位相空間論12:分離公理(2)
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位相空間論12:分離公理(2)
Hausdorff性よりも強い分離公理として、正則性($T_3$ 分離公理)と正規性($T_4$ 分離公理)がある。とくに正規性に関しては、閉集合同士を「連続関数で分離」できることを主張するUrysohnの補題や、連続関数の拡張定理であるTietzeの拡張定理を導くものであり重要である。
- 位相空間論12:分離公理(2)
定義 12.1 (正則性と正規性)
$X$ を位相空間とするとき、次のように定義する。
- $X$ が正則空間(regular space)である、あるいは $T_3$ 空間である、$T_3$ 分離公理を満たすとは、$X$ が $T_1$ 空間であって、かつ、$X$ の点 $x$ と $X$ の閉集合 $F$ に対して $x\notin F$ ならば、$X$ の開集合 $sU,$ $V$ であって $x\in U,$ $F\subset V,$ $U\cap V=\emptyset$ となるものが存在することをいう。
- $X$ が正規空間(normal space)である、あるいは $T_4$ 空間である、$T_4$ 分離公理を満たすとは、$X$ が $T_1$ 空間であって、かつ、$X$ の閉集合 $F,$ $H$に対して $F\cap H=\emptyset$ ならば、$X$ の開集合 $U,$ $V$ であって $F\subset U,$ $H\subset V,$ $U\cap V=\emptyset$ となるものが存在することをいう。
注意 12.2 (分離公理の間の含意)
命題 11.5で述べたように、$T_1$ 空間においては一点からなる集合は閉集合である。正則空間および正規空間の定義では $T_1$ 空間であることを課しているから、正規空間は正則空間であり、正則空間はHausdorff空間であることが直ちに分かる。
例 12.3 (Hausdorff空間であるが正則空間でない例)
$X=\mathbb{R}$ とし、$X$ の位相を次で定める。$A=\{1/n\,|\,n\in\mathbb{N}\}$ とする。$X$ の部分集合族 $\mathcal{B}$ を $$ \mathcal{B}=\{(a,b)\,|\,a,b\in\mathbb{R},\,a \lt b\}\cup\{(a,b)\setminus A\,|\,a,b\in\mathbb{R},\,a \lt b\} $$ とおくと、$\mathcal{B}$ は命題 3.9の性質 (OB1), (OB2)を満たすことが確かめられる。したがって、命題 3.10により、$\mathcal{B}$ を開基とするような $X$ の位相が定まるので、その位相を $X$ に与える。
$X$ はHausdorff空間となる。実際、$x, y\in X$ を異なる二点とし、たとえば $x \lt y$ であるとすると、$r=(y-x)/2$ とおくとき $U=(x-r, x+r)$, $V=(y-r, y+r)$ は $\mathcal{B}$ に属するからそれぞれ $X$ の開集合で、$x\in U,$ $y\in V,$ $U\cap V=\emptyset$ を満たす。
次に、$X$ が正則空間でないことを示そう。$A$ は $X$ の閉集合で、$0\notin A$ であることに注意する。$X$ の開集合 $U,$ $V$ で $0\in U,$ $A\subset V,$ $U\cap V=\emptyset$ となるものが存在しないことを示そう。そこで、そのような $U,$ $V$ が存在したとする。$\mathcal{B}$ は $X$ の開基だから、ある $B\in\mathcal{B}$ が存在して、$0\in B\subset U$ である。$B=(a,b)$ の形の場合は、$a \lt 0 \lt b$ であるから、ある $n\in\mathbb{N}$ に対して $1/n \lt b$ である。よって、$1/n\in B\cap A\subset U\cap V$ となり、$U\cap V=\emptyset$ に反する。次に $B=(a,b)\setminus A$ の場合も、やはり $a \lt 0 \lt b$ であるから、ある $n\in\mathbb{N}$ に対して $1/n \lt b$ である。いま $1/n\in A\subset V$ であるので、ある $B'\in\mathcal{B}$ が存在して $1/n\in B'\subset V$ である。このときは $1/n\in A$ であることより $B'=(a',b')$ の形でなければならない。$a^{\prime\prime}\in\mathbb{R}$ を、$\max\{a',1/(n+1)\} \lt a^{\prime\prime} \lt 1/n$ となるように取れば、$a^{\prime\prime}\in B\cap B'\subset U\cap V$ となり、やはり $U\cap V=\emptyset$ に反する。これで、$X$ が正則空間ではないことが示された。$\square$
正則空間であるが正規空間ではない例は後で与える(例 12.19)。
命題 12.4 (正則空間であることの言い換え)
$X$ を $T_1$ 空間とするとき、次は同値である。
- (1) $X$ は正則空間である。
- (2) $X$ の任意の点 $x$ と $x$ の任意の開近傍 $U$ に対して、$x$ の開近傍 $V$ で $\operatorname{Cl} V\subset U$ となるものが存在する。
証明
(1)$\Rightarrow$(2) を示す。$X$ を正則空間とし、$U$ を $X$ の点 $x$ の開近傍とする。$F=X\setminus U$ とおくと $F$ は $X$ の閉集合で $x\notin F$ であるから、正則空間の定義により、$X$ の開集合 $V,$ $W$ であって $x\in V,$ $F\subset W,$ $V\cap W=\emptyset$ となるものが存在する。このとき、$X\setminus W$ は閉集合で $V\subset X\setminus W$ なので、$\operatorname{Cl} V\subset X\setminus W$ である。ところが、$X\setminus W\subset X\setminus F=U$ なので、$\operatorname{Cl} V\subset U$ である。
(2)$\Rightarrow$(1) を示す。 (2)が成り立つとし、$x$ を $T_1$ 空間 $X$ の点とする。$F$ を $X$ の閉集合とし、$x\notin F$ とする。このとき、$U=X\setminus F$ とおくと $U$ は $x$ の開近傍であるから、(2)により $x$ の開近傍 $V$ で $\operatorname{Cl} V\subset U$ となるものが存在する。$W=X\setminus\operatorname{Cl} V$ とおけば $W$ は $X$ の開集合であり、このとき $x\in V,$ $F\subset W,$ $V\cap W=\emptyset$ である。$\square$
命題 12.5 (正則性は部分空間に遺伝する)
正則空間の任意の部分空間は正則空間である。
証明
