位相空間論11:分離公理(1)
位相空間論11:分離公理 (1)
位相空間に課せられている条件は開集合系の公理のみであり、これだけから証明できる興味深い性質は少ない。しかし、位相空間において点あるいは部分集合の対を「開集合によって分離」できると仮定すると様々な性質が証明できて便利なことが多い。そのような分離が可能であるという条件は様々な種類のものが考えられており、分離公理と総称される。とくに重要な分離公理は、二つの異なる点が開集合により分離できるというHausdorff性($T_2$ 分離公理)であり、これとコンパクト性の間の関係がこの章の中心的な話題である。
- 位相空間論11:分離公理(1)
定義 11.1 ($T_0$ から $T_2$ までの分離公理)
$X$ を位相空間とする。次のように定義する。
- $X$ が $T_0$ 空間である、あるいは $T_0$ 分離公理を満たすとは、任意の異なる二点 $x, y\in X$ に対して、$X$ の開集合 $U$ であって「$x\in U$ かつ $y\notin U$」または「$y\in U$ かつ $x\notin U$」となるものが存在することをいう。
- $X$ が $T_1$ 空間である、あるいは $T_1$ 分離公理を満たすとは、任意の異なる二点 $x, y\in X$ に対して、$X$ の開集合 $U$ であって $x\in U$ かつ $y\notin U$ となるものが存在することをいう。
- $X$ が $T_2$ 空間である、あるいは $T_2$ 分離公理を満たすとは、任意の異なる二点 $x, y\in X$ に対して、$X$ の開集合 $U, V$ であって $x\in U,$ $y\in V,$ $U\cap V=\emptyset$ を満たすものが存在することをいう。$T_2$ 空間のことをHausdorff空間と呼ぶことが多い。
定義から明らかに、$T_2$ 空間は $T_1$ 空間であり、$T_1$ 空間は $T_0$ 空間である。これらの逆は、次の例から分かるように成り立たない。
例 11.2 ($T_0$ から $T_2$ までの分離公理の間の反例)
(1) まず、$T_0$ 空間ではない位相空間が存在する。たとえば、$X$ を二個以上の要素をもつ集合とし、$X$ に密着位相(例 1.7)を導入すれば、これは $T_0$ 空間ではない位相空間である。
(2) $T_0$ 空間であって $T_1$ 空間ではないものの例を挙げる。$X=\{0, 1\}$ とし、$\mathcal{O}=\{\emptyset, \{0\}, X\}$ を開集合系とする $X$ 上の位相を考える。これは確かに開集合系の公理 (O1)-(O3) を満たし、$(X, \mathcal{O})$ は $T_0$ 空間となるが、$T_1$ 空間ではない。
(3) $T_1$ 空間であって $T_2$ 空間ではないものの例を挙げる。$X$ を無限集合とし、$X$ に補有限位相(例 1.8)を導入すると、$X$ は $T_1$ 空間であるが、$T_2$ 空間ではない。
命題 11.3 ($T_0,$ $T_1,$ $T_2$ 分離公理は部分空間に遺伝する)
$T_0,$ $T_1,$ $T_2$ 空間の任意の部分空間は、それぞれ $T_0,$ $T_1,$ $T_2$ 空間となる。
証明
どの場合もほとんど同様に証明できるので、ここでは $T_2$ 空間の場合を証明する。$X$ を $T_2$ 空間とし、$A$ を $X$ の部分空間とする。$x, y\in A$ を異なる点とする。$X$ は $T_2$ 空間なので、$X$ の開集合 $U,$ $V$ であって $x\in U,$ $y\in V,$ $U\cap V=\emptyset$ となるものが存在する。このとき、$U'=U\cap A,$ $V'=V\cap A$ とおけば $U',$ $V'$ は $A$ の開集合であって、$x\in U',$ $y\in V',$ $U'\cap V'=\emptyset$ を満たす。よって、$A$ は $T_2$ 空間となる。$\square$
命題 11.4 ($T_0,$ $T_1,$ $T_2$ 分離公理は直積空間に遺伝する)
$(X_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}$ を、$T_0$ (あるいは $T_1,$ $T_2$ )空間の族とする。このとき、直積空間 $\prod_{\lambda\in\Lambda} X_\lambda$ は、$T_0$ (あるいは $T_1,$ $T_2$ )空間となる。
証明
