位相空間論16:Tychonoffの定理
位相空間論16:Tychonoff の定理
この章では、任意の個数のコンパクト空間の直積空間がコンパクト空間になることを主張するTychonoffの定理を証明する。これは位相空間論で最も重要な定理の一つである。
- 位相空間論16:Tychonoffの定理
まず、Tychonoffの定理の証明の準備として、それ自身興味深いAlexanderの準開基定理を証明する。この定理は、コンパクト性を証明するときには、ある準開基に属する開集合からなる開被覆のみを考えれば十分であることを述べている。
Alexanderの準開基定理を示すためには、ある種の超越的な議論を必要とするが、それはZornの補題を用いるという形でなされる。Zornの補題は位相空間論というより集合論に属する事項だが、自己完結的に述べるためにここで証明することにする。まず、そのために必要な順序集合に関する用語を復習しておこう。
集合 $X$ 上の二項関係 $\leq$ が次の条件(1)-(3)を満たすとき、組 $(X, \leq)$ を順序集合(ordered set)という。
- (1) 任意の $x\in X$ に対して $x\leq x$
- (2) $x\leq y,$ $y\leq z$ ならば $x\leq z$
- (3) $x\leq y,$ $y\leq x$ ならば $x=y$
$x\leq y$ かつ $x\neq y$ であるとき、$x<y$ と書く。さらに、$\leq$ が次の(4)を満たすとき、$(X, \leq)$ を全順序集合(totally ordered set)という。
- (4) 任意の $x, y\in X$ に対して $x\leq y$ または $y\leq x$
$(X, \leq)$ を順序集合とし、$A\subset X$ とする。$A$ の要素 $a$ が $A$ の最小元(the smallest element)であるとは、任意の $b\in A$ に対して $a\leq b$ が成り立つことをいう。$A$ の最小元は必ずしも存在しないが、存在すれば一意的である。同様にして、$A$ の最大元(the largest element)の概念も定義される。$X$ の要素 $x$ が $A$ の($X$ における)上界(upper bound)であるとは、任意の $a\in A$ に対して $a\leq x$ であることをいう。より強く、任意の $a\in A$ に対して $a<x$ が成り立つとき、$x$ を $A$ の($X$ における)真の上界と呼ぶことにする。
順序集合 $(X, \leq)$ が整列集合(well-ordered set)であるとは、$X$ の任意の空でない部分集合 $A$ に対して、$A$ の最小元が存在することをいう。このとき、とくに $x, y\in X$ に対して $\{x, y\}$ は最小元をもつから、整列集合は全順序集合となる。
$(X, \leq)$ を順序集合とするとき、$X$ の要素 $x$ が $X$ の極大元(maximal element)であるとは、$x\leq y$ となるような $X$ の要素 $y$ が $x$ のみに限られることをいう。これは、$x<y$ となるような $X$ の要素 $y$ が存在しないことと言い換えられる。
順序集合 $(X, \leq)$ と部分集合 $A\subset X$ が与えられているとする。このとき、$A$ 上の二項関係 $\leq_A$ を $\leq$ の制限として定義すると、$(A, \leq_A)$ は再び順序集合となる。この $(A, \leq_A)$ が全順序集合、あるいは整列集合となるとき、$A$ を $X$ の全順序部分集合、あるいは整列部分集合という。
定理 16.1 (Zornの補題)
$(X, \leq)$ を順序集合とし、$X$ の任意の全順序部分集合 $A$ に対して、$A$ の $X$ における上界が存在すると仮定する。このとき、$X$ は極大元をもつ。
証明
$X$ が極大元をもたなかったとして矛盾を導こう。このとき、$X$ の任意の全順序部分集合 $A$ に対して、$A$ は $X$ において真の上界をもつ。実際、仮定により $A$ には上界 $x$ が存在するが、$X$ に極大元がないとしているから $x<y$ となる $y\in X$ が存在し、この $y$ は $A$ の真の上界を与える。そこで、各全順序部分集合 $A\subset X$ に対してその真の上界 $u(A)$ を一つ選んでおく。
$C\subset X$ と $x\in C$ に対して、$C_x=\{y\in C\,|\,y<x\}$ とおき、$C_x$ を $C$ の $x$ における切片と呼ぶ。$C$ が以下の条件を満たすとき、$C$ を $X$ における鎖であると呼ぶことにする。
