測度と積分1:測度論の基礎用語
この章では、可測空間と可測写像について基本的なことを述べる。可測空間とは測度と積分が定義される空間であり、可測写像とは可測空間の構造を保つような可測空間の間の写像である。可測空間と可測写像の関係は、位相空間と連続写像のような関係である。実際、位相空間が位相(開集合族)が付与された空間であり、連続写像は位相空間の間の写像で開集合の逆像が開集合であるようなものであるのに対し、可測空間は $\sigma$-加法族(可測集合族)が付与された空間であり、可測写像は可測空間の間の写像で可測集合の逆像が可測集合であるようなものである。
- 測度と積分1:測度論の基礎用語
- 測度と積分2:測度空間上の積分
- 測度と積分3:測度論の基本定理(1)
- 測度と積分4:測度論の基本定理(2)
- 測度と積分5:$L^p$ 空間の完備性と双対性
- 測度と積分6:数え上げ測度と $\ell^p$ 空間
- 測度と積分7:局所コンパクトHausdorff空間上のRadon測度
- 測度と積分8:Lebesgue測度の基本的性質
- 測度と積分9:Bochner積分
1. $\sigma$-加法族、可測空間、Borel集合族
定義1.1($\sigma$-加法族、可測空間)
$X$ を空でない集合とする。$\mathfrak{M}\subset 2^X$ が次の条件を満たすとき $\mathfrak{M}$ を $X$ 上の $\sigma$-加法族と言う。
- $X\in \mathfrak{M}$.
- 任意の $E\in \mathfrak{M}$ に対し $X\backslash E\in \mathfrak{M}$.
- $\mathfrak{M}$ の任意の可算部分族 $\{E_n\}_{n\in \mathbb{N}}$ に対し $\bigcup_{n\in \mathbb{N}}E_n\in \mathfrak{M}$.
$\sigma$-加法族が備わった集合のことを可測空間と言う。可測空間 $X$ に $\sigma$-加法族 $\mathfrak{M}$ が備わっていることを明示的に表す場合は可測空間 $(X,\mathfrak{M})$ と表現する。可測空間 $(X,\mathfrak{M})$ の部分集合 $E\subset X$ が可測集合であるとは $E\in \mathfrak{M}$ であることを言う。
命題1.2
可測空間 $(X,\mathfrak{M})$ に対し次が成り立つ。
- $\emptyset\in\mathfrak{M}$.
- $\mathfrak{M}$ の任意の可算部分族 $\{E_n\}_{n\in \mathbb{N}}$ に対し $\bigcap_{n\in \mathbb{N}}E_n\in \mathfrak{M}$.
- 任意の $E,F\in \mathfrak{M}$ に対し $E\cup F,E\cap F,E\backslash F\in \mathfrak{M}$.
Proof.
自明である。
□定義1.3(相対 $\sigma$-加法族)
$(X,\mathfrak{M})$ を可測空間とする。空でない $A\subset X$ に対し、 $$ \mathfrak{M}_A\colon=\{E\cap A:E\in \mathfrak{M}\} $$ は $A$ 上の $\sigma$-加法族である。これを $\mathfrak{M}$ から誘導される $A$ 上の相対 $\sigma$-加法族と言う。
定義1.4(部分集合族から生成される $\sigma$-加法族)
$X$ を空でない集合、$\mathcal{I}\subset 2^X$ とする。$\mathcal{I}$ を含む $X$ 上の $\sigma$-加法族全ての交叉は $\mathcal{I}$ を含む最小の $\sigma$-加法族である。これを $\sigma(\mathcal{I})$ と表し、$\mathcal{I}$ から生成される $X$ 上の $\sigma$-加法族と言う。
定義1.5(位相空間のBorel集合族)
$(X,\mathcal{O}_X)$ を位相空間とする。位相 $\mathcal{O}_X$ から生成される $X$ 上の $\sigma$-加法族 $$ \mathcal{B}_X\colon=\sigma(\mathcal{O}_X) $$ を $X$ のBorel集合族と言い、$\mathcal{B}_X$ の要素を $X$ のBorel集合と言う。
補題1.6
$X$ を空でない集合、$A\subset X$ を空でない部分集合、$\mathcal{I}\subset 2^X$ とし、 $$ \mathcal{I}\cap A\colon=\{I\cap A: I\in \mathcal{I}\},\quad \sigma(\mathcal{I})\cap A\colon=\{E\cap A: E\in \sigma(\mathcal{I})\} $$ とおく。そして $\mathcal{I}\cap A\subset 2^A$ から生成される $A$ 上の $\sigma$-加法族を $\sigma_A(\mathcal{I}\cap A)$ とおく。 このとき、 $$ \sigma_A(\mathcal{I}\cap A)=\sigma(\mathcal{I})\cap A $$ が成り立つ。
Proof.
