測度と積分6:数え上げ測度と $\ell^p$ 空間

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この章では、数え上げ測度と $\ell^p$ 空間について基本的なことを述べ、関連することとしてHilbert空間のCONSと、Banach空間、Hilbert空間の直和について論じる。集合上の数え上げ測度とは、各部分集合に対しその元の個数を与えるような測度であり、数え上げ測度による積分は総和を意味する。$\ell^p$空間とは数え上げ測度による $L^p$ 空間である。
この章では総和やHilbert空間を扱う。これらについては位相線形空間1:ノルムと内積の5,6を参照されたい。

入門テキスト「測度と積分」

24. 数え上げ測度、$\ell^p$ 空間

定義24.1(数え上げ測度)

$J$ を空でない集合とする。任意の $E\in 2^J$ に対し $\mu(E)\in [0,\infty]$ を $E$ が空集合であれば $0$、有限集合であれば $E$ の元の個数、 無限集合であれば $\infty$ として定義する。このとき $\mu\colon 2^J\rightarrow[0,\infty]$ は明らかに測度である。これを $J$ 上の数え上げ測度と言う。

命題24.2(非負数の総和と数え上げ測度)

$J$ を空でない集合、$\mu\colon 2^J\rightarrow [0,\infty]$ を数え上げ測度、$f\colon J\rightarrow[0,\infty]$ とする。このとき、 $$ \int_{J}f(j)d\mu(j)=\sum_{j\in J}f(j) $$ が成り立つ。

Proof.

$\mathcal{F}_J$ を $J$ の有限部分集合全体とする。非負数の総和の定義より、 $$ \sum_{j\in J}f(j)=\sup_{F\in \mathcal{F}_J}\sum_{j\in F}f(j)=\sup_{F\in \mathcal{F}_J}\int_{F}f(j)d\mu(j)\leq \int_{J}f(j)d\mu(j) $$ である。逆の不等式を示すには、非負値可測関数の積分の定義(定義8.1)より非負値単関数 $s\colon J\rightarrow[0,\infty)$ で $s(j)\leq f(j)$ $(\forall j\in J)$ なるものに対し、 $$ \int_{J}s(j)d\mu(j)\leq \sum_{j\in J}f(j)\quad\quad(*) $$ が成り立つことを示せばよい。互いに交わらない $E_1,\ldots,E_n\in 2^J$ と $\alpha_1,\ldots,\alpha_n\in (0,\infty)$ に対し $s=\sum_{j=1}^{n}\alpha_j\chi_{E_j}$ であるとする。もし $E_1,\ldots,E_n\in \mathcal{F}_J$ ならば $F\colon=E_1\cup\ldots\cup E_n\in \mathcal{F}_J$ とおけば、 $$ \int_{J}s(j)d\mu(j)=\int_{F}s(j)d\mu(j)\leq \int_{F}f(j)d\mu(j)=\sum_{j\in F}f(j)\leq\sum_{j\in J}f(j) $$ である。$E_1,\ldots,E_n$ のうち無限集合であるものがあるとし、それを $E_k$ とする。任意の $N\in \mathbb{N}$ に対し $N$ 個の元からなる部分集合 $F\subset E_k$ が取れるので、 $$ \alpha_kN=\alpha_k\mu(F)=\int_{F}s(j)d\mu(j)\leq\int_{F}f(j)d\mu(j)=\sum_{j\in F}f(j)\leq\sum_{j\in J}f(j) $$ である。よって $\sum_{j\in J}f(j)=\infty$ であるから $(*)$ が成り立つ。

定義24.3($\ell^p$ 空間)

$J$ を空でない集合、$\mu\colon 2^J\rightarrow[0,\infty]$ を数え上げ測度とする。 $$ \ell^p(J):=L^p(J,2^J,\mu)=\mathcal{L}^p(J,2^J,\mu) $$ と表す。[1]任意の $(x_j)_{j\in J}\in \ell^p(J)$ に対し、その $L^p$ ノルムは、命題24.2より、 $$ \lvert(x_j)_{j\in J}\rVert_{p}=\left(\sum_{j\in J}\lvert x_j\rvert^p\right)^{\frac{1}{p}}\quad(p\in[1,\infty)), $$ $$ \lVert (x_j)_{j\in J}\rVert_{\infty}=\sup_{j\in J}\lvert x_j\rvert $$ である。特に $(x_j)_{j\in J}\in \ell^1(J)$ であることは $\sum_{j\in J}x_j$ が絶対収束することを意味する。

命題24.4(複素数の総和と数え上げ測度)

$J$ を空でない集合、$\mu\colon 2^J\rightarrow[0,\infty]$ を数え上げ測度、$(x_j)_{j\in J}\in \ell^1(J)$ とする。このとき、 $$ \int_{J}x_jd\mu(j)=\sum_{j\in J}x_j\quad\quad(*) $$ が成り立つ。

Proof.

