(G,\mu))$ $(\forall x\in G)$ であり、$\pi\colon G\rightarrow \mathbb{U}(L^2(G,\mu))$ は群準同型写像である。そして命題1.19より $\pi$ はSOTに関して連続である。よって $\pi$ は $G$ のHilbert空間 $L^2(G,\mu)$ 上へのユニタリ表現である。これを $G$ の正則表現と言う。
定義2.3(ユニタリ表現の部分表現、既約性)
$G$ を局所コンパクト群、$\pi$ を $G$ のユニタリ表現とする。$\mathcal{K}\subset \mathcal{H}_{\pi}$ が $\pi(x)\mathcal{K}\subset \mathcal{K}$ $(\forall x\in G)$ を満たすとき $\mathcal{K}$ は $\pi$ 不変であると言う。$\pi$ 不変な $\{0\}$ ではない閉部分空間 $\mathcal{K}\subset \mathcal{H}_{\pi}$ に対し、 $$ \pi|_{\mathcal{K}}(x)v\colon =\pi(x)v\in \mathcal{K}\quad(\forall x\in G,\forall v\in \mathcal{K}) $$ とおくと、$\pi|_{\mathcal{K}}(x)\in \mathbb{U}(\mathcal{K})$ であり、 $$ \pi|_{\mathcal{K}}\colon G\ni x\mapsto \pi|_{\mathcal{K}}(x)\in \mathbb{U}(\mathcal{K}) $$ は $G$ の $\mathcal{K}$ 上へのユニタリ表現である。[6]$\pi|_{\mathcal{K}}$ を $\pi$ の $\mathcal{K}$ 上への制限と言い、このようなユニタリ表現を $\pi$ の部分表現と言う。$\pi$ 不変な閉部分空間が $\{0\}$ と $\mathcal{H}$ のみの場合、$\pi$ は既約であると言う。
定義2.4(ユニタリ表現の巡回ベクトル)
$G$ を局所コンパクト群、$\pi$ を $G$ のユニタリ表現とする。$v\in \mathcal{H}_{\pi}$ が $\pi$ の巡回ベクトルであるとは、 $$ {\rm span}(\pi(G)v)={\rm span}\{\pi(x)v:x\in G\} $$ が $\mathcal{H}_{\pi}$ で稠密であることを言う。
注意2.5(巡回ベクトルを持つ部分表現)
$G$ を局所コンパクト群、$\pi$ を $G$ のユニタリ表現とする。任意の $v\in \mathcal{H}_{\pi}\backslash \{0\}$ に対し、 $$ \mathcal{K}_v\colon =\overline{{\rm span}(\pi(G)v)}\subset \mathcal{H}_{\pi} $$ とおけば、$\mathcal{K}_v$ は $\pi$ 不変な $\{0\}$ ではない閉部分空間であり、$\pi$ の $\mathcal{K}_v$ 上への制限は $v$ を巡回ベクトルとして持つ。
注意2.6(既約なユニタリ表現と巡回ベクトル)
$G$ を局所コンパクト群、$\pi$ を $G$ の既約なユニタリ表現とする。このとき $\pi$ の既約性と注意2.5より、任意の $v\in \mathcal{H}_{\pi}\backslash \{0\}$ に対し $v$ は $\pi$ の巡回ベクトルである。
定義2.7(繋絡作用素)
$G$ を局所コンパクト群、$\pi_1,\pi_2$ を $G$ のユニタリ表現とする。$T\in \mathbb{B}(\mathcal{H}_{\pi_1},\mathcal{H}_{\pi_2})$ が、 $$ T\pi_1(x)=\pi_2(x)T\quad(\forall x\in G) $$ を満たすとき $T$ を $\pi_1,\pi_2$ の繋絡作用素と言う。$\pi_1,\pi_2$ の繋絡作用素全体を $\mathcal{C}(\pi_1,\pi_2)$ と表す。また $\mathcal{C}(\pi)\colon =\mathcal{C}(\pi,\pi)$ と表す。
命題2.8(繋絡作用素全体の基本性質)
$G$ を局所コンパクト群、$\pi_1,\pi_2,\pi_3$ を $G$ のユニタリ表現とする。このとき、
- $(1)$ $\mathcal{C}(\pi_1,\pi_2)$ は $\mathbb{B}(\mathcal{H}_{\pi_1},\mathcal{H}_{\pi_2})$ の線形部分空間である。
- $(2)$ 任意の $T\in \mathcal{C}(\pi_1,\pi_2)$, $S\in \mathcal{C}(\pi_2,\pi_3)$ に対し $ST\in \mathcal{C}(\pi_1,\pi_3)$ が成り立つ。
- $(3)$ 任意の $T\in \mathcal{C}(\pi_1,\pi_2)$ に対し $T^*\in \mathcal{C}(\pi_2,\pi_1)$ が成り立つ。
Proof.
全て定義から直ちに示せる。
□定義2.9(ユニタリ表現のユニタリ同値)
$G$ を局所コンパクト群、$\pi_1,\pi_2$ を $G$ のユニタリ表現とする。$\mathcal{C}(\pi_1,\pi_2)$ がユニタリ作用素を含むとき $\pi_1,\pi_2$ はユニタリ同値であると言い、$\pi_1\sim \pi_2$ と表す。命題2.8よりこの $\sim $ は $G$ のユニタリ表現全体における同値関係である。
定理2.10(Schurの補題)
$G$ を局所コンパクト群、$\pi$ を $G$ のユニタリ表現とする。このとき次は互いに同値である。
- $(1)$ $\pi$ は既約。
- $(2)$ $\mathcal{C}(\pi)=\mathbb{C}1$.
Proof.
$\mathcal{C}(\pi)\subset \mathbb{B}(\mathcal{H}_{\pi})$ は $\pi(G)\subset \mathbb{B}(\mathcal{H}_{\pi})$ の可換子環 $\pi(G)'$(Hilbert空間上の作用素論の定義18.10)にほかならない。そして $\pi(G)'\subset \mathbb{B}(\mathcal{H}_{\pi})$ はvon Neumann環である(Hilbert空間上の作用素論の注意18.15)から射影によって生成される(Hilbert空間上の作用素論の定理19.7)、すなわち、
$$
\mathcal{C}(\pi)=\pi(G)'=\overline{{\rm spann}\mathbb{P}(\pi(G)')}^{\lVert \cdot\rVert}\quad\quad(*)
$$
である。ただし $\mathbb{P}(\pi(G)')$ はvon Neumann環 $\pi(G)'$ の射影全体である。$(1)\Rightarrow(2)$ を示す。$(1)$ が成り立つとする。任意の $P\in \mathbb{P}(\pi(G)')$ に対し ${\rm Ran}(P)\subset \mathcal{H}_{\pi}$ は $\pi$ 不変な閉部分空間であるから、${\rm Ran}(P)$ は $\mathcal{H}_{\pi}$ か $\{0\}$ である。よって $P$ は $1$ か $0$ なので、$(*)$ より $\mathcal{C}(\pi)=\mathbb{C}1$ である。
$(2)\Rightarrow(1)$ を示す。$(2)$ が成り立つとする。$\mathcal{K}\subset \mathcal{H}_{\pi}$ を $\pi$ 不変な閉部分空間とし、$\mathcal{K}$ の上への射影作用素(Hilbert空間上の作用素論の定義1.6)を $P\in \mathbb{B}(\mathcal{H}_{\pi})$ とおくと、
$$
\pi(x)P=P\pi(x)P\quad(\forall x\in G)
$$
であるから、
$$
P\pi(x)=(\pi(x^{-1})P)^*=(P\pi(x^{-1})P)^*=P\pi(x)P=\pi(x)P\quad(\forall x\in G)
$$
である。よって $P\in \mathcal{C}(\pi)=\mathbb{C}1$ であるから $P=\alpha1$ なる $\alpha\in \mathbb{C}$ が存在し、$P^2=P$ であることから $\alpha$ は $1$ か $0$、したがって $P$ は $1$ か $0$ である。ゆえに $\mathcal{K}$ は $\mathcal{H}_{\pi}$ か $\{0\}$ であるので $\pi$ は既約である。
系2.11(Schurの補題の系)
$G$ を局所コンパクト群、$\pi_1,\pi_2$ を $G$ の既約なユニタリ表現とする。このとき次は互いに同値である。
- $(1)$ $\pi_1,\pi_2$ はユニタリ同値。
- $(2)$ $\mathcal{C}(\pi_1,\pi_2)\neq \{0\}$.
Proof.
$(1)\Rightarrow(2)$ はユニタリ同値の定義より自明である。$(2)\Rightarrow(1)$ を示す。$(2)$ が成り立つとし、ノルムが $1$ の任意の $T\in \mathcal{C}(\pi_1,\pi_2)$ を取る。このとき命題2.8より $T^*T\in \mathcal{C}(\pi_1)$, $TT^*\in \mathcal{C}(\pi_2)$ であり、$\pi_1,\pi_2$ は既約なのでSchurの補題(定理2.10)より $T^*T\in \mathbb{C}1$, $TT^*\in \mathbb{C}1$ である。ここで $\lVert T^*T\rVert=\lVert T\rVert^2=1$, $\lVert TT^*\rVert=\lVert T^*\rVert^2=\lVert T\rVert=1$ であり、$T^*T\in \mathbb{B}(\mathcal{H}_{\pi_1})$, $TT^*\in \mathbb{B}(\mathcal{H}_{\pi_2})$ は有界非負自己共役作用素であるので $T^*T=1$, $TT^*=1$ である。ゆえに $T\colon \mathcal{H}_{\pi_1}\rightarrow\mathcal{H}_{\pi_2}$ はユニタリ作用素であるから、$\pi_1,\pi_2$ はユニタリ同値である。
□定義2.12(ユニタリ表現の直和とテンソル積)
$G$ を局所コンパクト群、$J$ を空でない集合とし、各 $j\in J$ に対し $G$ のユニタリ表現 $\pi_j\colon G\rightarrow\mathbb{U}(\mathcal{H}_{\pi_j})$ が与えられているとする。このとき、
$$
(\oplus_{j\in J}\pi_j)(x)(v_j)_{j\in J}\colon =(\pi_j(x)v_j)_{j\in J}\quad(\forall x\in G,\forall (v_j)_{j\in J}\in \bigoplus_{j\in J}\mathcal{H}_{\pi_j})
$$
として、$G$ の直和Hilbert空間 $\bigoplus_{j\in J}\mathcal{H}_{\pi_j}$(測度と積分6:数え上げ測度と $\ell^p$ 空間の定義26.3)上へのユニタリ表現 $\oplus_{j\in J}\pi_j$ が定義できる。これを $(\pi_j)_{j\in J}$ の直和と言う。
$\pi_j\colon G\rightarrow \mathbb{U}(\mathcal{H}_{\pi_j})$ $(j=1,\ldots,n)$ をそれぞれ $G$ のユニタリ表現とする。Hilbert空間上の作用素論の定理12.12より任意の $x\in G$ に対し $\pi_1(x)\otimes \cdots\otimes \pi_n(x)$ はテンソル積Hilbert空間 $\mathcal{H}_{\pi_1}\otimes\cdots\otimes \mathcal{H}_{\pi_n}$ 上のユニタリ作用素であり、
$$
\pi_1\otimes\cdots\otimes \pi_n\colon G\ni x\mapsto \pi_1(x)\otimes\cdots\otimes \pi_n(x)\in \mathbb{U}(\mathcal{H}_{\pi_1}\otimes\cdots\otimes \mathcal{H}_{\pi_n})
$$
は $G$ の $\mathcal{H}_{\pi_1}\otimes\cdots\otimes\mathcal{H}_{\pi_n}$ 上へのユニタリ表現である。$\pi_1\otimes\cdots\otimes\pi_n$ を $\pi_1,\ldots,\pi_n$ のテンソル積と言う。
命題2.13(巡回ベクトルを持つユニタリ表現の巡回ベクトル込みのユニタリ同値条件)
$G$ を局所コンパクト群、$(\pi_1,v_1)$, $(\pi_2,v_2)$ をそれぞれ $G$ のユニタリ表現とその巡回ベクトル(定義2.4)の組とする。このとき次は互いに同値である。
- $(1)$ 任意の $x\in G$ に対し $(v_1\mid \pi_1(x)v_1)=(v_2\mid \pi_2(x)v_2)$.
- $(2)$ ユニタリ作用素 $U\in \mathcal{C}(\pi_1,\pi_2)$ で、$Uv_1=v_2$ なるものが存在する(特に $\pi_1,\pi_2$ はユニタリ同値)。
また $(1),(2)$ が成り立つとき、$(2)$ におけるユニタリ作用素 $U\in \mathcal{C}(\pi_1,\pi_2)$ は、 $$ U\pi_1(x)v_1=\pi_2(x)v_2\quad(\forall x\in G)\quad\quad(*) $$ を満たすものとして特徴付けられる。
Proof.
$(2)$ が成り立つとすると、
$$
(v_2\mid \pi_2(x)v_2)=(Uv_1\mid \pi_2(x)Uv_1)=(v_1\mid U^*\pi_2(x)Uv_1)=(v_1\mid \pi_1(x)v_1)\quad(\forall x\in G)
$$
であるから $(1)$ が成り立つ。
$(1)\Rightarrow(2)$ を示す。$(1)$ が成り立つとすると、
$$
(\pi_1(x)v_1\mid \pi_1(y)v_1)=(v_1\mid \pi_1(x^{-1}y)v_1)=(v_2\mid \pi_2(x^{-1}y)v_2)=(\pi_2(x)v_2\mid \pi_2(y)v_2)\quad(\forall x,y\in G)
$$
であるから、${\rm span}(\pi_1(G)v_1)$ から ${\rm span}(\pi_2(G)v_2)$ への等長線形同型写像 $U_0$ で、
$$
U_0\pi_1(x)v_1=\pi_2(x)v_2\quad(\forall x\in G)
$$
を満たすものが定義できる。$v_j$ は $\pi_j$ の巡回ベクトルなので、$\mathcal{H}_{\pi_j}=\overline{{\rm span}(\pi_j(G)v_j)}$ $(j=1,2)$ であるから、$U_0\colon {\rm span}(\pi_1(G)v_1)\rightarrow\mathcal{H}_{\pi_2}$ を $\mathcal{H}_{\pi_1}$ 上へ一意拡張したもの(位相線形空間1:ノルムと内積の命題3.6) $U\colon \mathcal{H}_{\pi_1}\rightarrow\mathcal{H}_{\pi_2}$ はユニタリ作用素である。$U$ は $(*)$ を満たすので、特に $Uv_1=v_2$ である。そして、
$$
(U\pi_1(x))\pi_1(y)v_1=U\pi_1(xy)v_1=\pi_2(xy)v_2=\pi_2(x)\pi_2(y)v_2=(\pi_2(x)U)\pi_1(y)v_1\quad(\forall x,y\in G)
$$
であるから、$\mathcal{H}_{\pi_1}=\overline{{\rm span}(\pi_1(G)v_1)}$ より、
$$
U\pi_1(x)=\pi_2(x)U\quad(\forall x\in G)
$$
が成り立つ。よって $U\in \mathcal{C}(\pi_1,\pi_2)$ であるので $(2)$ が成り立つ。
定義2.14($L^1$ 群環の表現)
$G$ を局所コンパクト群、$\mu\colon \mathcal{B}_G\rightarrow [0,\infty]$ を $G$ のHaar測度、$\mathcal{H}$ をHilbert空間とする。Banach $*$-環 $L^1(G,\mu)$ から $C^*$-環 $\mathbb{B}(\mathcal{H})$ への $*$-環準同型写像 $\pi\colon L^1(G,\mu)\rightarrow\mathbb{B}(\mathcal{H})$ (Banach環とC*-環のスペクトル理論の定理10.1より自動的にノルム減少であることに注意)で、 $$ \pi(L^1(G,\mu))\mathcal{H}={\rm span}\{\pi([f])v:[f]\in L^1(G,\mu),v\in \mathcal{H}\} $$ が $\mathcal{H}$ で稠密であるものを $L^1(G,\mu)$ の $\mathcal{H}$ 上への表現と言う。
注意2.15($L^1$ 群環の表現と $L^1$ 群環の近似単位元)
$\pi\colon L^1(G,\mu)\rightarrow \mathbb{B}(\mathcal{H})$ を $L^1(G,\mu)$ の表現(定義2.14)とし、$([h_{\lambda}])_{\lambda\in \Lambda}$ をBanach $*$-環 $L^1(G,\mu)$ の任意の近似単位元(定理1.25における $(\varphi_n)_{n\in \mathbb{N}}$ を考えればよい)とする。このとき、 $$ \pi([h_{\lambda}])\pi([f])v=\pi([h_{\lambda}]*[f])v\rightarrow \pi([f])v\quad(\forall [f]\in L^1(G,\mu),\forall v\in \mathcal{H}), $$ $$ \lVert \pi([h_{\lambda}])\rVert\leq \lVert [h_{\lambda}]\rVert_1\leq 1\quad(\forall \lambda\in \Lambda) $$ であり、$\pi(L^1(G,\mu))\mathcal{H}={\rm span}\{\pi([f])v:[f]\in L^1(G,\mu),v\in \mathcal{H}\}$ は $\mathcal{H}$ において稠密であるから、 $$ \pi([h_{\lambda}])v\rightarrow v\quad(\forall v\in \mathcal{H}) $$ が成り立つ。すなわち $(\pi([h_{\lambda}]))_{\lambda\in\Lambda}$ は恒等作用素 $1\in \mathbb{B}(\mathcal{H})$ にSOTで収束する。
命題2.16(局所コンパクト群のユニタリ表現の $L^1$ 群環の表現への拡張)
$G$ を局所コンパクト群、$\mu\colon \mathcal{B}_G\rightarrow [0,\infty]$ を $G$ のHaar測度とし、$\pi$ を $G$ のユニタリ表現とする。任意の $[f]\in L^1(G,\mu)$, 任意の $v\in \mathcal{H}_{\pi}$ に対し、 $$ \widetilde{\pi}([f])v\colon=\int_{G}f(x)\pi(x)vd\mu(x)\in \mathcal{H}_{\pi} $$ と定義する。ただし右辺はHilbert空間 $\mathcal{H}_{\pi}$ 値関数 $G\ni x\mapsto f(x)\pi(x)v\in \mathcal{H}_{\pi}$ のBochner積分(測度と積分9:Bochner積分の定義44.1)である。[7]このとき任意の $[f]\in L^1(G,\mu)$ に対し、 $$ \widetilde{\pi}([f])\colon \mathcal{H}_{\pi}\ni v\mapsto \widetilde{\pi}([f])v\in \mathcal{H}_{\pi} $$ は有界線形作用素であり、 $$ \widetilde{\pi}\colon L^1(G,\mu)\ni [f]\mapsto \widetilde{\pi}([f])\in \mathbb{B}(\mathcal{H}_{\pi}) $$ は $L^1(G,\mu)$ の $\mathcal{H}_{\pi}$ 上への表現(定義2.14)である。また、 $$ \pi(x)\widetilde{\pi}([f])=\widetilde{\pi}(L_x[f])\quad(\forall x\in G,\forall [f]\in L^1(G,\mu)) $$ が成り立つ。
Proof.
任意の $[f]\in L^1(G,\mu)$ に対しBochner積分の基本性質(測度と積分9:Bochner積分の命題44.2)より、 $$ \lVert \widetilde{\pi}([f])v\rVert=\left\lVert\int_{G}f(x)\pi(x)vd\mu(x)\right\rVert\leq \int_{G}\lVert f(x)\pi(x)v\rVert d\mu(x)=\lVert [f]\rVert_1\lVert v\rVert\quad(\forall v\in \mathcal{H}_{\pi}) $$ であるから、$\widetilde{\pi}([f])$ は $\mathcal{H}_{\pi}$ 上のノルムが $\lVert [f]\rVert_1$ 以下の有界線形作用素である。よって $\widetilde{\pi}\colon L^1(G,\mu)\rightarrow \mathbb{B}(\mathcal{H}_{\pi})$ はノルム減少な線形写像である。任意の $x\in G$, $[f]\in L^1(G,\mu)$ に対し、Bocbner積分の基本性質(測度と積分9:Bochner積分の命題44.2)とHaar測度による積分の左不変性より、 $$ \begin{aligned} (u\mid \pi(x)\widetilde{\pi}([f])v)&=\left(u\mid \pi(x)\left(\int_{G}f(y)\pi(y)vd\mu(y)\right)\right) =\int_{G}f(y)(u\mid \pi(xy)v)d\mu(y)\\ &=\int_{G}f(x^{-1}y)(u\mid \pi(y)v)d\mu(y)=\left(u\mid \int_{G}f(x^{-1}y)\pi(y)vd\mu(y)\right)\\ &=(u\mid \widetilde{\pi}(L_x[f])v)\quad(\forall u,v\in \mathcal{H}_{\pi}) \end{aligned} $$ であるから、 $$ \pi(x)\widetilde{\pi}([f])=\widetilde{\pi}(L_x[f])\quad(\forall x\in G,\forall [f]\in L^1(G,\mu)) $$ が成り立つ。よって任意の $[f],[g]\in L^1(G,\mu)$ に対し、合成積の定義(定義1.20)とBocbner積分の基本性質(測度と積分9:Bochner積分の命題44.2)より、 $$ \begin{aligned} \widetilde{\pi}([f]*[g])v&=\widetilde{\pi}\left(\int_{G}f(y)L_y[g]d\mu(y)\right)v =\int_{G}f(y)\widetilde{\pi}(L_y[g])vd\mu(y)\\ &=\int_{G}f(y)\pi(y)\widetilde{\pi}([g])vd\mu(y)=\widetilde{\pi}([f])\widetilde{\pi}([g])v\quad(\forall v\in \mathcal{H}_{\pi}) \end{aligned} $$ が成り立つので、$\widetilde{\pi}\colon L^1(G,\mu)\rightarrow \mathbb{B}(\mathcal{H}_{\pi})$ は乗法を保存する。さらに任意の $[f]\in L^1(G,\mu)$ に対し、命題1.16の $(3)$ より、 $$ \begin{aligned} (u\mid \widetilde{\pi}([f]^*)v)&=\int_{G}f^*(x)(u\mid \pi(x)v)d\mu(x) =\int_{G}\overline{f(x^{-1})}\Delta(x^{-1})(u\mid \pi(x)v)d\mu(x)\\ &=\int_{G}\overline{f(x)}(u\mid \pi(x^{-1})v)=\int_{G}(f(x)\pi(x)u\mid v)d\mu(x)\\ &=(\widetilde{\pi}([f])u\mid v)=(u\mid \widetilde{\pi}([f])^*v)\quad(\forall u,v\in \mathcal{H}_{\pi}) \end{aligned} $$ であるから、$\widetilde{\pi}\colon L^1(G,\mu)\rightarrow \mathbb{B}(\mathcal{H}_{\pi})$ は対合を保存する。よって $\widetilde{\pi}\colon L^1(G,\mu)\rightarrow \mathbb{B}(\mathcal{H}_{\pi})$ は $*$-環準同型写像である。定理1.25における $L^1(G,\mu)$ の近似単位元 $(\varphi_n)_{n\in \mathbb{N}}$ を取ると、任意の $v\in \mathcal{H}_{\pi}$ に対し、 $$ \begin{aligned} &\lVert \widetilde{\pi}(\varphi_n)v-v\rVert=\left\lVert \int_{G}\varphi_n(x)\pi(x)vd\mu(x)-\int_{G}\varphi_n(x)vd\mu(x)\right\rVert\\ &=\left\lVert \int_{G}\varphi_n(x)(\pi(x)v-v)d\mu(x)\right\rVert\leq \int_{G}\varphi_n(x)\lVert \pi(x)v-v\rVert d\mu(x)\rightarrow0\quad(n\rightarrow\infty) \end{aligned} $$ [8]であるから、 $$ v=\lim_{n\rightarrow\infty}\widetilde{\pi}(\varphi_n)v\in \overline{\widetilde{\pi}(L^1(G,\mu))\mathcal{H}_{\pi}} $$ である。よって、 $$ \widetilde{\pi}(L^1(G,\mu))\mathcal{H}_{\pi}={\rm span}\{\widetilde{\pi}([f])v:[f]\in L^1(G,\mu),v\in \mathcal{H}_{\pi}\} $$ は $\mathcal{H}_{\pi}$ で稠密であるので、$\widetilde{\pi}\colon L^1(G,\mu)\rightarrow \mathbb{B}(\mathcal{H}_{\pi})$ は $L^1(G,\mu)$ の $\mathcal{H}_{\pi}$ 上への表現である。
□定理2.17(局所コンパクト群のユニタリ表現と $L^1$ 群環の表現の一対一対応)
$G$ を局所コンパクト群、$\mu\colon \mathcal{B}_G\rightarrow [0,\infty]$ を $G$ のHaar測度とし、$\rho$ を $L^1$ 群環 $L^1(G,\mu)$ のHilbert空間 $\mathcal{H}$ 上への表現(定義2.14)とする。このとき $G$ の $\mathcal{H}$ 上へのユニタリ表現 $\pi$ で、 $$ \rho([f])=\widetilde{\pi}([f])\quad(\forall [f]\in L^1(G,\mu)) $$ (ただし $\widetilde{\pi}$ は命題2.16におけるもの)を満たすものが唯一つ存在する。
Proof.
定理1.25における $L^1(G,\mu)$ の近似単位元 $(\varphi_n)_{n\in \mathbb{N}}$ を取る。まず一意性を示す。$\pi_1,\pi_2$ が $G$ の $\mathcal{H}$ 上へのユニタリ表現であり、
$$
\rho([f])=\widetilde{\pi_j}([f])\quad(\forall [f]\in L^1(G,\mu),j=1,2)
$$
を満たすとする。このとき注意2.15より、
$$
\begin{aligned}
\pi_1(x)v&=\lim_{n\rightarrow\infty}\pi_1(x)\widetilde{\pi_1}(\varphi_n)v=
\lim_{n\rightarrow\infty}\widetilde{\pi_1}(L_x\varphi_n)v=\lim_{n\rightarrow\infty}\widetilde{\pi_2}(L_x\varphi_n)v\\
&=\lim_{n\rightarrow\infty}\pi_2(x)\widetilde{\pi_2}(\varphi_n)v=\pi_2(x)v\quad(\forall x\in G,\forall v\in \mathcal{H})
\end{aligned}
$$
である。よって $\pi_1=\pi_2$ である。
存在を示す。
$$
\mathcal{H}_0\colon=\rho(L^1(G,\mu))\mathcal{H}={\rm span}\{\rho([f])v:[f]\in L^1(G,\mu),v\in \mathcal{H}\}
$$
とおく。$L^1$ 群環の表現の定義(定義2.14)より $\mathcal{H}_0$ は $\mathcal{H}$ の稠密部分空間である。$\rho$ はノルム減少であるから任意の $x\in G$, $[f]\in L^1(G,\mu)$ に対し、
$$
\rho(L_x\varphi_n)\rho([f])=\rho(L_x\varphi_n*[f])=\rho(L_x(\varphi_n*[f]))\rightarrow \rho(L_x[f])\quad(n\rightarrow\infty)\quad\quad(*)
$$
である。よって任意の $x\in G$ に対し、線形作用素
$$
\pi_0(x)\colon \mathcal{H}_0\rightarrow\mathcal{H}_0,\quad \pi_0(x)v\colon=\lim_{n\rightarrow\infty}\rho(L_x\varphi_n)v\quad(\forall v\in \mathcal{H}_0)\quad\quad(**)
$$
が定義できる。$\rho$ がノルム減少であることと $\lVert L_x\varphi_n\rVert_1=\lVert \varphi_n\rVert_1=1$ $(\forall x\in G,\forall n\in \mathbb{N})$ であることから、
$$
\lVert \pi_0(x)v\rVert=\lim_{n\rightarrow\infty}\lVert \rho(L_x\varphi_n)v\rVert\leq \lVert v\rVert\quad(\forall x\in G,\forall v\in \mathcal{H}_0)
$$
である。よって任意の $x\in G$ に対し $\pi_0(x)\colon \mathcal{H}_0\rightarrow\mathcal{H}$ はノルムが $1$ 以下の有界線形作用素であり、その $\mathcal{H}=\overline{\mathcal{H}_0}$ 上への一意拡張を $\pi(x)\in \mathbb{B}(\mathcal{H})$ とおけば、$\lVert \pi(x)\rVert=\lVert \pi_0(x)\rVert\leq1$ である。$(*),(**)$ より、
$$
\begin{aligned}
&\pi(x)\pi(y)\rho([f])v=\pi(x)\rho(L_y[f])v=\rho(L_xL_y[f])v=\rho(L_{xy}[f])v\\
&=\pi(xy)\rho([f])v\quad(\forall x,y\in G,\forall [f]\in L^1(G,\mu),\forall v\in \mathcal{H}),
\end{aligned}
$$
$$
\pi(1)\rho([f])v=\rho(L_1[f]v)=\rho([f])v\quad(\forall [f]\in L^1(G,\mu),\forall v\in \mathcal{H})
$$
であるから、$\mathcal{H}_0$ の稠密性より、
$$
\pi(x)\pi(y)=\pi(xy)\quad(\forall x,y\in G),\quad \pi(1)=1
$$
が成り立つ。よって任意の $x\in G$ に対し $\pi(x)\in \mathbb{B}(\mathcal{H})$ は可逆で、$\pi(x)^{-1}=\pi(x^{-1})$ であり、
$$
\lVert v\rVert=\lVert \pi(x^{-1})\pi(x)v\rVert\leq \lVert \pi(x)v\rVert\leq \lVert v\rVert\quad(\forall x\in G,\forall v\in \mathcal{H})
$$
より、
$$
\lVert \pi(x)v\rVert=\lVert v\rVert\quad(\forall x\in G,\forall v\in \mathcal{H})
$$
であるから、$\pi(x)\in \mathbb{U}(\mathcal{H})$ $(\forall x\in G)$ である。任意の $[f]\in L^1(G,\mu)$ に対し、命題1.19より $G\ni x\mapsto L_x[f]\in L^1(G,\mu)$ は連続であるから、任意の $[f]\in L^1(G,\mu)$ と任意の $v\in \mathcal{H}$ に対し、
$$
G\ni x\mapsto \pi(x)\rho([f])v=\rho(L_x[f])v\in \mathcal{H}
$$
は連続である。よって、$\lVert \pi(x)\rVert=1$ $(\forall x\in G)$ と $\mathcal{H}_0$ の稠密性より、任意の $v\in \mathcal{H}$ に対し、
$$
G\ni x\mapsto \pi(x)v\in \mathcal{H}
$$
は連続である。ゆえに $\pi\colon G\ni x\mapsto \pi(x)\in \mathbb{U}(\mathcal{H})$ はSOT連続な群準同型写像であるので、$\pi$ は $G$ の $\mathcal{H}$ 上へのユニタリ表現である。合成積の定義(定義1.20)とBochner積分の基本性質(測度と積分9:Bochner積分の命題44.2)より、
$$
\begin{aligned}
\widetilde{\pi}([f])\rho([g])v&=\int_{G}f(x)\pi(x)\rho([g])vd\mu(x)=\int_{G}f(x)\rho(L_x[g])vd\mu(x)\\
&=\rho\left(\int_{G}f(x)L_x[g]d\mu(x)\right)v=\rho([f]*[g])v\\
&=\rho([f])\rho([g])v\quad(\forall [f],[g]\in L^1(G,\mu),\forall v\in \mathcal{H})
\end{aligned}
$$
であるから、$\mathcal{H}_0$ の稠密性より、
$$
\widetilde{\pi}([f])v=\rho([f])v\quad(\forall [f]\in L^1(G,\mu),\forall v\in \mathcal{H})
$$
である。よって存在が示せた。
定義2.18(局所コンパクト群のユニタリ表現とそれに対応する $L^1$ 群環の表現の同一視)
$G$ を局所コンパクト群、$\mu\colon \mathcal{B}_G\rightarrow [0,\infty]$ を $G$ のHaar測度とする。$G$ のユニタリ表現と、$L^1$ 群環 $L^1(G,\mu)$ の表現は、命題2.16と定理2.17により一対一に対応する。そこで以後、$G$ のユニタリ表現 $\pi\colon G\rightarrow\mathbb{U}(\mathcal{H}_{\pi})$ と、それに対応する $L^1(G,\mu)$ の表現 $\widetilde{\pi}\colon L^1(G,\mu)\rightarrow \mathbb{B}(\mathcal{H}_{\pi})$ は同じ記号で表す。すなわち、$G$ のユニタリ表現 $\pi\colon G\rightarrow \mathbb{U}(\mathcal{H})$ に対し、 $$ \pi([f])v=\int_{G}f(x)\pi(x)vd\mu(x)\quad(\forall [f]\in L^1(G,\mu),\forall v\in \mathcal{H}_{\pi}) $$ と表す。
命題2.19(局所コンパクト群の正則表現に対応する $L^1$ 群環の表現)
$G$ を局所コンパクト群、$\mu\colon \mathcal{B}_G\rightarrow [0,\infty]$ を $G$ のHaar測度、$\pi\colon G\rightarrow\mathbb{U}(L^2(G,\mu))$ を $G$ の正則表現(例2.2)とする。このとき、 $$ \pi([f])[g]=[f]*[g]\quad(\forall [f]\in L^1(G,\mu), \forall [g]\in L^2(G,\mu)) $$ (右辺は $L^1(G,\mu)$ と $L^2(G,\mu)$ の合成積(定義1,20))が成り立つ。また、 $$ \pi\colon L^1(G,\mu)\ni [f]\mapsto \pi([f])\in \mathbb{B}(L^2(G,\mu))\quad\quad(*) $$ は単射である。
Proof.
正則表現の定義(例2.2)と合成積の定義(定義1,20)より任意の $[f]\in L^1(G,\mu)$, $[g]\in L^2(G,\mu)$ に対し、 $$ \pi([f])[g]=\int_{G}f(x)\pi(x)[g]d\mu(x)=\int_{G}f(x)L_x[g]d\mu(x)=[f]*[g] $$ である。$(*)$ が単射であることを示す。$\pi([f])=0$ なる任意の $[f]\in L^1(G,\mu)$ を取る。定理1.25における $L^1(G,\mu)$ の近似単位元 $(\varphi_n)_{n\in \mathbb{N}}$ を取ると、$\varphi_n\in C_c(G)\subset L^2(G,\mu)$ $(\forall n\in \mathbb{N})$ より、 $$ 0=\pi([f])[\varphi_n]=[f]*[\varphi_n]\rightarrow [f]\quad(n\rightarrow\infty) $$ である。よって $[f]=0$ であるので $(*)$ は単射である。
□定義2.20(群 $C^*$-環)
$G$ を局所コンパクト群、$\mu\colon \mathcal{B}_G\rightarrow [0,\infty]$ を $G$ のHaar測度とする。 $$ \lVert [f]\rVert_*\colon=\sup\{\lVert \pi([f])\rVert:\text{$\pi$ は $G$ のユニタリ表現}\}\leq \lVert [f]\rVert_1\quad(\forall [f]\in L^1(G,\mu)) $$ とおく。このとき命題2.19における単射性より $\lVert \cdot\rVert_*\colon L^1(G,\mu)\ni [f]\mapsto \lVert [f]\rVert_*\in [0,\infty)$ は $L^1(G,\mu)$ のノルムであり、また明らかに、 $$ \lVert [f]*[g]\rVert_*\leq\lVert [f]\rVert_*\lVert [g]\rVert_*,\quad \lVert [f]^**[f]\rVert_*=\lVert [f]\rVert_*^2\quad(\forall [f],[g]\in L^1(G,\mu)) $$ である。よって $L^1(G,\mu)$ の $\lVert \cdot\rVert_*$ に関する完備化は $C^*$-環である(次の命題2.21を参照)。この $C^*$-環 $$ C^*(G,\mu)\colon=\overline{L^1(G,\mu)}^{\lVert \cdot\rVert_*} $$ を $G$ の群 $C^*$-環と言う。
命題2.21
$X$ をノルム $*$-環で、 $$ \lVert x^*x\rVert=\lVert x\rVert^2\quad(\forall x\in X) $$ を満たすものとする。このとき $C^*$-環 $\widetilde{X}$ と、等長 $*$-環準同型写像 $\iota\colon X\rightarrow \widetilde{X}$ で、$\iota(X)$ が $\widetilde{X}$ において稠密であるようなものが存在する。
Proof.
直積 $*$-環 $\prod_{n\in \mathbb{N}}X$ の部分 $*$-環 $$ \mathcal{C}\colon=\left\{(x_n)_{n\in \mathbb{N}}\in \prod_{n\in \mathbb{N}}X:\text{$(x_n)_{n\in\mathbb{N}}$ はCauchy列}\right\} $$ と、$\mathcal{C}$ 上のセミノルム $$ p\colon \mathcal{C}\ni (x_n)_{n\in \mathbb{N}}\mapsto \lim_{n\rightarrow\infty}\lVert x_n\rVert\in[0,\infty) $$ を考える。このとき明らかに、 $$ p(zw)\leq p(z)p(w),\quad p(z^*z)=p(z)^2\quad(\forall z,w\in \mathcal{C}) $$ が成り立つ。$\mathcal{C}$ の $*$-イデアル(位相線形空間1:ノルムと内積の定義2.4) $$ \mathcal{N}\colon =\{z\in \mathcal{C}:p(z)=0\} $$ に対し、商 $*$-環(位相線形空間1:ノルムと内積の命題2.5を参照)$\mathcal{C}/\mathcal{N}$ を考え、商写像を、 $$ \mathcal{C}\ni z\mapsto [z]\in \mathcal{C}/\mathcal{N} $$ とおく。このとき、 $$ \lVert \cdot\rVert\colon \mathcal{C}/\mathcal{N}\ni [z]\mapsto\lVert [z]\rVert :=p(z)\in [0,\infty) $$ は $\mathcal{C}/\mathcal{N}$ 上のノルムであり、 $$ \lVert [z][w]\rVert\leq \lVert [z][w]\rVert,\quad \lVert [z]^*[z]\rVert=\lVert [z]\rVert^2\quad(\forall [z],[w]\in \mathcal{C}/\mathcal{N}) $$ が成り立つ。このノルムによるノルム $*$-環を $\widetilde{X}$ とおく。 $$ \iota\colon X\ni x\mapsto [(x)_{n\in \mathbb{N}}]\in \widetilde{X} $$ として等長$*$-環準同型写像を定義する。任意の $z=[(x_n)_{n\in \mathbb{N}}]\in \widetilde{X}$ と任意の $\epsilon\in (0,\infty)$ に対し、 $$ \lVert x_n-x_m\rVert\leq\epsilon\quad(\forall n,m\geq n_0) $$ を満たす $n_0\in \mathbb{N}$ を取ると、 $$ \lVert z-\iota(x_{n_0})\rVert=\lim_{n\rightarrow\infty}\lVert x_n-x_{n_0}\rVert\leq\epsilon $$ であるから、$\iota(X)$ は $\widetilde{X}$ において稠密である。後は $\widetilde{X}$ の完備性を示せばよい。そこで $\widetilde{X}$ の任意のCauchy列 $(z_n)_{n\in \mathbb{N}}$ を取る。$\iota(X)\subset \widetilde{X}$ の稠密性より、 $$ \lVert z_n-\iota(x_n)\rVert<\frac{1}{n}\quad(\forall n\in \mathbb{N}) $$ を満たす $(x_n)_{n\in\mathbb{N}}\in \prod_{n\in \mathbb{N}}X$ が取れて、任意の $n,m\in\mathbb{N}$ に対し、 $$ \lVert x_n-x_m\rVert\leq \lVert \iota(x_n)-z_n\rVert+\lVert z_n-z_m\rVert+\lVert z_m-\iota(x_m)\rVert <\frac{1}{n}+\lVert z_n-z_m\rVert+\frac{1}{m} $$ であるから、$(x_n)_{n\in \mathbb{N}}\in \mathcal{C}$ である。そこで $z\colon=[(x_n)_{n\in\mathbb{N}}]\in \widetilde{X}$ とおけば、任意の $n\in \mathbb{N}$ に対し、 $$ \lVert z-z_n\rVert\leq \lVert z-\iota(x_n)\rVert+\lVert \iota(x_n)-z_n\rVert=\lim_{m\rightarrow\infty}\lVert x_m-x_n\rVert+\frac{1}{n} $$ であるから、$\lim_{n\rightarrow\infty}z_n=z$ である。よって $\widetilde{X}$ は完備なので $C^*$-環である。
□定義2.22(群 $C^*$-環の表現)
$G$ を局所コンパクト群、$\mu\colon \mathcal{B}_G\rightarrow [0,\infty]$ を $G$ のHaar測度、$(C^*(G,\mu),\lVert \cdot\rVert_*)$ を $G$ の群 $C^*$-環、$\mathcal{H}$ をHilbert空間とする。$C^*$-環 $C^*(G,\mu)$ から $C^*$-環 $\mathbb{B}(\mathcal{H})$ への $*$-環準同型写像 $\pi\colon C^*(G,\mu)\rightarrow \mathbb{B}(\mathcal{H})$(Banach環とC*-環のスペクトル理論の定理10.1より自動的にノルム減少であることに注意)で、 $$ \pi(C^*(G,\mu))\mathcal{H}={\rm span}\{\pi(a)v:a\in C^*(G,\mu),v\in \mathcal{H}\} $$ が $\mathcal{H}$ で稠密であるものを $C^*(G,\mu)$ の $\mathcal{H}$ 上への表現と言う。
命題2.23(局所コンパクト群の $L^1$ 群環の表現と群 $C^*$-環の表現の一対一対応)
$G$ を局所コンパクト群、$\mu\colon \mathcal{B}_G\rightarrow[0,\infty]$ を $G$ のHaar測度とする。このとき $L^1(G,\mu)$ の任意の表現 $\pi\colon L^1(G,\mu)\rightarrow \mathbb{B}(\mathcal{H}_{\pi})$ は群 $C^*$-環 $(C^*(G,\mu),\lVert \cdot\rVert_1)$ の $\mathcal{H}_{\pi}$ 上への表現に一意拡張できる。また群 $C^*$-環 $C^*(G,\mu)$ の表現の $L^1(G,\mu)$ 上への制限は $L^1(G,\mu)$ の表現である。
Proof.
$L^1(G,\mu)$ の任意の表現 $\pi\colon L^1(G,\mu)\rightarrow \mathbb{B}(\mathcal{H}_{\pi})$ に対し、群 $C^*$-環のノルムの定義(定義2.20)より、 $$ \lVert \pi([f])\rVert\leq \lVert [f]\rVert_*\quad(\forall [f]\in L^1(G,\mu)) $$ であるから、$\pi$ は $C^*(G,\mu)=\overline{L^1(G,\mu)}^{\lVert\cdot\rVert_*}$ 上の $*$-環準同型写像 $\widetilde{\pi}\colon C^*(G,\mu)\rightarrow \mathbb{B}(\mathcal{H}_{\pi})$ に一意拡張できる(位相線形空間1:ノルムと内積の命題3.6)。そして、 $$ \widetilde{\pi}(C^*(G,\mu))\mathcal{H}_{\pi}\supset \pi(L^1(G,\mu))\mathcal{H}_{\pi} $$ より $\widetilde{\pi}(C^*(G,\mu))\mathcal{H}_{\pi}$ も $\mathcal{H}_{\pi}$ で稠密であるから、 $\widetilde{\pi}\colon C^*(G,\mu)\rightarrow \mathbb{B}(\mathcal{H}_{\pi})$ は $C^*(G,\mu)$ の $\mathcal{H}_{\pi}$ 上への表現である。$\rho \colon C^*(G,\mu)\rightarrow \mathbb{B}(\mathcal{H}_{\rho})$ を $C^*(G,\mu)$ の任意の表現とする。$\rho$ の $L^1(G,\mu)$ 上への制限は $L^1(G,\mu)$ から $\mathbb{B}(\mathcal{H}_{\rho})$ への $*$-環準同型写像であり、$\rho$ のノルム減少性より、 $$ \rho(C^*(G,\mu)\mathcal{H}_{\rho})\subset \overline{\rho(L^1(G,\mu))\mathcal{H}_{\rho}} $$ であるから、$\rho(L^1(G,\mu))\mathcal{H}_{\rho}$ は $\mathcal{H}_{\rho}$ で稠密である。よって $\rho$ の $L^1(G,\mu)$ 上への制限は $L^1(G,\mu)$ の $\mathcal{H}_{\rho}$ 上への表現である。
□定義2.24(局所コンパクト群のユニタリ表現とそれに対応する群 $C^*$-環の表現の同一視)
$G$ を局所コンパクト群、$\mu\colon \mathcal{B}_G\rightarrow [0,\infty]$ を $G$ のHaar測度とする。$G$ のユニタリ表現は定義2.18において $L^1$ 群環 $L^1(G,\mu)$ の表現と同一視した。命題2.23より、さらに $L^1(G,\mu)$ の表現と群 $C^*$-環 $C^*(G,\mu)$ の表現は、拡張と制限により一対一に対応するので、これらも同一視する。
定義2.25($L^1$ 群環上の有界非負線形汎関数全体 $(L^1(G,\mu))^*_+$)
$G$ を局所コンパクト群、$\mu\colon \mathcal{B}_G\rightarrow [0,\infty]$ を $G$ のHaar測度とする。有界線形汎関数 $\Phi\colon L^1(G,\mu)\rightarrow \mathbb{C}$ で、 $$ \Phi([f]^**[f])\geq0\quad(\forall [f]\in L^1(G,\mu)) $$ を満たすものを $L^1(G,\mu)$ 上の有界非負線形汎関数と言う。$L^1(G,\mu)$ 上の有界非負線形汎関数全体を $(L^1(G,\mu))^*_+\subset (L^1(G,\mu))^*$ と表す。
定義2.26(局所コンパクト群上の正定値連続関数全体 $\mathcal{P}(G)$)
$G$ を局所コンパクト群、$\mu\colon \mathcal{B}_G\rightarrow [0,\infty]$ を $G$ のHaar測度とする。有界連続関数 $p\colon G\rightarrow \mathbb{C}$ に対し、$\Phi_p\in (L^1(G,\mu))^*$ を、 $$ \Phi_p\colon L^1(G,\mu)\ni [f]\mapsto \int_{G}f(x)p(x)d\mu(x)\in \mathbb{C} $$ として定義する。$\Phi_p\in (L^1(G,\mu))^*_+$ であるとき $p$ を $G$ 上の正定値連続関数と言う。$G$ 上の正定値連続関数全体を $\mathcal{P}(G)$ と表す。
注意2.27(局所コンパクト群のユニタリ表現とベクトルから定まる正定値連続関数)
$G$ を局所コンパクト群、$\mu\colon \mathcal{B}_G\rightarrow [0,\infty]$ を $G$ のHaar測度とする。$G$ の任意のユニタリ表現 $\pi$ と $v\in \mathcal{H}_{\pi}$ に対し、 $$ p(x)\colon=(v\mid \pi(x)v)\quad(\forall x\in G) $$ として有界連続関数 $p\colon G\rightarrow \mathbb{C}$ を定義すれば、任意の $[f]\in L^1(G,\mu)$ に対し、 $$ \Phi_p([f])=\int_{G}f(x)(v\mid \pi(x)v)d\mu(x)=\int_{G}(v\mid f(x)\pi(x)v)d\mu(x) =(v\mid \pi([f])v) $$ であるから、 $$ \Phi_p([f]^**[f])=(v\mid \pi([f]^**[f])v)=(v\mid \pi([f])^*\pi([f])v)=\lVert \pi([f])v\rVert^2\geq0 $$ である。よって $\Phi_p\in (L^1(G,\mu))^*_+$ なので $p\in {\cal P}(G)$ である。
命題2.28
$G$ を局所コンパクト群、$\mu\colon \mathcal{B}_G\rightarrow [0,\infty]$ を $G$ のHaar測度、$p\colon G\rightarrow \mathbb{C}$ を有界連続関数とする。このとき任意の $[f],[g]\in L^1(G,\mu)$ に対し、 $$ \Phi_p([g]^**[f])=\int_{G}\left(\int_{G}\overline{g(y)}f(x)p(y^{-1}x)d\mu(x)\right)d\mu(y) $$ が成り立つ。そして $p\colon G\rightarrow \mathbb{C}$ が正定値連続関数であるならば、$\overline{p}\colon G\ni x\mapsto \overline{p(x)}\in \mathbb{C}$ も正定値連続関数である。
Proof.
任意の $[f],[g]\in L^1(G,\mu)$ に対し、合成積の定義(定義1.20)とFubiniの定理、モジュラー関数の基本性質(命題1.16)、Haar測度による積分の左不変性より、 $$ \begin{aligned} &\Phi_p([g]^**[f])=\int_{G}([g]^**[f])(x)p(x)d\mu(x)=\int_{G}\left(\int_{G}g^*(y)f(y^{-1}x)p(x)d\mu(x)\right)d\mu(y)\\ &=\int_{G}\left(\int_{G}\overline{g(y^{-1})}\Delta(y^{-1})f(y^{-1}x)p(x)d\mu(y)\right)d\mu(x) =\int_{G}\left(\int_{G}\overline{g(y)}f(yx)p(x)d\mu(y)\right)d\mu(x)\\ &=\int_{G}\left(\int_{G}\overline{g(y)}f(x)p(y^{-1}x)d\mu(x)\right)d\mu(y) \end{aligned} $$ である。よって任意の $[f]\in L^1(G,\mu)$ に対し、 $$ \begin{aligned} &\overline{\Phi_p([f]^**[f])}= \overline{\int_{G}\int_{G}\overline{f(y)}f(x)p(y^{-1}x)d\mu(x)d\mu(y)}\\ &=\int_{G}\int_{G}f(y)\overline{f(x)}\overline{p(y^{-1}x)}d\mu(x)d\mu(y) =\Phi_{\overline{p}}([\overline{f}]^**[\overline{f}]) \end{aligned} $$ であるから、$p$ が正定値連続関数であるならば、$\overline{p}$ も正定値連続関数である。
□補題2.29($C_c(G)*C_c(G)\subset C_c(G)$)
$G$ を局所コンパクト群とする。任意の $f,g\in C_c(G)$ に対し $f*g\in C_c(G)$ が成り立つ。
Proof.
任意の $f,g\in C_c(G)$ に対し合成積の定義(定義1.21)より $f*g\in C_0(G)$ であり、 $$ (f*g)(x)=\int_{G}f(y)g(y^{-1}x)d\mu(y)\quad(\forall x\in G) $$ である。$(f*g)(x)\neq 0$ なる任意の $x\in G$ に対し、上式より、$G\ni y\mapsto g(y^{-1}x)\in \mathbb{C}$ の台 $x{\rm supp}(g)^{-1}$ と $f$ の台 ${\rm supp}(f)$ は交わる。よって $x\in {\rm supp}(f){\rm supp}(g)$ であり、$G$ の乗法の連続性より ${\rm supp}(f){\rm supp}(g)$ はコンパクトであるから、 $$ {\rm supp}(f*g)\subset {\rm supp}(f){\rm supp}(g) $$ である。よって $f*g\in C_c(G)$ である。
□定理2.30(${\rm span}(\mathcal{P}(G)\cap C_c(G))$ は、$C_0(G)$, $L^p(G,\mu)$ $(p\in [1,\infty))$ において稠密)
$G$ を局所コンパクト群、$\mu\colon \mathcal{B}_G\rightarrow [0,\infty]$ を $G$ のHaar測度とする。このとき、 $$ {\rm span}(\mathcal{P}(G)\cap C_c(G)) $$ はBanach空間 $C_0(G)$, $L^p(G,\mu)$ $(p\in [1,\infty))$ それぞれにおいて稠密である。
Proof.
