$n$次元球面

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$n$ 次元球面

$n$ 次元球面($n$ 球面、n-sphere)とは、円周や球面の高次元への一般化であって、幾何学において最も基本的な空間の一つである。

定義

非負整数 $n$ に対して、 $S^n\colon=\{x\in {\mathbb{R}}^{n+1}\mid \|x\|=1 \} \subset \mathbb{R}^{n+1}$[1]相対位相を入れた位相空間(またはそれと同相な位相空間)を$n$ 次元球面と呼ぶ。特に $S^1$ は円周、$S^2$ は単に球面とも呼ばれる。 n次元球面 $S^n$ は $\mathbb{R}^{n+1}$ において自然に滑らかな(または解析的)閉部分多様体となる。これはノルムの二乗を対応させる写像が滑らか(または解析的)((ユークリッド空間には標準的な微分構造(恒等写像によって局所座標が定まっている)が自然に仮定されていることに注意))であり$1$ はその写像の正則値であることから従う。詳しくは正則値定理を参照されたい。

位相的性質

主な不変量の値

正整数 $n$ に対して整数係数特異ホモロジー群は $i=0,n$ に対してのみ $H_i(S^n;\mathbb{Z})\cong \mathbb{Z}$であり、その他の $i$ に対しては$H_i(S^n;\mathbb{Z})\cong \{0\}$となる。 $S^0$ は $i=0$ に対してのみ $H_i(S^0;\mathbb{Z})\cong \mathbb{Z} \oplus \mathbb{Z}$であり、その他の $i$ に対しては $H_i(S^0;\mathbb{Z})\cong \{0\}$である。

Poincaré双対性によって整数係数特異コホモロジー群と整数係数ホモロジー群は $H^i(S^n;\mathbb{Z})\cong H_{n-i}(S^n;\mathbb{Z})$ の関係をみたしこれによりコホモロジー群は、$i=0,n$ に対してのみ $H^i(S^n;\mathbb{Z})\cong \mathbb{Z}$であり、その他の $i$ に対しては$H^i(S^n;\mathbb{Z})\cong \{0\}$となる。 $S^0$ は $i=0$ に対してのみ $H^i(S^0;\mathbb{Z})\cong \mathbb{Z} \oplus \mathbb{Z}$であり、その他の $i$ に対しては $H^i(S^0;\mathbb{Z})\cong \{0\}$であり、結果として(自然な対応ではないが) $H^i(S^n;\mathbb{Z})\cong H_i(S^n;\mathbb{Z})$ とホモロジー群と同型となる。

正整数 $n$ に対して $S^n$ は弧状連結であるから基本群の同型類は基点の取り方によらない。$n=1$ の時のみ $\pi_1(S^n)\cong \mathbb{Z}$ であり $n>1$ に対しては $\pi_1(S^n)\cong \{0\}$、つまり単連結である。$n=0$ の時 $S^n$ は弧状連結でなかったから基点を選ぶ必要があるがどちらの点を基点としても基本群は自明となる。

上に挙げたような不変量 と異なり、今なお完全なリストは得られていない。詳しくは球面のホモトピー群を参照されたいがここでも特に重要な例をいくつか挙げる。$S^0$ はどの点を基点として取っても全てのホモトピー群は自明となる。正整数 $n$ に対して $\pi_n(S^n)\cong \mathbb{Z}$であり $0<i<n$ に対しては $\pi_i(S^n)\cong \{0\}$であり、これはつまり $S^n$ は $(n-1)$-連結 であるということである。また $S^1$ の高次のホモトピー群は自明となる。すなわち $i>1$ に対して $\pi_i(S^1)\cong \{0\}$ となる。これは普遍被覆の被覆写像 $p:\mathbb{R}\to S^1$ がホモトピー群の同型を誘導することと $\mathbb{R}$ が可縮でホモトピー群が自明になることより従う。 また非自明でかつ最も単純な例としてHopfファイブレーションファイバー束ホモトピー長完全系列 によって得られる $\pi_3(S^2)\cong \mathbb{Z}$ がある。

微分トポロジー的性質

この項では $n$ は常に正整数であるとする。

  • 微分構造

一般に入る微分構造は一意ではないが球面の定義の項で与えたノルムの二乗により得られる微分構造を $S^n$ の標準的 (standard) な微分構造という。 実際例えば $S^7$ には少なくとも標準的な微分構造の他に微分同相でない $S^4$ 上の $S^3$ 束の構造からなる異なる微分構造の存在が知られている。標準的でない微分構造を備えた球面をエキゾチック球面(exotic sphere)と呼ぶ。どの次元の球面がエキゾチック球面になるか、またその時にどれだけお互い微分同相でない微分構造を持つかなどは現在も未解決である。少なくとも$S^1,S^2,S^3,S^5,S^6,S^{12},S^{56},S^{61}$ はエキゾチック球面の構造を持たないことが知られていて、$S^4$がどれだけ多くの微分構造を許容するかは現在も未解決である。