やはり、どの場合もほとんど同様に証明できるので、ここでは $T_2$ 空間の場合を証明する。$(X_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}$ を $T_2$ 空間の族とする。$X=\prod_{\lambda\in\Lambda} X_\lambda$ とし、各 $\lambda\in\Lambda$ に対して $p_\lambda\colon X\to X_\lambda$ を射影とする。$x, y\in X$ を異なる点とすると、$p_{\lambda_0}(x)\neq p_{\lambda_0}(y)$ となるような $\lambda_0\in\Lambda$ を取ることができる。$X_{\lambda_0}$ は $T_2$ 空間なので、$X_{\lambda_0}$ の開集合 $U,$ $V$ であって $p_{\lambda_0}(x)\in U,$ $p_{\lambda_0}(y)\in V,$ $U\cap V=\emptyset$ となるようなものが存在する。$\tilde{U}=p_{\lambda_0}^{-1}(U),$ $\tilde{V}=p_{\lambda_0}^{-1}(V)$ とすると、$\tilde{U},$ $\tilde{V}$ は $X$ の開集合であって、$x\in\tilde{U},$ $y\in\tilde{V},$ $\tilde{U}\cap\tilde{V}=\emptyset$ である。よって、$X$ は $T_2$ 空間である。$\square$
命題 11.5 ($T_1$ 分離公理と一点が閉集合であることの同値性)
$X$ を位相空間とするとき、次は同値である。
- (1) $X$ は $T_1$ 空間である。
- (2) 任意の $x\in X$ に対して、$\{x\}$ は $X$ の閉集合である。
証明
(1)$\Rightarrow$(2) を示す。$X$ を $T_1$ 空間とし、$x\in X$ とする。$\{x\}$ が閉集合であること、つまり $X\setminus\{x\}$ が開集合であることを示せばよい。命題 2.4を用いてこれを示そう。そこで $y\in X\setminus\{x\}$ を任意に与える。$X$ は $T_1$ 空間なので、$y\in U$ かつ $x\notin U$ となるような $X$ の開集合 $U$ が存在する。すると、$U$ は $y$ の開近傍であって $U\subset X\setminus\{x\}$ である。よって、命題 2.4により $X\setminus\{x\}$ は $X$ の開集合である。
(2)$\Rightarrow$(1) を示す。(2) を仮定し、$x, y\in X$ を異なる点とする。(2) により $\{y\}$ は $X$ の閉集合なので、$U=X\setminus\{y\}$ とおくと $U$ は $X$ の開集合である。このとき $x\in U$, $y\notin U$ である。これで、$X$ が $T_1$ 空間であることが示された。$\square$
数学で扱われるかなり多くの位相空間はHausdorff空間、つまり $T_2$ 空間となっている。例えば、距離空間はHausdorff空間となる。
命題 11.6 (距離空間はHausdorff空間)
距離空間はHausdorff空間である。
証明
$(X, d)$ を距離空間とし、$x, y\in X$ を異なる二点とする。すると、$r=d(x,y)$ とおくとき $r>0$ である。$U=B(x,r/2),$ $V=B(y,r/2)$ とおくと、$U,$ $V$ は $X$ の開集合で $x\in U,$ $y\in V$ である。さらに、$U\cap V=\emptyset$ である。このことを示すため、$U\cap V\neq\emptyset$ であったとして矛盾を導こう。このとき点 $z\in U\cap V=B(x,r/2)\cap B(y,r/2)$ が存在する。すると $d(x,z)<r/2$, $d(z,y)=d(y,z)<r/2$ であるから、$d(x,y)\leq d(x,z)+d(z,y)<r/2+r/2=r$ となり、$d(x,y)=r$ であることに反する。これで、$U\cap V=\emptyset$ であることが示され、$X$ が Hausdorff 空間であることが示された。$\square$
Hausdorff 空間であることの次のような言い換えは有用である。一般に、位相空間 $X$ に対して、直積空間 $X\times X$ の部分集合 $\Delta_X=\{(x,y)\in X\times X\,|\,x=y\}$ を対角集合(diagonal set)という。
命題 11.7 (Hausdorff空間と閉対角集合)
$X$を位相空間とするとき、次は同値である。
- (1) $X$ はHausdorff空間である。