任意の $f\colon G\rightarrow\mathbb{C}$ に対し、$\widetilde{f}(x)\colon=\overline{f(x^{-1})}$ $(\forall x\in G)$ と定義する。また $\pi\colon G\rightarrow \mathbb{U}(L^2(G,\mu))$ を $G$ の正則表現(例2.2)とする。任意の $f\in C_c(G)$ に対し $\widetilde{f}\in C_c(G)$ であるので、補題2.29より $f*\widetilde{f}\in C_c(G)$ であり、 $$ \begin{aligned} (f*\widetilde{f})(x)&=\int_{G}f(y)\widetilde{f}(y^{-1}x)d\mu(y)=\int_{G}f(y)\overline{f(x^{-1}y)}d\mu(y)\\ &=(\pi(x)f\mid f)_2=\overline{(f\mid \pi(x)f)_2}\quad(\forall x\in G) \end{aligned} $$ であるから、注意2.27と命題2.28より 、 $$ f*\widetilde{f}\in \mathcal{P}(G)\cap C_c(G)\quad(\forall f\in C_c(G)) $$ が成り立つ。よって、 任意の $f,g\in C_c(G)$ に対し、 $$ f*\widetilde{g}=\frac{1}{4}\sum_{k=0}^{3}i^k(f+i^kg)*(\widetilde{f+i^kg})\in {\rm span}(\mathcal{P}(G)\cap C_c(G)) $$ であり、$g=\widetilde{\widetilde{g}}$ であるから、 $$ f*g\in {\rm span}(\mathcal{P}(G)\cap C_c(G))\quad(\forall f,g\in C_c(G)) $$ が成り立つ。今、定理1.25における $L^1(G,\mu)$ の近似単位元 $(\varphi_n)_{n\in \mathbb{N}}$ を取る。$\varphi_n\in C_c(G)$ $(\forall n\in \mathbb{N})$ であるから、任意の $f\in C_c(G)$ に対し、 $$ \varphi_n*f\in {\rm span}(\mathcal{P}(G)\cap C_c(G))\quad(\forall n\in \mathbb{N}) $$ であり、命題1.3と合成積の定義(定義1.21)より、$\sup$ ノルムに関して、 $$ \begin{aligned} &\lVert \varphi_n*f-f\rVert=\left\lVert \int_{G}\varphi_n(y)L_yfd\mu(y)-\int_{G}\varphi_n(y)fd\mu(y)\right\rVert\\ &=\left\lVert \int_{G}\varphi_n(y)(L_yf-f)d\mu(y)\right\rVert\leq \int_{G}\varphi_n(y)\lVert L_yf-f\rVert d\mu(y)\\ &\rightarrow0\quad(n\rightarrow\infty). \end{aligned} $$ よって、 $$ C_c(G)\subset \overline{{\rm span}(C_c(G)\cap \mathcal{P}(G))}\subset C_0(G) $$ が成り立つ。ここで測度と積分7:局所コンパクトHausdorff空間上のRadon測度の命題28.3より $C_c(G)$ は $C_0(G)$ において稠密であるので、 $$ C_0(G)=\overline{{\rm span}(C_c(G)\cap \mathcal{P}(G))} $$ が成り立つ。また任意の $p\in [1,\infty)$, 任意の $f\in C_c(G)$ に対し命題1.19と合成積の定義(定義1.21)より、 $$ \begin{aligned} &\lVert \varphi_n*f-f\rVert_p=\left\lVert \int_{G}\varphi_n(y)L_yfd\mu(y)-\int_{G}\varphi_n(y)fd\mu(y)\right\rVert_p\\ &=\left\lVert \int_{G}\varphi_n(y)(L_yf-f)d\mu(y)\right\rVert_p\leq \int_{G}\varphi_n(y)\lVert L_yf-f\rVert_pd\mu(y)\\ &\rightarrow0\quad(n\rightarrow\infty) \end{aligned} $$ であるから、 $$ C_c(G)\subset \overline{{\rm span}(C_c(G)\cap \mathcal{P}(G))}^{\lVert \cdot\rVert_p}\subset L^p(G,\mu) $$ が成り立つ。測度と積分7:局所コンパクトHausdorff空間上のRadon測度の命題32.1より $C_c(G)$ は $L^p(G,\mu)$ において稠密であるので、 $$ L^p(G,\mu)=\overline{{\rm span}(C_c(G)\cap \mathcal{P}(G))}^{\lVert \cdot\rVert_p} $$ が成り立つ。
□補題2.31(忠実性抜きの内積に関するSchwarzの不等式)
$X$ を $\mathbb{C}$ 上の線形空間とし、 $$ [\cdot,\cdot]\colon X\times X\ni (x,y)\mapsto [x,y]\in \mathbb{C} $$ が内積の忠実性以外の条件を満たすとする。すなわち、
- $(1)$ 任意の $x,y\in X$ に対し、$\overline{[x,y]}=[y,x]$.
- $(2)$ 任意の $x\in X$ に対し、$X\ni y\mapsto [x,y]\in \mathbb{C}$ は線形汎関数。
- $(3)$ 任意の $x,\in X$ に対し、$[x,x]\geq0$.
このとき、 $$ \lvert [x,y]\rvert^2\leq [x,x][y,y]\quad(\forall x,y\in X) $$ が成り立つ。
Proof.
任意の $x,y\in X$ を取る。任意の $\alpha\in \mathbb{C}$ に対し、 $$ 0\leq [x-\alpha y, x-\alpha y]=[x,x]-\alpha [x,y]-\overline{\alpha}[y,x]+\lvert\alpha\rvert^2[y,y]\quad\quad(*) $$ である。もし $[y,y]>0$ ならば、$\alpha=\frac{[y,x]}{[y,y]}\in \mathbb{C}$ を $(*)$ に代入すれば、 $$ 0\leq [x,x]-\frac{\lvert [x,y]\rvert^2}{[y,y]} $$ となるので $\lvert [x,y]\rvert^2\leq [x,x][y,y]$ が成り立つ。またもし $[y,y]=0$ ならば、任意の $\epsilon\in (0,\infty)$ を取り、$\alpha\colon=\frac{1}{2\epsilon}[y,x]\in \mathbb{C}$ を $(*)$ に代入すれば、 $$ 0\leq [x,x]-\frac{1}{\epsilon}\lvert [x,y]\rvert^2 $$ となる。よって $\lvert [x,y]\rvert^2\leq \epsilon[x,x]$ が任意の $\epsilon\in (0,\infty)$ に対して成り立つので、$\lvert [x,y]\rvert^2=0=[x,x][y,y]$ である。
□命題2.32($L^1$ 群環上の有界非負線形汎関数に関するSchwarzの不等式)
$G$ を局所コンパクト群、$\mu\colon \mathcal{B}_G\rightarrow [0,\infty]$ を $G$ のHaar測度、$\Phi\in (L^1(G,\mu))^*_+$ とする。このとき次が成り立つ。
- $(1)$ 任意の $[f],[g]\in L^1(G,\mu)$ に対し、$\overline{\Phi([f]^**[g])}=\Phi([g]^**[f])$.
- $(2)$ 任意の $[f],[g]\in L^1(G,\mu)$ に対し、$\lvert \Phi([f]^**[g])\rvert^2\leq \Phi([f]^**[f])\Phi([g]^**[g])$.
- $(3)$ 任意の $[f]\in L^1(G,\mu)$ に対し、$\lvert \Phi([f])\rvert^2\leq \lVert \Phi\rVert\Phi([f]^**[f])\rvert$.
- $(4)$ 任意の $[f],[g]\in L^1(G,\mu)$ に対し、$\lvert \Phi([g]^**[f]*[g])\rvert\leq \Phi([g]^**[g])\lVert [f]\rVert_1$.
Proof.
- $(1)$
$$ L^1(G,\mu)\times L^1(G,\mu)\ni ([f],[g])\mapsto \Phi\left([f]^**[g]\right)\in \mathbb{C}\quad\quad(*) $$ は準双線形汎関数であるから、 $$ \Phi([f]^**[g])=\frac{1}{4}\sum_{k=0}^{3}i^k\Phi\left([i^k[f]+[g]]^**(i^k[f]+[g])\right)\quad\quad(**) $$ が成り立ち、各 $k\in \{0,1,2,3\}$ に対し、 $$ \Phi\left((i^k[f]+[g])^**(i^k[f]+[g])\right)=\Phi\left(([f]+\overline{i}^k[g])^**([f]+\overline{i}^k[g])\right) $$ は実数であるから、$(**)$ より、 $$ \begin{aligned} &\overline{\Phi\left([f]^**[g]\right)}=\frac{1}{4}\sum_{k=0}^{3}\overline{i}^k\Phi\left(([f]+\overline{i}^k[g])^**([f]+\overline{i}^k[g])\right)\\ &=\frac{1}{4}\sum_{k=0}^{3}i^k\Phi\left((i^k[g]+[f])^**(i^k[g]+[f])\right)=\Phi\left([g]^**[f]\right) \end{aligned} $$ が成り立つ。
- $(2)$ $(*)$ は内積の忠実性以外の条件を満たすので、補題2.31より成り立つ。
- $(3)$ $(\varphi_n)_{n\in \mathbb{N}}$ を定理1.25における $L^1(G,\mu)$ の近似単位元とする。$(2)$ より任意の $[f]\in L^1(G,\mu)$ に対し、
$$ \lvert \Phi(\varphi_n*[f])\rvert^2\leq \Phi(\varphi_n*\varphi_n)\Phi([f]^**[f])\leq \lVert \Phi\rVert\Phi([f]^**[f])\quad(\forall n\in \mathbb{N}) $$ であるから、 $$ \lvert \Phi([f])\rvert^2=\lim_{n\rightarrow\infty}\lvert \Phi(\varphi_n*[f])\rvert\leq \lVert \Phi\rVert\Phi([f]^**[f]) $$ が成り立つ。
- $(4)$ 任意の $[g]\in L^1(G,\mu)$ を取り固定する。
$$ \Psi\colon L^1(G,\mu)\ni [f]\mapsto \Phi([g]^**[f]*[g])\in \mathbb{C} $$ とおくと、$\Psi\in (L^1(G,\mu))^*_+$ である。$(\varphi_n)_{n\in \mathbb{N}}$ を定理1.25における $L^1(G,\mu)$ の近似単位元とすると、任意の $[f]\in L^1(G,\mu)$ に対し $(2)$ より、 $$ \lvert \Psi(\varphi_n*[f])\rvert^2\leq \Psi(\varphi_n*\varphi_n)\Psi([f]^**[f])\quad(\forall n\in \mathbb{N}) $$ であり、 $$ \lim_{n\rightarrow\infty}\Psi(\varphi_n*\varphi_n)=\lim_{n\rightarrow\infty}\Phi([g]^**\varphi_n*\varphi_n*[g])=\Phi([g]^**[g]) $$ であるから、 $$ \lvert \Psi([f])\rvert^2=\lim_{n\rightarrow\infty}\lvert \Psi(\varphi_n*[f])\rvert^2\leq \Phi([g]^**[g])\Psi([f]^**[f]) $$ となる。よって、 $$ \lvert \Psi([f])\rvert^2\leq \Phi([g]^**[g])\lVert \Psi\rVert \lVert [f]\rVert_1^2\quad(\forall [f]\in L^1(G,\mu)) $$ であるから、 $$ \lVert \Psi\rVert\leq \Phi([g]^**[g]) $$ が成り立つ。ゆえに任意の $[f]\in L^1(G,\mu)$ に対し、 $$ \lvert \Phi([g]^**[f]*[g])\rvert=\lvert \Psi([f])\rvert\leq \Phi([g]^**[g])\lVert [f]\rVert_1 $$ が成り立つ。
□定理2.33(GNS構成法)
$G$ を局所コンパクト群、$\mu \colon \mathcal{B}_G\rightarrow [0,\infty]$ を $G$ のHaar測度とする。このとき、 $$ \mathcal{P}(G)\ni p\mapsto \Phi_p\in (L^1(G,\mu))^*_+\quad\quad(*) $$ は全単射である。そして任意の $p\in \mathcal{P}(G)\backslash \{0\}$ に対し、巡回ベクトル $v$ を持つ $G$ のユニタリ表現 $\pi$ で、 $$ p(x)=(v\mid \pi(x)v)\quad(\forall x\in G) $$ を満たすものが存在する。
Proof.
$(*)$ が単射であることは $L^\infty(G,\mu)=(L^1(G,\mu))^*$ であること(測度と積分5:$L^p$ 空間の完備性と双対性の定理23.4)、および、空でない開集合のHaar測度が正であること(命題1.8)から $\mu$ -a.e. で一致する連続関数は全ての点で一致することによる。任意の $\Phi\in (L^1(G,\mu))^*_+\backslash \{0\}$ を取り固定する。 $$ \mathcal{N}_{\Phi}\colon=\{[f]\in L^1(G,\mu):\Phi([f]^**[f])=0\} $$ とおくと、命題2.32の $(2)$ より $\mathcal{N}_{\Phi}$ は $L^1(G,\mu)$ の線形部分空間であり、命題2.32の $(3)$ と $\Phi\neq 0$ より $\mathcal{N}_{\Phi}\neq L^1(G,\mu)$ である。そこで商線形空間 $L^1(G,\mu)/\mathcal{N}_{\Phi}\neq \{0\}$ を考え、商写像を、 $$ q\colon L^1(G,\mu)\ni [f]\mapsto q([f])\in L^1(G,\mu)/\mathcal{N}_{\Phi} $$ とおく。命題2.32の $(1),(2)$ より、 $$ (q([f]),q([g]))_{\Phi}\colon =\Phi([f]^**[g])\quad(\forall [f],[g]\in L^1(G,\mu))\quad\quad(**) $$ として $L^1(G,\mu)/\mathcal{N}_{\Phi}$ の内積 $(\cdot \mid\cdot)_{\Phi}$ が定義できる。この内積空間 $(L^1(G,\mu)/\mathcal{N}_{\Phi},(\cdot\mid\cdot)_{\Phi})$ のHilbert空間への完備化(Hilbert空間上の作用素論の定義12.3)を $(\mathcal{H}_{\Phi},(\cdot\mid \cdot)_{\Phi})$ とおく。任意の $[f]\in L^1(G,\mu)$ に対し命題2.32の $(4)$ より、 $$ \pi_0([f])\colon L^1(G,\mu)/\mathcal{N}_{\Phi}\ni q([g])\mapsto q([f]*[g])\in \mathcal{H}_{\Phi}\quad\quad(***) $$ はwell-definedな線形作用素である。そして命題2.32の $(4)$ より、 $$ \begin{aligned} &\lVert \pi_0([f])q([g])\rVert_{\Phi}^2=(q([f]*[g])\mid q([f]*[g]))_{\Phi}=\Phi(([f]*[g])^**([f]*[g]))\\ &\leq \Phi([g]^**[g])\lVert [f]\rVert_1^2=\lVert q([g])\rVert_{\Phi}^2\lVert [f]\rVert_1^2\quad(\forall q([g])\in L^1(G,\mu)/\mathcal{N}_{\Phi}) \end{aligned} $$ であるから、$(***)$ は有界線形作用素である。そこで $(***)$ を $\mathcal{H}_{\Phi}=\overline{L^1(G,\mu)/\mathcal{N}_{\Phi}}$ 上に一意拡張(位相線形空間1:ノルムと内積の命題3.6)したものを $\pi_{\Phi}([f])\in \mathbb{B}(\mathcal{H}_{\Phi})$ と表す。このとき $(**)$, $(***)$ と、$q(L^1(G,\mu))=L^1(G,\mu)/\mathcal{N}_{\Phi}$ の $\mathcal{H}_{\Phi}$ における稠密性より、 $$ \pi_{\Phi}\colon L^1(G,\mu)\ni [f]\mapsto \pi_{\Phi}([f])\in \mathbb{B}(\mathcal{H}_{\Phi}) $$ は $*$-環準同型写像であることが分かる。今、命題2.32の $(3)$ と $(**)$ より、 $$ L^1(G,\mu)/\mathcal{N}_{\Phi}\ni q([f])\mapsto \Phi([f])\in \mathbb{C} $$ はwell-definedな有界線形汎関数である。これを $\mathcal{H}_{\Phi}=\overline{L^1(G,\mu)/\mathcal{N}_{\Phi}}$ 上の有界線形汎関数に一意拡張したものを考え、Rieszの定理(位相線形空間1:ノルムと内積の定理6.13)によりそれに対応するベクトルを $v_{\Phi}\in \mathcal{H}_{\Phi}$ とおくと、 $$ \Phi([f])=(v_{\Phi}\mid q([f]))_{\Phi}\quad(\forall [f]\in L^1(G,\mu))\quad\quad(****) $$ となる。 $$ \begin{aligned} (q([f])\mid q([g]))_{\Phi}&=\Phi([f]^**[g])=(v_{\Phi}\mid q([f]^**[g]))_{\Phi}=(v_{\Phi}\mid \pi_{\Phi}([f]^*)q([g]))_{\Phi}\\ &=(\pi_{\Phi}([f])v_{\Phi}\mid q([g]))_{\Phi}\quad(\forall [f],[g]\in L^1(G,\mu)) \end{aligned} $$ であるから、$q(L^1(G,\mu))=L^1(G,\mu)/\mathcal{N}_{\Phi}$ の $\mathcal{H}_{\Phi}$ における稠密性より、 $$ q([f])=\pi_{\Phi}([f])v_{\Phi}\quad(\forall [f]\in L^1(G,\mu))\quad\quad(*****) $$ が成り立つ。これより、 $$ \overline{\pi_{\Phi}(L^1(G,\mu))v_{\Phi}}=\overline{L^1(G,\mu)/\mathcal{N}_{\Phi}}=\mathcal{H}_{\Phi} $$ であるから、$\pi_{\Phi}\colon L^1(G,\mu)\rightarrow \mathbb{B}(\mathcal{H}_{\Phi})$ は $L^1(G,\mu)$ の $\mathcal{H}_{\Phi}$ 上への表現、したがって $G$ の $\mathcal{H}_{\Phi}$ 上へのユニタリ表現(定義2.18を参照)であり、 $$ \mathcal{H}_{\Phi}=\overline{\pi_{\Phi}(L^1(G,\mu))v_{\Phi}}=\overline{{\rm span}(\pi(G)v_{\Phi})} $$ (測度と積分9:Bochner積分の命題44.2の$(3)$)より、$G$ のユニタリ表現 $\pi_{\Phi}\colon G\rightarrow \mathbb{U}(\mathcal{H}_{\Phi})$ は巡回ベクトル $v_{\Phi}$ を持つ。そして $(****),(*****)$ より、 $$ \Phi([f])=(v_{\Phi}\mid \pi_{\Phi}([f])v_{\Phi})_{\Phi}=\int_{G}f(x)(v_{\Phi}\mid \pi_{\Phi}(x)v_{\Phi})d\mu(x)\quad(\forall [f]\in L^1(G,\mu)) $$ である。そこで $p_{\Phi}\colon G\rightarrow\mathbb{C}$ を、 $$ p_{\Phi}(x)\colon=(v_{\Phi}\mid \pi_{\Phi}(x)v_{\Phi})_{\Phi}\quad(\forall x\in G) $$ とおけば、 $$ \Phi([f])=\int_{G}f(x)p_{\Phi}(x)d\mu(x)=\Phi_{p_{\Phi}}([f])\quad(\forall [f]\in L^1(G,\mu)) $$ であるから、$p_{\Phi}$ が求める正定値連続関数である。以上で証明が終わる。
□定義2.34(局所コンパクト群上の正定値連続関数に対するGNS表現)
$G$ を局所コンパクト群とする。任意の正定値連続関数 $p\in \mathcal{P}(G)\backslash \{0\}$ に対し、定理2.33より、巡回ベクトル $v$ を持つ $G$ のユニタリ表現 $\pi \colon G\rightarrow\mathbb{U}(\mathcal{H}_{\pi})$ で、 $$ p(x)=(v\mid \pi(x)v)\quad(\forall x\in G) $$ を満たすものが存在する。このユニタリ表現とその巡回ベクトルの組 $(\pi,v)$ を $p$ に対するGNS表現と言う。命題2.13より、$(\pi_1,v_1), (\pi_2,v_2)$ が共に $p$ に対するGNS表現であるならば、$\pi_1,\pi_2$ はユニタリ同値であり、ユニタリ作用素 $U\colon \mathcal{H}_{\pi_1}\rightarrow \mathcal{H}_{\pi_2}$ で、 $$ U\pi_1(x)=\pi_2(x)U\quad(\forall x\in G),\quad Uv_1=v_2 $$ を満たすものが定まる。
系2.35(正定値連続関数 $p\colon G\rightarrow\mathbb{C}$ の $\sup$ ノルムは $p(1)$)
$G$ を局所コンパクト群、$\mu\colon \mathcal{B}_G\rightarrow [0,\infty]$ を $G$ のHaar測度、$([h_{\lambda}])_{\lambda\in \Lambda}$ を $L^1(G,\mu)$ の近似単位元とする(定理1.25における $(\varphi_n)_{n\in \mathbb{N}}$ を考えればよい)。このとき任意の $p\in \mathcal{P}(G)\backslash \{0\}$ と $p$ のGNS表現 $(\pi,v)$ に対し、 $$ \lVert p\rVert=p(1)=\lVert v\rVert^2=\lim_{n\rightarrow\infty}\Phi_p([h_{\lambda}])=\lVert \Phi_p\rVert\quad\quad(*) $$ が成り立つ。
Proof.
$$ \lvert p(x)\rvert=\lvert (v\mid \pi(x)v)\rvert\leq \lVert v\rVert^2=p(1)\quad\forall x\in G) $$ であるから、 $$ \lVert p\rVert=\lVert v\rVert^2=p(1) $$ である。また、 $$ \Phi_p([f])=\int_{G}f(x)p(x)d\mu(x)=\int_{G}f(x)(v\mid \pi(x)v)d\mu(x) =(v\mid \pi([f])v)\quad(\forall [f]\in L^1(G,\mu)) $$ より、 $$ \lvert \Phi_p([f])\rvert\leq \lVert v\rVert\lVert \pi([f])v\rVert\leq \lVert [f]\rVert_1\lVert v\rVert^2\quad(\forall [f]\in L^1(G,\mu)) $$ であるから $\lVert \Phi_p\rVert\leq \lVert v\rVert^2$ であり、注意2.15より、 $$ \lVert v\rVert^2=\lim_{\lambda\in\Lambda}(v\mid \pi([h_{\lambda}])v)=\lim_{\lambda\in\Lambda}\Phi_p([h_{\lambda}])\leq \lVert \Phi_p\rVert\leq v\rVert^2 $$ であるから、 $$ \lVert v\rVert^2=\lim_{\lambda\in\Lambda}\Phi_p([h_{\lambda}])=\lVert \Phi_p\rVert $$ である。よって $(*)$ が成り立つ。
□定義2.36(局所コンパクト群上のノルムが $1$ の正定値連続関数全体のなす凸集合 $\mathcal{P}_1(G)$)
$G$ を局所コンパクト群とする。$G$ 上の $\sup$ ノルムが $1$ の正定値連続関数全体を $\mathcal{P}_1(G)$ とすると、系2.35より、 $$ \mathcal{P}_1(G)=\{p\in \mathcal{P}(G):\lVert p\rVert=1\}=\{p\in \mathcal{P}(G):p(1)=1\} $$ である。よって $\mathcal{P}_1(G)$ は凸集合をなす。そこで $\mathcal{P}_1(G)$ の端点(定義14.1)全体を、 $$ {\rm ext}(\mathcal{P}_1(G))=\{p\in \mathcal{P}_1(G):\text{$p$ は凸集合 $\mathcal{P}_1(G)$ の端点}\} $$ とおく。
定理2.37($\mathcal{P}_1(G)$ の端点とそれに対応するGNS表現の既約性)
$G$ を局所コンパクト群、$p\in \mathcal{P}_1(G)$ とし、$p$ に対するGNS表現(定義2.34)を $(\pi,v)$ とする。このとき次は互いに同値である。
- $(1)$ $p$ は $\mathcal{P}_1(G)$ の端点である、すなわち、$p\in {\rm ext}(\mathcal{P}_1(G))$.
- $(2)$ $\pi$ は既約である。
Proof.
$(1)\Rightarrow(2)$ を示す。$(1)$ が成り立つとする。$\pi$ が既約であることを示すには、Schurの補題(定理2.10)より、$\mathcal{C}(\pi)=\mathbb{C}1$ が成り立つことを示せばよい。$\mathcal{C}(\pi)=\pi(G)'$ はvon Neumann環であるから射影によって生成される(Hilbert空間上の作用素論の定理19.7)。よって $\pi(G)'$ に属する任意の射影作用素 $P$ を取り、$P$ が $1$ か $0$ であることを示せば十分である。
$$
p_1(x)=(v\mid P\pi(x)v),\quad p_2(x)=(v\mid (1-P)\pi(x)v)\quad(\forall x\in G)
$$
とおく。$P,1-P$ は $\pi(G)'$ に属する非負有界自己共役作用素であることと定義2.18より、
$$
\begin{aligned}
&\int_{G}([f]^**[f])(x)p_1(x)d\mu(x)=\int_{G}([f]^**[f])(v\mid P\pi(x)v)d\mu(x)\\
&=(v\mid P\pi([f]^**[f])v)=(v\mid P\pi([f])^*\pi([f])v)\\
&=(\pi([f])v\mid P\pi([f])v)\geq0\quad(\forall [f]\in L^1(G,\mu))
\end{aligned}
$$
であり、全く同様に、
$$
\int_{G}([f]^**[f])(x)p_2(x)d\mu(x)=(\pi([f])v\mid (1-P)\pi([f])v)\geq0\quad(\forall [f]\in L^1(G,\mu))
$$
である。よって $p_1,p_2\in \mathcal{P}(G)$ である。また $p_1,p_2$ の定義より、
$$
p_1+p_2=p
$$
であり、系2.35より、
$$
\lVert p_1\rVert+\lVert p_2\rVert=p_1(1)+p_2(1)=p(1)=\lVert p\rVert=1
$$
であるから、$p\in {\rm ext}(\mathcal{P}_1(G))$ より、ある $\alpha\in [0,1]$ が存在して、$p_1=\alpha p$ が成り立つ。よって、
$$
\alpha(\pi(y)v\mid \pi(x)v)=\alpha p(y^{-1}x)=p_1(y^{-1}x)=(v\mid P\pi(y^{-1}x)v)
=(\pi(y)v\mid P\pi(x)v)\quad(\forall x,y\in G)
$$
であるから、${\rm span}(\pi(G)v)$ の $\mathcal{H}_{\pi}$ における稠密性より、$P=\alpha 1$ を得る。ゆえに $\pi$ は既約である。
$(2)\Rightarrow(1)$ を示す。$\pi$ が既約であるとする。$p\in {\rm ext}(\mathcal{P}_1(G))$ であることを示すには、$p_1\in \mathcal{P}(G)$ で、$p-p_1\in \mathcal{P}(G)$ なるものを取り、$p_1=\alpha p$ なる $\alpha\in [0,1]$ が存在することを示せば十分である。$p-p_1\in \mathcal{P}(G)$ より、
$$
\Phi_p([f]^**[f])-\Phi_{p_1}([f]^**[f])=\Phi_{p-p_1}([f]^**[f])\geq0\quad(\forall [f]\in L^1(G,\mu))
$$
であるから、
$$
0\leq \Phi_{p_1}([f]^**[f])\leq \Phi_p([f]^**[f])=\lVert \pi([f])v\rVert^2\quad(\forall [f]\in L^1(G,\mu))
$$
である。よって命題2.32より、
$$
\pi(L^1(G,\mu))v\times \pi(L^1(G,\mu))v\ni (\pi([f])v,\pi([g])v)\mapsto \Phi_{p_1}([f]^**[g])\in \mathbb{C}\quad\quad(*)
$$
はwell-definedな有界準双線形汎関数である。注意2.15と命題2.16より ${\rm span}(\pi(G)v)\subset \overline{\pi(L^1(G,\mu))v}$ であるから$\pi(L^1(G,\mu))v$ は $\mathcal{H}_{\pi}$ の稠密部分空間であるので、$(*)$ は $\mathcal{H}_{\pi}$ 上の有界準双線形汎関数に一意拡張できることが分かる。よって定理7.1より $T\in \mathbb{B}(\mathcal{H}_{\pi})$ で、
$$
(\pi([f])v\mid T\pi([g])v)=\Phi_{p_1}([f]^**[g])\quad(\forall [f],[g]\in L^1(G,\mu))
$$
を満たすものが存在する。$(\varphi_n)_{n\in \mathbb{N}}$ を定理1.25における $L^1(G,\mu)$ の近似単位元とすれば、任意の $x,y\in G$ に対し、注意2.15と命題2.16より、
$$
(\pi(y)v\mid T\pi(x)v)=\lim_{n\rightarrow\infty}(\pi(L_y\varphi_n)v\mid T\pi(L_x\varphi_n)v)=\lim_{n\rightarrow\infty}\Phi_{p_1}((L_y\varphi_n)^**(L_x\varphi_n))
$$
となり、$p_1\in \mathcal{P}(G)$ に対するGNS表現を $(\pi_1,v_1)$ とすれば、
$$
\lim_{n\rightarrow\infty}\Phi_{p_1}((L_y\varphi_n)^**(L_x\varphi_n))
=\lim_{n\rightarrow\infty}(\pi_1(L_y\varphi_n)v\mid \pi_1(L_x\varphi_n)v)=(\pi_1(y)v\mid \pi_1(x)v)=p_1(y^{-1}x)
$$
となるから、
$$
(\pi(y)v\mid T\pi(x)v)=p_1(y^{-1}x)\quad(\forall x,y\in G)\quad\quad(**)
$$
が成り立つ。よって任意の $x,y,z\in G$ に対し、
$$
(\pi(z)v\mid T\pi(x)\pi(y)v)=p_1(z^{-1}xy)=p_1((x^{-1}z)^{-1}y)=(\pi(x^{-1})\pi(z)v\mid T\pi(y)v)=(\pi(z)v\mid \pi(x)T\pi(y)v)
$$
であるから、${\rm span}(\pi(G)v)$ の $\mathcal{H}_{\pi}$ における稠密性より、
$$
T\pi(x)=\pi(x)T\quad(\forall x\in G)
$$
が成り立つ。ゆえに $T\in \mathcal{C}(\pi)$ であるから、Schurの補題(定理2.10)より、$T=\alpha1$ なる $\alpha\in \mathbb{C}$ が存在する。$(**)$ より、
$$
p_1(x)=(v\mid T\pi(x)v)=\alpha(v\mid \pi(x)v)=\alpha p(x)\quad(\forall x\in G)
$$
であるから、$p_1=\alpha p$ である。よって $p\in {\rm ext}(\mathcal{P}_1(G))$ が成り立つ。
定義2.38(コンパクト一様収束位相)
$X$ を位相空間、$C(X)$ を $X$ 上の複素数値連続関数全体に各点ごとの演算を入れた $\mathbb{C}$ 上の線形空間とする。任意の空でないコンパクト集合 $K\subset X$ に対し、 $$ p_K\colon C(X)\ni f\mapsto \underset{x\in K}{\rm max}\lvert f(x)\rvert \in [0,\infty) $$ とおくと、$p_K$ は線形空間 $C(X)$ 上のセミノルムである。そして一点集合がコンパクトであることから、セミノルムの集合 $$ \mathcal{P}\colon=\{p_K:\text{$K\subset X$ は空でないコンパクト集合}\} $$ は $C(X)$ 上のセミノルムの分離族(位相線形空間2:セミノルム位相と汎弱位相の定義8.3)である。 そこで $\mathcal{P}$ から誘導される $C(X)$ 上のセミノルム位相(位相線形空間2:セミノルム位相と汎弱位相の定義8.4)を $C(X)$ 上のコンパクト一様収束位相と言う。位相線形空間2:セミノルム位相と汎弱位相の命題8.6の $(1)$ より、$C(X)$ のネット $(f_{\lambda})_{\lambda\in \Lambda}$ が $f\in C(X)$ にコンパクト一様収束位相で収束することは、任意の空でないコンパクト集合 $K\subset X$ に対し、 $$ \underset{x\in K}{\rm max}\lvert f_{\lambda}(x)-f(x)\rvert=p_K(f_{\lambda}-f)\rightarrow0 $$ が成り立つことと同値である。すなわち $(f_{\lambda})_{\lambda\in \Lambda}$ が $f$ にコンパクト一様収束することと同値である。
定理2.39($\mathcal{P}_1(G)$ と $(L^1(G,\mu))^*_{+,1}$ はコンパクト一様収束位相と弱 $*$-位相に関して同相)
$G$ を局所コンパクト群、$\mu\colon \mathcal{B}_G\rightarrow [0,\infty]$ を $G$ のHaar測度とし、 $$ (L^1(G,\mu))^*_{+,1}\colon=\{\Phi\in (L^1(G,\mu))^*_+:\lVert \Phi\rVert=1\} $$ とおく。このとき、 $$ (\mathcal{P}_1(G), \text{コンパクト一様収束位相})\ni p\mapsto \Phi_p\in (L^1(G,\mu))^*_{+,1}, \text{弱 $*$-位相})\quad\quad(*) $$ は同相写像である。
Proof.
$(*)$ が全単射であることは定理2.33と系2.35による。$\mathcal{P}_1(G)$ のネット $(p_{\lambda})_{\lambda\in \Lambda}$ が $p\in \mathcal{P}_1(G)$ にコンパクト一様収束位相で収束するならば、任意の $f\in C_c(G)$ に対し、
$$
\lvert \Phi_{p_{\lambda}}(f)-\Phi_p(f)\rvert
=\left\lvert \int_{G}f(x)(p_{\lambda}(x)-p(x))d\mu(x)\right\rvert\leq \lVert f\rVert_1 \underset{x\in {\rm supp}(f)}{\rm max}\lvert p_{\lambda}(x)-p(x)\rvert\rightarrow0
$$
である。そして $C_c(G)$ は $L^1(G,\mu)$ において稠密(測度と積分7:局所コンパクトHausdorff空間上のRadon測度の命題32.1)であり、$\lVert \Phi_{p_{\lambda}}\rVert=1$ $(\forall \lambda\in \Lambda)$, $\lVert \Phi_p\rVert=1$ であるから、
$$
\lvert \Phi_{p_{\lambda}}([f])-\Phi_p([f])\rvert\rightarrow0\quad(\forall [f]\in L^1(G,\mu))
$$
が成り立つ。よって $L^1(G,\mu)^*$ の弱 $*$-位相で $\lim_{\lambda\in \Lambda}\Phi_{p_{\lambda}}=\Phi_p$ が成り立つから、ネットによる位相空間論の定理3より、$(*)$ は連続である。
$(*)$ の逆写像が連続であることを示す。$\mathcal{P}_1(G)$ のネット $(p_{\lambda})_{\lambda\in\Lambda}$ と $p\in \mathcal{P}_1(G)$ に対し、弱 $*$-位相で $\lim_{\lambda\in\Lambda}\Phi_{p_{\lambda}}=\Phi_p$ が成り立つと仮定し、コンパクト一様収束位相で $\lim_{\lambda\in\Lambda}p_{\lambda}=p$ が成り立つことを示せばよい。任意のコンパクト集合 $K\subset G$ と任意の $\epsilon\in (0,\infty)$ を取り固定する。$p$ のGNS表現(定義2.34)を $(\pi,v)$ とする。$(\varphi_n)_{n\in \mathbb{N}}$ を定理1.25における $L^1(G,\mu)$ の近似単位元とすると、注意2.15より、
$$
\lim_{n\rightarrow\infty}\Phi_p(\varphi_n)=\lim_{n\rightarrow\infty}(v\mid \pi(\varphi_n)v)=\lVert v\rVert^2=p(1)=1,
$$
$$
\lim_{n\rightarrow\infty}\Phi_p(\varphi_n*\varphi_n)=\lim_{n\rightarrow\infty}(\pi(\varphi_n)v\mid \pi(\varphi_n)v)=\lVert v\rVert^2=p(1)=1
$$
であるから、$\varphi\in C_c(G)$ で、
$$
\lVert \varphi\rVert_1=1,\quad \varphi^*=\varphi,\quad 1-\Phi_p(\varphi)-\Phi_p(\varphi)+\Phi_p(\varphi*\varphi)<\epsilon^2\quad\quad(**)
$$
を満たすものが取れる。弱 $*$-位相で $\lim_{\lambda\in\Lambda}\Phi_{p_{\lambda}}=\Phi_p$ が成り立つので、$\lambda_0\in \Lambda$ が存在し、
$$
1-\Phi_{p_{\lambda}}(\varphi)-\Phi_{p_{\lambda}}(\varphi)+\Phi_{p_{\lambda}}(\varphi*\varphi)<\epsilon\quad(\forall \lambda\geq\lambda_0)\quad\quad(***)
$$
が成り立つ。$(**)$ より任意の $x\in G$ に対し、
$$
\begin{aligned}
\lvert p(x)-\Phi_p(L_x\varphi)\rvert^2&=\lvert (v\mid \pi(x)v)-(v\mid \pi(x)\pi(\varphi)v)\rvert^2=\lvert (v\mid \pi(x)(1-\pi(\varphi))v)\rvert^2\\
&\leq \lVert \pi(x)(1-\pi(\varphi))v\rVert^2\lVert v\rVert^2=\lVert (1-\pi(\varphi))v\rVert^2\\
&=1-(v\mid \pi(\varphi)v)-(\pi(\varphi)v\mid v)+(\pi(\varphi)v\mid \pi(\varphi)v)\\
&=1-\Phi_p(\varphi)-\Phi_p(\varphi)+\Phi_p(\varphi*\varphi)<\epsilon^2
\end{aligned}
$$
であるから、
$$
\lvert p(x)-\Phi_p(L_x\varphi)\rvert<\epsilon\quad(\forall x\in G)\quad\quad(****)
$$
が成り立つ。同様にして、各 $p_{\lambda}$ のGNS表現と $(***)$ より、
$$
\lvert p_{\lambda}(x)-\Phi_{p_{\lambda}}(L_x\varphi)\rvert<\epsilon\quad(\forall \lambda\geq\lambda_0,\forall x\in G)\quad\quad(*****)
$$
が成り立つことが分かる。命題1.19より $G\ni x\mapsto L_x\varphi\in L^1(G,\mu)$ は連続であり、$K$ はコンパクトであるから、有限個の $x_1,\ldots,x_n\in K$ と $x_1,\ldots,x_n$ の近傍 $U_1,\ldots,U_n$ で、
$$
K\subset \bigcup_{j=1}^{n}U_j,\quad \lVert L_x\varphi-L_{x_j}\varphi\rVert_1<\epsilon\quad(\forall j\in \{1,\ldots,n\},\forall x\in U_j)\quad\quad(******)
$$
なるものが取れる。そして弱 $*$-位相で $\lim_{\lambda\in\Lambda}\Phi_{p_{\lambda}}=\Phi_p$ であるので、$\lambda_1\geq \lambda_0$ なる $\lambda_1\in \Lambda$ で、
$$
\lvert \Phi_{p_{\lambda}}(L_{x_j}\varphi)-\Phi_p(L_{x_j}\varphi)\rvert<\epsilon\quad(\forall j\in \{1,\ldots,n\},\forall \lambda\geq\lambda_1)\quad\quad(*******)
$$
なるものが取れる。よって任意の $x\in K$ と任意の $\lambda\geq \lambda_1$ に対し、$x\in U_j$ なる $j\in\{1,\ldots,n\}$ を取れば、$(****)$, $(*****)$, $(******)$, $(*******)$ より、
$$
\begin{aligned}
\lvert p(x)-p_{\lambda}(x)\rvert&\leq \lvert p(x)-\Phi_p(L_x\varphi)\rvert+\lvert \Phi_p(L_x\varphi)-\Phi_p(L_{x_j}\varphi)\rvert+\lvert \Phi_p(L_{x_j}\varphi)-\Phi_{p_{\lambda}}(L_{x_j}\varphi)\rvert\\
&+\lvert \Phi_{p_{\lambda}}(L_{x_j}\varphi)-\Phi_{p_{\lambda}}(L_x\varphi)\rvert+\lvert \Phi_{p_{\lambda}}(L_x\varphi)-p_{\lambda}(x)\rvert<5\epsilon
\end{aligned}
$$
となるので、
$$
\lvert p(x)-p_{\lambda}(x)\rvert<5\epsilon\quad(\forall x\in K,\forall \lambda\geq\lambda_1)
$$
が成り立つ。コンパクト集合 $K\subset G$ と $\epsilon\in (0,\infty)$ は任意なので、コンパクト一様収束位相で $\lim_{\lambda\in\Lambda}p_{\lambda}=p$ が成り立つ。
定理2.40($\mathcal{P}_1(G)$ の端点全体の凸包は $\mathcal{P}_1(G)$ においてコンパクト一様収束位相で稠密)
$G$ を局所コンパクト群とする。凸集合 $\mathcal{P}_1(G)$ において $\mathcal{P}_1(G)$ の端点全体 ${\rm ext}(\mathcal{P}_1(G))$ の凸包 ${\rm conv}({\rm ext}(\mathcal{P}_1(G)))$ はコンパクト一様収束位相で稠密である。
Proof.
$\mu\colon \mathcal{B}_G\rightarrow [0,\infty]$ をHaar測度とする。定理2.39より凸集合 $$ S\colon=\{\Phi\in (L^1(G,\mu))^*_+:\lVert \Phi\rVert=1\}=\{\Phi_p:p\in \mathcal{P}_1(G)\} $$ の端点全体 $$ {\rm ext}(S)=\{\Phi_p:p\in {\rm ext}(\mathcal{P}_1(G))\} $$ の凸包 $$ {\rm conv}({\rm ext}(S))=\{\Phi_p:p\in {\rm conv}({\rm ext}(\mathcal{P}_1(G)))\} $$ が $S$ において弱 $*$-位相で稠密であることを示せばよい。 $$ B\colon=\{\Phi\in (L^1(G,\mu))^*_+:\lVert \Phi\rVert\leq1\} $$ とおく。Alaogluの定理(位相線形空間2:セミノルム位相と汎弱位相の定理10.3)より $B$ は弱 $*$-位相でコンパクトな凸集合であるから、Krein-Milmanの端点定理(位相線形空間3:Hahn-Banachの定理とKrein-Milmanの端点定理の定理14.3)より、 $$ B=\overline{{\rm conv}({\rm ext}(B))}^{w^*\text{-topology}} $$ が成り立つ。よってネットによる位相空間論の命題2.4より任意の $\Phi\in S\subset B$ に対し、${\rm conv}({\rm ext}(B))$ のネット $(\Phi_{\lambda})_{\lambda\in\Lambda}$ で、弱 $*$-位相で $\Phi_{\lambda}\rightarrow\Phi$ なるものが取れる。ここで任意の $\epsilon\in (0,1)$ に対し、$(1-\epsilon) B$ も弱 $*$-位相でコンパクトであるから、$(1-\epsilon)B\subset B$ は弱 $*$-位相で閉集合である。そして $\Phi\notin (1-\epsilon)B$ であるので、ある $\lambda_0\in \Lambda$ に対し、 $$ \Phi_{\lambda}\notin (1-\epsilon)B\quad(\forall \lambda\geq\lambda_0) $$ となる。よって、 $$ 0\leq 1-\lVert \Phi_{\lambda}\rVert<\epsilon\quad(\forall \lambda\geq\lambda_0) $$ であるから、$\lVert \Phi_{\lambda}\rVert\rightarrow 1$ が成り立つ。ゆえに、 $$ \Phi=\lim_{\lambda\in\Lambda}\frac{1}{\lVert \Phi_{\lambda}\rVert}\Phi_{\lambda}\in \overline{{\rm conv}({\rm ext}(S))}^{w^*\text{-topology}} $$ [9]が成り立つ。これより ${\rm conv}({\rm ext}(S))$ は $S$ において弱 $*$-位相で稠密である。
□定理2.41(Gelfand-Raikovの定理)
$G$ を局所コンパクト群とする。$x,y\in G$ が $x\neq y$ ならば、$G$ の既約なユニタリ表現 $\pi$ で、$\pi(x)\neq \pi(y)$ なるものが存在する。
Proof.
Urysohnの補題(測度と積分7:局所コンパクトHausdorff空間上のRadon測度の定理27.6)より $\varphi\in C_c(G)$ で $\varphi(x)\neq \varphi(y)$ なるものが存在する。よって定理2.30より $p\in \mathcal{P}_1(G)$ で $p(x)\neq p(y)$ なるものが存在する。よって定理2.40より $p\in {\rm ext}(\mathcal{P}_1(G))$ で $p(x)\neq p(y)$ なるものが存在する。この $p\in {\rm ext}(\mathcal{P}_1(G))$ に対するGNS表現 $(\pi,v)$ を取ると、定理2.37より $\pi$ は既約であり、 $$ (v\mid \pi(x))=p(x)\neq p(y)=(v\mid \pi(y)v) $$ より、$\pi(x)\neq \pi(y)$ である。
□3. 局所コンパクト群の等質空間上の不変測度
定義3.1(左剰余類、左剰余類空間)
$G$ を群、$H$ を $G$ の部分群とする。$x,y\in G$ が $y^{-1}x\in H$ を満たすことを $x\sim y$ と表すと、$\sim$ は $G$ における同値関係であり、この同値関係に関する $x\in G$ の同値類は $xH\subset G$ である。$xH$ を $H$ に関する $x$ の左剰余類と言う。そして $H$ に関する左剰余類全体からなる集合(同値関係 $\sim$ に関する商集合)を、 $$ G/H\colon=G/\sim =\{xH:x\in G\} $$ と表し、$H$ に関する左剰余類空間と言う。商写像は今後、大抵、 $$ q\colon G\ni x\mapsto q(x)\colon=xH\in G/H $$ と表す。
定義3.2(正規部分群、剰余類群)
$G$ を群、$H$ を $G$ の部分群とする。任意の $x\in G$ に対し $xH=Hx$ が成り立つとき、$H$ を $G$ の正規部分群と言う。$H$ が $G$ の正規部分群であるとき、左剰余類空間 $G/H$ に対し、 $$ G/H\times G/H\ni (q(x),q(y))\mapsto q(xy)\in G/H $$ はwell-definedであり、この二項演算により左剰余類空間 $G/H$ は群をなす。この群 $G/H$ を $H$ に関する剰余類群と言う。このとき商写像 $$ q\colon G\ni x\mapsto q(x)\in G/H $$ は全射群準同型写像である。
定義3.3(局所コンパクト群の左剰余類空間の商位相)
$G$ を局所コンパクト群、$H$ を $G$ の閉部分群、$G/H$ を左剰余類空間、$q\colon G\rightarrow G/H$ を商写像とする。 $$ \{V\subset G/H:\text{$q^{-1}(V)$ は $G$ の開集合}\} $$ は $G/H$ の位相をなす。これを左剰余類空間 $G/H$ の商位相と言う。局所コンパクト群 $G$ とその閉部分群 $H$ に対し、左剰余類空間 $G/H$ には、特に断らない限り、この商位相が入っているものとする。
命題3.4(左剰余類空間の商位相の基本性質)
$G$ を局所コンパクト群、$H$ を $G$ の閉部分群、$G/H$ を左剰余類空間、$q\colon G\rightarrow G/H$ を商写像とする。
- $(1)$ $q\colon G\rightarrow G/H$ は連続かつ開写像(開集合を開集合に写す写像)である。また $G/H$ の任意の開集合 $V$ は $G$ のある開集合 $U$ に対し $V=q(U)$ と表せる。
- $(2)$ $G/H$ は局所コンパクトHausdorff空間である。また $G$ の第二可算性により $G/H$ は第二可算である。
- $(3)$ $G/H$ の任意のコンパクト集合 $C$ は $G$ のあるコンパクト集合 $K$ に対し $C=q(K)$ と表せる。
- $(4)$ $H$ が正規部分群であるとき $G/H$ は局所コンパクト群である。
Proof.
- $(1)$ $q\colon G\rightarrow G/H$ が連続であることは $G/H$ の商位相の定義より自明である。$G$ の任意の開集合 $U$ に対し、
$$ q^{-1}(q(U))=UH=\bigcup_{x\in H}Ux $$ は $G$ の開集合であるから $q(U)$ は $G/H$ の開集合である。よって $q$ は開写像である。今、$G/H$ の任意の開集合 $V$ を取る。商位相の定義より $U=q^{-1}(V)$ は $G$ の開集合であり、$q\colon G\rightarrow G/H$ は全射であるから、$V=q(q^{-1}(V))=q(U)$ である。
- $(2)$ $q(x)\neq q(y)$ とすると、$y^{-1}x\notin H$ であり、$H$ は $G$ の閉集合であるから、$G$ の群演算の連続性より単位元 $1\in G$ の開近傍 $U$ で、
$$ (yU)^{-1}(xU)\cap H=\emptyset\quad\quad(*) $$ なるものが取れる。$(1)$ より $q(xU)$, $q(yU)$ はそれぞれ $q(x),q(y)\in G/H$ の開近傍であり、$(*)$ より $q(xU)\cap q(yU)=\emptyset$ であるから、$G/H$ はHausdorff空間である。$G$ の局所コンパクト性より任意の $x\in G$ に対し $x\in U\subset K$ なる $G$ の開集合 $U$ とコンパクト集合 $K$ が取れる。$(1)$ より $q(U)$ は $G/H$ の開集合、$q(K)$ は $G/H$ のコンパクト集合であり、$q(x)\in q(U)\subset q(K)$ である。よって $G/H$ の任意の元はコンパクトな近傍を持つので、$G/H$ は局所コンパクトHausdorff空間である。$(1)$ より $G$ の開集合の可算基 $\{U_n\}_{n\in \mathbb{N}}$ に対し、$\{q(U_n)\}_{n\in \mathbb{N}}$ は $G/H$ の開集合の可算基である。よって$G/H$ は第二可算である。
- $(3)$ 任意のコンパクト集合 $C\subset G/H$ を取る。$(1)$ と $G$ の局所コンパクト性より閉包がコンパクトな有限個の開集合 $U_1,\ldots,U_n\subset G$ で、
$$ C\subset \bigcup_{j=1}^{n}q(U_j)\quad\quad(**) $$ なるものが取れる。$(2)$ より $G/H$ はHausdorff空間であるから、コンパクト集合 $C$ は $G/H$ の閉集合であり、$\bigcup_{j=1}^{n}\overline{U_j}$ は $G$ のコンパクト集合であるから、 $$ K\colon =q^{-1}(C)\cap \bigcup_{j=1}^{n}\overline{U_j} $$ は $G$ のコンパクト集合である。そして $(**)$ より $q(K)=C$ である。
- $(4)$ 任意の $x,y\in G$ を取る。$q(x)q(y)=q(xy)\in G/H$ の任意の開近傍は $(1)$ より $xy$ のある開近傍 $U\subset G$ に対し $q(U)$ と表せる。$G$ の乗法の連続性より $x,y\in G$ の開近傍 $U_1,U_2$ で $U_1U_2\subset U$ なるものが取れて、$q(U_1)q(U_2)=q(U_1U_2)\subset q(U)$ であり、$q(U_1),q(U_2)\subset G/H$ はそれぞれ $q(x), q(y)\in G/H$ の開近傍であるから、$G/H$ の乗法は連続である。任意の $x\in G$ に対し $q(x)^{-1}=q(x^{-1})\in G/H$ の任意の開近傍は $(1)$ より $x^{-1}\in G$ のある開近傍 $U$ によって $q(U)$ と表せる。$U^{-1}$ は $x\in G$ の開近傍であるので、$(1)$ より $q(U^{-1})\subset G/H$ は $q(x)\in G/H$ の開近傍であり、$q(U^{-1})^{-1}=q(U)$ であるから $G/H$ の逆元を取る演算は連続である。
定義3.5(局所コンパクト群の局所コンパクトHausdorff空間への作用)
$G$ を局所コンパクト群、$S$ を局所コンパクトHausdorff空間とする。 $$ G\times S\ni (x,s)\mapsto xs\in S\quad\quad(*) $$ が $G$ の $S$ への作用であるとは次が成り立つことを言う。
- $(1)$ $(*)$ は連続である。
- $(2)$ 任意の $s\in S$ に対し $1s=s$.
- $(3)$ 任意の $x,y\in G$ と任意の $s\in S$ に対し $(xy)s=x(ys)$.
$(*)$ が $G$ の $S$ への作用であるとき、任意の $s\in S$ に対し、$G$ の閉部分群 $$ H_s\colon=\{x\in G:xs=s\} $$ を $s$ における固定部分群と言う。
定義3.6(局所コンパクト群の推移的作用と等質空間)
$G$ を局所コンパクト群、$S$ を局所コンパクトHausdorff空間とする。$G$ の $S$ への作用 $$ G\times S\ni (x,s)\mapsto xs\in S $$ が推移的であるとは、任意の $s,t\in S$ に対し、$t=xs$ なる $x\in G$ が存在することを言う。またこのとき $S$ を $G$ の等質空間と言う。
定義3.7(群準同型写像の核)
$G,H$ を群とし、$\varphi\colon G\rightarrow H$ を群準同型写像とする。 $$ {\rm Ker}(\varphi)=\{x\in G:\varphi(x)=1\} $$ を $\varphi$ の核と言う。
命題3.8(群準同型写像の核の基本性質)
$G,H$ を群とし、$\varphi\colon G\rightarrow H$ を群準同型写像とする。このとき、
- $(1)$ $\varphi\colon G\rightarrow H$ が単射であることと ${\rm Ker}(\varphi)=\{1\}$ であることは同値である。
- $(2)$ ${\rm Ker}(\varphi)$ は $G$ の正規部分群である。そして剰余類群 $G/{\rm Ker}(\varphi)$ を考えると、
$$ \widehat{\varphi}\colon G/{\rm Ker}(\varphi)\ni q(x)\mapsto\varphi(x)\in H $$ はwell-definedな単射群準同型写像である。
Proof.
- $(1)$ $\varphi(x_1)=\varphi(x_2)$ $\Leftrightarrow$ ${x_1}^{-1}x_2\in {\rm Ker}(\varphi)$ であることに注意すればよい。
- $(2)$ ${\rm Ker}(\phi)$ は明らかに $G$ の部分群である。任意の $x\in G$ に対し $x^{-1}{\rm Ker}(\varphi)x\subset {\rm Ker}(\varphi)$ であるから ${\rm Ker}(\varphi)$ は $G$ の正規部分群である。$q(x_1)=q(x_2)$ ならば $x_1^{-1}x_2\in {\rm Ker}(\varphi)$ であるから $\varphi(x_1)=\varphi(x_2)$ である。よって $\widehat{\varphi}$ はwell-definedである。$\widehat{\varphi}$ は明らかに群準同型写像であり、${\rm Ker}(\widehat{\varphi})=\{1\}$ であるので、$\widehat{\varphi}$ は単射である。
例3.9(連続群準同型写像による作用)
$G,H$ を局所コンパクト群、$\varphi\colon G\rightarrow H$ を連続群準同型写像とする。このとき、 $$ G\times H\ni (x,y)\mapsto \varphi(x)y\in H $$ は $G$ の $H$ への作用である。この作用について $H$ の任意の点に関する固定部分群は ${\rm Ker}(\varphi)$ である。またこの作用が推移的であるための必要十分条件は $\varphi$ が全射であることである。
例3.10(左剰余類空間への推移的作用)
$G$ を局所コンパクト群、$H$ を $G$ の閉部分群とする。このとき命題3.4より、 $$ G\times G/H\ni (x,q(y))\mapsto q(xy)\in G/H $$ は局所コンパクト群 $G$ の局所コンパクトHausdorff空間 $G/H$ への推移的作用である。
定理3.11(Baireのカテゴリ定理(局所コンパクトHausdorff空間版))
$X$ を局所コンパクトHausdorff空間、$(V_n)_{n\in \mathbb{N}}$ を $X$ の稠密な開集合の列とする。このとき $\bigcap_{n\in \mathbb{N}}V_n$ は $X$ で稠密である。
Proof.
