ホモトピー
ホモトピー
ホモトピー (homotopy) とは、二つの連続写像の一方を変形させてもう一方に移すような連続写像である。
定義
位相空間 $X$, $Y$ について、$f,g\colon X\to Y$ を二つの連続写像とする。 ここで、連続写像 $H\colon X\times [0,1] \to Y$であって、任意の $x\in X$ に対して $H(x,0)=f(x),H(x,1)=g(x)$ を満たすとき $H$ を $f$ から $g$ へのホモトピーと呼ぶ。$f$ から $g$ へのホモトピーが存在するとき $f$ と $g$ はホモトピックであるといい、この関係は $X$ から $Y$ への連続写像全体からなる集合における同値関係となる( $f \sim g$ などと書かれることが多い。特にホモトピーの存在を強調したい場合は $\sim$ の上か下にホモトピーを書くこともある。 )。この関係による同値関係で割った集合 は $[X,Y]$ で表される(しばしばコンパクト開位相から商位相を入れ位相空間として扱う。)。
基本的性質
- 任意の連続写像 $f$ に対して $f\sim f$ (反射律)
- $f\sim g$ ならば $g\sim f$ (対称律)
- $f\sim g$ かつ $g\sim h$ ならば $f\sim h$ (推移律)
- $f_1 \sim g_1$ かつ $g_1\sim g_2$ ならば $f_1 \circ g_1 \sim f_2\circ g_2$ - (*)
様々なバリエーションのホモトピー
部分集合を固定したホモトピー
部分集合 $A\subset X$ を固定しておき $A$ 上で一致する二つの連続写像 $f,g\colon X\to Y$ を考える(これは、つまり任意の $a\in A$ に対して $f(a)=g(a)$ を満たすとことである。 )。連続写像 $H\colon X\times [0,1]\to Y$ を $f$ から $g$ へのホモトピーであり、さらに任意の $a\in A\subset X,t\in [0,1]$ に対して $H(a,t)=f(a)=g(a)$ を満たすとする。このとき $H$ は $f$ から $g$ への $A$ を固定したホモトピーと呼び、同様に $A$ 上で一致する連続写像全体の集合において $A$ を固定したホモトピーの存在は同値関係となり、この関係を $A$ を固定してホモトピックであると言う。
特に道 $\gamma\colon [0,1]\to X$ を考える時ホモトピーと言ったら端点を固定することが多く、端点を固定しない場合は特にフリーホモトピーと呼んで強調する場合がある。基本群も参照されたい。
空間対の間のホモトピー
位相空間 $X,Y$ とそれらの部分空間 $A\subset X,B\subset Y$ が与えられていた時、連続写像 $f\colon X\to Y$ であって $f(A)\subset B$ を満たすものを 空間対(くうかんつい) $(X,A)$ から $(Y,B)$ への連続写像と呼び $f\colon (X,A)\to (Y,B)$ と表す。空間対の連続写像の間にも対の情報を保ったままのホモトピーを考えることができる。2つの空間対の連続写像 $f,g\colon (X,A)\to (Y,B)$ が $f,g\colon X\to Y$ とみなした時に通常の意味でホモトピックで、かつ、そのときのホモトピー $H\colon X\times[0,1]\to Y$ が任意の $(a,t)\in A\times [0,1]\subset X\times [0,1]$ に対して $H(a,t)\in B$ を満たすとき、つまり $A$ の像が $B$ に入るように保ったままのホモトピーが存在するとき $f$ と $g$ は空間対の間の連続写像としてホモトピックであるという。この場合も同様にホモトピックという関係は同値関係となり $(X,A)$ から $(Y,B)$ への連続写像全体を同値関係で割った集合は $[(X,A),(Y,B)]$ と書かれる(この場合も $X$ から $Y$ への連続写像とみなすことで $[X,Y]$ の部分空間とみなせる。)。特に $A$ や $B$ が一点からなるとき、例えば $A=\{a\},B=\{b\}$のとき中括弧はしばしば省略され、対の間の連続写像を $f\colon (X,a)\to (Y,b)$ 、ホモトピー類を $[(X,a)(Y,b)]$ と表すことが多い。この場合のホモトピー点つき空間の間の点を保つ連続写像の点を固定したホモトピーに他ならない。
