写像の合成、写像の拡大と制限

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写像の合成、写像の拡大と制限

写像の合成

 $X, Y, Z, W$ を集合とする。

  • 写像 $f \colon X \longrightarrow Y$、$g \colon Y \longrightarrow Z$ を考える。任意の $x \in X$ に対して、$f(x) \in Y$ なので、$f(x) $ に $g$ を施すことができて、$g(f(x)) \in Z$ である。このようにして $X$ から $Z$ への写像を考えることができる。この写像を$g \circ f \colon X \longrightarrow Z$ と書き、 $f$ と $g$ の合成写像という。すなわち、$g \circ f(x) \colon =g(f(x))$ $(x \in X)$ である(ここで「$ \colon =$」は「左辺を右辺で定義する」という意味である)。合成関数 $g \circ f$ を考えるときは、先に写像させる $f$ を右に書き、後から写像させる $g$ を左に書くことに注意すること。

IntrST-composition.jpg

さらに $3$ つ目の写像 $h \colon Z \longrightarrow W$ が与えられたとき、$X$ から $W$ への写像として、$h \circ ( g \circ f )$ と $(h \circ g ) \circ f$ を考えることができるが、これらはともに、任意の$x \in X$ を $h(g(f(x))) \in W$ に対応させる写像なので、これらふたつの写像は一致する。つまり結合律 $h \circ ( g \circ f )=(h \circ g ) \circ f$ が成り立つ。よって、この写像を単に $h \circ g \circ f$ と書く。写像が $4$ つ以上になっても同様。

  • 定義域と終域が一致する写像 $f \colon X \longrightarrow X$ は写像を複数回施すことができる。しばしば「$f \circ f$」を$f^2$、「$f \circ f \circ f$」を$f^3$ などと書く。一般の $n$ 個の場合も(数学的帰納法により)同様。

写像の拡大と制限

 $X,U,Y$ を集合で $U \subset X$ とし、ふたつの写像 $f \colon X \longrightarrow Y$、$g \colon U \longrightarrow Y$ を考える。任意の $u \in U$ に対して $f(u)=g(u)$ が成り立つとき、$f$ は $g$ の($X$ への)拡大であるといい、逆に $g$ は $f$ の($U$ への)制限であるという。拡大の仕方はひとつとは限らないが、制限の仕方は $f$ と $U$ が与えられると一意的に定まる(下記の「具体例」参照)。そこで、$U$ の部分集合 $V$(すなわち $V \subset U$)が与えられたとき、写像 $f \colon U \longrightarrow Y$ に対して $f$ の $V$ への制限を $\rho |^{U} _{V}(f) \colon V \longrightarrow Y$ と置くことにより、制限写像 $\rho |^{U} _{V} \colon \textrm{Map}(U,Y) \longrightarrow \textrm{Map}(V,Y)$ が定義される。$\rho |^{U} _{V}(f)$ は $\rho |_{V}(f)$ や $f|_{V}$ などと略記されることがある。

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制限写像の性質として次の二つは基本的である。

  • 任意の $U \subset X$ に対して $\rho | ^{U} _{U} = \textrm{id}$

(ここで $\textrm{id}$ は $\textrm{Map}(U,Y)$ から自分自身への恒等写像。この式を直感的に言いかえると「$U$ から $U$ 自身へ制限することは何もしていないことと同じ」)

  • $W \subset V \subset U $ に対して、$\rho | ^{V} _{W} \circ \rho | ^{U} _{V} = \rho | ^{U} _{W} \colon \textrm{Map}(U,Y) \longrightarrow \textrm{Map}(W,Y) $

(「$U$ から $V$ へ制限したものをさらに $W$ に制限すること」と「$U$ から直接 $W$ へ制限することは同じ)

