位相空間論10:連結性
位相空間論10:連結性
連結性とは、直観的には位相空間が「つながっている」ことを表す概念である。例えば、実数直線 $\mathbb{R}$ は連結であるのに対して、それから一点を除いて得られる部分空間 $\mathbb{R}\setminus\{0\}$ は連結ではないことが示される。後者の空間 $\mathbb{R}\setminus\{0\}$ は直観的に $(-\infty, 0)$ と $(0, +\infty)$ の二つの「つながった部分」に分かれることが見て取れるが、このように空間を構成する「つながった部分」も正確に定義することができ、連結成分と呼ばれる。
- 位相空間論10:連結性
定義 10.1 (連結性)
位相空間 $X$ が連結(connected)であるとは、$X$ が次の2つの条件を満たすことをいう。
- (1) $X$ は空集合ではない。
- (2) $X=U\cup V$ かつ $U\cap V=\emptyset$ を満たす $X$ の空でない開集合 $U,$ $V$ が存在しない。$\square$
上の定義の (2) は、位相空間 $X$ を「二つの離れた部分 $U,$ $V$ に切り離すことができない」という状況を表したものと考えられる。なお、条件 (1) は、文献によっては仮定しないことがある。この条件 (1) を入れておくと、位相空間が連結であることが、後で説明する連結成分がちょうど一個であることと同値になる。連結性は、開集合の言葉で書かれていることから分かるように位相的性質(注意 5.24)である。つまり、$X$ と $Y$ が同相な位相空間で、$X$ が連結ならば、$Y$ も連結である。
位相空間 $X$ の部分集合 $A$ が $X$ の開集合であると同時に閉集合であるとき、$A$ を $X$ の開かつ閉集合(clopen set)という。位相空間の定義から、空集合 $\emptyset$ と $X$ は常に $X$ の開かつ閉集合である。以下のように、位相空間が連結であることには何通りかの言い方がある。
命題 10.2 (連結性の言い換え)
空でない位相空間 $X$ に対して、次は同値である。
- (1) $X$ は連結である。
- (2) $X=F\cup H$ かつ $F\cap H=\emptyset$ となる $X$ の空でない閉集合 $F,$ $H$ が存在しない。
- (3) $X$ は $\emptyset,$ $X$ 以外の開かつ閉集合をもたない。
- (4) 連続写像 $f\colon X\to\{0,1\}$ は定値写像に限る。ただし、$\{0,1\}$ は離散位相をもつとする。
証明
$X$ を空でない位相空間とする。
(1) $\Rightarrow$ (2) を示す。対偶を示すため、(2) の否定が成り立つとすると $X=F\cup H,$ $F\cap H=\emptyset$ となるような $X$ の空でない閉集合 $F,$ $H$ が存在する。このとき、$U=X\setminus F$, $V=X\setminus H$ とすると $U,$ $V$ は開集合であるが、$U=H,$ $V=F$ なので $X=U\cup V,$ $U\cap V=\emptyset$ であり $U,$ $V$ は空でない。よって、$X$ は連結でない。
(2) $\Rightarrow$ (3) を示す。対偶を示すため、(3) の否定が成り立つとすると、$\emptyset\neq A\neq X$ であるような $X$ の開かつ閉集合 $A$ が存在する。このとき、$F=A,$ $H=X\setminus A$ とおけば、$F,$ $H$ は空でない閉集合で、$F\cup H=X,$ $F\cap H=\emptyset$ となる。よって (2) の否定が成り立つ。
(3) $\Rightarrow$ (4) を示す。対偶を示すため、定値写像でない $f\colon X\to\{0, 1\}$ が存在すると仮定する。$A=f^{-1}(\{0\})=\{x\in X\,|\,f(x)=0\}$ とおこう。$\{0\}$ は $\{0, 1\}$ の開かつ閉集合であるので、$A=f^{-1}(\{0\})$ は $X$ の開かつ閉集合となる。もし $A=X$ なら $f$ は $0$ への定値写像となり $f$ の取り方に反するので、$A\neq X$ である。また、もし $A=\emptyset$ なら $f$ は $1$ への定値写像となり、やはり $f$ の取り方に反するので $A\neq\emptyset$ である。以上により、(3) の否定が成り立つ。
(4) $\Rightarrow$ (1) を示す。対偶を示すため、$X$ が連結でないとすると、$X$ の空でない開集合 $U,$ $V$ で $X=U\cup V,$ $U\cap V=\emptyset$ となるものが存在する。写像 $f\colon X\to \{0,1\}$ を $x\in U$ のとき $f(x)=0$ とし、$x\in V$ のとき $f(x)=1$ とすることで定義すれば、$f^{-1}(\{0\})=U$ と $f^{-1}(\{1\})=V$ はともに開集合である。これと $f^{-1}(\emptyset)=\emptyset,$ $f^{-1}(\{0,1\})=X$ により、$f$ による $\{0, 1\}$ のすべての開集合の逆像が $X$ の開集合となるので、$f$ は連続である。しかも、$f$ は定値写像ではない。よって、(4) の否定が成り立つ。$\square$
上の証明ですべて対偶をとって示していたことからも分かるように、連結性よりもむしろその否定の方が、論証の上ではしばしば扱いやすい。以後では、写像 $f\colon X\to Y$ と $y\in Y$ に対して、一点集合 $\{y\}$ の逆像 $f^{-1}(\{y\})$ を $f^{-1}(y)$ と略記する。この記法によれば上の証明での $f^{-1}(\{0\}),$ $f^{-1}(\{1\})$ はそれぞれ $f^{-1}(0),$ $f^{-1}(1)$ となる。
例 10.3 (離散位相・密着位相・補有限位相の場合)
まず、ごく簡単な例を挙げよう。一点だけからなる位相空間は連結である。二点以上からなる離散空間は、連結でない。空でない密着空間は、連結である。$X$ が無限集合である場合、$X$ に補有限位相を入れたものは連結である。$\square$
位相空間の部分集合については、断りのない限り相対位相を考えることにしていた。このことから、位相空間の部分集合についても、自動的に連結性の概念が定義されていることになる。つまり、位相空間 $X$ の部分集合 $A$ が連結であるとは、$A$ が $X$ からの相対位相について連結になることである。このとき、$A$ は $X$ の連結集合(connected set)であると言うこともある。
命題 10.4 (部分集合の連結性の特徴づけ)
$X$ を位相空間とし、$A$ を $X$ の空でない部分集合とする。このとき、次は同値である。
- (1) $A$ は($X$ からの相対位相について)連結である。
- (2) $A$ の空でない部分集合 $B,$ $C$ であって条件
- $A=B\cup C,\, B\cap \operatorname{Cl}_X C=C\cap \operatorname{Cl}_X B=\emptyset\quad(\star)$
を満たすものは存在しない。
証明
(1) $\Rightarrow$ (2) を示す。対偶を示すため、(2) の否定が成り立つこと、つまり $A$ の空でない部分集合 $B,$ $C$ であって ($\star$) を満たすものが存在することを仮定しよう。すると、$A=B\cup C$ および $B\cap C=\emptyset$ が成り立つ。さらに、命題 6.15を用いると $$ \operatorname{Cl}_A B=A\cap \operatorname{Cl}_X B=(B\cup C)\cap\operatorname{Cl}_X B=(B\cap\operatorname{Cl}_X B)\cup (C\cap\operatorname{Cl}_X B)=B\cup\emptyset=B $$ となるから、$B$ は $A$ の閉集合である。同様に、$C$ は $A$ の閉集合である。以上から、命題 10.2(2) の条件により、$A$ は連結でないことが分かる。
(2) $\Rightarrow$ (1) を示す。やはり対偶を示すため、$A$ が連結でないと仮定する。すると、命題 10.2(2) の条件により、$A$ の空でない閉集合 $B,$ $C$ であって $A=B\cup C,$ $B\cap C=\emptyset$ となるものが存在する。いま、$B$ が $A$ の閉集合であることと命題 6.15により $B=\operatorname{Cl}_A B=A\cap\operatorname{Cl}_X B$ である。これと $B\cap C=\emptyset$ により、 $$ C\cap \operatorname{Cl}_X B=(C\cap A)\cap\operatorname{Cl}_X B=C\cap(A\cap\operatorname{Cl}_X B)=C\cap B=\emptyset $$ となる。同様に、$B\cap\operatorname{Cl}_X C=\emptyset$ であることも分かる。以上から $B,$ $C$ は条件 $(\star)$ を満たすので、(2) の否定が示された。$\square$