$\sigma(\mathcal{I})\cap A$ は $A$ 上の $\sigma$-加法族であり $\mathcal{I}\cap A$ を含むから、 $$ \sigma_A(\mathcal{I}\cap A)\subset \sigma(\mathcal{I})\cap A $$ である。 $$ \mathfrak{M}\colon=\{E\in 2^X: E\cap A\in\sigma_A(\mathcal{I}\cap A)\} $$ は $X$ 上の $\sigma$-加法族であり $\mathcal{I}$ を含むから $\sigma(\mathcal{I})\subset \mathfrak{M}$ である。よって、 $$ \sigma(\mathcal{I})\cap A\subset \sigma_A(\mathcal{I}\cap A) $$ である。
□命題1.7(相対位相と相対Borel集合族)
$(X,\mathcal{O}_X)$ を位相空間、$A\subset X$ を空でない部分集合とする。このとき相対位相による位相空間 $(A,\mathcal{O}_A)$ 上のBorel集合族 $\mathcal{B}_A$ は $X$ 上のBorel集合族 $\mathcal{B}_X$ から誘導される $A$ 上の相対 $\sigma$-加法族と一致する。
Proof.
命題1.4より、 $$ \mathcal{B}_A=\sigma_A(\mathcal{O}_A)=\sigma_A(\mathcal{O}_X\cap A)=\sigma(\mathcal{O}_X)\cap A=\mathcal{B}_X\cap A. $$
□2. 写像の可測性、直積可測空間
定義2.1(可測写像(可測関数))
可測空間 $(X,\mathfrak{M})$ から可測空間 $(Y,\mathfrak{N})$ への写像 $f\colon X\rightarrow Y$ が可測写像(可測関数)であるとは、任意の $E\in \mathfrak{N}$ に対し $f^{-1}(E)\in\mathfrak{M}$ が成り立つことを言う。
定義2.2(Borel写像(Borel関数))
位相空間 $X$ から位相空間 $Y$ への写像 $f\colon X\rightarrow Y$ がBorel集合族 $\mathcal{B}_X, \mathcal{B}_Y$ に関して可測写像であるとき、$f$ をBorel写像(Borel関数)と言う。
命題2.3(写像が可測であるための条件)
$(X,\mathfrak{M}), (Y,\mathfrak{N})$ を可測空間とし、$f\colon X\rightarrow Y$ とする。もしある $\mathcal{I}\subset 2^Y$ に対し $\mathfrak{N}=\sigma(\mathcal{I})$ であり、任意の $I\in \mathcal{I}$ に対し $f^{-1}(I)\in \mathfrak{M}$ であるならば、$f$ は可測写像である。
Proof.
