全称記号と存在記号
全称記号と存在記号
定義
$X$ を集合とし、元 $x \in X$ ごとに真偽が与えられている命題を $P(x)$ とする。このとき次の3つの記法を導入する。
- 「任意の $x \in X$ に対して $P(x)$ が真である」ことを、$\forall x \in X , P(x)$ と書きあらわす。
- 「$P(x)$ が真であるような $x \in X$ が存在する」ことを、$\exists x \in X , P(x)$ と書きあらわす。
- 「$P(x)$ が真であるような $x \in X$ が一意に(ただひとつだけ)存在する」ことを、$\exists ! x \in X , P(x)$ と書きあらわす。
「$\exists x \in X , P(x)$」を「ある $x$ が存在して $P(x)$ 」等と読むことがある。変な日本語であるが数学の方言として受け入れられている。
ちなみに記号 $\forall, \exists$ はそれぞれ「ALL」、「EXIST」の頭文字を回転させたものである。
具体例
- $X= \{ 1,2,3,4,5 \}$ とすると、
- $\forall x \in X , x <6$ (「任意の $x \in X$ に対して $x \lt 6$ が成り立つ」と読む。この命題は真)
- $\exists x \in X , x \lt 4$ ( $x \lt 4$ であるような $x \in X$ が存在する」と読む。実際 $x=1,2,3$ が条件を満たすのでこの命題は真。)
- $\exists !x \in X , x \lt 2$ ( $x \lt 2$ であるような $x \in X$ が一意に存在する」と読む。実際 $x=1$ だけが条件を満たすのでこの命題は真。)
- 「 $\forall x \in X , x \lt 6$ 」 が成り立つので、特に「 $\exists x \in X , x \lt 6$ 」も成り立つ。しかし「 $\exists x \in X , x \lt 4$ 」が成り立つからといって「 $\forall x \in X , x \lt 4$ 」が成り立つわけではない。
- 「 $\exists !x \in X , x \lt 2$ 」 が成り立つので、特に「 $\exists x \in X , x \lt 2$ 」も成り立つ。しかし「 $\exists x \in X , x \lt 4$ 」が成り立つからといって「 $\exists !x \in X , x \lt 4$ 」が成り立つわけではない。
上の例からわかる通り、一般的に $x$ を変数として真偽が決まる命題 $P(x)$ に対して、$\forall x , P(x)$ の方が $\exists x , P(x)$よりも強い主張となる。記号で書くと、 $$ 「\forall x , P(x)」 \Rightarrow 「\exists x , P(x)」 $$ が成り立つ。
- ($\forall$ と $\exists$ の順番) $M$ を実数とする。このとき、 $\forall$ と $\exists$ を入れ替えた次の2つの命題を考える
(1)「 $\forall M \gt 0 , \exists n \in \mathbb{N} , M \lt n$ 」(Archimedesの原理)
(2)「 $\exists n \in \mathbb{N} , \forall M \gt 0 , M \lt n$ 」
命題(1)は「任意の正の実数 $M$ に対して、『 $M < n$ となるような自然数 $n$ 』が存在する」と読む。これは $M$ ごとに $n$ を決めてよいので、この命題は真である。(議論を端折って結果だけ書くと $n =$ 「 $M$ の整数部分」$+1$ とすればよい。実際は循環論法にならないように気を付ける必要がある。詳しくは実数論を参照)
一方、命題(2)は「『任意の正の実数 $M$ に対して $M < n$ となるような』自然数 $n$ が存在する」言いかえると「ある自然数 $n$ があって、『どんな正の実数 $M$ に対しても $M < n$ となる』」と読む。この場合は先に $n$ が指定されてから $M$ が自由に動くので、命題(1)よりも主張が強くなっていて、実際に命題(2)は成り立たない。(どんな正の実数よりも大きくなるような特定の自然数は存在しない)
一般的にふたつの変数 $x$ 、$y$ によって真偽が決まる命題 $P(x,y)$ に対して、
$$ \exists x , \forall y , P(x,y) (ある x が存在して「任意の y に対して P(x,y)が成り立つ」) $$ の方が、 $$\forall y , \exists x , P(x,y)(任意の y に対してある x が存在して P(x,y) が成り立つ) $$ よりも強い主張となる。記号で書くと、 $$ 「 \exists x , \forall y , P(x,y) 」\Rightarrow「\forall y , \exists x , P(x,y)」 $$ が成り立つ。この違いは、例えば微分積分の各点連続と一様連続や、各点収束と一様収束の違いなどでも出てくるので、よく注意しなければいけない。
- ($\forall$ や $\exists$ を使った命題の否定)「すべての $x$ に対して~が成り立つ」の否定は、反例がひとつでも存在すればよいので「~が成り立たないような $x$ が存在する」となる。つまり、
$$ \lnot(\forall x , P(x)) \Longleftrightarrow \exists x , \lnot P(x) $$ となる。また、「ある~をみたす $x$ が存在する」の否定はすべての $x$ に対して「~」を否定しなければいけないので「すべての $x$ に対して~ではない」となる。つまり、 $$ \lnot(\exists x , P(x)) \Longleftrightarrow \forall x , \lnot P(x) $$ となる。全称記号と存在記号が複数個ある場合も同様に考える。例えば、上の Archimedes の原理の否定を考えると、 \begin{equation} \begin{split} \lnot(\forall M \gt 0 , \exists n \in \mathbb{N} , M \lt n) &\Longleftrightarrow \exists M \gt 0 , \lnot( \exists n \in \mathbb{N} , M \lt n) \\ &\Longleftrightarrow \exists M \gt 0 , \forall n \in \mathbb{N} , M \ge n \end{split} \end{equation} となる。
集合論の初歩
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