例 10.5 (連結でない空間)
$\mathbb{R}$ の部分空間 $A=[0,2)\setminus\{1\}$ を考えると、$A$ は連結でない。実際、$B=[0,1),$ $C=(1,2)$ とおくと、$B,$ $C$ は空でなく、$A=B\cup C,$ $B\cap C=\emptyset$ である。さらに、$\operatorname{Cl}_\mathbb{R} B=[0,1],$ $\operatorname{Cl}_\mathbb{R} C=[1,2]$ であるから、$B\cap\operatorname{Cl}_\mathbb{R} A=C\cap\operatorname{Cl}_\mathbb{R} B=\emptyset$ である。よって、命題 10.4により、$A$ は連結でない。
もちろん、連結性の定義に従っても $A$ が連結でないことは確かめられる。実際、$U=[0,1),$ $V=(1,2)$ とおけば、$U=(\infty, 1)\cap A,\, V=(1,2)\cap A$ と表されることから $U,$ $V$ はそれぞれ $A$ の空でない開集合で、しかも $A=U\cup V,$ $U\cap V=\emptyset$ である。したがって、$A$ は連結でない。$\square$
有界閉区間が連結であることを証明しよう。これはコンパクト性と並んで有界閉区間のもつ重要な性質である。
定理 10.6 (有界閉区間の連結性)
$a,$ $b$ を $a<b$ であるような実数とする。このとき、閉区間 $[a, b]=\{x\in\mathbb{R}\,|\,a\leq x\leq b\}$ は連結である。
証明
$a\in[a, b]$ であるから、$[a, b]$ は空でない。$[a, b]$ が連結でなかったとしよう。すると、$[a, b]$ の空でない閉集合 $F,$ $H$ であって、$F\cup H=[a,b],$ $F\cap H=\emptyset$ であるようなものが存在する(命題 10.2(2)の条件を用いた)。$[a, b]$ は $\mathbb{R}$ の閉集合であるから、$F,$ $H$ は $\mathbb{R}$ の閉集合でもあることに注意する。 $a\in F$ または $a\in H$ であるが、必要なら $F,$ $H$ を入れ換えて、$a\in F$ であるとしてよい。いま $H\neq\emptyset$ であるので、下限 $\inf H$ が存在する。そこで、$c=\inf H$ と定義しよう。$a$ は $H$ の下界であるから、下限の定義により $a\leq c$ である。また、$H$ は $[a, b]$ の空でない部分集合だから $b$ より大きい数は $H$ の下界になり得ないが、いま $c$ は $H$ の一つの下界なのだから $c\leq b$ である。結局、$c\in [a, b]$ である。
$c\in H$ となることを示そう。$H$ は $\mathbb{R}$ の閉集合であったから、そのためには $c\in\operatorname{Cl}_\mathbb{R} H$ を言えばよい。そこで、$\varepsilon>0$ を任意に与える。$c$ は $H$ の下界で $c+\varepsilon$ は $H$ の下界でないから、$u\in H$ で $c\leq u<c+\varepsilon$ を満たすものが存在する。したがって、$[c, c+\varepsilon)\cap H\neq\emptyset$ であり、よって $(c-\varepsilon, c+\varepsilon)\cap H\neq\emptyset$ である。これが任意の $\varepsilon>0$ に対して成り立つので、命題 4.5により、$c\in \operatorname{Cl}_\mathbb{R} H$ である。これで $c\in H$ が示された。
次に、$c\in F$ となることを示そう。もし、$c=a$ なら、$a\in F$ だからこれは成り立っている。そこで、$a<c\leq b$ とする。この場合、$c$ が $H$ の下界であることから $[a, c)\cap H=\emptyset$ である。よって、$[a, c)\subset [a, b]\setminus H=F$ である。したがって、$[a, c]=\operatorname{Cl}_\mathbb{R} [a, c)\subset\operatorname{Cl}_\mathbb{R} F=F$ であり、よって、$c\in F$ である。
以上により、$c\in H$ かつ $c\in F$ であるから、$c\in F\cap H$ である。これは、$F\cap H=\emptyset$ であることに反する。これで、$[a, b]$ が連結であることが示された。$\square$
命題 10.7 (共通点をもつ連結集合の和集合)
$X$ を位相空間とし、$\{A_\lambda\,|\,\lambda\in\Lambda\}$ を $X$ の連結な部分集合からなる族(ただし、$\Lambda\neq\emptyset$)とする。このとき、$\bigcap_{\lambda\in\Lambda} A_\lambda\neq\emptyset$ であるならば $\bigcup_{\lambda\in\Lambda} A_\lambda$ は連結である。
証明
点 $p\in\bigcap_{\lambda\in\Lambda} A_\lambda$ を一つ取り固定する。$A=\bigcup_{\lambda\in\Lambda} A_\lambda$ とおく。各 $\lambda\in\Lambda$ に対して、$A_\lambda$ は連結であるから空でない。このことと $\Lambda\neq\emptyset$ により、$A$ は空でない。$A$ の連結性を示すため、命題 10.2(4)の条件を用いる。そこで、$f\colon A\to\{0,1\}$ を連続写像とする。$f$ が定値写像であることを言えばよい。それを言うには、任意の $x, y\in A$ に対して $f(x)=f(y)$ を示せばよい。そこで、$x, y\in A$ とする。ある $\lambda, \mu\in\Lambda$ に対して、$x\in A_\lambda,$ $y\in A_\mu$ である。いま $A_\lambda$ と $A_\mu$ は連結だから、命題 10.2(1)$\Rightarrow$(4) により、制限 $f|_{A_\lambda},$ $f|_{A_\mu}$ はそれぞれ定値写像である。よって、$x, p\in A_\lambda$ であることから $f(x)=f(p)$ を得て、$p, y\in A_\mu$ であることから $f(p)=f(y)$ を得る。以上から、$f(x)=f(y)$ が得られる。これで $f$ が定値写像であることが分かり、命題 10,2(4)$\Rightarrow$(1) により $A$ は連結であることが分かった。$\square$
実数直線 $\mathbb{R}$ の部分集合が連結であることは、それが区間であることと同値である。正確に述べれば、次が成り立つ。
命題 10.8 ($\mathbb{R}$ の連結部分集合)
実数直線 $\mathbb{R}$ の部分集合 $A$ に対して、次は同値である。
- (1) $A$ は連結である。
- (2) $A$ は次のうちのいずれかである。
- (i) $[a, b]\,(-\infty<a\leq b<+\infty)$
- (ii) $[a, b)\,(-\infty<a<b\leq+\infty)$
- (iii) $(a, b]\,(-\infty\leq a<b<+\infty)$
- (iv) $(a, b)\,(-\infty\leq a<b\leq+\infty)$
ここで、(i) においては $[a, a]=\{a\}$ とする。
証明
(1) $\Rightarrow$ (2) を示す。$A$ を $\mathbb{R}$ の連結な部分集合とする。連結性の定義から $A$ は空ではない。そこで、$a=\inf A,$ $b=\sup A$ とすると、$a\leq b$ である。ただし、$A$ が下に有界でないときは $a=-\infty$ とし、$A$ が上に有界でないときは $b=+\infty$ とする。すると $A\subset [a, b]$ である。$a=b$ のときは $A=\{a\}$ となるから (i) の場合となる。$a<b$ であるとき、ある $c\in (a, b)$ に対して $c\notin A$ であれば、$U=A\cap (-\infty, c),$ $V=A\cap (c,+\infty)$ とおくとき $U,$ $V$ は $A$ の空でない開集合で、$A=U\cup V,$ $U\cap V=\emptyset$ となるから $A$ の連結性に反する。よって、$(a, b)\subset A$ である。あとは、$a,$ $b$ が $A$ に属するか否かに応じて、(i)-(iv) のどれかの場合になる。すなわち、$a\in A,$ $b\in A$ のときは (i) が成り立ち、$a\in A,$ $b\notin A$ のときは (ii) が成り立ち、$a\notin A,$ $b\in A$ のときは (iii) が成り立ち、$a\notin A,$ $b\notin A$ のときは (iv) が成り立つ。