$A\colon=\bigcap_{n\in \mathbb{N}}V_n$ とおく。$\overline{A}=X$ を示すには、$X$ の任意の空でない開集合 $U_0$ を取り、 $$ U_0\cap A\neq\emptyset\quad\quad(*) $$ が成り立つことを示せばよい。$\overline{V_1}=X$ であるから、$U_0\cap V_1\neq \emptyset$ であるので、測度と積分7:局所コンパクトHausdorff空間上のRadon測度の命題27.4より閉包がコンパクトな空でない開集合 $U_1$ で、 $$ \overline{U_1}\subset U_0\cap V_1 $$ を満たすものが取れる。$\overline{V_2}=X$ であるから、$U_1\cap V_2\neq \emptyset$ であるので、同様に測度と積分7:局所コンパクトHausdorff空間上のRadon測度の命題27.4より閉包がコンパクトな空でない開集合 $U_2$ で、 $$ \overline{U_2}\subset U_1\cap V_2 $$ を満たすものが取れる。同様の操作を続けていけば、閉包がコンパクトな空でない開集合の列 $(U_n)_{n\in \mathbb{N}}$ で、 $$ \overline{U_n}\subset U_{n-1}\cap V_n\quad(\forall n\in \mathbb{N})\quad\quad(**) $$ を満たすものが構成できる。$(\overline{U_n})_{n\in \mathbb{N}}$ は空でないコンパクト集合の単調減少列であるから、 $$ \bigcap_{n\in \mathbb{N}}\overline{U_n}\neq\emptyset $$ であり、$(**)$ より、 $$ \bigcap_{n\in \mathbb{N}}\overline{U_n}\subset U_0\cap \bigcap_{n\in \mathbb{N}}V_n=U_0\cap A $$ であるから、$(*)$ が成り立つ。
□系3.12
$X$ を(空ではない)局所コンパクトHausdorff空間、$(F_n)_{n\in \mathbb{N}}$ を $X$ の閉集合の列とし、$X=\bigcup_{n\in \mathbb{N}}F_n$ であるとする。このときある $n\in \mathbb{N}$ に対し $F_n^{\circ}\neq\emptyset$ が成り立つ。
Proof.
もし任意の $n\in \mathbb{N}$ に対し $F_n^{\circ}=\emptyset$ であるならば、 $$ \overline{X\backslash F_n}=X\backslash F_n^{\circ}=X\quad(\forall n\in \mathbb{N}) $$ であるから、定理3.11より $\bigcap_{n\in\mathbb{N}}(X\backslash F_n)$ は $X$ で稠密である。しかし仮定より、 $$ \bigcap_{n\in \mathbb{N}}(X\backslash F_n)=X\backslash \bigcup_{n\in \mathbb{N}}F_n=\emptyset $$ であるので、$X$ が空ではないことに矛盾する。
□定理3.13(等質空間は固定部分群に関する左剰余類空間)
$G$ を局所コンパクト群、$S$ を局所コンパクトHausdorff空間とし、 $$ G\times S\ni (x,s)\mapsto xs\in S\quad\quad(*) $$ を $G$ の $S$ への推移的作用とする。このとき任意の $s_0\in S$ に対し、 $$ G\ni x\mapsto xs_0\in S\quad\quad(**) $$ は全射な開写像(開集合を開集合に写す写像)である。そして $s_0$ における固定部分群 $H_{s_0}=\{x\in G:xs_0=s_0\}$ に対し、左剰余類空間 $G/H_{s_0}$ と商写像 $q\colon G\rightarrow G/H_{s_0}$ を考えると、 $$ G/H_{s_0}\ni q(x)\mapsto xs_0\in S\quad\quad(***) $$ は同相写像である。
Proof.
$(**)$ が全射であることは $(*)$ が推移的作用であることによる。$(**)$ が開写像であることを示す。$G$ の任意の空でない開集合 $U$ を取り、$Us_0$ が $S$ の開集合であることを示せばよい。任意の $x_0\in U$ を取り、$1\in G$ のコンパクト対称近傍 $V$ で、$x_0VV\subset U$ なるものを取る。
$$
G\subset \bigcup_{y\in G}yV^{\circ}
$$
であり、$G$ は第二可算なのでLindelöfであるから、$G$ の列 $(y_n)_{n\in \mathbb{N}}$ で、
$$
G=\bigcup_{n\in \mathbb{N}}y_nV^{\circ}
$$
なるものが取れる。$(**)$ が全射であることから、
$$
S=\bigcup_{n\in \mathbb{N}}y_n(V^{\circ}s_0)=\bigcup_{n\in \mathbb{N}}y_n(Vs_0)
$$
であり、$V$ のコンパクト性より $Vs_0$ は $S$ のコンパクト集合、したがって閉集合であるから、系3.12より、
$$
(Vs_0)^{\circ}\neq\emptyset
$$
である。そこで $x_1\in V$ で、$x_1s_0\in (Vs_0)^{\circ}$ なるものを取れば、
$$
x_0s_0=x_0x_1^{-1}x_1s_0\in x_0x_1^{-1}(Vs_0)^{\circ}\subset x_0VVs_0\subset Us_0
$$
であり、$x_0x_1^{-1}(Vs_0)^{\circ}$ は $S$ の開集合であるので、$x_0s_0\in Us_0$ は $Us_0$ の内点である。よって $x_0\in U$ の任意性より $Us_0$ は $S$ の開集合である。ゆえに $(**)$ は開写像である。
$q(x_1)=q(x_2)$ ならば、$x_1^{-1}x_2\in H_{s_0}$ であるから、
$$
x_1s_0=x_1(x_1^{-1}x_2)s_0=x_2s_0
$$
である。よって $(***)$ はwell-definedである。$(**)$ が全射であることから $(***)$ も全射である。そしてて $x_1s_0=x_2s_0$ ならば、$x_2^{-1}x_1s_0=s_0$ であるから、$x_2^{-1}x_1\in H_{s_0}$ であるので $q(x_1)=q(x_2)$ である。よって $(***)$ は全単射である。$(**)$ は連続な開写像であるから、命題3.4より $(***)$ は同相写像である。
注意3.14(第二可算局所コンパクト群の等質空間は第二可算)
局所コンパクト群 $G$ の等質空間 $S$ は $G$ の第二可算性より第二可算である。実際、定理3.13より $S$ はある固定部分群による左剰余類空間と同相であり、命題3.4より左剰余類空間は、$G$ の第二可算性により第二可算である。
系3.15
$G,H$ を局所コンパクト群、$\varphi\colon G\rightarrow H$ を全射連続群準同型写像とする。このとき、 $$ G/{\rm Ker}(\varphi)\ni q(x)\mapsto \varphi(x)\in H\quad\quad(*) $$ は同型同相写像である。
Proof.
$(*)$ が群同型写像であることは $\varphi$ が全射であることと命題3.8の $(2)$ による。$G$ の $H$ への作用 $$ G\times H\ni (x,y)\mapsto \varphi(x)y\in H $$ は $\varphi$ が全射であることから推移的である。そこでこの作用の $1\in H$ に関する固定部分群 ${\rm Ker}(\varphi)$ を考えて、定理3.13を適用すれば、$(*)$ が同相写像であることが言える。
□定義3.16(等質空間上の関数の平行移動)
$G$ を局所コンパクト群、$S$ を $G$ の等質空間とし、$f$ を $S$ 上の関数とする。任意の $x\in G$ に対し、$S$ 上の関数 $L_xf$ を、 $$ L_xf(s)\colon= f(x^{-1}s)\quad(\forall s\in S) $$ として定義する。このとき任意の $x,y\in G$ に対し $L_xL_yf=L_{xy}f$ が成り立つ。
命題3.17(等質空間における平行移動の一様連続性)
$G$ を局所コンパクト群、$S$ を $G$ の等質空間とし、$f\in C_0(S)$ とする。このとき、任意の $\epsilon\in (0,\infty)$ に対し、単位元 $1\in G$ の対称開近傍 $V$ で、 $$ y^{-1}x\in V\quad\Rightarrow \quad \lvert L_yf(s)-L_xf(s)\rvert<\epsilon\quad(\forall s\in S) $$ なるものが存在する。すなわち、 $$ G\ni x\mapsto L_xf\in C_0(S) $$ は $\sup$ ノルムに関して連続である。
Proof.
任意の $\epsilon\in (0,\infty)$ を取り固定する。$f\in C_0(S)$ は無限遠で消える連続関数であるから、$K\colon=(\lvert f\rvert\geq \frac{\epsilon}{2})$ はコンパクト集合である。$f$ は連続であるから、各 $s\in K$ に対し $1\in G$ の開近傍 $U_s$ で、 $$ \lvert f(t)-f(s)\rvert<\frac{\epsilon}{2}\quad(\forall t\in (U_s)s) $$ なるものが取れる。各 $s\in K$ に対し $1\in G$ の対称開近傍 $V_s$ で、$V_sV_s\subset U_s$ なるものを取る。 $$ K\subset \bigcup_{s\in K}(V_s)s $$ であり、定理3.13より各 $(V_s)s$ は $S$ の開集合であるから、$K$ のコンパクト性より有限個の $s_1,\ldots,s_n\in K$ が取れて、 $$ K\subset \bigcup_{j=1}^{n}(V_{s_j})s_j $$ が成り立つ。$1\in G$ の対称開近傍 $$ V\colon=\bigcap_{j=1}^{n}V_{s_j} $$ を考える。$y^{-1}x\in V$ を満たす任意の $x,y\in G$ と任意の $s\in S$ を取り、 $$ \lvert f(y^{-1}s)-f(x^{-1}s)\rvert<\epsilon $$ が成り立つことを示せばよい。もし $x^{-1}s,y^{-1}s\notin K$ ならば、$K$ の定義より、 $$ \lvert f(y^{-1}s)-f(x^{-1}s)\rvert\leq \lvert f(y^{-1}s)\rvert+\lvert f(x^{-1}s)\rvert<\epsilon $$ である。またもし $x^{-1}s\in K$ ならば、$x^{-1}s\in (V_{s_j})s_j$ なる $j\in \{1,\ldots,n\}$ が取れて、 $$ y^{-1}s=y^{-1}x(x^{-1}s)\in V(V_{s_j})s_j\subset (V_{s_j}V_{s_j})s_j\subset U_{s_j}s_j $$ となる。よって $x^{-1}s,y^{-1}s\in (U_{s_j})s_j$ であるから、 $$ \lvert f(y^{-1}s)-f(x^{-1}s)\rvert\leq \lvert f(y^{-1}s)-f(s_j)\rvert+\lvert f(s_j)-f(x^{-1}s_j)\rvert<\epsilon $$ である。$V$ の対称性より $y^{-1}x\in V$ は $x^{-1}y\in V$ を意味するので、$y^{-1}s\in K$ であるとしても同様にして上式が成り立つことが分かる。よって $x,y\in G$ が $y^{-1}x\in V$ を満たす限り、 $$ \lvert f(y^{-1}s)-f(x^{-1}s)\rvert<\epsilon\quad(\forall s\in S) $$ が成り立つ。
□定義3.18(等質空間上の不変測度)
$G$ を局所コンパクト群、$S$ を $G$ の等質空間とする。$S$ 上のRadon測度 $\nu\colon \mathcal{B}_S\rightarrow [0,\infty]$ が、
$$
\nu(S)>0,\quad \nu(xB)=\nu(B)\quad(\forall x\in G,\forall B\in \mathcal{B}_S)
$$
を満たすとき、$\nu$ を $S$ 上の $G$-不変測度と言う。
注意3.14より、$S$ は第二可算局所コンパクトHausdorff空間である。よって注意1.5で述べたように、$S$ 上のBorel測度がRadon測度であるための必要十分条件は、任意のコンパクト集合に対して有限測度を与えることである。
命題3.19(等質空間上の不変測度による積分の不変性)
$G$ を局所コンパクト群、$S$ を $G$ の等質空間、$\nu\colon \mathcal{B}_S\rightarrow [0,\infty]$ を $S$ 上の $G$-不変測度とする。このとき任意の非負値Borel関数 $f\colon S\rightarrow [0,\infty]$ に対し、 $$ \int_{S}L_xf(s)d\nu(s)=\int_{S}f(s)d\nu(s)\quad(\forall x\in G) $$ が成り立つ。
Proof.
非負値Borel関数の非負値Borel単関数の各点単調増加列による近似(測度と積分1:測度論の基礎用語の定理5.5)より、$f$ がある $B\in \mathcal{B}_S$ の指示関数である、すなわち $f=\chi_B$ である場合を示せば十分であるが、$G$-不変測度の定義より、 $$ \int_{S}L_x\chi_B(s)d\nu(s)=\int_{S}\chi_B(x^{-1}s)d\nu(s)=\int_{S}\chi_{xB}(s)d\nu(s)=\nu(xB)=\nu(B)=\int_{S}\chi_B(s)d\nu(s) $$ である。
□命題3.20(空でない開集合の不変測度)
$G$ を局所コンパクト群、$S$ を $G$ の等質空間、$\nu\colon \mathcal{B}_S\rightarrow [0,\infty]$ を $S$ 上の $G$-不変測度とする。このとき任意の空でない開集合 $U\subset S$ に対し $\nu(U)>0$ が成り立つ。
Proof.
$\nu(U)=0$ なる空でない開集合 $U\subset S$ が存在すると仮定して矛盾を導く。任意のコンパクト集合 $K\subset S$ に対し、$G$ の $S$ への作用が推移的であることから、 $$ K\subset \bigcup_{x\in G}xU $$ が成り立つ。各 $xU$ は $S$ の開集合なので、有限個の $x_1,\ldots,x_n\in G$ で、 $$ K\subset \bigcup_{j=1}^{n}x_jU $$ なるものが取れる。よって、 $$ \nu(K)\leq \sum_{j=1}^{n}\nu(x_jU)=\sum_{j=1}^{n}\nu(U)=0 $$ となるので、Radon測度の内部正則性(測度と積分7:局所コンパクトHausdorff空間上のRadon測度の定義29.3)より、 $$ \nu(S)=\sup\{\nu(K):\text{$K\subset S$ はコンパクト}\}=0 $$ となる。しかし不変測度の定義より $\nu(S)>0$ であるので矛盾する。
□定理3.21(等質空間における平行移動の $L^p$ 連続性)
$G$ を局所コンパクト群、$S$ を $G$ の等質空間、$\nu\colon \mathcal{B}_S\rightarrow [0,\infty]$ を $S$ 上の $G$-不変測度とする。このとき任意の $p\in [1,\infty)$ と任意の $[f]\in L^p(S,\nu)$ に対し、 $$ G\ni x\mapsto L_x[f]\colon=[L_xf]\in L^p(S,\nu) $$ は連続である。
Proof.
命題3.19より、 $$ \lVert L_x[f]\rVert_p=\lVert [f]\rVert_p\quad(\forall x\in G) $$ である。また $\nu$ はRadon測度なので測度と積分7:局所コンパクトHausdorff空間上のRadon測度の命題32.1より $L^p(S,\nu)$ において $C_c(S)$ は稠密である。よって任意の $f\in C_c(S)$ に対し、 $$ G\ni x\mapsto L_xf\in L^p(S,\nu)\quad\quad(*) $$ が $L^p$ ノルムで連続であることを示せば十分である。$L_{x_1}L_{x_2}f=L_{x_1x_2}f$ $(\forall x_1,x_2\in G)$ であるから、単位元 $1\in G$ における連続性を示せば十分である。$1\in G$ のコンパクト近傍 $V_0$ を取り固定する。任意の $\epsilon\in (0,\infty)$ に対し、命題3.17より $1\in G$ の近傍 $V\subset V_0$ で、 $$ x\in V\quad\Rightarrow\quad \lvert L_xf(s)-f(s)\rvert\leq\epsilon\quad(\forall s\in S) $$ なるものが取れる。 $$ {\rm supp}(L_xf-f)\subset V{\rm supp}(f)\subset V_0{\rm supp}(f)\quad(\forall x\in V) $$ であるから、 $$ \lvert L_xf(s)-f(s)\rvert\leq \epsilon\chi_{V_0{\rm supp}(f)}(s)\quad(\forall x\in V,\forall s\in S) $$ であるので、任意の $x\in V$ に対し、 $$ \lVert L_xf-f\rVert_p=\left(\int_{S}\lvert L_xf(s)-f(s)\rvert^pd\nu(s)\right)^{\frac{1}{p}}\leq \epsilon\nu(V_0{\rm supp}(f))^{\frac{1}{p}} $$ が成り立つ。$V_0{\rm supp}(f)$ はコンパクトであるから $\nu(V_0{\rm supp}(f))<\infty$ であり、$\epsilon$ は $f,V_0$ によらない任意の正実数なので、$(*)$ は $1\in G$ において $L^p$ ノルムで連続である。
□補題3.22
$G$ を局所コンパクト群、$S$ を $G$ の等質空間、$s\in S$ とする。そして $s$ における固定部分群 $H_s=\{x\in G:xs=s\}$ 上のHaar測度を $\mu_{H_s}\colon \mathcal{B}_{H_s}\rightarrow [0,\infty]$ とする。このとき任意の $f\in C_c(G)$ に対し、 $$ Pf(xs)\colon=\int_{H_s}f(xy)d\mu_{H_s}(y)\quad(\forall x\in G) $$ とおくと、$Pf\colon S\rightarrow \mathbb{C}$ はwell-definedであり、$Pf\in C_c(S)$ である。そして、 $$ C_{c,+}(G)\ni f\mapsto Pf\in C_{c,+}(S)\quad\quad(*) $$ は全射であり、 $$ C_{c,\mathbb{R}}(G)\ni f\mapsto Pf\in C_{c,\mathbb{R}}(S)\quad\quad(**) $$ は全射実線形写像である。ただし $C_{c,+}(G), C_{c,+}(S)$ は台がコンパクトな非負値連続関数全体、$C_{c,\mathbb{R}}(G), C_{c,\mathbb{R}}(S)$ は台がコンパクトな実数値連続関数全体である。
Proof.
$x_1s=x_2s$ ならば $x_1^{-1}x_2\in H_s$ であるから、Haar測度による積分の左不変性より、任意の $f\in C_c(G)$ に対し、 $$ \int_{H_s}f(x_1y)d\mu_{H_s}(y)=\int_{H_s}f(x_1x_2^{-1}x_2y)d\mu_{H_s}(y)=\int_{H_s}f(x_2y)d\mu_{H_s}(y) $$ である。よって $Pf\colon S\rightarrow\mathbb{C}$ はwell-definedである。任意の $x_0\in G$ と $x_0$ のコンパクト近傍 $V$ に対し、$H_s\cap (V^{-1}{\rm supp}(f))$ はコンパクトだから $\mu_{H_s}(H_s\cap V^{-1}{\rm supp}(f))<\infty$ であり、任意の $x\in V$ に対し、 $$ \begin{aligned} &\left\lvert \int_{H_s}f(xy)d\mu_{H_s}(y)-\int_{H_s}f(x_0y)d\mu_{H_s}(y)\right\rvert \leq \int_{H_s}\lvert f(xy)-f(x_0y)\rvert d\mu_{H_s}(y)\\ &\leq \sup_{y\in H_s}\lvert f(xy)-f(x_0y)\rvert \mu_{H_s}(H_s\cap V^{-1}{\rm supp}(f)) \end{aligned} $$ であるから、命題1.3より、 $$ G\ni x\mapsto \int_{H_s}f(xy)d\mu_{H_s}(y)\in \mathbb{C} $$ は連続である。このことと $x\in G$ の任意の開近傍 $U$ に対し $Us$ は $xs\in S$ の開近傍であること(定理3.13)から、$Pf\colon S\rightarrow\mathbb{C}$ は連続である。任意の $f\in C_c(G)$ に対し ${\rm supp}(f)s\subset S$ はコンパクトであるから、Urysohnの補題(測度と積分7:局所コンパクトHausdorff空間上のRadon測度の定理27.6)より ${\rm supp}(f)s$ 上で常に $1$ を取る $h\in C_{c,+}(S)$ が取れる。このとき、 $$ f(x)=h(xs)f(x)\quad(\forall x\in G) $$ であるので、 $$ Pf(xs)=\int_{H_s}h(xys)f(xy)d\mu_{H_s}(y)=h(xs)\int_{H_s}f(xy)d\mu_{H_s}(y)=h(xs)Pf(xs)\quad(\forall x\in G), $$ よって $Pf=hPf\in C_c(S)$ である。今、$(*)$ が全射であることを示す。任意の $\varphi\in C_{c,+}(S)$ を取る。コンパクト集合 ${\rm supp}(\varphi)\subset S$ に対し命題3.4の $(3)$ と定理3.13より、コンパクト集合 $K\subset G$ で、 $$ Ks={\rm supp}(\varphi) $$ なるものが取れる。Urysohnの補題より $K$ 上で常に $1$ を取る $g\in C_{c,+}(G)$ が取れて、任意の $x\in K$ に対し、 $$ Pg(xs)=\int_{H_s}g(xy)d\mu_{H_s}(y)>0 $$ [10]であるので、 $$ {\rm supp}(\varphi)=Ks\subset (Pg>0) $$ である。そこで $\psi\colon S\rightarrow [0,\infty)$ を、 $$ \psi(t)\colon=\begin{cases}\frac{\varphi(t)}{Pg(t)}\quad&(t\in (Pg>0))\\ 0&(t\notin (Pg>0))\end{cases} $$ と定義すれば、$\psi$ は開集合 $(Pg>0)$ 上で連続で、開集合 $S\backslash {\rm supp}(\varphi)$ 上で $0$ であり、 $$ S=(Pg>0)\cup (S\backslash {\rm supp}(\varphi)) $$ であるから、$\psi\colon S\rightarrow [0,\infty)$ は連続である。そこで、 $$ f(x)\colon=\psi(xs)g(x)\quad(\forall x\in G) $$ とおけば、$f\in C_{c,+}(G)$ であり、 $$ Pf(xs)=\int_{H_s}\psi(xys)g(xy)d\mu_{H_s}(y)=\psi(xs)\int_{H_s}g(xy)d\mu_{H_s}(y) =\psi(xs)Pg(xs)=\varphi(xs)\quad(\forall x\in G) $$ である。よって $(*)$ は全射である。任意の $\varphi\in C_{c,\mathbb{R}}(S)$ に対し、 $$ \varphi_{\pm}={\rm max}(\pm \varphi,0)\in C_{c,+}(S),\quad \varphi=\varphi_+-\varphi_- $$ であるから、$(**)$ も全射である。$(**)$ が実線形写像であることは自明である。
□定理3.23(等質空間上の不変測度の存在条件と一意性)
$G$ を局所コンパクト群、$\Delta_G\colon G\rightarrow (0,\infty)$ を $G$ のモジュラー関数(定義1.15)、$S$ を $G$ の等質空間とし、任意の $s\in S$ に対し $s$ における固定部分群 $H_s=\{x\in G:xs=s\}$ 上のモジュラー関数を $\Delta_{H_s}\colon H_s\rightarrow (0,\infty)$ とする。このとき次は互いに同値である。
- $(1)$ $S$ は $G$-不変測度を持つ。
- $(2)$ 任意の $s\in S$ に対し $\Delta_{H_s}(x)=\Delta_G(x)$ $(\forall x\in H_s) $が成り立つ。
- $(3)$ ある $s\in S$ に対し $\Delta_{H_s}(x)=\Delta_G(x)$ $(\forall x\in H_s)$ が成り立つ。
また$S$が$G$-不変測度を持つならば、それは正数倍を除いて一意的である。すなわち、$\nu_1,\nu_2:{\cal B}_S\rightarrow [0,\infty]$ が共に $G$-不変測度ならば、ある正数$c$ が存在し、$\nu_2(B)=c\nu_1(B)$ $(\forall B\in {\cal B}_S)$ が成り立つ。
Proof.
$(1)\Rightarrow(2)$ を示す。$S$が$G$-不変測度 $\nu\colon \mathcal{B}_S\rightarrow [0,\infty]$ を持つとする。任意の $s\in S$ を取り、$\mu_{H_s}\colon \mathcal{B}_{H_s}\rightarrow[0,\infty]$ を $H_s$ 上のHaar測度とし、補題3.22における非負値性を保存する全射線形写像
$$
C_c(G)\ni f\mapsto Pf\in C_c(S),\quad Pf(xs)=\int_{H_s}f(xy)d\mu_{H_s}(y)\quad(\forall f\in C_c(G),\forall x\in G)\quad\quad(*)
$$
を考えると、
$$
\begin{aligned}
PL_zf(xs)&=\int_{H_s}L_zf(xy)d\mu_{H_s}(y)=\int_{H_s}f(z^{-1}xy)d\mu_{H_s}(y)\\
&=Pf(z^{-1}xs)=L_zPf(xs)\quad(\forall f\in C_c(G),\forall x,z\in G)
\end{aligned}
$$
であるから、
$$
PL_zf=L_zPf\quad(\forall f\in C_c(G),\forall z\in G)
$$
であるので、$G$-不変測度による積分の不変性より、
$$
\int_{S}PL_zf(t)d\nu(t)=\int_{S}L_zPf(t)d\nu(t)=\int_{S}Pf(t)d\nu(t)\quad(\forall f\in C_c(G))
$$
である。よってRiesz-Markov-角谷の表現定理(測度と積分7:局所コンパクトHausdorff空間上のRadon測度の定理30.4)により、Radon汎関数
$$
C_{c,\mathbb{R}}(G)\ni f\mapsto \int_{S}Pf(t)d\nu(t)\in \mathbb{R}
$$
に対応する $G$ のRadon測度 $\mu\colon \mathcal{B}_G\rightarrow [0,\infty]$ を考えると、$\mu$は、
$$
\begin{aligned}
\int_{G}f(x)d\mu(x)&=\int_{S}Pf(t)d\nu(t)=\int_{S}PL_zf(t)d\nu(t)\\
&=\int_{G}L_zf(x)d\mu(x)\quad(\forall f\in C_c(G),\forall z\in G)
\end{aligned}
$$
を満たすから、$\mu$ は $G$ のHaar測度である[11]。任意の $z\in H_s$ に対し、モジュラー関数の基本性質(命題1.16の $(1)$)より、
$$
\begin{aligned}
\Delta_G(z)\int_{G}f(x)d\mu(x)&=\int_{G}R_{z^{-1}}f(x)d\mu(x)=\int_{S}PR_{z^{-1}}f(t)d\nu(t)\\
&=\int_{S}\int_{H_s}R_{z^{-1}}f(xy)d\mu_{H_s}(y)d\nu(xs)
=\int_{S}\int_{H_s}f(xyz^{-1})d\mu_{H_s}(y)d\nu(xs)\\
&=\int_{S}\Delta_{H_s}(z)\int_{H_s}f(xy)d\mu_{H_s}(y)d\nu(xs)=\Delta_{H_s}(z)\int_{S}Pf(t)d\nu(t)\\
&=\Delta_{H_s}(z)\int_{G}f(x)d\mu(x)\quad(\forall f\in C_c(G))
\end{aligned}
$$
であるから $\Delta_G(z)=\Delta_{H_s}(z)$ である。よって $(2)$ が成り立つ。
$(2)\Rightarrow(3)$ は自明である。$(3)\Rightarrow(1)$ を示す。$(3)$ が成り立つとし、非負性を保存する全射線形写像 $(*)$ を考える。$\mu\colon \mathcal{B}_G\rightarrow [0,\infty]$ を $G$ のHaar測度とする。今、
$$
Pf=0\quad\Rightarrow\quad \int_{G}f(x)d\mu(x)=0\quad\quad(**)
$$
が成り立つことを示す。そこで $Pf=0$ なる $f\in C_c(G)$ を取る。モジュラー関数の基本性質(命題1.16の $(3)$)より、
$$
\begin{aligned}
0&=Pf(xs)=\int_{H_s}f(xy)d\mu_{H_s}(y)=\int_{H_s}\Delta_{H_s}(y^{-1})f(xy^{-1})d\mu_{H_s}(y)\\
&=\int_{H_s}\Delta_G(y^{-1})f(xy^{-1})d\mu_{H_s}(y)\quad(\forall x\in G)\quad\quad(***)
\end{aligned}
$$
である。${\rm supp}(f)s\subset S$ のコンパクト性とUrysohnの補題(測度と積分7:局所コンパクトHausdorff空間上のRadon測度の定理27.6)、$(*)$ の全射性より、$g\in C_c(G)$ で、
$$
Pg(xs)=1\quad(\forall x\in {\rm supp}(f))
$$
なるものが取れる。よって $(***)$ とFubiniの定理、モジュラー関数の基本性質(命題1.16の $(1),(3)$)より、
$$
\begin{aligned}
0&=\int_{G}g(x)\int_{H_s}\Delta_{G}(y^{-1})f(xy^{-1})d\mu_{H_s}(y)d\mu(x)\\
&=\int_{H_s}\int_{G}\Delta_G(y^{-1})g(x)f(xy^{-1})d\mu(x)d\mu_{H_s}(y)\\
&=\int_{H_s}\int_{G}g(xy)f(x)d\mu(x)d\mu_{H_s}(y)\\
&=\int_{S}Pg(xs)f(x)d\mu(x)=\int_{G}f(x)d\mu(x)
\end{aligned}
$$
であるから $(**)$ が成り立つ。$(**)$ と、$(*)$ が非負性を保存する全射線形写像であることから、
$$
C_{c,\mathbb{R}}(S)\ni Pf\mapsto \int_{G}f(x)d\mu(x)\in \mathbb{R}
$$
はwell-definedなRadon汎関数である。よってRiesz-Markov-角谷の表現定理(測度と積分7:局所コンパクトHausdorff空間上のRadon測度の定理30.4)より、$S$ のRadon測度 $\nu\colon \mathcal{B}_S\rightarrow [0,\infty]$ で、
$$
\int_{S}Pf(t)d\nu(t)=\int_{G}f(x)d\mu(x)\quad(\forall Pf\in C_c(S))
$$
なるものが定まり、
$$
\begin{aligned}
&\int_{S}L_zPf(t)d\nu(t)=\int_{S}PL_zf(t)d\nu(t)=\int_{G}L_zf(x)d\mu(x)\\
&=\int_{G}f(x)d\mu(x)=\int_{S}Pf(t)d\nu(t)\quad(\forall Pf\in C_c(S),\forall z\in G)
\end{aligned}
$$
であるから、$\nu$ は $G$-不変測度である。よって $(1)$ が成り立つ。
$\nu_1,\nu_2\colon \mathcal{B}_S\rightarrow [0,\infty]$ を $S$ の $G$-不変測度とする。任意の $s\in S$ を取り全射線形写像 $(*)$ を考えれば、$(1)\Rightarrow(2)$ で示したように、$G$ のHaar測度 $\mu_1,\mu_2\colon \mathcal{B}_G\rightarrow [0,\infty]$ で、
$$
\int_{S}Pf(t)d\nu_k(t)=\int_{G}f(x)d\mu_k(x)\quad(\forall f\in C_c(G),k=1,2)
$$
を満たすものが取れる。定理1.14よりある正数 $c$ に対し、
$$
\mu_2(B)=c\mu_1(B)\quad(\forall B\in \mathcal{B}_G)
$$
が成り立つから、
$$
\int_{S}Pf(t)d\nu_2(t)=\int_{G}f(x)d\mu_2(x)=c\int_{G}f(x)d\mu_1(x)=c\int_{S}Pf(t)d\nu(t)\quad(\forall Pf\in C_c(S))
$$
である。よって、
$$
\nu_2(B)=c\nu_1(B)\quad(\forall B\in\mathcal{B}_S)
$$
が成り立つ。ゆえに $S$ の $G$-不変測度は正数倍を除いて一意的である。
系3.24(局所コンパクト可換群、離散群、コンパクト群の等質空間における不変測度の存在と一意性)
$G$ を局所コンパクト可換群、離散群、コンパクト群のいずれかとすると、$G$ の等質空間は $G$-不変測度を持ち、それは正数倍を除いて一意的である。
Proof.
$G$ を局所コンパクト可換群(resp. 離散群、コンパクト群)とすると、$G$ の任意の閉部分群も局所コンパクト可換群(resp. 離散群、コンパクト群)である。そして局所コンパクト可換群(resp. 離散群、コンパクト群)はユニモジュラーである(命題1.18)から、定理3.23の条件 $(2)$ を満たす。
□定義3.25(局所コンパクト群の等質空間の $L^2$ 空間上への正則表現)
$G$ を局所コンパクト群、$S$ を $G$ の等質空間、$\nu\colon \mathcal{B}_S\rightarrow [0,\infty]$ を $G$-不変測度とする。任意の $x\in G$ に対し、 $$ \pi(x)\colon L^2(S,\nu)\rightarrow L^2(S,\nu),\quad \pi(x)[f]\colon=L_x[f]=[L_xf]\quad(\forall [f]\in L^2(S,\nu)) $$ とおくと、不変測度による積分の不変性より、$\pi(x)$ はHilbert空間 $L^2(S,\nu)$ 上のユニタリ作用素である。そして定理3.21より、 $$ G\ni x\mapsto \pi(x)\in \mathbb{U}(L^2(S,\nu)) $$ はSOT連続な群準同型写像である。よって $\pi$ は $G$ のHilbert空間 $L^2(S,\nu)$ 上へのユニタリ表現である。これを $G$ の $L^2(S,\nu)$ 上への正則表現と言う。
4. コンパクト群のユニタリ表現、Peter-Weylの定理
定義4.1(確率測度)
$(X,\frak{M},\mu)$ を測度空間とする。$\mu(X)=1$ であるとき、$\mu$ を $(X.\frak{M})$ 上の確率測度と言う。
定義4.2(コンパクト群のHaar測度)
$G$ をコンパクト群とする。$G$ はHaar測度 $\mu$ を持ち(定理1.13)、それは正数倍を除いて一意的である(定理1.14)。またHaar測度はRadon測度であるので、$G$ のコンパクト性より、$G$ のHaar測度は有限測度である。よって $G$ のHaar測度で確率測度であるものが唯一つ存在する。以後、特に断らない限り、コンパクト群のHaar測度と言えば、確率測度であることとする。
定義4.3
$G$ をコンパクト群、$\mu\colon \mathcal{B}_G\rightarrow [0,1]$ をHaar測度とする。$G$ のユニタリ表現 $\pi_1,\pi_2$ と任意の $v_1\in \mathcal{H}_{\pi_1}$, $v_2\in \mathcal{H}_{\pi_2}$ に対し、Schatten形式(Hilbert空間上の作用素論の定義13.5)により、Banach空間値連続関数 $$ G\ni x\mapsto \pi_1(x)v_1\odot \pi_2(x)v_2\in \mathbb{B}(\mathcal{H}_{\pi_2},\mathcal{H}_{\pi_1}) $$ を考える。そしてBochner積分(測度と積分9:Bochner積分の定義44.1)により、 $$ T^{\pi_1,\pi_2}_{v_1,v_2}\colon=\int_{G}(\pi_1(x)v_1\odot \pi_2(x)v_2)d\mu(x)\in \mathbb{B}(\mathcal{H}_{\pi_2},\mathcal{H}_{\pi_1}) $$ を定義する。このときBochner積分の基本性質(測度と積分9:Bochner積分の命題44.2)とSchatten形式の基本性質(Hilbert空間上の作用素論の命題13.6)、およびHaar測度による積分の左不変性より、 $$ \begin{aligned} T^{\pi_1,\pi_2}_{v_1,v_2}\pi_2(y)&=\int_{G}(\pi_1(x)v_1\odot \pi_2(x)v_2)\pi_2(y)d\mu(x)=\int_{G}(\pi_1(x)v_1\odot \pi_2(y)^*\pi_2(x)v_2)d\mu(x)\\ &=\int_{G}(\pi_1(x)v_1\odot \pi_2(y^{-1}x)v_2)d\mu(x)=\int_{G}(\pi_1(yx)v_1\odot \pi_2(x)v_2)d\mu(x)\\ &=\int_{G}\pi_1(y)(\pi_1(x)v_1\odot \pi_2(x)v_2)d\mu(x)=\pi_1(y)T^{\pi_1,\pi_2}_{v_1,v_2}\quad(\forall y\in G) \end{aligned} $$ であるから、 $$ T^{\pi_1,\pi_2}_{v_1,v_2}\in \mathcal{C}(\pi_2,\pi_1)\quad\quad(*) $$ (定義2.7)が成り立つ。また $G$ の任意のユニタリ表現 $\pi$ と任意の $u,v\in \mathcal{H}_{\pi}$ に対し、 $$ T^{\pi}_{u,v}\colon=T^{\pi,\pi}_{u,v}=\int_{G}(\pi(x)u\odot \pi(x)v)d\mu(x)\in \mathbb{B}(\mathcal{H}_{\pi}) $$ と定義する。Hilbert空間上の作用素論の命題16.15より、 $$ G\ni x\mapsto \pi(x)u\odot \pi(x)v\in \mathbb{B}^1(\mathcal{H}_{\pi}) $$ はBanach空間 $\mathbb{B}^1(\mathcal{H}_{\pi})$($\mathcal{H}_{\pi}$ 上のトレースクラス)値連続関数であるから、 $$ T^{\pi}_{u,v}=\int_{G}(\pi(x)u\odot \pi(x)v)d\mu(x)\in \mathbb{B}^1(\mathcal{H}_{\pi}) $$ であり、トレース ${\rm Tr}\colon \mathbb{B}^1(\mathcal{H}_{\pi})\rightarrow\mathbb{C}$ は有界線形汎関数であるから、Bochner積分の基本性質(測度と積分9:Bochner積分の命題44.2)とHilbert空間上の作用素論の命題16.15より、 $$ {\rm Tr}(T^{pi}_{u,v})=\int_{G}{\rm Tr}(\pi(x)u\odot \pi(x)v)d\mu(x) =\int_{G}(\pi(x)v\mid \pi(x)u)d\mu(x)=\int_{G}(v\mid u)d\mu(x)=(v\mid u)\quad\quad(**) $$ である。
定理4.4(コンパクト群の既約なユニタリ表現は有限次元)
コンパクト群の既約なユニタリ表現は有限次元である。
Proof.
$\pi$ が $G$ の既約なユニタリ表現であるとする。任意の $v\in \mathcal{H}_{\pi}\backslash \{0\}$ に対し、定義4.3における $T^{\pi}_{v,v}\in \mathbb{B}^1(\mathcal{H}_{\pi})$ を考えると、定義4.3の $(*)$ より、$T^{\pi}_{v,v}\in \mathcal{C}(\pi)$ であるから、Schurの補題(定理2.10)より、$T^{\pi}_{v,v}=\alpha 1$ なる $\alpha\in \mathbb{C}$ が存在する。定義4.3の $(**)$ より、 $$ 0<\lVert v\rVert^2={\rm Tr}(T^{\pi}_{v,v})={\rm Tr}(\alpha 1)=\alpha {\rm Tr}(1) $$ であるから、${\rm Tr}(1)<\infty$ である。ゆえに $\mathcal{H}_{\pi}$ は有限次元である。
□定義4.5(完全可約)
$G$ を局所コンパクト群とする。$G$ のユニタリ表現 $\pi\colon G\rightarrow \mathbb{U}(\mathcal{H}_{\pi})$ が完全可約であるとは、$\pi$ の既約な部分表現(定義2.3)の族 $(\pi_j)_{j\in J}$ が存在して、$\pi=\oplus_{j\in J}\pi_j$ が成り立つこと、すなわち、各 $\pi_j$ の表現空間を $\mathcal{H}_{\pi_j}\subset \mathcal{H}_{\pi}$ とおくとき、$\mathcal{H}_{\pi}$ が $\mathcal{H}_{\pi}=\bigoplus_{j\in J}\mathcal{H}_{\pi_j}$ と直交分解されることを言う。
定理4.6(コンパクト群のユニタリ表現は完全可約)
コンパクト群の任意のユニタリ表現は完全可約である。
Proof.
$G$ をコンパクト群、$\mu\colon \mathcal{B}_G\rightarrow [0,1]$ を $G$ のHaar測度とする。
まず、$G$ の任意のユニタリ表現 $\pi$ が既約な部分表現を持つことを示す。任意の $v\in \mathcal{H}_{\pi}\backslash \{0\}$ に対し、定義4.3における $T^{\pi}_{v,v}\in \mathbb{B}^1(\mathcal{H}_{\pi})$ を考えると、
$$
(u\mid T^{\pi}_{v,v}u)=\int_{G}(u\mid (\pi(x)v\odot \pi(x)v)u)d\mu(x)
=\int_{G}\lvert (u\mid \pi(x)v)\rvert^2d\mu(x)\geq0\quad(\forall u\in \mathcal{H}_{\pi})
$$
であるから $T^{\pi}_{v,v}\in \mathbb{B}^1(\mathcal{H}_{\pi})$ は有界非負自己共役作用素である(Hilbert空間上の作用素論の命題1.4)。また $G\ni x\mapsto \lvert (v\mid \pi(x)v)\rvert^2\in [0,\infty)$ は連続関数で、$\lvert (v\mid \pi(1)v)\rvert^2=\lVert v\rVert^4>0$ であるから、命題1.8より、
$$
(v\mid T^{\pi}_{v,v}v)=\int_{G}\lvert (v\mid \pi(x)v)\rvert^2d\mu(x)>0
$$
である。よって $T^{\pi}_{v,v}\in \mathbb{B}^1(\mathcal{H}_{\pi})$ は $0$ ではない有界非負自己共役作用素であるので $T^{\pi}_{v,v}$ のスペクトル $\sigma(T^{\pi}_{v,v})$ は $0$ ではない元 $\lambda$ を持つ。$T^{\pi}_{v,v}\in \mathbb{B}^1(\mathcal{H}_{\pi})$ はコンパクト作用素である(Hilbert空間上の作用素論の命題16.7)から、$\lambda$ は $T^{\pi}_{v,v}$ の固有値であり、${\rm Ker}(\lambda-T^{\pi}_{v,v})$ は有限次元である(Hilbert空間上の作用素論の定理13.7)。また定義4.3の $(*)$ より $T^{\pi}_{v,v}\in \mathcal{C}(\pi)$ であるから、$\mathcal{K}={\rm Ker}(\lambda-T^{\pi}_{v,v})$ は $\pi$ 不変である。よって $\pi$ の部分表現 $\pi|_{\mathcal{K}}\colon G\rightarrow \mathbb{U}(\mathcal{K})$ は $G$ の有限次元ユニタリ表現である。有限次元ユニタリ表現は明らかに既約な部分表現を持つので、$\pi$ は既約な部分表現を持つ。
次に $G$ の任意のユニタリ表現 $\pi$ が完全可約であることを示す。Zornの補題より、$\pi$ の既約な部分表現の表現空間からなる直交族で、集合の包含関係による順序に関して極大なもの $\{\mathcal{K}_j\}_{j\in J}$ が取れることが分かる。そこで、
$$
\mathcal{K}\colon=\bigoplus_{j\in J}\mathcal{K}_j\subset \mathcal{H}_{\pi}
$$
とおく。$\mathcal{K}\neq \mathcal{H}_{\pi}$ であると仮定する。$\mathcal{K}$ は $\pi$ 不変であるから、$\mathcal{K}^{\perp}\neq\{0\}$ も $\pi$ 不変である。よって $\pi$ の部分表現 $\pi|_{\mathcal{K}^{\perp}}\colon G\rightarrow\mathbb{U}(\mathcal{K}^{\perp})$ を考えることができ、上段より、$\pi|_{\mathcal{K}^{\perp}}$ は既約な部分表現を持つ。したがって $\pi$ の既約な部分表現で、その表現空間が $\mathcal{K}^{\perp}$ に含まれるものが存在する。しかしこれは $\{\mathcal{K}_j\}_{j\in J}$ の極大性に反する。ゆえに $\mathcal{K}=\mathcal{H}_{\pi}$ であるから、$\pi$ は完全可約である。
定義4.7(コンパクト群 $G$ の双対空間 $\widehat{G}$)
$G$ をコンパクト群とする。$G$ のユニタリ表現 $\pi$ に対し、ユニタリ同値(定義2.9)に関する $\pi$ の同値類を $[\pi]$ と表す[12]。そしてその同値類全体を、 $$ \widehat{G}\colon=\{[\pi]:\text{$\pi$ は $G$ の既約なユニタリ表現}\} $$ とおく。$\widehat{G}$ を $G$ の双対空間と言う。
定義4.8(コンパクト群のユニタリ表現 $\rho$ の $[\pi]$ 成分 $\mathcal{H}_{\rho}([\pi])$)
$G$ をコンパクト群、$\rho\colon G\rightarrow \mathbb{U}(\mathcal{H}_{\rho})$ を $G$ のユニタリ表現とする。任意の $[\pi]\in \widehat{G}$ に対し、$\rho$ 不変な閉部分空間 $$ \mathcal{H}_{\rho}([\pi])\colon=\overline{{\rm span}\bigcup_{[\rho|_{\mathcal{K}}]=[\pi]}\mathcal{K}}\subset \mathcal{H}_{\rho} $$ (右辺は $\pi$ と同値な $\rho$ の部分表現の表現空間全体の合併が張る線形空間の閉包)を定義する。ただし $\rho$ の部分表現で $\pi$ と同値なものがない場合は $\mathcal{H}_{\rho}([\pi])\colon=\{0\}$ とする。$\mathcal{H}_{\rho}([\pi])$ を $\mathcal{H}_{\rho}$ の $[\pi]$ 成分と言う。
命題4.9(コンパクト群のユニタリ表現の $[\pi]$ 成分の基本性質)
$G$ をコンパクト群、$\rho\colon G\rightarrow \mathbb{U}(\mathcal{H}_{\rho})$ を $G$ のユニタリ表現とする。このとき、
- $(1)$ $\mathcal{H}_{\rho}([\pi])\neq \{0\}$ なる任意の $[\pi]\in \widehat{G}$ に対し、$\rho$ の既約な部分表現でその表現空間が $\mathcal{H}_{\rho}([\pi])$ に含まれるものは全て $\pi$ と同値である。
- $(2)$ $[\pi_1]\neq[\pi_2]$ ならば $\mathcal{H}_{\rho}([\pi_1])\perp \mathcal{H}_{\rho}([\pi_2])$ が成り立つ。
- $(3)$ $\mathcal{H}_{\rho}=\bigoplus_{[\pi]\in \widehat{G}}\mathcal{H}_{\rho}([\pi])$ が成り立つ。
Proof.
- $(1)$ $\rho$ の既約な部分表現 $\rho|_{\mathcal{L}}\colon G\rightarrow\mathbb{U}(\mathcal{L})$ で $\mathcal{L}\subset \mathcal{H}_{\rho}$ を満たすものを取る。$\mathcal{L}\neq \{0\}$ であるから、$[\rho|_{\mathcal{K}}]=[\pi]$ なる $\mathcal{K}$ で $\mathcal{L}$ と $\mathcal{K}$ が直交しないようなものが取れる。その $\mathcal{K}$ に対し $P\in \mathbb{B}(\mathcal{H}_{\rho})$ を $\mathcal{K}$ の上への射影作用素とし、$T\colon \mathcal{L}\rightarrow\mathcal{K}$ を $Tv=Pv$ $(\forall v\in \mathcal{L})$ と定義すると、$T\neq 0$ である(なぜなら $T=0$ ならば $P(\mathcal{L})=0$ であり、$\mathcal{L}$ と $\mathcal{K}$ は直交することになる)。今、任意の $u\in \mathcal{L}$, $v\in \mathcal{K}$ に対し、
$$ \begin{aligned} &(v\mid T\rho|_{\mathcal{L}}(x)u)=(v\mid P\rho(x)u)=(Pv\mid \rho(x)u)=(v\mid \rho(x)u)=(\rho(x^{-1})v\mid u)\\ &=(P\rho(x^{-1})v\mid u)=(v\mid\rho(x)Pu)=(v\mid \rho|_{\mathcal{K}}(x)Tu)\quad(\forall x\in G)\quad\quad(*) \end{aligned} $$ であるから、$T\in \mathcal{C}(\rho|_{\mathcal{L}},\rho|_{\mathcal{K}})$ である。よって $T\neq 0$ であることとSchurの補題(系2.11)より $\rho|_{\mathcal{L}}$ と $\rho|_{\mathcal{K}}$ はユニタリ同値である。ゆえに $\rho|_{\mathcal{L}}$ と $\pi$ はユニタリ同値である。
- $(2)$ $[\pi_1]\neq [\pi_2]$ であるとし、$[\rho|_{\mathcal{L}}]=[\pi_1]$, $[\rho|_{\mathcal{K}}]=[\pi_2]$ とする。$P\in \mathbb{B}(\mathcal{H}_{\rho})$ を $\mathcal{K}$ の上への射影作用素とし、$T\colon\mathcal{L}\rightarrow\mathcal{K}$ を $Tv=Pv$ $(\forall v\in \mathcal{L})$ と定義すると、$(*)$ が成り立つので、$T\in \mathcal{C}(\rho|_{\mathcal{L}},\rho|_{\mathcal{K}})$ である。$[\rho|_{\mathcal{L}}]=[\pi_1]\neq [\pi_2]=[\rho|_{\mathcal{K}}]$ であるから、Schurの補題(系2.11)より $T=0$ である。よって $P(\mathcal{L})=0$ であるので、$\mathcal{L}$ と $\mathcal{K}$ は互いに直交する。ゆえに $\mathcal{H}_{\rho}([\pi_1])\perp \mathcal{H}_{\rho}([\pi_2])$ が成り立つ。
- $(3)$ $\rho$ が完全可約である(定理4.6)ことと $(2)$ による。
定義4.10(コンパクト群のユニタリ表現における既約表現の重複度)
$G$ をコンパクト群、$\rho\colon G\rightarrow\mathbb{U}(\mathcal{H}_{\rho})$ を $G$ のユニタリ表現とする。$[\pi]\in \widehat{G}$ に対し $\mathcal{H}_{\rho}$ の $[\pi]$ 成分が $\mathcal{H}_{\rho}([\pi])\neq \{0\}$ であるとき、$\rho$ の $\mathcal{H}_{\rho}([\pi])$ への制限は、定理4.6と命題4.9の $(1)$ より、$\pi$ と同値な既約な部分表現の直和に分解できる。そしてそれらの既約な部分表現の次元は ${\rm dim}(\pi)<\infty$(定理4.4)である。そこで $\rho$ における $[\pi]$ の重複度を、 $$ \frac{{\rm dim}(\mathcal{H}_{\rho}([\pi]))}{{\rm dim}(\pi)}\in \mathbb{N}\cup\{\infty\} $$ と定義する。$\mathcal{H}_{\rho}([\pi])=0$ の場合は $\rho$ における $[\pi]$ の重複度は $0$ と定義する。
定義4.11(コンパクト群の有限次元ユニタリ表現の行列成分)
$G$ をコンパクト群、$\pi$ を $G$ の有限次元ユニタリ表現とする。任意の $u,v\in \mathcal{H}_{\pi}$ に対し、 $$ \pi_{u,v}\colon G\ni x\mapsto (u\mid \pi(x)v)\in \mathbb{C} $$ なる連続関数を $\pi$ の行列成分と言う。$\pi$ の行列成分が張る $C(G)$ の部分空間を、 $$ \mathcal{E}(\pi)\colon={\rm span}\{\pi_{u,v}:u,v\in \mathcal{H}_{\pi}\}\}\subset C(G) $$ と表す。もし $G$ のユニタリ表現 $\pi$ と $\rho$ がユニタリ同値ならば、あるユニタリ作用素 $U\colon \mathcal{H}_{\pi}\rightarrow \mathcal{H}_{\rho}$ に対し $U\pi(x)=U\rho(x)$ $(\forall x\in G)$ となるから、任意の $u,v\in \mathcal{H}_{\pi}$ に対し、 $$ \pi_{u,v}(x)=(u\mid \pi(x)v)=(Uu\mid U\pi(x)v)=(Uu\mid \rho(x)Uv)=\rho_{Uu,Uv}(x)\quad(\forall x\in G) $$ となる。よって $\mathcal{E}(\pi)=\mathcal{E}(\rho)$ である。そこで任意の $[\pi]\in \widehat{G}$ に対し $\mathcal{E}([\pi])=\mathcal{E}(\pi)$ と表す。
定理4.12(Peter-Weylの定理1)
$G$ をコンパクト群とする。このとき、 $$ \mathcal{E}\colon={\rm span}\bigcup_{[\pi]\in \widehat{G}}\mathcal{E}([\pi]) $$ は($\sup$ ノルムと各点ごとの演算による)単位的可換 $C^*$-環 $C(G)$ の稠密な部分 $*$-環である。
Proof.