$\mathcal{F}_J$ を $J$ の有限部分集合全体に集合の包含関係による順序を入れた有向集合とする。総和の定義より、 $$ \sum_{j\in J}x_j=\lim_{F\in \mathcal{F}_J}\sum_{j\in F}x_j=\lim_{F\in \mathcal{F}_J}\int_{J}x_jd\mu(j) $$ であり、命題24.3より、 $$ \begin{aligned} \left\lvert \int_{J}x_jd\mu(j)-\int_{F}x_jd\mu(j)\right\rvert=\left\lvert\int_{J\backslash F}x_jd\mu(j)\right\rvert \leq \int_{J\backslash F}\lvert x_j\rvert d\mu(j) =\sum_{j\in J\backslash F}\lvert x_j\rvert\rightarrow0 \end{aligned} $$ である。よって $(*)$ が成り立つ。

命題24.5

$J$ を空でない集合、$p\in [1,\infty)$ とする。任意の $f\in \ell^p(J)$ に対し、$J$ 上の複素数値関数の列 $(f_n)_{n\in\mathbb{N}}$ で次を満たすものが取れる。

  • $(1)$ 任意の $n\in \mathbb{N}$ に対し $f_n$ の台は有限集合。
  • $(2)$ $\lim_{n\rightarrow\infty}\lVert f-f_n\rVert_p=0.$
Proof.

$L^p$ 関数の可測単関数近似性(命題22.1)と $\ell^p(J)$ に属する単関数は台が有限集合であることによる。

25. Hilbert空間のCONS

定義25.1(線形包の表記)

$X$ を線形空間とする。空でない $E\subset X$ に対し $E$ の元の線形結合全体($E$ から生成される線形包)を $\text{span}(E)$ と表すこととする。

定義25.2(偏極恒等式)

$V,W$ を $\mathbb{C}$ 上の線形空間、 $$ \Phi:V\times V\rightarrow W $$ を準双線形写像とする(第一引数について反線形、第二引数について線形)。このとき任意の $v_1,v_2\in V$ に対し、 $$ \Phi(v_1,v_2)=\frac{1}{4}\sum_{k=0}^{3}i^k\Phi(i^kv_1+v_2,i^kv_1+v_2) $$ が成り立つ。これを偏極恒等式と言う。

定義25.3(ユニタリ作用素)

$\mathcal{H},\mathcal{K}$ を $\mathbb{C}$ 上のHilbert空間とする。$U\colon\mathcal{H}\rightarrow\mathcal{K}$ がノルムを保存する線形同型写像であるとき、$U$ をユニタリ作用素と言う。$U\colon\mathcal{H}\rightarrow\mathcal{K}$ がユニタリ作用素であるとき、任意の $v_1,v_2\in \mathcal{H}$ に対し、偏極恒等式より、 $$ (Uv_1\mid Uv_2)=\frac{1}{4}\sum_{k=0}^{3}i^k\lVert U(i^kv_1+v_2)\rVert^2 =\frac{1}{4}\sum_{k=0}^{3}i^k\lVert i^kv_1+v_2\rVert^2=(v_1\mid v_2) $$ である。よってユニタリ作用素は内積を保存する。

定義25.4(内積空間の(添字付けられた)ONS)

$\mathcal{H}$ を内積空間とする。$B\subset \mathcal{H}$ が互いに直交する単位ベクトルからなるとき $B$ を $\mathcal{H}$ のONSと言う。$(e_j)_{j\in J}\colon J\ni j\mapsto e_j\in \mathcal{H}$ が単射で $\{e_j\}_{j\in J}\subset \mathcal{H}$ がONSであるとき、$(e_j)_{j\in J}$ を $J$ によって添字付けられたONSと呼ぶこととする。

命題25.5(Besselの不等式)

$\mathcal{H}$ を内積空間、$(e_j)_{j\in J}$ を $J$ によって添字付けられた$\mathcal{H}$ のONSとする。このとき任意の $v\in \mathcal{H}$ に対し、 $$ \sum_{j\in J}\lvert (e_j\mid v)\rvert^2\leq \lVert v\rVert^2 $$ が成り立つ。特に$( (e_j\mid v) )_{j\in J}\in \ell^2(J)$ である。

Proof.