- (1) $C$ は $X$ の整列部分集合である。
- (2) 各 $x\in C$ に対して、$x=u(C_x)$ である。
このとき、次の主張が成り立つ。
- 主張 $\;\; X$ における任意の鎖 $C, C'$ に対して、$C=C'$ であるか、または $C$ と $C'$ の一方は他方のある切片に一致する。
この主張の証明は後で行う。この主張が成り立つとして証明を続けよう。$X$ における鎖全体の集合を $\{C_\lambda\,|\,\lambda\in\Lambda\}$ と表し、$C=\bigcup_{\lambda\in\Lambda} C_\lambda$ とおく。
このとき、$C$ が鎖であることを証明しよう。まず、$C$ が $X$ の整列部分集合であることを示すため、$A\subset C$ を空でない部分集合とする。すると、ある $\lambda\in\Lambda$ に対して $A\cap C_\lambda\neq\emptyset$ である。よって、$C_\lambda$ が $X$ の整列部分集合であったことから、$A\cap C_\lambda$ は最小元 $x_0$ をもつ。$x_0$ が $A$ の最小元であることを示すため、$x\in A$ とする。ある $\mu\in\Lambda$ に対して、$x\in C_\mu$ である。もし、$C_\mu=C_\lambda$ であれば、$x\in A\cap C_\lambda$ であるから $x_0\leq x$ である。$C_\mu\neq C_\lambda$ であれば、主張により、(i) ある $y\in C_\mu$ に対して $C_\lambda=(C_\mu)_y$ であるか、(ii) ある $z\in C_\lambda$ に対して $C_\mu=(C_\lambda)_z$ であるかのどちらかである。(i) の場合、(i-a) $y\leq x$ であるか (i-b) $x<y$ であるかの二通りの場合に分けて考えよう。(i-a) の場合は、$x_0\in C_\lambda=(C_\mu)_y$ により $x_0<y\leq x$ であり、よって $x_0<x$ である。(i-b) の場合は、$x\in (C_\mu)_y=C_\lambda$ であるから、$x\in A\cap C_\lambda$ であり、よって $x_0\leq x$ である。次に、(ii) の場合は $C_\mu\subset C_\lambda$ なので、$x\in C_\lambda$ となり、よって $x\in A\cap C_\lambda$ となるから $x_0\leq x$ である。以上から、いずれの場合も $x_0\leq x$ であることが分かり、$x_0$ が $A$ の最小元であることが示され、$C$ が $X$ の整列部分集合であることが分かった。
次に、各 $x\in C$ に対して $x=u(C_x)$ であることを示そう。$x\in C$ とすると、ある $\lambda\in\Lambda$ に対して $x\in C_\lambda$ である。このとき $C_x=(C_\lambda)_x$ であることを示そう。$C_\lambda\subset C$ であることから $(C_\lambda)_x\subset C_x$ は明らかだから、$C_x\subset (C_\lambda)_x$ であることを示す。そこで $y\in C_x$ であるとする。つまり、$y\in C$ かつ $y<x$ とする。このとき、ある $\mu\in\Lambda$ に対して $y\in C_\mu$ である。$C_\lambda=C_\mu$ であれば、$y\in C_\lambda$ だから $y\in(C_\lambda)_x$ である。そうでないときは、(i) ある $z\in C_\mu$ に対して $C_\lambda=(C_\mu)_z$ であるか、(ii) ある $w\in C_\lambda$ に対して $C_\mu=(C_\lambda)_w$ であるかのどちらかである。(i) の場合、$x\in C_\lambda=(C_\mu)_z$ により $x<z$ であり、$y\in C_x$ により $y<x$ であるから $y<z$ である。$y\in C_\mu$ であったから、$y\in (C_\mu)_z=C_\lambda$ であり、よって $y\in (C_\lambda)_x$ である。(ii) の場合は、$C_\mu\subset C_\lambda$ なので $y\in C_\lambda$ であり、よって $y\in (C_\lambda)_x$ である。以上で、$C_x\subset (C_\lambda)_x$ であることが示され、よって $C_x=(C_\lambda)_x$ であることが分かった。$C_\lambda$ は鎖であるから $u(C_x)=u((C_\lambda)_x)=x$ である。これで、$C$ が鎖であることが証明された。