(2) $\Rightarrow$ (1) を示す。(i) の場合は定理 10.6により $A$ は連結である。(ii) の場合、各 $c\in (a, b)$ に対して定理 10.6により $[a,c]$ は連結であって $a\in \bigcap_{c\in (a,b)} [a,c],$ $[a,b)=\bigcup_{c\in (a, b)} [a,c]$ であるから、命題 10.7により $A=[a, b)$ は連結である。(iii) の場合も同様に $A=(a,b]$ は連結であると分かる。(iv) の場合は、$a<c_0<b$ となる $c_0$ を一つ選べば、 $$ (a, b)=\bigcup_{c\in (a, c_0),\,c'\in (c_0, b)} [c, c'] $$ と表されることから、やはり命題 10.7により $A=(a, b)$ は連結であることが分かる。$\square$
注意 10.9 (実数直線は連結)
とくに開区間 $(-\infty,+\infty)$ は $\mathbb{R}$ そのものだから、上の命題 10.8により $\mathbb{R}$ は連結となる。
命題 10.10 (連結空間の連続像は連結)
$X$ を連結な位相空間、$Y$ を位相空間とし、$f\colon X\to Y$ を連続写像とする。このとき、$f(X)$ は連結である。
証明
$f\colon X\to Y$ を連結な位相空間 $X$ からの連続写像とする。連結性の定義により $X$ は空でないから、$f(X)$ は空でない。$f(X)$ が連結であることを示すため、命題 10.2(4)の条件を使おう。$g\colon f(X)\to\{0,1\}$ を連続写像とする。$\hat{f}\colon X\to f(X)$ を $f$ の終域を $f(X)$ に制限して得られる連続写像とすると、$g\circ\hat{f}\colon X\to\{0,1\}$ は $X$ の連結性と命題 10.2(1)$\Rightarrow$(4)により定値写像である。このことから、$g$ は定値写像であることが分かる。実際、$y, y'\in f(X)$ とすると、$y=f(x)$, $y'=f(x')$ となる $x, x'\in X$ が存在するが、このとき $g(y)=g(f(x))=g\circ \hat{f}(x)=g\circ \hat{f}(x')=g(f(x'))=g(y')$ である。よって、$g$ は定値写像であり、したがって命題 10.2(4)$\Rightarrow$(1)により $f(X)$ は連結である。$\square$
命題 10.11 (連結性と閉包)
$X$ を位相空間、$A$ を $X$ の連結な部分集合とする。このとき、$X$ の部分集合 $B$ が $A\subset B\subset \operatorname{Cl}_X A$ を満たすならば $B$ は連結である。$\square$
証明
連結性の定義から $A$ は空でないから、$B$ も空でないことに注意する。まず、$B=\operatorname{Cl}_X A$ である特別な場合に命題を証明する。命題 10.2(4)を用いて $\operatorname{Cl}_X A$ の連結性を示すため、$f\colon \operatorname{Cl}_X A\to\{0, 1\}$ を連続写像とする。$f|_A\colon A\to\{0,1\}$ は $A$ の連結性と命題 10.2により定値写像である。例えば、$f|_A$ が $0$ への定値写像であるとしよう($1$ への定値写像であっても同様である)。このとき、$A\subset f^{-1}(0)$ であり、$f^{-1}(0)$ は $\operatorname{Cl}_X A$ の閉集合であるから $X$ の閉集合でもある。よって、命題 4.2により$\operatorname{Cl}_X A\subset f^{-1}(0)$ であるが、これは $f\colon\operatorname{Cl}_X A\to\{0,1\}$ が $0$ への定値写像であることを意味する。したがって命題 10.2により、$\operatorname{Cl}_X A$ は連結である。
次に、一般の $A\subset B\subset\operatorname{Cl}_X A$ を満たす $B$ について、$B$ が連結であることを示す。いま命題 6.15により $$ \operatorname{Cl}_B A=B\cap \operatorname{Cl}_X A=B $$ であることに注意しよう。さきほど示したことで $X$ を $B$ とすれば、$\operatorname{Cl}_B A$ は連結と分かる。したがって、$B$ は連結である。$\square$
連結な位相空間の直積は連結となる。これは任意個の直積について成立するが、まず比較的簡単な有限個の直積の場合を証明してから、一般の場合を証明する。
命題 10.12 (連結な位相空間の有限個の直積は連結)
有限個の連結な位相空間 $X_1,\ldots, X_n\, (n\in\mathbb{N})$ に対して、直積空間 $X_1\times\cdots\times X_n$ は連結である。
証明
$n=1$ の場合は明らかである。$n=2$ の場合を考える。連結性の定義により、$X_1\neq\emptyset$ であるから、$x_{1,0}\in X_1$ を取って固定する。各 $x_2\in X_2$ に対して、 $$ Y_{x_2}=(X_1\times\{x_2\})\cup (\{x_{1,0}\}\times X_2) $$ とおく。$X_1\times\{x_2\},$ $\{x_{1,0}\}\times X_2$ はそれぞれ $X_1,$ $X_2$ と同相だから、それぞれ連結であり、$(X_1\times\{x_2\})\cap(\{x_{1,0}\}\times X_2)=\{(x_{1,0}, x_2)\}\neq\emptyset$ なので、命題 10.7により $Y_{x_2}$ は連結である。連結性の定義により $X_2\neq\emptyset$ であって $\{x_{1,0}\}\times X_2\subset \bigcap_{x_2\in X_2} Y_{x_2}$ であるから、$\bigcap_{x_2\in X_2} Y_{x_2}\neq\emptyset$ である。さらに、$X_1\times X_2=\bigcup_{x_2\in X_2} Y_{x_2}$ であるから、命題 10.7により $X_1\times X_2$ は連結である。これで、$n=2$ の場合が示された。
$n\geq 3$ の場合は、$X_1\times\cdots\times X_n$ と $(X_1\times\cdots\times X_{n-1})\times X_n$ が同相であることを使えば、$n=2$ の場合を用いて帰納法によって示される。$\square$
命題 10.13 (連結な位相空間の直積は連結)
連結な位相空間からなる族 $(X_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}$ に対して、直積空間 $\prod_{\lambda\in\Lambda} X_\lambda$ は連結である。
証明
$X=\prod_{\lambda\in\Lambda} X_\lambda$ とおき、各 $\lambda\in\Lambda$ に対して $p_\lambda\colon X\to X_\lambda$ を射影とする。各 $\lambda\in\Lambda$ に対して、 連結性の定義により $X_\lambda\neq\emptyset$ だから点 $x_{\lambda,0}\in X_\lambda$ を一つ選び固定する。$x_0=(x_{\lambda,0})_{\lambda\in\Lambda}\in X$ とする。とくに $X$ は $x_0$ を要素にもつから空ではない。$\Lambda$ の空でない有限部分集合全体の集合を $\mathcal{F}$ と書くことにしよう。各 $F\in\mathcal{F}$ に対して、 $$ X_F=\{(x_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}\in X\,|\,\text{ 任意の }\lambda\in \Lambda\setminus F\text{ に対して }x_\lambda=x_{\lambda_0}\} $$ とする。すると $X_F$ は有限個の連結な空間の直積 $\prod_{\lambda\in F} X_\lambda$ と同相であるから、命題 10.12により $X_F$ は連結である。さらに、$x_0\in\bigcap_{F\in\mathcal{F}} X_F$ であるから、$\bigcap_{F\in\mathcal{F}} X_F\neq\emptyset$ である。よって、$X'=\bigcup_{F\in\mathcal{F}} X_F$ とおくと $X'$ は命題 10.7により連結である。