$$ \mathcal{I}\subset \{E\in 2^Y:f^{-1}(E)\in \mathfrak{M}\} $$ であり、右辺は $Y$ 上の $\sigma$-加法族であるから $\mathfrak{N}=\sigma(\mathcal{I})$ を含む。
□系2.4(連続写像はBorel写像)
連続写像はBorel写像である。
定義2.5(直積 $\sigma$-加法族、直積可測空間)
$J$ を集合とし、各 $j\in J$ に対し可測空間 $(X_j,\mathfrak{M}_j)$ が与えられているとする。そして直積集合 $X=\prod_{j\in J}X_j$ から $X_j$ 上への自然な射影を $\pi_j\colon X\rightarrow X_j$ $(\forall j\in J)$ とおく。このとき $X$ 上の $\sigma$-加法族 $$ \bigotimes_{j\in J}\mathfrak{M}_j\colon=\sigma(\{\pi_j^{-1}(E): j\in J,E\in \mathfrak{M}_j\}) $$ を $(\mathfrak{M}_j)_{j\in J}$ の直積 $\sigma$-加法族と言い、可測空間 $$ \left(\prod_{j\in J}X_j,\text{ } \bigotimes_{j\in J}\mathfrak{M}_j\right) $$ を $( (X_j,\mathfrak{M}_j) )_{j\in J}$ の直積可測空間と言う。
命題2.6(直積可測空間値写像が可測であるための条件)
$(X,\mathfrak{M}), (Y,\mathfrak{N})$ を可測空間とし、$(Y,\mathfrak{N})$ は可測空間の族 $( (Y_j,\mathfrak{N}_j) )_{j\in J}$ の直積可測空間であるとする。そして $\pi_j\colon Y\rightarrow Y_j$ ($\forall j\in J$) を自然な射影とする。このとき $f\colon X\rightarrow Y$ に対し次は互いに同値である。
- $(1)$ $f$ は可測写像である。
- $(2)$ 任意の $j\in J$ に対し $\pi_j\circ f:X\rightarrow Y_j$ は可測写像である。
Proof.
命題2.3による。
□補題2.7(可算個の第二可算空間の直積位相空間は第二可算)
$J$ を可算集合とし、各 $j\in J$ に対し第二可算空間 $X_j$ が与えられているとする。このとき $(X_j)_{j\in J}$ の直積位相空間 $\prod_{j\in J}X_j$ は第二可算空間である。(直積位相空間についてはネットによる位相空間論の7やフィルターによる位相空間論の6を参照。)
Proof.
$J=\{j_n\}_{n\in \mathbb{N}}$ と表す。各 $n\in \mathbb{N}$ に対し位相空間 $X_{j_n}$ の可算基底を $\{U_{n,m}\}_{m\in\mathbb{N}}$ と表す。このとき、 $$ \{\pi_{j_1}^{-1}(U_{1,m_1})\cap \ldots\cap\pi_{j_n}^{-1}(U_{n,m_n}):n\in\mathbb{N}, m_1,\ldots,m_n\in \mathbb{N}\}\quad\quad(*) $$ は直積位相空間 $\prod_{j\in J}X_j$ の基底[1]であり、これは可算である。
□命題2.8(可算個の第二可算空間の直積位相空間のBorel集合族は直積Borel集合族)
$J$ を可算集合とし、各 $j\in J$ に対し第二可算空間 $X_j$ が与えられているとする。このとき $(X_j)_{j\in J}$ の直積位相空間 $X=\prod_{j\in J}X_j$ のBorel集合族 $\mathcal{B}_X$ と $(\mathcal{B}_{X_j})_{j\in J}$ の直積 $\sigma$-加法族 $\bigotimes_{j\in J}\mathcal{B}_{X_j}$ に対し、 $$ \mathcal{B}_X=\bigotimes_{j\in J}\mathcal{B}_{X_j} $$ が成り立つ。
Proof.