$\tilde{C}=C\cup \{u(C)\}$ とおくと、すぐに確かめられるように $\tilde{C}$ は鎖となる。$C$ の定義により、$\tilde{C}\subset C$ でなければならないが、一方で $u(C)\in\tilde{C},$ $u(C)\notin C$ であるから、これは矛盾である。この矛盾により、$X$ が極大元をもつことが証明された。$\square$
主張の証明
$C, C'$ を $X$ における鎖とする。$C\neq C'$ とすると、$C$ と $C'$ の一方が他方のある切片に一致することを示そう。$C\not\subset C'$ が成り立つとして一般性を失わない。このとき、ある $x_1\in C$ に対して $C'=C_{x_1}$ であることを示せばよい。まず、$C\setminus C'\neq\emptyset$ であり $C$ が整列集合であることから、$C\setminus C'$ の最小元 $x_1$ が存在する。このとき $$ C_{x_1}\subset C'\quad(\star) $$ である。もし、これが真の包含関係であれば、$C'$ が整列集合であることから $C'\setminus C_{x_1}$ の最小元 $x_2$ が存在する。すると、 $$ C'_{x_2}\subset C_{x_1}\quad(\star\star) $$ である。もし、これが真の包含関係であれば、$C$ が整列集合であることから $C_{x_1}\setminus C'_{x_2}$ の最小元 $x_3$ が存在する。すると、 $$ C_{x_3}\subset C'_{x_2}\quad(\sharp) $$ である。
ところが、この包含関係 $(\sharp)$ は実際には等号となり $C_{x_3}=C'_{x_2}$ が成り立つ。それを示すため、$x\in C'_{x_2}$ としよう。いま $(\star)$ により $x_3\in C_{x_1}\subset C'$ である。よって $x, x_3$ はともに $X$ の整列(とくに全順序)部分集合 $C'$ に属しているから、(i)$x<x_3$ と (ii)$x_3\leq x$ のどちらかが成り立つ。いま、(ii)が成り立ったとすれば、$x<x_2$ であることにより $x_3<x_2$ である。よって、$x_3\in C'_{x_2}$ であるが、これは $x_3$ の取り方に反する。よって、(i)が成り立つ。$(\star\star)$ により $x\in C'_{x_2}\subset C_{x_1}\subset C$ であるから、(i) が成り立つことは $x\in C_{x_3}$ を意味する。これで、$(\sharp)$ の逆向きの包含関係 $C'_{x_2}\subset C_{x_3}$ が示されたから、$C_{x_3}=C'_{x_2}$ が証明された。
したがって、$C, C'$ がともに鎖であることにより、$x_3=u(C_{x_3})=u(C'_{x_2})=x_2$ を得る。すると $x_2=x_3\in C_{x_1}$ となり、これは $x_2$ の取り方に反する。この矛盾は、包含関係 $(\star\star)$ が実際には等号であること、つまり $C'_{x_2}=C_{x_1}$ であることを意味する。再び、$C, C'$ が鎖であることにより、$x_2=u(C'_{x_2})=u(C_{x_1})=x_1$ を得る。すると $x_1=x_2\in C'$ となり、$x_1$ の取り方に反する。この矛盾は、包含関係 $(\star)$ が実際には等号であること、つまり $C'=C_{x_1}$ を意味する。これが示したいことであった。$\square$
注意 16.2 (Zornの補題のもう一つのバージョン)
Zornの補題(定理 16.1)には、「空でない」という語句を二回挿入した次のバージョンもあり、実際上よく用いられる。
- $(X, \leq)$ を空でない順序集合とし、$X$ の任意の空でない全順序部分集合 $A$ に対して、$A$ の $X$ における上界が存在すると仮定する。このとき、$X$ は極大元をもつ。$\quad(\heartsuit)$