$X$ を正則空間とし、$A\subset X$ とする。正則空間の定義により、$X$ は $T_1$ 空間であるから、命題 11.3により部分空間 $A$ も $T_1$ 空間である。$A$ が正則空間であるために命題 11.4を用いよう。$x\in A$ とし、$U$ を $x$ の $A$ における開近傍とする。$X$ の開集合 $\tilde{U}$ を $U=\tilde{U}\cap A$ となるようにとれば、$\tilde{U}$ は $x$ の $X$ における開近傍だから、$X$ の正則性と命題 11.4により、$x$ の $X$ における開近傍 $\tilde{V}$ で $\operatorname{Cl}_X \tilde{V}\subset \tilde{U}$ となるものが存在する。$V=\tilde{V}\cap A$ とおくと、$V$ は $x$ の $A$ における開近傍である。さらに、命題 6.15を用いると $$ \operatorname{Cl}_A V=A\cap(\operatorname{Cl}_X V)\subset A\cap (\operatorname{Cl}_X \tilde{V})\subset A\cap\tilde{U}=U $$ となる。以上から、命題 11.4により、$A$ は正則空間である。$\square$
命題 12.6 (正則性は直積空間に遺伝する)
正則空間からなる族 $(X_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}$ に対して、直積空間 $\prod_{\lambda\in\Lambda} X_\lambda$ は正則空間である。
証明
$X=\prod_{\lambda\in\Lambda} X_\lambda$ とおき、各 $\lambda\in\Lambda$ に対して $p_\lambda\colon X\to X_\lambda$ を射影とする。正則空間の定義により、各 $\lambda\in\Lambda$ に対して $X_\lambda$ は $T_1$ 空間であるから、命題 11.4により、直積空間 $X$ は $T_1$ 空間である。$X$ が正則空間であることを示すために命題 11.4を用いよう。$x\in X$ とし、$U$ を $x$ の $X$ における開近傍とする。すると、有限個の $\lambda_1,\ldots,\lambda_n\in\Lambda$ と $p_{\lambda_i}(x)$ の $X_{\lambda_i}$ における開近傍 $U_i\,(i=1,\ldots,n)$ が存在して $x\in\bigcap_{i=1}^n p_{\lambda_i}^{-1}(U_i)\subset U$ となる。各 $i=1,\ldots,n$ に対して $X_{\lambda_i}$ は正則空間だから、命題 11.4により、$p_{\lambda_i}(x)$ の $X_{\lambda_i}$ における開近傍 $V_i$ が存在して $\operatorname{Cl}_{X_{\lambda_i}} V_i\subset U_i$ となる。そこで、$V=\bigcap_{i=1}^n p_{\lambda_i}^{-1}(V_i)$ とおくと、$V$ は $x$ の $X$ における開近傍である。しかも、 $$ V\subset\bigcap_{i=1}^n p_{\lambda_i}^{-1}(\operatorname{Cl}_{X_{\lambda_i}}V_i) $$ であって $\bigcap_{i=1}^n p_{\lambda_i}^{-1}(\operatorname{Cl}_{X_{\lambda_i}}V_i)$ が $X$ の閉集合であることから、 $$ \operatorname{Cl}_X V\subset \bigcap_{i=1}^n p_{\lambda_i}^{-1}(\operatorname{Cl}_{X_{\lambda_i}}V_i)\subset \bigcap_{i=1}^n p_{\lambda_i}^{-1}(U_i)\subset U $$ となる。よって、命題 11.4により、$X$ は正則空間である。$\square$
正規空間については、命題 12.5や命題 12.6に対応する命題は成り立たない。つまり、正規空間の部分空間は必ずしも正規空間ではなく、正規空間の直積空間は必ずしも正規空間とはならない。これらのことを示す例は後で挙げる(例 12.19, 12.20)。しかし、正規空間の閉集合は正規空間であるといえる。
命題 12.7 (正規空間の閉集合は正規空間)
$X$ を正規空間とし、$F$ を $X$ を閉集合とする。このとき、$F$ は正規空間である。
証明
$F$ を正規空間 $X$ の閉集合とする。$X$ は $T_1$ 空間なので、命題 11.3により、$F$ は $T_1$ 空間である。$H_1,$ $H_2$ を $F$ の閉集合とする。$F$ は $X$ の閉集合だったので、$H_1,$ $H_2$ は $X$ の閉集合でもある。よって、$X$ の正規性により、$X$ の開集合 $U_1,$ $U_2$ であって $H_1\subset U_1,$ $H_2\subset U_2,$ $U_1\cap U_2=\emptyset$ となるものが存在する。$U'_i=U_i\cap F\,(i=1,2)$ とおけば $U'_i$ は $F$ の閉集合で、$H_i\subset U'_i\,(i=1,2),$ $U'_1\cap U'_2=\emptyset$ である。これで、$F$ が正規空間であることが示された。$\square$
命題 12.8 (正規空間であることの言い換え)
$X$ を $T_1$ 空間とするとき、次は同値である。
- (1) $X$ は正規空間である。
- (2) $X$ の閉集合 $F$ と開集合 $U$ に対して $F\subset U$ ならば、$X$ の開集合 $V$ で $F\subset V$ かつ $\operatorname{Cl} V\subset U$ となるものが存在する。
- (3) $X$ の開集合 $U_1,$ $U_2$ に対して $X=U_1\cup U_2$ ならば、$F_1\subset U_1,$ $F_2\subset U_2$ となる $X$ の閉集合 $F_1,$ $F_2$ で $X=F_1\cup F_2$ となるものが存在する。
証明
(1)$\Leftrightarrow$(2) の証明は命題 12.4とまったく同様なので、省略する。
(1)$\Rightarrow$(3) を示す。$X$ を正規空間とし、$X$ の開集合 $U_1,$ $U_2$ に対して $X=U_1\cup U_2$ とする。$H_i=X\setminus U_i\,(i=1,2)$ とすれば、$H_i$ は閉集合で、$H_1\cap H_2=\emptyset$ である。よって、$X$ の正規性により $H_i\subset V_i$ となる開集合 $V_i\,(i=1,2)$ で $V_1\cap V_2=\emptyset$ となるものが存在する。このとき、$F_i=X\setminus V_i\,(i=1,2)$ とおけば $F_i$ は閉集合で、$F_i\subset U_i,$ $F_1\cup F_2=X$ である。
(3)$\Rightarrow$(1) を示す。$T_1$ 空間 $X$ が(3)を満たすとする。$X$ の正規性を示すため、$H_1,$ $H_2$ が $X$ の閉集合で $H_1\cap H_2=\emptyset$ を満たすとする。$U_i=X\setminus H_i\,(i=1,2)$ とおけば、$U_i$ は $X$ の開集合で $X=U_1\cup U_2$ である。よって、いま仮定している(3)により、$X$ の閉集合 $F_i\,(i=1,2)$ で $F_i\subset U_i,$ $F_1\cup F_2=X$ となるものが存在する。このとき $V_i=X\setminus F_i\,(i=1,2)$ とおけば $V_i$ は $X$ の開集合で $H_i\subset V_i,$ $V_1\cap V_2=\emptyset$ である。これで、$X$ の正規性が示された。$\square$
距離空間が正規空間となることを示すため、準備として次の定義をする。
定義 12.9 (距離空間における点と集合との距離)
