位相空間論5:連続写像

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位相空間論5:連続写像

ここから、複数の位相空間の間の写像が扱うことを始める。まず、連続写像を導入する。これは非常に基本的な概念であって、通常、位相空間の間の写像としては連続写像のみを考えると言っても良いほどである。連続写像は微積分で考えられていた連続関数の一般化であり、直観的には「近くの点を近くの点に写す」写像である。その定義は非常に簡潔に述べられるが、すぐには直観的な意味が読み取りづらいかもしれない。続いて、同相写像を連続な全単射であって逆も連続となるものとして定義する。二つの位相空間の間に同相写像が存在するとき、その二つの位相空間は同相であるというが、同相な位相空間は実質的に同じものとみなすことができる。

入門テキスト「位相空間論」

  • 位相空間論5:連続写像



定義 5.1 (連続写像)

$X,$ $Y$ を位相空間とする。写像 $f\colon X\to Y$ が連続写像(continuous map)であるとは、$Y$ の任意の開集合 $V$ に対して、逆像 $f^{-1}(V)$ が $X$ の開集合となることをいう。$\square$

$(X, \mathcal{O})$, $(Y, \mathcal{O}')$ のように開集合系を明示的に書いている場合(とくに同じ集合に複数の位相を考えていて混乱のおそれのある場合)には、「連続写像 $f\colon (X, \mathcal{O})\to (Y, \mathcal{O}')$」のような表現も用いる。

連続写像に関して、まず次の基本性質を挙げる。

命題 5.2 (恒等写像と合成)

次のことが成り立つ。

  • (1) 任意の位相空間 $X$ に対して、恒等写像 $\operatorname{id}_X\colon X\to X$ は連続である。
  • (2) $X, Y, Z$ が位相空間であり、$f\colon X\to Y$, $g\colon Y\to Z$ が連続であるとき、合成写像 $g\circ f\colon X\to Z$ は連続である。

証明

(1) $V$ を $X$ の開集合とすると、$\operatorname{id}_X^{-1}(V)=V$ なので $\operatorname{id}_X^{-1}(V)$ も $X$ の開集合である。よって、$\operatorname{id}_X\colon X\to X$ は連続である。

(2) $f\colon X\to Y$, $g\colon Y\to Z$ を連続写像とし、$W$ を $Z$ の開集合とする。すると、$g^{-1}(W)$ は $Y$ の開集合であり、よって $f^{-1}(g^{-1}(W))$ は $X$ の開集合である。ところが、$(g\circ f)^{-1}(V)=f^{-1}(g^{-1}(W))$ であるから、$(g\circ f)^{-1}(W)$ は $X$ の開集合である。よって、$g\circ f\colon X\to Z$ は連続である。$\square$

写像 $f\colon X\to Y$ が定値写像(constant map)であるとは、ある $c\in Y$ が存在して、任意の $x\in X$ に対して $f(x)=c$ となることをいう。このとき、$f$ を $c$ への定値写像という。

命題 5.3 (定値写像は連続)

$X,$ $Y$ を位相空間とする。任意の定値写像 $f\colon X\to Y$ は連続である。

証明

$f\colon X\to Y$ が $c$ への定値写像であるとする。$V$ を $Y$ の開集合とすると、$c\in V$ のとき $f^{-1}(V)=X$, $c\notin V$ のとき $f^{-1}(V)=\emptyset$ だから、いずれにしても $f^{-1}(V)$ は $X$ の開集合である。よって、$f$ は連続である。$\square$

連続写像の定義で、「開集合」を「閉集合」に変えても同じことである。すなわち、次が成り立つ。

命題 5.4 (連続写像の閉集合を用いた言い換え)

$X,$ $Y$ を位相空間とする。写像 $f\colon X\to Y$ に対して次は同値である。

  • (1) $f$ は連続である。
  • (2) $Y$ の任意の閉集合 $F$ に対して、$f^{-1}(F)$ は $X$ の閉集合である。

証明

(1) $\Rightarrow$ (2) を示す。$f$ を連続写像とし、$F$ を $Y$ の閉集合とする。すると、$Y\setminus F$ は $Y$ の開集合なので、$f$ が連続写像であることから $f^{-1}(Y\setminus F)$ は $X$ の開集合である。$f^{-1}(Y\setminus F)=X\setminus f^{-1}(F)$ であるから、$X\setminus f^{-1}(F)$ は $X$ の開集合であり、よって、$f^{-1}(F)$ は $X$ の閉集合である。

(2) $\Rightarrow$ (1) の証明は、 (1) $\Rightarrow$ (2) とほぼ同様であるので省略する。$\square$

例 5.5 (離散空間・密着空間と連続写像)

$X$ が離散空間であるとき、任意の位相空間 $Y$ に対して、任意の写像 $f\colon X\to Y$ は連続である。また、$Y$ が密着空間であるとき、任意の位相空間 $X$ に対して、任意の写像 $f\colon X\to Y$ は連続である。$\square$

定義 5.6 (写像の点における連続性)

$X,$ $Y$ を位相空間とし、$x\in X$ とする。写像 $f\colon X\to Y$ が $x$ において連続であるとは、$f(x)$ の $Y$ における任意の近傍 $V$ に対して、$x$ の $X$ における近傍 $U$ が存在して $f(U)\subset V$ となることをいう。$\square$

写像の連続性を示すことは、次の命題により、点ごとの連続性を示すことに帰着される。これは連続性の証明でよく使われる手段である。

命題 5.7 (連続性と点における連続性との関係)

$X,$ $Y$ を位相空間とする。写像 $f\colon X\to Y$ に対して、次は同値である。

  • (1) $f$ は連続である。
  • (2) 任意の $x\in X$ に対して、$f$ は $x$ において連続である。

証明

(1) $\Rightarrow$ (2) を示す。$f\colon X\to Y$ が連続であるとして、$x\in X$ とする。$f$ が $x$ において連続であることを示そう。そこで、$f(x)$ の近傍 $V$ を任意に与える。近傍の定義から、$f(x)\in V'\subset V$ となるような $Y$ の開集合 $V'$ が存在する。このとき、$f$ の連続性から $f^{-1}(V')$ は $X$ の開集合である。$f(x)\in V'$ により $x\in f^{-1}(V')$ であるから、$U=f^{-1}(V')$ とおけば $U$ は $x$ の開近傍で、$f(U)\subset V'\subset V$ を満たす。