定理 16.1から $(\heartsuit)$ が導かれることを見てみよう。定理 16.1を仮定し、$(X, \leq)$ を空でない(つまり $X\neq\emptyset$ であるような)順序集合とする。$X$ の任意の空でない全順序部分集合 $A$ に対して、$A$ の $X$ における上界が存在すると仮定する。このとき $X$ が極大元をもつことを示したい。いま定理 16.1を仮定しているから、そのためには、$X$ の任意の(空でもよい)全順序部分集合 $A$ に対して、$A$ の $X$ における上界が存在することを言えばよい。$A$ が空でない場合の上界の存在はすでに仮定しているから、あとは空集合 $\emptyset$ が上界をもつことを示せばよい。ところが、いま $X\neq\emptyset$ であるから、少なくとも一つの要素 $x_0\in X$ が存在する。この $x_0$ は $\emptyset$ の上界である($x\in X$ に対して、「$x$ が $\emptyset$ の上界である」という命題を論理式で表すと $\forall y (y\in\emptyset\rightarrow y\leq x)$ となり、これは $y\in\emptyset$ が偽であることにより $x\in X$ が何であっても真である。とくに、$x$ が $x_0$ のときもこの命題は真となる。つまり $x_0$ は $\emptyset$ の上界である)。これで、$(\heartsuit)$ が導かれた。$\square$
定理 16.3 (Alexanderの準開基定理)
位相空間 $X$ に対して、次は同値である。
- (1) $X$ はコンパクトである。
- (2) $X$ の準開基 $\mathcal{S}$ が存在して、$\mathcal{U}\subset \mathcal{S}$ を満たす $X$ の任意の開被覆 $\mathcal{U}$ は有限部分被覆をもつ。
証明
(1)$\Rightarrow$(2)は明らかである。
(2)$\Rightarrow$(1)を示す。(2)で存在が主張されているような $X$ の準開基 $\mathcal{S}$ を取る。$X$ がコンパクトでないと仮定しよう。すると、$X$ の開被覆 $\mathcal{U}_0$ であって有限部分被覆をもたないようなものが存在する。そこで、 $$ \Phi=\{\mathcal{U}\,|\,\mathcal{U}\text{ は }X\text{ の開被覆であって有限部分被覆をもたない}\} $$ とおく。$\mathcal{U}, \mathcal{V}\in\Phi$ に対して $\mathcal{U}\leq\mathcal{V}$ であるとは $\mathcal{U}\subset\mathcal{V}$ であることと定義すれば、$(\Phi, \leq)$ は順序集合となる。この順序集合にZornの補題の注意 16.2で述べたバージョンを適用したい。まず、$\mathcal{U}_0\in \Phi$ なので $\Phi\neq\emptyset$ である。
$\Phi'\subset\Phi$ を $\Phi$ の空でない全順序部分集合とする。$\Phi'=\{\mathcal{U}_\lambda\,|\,\lambda\in\Lambda\}$ と表せば、$\Lambda\neq\emptyset$ である。 $$ \mathcal{U}=\bigcup_{\lambda\in\Lambda} \mathcal{U}_\lambda $$ とおく。$\mathcal{U}\in\Phi$ を示そう。まず、各 $\lambda\in\Lambda$ に対して $\mathcal{U}_\lambda$ が $X$ の開被覆であることと $\Lambda\neq\emptyset$ により $\mathcal{U}$ は $X$ の開被覆である。次に、$\mathcal{U}$ の有限部分集合 $\{U_1,\ldots, U_n\}$ を任意に与える。すると、各 $i\in\{1,\ldots,n\}$ に対して $\lambda_i\in\Lambda$ が存在して $U_i\in\mathcal{U}_{\lambda_i}$ である。$\{\mathcal{U}_{\lambda_1},\ldots,\mathcal{U}_{\lambda_n}\}\subset \Phi'$ であり $\Phi'$ は $\Phi$ の全順序部分集合であるから、$\{\mathcal{U}_{\lambda_1},\ldots,\mathcal{U}_{\lambda_n}\}$ には最大元が存在する。番号を付け替えることで、その最大元が $\mathcal{U}_{\lambda_1}$ であるとしてよい。すると、各 $i\in\{1,\ldots,n\}$ に対して $U_i\in\mathcal{U}_{\lambda_i}\subset\mathcal{U}_{\lambda_1}$ であり、よって $\{U_1,\ldots, U_n\}\subset\mathcal{U}_{\lambda_1}$ である。いま $\mathcal{U}_{\lambda_1}\in\Phi'\subset\Phi$ なので、$\Phi$ の定義により $\{U_1\ldots, U_n\}$ は $X$ の被覆ではない。これで、$\mathcal{U}\in\Phi$ であることが示された。$\mathcal{U}$ の定義により、任意の $\lambda\in\Lambda$ に対して $\mathcal{U}_\lambda\subset\mathcal{U}$ つまり $\mathcal{U}_\lambda\leq\mathcal{U}$ であるから、$\mathcal{U}$ は $\Phi'$ の $\Phi$ における上界である。