各 $j\in J$ に対し自然な射影 $\pi_j\colon X\rightarrow X_j$ は連続写像であるので $\bigotimes_{j\in J}\mathcal{B}_{X_j}\subset \mathcal{B}_X$ が成り立つ。補題2.7より $X$ は第二可算空間であり、$X$ の任意の開集合 $U$ は補題2.7の $(*)$ に属する可算個の要素の合併で表せるので $U\in \bigotimes_{j\in J}\mathcal{B}_{X_j}$ である。よって $\mathcal{B}_X\subset \bigotimes_{j\in J}\mathcal{B}_{X_j}$ が成り立つ。
□系2.9
$\mathcal{B}_{\mathbb{R}^N}=\bigotimes_{n=1}^{N}\mathcal{B}_{\mathbb{R}}$ が成り立つ。
3. 拡張された実数系 $[-\infty,\infty]$
定義3.1(拡張された実数系$[-\infty,\infty]$)
$\infty,-\infty\notin\mathbb{R}$ とし、$[-\infty,\infty]:=\mathbb{R}\cup\{\infty,-\infty\}$ とおく。$[-\infty,\infty]$ の二項関係 $\leq$ を $\mathbb{R}$ の全順序 $\leq$ の拡張として次のように定義する。
- $\infty\leq\infty$、$-\infty\leq-\infty$.
- 任意の $x\in \mathbb{R}\cup\{-\infty\}$ に対し $-\infty\leq x$ であるが $\infty\leq x$ ではない。
- 任意の $x\in \mathbb{R}\cup\{\infty\}$ に対し $x\leq \infty$ であるが $x\leq -\infty$ ではない。
このとき $\leq$ は $[-\infty,\infty]$ の全順序である。この全順序による全順序集合 $[-\infty,\infty]$ を拡張された実数系と言う。$\infty$、$-\infty$ はそれぞれ $[-\infty,\infty]$ の最大元、最小元であり、$[-\infty,\infty]$ の任意の空でない部分集合は上限(最小の上界)と下限(最大の下界)を持つ。(($\mathbb{R}$の任意の上に有界(resp.下に有界)な部分集合が上限(resp. 下限)を持つことによる。))
定義3.2(拡張された実数系における区間)
任意の $a,b\in [-\infty,\infty]$ に対し、
- $[a,b]\colon=\{x\in [-\infty,\infty]:a\leq x\leq b\}$
- $(a,b]\colon=\{x\in [-\infty,\infty]:a<x\leq b\}$
- $[a,b)\colon=\{x\in [-\infty,\infty]:a\leq x<b\}$
- $(a,b)\colon=\{x\in [-\infty,\infty]:a<x<b\}$
と定義する。
定義3.3(拡張された実数系における演算)
$\mathbb{R}$ における演算を次のように $[-\infty,\infty]$ に拡張する。
- 任意の $x\in (-\infty,\infty]$ に対し $x+\infty=\infty+x=\infty$.
- 任意の $x\in [-\infty,\infty)$ に対し $x-\infty=-\infty+x=-\infty$.
- $0\infty=\infty0=0$、$0(-\infty)=(-\infty)0=0$
- 任意の $x\in (0,\infty]$ に対し $x\infty=\infty x=\infty$、$x(-\infty)=(-\infty) x=-\infty$.
- 任意の $x\in [-\infty,0)$ に対し $x\infty=\infty x=-\infty$、$x(-\infty)=(-\infty) x=\infty$.
- $-(-\infty)=\infty$.