$G$ の既約なユニタリ表現は有限次元であり(定理4.4)、有限次元ユニタリ表現は有限個の既約なユニタリ表現の直和であるから、 $$ \mathcal{E}={\rm span}\{\pi_{u,v}:\text{$\pi$ は既約、$u,v\in \mathcal{H}_{\pi}$}\}={\rm span}\{\pi_{u,v}:\text{$\pi$ は有限次元、$u,v\in \mathcal{H}_{\pi}$}\} $$ である。また任意の $u,v\in \mathcal{H}_{\pi}$ に対し、 $$ (u\mid \pi(x)v)=\frac{1}{4}\sum_{k=0}^{3}i^k(i^ku+v\mid \pi(x)(i^ku+v))\quad(\forall x\in G) $$ であるから、 $$ \mathcal{E}={\rm span}\{\pi_{v,v}:\text{$\pi$ は既約、$v\in \mathcal{H}_{\pi}$}\} ={\rm span}\{\pi_{v,v}:\text{$\pi$ は有限次元、$v\in \mathcal{H}_{\pi}$}\} $$ である。任意の既約なユニタリ表現 $\pi,\rho$ と $u\in \mathcal{H}_{\pi}$, $v\in \mathcal{H}_{\rho}$ に対し、 $$ \pi_{u,u}(x)\rho_{v,v}(x)=(u\mid \pi(x)u)(v\mid \rho(x)v)=(u\otimes v\mid (\pi\otimes \rho)(x)(u\otimes v))=(\pi\otimes \rho)_{u\otimes v,u\otimes v}(x)\quad(\forall x\in G) $$ であり、$\pi\otimes \rho$ は有限次元であるから、$\pi_{u,u}\rho_{v,v}=(\pi\otimes \rho)_{u\otimes v,u\otimes v}\in \mathcal{E}$ である。よって $\mathcal{E}$ は乗法で閉じている。任意の既約なユニタリ表現 $\pi$ と任意の単位ベクトル $v\in \mathcal{H}_{\pi}$ に対し $v$ は $\pi$ の巡回ベクトルである(注意2.6)から、定理2.37より $\pi_{v,v}\in {\rm ext}(\mathcal{P}_1(G))$ であり、命題2.28より $\overline{\pi_{v,v}}\in {\rm ext}(\mathcal{P}_1(G))$ である。そこで $\overline{\pi_{v,v}}$ のGNS表現 $(\rho,u)$ を取ると、$\rho_{u,u}=\overline{\pi_{v,v}}\in {\rm ext}(\mathcal{P}_1(G))$ であるから定理2.37より $\rho$ は既約であるので、$\overline{\pi_{v,v}}=\rho_{u,u}\in \mathcal{E}$ である。よって $\mathcal{E}$ は対合演算で閉じている。これより $\mathcal{E}$ は $C(G)$ の部分 $*$-環である。$1$ 次元Hilbert空間上への単位表現(単位表現とは任意の $x\in G$ に対し恒等作用素を与えるユニタリ表現である)は既約であるから $1\in \mathcal{E}$ である。そして$x\neq y$ なる任意の$x,y\in G$に対し、Gelfand-Raikovの定理(定理2.41)より、$p\in {\cal E}$で $p(x)\neq p(y)$ なるものが存在する。よってStone-Weierstrassの定理(測度と積分7:局所コンパクトHausdorff空間上のRadon測度の定理35.4)より $\mathcal{E}$ は $C(G)$ の稠密な部分 $*$-環である。
□定理4.13(Peter-Weylの定理2)
$G$ をコンパクト群、$\mu\colon \mathcal{B}_G\rightarrow [0,1]$ を $G$ のHaar測度とする。このとき、 $$ [\pi_1],[\pi_2]\in \widehat{G},\quad [\pi_1]\neq[\pi_2]\quad\Rightarrow\quad \mathcal{E}([\pi_1])\perp \mathcal{E}([\pi_2])\quad(\text{in $L^2(G,\mu)$})\quad\quad(*), $$ $$ L^2(G,\mu)=\bigoplus_{[\pi]\in \widehat{G}}\mathcal{E}([\pi])\quad\quad(**) $$ が成り立つ。また任意の $[\pi]\in \widehat{G}$ と $\mathcal{H}_{\pi}$ のCONS $(e_1,\ldots,e_{\dim(\pi)})$ に対し、 $$ \pi_{i,j}\colon=\pi_{e_i,e_j}\quad(\forall i,j\in \{1,\ldots,\dim(\pi)\}) $$ とおくと、$\{\sqrt{\dim(\pi)}\pi_{i,j}\}_{i,j=1,\ldots,\dim(\pi)}$ は $\mathcal{E}([\pi])\subset L^2(G,\mu)$ のCONSである。
Proof.
$[\pi_1],[\pi_2]\in \widehat{G}$ が $[\pi_1]\neq [\pi_2]$ であるとする。任意の $u_1\in \mathcal{H}_{\pi_1}$, $u_2\in \mathcal{H}_{\pi_2}$ に対し、定義4.3における $T^{\pi_1,\pi_2}_{u_1,u_2}\in \mathcal{C}(\pi_2,\pi_1)$ を考えれば、Schurの補題(系2.11)より、$T^{\pi_1,\pi_2}_{u_1,u_2}=0$ であるから、任意の $v_1\in \mathcal{H}_{\pi_1}$, $v_2\in \mathcal{H}_{\pi_2}$ に対し、
$$
0=(v_1\mid T^{\pi_1,\pi_2}_{u_1,u_2}v_2)=\int_{G}(v_1\mid(\pi_1(x)u_1\odot \pi_2(x)u_2)v_2)d\mu(x)=\int_{G}(v_1\mid \pi_1(x)u_1)\overline{(v_2\mid \pi_2(x)u_2)}d\mu(x)
$$
である。よって $\mathcal{E}([\pi_1])\perp \mathcal{E}([\pi_2])$ であるから $(*)$ が成り立つ。測度と積分7:局所コンパクトHausdorff空間上のRadon測度の命題32.1より、$L^2(G,\mu)$ において $C(G)$ は稠密であるから、定理4.12より $L^2(G,\mu)$ において ${\rm span}\bigcup_{[\pi]\in \widehat{G}}\mathcal{E}([\pi])$ は稠密である。このことと $(*)$ より $(**)$ が成り立つ。
任意の $[\pi]\in \widehat{G}$ を取り、$\mathcal{H}_{\pi}$ のCONS $(e_1,\ldots,e_{\dim(\pi)})$ を取る。明らかに、
$$
\mathcal{E}([\pi])={\rm span}\{\pi_{i,j}:i,j\in \{1,\ldots,\dim(\pi)\}\}
$$
である。任意の $j,j'\in\{1,\ldots,\dim(\pi)\}$ に対し、定義4.3における $T^{\pi}_{e_j,e_{j'}}\in \mathcal{C}(\pi)$ を考えると、Schurの補題(定理2.10)より、$T^{\pi}_{e_j,e_{j'}}=\alpha_{j,j'}1$ なる $\alpha_{j,j'}\in \mathbb{C}$ が取れて、
$$
\alpha_{j,j'}\dim(\pi)={\rm Tr}(T^{\pi}_{e_j,e_{j'}})=(e_{j'}\mid e_j)=\delta_{j,j'}
$$
となる。よって任意の $i,j,i',j'\in \{1,\ldots,\dim(\pi)\}$ に対し、
$$
(\pi_{i,j}\mid \pi_{i',j'})_2=\int_{G}(e_i\mid \pi(x)e_j)\overline{(e_{i'}\mid \pi(x)e_{j'})}d\mu(x)=(e_i\mid T^{\pi}_{e_j,e_{j'}}e_{i'})=\alpha_{j,j'}\delta_{i,i'}=\delta_{i,i'}\delta_{j,j'}\frac{1}{\dim(\pi)}
$$
となる。これより $\{\sqrt{\dim(\pi)}\pi_{i,j}\}_{i,j=1,\ldots,\dim(\pi)}$ は $\mathcal{E}([\pi])\subset L^2(G,\mu)$ のCONSである。
定義4.14(コンパクト群上の類関数)
$G$ をコンパクト群とする。$G$ 上の関数 $f$ で、$f(xy)=f(yx)$ $(\forall x,y\in G)$ を満たすものを $G$ 上の類関数と言う。連続な類関数全体を、 $$ ZC(G)\colon=\{f\in C(G):f(xy)=f(yx) \text{ }(\forall x,y\in G)\} $$ とおく。また $L^2$ 類関数全体を、 $$ ZL^2(G,\mu)\colon=\{[f]\in L^2(G,\mu):L_y[f]=R_{y^{-1}}[f]\text{ }(\forall y\in G)\} $$ とおく。
定義4.15(コンパクト群の指標)
$G$ をコンパクト群とする。$G$ の既約なユニタリ表現 $\pi_1,\pi_2$(定理4.4より有限次元)がユニタリ同値ならば、 $$ {\rm Tr}(\pi_1(x))={\rm Tr}(\pi_2(x))\quad(\forall x\in G) $$ であるから、任意の $[\pi]\in \widehat{G}$ に対し、 $$ \gamma_{[\pi]}\colon G\ni x\mapsto {\rm Tr}(\pi(x))\in \mathbb{C} $$ なる連続関数が定義できる。$\gamma_{[\pi]}$ を $[\pi]\in \widehat{G}$ に対する $G$ の指標と言う。
命題4.16(コンパクト群の指標の基本性質)
$G$ をコンパクト群、$\mu\colon \mathcal{B}_G\rightarrow [0,1]$ を $G$ のHaar測度とする。このとき、
- $(1)$ 任意の $[\pi]\in \widehat{G}$ に対し $\gamma_{[\pi]}\in ZC(G)$ が成り立つ。
- $(2)$ $[\pi_1],[\pi_2]\in \widehat{G}$ が $[\pi_1]\neq [\pi_2]$ ならば、Hilbert空間 $L^2(G,\mu)$ において $\gamma_{[\pi_1]},\gamma_{[\pi_2]}$ は直交する。また任意の $[\pi]\in \widehat{G}$ に対し $\gamma_{[\pi]}$ はHilbert空間 $L^2(G,\mu)$ の単位ベクトルである。
- $(3)$ 任意の $[\pi]\in \widehat{G}$ に対し有限次元部分空間 $\mathcal{E}([\pi])\subset L^2(G,\mu)$ の上への射影作用素を $P_{[\pi]}\in \mathbb{B}(L^2(G,\mu))$ とおくと、
$$ P_{[\pi]}([f])=\dim(\pi)[f]*\gamma_{[\pi]}\quad(\forall [f]\in L^2(G,\mu)) $$ が成り立つ。
- $(4)$ 任意の $[\pi]\in \widehat{G}$ と $(3)$ における射影作用素 $P_{[\pi]}\in \mathbb{B}(L^2(G,\mu))$ に対し、
$$ P_{[\pi]}([f])=(\gamma_{[\pi]}\mid [f])_2\gamma_{[\pi]}\quad(\forall [f]\in ZL^2(G,\mu)) $$ が成り立つ。
Proof.
- $(1)$ 指標の定義とトレースの性質(Hilbert空間上の作用素論の命題16.9)より、
$$ \gamma_{[\pi]}(xy)={\rm Tr}(\pi(xy))={\rm Tr}(\pi(x)\pi(y))={\rm Tr}(\pi(y)\pi(x))={\rm Tr}(\pi(yx))=\gamma_{[\pi]}(yx)\quad(\forall x,y\in G) $$ であるから $\gamma_{[\pi]}\in ZC(G)$ である。
- $(2)$ $[\pi_1],[\pi_2]\in \widehat{G}$ が $[\pi_1]\neq [\pi_2]$ であるならば、Peter-Weylの定理2(定理4.13)より $\mathcal{E}([\pi_1])\perp \mathcal{E}([\pi_2])$ であり、$\gamma_{[\pi_1]}\in \mathcal{E}([\pi_1])$, $\gamma_{[\pi_2]}\in \mathcal{E}([\pi_2])$ であるから $\gamma_{[\pi_1]}$ と $\gamma_{[\pi_2]}$ は直交する。また任意の $[\pi]\in \widehat{G}$ と $\mathcal{H}_{\pi}$ のCONS $(e_1,\ldots,e_{\dim(\pi)})$ に対し、$\pi$ の行列成分
$$ \pi_{i,j}\colon G\ni x\mapsto (e_i\mid \pi(x)e_j)\in \mathbb{C}\quad(\forall i,j\in \{1,\ldots,\dim(\pi)\})\quad\quad(*) $$ を考えると、Peter-Weylの定理2(定理4.13)より、$(\sqrt{\dim(\pi)}\pi_{i,j})_{i,j=1,\ldots,\dim(\pi)}$ は $\mathcal{E}([\pi])\subset L^2(G,\mu)$ のCONSであるから、 $$ (\gamma_{[\pi]}\mid \gamma_{[\pi]})_2=\sum_{i,j=1}^{\dim(\pi)}(\pi_{i,i}\mid \pi_{j,j})_2 =\frac{1}{\dim(\pi)}\sum_{i,j=1}^{\dim(\pi)}(\sqrt{\dim(\pi)}\pi_{i,i}\mid \sqrt{\dim(\pi)}\pi_{j,j})_2=1 $$ である。
- $(3)$ $(*)$ に対しPeter-Weylの定理2(定理4.13)より、$(\sqrt{\dim(\pi)}\pi_{i,j})_{i,j=1,\ldots,\dim(\pi)}$ は $\mathcal{E}([\pi])\subset L^2(G,\mu)$ のCONSであるから、Schatten形式(Hilbert空間上の作用素論の定義13.5)$L^2(G,\mu)\times L^2(G,\mu)\ni ([f],[g])\mapsto [f]\odot [g]\in \mathbb{B}(L^2(G,\mu))$ に対し、Hilbert空間上の作用素論の命題13.7の $(2)$ より、
$$ P_{[\pi]}={\rm dim}(\pi)\sum_{i,j=1}^{\dim(\pi)}\pi_{i,j}\odot \pi_{i,j} $$ が成り立つ。よって任意の $[f]\in L^2(G,\mu)$ に対し、 $$ \begin{aligned} P_{[\pi]}([f])(x)&=\dim(\pi)\sum_{i,j=1}^{\dim(\pi)}(\pi_{i,j}\mid [f])_2\pi_{i,j}(x)\\ &=\dim(\pi)\sum_{i,j=1}^{\dim(\pi)}\int_{G}f(y)(\pi(y)e_j\mid e_i)(e_i\mid \pi(x)e_j)d\mu(y)\\ &=\dim(\pi)\sum_{j=1}^{\dim(\pi)}\int_{G}f(y)(\pi(y)e_j\mid \pi(x)e_j)d\mu(y)\\ &=\dim(\pi)\int_{G}f(y)\sum_{j=1}^{\dim(\pi)}(e_j\mid \pi(y^{-1}x)e_j)d\mu(y)\\ &=\dim(\pi)\int_{G}f(y)\gamma_{[\pi]}(y^{-1}x)d\mu(y)\\ &=\dim(\pi)([f]*\gamma_{[\pi]})(x)\quad(\forall x\in G) \end{aligned} $$ となる。
- $(4)$ 任意の $[\pi]\in \widehat{G}$ に対し $\mathcal{H}_{\pi}$ は有限次元であるから $G\ni x\mapsto \pi(x)\in \mathbb{B}(\mathcal{H}_{\pi})$ は作用素ノルムで連続である。よって任意の $[f]\in ZL^2(G,\mu)\subset L^2(G,\mu)\subset L^1(G,\mu)$ に対し、Bochner積分
$$ \int_{G}f(y)\pi(y^{-1})d\mu(y)\in \mathbb{B}(\mathcal{H}_{\pi}) $$ が定義できる。$G$ はコンパクト群なのでユニモジュラーである(命題1.18)から、$\mu$ は右Haar測度でもある。このこととBochner積分の性質(測度と積分9:Bochner積分の命題44.2)と $f$ が類関数であることから、 $$ \begin{aligned} &\left(\int_{G}f(y)\pi(y^{-1})d\mu(y)\right)\pi(x)=\int_{G}f(y)\pi(y^{-1})\pi(x)d\mu(y) =\int_{G}f(y)\pi(y^{-1}x)d\mu(y)\\ &=\int_{G}f(xy)\pi(y^{-1})d\mu(y)=\int_{G}f(yx)\pi(y^{-1})d\mu(y)=\int_{G}f(y)\pi(xy^{-1})d\mu(y)\\ &=\int_{G}f(y)\pi(x)\pi(y^{-1})d\mu(y)=\pi(x)\left(\int_{G}f(y)\pi(y^{-1})d\mu(y)\right)\quad(\forall x\in G) \end{aligned} $$ となるので、 $$ \int_{G}f(y)\pi(y^{-1})d\mu(y)\in \mathcal{C}(\pi) $$ が成り立つ。よってSchurの補題(定理2.10)よりある $\alpha\in \mathbb{C}$ に対し、 $$ \int_{G}f(y)\pi(y^{-1})d\mu(y)=\alpha1\quad\quad(*) $$ となる。$(*)$ のトレースを取れば、 $$ \begin{aligned} &\alpha \dim(\pi)={\rm Tr}(\alpha1)={\rm Tr}\left(\int_{G}f(y)\pi(y^{-1})d\mu(y)\right) =\int_{G}f(y){\rm Tr}(\pi(y^{-1}))d\mu(y)\\ &=\sum_{j=1}^{\dim(\pi)}\int_{G}f(y)(e_j\mid \pi(y^{-1})e_j)d\mu(y) =\int_{G}f(y)\overline{\gamma_{[\pi]}(y)}d\mu(y)=(\gamma_{[\pi]}\mid [f])_2\quad\quad(**) \end{aligned} $$ となり、一方、$(3)$ と $(*)$ より、 $$ \begin{aligned} P_{[\pi]}([f])(x)&=\dim(\pi)([f]*\gamma_{[\pi]})(x)=\dim(\pi)\sum_{j=1}^{\dim(\pi)}\int_{G}f(y)(e_j\mid \pi(y^{-1}x)e_j)d\mu(y)\\ &=\dim(\pi)\sum_{j=1}^{\dim(\pi)}\left(e_j\mid \left(\int_{G}f(y)\pi(y^{-1})d\mu(y)\right)\pi(x)e_j\right)\\ &=\alpha \dim(\pi)\gamma_{[\pi]}(x)\quad(\forall x\in G)\quad\quad(***) \end{aligned} $$ となる。よって $(**),(***)$ より、 $$ P_{[\pi]}([f])=(\gamma_{[\pi]}\mid [f])_2\gamma_{[\pi]} $$ が成り立つ。
□定理4.17(Peter-Weylの定理3)
$G$ をコンパクト群、$\mu\colon \mathcal{B}_G\rightarrow [0,1]$ をHaar測度とする。このとき $G$ の指標全体 $\{\gamma_{[\pi]}\}_{[\pi]\in \widehat{G}}$ は $L^2$ 類関数空間 $ZL^2(G,\mu)$ のCONSである。
Proof.
命題4.16の $(1),(2)$ より $\{\gamma_{[\pi]}\}_{[\pi]\in \widehat{G}}$ は $ZL^2(G,\mu)$ のONSである。任意の $[\pi]\in \widehat{G}$ に対し $\mathcal{E}([\pi])\subset L^2(G,\mu)$(定義4.11)の上への射影作用素を $P_{[\pi]}\in \mathbb{B}(L^2(G,\mu))$ とおくと、Peter-Weylの定理2(定理4.13)より、 $$ [f]=\sum_{[\pi]\in \widehat{G}}P_{[\pi]}([f])\quad(\forall [f]\in L^2(G,\mu)) $$ が成り立つから、命題4.16の $(4)$ より、 $$ [f]=\sum_{[\pi]\in \widehat{G}}P_{[\pi]}([f])=\sum_{[\pi]\in \widehat{G}}(\gamma_{[\pi]}\mid [f])_2\gamma_{[\pi]}\quad(\forall [f]\in ZL^2(G,\mu)) $$ が成り立つ。よって $\{\gamma_{[\pi]}\}_{[\pi]\in \widehat{G}}$ は $ZL^2(G,\mu)$ のCONSである。
□系4.18
$G$ をコンパクト群、$\mu\colon \mathcal{B}_G\rightarrow [0,1]$ をHaar測度とする。このとき $ZL^2(G,\mu)$ において $ZC(G)$ は稠密である。
Proof.
定理4.17より $\{\gamma_{[\pi]}\}_{[\pi]\in \widehat{G}}$ は $ZL^2(G,\mu)$ のCONSであるから、${\rm span}\{\gamma_{[\pi]}\}_{[\pi]\in \widehat{G}}$ は $ZL^2(G,\mu)$ において稠密である。${\rm span}\{\gamma_{[\pi]}\}_{[\pi]\in \widehat{G}}\subset ZC(G)$ であるから、$ZL^2(G,\mu)$ において $ZC(G)$ は稠密である。
□定義4.19(単位表現)
$G$ を局所コンパクト群、$\pi$ を $G$ のユニタリ表現とする。$\pi(x)=1$ $(\forall x\in G)$ のとき $\pi$ を $G$ の単位表現と言う。
定理4.20(コンパクト群の等質空間の $L^2$ 空間上への正則表現に関するPeter-Weylの定理)
$G$ をコンパクト群、$\mu\colon \mathcal{B}_G\rightarrow [0,1]$ を $G$ のHaar測度、$S$ を $G$ の等質空間、$\nu\colon \mathcal{B}_S\rightarrow [0,\infty]$ を $G$-不変測度、$\rho\colon G\rightarrow \mathbb{U}(L^2(S,\nu))$ を正則表現(定義3.35)とする。任意の $s\in S$ を取り $s$ における固定部分群 $H_s=\{x\in G:xs=s\}$ を考える。そして $G$ の既約なユニタリ表現 $\pi$ に対し、 $$ \mathcal{H}_{\pi,s}\colon=\{v\in \mathcal{H}_{\pi}:\pi(x)v=v\text{ }(\forall x\in H_s)\},\quad \dim(\pi)'\colon=\dim(\mathcal{H}_{\pi,s}) $$ のCONSを $(e_1,\ldots,e_{\dim(\pi)'})$ とおき、これを延長して $\mathcal{H}_{\pi}$ のCONS $(e_1,\ldots,e_{\dim(\pi)'},\ldots,e_{\dim(\pi)})$ を構成し、これに関する行列成分を $\pi_{i,j}(x)=(e_i\mid \pi(x)e_j)$ $(\forall x\in G, \forall i,j\in \{1,\ldots,\dim(\pi)\})$ とする。そして任意の $j\in \{1,\ldots,\dim(\pi)'\}$, 任意の $v\in \mathcal{H}_{\pi}$ に対し、 $$ T^{\pi}_jv\in C(S),\quad T^{\pi}_jv(xs)\colon=(\pi(x)e_j\mid v)\quad(\forall xs\in S) $$ とおき[13]、線形作用素 $$ T^{\pi}_j\colon \mathcal{H}_{\pi}\ni v\mapsto T^{\pi}_jv\in C(S)\subset L^2(S,\nu) $$ を定義する。このとき、 $$ T^{\pi}_j\in C(\pi,\rho)\quad(j=1,\ldots,\dim(\pi)') $$ であり、$\rho$ の $[\pi]$ 成分(定義4.8)は直交和 $$ {\rm Ran}(T^{\pi}_1)\oplus \cdots \oplus {\rm Ran}(T^{\pi}_{\dim(\pi)'}) $$ で表され、$\rho$ における $[\pi]$ の重複度(定義4.10)は $\dim(\pi)'=\dim(\mathcal{H}_{\pi,s})$ である。
Proof.
$\mu_{H_s}\colon \mathcal{B}_{H_s}\rightarrow [0,1]$ を $H_s$ のHaar測度とし、補題3.22における非負性を保存する全射線形写像 $$ P\colon C(G)\rightarrow C(S),\quad Pf(xs)=\int_{H_s}f(xy)d\mu_{H_s}(y) $$ を考える。$\mu_{H_s}(H_s)=1$ なので、$P$ は $\sup$ ノルムに関して有界である。定理3.23の証明より(必要ならば $\nu$ を正数倍して)、 $$ \int_{S}Pf(t)d\nu(t)=\int_{G}f(x)d\mu(x)\quad(\forall f\in C(G))\quad\quad(*) $$ が成り立つ。 $$ H_s\ni x\mapsto \pi(x)\in \mathbb{U}(\mathcal{H}_{\pi})\quad\quad(**) $$ はコンパクト群 $H_s$ のユニタリ表現であり、$(**)$ の $\mathcal{H}_{\pi,s}\subset \mathcal{H}_{\pi}$ 上への制限は単位表現である。そして $\mathcal{H}_{\pi,s}^{\perp}={\rm span}\{e_{\dim(\pi)'+1},\ldots,e_{\dim(\pi)}\}\subset \mathcal{H}_{\pi}$ は $(**)$ の不変空間であり、$(**)$ の $\mathcal{H}_{\pi,s}^{\perp}$ への制限によって得られる $H_s$ のユニタリ表現は、$\mathcal{H}_{\pi,s}$ の定義より単位表現を部分表現として持たない。よって、$1$ 次元Hilbert空間への単位表現が既約であることに注意してPeter-Weylの定理(定理4.13)より、 $$ P\pi_{i,j}(xs)=\int_{H_s}(\pi(x^{-1})e_i\mid \pi(y)e_j)d\mu_{H_s}(y)=0\quad(\forall x\in G, \forall j\in \{\dim(\pi)'+1,\ldots,\dim(\pi)\}) $$ が成り立つ。また、 $$ P\pi_{i,j}(xs)=\int_{H_s}(e_i\mid \pi(x)\pi(y)e_j)d\mu_{H_s}(y)=\pi_{i,j}(x)=\overline{T^{\pi}_je_i(xs)}\quad(\forall x\in G, \forall j\in \{1,\ldots,\dim(\pi)'\}) $$ が成り立つ。よって $(*)$ とPeter-Weylの定理(定理4.12、定理4.13)より、 $$ C(S)=P(C(G))\subset \bigoplus_{[\pi]\in \widehat{G}}\left(\bigoplus_{j=1}^{\dim(\pi)'}{\rm Ran}(T^{\pi}_j)\right)\subset L^2(S,\nu) $$ が成り立ち、$C(S)$ は $L^2(S,\nu)$ において稠密である(測度と積分7:局所コンパクトHausdorff空間上のRadon測度の命題32.1)から、 $$ L^2(S,\nu)=\bigoplus_{[\pi]\in \widehat{G}}\left(\bigoplus_{j=1}^{\dim(\pi)'}{\rm Ran}(T^{\pi}_j)\right)\quad\quad(***) $$ が成り立つ。 $$ \rho(y)T^{\pi}_jv(xs)=(\pi(y^{-1}x)e_j\mid v)=(\pi(x)e_j\mid \pi(y)v) =T^{\pi}_j\pi(y)v(xs)\quad(\forall y\in G,\forall v\in \mathcal{H}_{\pi},\forall xs\in S) $$ であるから、$T^{\pi}_j\in \mathcal{C}(\pi,\rho|_{{\rm Ran}(T^{\pi}_j)})$ である。そして $T^{\pi}_je_j\neq 0$ より $T^{\pi}_j\neq 0$ であり、Schurの補題(定理2.10)より $\mathcal{C}(\pi)=\mathbb{C}1$ であるから、$T^{\pi}_j\colon \mathcal{H}_{\pi}\rightarrow {\rm Ran}(T^{\pi}_j)$ は有限次元Hilbert空間の間のユニタリ作用素のスカラー倍である。よって $\pi$ と $\rho|_{{\rm Ran}(T^{\pi}_j)}$ はユニタリ同値である。ゆえに $\rho$ における $[\pi]$ 成分を $\mathcal{K}([\pi])$ とおけば、 $$ \bigoplus_{j=1}^{\dim(\pi)'}{\rm Ran}(T^{\pi}_j)\subset \mathcal{K}([\pi])\quad\quad(****) $$ が成り立つ。ここで命題4.9の $(3)$ より、 $$ L^2(S,\nu)=\bigoplus_{[\pi]\in \widehat{G}}\mathcal{K}([\pi])\quad\quad(*****) $$ であるから、$(***), (****), (*****)$ より、 $$ \mathcal{K}([\pi])=\bigoplus_{j=1}^{\dim(\pi)'}{\rm Ran}(T^{\pi}_j) $$ が従う。$\pi$ と $\rho|_{{\rm Ran}(T^{\pi}_j)}$ はユニタリ同値なので、$\rho$ における $[\pi]$ の重複度は $\dim(\pi)'$ である。
□5. 局所コンパクト可換群におけるFourier変換、SNAGの定理、Bochnerの定理
命題5.1(局所コンパクト可換群の既約なユニタリ表現は $1$ 次元)
$G$ を局所コンパクト可換群、$\pi$ を $G$ のユニタリ表現とする。このとき次は互いに同値である。
- $(1)$ $\pi$ は既約である。
- $(2)$ $\pi$ は $1$ 次元である。
Proof.
$(2)\Rightarrow (1)$ は自明である。$(1)\Rightarrow(2)$ を示す。$\pi$ が既約であるとすると、Schurの補題(定理2.10)より $\mathcal{C}(\pi)=\mathbb{C}1$ であり、$G$ は可換であるから、任意の $x\in G$ に対し $\pi(x)\in \mathcal{C}(\pi)=\mathbb{C}1$ である。そして $\pi$ は既約であるから注意2.6より任意の $v\in \mathcal{H}_{\pi}\backslash \{0\}$ に対し $v$ は $\pi$ の巡回ベクトルである。よって $\mathcal{H}_{\pi}=\overline{{\rm span}(\pi(G)v)}=\mathbb{C}v$ であるから $\dim(\pi)=\dim(\mathcal{H}_{\pi})=1$ である。
□定義5.2(局所コンパクト可換群の指標群)
$G$ を局所コンパクト可換群とし、コンパクト可換乗法群 $\mathbb{T}\colon=\{z\in \mathbb{C}: \lvert z\rvert=1\}$ を考える。$\gamma\colon G\rightarrow \mathbb{T}$ が連続群準同型写像であるとき $\gamma$ を $G$ の指標と言う。この指標の定義はコンパクト群の指標の定義(定義4.15)と矛盾しない。実際、命題5.1より $G$ の任意の既約なユニタリ表現は $1$ 次元であるので、$G$の既約なユニタリ表現のトレースは $G\rightarrow \mathbb{T}$ の連続群準同型写像である。局所コンパクト可換群 $G$ の指標全体を $\widehat{G}$ と表す。$\widehat{G}$ は各点ごとの乗法により可換な乗法群をなす。またGelfand-Raikovの定理(定理2.41)より $\widehat{G}$ は $G$ を分離する。(すなわち $x,y\in G$ が $x\neq y$ ならば $\gamma(x)\neq \gamma(y)$ なる $\gamma\in \widehat{G}$ が存在する。)$\widehat{G}$ を $G$ の指標群と言う。次の定理5.3で見るように $\widehat{G}$ はコンパクト一様収束位相(定義2.38)により局所コンパクト可換群である。
$G$ を局所コンパクト可換群、$\mu\colon \mathcal{B}_G\rightarrow [0,\infty]$ を $G$ のHaar測度とする。このとき $L^1$ 群環 $L^1(G,\mu)$ は命題1.31より可換Banach環であり、したがって群 $C^*$-環 $C^*(G,\mu)$(定義2.20)は可換 $C^*$-環である。
定理5.3(局所コンパクト可換群の指標の性質)
$G$ を局所コンパクト可換群、$\mu\colon \mathcal{B}_G\rightarrow [0,\infty]$ を $G$ のHaar測度、$\mathcal{P}_1(G)$ を $G$ 上の $\sup$ ノルム $1$ の正定値連続関数全体のなす凸集合、${\rm ext}(\mathcal{P}_1(G))$ をその端点全体とする(定義2.36)。また $\widehat{G}$ を $G$ の指標群、$\widehat{L^1(G,\mu)}$ を可換Banach環 $L^1(G,\mu)$ の指標空間、$\widehat{C^*(G,\mu)}$ を可換 $C^*$-環 $C^*(G,\mu)$ の指標空間とする(Banach環とC*-環のスペクトル理論の定義5.1、定義5.6を参照)。このとき、
- $(1)$ $\widehat{G}={\rm ext}(\mathcal{P}_1(G))$ が成り立つ。
- $(2)$ 任意の $\gamma\in \widehat{G}$ に対し $\Phi_{\gamma}\colon L^1(G,\mu)\rightarrow\mathbb{C}$ を、
$$ \Phi_{\gamma}([f])\colon=\int_{G}f(x)\gamma(x)d\mu(x)\in \mathbb{C}\quad(\forall [f]\in L^1(G,\mu)) $$ とおけば、$\Phi_{\gamma}\in \widehat{L^1(G,\mu)}$ であり、 $$ \widehat{G}\ni \gamma\mapsto \Phi_{\gamma}\in \widehat{L^1(G,\mu)}\quad\quad(*) $$ はコンパクト一様収束位相(定義2.38)と弱 $*$-位相に関して同相写像である。
- $(3)$ 任意の $\gamma\in \widehat{G}$ に対し $(2)$ における $\Phi_{\gamma}\in \widehat{L^1(G,\mu)}$ は群 $C^*$-環 $C^*(G,\mu)$ の指標 $\widetilde{\Phi_{\gamma}}\in \widehat{C^*(G,\mu)}$ に一意拡張でき、
$$ \widehat{G}\ni \gamma\mapsto \widetilde{\Phi_{\gamma}}\in \widehat{C^*(G,\mu)} $$ はコンパクト一様収束位相と弱 $*$-位相に関して同相写像である。
- $(4)$ $\widehat{G}$ はコンパクト一様収束位相により局所コンパクト可換群であり、$G$ の第二可算性より $\widehat{G}$ は第二可算である。
Proof.
- $(1)$ 任意の $p\in {\rm ext}(\mathcal{P}_1(G))$ に対し $p$ のGNS表現(定義2.34)を $(\pi,v)$ とすれば定理2.37より $\pi$ は既約であるので、命題5.1より $\pi$ は $1$ 次元である。よって各 $x\in G$ に対し $\alpha_x\in \mathbb{T}$ で $\pi(x)=\alpha_x1$ なるものが定まり、
$$ p(x)=(v\mid \pi(x)v)=\alpha_x(v\mid v)=\alpha_x\lVert v\rVert^2=\alpha_x\in \mathbb{T}\quad(\forall x\in G) $$ であるから、 $$ p(xy)1=\alpha_{xy}1=\pi(xy)=\pi(x)\pi(y)=\alpha_x\alpha_y1=p(x)p(y)1\quad(\forall x,y\in G) $$ である。よって $p\in \widehat{G}$ である。また任意の $\gamma\in \widehat{G}$ に対し $\gamma$ は $G$ の $1$ 次元Hilbert空間 $\mathbb{C}$ 上へのユニタリ表現のトレースとみなせて $1$ 次元Hilbert空間上へのユニタリ表現は既約であるから、定理2.37より $\gamma\in {\rm ext}(\mathcal{P}_1(G))$ である。よって $\widehat{G}={\rm ext}(\mathcal{P}_1(G))$ が成り立つ。
- $(2)$ 任意の $\gamma\in \widehat{G}$ を取る。$\gamma$ を $G$ の $1$ 次元Hilbert空間 $\mathbb{C}$ 上へのユニタリ表現表現とみなせば、そのユニタリ表現の $L^1$ 群環の表現への拡張(定義2.18)は、
$$ L^1(G,\mu)\ni [f]\mapsto \int_{G}f(x)\gamma(x)d\mu(x)\in \mathbb{B}(\mathbb{C})=\mathbb{C} $$ であるから $\Phi_{\gamma}$ に一致する。よって $\Phi_{\gamma}\colon L^1(G,\mu)\rightarrow\mathbb{C}$ は乗法を保存する $0$ ではない線形汎関数であるから $\Phi_{\gamma}\in \widehat{L^1(G,\mu)}$ である。任意の $\Phi\in \widehat{L^1(G,\mu)}$ と $\Phi([f_0])\neq 0$ なる $[f_0]\in L^1(G,\mu)$ を取り固定し、 $$ \gamma(x)\colon=\frac{\Phi(L_x[f_0])}{\Phi([f_0])}\quad(\forall x\in G) $$ として $\gamma\colon G\rightarrow\mathbb{C}$ を定義する。命題1.19より $G\ni x\mapsto L_x[f_0]\in L^1(G,\mu)$ は連続であるので $\gamma$ は連続である。そして、 $$ \gamma(1)=1,\quad \gamma(x)\gamma(y)=\frac{\Phi(L_x[f_0]*L_y[f_0])}{\Phi([f_0])^2} =\frac{\Phi(L_{xy}[f_0]*[f_0])}{\Phi([f_0])^2}=\gamma(xy)\quad(\forall x,y\in G), $$ $$ \lvert \gamma(x)\rvert\leq \frac{\lVert [f_0]\rVert_1}{\lvert \Phi([f_0])\rvert}\quad(\forall x\in G) $$ であるので $\gamma(x)\in \mathbb{T}$ $(\forall x\in G)$ であり[14]$\gamma\colon G\rightarrow\mathbb{T}$ は群準同型写像である。よって $\gamma\in\widehat{G}$ である。そして合成積の定義(定義1.20)より、 $$ \begin{aligned} \Phi_{\gamma}([f])&=\int_{G}f(x)\gamma(x)d\mu(x)=\frac{1}{\Phi([f_0])}\int_{G}f(x)\Phi(L_x[f_0])d\mu(x)=\frac{1}{\Phi([f_0])}\Phi\left(\int_{G}f(x)L_x[f_0]d\mu(x)\right)\\ &=\frac{1}{\Phi([f_0])}\Phi([f]*[f_0])=\Phi([f])\quad(\forall [f]\in L^1(G,\mu)) \end{aligned} $$ であるから $\Phi=\Phi_{\gamma}$ である。よって $(*)$ は全射である。ゆえに $(1)$ と定理2.39より、$(*)$ はコンパクト一様収束位相と弱 $*$-位相に関して同相写像である。
- $(3)$ $(2)$ の証明の冒頭で述べたように、任意の $\gamma\in \widehat{G}$ に対し $\Phi_{\gamma}$ は $G$ の $1$ 次元Hilbert空間 $\mathbb{C}$ 上へのユニタリ表現としての $\gamma$ の $L^1(G,\mu)$ の表現への拡張である。よって命題2.23より $\Phi_{\gamma}$ は $C^*(G,\mu)$ の表現 $\widetilde{\Phi_{\gamma}}\colon C^*(G,\mu)\rightarrow\mathbb{C}$ に一意拡張でき、
$$ \widehat{L^1(G,\mu)}\ni\Phi_{\gamma}\mapsto \widetilde{\Phi_{\gamma}}\in \widehat{C^*(G,\mu)}\quad\quad(**) $$ は全単射である。よって $(2)$ より $(**)$ が同相写像であることを示せばよい。そのためには、ネットによる位相空間論の定理3より、$\widehat{G}$ のネット $(\gamma_{\lambda})_{\lambda\in\Lambda}$ と $\gamma\in \widehat{G}$ に対し、 $$ \Phi_{\gamma_{\lambda}}\rightarrow \Phi_{\gamma}\quad\Leftrightarrow\quad \widetilde{\Phi_{\gamma_{\lambda}}}\rightarrow \widetilde{\Phi_{\gamma}}\quad\quad(***) $$ が成り立つことを示せばよい。弱 $*$-位相に関する収束の特徴付け(位相線形空間2:セミノルム位相と汎弱位相の注意10.2)より、 $$ \Phi_{\gamma_{\lambda}}\rightarrow\Phi_{\gamma}\quad\Leftrightarrow\quad \Phi_{\gamma_{\lambda}}([f])\rightarrow\Phi_{\gamma}([f])\quad(\forall [f]\in L^1(G,\mu)), $$ $$ \widetilde{\Phi_{\gamma_{\lambda}}}\rightarrow\widetilde{\Phi_{\gamma}}\quad\Leftrightarrow\quad \widetilde{\Phi_{\gamma_{\lambda}}}(\omega)\rightarrow\widetilde{\Phi_{\gamma}}(\omega)\quad(\forall \omega\in C^*(G,\mu)) $$ であるから、$(***)$ の $\Leftarrow$ は明らかに成り立つ。$(***)$ の $\Rightarrow$ が成り立つことを示す。任意の $[f]\in L^1(G,\mu)$ に対し $\Phi_{\gamma_{\lambda}}([f])\rightarrow\Phi_{\gamma}([f])$ が成り立つと仮定して、任意の $\omega\in C^*(G,\mu)$ に対し $\widetilde{\Phi_{\gamma_{\lambda}}}(\omega)\rightarrow\widetilde{\Phi_{\gamma}}(\omega)$ が成り立つことを示せばよい。群 $C^*$-環の定義(定義2.20)より $(C^*(G,\mu),\lVert \cdot\rVert_*)$ において $L^1(G,\mu)$ は稠密であるから、任意の $\epsilon\in (0,\infty)$ に対し、 $$ \lVert \omega-[f]\rVert_*<\frac{\epsilon}{3} $$ なる $[f]\in L^1(G,\mu)$ が取れる。仮定より、 $$ \lvert \Phi_{\gamma_{\lambda}}([f])-\Phi_{\gamma}([f])\rvert<\frac{\epsilon}{3}\quad(\forall \lambda\geq \lambda_0) $$ なる $\lambda_0\in \Lambda$ が取れる。そして $\widehat{C^*(G,\mu)}$ の元は $(C^*(G,\mu),\lVert \cdot\rVert_*)$ のノルムが $1$ 以下の有界線形汎関数であるから、任意の $\lambda\geq\lambda_0$ に対し、 $$ \begin{aligned} \lvert \widetilde{\Phi_{\gamma_{\lambda}}}(\omega)-\widetilde{\Phi_{\gamma}}(\omega)\rvert&\leq \lvert \widetilde{\Phi_{\gamma_{\lambda}}}(\omega)-\Phi_{\gamma_{\lambda}}([f])\rvert+\lvert \Phi_{\gamma_{\lambda}}([f])-\Phi_{\gamma}([f])\rvert+\lvert \Phi_{\gamma}([f])-\widetilde{\Phi_{\gamma}}(\omega)\rvert\\ &\leq \lVert \omega-[f]\rVert_*+\lvert \Phi_{\gamma_{\lambda}}([f])-\Phi_{\gamma}([f])\rvert+\lVert [f]-\omega\rVert_*<\epsilon \end{aligned} $$ となる。よって $\widetilde{\Phi_{\gamma_{\lambda}}}(\omega)\rightarrow\widetilde{\Phi_{\gamma}}(\omega)$ が成り立つので、$(***)$ の $\Rightarrow$ が成り立つ。
- $(4)$ $\widehat{L^1(G,\mu)}$ は弱 $*$-位相により局所コンパクトHausdorff空間である(Banach環とC*-環のスペクトル理論の定義5.6を参照)。よって $(2)$ より $\widehat{G}$ はコンパクト一様収束位相により局所コンパクトHausdorff空間である。
$$ \widehat{G}\times \widehat{G}\ni (\gamma_1,\gamma_2)\mapsto \gamma_1\gamma_2\in \widehat{G},\quad \widehat{G}\ni \gamma\mapsto \gamma^{-1}\in \widehat{G} $$ がコンパクト一様収束位相で連続であることはネットによる位相空間論の定理3より明らかである。$G$ の第二可算性と測度と積分7:局所コンパクトHausdorff空間上のRadon測度の系35.7より $L^1(G,\mu)$ は可分である。よって $(L^1(G,\mu))^*_1=\{\Phi\in (L^1(G,\mu))^*:\lVert \Phi\rVert \leq 1\}$ は、次の補題5.4より、弱 $*$-位相により第二可算公理を満たす。ゆえに $\widehat{L^1(G,\mu)}\subset (L^1(G,\mu))^*_1$ も弱 $*$-位相により第二可算公理を満たすので、$(2)$ より $\widehat{G}$ はコンパクト一様収束位相により第二可算公理を満たす。
□補題5.4
$X$ を可分なノルム空間とすると、$X^*$ の単位ノルム閉球 $(X^*)_1=\{\varphi\in X^*:\lVert \varphi\rVert\leq1\}$ は弱 $*$-位相の相対位相により第二可算である。
Proof.
任意の $x\in X$ に対し、 $$ \iota_x\colon X^*\ni \varphi\mapsto \varphi(x)\in \mathbb{C} $$ とおく。$X$ の稠密な可算部分集合 $\{x_n\}_{n\in \mathbb{N}}$ を取り、$(\iota_{x_n}\colon X^*\rightarrow\mathbb{C})_{n\in\mathbb{N}}$ が定める $X^*$ 上の始位相(ネットによる位相空間論の定義7.1)を $\mathcal{O}$ とおく。$\mathbb{C}$ の開集合の可算基を $\{U_n\}_{n\in\mathbb{N}}$ とおけば、始位相の定義より、$(X^*,\mathcal{O})$ は開集合の基として、 $$ \{\iota_{x_1}^{-1}(U_{m_1})\cap \cdots\cap \iota_{x_n}^{-1}(U_{m_n}):n,m_1,\ldots,m_n\in \mathbb{N}\} $$ を持ち、これは可算集合なので、$(X^*,\mathcal{O})$ は第二可算である。よって $(X^*)_1$ は $\mathcal{O}$ の相対位相で第二可算である。これより弱 $*$-位相の $(X^*)_1$ 上の相対位相と $\mathcal{O}$ の $(X^*)_1$ 上の相対位相が一致することを示せばよい。そのためにはネットによる位相空間論の定理3より、$(X^*)_1$ のネット $(\varphi_{\lambda})_{\lambda\in\Lambda}$ と $\varphi\in (X^*)_1$ に対し、 $$ \text{弱 $*$-位相に関して $\varphi_{\lambda}\rightarrow\varphi$}\quad\Leftrightarrow\quad \text{$\mathcal{O}$ に関して $\varphi_{\lambda}\rightarrow\varphi$}\quad\quad(*) $$ が成り立つことを示せばよい。弱 $*$-位相に関する収束の特徴付け(位相線形空間2:セミノルム位相と汎弱位相の注意10.2)より、 $$ \text{弱 $*$-位相に関して $\varphi_{\lambda}\rightarrow\varphi$}\quad\Leftrightarrow\quad \text{任意の $x\in X$ に対し $\varphi_{\lambda}\rightarrow\varphi(x)$} $$ であり、始位相による収束の特徴付け(ネットによる位相空間論の命題7.2)より、 $$ \text{$\mathcal{O}$ に関して $\varphi_{\lambda}\rightarrow\varphi$}\quad\Leftrightarrow\quad \text{任意の $n\in \mathbb{N}$ に対し $\varphi_{\lambda}(x_n)\rightarrow\varphi(x_n)$} $$ である。よって $(*)$ の $\Rightarrow$ は明らかに成り立つ。$(*)$ の $\Leftarrow$ が成り立つことを示す。そのためには任意の $n\in \mathbb{N}$ に対し $\varphi_{\lambda}(x_n)\rightarrow \varphi(x_n)$ が成り立つと仮定して、任意の $x\in X$ に対し $\varphi_{\lambda}(x)\rightarrow\varphi(x)$ が成り立つことを示せばよい。任意の $x\in X$, 任意の $\epsilon\in (0,\infty)$ を取る。$\{x_n\}_{n\in \mathbb{N}}$ は $X$ で稠密であるから、 $$ \lVert x-x_n\rVert<\frac{\epsilon}{3} $$ なる $n\in \mathbb{N}$ が取れ、仮定より $\varphi_{\lambda}(x_n)\rightarrow\varphi(x_n)$ であるので、 $$ \lvert \varphi_{\lambda}(x_n)-\varphi(x_n)\rvert<\frac{\epsilon}{3}\quad(\forall \lambda\geq\lambda_0) $$ なる $\lambda_0\in \Lambda$ が取れる。ここで $\lVert \varphi_{\lambda}\rVert,\lVert \varphi\rVert\leq1$ $(\forall \lambda\in \Lambda)$ であるから、任意の $\lambda\geq\lambda_0$ に対し、 $$ \begin{aligned} \lvert \varphi_{\lambda}(x)-\varphi(x)\rvert&\leq \lvert \varphi_{\lambda}(x)-\varphi_{\lambda}(x_n)\rvert+\lvert \varphi_{\lambda}(x_n)-\varphi(x_n)\rvert+\lvert \varphi(x_n)-\varphi(x)\rvert\\ &\leq \lVert x-x_n\rVert+\frac{\epsilon}{3}+\lVert x_n-x\rVert<\epsilon \end{aligned} $$ となる。よって $\varphi_{\lambda}(x)\rightarrow\varphi(x)$ が成り立つので、$(*)$ の $\Leftarrow$ が成り立つ。
□定義5.5(局所コンパクト可換群の双対群)
$G$ を局所コンパクト可換群とする。定理5.3より $G$ の指標群 $\widehat{G}$ はコンパクト一様収束位相により局所コンパクト可換群である。局所コンパクト可換群 $H$ で $\widehat{G}$ と同相かつ群同型であるものを $G$ の双対群と言う。$H$ と $\widehat{G}$ の群同型同相写像は、一般論を論じる文脈においては、 $$ H\ni \gamma\mapsto \langle \cdot,\gamma\rangle \in \widehat{G} $$ によって表す。 $$ \langle\cdot,\cdot\rangle\colon G\times H\ni (x,\gamma)\mapsto \langle x,\gamma\rangle\in \mathbb{T} $$ を $G$ とその双対群 $H$ のペアリングと言う。さらに以後、$G$ の双対群は指標群と同じ記号 $\widehat{G}$ で表す。
命題5.6(局所コンパクト可換群の双対群の典型例)
局所コンパクト可換群 $\mathbb{R}^N$(加法群)、$\mathbb{T}^N$(乗法群、コンパクト群)、$\mathbb{Z}^N$(加法群、離散群)を考える。
- $(1)$ $\mathbb{R}^N$ はペアリング $\langle x,k\rangle=e^{-ik\cdot x}$ $(\forall x,k\in \mathbb{R}^N)$ により $\mathbb{R}^N$ 自身を双対群として持つ。
- $(2)$ $\mathbb{T}^N$ はペアリング $\langle z,n\rangle=z^n=z_1^{n_1}\cdots z_N^{n_N}$ $(\forall z\in \mathbb{T}^N,\forall n\in \mathbb{Z}^N)$ により $\mathbb{Z}^N$ を双対群として持つ。
- $(3)$ $\mathbb{Z}^N$ はペアリング $\langle n,z\rangle =z^n=z_1^{n_1}\cdots z_N^{n_N}$ $(\forall n\in \mathbb{Z}^N,\forall z\in \mathbb{T}^N)$ により $\mathbb{T}^N$ を双対群として持つ。
Proof.
- $(1)$ $\langle x,k\rangle=e^{-ik\cdot x}$ $(\forall x,k\in \mathbb{R}^N)$ とおけば、
$$ \mathbb{R}^N\ni k\mapsto \langle \cdot,k\rangle\in \widehat{\mathbb{R}^N}\quad\quad(*) $$ は明らかに単射連続群準同型写像である。$(*)$ が全射であることを示す。$N=1$ として示せば十分である。$\gamma\in \widehat{\mathbb{R}}$ とすると $\gamma(0)=1$ であるから $0\in \mathbb{R}$ に十分近い $a\in \mathbb{R}$ を取れば、 $$ \alpha\colon=\int_{0}^{a}\gamma(s)ds\neq0 $$ である。 $$ \alpha\gamma(t)=\int_{0}^{a}\gamma(s+t)ds=\int_{0}^{a+t}\gamma(s)ds-\int_{0}^{t}\gamma(s)ds\quad(\forall t\in \mathbb{R}) $$ であるので、 $$ \alpha\frac{d\gamma}{dt}(t)=\gamma(a+t)-\gamma(t)=(\gamma(a)-1)\gamma(t)\quad(\forall t\in \mathbb{R}) $$ である。よって $\beta\colon =\alpha^{-1}(\gamma(a)-1)\in \mathbb{C}$ とおけば、 $$ \frac{d\gamma}{dt}(t)=\beta\gamma(t)\quad(\forall t\in \mathbb{R}) $$ であるので、 $$ \frac{d}{dt}(e^{-\beta t}\gamma(t))=0 $$ である。よって微積分学の基本定理より、 $$ e^{-\beta t}\gamma(t)=\gamma(0)=1\quad(\forall t\in \mathbb{R}) $$ であるから、 $$ \gamma(t)=e^{\beta t}\quad(\forall t\in \mathbb{R}) $$ である。 $$ \lvert e^{\beta }\rvert=\lvert \gamma(1)\rvert=1 $$ よりある $k\in \mathbb{R}$ に対し $\beta=-ik$ と表せる。よって $\gamma(t)=e^{-ikt}$ $(\forall t\in \mathbb{R})$ であるから $(*)$ は全射である。ゆえに $(*)$ は連続群同型写像であるので、系3.15より $(*)$ は同相写像である。
- $(2)$ $\langle z,n\rangle=z_1^{n_1}\cdots z_N^{n_N}$ $(\forall z\in \mathbb{T}^N,\forall n\in \mathbb{Z}^N)$ とおくと、
$$ \mathbb{Z}^N\ni n\mapsto \langle \cdot, n\rangle \in \widehat{\mathbb{T}^N}\quad\quad(**) $$ は明らかに単射連続群準同型写像である(連続性は $\mathbb{Z}^N$ が離散群であることから自明である)。$(**)$ が全射であることを示す。$N=1$ であるとして示せば十分である。$\gamma\in \widehat{\mathbb{T}}$ とすると、 $$ \mathbb{R}\ni x\mapsto \gamma(e^{ix})\in \mathbb{T} $$ は $\widehat{\mathbb{R}}$ に属すから、$(1)$ よりある $n\in \mathbb{R}$ に対し、 $$ \gamma(e^{ix})=e^{inx}\quad(\forall x\in \mathbb{R}) $$ が成り立つ。 $$ 1=\gamma(e^{i2\pi})=e^{in 2\pi} $$ であるから、$n\in \mathbb{Z}$ であり、 $$ \gamma(e^{ix})=e^{inx}=(e^{ix})^n\quad(\forall x\in \mathbb{R}) $$ であるので、$\gamma(z)=z^n$ $(\forall z\in \mathbb{T})$ である。ゆえに $(**)$ は全射である。よって $(**)$ は連続群同型写像であるので系3.15より $(**)$ は同相写像である。
- $(3)$ $\langle n,z\rangle=z^n=z_1^{n_1}\cdots z_N^{n_N}$ $(\forall z\in \mathbb{T}^N,\forall n\in \mathbb{Z}^N)$ とおくと、
$$ \mathbb{T}^N\ni z\mapsto \langle \cdot,z\rangle\in \widehat{\mathbb{Z}^N}\quad\quad(***) $$ は明らかに連続群同型写像であるので、系3.15より $(***)$ は同相写像である。
□定理5.7(局所コンパクト可換群のFourier変換)
$G$ を局所コンパクト可換群、$\mu\colon \mathcal{B}_G\rightarrow [0,\infty]$ を $G$ のHaar測度とし、$\widehat{G}$ を $G$ の双対群、$C^*(G,\mu)$ を $G$ の群 $C^*$-環(定義2.20)とする。このとき 等長$*$-環同型写像 $$ \mathcal{F}\colon C^*(G,\mu)\rightarrow C_0(\widehat{G}) $$ で、 $$ \mathcal{F}[f](\gamma)=\int_{G}f(x)\langle x,\gamma\rangle d\mu(x)\quad(\forall [f]\in L^1(G,\mu),\forall \gamma\in \widehat{G}) $$ を満たすものが唯一つ存在する。$\mathcal{F}$ を局所コンパクト可換群 $G$ におけるFourier変換と言う。[15]
Proof.