(2) $\Rightarrow$ (1) を示す。(2) が成り立つとして、$V$ を $Y$ の開集合とする。このとき、$f^{-1}(V)$ が $X$ の開集合であることを示せばよいが、そのために命題 2.4を使う。そこで、$x\in f^{-1}(V)$ とする。このとき、$f(x)\in V$ により $V$ は $f(x)$ の開近傍だから、(2) により $x$ の $X$ における近傍 $U$ であって $f(U)\subset V$ となるものが存在する。これは $U\subset f^{-1}(V)$ を意味する。こうして、任意の $x\in f^{-1}(V)$ に対して $x$ の近傍 $U$ であって $U\subset f^{-1}(V)$ となるものが存在すると分かったので、命題 2.4により $f^{-1}(V)$ は $X$ の開集合である。$\square$

さらに、点における連続性を確かめるには、何らかの基本近傍系に属する近傍だけに着目する方法が有効である。

命題 5.8 (点における連続性の同値な言い換え)

$X,$ $Y$を位相空間とし、$f\colon X\to Y$ を写像とする。また、$x\in X$ とし、$\mathcal{U}$ を $x$ の $X$ における基本近傍系、$\mathcal{V}$ を $f(x)$ の $Y$ における基本近傍系とする。このとき、次は同値である。

  • (1) $f$ は $x$ において連続である。
  • (2) 任意の $V\in\mathcal{V}$ に対して、$U\in\mathcal{U}$ が存在して、$f(U)\subset V$ となる。

証明

(1) $\Rightarrow$ (2) を示す。$f$ が $x$ において連続であるとして、$V\in\mathcal{V}$ とする。$V$ は $f(x)$ の $Y$ における近傍であるから、$x$ の $X$ における近傍 $U'$ が存在して、$f(U')\subset V$ となる。$\mathcal{U}$ は $x$ の $X$ における基本近傍系だから、$U\in\mathcal{U}$ が存在して $U\subset U'$ である。このとき、$f(U)\subset f(U')\subset V$ である。これで (2) が示された。

(2) $\Rightarrow$ (1) を示すため、(2) が成り立つとする。$f$ が $x$ において連続であることを示すため、$f(x)$ の近傍 $V$ を任意に与える。$\mathcal{V}$ は $f(x)$ の $Y$ における基本近傍系だから、$V'\in\mathcal{V}$ で $V'\subset V$ となるものが存在する。(2) により、$U\in\mathcal{U}$ が存在して $f(U)\subset V'$ となる。すると $U$ は $x$ の $X$ における近傍であって、$f(U)\subset V$ である。$\square$


命題 5.9 (距離空間の間の写像の連続性)

$(X, d),$ $(Y, d')$ を距離空間とする。写像 $f\colon X\to Y$ に対して、次は同値である。

  • (1) $f$ は連続である。
  • (2) 任意の $x\in X$ と $\varepsilon>0$ に対して、$\delta>0$ が存在して $f(B_d(x,\delta))\subset B_{d'}(f(x),\varepsilon)$ が成り立つ。$\square$
  • (3) 任意の $x\in X$ と $\varepsilon>0$ に対して、$\delta>0$ が存在して、次が成り立つ。
「$x'\in X,$ $d(x, x')<\delta$ ならば $d'(f(x), f(x'))<\varepsilon$ である。」

証明

各 $x\in X$ に対して $x$ の基本近傍系として $\{B_d(x,r)\,|\,r>0\}$ が取れ、各 $y\in Y$ に対して $y$ の基本近傍系として $\{B_{d'}(Y,r)\,|\,r>0\}$ が取れるので、命題 5.7命題 5.8により (1) $\Rightarrow$ (2) が分かる。(3) は (2) の単純な言い換えである。$\square$

この命題により、たとえばEuclid空間の間の写像については、微積分における $\varepsilon$-$\delta$ 論法を用いた連続性の定義と、定義 5.1における連続写像の定義とが同値なものになっていることが分かる。 微積分において、多くの関数が連続であることを知っているが、これにより、さまざまな連続写像の例が得られる(例 5.11)。


ここで、Euclid空間の部分集合への写像が連続となることが、「座標ごとに連続」となることと同値であることを見ておく。これは具体例を扱うときにはしばしば無意識に用いられることが多い。

命題 5.10 (Euclid空間の部分集合への写像の連続性)

$X$ を距離空間、$A$ をEuclid空間 $\mathbb{R}^n$ の部分集合とする($A$ は注意 1.13の通り、Euclid距離の制限により距離空間と見なす)。写像 $f\colon X\to A$ に対して、$f_i\colon X\to\mathbb{R}\,(i=1,\ldots, n)$ を $f(x)=(f_1(x),\ldots, f_n(x))\,(x\in X)$ で定まる写像とすると、次は同値である。

  • (1) $f\colon X\to A$ は連続である。
  • (2) 各 $i=1,\ldots, n$ に対して、$f_i\colon X\to\mathbb{R}$ は連続である。

証明

(1) $\Rightarrow$ (2) を示す。$f\colon X\to A$ を連続とし、$i\in\{1,\ldots,n\}$ であるような $i$ を任意に与える。$f_i\colon X\to \mathbb{R}$ が連続であることを、命題 5.9の条件(3)を用いて示す。そこで、$x\in X$, $\varepsilon>0$ とする。$f$ は連続だから、$\delta>0$ が存在して、$x'\in X,$ $d(x,x')<\delta$ のとき常に $\|f(x)-f(x')\|<\varepsilon$ となる。ここで、$\|\phantom{x}\|$ は $\mathbb{R}^n$ のEuclidノルムを表す。$|f_i(x)-f_i(x')|=\sqrt{(f_i(x)-f_i(x'))^2}\leq\sqrt{\sum_{j=1}^n (f_j(x)-f_j(x'))^2}=\|f(x)-f(x')\|$ であるから、$d(x,x')<\delta$ のとき常に $|f_i(x)-f_i(x')|<\varepsilon$ となる。これで、$f_i\colon X\to\mathbb{R}$ の連続性が示された。

(2) $\Rightarrow$ (1) を示す。各 $i=1,\ldots,n$ に対して $f_i\colon X\to\mathbb{R}$ が連続であるとする。$f\colon X\to A$ が連続であることを、命題 5.9の条件(3)を用いて示す。そこで、$x\in X$, $\varepsilon>0$ とする。各 $i=1,\ldots,n$ に対して、$f_i$ の連続性により $\delta_i>0$ であって $x'\in X,$ $d(x, x')<\delta_i$ のとき常に $|f_i(x)-f_i(x')|<\varepsilon/\sqrt{n}$ となるものが存在する。$\delta=\min\{\delta_1,\ldots,\delta_n\}>0$ としよう。すると、$x'\in X$, $d(x, x')<\delta$ のとき $$ \|f(x)-f(x')\|^2=\sum_{i=1}^n |f_i(x)-f_i(x')|<n\cdot(\varepsilon/\sqrt{n})^2=\varepsilon^2 $$ となるから、$\|f(x)-f(x')|<\varepsilon$ である。これで、$f\colon X\to A$ の連続性が示された。$\square$