定義3.4(絶対値)
任意の $x\in [-\infty,\infty]$ に対し, $$ \lvert x\rvert\colon=\text{max}(x,-x)\in [0,\infty] $$ とおく。これは $\mathbb{R}$ の絶対値の拡張である。
定義3.5(非負数の総和)
$J$ を空でない集合とし、各 $j\in J$ に対し $x_j\in [0,\infty]$ が与えられているとする。$J$ の有限部分集合全体 $\mathcal{F}_J$ に対し、 $$ \sum_{j\in J}x_j=\sup_{F\in \mathcal{F_J}}\sum_{j\in F}x_j\in [0,\infty] $$ と定義する。[2]
4. $[-\infty,\infty]$, $\mathbb{C}$, $\mathbb{R}$ に値を取る関数の可測性
定義4.1($[-\infty,\infty]$ 値関数の可測性)
拡張された実数系 $[-\infty,\infty]$ の区間全体 $\mathcal{I}$ から生成される $[-\infty,\infty]$ 上の $\sigma$-加法族を $\mathcal{B}_{[-\infty,\infty]}=\sigma(\mathcal{I})$ とおき、これを $[-\infty,\infty]$ 上のBorel集合族と言う。可測空間 $X$ と関数 $f:X\rightarrow[-\infty,\infty]$ に対し $f$ が可測であるとは $\mathcal{B}_{[-\infty,\infty]}$ に関して可測であることを言う。
注意4.2
$\mathcal{B}_{[-\infty,\infty]}$ の $\mathbb{R}$ 上の相対 $\sigma$-加法族は補題1.6より $\mathbb{R}$ の区間全体 $\mathcal{I}\cap \mathbb{R}$ から生成される $\sigma$-加法族であるから $\mathbb{R}$ 上のBorel集合族 $\mathcal{B}_{\mathbb{R}}$ と一致する。[3]
定義4.3($\mathbb{R},\mathbb{C},\mathbb{R}^N$ 値関数の可測性)
可測空間 $X$ に対し $f\colon X\rightarrow\mathbb{R}$(resp. $f\colon X\rightarrow \mathbb{C}$, $f\colon X\rightarrow\mathbb{R}^N$) が可測関数であるとは、$\mathcal{B}_{\mathbb{R}}$(resp. $\mathcal{B}_{\mathbb{C}}$, $\mathcal{B}_{\mathbb{R}^N}$)に関して可測であることを言う。注意4.2より $\mathcal{B}_{\mathbb{R}}$ は $\mathcal{B}_{[-\infty,\infty]}$ の相対 $\sigma$-加法族であるから、この $\mathbb{R}$ 値関数の可測性の定義は $[-\infty,\infty]$ 値関数の可測性の定義3.1と矛盾しない。
注意4.4
可測空間 $X$ に対し $f=(f_1,\ldots,f_N)\colon X\rightarrow \mathbb{R}^N$(resp. $f=f_1+if_2\colon X\rightarrow\mathbb{C}$)が可測関数であることは、系2.9と命題2.6より $f_1,\ldots,f_N\colon X\rightarrow\mathbb{R}$(resp. $f_1,f_2\colon X\rightarrow\mathbb{R}$)がそれぞれ可測関数であることと同値である。
定義4.5($(a<f)$など)
関数 $f\colon X\rightarrow [-\infty,\infty]$ と $a\in [-\infty,\infty]$ に対し、 $$ (a<f)\colon=\{x\in X:a<f(x)\},\quad(a\leq f)\colon=\{x\in X:a\leq f(x)\} $$ と定義する。$a,b\in [-\infty,\infty]$ に対し $(f< a), (f\leq a),(f=a), (a\leq f<b), (a<f\leq b), (a\leq f\leq b)$ なども同様にして定義する。
次の命題は極めて基本的である。
命題4.6($[-\infty,\infty]$ 値関数の可測性の特徴付け)
$(X,\mathfrak{M})$ を可測空間とする。$f\colon X\rightarrow[-\infty,\infty]$ に対し次は互いに同値である。
- $(1)$ $f$ は可測関数である。
- $(2)$ 任意の $a\in \mathbb{R}$ に対し $(a<f)\in \mathfrak{M}$.
- $(3)$ 任意の $a\in \mathbb{R}$ に対し $(a\leq f)\in \mathfrak{M}$.
- $(4)$ 任意の $a\in \mathbb{R}$ に対し $(f<a)\in \mathfrak{M}$.
- $(5)$ 任意の $a\in \mathbb{R}$ に対し $(f\leq a)\in \mathfrak{M}$.
Proof.