$J$ の任意の有限部分集合 $F$ に対し、 $$ 0\leq \left\lVert v-\sum_{j\in F}(e_j\mid v)e_j\right\rVert^2 =\lVert v\rVert^2-\sum_{j\in F}\lvert (e_j\mid v)\rvert^2 $$ であることによる。

定理25.6(Parsevalの等式)

$\mathcal{H}$ をHilbert空間、$(e_j)_{j\in J}$ を $J$ によって添字付けられた$\mathcal{H}$ のONSとする。このとき任意の $v\in \overline{\text{span}\{e_j\}_{j\in J}}$ に対し、 $$ \lVert v\rVert^2=\sum_{j\in J}\lvert (e_j\mid v)\rvert^2,\quad\quad(*) $$ $$ v=\sum_{j\in J}(e_j\mid v)e_j\quad\quad(**) $$ が成り立つ。そして、 $$ U\colon\overline{\text{span}\{e_j\}_{j\in J}}\ni v\mapsto ( (e_j\mid v) )_{j\in J}\in \ell^2(J) $$ はユニタリ作用素である。

Proof.

Besselの不等式より $U$ はノルム減少な有界線形作用素であり、明らかに $\text{span}\{e_j\}_{j\in J}$ 上でノルムを保存する。 $U$ の連続性より $U$ は $\overline{\text{span}\{e_j\}_{j\in J}}$ 上でもノルムを保存する。よって任意の $v\in \overline{\text{span}\{e_j\}_{j\in J}}$ に対し $(*)$ が成り立ち、有限集合 $F\subset J$ に対し、 $$ \left\lVert v-\sum_{j\in F}(e_j\mid v)e_j\right\rVert^2=\lVert v\rVert^2-\sum_{j\in F}\lvert (e_j\mid v)\rvert^2 $$ であるから $F\rightarrow J$ とすれば $(**)$ を得る。 後は $U$ が全射であることを示せばよい。 任意の $f\in \ell^2(J)$ に対し命題24.5より台が有限集合であるような $J$ 上の複素数値関数の列 $(f_n)_{n\in \mathbb{N}}$ で $\lim_{n\rightarrow\infty}\lVert f-f_n\rVert_2=0$ なるものが取れる。各 $n\in \mathbb{N}$ に対し $f_n\colon J\rightarrow\mathbb{C}$ の台が有限集合であることから $f_n=Uv_n$ なる $v_n\in \text{span}\{e_j\}_{j\in J}$ が取れる。 $$ \lVert v_n-v_m\rVert=\lVert Uv_n-Uv_m\rVert=\lVert f_n-f_m\rVert_2\quad(\forall n,m\in \mathbb{N}) $$ より $(v_n)_{n\in \mathbb{N}}$ はCauchy列であるから $v=\lim_{n\rightarrow\infty} v_n\in \overline{\text{span}\{e_j\}_{j\in J}}$ が存在する。よって、 $$ Uv=\lim_{n\rightarrow\infty}Uv_n=\lim_{n\rightarrow\infty} f_n=f $$ であるから $U$ は全射である。

定義25.7(Hilbert空間の(添字付けられた)CONS)

$\mathcal{H}$ をHilbert空間とする。$\mathcal{H}$ のONS $B$ で $\overline{\text{span}(B)}=\mathcal{H}$ を満たすものを $\mathcal{H}$ のCONSと言う。$(e_j)_{j\in J}\colon J\ni j\mapsto e_j\in \mathcal{H}$ が単射で $\{e_j\}_{j\in J}\subset \mathcal{H}$ が $\mathcal{H}$ のCONSであるとき、$(e_j)_{j\in J}$ を $J$ によって添字付けられた $\mathcal{H}$ のCONSと呼ぶこととする。

系25.8($J$ によって添字付けられたCONSを持つHilbert空間は $\ell^2(J)$ と同型)

$\mathcal{H}$ をHilbert空間、$(e_j)_{j\in J}$ を $J$ によって添字付けられた $\mathcal{H}$ のCONSとすると、 $$ \mathcal{H}\ni v\mapsto ( (e_j\mid v) )_{j\in J}\in \ell^2(J) $$ はユニタリ作用素であり、任意の $v\in \mathcal{H}$ に対し、 $$ \lVert v\rVert^2=\sum_{j\in J}\lvert (e_j\mid v)\rvert^2,\quad v=\sum_{j\in J}(e_j\mid v)e_j $$ が成り立つ。

命題25.9(Hilbert空間のCONSの存在)

$\mathcal{H}$ をHilbert空間、$B_0\subset \mathcal{H}$ を任意のONSとする。このとき $B_0$ を含む $\mathcal{H}$ のCONSが存在する。

Proof.