実数直線 $\mathbb{R}$ への写像は、慣習的に、関数(function)という言葉で呼ぶことが多い。$\mathbb{R}$ への連続写像は、連続関数(continuous function)と呼ばれることが多い。

注意 5.11 (射影関数は連続)

$A$ を $\mathbb{R}^n$ の部分集合とするとき、各 $i=1,\ldots, n$ に対して、射影関数 $p_i\colon A\to\mathbb{R}$ を $$ p_i(x_1,\ldots, x_n)=x_i $$ によって定義できる。射影関数 $p_i$ は連続となる。実際、命題 5.10において $X$ を $A$ とし、$f$ を恒等写像 $\operatorname{id}\colon A\to A$ とすれば、$f$ は連続であり、$f_i=p_i$ となるから、$p_i$ は連続と分かる。$\square$


例 5.12 (実数の四則演算、多項式関数などは連続)

微積分での連続性の知識から連続と分かる写像の例を挙げよう。$\mathbb{R}$ の加法、減法、乗法はそれぞれ写像 $$ {+}\colon \mathbb{R}^2\to\mathbb{R},\quad (x, y)\mapsto x+y;\qquad-\colon \mathbb{R}^2\to\mathbb{R},\quad (x, y)\mapsto x-y;\qquad\cdot\colon \mathbb{R}^2\to\mathbb{R},\quad (x, y)\mapsto x\cdot y $$ を定めるが、これらの写像は連続である。より一般に、多項式関数は連続である。すなわち、任意の非負整数 $m$ および $a_1,\ldots, a_m\in\mathbb{R}$ に対して、 $$ f(x)=a_0+a_1 x+\cdots+a_mx^m $$ で定義される写像 $f\colon\mathbb{R}\to\mathbb{R}$ は連続である。このことは、加法 $+$ と乗法 $\cdot$ の連続性から論理的に導かれる。実際、次の命題が成り立つ。

命題 $X$ を距離空間とし、$f, g\colon X\to\mathbb{R}$ を連続関数とする。このとき、和 $f+g\colon X\to\mathbb{R}$ および積 $f\cdot g\colon X\to\mathbb{R}$ は再び連続関数である。ただし、$(f+g)(x)=f(x)+g(x)$, $(f\cdot g)(x)=f(x)\cdot g(x)\,(x\in X)$ と定義する。
証明 どちらも証明は同様なので、$f+g$ についてのみ示す。まず、$F\colon X\to\mathbb{R}^2$ を $F(x)=(f(x), g(x))$ で定義する。命題 5.10により、$F$ は連続である。すると、$f+g$ は連続写像の合成として $f+g=+\circ F$ と表されるので、$f+g$ は連続である。$\square$

関数 $\operatorname{id}_\mathbb{R}\colon\mathbb{R}\to\mathbb{R},\,x\mapsto x$ は連続であり(命題 5.2)、定数 $a\in\mathbb{R}$ に対する $a$ への定値写像 $\mathbb{R}\to\mathbb{R},\,x\mapsto a$ は連続である(命題 5.3)。多項式関数は、これらの関数の和や積を有限回繰り返し取ったものだから、連続である。

さらに一般に、多変数多項式関数も連続である。つまり、任意の $n\in\mathbb{N}$ と非負整数 $m$ および $a_{i_1,\ldots, i_n}\in\mathbb{R}\,(i_1,\ldots, i_n\geq 0,\, i_1+\cdots+i_n\leq m)$ に対して、 $$ f(x_1,\ldots, x_n)=\sum_{k=0}^m\,\sum_{\substack{i_1+\cdots+i_n=k \\ i_1,\ldots, i_n\geq 0}} a_{i_1,\ldots,i_n} x_1^{i_1}\cdots x_n^{i_n} $$ により定義される写像 $f\colon\mathbb{R}^n\to\mathbb{R}$ は連続である。このことの証明は、$+,$ $\cdot$ と定値写像および射影関数 $p_i\colon\mathbb{R}^n\to\mathbb{R}$ の連続性(注意 5.11)に帰着される。

除法については、$\mathbb{R}\times(\mathbb{R}\setminus\{0\})=\{(x,y)\in\mathbb{R}^2\,|\,y\neq 0\}$ を定義域とする写像 $$ {/}\colon \mathbb{R}\times(\mathbb{R}\setminus\{0\})\to\mathbb{R},\quad (x, y)\mapsto x/y $$ が定まる。この写像も連続である。ただし、この場合は $\mathbb{R}\times(\mathbb{R}\setminus\{0\})$ 上の距離としては $\mathbb{R}^2$ のEuclid距離の制限を考える(注意 1.13参照)。

この他にも、指数関数、対数関数、三角関数、逆三角関数、絶対値 $|\phantom{x}|\colon\mathbb{R}\to\mathbb{R},\,x\mapsto |x|,$ 平方根 $\sqrt{\phantom{x}}\colon [0,\infty)\to [0,\infty),\, x\mapsto\sqrt{x}$ など様々な関数が連続であることを、微積分の知識として知っているであろう。 これらの関数は、命題 5.9により、そのまま位相空間の間の連続写像と考えることができる。さらに、いままで述べた関数を組み合わせたもの、例えば $$ (x,y,z)\mapsto \sin(x^2 y^3+|z-1|)+\sqrt{\log(1+x^4+y^2+e^{z^2})} $$ などの連続性も多項式関数の連続性を示したのと同様の論法で連続であることが分かる。もちろん、除法が関係する場合などは、定義域を適切に定めなければならない。

最後に、2 個の値の最大値および最小値を取る関数 $$ \max\colon \mathbb{R}^2\to\mathbb{R},\,(x, y)\,\mapsto \max\{x, y\}, \quad\min\colon \mathbb{R}^2\to\mathbb{R},\,(x, y)\,\mapsto \min\{x, y\} $$ も連続であることに注意しておく。実際、関数 $\max,$ $\min$ は $$ \max\{ x, y\}=\frac{1}{2}(x+y+|x-y|),\quad\min\{ x, y\}=\frac{1}{2}(x+y-|x-y|) $$ と、すでに連続であると知っている関数の組み合わせによって書けるからである。 $\square$


命題 5.13 (等式や不等式で定義された集合)