$(1)\Rightarrow(2)$ は自明である。
$(2)\Rightarrow(3)$ は $(a\leq f)=\bigcap_{n\in\mathbb{N}}(a-\frac{1}{n}<f)$ による。
$(3)\Rightarrow(4)$ は $(f<a)=X\backslash (a\leq f)$ による。
$(4)\Rightarrow(5)$ は $(f\leq a)=\bigcap_{n\in\mathbb{N}}(f<a+\frac{1}{n})$ であることによる。
$(5)\Rightarrow(2)$ は $(a<f)=X\backslash (f\leq a)$ であることによる。
$(2),(3),(4),(5)$ が成り立つならば $[-\infty,\infty]$ の任意の区間 $I$ に対し $f^{-1}(I)\in \mathfrak{M}$ であるから命題2.3より $(1)$ が成り立つ。
定義4.7(関数 $f\colon X\rightarrow [-\infty,\infty]$ の非負部分、非正部分、絶対値 $f_+,f_-,\lvert f\rvert\colon X\rightarrow[0,\infty]$ )
関数 $f\colon X\rightarrow[-\infty,\infty]$ に対し、 $$ f_{\pm}\colon X\ni x\mapsto \text{max} (\pm f(x),0)\in [0,\infty] $$ と定義する。$f_+$ を $f$ の非負部分、$f_-$ を $f$ の非正部分と言う。 $$ f(x)=f_+(x)-f_-(x),\quad \lvert f(x)\rvert=f_{+}(x)+f_-(x)\quad(\forall x\in X) $$ である。任意の $p\in (0,\infty)$ に対し、 $$ \lvert f\rvert^p\colon X\ni x\mapsto \lvert f(x)\rvert^p\in [0,\infty] $$ と定義する。ただし $0^p=0$, $\infty^p=\infty$ とする。
命題4.8(可測関数の基本的な演算でできる関数は可測関数)
$(X,\mathfrak{M})$ を可測空間とする。次が成り立つ。
- $(1)$ 可測関数 $f\colon X\rightarrow [-\infty,\infty]$ と $a\in \mathbb{R}$ に対し $af\colon X\ni x\mapsto af(x)\in [-\infty,\infty]$ は可測関数である。
- $(2)$ 可測関数 $f,g\colon X\rightarrow [-\infty,\infty]$ に対し、$f+g\colon X\ni x\mapsto f(x)+g(x)\in [-\infty,\infty]$ は定義できる[4] 限り可測関数である。
- $(3)$ 有限個の可測関数 $f_1,\ldots,f_n\colon X\rightarrow [-\infty,\infty]$ に対し、
$$ \text{max} (f_1,\ldots,f_n)\colon X\ni x\mapsto \text{max} (f_1(x),\ldots,f_n(x))\in [-\infty,\infty] $$ $$ \text{min} (f_1,\ldots,f_n)\colon X\ni x\mapsto \text{min} (f_1(x),\ldots,f_n(x))\in [-\infty,\infty] $$ は可測関数である。
- $(4)$ $X\rightarrow [-\infty,\infty]$ の可測関数列 $(f_n)_{n\in \mathbb{N}}$ に対し、
$$ \sup_{n\in \mathbb{N}}f_n\colon X\ni x\mapsto \sup_{n\in \mathbb{N}}f_n(x)\in [-\infty,\infty] $$ $$ \inf_{n\in\mathbb{N}}f_n\colon X\ni x\mapsto \inf_{n\in \mathbb{N}}f_n(x)\in [-\infty,\infty] $$ は可測関数である。
- $(5)$ 可測関数 $f\colon X\rightarrow [-\infty,\infty]$ と $p\in (0,\infty)$ に対し、$f_+,f_-,\lvert f\rvert^p\colon X\rightarrow [0,\infty]$ は可測関数である。
- $(6)$ 可測関数 $f,g\colon X\rightarrow \mathbb{C}$ に対し $fg\colon X\ni x\mapsto f(x)g(x)\in \mathbb{C}$ は可測関数である。
Proof.