$\mathcal{H}$ のONSで $B_0$ を含むもの全体は、集合の包含関係による順序で帰納的順序集合である。よってZornの補題より極大な $B$ が取れる。 もし $\mathcal{H}\neq \overline{\text{span}(B)}$ ならば、直交分解定理(位相線形空間1:ノルムと内積定理6.11)より、$(\text{span}(B))^{\perp}\neq\{0\}$ である。よって単位ベクトル $e\in B^{\perp}$ が取れるが、このとき $B\cup\{e\}$ は $B$ を真に含むONSなので $B$ の極大性に矛盾する。ゆえに $\mathcal{H}=\overline{\text{span}(B)}$ であるから $B$ は $\mathcal{H}$ のCONSである。

定理25.10(Hilbert空間のCONSの濃度の一意性)

$\mathcal{H}$ をHilbert空間、$B,C\subset \mathcal{H}$ をそれぞれ $\mathcal{H}$ のCONSとする。このとき $B$ と $C$ の集合としての濃度は等しい。

Proof.

  • $(1)$ $B$ が有限集合の場合、位相線形空間1:ノルムと内積の4より、$\text{span}(B)$ は閉であるから $\mathcal{H}=\text{span}(B)$ である。よって $\mathcal{H}$ は有限次元なので $C$ も有限集合であり、$B,C$ は有限次元線形空間 $\mathcal{H}$ の基底である。ゆえに $B$ と $C$ の濃度は等しい。
  • $(2)$ $B$ が無限集合の場合、$(1)$ より $C$ も無限集合である。$J\ni j\mapsto e_j\in B$、$I\ni i\mapsto f_i\in C$ を全単射とする。

$$ J_i\colon=\{j\in J:\lvert (f_i\mid e_j)\rvert>0\}\quad(\forall i\in I) $$ とおく。Parsevalの等式より、 $$ 1=\lVert e_j\rVert^2=\sum_{i\in I}\lvert (f_i\mid e_j)\rvert^2\quad(\forall j\in J) $$ であるから、 $$ J=\bigcup_{i\in I}J_i\quad\quad(*) $$ である。任意の $i\in I$ と任意の $n\in \mathbb{N}$ に対し、 $$ J_{i,n}\colon=\left\{j\in J:\lvert (f_i\mid e_j)\rvert>\frac{1}{n}\right\} $$ とおくと、 $$ 1=\lVert f_i\rVert^2=\sum_{j\in J}\lvert (e_j\mid f_i)\rvert^2 $$ より $J_{i,n}$ は有限集合である。そして、 $$ J_i=\bigcup_{n\in\mathbb{N}}J_{i,n} $$ であるから $J_i$ は可算集合である。よって $(*)$ より $I\times \mathbb{N}$ から $J$ への全射が存在する。$I$ は無限集合ゆえ $I\times \mathbb{N}$ と $I$ の濃度は等しいので、 $I$ から $J$ への全射が存在する。全く対称的な議論により $J$ から $I$ への全射が存在することも分かる。よってBernsteinの定理より $I$ と $J$ の濃度は等しい。

命題25.11(Hilbert空間のCONSが可算であるための必要十分条件は可分であること)

$\mathcal{H}$ をHilbert空間とする。このとき次は互いに同値である。

  • $(1)$ $\mathcal{H}$ は可分である。
  • $(2)$ $\mathcal{H}$ のCONSは可算である。
Proof.

