位相空間論2:近傍と基本近傍系

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位相空間論2:近傍と基本近傍系

位相空間 $X$ の点 $x$に対して、 $x$ の近傍という概念を定義する。 $x$ の近傍とは直観的には「$x$ の十分近くの点をすべて含んでいる集合」であるが、その名に反して必ずしも小さい集合ではない。しかし、実際に数学的議論で重要になるのは小さい近傍のみであることが次第に明らかになるであろう。さらに、基本近傍系の概念を定義する。これは、ある点の近傍全体の中から、いわば代表的なものを集めてできた集合である。

入門テキスト「位相空間論」

  • 位相空間論2:近傍と基本近傍系


定義 2.1 (近傍)

$X$ を位相空間とし、$x\in X$ とする。$X$ の部分集合 $V$ が $x$ の($X$ における)近傍(neighborhood)であるとは、ある開集合 $U\subset X$ に対して $x\in U\subset V$ であることをいう。さらに、$V$ が開集合(あるいは閉集合)であるとき、$V$ を $x$ の($X$ における)開近傍閉近傍)(open/closed neighborhood)という。$\square$

この定義から、$X$ 自身も $x$ の近傍であることに注意する(近傍は必ずしも小さくない!)。しかし、実際の議論では通常大きな近傍にはあまり意味はなく、小さい近傍に本質的な意味があることが多い。$\varepsilon$-$\delta$ 論法において、$\varepsilon$ や $\delta$ が小さい数のときが本質的だったのと同じである。

ある点の開近傍とは、その点を要素にもつ開集合にほかならない。つまり、次の命題が成り立つ。

命題 2.2 (開近傍の同値な言い換え)

$X$ を位相空間とし、$x\in X$ とする。$V\subset X$ に対して、次の二つは同値である。

  • (1) $V$ は $x$ の開近傍である。
  • (2) $V$ は開集合であり、かつ $x\in V$ である。
Proof.

まず、(1) $\Rightarrow$ (2) を示す。$V\subset X$ を $x$ の開近傍とすると、$V$ は開集合である。しかも $V$ は $x$ の近傍なので、ある開集合 $U$ が存在して、$x\in U\subset V$ である。したがって、$x\in V$ も成り立つ。

次に、(2) $\Rightarrow$ (1) を示す。$V\subset X$ が開集合で、しかも $x\in V$ であるとする。このとき、$U=V$ とおけば、$U$ は開集合で $x\in U\subset V$ である。よって、$V$ は $x$ の開近傍である。

近傍の有限個の共通部分は、再び近傍となる。

命題 2.3 (近傍の有限個の共通部分)

$X$ を位相空間とし、$x\in X$ とする。任意の $n\in\mathbb{N}$ と $x$ の $X$ における近傍 $V_1,\ldots, V_n$ に対して、$V_1\cap\cdots\cap V_n$ は $x$ の $X$ における近傍である。

Proof.

近傍の定義により、各 $i=1,\ldots, n$ に対して、開集合 $U_i$ であって $x\in U_i\subset V_i$ となるようなものが取れる。すると $U_1\cap\cdots\cap U_n$ も開集合であって、$x\in U_1\cap\cdots\cap U_n\subset V_1\cap\cdots\cap V_n$ である。よって、$V_1\cap\cdots\cap V_n$ は $x$ の $X$ における近傍である。

次の命題は、位相空間の部分集合が開集合であることを示すために常套手段として用いられる。

命題 2.4 (開集合の判定条件)

位相空間 $X$ の部分集合 $U$ に対して、次の二つは同値である。

  • (1) $U$ は $X$ の開集合である。
  • (2) 任意の $x\in U$ に対して、$x$ の $X$ における近傍 $V$ であって $V\subset U$ となるものが存在する。
Proof.

まず、(1) $\Rightarrow$ (2) を示す。$U\subset X$ を開集合とし、$x\in U$ とする。命題 2.2により、$U$ は $x$ の $X$ における開近傍となるから、$V=U$ とおけば、$V$ は $x$ の $X$ における開近傍で、$V\subset U$ を満たす。

次に、(2) $\Rightarrow$ (1) を示す。$U\subset X$ に対して (2) が成り立つとすると、各 $x\in U$ に対して、$x$ の近傍 $V_x$ であって $V_x\subset U$ となるものが選べる。さらに、近傍の定義から、各 $x\in U$ に対して、$x\in U_x\subset V_x$ を満たす開集合 $U_x$ が選べる。このとき、$U=\bigcup_{x\in U} U_x$ である(確かめよ)。よって、$U$ は開集合の和集合となるから、開集合となる。

位相空間 $X$ の点 $x$ の近傍には、一般に非常に多種多様なものがあり扱いが難しい。そこで、限られた種類の近傍に考察を限定することがしばしばある。そのときに役に立つのが基本近傍系の概念である。