- (2) 直積空間 $X\times X$ において、対角集合 $\Delta_X=\{(x,y)\in X\times X\,|\,x=y\}$ は閉集合である。
証明
(1)$\Rightarrow$(2) を示す。$X$ をHausdorff空間とする。$\Delta_X$ が $X\times X$ の閉集合であることを示すため、$(X\times X)\setminus\Delta_X$ が $X\times X$ の開集合であることを示す。これを命題 8.4を用いて示すため、$(x,y)\in (X\times X)\setminus\Delta_X$ を任意に与える。$\Delta_X$ の定義により $x\neq y$ であるから、$x\in U$ および $y\in V$ となるような $X$ の開集合 $U,$ $V$ であって $U\cap V=\emptyset$ であるようなものが存在する。このとき $(U\times V)\cap\Delta_X=\emptyset$ である。これを示すため、$(U\times V)\cap\Delta_X\neq\emptyset$ であったとし、点 $(x', y')\in (U\times V)\cap\Delta_X$ を取ろう。すると、$x'\in U$, $y'\in V$, $x'=y'$ であるから、$x'\in U\cap V$ となり、これは $U\cap V=\emptyset$ であったことに反する。この矛盾により $(U\times V)\cap\Delta_X=\emptyset$ が示され、よって$U\times V\subset (X\times X)\setminus\Delta_X$ となることが分かった。したがって、命題 8.4により、$(X\times X)\setminus\Delta_X$ が $X\times X$ の開集合である。よって、$\Delta_X$ は $X\times X$ の閉集合である。
(2)$\Rightarrow$(1) を示す。$\Delta_X$ が $X\times X$ の閉集合であるとする。$X$ がHausdorff空間であることを示すため、$x, y\in X$ を異なる二点とする。すると、$(x, y)\in(X\times X)\setminus\Delta_X$ である。$(X\times X)\setminus \Delta_X$ は直積空間 $X\times X$ の開集合であるから、命題 8.4により、$x\in U,$ $y\in V$ となる $X$ の開集合 $U,$ $V$ が存在して $U\times V\subset (X\times X)\setminus\Delta_X$ である。つまり、$(U\times V)\cap\Delta_X=\emptyset$ である。もし、$U\cap V\neq\emptyset$ であるとすれば、点 $z\in U\cap V$ を取ると $(z,z)\in (U\times V)\cap\Delta_X$ となり $(U\times V)\cap\Delta_X=\emptyset$ であったことに反する。よって、$U\cap V=\emptyset$ である。これで、$X$ がHausdorff空間であることが示された。$\square$
命題 11.8 (Hausdorff空間への二つの連続写像の値の一致する点の集合は閉)
$X$ を位相空間、$Y$ をHausdorff空間、$f, g\colon X\to Y$ を連続写像とする。このとき、集合 $$ \{x\in X\,|\,f(x)=g(x)\} $$ は $X$ の閉集合である。
証明
$X'=\{x\in X\,|\,f(x)=g(x)\}$ とおく。 Hausdorff空間 $Y$ への連続写像 $f, g\colon X\to Y$ が与えられたとする。$F\colon X\to Y\times Y$ を $F(x)=(f(x), g(x))$ で定義すれば、$F$ は連続写像である(注意 8.6による)。いま、命題 11.7により対角集合 $\Delta_Y=\{(y,y')\in Y\times Y\,|\,y=y'\}$ は $Y\times Y$ の閉集合であるから、$F^{-1}(\Delta)$ は $X$ の閉集合である。ところが、定義により $X'=F^{-1}(\Delta_Y)$ なので、$X'$ は $X$ の閉集合である。$\square$
命題 11.9 (稠密な部分集合で一致する Hausdorff 空間への二つの連続写像は一致)
$X$ を位相空間、$Y$ をHausdorff空間、$f, g\colon X\to Y$ を連続写像とする。もし、ある稠密な部分集合 $D\subset X$ に対して $f$ と $g$ の $D$ への制限が等しい、すなわち $f|_D=g|_D$ が成り立つならば、$f=g$ である。