$(1)\Rightarrow(2)$ を示す。$\mathcal{H}$ が可分であるとし、$A\subset \mathcal{H}$ を稠密な可算集合とする。このとき $\mathcal{H}=\overline{A}=\overline{\text{span}(A)}$ である。線形独立な $B\subset A$ で $\text{span}(B)=\text{span}(A)$ なるものを取り、Schmidtの直交化により $\text{span}(C)=\text{span}(B)$ なるONS $C$ を構成する。$\mathcal{H}=\overline{\text{span}(C)}$ より $C$ は $\mathcal{H}$ の可算なCONSである。よって $(2)$ が成り立つ。 $(2)\Rightarrow(1)$ を示す。$(e_j)_{j\in J}$ を可算集合 $J$ によって添字付けられた $\mathcal{H}$ のCONSとし、$J=\{j_n\}_{n\in \mathbb{N}}$とする。$\mathbb{C}$ の稠密な可算集合 $Q$ に対し、 $$ \text{span}\{e_j\}_{j\in J}\subset \overline{\bigcup_{N\in\mathbb{N}}\left\{\sum_{n=1}^{N}r_ne_{j_n}:r_1,\ldots,r_N\in Q\right\}} $$ であり、可算集合 $$ \bigcup_{N\in\mathbb{N}}\left\{\sum_{n=1}^{N}r_ne_{j_n}:r_1,\ldots,r_N\in Q\right\} $$ は $\mathcal{H}$ で稠密である。よって $\mathcal{H}$ は可分である。

26. $\ell^p$ 直和Banach空間、直和Hilbert空間

定義26.1($\ell^p$ 直和Banach空間)

$J$ を空でない集合とし、各 $j\in J$ について $\mathbb{C}$ 上のBanach空間 $X_j$ が与えられているとする。任意の $(x_j)_{j\in J}\in \prod_{j\in J}X_j$ に対し、 $$ \lVert (x_j)_{j\in J}\rVert_p\colon=\left(\sum_{j \in J}\lVert x_j\rVert^p\right)^{\frac{1}{p}}\quad(\forall p\in [1,\infty)), $$ $$ \lVert (x_j)_{j\in J}\rVert_{\infty}\colon=\sup_{j\in J}\lVert x_j\rVert $$ とおく。各 $p\in [1,\infty]$ に対し $\lVert (x_j)_{j\in J}\rVert_p$ は、$J\ni j\mapsto \lVert x_j\rVert\in [0,\infty)$ の数え上げ測度による $L^p$ ノルムである。よって、 $$ \bigoplus_{j\in J}^{(p)}X_j:=\left\{(x_j)_{j\in J}\in \prod_{j\in J}X_j: \lVert (x_j)_{j\in J}\rVert_p<\infty\right\} $$ は直積線形空間 $\prod_{j\in J}X_j$ の部分空間であり、 $$ \bigoplus_{j\in J}^{(p)}X_j\ni (x_j)_{j\in J}\mapsto \lVert (x_j)_{j\in J}\rVert_p\in [0,\infty)\quad\quad(*) $$ はノルムである。次の命題26.2で見るように $\bigoplus_{j\in J}^{(p)}X_j$ は $(*)$ をノルムとして Banach空間である。これを $(X_j)_{j\in J}$ の $\ell^p$ 直和Banach空間と言う。

命題26.2

任意の $p\in [1,\infty]$ に対し $\bigoplus_{j\in J}^{(p)}X_j$ はBanach空間である。

Proof.

$(x_n)_{n\in \mathbb{N}}$ を $\bigoplus_{j\in J}^{(p)}X_j$ のCauchy列とする。任意の $j\in J$ に対し $X_j$ の上への自然な射影 $\pi_j:\prod_{i\in J}X_i\rightarrow X_j$ とすると、$(\pi_j(x_n))_{n\in \mathbb{N}}$ はBanach空間 $X_j$ のCauchy列である。よって $x\in \prod_{j\in J}X_j$ で、 $$ \lim_{n\rightarrow\infty}\lVert \pi_j(x)-\pi_j(x_n)\rVert=0\quad(\forall j\in J) $$ なるものが取れる。

  • $(1)$ $p\in [1,\infty)$ の場合。任意の $\epsilon\in (0,\infty)$ に対し $n_0\in \mathbb{N}$ で、