$(X, d)$ を距離空間、$x\in X$ とし、$A$ を $X$ の空でない部分集合とする。このとき、 $$ d(x, A)=\inf\{d(x,y)\,|\,y\in A\} $$ と定義し、これを $x$ と $A$ との距離という。定義から、常に $d(x, A)\geq 0$ である。
命題 12.10 (距離がゼロであることと閉包の点であることは同値)
$(X, d)$ を距離空間、$x\in X$ とし、$A$ を $X$ の空でない部分集合とする。このとき、次は同値である。
- (1) $d(x, A)=0$
- (2) $x\in\operatorname{Cl}_X A$
とくに、$A$ が $X$ の閉集合である場合は、$d(x, A)=0$ であることと $x\in A$ は同値である。
証明
(1)$\Rightarrow$(2) を示す。$d(x, A)=0$ とすると、各 $n\in\mathbb{N}$ に対して、$y_n\in A$ であって $d(x, y_n) \lt 1/n$ となるものが選べる。すると、$(y_n)_{n=1}^\infty$ は $A$ の点列であって、$x$ に収束する。よって、命題 4.7により、$x\in\operatorname{Cl}_X A$ である。
(2)$\Rightarrow$(1) を示す。$x\in\operatorname{Cl}_X A$ とすると、命題 4.7により、$A$ の点列 $(y_n)_{n=1}^\infty$ であって $x$ に収束するものが存在する。任意に $\varepsilon>0$ を与える。すると、ある $n\in\mathbb{N}$ に対して $d(x,y_n) \lt \varepsilon$ である。このとき $y_n\in A$ により $0\leq d(x, A)\leq d(x, y_n) \lt \varepsilon$ である。これが任意の $\varepsilon>0$ について成り立つので、$d(x, A)=0$ である。
$A$ が $X$ の閉集合である場合は $A=\operatorname{Cl}_X A$ であるから、最後の主張も成り立つ。$\square$
命題 12.11 (集合からの距離関数の連続性)
$(X, d)$ を距離空間とし、$A$ を $X$ の空でない部分集合とする。関数 $d_A\colon X\to\mathbb{R}$ を $$ d_A(x)=d(x, A) $$ で定義すると、$d_A$ は連続である。
証明
$x, x'\in X$ と $y\in A$ に対して、$d(x,A)\leq d(x,y)\leq d(x,x')+d(x',y)$ であるので、$d(x,A)-d(x,x')\leq d(x',y)$ である。 これが任意の $y\in A$ に対して成り立つので、$d(x, A)-d(x,x')\leq d(x', A)$ である。 したがって、$d(x,A)-d(x',A)\leq d(x,x')$ である。同様にして、$d(x',A)-d(x,A)\leq d(x,x')$ も成り立つので、 任意の $x, x'\in X$ に対して $$ \abs{d_A(x)-d_A(x')} = \abs{d(x,A)-d(x',A)} \leq d(x,x') $$ である。
この不等式を用いれば、$d_A$ の連続性は命題 5.9からすぐに導かれる。念のため、詳細を述べる。 $x\in X,$ $\varepsilon>0$ を任意に与える。$\delta=\varepsilon$ とおくと、$d(x,x') \lt \delta$ となる任意の $x'\in X$ に対して、上の不等式により $$ \abs{d_A(x)-d_A(x')} \leq d(x,x') \lt \delta = \varepsilon $$ となる。よって、命題 5.9により $d_A$ は連続である。$\square$
命題 12.12 (距離空間の正規性)
距離空間は正規空間である。
証明
$(X, d)$ を距離空間とする。命題 11.6により $X$ はHausdorff空間なので、$T_1$ 空間となる。$X$ の正規性を示すため、$F,$ $H$ を $X$ の閉集合で $F\cap H=\emptyset$ となるものとする。このとき、$X$ の開集合 $U,$ $V$ で $F\subset U,$ $H\subset V,$ $U\cap V=\emptyset$ となるものが存在することを示したい。もし、$F=\emptyset$ ならば、$U=\emptyset,$ $V=X$ とすればよいので、$F\neq\emptyset$ であるとしてよい。同様に、$H\neq\emptyset$ であるとしてよいことも分かる。$x\in X$ に対して、 命題 12.10により、$d(x, F)=0$ となるのは $x\in F$ のときに限り、$d(x, H)=0$ となるのは $x\in H$ のときに限る。ところが、$F\cap H=\emptyset$ であったから、任意の $x\in X$ に対して $d(x, F)+d(x, H)>0$ であることが分かる。このことに注意すると、関数 $f\colon X\to\mathbb{R}$ を $$ f(x)=\frac{d(x,F)}{d(x,F)+d(x,H)} $$ で定義でき、しかも命題 12.11により $f$ は連続となる。定義から、$x\in F$ のとき $f(x)=0$ であり、$x\in H$ のとき $f(x)=1$ となるので、$U=f^{-1}( (-\infty,1/2) ),$ $V=f^{-1}( (1/2,+\infty) )$ とおけば $F\subset U,$ $H\subset V$ であり、$U,$ $V$ は $X$ の開集合で $U\cap V=\emptyset$ となる。以上で、$X$ の正規性が示された。$\square$
正規空間において有限開被覆が「縮められる」ことを述べた次の命題は、しばしば有効に用いられる。
命題 12.13 (正規空間の有限開被覆は縮められる)
$X$ を正規空間とし、$\{U_1,\ldots, U_n\}$ を $X$ の開被覆とする。このとき、$X$ の開被覆 $\{V_1,\ldots, V_n\}$ であって、各 $i=1,\ldots,n$ に対して $\operatorname{Cl} V_i\subset U_i$ を満たすものが存在する。
証明
$\{U_1,\ldots, U_n\}$ を正規空間 $X$ の開被覆とする。$F_1=X\setminus(U_2\cup U_3\cup\cdots\cup U_n)$ とおくと $F_1$ は $X$ の閉集合で $F_1\subset U_1$ を満たす。よって命題 12.8により $X$ の開集合 $V_1$ であって $F_1\subset V_1$ かつ $\operatorname{Cl} V_1\subset U_1$ となるものが存在する。すると、$\{V_1, U_2, U_3,\ldots, U_n\}$ は $X$ の開被覆である。次に、$F_2=X\setminus(V_1\cup U_3\cup\cdots\cup U_n)$ とおくと $F_2$ は $X$ の閉集合で $F_2\subset U_2$ を満たす。よって命題 12.8により $X$ の開集合 $V_2$ であって $F_2\subset V_2$ かつ $\operatorname{Cl} V_2\subset U_2$ となるものが存在する。すると、$\{V_1, V_2, U_3,\ldots, U_n\}$ は $X$ の開被覆である。この操作を $n$ 回繰り返すことで、$X$ の開被覆 $\{V_1, V_2,\ldots, V_n\}$ であって各 $i=1,\ldots, n$ に対して $\operatorname{Cl} V_i\subset U_i$ であるようなものが得られる。$\square$