したがって、順序集合 $(\Phi, \leq)$ はZornの補題の注意 16.2で述べたバージョン $(\heartsuit)$ の仮定を満たすので、$(\Phi, \leq)$ には極大元が存在する。そこで、その極大元の一つを $\mathcal{V}=\{V_\lambda\,|\,\lambda\in\Lambda\}$ とする。すると、もちろん $\mathcal{V}\cap\mathcal{S}\subset\mathcal{S}$ である。よって、もし $\mathcal{V}\cap\mathcal{S}$ が $X$ の被覆であれば、$\mathcal{S}$ の取り方により $\mathcal{V}\cap\mathcal{S}$ は有限部分被覆をもつから、$\mathcal{V}$ が有限部分被覆をもつことになり、$\mathcal{V}\in\Phi$ であることに反する。よって、$\mathcal{V}\cap\mathcal{S}$ は $X$ の被覆ではない。すなわち、$\mathcal{V}\cap\mathcal{S}=\{V_\lambda\,|\,\lambda\in\Lambda'\}$(ここで $\Lambda'\subset\Lambda$)と表すとき、$\bigcup_{\lambda\in\Lambda'} V_\lambda\neq X$ である。よって、点 $x\in X\setminus\bigcup_{\lambda\in\Lambda'} V_\lambda$ が存在する。$\mathcal{V}\in\Phi$ により $\mathcal{V}$ は $X$ の被覆なので、$\lambda_0\in\Lambda$ であって $x\in V_{\lambda_0}$ となるものが存在する。$\mathcal{S}$ は $X$ の準開基であるから、$S_1,\ldots, S_n\in\mathcal{S}$ であって、$x\in \bigcap_{i=1}^n S_i \subset V_{\lambda_0}$ となるものが存在する。もし、ある $i\in\{1,\ldots,n\}$ に対して $S_i\in\mathcal{V}$ であったとすれば、$S_i\in\mathcal{V}\cap\mathcal{S}$ であるから、ある $\lambda\in\Lambda'$ に対して $S_i=V_\lambda$ となるから、$x\in S_i\subset\bigcup_{\lambda\in\Lambda'} V_\lambda$ となり、$x$ の取り方に反する。よって、すべての $i\in\{1,\ldots,n\}$ に対して $S_i\notin\mathcal{V}$ である。したがって、$\mathcal{V}$ の $(\Phi, \leq)$ における極大性により、各 $i\in\{1,\ldots,n\}$ に対して $\mathcal{V}\cup\{S_i\}$ は有限部分被覆 $\mathcal{V}_i$ をもつことが分かる。もし、$\mathcal{V}_i\subset\mathcal{V}$ であれば、$\mathcal{V}$ が有限部分被覆 $\mathcal{V}_i$ をもつことになり $\mathcal{V}\in\Phi$ に反するので、$S_i\in\mathcal{V}_i$ である。よって、各 $i\in\{1,\ldots,n\}$ に対して $\mathcal{V}_i=\{S_i, V_{\lambda_{i,1}},\ldots, V_{\lambda_{i,k_i}}\}$ という形に書くことができる。このとき、 $$ X\setminus\bigcup_{i=1}^n\bigcup_{j=1}^{k_i} V_{\lambda_{i,j}}=\bigcap_{i=1}^n\left(X\setminus\bigcup_{j=1}^{k_i} V_{\lambda_{i,j}}\right)\subset\bigcap_{i=1}^n S_i\subset V_{\lambda_0} $$ であるから、結局、 $$ \mathcal{V}_0=\{V_{\lambda_0}\}\cup\{V_{\lambda_{i,j}}\,|\,i=1,\ldots,n,\,j=1,\ldots, k_i\} $$ とおくとき $\mathcal{V}_0$ は $\mathcal{V}$ の有限部分被覆となる。これは、$\mathcal{V}\in\Phi$ であることに反する。$\square$