最後に、$X'$ が $X$ において稠密であること、すなわち $X=\operatorname{Cl}_X X'$ であることを示そう。これが言えれば、命題 10.11により $X$ が連結であることが示される。そこで、$x=(x_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}\in X$ を任意に与え、$x$ の近傍 $V$ を任意に与える。すると、有限個の相異なる $\lambda_1,\ldots,\lambda_n\in\Lambda\,(n\in\mathbb{N})$ と $x_{\lambda_i}$ の $X_{\lambda_i}$ における開近傍 $U_i$ が存在して $\bigcap_{i=1}^n p_{\lambda_i}^{-1}(U_i)\subset V$ となる。このとき $F=\{\lambda_1,\ldots,\lambda_n\}\in\mathcal{F}$ とおき、$x'\in X$ を $$ p_\lambda(x')= \begin{cases} x_\lambda & \lambda\in F\text{ のとき}\\ x_{\lambda,0} & \lambda\in\Lambda\setminus F\text{ のとき} \end{cases} $$ によって定義すれば、$x'\in X_F\cap \bigcap_{i=1}^n p_{\lambda_i}^{-1}(U_i)\subset X'\cap V$ である。よって、$X'\cap V\neq\emptyset$ である。$V$ は $x$ の任意の近傍であったから、$x\in\operatorname{Cl}_X X'$ となる。これで $X\subset \operatorname{Cl}_X X'$ が示された。逆の包含 $\operatorname{Cl}_X X'\subset X$ は明らかだから、これで $X=\operatorname{Cl}_X X'$ が分かり、$X$ が連結であることが示された。$\square$
連結性は、位相空間が「つながっている」ことを、いわば「二つの離れた部分に切り離せない」こととして定式化したものであった。これとは別の方法として、「つながっている」ことを「どの二つの点の間もその空間の中の曲線で結ぶことができる」こととして定式化することもできる。それが次に説明する弧状連結性である。
一般に位相空間 $X$ に対して、連続写像 $f\colon [0, 1]\to X$ を $X$ における道といい、$f(0),$ $f(1)$ をそれぞれ道 $f$ の始点、終点と呼ぶのであった(例 6.13)。
定義 10.14 (弧状連結性)
位相空間 $X$ が弧状連結(path-connected)であるとは、$X$ が空集合でなく、かつ任意の $x, y\in X$ に対して、$x$ を始点とし $y$ を終点とする $X$ 内の道が存在することをいう。$\square$
位相空間 $X$ の部分集合 $A$ が弧状連結であるということは、もちろん、$A$ が $X$ からの相対位相について弧状連結であることを意味する。弧状連結性も位相的性質の一つである。
命題 10.15 (弧状連結ならば連結)
弧状連結な位相空間は連結である。
証明
$X$ を弧状連結な位相空間とする。弧状連結性の定義から $X$ は空集合ではない。$X$ が連結でなかったとすると、$X$ の空でない開集合 $U,$ $V$ であって $X=U\cup V,$ $U\cap V=\emptyset$ となるものが存在する。点 $x\in U$ および $y\in V$ をそれぞれ一つ取り固定する。$X$ は弧状連結であったから、$X$ 内の道 $f\colon [0,1]\to X$ であって $f(0)=x,$ $f(1)=y$ となるものが存在する。このとき、$U'=f^{-1}(U),$ $V'=f^{-1}(V)$ とおけば、$U',$ $V'$ は $[0,1]$ の開集合である。しかも、$0\in U',$ $1\in V'$ であるから $U',$ $V'$ は空でなく、$U'\cup V'=[0,1],$ $U'\cap V'=\emptyset$ である。これは、定理 10.6により $[0,1]$ が連結であることに反する。$\square$
連結性について成り立つ性質の中には、弧状連結性についても同様に成り立つものもある。次の二つの命題はそのようなものである。
命題 10.16 (弧状連結な空間の連続像は弧状連結)
$X$ を弧状連結な位相空間、$Y$ を位相空間、$f\colon X\to Y$ を連続写像とする。このとき、$f(X)$ は弧状連結である。
証明
$f\colon X\to Y$ を弧状連結な空間 $X$ からの連続写像とする。$X$ は弧状連結性の定義から空でないので、$f(X)$ も空でない。$f(X)$ の弧状連結性を示すため、$y, y'\in f(X)$ を任意に与える。すると $x, x'\in X$ であって $f(x)=y,$ $f(x')=y'$ となるものが存在する。$X$ は弧状連結だから、連続写像 $\alpha\colon [0,1]\to X$ で $\alpha(0)=x,$ $\alpha(1)=x'$ となるものが存在する。このとき、$f$ の終域を $f(X)$ に制限した連続写像を $\hat{f}\colon X\to f(X)$ とすれば $\hat{f}\circ\alpha\colon [0,1]\to f(X)$ は連続写像で、$\hat{f}\circ \alpha(0)=f(x)=y,$ $\hat{f}\circ \alpha(1)=f(x')=y$ となる。これで、$f(X)$ の弧状連結性が示された。$\square$
命題 10.17 (共通点をもつ弧状連結集合の和集合)
$X$ を位相空間とし、$\{A_\lambda\,|\,\lambda\in\Lambda\}$ を $X$ の弧状連結な部分集合からなる族(ただし、$\Lambda\neq\emptyset$)とする。このとき、$\bigcap_{\lambda\in\Lambda} A_\lambda\neq\emptyset$ であるならば $\bigcup_{\lambda\in\Lambda} A_\lambda$ は弧状連結である。
証明
点 $p\in\bigcap_{\lambda\in\Lambda} A_\lambda$ を一つ取り固定する。$A=\bigcup_{\lambda\in\Lambda} A_\lambda$ とおき、各 $\lambda\in\Lambda$ に対して、$i_\lambda\colon A_\lambda\to A$ を包含写像とする。各 $\lambda\in\Lambda$ に対して、$A_\lambda$ は弧状連結であるから空でない。このことと $\Lambda\neq\emptyset$ により、$A$ は空でない。$A$ の弧状連結性を示すため、任意に $x, y\in A$ を与える。ある $\lambda, \mu\in \Lambda$ が存在して、$x\in A_\lambda,$ $y\in A_\mu$ となる。すると $x, p\in A_\lambda$ であるから、$A_\lambda$ 内の道 $f\colon [0,1]\to A_\lambda$ が存在して、$f(0)=x,$ $f(1)=p$ となる。また、$p, y\in A_\mu$ であるから、$A_\mu$ 内の道 $g\colon [0,1]\to A_\mu$ が存在して、$g(0)=p,$ $g(1)=y$ となる。$i_\lambda\circ f\colon [0,1]\to A$ を再び $f$ で表す。同様に、$i_\mu\circ g\colon [0,1]\to A$ も再び $g$ で表す。このとき、$f(1)=p=g(0)$ なので、例 6.13で見たように、$A$ 内の道 $f, g\colon [0,1]\to A$ をつなぐことで、一つの道 $h\colon[0,1]\to A$ を $$ h(t)= \begin{cases} f(2t) & 0\leq t\leq 1/2\text{ のとき}\\ g(2t-1) & 1/2\leq t\leq 1\text{ のとき} \end{cases} $$ により定義できる。$h$ は $x$ を始点とし $y$ を終点とする $A$ 内の道だから、これで $A$ の弧状連結性が示された。$\square$
例 10.18 (空でない凸集合は弧状連結)
Euclid空間 $\mathbb{R}^n$ の部分集合 $A$ が凸集合(convex set)であるとは、任意の $x, y\in A$ と $t\in [0,1]$ に対して $(1-t)x+ty\in A$ が成り立つことをいう。図形的には、ある集合 $A\subset\mathbb{R}^n$ が凸集合であるとは、$A$ の点を両端とする線分が必ず $A$ に含まれることを意味している。