距離空間に加えて、コンパクトHausdorff空間も正規空間となる。
定理 12.14 (コンパクトHausdorff空間は正規)
コンパクトHausdorff空間は正規空間である。
証明
$X$ をコンパクトHausdorff空間とし、$F,$ $H$ を $X$ の閉集合とする。命題 9.9により、$F,$ $H$ はコンパクトである。$X$ はHausdorff空間なので、 定理 11.21により、$X$ の開集合 $U,$ $V$ であって $F\subset U,$ $H\subset V,$ $U\cap V=\emptyset$ となるものが存在する。$\square$
次のUrysohnの補題は正規空間の重要性を示すものである。これは正規空間に交わらない二つの閉集合が与えられたとき、それらを「連続関数により分離」することができるということを主張する。
定理 12.15 (Urysohnの補題)
$X$ を $T_1$ 空間とするとき、次は同値である。
- (1) $X$ は正規空間である。
- (2) $X$ の閉集合 $F,$ $H$ に対して $F\cap H=\emptyset$ ならば、連続関数 $f\colon X\to [0,1]$ が存在して、任意の $x\in F$ に対して $f(x)=0$ となり、任意の $x\in H$ に対して $f(x)=1$ となる。
証明
まず、(2)$\Rightarrow$(1) を示す。$T_1$ 空間 $X$ が(2)を満たすとし、$X$ の閉集合 $F,$ $H$ が $F\cap H=\emptyset$ を満たすとする。このとき (2) により連続関数 $f\colon X\to [0,1]$ で $x\in F$ のとき $f(x)=0$ となり $x\in H$ のとき $f(x)=1$ となるものが存在する。$U=f^{-1}( [0,1/2) ),$ $V=f^{-1}( (1/2,1] )$ とおけば $U,$ $V$ は $X$ の開集合で、$F\subset U,$ $H\subset V,$ $U\cap V=\emptyset$ となる。したがって、$X$ は正規空間である。
次に、(1)$\Rightarrow$(2) を示す。$X$ を正規空間とし、$X$ の閉集合 $F,$ $H$ が $F\cap H=\emptyset$ を満たすとする。 $D$ を、有限な二進小数表示をもつ有理数全体とする。すなわち、 $$ D=\left\{\frac{m}{2^n}\,\big|\,m\in\mathbb{Z},\,n\in\mathbb{N}\right\} $$ とする。以下では、各 $r\in D$ に対して $X$ の開集合 $U_r$ を定める。まず、$U_1=X\setminus H$ とする。命題 12.8を用いて、$X$ の開集合 $U_0$ を $F\subset U_0\subset \operatorname{Cl} U_0\subset U_1$ となるように取る。再び、命題 12.8を用いて、$X$ の開集合 $U_{1/2}$ を $$ \operatorname{Cl} U_0\subset U_{1/2}\subset\operatorname{Cl} U_{1/2}\subset U_1 $$ となるように取る。さらに命題 12.8を用いて、$X$ の開集合 $U_{1/4},$ $U_{3/4}$ を $$ \begin{gathered} \operatorname{Cl} U_0\subset U_{1/4}\subset\operatorname{Cl} U_{1/4}\subset U_{1/2},\\ \operatorname{Cl} U_{1/2}\subset U_{3/4}\subset\operatorname{Cl} U_{3/4}\subset U_1 \end{gathered} $$ となるように取る。一般に、$U_{i/2^n}\,(i=1,\ldots, 2^n-1)$ が $$ \operatorname{Cl} U_{(i-1)/2^n}\subset U_{i/2^n}\subset\operatorname{Cl} U_{i/2^n}\subset U_{(i+1)/2^n} $$ が満たされるように定義されたとき、$X$ の開集合 $U_{(2i-1)/2^{n+1}}\,(i=1,\ldots,2^n)$ を、命題 12.8を用いて $$ \operatorname{Cl} U_{(i-1)/2^n}=\operatorname{Cl} U_{(2i-2)/2^{n+1}}\subset U_{(2i-1)/2^{n+1}}\subset\operatorname{Cl} U_{(2i-1)/2^{n+1}} \subset U_{2i/2^{n+1}}=U_{i/2^n} $$ となるように取る。
この帰納的な構成により、$0\leq r\leq 1$ であるようなすべての $r\in D$ に対して $U_r$ が定まる。さらに、$r \lt 0$ のときは $U_r=\emptyset$ とし、$r>1$ のときは $U_r=X$ とすれば、すべての $r\in D$ に対して $U_r$ が定まり、 $$ r, r'\in D,\, r \lt r'\text{ のとき }\operatorname{Cl} U_r\subset U_{r'}\quad(\star) $$ を満たす。
さて、関数 $f\colon X\to [0,1]$ を次で定める。$x\in X$ に対して集合 $D(x)$ を $$ D(x)=\{r\in D\,|\,x\in U_r\} $$ で定め、$f(x)$ を $$ f(x)=\inf D(x)=\inf \{r\in D\,|\,x\in U_r\} $$ により定義する。$x\in X$ を固定するとき、集合 $D(x)$ には $1$ より大きい実数はすべて属しており、$0$ より小さい実数は属していないので、下限の定義により $0\leq f(x)\leq 1$ である。これが任意の $x\in X$ に対して成り立つので、$f$ は確かに $[0,1]$ に値をもつ写像となっている。この $f$ が求める連続写像であることを以下では示していく。
$x\in F$ のとき $f(x)=0$ となることを示そう。$x\in F$ を任意に与える。$F\subset U_0$ であったから、$x\in U_0$ すなわち $0\in D(x)$ であるから、$f(x)=\inf D(x)\leq 0$ であり、したがって、$f(x)=0$ である。
次に、$x\in H$ のとき $f(x)=1$ となることを示そう。$x\in H$ を任意に与える。$U_1=X\setminus H$ であったから、$(\star)$ により $r\leq 1$ であるような任意の $r\in D$ に対して $x\notin U_r$ である。したがって、$D(x)\subset (1,+\infty)$ なので $1$ は $D(x)$ の下界の一つであり、よって $f(x)=\inf D(x)\geq 1$ だから $f(x)=1$ である。
あとは、$f$ の連続性を示せばよい。そのためには、命題 5.15により、 $\mathbb{R}$ の任意の開区間 $V$ に対して、$f^{-1}(V)$ が $X$ の開集合であることを示せばよい。そのため、$V=(a, b)$ を開区間とし、$x\in f^{-1}(V)$ とする。このとき、$x$ の開近傍 $W$ であって、$W\subset f^{-1}(V)$ となるものが存在することを示せばよい。いま、$a \lt f(x) \lt b$ であるので、ある $p, q\in D$ であって $a \lt p \lt f(x) \lt q \lt b$ となるものが存在する。$W=U_q\setminus\operatorname{Cl} U_p$ とおこう。$W$ は $X$ の開集合である。あとは、(1) $x\in W$ であること、および (2) $W\subset f^{-1}(V)$ であることを示せばよい。