証明
$X'=\{x\in X\,|\,f(x)=g(x)\}$ とおくと、命題 11.9により $X'$ は $X$ の閉集合である。いま、$f|_D=g|_D$ なので、$D\subset X'$ である。よって、命題 4.2により、$\operatorname{Cl} D\subset X'$ である。$D$ は $X$ において稠密だから、$\operatorname{Cl} D=X$ であり、よって $X\subset X'$ となるから $X'=X$ である。これは、すべての $x\in X$ に対して $f(x)=g(x)$ であること、すなわち $f=g$ であることを意味している。$\square$
位相空間における点列の極限は一般には存在したとしても一意的ではないが(注意 2.17)Hausdorff空間においては一意的となる。
命題 11.10 (Hausdorff空間の点列の極限は一意的)
$X$ をHausdorff空間、$(x_n)_{n=1}^\infty$ を $X$ の点列とし、$x, y\in X$ とする。$x,$ $y$ がともに $(x_n)_{n=1}^\infty$ の極限であるならば、$x=y$ である。
証明
Hausdorff空間 $X$ の点列 $(x_n)_{n=1}^\infty$ が異なる二点 $x,$ $y$ を極限にもったとして矛盾を導こう。このとき、Hausdorff空間の定義により、$x$ の開近傍 $U$ と $y$ の開近傍 $V$ で $U\cap V=\emptyset$ となるものが存在する。$(x_n)_{n=1}^\infty$ は $x$ に収束するから、ある $N_1\in\mathbb{N}$ が存在して、$n\geq N_1$ のとき常に $x_n\in U$ である。同様に、$(x_n)_{n=1}^\infty$ は $y$ に収束するから、ある $N_2\in\mathbb{N}$ が存在して、$n\geq N_2$ のとき常に $x_n\in V$ である。そこで、$N=\max\{N_1, N_2\}$ とおくと、$x_N\in U\cap V$ となる。これは、$U\cap V=\emptyset$ であったことに反する。$\square$
Euclid空間 $\mathbb{R}^n$ においてコンパクトな部分集合は閉集合であったが(定理 9.20)、一般にHausdorff空間においても同じことが成り立つ。
定理 11.11 (Hausdorff空間のコンパクト集合は閉集合)
$X$ をHausdorff空間、$K$ を $X$ のコンパクトな部分集合とする。このとき、$K$ は $X$ の閉集合である。
証明
$K$ をHausdorff空間 $X$ のコンパクト集合とする。このとき、$X\setminus K$ が $X$ の開集合であることを示せばよい。そのために命題 2.4を用いよう。$x\in X\setminus K$ を任意に与える。各 $y\in K$ に対して、$y\neq x$ であることと $X$ のHausdorff性から、$x$ の $X$ における開近傍 $U_y$ と $y$ の $X$ における開近傍 $V_y$ を $U_y\cap V_y=\emptyset$ であるように選べる。$K$ はコンパクトで $K\subset\bigcup_{y\in Y} V_y$ であるから、有限個の $y_1,\ldots,y_n\in K$ で $K\subset\bigcup_{i=1}^n V_{y_i}$ となるものが存在する。$U=\bigcap_{i=1}^n U_{y_i}$ とおくと、$U$ は $x$ の開近傍であって、$U\cap\bigcup_{i=1}^n V_{y_i}=\emptyset$ となる。したがって、$U\cap K=\emptyset$ すなわち $U\subset X\setminus K$ である。これで、命題 2.4により $X\setminus K$ が $X$ の開集合であることが示され、よって $K$ は $X$ の閉集合であることが分かった。$\square$
例 11.12 (Hausdorffでない空間ではコンパクト集合は閉とは限らない)