$\mathbb{R}^n$ の部分集合が空でない凸集合であるならば、$A$ は弧状連結である。実際、任意の $x, y\in A$ に対して、$f(t)=(1-t)x+ty$ により連続写像 $f\colon [0,1]\to A$ が定義され、これが $x$ を始点とし $y$ を終点とする $A$ 内の道を与えるからである。
実数直線 $\mathbb{R}$ において命題 10.8 (2)(i)-(iv) の部分集合はそれぞれ明らかに $\mathbb{R}$ の凸集合である。したがってそれらは弧状連結である。このことと命題 10.15から、$\mathbb{R}$ の部分集合について連結であることと弧状連結であることは同値であると分かる。しかし、この後例 10.21で見るように、$\mathbb{R}^2$ の部分集合には連結だが弧状連結ではないものがある。$\square$
例 10.19 (Euclid 空間内の球体は弧状連結)
Euclid空間 $\mathbb{R}^n$ における Euclidノルムを $\|\phantom{x}\|$ で表す。$n$ 次元単位閉球体 $$ D^n=\{x\in\mathbb{R}^n\,|\,\|x\|\leq 1\} $$ は凸集合である。実際、$x, y\in D^n,$ $t\in [0,1]$とすると $t\geq 0,\,$ $1-t\geq 0,\,$ $\|x\|, \|y\|\leq 1$ なので、 $$ \|(1-t)x+ty\|\leq\|(1-t)x\|+\|ty\|=(1-t)\|x\|+t\|y\|\leq (1-t)+t=1 $$ となり、よって $(1-t)x+ty\in D^n$ となるからである。したがって、例 10.18により $D^n$ は弧状連結であり、したがって命題 10.15により連結である。同様の議論により、$n$ 次元単位開球体 $$ \mathring{D}^n=\{x\in\mathbb{R}^n\,|\,\|x\|<1\} $$ も凸集合であることが分かる。よって、$\mathring{D}^n$ も弧状連結であり、したがって命題 10.15により連結である。
一般に、任意の $a\in\mathbb{R}^n$ と $r>0$ に対して、$\mathbb{R}^n$ 内の開球体および閉球体 $$ B(a,r)=\{x\in\mathbb{R}^n\,|\,\|x-a\|<r\},\quad\overline{B}(a,r)=\{x\in\mathbb{R}^n\,|\,\|x-a\|\leq r\} $$ が凸集合であることも同様に示される。よってこれらも弧状連結であり、したがって命題 10.15により連結となる。$\square$
例 10.20 (1次元以上の球面は弧状連結)
$n\geq 1$ とする。Euclid空間 $\mathbb{R}^{n+1}$ 内の $n$ 次元単位球面 $$ S^n=\left\{(x_1,\ldots,x_{n+1})\in\mathbb{R}^{n+1}\,\bigg|\,\sum_{i=1}^{n+1} x_i^2=1\right\} $$ が弧状連結であることを証明しよう。$S^n$ の部分集合 $D^n_+,$ $D^n_-$ を $$ D^n_+=\{(x_1,\ldots, x_{n+1})\in S^n\,|\,x_{n+1}\geq 0\},\quad D^n_-=\{(x_1,\ldots, x_{n+1})\in S^n\,|\,x_{n+1}\leq 0\} $$ で定義すると、$S^n=D^n_+\cup D^n_-$ である。また、$(1,0,\ldots,0)\in D^n_+\cap D^n_-$ なので、$D^n_+\cap D^n_-\neq\emptyset$ である。あとは、$D^n_+$ と $D^n_-$ がそれぞれ弧状連結だと言えれば、命題 10.17から $S^n$ の弧状連結性が示される。
そこで、連続写像 $f\colon D^n\to D^n_+$ を $$ f(x_1,\ldots, x_n)=\left(x_1,\ldots, x_n, \sqrt{1-\sum_{i=1}^n x_i^2}\right) $$ により定義する。これは全単射であり、逆 $f^{-1}\colon D^n_+\to D^n$ は $f^{-1}(x_1,\ldots, x_{n+1})=(x_1,\ldots, x_n)$ で与えられるから連続である。よって、$f$ は同相写像であり、$D^n$ と $D^n_+$ は同相であると分かる。例 10.19により $D^n$ は弧状連結であったから、$D^n_+$ も弧状連結である($f$ が同相写像であることまで使わなくても、$f$ が連続な全射であることに注意すれば、命題 10.16により $D^n_+=f(D^n)$ は弧状連結と分かる)。同様にして、$D^n_-$ も弧状連結と分かる。以上で、$S^n$ の弧状連結性が示された。
なお、$n=0$ のときは $S^0$ は $\mathbb{R}=\mathbb{R}^1$ の部分集合 $\{1, -1\}$ である。よって、$S^0$ は空でない開集合 $\{0\},$ $\{1\}$ の交わりのない和集合に書けるから、$S^0$ は連結ではなく、したがって命題 10.15により弧状連結でもない。$\square$
連結性と弧状連結性が実際に違う概念であることは、次の例から分かる。
例 10.21 (連結だが弧状連結でない例)
平面 $\mathbb{R}^2$ の次の部分集合 $A,$ $B$ を考える。 $$ A=\{0\}\times[-1,1],\quad B=\{(x,\sin(1/x))\,|\,0<x\leq 1\} $$ このとき $X=A\cup B$ とおくと $X$ は連結であるが弧状連結でないことを示そう。
まず、$B$ は連結である。実際、連続写像 $f\colon (0,1]\to B$ を $f(x)=(x, \sin(1/x))$ で定めれば、$f((0,1])=B$ であるから、$(0,1]$ が連結であること(命題 10.8)に注意すれば、 命題 10.10により $B$ は連結と分かる。
次に、$X\subset\operatorname{Cl}_{\mathbb{R}^2} B$ であることを示そう。そのためには、$A\subset\operatorname{Cl}_{\mathbb{R}^2} B$ を言えば十分である。そこで、$p\in A$ を任意に与える。ある $t\in[-1, 1]$ に対して、$p=(0,t)$ と表すことができる。$p$ の $\mathbb{R}^2$ における近傍 $V$ を任意に与える。$\varepsilon>0$ を十分小さくとると、$U=(-\varepsilon, \varepsilon)\times(t-\varepsilon, t+\varepsilon)$ とおくとき $U\subset V$ である。$N\in\mathbb{N}$ を、$1/2\pi N<\varepsilon$ となるように取る。中間値の定理により、$t=\sin \theta$ となる $\theta\in[\pi/2, 3\pi/2]$ が存在する。このとき、$(1/(2\pi N+\theta), t)\in U\cap B$ であるから、$U\cap B\neq\emptyset$ よって $V\cap B\neq\emptyset$ である。したがって、$p\in \operatorname{Cl}_{\mathbb{R}^2} B$ であり、これで $A\subset\operatorname{Cl}_{\mathbb{R}^2} B$ が示され、よって $X\subset\operatorname{Cl}_{\mathbb{R}^2} B$ であることが分かった。
いま示されたことから $B\subset X\subset\operatorname{Cl}_{\mathbb{R}^2} B$ となるので、$B$ の連結性とも合わせれば命題 10.11により $X$ は連結であると分かる。
次に、$X$ が弧状連結でないことを示そう。$X$ の二点 $a=(0,0)$ と $b=(1,\sin 1)$ を考える。$a$ を始点とし $b$ を終点とする $X$ 内の道 $f\colon [0,1]\to X$ が存在したとして矛盾を導こう。連続写像 $p\colon X\to\mathbb{R}$ を $p(x,y)=x$ で定義する。すると $p\circ f(0)=p(a)=0,$ $p\circ f(1)=p(b)=1$ である。 $$ t_0=\sup\{t\in [0,1]\,|\,p\circ f([0,t])=\{0\}\} $$ とする。すると $(p\circ f)^{-1}(0)$ は $[0, 1]$ の閉集合であって $[0,t_0)\subset (p\circ f)^{-1}(0)$ だから、命題 4.2により $[0, t_0]=\operatorname{Cl}_{[0,1]} [0,t_0)\subset (p\circ f)^{-1}(0)$ であり、よって $t_0\in(p\circ f)^{-1}(0)$ だから $p\circ f(t_0)=0$ である。これと $p\circ f(1)=1$ により、$t_0<1$ である。ある $s_0\in [-1,1]$ を用いて、$f(t_0)=(0,s_0)$ と表すことができる。(i) $s_0\neq 1$ の場合と (ii) $s_0=1$ の場合に分けて考えよう。