  • 接束

標準的な微分構造を備えた $S^n$ のうち接束 $TS^n$が自明となるのは $n=1,3,7$ のみであることが知られている。(Bott-Milnor , Kervaire)。特に $TS^2$ は非自明な ベクトル束 で自明な一次元部分束も許容しないことが知られている。しかしながら $S^n$ 上の自明な一次元ベクトル束 $\epsilon^1_{S^n}$ とWhitney和 を取ることでベクトル束として自明となる。つまり $TS^n\oplus \epsilon_{S^n}^{1}$ は自明となる。これは $S^n\subset \mathbb{R}^{n+1}$ の埋め込みによって接束が $TS^n \oplus \nu =T \mathbb{R}^{n+1} |_{S^n}\cong\epsilon^{n+1}_{S^n}$ と分解することより従う。ただし $\nu$ は法束である。

Lie群の接束は自明であるから、標準的 $S^n$ にLie群の構造が入るとすれば $n=1,3,7$ に限られる。実際に$S^1\cong \rm{U}(1)\cong \mathbb{R}/\mathbb{Z}$、$S^3\cong \rm{Sp}(1)\cong \rm{SU}(2)\cong\rm{Spin}(3)$ と具体的に与えられる。しかしながら $S^7$ にはLie群の構造が入らないことが知られている。これは多元体実現問題とも関連があり結合的な積がそなわるのは $2^0,2^1,2^2$次元のみであることと関連がある。ちなみに $2^0$ に対応するのは $S^0$ であり $\mathbb{Z} / 2\mathbb{Z}$ と同型で0次元Lie群として実現できる。

標準 $S^n$ には自然に $\rm{O}(n+1)$、$\rm{SO}(n+1)$ が作用しこの作用は滑らか(解析的)かつ推移的である。この作用により $S^n$ は $\rm{O}(n+1)$、$\rm{SO}(n+1)$の等質空間となる。実際にLie群の等質空間は元のLie群の商として得られ$S^n\cong \rm{O}(n+1) / \rm{O}(n)$、$S^n\cong \rm{SO}(n+1)/\rm{SO}(n)$ (こちらは自然に向きが定まる)として 構成できる。また奇数次元 $S^{2n-1}$ に対しては $\mathbb{R}^{2n}$ を $\mathbb{C}^n$ と同一視することで $\rm{U}(n)$、$\rm{SU}(n)$ の等質空間、$S^{4n-1}$ に対しては $\mathbb{R}^{4n}$ を $\mathbb{H}^n$ と同一視することで $\rm{Sp}(n)$ の等質空間となる。(特殊)直交群の時と同様に $S^n$ は対応するLie群をさらに一つしたの次元のLie群で割ることで得られる。

複素多様体になり得るのは次元の制限によって偶数次元のみであるが、果たして $S^{2n}$ には複素構造が入るだろうか。実際には複素構造が入るものも入らないものも、また入るかそもそも未解決な物が存在する。例えば $S^2$ には複素構造が入りRiemann球面と呼ばれる複素多様体となる。対して$S^4 $は複素構造を持たないことが知られている。もっと強く $S^{4n}$ は特性類による制限で(具体的にはPontrjagin数で)どれも複素構造が入らないことがわかる。したがって複素構造を許容するのは $S^{4n-2}$ の形のもののみであるが実際には $k\geq 4$ に対して $S^{2k}$ は複素構造を持たないどころか概複素構造さえ持たないということが知られている。したがって残るは $S^6$ のみであるが $S^6$ に複素構造が入るかはいまだに未解決(2021/2/9現在)である(概複素構造が入ることは知られている。)。

リーマン幾何学的性質

$2n$ 次元ユークリッド空間 $\mathbb{E}^{2n}$ の部分多様体としての $S^{2n+1}$ に $\mathbb{E}^{2n}$のユークリッド計量から定まる誘導計量を入れたものを $S^{2n+1}$ の標準的計量という。 これは断面曲率が1の定曲率空間であり、完備単連結で断面曲率が1のものはこれに限る。

参考文献

関連項目

脚注
  1. 記号 $S^n$ の $S$ の部分は手書きの際に縦線を入れて書かれる場合もある。