$X$ を位相空間、$f\colon X\to\mathbb{R}$ を連続関数とする。このとき、次の集合は $X$ の閉集合である。 $$ \{x\in X\,|\,f(x)=0\},\quad\{x\in X\,|\,f(x)\geq 0\} $$ また、次の集合は $X$ の開集合である。 $$ \{x\in X\,|\,f(x)>0\} $$

証明

$\{x\in X\,|\,f(x)=0\}=f^{-1}(\{0\})$ と書けることに注意する。$\{0\}$ は $\mathbb{R}$ の閉集合だから、命題 5.4により、$f^{-1}(\{0\})$ は $X$ の閉集合である。よって、$\{x\in X\,|\,f(x)=0\}$ は $X$ の閉集合である。同様に、$[0,+\infty)=\{t\in\mathbb{R}\,|\, t\geq 0\}$ が $\mathbb{R}$ の閉集合であることにより、$f^{-1}([0,+\infty))=\{x\in X\,|\,f(x)\geq 0\}$ は $X$ の閉集合である。また、$(0,+\infty)=\{t\in\mathbb{R}\,|\, t>0\}$ が $\mathbb{R}$ の開集合であることにより、$f^{-1}({}(0,+\infty){})=\{x\in X\,|\,f(x)>0\}$ は $X$ の開集合である。$\square$

例 5.14 (Euclid空間の閉集合や開集合)

例 5.12命題 5.13を組み合わせれば、Euclid空間内のさまざまな図形が閉集合あるいは開集合になっていることが分かる。 たとえば、 $$ A_1=\{(x,y)\in\mathbb{R}^2\,|\,y\geq x^2\}=\{(x,y)\in\mathbb{R}^2\,|\,y-x^2\geq 0\} $$ は $\mathbb{R}^2$ の閉集合である。実際、$f(x, y)=y-x^2$ で定義される関数 $f\colon\mathbb{R}^2\to\mathbb{R}$ は2変数の多項式関数だから、例 5.12によって連続である。このとき $A_1=\{(x,y)\in\mathbb{R}^2\,|\,f(x, y)\geq 0\}$ だから、命題 5.13により $A_1$ は閉集合である。このほかにも、 $$ A_2=\{(x,y,z)\in\mathbb{R}^3\,|\,z=x^2-y^2\},\quad A_3=\left\{(x_1,\ldots, x_n)\in\mathbb{R}^n\,\bigg|\,\sum_{i=1}^n x_i^2\leq 1,\,x_n\geq 0\right\} $$ はそれぞれ $\mathbb{R}^3,$ $\mathbb{R}^n$ の閉集合である($A_3$ については、$\{(x_1,\ldots, x_n)\in\mathbb{R}^n\,|\,1-\sum_{i=1}^n x_i^2\geq 0\}$ と $\{(x_1,\ldots, x_n)\in\mathbb{R}^n\,|\,x_n\geq 0\}$ の共通部分と考えればよい)。 一般に、Euclid空間において、その部分集合を定義する式がすべて多項式を等号 $=$ あるいは等号付き不等号 $\leq$, $\geq$ で結んだものである場合、その集合は閉集合となる。 また、 $$ A_4=\{(x,y)\in\mathbb{R}^2\,|\,x+y>0,\,y>x^3,\,x^2+y^2<1\} $$ は $\mathbb{R}^2$ の開集合である。一般に、Euclid空間において、その部分集合を定義する式の個数が有限個で、しかもそれらがすべて多項式を真の不等号 $<$, $>$ で結んだものである場合、その集合は開集合となる(ここで、なぜ有限個という条件が必要なのかを考えよ。式に無限個にしたときに開集合とならない具体例を考えてみよ)。 $\square$

写像の連続性を確かめるには、終域の開基あるいは準開基に属する開集合の逆像が開集合であれば十分である。

命題 5.15 (準開基を用いた連続性の判定)

$X,$ $Y$ を位相空間、$\mathcal{S}$ を $Y$ の準開基とする。このとき、写像 $f\colon X\to Y$ に対して次は同値である。

  • (1) $f\colon X\to Y$ は連続である。
  • (2) 任意の $V\in\mathcal{S}$ に対して $f^{-1}(V)$ は $X$ の開集合である。

(蛇足ながら、開基は準開基であるので、この命題は $\mathcal{S}$ が $Y$ の開基であるときにも適用できる。)

証明

(1) $\Rightarrow$ (2)は、$\mathcal{S}$ の要素がすべて $Y$ の開集合であることから明らかである。

(2) $\Rightarrow$ (1) を示す。(2) を仮定し、$V$ を $Y$ の開集合とする。$f^{-1}(V)$ が $X$ の開集合であることを示したい。準開基の定義から、$\mathcal{S}$ の要素の有限個の共通部分の全体を $\mathcal{B}_\mathcal{S}$ とすると、$\mathcal{B}_\mathcal{S}$ は $Y$ の開基である。よって、命題 3.2により、$V$ は $\mathcal{B}_\mathcal{S}$ の要素の和集合として書ける。すなわち、$\{B_\lambda\,|\,\lambda\in \Lambda\}\subset \mathcal{B}_\mathcal{S}$ が存在して、$V=\bigcup_{\lambda\in \Lambda} B_\lambda$ と書ける。よって $f^{-1}(V)=\bigcup_{\lambda\in \Lambda}f^{-1}(B_\lambda)$ となるから、各 $\lambda\in \Lambda$ に対して $f^{-1}(B_\lambda)$ が $X$ の開集合であると分かればよい。したがって、初めから、$V$ が $\mathcal{B}_\mathcal{S}$ の要素であるときに $f^{-1}(V)$ が $X$ の開集合であることを示せば十分である。このときは、ある $S_1,\ldots, S_n \mathcal{S}$ によって $V=S_1\cap\cdots\cap S_n$ と書ける。すると、$f^{-1}(V)=f^{-1}(S_1)\cap\cdots\cap f^{-1}(S_n)$ であるが、$f^{-1}(S_1),\ldots, f^{-1}(S_n)$ はいま仮定している (2) により $X$ の開集合であるから、$f^{-1}(V)$ は $X$ の開集合である。$\square$

写像の連続性は、閉包の言葉を使って述べることもできる。

命題 5.16 (閉包を用いた連続性の特徴づけ)

$X$, $Y$ を位相空間とする。写像 $f\colon X\to Y$ に対して、次は同値である。

  • (1) $f\colon X\to Y$ は連続である。
  • (2) 任意の $A\subset X$ に対して、$f(\operatorname{Cl}_X A)\subset \operatorname{Cl}_Y f(A)$ である。
  • (3) 任意の $B\subset Y$ に対して、$\operatorname{Cl}_X f^{-1}(B)\subset f^{-1}(\operatorname{Cl}_Y B)$ である。