(i) の場合、$U=X\setminus([0,1]\times\{1\})$ は $f(t_0)$ の $X$ における開近傍である。よって、$\delta>0$ が存在して、$f([t_0, t_0+\delta))\subset U$ となる。$t_0$ の定義により、$t_0<t_1<t_0+\delta$ となる $t_1$ が存在して $p\circ f(t_1)>0$ となる。そこで、$N\in\mathbb{N}$ を $0<1/(2N+1/2)\pi<p\circ f(t_1)$ となるようにとる。いま $p\circ f(t_0)=0$ であるから、中間値の定理により、$t_0<t_2<t_1$ となる $t_2$ が存在して $p\circ f(t_2)=1/(2N+1/2)\pi$ となる。このとき $f(t_2)=(1/(2N+1/2)\pi, \sin (2N+1/2)\pi)=(1/(2N+1/2)\pi, 1)$ となるから、$f(t_2)\notin U$ となる。これは、$f({[t_0, t_0+\delta)})\subset U$ であったことに反する。
(ii) の場合は、(i) の場合の議論を次のように修正する。$U$ としては代わりに $U=X\setminus([0,1]\times\{-1\})$ を考え、$\delta$, $t_1$ は (i) と同様に取った上で、$N\in\mathbb{N}$ は $0<1/(2N-1/2)\pi<p\circ f(t_1)$ となるように取る。中間値の定理により $t_0<t_2<t_1$ となる $t_2$ が存在して $p\circ f(t_2)=1/(2N-1/2)\pi$ となるが、このとき $f(t_2)=(1/(2N-1/2)\pi, -1)\notin U$ となり、これから矛盾が得られる。
以上で、$a$ を始点として $b$ を終点とする $X$ 内の道が存在しないことが示されたので、$X$ が弧状連結でないことが示された。$\square$
注意 10.22 (連結だが弧状連結でない例についての注意)
例 10.21における $\mathbb{R}^2$ の部分集合 $X=A\cup B$ について、$X\subset \operatorname{Cl}_{\mathbb{R}^2} B$ を示した。この結果だけでも $X$ の連結性を示すには十分であったが、実際にはこの包含は等号であって、$X=\operatorname{Cl}_{\mathbb{R}^2} B$ が成り立つ。このことを示しておこう。そのためには、$\operatorname{Cl}_{\mathbb{R}^2} B\subset X$ を示せばよいのであるが、いま $B\subset X$ であるから、命題 4.2により、あとは $X$ が $\mathbb{R}^2$ の閉集合であることを示せば十分である。
そのためには、補集合 $\mathbb{R}^2\setminus X$ が $\mathbb{R}^2$ の開集合であるといえればよいが、それは $$ \mathbb{R}^2\setminus X=U_1\cup U_2\cup U_3\cup U_4 $$ と表すことで確認できる。ただし、 $$ \begin{aligned} U_1 &=\{(x,y)\in(0,\infty)\times\mathbb{R}\,|\,y>\sin(1/x)\}\\ U_2 &=\{(x,y)\in(0,\infty)\times\mathbb{R}\,|\,y<\sin(1/x)\}\\ U_3 &=\{(x,y)\in\mathbb{R}^2\,|\,x<0\text{ または }x>1\}\\ U_4 &=\{(x,y)\in\mathbb{R}^2\,|\,y<-1\text{ または }y>1\} \end{aligned} $$ とする。$U_3,$ $U_4$ は命題 5.13により $\mathbb{R}^2$ の開集合である。また、$U_1,$ $U_2$ は命題 5.13により $(0,\infty)\times \mathbb{R}$ の開集合であるが、$(0,\infty)\times \mathbb{R}$ は $\mathbb{R}^2$ の開集合であるので、命題 6.7により $U_1,$ $U_2$ は $\mathbb{R}^2$ の開集合である。以上により、$\mathbb{R}^2\setminus X$ は $\mathbb{R}^2$ の開集合 $U_1, U_2, U_3, U_4$ の和集合となるので、開集合となる。よって、$X$ は $\mathbb{R}^2$ の閉集合であり、これで $X=\operatorname{Cl}_{\mathbb{R}^2} B$ となることが分かった。
$X$ は明らかに $\mathbb{R}^2$ の有界な部分集合である。したがって、いま示した $X$ が $\mathbb{R}^2$ の閉集合であることを合わせれば、定理 9.20により $X$ はコンパクトであることも分かる。$\square$
注意 10.23 (弧状連結集合の閉包は必ずしも弧状連結ではない)
命題 10.11により連結な集合の閉包は常に連結となるが、このことは弧状連結性については成り立たない。実際、例 10.21における $B$ は、弧状連結な空間 $(0,1]$ の連続像となるので、弧状連結である。また、注意 10.22で見たように $X=\operatorname{Cl}_{\mathbb{R}^2} B$ である。しかし、例 10.21で示した通り、$X$ は弧状連結ではないのであった。$\square$
連結成分の概念を定義する。これは章の冒頭に述べたように位相空間の「つながった部分」を正確に定義したものである。
定義 10.24 (連結成分)
$X$ を位相空間とし、$x\in X$ とする。このとき、$X$ における $x$ の連結成分(connected component)とは、$x$ を要素にもつ $X$ の連結部分集合すべての和集合のことをいい、これを $C_X(x)$ で表す。すなわち、 $$ \mathcal{A}=\{A\subset X\,|\,A\text{ は連結で }x\in A\} $$ とおき、$\mathcal{A}=\{A_\lambda\,|\,\lambda\in\Lambda\}$ と添字づけるとき、$X$ における $x$ の連結成分 $C_X(x)$ は $C_X(x)=\bigcup_{\lambda\in\Lambda} A_\lambda$ で定義される。
位相空間 $X$ の部分集合 $C$ が $X$ の連結成分であるとは、ある $x\in X$ に対して $C=C_X(x)$ となることをいう。$\square$
ここでの $C_X(x)$ という記号はこのテキストのみの記号である。多くの文献では連結成分に特別の記号を与えない。なお、上の集合族 $\mathcal{A}$ は、空ではない。実際、常に $\{x\}\in\mathcal{A}$ となるからである。よって、$\mathcal{A}=\{A_\lambda\,|\,\lambda\in\Lambda\}$ と表したときの $\Lambda$ も空ではない。
命題 10.25 (連結成分の基本性質)
$X$ を位相空間とするとき、次が成り立つ。
- (1) 各 $x\in X$ に対して、連結成分 $C_X(x)$ は $x$ を要素にもつ $X$ の連結部分集合のうち最大のものである。
- (2) $x, y\in X$ に対して、$C_X(x)\cap C_X(y)\neq\emptyset$ ならば $C_X(x)=C_X(y)$ である。
- (3) 各 $x\in X$ に対して、連結成分 $C_X(x)$ は $X$ の閉集合である。
証明
(1) 定義 10.24で用いた記号を用いる。上で見たように $\Lambda\neq\emptyset$ であり、しかも $x\in\bigcap_{\lambda\in\Lambda } A_\lambda$ であるから、$x\in C_X(x)$ であって、命題 10.7により $C_X(x)=\bigcup_{\lambda\in\Lambda} A_\lambda$ は連結である。また、$x$ を要素にもつ $X$ の任意の連結部分集合は、ある $\lambda\in\Lambda$ について $A_\lambda$ の形となるので、$C_X(x)$ に含まれる。したがって、$C_X(x)$ は $x$ を要素にもつ $X$ の連結部分集合のうち最大のものである。
(2) $x, y\in X,$ $C_X(x)\cap C_X(y)\neq\emptyset$ とする。(1)により、$C_X(x)$ と $C_X(y)$ は連結だから、命題 10.7により、$C_X(x)\cup C_X(y)$ は連結である。ところが、$x\in C_X(x)\cup C_X(y)$ なので、(1)における最大性から、$C_X(x)\cup C_X(y)\subset C_X(x)$ である。よって、$C_X(y)\subset C_X(x)$ である。同様に、$C_X(x)\subset C_X(y)$ も成り立つので、$C_X(x)=C_X(y)$ である。