Alexanderの準開基定理を用いて、Tychonoffの定理が次のように証明される。
定理 16.4 (Tychonoffの定理)
$(X_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}$ をコンパクト空間からなる族とするとき、直積空間 $\prod_{\lambda\in\Lambda} X_\lambda$ はコンパクトである。
証明
$X=\prod_{\lambda\in\Lambda} X_\lambda$ とし、$p_\lambda\colon X\to X_\lambda$ を射影とする。$X$ 上の直積位相は、次のような $\mathcal{S}$ を準開基にもつのであった(定義 8.11)。 $$ \mathcal{S}=\bigcup_{\lambda\in\Lambda}\mathcal{S}_\lambda,\quad\text{ただし }\mathcal{S}_\lambda=\{p_\lambda^{-1}(U)\,|\,U\text{ は }X_\lambda\text{ の開集合 }\} $$ Alexanderの準開基定理(定理 16.3)を用いて、$X$ がコンパクトであることを証明しよう。そこで、$\mathcal{U}$ を $X$ の開被覆であって $\mathcal{U}\subset\mathcal{S}$ であるようなものとする。$\mathcal{U}$ が有限な部分被覆をもつことを示せばよい。このとき、$\mathcal{U}_\lambda=\mathcal{U}\cap\mathcal{S}_\lambda$ とおけば、$\mathcal{U}=\bigcup_{\lambda\in\Lambda} \mathcal{U}_\lambda$ となる。さらに、各 $\lambda\in\Lambda$ に対して $X_\lambda$ の開集合からなる族 $\mathcal{V}_\lambda$ を $$ \mathcal{U}_\lambda=\{p_\lambda^{-1}(V)\,|\,V\in\mathcal{V}_\lambda\}\quad(\sharp) $$ となるように取れる。いま、いかなる $\lambda\in\Lambda$ に対しても $\mathcal{V}_\lambda$ が $X_\lambda$ の開被覆でなかったと仮定しよう。すると、各 $\lambda\in\Lambda$ に対して点 $x_\lambda\in X_\lambda\setminus\bigcup_{V\in\mathcal{V}_\lambda} V$ が選べる。そこで、点 $x=(x_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}\in X$ を考えると、各 $\lambda\in\Lambda$ に対して、$(\sharp)$ により $x\notin\bigcup_{U\in\mathcal{U}_\lambda} U$ である。ところが、$\mathcal{U}=\bigcup_{\lambda\in\Lambda} \mathcal{U}_\lambda$ であったから、これは $x\notin\bigcup_{U\in\mathcal{U}} U$ を意味する。これは、$\mathcal{U}$ が$X$ の被覆であったことに反する。したがって、ある $\lambda\in\Lambda$ が存在して、$\mathcal{V}_\lambda$ は $X_\lambda$ の開被覆である。いま、$X_\lambda$ はコンパクトであるから、ある有限個の $V_1,\ldots, V_n\in\mathcal{V}_\lambda$ であって $X_\lambda=\bigcup_{i=1}^n V_i$ となるものが存在する。したがって、$X=\bigcup_{i=1}^n p_\lambda^{-1}(V_i)$ である。$p_\lambda^{-1}(V_i)\in\mathcal{U}_\lambda\subset\mathcal{U}$ であるから、これは $\mathcal{U}$ が有限な部分被覆をもつことを示している。これで、$X$ がコンパクトであることが示された。$\square$
関連項目