Banach環とC*-環のスペクトル理論の定理5.9より可換 $C^*$-環 $C^*(G,\mu)$ のGelfand変換 $$ \Gamma\colon C^*(G,\mu)\rightarrow C_0(\widehat{C^*(G,\mu)})\quad\quad(*) $$ は 等長$*$-環同型写像である。また定理5.3の $(3)$ より、 $$ \tau\colon \widehat{G}\ni \gamma\mapsto \widetilde{\Phi_{\gamma}}\in \widehat{C^*(G,\mu)} $$ は同相写像であるから、 $$ \mathcal{T}\colon C_0(\widehat{C^*(G,\mu)})\ni h\mapsto h\circ \tau\in C_0(\widehat{G})\quad\quad(**) $$ は等長$*$-環同型写像である。よって $(*),(**)$ の合成 $$ \mathcal{F}\colon=\mathcal{T}\circ\Gamma\colon C^*(G,\mu)\rightarrow C_0(\widehat{G}) $$ は等長$*$-環同型写像である。そして任意の $[f]\in L^1(G,\mu)\subset C^*(G,\mu)$, $\gamma\in \widehat{G}$ に対し、 $$ \mathcal{F}([f])(\gamma)=\mathcal{T}(\Gamma([f]))(\gamma)=\Gamma([f])(\tau(\gamma)) =\Gamma([f])(\widetilde{\Phi_{\gamma}})=\Phi_{\gamma}([f])=\int_{G}f(x)\gamma(x)d\mu(x) $$ である。よって存在が示せた。一意性は $C^*(G,\mu)$ において $L^1(G,\mu)$ が稠密であることによる。
□系5.8($\mathcal{F}(L^1(G,\mu))$ は $C_0(\widehat{G})$ の稠密な部分 $*$-環)
$G$ を局所コンパクト可換群、$\mu\colon \mathcal{B}_G\rightarrow [0,\infty]$ を $G$ のHaar測度、$\widehat{G}$ を $G$ の双対群、$\mathcal{F}\colon C^*(G,\mu)\rightarrow C_0(\widehat{G})$ を $G$ におけるFourier変換とする。このとき $\mathcal{F}(L^1(G,\mu))$ は $C_0(\widehat{G})$ の稠密な部分 $*$-環である。
Proof.
群 $C^*$-環 $C^*(G,\mu)$ の定義(定義2.20)より $L^1(G,\mu)$ は $C^*(G,\mu)$ の稠密な部分 $*$-環である。そして $\mathcal{F}\colon C^*(G,\mu)\rightarrow C_0(\widehat{G})$ は等長$*$-環同型写像であるから、$\mathcal{F}(L^1(G,\mu))$ は $C_0(\widehat{G})=\mathcal{F}(C^*(G,\mu))$ の稠密な部分 $*$-環である。
□命題5.9(Fourier変換の基本性質)
$G$ を局所コンパクト可換群、$\mu\colon \mathcal{B}_G\rightarrow [0,\infty]$ を $G$ のHaar測度、$\widehat{G}$ を $G$ の双対群、$\mathcal{F}\colon C^*(G,\mu)\rightarrow C_0(\widehat{G})$ を $G$ におけるFourier変換とする。このとき、
- $(1)$ 任意の $x\in G$ と任意の $[f]\in L^1(G,\mu)$ に対し、
$$ \mathcal{F}(L_x[f])(\gamma)=\langle x,\gamma\rangle \mathcal{F}([f])(\gamma)\quad(\forall \gamma\in \widehat{G}) $$ が成り立つ。
- $(2)$ $(\varphi_n)_{n\in \mathbb{N}}$ を定理1.25における $L^1(G,\mu)$ の近似単位元とすると、
$$ \lim_{n\rightarrow\infty}\mathcal{F}(L_x\varphi_n)(\gamma)=\langle x,\gamma\rangle\quad(\forall x\in G,\forall \gamma\in \widehat{G}) $$ が成り立つ。
Proof.
- $(1)$ Haar測度による積分の不変性より、
$$ \begin{aligned} &\mathcal{F}(L_x[f])(\gamma)=\int_{G}f(x^{-1}y)\langle y,\gamma\rangle d\mu(y) =\int_{G}f(y)\langle xy,\gamma\rangle d\mu(y)\\ &=\langle x,\gamma\rangle\int_{G}f(y)\langle y,\gamma\rangle d\mu(y) =\langle x,\gamma\rangle(\mathcal{F}[f])(\gamma). \end{aligned} $$
- $(2)$ $(1)$ より $x=1\in G$ の場合を示せば十分である。$G\ni y\mapsto \langle y,\gamma\rangle\in \mathbb{T}$ の $1\in G$ における連続性より、
$$ \begin{aligned} \lvert (\mathcal{F}\varphi_n)(\gamma)-1\rvert&=\left\lvert\int_{G}\varphi_n(y)\langle y,\gamma\rangle d\mu(y)-\int_{G}\varphi_n(y)d\mu(y)\right\rvert =\left\lvert\int_{G}\varphi_n(y)(\langle y,\gamma\rangle -1)d\mu(y)\right\rvert\\ &\leq \int_{G}\varphi_n(y)\lvert \langle y,\gamma\rangle -1\rvert d\mu(y)\rightarrow0\quad(n\rightarrow\infty). \end{aligned} $$
□定理5.10(コンパクト可換群のFourier変換(Plancherelの定理))
$G$ をコンパクト可換群、$\mu\colon \mathcal{B}_G\rightarrow [0,1]$ をHaar測度($\mu(G)=1$)、$\widehat{G}$ を $G$ の双対群とする。このとき $\{\langle \cdot,\gamma\rangle:\gamma\in \widehat{G}\}$ はHilbert空間 $L^2(G,\mu)$ のCONSである。そしてFourier変換 $\mathcal{F}\colon L^1(G,\mu)\rightarrow C_0(\widehat{G})$ を $L^2(G,\mu)\subset L^1(G,\mu)$ に制限したものはHilbert空間 $L^2(G,\mu)$ からHilbert空間 $\ell^2(\widehat{G})$ へのユニタリ作用素である。さらに双対群 $\widehat{G}$ は離散群である。
Proof.
定義5.2で述べたように $G$ の局所コンパクト可換群としての指標はコンパクト群としての指標(定義4.15)と同じである。$G$ は可換であるから $G$ 上の任意の関数は類関数(定義4.14)であるので、Peter-Weylの定理3(定理4.17)より、$\{\langle\cdot,\gamma\rangle:\gamma\in \widehat{G}\}$ は $L^2(G,\mu)$ のCONSである。よって任意の $[f]\in L^2(G,\mu)$ に対し、 $$ [f]=\sum_{\gamma\in \widehat{G}}\left(\int_{G}f(x)\overline{\langle x,\gamma\rangle}d\mu(x)\right)\langle\cdot,\gamma\rangle=\sum_{\gamma\in\widehat{G}}\overline{\mathcal{F}([\overline{f}])(\gamma)}\langle \cdot,\gamma\rangle $$ であるから、測度と積分6:数え上げ測度と $\ell^p$ 空間の系25.8より、 $$ L^2(G,\mu)\ni [f]\mapsto (\overline{\mathcal{F}([\overline{f}])(\gamma)})_{\gamma\in \widehat{G}}\in \ell^2(\widehat{G}) $$ はユニタリ作用素である。よって、 $$ \ell^2(\widehat{G})=\overline{\mathcal{F}(L^2(G,\mu))}\subset \overline{\mathcal{F}(L^1(G,\mu))}\subset C_0(\widehat{G}) $$ であるから、任意の $\gamma\in \widehat{G}$ に対し $\chi_{\{\gamma\}}\in \ell^2(\widehat{G})\subset C_0(\widehat{G})$ なので、$\{\gamma\}=(\chi_{\{\gamma\}}>0)$ は $\widehat{G}$ の開集合である。よって局所コンパクト群 $\widehat{G}$ の位相は離散位相なので $\widehat{G}$ は離散群である。
□定理5.11(SNAGの定理)
$G$ を局所コンパクト可換群、$\widehat{G}$ を $G$ の双対群とする。このとき $G$ の任意のユニタリ表現 $\pi\colon G\rightarrow \mathbb{U}(\mathcal{H}_{\pi})$ に対し、射影値測度 $E_{\pi}\colon \mathcal{B}_{\widehat{G}}\rightarrow \mathbb{P}(\mathcal{H}_{\pi})$ [16] で、 $$ \pi(x)=\int_{\widehat{G}}\langle x,\gamma\rangle dE_{\pi}(\gamma)\quad(\forall x\in G)\quad\quad(*) $$ を満たすものが唯一つ存在する。そして $\mu\colon \mathcal{B}_G\rightarrow [0,\infty]$ を $G$ のHaar測度、$\mathcal{F}\colon C^*(G,\mu)\rightarrow C_0(\widehat{G})$ をFourier変換とすると、 $$ \pi([f])=\int_{\widehat{G}}\mathcal{F}([f])(\gamma)dE_{\pi}(\gamma)\quad(\forall [f]\in L^1(G,\mu)) $$ が成り立つ。
Proof.
$G$ のユニタリ表現 $\pi$ の $C^*(G,\mu)$ の表現への拡張(命題2.23、定義2.24を参照)もそのまま $\pi\colon C^*(G,\mu)\rightarrow \mathbb{B}(\mathcal{H}_{\pi})$ と表す。Fourier変換 $\mathcal{F}\colon C^*(G,\mu)\rightarrow C_0(\widehat{G})$ は 等長$*$-環同型写像であるから、
$$
\pi\circ\mathcal{F}^{-1}\colon C_0(\widehat{G})\rightarrow \mathbb{B}(\mathcal{H}_{\pi})
$$
なる $*$-環準同型写像が定義でき、
$$
(\pi\circ\mathcal{F}^{-1})(C_0(\widehat{G}))\mathcal{H}_{\pi}=
\pi(C^*(G,\mu))\mathcal{H}_{\pi}={\rm span}\{\pi(\omega)v:\omega\in C^*(G,\mu),v\in \mathcal{H}_{\pi}\}
$$
は $\mathcal{H}_{\pi}$ で稠密である。よって射影値測度版のRiesz-Markov-角谷の表現定理(Hilbert空間上の作用素論の定理7.3)より、射影値測度 $E_{\pi}\colon \mathcal{B}_{\widehat{G}}\rightarrow \mathbb{P}(\mathcal{H}_{\pi})$ で、
$$
(\pi\circ\mathcal{F}^{-1})(h)=\int_{\widehat{G}}h(\gamma)dE_{\pi}(\gamma)\quad(\forall h\in C_0(\widehat{G}))
$$
を満たすものが存在する。これより、
$$
\pi([f])=\int_{\widehat{G}}\mathcal{F}([f])(\gamma)dE_{\pi}(\gamma)\quad(\forall [f]\in L^1(G,\mu))\quad\quad(**)
$$
が成り立つ。定理1.25における $L^1(G,\mu)$ の近似単位元 $(\varphi_n)_{n\in \mathbb{N}}$ を取ると、注意2.15と命題2.16より、
$$
\pi(x)=\text{SOT-}\lim_{n\rightarrow\infty}\pi(L_x\varphi_n)\quad(\forall x\in G)\quad\quad(***)
$$
である。また命題5.9とLebesgue優収束定理より、任意の$x\in G$と$v\in {\cal H}_{\pi}$に対し、
$$
\begin{aligned}
&\left\lVert \left(\int_{\widehat{G}}\mathcal{F}(L_x\varphi_n)(\gamma)dE_{\pi}(\gamma)\right)v-\left(\int_{\widehat{G}}\langle x,\gamma\rangle dE_{\pi}(\gamma)\right)v\right\rVert^2\\
&=\int_{\widehat{G}}\lvert \mathcal{F}(L_x\varphi_n)(\gamma)-\langle x,\gamma\rangle \rvert^2dE_{\pi,v,v}(\gamma)\\
&\rightarrow0\quad(n\rightarrow\infty)
\end{aligned}
$$
であるから、
$$
\int_{\widehat{G}}\langle x,\gamma\rangle dE_{\pi}(\gamma)=\text{SOT-}\lim_{n\rightarrow\infty}\int_{\widehat{G}}\mathcal{F}(L_x\varphi_n)(\gamma)dE_{\pi}(\gamma)\quad(\forall x\in G)
$$
である。よって $(**)$ より、
$$
\int_{\widehat{G}}\langle x,\gamma\rangle dE_{\pi}(\gamma)=\text{SOT-}\lim_{n\rightarrow\infty}\pi(L_x\varphi_n)\quad(\forall x\in G)
$$
が成り立つ。これと $(***)$ より、
$$
\pi(x)=\int_{\widehat{G}}\langle x,\gamma\rangle dE_{\pi}(\gamma)\quad(\forall x\in G)
$$
を得る。これで $(*)$ を満たす射影値測度 $E_{\pi}\colon \mathcal{B}_{\widehat{G}}\rightarrow \mathbb{P}(\mathcal{H}_{\pi})$ の存在が示せた。
一意性を示す。射影値測度 $E\colon \mathcal{B}_{\widehat{G}}\rightarrow \mathbb{P}(\mathcal{H}_{\pi})$ が $(*)$ を満たすならば、任意の $[f]\in L^1(G,\mu)$ と任意の $v\in \mathcal{H}_{\pi}$ に対し、Fubiniの定理より、
$$
\begin{aligned}
(v\mid \pi([f])v)&=\int_{G}f(x)(v\mid \pi(x)v)d\mu(x)=\int_{G}f(x)\left(\int_{\widehat{G}}\langle x,\gamma\rangle dE_{v,v}(\gamma)\right)d\mu(x)\\
&=\int_{\widehat{G}}\left(\int_{G}f(x)\langle x,\gamma\rangle d\mu(x)\right)dE(\gamma)
=\int_{\widehat{G}}\mathcal{F}([f])(\gamma)dE_{v,v}(\gamma)\\
&=\left(v\mid \left(\int_{\widehat{G}}\mathcal{F}([f])(\gamma)dE(\gamma)\right)v\right)
\end{aligned}
$$
となる。よって偏極恒等式より、
$$
\pi([f])=\int_{\widehat{G}}\mathcal{F}([f])(\gamma)dE(\gamma)\quad(\forall [f]\in L^1(G,\mu))
$$
が成り立つ。これより $2$ つの射影値測度 $E_1,E_2\colon \mathcal{B}_{\widehat{G}}\rightarrow \mathbb{P}(\mathcal{H}_{\pi})$ がそれぞれ $(*)$ を満たすならば、
$$
\int_{\widehat{G}}\mathcal{F}([f])(\gamma)dE_1(\gamma)=\pi([f])=\int_{\widehat{G}}\mathcal{F}([f])(\gamma)dE_2(\gamma)
$$
が成り立ち、系5.8より $\mathcal{F}(L^1(G,\mu))$ は $C_0(\widehat{G})$ において稠密であるので、
$$
\int_{\widehat{G}}h(\gamma)dE_1(\gamma)=\int_{\widehat{G}}h(\gamma)dE_2(\gamma)\quad(\forall h\in C_0(\widehat{G}))\quad\quad(****)
$$
が成り立つ。ここで $\widehat{G}$ は第二可算公理を満たす(定理5.3の $(4)$ を参照)ので、Hilbert空間上の作用素論の注意7.2より $E_1,E_2$ は自動的にRadon射影値測度であるから、$(****)$ とRiesz-Markov-角谷の表現定理(測度と積分7:局所コンパクトHausdorff空間上のRadon測度の定理30.4)より $E_1=E_2$ が成り立つ。これで一意性が示せた。
系5.12(Stoneの定理)
$\mathbb{R}$ の任意のユニタリ表現 $\pi$ に対し $\mathcal{H}_{\pi}$ 上の自己共役作用素 $T$ で、 $$ \pi(x)=e^{ixT}\quad(\forall x\in \mathbb{R}) $$ を満たすものが唯一つ存在する。
Proof.
SNAGの定理(定理5.11)と命題5.6の $(1)$ より、射影値測度 $E\colon \mathcal{B}_{\mathbb{R}}\rightarrow \mathbb{P}(\mathcal{H}_{\pi})$ で、 $$ \pi(x)=\int_{\mathbb{R}}e^{ix\lambda}dE(\lambda)\quad(\forall x\in \mathbb{R}) $$ を満たすものが存在する。 $$ T\colon=\int_{\mathbb{R}}\lambda dE(\lambda)\quad\quad(*) $$ とおくと、Hilbert空間上の作用素論の命題6.8の $(2)$ より $T$ は $\mathcal{H}_{\pi}$ 上の自己共役作用素であり、Hilbert空間上の作用素論の命題8.6より、 $$ e^{ixT}=\int_{\mathbb{R}}e^{ix\lambda}dE(\lambda)=\pi(x)\quad(\forall x\in \mathbb{R}) $$ である。よって存在が示せた。一意性を示す。自己共役作用素 $S$ が $\pi(x)=e^{ixS}$ $(\forall x\in \mathbb{R})$ を満たすとすると、$(*)$ における自己共役作用素 $T$ に対し、 $$ e^{ixT}=\pi(x)=e^{ixS}\quad(\forall x\in \mathbb{R}) $$ であるから、Hilbert空間上の作用素論の補題21.3より $T=S$ である。よって一意性が示せた。
□定義5.13(自己共役作用素の強可換性)
$\mathcal{H}$ をHilbert空間、$S,T$ を $\mathcal{H}$ 上の自己共役作用素とする。 $$ e^{isS}e^{itT}=e^{itT}e^{isS}\quad(\forall s,t\in \mathbb{R}) $$ が成り立つとき、$S,T$ は互いに強可換であると言う。
定理5.14(強可換な自己共役作用素の組に対する結合スペクトル測度)
$\mathcal{H}$ をHilbert空間、$T\colon=(T_1,\ldots,T_N)$ を互いに強可換な自己共役作用素の組とする。そして $T_j$ のスペクトル測度(Hilbert空間上の作用素論の定義8.4)を $E^{T_j}\colon \mathcal{B}_{\sigma(T_j)}\rightarrow \mathbb{P}(\mathcal{H})$ $(j=1,\ldots,N)$ とする。このとき射影値測度 $$ E^T\colon \mathcal{B}_{\sigma(T_1)\times \cdots\times \sigma(T_N)}\rightarrow \mathbb{P}(\mathcal{H}) $$ で、 $$ E^T(B_1\times \cdots\times B_N)=E^{T_1}(B_1)\cdots E^{T_N}(B_N)\quad(\forall B_1\in \mathcal{B}_{\sigma(T_1)},\ldots,\forall B_N\in \mathcal{B}_{\sigma(T_N)}) $$ を満たすものが唯一つ存在する。
Proof.
任意の $j\in \{1,\ldots,N\}$ に対し、$\mathbb{R}\ni t\mapsto e^{itT_j}\in \mathbb{U}({\cal H})$ は群準同型写像である。そして任意の $v\in {\cal H}$ に対し、Lebesgue優収束定理より、 $$ \lVert e^{itT_j}v-e^{isT_j}v\rVert^2=\left\lVert \left(\int_{\sigma(T_j)}(e^{it\lambda}-e^{is\lambda})dE^{T_j}(\lambda)\right)v\right\rVert^2 =\int_{\sigma(T_j)}\lvert e^{it\lambda}-e^{is\lambda}\rvert^2dE^{T_j}_{v,v}(\lambda)\rightarrow0\quad(t\rightarrow s) $$ であるから、$\mathbb{R}\ni t\mapsto e^{itT_j}\in \mathbb{U}({\cal H})$ はSOT連続な群準同型写像である。よって強可換性より、 $$ \mathbb{R}^N\ni (x_1,\ldots,x_N)\mapsto e^{ix_1T_1}\cdots e^{ix_NT_N}\in \mathbb{U}(\mathcal{H}) $$ はSOT連続な群準同型写像であるから、局所コンパクト可換群 $\mathbb{R}^N$ の ${\cal H}$ 上へのユニタリ表現である。よってSNAGの定理(定理5.11)と命題5.6の $(1)$ より、射影値測度 $E\colon \mathcal{B}_{\mathbb{R}^N}\rightarrow \mathbb{P}(\mathcal{H})$ で、 $$ e^{ix_1T_1}\cdots e^{ix_NT_N}=\int_{\mathbb{R}^N}e^{ix_1\lambda_1}\cdots e^{ix_N\lambda_N}dE(\lambda_1,\ldots,\lambda_N)\quad(\forall (x_1,\ldots,x_N)\in \mathbb{R}^N) $$ を満たすものが唯一つ存在する。各 $j\in \{1,\ldots,N\}$ に対し、 $$ \pi_j\colon \mathbb{R}^N\ni (x_1,\ldots,x_N)\mapsto x_j\in \mathbb{R} $$ とおき、射影値測度 $E_j\colon \mathcal{B}_{\mathbb{R}}\rightarrow \mathbb{P}(\mathcal{H})$ を、 $$ E_j(B)\colon=E(\pi_j^{-1}(B))\quad(\forall B\in \mathcal{B}_{\mathbb{R}}) $$ として定義すると、単関数近似より、 $$ \int_{\mathbb{R}}e^{ix\lambda}dE_j(\lambda)=\int_{\mathbb{R}^N}e^{ix\lambda_j}dE(\lambda_1,\ldots,\lambda_N)=e^{ixT_j}=\int_{\sigma(T_j)}e^{ix\lambda}dE^{T_j}(\lambda)\quad(\forall x\in \mathbb{R}) $$ である。よって $\mathbb{R}$ のユニタリ表現 $\mathbb{R}\ni x\mapsto e^{ixT_j}\in \mathbb{U}({\cal H})$ に対し、射影値測度$E_j:{\cal B}_{\mathbb{R}}\rightarrow \mathbb{P}({\cal H})$ と射影値測度 ${\cal B}_{\mathbb{R}}\ni B\mapsto E^{T_j}(B\cap \sigma(T_j))\in \mathbb{P}({\cal H})$ がSNAGの定理(定理5.11)の条件を満たすので、SNAGの定理の一意性より、 $$ E_j(B)=E^{T_j}(B\cap \sigma(T_j))\quad(\forall B\in\mathcal{B}_{\mathbb{R}}) $$ が成り立つ。よって、 $$ \begin{aligned} &E(B_1\times \cdots\times B_N)=E(\pi_1^{-1}(B_1)\cap\cdots\cap\pi_N^{-1}(B_N))=E_1(B_1)\cdots E_N(B_N)\\ &=E^{T_1}(B_1\cap \sigma(T_1))\cdots E^{T_N}(B_N\cap \sigma(T_N))\quad(\forall B_1,\ldots,B_N\in \mathcal{B}_{\mathbb{R}}) \end{aligned} $$ が成り立つ。これより、 $$ E(\sigma(T_1)\times \cdots\times \sigma(T_N))=E^{T_1}(\sigma(T_1))\cdots E^{T_N}(\sigma(T_N))=1 $$ であるから、$E$ を $\mathcal{B}_{\sigma(T_1)\times \cdots\times \sigma(T_N)}$ 上に制限したものは射影値測度であり、それを $E^T\colon \mathcal{B}_{\sigma(T_1)\times \cdots\times \sigma(T_N)}\rightarrow \mathbb{P}(\mathcal{H})$ と表すと、 $$ E^T(B_1\times \cdots\times B_N)=E(B_1\times \cdots\times B_N)=E^{T_1}(B_1)\cdots E^{T_N}(B_N)\quad(\forall B_1\in \mathcal{B}_{\sigma(T_1)},\ldots,B_N\in \mathcal{B}_{\sigma(T_N)}) $$ である。これで存在が示せた。一意性は $\sigma$-加法族 $\mathcal{B}_{\sigma(T_1)\times \cdots \times \sigma(T_N)}=\mathcal{B}_{\sigma(T_1)}\otimes\cdots\otimes \mathcal{B}_{\sigma(T_N)}$(測度と積分1:測度論の基礎用語の命題2.7)が半集合代数(測度と積分3:測度論の基本定理(1)の定義12.1) $$ \mathcal{B}_{\sigma(T_1)}\times \cdots\times \mathcal{B}_{\sigma(T_N)}=\{B_1\times\cdots\times B_N:B_1\in \mathcal{B}_{\sigma(T_1)},\ldots, B_N\in \mathcal{B}_{\sigma(T_N)}\} $$ によって生成されることと、測度と積分3:測度論の基本定理(1)の命題12.7と定理12.8(単調族定理)による。
□定義5.15(結合スペクトル測度とそれによる積分の定義)
$\mathcal{H}$ をHilbert空間、$T\colon =(T_1,\ldots,T_N)$ を互いに強可換な自己共役作用素の組とし、$T_j$ のスペクトル測度を $E^{T_j}\colon \mathcal{B}_{\sigma(T_j)}\rightarrow \mathbb{P}(\mathcal{H})$ $(j=1,\ldots,N)$ とおく。このとき定理5.14より、射影値測度 $$ E^T\colon \mathcal{B}_{\sigma(T_1)\times \cdots\times \sigma(T_N)}\rightarrow \mathbb{P}(\mathcal{H}) $$ で、 $$ E^{T}(B_1\times \cdots\times B_N)=E^{T_1}(B_1)\cdots E^{T_N}(B_N)\quad(\forall B_1\in \mathcal{B}_{\sigma(T_1)},\ldots,\forall B_N\in \mathcal{B}_{\sigma(T_N)}) $$ を満たすものが唯一つ存在する。この $E^T$ を強可換な自己共役作用素の組 $T=(T_1,\ldots,T_N)$ に付随する結合スペクトル測度と言う。そして任意のBorel関数 $$ f\colon \sigma(T_1)\times \cdots\times \sigma(T_N)\rightarrow \mathbb{C} $$ に対し、 $$ f(T)\colon=\int_{\sigma(T_1)\times \cdots \times \sigma(T_N)}f(\lambda_1,\ldots,\lambda_N)dE^T(\lambda_1,\ldots,\lambda_N) $$ と定義する。各 $j\in \{1,\ldots,N\}$ に対し、 $$ \pi_j\colon \sigma(T_1)\times \cdots\times \sigma(T_N)\ni (\lambda_1,\ldots,\lambda_N)\mapsto \lambda_j\in \sigma(T_j) $$ とおくと、 $$ E^T(\pi_j^{-1}(B))=E^{T_j}(B)\quad(\forall B\in \mathcal{B}_{\sigma(T_j)}) $$ であるから、任意のBorel関数 $f_j\colon \sigma(T_j)\rightarrow \mathbb{C}$ に対し、単関数近似により、 $$ f_j(T_j)=\int_{\sigma(T_j}f_j(\lambda)dE^{T_j}(\lambda) =\int_{\sigma(T_1)\times \cdots\times \sigma(T_N)}f_j(\lambda_j)dE^T(\lambda_1,\ldots,\lambda_N)=(f_j\circ \pi_j)(T) $$ が成り立つことが分かる。よってBorel関数 $$ f_1\otimes \cdots\otimes f_N=(f_1\circ \pi_1)\cdots (f_N\circ \pi_N)\colon\sigma(T_1)\times \cdots\times \sigma(T_N)\rightarrow \mathbb{C} $$ に対し、Hilbert空間上の作用素論の命題6.8の $(3)$ より、 $$ (f_1\otimes\cdots\otimes f_N)(T)=\overline{f_1(T_1)\cdots f_N(T_N)} $$ が成り立つ。特に、 $$ e^{ix\cdot T}=e^{ix_1T_1}\cdots e^{ix_NT_N}\quad(\forall x\in \mathbb{R}^N) $$ である。
定理5.16(Stoneの定理($N$ 次元版))
$\mathbb{R}^N$ の任意のユニタリ表現 $\pi$ に対し、$\mathcal{H}_{\pi}$ 上の $N$ 個の互いに強可換な自己共役作用素からなる組 $T=(T_1,\ldots,T_N)$ で、 $$ \pi(x)=e^{ix\cdot T}\quad(\forall x\in \mathbb{R}^N) $$ (右辺については定義5.15を参照)を満たすものが唯一つ存在する。
Proof.
SNAGの定理(定理5.11)と命題5.6の $(1)$ より、射影値測度 $E_{\pi}\colon \mathcal{B}_{\mathbb{R}^N}\rightarrow \mathbb{P}(\mathcal{H}_{\pi})$ で、 $$ \pi(x)=\int_{\mathbb{R}^N}e^{ix\cdot\lambda}dE_{\pi}(\lambda)\quad(\forall x\in \mathbb{R}^N) $$ を満たすものが唯一つ存在する。各 $j\in \{1,\ldots,N\}$ に対し、 $$ T_j\colon=\int_{\mathbb{R}^N}\lambda_jdE_{\pi}(\lambda) $$ とおくと、被積分関数が実数値であるから $T_j$ は自己共役作用素であり(Hilbert空間上の作用素論の命題6.8の $(2)$)、Hilbert空間上の作用素論の命題8.6より、任意のBorel関数 $f\colon \sigma(T_j)\rightarrow\mathbb{C}$ に対し、 $$ f(T_j)=\int_{\mathbb{R}^N}f(\lambda_j)dE_{\pi}(\lambda) $$ が成り立つ。特に、 $$ e^{ixT_j}=\int_{\mathbb{R}^N}e^{ix\lambda_j}dE_{\pi}(\lambda)\quad(\forall x\in \mathbb{R}^N) $$ が成り立つ。よって任意の $j,k\in\{1,\ldots,N\}$、任意の $x_j,x_k\in \mathbb{R}$ に対し、 $$ e^{ix_jT_j}e^{ix_kT_k}=\int_{\mathbb{R}^N}e^{ix_j\lambda_j}e^{ix_k\lambda_k}dE_{\pi}(\lambda) =e^{ix_kT_k}e^{ix_jT_j} $$ であるから、$T_1,\ldots,T_N$ は互いに強可換であり、$T=(T_1,\ldots,T_N)$ に対し、 $$ e^{ix\cdot T}=e^{ix_1T_1}\cdots e^{ix_NT_N}=\int_{\mathbb{R}^N}e^{ix_1\lambda_1}\cdots e^{ix_N\lambda_N}dE_{\pi}(\lambda)=\pi(x)\quad(\forall x\in \mathbb{R}^N) $$ である。これで存在が示せた。一意性を示す。$T=(T_1,\ldots,T_N)$, $S=(S_1,\ldots,S_N)$ をそれぞれ互いに強可換な自己共役作用素の組とし、 $$ e^{ix\cdot T}=\pi(x)=e^{ix\cdot S}\quad(\forall x\in \mathbb{R}^N) $$ が成り立つとする。このとき各 $j\in \{1,\ldots,N\}$ に対し、 $$ e^{ixT_j}=e^{ixS_j}\quad(\forall x\in \mathbb{R}) $$ であるから、Hilbert空間上の作用素論の補題21.3より、$T_j=S_j$ である。これで一意性が示せた。
□定義5.17($\nu\in M(\widehat{G})$ に対する特性関数 $\widehat{\nu}$)
$G$ を局所コンパクト可換群、$\widehat{G}$ を $G$ の双対群、$M(\widehat{G})$ を $\widehat{G}$ 上の測度群環(定義1.28)とする。任意の $\nu\in M(\widehat{G})$ に対し、 $$ \widehat{\nu}\colon G\rightarrow\mathbb{C},\quad \widehat{\nu}(x)\colon=\int_{\widehat{G}}\langle x,\gamma\rangle d\nu(\gamma)\quad(\forall x\in G) $$ なる有界連続関数[17]を定義する。これを $\nu\in M(\widehat{G})$ に対する特性関数と言う。
命題5.18(特性関数の基本性質)
$G$ を局所コンパクト可換群、$\widehat{G}$ を $G$ の双対群とし、 $$ M(\widehat{G})\ni \nu\mapsto \widehat{\nu}\in C_b(G)\quad\quad(*) $$ を考える。
- $(1)$ $(*)$ は $*$-環準同型写像である。
- $(2)$ $(*)$ は単射である。
Proof.
- $(1)$ $(*)$ が線形写像であることは明らかである。任意の $\nu_1,\nu_2\in M(\widehat{G})$ に対し命題1.29の証明より、
$$ \begin{aligned} (\widehat{\nu_1*\nu_2})(x)&=\int_{\widehat{G}}\langle x,\gamma\rangle d(\nu_1*\nu_2)(\gamma) =\int_{\widehat{G}}\left(\int_{\widehat{G}}\langle x,\gamma_1\gamma_2\rangle d\nu_1(\gamma_1)\right)d\nu_2(\gamma_2)\\ &=\int_{\widehat{G}}\left(\int_{\widehat{G}}\langle x,\gamma_1\rangle \langle x,\gamma_2\rangle d\nu_1(\gamma_1)\right)d\nu_2(\gamma_2) =\int_{\widehat{G}}\langle x,\gamma_1\rangle d\nu_1(\gamma_1)\int_{\widehat{G}}\langle x,\gamma_2\rangle d\nu_2(\gamma_2)\\ &=\widehat{\nu_1}(x)\widehat{\nu_2}(x)\quad(\forall x\in G) \end{aligned} $$ であるから $(*)$ は乗法を保存する。また任意の $\nu\in M(\widehat{G})$ に対し命題1.29の証明より、 $$ \widehat{\nu^*}(x)=\int_{\widehat{G}}\langle x,\gamma\rangle d\nu^*(\gamma)=\overline{\int_{\widehat{G}}\overline{\langle x,\gamma^{-1}\rangle}d\nu(\gamma)}=\overline{\int_{\widehat{G}}\langle x,\gamma\rangle d\nu(\gamma)}=\overline{\widehat{\nu}(x)} $$ であるから $(*)$ は $*$-演算を保存する。
- (2) $\mu\colon \mathcal{B}_G\rightarrow [0,\infty]$ を $G$ のHaar測度とし、$\mathcal{F}\colon C^*(G,\mu)\rightarrow C_0(\widehat{G})$ をFourier変換(定理5.7)とすると、任意の $\nu\in M(\widehat{G})$ に対し、Fubiniの定理より、
$$ \begin{aligned} \int_{G}f(x)\widehat{\nu}(x)d\mu(x)&=\int_{G}f(x)\left(\int_{\widehat{G}}\langle x,\gamma\rangle d\nu(\gamma)\right)d\mu(x)=\int_{\widehat{G}}\left(\int_{G}f(x)\langle x,\gamma\rangle d\mu(x)\right)d\nu(\gamma)\\ &=\int_{\widehat{G}}(\mathcal{F}[f])(\gamma)d\nu(\gamma)\quad(\forall [f]\in L^1(G,\mu))\quad\quad(**) \end{aligned} $$ が成り立つ。今、$\nu_1,\nu_2\in M(\widehat{G})$ が $\widehat{\nu_1}=\widehat{\nu_2}$ を満たすとする。このとき $(**)$ より、 $$ \int_{\widehat{G}}(\mathcal{F}[f])(\gamma)d\nu_1(\gamma)= \int_{G}f(x)\widehat{\nu_1}(x)d\mu(x) =\int_{G}f(x)\widehat{\nu_2}(x)d\mu(x) =\int_{\widehat{G}}(\mathcal{F}[f])(\gamma)d\nu_2(\gamma) $$ であり、系5.8より $\mathcal{F}(L^1(G,\mu))$ は $C_0(\widehat{G})$ で稠密であるので、 $$ \int_{\widehat{G}}h(\gamma)d\nu_1(\gamma)=\int_{\widehat{G}}h(\gamma)d\nu_2(\gamma)\quad(\forall h\in C_0(\widehat{G})) $$ が成り立つ。よってRiesz-Markov-角谷の表現定理(測度と積分7:局所コンパクトHausdorff空間上のRadon測度の定理34.1)より $\nu_1=\nu_2$ である。ゆえに $(*)$ は単射である。
□定理5.19(Bochnerの定理)
$G$ を局所コンパクト可換群、$\widehat{G}$ を $G$ の双対群とし、 $$ M_+(\widehat{G})=\{\nu\in M(\widehat{G}):\nu(B)\geq0\quad(\forall B\in \mathcal{B}_{\widehat{G}})\} $$ とおき、$\mathcal{P}(G)$ を $G$ 上の正定値連続関数全体(定義2.26)とする。このとき、 $$ M_+(\widehat{G})\ni \nu\mapsto \widehat{\nu}\in \mathcal{P}(G) $$ は全単射であり、ノルムを保存する。
Proof.
$\mu\colon \mathcal{B}_G\rightarrow [0,\infty]$ を $G$ のHaar測度、$\mathcal{F}\colon C^*(G,\mu)\rightarrow C_0(\widehat{G})$ をFourier変換(定理5.7)とする。任意の $\nu\in M_+(\widehat{G})$ に対し、命題5.18の証明の $(**)$ より、 $$ \int_{G}([f]^**[f])(x)\widehat{\nu}(x)d\mu(x)=\int_{\widehat{G}}\mathcal{F}([f]^**[f])(\gamma)d\nu(\gamma)=\int_{\widehat{G}}\lvert (\mathcal{F}[f])(\gamma)\rvert^2d\nu(\gamma)\geq0\quad(\forall [f]\in L^1(G,\mu)) $$ であるから $\widehat{\nu}\in \mathcal{P}(G)$ である。そして系2.35より、 $$ \lVert \widehat{\nu}\rVert=\widehat{\nu}(1)=\int_{\widehat{G}}\langle 1,\gamma\rangle d\nu(\gamma)=\nu(\widehat{G})=\lVert \nu\rVert $$ である。$M_+(\widehat{G})\ni \nu \mapsto \widehat{\nu}\in \mathcal{P}(G)$ が単射であることは命題5.18の $(2)$ による。全射であることを示す。任意の $p\in \mathcal{P}(G)\backslash \{0\}$ を取り、$p$ に対するGNS表現(定義2.34)を $(\pi,v)$ とおく。$\pi$ の $C^*(G,\mu)$ の表現への一意拡張(定義2.24)もそのまま $\pi\colon C^*(G,\mu)\rightarrow \mathbb{B}(\mathcal{H}_{\pi})$ と表す。Fourier変換 $\mathcal{F}\colon C^*(G,\mu)\rightarrow C_0(\widehat{G})$ は 等長$*$-環同型写像である(定理5.7)から、 $$ C_0(\widehat{G})\ni h\mapsto (v\mid \pi(\mathcal{F}^{-1}(h))v)\in \mathbb{C} $$ は非負値性を保存する有界線形汎関数である。よってRiesz-Markov-角谷の表現定理(測度と積分7:局所コンパクトHausdorff空間上のRadon測度の定理34.1と定理30.4)より $\nu\in M_+(\widehat{G})$ で、 $$ (v\mid \pi(\mathcal{F}^{-1}(h))v)=\int_{\widehat{G}}h(\gamma)d\nu(\gamma)\quad(\forall h\in C_0(\widehat{G})) $$ を満たすものが定まる。任意の $[f]\in L^1(G,\mu)$ に対しFubiniの定理より、 $$ \begin{aligned} \int_{G}f(x)p(x)d\mu(x)&=\int_{G}f(x)(v\mid \pi(x)v)d\mu(x)=(v\mid \pi([f])v) =\int_{\widehat{G}}(\mathcal{F}[f])(\gamma)d\nu(\gamma)\\ &=\int_{\widehat{G}}\left(\int_{G}f(x)\langle x,\gamma\rangle d\mu(x)\right)d\nu(\gamma) =\int_{G}f(x)\left(\int_{\widehat{G}}\langle x,\gamma\rangle d\nu(\gamma)\right)d\mu(x)\\ &=\int_{G}f(x)\widehat{\nu}(x)d\mu(x) \end{aligned} $$ となるから、$L^\infty(G,\mu)=(L^1(G,\mu))^*$(測度と積分5:$L^p$ 空間の完備性と双対性の定理23.4)と $p,\widehat{\nu}$ の連続性より $p=\widehat{\nu}$ が成り立つ(命題1.8より$G$の空でない開集合のHaar測度は正であることに注意)。よって $M_+(\widehat{G})\ni \nu\mapsto \widehat{\nu}\in \mathcal{P}(G)$ は全射である。
□定理5.20(確率測度の収束と特性関数の収束)
$G$ を局所コンパクト可換群、$\widehat{G}$ を $G$ の双対群とし、$(\nu_n)_{n\in \mathbb{N}}$ を $\widehat{G}$ 上の確率Borel測度の列、$\nu$ を $\widehat{G}$ 上の確率Borel測度とする。このとき次は互いに同値である。
- $(1)$ $M(\widehat{G})=(C_0(\widehat{G}))^*$(測度と積分7:局所コンパクトHausdorff空間上のRadon測度の定理34.1) の弱 $*$-位相で $\lim_{n\rightarrow\infty}\nu_n=\nu$.
- $(2)$ 任意の $h\in C_0(\widehat{G})$ に対し、$\lim_{n\rightarrow\infty}\int_{\widehat{G}}h(\gamma)d\nu_n(\gamma)=\int_{\widehat{G}}h(\gamma)d\nu(\gamma)$.
- $(3)$ コンパクト一様収束位相(定義2.38)で $\lim_{n\rightarrow\infty}\widehat{\nu_n}=\widehat{\nu}$.
- $(4)$ 任意の $x\in G$ に対し $\lim_{n\rightarrow\infty}\widehat{\nu_n}(x)=\widehat{\nu}(x)$.
また $(1)\sim (4)$ が成り立つとき、$\nu(\partial B)=0$ を満たす任意の $B\in \mathcal{B}_{\widehat{G}}$ に対し、 $$ \lim_{n\rightarrow\infty}\nu_n(B)=\nu(B) $$ が成り立つ(ただし $\partial B=\overline{B}\backslash B^{\circ}$ である)。
Proof.
まずBochnerの定理(定理5.19)より $\widehat{\nu_n},\widehat{\nu}\in \mathcal{P}_1(G)$(定義2.36)である。$\mu\colon \mathcal{B}_G\rightarrow [0,\infty]$ を $G$ のHaar測度、$\mathcal{F}\colon C^*(G,\mu)\rightarrow C_0(\widehat{G})$ をFourier変換(定理5.7)とする。
$(1)\Leftrightarrow (2)$ はRiesz-Markov-角谷の表現定理(測度と積分7:局所コンパクトHausdorff空間上のRadon測度の定理34.1)と弱 $*$-位相に関する収束の特徴付け(位相線形空間2:セミノルム位相と汎弱位相の注意10.2)による。
$(2)\Rightarrow(3)$ を示す。
$(2)$ が成り立つとすると、命題5.18の証明の $(**)$ より、任意の $[f]\in L^1(G,\mu)$ に対し、
$$
\int_{G}f(x)\widehat{\nu_n}(x)d\mu(x)=\int_{\widehat{G}}(\mathcal{F}[f])(\gamma)d\nu_n(\gamma)\rightarrow\int_{\widehat{G}}(\mathcal{F}[f])(\gamma)d\nu(\gamma)=\int_{G}f(x)\widehat{\nu}(x)d\mu(x)
$$
が成り立つ。よって定理2.39より $(3)$ が成り立つ。
$(3)\Rightarrow(4)$ は自明である。
$(4)\Rightarrow(1)$ を示す。$(4)$ が成り立つとすると、命題5.18の証明の $(**)$ とLebesgue優収束定理より任意の $[f]\in L^1(G,\mu)$ に対し、
$$
\int_{\widehat{G}}(\mathcal{F}[f])(\gamma)d\nu_n(\gamma)=
\int_{G}f(x)\widehat{\nu_n}(x)d\mu(x)\rightarrow\int_{G}f(x)\widehat{\nu}(x)d\mu(x)
=\int_{\widehat{G}}(\mathcal{F}[f])(\gamma)d\nu(\gamma)
$$
が成り立つ。このことと $\mathcal{F}(L^1(G,\mu))$ が $C_0(\widehat{G})$ で稠密であること(系5.8)、各 $\nu_n,\nu\in M(\widehat{G})=(C_0(\widehat{G}))^*$ のノルムが $1$ であることから、任意の $h\in C_0(\widehat{G})$ に対し $\int_{\widehat{G}}h(\gamma)d\nu_n(\gamma)\rightarrow \int_{\widehat{G}}h(\gamma)d\nu(\gamma)$ が成り立つ。よって $(1)$ が成り立つ。
$(1)\sim(4)$ が成り立つとする。任意の開集合 $V\subset \widehat{G}$ を取る。$f\prec V$(測度と積分7:局所コンパクトHausdorff空間上のRadon測度の定義29.1)なる任意の $f\in C_{c,+}(\widehat{G})$ に対し、$(2)$ と $0\leq f(\gamma)\leq \chi_V((\gamma)$ $(\forall \gamma\in \widehat{G})$ より、
$$
\int_{\widehat{G}}f(\gamma)d\nu(\gamma)=\lim_{n\rightarrow\infty}\int_{\widehat{G}}f(\gamma)d\nu_n(\gamma)=\sup_{n\in \mathbb{N}}\inf_{k\geq n}\int_{\widehat{G}}f(\gamma)d\nu_k(\gamma)\leq \sup_{n\in \mathbb{N}}\inf_{k\geq n}\nu_k(V)
$$
である。よって測度と積分7:局所コンパクトHausdorff空間上のRadon測度の命題29.4の $(2)$ より、
$$
\nu(V)=\sup\left\{\int_{\widehat{G}}f(\gamma)d\nu(\gamma):f\prec V\right\}
\leq \sup_{n\in \mathbb{N}}\inf_{k\geq n}\nu_k(V)
$$
が成り立つ。また任意の閉集合 $F\subset \widehat{G}$ に対し、
$$
1-\nu(F)=\nu(\widehat{G}\backslash F)\leq \sup_{n\in \mathbb{N}}\inf_{k\geq n}\nu_k(\widehat{G}\backslash F)=\sup_{n\in\mathbb{N}}\inf_{k\geq n}(1-\nu_k(F))
=1-\inf_{n\in \mathbb{N}}\sup_{k\geq n}\nu_k(F)
$$
であるから、
$$
\inf_{n\in \mathbb{N}}\sup_{k\geq n}\nu_k(F)\leq \nu(F)
$$
が成り立つ。今、$B\in \mathcal{B}_{\widehat{G}}$ が $\nu(\partial B)=0$ を満たすとする。$B\subset \overline{B}=B^{\circ}\cup \partial B$ であるから、
$$
\nu(B)\leq \nu(\overline{B})=\nu(B^{\circ})+\nu(\partial B)=\nu(B^{\circ})\leq \nu(B),
$$
よって、
$$
\nu(B)=\nu(\overline{B})=\nu(B^{\circ})
$$
である。開集合 $B^{\circ}$ と閉集合 $\overline{B}$ に対し、上で示した不等式を適用し、
$$
\begin{aligned}
\nu(B)&=\nu(B^{\circ})\leq \sup_{n\in \mathbb{N}}\inf_{k\geq n}\nu_k(B^{\circ})
\leq \sup_{n\in \mathbb{N}}\inf_{k\geq n}\nu_k(B)\leq \inf_{n\in \mathbb{N}}\sup_{k\geq n}\nu_k(B)\\
&\leq \inf_{n\in \mathbb{N}}\sup_{k\geq n}\nu_k(\overline{B})\leq \nu(\overline{B})=\nu(B)
\end{aligned}
$$
を得る。よって、
$$
\nu(B)=\sup_{n\in \mathbb{N}}\inf_{k\geq n}\nu_k(B)=\inf_{n\in \mathbb{N}}\sup_{k\geq n}\nu_k(B)
$$
であるから、$\nu(B)=\lim_{n\rightarrow\infty}\nu_n(B)$ が成り立つ。
6. 離散群のユニタリ表現
これまで簡単のため、局所コンパクト群は断ることなく第二可算公理を満たすとしてきた。第二可算な離散群は可算であるが、離散群に対しては可算性を仮定しなくてもこれまで示した結果がほとんど自明に従う。非可算離散群に関する結果(定理6.6)を、後の記事(Fock空間、CCRとCARの表現)で使うところがあるので、一応、改めてまとめておく。
命題6.1(離散群の表現の基本性質)
$G$ を可算とは限らない離散群とする。
- $(1)$ $G$ のHaar測度は数え上げ測度の正数倍である。
- $(2)$ Banach空間 $\ell^1(G)$(測度と積分6:数え上げ測度と $\ell^p$ 空間を参照)は、
$$ f*g\colon=\sum_{y\in G}f(y)L_yg\in \ell^1(G),\quad f^*(x)\colon=\overline{f(x^{-1})}\quad(\forall x\in G,\forall f,g\in \ell^1(G)) $$ を乗法と対合としてBanach $*$-環である(命題1.24に相当)。また任意の $x\in G$ に対し $\delta_x\in \ell^1(G)$ を、 $$ \delta_x(y)\colon=\begin{cases}1\quad&(y= x)\\0&(y\neq x)\end{cases} $$ とおくと、 $$ \delta_x*f=L_xf,\quad f*\delta_x=R_{x{-1}}f\quad(\forall x\in G,\forall f\in \ell^1(G)) $$ であり、$G$ の単位元 $1\in G$ に対し $\delta_1\in \ell^1(G)$ は $\ell^1(G)$ の単位元である。
- $(3)$ $\pi\colon G\rightarrow\mathbb{U}(\mathcal{H}_{\pi})$ を $G$ のユニタリ表現とする。任意の $f\in \ell^1(G)$ に対し $\pi(f)\in \mathbb{B}(\mathcal{H}_{\pi})$ を、
$$ \pi(f)v\colon=\sum_{x\in G}f(x)\pi(x)v\in \mathcal{H}_{\pi}\quad(\forall v\in \mathcal{H}_{\pi}) $$ として定義すると、 $$ \ell^1(G)\ni f\mapsto \pi(f)\in \mathbb{B}(\mathcal{H}_{\pi}) $$ は単位的(単位元を単位元に写す)$*$-環準同型写像である(命題2.16に相当)。
- $(4)$ 与えられたHilbert空間 $\mathcal{H}$ と単位的 $*$-環準同型写像 $\rho\colon \ell^1(G)\rightarrow \mathbb{B}(\mathcal{H})$ に対し $G$ の $\mathcal{H}$ 上へのユニタリ表現 $\pi$ で、
$$ \pi(f)=\rho(f)\quad(\forall f\in \ell^1(G)) $$ を満たすものが唯一つ存在し、それは、 $$ \pi(x)=\rho(\delta_x)\quad(\forall x\in G) $$ である(定理2.17に相当)。
- $(5)$ $G$ 上の正定値関数[18]全体 $\mathcal{P}(G)$ と $\ell^1(G)$ 上の有界非負線形汎関数全体 $\ell^1(G)^*_+$ に対し、
$$ \mathcal{P}(G)\ni p\mapsto \Phi_p\in \ell^1(G)^*_+ $$ は全単射である。また任意の $p\in \mathcal{P}(G)\backslash \{0\}$ に対し $G$ の巡回ベクトル付きユニタリ表現 $(\pi,v)$ で、 $$ p(x)=(v\mid \pi(x)v)\quad(\forall x\in G) $$ を満たすもの($p$ に対するGNS表現)がユニタリ同値を除いて一意的に定まる(定理2.33と定義2.34に書かれてあることに相当)。
- $(6)$ 任意の $p\in \mathcal{P}(G)$ に対し $\lVert p\rVert=p(1)=\Phi_p(\delta_1)=\lVert\Phi_p\rVert$ が成り立つ(系2.35に相当)。よって $\mathcal{P}(G)$ のノルム $1$ の元全体
$$ \mathcal{P}_1(G)=\{p\in \mathcal{P}(G):\lVert p\rVert=1\}=\{p\in \mathcal{P}(G):p(1)=1\} $$ は凸集合である。
- $(7)$ $p\in \mathcal{P}_1(G)$ に対するGNS表現を $(\pi,v)$ とすると、$p\in{\rm ext}(\mathcal{P}_1(G))$(凸集合 $\mathcal{P}_1(G)$ の端点)であることと、$\pi$ が既約であることは同値である(定理2.37に相当)。
- $(8)$
$$ \mathcal{P}_1(G)\ni p\mapsto \Phi_p\in \{\Phi\in \ell^1(G)^*_+:\lVert \Phi\rVert=1\} $$ は各点収束位相($G$ は離散群であることからコンパクト一様収束位相に等しい)と弱 $*$-位相に関して同相写像である(定理2.39に相当)。
- $(9)$ 台が有限集合である $G$ 上の複素数値関数全体 $c_c(G)$ に対し、
$$ c_c(G)={\rm span}(c_c(G)\cap \mathcal{P}(G)) $$ が成り立つ(定理2.30に相当)。
- $(10)$ 凸集合 $\mathcal{P}_1(G)$ においてその端点全体の凸包 ${\rm conv}({\rm ext}(\mathcal{P}_1(G)))$ は各点収束位相で稠密である(定理2.40に相当)。
- $(11)$ $x\neq y$ なる任意の $x,y\in G$ に対し、$G$ の既約なユニタリ表現 $\pi$ で $\pi(x)\neq \pi(y)$ なるものが存在する(Gelfand-Raikovの定理(定理2.41)に相当)。
Proof.