命題4.6を用いる。
- $(1)$ 自明である。
- $(2)$ 任意の $a\in \mathbb{R}$ に対し、
$$ (a<f+g)=\bigcup_{r\in \mathbb{Q}}(a-r<f)\cap (r<g)\in \mathfrak{M}. $$
- $(3)$ 任意の $a\in \mathbb{R}$ に対し、
$$ (a<\text{max}(f_1,\ldots,f_n))=\bigcup_{k=1}^{n}(a<f_k)\in \mathfrak{M},\quad (\text{min}(f_1,\ldots,f_n)<a)=\bigcup_{k=1}^{n}(f_k<a)\in\mathfrak{M}. $$
- $(4)$ 任意の $a\in \mathbb{R}$ に対し、
$$ (a<\sup_{n\in \mathbb{N}}f_n)=\bigcup_{n\in \mathbb{N}}(a<f_n)\in \mathfrak{M},\quad (\inf_{n\in \mathbb{N}}f_n<a)=\bigcup_{n\in \mathbb{N}}(f_n<a)\in\mathfrak{M}. $$
- $(5)$ $(3)$ より $f_{\pm}=\text{max} (\pm f,0)$ は可測関数である。よって $(2)$ より $\lvert f\rvert=f_++f_-$ も可測関数であり、したがって $\lvert f\rvert^p$ も可測関数である。
- $(6)$ 注意4.4より $f,g$ が共に実数値である場合を考えれば十分である。
$$ fg=\frac{1}{4}(\lvert f+g\rvert^2-\lvert f-g\rvert^2) $$ であるから $(2),(5)$ より $fg$ は可測関数である。
□5. 非負値可測関数の非負値可測単関数の各点単調増加列による近似
定義5.1(指示関数)
$X$ を集合とする。$E\subset X$ に対し $\chi_E\colon X\rightarrow \mathbb{R}$ を、 $$ \chi_E(x)=\left\{\begin{array}{ll}1\quad&(x\in E)\\0&(x\in X\backslash E)\end{array}\right. $$ と定義する。$\chi_E$ を $E$ の指示関数と言う。
命題5.2(可測集合の指示関数の可測性)
$(X,\mathfrak{M})$ を可測空間、$E\in \mathfrak{M}$ とすると $\chi_E\colon X\rightarrow \mathbb{R}$ は可測関数である。
Proof.
任意の $a\in \mathbb{R}$ に対し、 $$ (a<\chi_E)=\left\{\begin{array}{ll}X\quad&(a<0)\\E&(0\leq a<1)\\\emptyset&(1\leq a)\end{array}\right. $$ であるから $(a<\chi_E)\in \mathfrak{M}$ である。
□定義5.3(可測関数の空間、可測単関数空間)
$(X,\mathfrak{M})$ を可測空間とする。命題4.8より、 $$ \mathcal{L}(X,\mathfrak{M})\colon=\{f:X\rightarrow \mathbb{C}: f\text{は可測}\} $$ は各点ごとの演算で $\mathbb{C}$ 上の線型空間をなす。そこで可測集合の指示関数全体から生成される $\mathcal{L}(X,\mathfrak{M})$ の線形部分空間を、 $$ \mathcal{S} (X,\mathfrak{M})\colon=\text{span}\{\chi_E:E\in \mathfrak{M}\}\subset \mathcal{L}(X,\mathfrak{M}) $$ とおく。$\mathcal{S} (X,\mathfrak{M})$ の元を $(X,\mathfrak{M})$ 上の可測単関数と言う。
命題5.4(可測単関数の特徴付け)
$(X,\mathfrak{M})$ を可測空間とする。 $$ \mathcal{S}(X,\mathfrak{M})=\{f\in \mathcal{L}(X,\mathfrak{M}):f(X) \text{は有限集合}\} $$ が成り立つ。
Proof.