(ここで、$X$ と $Y$ の閉包作用素を区別のためにそれぞれ $\operatorname{Cl}_X,$ $\operatorname{Cl}_Y$で表した。)

証明

(1) $\Rightarrow$ (2) を示す。$f$ を連続写像とし、$A\subset X$ とする。$\operatorname{Cl}_Y f(A)$ は $Y$ の閉集合であるから、$f$ の連続性と命題 5.5により、$f^{-1}(\operatorname{Cl}_Y f(A))$ は $X$ の閉集合である。いま、$A\subset f^{-1}(f(A))\subset f^{-1}(\operatorname{Cl}_Y f(A))$ であるから、命題 4.2により、$\operatorname{Cl}_X A\subset f^{-1}(\operatorname{Cl}_Y f(A))$ である。これは、示すべき式 $f(\operatorname{Cl}_X A)\subset \operatorname{Cl}_Y f(A)$ を意味している。

(2) $\Rightarrow$ (3) を示す。(2) を仮定し、$B\subset Y$ とする。(2) において $A=f^{-1}(B)$ とすることにより、$f(\operatorname{Cl}_X f^{-1}(B))\subset \operatorname{Cl}_Y f(f^{-1}(B))$ を得る。これと $f(f^{-1}(B))\subset B$ および命題 4.4により、$f(\operatorname{Cl}_X f^{-1}(B))\subset \operatorname{Cl}_Y B$ である。これは、示すべき式 $\operatorname{Cl}_X f^{-1}(B)\subset f^{-1}(\operatorname{Cl}_Y B)$ を意味している。

(3) $\Rightarrow$ (1) を示す。(3) を仮定する。(1) つまり $f$ の連続性を示すために、命題 5.5を用いる。そこで、$F$ を $Y$ の閉集合とする。(3)において $B=F$ とすれば、注意 4.3により、$\operatorname{Cl}_X f^{-1}(F)\subset f^{-1}(\operatorname{Cl}_Y F)=f^{-1}(F)$ である。よって、再び注意 4.3を用いることで、$f^{-1}(F)$ が $X$ の閉集合であることが分かる。$\square$

命題 5.17 (連続写像と点列の収束)

$X,$ $Y$ を位相空間、$f\colon X\to Y$ を写像、$(x_n)_{n=1}^\infty$ は $X$ の点列とし、$x\in X$ とする。$f$ が $x$ において連続であり、$(x_n)_{n=1}^\infty$ が $x$ に収束するならば、$Y$ の点列 $(f(x_n))_{n=1}^\infty$ は $f(x)$ に収束する。

証明

$f\colon X\to Y$ が $x\in X$ において連続であり、$X$ の点列 $(x_n)_{n=1}^\infty$ が $x$ に収束するとする。$Y$ の点列 $(f(x_n))_{n=1}^\infty$ が $f(x)$ に収束することを示すため、$f(x)$ の近傍 $V$ を任意に与える。$f\colon X\to Y$ は $x$ において連続だから、$x$ の $X$ における近傍 $U$ で $f(U)\subset V$ となるものが存在する。$(x_n)_{n=1}^\infty$ が $x$ に収束することから、ある $N\in\mathbb{N}$ が存在して、$n\geq N$ のとき常に $x_n\in U$ である。したがって、$n\geq N$ のとき常に $f(x_n)\in f(U)\subset V$ である。これで、$(f(x_n))_{n=1}^\infty$ が $f(x)$ に収束することが示された。$\square$


考えている空間が第一可算空間(たとえば、距離空間)の場合、連続性は点列の収束の言葉でも述べることができる。

命題 5.18 (点列を用いた点における連続性の特徴づけ)

$X$ を第一可算空間、$Y$ を位相空間とする。写像 $f\colon X\to Y$ と点 $x\in X$ に対して、次は同値である。

  • (1) $f$ は $x$ において連続である。
  • (2) $x$ に収束する $X$ の任意の点列 $(x_n)_{n=1}^\infty$ に対して、$Y$ の点列 $(f(x_n))_{n=1}^\infty$ は $f(x)$ に収束する。

証明

(1) $\Rightarrow$ (2) は命題 5.17からすぐに分かる。

(2) $\Rightarrow$ (1) を示す。対偶を証明しよう。そこで、(1) の否定、つまり $f$ が $x$ において連続でないことを仮定する。$X$ は第一可算だから、命題 2.15により、$x$ の $X$ における基本近傍系 $\mathcal{U}=\{U_n\,|\,n\in\mathbb{N}\}$ で各 $n\in\mathbb{N}$ に対して $U_{n+1}\subset U_n$ となるもの(したがって、$m\geq n$ のとき常に $U_m\subset U_n$ となるもの)が存在する。$f(x)$ の $Y$ における基本近傍系 $\mathcal{V}$ として、$f(x)$ の $Y$ における近傍すべての集合をとると、命題 5.8(2)の否定が成り立つことにより、次が分かる。

$f(x)$ の $Y$ における近傍 $V$ が存在して、任意の $n\in\mathbb{N}$ に対して $f(U_n)\not\subset V$ となる。

そこで、各 $n\in\mathbb{N}$ に対して $x_n\in U_n$ を $f(x_n)\notin V$ となるように選ぶ。このとき、点列 $(x_n)_{n=1}^\infty$ は $x$ に収束する。実際、任意の $n\in\mathbb{N}$ に対して、$i\geq n$ のとき常に $x_i\in U_i\subset U_n$ となるので、命題 2.18により $(x_n)_{n=1}^\infty$ は $x$ に収束することが分かる。ところが、$Y$ の点列 $(f(x_n))_{n=1}^\infty$ は $y$ に収束しない。実際、$y$ の近傍として $V$ をとると、任意の $n\in\mathbb{N}$ に対して $f(x_n)\notin V$ となるからである。このような $X$ の点列 $(x_n)_{n=1}^\infty$ が存在することは、(2) の否定が成り立つことを示している。$\square$

命題 5.19 (点列を用いた点における連続性の特徴づけ)

$X,$ $Y$ を距離空間とする。写像 $f\colon X\to Y$ と点 $x\in X$ に対して、次は同値である。

  • (1) $f$ は $x$ において連続である。
  • (2) $x$ に収束する $X$ の任意の点列 $(x_n)_{n=1}^\infty$ に対して、$Y$ の点列 $(f(x_n))_{n=1}^\infty$ は $f(x)$ に収束する。