- $(1)$ 容易に分かる。
- $(2)$ 任意の $f,g\in \ell^1(G)$ に対し、
$$ \lVert f*g\rVert_1\leq \sum_{y\in G}\lVert f(y)L_yg\rVert_1=\sum_{y\in G}\lvert f(y)\rvert\lVert g\rVert_1=\lVert f\rVert_1\lVert g\rVert_1, $$ $$ \lVert f^*\rVert_1=\sum_{x\in G}\lvert \overline{f(x^{-1})}\rvert=\sum_{x\in G}\lvert f(x)\rvert=\lVert f\rVert_1 $$ である。任意の $x\in G$ に対し $\ell^1(G)\ni f\mapsto f(x)\in \mathbb{C}$ は有界線形汎関数であるから、任意の $f,g\in \ell^1(G)$ に対し、 $$ (f*g)(x)=\left(\sum_{y\in G} f(y)L_yg\right)(x)=\sum_{y\in G}f(y)L_yg(x) =\sum_{y\in G}f(y)g(y^{-1}x)\quad(\forall x\in G) $$ である。これより任意の $f,g\in \ell^1(G)$ に対し、 $$ \begin{aligned} (f*g)^*(x)&=\overline{(f*g)(x^{-1})}=\sum_{y\in G}\overline{f(y)g(y^{-1}x^{-1})} =\sum_{y\in G}f^*(y^{-1})g^*(xy)\\ &=\sum_{y\in G}g^*(y)f^*(y^{-1}x)=(g^**f^*)(x)\quad(\forall x\in G) \end{aligned} $$ であるから、$(f*g)^*=g^**f^*$ である。また任意の $h\in \ell^1(G)$ に対し $\ell^1(G)\ni f\mapsto f*h\in \ell^1(G)$ は有界線形作用素であるから、 $$ \begin{aligned} (f*g)*h&=\left(\sum_{y\in G}f(y)L_yg\right)*h=\sum_{y\in G}f(y)((L_yg)*h)\\ &=\sum_{y\in G}f(y)L_y(g*h)=f*(g*h)\quad(\forall f,g,h\in \ell^1()G) \end{aligned} $$ である。よって $\ell^1(G)$ はBanach $*$-環である。任意の $f\in \ell^1(G)$, $x,y\in G$ に対し、 $$ (\delta_x*f)(y)=\sum_{z\in G}\delta_x(z)f(z^{-1}y)=f(x^{-1}y)=L_xf(y), $$ $$ (f*\delta_x)(y)=\sum_{z\in G}f(z)\delta_x(z^{-1}y)=f(yx^{-1})=R_{x^{-1}}f(y) $$ であり、特に $\delta_1*f=f=f*\delta_1$ である。よって $\delta_1$ は $\ell^1(G)$ の単位元である。
- $(3)$
$$ \begin{aligned} \pi(x)\pi(f)v&=\sum_{y\in G}f(y)\pi(x)\pi(y)v=\sum_{y\in G}f(y)\pi(xy)v=\sum_{y\in G}f(x^{-1}y)\pi(y)v\\ &=\pi(L_xf)v\quad(\forall x\in G,\forall f\in \ell^1(G),\forall v\in \mathcal{H}_{\pi}) \end{aligned} $$ であることと、任意の $v\in \mathcal{H}_{\pi}$ に対し、$\ell^1(G)\ni f\mapsto \pi(f)v\in \mathcal{H}_{\pi}$ が有界線形作用素であることから、 $$ \begin{aligned} \pi(f*g)v&=\pi\left(\sum_{x\in G}f(x)L_xg\right)v =\sum_{x\in G}f(x)\pi(L_xg)v=\sum_{x\in G}f(x)\pi(x)\pi(g)v\\ &=\pi(f)\pi(g)v\quad(\forall f,g\in \ell^1(G),\forall v\in \mathcal{H}_{\pi}), \end{aligned} $$ よって $\pi(f*g)=\pi(f)\pi(g)$ $(\forall f,g\in \ell^1(G))$ である。また、 $$ \begin{aligned} (u\mid \pi(f^*)v)&=\sum_{x\in G}f^*(x)(u\mid \pi(x)v)= \sum_{x\in G}\overline{f(x^{-1})}(\pi(x^{-1})u\mid v)\\ &=\sum_{x\in G}\overline{f(x)}(\pi(x)u\mid v) =\sum_{x\in G}(f(x)\pi(x)u\mid v)\\ &=(\pi(f)u\mid v)=(u\mid \pi(f)^*v)\quad(\forall f\in \ell^1(G),\forall u,v\in \mathcal{H}_{\pi}) \end{aligned} $$ であるから $\pi(f^*)=\pi(f)^*$ $(\forall f\in \ell^1(G))$ である。そして、 $$ \pi(\delta_1)v=\sum_{x\in G}\delta_1(x)\pi(x)v=v\quad(\forall v\in \mathcal{H}_{\pi}) $$ であるから $\pi(\delta_1)=1$ である。よって $\ell^1(G)\ni f\mapsto \pi(f)\in \mathbb{B}(\mathcal{H}_{\pi})$ は単位的な $*$-環準同型写像である。
- $(4)$
$$ \delta_x*\delta_y=\delta_{xy},\quad (\delta_x)^*=\delta_{x^{-1}}\quad(\forall x,y\in G) $$ であることと $\rho\colon \ell^1(G)\rightarrow \mathbb{B}(\mathcal{H})$ が単位的な $*$-環準同型写像であることから、 $$ \pi(x)\colon =\rho(\delta_x)\quad(\forall x\in G) $$ によって $G$ の $\mathcal{H}$ 上へのユニタリ表現 $\pi\colon G\rightarrow\mathbb{U}(\mathcal{H})$ が定まる。そして任意の $v\in \mathcal{H}$ に対し $\ell^1(G)\ni f\mapsto \rho(f)v\in \mathcal{H}$ が有界線形作用素であることから、 $$ \pi(f)v=\sum_{x\in G}f(x)\pi(x)v=\sum_{x\in G}f(x)\rho(\delta_x)v=\rho\left(\sum_{x\in G}f(x)\delta_x\right)v=\rho(f)v\quad(\forall f\in \ell^1(G),\forall v\in \mathcal{H}) $$ なので $\pi(f)=\rho(f)$ $(\forall f\in \ell^1(G))$ である。よって存在が示せた。$G$ のユニタリ表現 $\pi_1,\pi_2\colon G\rightarrow\mathbb{U}(\mathcal{H})$ が $\pi_1(f)=\rho(f)=\pi_2(f)$ $(\forall f\in \ell^1(G))$ を満たすならば、 $$ \rho(\delta_x)v=\pi_j(\delta_x)v=\sum_{y\in G}\delta_x(y)\pi_j(y)v =\pi_j(x)v\quad(\forall x\in G,\forall v\in \mathcal{H},j=1,2) $$ であるので $\pi_1(x)=\rho(\delta_x)=\pi_2(x)$ $(\forall x\in G)$ である。よって一意性が示せた。
- $(5)$ $p_1,p_2\in \mathcal{P}(G)$ が $\Phi_{p_1}=\Phi_{p_2}$ を満たすならば、
$$ p_1(x)=\Phi_{p_1}(\delta_x)=\Phi_{p_2}(\delta_x)=p_2(x)\quad(\forall x\in G) $$ であるから、$\mathcal{P}(G)\ni p\mapsto \Phi_p\in \ell^1(G)^*_+$ は単射である。任意の $\Phi\in \ell^1(G)^*_+\backslash \{0\}$ に対し、定理2.33と全く同様にして $G$ の巡回ベクトル付きユニタリ表現 $(\pi,v)$ で、 $$ \Phi(f)=(v\mid \pi(f)v)=\sum_{x\in G}f(x)(v\mid \pi(x)v)\quad(\forall f\in \ell^1(G)) $$ を満たすものが存在することが分かる。そこで $p(x)\colon=(v\mid \pi(x)v)$ $(\forall x\in G)$ とおけば $p\in \mathcal{P}(G)$, $\Phi=\Phi_p$ である。
- $(6)$ $p\in \mathcal{P}(G)\backslash \{0\}$ に対するGNS表現 $(\pi,v)$ を取ると、
$$ p(x)=(v\mid \pi(x)v)\quad(\forall x\in G),\quad \Phi_p(f)=(v\mid \pi(f)v)\quad(\forall f\in \ell^1(G)) $$ であるから、 $$ \lVert p\rVert=\sup_{x\in G}\lvert (v\mid \pi(x)v)\rvert\leq \lVert v\rVert^2=p(1)\leq \lVert p\rVert $$ であり、 $$ \lVert \Phi_p\rVert=\sup_{\lVert f\rVert_1\leq 1}\lvert (v\mid \pi(f)v)\rvert\leq \lVert v\rVert^2=\Phi_p(\delta_1)\leq \lVert \Phi_p\rVert $$ である。
- $(7)$ 定理2.37と全く同様にして証明できる。
- $(8)$ $\mathcal{P}_1(G)\ni p\mapsto \Phi_p\in \{\Phi\in \ell^1(G)^*_+:\lVert \Phi\rVert=1\}$ が全単射であることは $(5),(6)$ による。$\mathcal{P}_1(G)$ のネット $(p_{\lambda})_{\lambda\in\Lambda}$ と $p\in \mathcal{P}_1(G)$ を取る。もし各点収束位相で $p_{\lambda}\rightarrow p$ ならば任意の $f\in c_c(G)$(台が有限集合の関数)に対し、
$$ \Phi_{p_{\lambda}}(f)=\sum_{x\in {\rm supp}(f)}f(x)p_{\lambda}(x)\rightarrow \sum_{x\in {\rm supp}(f)}f(x)p(x)=\Phi_p(f) $$ である。そして $\ell^1(G)$ において $c_c(G)$ は稠密であり、$\lVert \Phi_{p_{\lambda}}\rVert=1$ $(\forall \lambda\in\Lambda)$, $\lVert \Phi_p\rVert=1$ であるので、 $$ \Phi_{p_{\lambda}}(f)\rightarrow\Phi_p(f)\quad(\forall f\in \ell^1(G)) $$ が成り立つ。ゆえに $\ell^1(G)^*$ の弱 $*$-位相で $\Phi_{p_{\lambda}}\rightarrow\Phi_p$ が成り立つから、ネットの収束による連続性の特徴付け(ネットによる位相空間論の定理3)より、$\mathcal{P}_1(G)\ni p\mapsto \Phi_p\in \{\Phi\in \ell^1(G)^*_+:\lVert \Phi\rVert=1\}$ は連続である。逆に $\ell^1(G)^*$ の弱$*$-位相で $\Phi_{p_{\lambda}}\rightarrow\Phi_p$ が成り立つならば、任意の $x\in G$ に対し、 $$ p_{\lambda}(x)=\Phi_{p_{\lambda}}(\delta_x)\rightarrow\Phi_{p}(\delta_x)=p(x) $$ であるから、各点収束位相で$p_{\lambda}\rightarrow p$である。よって $\mathcal{P}_1(G)\ni p\mapsto \Phi_p\in \{\Phi\in \ell^1(G)^*_+:\lVert \Phi\rVert=1\}$ は同相写像である。
- $(9)$ 任意の $f,g\in \ell^1(G)$ を取る。$x\in {\rm supp}(f*g)$ ならば、
$$ (f*g)(x)=\sum_{y\in G}f(y)g(y^{-1}x)\neq0 $$ であるから、${\rm supp}(f)$ と $G\ni y\mapsto g(y^{-1}x)\in \mathbb{C}$ の台 $x({\rm supp}(g))^{-1}$ は交わるので、$x\in {\rm supp}(f){\rm supp}(g)$ である。よって ${\rm supp}(f*g)\subset {\rm supp}(f){\rm supp}(g)$ であるから、 $$ f*g\in c_c(G)\quad(\forall f,g\in c_c(G)) $$ が成り立つ。今、$G$ のHilbert空間 $\ell^2(G)$ 上への正則表現 $$ \pi\colon G\rightarrow \mathbb{U}(\ell^2(G)),\quad \pi(x)\colon \ell^2(G)\ni f\mapsto L_xf\in \ell^2(G) $$ を考える。任意の $f\in c_c(G)$ に対し $f_{-1}\in c_c(G)$ を $f_{-1}(x)\colon =f(x^{-1})$ $(\forall x\in G)$ として定義すると、 $$ (\overline{f}*f_{-1})(x)=\sum_{y\in G}\overline{f(y)}f_{-1}(y^{-1}x) =\sum_{y\in G}\overline{f(y)}f(x^{-1}y)=(f\mid \pi(x)f)\quad(\forall x\in G) $$ であるから、$\overline{f}*f_{-1}\in c_c(G)\cap \mathcal{P}(G)$ である。 $$ c_c(G)\times c_c(G)\ni (f,g)\mapsto \overline{f}*g_{-1}\in c_c(G) $$ は準双線形写像であるから、 $$ \overline{f}*g_{-1}=\frac{1}{4}\sum_{k=0}^{3}i^k\overline{(f+i^kg)}*(f+i^kg)_{-1}\in {\rm span}(c_c(G)\cap \mathcal{P}(G))\quad(\forall f,g\in c_c(G)) $$ である。よって、 $$ f=\delta_1*f=\overline{\delta_1}*(f_{-1})_{-1}\in {\rm span}(c_c(G)\cap \mathcal{P}(G))\quad(\forall f\in c_c(G)) $$ であるから、$c_c(G)={\rm span}(c_c(G)\cap \mathcal{P}(G))$ である。
- $(10)$ $\ell^1(G)$ 上のノルムが $1$ の有界非負線形汎関数全体は $(6)$ より、
$$ S(\ell^1(G))=\{\Phi\in \ell^1(G)^*_+:\Phi(\delta_1)=1\} $$ であるから弱 $*$-閉凸集合であり、Alaogluの定理(位相線形空間2:セミノルム位相と汎弱位相の定理10.3)より、$S(\ell^1(G))$ は弱 $*$-コンパクトな凸集合である。よってKrein-Milmanの端点定理(位相線形空間3:Hahn-Banachの定理とKrein-Milmanの端点定理の定理14.3)より、 $$ S(\ell^1(G))=\overline{{\rm conv}({\rm ext}(S(\ell^1(G))))}^{w^*\text{-topology}} $$ である。よって $(8)$ より ${\rm conv}({\rm ext}(\mathcal{P}_1(G)))$ は $\mathcal{P}_1(G)$ において各点収束位相で稠密である。
- $(11)$ $x\neq y$ なる $x,y\in G$ に対し $\varphi(x)\neq \varphi(y)$ を満たす $\varphi\in c_c(G)$ が取れるので、$(9)$ より $p(x)\neq p(y)$ なる $p\in \mathcal{P}_1(G)$ が取れる。よって $(10)$ より $p(x)\neq p(y)$ なる $p\in {\rm ext}(\mathcal{P}_1(G))$ が取れる。ゆえに $(7)$ より既約なユニタリ表現 $\pi$ で $\pi(x)\neq \pi(y)$ なるものが取れる。
定理6.2(離散可換群の表現の基本性質)
$G$ を可算とは限らない離散可換群とし、$\widehat{G}$ を $G$ の指標群[19]とする。
- $(1)$ $G$ のユニタリ表現が既約であることと $1$ 次元であることは同値である。
- $(2)$ $\widehat{G}={\rm ext}(\mathcal{P}_1(G))$ が成り立つ。
- $(3)$ 任意の $\gamma\in \widehat{G}$ に対し $\Phi_{\gamma}\colon \ell^1(G)\rightarrow\mathbb{C}$ を、
$$ \Phi_{\gamma}(f)\colon=\sum_{x\in G}f(x)\gamma(x)\in \mathbb{C}\quad(\forall f\in \ell^1(G)) $$ とおけば、$\Phi_{\gamma}\in \widehat{\ell^1(G)}$(単位的可換Banach環 $\ell^1(G)$ の指標)であり、 $$ \widehat{G}\ni \gamma\mapsto \Phi_{\gamma}\in \widehat{\ell^1(G)} $$ は各点収束位相と弱 $*$-位相で同相写像である。
- $(4)$ 任意の $\gamma\in \widehat{G}$ に対し $(2)$ における $\Phi_{\gamma}\in \widehat{\ell^1(G)}$ は群 $C^*$-環 $C^*(G)$(定義2.20)の指標 $\widetilde{\Phi_{\gamma}}\in \widehat{C^*(G)}$ に一意拡張でき、
$$ \widehat{G}\ni \gamma\mapsto \widetilde{\Phi_{\gamma}}\in \widehat{C^*(G)} $$ は各点収束位相と弱 $*$-位相で同相写像である。
- $(5)$ $\widehat{G}$ は各点収束位相によりコンパクト可換群である。
Proof.
- $(1)$ 命題5.1と全く同様にして示せる。
- $(2)$ 定理5.3の $(1)$ と全く同様にして示せる。
- $(3)$ 定理5.3の $(2)$ と全く同様にして示せる。
- $(4)$ 定理5.3の $(3)$ と全く同様にして示せる。
- $(5)$ $\ell^1(G)$ は単位的可換Banach環であるから、その指標空間 $\widehat{\ell^1(G)}$ は弱 $*$-位相でコンパクトである(Banach環とC*-環のスペクトル理論の定義5.6を参照)。よって $(3)$ より $\widehat{G}$ は各点収束位相でコンパクト群である。
定義6.3(離散可換群の双対群)
$G$ を可算とは限らない離散可換群とする。定理6.2より $G$ の指標群 $\widehat{G}$ は各点収束位相によりコンパクト可換群である。コンパクト可換群 $H$ で $\widehat{G}$ と同相かつ群同型であるものを $G$ の双対群と言う。そして $H$ と $\widehat{G}$ の群同型同相写像は、一般論を論じる文脈では、 $$ H\ni \gamma\mapsto \langle \cdot,\gamma\rangle\in\widehat{G} $$ によって表す。さらに以後、$G$ の双対群は指標群と同じ記号 $\widehat{G}$ で表す。
定理6.4(離散可換群のFourier変換)
$G$ を離散可換群とし、$\widehat{G}$ を $G$ の双対群、$C^*(G)$ を $G$ の群 $C^*$-環(定義2.20)とする。このとき等長 $*$-環同型写像 $$ \mathcal{F}\colon C^*(G)\rightarrow C(\widehat{G}) $$ で、 $$ \mathcal{F}f(\gamma)=\sum_{x\in G}f(x)\langle x,\gamma\rangle \quad(\forall f\in \ell^1(G),\forall \gamma\in \widehat{G}) $$ を満たすものが唯一つ存在する。$\mathcal{F}$ を離散可換群 $G$ におけるFourier変換と言う。
Proof.
Banach環とC*-環のスペクトル理論の定理5.9より可換 $C^*$-環 $C^*(G)$ のGelfand変換 $$ \Gamma\colon C^*(G)\rightarrow C(\widehat{C^*(G)})\quad\quad(*) $$ は等長$*$-環同型写像である。また定理6.2の $(4)$ より、 $$ \tau\colon \widehat{G}\ni \gamma\mapsto \widetilde{\Phi_{\gamma}}\in \widehat{C^*(G)} $$ は同相写像であるから、 $$ \mathcal{T}\colon C(\widehat{C^*(G)})\ni h\mapsto h\circ \tau\in C(\widehat{G})\quad\quad(**) $$ は等長$*$-環同型写像である。よって $(*),(**)$ の合成 $$ \mathcal{F}\colon=\mathcal{T}\circ\Gamma\colon C^*(G)\rightarrow C(\widehat{G}) $$ は等長$*$-環同型写像である。そして任意の $f\in \ell^1(G)\subset C^*(G)$, $\gamma\in \widehat{G}$ に対し、 $$ \mathcal{F}(f)(\gamma)=\mathcal{T}(\Gamma(f))(\gamma)=\Gamma(f)(\tau(\gamma)) =\Gamma(f)(\widetilde{\Phi_{\gamma}})=\Phi_{\gamma}(f)=\sum_{x\in G}f(x)\langle x,\gamma\rangle $$ である。よって存在が示せた。一意性は $C^*(G)$ において $\ell^1(G)$ が稠密であることによる。
□定理6.5(離散可換群のFourier変換に関するPlancherelの定理)
$G$ を可算とは限らない離散可換群とし、$\widehat{G}$ を $G$ の双対群とする。そしてコンパクト群 $\widehat{G}$ のHaar測度を $\mu\colon \mathcal{B}_{\widehat{G}}\rightarrow [0,1]$ $(\mu(\widehat{G})=1)$ とする。[20]このとき、
- $(1)$ 任意の $x\in G$ に対し、
$$ \int_{\widehat{G}}\langle x,\gamma\rangle d\mu(\gamma)=\delta_1(x)=\begin{cases}1\quad&(x=1)\\0&(x\neq 1)\end{cases} $$ が成り立つ。
- $(2)$ $G$ のFourier変換 $\mathcal{F}\colon \ell^1(G)\rightarrow C(\widehat{G})$ はHilbert空間 $\ell^2(G)$ からHilbert空間 $L^2(\widehat{G},\mu)$ へのユニタリ作用素に一意拡張できる。
Proof.
- $(1)$ 任意の $x\in G\backslash\{1\}$ に対し、Gelfand-Raikovの定理(命題6.1の $(11)$)と定理6.2の $(1)$ より $\langle x,\gamma_0\rangle\neq 1$ を満たす $\gamma_0\in \widehat{G}$ が取れる。$\mu$ はHaar測度であるから、
$$ \langle x,\gamma_0\rangle \int_{\widehat{G}}\langle x,\gamma\rangle d\mu(\gamma) =\int_{\widehat{G}}\langle x,\gamma_0\gamma\rangle d\mu(\gamma)=\int_{\widehat{G}}\langle x,\gamma\rangle d\mu(\gamma) $$ であるので、$\langle x,\gamma_0\rangle \neq1$ より、 $$ \int_{\widehat{G}}\langle x,\gamma\rangle d\mu(\gamma)=0 $$ である。ゆえに成り立つ。
- $(2)$ $(1)$ より任意の $f,g\in c_c(G)$ に対し、
$$ \begin{aligned} (\mathcal{F}f\mid \mathcal{F}g)_2&=\int_{\widehat{G}}\overline{\mathcal{F}f(\gamma)}\mathcal{F}g(\gamma)d\mu(\gamma)=\sum_{\substack{x\in {\rm supp}(f),\\y\in {\rm supp}(g)}}\overline{f(x)}g(y)\int_{\widehat{G}}\overline{\langle x,\gamma\rangle}\langle y,\gamma\rangle d\mu(\gamma)\\ &=\sum_{\substack{x\in {\rm supp}(f),\\y\in {\rm supp}(g)}}\overline{f(x)}g(y)\int_{\widehat{G}}\langle x^{-1}y,\gamma\rangle d\mu(\gamma)=\sum_{\substack{x\in {\rm supp}(f),\\y\in {\rm supp}(g)}}\overline{f(x)}g(y)\delta_1(x^{-1}y)\\ &=\sum_{x\in {\rm supp}(f)}\overline{f(x)}g(x)=\sum_{x\in G}\overline{f(x)}g(x)=(f\mid g)_2 \end{aligned} $$ であるから、$\mathcal{F}\colon c_c(G)\rightarrow L^2(\widehat{G},\mu)$ は内積を保存する。$C^*(G)$ において $\ell^1(G)$ は稠密であり、$\ell^1(G)$ において $c_c(G)$ は稠密であるので、$C^*(G)$ において $c_c(G)$ は稠密である。よって $\mathcal{F}\colon C^*(G)\rightarrow C(\widehat{G})$ の等長同型性より $\mathcal{F}(c_c(G))$ は $C(\widehat{G})$ で稠密である。また $C(\widehat{G})$ は $L^2(\widehat{G},\mu)$ において稠密である(測度と積分7:局所コンパクトHausdorff空間上のRadon測度の命題32.1)から、$\mathcal{F}(c_c(G))$ は $L^2(\widehat{G},\mu)$ においても稠密である。[21]ゆえに $\mathcal{F}\colon c_c(G)\rightarrow L^2(\widehat{G},\mu)$ の $\ell^2(G)=\overline{c_c(G)}^{\lVert \cdot\rVert_2}$ 上への一意拡張(位相線形空間1:ノルムと内積の命題3.6)は内積を保存する全射線形写像なのでユニタリ作用素である。
□定理6.6
$G$ を可算とは限らない離散可換群、$\widehat{G}$ を $G$ の双対群、$H\subset \widehat{G}$ を $\widehat{G}$ の閉部分群とする。もし任意の $x\in G\backslash \{1\}$ に対し $\langle x,\gamma\rangle \neq 1$ なる $\gamma\in H$ が存在するならば、$H=\widehat{G}$ が成り立つ。
Proof.
コンパクト群 $\widehat{G}$ のHaar測度を $\mu\colon \mathcal{B}_{\widehat{G}}\rightarrow [0,1]$ $(\mu(\widehat{G})=1)$ とおき、コンパクト群 $H$ のHaar測度を $\mu_H\colon \mathcal{B}_H\rightarrow [0,1]$ $(\mu_H(H)=1)$ とおく。仮定より任意の $x\in G\backslash \{1\}$ に対し $\langle x,\gamma_0\rangle \neq1$ なる $\gamma_0\in H$ が取れる。$\mu_H$ はHaar測度であるから、 $$ \langle x,\gamma_0\rangle \int_{H}\langle x,\gamma\rangle d\mu_H(\gamma)= \int_{H}\langle x,\gamma_0\gamma\rangle d\mu_H(\gamma)=\int_{H}\langle x,\gamma\rangle d\mu_H(\gamma) $$ である。よって $\langle x,\gamma_0\rangle \neq1$ より、 $$ \int_{H}\langle x,\gamma\rangle d\mu_H(\gamma)=0 $$ であり、$\int_{H}\langle 1,\gamma\rangle d\mu_H(\gamma)=\mu_H(H)=1$ であるから、 $$ \int_{H}\langle x,\gamma\rangle d\mu_H(\gamma)=\delta_1(x)\quad(\forall x\in H) $$ が成り立つ。よって定理6.5の $(1)$ より、 $$ \int_{\widehat{G}}\langle x,\gamma\rangle d\mu(\gamma)=\delta_1(x)=\int_{H}\langle x,\gamma\rangle d\mu_H(\gamma)\quad(\forall x\in G) $$ である。ゆえに任意の $f\in \ell^1(G)$ に対し、 $$ \int_{\widehat{G}}\mathcal{F}f(\gamma)d\mu(\gamma)=\sum_{x\in G}f(x)\int_{\widehat{G}}\langle x,\gamma\rangle d\mu(\gamma)=\sum_{x\in G}f(x)\int_{H}\langle x,\gamma\rangle d\mu_H(\gamma)=\int_{H}\mathcal{F}f(\gamma)d\mu_H(\gamma) $$ であるから、$C(\widehat{G})=\mathcal{F}(C^*(G))=\overline{\mathcal{F}(\ell^1(G))}$ より、 $$ \int_{\widehat{G}}h(\gamma)d\mu(\gamma)=\int_{H}h(\gamma)d\mu_H(\gamma)\quad(\forall h\in C(\widehat{G})) $$ が成り立つ。これより $H\prec h$(測度と積分7:局所コンパクトHausdorff空間上のRadon測度の定義29.1)なる任意の $h\in C_+(\widehat{G})$ に対し、 $$ 1=\int_{H}1d\mu_H(\gamma)=\int_{H}h(\gamma)d\mu_H(\gamma)=\int_{\widehat{G}}h(\gamma)d\mu(\gamma) $$ であるから、位相正則測度の性質(測度と積分7:局所コンパクトHausdorff空間上のRadon測度の命題29.4)より、 $$ \mu(H)=\inf\left\{\int_{\widehat{G}}h(\gamma)d\mu(\gamma):H\prec h\right\}=1=\mu(\widehat{G}) $$ となる。よって $\mu(\widehat{G}\backslash H)=0$ が成り立つ。$\widehat{G}\backslash H$ は $\widehat{G}$ の開集合であり、空でない開集合のHaar測度は正である(命題1.8)ので、$\widehat{G}\backslash H=\emptyset$ である。ゆえに $H=\widehat{G}$ である。
□7. 線形Lie群とそれに付随するLie代数、指数写像定理
定義7.1(対数の主値)
$\mathbb{C}$ の開集合 $\mathbb{R}+i(-\pi,\pi)=\{z\in \mathbb{C}:-\pi<{\rm Im}(z)<\pi\}$ と $\mathbb{C}\backslash (-\infty,0]=\{z\in\mathbb{C}:z\notin (-\infty,0]\}$ に対し、 $$ \mathbb{R}+i(-\pi,\pi)\ni x+i\theta\mapsto \exp(x+i\theta)=e^xe^{i\theta}\in \mathbb{C}\backslash (-\infty,0] $$ は全単射正則関数であり、各点での微分は$0$ではない。よって複素解析の初歩の定理1.7より、この逆関数 $$ {\rm Log}\colon \mathbb{C}\backslash(-\infty,0]\ni z\mapsto \log(\lvert z\rvert)+i{\rm Arg}(z)\in \mathbb{R}+i(-\pi,\pi) $$ は正則関数であり、 $$ {\rm Log}'(z)=\frac{1}{\exp'({\rm Log}(z))}=\frac{1}{z} $$ が成り立つ。正則関数 ${\rm Log}\colon \mathbb{C}\backslash (-\infty,0]\rightarrow\mathbb{C}$ を対数の主値と言う。
命題7.2(対数の主値に対する正則汎関数計算)
${\rm Log}\colon \mathbb{C}\backslash (-\infty,0]\rightarrow \mathbb{C}$ を対数の主値とし、$\mathcal{A}$ を単位的Banach環とする。このとき $\lVert A-1\rVert<1$ なる任意の $A\in \mathcal{A}$ に対し、正則汎関数計算(Banach環とC*-環のスペクトル理論の定義2.6)${\rm Log}(A)\in \mathcal{A}$ が定義でき、 $$ {\rm Log}(A)=\sum_{n\in \mathbb{N}}\frac{(-1)^{n-1}}{n}(A-1)^n $$ が成り立つ。
Proof.
任意の$\lambda\in \sigma(A)$に対し、$\lambda-1\in \sigma(A-1)$ であるから、Banach環とC*-環のスペクトル理論の命題1.10より、 $$ \lvert \lambda-1\rvert\leq {\rm spr}(A-1)\leq \lVert A-1\rVert<1 $$ である。よって、 $$ \sigma(A)\subset \{\lambda\in \mathbb{C}:\lvert \lambda-1\rvert<1\}\subset \mathbb{C}\backslash (-\infty,0] $$ であるから、正則汎関数計算 ${\rm Log}(A)\in \mathcal{A}$ が定義できる。複素解析の初歩の定理6.1より、 $$ {\rm Log}(\lambda)=\sum_{n\in \mathbb{N}}\frac{(-1)^{n-1}}{n}(\lambda-1)^n\quad (\lvert \lambda-1\rvert<1) $$ であるから、Banach環とC*-環のスペクトル理論の定理2.8より、 $$ {\rm Log}(A)=\sum_{n\in \mathbb{N}}\frac{(-1)^{n-1}}{n}(A-1)^n $$ が成り立つ。
□補題7.3
$\mathcal{A}$ を単位的Banach環とする。このとき、
- $(1)$ $A,B\in \mathcal{A}$ がある $r\in [0,\infty)$ に対し $\lVert A\rVert,\lVert B\rVert\leq r$ を満たすならば、
$$ \lVert A^n-B^n\rVert\leq nr^{n-1}\lVert A-B\rVert\quad(\forall n\in \mathbb{Z}_+) $$ が成り立つ。
- $(2)$ $A,B\in \mathcal{A}$ がある $r\in [0,\infty)$ に対し $\lVert A\rVert,\lVert B\rVert\leq r$ を満たすならば、
$$ \lVert \exp(A)-\exp(B)\rVert\leq e^r\lVert A-B\rVert $$ が成り立つ。特に ${\cal A}\ni A\mapsto \exp(A)\in {\cal A}$は連続である。
- $(3)$ $A,B\in \mathcal{A}$ がある $r\in [0,1)$ に対し $\lVert A-1\rVert,\lVert B-1\rVert\leq r$ を満たすならば、
$$ \lVert {\rm Log}(A)-{\rm Log}(B)\rVert\leq \frac{1}{1-r}\lVert A-B\rVert $$ が成り立つ。特に $\{A\in {\cal A}:\lVert A-1\rVert<1\}\ni A\mapsto {\rm Log}(A)\in {\cal A}$は連続である。
Proof.
- $(1)$ $n\in \mathbb{Z}_+$ に関する帰納法で示す。$n=0$ の場合に成り立つことは自明である。ある $n\in \mathbb{Z}_+$ に対して成り立つと仮定する。
$$ A^{n+1}-B^{n+1}=A(A^n-B^n)+(A-B)B^n $$ であるから、 $$ \begin{aligned} \lVert A^{n+1}-B^{n+1}\rVert&\leq \lVert A(A^n-B^n)\rVert+\lVert (A-B)B^n\rVert\leq \lVert A\rVert\lVert A^n-B^n\rVert+\lVert A-B\rVert\lVert B\rVert^n\\ &\leq rnr^{n-1}\lVert A-B\rVert+r^n\lVert A-B\rVert=(n+1)r^{n}\lVert A-B\rVert \end{aligned} $$ となる。よって $n+1$ の場合も成り立つ。
- $(2)$ Banach環とC*-環のスペクトル理論の命題3.2より $\exp(A)=\sum_{n\in \mathbb{Z}_+}\frac{A^n}{n!}$, $\exp(B)=\sum_{n\in \mathbb{Z}_+}\frac{B^n}{n!}$ であるから、$(1)$ より、
$$ \begin{aligned} &\lVert \exp(A)-\exp(B)\rVert=\left\lVert \sum_{n\in \mathbb{N}}\frac{1}{n!}(A^n-B^n)\right\rVert\leq \sum_{n\in \mathbb{N}}\frac{1}{n!}\lVert A^n-B^n\rVert\\ &\leq \sum_{n\in \mathbb{N}}\frac{1}{(n-1)!}r^{n-1}\lVert A-B\rVert=e^r\lVert A-B\rVert \end{aligned} $$ である。
- $(3)$ 命題7.2より ${\rm Log}(A)=\sum_{n\in \mathbb{N}}\frac{(-1)^{n-1}}{n}(A-1)^n$, ${\rm Log}(B)=\sum_{n\in\mathbb{N}}\frac{(-1)^{n-1}}{n}(B-1)^n$ であるから、$(1)$ より、
$$ \begin{aligned} &\lVert {\rm Log}(A)-{\rm Log}(B)\rVert=\left\lVert \sum_{n\in\mathbb{N}}\frac{(-1)^{n-1}}{n}((A-1)^n-(B-1)^n)\right\rVert\\ &\leq\sum_{n\in\mathbb{N}}\frac{1}{n}\lVert (A-1)^n-(B-1)^n\rVert \leq\sum_{n\in \mathbb{N}}r^{n-1}\lVert (A-1)-(B-1)\rVert\\ &=\sum_{n\in \mathbb{N}}r^{n-1}\lVert A-B\rVert=\frac{1}{1-r}\lVert A-B\rVert \end{aligned} $$ である。
□定理7.4(Lieの積公式)
$\mathcal{A}$ を単位的Banach環とする。任意の $A,B\in \mathcal{A}$ に対し、 $$ \exp(A+B)=\lim_{n\rightarrow\infty}\left(\exp\left(\frac{A}{n}\right)\exp\left(\frac{B}{n}\right)\right)^n $$ が成り立つ。
Proof.
任意の $A,B\in \mathcal{A}$ と任意の $r\in (0,1)$ を取り固定する。 $$ A_n\colon=\frac{A}{n},\quad B_n\colon=\frac{B}{n}\quad(\forall n\in \mathbb{N}) $$ とおく。補題7.3の $(2)$ より十分大きい $n_0\in \mathbb{N}$ を取れば、 $$ \lVert \exp(A_n+B_n)-1\rVert\leq r,\quad \lVert \exp(A_n)\exp(B_n)-1\rVert\leq r\quad(\forall n\geq n_0)\quad\quad(*) $$ となる。そこで、 $$ C_n\colon={\rm Log}(\exp(A_n)\exp(B_n))-(A_n+B_n)\quad(\forall n\geq n_0) $$ とおく。正則汎関数計算の合成(Banach環とC*-環のスペクトル理論の定理2.8の $(4)$ )より、 $$ A_n+B_n={\rm Log}(\exp(A_n+B_n))\quad(\forall n\geq n_0) $$ であるので、補題7.3の $(3)$ と $(*)$ より、 $$ \begin{aligned} &\lVert C_n\rVert=\lVert {\rm Log}(\exp(A_n)\exp(B_n))-{\rm Log}(\exp(A_n+B_n))\rVert\\ &\leq \frac{1}{1-r}\lVert \exp(A_n)\exp(B_n)-\exp(A_n+B_n)\rVert\quad(\forall n\geq n_0)\quad\quad(**) \end{aligned} $$ が成り立つ。ここで任意の $n\in \mathbb{N}$ に対し、 $$ \exp(A_n)\exp(B_n)=\lim_{N\rightarrow\infty}\sum_{p=0}^{N}\sum_{q=0}^{N}\frac{A_n^p}{p!}\frac{B_n^q}{q!}=\lim_{N\rightarrow\infty}\sum_{m=0}^{2N}\sum_{p+q=m}\frac{A_n^p}{p!}\frac{B_n^q}{q!} $$ なので、 $$ \begin{aligned} &\exp(A_n)\exp(B_n)-\exp(A_n+B_n)=\lim_{N\rightarrow\infty}\sum_{m=0}^{2N}\left(\sum_{p+q=m}\frac{A_n^p}{p!}\frac{B_n^q}{q!}-\frac{(A_n+B_n)^m}{m!}\right)\\ &=\lim_{N\rightarrow\infty}\sum_{m=2}^{2N}\left(\sum_{p+q=m}\frac{A_n^p}{p!}\frac{B_n^q}{q!}-\frac{(A_n+B_n)^m}{m!}\right) \end{aligned} $$ であり、 $$ \left\lVert \sum_{p+q=m}\frac{A_n^p}{p!}\frac{B_n^q}{q!}-\frac{(A_n+B_n)^m}{m!}\right\rVert\leq 2\sum_{\substack{p+q=m,\\p,q\geq1}}\frac{\lVert A_n\rVert^p}{p!}\frac{\lVert B_n\rVert^q}{q!}\quad(\forall m\geq 2) $$ であるから、 $$ \begin{aligned} &\lVert \exp(A_n)\exp(B_n)-\exp(A_n+B_n)\rVert\leq \lim_{N\rightarrow\infty}2\sum_{m=2}^{2N}\sum_{\substack{p+q=m,\\p,q\geq1}}\frac{\lVert A_n\rVert^p}{p!}\frac{\lVert B_n\rVert^q}{q!}\\ &=2(\exp(\lVert A_n\rVert)-1)(\exp(\lVert B_n\rVert)-1) \end{aligned} $$ である。よって $\{n(\exp(\lVert A_n\rVert)-1)\}_{n\in \mathbb{N}}$ が有界であることと $(**)$ より、 $$ \lVert nC_n\rVert\leq \frac{2n}{1-r}(\exp(\lVert A_n\rVert)-1)(\exp(\lVert B_n\rVert)-1)\rightarrow0\quad(n\rightarrow\infty)\quad\quad(***) $$ が成り立つ。$(*)$ より、 $$ A_n+B_n+C_n={\rm Log}(\exp(A_n)\exp(B_n))\quad(\forall n\geq n_0) $$ であるから、正則汎関数計算の合成(Banach環とC*-環のスペクトル理論の定理2.8の $(4)$ )より、 $$ \exp(A_n)\exp(B_n)=\exp(A_n+B_n+C_n)\quad(\forall n\geq n_0)\quad\quad(****) $$ である。$(***)$ より、 $$ n(A_n+B_n+C_n)=A+B+nC_n\rightarrow A+B\quad(n\rightarrow\infty) $$ であるから、$(****)$ とBanach環とC*-環のスペクトル理論の命題3.2より、 $$ (\exp(A_n)\exp(B_n))^n=(\exp(A_n+B_n+C_n))^n=\exp(n(A_n+B_n+C_n))\rightarrow \exp(A+B)\quad(n\rightarrow\infty) $$ である。
□命題7.5
$\mathcal{A}$ を単位的Banach環とし、加法群 $\mathbb{R}$ から $\mathcal{A}$ の可逆元全体のなす乗法群 ${\rm GL}(\mathcal{A})$ への連続な群準同型写像 $\alpha\colon \mathbb{R}\ni t\mapsto \alpha(t)\in {\rm GL}(\mathcal{A})$ を考える。このとき $\alpha$ は各点で微分可能である。そして、 $$ A\colon=\frac{d\alpha}{dt}(0)\in\mathcal{A} $$ とおくと $\alpha(t)=\exp(tA)$ $(\forall t\in \mathbb{R})$ が成り立つ。
Proof.
$\alpha(0)=1$ であるから $\alpha$ の連続性より任意の $\epsilon\in (0,1)$ に対し $\delta\in (0,\infty)$ が存在し、 $$ \lVert \alpha(t)-1\rVert\leq\epsilon\quad(\forall t\in [-\delta,\delta])\quad\quad(*) $$ が成り立つ。Urysohnの補題より台がコンパクトで滑らかな非負値関数 $\varphi\colon \mathbb{R}\rightarrow[0,\infty)$ で、 $$ {\rm supp}(\varphi)\subset [-\delta,\delta],\quad \int_{\mathbb{R}}\varphi(t)dt=1\quad\quad(**) $$ を満たすものが取れる。台がコンパクトなBanach空間値連続関数 $\mathbb{R}\ni t\mapsto \varphi(t)\alpha(t)\in \mathcal{A}$ のBochner積分(測度と積分9:Bochner積分の定義44.1)として、 $$ B\colon=\int_{\mathbb{R}}\varphi(t)\alpha(t)dt\in \mathcal{A} $$ を定義すると、$(*),(**)$ より、 $$ \lVert B-1\rVert=\left\lVert \int_{\mathbb{R}}\varphi(t)(\alpha(t)-1)dt\right\rVert\leq \int_{-\delta}^{\delta}\varphi(t)\lVert \alpha(t)-1\rVert dt\leq \epsilon<1 $$ であるから、Banach環とC*-環のスペクトル理論の命題1.2より、 $$ B=1-(1-B)\in {\rm GL}(\mathcal{A}) $$ である。 $$ B\alpha(t)=\int_{\mathbb{R}}\varphi(s)\alpha(s)\alpha(t)ds=\int_{\mathbb{R}}\varphi(s)\alpha(s+t)ds=\int_{\mathbb{R}}\varphi(s-t)\alpha(s)ds\quad(\forall t\in \mathbb{R}) $$ であり、$\varphi$ は台がコンパクトな滑らかな関数なので、Lebesgue優収束定理より、 $$ \mathbb{R}\ni t\mapsto B\alpha(t)=\int_{\mathbb{R}}\varphi(s-t)\alpha(s)ds\in \mathcal{A} $$ が各点で微分可能である。よって、 $$ \alpha\colon \mathbb{R}\ni t\mapsto \alpha(t)=B^{-1}B\alpha(t)\in \mathcal{A} $$ も各点で微分可能である。今、 $$ A\colon=\frac{d\alpha}{dt}(0)\in \mathcal{A} $$ とおく。 $$ \alpha(t+h)=\alpha(h)\alpha(t)\quad(\forall t,h\in \mathbb{R}) $$ より、 $$ \frac{d\alpha}{dt}(t)=A\alpha(t)\quad(\forall t\in \mathbb{R}) $$ であり、 $$ \frac{d}{dt}(\exp(tA))=\frac{d}{dt}\sum_{n\in \mathbb{Z}_+}\frac{(tA)^n}{n!} =\sum_{n\in\mathbb{N}}\frac{t^{n-1}A^n}{(n-1)!}=\exp(tA)A\quad(\forall t\in\mathbb{R}) $$ より、 $$ \begin{aligned} &\frac{d}{dt}(\exp(-tA)\alpha(t))=\left(\frac{d}{dt}(\exp(-tA))\right)\alpha(t) +\exp(-tA)\frac{d\alpha}{dt}(t)\\ &=\exp(-tA)(-A)\alpha(t)+\exp(-tA)A\alpha(t)=0\quad(\forall \in t\in \mathbb{R}) \end{aligned} $$ であるので、微積分学の基本定理より、 $$ \exp(-tA)\alpha(t)=1\quad(\forall t\in \mathbb{R}) $$ が成り立つ。ゆえに $\alpha(t)=\exp(tA)$ $(\forall t\in \mathbb{R})$ が成り立つ。
□定義7.6(線形Lie群)
$\mathcal{V}$ を $\mathbb{C}$ 上の有限次元Hilbert空間とする。$\dim(\mathcal{V})=N\in \mathbb{N}$ とすると、$\dim(\mathbb{B}({\cal V}))=N^2$であるから、位相線形空間1:ノルムと内積の命題4.1より、$\mathbb{B}(\mathcal{V})$ は $\mathbb{C}^{N^2}$ と同相である。よって $\mathbb{B}(\mathcal{V})$ は第二可算公理を満たす局所コンパクトHausdorff空間である。またBanach環とC*-環のスペクトル理論の命題1.3より ${\rm GL}(\mathbb{B}(\mathcal{V}))$ は $\mathbb{B}(\mathcal{V})$ の開集合であるから${\rm GL}(\mathbb{B}(\mathcal{V}))$ も第二可算公理を満たす局所コンパクトHausdorff空間である。乗法群${\rm GL}(\mathbb{B}({\cal V}))$において乗法と逆元を取る演算は連続である(Banach環とC*-環のスペクトル理論の命題1.4)から、${\rm GL}(\mathbb{B}({\cal V}))$は局所コンパクト群である。したがって ${\rm GL}(\mathbb{B}(\mathcal{V}))$ の閉部分群も第二可算公理を満たす局所コンパクト群である。${\rm GL}(\mathbb{B}(\mathcal{V}))$の閉部分群を${\cal V}$上の線形Lie群と言う。
定義7.7(典型的な線形Lie群)
$\mathbb{B}(\mathbb{C}^N)$ の元を $\mathbb{C}^N$ の標準基底に関する行列表現と同一視し、$\mathbb{B}(\mathbb{C}^N)={\rm M}_{N\times N}(\mathbb{C})$ とみなす。
- $(1)$
$$ {\rm GL}(N,\mathbb{C})\colon={\rm GL}(\mathbb{B}(\mathbb{C}^N))=\{A\in \mathbb{M}_{N\times N}(\mathbb{C}):\text{$A$ は可逆}\} $$ を $N$ 次の一般線形群と言う。 $$ {\rm GL}(N,\mathbb{R})\colon=\{A\in \mathbb{M}_{N\times N}(\mathbb{R}):\text{$A$ は可逆}\} $$ は ${\rm GL}(N,\mathbb{C})$ の閉部分群であるから $\mathbb{C}^N$ 上の線形Lie群である。${\rm GL}(N,\mathbb{R})$ を $N$ 次の実一般線形群と言う。
- $(2)$
$\mathbb{M}_{N\times N}(\mathbb{C})\ni A\mapsto {\rm det}(A)\in \mathbb{C}$ は連続であるから、 $$ \begin{aligned} &{\rm SL}(N,\mathbb{C})\colon=\{A\in {\rm GL}(N,\mathbb{C}):{\rm det}(A)=1\},\\ &{\rm SL}(N,\mathbb{R})\colon=\{A\in {\rm GL}(N,\mathbb{R}):{\rm det}(A)=1\} \end{aligned} $$ はそれぞれ ${\rm GL}(N,\mathbb{C})$ の閉部分群である。よっていずれも$\mathbb{C}^N$ 上の線形Lie群である。${\rm SL}(N,\mathbb{C})$ を $N$ 次の特殊線形群、${\rm SL}(N,\mathbb{R})$ を $N$ 次の実特殊線形群と言う。
- $(3)$
$$ \begin{aligned} &{\rm O}(N)\colon=\{A\in {\rm GL}(N,\mathbb{R}):A^{\top}A=1\},\\ &{\rm SO}((N)\colon=\{A\in {\rm O}(N):{\rm det}(A)=1\} \end{aligned} $$ とおく。$\mathbb{M}_{N\times N}(\mathbb{C})=\mathbb{C}^{N^2}$ とみなしたとき、${\rm O}(N), {\rm SO}(N)$ は $\mathbb{C}^{N^2}$ の有界閉集合であるからコンパクトである。よって${\rm O}(N), {\rm SO}(N)$はそれぞれ${\rm GL}(N,\mathbb{C})$のコンパクト部分群であるから $\mathbb{C}^N$ 上のコンパクト線形Lie群である。${\rm O}(N)$ を $N$ 次の直交群、${\rm SO}(N)$ を $N$ 次の特殊直交群と言う。
- $(4)$
$$ \begin{aligned} &{\rm U}(N)\colon=\{A\in {\rm GL}(N,\mathbb{C}):A^*A=1\},\\ &{\rm SU}(N)\colon=\{A\in {\rm U}(N):{\rm det}(A)=1\} \end{aligned} $$ とおく。$\mathbb{M}_{N\times N}(\mathbb{C})=\mathbb{C}^{N^2}$ とみなしたとき、${\rm U}(N), {\rm SU}(N)$ は $\mathbb{C}^{N^2}$ の有界閉集合であるからコンパクトである。よって${\rm U}(N),{\rm SU}(N)$はそれぞれ${\rm GL}(N,\mathbb{C})$のコンパクト部分群であるから $\mathbb{C}^N$ 上のコンパクト線形Lie群である。${\rm U}(N)$ を $N$ 次のユニタリ群、${\rm SU}(N)$ を $N$ 次の特殊ユニタリ群と言う。
定義7.7(交換子積)
$\mathcal{H}$ をHilbert空間、$S,T$ を $\mathcal{H}$ 上の線形作用素とする。 $$ D([S,T])=D(ST)\cap D(TS),\quad [S,T]\colon D([S,T])\ni v\mapsto STv-TSv\in \mathcal{H} $$ なる $\mathcal{H}$ 上の線形作用素を定義する。[22]$[S,T]$ を $S,T$ の交換子積と言う。
定義7.8(線形Lie群に付随するLie代数)
$\mathcal{V}$ を有限次元Hilbert空間、$G$ を $\mathcal{V}$ 上の線形Lie群(定義7.6)とする。 $$ {\rm Lie}(G)\colon=\{A\in \mathbb{B}(\mathcal{V}):\forall t\in \mathbb{R}, \exp(tA)\in G\} $$ を $G$ に付随する ${\rm Lie}$ 代数と言う。${\rm Lie}(G)$ は次の基本性質を持つ(次の定理7.9)。
- $(1)$ ${\rm Lie}(G)$ は実線形空間である。
- $(2)$ 任意の $A\in {\rm Lie}(G)$, $g\in G$ に対し $g^{-1}Ag\in {\rm Lie}(G)$ である。
- $(3)$ 任意の $A,B\in {\rm Lie}(G)$ に対し、$[A,B]\in {\rm Lie}(G)$ である。
定理7.9(Lie代数の基本性質)
定義7.8における $(1),(2),(3)$ が成り立つ。
Proof.