$\subset$ は自明である。$f(X)$ が有限集合であるような $f\in \mathcal{L}(X,\mathfrak{M})$ に対し $f(X)=\{a_1,\ldots,a_n\}$ なる互いに異なる $a_1,\ldots,a_n\in \mathbb{C}$ を取ると、 $$ (f=a_j)\in\mathfrak{M}\quad(j=1,\ldots,n) $$ であり、$f=\sum_{j=1}^{n}a_j\chi_{(f=a_j)}\in \mathcal{S}(X,\mathfrak{M})$ である。
□定理5.5(非負値可測関数の非負値可測単関数の各点単調増加列による近似)
$(X,\mathfrak{M})$ を可測空間とする。任意の非負値可測関数 $f\colon X\rightarrow[0,\infty]$ に対し非負値可測単関数の列 $(f_n)_{n\in\mathbb{N}}$ を、 $$ f_n(x)\colon=\sum_{k=1}^{n2^n}\frac{k-1}{2^n}\chi_{(\frac{k-1}{2^n}\leq f<\frac{k}{2^n})}(x)+n\chi_{(n\leq f)}(x)\quad(\forall n\in\mathbb{N},\forall x\in X) $$ と定義する。このとき各 $x\in X$ に対し $(f_n(x))_{n\in \mathbb{N}}$ は単調増加列であり、$f(x)=\sup_{n\in \mathbb{N}}f_n(x)$ が成り立つ。
Proof.
任意の $x\in X$ と $n\in \mathbb{N}$ を取り、$f_n(x)\leq f_{n+1}(x)$ が成り立つことを示す。$n+1\leq f(x)$ ならば、 $f_n(x)=n<n+1=f_{n+1}(x)$ である。$n\leq f(x)<n+1$ ならば、 $$ n2^{n+1}\leq k-1\leq f(x)2^{n+1}<k\leq (n+1)2^{n+1} $$ なる $k\in \mathbb{N}$ が取れるので、$f_n(x)=n\leq\frac{k-1}{2^{n+1}}=f_{n+1}(x)$ である。$f(x)<n$ ならば、$0\leq k-1\leq f(x)2^n<k\leq n2^n$なる $k\in \mathbb{N}$ が取れて、 $$ f_n(x)=\frac{k-1}{2^n},\quad f_{n+1}(x)\in \left\{\frac{2k-2}{2^{n+1}},\text{ }\frac{2k-1}{2^{n+1}}\right\} $$ であるから $f_n(x)\leq f_{n+1}(x)$ である。次に $f(x)=\sup_{n\in\mathbb{N}}f_n(x)$ が成り立つことを示す。$f(x)=\infty$ ならば $f_n(x)=n$ $(\forall n\in \mathbb{N})$ であるから成り立つ。$f(x)<\infty$ の場合、任意の $\epsilon\in (0,\infty)$ に対し $f(x)<n_0$ かつ $\frac{1}{2^{n_0}}<\epsilon$ なる $n_0\in \mathbb{N}$ を取れば、 $$ 0\leq f(x)-f_n(x)\leq \frac{1}{2^n}<\epsilon\quad(\forall n\geq n_0) $$ である。よって $f(x)=\lim_{n\rightarrow\infty}f_n(x)=\sup_{n\in\mathbb{N}}f_n(x)$ が成り立つ。
□次に読む
関連項目
脚注
- ↑ $X_{j_1},\ldots,X_{j_n}$ の任意の開集合 $U_1,\ldots,U_n$ に対し $\pi_{j_1}^{-1}(U_1)\cap \ldots\cap \pi_{j_n}^{-1}(U_n)$ は $(*)$ の元の合併で表される。よって $(*)$ は直積位相の基底である。
- ↑ $\mathbb{R}$ の上に有界な単調増加ネットは上限に収束するから、この定義は $x_j\in [0,\infty)$ $(\forall j\in J)$ で $\sum_{j\in J}x_j$ が収束する場合と矛盾しない。総和については位相線形空間1:ノルムと内積の5を参照。
- ↑ $\mathbb{R}$ の任意の開集合は可算個の開区間の合併であることに注意。
- ↑ つまり任意の $x\in X$ に対し $\{f(x),g(x)\}\neq\{\infty,-\infty\}$。