定理 11.11において、$X$ がHausdorff空間であるという条件は外すことができない。このことを見るため、$X=\mathbb{N}$ とし、$X$ に補有限位相を入れて位相空間とみなそう。これはHausdorff空間ではなく、閉集合は有限部分集合と $X$ そのものに限られる。$A$ を、正の偶数全体のなす $X$ の部分集合とすると、$A$ は閉集合ではない。しかし、$A$ はコンパクトである。これを示すため、$A$ の $X$ における開被覆 $\mathcal{U}$ を任意に与える。すると、$U\in\mathcal{U}$ であって $2\in U$ となるようなものが存在する。補有限位相の定義により、$X$ の有限部分集合 $F$ が存在して、$U=X\setminus F$ である。このとき $F\cap A$ は有限であって、各 $x\in F\cap A$ に対して、$x\in U_x$ となる $U_x\in\mathcal{U}$ が存在する。このとき、$\{U\}\cup\{U_x \,|\, x\in F\cap A\}$ は $\mathcal{U}$ の有限部分被覆となる。よって、$A$ はコンパクトとなる。以上で、$A$ は $X$ のコンパクト集合だが閉集合でないことが示された。$\square$
定理 11.11から導かれる次の一連の結果はとくに重要である。
定理 11.13 (コンパクト空間からHausdorff空間への連続写像)
コンパクト空間からHausdorff空間への連続写像は閉写像である。
証明
$X$ をコンパクト空間、$Y$ をHausdorff空間とし、$f\colon X\to Y$ を連続写像とする。$f$ が閉写像であることを示すため、$F$ を $X$ の閉集合とする。$X$ はコンパクトであるから、命題 9.9により、$F$ もコンパクトである。よって、命題 9.10により、$f(F)$ もコンパクトである。$Y$ はHausdorff空間であるから、定理 10.12により、$f(F)$ は $Y$ の閉集合である。以上で $f$ が閉写像であることが示された。$\square$
系 11.14 (コンパクト空間からHausdorff空間への連続全単射)
コンパクト空間からHausdorff空間への連続な全単射は同相写像である。
証明
$f\colon X\to Y$ をコンパクト空間 $X$ からHausdorff空間 $Y$ への連続な全単射とする。定理 11.13により、$f$ は閉写像であるから、命題 5.27により、$f$ は同相写像である。$\square$
系 11.15 (コンパクト空間からHausdorff空間への連続全射)
コンパクト空間からHausdorff空間への連続な全射は商写像である。
証明
これは定理 11.13と命題 7.11から直ちに導かれる。$\square$
系 11.16 (コンパクト空間からHausdorff空間への連続単射)
コンパクト空間からHausdorff空間への連続な単射は閉埋め込みである。
証明
これは定理 11.13と閉埋め込みの定義(定義 6.24)から直ちに導かれる。$\square$
例 11.17 (単位閉区間の埋め込み)
例 6.19においては、$f\colon [0,1]\to\mathbb{R}^2$ を $f(x)=(2x, 3x)$ で定義すると、$f$ は埋め込みとなることを述べたが、このことの証明はいまや大幅に短縮される。$f$ は定義から連続な単射であり、定義域の $[0,1]$ はコンパクト空間であり(定理 9.17)、終域の $\mathbb{R}^2$ は距離空間、よってHausdorff空間である(命題 11.6)から、系 11.16によって $f$ は閉埋め込み(したがって、とくに埋め込み)である。$\square$
例 11.18 (単位閉区間の商空間としての円周)
単位閉区間 $[0, 1]$ における同値関係 $\sim$ を、 $$ s\sim t \Longleftrightarrow x=y\text{ または }\{s, t\}=\{0, 1\} $$ により定義する。$S^1=\{(x,y)\in\mathbb{R}^2\,|\,x^2+y^2=1\}$ を単位円周とするとき、連続写像 $f\colon [0,1]\to S^1$ を $f(t)=(\cos 2\pi t, \sin 2\pi t)$ で定義すると、$f$ により誘導される写像 $\overline{f}\colon [0,1]/\mathord{\sim}\to S^1$ は連続な全単射となるのだった(例 7.6)。
いまや、この $\overline{f}$ が同相写像であることを簡単に証明することができる。$[0,1]$ はコンパクトであるから(定理 9.17)、その連続像である $[0,1]/\mathord{\sim}$ はコンパクトである(命題 9.10)。また、$S^1$ は $\mathbb{R}^2$ のEuclid距離の制限により距離空間となっているから、Hausdorff空間である(命題 11.6)。よって、$\overline{f}$ はコンパクト空間からHausdorff空間への連続全単射であるから、同相写像である(系 11.14)。$\square$