(3) (1)により $C_X(x)$ は連結だから、命題 10.11により閉包 $\operatorname{Cl} C_X(x)$ は連結である。よって(1)における最大性から、$\operatorname{Cl} C_X(x)\subset C_X(x)$ である。よって、$\operatorname{Cl} C_X(x)=C_X(x)$ なので、$C_X(x)$ は $X$ の閉集合である。$\square$
命題 10.25(1)-(3)により、$X$ の連結成分の全体は、$X$ を互いに交わらない連結閉集合に分割する。
命題 10.26 (連結成分がちょうど一個であることと連結性)
$X$ を位相空間とする。次は同値である。
- (1) $X$ は連結である。
- (2) $X$ の連結成分がちょうど一個存在する。
証明
(1)$\Rightarrow$(2) を示す。$X$ を連結とする。$X$ は空でないから $x\in X$ が存在する。$C_X(x)$ は $X$ の連結成分だから、$X$ は少なくとも一個の連結成分をもつ。次に、$X$ の連結成分が高々一個であることを示すため、$x, y\in X$ とする。$C_X(x)=C_X(y)$ であることを示したい。$X$ の連結性と命題 10.25(1)により $X\subset C_X(x)$ なので、$C_X(x)=X$ である。まったく同様に $C_X(y)=X$ も分かるから、$C_X(x)=C_X(y)$ である。これで、$X$ の連結成分が高々一個であることも分かったので、$X$ の連結成分はちょうど一個存在することが示された。
(2)$\Rightarrow$(1) を示す。$X$ の連結成分がちょうど一個存在するとする。その連結成分を $C$ としよう。$X$ は連結成分の互いに交わりのない和集合に分割されるのだから、$C$ がただ一つの連結成分であることにより $X=C$ である。よって、$X$ は連結である。$\square$
位相空間の連結成分への分割は、簡単な場合には次の命題によって求められる。
命題 10.27 (開連結成分への分割)
$X$ を位相空間とし、$(A_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}$ は $X$ の連結な開集合からなる族で、$\lambda\neq\mu$ のとき $A_\lambda\cap A_\mu=\emptyset$ であり、$X=\bigcup_{\lambda\in\Lambda} A_\lambda$ であるとする。このとき、$X$ の連結成分全体の集合は $\{A_\lambda\,|\,\lambda\in\Lambda\}$ に等しい。
証明
まず、$X$ の任意の連結成分が $\{A_\lambda\,|\,\lambda\in\Lambda\}$ に属していることを示す。そのため、$X$ の連結成分 $C$ を任意に与える。ある $x\in X$ に対して、$C=C_X(x)$ である。$X=\bigcup_{\lambda\in\Lambda} A_\lambda$ なので、ある $\lambda\in\Lambda$ が存在して、$x\in A_\lambda$ である。$A_\lambda$ は連結なので、命題 10.26(1)により、$A_\lambda\subset C_X(x)$ である。もし、$A_\lambda\neq C_X(x)$ であれば、$U=A_\lambda,$ $V=C_X(x)\setminus A_\lambda$ とおくとき $U,$ $V$ は空でなく、$U\cup V=C_X(x),$ $U\cap V=\emptyset$ である。また、$U=A_\lambda$ は $X$ の開集合なので $C_X(x)$ の開集合でもあり、また $$ V=C_X(x)\cap\bigcup_{\mu\in\Lambda\setminus\{\lambda\}} A_\mu $$ となることから $V$ も $C_X(x)$ の開集合である。このような $U,$ $V$ が存在することは $C_X(x)$ の連結性に反する。よって、$A_\lambda=C_X(x)$ である。
次に、$\{A_\lambda\,|\,\lambda\in\Lambda\}$ の各要素が $X$ の連結成分であることを示す。任意に $\lambda\in\Lambda$ を与える。$A_\lambda$ は連結であるから、とくに空ではない。そこで、$x\in A_\lambda$ を一つとり固定する。$A_\lambda$ は連結なので、命題 10.26(1)により、$A_\lambda\subset C_X(x)$ である。この後は、前段落とまったく同じ議論により、$A_\lambda=C_X(x)$ でなければならないことが言える。よって、$A_\lambda$ は $X$ の連結成分である。$\square$
例 10.28 (連結成分の簡単な例)
$X=\mathbb{R}\setminus\{0\}$ とする。このとき、命題 10.27により、$X$ の連結成分が $A=(-\infty, 0)$ と $B=(0, +\infty)$ のちょうど二個であることが分かる。実際、$A,$ $B$ はともに $\mathbb{R}\setminus\{0\}$ の開集合で、それぞれ命題 10.8により連結であり、$A\cap B=\emptyset,$ $X=A\cup B$ となるからである。
また、$Y=\{(x,y)\in\mathbb{R}^2\,|\,xy=1\}$ とする。 $$ C=\{(x,y)\in\mathbb{R}^2\,|\,xy=1, x>0\}, \quad D=\{(x,y)\in\mathbb{R}^2\,|\,xy=1, x<0\} $$ とおけば、やはり $C,$ $D$ はともに $Y$ の開集合であり、$C\cap D=\emptyset,$ $Y=C\cup D$ である。また、連続写像 $f\colon (0,\infty)\to\mathbb{R}^2$ を $f(x)=(x,1/x)$ で定めれば $f({(0,\infty)})=C$ となるので、命題 10.10により $C$ は連結である。同様に、$D$ も連結である。以上から、命題 10.27により、$Y$ の連結成分は $C,$ $D$ のちょうど二個である。$\square$
例 10.29 ($\mathbb{Q}$ の連結成分)
有理数全体の集合 $\mathbb{Q}$ に $\mathbb{R}$ からの相対位相を入れる。このとき、$\mathbb{Q}$ の二点以上からなる部分集合は決して連結ではない。実際、$A\subset\mathbb{Q}$ が異なる二点 $x, y$ をもち $x<y$ であるとすると、無理数 $\alpha$ で $x<\alpha<y$ となるものが存在する(たとえば、$\alpha=x+(y-x)/\sqrt{2}$ とおけばよい)。そこで、$U=A\cap(-\infty,\alpha),$ $V=A\cap(\alpha,+\infty)$ とおけば、$U,$ $V$ は $A$ の空でない開集合で、$U\cap V=\emptyset,$ $U\cup V=A$ となるから $A$ は連結でない。
いま示したことから、とくに、各 $x\in\mathbb{Q}$ に対して、$x$ を要素にもつ $\mathbb{Q}$ の連結部分集合は $\{x\}$ に限り、よって、$C_\mathbb{Q}(x)=\{x\}$ である。したがって、$\mathbb{Q}$ の連結成分はすべて一点からなる集合である。 ところで、簡単に確かめられるように、$\mathbb{Q}$ において一点からなる集合は開集合ではない。このことから、一般に位相空間の連結成分は必ずしも開集合にはならないことが分かる。
$\mathbb{Q}$ のように、どの連結成分も一点からなるような位相空間は完全不連結(totally disconnected)であるという。$\square$
連結性のかわりに弧状連結性を使っても、連結成分と似たものを定義できる。それが弧状連結成分の概念である。それを定義する準備として、次の命題を示す。
命題 10.30 (道で結べるという関係は同値関係)
$X$ を位相空間とする。$X$ 上の二項関係 $\sim$ を $$ x\sim y \Longleftrightarrow x\text{ を始点とし }y\text{ を終点とする }X\text{ 内の道が存在する} $$ と定義する。このとき、$\sim$ は $X$ 上の同値関係である。
証明
まず、反射律を示すため、$x\in X$ とする。$f\colon [0,1]\to X$ を $f(t)=x\,(t\in [0,1])$ で定めれば $f$ は $x$ を始点かつ終点とする $X$ 内の道である。よって、$x\sim x$ である。
次に、対称律を示すため、$x, y\in X$ とし、$x\sim y$ とする。すると、$X$ 内の道 $f\colon [0,1]\to X$ で $x$ を始点とし $y$ を終点とするものが存在する。このとき、$X$ 内の道 $g\colon [0,1]\to X$ を $g(t)=f(1-t)\,(t\in [0,1])$ で定義すれば、$g$ は $y$ を始点とし $x$ を終点とする。よって、$y\sim x$ である。