具体例

例 1

 $0$ 以上の実数全体を $\mathbb{R} _{\geq 0}$ と置く。ふたつの関数 \begin{eqnarray*} f &\colon& \mathbb{R} \ni x \longmapsto x^2 \in \mathbb{R} _{\geq 0} \\ g &\colon& \mathbb{R} _{\geq 0} \ni x \longmapsto \sqrt{x} \in \mathbb{R} \end{eqnarray*}

の合成を考える。任意の $x \in \mathbb{R}$ に対して、$g \circ f(x)=g(x^2)=\sqrt{x^2}=|x|$ なので、 $$ g \circ f(x)=|x| \colon \mathbb{R} \longrightarrow \mathbb{R} $$ である。一方、任意の $x \in \mathbb{R} _{\geq 0}$ に対して、$f \circ g(x)=f(\sqrt{x})=(\sqrt{x})^2=x$ なので、 $$ f \circ g(x) = id_{\mathbb{R} _{\geq 0}} \colon \mathbb{R}_{\geq 0} \longrightarrow \mathbb{R} _{\geq 0} $$ となる。

例 2

 $0$ を含まない自然数を$\mathbb{N} _{>0} = \{ 1,2,3, \ldots \}$ と置く。関数 $f \colon \mathbb{N}_{>0} \longrightarrow \mathbb{N}_{>0}$ を$n$ が偶数のとき $f(n)=\frac{n}{2}$、$n$ が奇数のとき $f(n)=3n+1$ と定義する。この関数をcollatz(コラッツ)関数という。いくつか値を計算してみると、 \begin{eqnarray*} f^3(8) &=& f \circ f \circ f(8) \\ &=& f \circ f(4) \\ &=& f(2) \\ &=& 1 \\ f^5(5) &=& f^4(16)=f^3(8) \\ &=& f^2(4)=f(2) \\ &=& 1 \\ f^{14}(11) &=& f^{13}(34)=f^{12}(17) \\ &=& f^{11}(52)=f^{10}(26) \\ &=& f^9(13) = f^8(40) \\ &=& f^7(20)=f^6(10)=f^5(5) \\ &=& 1 \\ \end{eqnarray*}

となる。任意の $n$ に対して、適当な自然数 $k$ をとれば $f^k(n)=1$ が成り立つと予想されているが、2020年9月現在、未解決問題である(Collatz の予想)。

例 3 (拡大が一意的でないこと)

 集合 $A= \{ 1 \}$、$B= \{ 1,2 \}$、$S= \{ 5,6 \}$ と関数、$f \colon A \ni 1 \longmapsto 5 \in S$ を考える。このときふたつの関数、 \begin{eqnarray*} g_1 \colon &B& \ni n \longmapsto 5 \in S \\ g_2 \colon &B& \ni n \longmapsto n+4 \in S \end{eqnarray*}

を考える。$g_1$ は $n$ の値にかかわらず一定の値 $5$ をとるという意味でこのような関数は定数関数と呼ばれる。このふたつはどちらも $f$ の拡張となっている。

例 4 (制限の一意性)

 集合 $X$、$Y$、$U$($U \subset X$ とする)と写像 $f \colon X \longrightarrow Y$、$g_1 \colon U \longrightarrow Y$、$g_2 \colon U \longrightarrow Y$ を考える。$g_1$ と $g_1$ が共に $f$ の $U$ への制限であるとすると、任意の $a \in U$ に対して、$f(a)=g_1(a)$ かつ $f(a)=g_2(a)$ なので $g_1(a)=g_2(a)$ が成り立つ。よって $g_1=g_2$ である。

集合論の初歩

論理と命題 / 集合の基本的な用語、集合の演算 / 全称記号と存在記号 / 写像、像、逆像、写像のグラフ / 写像の合成、写像の拡大と制限 / 選択公理について / 単射、全射、全単射、逆写像 / 部分集合族、べき集合 / ( 演算と代数構造 ) / ( 関係、同値関係、商集合 ) / ( 初歩的な順序集合 ) / ( Zornの補題 ) / ( 集合の濃度

参考文献

関連項目