例 11.19 (実数直線の商空間としての円周)
例 11.18の記号を引き続き用いる。連続写像 $g\colon\mathbb{R}\to S^1$ を $g(t)=(\cos 2\pi t, \sin 2\pi t)$ により定義する。このとき、$i\colon [0,1]\to\mathbb{R}$ を包含写像とすれば、$g\circ i=f$ である。さて、連続写像 $f\colon [0,1]\to S^1$ は、定理 11.13により閉写像であり、かつ全射であるので、命題 7.11により、商写像である。よって、命題 7.10(2)により、$g$ も商写像と分かる。したがって、商写像の定義(定義 7.8)により、$\mathbb{R}$ 上の同値関係 $\sim'$ を $s\sim' t \Longleftrightarrow g(s)=g(t)$ で定義し、$g$ により誘導される写像を $\bar{g}\colon \mathbb{R}/\mathord{\sim'}\to S^1$ とするとき、$\bar{g}$ は同相写像である。$g$ の定義から、$\sim'$ は $$ s\sim' t \Longleftrightarrow s-t\in\mathbb{Z} $$ で与えられる関係である。結局、$S^1$ はこの同値関係 $\sim'$ による $\mathbb{R}$ の商空間 $\mathbb{R}/\mathord{\sim'}$ とも同相であることが分かった。この様子は、直線 $\mathbb{R}$ を「コイルのように巻いて」円周 $S^1$ を作ったと考えると理解しやすいであろう。
例 11.20 (実数直線から円周への射影は開写像)
例 11.19の記号を引き続き用いる。以下では、$g\colon\mathbb{R}\to S^1$ が開写像となることを示そう。
準備として、整数 $n\in\mathbb{Z}$ に対して、連続写像 $\sigma_n\colon \mathbb{R}\to\mathbb{R}$ を $\sigma_n(t)=t+n$ で定める。このとき $\sigma_n$ は同相写像である。実際、$\sigma_n$ は逆写像として $\sigma_{-n}$ をもち、これも連続であるからである。
さて、$g$ が開写像であることを示すため、$U$ を $\mathbb{R}$ の開集合とする。$g(U)$ が $S^1$ の開集合であることを示せばよいが、$g$ は例 11.19で示したように商写像であったから、命題 7.9により、$g^{-1}(g(U))$ が $\mathbb{R}$ の開集合であることを示せばよい。ところが、$g$ の定義から $$ g^{-1}(g(U))=\bigcup_{n\in\mathbb{Z}}\sigma_n(U) $$ である。いま、$\sigma_n$ が同相写像(したがって開写像)であることから $\sigma_n(U)$ は $\mathbb{R}$ の開集合である。よって、その和集合である $g^{-1}(g(U))$ も開集合である。これで、$g$ が開写像であることが示された。$\square$
最後に、Hausdorff空間のコンパクト集合について、いくつかの事実を示しておこう。Hausdorff空間の定義は任意の異なる二点が開集合で分離されるというものであったが、実際には、二つの交わらないコンパクト集合を分離することもできる。
定理 11.21 (Hausdorff空間のコンパクト集合は開集合で分離される)
$H,$ $K$ をHausdorff空間 $X$ のコンパクト集合とし、$H\cap K=\emptyset$ であるとする。このとき、$X$ の開集合 $U,$ $V$ であって $H\subset U,$ $K\subset V,$ $U\cap V=\emptyset$ となるものが存在する。
証明
この証明は二つの段階に分かれる。まず、$H$ が一点からなる特別の場合に証明する。そこで、$H=\{x\}$ とする。$X$ はHausdorff空間であるから、各 $y\in K$ に対して、$X$ の開集合 $U_y,$ $V_y$ であって $x\in U_y,$ $y\in V_y,$ $U_y\cap V_y=\emptyset$ となるものが選べる。すると、$K\subset\bigcup_{y\in K} V_y$ である。$K$ はコンパクトなので、有限個の $y_1,\ldots,y_n\in K$ が存在して、$K\subset \bigcup_{i=1}^n V_{y_i}$ となる。このとき、$U=\bigcap_{i=1}^n U_{y_i},$ $V=\bigcup_{i=1}^n V_{y_i}$ とおけば $U,$ $V$ は $X$ の開集合で、$x\in U,$ $K\subset V,$ $U\cap V=\emptyset$ である。