最後に、推移律を示すため、$x, y, z\in X$ とし、$x\sim y,$ $y\sim z$ とする。すると、$X$ 内の道 $f\colon [0,1]\to X$ で $x$ を始点とし $y$ を終点とするものが存在する。また、$X$ 内の道 $g\colon [0,1]\to X$ で $y$ を始点とし $z$ を終点とするものが存在する。このとき、$f$ と $g$ とをつないでできる道 $h\colon [0,1]\to X$ が $$ h(t)= \begin{cases} f(2t) & 0\leq t\leq 1/2\text{ のとき}\\ g(2t-1) & 1/2\leq t\leq 1\text{ のとき} \end{cases} $$ により定義され(例 6.13)、$h$ は $x$ を始点とし $z$ を終点とする。よって、$x\sim z$ である。$\square$
定義 10.31 (弧状連結成分)
位相空間 $X$ と $x\in X$ に対して、命題 10.30の同値関係 $\sim$ に関する $x$ の同値類を $X$ における $x$ の弧状連結成分(path-component)といい、$P_X(x)$ で表す。つまり、 $$ P_X(x)=\{y\in X\,|\,x\text{ を始点とし }y\text{ を終点とする }X\text{ 内の道が存在する}\} $$ とする。$X$ の部分集合 $C$ が、ある $x\in X$ に対して $C=P_X(x)$ と表されるとき、$C$ を $X$ の弧状連結成分という。
弧状連結成分 $P_X(x)$ は命題 10.30の $\sim$ に関する同値類なので、任意の $y, z\in P_X(x)$ に対して $y\sim z$ である。したがって、$P_X(x)$ は弧状連結である。任意の位相空間 $X$ は $X$ の弧状連結成分の互いに交わりのない和集合に分割される。なお、$P_X(x)$ も、$C_X(x)$ と同様にこのテキストのみの記号である。
次の命題は、弧状連結成分の定義から明らかである。
命題 10.32 (弧状連結成分がちょうど一個であることと弧状連結性)
$X$ を位相空間とする。次は同値である。
- (1) $X$ は弧状連結である。
- (2) $X$ の弧状連結成分がちょうど一個存在する。$\square$
ある点の連結成分と弧状連結成分には次の包含関係がある。
命題 10.33 (弧状連結成分より連結成分の方が大きい)
$X$ を位相空間とし、$x\in X$ とする。このとき、$P_X(x)\subset C_X(x)$ である。
証明
$P_X(x)$ は弧状連結、したがって命題 10.15により連結である。このことと $x\in P_X(x)$ から、命題 10.25(1)により $P_X(x)\subset C_X(x)$ が成り立つ。$\square$
連結成分への分割が分かっている場合、弧状連結成分への分割を求めるには、次が手掛かりとなる。
命題 10.34 (連結成分が弧状連結成分になる場合)
$X$ を位相空間とし、$C$ を $X$ の連結成分とする。もし、$C$ が弧状連結であれば、$C$ は $X$ の弧状連結成分である。
証明
$X$ の連結成分 $C$ が弧状連結であるとする。任意の $x\in C$ に対して、命題 10.33により $P_X(x)\subset C_X(x)=C$ である。したがって、 $$ C=\bigcup_{x\in C} P_X(x) $$ となる。このとき、任意の $x, y\in C$ に対して $P_X(x)=P_X(y)$ でなければならない。実際、ある $x, y\in C$ に対して $P_X(x)\neq P_X(y)$ であれば、$x$ を始点とし $y$ を終点とする $X$ 内の道は(よって $C$ 内の道も)存在せず、これは $C$ の弧状連結性に反するからである。したがって、$x\in C$ を一つ固定すれば $C=P_X(x)$ であり、これは $C$ が $X$ の弧状連結成分であることを意味する。$\square$
例 10.34 (弧状連結成分の例)
(1) 例 10.28の $X=\mathbb{R}\setminus\{0\}$ においては、$X$ の連結成分 $A=(-\infty, 0)$ と $B=(0, +\infty)$ はそれぞれ弧状連結であるから、命題 10.34により、$A,$ $B$ はそのまま $X$ の弧状連結成分となる。同様に、例 10.28の $Y=\{(x,y)\in\mathbb{R}^2\,|\,xy=1\}$ の連結成分 $C,$ $D$ も弧状連結であるから、$C,$ $D$ は $X$ の弧状連結成分となる。例 10.29では $\mathbb{Q}$ の連結成分は一点集合 $\{x\}\,(x\in\mathbb{Q})$ であると分かったが、一点集合は弧状連結なので、これらは $\mathbb{Q}$ の弧状連結成分にもなることが分かる。最後の例は、位相空間の弧状連結成分が必ずしも開集合とはならないことを示している。
(2) 例 10.21における連結だが弧状連結でない $\mathbb{R}^2$ の部分集合 $X=A\cup B$ を考える。$X$ は連結であるから、$X$ の連結成分は $X$ の一個だけである。例 10.21においては、$a=(0,0)\in A$ と $b=(1,\sin 1)\in B$ に対して、$a$ を始点とし $b$ を終点とする $X$ 内の道が存在しないことを示した。$A$ と $B$ はそれぞれ弧状連結であるから、結局 $X$ の弧状連結成分は $A$ と $B$ のちょうど二個であることが分かる。この例から、位相空間の連結成分への分割と弧状連結成分への分割は必ずしも一致しないことが分かる。いま弧状連結成分 $B$ は $X$ の閉集合ではない。このことから、一般に位相空間の弧状連結成分は必ずしも閉集合とならないことが分かる(これに対して、命題 10.25(3)により連結成分は必ず閉集合になることに注意せよ)。
最後に、連結性をうまく利用して二つの位相空間が同相でないことを証明できる例を紹介しておこう。
例 10.35 (連結性を用いた非同相の証明)
単位閉区間 $[0,1]$ と単位円周 $S^1=\{(x, y)\in\mathbb{R}^2\,|\,x^2+y^2=1\}$ が同相でないことを証明しよう。これらはともに連結であるから、直接に連結性を用いても同相でないことは証明できない。そこで、あえて適切な一点を取り除くことで一方の連結性を失わせるのが巧妙な方法である。
同相写像 $h\colon [0,1]\to S^1$ が存在したとして矛盾を導こう。中点 $1/2\in [0,1]$ に注目する。すると、$h$ の定義域を $[0,1]\setminus\{1/2\}$ に制限し、終域を $S^1\setminus\{h(1/2)\}$ に制限することで、同相写像 $\hat{h}\colon [0,1]\setminus\{1/2\}\to S^1\setminus\{h(1/2)\}$ が得られる。いま、$\hat{h}$ の定義域 $[0,1]\setminus\{1/2\}=[0,1/2)\cup(1/2,1]$ は連結ではないのに対して、$S^1\setminus\{h(1/2)\}$ は連結である(実際、$h(1/2)=(\cos \theta, \sin \theta)$ と表せば、$f(t)=(\cos(2\pi t+\theta), \sin(2\pi t+\theta))$ で定義される $f\colon (0,1)\to S^1\setminus \{h(1/2)\}$ は連続な全射だから、開区間 $(0,1)$ の連結性により $S^1\setminus\{h(1/2)\}$ も連結となる)。したがって、$\hat{h}$ は連結でない空間から連結な空間への同相写像となり、これは矛盾である。$\square$
上の方法の一般化として、適切な点を除いた上で連結成分の個数を比較する方法もある。
例 10.36 (連結成分の個数を用いた非同相の証明)
実数直線 $X=\mathbb{R}$ と $Y=\{(x,y)\in\mathbb{R}^2\,|\,xy=0\}$ が同相でないことを示そう。同相写像 $h\colon Y\to X$ が存在したとして矛盾を導く。点 $(0,0)\in Y$ に注目する。$h$ の定義域を $Y\setminus\{(0,0)\}$ に制限し、終域を $X\setminus\{h(0,0)\}$ に制限することで、同相写像 $\hat{h}\colon Y\setminus\{(0,0)\}\to X\setminus\{h(0,0)\}$ が得られる。ところが、$\hat{h}$ の定義域 $Y\setminus\{(0,0)\}$ の連結成分の個数は $4$ 個であるのに対し、終域 $X\setminus\{h(0,0)\}$ は $X=\mathbb{R}$ から一点を除いたものなので、連結成分の個数は $2$ 個である(これらのことは、命題 10.27を用いて示すことができる)。同相な二つの位相空間の連結成分の個数は同じでなければならないから、これは矛盾である。$\square$
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関連項目