(1) を示そう。いま $\inf D(x)=f(x) \lt q$ であるので、ある $q' \lt q$ となる $q'\in D$ が存在して $x\in U_{q'}$ である。したがって、$(\star)$ により $x\in U_q$ である。また、$p \lt p' \lt f(x)$ となるような $p'\in D$ を取れば、$p' \lt f(x)=\inf D(x)$ により $x\notin U_{p'}$ であるが、一方 $(\star)$ より $\operatorname{Cl} U_p\subset U_{p'}$ であるので $x\notin \operatorname{Cl} U_p$ である。以上から、$x\in U_q\setminus\operatorname{Cl} U_p=W$ である。
次に (2) を示そう。$W\subset f^{-1}(V)$ を示すため、任意に $x'\in W=U_q\setminus \operatorname{Cl} U_p$ を与える。いま、$x'\in U_q$ であるから、$q\in D(x')$ であり、したがって、$f(x)=\inf D(x')\leq q$ である。次に、$x'\notin\operatorname{Cl} U_p$ であるから、$x'\notin U_p$ であり、よって $(\star)$ により $r\leq p$ であるような任意の $r\in D$ に対して $x'\notin U_r$ となる。したがって、$D(x')\subset (p, +\infty)$ だから $p\leq\inf D(x')=f(x')$ である。以上から、$p\leq f(x')\leq q$ なので、$a \lt f(x') \lt b$ すなわち $x'\in f^{-1}( (a,b) )=f^{-1}(V)$ である。 これで $W\subset f^{-1}(V)$ が示された。
これで $f\colon X\to [0,1]$ が連続であることが分かり、定理の証明が終わった。$\square$
次に、正規空間の閉集合で定義された実数値連続関数が、空間全体で定義された連続関数に拡張できるというTietzeの拡張定理を証明しよう。その準備のため、連続関数の一様収束についての命題を示しておく。
$X$ を位相空間とし、$f_n\colon X\to\mathbb{R}\,(n\in\mathbb{N})$ を関数とする。このとき、関数列 $(f_n)_{n=1}^\infty$ が関数 $f\colon X\to\mathbb{R}$ に一様収束する(uniformly convergent)とは、任意の $\varepsilon>0$ に対して、$N\in\mathbb{N}$ が存在して $n\geq N$ のときは常に任意の $x\in X$ に対して $|f_n(x)-f(x)| \lt \varepsilon$ となることをいう。
命題 12.16 (連続関数の一様収束極限は連続)
$X$ を位相空間、$(f_n)_{n=1}^\infty$ を連続関数 $f_n\colon X\to\mathbb{R}$ からなる列とする。$(f_n)_{n=1}^\infty$ が関数 $f\colon X\to\mathbb{R}$ に一様収束するならば、$f$ は連続である。
証明
連続関数 $f_n\colon X\to\mathbb{R}$ の列 $(f_n)_{n=1}^\infty$ が $f\colon X\to\mathbb{R}$ に一様収束するとする。このとき、$f$ が連続であることを示そう。$x_0\in X$ を任意に与える。このとき $f$ が $x_0$ において連続であることを示せばよい。そこで、任意の $\varepsilon>0$ を与える。このとき、$x_0$ の $X$ における開近傍 $U$ であって、任意の $x\in U$ に対して $|f(x)-f(x_0)| \lt \varepsilon$ となるものが存在することを示せばよい。
まず、一様収束の定義により、ある $N\in\mathbb{N}$ が存在して、$n\geq N$ のとき常に任意の $x\in X$ に対して $|f_n(x)-f(x)| \lt \varepsilon/3$ となる。したがって、とくに $n=N$ として、任意の $x\in X$ に対して $|f_N(x)-f(x)| \lt \varepsilon/3$ となる。
次に、$f_N$ は連続であるから、とくに $x_0$ において連続である。したがって、$x_0$ の開近傍 $U$ が存在して、任意の $x\in U$ に対して $|f_N(x)-f_N(x_0)| \lt \varepsilon/3$ となる。以上から、任意の $x\in U$ に対して、 $$ \begin{aligned} \abs{f(x)-f(x_0)} & \leq \abs{f(x)-f_N(x)} + \abs{f_N(x)-f_N(x_0)} + \abs{f_N(x_0)-f(x_0)} \\ & \lt \varepsilon/3+\varepsilon/3+\varepsilon/3=\varepsilon \end{aligned} $$ である。これで求める $x_0$ の開近傍 $U$ が得られ、$f$ の $x_0$ における連続性が示された。$x_0\in X$ は任意であったから、$f$ の連続性が示された。$\square$
定理 12.17 (Tietzeの拡張定理)
$X$ を正規空間、$F$ を $X$ の閉集合とし、$f\colon F\to [a, b]$ を閉区間 $[a, b]=\{t\in\mathbb{R}\,|\,a\leq t\leq b\}$ への連続関数とする($-\infty \lt a \lt b \lt +\infty$)。このとき、連続関数 $\tilde{f}\colon X\to [a, b]$ であって $\tilde{f}|_F=f$ となるものが存在する。
証明
記法を簡単にするため、$[a, b]=[-1, 1]$ の場合に証明する。どんな閉区間 $[a, b]$ も $[-1, 1]$ と同相だから、この特別な場合から一般の場合はすぐに導かれる。
まず、次のことに注意しておく。$c>0$ とするとき、連続関数 $f_0\colon F\to\mathbb{R}$ が任意の $x\in F$ に対して $|f_0(x)|\leq c$ を満たすならば、連続関数 $g\colon X\to\mathbb{R}$ であって、 $$ \abs{g(x)} \leq\frac{1}{3}c\quad(x\in X)\qquad(\star) $$ および $$ \abs{f_0(x)-g(x)} \leq\frac{2}{3}c\quad(x\in F)\qquad(\star\star) $$ を満たすものが存在する。このことを示すため、$A=f_0^{-1}([-c,-c/3]),$ $B=f_0^{-1}([c/3,c])$ とおく。$A,$ $B$ は $F$ の閉集合だから、$X$ の閉集合である。しかも、$A\cap B=\emptyset$ である。よって、Urysohn の補題(定理 12.15)により、連続関数 $k\colon X\to [0,1]$ であって $x\in A$ のとき $k(x)=0$ であり $x\in B$ のとき $k(x)=1$ となるようなものが存在する。このとき、連続関数 $g\colon X\to\mathbb{R}$ を $$ g(x)=\frac{2}{3}c\left(k(x)-\frac{1}{2}\right) $$ により定めれば、$(\star)$ が成り立つことは直ちに分かる。$(\star\star)$ を場合分けによって確かめよう。$x\in A$ の場合は $f_0(x)\in[-c, -c/3],$ $g(x)=-c/3$ だから $|f_0(x)-g(x)|\leq 2c/3$ であり、$x\in B$ の場合は $f_0(x)\in [c/3, c],$ $g(x)=c/3$ だから $|f_0(x)-g(x)|\leq 2c/3$ である。残る $x\in F\setminus (A\cup B)$ の場合は、$f_0(x)\in (-c/3, c/3),$ $g(x)\in [-c/3, c/3]$ であるからやはり $|f_0(x)-g(x)|\leq 2c/3$ である。これで、$(\star\star)$ も確かめられた。