$$ \lVert x_n-x_m\rVert_p\leq\epsilon\quad(\forall n,m\geq n_0) $$ なるものを取る。任意の $m\geq n_0$ と任意の有限集合 $F\subset J$ に対し、 $$ \begin{aligned} &\sum_{j\in F}\lVert \pi_j(x)-\pi_j(x_m)\rVert^p=\lim_{n\rightarrow\infty}\sum_{j\in F}\lVert \pi_j(x_n)-\pi_j(x_m)\rVert^p=\inf_{n\in \mathbb{N}}\sup_{k\geq n}\sum_{j\in F}\lVert \pi_j(x_k)-\pi_j(x_m)\rVert^p\\ &\leq \inf_{n\in \mathbb{N}}\sup_{k\geq n}\sum_{j\in J}\lVert \pi_j(x_k)-\pi_j(x_m)\rVert^p \leq \sup_{n\geq n_0} \sum_{j\in J}\lVert \pi_j(x_n)-\pi_j(x_m)\rVert^p =\sup_{n\geq n_0}\lVert x_n-x_m\rVert_p^p\leq \epsilon^p \end{aligned} $$ であるから、任意の $m\geq n_0$ に対し、 $$ \sum_{j\in J}\lVert \pi_j(x)-\pi_j(x_m)\rVert^p\leq \epsilon^p $$ が成り立つ。よって $x=(x-x_m)+x_m\in \bigoplus_{j\in J}^{(p)}X_j$ であり、 $$ \lVert x-x_m\rVert_p^p=\sum_{j\in J}\lVert \pi_j(x)-\pi_j(x_m)\rVert^p\leq \epsilon^p\quad(\forall m\geq n_0) $$ であるから $(x_n)_{n\in \mathbb{N}}$ は $x$ に収束する。

  • $(2)$ $p=\infty$ の場合。任意の $\epsilon\in(0,\infty)$ に対し $n_0\in\mathbb{N}$ で、

$$ \lVert x_n-x_m\rVert_{\infty}\leq \epsilon\quad(\forall n,m\geq n_0) $$ なるものを取る。任意の $m\geq n_0$ と任意の $j\in J$ に対し、 $$ \begin{aligned} &\lVert \pi_j(x)-\pi_j(x_m)\rVert=\lim_{n\rightarrow\infty}\lVert \pi_j(x_n)-\pi_j(x_m)\rVert=\inf_{n\in \mathbb{N}}\sup_{k\geq n}\lVert \pi_j(x_k)-\pi_j(x_m)\rVert\\ &\leq \inf_{n\in \mathbb{N}}\sup_{k\geq n}\lVert x_k-x_m\rVert_{\infty} \leq \sup_{n\geq n_0}\lVert x_n-x_m\rVert_{\infty}\leq \epsilon \end{aligned} $$ であるから、任意の $m\geq n_0$ に対し、 $$ \sup_{j\in J}\lVert \pi_j(x)-\pi_j(x_m)\rVert\leq \epsilon $$ が成り立つ。よって $x=(x-x_m)+x_m\in \bigoplus_{j\in J}^{\infty}X_j$ であり、 $$ \lVert x-x_m\rVert_{\infty}=\sup_{j\in J}\lVert \pi_j(x)-\pi_j(x_m)\rVert\leq \epsilon\quad(\forall m\geq n_0) $$ であるから $(x_n)_{n\in\mathbb{N}}$ は $x$ に収束する。

定義26.3(直和Hilbert空間)

$J$ を空でない集合とし、各 $j\in J$ に対し $\mathbb{C}$ 上のHilbert空間 $\mathcal{H}_j$ が与えられているとする。$(\mathcal{H}_j)_{j\in J}$ の $\ell^2$ 直和Banach空間を $\bigoplus_{j\in J}\mathcal{H}_j$ と表す。任意の $u=(u_j)_{j\in J}, v=(v_j)_{j\in J}\in \bigoplus_{j\in J}\mathcal{H}_j$ に対し、Hölderの不等式より、 $$ \sum_{j\in J}\lvert (u_j\mid v_j)\rvert\leq \sum_{j\in J}\lVert u_j\rVert\lVert v_j\rVert \leq \left(\sum_{j\in J}\lVert u_j\rVert^2\right)^{\frac{1}{2}}\left(\sum_{j\in J}\lVert v_j\rVert^2\right)^{\frac{1}{2}}=\lVert u\rVert\lVert v\rVert $$ であるから、$( (u_j\mid v_j) )_{j\in J}\in \ell^1(J)$ である。そこで、 $$ (u\mid v)\colon=\sum_{j\in J}(u_j\mid v_j)\in \mathbb{C} $$ と定義する。このとき $(\cdot\mid\cdot)$ は $\bigoplus_{j\in J}\mathcal{H}_j$ 上の内積であり、この内積が誘導するノルムは $\ell^2$ 直和Banach空間のノルムである。よって $\bigoplus_{j\in J}\mathcal{H}_j$ はこの内積によりHilbert空間である。このHilbert空間を $(\mathcal{H}_j)_{j\in J}$ の直和Hilbert空間と言う。

関連項目

脚注

  1. 2番目の等号は $\mu$ に関する零集合が空集合であることによる。