二つ以上の位相空間の対も同様に考えることができる。例えば3つの場合であれば、$(X,A,A'),(Y,B,B')$ と書いたら $A'\subset A\subset X,B'\subset B\subset Y$ をみたす位相空間の3対であって、これらの間の連続写像 $f\colon (X,A,A')\to (Y,B,B')$ と書いたら $f\colon X\to Y$ は連続写像であって $f(A)\subset B,f(A')\subset B'$ を満たすものを言う。この間のホモトピーも同様にこの包含を保ったままのホモトピーとして定義し、その存在を同様にホモトピックであると言う関係と定義する。これにより同様にこの関係によって割った空間は $[(X,A,A'),(Y,B,B')]$ で表される。
ホモトピー同値とホモトピー同値写像
位相空間 $X,Y$に対しある連続写像 $f\colon X\to Y$ $g\colon Y\to X$が存在して、$f\circ g$ が $X$ の恒等写像と、$g\circ f$ が $Y$ の恒等写像とホモトピックであるとき $X$ と $Y$ はホモトピー同値であると呼ぶ(これは同値関係となる。)。このときの $f$ または $g$ をその間のホモトピー同値写像と呼ぶ。これは次の章で説明するホモトピーの圏における同型射である。
ホモトピーの圏
位相空間 $X,Y,Z$ に対して、$[Y,Z]\times[X,Y]\to[X,Z]$、$([f],[g])\mapsto [f\circ g]$ が性質(*)によってwell-definedとなる。射を連続写像のホモトピー類、この二項演算を射の合成、対象を位相空間としてホモトピーの圏と呼ばれる圏をなす。ホモトピー不変量と呼ばれるタイプの不変量は(ある種の)ホモトピーの圏からある圏への関手として記述することができる不変量である。重要な例として次が挙げられる。
一般に二つの連続写像がホモトピックであることを示すには具体的にその間のホモトピーを構成すれば良いが、逆にホモトピックでないことを示すのは(例えそれが直感的であっても)そのようなホモトピーの非存在を示さなくてはならず一般には難しい。これは同様に二つの位相空間がホモトピー同値かという問題も同様である。この時に便利なのが上にあげたようなホモトピー不変量である。いくつか具体例を挙げる。
- $f,g\colon [0,1]\to [0,1]$,$f(x)\colon=x$ $g(x)\colon=0$ とする時 $f$ と $g$はホモトピックである。これは具体的に $f$ から $g$ へのホモトピーを $H(x,t)\colon =x(1-t)$ と具体的に与えることができることからわかる。
- $S^1\colon =\{(x,y\in \mathbb{R}^2\mid x^2+y^2=1)\}$を円周として$f,g,h\colon S^1\to S^1$,$f(x,y)\colon=(x,y),g(x,y)\colon=(x,-y),h(x,y)\colon=(-x,-y)$とする。この時 $f$ と $h$ はホモトピックであるが $g$ とはホモトピックでない。
$f$ から $h$ へのホモトピーは $H((x,y),t) \colon=(x \cos\pi t-y\sin\pi t,x \sin \pi t+y\cos\pi t)$ とすることで得られる。これは多少複雑に見えるかもしれないが、時間 $t$ に合わせて $\pi$ 回転をさせる写像となっている。逆に$f$ と $g$ がホモトピックでないことは、例えば1次の整数係数特異ホモロジー群の間の $f$ と $g$ が誘導する準同型 $f_*,g_*$を比べることで見分けられる。例えば $S^1$ の向き $[S^1]$ を送ることで $f_*[S^1]=S^1\neq g_*[S^1]=-[S^1]$となり異なることから見分けることができる。