さて、$f\colon F\to [-1,1]$ を連続関数とする。連続関数 $g_n\colon X\to\mathbb{R}\,(n\in\mathbb{N})$ を $$ \abs{g_n(x)} \leq\frac{1}{3}\left(\frac{2}{3}\right)^{n-1}\quad(x\in X)\qquad(\sharp) $$ および $$ \abs{f(x)-\sum_{i=1}^n g_i(x)} \leq \left(\frac{2}{3}\right)^n\quad(x\in F)\qquad(\sharp\sharp) $$ を満たすように、帰納的に構成する。$g_1$ を得るには、前段落の注意を、$f_0=f,$ $c=1$ の場合に適用すればよい。$g_1,\ldots, g_n$ がすでに定義され、$(\sharp)$ および $(\sharp\sharp)$ を満たしているとしよう。前段落の注意を、$f_0=f-\sum_{i=1}^n g_i|_F$ および $c=(2/3)^n$ の場合に適用すれば、$g_{n+1}$ であって $(\sharp)$ および $(\sharp\sharp)$ を満たすものが得られる。これで、帰納的な構成が終わった。
$(\sharp)$ により、各 $x\in X$ に対して無限級数 $\sum_{n=1}^\infty g_n(x)=\lim_{n\to\infty} \sum_{i=1}^n g_i(x)$ は収束するので、$\tilde{f}(x)=\sum_{n=1}^\infty g_n(x)$ と定義する。このとき、 $$ \abs{\tilde{f}(x)} = \abs{\sum_{n=1}^\infty g_n(x)} \leq\sum_{n=1}^\infty \abs{g_n(x)} \leq\sum_{n=1}^\infty \frac{1}{3}\left(\frac{2}{3}\right)^{n-1}=1 $$ となるから、写像 $\tilde{f}\colon X\to [-1,1]$ が定まる。しかも各 $x\in X,$ $n\in\mathbb{N}$ に対して $$ \abs{\tilde{f}(x)-\sum_{i=1}^n g_i(x)} \leq \sum_{i=n+1}^\infty \abs{g_i(x)} \leq\sum_{i=n+1}^\infty \frac{1}{3}\left(\frac{2}{3}\right)^{i-1}=\left(\frac{2}{3}\right)^n $$ であり、この最右辺は $x$ に依存せず $n\to\infty$ のとき $0$ に収束することから、 連続関数列 $(\sum_{i=1}^n g_i(x))_{n=1}^\infty$ は $\tilde{f}$ に一様収束することが分かる。よって命題 12.16により、$\tilde{f}\colon X\to [-1,1]$ は連続である。 さらに、$(\sharp\sharp)$ において $n\to\infty$ とすると、$x\in F$ のとき $f(x)=\tilde{f}(x)$ であることが分かる。このことは $\tilde{f}|_F=f$ を意味している。以上で定理は証明された。$\square$
上で述べたTietzeの拡張定理は、閉区間 $[a, b]$ に値をとる連続関数についての主張であったが、$\mathbb{R}$ に値をとる連続関数についても同様のことが成り立つ。
定理 12.18 ($\mathbb{R}$ に値をとる関数に対する Tietze の拡張定理)
$X$ を正規空間、$F$ を $X$ の閉集合とし、$f\colon F\to\mathbb{R}$ を連続関数とする。このとき、連続関数 $\tilde{f}\colon X\to \mathbb{R}$ であって $\tilde{f}|_F=f$ となるものが存在する。
証明
$f\colon F\to\mathbb{R}$ を、正規空間 $X$ の閉集合 $F$ で定義された連続関数とする。同相写像 $h\colon \mathbb{R}\to (-1,1)$ を一つ取り固定する。たとえば、そのような $h$ としては、 $$ h(x)=\frac{x}{1+\abs x}\quad(x\in\mathbb{R}) $$ で定義されるものがある。実際、この $h$ の逆写像 $h^{-1}\colon (-1,1)\to\mathbb{R}$ は $$ h^{-1}(y)=\frac{y}{1-\abs y} $$ で定義され、$h,$ $h^{-1}$ はともに連続である。$g=h\circ f\colon X\to (-1,1)$ とする。$g$ を $[-1,1]$ への連続写像であると見なし、これにさきほど示したTietzeの拡張定理(定理 12.17)を用いると、連続関数 $\tilde{g}\colon X\to [-1,1]$ であって $\tilde{g}|_F=g$ となるものが得られる。このとき、任意の $x\in F$ に対して $\tilde{g}(x)=g(x)=h(f(x))\in(-1,1)$ であるので、$H=\tilde{g}^{-1}(\{1, -1\})$ とおくと $F\cap H=\emptyset$ であり、$H$ は $X$ の閉集合である。よって、Urysohnの補題(定理 12.15)により、ある連続関数 $\alpha\colon X\to [0,1]$ であって、$x\in F$ のとき $\alpha(x)=1$ であり、$x\in H$ のとき $\alpha(x)=0$ であるようなものが存在する。そこで、連続関数 $\tilde{f}_0\colon X\to\mathbb{R}$ を $$ \tilde{f}_0(x)=\alpha(x)\tilde{g}(x) $$ で定めると、任意の $x\in X$ に対して $\tilde{f}_0(x)\in (-1,1)$ である。実際、$x\in H$ のときは $\alpha(x)=0$ により $\tilde{f}_0(x)=0$ であり、$x\in X\setminus H$ のときは $\alpha(x)\in [0,1],$ $\tilde{g}(x)\in (-1,1)$ により $\tilde{f}_0(x)=\alpha(x)\tilde{g}(x)\in (-1,1)$ となるからである。したがって、$\tilde{f}_0$ を $(-1,1)$ への連続写像 $\tilde{f}_0\colon X\to (-1,1)$ と考えることができる。そこで、連続関数 $\tilde{f}\colon X\to \mathbb{R}$ を $$ \tilde{f}=h^{-1}\colon\tilde{f}_0 $$ により定義すると、これは、$\tilde{f}|_F=f$ を満たしている。実際、$x\in F$ とすると、$\alpha(x)=1$ であるので、$\tilde{f}_0(x)=\alpha(x)\tilde{g}(x)=1\cdot g(x)=g(x)=h(f(x))$ であり、したがって $\tilde{f}(x)=h^{-1}\circ\tilde{f}_0(x)=f(x)$ となるからである。これで、定理は証明された。$\square$