- $(1)$ 任意の $A,B\in {\rm Lie}(G)$、任意の $t\in \mathbb{R}$ に対し、Lieの積公式(定理7.4)と $G$ が ${\rm GL}(\mathbb{B}(\mathcal{V}))$ の閉部分群であることから、
$$ \exp(t(A+B))=\lim_{n\rightarrow\infty}\left(\exp\left(\frac{tA}{n}\right)\exp\left(\frac{tB}{n}\right)\right)^n\in G. $$ よって $A+B\in {\rm Lie}(G)$ である。${\rm Lie}(G)$ が実数倍で閉じていることは自明である。よって ${\rm Lie}(G)$ は実線形空間である。
- $(2)$ 任意の $A\in {\rm Lie}(G),g\in G,t\in \mathbb{R}$ に対し、
$$ (tg^{-1}Ag)^n=g^{-1}(tA)^ng\quad(\forall n\in \mathbb{N}) $$ であるから、 $$ \exp(tg^{-1}Ag)=\sum_{n\in \mathbb{Z}_+}\frac{(tg^{-1}Ag)^n}{n!}=\sum_{n\in \mathbb{Z}_+}g^{-1}\frac{(tA)^n}{n!}g=g^{-1}\exp(tA)g\in G. $$ よって $g^{-1}Ag\in {\rm Lie}(g)$ である。
- $(3)$ 任意の $A,B\in {\rm Lie}(G)$ に対し $(2)$ より、
$$ \exp(tA)B\exp(-tA)\in{\rm Lie}(G)\quad(\forall t\in \mathbb{R}) $$ であり、$(1)$ より ${\rm Lie}(G)$ は有限次元実線形空間なので、位相線形空間1:ノルムと内積の系4.3より、${\rm Lie}(G)$ は $\mathbb{B}(\mathcal{V})$ の閉実線形部分空間である。よって、 $$ [A,B]=\frac{d}{dt}(\exp(tA)B\exp(-tA))\big|_{t=0}\in {\rm Lie}(G) $$ である。
□補題7.10(行列の指数関数の行列式)
任意の $A\in \mathbb{M}_{N\times N}(\mathbb{C})$ に対し、 $$ {\rm det}(\exp(A))=\exp({\rm Tr}(A)) $$ が成り立つ。
Proof.
$\lambda\in \mathbb{C}$ を $A$ の固有値、$u_1\in \mathbb{C}^N$ を固有値 $\lambda$ に対する $A$ の固有ベクトルとし、$u_2,\ldots,u_N\in \mathbb{C}^N$ を $(u_1,\ldots,u_N)$ が $\mathbb{C}^N$ の基底となるように取る。このとき $U=(u_1,\ldots,u_N)\in {\rm GL}(N,\mathbb{C})$(行列の縦ベクトル表記)であり、ある $A'\in \mathbb{M}_{N-1,N-1}(\mathbb{C})$ に対し、 $$ (Au_1,\ldots,Au_N)=(u_1,\ldots,u_N)\begin{pmatrix}\lambda&*\\0&A'\end{pmatrix} $$ と表せるので、 $$ U^{-1}AU=\begin{pmatrix}\lambda&*\\0&A'\end{pmatrix} $$ である。このことと $N$ に関する帰納法により、任意の $N\in \mathbb{N}$, $A\in \mathbb{M}_{N\times N}(\mathbb{C})$ に対し、$U\in {\rm GL}(N,\mathbb{C})$ で $U^{-1}AU$ が上三角行列(対角成分より下の成分が全て $0$ の行列)となるものが取れることが分かる。今、任意の $A\in \mathbb{M}_{N\times N}(\mathbb{C})$ を取り、$B\colon=U^{-1}AU$ が上三角行列となるような $U\in {\rm GL}(N,\mathbb{C})$ を取る。このときトレースの性質(Hilbert空間上の作用素論の命題16.9の $(3)$)より、 $$ {\rm Tr}(A)={\rm Tr}(U^{-1}AU)={\rm Tr}(B) $$ である。そして、 $$ \exp(A)=\sum_{n\in\mathbb{Z}_+}\frac{A^n}{n!}=\sum_{n\in \mathbb{Z}_+}\frac{(UBU^{-1})^n}{n!}=\sum_{n\in \mathbb{Z}_+}U\frac{B^n}{n!}U^{-1}=U\exp(B)U^{-1} $$ より、 $$ {\rm det}(\exp(A))={\rm det}(U\exp(B)U^{-1})={\rm det}(U){\rm det}(\exp(B)){\rm det}(U)^{-1}={\rm det}(\exp(B)) $$ である。各 $n\in \mathbb{Z}_+$ に対し $B^n$ は上三角行列であるから $\exp(B)=\sum_{n\in \mathbb{Z}_+}\frac{B^n}{n!}$ も上三角行列であり、$B$ の対角成分を上から $\lambda_1,\ldots,\lambda_N$ とおくと、各 $B^n$ の対角成分は上から $\lambda_1^n,\ldots,\lambda_N^n$、したがって $\exp(B)$ の対角成分は上から $\exp(\lambda_1),\ldots,\exp(\lambda_N)$ である。ゆえに、 $$ {\rm det}(B)=\exp(\lambda_1)\cdots\exp(\lambda_N)=\exp(\lambda_1+\cdots+\lambda_N) =\exp({\rm Tr}(B)) $$ である。よって、 $$ {\rm det}(A)={\rm det}(B)=\exp({\rm Tr}(B))=\exp({\rm Tr}(A)) $$ である。
□命題7.11(典型的な線形Lie群に対するLie代数)
定義7.7における線形Lie群に付随するLie代数について次が成り立つ。
- $(1)$ 一般線形群 ${\rm GL}(N,\mathbb{C})$、実一般線形群 ${\rm GL}(N,\mathbb{R})$ に付随するLie代数は、
$$ \begin{aligned} &{\rm Lie}({\rm GL}(N,\mathbb{C}))=\mathbb{M}_{N\times N}(\mathbb{C}),\\ &{\rm Lie}({\rm GL}(N,\mathbb{R}))=\mathbb{M}_{N\times N}(\mathbb{R}) \end{aligned} $$ である。
- $(2)$ 特殊線形群 ${\rm SL}(N,\mathbb{C})$、実特殊線形群 ${\rm SL}(N,\mathbb{R})$ に付随するLie代数は、
$$ \begin{aligned} &{\rm Lie}({\rm SL}(N,\mathbb{C}))=\{A\in \mathbb{M}_{N\times N}(\mathbb{C}):{\rm Tr}(A)=0\},\\ &{\rm Lie}({\rm SL}(N,\mathbb{R}))=\{A\in \mathbb{M}_{N\times N}(\mathbb{R}):{\rm Tr}(A)=0\} \end{aligned} $$ である。
- $(3)$ 直交群 ${\rm O}(N)$、特殊直交群 ${\rm SO}(N)$ に付随するLie代数は、
$$ \begin{aligned} &{\rm Lie}({\rm O}(N))=\{A\in \mathbb{M}_{N\times N}(\mathbb{R}):A^{\top}+A=0\},\\ &{\rm Lie}({\rm SO}(N))=\{A\in \mathbb{M}_{N\times N}(\mathbb{R}):A^{\top}+A=0\} \end{aligned} $$ である。
- $(4)$ ユニタリ群 ${\rm U}(N)$、特殊ユニタリ群 ${\rm SU}(N)$ に付随するLie代数は、
$$ \begin{aligned} &{\rm Lie}({\rm U}(N))=\{A\in \mathbb{M}_{N\times N}(\mathbb{C}):A^*+A=0\},\\ &{\rm Lie}({\rm SU}(N))=\{A\in \mathbb{M}_{N\times N}(\mathbb{C}):A^*+A=0, {\rm Tr}(A)=0\} \end{aligned} $$ である。
Proof.
任意の $A\in \mathbb{M}_{N\times N}(\mathbb{C})$ に対し、$tA$ と $-tA$ が可換であることから、Banach環とC*-環のスペクトル理論の命題3.2より、 $$ \exp(-tA)=\exp(tA)^{-1}\quad(\forall t\in \mathbb{R}) $$ である。よって${\rm Lie}({\rm GL}(N,\mathbb{C}))=\mathbb{M}_{N\times N}(\mathbb{C})$が成り立つ。また$A\in \mathbb{M}_{N\times N}(\mathbb{C})$に対し $t=0$における微分を考えれば、 $$ \exp(tA)\in {\rm GL}(N,\mathbb{R})\quad \Leftrightarrow\quad A\in \mathbb{M}_{N\times N}(\mathbb{R}) $$ であることが分かる。よって${\rm Lie}({\rm GL}(N,\mathbb{R}))=\mathbb{M}_{N\times N}(\mathbb{R})$が成り立つ。 補題7.10より、任意の $A\in \mathbb{M}_{N\times N}(\mathbb{C})$ に対し、 $$ {\rm det}(\exp(tA))=\exp({\rm Tr}(tA))\quad(\forall t\in \mathbb{R}) $$ であるから、 $$ {\rm det}(\exp(tA))=1\quad(\forall t\in\mathbb{R})\quad\Leftrightarrow\quad {\rm Tr}(A)=0 $$ が成り立つ。これより $(2)$ が成り立つ。また任意の $A\in \mathbb{M}_{N\times N}(\mathbb{C})$ に対し、 $$ \frac{d}{dt}(\exp(tA)^*\exp(tA))\big|_{t=0}=A^*+A $$ であるから、 $$ \exp(tA)^*\exp(tA)=1\quad(\forall t\in \mathbb{R})\quad\Rightarrow \quad A^*+A=0 $$ である。逆に $A^*+A=0$ ならば $A$ と $A^*$ は可換なので、Banach環とC*-環のスペクトル理論の命題3.2より、 $$ \exp(tA)^*\exp(tA)=\exp(tA^*)\exp(tA)=\exp(t(A^*+A))=1\quad(\forall t\in \mathbb{R}) $$ であるから、 $$ A^*+A=0\quad\Rightarrow \quad \exp(tA)^*\exp(tA)=1\quad(\forall t\in \mathbb{R}) $$ も成り立つ。これらのことから $(3),(4)$ が成り立つ。
□定理7.12(指数写像定理)
$\mathcal{V}$ を有限次元Hilbert空間、$G$ を $\mathcal{V}$ 上の線形Lie群とする。このとき $0\in {\rm Lie}(G)$ の開近傍 $U\subset {\rm Lie}(G)$ と $1\in G$ の開近傍 $V\subset G$ で、 $$ U\ni A\mapsto \exp(A)\in V $$ が同相写像となるものが取れる。
Proof.
$\dim(\mathcal{V})=N$ とすると、$\mathbb{B}(\mathcal{V})$ は実線形空間として $2N^2$ 次元である。実線形空間 ${\rm Lie}(G)\subset \mathbb{B}(\mathcal{V})$ の基底を $e_1,\ldots,e_n$ として、これを延長して実線形空間 $\mathbb{B}(\mathcal{V})$ の基底 $e_1,\ldots,e_n,\ldots,e_{2N^2}$ を構成する。そして、 $$ \mathcal{D}\colon={\rm span}\{e_{n+1},\ldots,e_{2N^2}\}\subset \mathbb{B}(\mathcal{V}) $$ とおく。すると、 $$ \mathbb{B}(\mathcal{V})={\rm Lie}(G)\oplus \mathcal{D} $$ と直和分解される。そこで、 $$ \Phi\colon \mathbb{B}(\mathcal{V})={\rm Lie}(G)\oplus \mathcal{D}\ni A+B\mapsto \exp(A)\exp(B)=\left(\sum_{n\in \mathbb{Z}_+}\frac{A^n}{n!}\right)\left(\sum_{n\in \mathbb{Z}_+}\frac{B^n}{n!}\right)\in \mathbb{B}(\mathcal{V}) $$ なる写像を定義する。各 $j\in \{1,\ldots,2N^2\}$ に対し、数え上げ測度に関するLebesgue優収束定理により、 $e_j$ に対応する成分に関する $\Phi$ の微分 $\partial_j\Phi$が存在し、 $\partial_1\Phi,\ldots,\partial_{2N^2}\Phi$ はそれぞれ連続であることが分かる。そして、 $$ \partial_j\Phi(0)=e_j\quad(j=1,\ldots,2N^2) $$ であるから、逆関数定理(Euclid空間における微積分1の定理7.1)より、$0\in \mathbb{B}(\mathcal{V})$ の開近傍 $U_0\subset \mathbb{B}(\mathcal{V})$ と $1\in \mathbb{B}(\mathcal{V})$ の開近傍 $V_0\subset \mathbb{B}(\mathcal{V})$ で、 $$ \Phi\colon U_0\rightarrow V_0\quad\quad(1) $$ が同相写像となるものが取れる。今、 $$ \Phi(U_0\cap {\rm Lie}(G))=\exp(U_0\cap {\rm Lie}(G))\quad\quad(2) $$ が $1\in G$ の $G$ における近傍であることを背理法で示す。そこで $(2)$ が $1\in G$ の $G$ における近傍ではないと仮定する。このとき $G$ の列 $(g_n)_{n\in \mathbb{N}}$ で、 $$ g_n\in V_0\cap G,\quad g_n\notin \Phi(U_0\cap {\rm Lie}(G))\quad(\forall n\in\mathbb{N}),\quad \lim_{n\rightarrow\infty}g_n=1\quad\quad(3) $$ なるものが取れる。$(1)$ は同相写像であることと $(3)$ より、${\rm Lie}(G)$ の列 $(A_n)_{n\in \mathbb{N}}$ と $\mathcal{D}$ の列 $(B_n)_{n\in \mathbb{N}}$ で、 $$ g_n=\Phi(A_n+B_n)=\exp(A_n)\exp(B_n),\quad B_n\neq0\quad(\forall n\in\mathbb{N}),\quad\quad(4) $$ $$ A_n\rightarrow0,\quad B_n\rightarrow0\quad(n\rightarrow\infty)\quad\quad(5) $$ なるものが取れる。$A_n\in {\rm Lie}(G)$ より $\exp(A_n)\in G$ $(\forall n\in \mathbb{N})$ であるから、 $$ \exp(B_n)=\exp(A_n)^{-1}g_n\in G\quad(\forall n\in \mathbb{N})\quad\quad(6) $$ である。$\mathcal{D}$ は有限次元ノルム空間であるから、位相線形空間1:ノルムと内積の命題4.1より、$\mathcal{D}$ の単位ノルム閉球は点列コンパクトである。よって $\left(\frac{B_n}{\lVert B_n\rVert}\right)_{n\in \mathbb{N}}$ のある部分列 $\left(\frac{B_{k(n)}}{\lVert B_{k(n)}\rVert}\right)_{n\in \mathbb{N}}$ は収束する。そこで、 $$ B\colon=\lim_{n\rightarrow\infty}\frac{B_{k(n)}}{\lVert B_{k(n)}\rVert}\in \mathcal{D}\quad\quad(7) $$ とおく。任意の $t\in \mathbb{R}$ を取り、各 $n\in \mathbb{N}$ について、 $$ m_n\leq \frac{t}{\lVert B_{k(n)}\rVert}<m_n+1 $$ なる $m_n\in \mathbb{Z}$ を取る。$(5)$ より $\lim_{n\rightarrow\infty}\lVert B_{k(n)}\rVert=0$ であるから、 $$ t=\lim_{n\rightarrow\infty}m_n\lVert B_{k(n)}\rVert\quad\quad(8) $$ が成り立つ。よって $(7),(8)$ より、 $$ tB=\lim_{n\rightarrow\infty}m_n\lVert B_{k(n)}\rVert\left(\frac{B_{k(n)}}{\lVert B_{k(n)}\rVert}\right)=\lim_{n\rightarrow\infty}m_nB_{k(n)} $$ であるから、$(6)$ とBanach環とC*-環のスペクトル理論の命題3.2より、 $$ \exp(tB)=\lim_{n\rightarrow\infty}\exp(m_nB_{k(n)})=\lim_{n\rightarrow\infty}\exp(B_{k(n)})^{m_n}\in G $$ が成り立つ。これより任意の $t\in \mathbb{R}$ に対し $\exp(tB)\in G$ が成り立つので $B\in {\rm Lie}(G)$ である。しかし $(7)$ より $B\in \mathcal{D}$, $\lVert B\rVert=1$ であるから、${\rm Lie}(G)\cap \mathcal{D}=\{0\}$ であることに矛盾する。ゆえに $(2)$ は $1\in G$ の $G$ における近傍である。したがって $1\in \mathbb{B}(\mathcal{V})$ の開近傍 $V_1\subset V_0$ で、 $$ V_1\cap G\subset \Phi(U_0\cap {\rm Lie}(G)) $$ なるものが取れる。$(1)$ は同相写像であるから $\Phi(U_1)=V_1$ なる $0\in \mathbb{B}(\mathcal{V})$ の開近傍 $U_1\subset U_0$ が定まり、 $$ \Phi(U_1\cap {\rm Lie}(G))=V_1\cap G $$ である。よって $U\colon=U_1\cap {\rm Lie}(G)$, $V\colon=V_1\cap G$ とおけば、$U\subset {\rm Lie}(G)$, $V\subset G$ が求める $0\in {\rm Lie}(G)$, $1\in G$ の開近傍である。
□補題7.13(局所コンパクト群の開部分群は閉部分群)
$G$ を局所コンパクト群とし、部分群 $H\subset G$ が $G$ の開集合であるとする。このとき $H$ は $G$ の閉部分群である。
Proof.
任意の $x\in G\backslash H$ と任意の $y\in H$ に対し $xy\notin H$ であるので、 $$ G\backslash H=\bigcup_{x\in G\backslash H}xH $$ である。各 $xH$ は $G$ の開集合であるから $G\backslash H$ は $G$ の開集合である。よって $H$ は $G$ の閉部分群である。
□定理7.14(線形Lie群と連結性)
$\mathcal{V}$ を有限次元Hilbert空間、$G$ を $\mathcal{V}$ 上の線形Lie群とする。このとき、
- $(1)$ $G$ の各元は弧状連結な開近傍からなる可算基本近傍系を持つ。
- $(2)$ $G$ の任意の連結成分は開集合である。
- $(3)$ $G$ の任意の連結開集合は弧状連結である。
- $(4)$ 単位元 $1\in G$ を含む $G$ の連結成分 $G_1$ は、
$$ G_1=\{\exp(A_1)\cdots \exp(A_n):n\in \mathbb{N},A_1,\ldots,A_n\in{\rm Lie}(G)\} $$ と表せて、$G_1$ は $\mathcal{V}$ 上の線形Lie群である。さらに ${\rm Lie}(G_1)={\rm Lie}(G)$ が成り立つ。
Proof.
- $(1)$ 実ノルム空間 ${\rm Lie}(G)$ における $0\in {\rm Lie}(G)$ の基本近傍系として$\{B(0,\frac{1}{n})\}_{n\in \mathbb{N}}$が取れる。ただし$B(0,\frac{1}{n})$は$0\in {\rm Lie}(G)$を中心とする半径$\frac{1}{n}$の開球である。指数写像定理(定理7.12)より十分大きい$N\in \mathbb{N}$を取れば、$\{\exp(B(0,\frac{1}{n}))\}_{n\geq N}$は$1\in G$ の基本近傍系であり、各元は$1\in G$の弧状連結な開近傍である。任意の $g\in G$ に対し $\{g\exp(B(0,\frac{1}{n}))\}_{n\geq N}$ は$g\in G$の弧状連結な開近傍からなる基本近傍系である。
- $(2)$ $C\subset G$ を $G$ の連結成分とする。任意の $g\in C$ に対し、$(1)$ より $g$ は弧状連結な開近傍 $U\subset G$ を持つ。$C$ は $G$ の連結成分なので、$g$ を含む最大の連結集合であるから、$U\subset C$ が成り立つ。よって $g$ は $C$ の内点であるから $C$ は $G$ の開集合である。
- $(3)$ $C\subset G$ を連結開集合とする。任意の $g_0\in C$ を取り、
$$ C_1\colon=\{g\in C:\text{$g_0$ と $g$ を結ぶ $C$ 内の連続曲線が存在する}\},\quad C_2\colon=C\backslash C_1 $$ とおくと、$(1)$ より $C_1,C_2$ は $C$ の開集合である。よって $C$ の連結性より $C=C_1$ であるから、$C$ は弧状連結である。
- $(4)$
$$ G_1\colon=\{\exp(A_1)\cdots \exp(A_n):n\in \mathbb{N},A_1,\ldots,A_n\in {\rm Lie}(G)\} $$ とおけば、$G_1$ は $G$ の部分群であり、指数写像定理(定理7.12)より、$G_1$ は $G$ の開集合である。よって補題7.13より、$G_1$ は $G$ の閉部分群であるので、$G_1$ は $\mathcal{V}$ 上の線形Lie群である。また $G_1$ の任意の元 $g=\exp(A_1)\cdots \exp(A_n)$ に対し、 $$ g(t)\colon=\exp(tA_1)\cdots \exp(tA_n)\in G_1\quad(\forall t\in [0,1]) $$ とおけば、$[0,1]\ni t\mapsto g(t)\in G_1$ は $1$ と $g$ を結ぶ $G_1$ 内の連続曲線であるので、$G_1$ は弧状連結である。よって $1\in G$ を含む $G$ の連結成分を $C_1$ とおくと、$G_1\subset C_1$ であり、$G_1$ は $C_1$ の開かつ閉の集合なので、$C_1$ の連結性より、$G_1=C_1$ である。任意の $A\in {\rm Lie}(G)$ と $t\in \mathbb{R}$ に対し、$G_1$ の定義より $\exp(tA)\in G_1$ であるから $A\in {\rm Lie}(G_1)$ である。ゆえに ${\rm Lie}(G_1)={\rm Lie}(G)$ である。
□命題7.15(実行列の固有値と固有ベクトルについて)
$A\in \mathbb{M}_{N\times N}(\mathbb{R})$ とする。このとき、
- $(1)$ $\lambda\in \mathbb{C}$ が $A$ の固有値ならば $\overline{\lambda}$ も $A$ の固有値であり、$u\in \mathbb{C}^N$ が $A$ の固有値 $\lambda$ に対する固有ベクトルならば、$\overline{u}\in \mathbb{C}^N$($u$ の各成分を複素共役にしたもの)は $A$ の固有値 $\overline{\lambda}$ に対する固有ベクトルである。
- $(2)$ $\lambda\in \mathbb{R}$ が $A$ の固有値ならば、
$$ \dim\{u\in \mathbb{R}^N:Au=\lambda u\}=\dim\{u\in \mathbb{C}^N:Au=\lambda u\} $$ が成り立つ。
Proof.
- $(1)$ $\lambda\in \mathbb{C}$, $u\in \mathbb{C}^N$ に対し $Au=\lambda u$ ならば、$A$ が実行列であることから、$A\overline{u}=\overline{\lambda}\overline{u}$ である。
- $(2)$ $\mathbb{R}^N$ のベクトルについて、$\mathbb{R}^N$ において線形独立であることと$\mathbb{C}^N$ において線形独立であることは同値である。よって$\lambda\in \mathbb{R}$ に対し、$\lambda-A\in \mathbb{M}_{N\times N}(\mathbb{R})$の列ベクトルのうち、$\mathbb{R}^N$において線形独立であるものの本数と$\mathbb{C}^N$において線形独立であるものの本数は等しいから、
$$ \dim\{(\lambda-A)u\in \mathbb{R}^N:u\in\mathbb{R}^N\}=\dim\{(\lambda-A)u\in \mathbb{C}^N:u\in \mathbb{C}^N\} $$ である。よって次元定理(速習「線形空間論」の命題4.8)より、 $$ \begin{aligned} &\dim\{u\in \mathbb{R}^N:(\lambda-A)u=0\}=N-\dim\{(\lambda-A)u\in \mathbb{R}^N:u\in \mathbb{R}^N\}\\ &=N-\dim\{(\lambda-A)u\in \mathbb{C}^N:u\in \mathbb{C}^N\}=\dim\{u\in \mathbb{C}^N:(\lambda-A)u=0\} \end{aligned} $$ である。
□命題7.16(実正規行列の直交行列による標準化)
$A\in \mathbb{M}_{N\times N}(\mathbb{R})$ が正規であるとし、$A$ の固有値を重複度を込めて並べたものを、 $$ \lambda_1,\overline{\lambda}_1,\ldots,\lambda_n,\overline{\lambda}_n,\lambda_{2n+1},\ldots,\lambda_N\quad(\lambda_1,\ldots,\lambda_n\in \mathbb{C}\backslash \mathbb{R},\lambda_{2n+1},\ldots,\lambda_N\in \mathbb{R})\quad\quad(*) $$ とおき、 $$ R(\lambda_j)\colon=\begin{pmatrix}{\rm Re}(\lambda_j)&{\rm Im}(\lambda_j)\\-{\rm Im}(\lambda_j)&{\rm Re}(\lambda_j)\end{pmatrix}\in \mathbb{M}_{2\times 2}(\mathbb{R})\quad(j=1,\ldots,n) $$ とおく。このとき直交行列 $T\in {\rm O}(N)$ が存在し、 $$ T^{-1}AT=R(\lambda_1)\oplus \cdots \oplus R(\lambda_n)\oplus \lambda_{2n+1}\oplus\cdots \oplus \lambda_N $$ が成り立つ。ただし右辺は $R(\lambda_1),\ldots,R(\lambda_n)\in \mathbb{M}_{2\times 2}(\mathbb{R})$ と $\lambda_{2n+1},\ldots,\lambda_N$ を左上から順に対角に並べてそれ以外の成分は $0$ とした $N\times N$ 行列である。
Proof.
$A$ は正規行列なので、$\mathbb{C}^N$は$A$の固有空間の和に直交分解できる。このことと命題7.15より、$\mathbb{C}^N$ の正規直交基底 $$ u_1,\overline{u}_1,u_2,\overline{u}_2,\ldots,u_n,\overline{u}_n,u_{2n+1},\ldots,u_{N}\in \mathbb{C}^N\quad\quad(**) $$ で、 $$ \begin{aligned} &Au_j=\lambda_ju_j,\quad A\overline{u}_j=\overline{\lambda}_j\overline{u}_j\quad(j=1,\ldots,n),\\ &Au_k=\lambda_ku_k,\quad u_k\in \mathbb{R}^N\quad(k=2n+1,\ldots,N) \end{aligned} $$ なるものが取れる。$(**)$ を縦ベクトルとして並べてできるユニタリ行列を、 $$ U\colon=(u_1,\overline{u}_1,\ldots,u_n,\overline{u}_n,u_{2n+1},\ldots,u_{N})\in {\rm U}(N) $$ とおき、$(*)$ を左上から対角に並べてできる対角行列を $\Lambda\in \mathbb{M}_{N\times N}(\mathbb{C})$ とおくと、 $$ AU=U\Lambda $$ である。 $$ M\colon=\frac{1}{\sqrt{2}}\begin{pmatrix}1&\frac{1}{i}\\1&-\frac{1}{i}\end{pmatrix}\in {\rm U}(2) $$ とおき、 $$ V\colon=\overbrace{M\oplus \cdots\oplus M}^{\text{$n$ 個}}\oplus 1_{N-2n}\in {\rm U}(N) $$ とおくと、$T\colon =UV$ は成分が実数のユニタリ行列であるから、 $$ T=UV\in {\rm O}(N) $$ である。そして、 $$ V^*\Lambda V=R(\lambda_1)\oplus \cdots\oplus R(\lambda_n)\oplus \lambda_{2n+1}\oplus\cdots \oplus \lambda_N $$ であるので、 $$ T^{\top}AT=V^*U^*AUV=V^*\Lambda V=R(\lambda_1)\oplus \cdots \oplus R(\lambda_n)\oplus \lambda_{2n+1}\oplus \cdots\oplus \lambda_N $$ である。
□命題7.17(典型的な線形Lie群の弧状連結性)
${\rm GL}(N,\mathbb{C}), {\rm SL}(N,\mathbb{C}), {\rm SO}(N),{\rm U}(N),{\rm SU}(N)$ は弧状連結である。
Proof.
補題7.10の証明で述べたように、任意の $A\in {\rm GL}(N,\mathbb{C})$(もしくは任意の $A\in {\rm SL}(N,\mathbb{C})$) に対し上三角行列 $B$ と $U\in {\rm GL}(N,\mathbb{C})$ が存在して、$A=U^{-1}BU$ となる。上三角行列$B$の対角より上の成分を $1$ 個の径数により一斉に連続的に $0$ にすることができる。そしてできた対角行列は一個の径数によって連続的に単位行列にすることができる(ただし $A\in {\rm SL}(N,\mathbb{C})$ の場合は対角行列の対角成分の積は常に $1$ となる様にする)。このことから ${\rm GL}(N,\mathbb{C}), {\rm SL}(N,\mathbb{C})$ は弧状連結である。${\rm SU}(N),{\rm U}(N)$ が弧状連結であることは、これらの元がユニタリ行列により対角化できることと、その対角行列の対角成分は絶対値が $1$ の複素数であり、それらの偏角を一個の径数により一斉に連続的に $0$ にすることができることから分かる(ただし ${\rm SU}(N)$ の元の場合は対角成分の複素数の偏角の和が常に$0$であるようにする)。 $$ R(\theta)\colon=\begin{pmatrix}\cos(\theta)&-\sin(\theta)\\\sin(\theta)&\cos(\theta)\end{pmatrix}\in {\rm SO}(2)\quad(\forall \theta\in \mathbb{R}) $$ とおけば、任意の $A\in {\rm SO}(N)$ に対し、命題7.16より、ある $T\in {\rm O}(N)$ と $\theta_1,\ldots,\theta_n\in \mathbb{R}$ が存在し、 $$ T^{-1}AT=R(\theta_1)\oplus\cdots\oplus R(\theta_n)\oplus 1_{N-2n} $$ となる。各 $\theta_j$ について $\theta_j\rightarrow0$ とすることによって、$A$ は ${\rm SO}(N)$ 内で連続的に単位行列にすることができる。よって${\rm SO}(N)$ は弧状連結である。
□定義7.18(コンパクト線形Lie群のユニタリ表現の微分表現)
$G$ をコンパクト線形Lie群、$\pi$ を $G$ のユニタリ表現とする。任意の $A\in {\rm Lie}(G)$ に対し、 $$ D(d\pi(A))\colon=\left\{v\in \mathcal{H}_{\pi}:\exists \lim_{t\rightarrow0}\frac{1}{t}(\pi(\exp(tA))-1)v\in \mathcal{H}_{\pi}\right\}, $$ $$ d\pi(A)\colon D(d\pi(A))\rightarrow\mathcal{H}_{\pi},\quad d\pi(A)v\colon=\lim_{t\rightarrow0}\frac{1}{t}(\pi(\exp(tA))-1)v $$ なる $\mathcal{H}_{\pi}$ 上の線形作用素を定義する。各 $A\in {\rm Lie}(G)$ に対し $\mathcal{H}_{\pi}$ 上の線形作用素 $d\pi(A)$ を与える対応 $d\pi$ を $\pi$ の微分表現と言う。
定理7.19(コンパクト線形Lie群のユニタリ表現に対応する微分表現の基本性質)
$G$ をコンパクト線形Lie群、$\pi$ を $G$ のユニタリ表現とする。このとき、
- $(1)$ 任意の $A\in {\rm Lie}(G)$ に対し、$id\pi(A)$ は $\mathcal{H}_{\pi}$ 上の自己共役作用素であり、
$$ \pi(\exp(tA))=\exp(td\pi(A))(\colon=\exp(it(-id\pi(A))))\quad(\forall t\in \mathbb{R}) $$ が成り立つ。
- $(2)$ 任意の $g\in G$, $A\in {\rm Lie}(G)$, $\alpha\in \mathbb{R}$ に対し、
$$ d\pi(g^{-1}Ag)=\pi(g)^{-1}d\pi(A)\pi(g),\quad d\pi(\alpha A)=\alpha d\pi(A) $$ が成り立つ。
- $(3)$ 任意の $A,B\in {\rm Lie}(G)$ に対し、
$$ d\pi(A+B)=\overline{d\pi(A)+d\pi(B)},\quad d\pi([A,B])=\overline{[d\pi(A),d\pi(B)]} $$ が成り立つ。
Proof.
- $(1)$ 任意の $A\in {\rm Lie}(G)$ に対し、
$$ \mathbb{R}\ni t\mapsto \pi(\exp(tA))\in \mathbb{U}(\mathcal{H}_{\pi}) $$ は $\mathbb{R}$ のユニタリ表現であるので、Stoneの定理(系5.12)より、自己共役作用素 $S$ で、 $$ \pi(\exp(tA))=e^{itS}\quad(\forall t\in \mathbb{R})\quad\quad(*) $$ を満たすものが唯一つ存在する。Hilbert空間上の作用素論の補題21.3より、 $$ \begin{aligned} D(S)&=\left\{v\in \mathcal{H}_{\pi}:\exists \lim_{t\rightarrow0}\frac{1}{it}(e^{itS}-1)v\in \mathcal{H}_{\pi}\right\}\\ &=\left\{v\in \mathcal{H}_{\pi}:\exists \lim_{t\rightarrow0}\frac{1}{t}(\pi(\exp(tA))-1)v\in \mathcal{H}_{\pi}\right\}=D(d\pi(A)) \end{aligned} $$ であり、任意の $v\in D(S)=D(d\pi(A))$ に対し、 $$ Sv=\lim_{t\rightarrow0}\frac{1}{it}(e^{itS}-1)v=\lim_{t\rightarrow0}\frac{1}{it}(\pi(\exp(tA))-1)v=-id\pi(A)v $$ である。よって $id\pi(A)=-S$ は $\mathcal{H}_{\pi}$ 上の自己共役作用素であり、$(*)$ より、 $$ \pi(\exp(tA))=e^{itS}=\exp(it(-id\pi(A)))\quad(\forall t\in \mathbb{R}) $$ である。
- $(2)$ 任意の $g\in G$, $A\in {\rm Lie}(G)$ に対し、定理7.9の $(2)$ の証明より、
$$ \exp(tg^{-1}Ag)=g^{-1}\exp(tA)g\quad(\forall t\in \mathbb{R}) $$ であるから、 $$ \pi(\exp(tg^{-1}Ag))=\pi(g)^{-1}\pi(\exp(tA))\pi(g)\quad(\forall t\in \mathbb{R}). $$ よって、 $$ d\pi(g^{-1}Ag)=\pi(g)^{-1}d\pi(A)\pi(g) $$ が成り立つ。また任意の $\alpha\in \mathbb{R}\backslash \{0\}$ に対し、 $$ \begin{aligned} &D(d\pi(A))=\left\{v\in \mathcal{H}_{\pi}:\exists \lim_{t\rightarrow0}\frac{1}{t}(\pi(\exp(tA))-1)v\in \mathcal{H}_{\pi}\right\}\\ &=\left\{v\in \mathcal{H}_{\pi}:\exists \lim_{t\rightarrow0}\frac{1}{\alpha t}(\pi(\exp(\alpha tA))-1)v\in \mathcal{H}_{\pi}\right\}\\ &=\left\{v\in \mathcal{H}_{\pi}:\exists \lim_{t\rightarrow0}\frac{1}{t}(\pi(\exp(t\alpha A))-1)v\right\}=D(d\pi(\alpha A)) \end{aligned} $$ であり、任意の $v\in D(d\pi(A))=D(d\pi(\alpha A))$ に対し、 $$ d\pi(\alpha A)v=\lim_{t\rightarrow0}\frac{1}{t}(\pi(\exp(t\alpha A))-1)v= \alpha\lim_{t\rightarrow0}\frac{1}{\alpha t}(\pi(\exp(t\alpha A))-1)v=\alpha d\pi(A)v $$ であるから $d\pi(\alpha A)=\alpha d\pi(A)$ が成り立つ。明らかに $d\pi(0A)=d\pi(0)=0d\pi(A)$ である。
- $(3)$ まず $\pi$ が有限次元である場合を示す。このとき $\mathbb{B}(\mathcal{H}_{\pi})$ のSOTとノルム位相は一致するので、任意の $A\in {\rm Lie}(G)$ に対し、
$$
\mathbb{R}\ni t\mapsto \pi(\exp(tA))\in \mathbb{U}(\mathcal{H}_{\pi})
$$
はノルムで連続な群準同型写像である。よって命題7.5より、任意の $A\in {\rm Lie}(G)$ に対し、
$$
\pi(\exp(tA))=\exp(td\pi(A))=\sum_{n\in \mathbb{Z}_+}\frac{(td\pi(A))^n}{n!}\quad(\forall t\in \mathbb{R})
$$
であり、任意の $A,B\in {\rm Lie}(G)$ に対し、Lieの積公式(定理7.4)より、
$$
\begin{aligned}
&\exp(td\pi(A+B))=\pi(\exp(t(A+B)))=\lim_{n\rightarrow\infty}\pi\left(\exp\left(\frac{t}{n}A\right)\exp\left(\frac{t}{n}B\right)\right)^n\\
&=\lim_{n\rightarrow\infty}\left(\exp\left(\frac{t}{n}d\pi(A)\right)\exp\left(\frac{t}{n}d\pi(B)\right)\right)^n=\exp(t(d\pi(A)+d\pi(B)))
\end{aligned}
$$
であるから、
$$
d\pi(A+B)=d\pi(A)+d\pi(B).
$$
これより $d\pi \colon {\rm Lie}(G)\ni A\mapsto d\pi(A)\in \mathbb{B}(\mathcal{H}_{\pi})$ は実線形写像であり、${\rm Lie}(G)$は有限次元であるので、位相線形空間1:ノルムと内積の系4.4より、有界実線形写像である。よって $(2)$ より任意の $A,B\in {\rm Lie}(G)$ に対し、
$$
\begin{aligned}
d\pi([A,B])&=\frac{d}{dt}d\pi(\exp(tA)B\exp(-tA))\big|_{t=0}=\frac{d}{dt}\pi(\exp(tA))d\pi(B)\pi(\exp(-tA))\big|_{t=0}\\
&=\frac{d}{dt}\exp(td\pi(A)d\pi(B)\exp(-td\pi(A)))\big|_{t=0}=[d\pi(A),d\pi(B)]
\end{aligned}
$$
である。これより $\pi$ が有限次元の場合は成り立つ。
$\pi$ が無限次元の場合を示す。$\pi$ はコンパクト群 $G$ のユニタリ表現であるので、定理4.6より、$\pi$ は既約な部分表現の族 $(\pi_j)_{j\in J}$ の直和
$$
\pi=\oplus_{j\in J}\pi_j
$$
に分解でき、定理4.4より、各 $\pi_j:G\rightarrow \mathbb{U}(\mathcal{H}_{\pi_j})$ は有限次元である。上で示したことから、
$$
d\pi_j(A+B)=d\pi_j(A)+d\pi_j(B),\quad d\pi_j([A,B])=[d\pi_j(A),d\pi_j(B)]\quad(\forall j\in J,\forall A,B\in {\rm Lie}(G))\quad\quad(**)
$$
が成り立つ。各 $j\in J$ に対し $\mathcal{H}_{\pi_j}\subset \mathcal{H}_{\pi}$ の上への射影作用素を $P_j\colon \mathcal{H}_{\pi}\rightarrow\mathcal{H}_{\pi_j}$ とおくと、
$$
P_j\pi(g)v=\pi_j(g)P_jv\quad(\forall g\in G,\forall v\in \mathcal{H}_{\pi})
$$
であるから、
$$
P_jd\pi(A)v=d\pi_j(A)P_jv\quad(\forall A\in {\rm Lie}(G),\forall v\in D(d\pi(A)))
$$
である。よって、
$$
d\pi(A)v=\sum_{j\in J}P_jd\pi(A)v=\sum_{j\in J}d\pi_j(A)P_jv\quad(\forall A\in {\rm Lie}(G),\forall v\in D(d\pi(A)))
$$
であるから、
$$
d\pi(A)\subset \bigoplus_{j\in J}d\pi_j(A)\quad(\forall A\in {\rm Lie}(G))
$$
が成り立ち、各 $A\in {\rm Lie}(G)$ に対し、$d\pi(A)$ は閉作用素である($id\pi(A)$ が自己共役作用素で、自己共役作用素は閉作用素であることによる)から、この逆の包含関係も成り立つので、
$$
d\pi(A)=\bigoplus_{j\in J}d\pi_j(A)\quad(\forall A\in {\rm Lie}(G))
$$
が成り立つ。よって $(**)$ とHilbert空間上の作用素論の命題11.2の $(4),(5)$ より、任意の $A,B\in {\rm Lie}(G)$ に対し、
$$
d\pi(A+B)=\bigoplus_{j\in J}d\pi_j(A+B)=\bigoplus_{j\in J}(d\pi_j(A)+d\pi_j(B))=\overline{d\pi(A)+d\pi(B)},
$$
$$
d\pi([A,B])=\bigoplus_{j\in J}d\pi_j([A,B])=\bigoplus_{j\in J}[d\pi_j(A),d\pi_j(B)]=\overline{[d\pi(A),d\pi(B)]}
$$
が成り立つ。
8. ${\rm SO}(3)$, ${\rm SU}(2)$ の既約表現の完全分類、球面調和関数空間
定義8.1(${\rm SO}(3)$, ${\rm SU}(2)$ の生成子)
命題7.11より、 $$ \begin{aligned} &{\rm Lie}({\rm SO}(3))=\{A\in \mathbb{M}_{3\times 3}(\mathbb{R}):A^{\top}+A=0\},\\ &{\rm Lie}({\rm SU}(2))=\{A\in \mathbb{M}_{2\times 2}(\mathbb{C}):A^*+A=0,{\rm Tr}(A)=0\} \end{aligned} $$ である。よって実線形空間 ${\rm Lie}({\rm SO}(3))$ の基底として、 $$ F_1\colon=\begin{pmatrix}0&0&0\\0&0&-1\\0&1&0\end{pmatrix},\quad F_2\colon=\begin{pmatrix}0&0&1\\0&0&0\\-1&0&0\end{pmatrix},\quad F_3\colon=\begin{pmatrix}0&-1&0\\1&0&0\\0&0&0\end{pmatrix}\quad\quad(*) $$ が取れて、実線形空間 ${\rm Lie}({\rm SU}(2))$ の基底として、 $$ E_1\colon=\frac{1}{2}\begin{pmatrix}0&-i\\-i&0\end{pmatrix},\quad E_2\colon=\frac{1}{2}\begin{pmatrix}0&-1\\1&0\end{pmatrix},\quad E_3\colon=\frac{1}{2}\begin{pmatrix}-i&0\\0&i\end{pmatrix}\quad\quad(**) $$ が取れる。$(F_1,F_2,F_3)$ を ${\rm SO}(3)$ の生成子、$(E_1,E_2,E_3)$ を ${\rm SU}(2)$ の生成子と呼ぶこととする。これらは、交換子積(定義7.7)とLevi-Civitaの記号 $\epsilon_{j,k,l}$(ベクトル解析3:Euclid空間内の多様体の計量の定義13.9)に関して次の基本関係式を満たす。 $$ [F_j,F_k]=\sum_{l=1}^{3}\epsilon_{j,k,l}F_l,\quad [E_j,E_k]=\sum_{l=1}^{3}\epsilon_{j,k,l}E_l.\quad\quad(***) $$
命題8.2(${\rm SO}(3)$, ${\rm SU}(2)$ の生成子の基本性質)
$(F_1,F_2,F_3)$ を ${\rm SO}(3)$ の生成子、$(E_1,E_2,E_3)$ を ${\rm SU}(2)$ の生成子とする。このとき、任意の $\theta\in \mathbb{R}$ に対し、 $$ \exp(\theta F_1)=\begin{pmatrix}1&0&0\\0&\cos(\theta)&-\sin(\theta)\\0&\sin(\theta)&\cos(\theta)\end{pmatrix},\quad \exp(\theta F_2)=\begin{pmatrix}\cos(\theta)&0&\sin(\theta)\\0&1&0\\-\sin(\theta)&0&\cos(\theta)\end{pmatrix},\quad \exp(\theta F_3)=\begin{pmatrix}\cos(\theta)&-\sin(\theta)&0\\\sin(\theta)&\cos(\theta)&0\\0&0&1\end{pmatrix}, $$ $$ \exp(\theta E_1)=\begin{pmatrix}\cos(\frac{\theta}{2})&-i\sin(\frac{\theta}{2})\\-i\sin(\frac{\theta}{2})&\cos(\frac{\theta}{2})\end{pmatrix},\quad \exp(\theta E_2)=\begin{pmatrix}\cos(\frac{\theta}{2})&-\sin(\frac{\theta}{2})\\\sin(\frac{\theta}{2})&\cos(\frac{\theta}{2})\end{pmatrix},\quad \exp(\theta E_3)=\begin{pmatrix}e^{-i\frac{\theta}{2}}&0\\0&e^{i\frac{\theta}{2}}\end{pmatrix} $$ が成り立つ。
Proof.
$$ \alpha(\theta)\colon=\begin{pmatrix}1&0&0\\0&\cos(\theta)&-\sin(\theta)\\0&\sin(\theta)&\cos(\theta)\end{pmatrix}\quad(\forall \theta\in \mathbb{R}) $$ とおくと、 $$ \mathbb{R}\ni \theta\mapsto \alpha(\theta)\in {\rm SO}(3) $$ は連続群準同型写像である。よって、 $$ \alpha(\theta+h)=\alpha(h)\alpha(\theta)\quad(\forall \theta,h\in \mathbb{R}) $$ であるから、 $$ \frac{d\alpha}{d\theta}(\theta)=\frac{d\alpha}{d\theta}(0)\alpha(\theta)=F_1\alpha(\theta)\quad(\forall \theta\in \mathbb{R}) $$ である。これより、 $$ \frac{d}{d\theta}(\exp(-\theta F_1)\alpha(\theta))=\exp(-\theta F_1)(-F_1)\alpha(\theta)+\exp(-\theta F_1)F_1\alpha(\theta)=0\quad(\forall \theta\in \mathbb{R}) $$ であるから、微積分学の基本定理より、$\exp(-\theta F_1)\alpha(\theta)=1$ $(\forall \theta\in\mathbb{R})$ である。ゆえに $\alpha(\theta)=\exp(\theta F_1)$ $(\forall \theta\in \mathbb{R})$ が成り立つ。他も全く同様の仕方で証明できる。
□次の定理は有用である。
定理8.3(角運動量代数)
$G$ を ${\rm SO}(3)$ か ${\rm SU}(2)$ とし、$(A_1,A_2,A_2)$ を $G$ の生成子(定義8.1)とする。そして $\pi$ を $G$ の有限次元ユニタリ表現とし、その微分表現(定義7.18)$d\pi\colon {\rm Lie}(G)\rightarrow\mathbb{B}(\mathcal{H}_{\pi})$ に対し、 $$ L_{\pm}\colon=id\pi(A_1)\mp d\pi(A_2),\quad L_3\colon=id\pi(A_3) $$ とおく。また $v_0\in \mathcal{H}_{\pi}$ を自己共役作用素 $L_3$ の固有値 $l\in \mathbb{R}$ に対する固有ベクトルとし、$L_+v_0=0$ が成り立つものとする。このとき、 $$ l\in \frac{1}{2}\mathbb{Z}_+=\left\{0,\frac{1}{2},1,\frac{3}{2},2,\ldots\right\} $$ が成り立つ。そして、 $$ v_j\colon=L_-^jv_0\quad(\forall j\in \mathbb{N}) $$ とおくと、$v_0,v_1,\ldots,v_{2l}$ はそれぞれ $L_3$ の固有値 $l,l-1,\ldots,-l$ に対する固有ベクトルで、 $$ \mathcal{K}\colon={\rm span}\{v_0,v_1,\ldots,v_{2l}\}\subset \mathcal{H}_{\pi} $$ は $\pi$ 不変であり、$\pi|_{\mathcal{K}}\colon G\rightarrow \mathbb{U}(\mathcal{K})$ は既約である。さらに、 $$ (d\pi(A_1)^2+d\pi(A_2)^2+d\pi(A_3)^2)v=-l(l+1)v\quad(\forall v\in \mathcal{K}) $$ が成り立つ。
Proof.
定理7.19の $(3)$ と定義8.1の $(***)$ より、 $$ [d\pi(A_j),d\pi(A_k)]=d\pi([A_j,A_k])=\sum_{l=1}^{3}\epsilon_{j,k,l}d\pi(A_l)\quad(\forall j,k\in \{1,2,3\}) $$ である。これより、 $$ [L_3,L_{\pm}]=\pm L_{\pm},\quad [L_{\pm},L_{\mp}]=\pm 2L_3\quad\quad(*) $$ が成り立つ。今、 $$ L_3v_j=(l-j)v_j,\quad L_+v_{j+1}=(2l-j)(j+1)v_j\quad(\forall j\in \mathbb{Z}_+)\quad\quad(**) $$ が成り立つことを $j\in \mathbb{Z}_+$ に関する帰納法で示す。$(*)$ の右の式と $L_3v_0=lv_0$, $L_+v_0=0$ より、 $$ L_+v_1=L_+L_-v_0=2L_3v_0=2lv_0 $$ であるから $j=0$ の場合は成り立つ。ある $j-1\in \mathbb{Z}_+$ に対して成り立つと仮定すると、$(*)$ の左の式より、 $$ L_3v_j=L_3L_-v_{j-1}=L_-L_3v_{j-1}-L_-v_{j-1}=(l-(j-1))v_j-v_j=(l-j)v_j. $$ $(*)$ の右の式より、 $$ L_+v_{j+1}=L_+L_-v_j=L_-L_+v_j+2L_3v_j=(2l-(j-1))jv_j+2(l-j)v_j=(2l-j)(j+1)v_j $$ であるから $j$ の場合も成り立つ。よって帰納法より $(**)$ が成り立つ。$\mathcal{H}_{\pi}$ は有限次元であり、互いに異なる固有値に対する固有ベクトルは線形独立であるので $v_j=0$ なる $j\in \mathbb{N}$ が存在する。そのような $j\in \mathbb{N}$ で最小のものを $k+1\in \mathbb{N}$ とおけば、$(**)$ より、 $$ 0=L_+v_{k+1}=(2l-k)(k+1)v_k $$ であり、$v_{k}\neq 0$ であるから $k=2l$ である。よって $l=\frac{k}{2}\in \frac{1}{2}\mathbb{Z}_+$ であり、$v_0,v_1,\ldots,v_{2l}$ は $L_3$ の固有値 $l,l-1,\ldots,-l$ に対する固有ベクトルである。$L_+v_0=0$, $L_-v_{2l}=0$ であることから、 $$ \mathcal{K}={\rm span}\{v_0,v_1,\ldots,v_{2l}\}\subset \mathcal{H}_{\pi} $$ は $L_{\pm},L_3$ の作用に対して不変であり、したがって、 $$ d\pi(A_1)=\frac{1}{2i}(L_++L_-),\quad d\pi(A_2)=\frac{1}{2}(L_--L_+),\quad d\pi(A_3)=\frac{1}{i}L_3 $$ の作用に対して不変である。$(A_1,A_2,A_3)$ は $G$ の生成子であるので、$\mathcal{K}$ は $d\pi({\rm Lie}(G))$ の任意の元の作用に対して不変である。ここで命題7.17より $G$ は連結であるから、定理7.14より、 $$ G=\{\exp(B_1)\cdots \exp(B_n):n\in \mathbb{N},B_1,\ldots,B_n\in {\rm Lie}(G)\}\quad\quad(***) $$ であり、 $$ \pi(\exp(B_1)\cdots \exp(B_n))=\exp(d\pi(B_1))\cdots \exp(d\pi(B_n))\quad(\forall n\in \mathbb{N},\forall B_1,\ldots,B_n\in {\rm Lie}(G))\quad\quad(****) $$ であるから、$\mathcal{K}$ は $\pi$ 不変である。今、$\pi$ の部分表現 $\pi|_{\mathcal{K}}\colon G\rightarrow \mathbb{U}(\mathcal{K})$ が既約であることを示す。$\pi$ 不変な $\{0\}$ でない部分空間 $\mathcal{L}\subset \mathcal{K}$ を取り、$\mathcal{L}=\mathcal{K}$ が成り立つことを示せばよい。任意の $v\in \mathcal{L}\backslash \{0\}$ を取り、 $$ v=\sum_{j=0}^{2l}\alpha_jv_j $$ とおき、$\alpha_j\neq0$ なる最大の $j\in \{0,1,\ldots,2l\}$ を $j_0$ とおく。$\mathcal{L}$ は $\pi$ 不変であるから $L_{\pm}$ に対して不変であるので、 $$ L_+^{j_0}v\in \mathcal{L} $$ であり、$(**)$ より $v_0$ は $L_+^{j_0}v$ のスカラー倍なので、$v_0\in \mathcal{L}$ である。よって、 $$ v_j=L_-^{j}v_0\in \mathcal{L}\quad(j=0,1,\ldots,2l) $$ であるから、$\mathcal{L}=\mathcal{K}$ である。ゆえに $\pi|_{\mathcal{K}}$ は既約である。 $$ C\colon=d\pi(A_1)^2+d\pi(A_2)^2+d\pi(A_3)^2 $$ とおくと、任意の $k\in \{1,2,3\}$ に対し、 $$ \begin{aligned} &Cd\pi(A_k)=\sum_{j=1}^{3}d\pi(A_j)^2d\pi(A_k)=\sum_{j=1}^{3}d\pi(A_j)d\pi(A_k)d\pi(A_j)+\sum_{j,l=1}^{3}\epsilon_{j,k,l}d\pi(A_j)d\pi(A_l),\\ &d\pi(A_k)C=\sum_{j=1}^{3}d\pi(A_k)d\pi(A_j)^2=\sum_{j=1}^{3}d\pi(A_j)d\pi(A_k)d\pi(A_j)+\sum_{j,l=1}^{3}\epsilon_{k,j,l}d\pi(A_l)d\pi(A_j) \end{aligned} $$ であるから $Cd\pi(A_k)=d\pi(A_k)C$ である。よって $C$ は $d\pi({\rm Lie}(G))$ の任意の元と可換であるので、 $$ C\pi(\exp(B))=C\exp(d\pi(B))=\exp(d\pi(B))C=\pi(\exp(B))C\quad(\forall B\in {\rm Lie}(G)) $$ である。したがって $(***),(****)$ より $C$ は $\pi(G)$ の任意の元と可換であるので、$\pi|_{\mathcal{K}}$ の既約性とSchurの補題(定理2.10)より、$C|_{\mathcal{K}}\in \mathcal{C}(\pi|_{\mathcal{K}})=\mathbb{C}1$ である。そこで $C|_{\mathcal{K}}=\alpha1$ とおく。 $$ L_-L_+=-d\pi(A_1)^2-d\pi(A_2)^2-L_3,\quad L_3^2=-d\pi(A_3)^2 $$ であるから、 $$ C=-L_-L_+-L_3^2-L_3 $$ である。よって $L_+v_0=0$, $L_3v_0=lv_0$ より、 $$ \alpha v_0=Cv_0=-L_-L_+v_0-L_3^2v_0-L_3v_0=-l(l+1)v_0 $$ であるから、$v_0\neq0$ より $\alpha=-l(l+1)$ である。ゆえに、 $$ (d\pi(A_1)^2+d\pi(A_2)^2+d\pi(A_3)^2)v=Cv=-l(l+1)v\quad(\forall v\in \mathcal{K}) $$ が成り立つ。
□定義8.4(球面調和関数)
任意の $l\in \mathbb{Z}_+$ に対し $\mathcal{P}_l(\mathbb{R}^N)$ を $\mathbb{R}^N$ 上の $l$ 次の多項式全体とし、 $$ \mathcal{H}_l(\mathbb{R}^N)\colon=\{p\in \mathcal{P}_l(\mathbb{R}^N):\text{$p$ は調和関数}\} $$ とおく。そして $N-1$ 次元単位球面 $S_{N-1}=\{x\in \mathbb{R}^N:\lvert x\rvert=1\}$ に対し $\mathcal{P}_l(\mathbb{R}^N), \mathcal{H}_l(\mathbb{R}^N)$ を $S_{N-1}$ 上に制限したものを、 $$ \begin{aligned} &\mathcal{P}_l(S_{N-1})\colon=\{p|_{S_{N-1}}:p\in \mathcal{P}_l(\mathbb{R}^N)\},\\ &\mathcal{H}_l(S_{N-1})\colon=\{p|_{S_{N-1}}:p\in \mathcal{H}_l(\mathbb{R}^N)\} \end{aligned} $$ とおく。$\mathcal{H}_l(S_{N-1})$ を $l$ 次の球面調和関数空間と言い、$\mathcal{H}_l(S_{N-1})$ の元を $l$ 次の球面調和関数と言う。
定理8.5(球面調和関数空間の基本性質)
球面調和関数空間 $\mathcal{H}_l(S_{N-1})$ $(\forall l\in \mathbb{Z}_+)$ に対し、
- $(1)$ $\dim(\mathcal{H}_0(S_{N-1}))=1$, $\dim(\mathcal{H}_1(S_{N-1}))=N$,
$$ \dim(\mathcal{H}_l(S_{N-1}))=\begin{pmatrix}N-1+l\\N-1\end{pmatrix}-\begin{pmatrix}N-3+l\\N-1\end{pmatrix}\quad(\forall l\geq 2) $$ であり、 $$ {\rm span}\bigcup_{l\in \mathbb{Z}_+}\mathcal{P}_l(S_{N-1})={\rm span}\bigcup_{l\in \mathbb{Z}_+}\mathcal{H}_l(S_{N-1})\quad\quad(*) $$ が成り立つ。
- $(2)$ Hilbert空間 $L^2(S_{N-1},\mu_{S_{N-1}})$ は、
$$ L^2(S_{N-1},\mu_{S_{N-1}})=\bigoplus_{l\in \mathbb{Z}_+}\mathcal{H}_l(S_{N-1})\quad\quad(**) $$ と直交分解できる。ただし $\mu_{S_{N-1}}\colon \mathcal{B}_{S_{N-1}}\rightarrow [0,\infty)$ は単位球面 $S_{N-1}$ 上の面積測度(ベクトル解析4:Euclid空間内の多様体上の測度と積分の定義16.8と命題18.2を参照)である。
Proof.