証明

距離空間は第一可算だから、これは命題 5.18の特別な場合である。$\square$

同相写像の概念を定義する。これは線形代数や群論での同型写像に相当するものであり、位相空間 $X,$ $Y$ に対して同相写像 $f\colon X\to Y$ が存在するときに $X$ と $Y$ は「実質的に同じ」位相空間であると見なされる。

定義 5.20 (同相写像)

$X,$ $Y$ を位相空間とする。写像 $f\colon X\to Y$ が同相写像(homeomorphism)であるとは、$f$ が連続な全単射であって、かつ逆写像 $f^{-1}\colon Y\to X$ が連続であることをいう。同相写像 $f\colon X\to Y$ が少なくとも一つ存在するとき、位相空間 $X$ と $Y$ は同相(homeomorphic)であるといい、これを記号 $X\approx Y$ で表す。

位相空間が同相であることは、「図形を曲げたり伸ばしたり縮めたりして移り合うことができること」と説明されることがある。これはもちろん厳密な説明ではないが、以下の例では、$X$ を伸び縮みさせて $Y$ にする様子が想像しやすいであろう。

例 5.21 (同相写像の例・その1)

$X=[0,1)$, $Y=[0,\infty)$ とする。これらを $\mathbb{R}$ のEuclid距離の制限(注意 1.13)により距離空間と考え、位相空間とみなす。$f\colon X\to Y$ を $$ f(x)=\frac{x}{1-x}\quad(x\in X) $$ で定めれば、$f$ は連続である。さらに、$g\colon Y\to X$ を $$ f^{-1}(y)=\frac{y}{y+1}\quad(y\in Y) $$ で定義すると、$g$ も連続であり、$g\circ f=\operatorname{id}_X,$ $f\circ g=\operatorname{id}_Y$ を満たすことが確認できる。よって、$f$ は全単射であり、その逆写像 $f^{-1}$ は $g$ である。以上により、$f\colon X\to Y$ は連続な全単射で、連続な逆写像 $f^{-1}=g\colon Y\to X$ をもつから、$f$ は同相写像である。したがって、$X=[0,1)$ と $Y=[0,\infty)$ は同相である。

例 5.22 (同相写像の例・その2)

$X$, $Y$ を平面 $\mathbb{R}^2$ の次のような部分集合とする。 $$ \begin{aligned} X&=\{(x_1, x_2)\in\mathbb{R}\,|\,x_1^2+x_2^2\leq 1\},\,\\ Y&=\{(x_1, x_2)\in\mathbb{R}\,|\,-1\leq x_1\leq 1,\,-1\leq x_2\leq 1\}=\{(x_1, x_2)\in\mathbb{R}^2\,|\,\max\{|x_1|, |x_2|\}\leq 1\} \end{aligned} $$ $X$ は原点を中心とする半径1の閉円板、$Y$ は一辺2の(境界も含んだ)正方形である。$X$ と $Y$ が同相であることを示そう。ここでも、$X$ や $Y$ は $\mathbb{R}^2$ のEuclid距離 $d$ の制限により距離空間と考え、位相空間とみなす。

まず、準備として、$x=(x_1, x_2)\in\mathbb{R}^2$ に対して $$ \|x\|_2=\sqrt{x_1^2+x_2^2},\quad \|x\|_\infty=\max\{|x_1|, |x_2|\} $$ と定義する($\|\phantom{x}\|_2$ はEuclidノルムであり、$d(x,0)=\|x\|_2$ を満たす)。これらはともに、性質 $$ \|cx\|_2=|c|\|x\|,\quad \|cx\|_\infty=|c|\|x\|_\infty\qquad(c\in\mathbb{R},\,x\in\mathbb{R}^2) \qquad(\star) $$ を満たす。また、不等式 $$ \|x\|_\infty\leq \|x\|_2\leq \sqrt{2}\|x\|_\infty \qquad(\star\star) $$ が成り立つことが、簡単な計算により示される。そして、$X$, $Y$ は $$ X=\{x\in\mathbb{R}^2\,|\,\|x\|_2\leq 1\},\quad Y=\{x\in\mathbb{R}^2\,|\,\|x\|_\infty\leq 1\} $$ と表される。そこで、写像 $f\colon X\to Y$ を $$ f(x)= \begin{cases} \dfrac{\|x\|_2}{\|x\|_\infty}x & x\neq 0\text{ のとき}\\ 0 & x=0\text{ のとき} \end{cases} $$ で定義する。$f$ が実際に $X$ の点を $Y$ の点に写していることは上で述べた性質 $(\star)$ を用いて確認できる。さらに、$x\notin X\setminus\{0\}$ のとき、$f$ が $x$ において連続であることは、微積分の知識によって分かる通りである。$f$ が $0$ において連続であることを確認しよう。そのため、任意の $\varepsilon>0$ を与える。$\delta=\varepsilon/\sqrt{2}>0$ とおき、$d(x,0)=\|x\|_2<\delta$ となる $x\in X$ を任意に与える。もし、$x=0$ ならば $d(f(x),f(0))=d(f(0),f(0))=0<\varepsilon$ である。$x\neq 0$ とすると、不等式 $(\star\star)$ により $$ \|f(x)\|_2=\left\|\frac{\|x\|_2}{\|x\|_\infty}x\right\|_2=\frac{ {\|x\|_2}^2}{\|x\|_\infty}\leq \frac{ {\|x\|_2}^2}{\|x\|_2/\sqrt{2}}=\sqrt{2}\|x\|_2 $$ となるので、 $$ d(f(x), f(0))=d(f(x), 0)=\|f(x)\|_2\leq\sqrt{2}\|x\|_2<\sqrt{2}\delta=\varepsilon $$ を得る。これで、すべての点 $x\in X$ に対して $f$ は $x$ において連続と分かったので、命題 5.7により、$f\colon X\to Y$ の連続性が確かめられた。

さらに、$g\colon Y\to X$ が $$ g(y)= \begin{cases} \dfrac{\|y\|_\infty}{\|y\|_2}y & y\neq 0\text{ のとき}\\ 0 & y=0\text{ のとき} \end{cases} $$ によって定義されること(つまり、$y\in Y$ に対して上の $g(y)$ が確かに $X$ の点であること)が示される。さらに $g$ が連続であることも、$f$ の連続性と同様に示される。そして、$g$ が $f$ の逆写像であることが確かめられる。こうして、$f\colon X\to Y$ は連続全単射であって逆写像 $g=f^{-1}$ が連続だと分かったので、$f$ は同相写像である。よって、$X$ と $Y$ は同相である。$\square$

注意 5.23 (連続全単射は同相写像とは限らない)