最後に、二つの例を挙げる。一つ目の例は、正規空間の部分空間が正規空間とならない例である。これは正則空間であるが正規空間でないものの例も与えている。
例 12.19 (正規空間の部分空間が正規とならない例、正則だが正規でない空間の例)
正規空間 $X$ とその正規でない部分空間 $Y$ の例を挙げよう。 $I=J=[0,1]$ とし、$I$ の位相は通常の $[0, 1]$ の位相($\mathbb{R}$ からの相対位相)とする。したがって、$I$ はコンパクトHausdorff空間である。$J$ の位相を定めるため $$ \mathcal{O}_J=\{[0,1]\setminus F\,|\,F\text{ は }(0,1]\text{ の有限部分集合 }\}\cup\mathcal{P}((0,1]) $$ とおく。ここで、$\mathcal{P}((0,1])$ は $(0,1]$ の冪集合、すなわち $(0,1]$ の部分集合全体の集合を表す。 $\mathcal{O}_J$ が開集合系の公理を満たすことはすぐに確かめられるので、$J$ に $\mathcal{O}_J$ を開集合系として位相を定める。このとき、$J$ もコンパクトHausdorff空間になることがやはり簡単に確かめられる。
$X=I\times J$ とする。$I$ も $J$ もコンパクトHausdorff空間であるから、 定理 9.18と命題 11.4により $X$ はコンパクトHausdorff空間であり、したがって定理 12.14により $X$ は正規空間である。
$Y=X\setminus\{(0,0)\}$ とする。以下では $Y$ が正規空間ではないことを示す。$\tilde{A}=I\times\{0\},$ $\tilde{B}=\{0\}\times J$ はそれぞれ $X$ の閉集合である。よって、$A=\tilde{A}\cap Y= (0,1]\times\{0\}$ および $B=\tilde{B}\cap Y=\{0\}\times (0,1]$ は $Y$ の閉集合である。このとき、$Y$ の開集合 $U,$ $V$ であって $A\subset U,$ $B\subset V,$ $U\cap V=\emptyset$ となるものが存在しないことを示そう。
そこで、$A\subset U,$ $B\subset V$ となる $Y$ の開集合 $U,$ $V$ を任意に与える。$Y$ は $X$ の開集合なので、$U,$ $V$ は $X$ の開集合でもある。各 $x\in (0,1]$ に対して、$V$ は点 $(0,x)$ の $X=I\times J$ における開近傍なので、$n_x\in\mathbb{N}$ を $[0,1/n_x)\times\{x\}\subset V$ であるように選べる。そこで、各 $n\in\mathbb{N}$ に対して $J_n=\{x\in (0,1]\,|\, n_x=n\}$ とおけば、 $$ \bigcup_{n=1}^\infty J_n=(0,1] $$ である。もし、すべての $n\in\mathbb{N}$ に対して $J_n$ が有限であれば、上の式から $(0,1]$ は高々可算でなければならず、$(0,1]$ が非可算集合であることに矛盾する。したがって、ある $n$ に対して、$J_n$ は無限集合となる。さて、この $n$ に対して、$(1/2n, 0)\in A$ なので、$U$ は $(1/2n, 0)$ の $X=I\times J$ における近傍である。よって、ある $\varepsilon>0$ と有限集合 $F\subset (0,1]$ が存在して、 $$ (1/2n-\varepsilon, 1/2n+\varepsilon)\times([0,1]\setminus F)\subset U $$ である。$J_n$ は無限集合で $F$ は有限集合であるから、$x\in J_n\setminus F$ が存在するが、この $x$ に対して、$(1/2n, x)\in U\cap V$ である。実際、$x\in [0,1]\setminus F$ であるから $(1/2n, x)\in U$ であることは上の式から明らかである。また、$x\in J_n$ により $n_x=n$ であるから、$[0, 1/n)\times\{x\}\subset V$ であり、したがって $(1/2n, x)\in V$ も成り立つ。以上により、$(1/2n, x)\in U\cap V$ であるから、$U\cap V\neq\emptyset$ である。これで、$A\subset U,$ $B\subset V,$ $U\cap V=\emptyset$ となる $Y$ の開集合 $U,$ $V$ は存在しないことが示された。よって、$Y$ は正規空間ではない。
なお、この $Y$ は正則空間だが正規空間ではないものの例にもなっている。実際、$X$ は正規空間、したがって正則空間となるので、命題 12.5により、その部分空間 $Y$ も自動的に正則空間となるからである。$\square$
次の例は、正規空間の直積空間が正規空間にならない例である。この例の説明では、集合の濃度についての多少の知識を仮定する。集合 $X$ の濃度を $|X|$ で表す。また、位相空間 $X,$ $Y$ に対して、$X$ から $Y$ への連続写像全体の集合を $C(X, Y)$ で表し、集合 $S,$ $T$ に対して、$S$ から $T$ への写像全体の集合を $T^S$ で表す。
例 12.20 (正規空間の直積が正規でない例)
$\mathbb{S}$ をSorgenfrey直線(例 3.12)とする。まず、$\mathbb{S}$ が正規空間となることを証明しよう。そのため、まず次の事実に注意する。半開区間 $[a, b),$ $[c, d)$ について $[a, b)\cap [c, d)\neq\emptyset$ ならば、$a\in [c, d)$ または $c\in [a, b)$ である。このことは、簡単な場合分けによって示されるので、証明を省略する。
$\mathbb{S}$ の正規性を示すため、$F,$ $H$ を $\mathbb{S}$ の閉集合とし、$F\cap H=\emptyset$ であるとする。このとき、各 $x\in F$ に対して、$\mathbb{S}\setminus H$ は $x$ の $\mathbb{S}$ における開近傍であるから、$r_x>0$ を $[x, x+r_x)\cap H=\emptyset$ であるように選べる。同様に、各 $y\in H$ に対して、$\mathbb{S}\setminus F$ は $y$ の $\mathbb{S}$ における開近傍であるから、$s_y>0$ を $[y, y+s_y)\cap F=\emptyset$ であるように選べる。$U=\bigcup_{x\in F} [x, x+r_x),$ $V=\bigcup_{y\in H} [y, y+s_y)$ は $\mathbb{S}$ の開集合であり、$F\subset U,$ $H\subset V$ を満たす。もし、$U\cap V\neq\emptyset$ であったとすれば、ある $x\in F$ と $y\in H$ に対して $[x, x+r_x)\cap [y, y+s_y)\neq\emptyset$ であるが、ここで前段落で述べた事実を使うと、$x\in [y, y+s_y)$ または $y\in [x, x+r_x)$ となることが分かる。ところが、前者の場合は $F\cap [y, y+s_y)\neq\emptyset$ となって $s_y$ の取り方に矛盾し、後者の場合は $[x, x+r_x)\cap H\neq\emptyset$ となって $r_x$ の取り方に矛盾する。いずれにしても矛盾するから、$U\cap V=\emptyset$ である。これで、$\mathbb{S}$ が正規空間であることが示された。