- $(1)$ 任意の $l\in \mathbb{Z}_+$ と任意の $p\in \mathcal{P}_l(\mathbb{R}^N)$ に対し、$p(r\omega)=r^lp(\omega)$ $(\forall r\in (0,\infty),\forall \omega\in S_{N-1})$ であるから、
$$ \mathcal{P}_l(\mathbb{R}^N)\ni p\mapsto p|_{S_{N-1}}\in \mathcal{P}_l(S_{N-1}),\quad \mathcal{H}_l(\mathbb{R}^N)\ni p\mapsto p|_{S_{N-1}}\in \mathcal{H}_l(S_{N-1}) $$ はそれぞれ線形同型写像である。よって、 $$ \dim(\mathcal{P}_l(S_{N-1}))=\dim(\mathcal{P}_l(\mathbb{R}^N)),\quad \dim(\mathcal{H}_l(S_{N-1}))=\dim(\mathcal{H}_l(\mathbb{R}^N))\quad(\forall l\in \mathbb{Z}_+) $$ が成り立つ。$l=0,1$ ならば $\mathcal{H}_l(\mathbb{R}^N)=\mathcal{P}_l(\mathbb{R}^N)$ なので、 $$ \begin{aligned} &\dim(\mathcal{H}_0(S_{N-1}))=\dim(\mathcal{H}_0(\mathbb{R}^N))=\dim(\mathcal{P}_0(\mathbb{R}^N))=1,\\ &\dim(\mathcal{H}_1(S_{N-1}))=\dim(\mathcal{H}_1(\mathbb{R}^N))=\dim(\mathcal{P}_1(\mathbb{R}^N))=N \end{aligned} $$ である。$l\geq 2$ とする。$\mathbb{R}^N$ 上の恒等写像を ${\rm id}=({\rm id}_1,\ldots,{\rm id}_N)\colon\mathbb{R}^N\rightarrow\mathbb{R}^N$ とおき、多重指数 $\alpha\in \mathbb{Z}_+^N$ の長さを $\lvert \alpha\rvert=\alpha_1+\cdots+\alpha_N$ とおく。任意の $$ p=\sum_{\lvert \alpha\rvert=l}a_{\alpha}{\rm id}^{\alpha}=\sum_{\lvert \alpha\rvert=l} a_{\alpha}{\rm id}_1^{\alpha_1}\cdots {\rm id}_N^{\alpha_N}\in \mathcal{P}_l(\mathbb{R}^N) $$ に対し、微分作用素 $p(\partial)$ を、 $$ p(\partial)=\sum_{\lvert \alpha\rvert=l}a_{\alpha}\partial_1^{\alpha_1}\cdots\partial_N^{\alpha_N} $$ と定義し、 $$ (p\mid q)_l\colon=q(\partial)\overline{p}\quad(\forall p,q\in \mathcal{P}_l(\mathbb{R}^N)) $$ と定義する。このとき任意の $p=\sum_{\lvert\alpha\rvert=l}a_{\alpha}{\rm id}^{\alpha}\in \mathcal{P}_l(\mathbb{R}^N)$, $q=\sum_{\lvert\beta\rvert=l}b_{\beta}{\rm id}^{\beta}\in \mathcal{P}_l(\mathbb{R}^N)$ に対し、 $$ (p\mid q)_l=\sum_{\lvert\alpha\rvert=l}\alpha!\overline{a_{\alpha}}b_{\alpha} $$ ($\alpha!=\alpha_1!\cdots \alpha_N!$)であるから、$(\cdot\mid \cdot)_l$ は有限次元線形空間 $\mathcal{P}_l(\mathbb{R}^N)$ の内積である。そしてこの内積に関する $\mathcal{H}_l(\mathbb{R}^N)\subset \mathcal{P}_l(\mathbb{R}^N)$ の直交補空間は、$\lvert {\rm id}\rvert^2\mathcal{P}_{l-2}(\mathbb{R}^N)$ である(任意の $p\in \mathcal{P}_{l-2}(\mathbb{R}^N)$ に対し $(\lvert {\rm id}\rvert^2p)(\partial)=\Delta p(\partial)$ であることによる)。よって、 $$ \mathcal{P}_l(\mathbb{R}^N)=\mathcal{H}_l(\mathbb{R}^{N})\oplus \lvert {\rm id}\rvert^2\mathcal{P}_{l-2}(\mathbb{R}^N)\quad\quad(***) $$ が成り立つ。ゆえに、 $$ \begin{aligned} \dim(\mathcal{H}_l(S_{N-1}))&=\dim(\mathcal{H}_l(\mathbb{R}^N))=\dim(\mathcal{P}_l(\mathbb{R}^N))-\dim(\mathcal{P}_{l-2}(\mathbb{R}^N))\\ &=\begin{pmatrix}N-1+l\\N-1\end{pmatrix}-\begin{pmatrix}N-3+l\\N-1\end{pmatrix} \end{aligned} $$ が成り立つ。また $\lvert {\rm id}\rvert^2$ が $S_{N-1}$ 上で恒等的に $1$ であることから、$(***)$ より、任意の $p_l\in \mathcal{P}_l(S_{N-1})$ に対し $h_l\in \mathcal{H}_l(S_{N-1})$ と $p_{l-2}\in \mathcal{P}_{l-2}(S_{N-1})$ が取れて、$p_l=h_l+p_{l-2}$ と表せる。よって帰納法により、$l-2k\in \{0,1\}$ なる $k\in \mathbb{N}$ に対し、$h_{l-2j}\in \mathcal{H}_{l-2j}(S_{N-1})$ $(j=0,1,\ldots,k)$ が取れて、 $$ p_l=h_l+h_{l-2}+\cdots+h_{l-2k} $$ と表せる。これより、 $$ {\rm span}\bigcup_{l\in \mathbb{Z}_+}\mathcal{P}_l(S_{N-1})={\rm span}\bigcup_{l\in \mathbb{Z}_+}\mathcal{H}_l(S_{N-1}) $$ が成り立つ。
- $(2)$ ベクトル解析4:Euclid空間内の多様体上の測度と積分の系16.2より $L^2(S_{N-1},\mu_{S_{N-1}})$ において $C(S_{N-1})$ は稠密であり、Stone-Weierstrassの定理(測度と積分7:局所コンパクトHausdorff空間上のRadon測度の定理35.4)より、$C(S_{N-1})$ において $(*)$ は稠密である。よって $L^2(S_{N-1},\mu_{S_{N-1}})$ において $(*)$ は稠密である。これより $(**)$ を示すには、$k\neq l$ なる任意の $k,l\in \mathbb{Z}_+$ に対し、$L^2(S_{N-1},\mu_{S_{N-1}})$ において $\mathcal{H}_k(S_{N-1})\perp \mathcal{H}_l(S_{N-1})$ が成り立つことを示せばよい。任意の $p\in \mathcal{H}_k(\mathbb{R}^N)$, $q\in \mathcal{H}_l(\mathbb{R}^N)$ を取る。
$$ p(r\omega)=r^kp(\omega),\quad q(r\omega)=r^lq(\omega)\quad(\forall r\in (0,\infty),\forall \omega\in S_{N-1}) $$ であるから、$0\in \mathbb{R}^N$ 中心の極座標(ベクトル解析4:Euclid空間内の多様体上の測度と積分の定義18.3)による勾配の表示(ベクトル解析3:Euclid空間内の多様体の計量の命題12.5)を考えると、極座標が直交座標であること(ベクトル解析4:Euclid空間内の多様体上の測度と積分の命題18.2)に注意して、 $$ (\nabla p)(\omega)\cdot \omega=\frac{\partial p}{\partial r}(\omega)=kp(\omega),\quad (\nabla q)(\omega)\cdot \omega=\frac{\partial q}{\partial r}(\omega)=lq(\omega)\quad(\forall \omega\in S_{N-1}) $$ となる。そして $\{x\in \mathbb{R}^N:\lvert x\rvert<1\}\subset \mathbb{R}^N$ の境界 $S_{N-1}$ 上の外向き単位法線ベクトル場は $S_{N-1}\ni \omega\mapsto \omega\in \mathbb{R}^N$ である(ベクトル解析5:多様体の向きの命題22.2)から、Gaussの発散定理(微分方程式の初歩の定理2.3の $(4)$)より、 $$ \begin{aligned} 0&=\int_{\lvert x\rvert<1}(\Delta \overline{p}(x)q(x)-\overline{p}(x)\Delta q(x))dx\\ &=\int_{S_{N-1}}((\nabla \overline{p})(\omega)\cdot \omega)q(\omega)-\overline{p}(\omega)((\nabla q)(\omega)\cdot \omega))d\mu_{S_{N-1}}(\omega)\\ &=(k-l)\int_{S_{N-1}}\overline{p}(\omega)q(\omega)d\mu_{S_{N-1}}(\omega) \end{aligned} $$ となる。よって $k\neq l$ より、 $$ \int_{S_{N-1}}\overline{p}(\omega)q(\omega)d\mu_{S_{N-1}}(\omega)=0 $$ を得る。ゆえに $\mathcal{H}_k(S_{N-1})\perp \mathcal{H}_l(S_{N-1})$ であるので $(**)$ が成り立つ。
□命題8.6(コンパクト群 ${\rm SO}(N)$ の等質空間としての単位球面 $S_{N-1}$)
単位球面 $S_{N-1}=\{x\in \mathbb{R}^N:\lvert x\rvert=1\}$ は通常の作用 $$ {\rm SO}(N)\times S_{N-1}\ni (R,u)\mapsto Ru\in S_{N-1} $$ によりコンパクト群 ${\rm SO}(N)$ の等質空間(定義3.6)である。そして $S_{N-1}$ の面積測度 $\mu_{S_{N-1}}\colon \mathcal{B}_{S_{N-1}}\rightarrow [0,\infty)$ は ${\rm SO}(N)$ 不変測度(定義3.18)である。
Proof.
任意の $u\in S_{N-1}$ に対し、Schmidtの直交化より、$u_2,\ldots,u_N\in S_{N-1}$ で $u,u_2,\ldots,u_N$ が $\mathbb{R}^N$ の正規直交基底となるものが取れる。このとき $u,u_2,\ldots,u_N$ を縦ベクトルとして並べた行列 $R=(u,u_2,\ldots,u_N)$ は ${\rm O}(N)$ に属するが、必要ならば $u_2,\ldots,u_N$ のうちのいずれかを $-1$ 倍して $R\in {\rm SO}(N)$ とすることができる。そしてこのとき $Re_1=u$ である。ゆえに任意の $u\in S_{N-1}$ に対し $Re_1=u$ なる $R\in {\rm SO}(N)$ が存在するので、$S_{N-1}$ は ${\rm SO}(N)$ の等質空間である。任意の $R\in {\rm O}(N)$ に対し $C^\infty$ 級同相写像 $S_{N-1}\ni u\mapsto Ru\in S_{N-1}$ のヤコビアン(ベクトル解析4:Euclid空間内の多様体上の測度と積分の定義17.2)は $1$ なので変数変換公式(ベクトル解析4:Euclid空間内の多様体上の測度と積分の定理17.5)より、 $$ \mu_{S_{N-1}}(R(B))=\mu_{S_{N-1}}(B)\quad(\forall B\in \mathcal{B}_{S_{N-1}}) $$ が成り立つ。よって $\mu_{S_{N-1}}$ は ${\rm SO}(N)$ 不変測度である。
□命題8.7(コンパクト群 ${\rm SU}(N)$ の等質空間としての単位球面 $S_{2N-1}$)
$\mathbb{R}^{2N}$ と $\mathbb{C}^N$ を、 $$ (x_1,y_1,\ldots,x_N,y_N)=(x_1+iy_1,\ldots,x_N+iy_N) $$ とみなすことにより同一視する。球面 $$ S_{2N-1}=\{x\in \mathbb{R}^{2N}:\lvert x\rvert=1\}=\{z\in \mathbb{C}^N:\lvert z\rvert=1\}\subset \mathbb{C}^N $$ は、通常の作用 $$ {\rm SU}(N)\times S_{2N-1}\ni (U,v)\mapsto Uv\in S_{2N-1} $$ によりコンパクト群 ${\rm SU}(N)$ の等質空間(定義3.6)である。そして $S_{2N-1}$ の面積測度 $\mu_{S_{2N-1}}\colon \mathcal{B}_{S_{2N-1}}\rightarrow [0,\infty)$ は ${\rm SU}(N)$ 不変測度(定義3.18)である。
Proof.
任意の $v\in S_{2N-1}$ に対しSchmidtの直交化により $v_2,\ldots,v_N\in S_{2N-1}$ で $v,v_2,\ldots,v_N$ が $\mathbb{C}^N$ の正規直交基底となるものが取れる。このとき $v,v_2,\ldots,v_N$ を縦ベクトルとして並べたもの $U=(v,v_2,\ldots,v_N)$ は ${\rm U}(N)$ に属するが、必要ならば $v_2,\ldots,v_N$ のいずれかを $({\rm det}(U))^{-1}$ 倍して $U\in{\rm SU}(N)$ とすることができる。そしてこのとき $Ue_1=v$ である。ゆえに任意の $v\in S_{2N-1}$ に対し $Ue_1=v$ なる $U\in {\rm SU}(N)$ が存在するので、$S_{2N-1}$ は ${\rm SU}(N)$ の等質空間である。任意の $U\in {\rm SU}(N)$ に対し、$\mathbb{C}^N=\mathbb{R}^{2N}$ の同一視のもとで、$U\colon \mathbb{R}^{2N}\rightarrow \mathbb{R}^{2N}$ は等長実線形同型写像であるから $U\in {\rm O}(2N)$ とみなせて、$C^\infty$ 級同相写像 $S_{2N-1}\ni v\mapsto Uv\in S_{2N-1}$ のヤコビアン(ベクトル解析4:Euclid空間内の多様体上の測度と積分の定義17.2)は $1$ なので変数変換公式(ベクトル解析4:Euclid空間内の多様体上の測度と積分の定理17.5)より、 $$ \mu_{S_{2N-1}}(U(B))=\mu_{S_{2N-1}}(B)\quad(\forall B\in \mathcal{B}_{S_{2N-1}}) $$ が成り立つ。よって $\mu_{S_{2N-1}}$ は ${\rm SU}(N)$ 不変測度である。
□命題8.6より単位球面 $S_2=\{x\in \mathbb{R}^3:\lvert x\rvert=1\}$ はコンパクト群 ${\rm SO}(3)$ の等質空間であり、$S_2$ の面積測度 $\mu_{S_2}\colon \mathcal{B}_{S_2}\rightarrow [0,\infty)$ は ${\rm SO}(3)$ 不変測度である。そこで、 $$ \rho\colon {\rm SO}(3)\rightarrow \mathbb{U}(L^2(S_2,\mu_{S_2})),\quad \rho(R)f(x)=f(R^{-1}x)\quad(\forall f\in L^2(S_2,\mu_{S_2}),\forall R\in {\rm SO}(3),\forall x\in S_2) $$ を ${\rm SO}(3)$ の $L^2(S_2,\mu_{S_2})$ 上への正則表現(定義3.25)とする。また任意の $l\in \mathbb{Z}_+$ に対し $\mathcal{H}_l(S_2)$ を $l$ 次の球面調和関数空間(定義8.4)とする。このとき、
定理8.8(${\rm SO}(3)$ の球面 $L^2$ 空間上への正則表現と既約表現の完全分類)
次が成り立つ。
- $(1)$ 任意の $l\in \mathbb{Z}_+$ に対し $\mathcal{H}_l(S_2)\subset L^2(S_2,\mu_{S_2})$ は $\rho$ 不変であり、$\rho$ の $\mathcal{H}_l(S_2)$ 上への制限 $\rho_l\colon {\rm SO}(3)\rightarrow \mathbb{U}(\mathcal{H}_l(S_2))$ は既約である。そして $\rho=\bigoplus_{l\in \mathbb{Z}_+}\rho_l$ が成り立つ。
- $(2)$ コンパクト群 ${\rm SO}(3)$ の任意の既約なユニタリ表現はある $l\in \mathbb{Z}_+$ に対し $\rho_l$ とユニタリ同値である。
Proof.
- $(1)$ 正の向きの直交座標によるラプラシアンの表示(ベクトル解析3:Euclid空間内の多様体の計量の命題13.10)より、任意の $u\in C^2(\mathbb{R}^3)$ と任意の $R\in {\rm SO}(3)$ に対し、
$$ (\Delta u)\circ R^{-1}=\Delta(u\circ R^{-1}) $$ が成り立つ。よって $u$ が調和関数ならば $u\circ R^{-1}$ も調和関数であるので、任意の $l\in \mathbb{Z}_+$ に対し $\mathcal{H}_l(S_2)$ は $\rho$ 不変である。定理8.5の $(2)$ より $L^2(S_2,\mu_{S_2})=\bigoplus_{l\in \mathbb{Z}_+}\mathcal{H}_l(S_2)$ であるので、$\rho=\bigoplus_{l\in \mathbb{Z}_+}\rho_l$ が成り立つ。任意の $l\in \mathbb{Z}_+$ を取り固定する。$(F_1,F_2,F_3)$ を ${\rm SO}(3)$ の生成子(定義8.1)とする。$\mathcal{H}_l(S_2)$ は有限次元であるから $\rho_l\colon {\rm SO}(3)\rightarrow \mathbb{U}(\mathcal{H}_l(S_2))$ の微分表現(定義7.18)$d\rho_l$ に対し、$d\rho_l(F)$ $(\forall F\in {\rm Lie}({\rm SO}(3)))$ は $\mathcal{H}_l(S_2)$ 上で定義され、任意の $u\in \mathcal{H}_l(S_2)$ に対し、命題8.2より、 $$ d\rho_l(F_1)u=\lim_{\theta\rightarrow0}\frac{1}{\theta}(\rho(\exp(\theta F_1))-1)u =\lim_{\theta\rightarrow0}\frac{1}{\theta}(u\circ\exp(-\theta F_1)-u)=x_3\frac{\partial u}{\partial x_2}-x_2\frac{\partial u}{\partial x_3} $$ が成り立つ。ただし $(x_1,x_2,x_3)$ は $\mathbb{R}^3$ の標準座標である。同様にして任意の $u\in \mathcal{H}_l(S_2)$ に対し、 $$ d\rho_l(F_2)u=x_1\frac{\partial u}{\partial x_3}-x_3\frac{\partial u}{\partial x_2},\quad d\rho_l(F_3)=x_2\frac{\partial u}{\partial x_1}-x_1\frac{\partial u}{\partial x_2} $$ が成り立つことが分かる。そこで $v^l_0\in \mathcal{H}_l(S_2)$ を、 $$ v^l_0(x_1,x_2,x_3)=(x_1+ix_2)^l $$ と定義すると、 $$ (id\rho_l(F_1)-d\rho_l(F_2))v^{l}_0=0,\quad id\rho_l(F_3)v^{l}_0=lv_0^l $$ が成り立つので、定理8.3より、 $$ v^l_j\colon=(id\pi_l(F_1)+d\rho_l(F_2))^jv_0^l\in \mathcal{H}_l(S_2)\quad(j=1,2,\ldots,2l) $$ とおけば、$v^l_0,v^l_1,\ldots,v^l_{2l}$ はそれぞれ自己共役作用素 $id\rho_l(F_3)$ の固有値 $l,l-1,\ldots,-l$ に対する固有ベクトルである。ここで定理8.5の $(1)$ より、 $$ \dim(\mathcal{H}_l(S_2))=2l-1 $$ であるから、$v_0^l,v_1^l,\ldots,v_{2l}^l$ は $\mathcal{H}_l(S_2)$ の基底である。よって定理8.3より $\rho_l\colon {\rm SO}(3)\rightarrow \mathbb{U}(\mathcal{H}_l(S_2))$ は既約である。
- $(2)$ コンパクト群 ${\rm SO}(3)$ の双対空間 $\widehat{{\rm SO}(3)}$(既約なユニタリ表現の同値類全体(定義4.7))が $\{[\rho_l]\}_{l\in \mathbb{Z}_+}$ と一致することを示せばよく、そのためにはPeter-Weylの定理3(定理4.17)より、対応する ${\rm SO}(3)$ の指標の族 $\{\gamma_{[\rho_l]}\}_{l\in \mathbb{Z}_+}$ が $L^2$ 類関数空間 $ZL^2({\rm SO}(3))$ のCONSであることを示せばよい。そしてそのためには、$ZL^2({\rm SO}(3))$ において連続類関数空間 $ZC({\rm SO}(3))$ が稠密であること(系4.18)から、${\rm span}\{\gamma_{[\rho_l]}\}_{l\in \mathbb{Z}_+}\subset ZC({\rm SO}(3))$ が $ZC({\rm SO}(3))$ において $\sup$ ノルムで稠密であることを示せばよい。任意の $f\in ZC({\rm SO}(3))$ に対し、$\widehat{f}\in C([0,\pi])$ を、
$$ \widehat{f}(\theta)\colon=f(\exp(\theta F_3))\quad(\forall \theta\in [0,\pi]) $$ と定義する。任意の $R\in {\rm SO}(3)$ に対し、命題7.16と命題8.2より、$A\in {\rm O}(3)$ と $\theta\in [-\pi,\pi]$ で、 $$ R=A\exp(\theta F_3)A^{-1}\quad\quad(*) $$ を満たすものが取れる。ここで必要ならば $\exp(\theta F_3)$に両側から、$A$に右から、 $$ \begin{pmatrix}0&1&0\\1&0&0\\0&0&1\end{pmatrix} $$ を掛け、さらに必要ならば$A$に右から、 $$ \begin{pmatrix}1&0&0\\0&1&0\\0&0&-1\end{pmatrix} $$ を掛けることで、任意の $R\in {\rm SO}(3)$ に対し、$(*)$ を満たす $A\in {\rm SO}(3)$, $\theta\in [0,\pi]$ が取れることが分かる。よって類関数の定義(定義4.14)より、任意の $f\in ZC({\rm SO}(3))$、任意の $R\in {\rm SO}(3)$ に対し、$f(R)=\widehat{f}(\theta)$ を満たす $\theta\in [0,\pi]$ が取れるので、 $$ ZC({\rm SO}(3))\ni f\mapsto \widehat{f}\in C([0,\pi])\quad\quad(**) $$ は $\sup$ ノルムに関して等長線形写像である。今、任意の $l\in \mathbb{Z}_+$ に対し $(1)$ の証明で構成した $\mathcal{H}_l(S_2)$ の基底 $v_0^l,v_1^l,\ldots,v_{2l}^l$ を考え、これを正規化したものを $u_0^l,u_1^l,\ldots,u_{2l}^l\in \mathcal{H}_l(S_2)$ とおく。これらは自己共役作用素 $id\rho_l(F_3)$ の相異なる固有値 $l,l-1,\ldots,-l$ に対する単位固有ベクトルであるので $\mathcal{H}_l(S_2)$ のCONSであり、したがって、指標の定義(定義4.15)より、 $$ \begin{aligned} \widehat{\gamma_{[\rho_l]}}(\theta)&=\gamma_{[\rho_l]}(\exp(\theta F_3))={\rm Tr}(\rho_l(\exp(\theta F_3)))={\rm Tr}(\exp(\theta d\rho_l(F_3)))\\ &=\sum_{j=0}^{2l}(u_j^l\mid\exp(\theta d\rho_l(F_3))u_j^l) =\sum_{j=0}^{2l}(u_j^l\mid \exp(i\theta (-id\rho_l(F_3)))u_j^l)\\ &=\sum_{j=0}^{2l}\exp(i\theta(-(l-j)))=\sum_{j=-l}^{l}\exp(ij\theta) =1+2\sum_{j=1}^{l}\cos(j\theta)\quad(\forall \theta\in[0,\pi]) \end{aligned} $$ が成り立つ。よって、 $$ \widehat{\gamma_{[\rho_l]}}(\theta)=1+2\sum_{j=1}^{l}\cos(j\theta)\quad(\forall l\in \mathbb{Z}_+,\forall \theta\in [0,\pi])\quad\quad(***) $$ である。ここでStone-Weierstrassの定理(測度と積分7:局所コンパクトHausdorff空間上のRadon測度の定理35.4)より $C([0,\pi])$ において ${\rm span}\{\cos(j\theta)\}_{j\in \mathbb{Z}_+}$ は稠密であり、$(***)$ より、 $$ {\rm span}\{\widehat{\gamma_{[\rho_l]}}\}_{l\in \mathbb{Z}_+}={\rm span}\{\cos(j\theta)\}_{j\in \mathbb{Z}_+} $$ であるから、$C([0,\pi])$ において ${\rm span}\{\widehat{\gamma_{[\rho_l]}}\}_{l\in \mathbb{Z}_+}$ は稠密である。よって $(**)$ が等長線形写像であることから、$ZC({\rm SO}(3))$ において ${\rm span}\{\gamma_{\rho_l}\}_{l\in \mathbb{Z}_+}$ は稠密である。ゆえに $\widehat{{\rm SO}(3)}=\{[\rho_l]\}_{l\in \mathbb{Z}_+}$ が成り立つ。
□定義8.9
任意の $l\in \mathbb{Z}_+$ に対し、$\mathbb{C}^2$ 上の $l$ 次の多項式を球面 $S_3=\{(z_1,z_2)\in \mathbb{C}^2:\lvert (z_1,z_2)\rvert=1\}\subset \mathbb{C}^2$ 上に制限したもの全体を $\mathcal{A}(S_3)$ と表す。
命題8.7より、球面 $S_3=\{z\in \mathbb{C}^2:\lvert z\rvert=1\}=\{x\in \mathbb{R}^4:\lvert x\rvert=1\}$ はコンパクト群 ${\rm SU}(2)$ の等質空間であり、$S_3$ の面積測度 $\mu_{S_3}\colon\mathcal{B}_{S_3}\rightarrow [0,\infty)$ は ${\rm SU}(2)$ 不変測度である。そこで、 $$ \rho\colon {\rm SU}(2)\rightarrow \mathbb{U}(L^2(S_3,\mu_{S_3})),\quad \rho(U)f(z)=f(U^{-1}z)\quad(\forall f\in L^2(S_3,\mu_{S_3}),\forall U\in {\rm SU}(2),\forall z\in S_3) $$ を ${\rm SU}(2)$ の $L^2(S_3,\mu_{S_3})$ 上への正則表現(定義3.25)とする。このとき、
定理8.10(${\rm SU}(2)$ の球面 $L^2$ 空間上への正則表現と既約表現の完全分類)
次が成り立つ。
- $(1)$ 各 $l\in \mathbb{Z}_+$ に対し $\mathcal{A}_l(S_3)$ は $\rho$ 不変であり、$\rho$ の $\mathcal{A}_l(S_3)$ 上への制限 $\rho_l\colon {\rm SU}(2)\rightarrow \mathbb{U}(\mathcal{A}_l(S_3))$ は既約である。
- $(2)$ ${\rm SU}(2)$ の任意の既約なユニタリ表現は、ある $l\in \mathbb{Z}_+$ に対し $\rho_l$ とユニタリ同値である。
- $(3)$ 任意の $l\in \mathbb{Z}_+$ に対し $\rho$ における $[\rho_l]$ の重複度(定義4.10)は $l+1$ であり、$\rho$ における $[\rho_l]$ 成分(定義4.8)は $\mathcal{H}_l(S_3)$($l$ 次の球面調和関数空間)である。
Proof.
- $(1)$ 各 $l\in \mathbb{Z}_+$ に対し $\mathcal{A}_l(S_3)$(定義8.9)が $\rho$ 不変であることは自明である。任意の $l\in \mathbb{Z}_+$ を取り固定し、$(E_1,E_2,E_3)$ を ${\rm SU}(2)$ の生成子(定義8.1)とする。$\mathcal{A}_l(S_3)$ は有限次元であるから、$\rho_l\colon {\rm SU}(2)\rightarrow \mathbb{U}(\mathcal{A}_l(S_3))$ の微分表現(定義7.18)$d\rho_l$ に対し、$d\rho_l(E)$ $(\forall E\in {\rm Lie}({\rm SU}(2)))$ は $\mathcal{A}_l(S_3)$ 上で定義され、任意の $u\in \mathcal{A}_l(S_3)$ に対し、命題8.2より、
$$ d\rho_l(E_1)u=\lim_{\theta\rightarrow0}\frac{1}{\theta}(\rho(\exp(\theta E_1))-1)u =\lim_{\theta\rightarrow0}\frac{1}{\theta}(u\circ \exp(-\theta E_1)-u)=\frac{i}{2}\left(z_2\frac{\partial u}{\partial z_1}+z_1\frac{\partial u}{\partial z_2}\right) $$ が成り立つ。ただし $(z_1,z_2)$ は $\mathbb{C}^2$ の標準座標である。同様にして任意の $u\in \mathcal{A}_l(S_3)$ に対し、 $$ d\rho_l(E_2)u=\frac{1}{2}\left(z_2\frac{\partial u}{\partial z_1}-z_1\frac{\partial u}{\partial z_2}\right),\quad d\rho_l(E_3)u=\frac{i}{2}\left(z_1\frac{\partial u}{\partial z_1}-z_2\frac{\partial u}{\partial z_2}\right) $$ が成り立つことが分かる。そこで $v^l_0\in \mathcal{A}_l(S_3)$ を、 $$ v^l_0(z_1,z_2)\colon =z_2^l $$ と定義すると、 $$ (id\rho_l(E_1)-d\rho_l(E_2))v^l_0=0,\quad id\rho_l(E_3)v^l_0=\frac{l}{2}v^l_0 $$ が成り立つので、定理8.3より、 $$ v^l_j\colon=(id\rho_l(E_1)+d\rho_l(E_2))^jv^l_0\in \mathcal{A}_l(S_3)\quad(j=0,1,\ldots,l) $$ とおけば、$v^l_0,v^l_1,\ldots,v^l_l$ はそれぞれ自己共役作用素 $id\rho_l(E_3)$ の固有値 $\frac{l}{2},\frac{l}{2}-1,\ldots,-\frac{l}{2}$ に対する固有ベクトルである。ここで $\mathcal{A}_l(S_3)$ の定義8.9より明らかに、 $$ \dim(\mathcal{A}_l(S_3))=l+1 $$ であるから、$v^l_0,v^l_1,\ldots,v^l_l$ は $\mathcal{A}(S_3)$ の基底である。よって定理8.3より $\rho_l$ は既約である。
- $(2)$ コンパクト群 ${\rm SU}(2)$ の双対空間 $\widehat{{\rm SU}(2)}$(既約なユニタリ表現の同値類全体(定義4.7))が $\{[\rho_l]\}_{l\in \mathbb{Z}_+}$ と一致することを示せばよく、そのためにはPeter-Weylの定理3(定理4.17)より、対応する ${\rm SU}(2)$ の指標の族 $\{\gamma_{[\rho_l]}\}_{l\in \mathbb{Z}_+}$ が $L^2$ 類関数空間 $ZL^2({\rm SU}(2))$ のCONSであることを示せばよい。そしてそのためには、$ZL^2({\rm SU}(2))$ において連続類関数空間 $ZC({\rm SU}(2))$ が稠密であること(系4.18)から、${\rm span}\{\gamma_{[\rho_l]}\}_{l\in \mathbb{Z}_+}\subset ZC({\rm SU}(2))$ が $ZC({\rm SU}(2))$ において $\sup$ ノルムで稠密であることを示せばよい。任意の $f\in ZC({\rm SU}(2))$ に対し、$\widehat{f}\in C([0,2\pi])$ を、
$$ \widehat{f}(\theta)\colon=f(\exp(\theta E_3))\quad(\forall \theta\in [0,2\pi]) $$ と定義する。任意の $U\in {\rm SU}(2)$ に対し、命題8.2より、$V\in {\rm U}(2)$ と $\theta\in [-2\pi,2\pi]$ で、 $$ U=V\exp(\theta E_3)V^{-1}\quad\quad(*) $$ を満たすものが取れる。ここで必要ならば $\exp(\theta E_3)$ に両側から、Vに右から $$ \begin{pmatrix}0&1\\1&0\end{pmatrix} $$ を掛け、さらに必要ならば$V$に右から $$ \begin{pmatrix}1&0\\0&{\rm det}(V)^{-1}\end{pmatrix} $$ を掛けることで、任意の $U\in {\rm SU}(2)$ に対し、$(*)$ を満たす $V\in {\rm SU}(2)$, $\theta\in [0,2\pi]$ が取れることが分かる。よって類関数の定義(定義4.14)より、任意の $f\in ZC({\rm SU}(2))$、任意の $U\in {\rm SU}(2)$ に対し、$f(U)=\widehat{f}(\theta)$ を満たす $\theta\in [0,2\pi]$ が取れるので、 $$ ZC({\rm SU}(2))\ni f\mapsto \widehat{f}\in C([0,2\pi])\quad\quad(**) $$ は $\sup$ ノルムに関して等長線形写像である。今、任意の $l\in \mathbb{Z}_+$ に対し $(1)$ の証明で構成した $\mathcal{A}_l(S_3)$ の基底 $v_0^l,v_1^l,\ldots,v_{l}^l$ を考え、これを正規化したものを $u_0^l,u_1^l,\ldots,u_{l}^l\in \mathcal{A}_l(S_3)$ とおく。これらは自己共役作用素 $id\rho_l(E_3)$ の相異なる固有値 $\frac{l}{2},\frac{l}{2}-1,\ldots,-\frac{l}{2}$ に対する単位固有ベクトルであるので $\mathcal{A}_l(S_3)$ のCONSであり、したがって、指標の定義(定義4.15)より、 $$ \begin{aligned} \widehat{\gamma_{[\rho_l]}}(\theta)&=\gamma_{[\rho_l]}(\exp(\theta E_3))={\rm Tr}(\rho_l(\exp(\theta E_3)))={\rm Tr}(\exp(\theta d\rho_l(E_3)))\\ &=\sum_{j=0}^{l}(u_j^l\mid\exp(\theta d\rho_l(E_3))u_j^l) =\sum_{j=0}^{l}(u_j^l\mid \exp(i\theta (-id\rho_l(E_3)))u_j^l)\\ &=\sum_{j=0}^{l}\exp\left(-i\theta\left(\frac{l}{2}-j\right)\right) =\begin{cases}2\left(\cos\left(\frac{1}{2}\theta\right)+\cos\left(\frac{3}{2}\theta\right)+\cdots+\cos\left(\frac{l}{2}\theta\right)\right)\quad&(\text{$l$は奇数})\\ 1+2\left(\cos(\theta)+\cos(2\theta)+\cdots+\cos\left(\frac{l}{2}\theta\right)\right)&(\text{$l$は偶数}) \end{cases} \quad(\forall \theta\in[0,2\pi]) \end{aligned} $$ が成り立つ。よって、 $$ \widehat{\gamma_{[\rho_l]}}(\theta)=\begin{cases}2\left(\cos\left(\frac{1}{2}\theta\right)+\cos\left(\frac{3}{2}\theta\right)+\cdots+\cos\left(\frac{l}{2}\theta\right)\right)\quad&(\text{$l$は奇数})\\ 1+2\left(\cos(\theta)+\cos(2\theta)+\cdots+\cos\left(\frac{l}{2}\theta\right)\right)&(\text{$l$は偶数}) \end{cases} \quad(\forall l\in \mathbb{Z}_+,\forall \theta\in [0,2\pi])\quad\quad(***) $$ である。ここでStone-Weierstrassの定理(測度と積分7:局所コンパクトHausdorff空間上のRadon測度の定理35.4)より $C([0,2\pi])$ において ${\rm span}\{\cos(\frac{j}{2}\theta)\}_{j\in \mathbb{Z}_+}$ は稠密であり、$(***)$ より、 $$ {\rm span}\{\widehat{\gamma_{[\rho_l]}}\}_{l\in \mathbb{Z}_+}={\rm span}\left\{\cos\left(\frac{j}{2}\theta\right)\right\}_{j\in \mathbb{Z}_+} $$ であるから、$C([0,2\pi])$ において ${\rm span}\{\widehat{\gamma_{[\rho_l]}}\}_{l\in \mathbb{Z}_+}$ は稠密である。よって $(**)$ が等長線形写像であることから、$ZC({\rm SU}(2))$ において ${\rm span}\{\gamma_{\rho_l}\}_{l\in \mathbb{Z}_+}$ は稠密である。ゆえに $\widehat{{\rm SU}(2)}=\{[\rho_l]\}_{l\in \mathbb{Z}_+}$ が成り立つ。
- $(3)$ $e_1=(1,0)\in \mathbb{C}^2$ とおく。任意の $l\in \mathbb{Z}_+$ を取る。$e_1\in S_3$ における ${\rm SU}(2)$ の固定部分群は $\{1\}$ であるから、定理4.20より、$\rho$ における $[\rho_l]$ の重複度は $\rho_l$ の表現空間そのものの次元 $\dim(\mathcal{A}_l(S_3))=l+1$ である。$(2)$ における $\mathcal{A}_l(S_3)$ のCONS $u^l_0,u^l_1,\ldots,u^l_l$ を取り、任意の $v\in \mathcal{A}_l(S_3)$ に対し $T_j^lv\in C(S_3)$ を、
$$ T_j^lv\colon S_3\ni Ue_1\mapsto (\rho_l(U)u_j^l\mid v)\in \mathbb{C}\quad\quad(****) $$ と定義し、線形作用素 $$ T^l_j\colon\mathcal{A}_l(S_3)\ni v\mapsto T_j^lv\in L^2(S_3,\mu_{S_3}) $$ を定義する。このとき定理4.20より $\rho$ における $[\rho_l]$ 成分は、 $$ \bigoplus_{j=0}^{l}{\rm Ran}(T_j^l) $$ である。$(1)$ の証明より各 $j\in \{0,1,\ldots,l\}$ に対し、$u_j^l$ はあるスカラー $c_j^l\in \mathbb{C}$ に対し、 $$ u_j^l(z_1,z_2)=c_j^lz_1^jz_2^{l-j}\quad(\forall (z_1,z_2)\in S_3\subset \mathbb{C}^2) $$ と表せることが分かる。よって任意の $v\in \mathcal{A}_l(S_3)$、任意の $(a,b)\in S_3\subset \mathbb{C}^2$ に対し、$(****)$ より、 $$ \overline{T_j^lv(a,b)}=c_j^l\int_{S_3}(az_1+bz_2)^j(-\overline{b}z_1+\overline{a}z_2)^{l-j}\overline{v(z_1,z_2)}d\mu_{S_3}(z_1,z_2)\quad\quad(*****) $$ である。ここで $a=x_1+ix_2$, $b=x_3+ix_4$ $(x_1,x_2,x_3,x_4\in \mathbb{R})$ とおけば、 $$ \begin{pmatrix}x_1\\x_2\\x_3\\x_4\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}\frac{1}{2}&\frac{1}{2}&0&0\\\frac{1}{2i}&-\frac{1}{2i}&0&0\\0&0&\frac{1}{2}&\frac{1}{2}\\0&0&\frac{1}{2i}&-\frac{1}{2i}\end{pmatrix}\begin{pmatrix}a\\\overline{a}\\b\\\overline{b}\end{pmatrix} $$ であるから、 $$ \begin{aligned} &\frac{\partial}{\partial a}=\frac{1}{2}\left(\frac{\partial}{\partial x_1}-i\frac{\partial}{\partial x_2}\right),\quad \frac{\partial}{\partial \overline{a}}=\frac{1}{2}\left(\frac{\partial}{\partial x_1}+i\frac{\partial}{\partial x_2}\right),\\ &\frac{\partial}{\partial b}=\frac{1}{2}\left(\frac{\partial}{\partial x_3}-i\frac{\partial}{\partial x_4}\right),\quad \frac{\partial}{\partial \overline{b}}=\frac{1}{2}\left(\frac{\partial}{\partial x_3}+i\frac{\partial}{\partial x_4}\right). \end{aligned} $$ したがってラプラシアンは、 $$ \Delta=\sum_{j=1}^{4}\frac{\partial^2}{\partial x_j^2}=\frac{1}{4}\left(\frac{\partial^2}{\partial \overline{a}\partial a}+\frac{\partial^2}{\partial \overline{b}\partial b}\right) $$ と表せる。よって $(*****)$ とLebesgue優収束定理より、 $$ \Delta T^l_jv=0\quad(\forall v\in \mathcal{A}_l(S_3),j=0,1,\ldots,l) $$ であるから、 $$ \bigoplus_{j=0}^{l}{\rm Ran}(T_j^l)\subset \mathcal{H}_l(S_3)\quad(\forall l\in \mathbb{Z}_+)\quad\quad(******) $$ が成り立つ。ここで定理4.20より、 $$ L^2(S_3,\mu_{S_3})=\bigoplus_{l\in\mathbb{Z}_+}\bigoplus_{j=0}^{l}{\rm Ran}(T_j^l) $$ であり、定理8.5の $(2)$ より、 $$ L^2(S_3,\mu_{S_3})=\bigoplus_{l\in \mathbb{Z}_+}\mathcal{H}_l(S_3) $$ であるから、$(******)$ より、 $$ \bigoplus_{j=0}^{l}{\rm Ran}(T^l_j)=\mathcal{H}_l(S_3)\quad(\forall l\in \mathbb{Z}_+) $$ が成り立つ。ゆえに任意の $l\in \mathbb{Z}_+$ に対し $\rho$ における $[\rho_l]$ 成分は $\mathcal{H}_l(S_3)$ である。
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- Banach環とC*-環のスペクトル理論
- Hilbert空間上の作用素論
- 量子力学の数学的構造に関わる関数解析
参考文献
- Walter Rudin「Real And Complex Analysis」
- Walter Rudin「Functional Analysis」
- Gerald Folland「A Course in Abstract Harmonic Analysis」
- Dana P. Williams「Crossed Products of C*- Algebras」
- Gert Pedersen「$C^*$-Algebras and Their Automorphism Groups 」
- Brian Hall「Quantum Theory for Mathematicians」
- Franco Strocchi「An Introduction to the Mathematical Structure of Quantum Mechanics: A Short Course for Mathematicians 」
- 新井 仁之「新・フーリエ解析と関数解析学」
- 杉浦 光夫、山内 恭彦 「連続群論入門」
- 新井 朝雄「量子現象の数理」
脚注
- ↑ $G\times G\ni (x,y)\mapsto xy\in G$ の連続性に注意。
- ↑ 任意の $f,g\in C_{c,\mathbb{R}}(G)$ に対し $(f+g)_+-(f+g)_-=f+g=(f_+-f_-)+(g_+-g_-)$ より $(f+g)_++f_-+g_-=(f+g)_-+f_++g_+$ であること、任意の $f\in C_{c,\mathbb{R}}(G)$ と任意の $\alpha\in \mathbb{R}$ に対し、$\alpha\geq0$ ならば $(\alpha f)_{\pm}=\alpha{\rm max}(\pm f,0)=\alpha f_{\pm}$ であり、$\alpha<0$ ならば $(\alpha f)_{\pm}=(-\alpha){\rm max}(\mp f,0)=-\alpha f_{\mp}$ であることに注意すればよい。
- ↑ 任意の $f\in C_{c,++}(G)$ に対し $(f>0)$ は空でない開集合であるから、命題1.8より $\int_{G}f(x)d\mu_i(x)>0$ $(i=1,2)$ である。
- ↑ $L^1(G,\mu)\ni [h]\mapsto L_x[h]\in L^1(G,\mu)$ は等長線形作用素であることに注意。
- ↑ $L^1(G,\mu)\ni [w]\mapsto [w]*[h]\in L^1(G,\mu)$ が有界線形作用素であることに注意。
- ↑ $\mathcal{K}$ は $\mathcal{H}$ の閉部分空間なので $\mathcal{H}$ の内積によりHilbert空間である。
- ↑ ユニタリ表現の定義(定義2.1)より $\pi\colon G\rightarrow\mathbb{U}(\mathcal{H}_{\pi})$ はSOTに関して連続であるから、$G\ni x\mapsto\pi(x)v\in \mathcal{H}_{\pi}$ は連続である。$G$ は第二可算公理を満たすとしているので $\sigma$-コンパクトであるから、連続関数 $G\ni x\mapsto \pi(x)v\in \mathcal{H}_{\pi}$ の像は $\sigma$-コンパクト、したがって可分である(距離空間のコンパクト集合は可分であること(距離空間の位相の基本的性質の命題4.2)に注意)。よって関数 $G\ni x\mapsto f(x)\pi(x)v\in \mathcal{H}_{\pi}$ の像は可分であるからBochner可測(測度と積分9:Bochner積分の定義41.1)であり、$\int_{G}\lVert f(x)\pi(x)v\rVert d\mu(x)=\int_{G}\lvert f(x)\rvert d\mu(x)\lVert v\rVert<\infty$ であるから、$G\ni x\mapsto f(x)\pi(x)v\in \mathcal{H}_{\pi}$ はBochner可積分である。
- ↑ $G\ni x\mapsto \pi(x)v\in \mathcal{H}_{\pi}$ の $1\in G$ における連続性による。
- ↑ $\Psi\in {\rm conv}({\rm ext}(B))$に対し、$\frac{\Psi}{\lVert \Psi\rVert}\in {\rm conv}({\rm ext}(S))$ であることは次のようにして分かる。$t_1,\ldots,t_n\in [0,1]$ で $\sum_{j=1}^{n}t_j=1$ なるものと $\Psi_1,\ldots,\Psi_n\in {\rm ext}(B)$ に対し、$\Psi=\sum_{j=1}^{n}t_j\Psi_j$ と表せる。系2.35より $\lVert\Psi\rVert=\sum_{j=1}^{n}t_j\lVert \Psi_j\rVert$ である。各$j\in \{1,\ldots,n\}$ に対し $\Psi_j=\lVert \Psi_j\rVert \Phi_j$ なる$\Phi_j\in S$ を取ると、$\lVert \Psi_j\rVert>0$ ならば $\Phi_j\in {\rm ext}(S)$(容易に示せる) であることが分かる。そして $\frac{\Psi}{\lVert \Psi\rVert}=\sum_{j=1}^{n}t_j\frac{\lVert \Psi_j\rVert}{\lVert \Psi\rVert}\Phi_j$ であり、$\sum_{j=1}^{n}t_j\frac{\lVert \Psi_j\rVert}{\lVert \Psi\rVert}=1$ であるから、$\frac{\Psi}{\lVert \Psi\rVert}\in {\rm conv}({\rm ext}(S))$である。
- ↑ 任意の $x\in K$ に対し、非負値連続関数 $H_s\ni y\mapsto g(xy)\in [0,\infty)$ は $1\in H_s$ において $1$ であるから、命題1.8より $\int_{H_s}g(xy)d\mu_{H_s}(y)>0$ である。
- ↑ 測度と積分7:局所コンパクトHausdorff空間上のRadon測度の命題29.4の $(2)$ とRadon測度の外部正則性による。
- ↑ 既約なユニタリ表現と同値なユニタリ表現は既約であることに注意する。
- ↑ $T^{\pi}_jv$ がwell-definedであることは $\mathcal{H}_{\pi,s}$ の定義により、連続性は $\mathcal{H}_{\pi,s}$ の定義により、連続性は定理3.13による。
- ↑ 任意の $x\in G$ と任意の $n\in \mathbb{N}$ に対し $\lvert \gamma(x)\rvert^n=\lvert \gamma(x^n)\rvert\leq \frac{\lVert [f_0]\rVert_1}{\lvert \Phi([f_0])\rvert}$ であるから、任意の $x\in G$ に対し $\lvert \gamma(x)\rvert\leq1$ でなければならない。任意の $x\in G$ に対し $\gamma(x^{-1})\gamma(x)=\gamma(1)=1$ より、$\lvert \gamma(x)\rvert^{-1}=\lvert \gamma(x^{-1})\rvert\leq 1$ であるから、$\lvert \gamma(x)\rvert\geq1$ である。よって任意の $x\in G$ に対し $\vert \gamma(x)\rvert=1$ である。
- ↑ 任意の $[f]\in L^1(G,\mu)$ に対し $\lVert \mathcal{F}[f]\rVert=\lVert [f]\rVert_*\leq \lVert [f]\rVert_1$ である。
- ↑ 射影値測度に関してはHilbert空間上の作用素論の $6$ を参照。
- ↑ $G$ は第二可算と仮定しているので第一可算である。Lebesgue優収束定理より $\widehat{\nu}$ は $G$ の収束する点列を $\mathbb{C}$ の収束する点列に写す。よって $\widehat{\nu}$ は連続である。
- ↑ 有界関数 $p\colon G\rightarrow\mathbb{C}$ が正定値関数であるとは、$\ell^1(G)$ 上の有界線形汎関数 $\Phi_p\colon \ell^1(G)\ni f\mapsto \sum_{x\in G}f(x)p(x)\in \mathbb{C}$ が任意の $f\in \ell^1(G)$ に対し $\Phi_p(f^**f)\geq0$ を満たすことを言う。
- ↑ $G$ から $\mathbb{T}$ への群準同型写像全体に各点ごとの演算を入れた群。
- ↑ Haar測度の存在(定理1.13)と一意性(定理1.14)の証明で局所コンパクト群の第二可算性は用いていないことに注意。
- ↑ $\mu(\widehat{G})=1$ より $\lVert h\rVert_2\leq \lVert h\rVert$ $(\forall h\in C(\widehat{G}))$ であることに注意。
- ↑ ここでは一般的に $S,T$ が $\mathcal{H}$ 上の非有界線形作用素である場合も想定しており、$D(ST), D(TS)$ は $\mathcal{H}$ 上の線形作用素 $ST, TS$ の定義域である。Hilbert空間上の作用素論の定義3.1を参照のこと。$S,T\in \mathbb{B}(\mathcal{H})$ の場合はもちろん $D(ST)=D(TS)=\mathcal{H}$ である。