位相空間の間の写像 $f\colon X\to Y$ が同相写像であることの定義で、「$f^{-1}\colon Y\to X$ が連続である」という条件を忘れてはならない。例えば、$X$ と $Y$ は集合としてはともに $\mathbb{R}$ であるとし、$X$ には離散位相を入れ、$Y$ には通常のEuclid距離から定まる位相を入れる。そして、$f\colon X\to Y$ を恒等写像 $\operatorname{id}_\mathbb{R}$ とすれば、$f$ は確かに連続な全単射であるが、$f^{-1}$ は連続ではない。したがって、$f$ は同相写像ではない。全単射かつ連続な写像であっても逆写像は連続とは限らないのである。

線形代数を学んだ人は、$V, W$ がベクトル空間で $f\colon V\to W$ が全単射かつ線形写像であれば、$f^{-1}\colon W\to V$ も線形写像となることを知っているであろう。いま見たように、これに対応する事実は位相空間については成り立たないので注意が必要である。$\square$

注意 5.24 (同相写像は開集合の一対一対応・位相的性質)

位相空間 $X,$ $Y$ の間の写像 $f\colon X\to Y$ が同相写像であるという条件は

  • (i) $f\colon X\to Y$ は全単射である
  • (ii) $f\colon X\to Y$ は連続である
  • (iii) $f^{-1}\colon Y\to X$ は連続である

という三つの要素からなっている。(i)の条件は、$f$ が $X$ の点と $Y$ の点との一対一対応を与えることを述べている。(ii)の条件は、連続写像の定義によれば

(1) $\,V\subset Y$ が開集合 $\Longrightarrow$ $f^{-1}(V)\subset X$ も開集合

が成り立つことなのであった。さらに (iii)の条件も、連続写像の定義に基づけば 「$U\subset X$ が開集合 $\Longrightarrow$ $(f^{-1})^{-1}(U)\subset Y$ も開集合」 と書けるが、$f^{-1}$ による逆像 $(f^{-1})^{-1}(U)$ とは $f$ による像 $f(U)$ のことだから、結局これは、

(2) $\,U\subset X$ が開集合 $\Longrightarrow$ $f(U)\subset Y$ も開集合

ということを意味している。(1) は、$Y$ の開集合を $f^{-1}$ で写せば $X$ の開集合になることを述べ、(2) は $X$ の開集合を $f$ で写せば $Y$ の開集合になることを述べている。よって、(1) と (2) が同時に成り立つということは、$f$ が $X$ の開集合と $Y$ の開集合の間の一対一対応を与えているということである。つまり、同相写像 $f\colon X\to Y$ とは、

  • $X$ の点と $Y$ の点との一対一対応を与える写像(つまり、全単射)であって、
  • 同時に $X$ の開集合と $Y$ の開集合との一対一対応をも与えている写像

のことであるといえる。

そもそも位相空間は集合に開集合系(=どの部分集合が開集合かというデータ)を定めることで定義された。同相写像 $f\colon X\to Y$ があるということは、まさに、位相空間の定義に関係するすべてのデータを一斉に($f$ により)一対一対応させることができることを意味する。このことから、同相写像 $f\colon X\to Y$ があるとき、我々は $X$ と $Y$ とを( $X$ の点 $x$ を $Y$ の点 $f(x)$ と同じと思うことで)位相空間として同一視することが許される。

我々は位相空間において、閉集合、近傍、基本近傍系、開基、準開基、閉包、内部、境界という概念を定義してきた。これらは開集合の概念を出発点として、次々と派生してきたものである。同相写像はこのような諸概念の間にも一対一対応をもたらす。例えば、基本近傍系と閉包について、同相写像 $f\colon X\to Y$ がもたらす対応を具体的に見てみよう。

(基本近傍系の場合) $\mathcal{U}$ が点 $x(\in X)$ の $X$ における基本近傍系であるとしよう。このとき、$\mathcal{U}$ を $f$ で写したもの、つまり $\{f(U)\,|\,U\in\mathcal{U}\}$ は点 $f(x)$ の $Y$ における基本近傍系である(このことを確かめよ)。また、同様に、$\mathcal{V}$ が点 $y(\in Y)$ の $Y$ における基本近傍系であれば、それを $f^{-1}$ で写したもの $\{f^{-1}(V)\,|\,V\in\mathcal{V}\}$ は点 $f^{-1}(y)$ の $X$ における基本近傍系である。
(閉包の場合)この場合は一対一対応という言葉はふさわしくないかもしれないが、$X$ で閉包をとる操作と $Y$ で閉包をとる操作が次のように $f$ を通して対応する。$X,$ $Y$ における閉包作用素を $\operatorname{Cl}_X,$ $\operatorname{Cl}_Y$ で表す。このとき、任意の $A\subset X$ に対して $f(\operatorname{Cl}_X A)=\operatorname{Cl}_Y f(A)$ である。つまり、$f$ による像をとる操作と閉包をとる操作が交換可能である。このことは、$f$ が $X$ の閉集合と $Y$ の閉集合の間の一対一対応を与えていることと、閉包が閉集合のみを用いて定義される概念であることから分かる(詳細が気になる人は確かめてみよ)。同様に、$B\subset Y$ に対して $f^{-1}(\operatorname{Cl}_Y B)=\operatorname{Cl}_X f^{-1}(B)$ も成り立つ。

このように、同相写像 $f\colon X\to Y$ があるとき、$f$ と $f^{-1}$ を用いて、$X$ と $Y$ の一方で定義された概念を(より正確には、開集合を基にして定義された概念を)他方へと相互翻訳することができる。

位相空間の性質であって、同相写像によって保たれるようなものを位相的性質と呼ぶ。正確に述べれば、位相空間の性質 $\mathrm{P}$ が位相的性質(topological property)であるとは、位相空間 $X$ と $Y$ が同相であるとき(つまり同相写像 $f\colon X\to Y$ が存在するとき)、$X$ が性質 $\mathrm{P}$ をもつならば、$Y$ もまた性質 $\mathrm{P}$ をもつことをいう。位相的性質の例としては、いままでに述べたものの中でも、距離化可能性、第一可算性、第二可算性、可分性を挙げることができる。さらには、「離散空間であること」、「密着空間であること」も位相的性質である。一つの例として、次のことを確かめてみよう。