$\mathbb{S}$ を二つ直積したもの $\mathbb{S}^2=\mathbb{S}\times\mathbb{S}$ を考える。以下では $\mathbb{S}^2$ が正規空間とならないことを示す。これが言えれば、正規空間同士の直積が正規空間でない例が得られたことになる。
この証明では $\mathbb{S}^2$ 上の実数値連続関数全体の集合 $C(\mathbb{S}^2, \mathbb{R})$ の濃度に着目する。まず、この濃度を上から評価するため、有理点全体の集合 $\mathbb{Q}^2=\mathbb{Q}\times\mathbb{Q}\subset \mathbb{S}^2$ に注目する。$\mathbb{Q}$ は可算集合であるから、$\mathbb{Q}^2$ は可算集合である。また、$\mathbb{Q}^2$ は $\mathbb{S}^2$ において稠密である(このことは、半開区間 $[a, b)$ が必ずある有理数を要素にもつことに着目すれば示せる)。したがって、$\mathbb{R}$ がHausdorff空間であることに注意すると、 命題 11.9から次が分かる。「連続関数 $f, g\colon \mathbb{S}^2\to\mathbb{R}$ に対して $f|_{\mathbb{Q}^2}=g|_{\mathbb{Q}^2}$ ならば $f=g$ である。」このことは、写像 $\rho\colon C(\mathbb{S}^2, \mathbb{R})\to C(\mathbb{Q}^2, \mathbb{R})$ を $\rho(f)=f|_{\mathbb{Q}^2}$ で定義するとき、$\rho$ が単射であることを意味している。このような単射が存在することは、濃度についての不等式 $$ \cardinal{C(\mathbb{S}^2, \mathbb{R})}\leq \cardinal{C(\mathbb{Q}^2, \mathbb{R})} $$ が成立することを意味する。ところで、$\mathbb{Q}^2$ から $\mathbb{R}$ への連続写像全体の集合 $C(\mathbb{Q}^2, \mathbb{R})$ は $\mathbb{Q}^2$ から $\mathbb{R}$ への(連続とは限らない)写像全体の集合 $\mathbb{R}^{\mathbb{Q}^2}$ に含まれるから、 $$ \cardinal{C(\mathbb{Q}^2, \mathbb{R})}\leq \cardinal{\mathbb{R}^{\mathbb{Q}^2} } $$ である。ところで、$\mathbb{Q}^2$ の濃度は可算無限濃度 $\aleph_0$ であり、$\mathbb{R}$ の濃度は $2^{\aleph_0}$ であるから、 $$ \cardinal{\mathbb{R}^{\mathbb{Q}^2} }=(2^{\aleph_0})^{\aleph_0}=2^{\aleph_0\cdot\aleph_0}=2^{\aleph_0} $$ となる。以上を合わせて、$|C(\mathbb{S}^2, \mathbb{R})|$ の上からの評価 $$ \cardinal{C(\mathbb{S}^2, \mathbb{R})} \leq 2^{\aleph_0}\qquad(\star) $$ が得られた。
さて、$|C(\mathbb{S}^2, \mathbb{R})|$ の下からの評価をつくるため、$\mathbb{S}^2$ の次の部分集合に着目する。 $$ A=\{(x,y)\in\mathbb{S}\times\mathbb{S}\,|\,x+y=0\} $$ すると、この $A$ は $\mathbb{S}^2$ の閉集合である。実際、$\mathbb{S}$ の位相は $\mathbb{R}$ の通常の位相より細かい(例 3.12)から、$\mathbb{S}^2$ の位相は $\mathbb{R}^2$ の通常の位相よりも細かい。$A$ は $\mathbb{R}^2$ の通常の位相について閉集合だから、より細かい $\mathbb{S}^2$ の位相についても閉集合になっている。
次に、$A$ を $\mathbb{S}^2$ の部分空間と考えると、これは離散空間となっている。これを見るため、点 $(x, -x)\in A$ を任意に与えよう。$(x, -x)$ の $\mathbb{S}^2$ における開近傍として $U=[x, x+1)\times [-x, -x+1)$ を取ると、$U\cap A=\{(x, -x)\}$ となるから、$\{(x, -x)\}$ は $A$ の開集合である。したがって、$A$ の任意の一点からなる部分集合は $A$ の開集合である。$A$ のどんな部分集合も、一点からなる集合の和集合として表されるから、$A$ の任意の部分集合は $A$ の開集合である。すなわち、$A$ は離散空間である。
$A$ は離散空間だから、$A$ から $\mathbb{R}$ への写像はすべて連続である。すなわち $C(A, \mathbb{R})=\mathbb{R}^A$ である。また、$A$ から $\mathbb{R}$ へは $(x, -x)\mapsto x$ により定まる全単射があるから、$A$ の濃度は $\mathbb{R}$ の濃度と同じで $2^{\aleph_0}$ である。以上から、 $$ \cardinal{C(A, \mathbb{R})}=\cardinal{\mathbb{R}^A}=(2^{\aleph_0})^{2^{\aleph_0}}=2^{\aleph_0\cdot 2^{\aleph_0}}=2^{2^{\aleph_0}} $$
を得る。いま、$\mathbb{S}^2$ が正規空間であったとすれば、Tietzeの拡張定理(定理 12.18)により、任意の連続写像 $f\colon A\to\mathbb{R}$ に対して連続写像 $E(f)\colon \mathbb{S}^2\to\mathbb{R}$ であって $E(f)|_{A}=f$ となるものが選べる。これにより写像 $E\colon C(A,\mathbb{R})\to C(\mathbb{S}^2, \mathbb{R})$ が得られるが、$E$ は単射である。実際、$f, g\in C(A, \mathbb{R})$ に対して $E(f)=E(g)$ であるとすると、$f=E(f)|_A=E(g)|_A=g$ となるからである。このような単射 $E$ が存在することは、 $$ \cardinal{C(A, \mathbb{R})}\leq\cardinal{C(\mathbb{S}^2,\mathbb{R})} $$ を意味する。以上から、 $$ \cardinal{C(\mathbb{S}^2, \mathbb{R})}\geq 2^{2^{\aleph_0}}\qquad(\star\star) $$ が結論される。一般に濃度 $\kappa$ について $\kappa \lt 2^\kappa$ であるから、$\kappa=2^{\aleph_0}$ とすると $2^{\aleph_0} \lt 2^{2^{\aleph_0}}$ である。したがって $(\star)$ と $(\star\star)$ は互いに矛盾する。この矛盾により、$\mathbb{S}^2$ は正規空間でないことが示された。$\square$
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