次に、一般の場合を証明する。すでに示したことにより、各 $x\in H$ に対して、$X$ の開集合 $U_x,$ $V_x$ であって $x\in U_x,$ $K\subset V_x,$ $U_x\cap V_x=\emptyset$ であるようなものが選べる。すると、$H\subset\bigcup_{x\in H} U_x$ である。$H$ はコンパクトなので、有限個の $x_1,\ldots, x_n\in H$ が存在して、$H\subset \bigcup_{i=1}^n U_{x_i}$ となる。このとき、$U=\bigcup_{i=1}^n U_{x_i},$ $V=\bigcap_{i=1}^n V_{x_i}$ とおけば、$U,$ $V$ は $X$ の開集合で、$H\subset U,$ $K\subset V,$ $U\cap V=\emptyset$ である。$\square$
定理 11.22 (Hausdorff空間のコンパクト集合の減少列)
$X$ をHausdorff空間とし、$(K_i)_{i=1}^\infty$ を $X$ の空でないコンパクト集合とし、各 $i\in\mathbb{N}$ に対して $K_{i+1}\subset K_i$ であるとする。このとき、共通部分 $\bigcap_{i=1}^\infty K_i$ は空でない。さらに、各 $i\in\mathbb{N}$ に対して $K_i$ が連結であるならば、$\bigcap_{i=1}^\infty K_i$ も連結である。
証明
各 $i\in\mathbb{N}$ に対して、$K_i$ はHausdorff空間 $X$ のコンパクト集合なので、定理 11.11により $K_i$ は $X$ の閉集合である。いま、仮定から $K_i\subset K_1$ なので、$K_i$ は $K_1$ の閉集合でもある(命題 6.8)。したがって、$(K_i)_{i=1}^\infty$ はコンパクト空間 $K_1$ の空でない閉集合からなる族である。よって、命題 9.13により、$\bigcap_{i=1}^n K_i\neq\emptyset$ である。以下では、$K=\bigcap_{i=1}^n K_i\neq\emptyset$ とおく。$K$ はコンパクト空間 $K_1$ の閉集合なので、命題 9.9によりコンパクトである。
さらに、各 $i\in\mathbb{N}$ に対して $K_i$ が連結であると仮定する。$K$ が連結であることを示そう。$K\neq\emptyset$ であることはすでに分かっている。もし、$K$ が連結でないとすると、$K$ の空でない閉集合 $F_1,$ $F_2$ であって $K=F_1\cup F_2,$ $F_1\cap F_2=\emptyset$ であるものが存在する。$F_1,$ $F_2$ はコンパクト空間 $K$ の閉集合なのでコンパクトである。したがって、$X$ がHausdorff空間であることと定理 11.21により、$X$ の開集合 $U_1,$ $U_2$ が存在して $F_1\subset U_1,$ $F_2\subset U_2,$ $U_1\cap U_2=\emptyset$ となる。すると、$\{U_1\cup U_2\}\cup\{X\setminus K_i\,|\,i\in\mathbb{N}\}$ はコンパクト集合 $K_1$ の $X$ における開被覆なので、有限な部分被覆をもつ。したがって、ある $n\in\mathbb{N}$ が存在して $$ K_1\subset (U_1\cap U_2)\cup\bigcup_{i=1}^n (X\setminus K_i)=(U_1\cup U_2)\cup(X\setminus K_n) $$ となるが、これと $K_n\subset K_1$ から $K_n\subset U_1\cup U_2$ が分かる。いま $V_i=U_i\cap K_n\,(i=1,2)$ とおくと、$V_1,$ $V_2$ は $K_n$ の開集合で、$V_1\cup V_2=K_n,$ $V_1\cap V_2=\emptyset$ である。しかも、$\emptyset\neq F_i=U_i\cap K\subset U_i\cap K_n=V_i$ だから $V_i\neq\emptyset$ である。これは、$K_n$ が連結であることに反している。これで、$K$ が連結であることが示された。$\square$
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関連項目