命題 可分性は位相的性質である。
証明 $X$ と $Y$ が同相な位相空間であるとし、$X$ が可分であると仮定する。このとき $Y$ が可分であることを示そう。仮定から、同相写像 $f\colon X\to Y$ および高々可算な $X$ の稠密な部分集合 $A$ が存在する。稠密であることの定義により、$\operatorname{Cl}_X A=X$ である。さきほど見た対応により、$f(\operatorname{Cl}_X A)=\operatorname{Cl}_Y f(A)$ であるが、この左辺は $f(X)=Y$ であるから、$\operatorname{Cl}_Y f(A)=Y$ を得る。これは、$f(A)$ が $Y$ において稠密であることを意味する。$A$ は高々可算で、$f$ は全単射だから $f(A)$ も高々可算である。よって、$Y$ は高々可算な稠密部分集合 $f(A)$ をもつので、可分である。

何らかの性質が位相的性質であることの証明は、その性質を定義する概念の一つ一つを同相写像を通して翻訳していくことに尽きる。同相写像は開集合を保つ写像だから、開集合の言葉だけで定義された概念は翻訳できる。また同相写像はそもそも全単射であるから、集合の濃度についての概念も翻訳できる(実際、上では高々可算という概念が現れた)。このテキストで現れる位相空間についての性質は、基本的に位相的性質に限られるが、そのことの確認はいま述べたような単純な翻訳作業であるから省略する。ただし、距離空間についての性質には、位相的性質と勘違いしやすいものがあるので、必要に応じて注意を喚起することにする。例えば、距離空間には有界性という性質が次のように定義される。距離空間 $(M, d)$ が有界(bounded)であるとは、ある実数 $C>0$ が存在して、任意の $x,y\in M$ に対して $d(x,y)\leq C$ が成り立つことをいう。例 5.21における $X=[0,1)$ は有界であり、$Y=[0,\infty)$ は有界でないが、それにもかかわらず $X$ と $Y$ は同相である。このことは有界性が位相的性質でないことを示している。いま見た現象は、有界性が距離を用いて定義された概念であることに関係している。距離は開集合を定めるが、開集合についての知識だけから距離を復元することはできない。そのため、距離を用いて定義された概念は、必ずしも位相的性質とならないのである。$\square$

例 5.25 (位相的性質の比較による非同相の証明)

位相空間 $X,$ $Y$ が同相であることを証明するには、定義通りに考えて同相写像 $f\colon X\to Y$ を実際に構成するという方法がある。これに対して $X,$ $Y$ が同相でないことの証明には工夫が必要である。ここで有効となるのが、適切な位相的性質に着目するという考え方である。いま、ある位相的性質 $\mathrm{P}$ があって、位相空間 $X$ は性質 $\mathrm{P}$ をもち、$Y$ は性質 $\mathrm{P}$ をもたないとしよう。このとき、$X$ と $Y$ は同相ではあり得ないことが結論される。というのも、もし $X$ と $Y$ が同相であれば、$X$ が位相的性質 $\mathrm{P}$ をもつことにより、$Y$ も性質 $\mathrm{P}$ をもたなければならず矛盾するからである。 非同相の証明は、ほぼ常に、いま述べた「位相的性質の比較」という原理によってなされると言ってもよい。

一つの例として、通常の位相をもつ実数直線 $\mathbb{R}$ とSorgenfrey直線 $\mathbb{S}$(例 3.12)が同相でないことを示そう。そのために、第二可算性という位相的性質に着目する。$\mathbb{R}$ は第二可算であった(例 3.5)。これに対して、$\mathbb{S}$ は第二可算ではない(例 3.12)。したがって、上に述べたことにより、$\mathbb{R}$ と $\mathbb{S}$ は同相でない。この他にも、今まで例に挙げた位相空間の位相的性質を比較することによって、様々な非同相性証明ができるはずである。

なお、上の例で $\mathbb{S}$ は集合としての $\mathbb{R}$ に特別な位相を入れたものであったから、恒等写像 $\operatorname{id}\colon \mathbb{R}\to\mathbb{S}$ がある。この $\operatorname{id}$ は連続写像ではないので(確かめよ)、同相写像ではないが、それだけでは $\mathbb{R}$ と $\mathbb{S}$ が同相でないことの証明にはならないので注意する。いま示せたのは、単に $\mathbb{R}$ から $\mathbb{S}$ へのある一つの写像が同相写像でないということである。$\mathbb{R}$ と $\mathbb{S}$ が同相でないことをいうには、$\mathbb{R}$ から $\mathbb{S}$ へのいかなる写像も同相写像になり得ないことが言えなければならない。$\square$

最後に、開写像と閉写像の概念を導入し、同相写像との関係を述べよう。

定義 5.26 (開写像・閉写像)

$X,$ $Y$ を位相空間とし、$f\colon X\to Y$ を写像とする。$f$ が開写像(open map)であるとは、$X$ の任意の開集合 $U\subset X$ に対して、$f(U)$ が $Y$ の開集合であることをいう。また、$f$ が閉写像(closed map)であるとは、$X$ の任意の閉集合 $F\subset X$ に対して、$f(F)$ が $Y$ の閉集合であることをいう。

命題 5.27 (同相写像と開写像・閉写像)

$X$, $Y$ を位相空間とし、$f\colon X\to Y$ を写像とする。次は同値である。

  • (1) $f$ は同相写像である。
  • (2) $f$ は連続な全単射であって、かつ開写像である。
  • (3) $f$ は連続な全単射であって、かつ閉写像である。

証明 (1) $\Rightarrow$ (2) を示す。$f$ が同相写像であるとする。このとき、$f$ は連続な全単射である。$f$ が開写像であることをいうため、$U$ を $X$ の開集合とする。いま、$f^{-1}\colon Y\to X$ は連続であるから、$(f^{-1})^{-1}(U)=f(U)$ は $Y$ の開集合である。

(2) $\Rightarrow$ (3) を示す。$f$ が連続な全単射であり、かつ開写像であるとする。$f$ が閉写像であることをいうため、$F$ を $X$ の閉集合とする。このとき、$X\setminus F$ は $X$ の開集合であり、よって$f(X\setminus F)$ は $Y$ の開集合である。ところが、$f\colon X\to Y$ は全単射であるから、$f(X\setminus F)=f(X)\setminus f(F)=Y\setminus f(F)$ である。よって、$Y\setminus f(F)$ は $Y$ の開集合だから $f(F)$ は $Y$ の閉集合である。

(3) $\Rightarrow$ (1) を示す。$f$ が連続な全単射であり、かつ閉写像であるとする。 このとき $f^{-1}\colon Y\to X$ が連続であることを示せばよい。そのために命題 5.4を使おう。そこで、$F$ を $X$ の閉集合とする。$f(F)$ は $Y$ の閉集合であるが、$f(F)=(f^{-1})^{-1}(F)$ であるから、$(f^{-1})^{-1}(F)$ は $Y$ の閉集合である。よって、命題 5.4により $f^{-1}$ は連続である。$\square$


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