定義 2.5 (基本近傍系)

$X$ を位相空間とし、$x\in X$ とする。$x$ の$X$ における近傍からなる集合族 $\mathcal{U}$ が $x$ の($X$ における)基本近傍系(neighborhood base)であるとは、$x$ の任意の近傍 $V$ に対して、ある $U\in\mathcal{U}$ が存在して $U\subset V$ が成り立つことをいう。$\square$

上の定義において、「任意の近傍 $V$」を「任意の開近傍 $V$」に変えても、定義としては同値になることに注意しよう(確かめよ)。

例 2.6 (近傍の全体は基本近傍系)

まず、つまらない例であるが、位相空間 $X$ の点 $x$ に対して、$x$ の近傍全体の集合を $\mathcal{U}$ とおけば、$\mathcal{U}$ は $x$ の $X$ における基本近傍系である。$\square$

例 2.7 (開近傍の全体は基本近傍系)

$X$ を位相空間、$x\in X$ とする。$\mathcal{U}$ を、$x$ の $X$ における開近傍全体の集合とすると、$\mathcal{U}$ は $x$ の $X$ における基本近傍系となる。実際、$x$ の近傍 $V$ を与えると、近傍の定義により $x\in U\subset V$ であるような開集合 $U$ が存在するが、$U$ は $x$ の開近傍である(命題 2.2)。これで、$\mathcal{U}$ が $x$ の $X$ における基本近傍系となることが示された。$\square$

例 2.8 (距離空間における基本近傍系)

$(X, d)$ を距離空間とする。このとき、$x\in X$ に対して次の集合族は $x$ の $X$ における基本近傍系である。 $$ \mathcal{U}_x=\{B(x,r)\,|\,r>0\} $$ 実際、$B(x,r)$ は $x$ を要素にもつ開集合なので(命題 1.16)、命題 2.2により $x$の開近傍である。よって、$\mathcal{U}_x$ は $x$ の近傍からなる集合である。次に、$x$ の任意の開近傍 $V$ を与える。すると、$x\in V$ で $V$ は開集合だから、距離空間における開集合の定義により、ある $r>0$ が存在して $B(x,r)\subset V$ である。$B(x,r)\in\mathcal{U}_x$ であるから、これで $\mathcal{U}_x$ が $x$ の $X$ における基本近傍系であることが示された。

また、次の集合族も $x$ の $X$ における基本近傍系である。 $$ \mathcal{V}_x=\{B(x,1/n)\,|\,n\in\mathbb{N}\} $$ 実際、これが $x$ の近傍からなる集合であることはさきほどと同様に示される。次に、$x$ の任意の開近傍 $V$ を与える。すると、ある $r>0$ に対して $B(x,r)\subset U$ である。いま、$n\in\mathbb{N}$ を十分大きく取れば $1/n<r$ であるので、$B(x,1/n)\subset B(x,r)\subset U$ となる。$B(x,1/n)\in\mathcal{V}_x$ なので、これで $\mathcal{V}_x$ が $x$ の $X$ における基本近傍系であることが示された。$\square$

例 2.9 (離散空間における基本近傍系)

$X$ を離散空間とする(例 1.6)。このとき、任意の点 $x$ に対して、一点からなる集合 $\{x\}$ は点 $x$ の開近傍である。そして、一個の近傍 $\{x\}$ だけからなる集合族 $\{\{x\}\}$ は、$x$ の $X$ における基本近傍系となる(確かめよ)。$\square$

上において、離散空間の各点 $x$ について一点集合 $\{x\}$ が $x$ の開近傍となる、という事実は、離散空間がその名の通り「点がそれぞれ孤立してバラバラである」という直観を補強してくれるものであろう。 一般に、位相空間 $X$ の点 $x$ は、$\{x\}$ が開集合であるときに孤立点(isolated point)であるという。

位相空間 $X$ の各点 $x\in X$ に対して、それぞれ $x$ の基本近傍系 $\mathcal{U}_x$ が与えられているという状況を考える。このとき、次が成り立つ。

命題 2.10 (基本近傍系のもつ性質)

位相空間 $X$ の各点 $x\in X$ に対して、$x$ の $X$ における基本近傍系 $\mathcal{U}_x$ が与えられているとする。このとき、次の性質が成り立つ。

  • (NB1) 任意の $x\in X$ に対して $\mathcal{U}_x\neq\emptyset$ である。
  • (NB2) 任意の $x\in X,$ $U\in\mathcal{U}_x$ に対して、$x\in U$ である。
  • (NB3) 任意の $x\in X,$ $U_1, U_2\in\mathcal{U}_x$ に対して、$V\in\mathcal{U}_x$ であって $V\subset U_1\cap U_2$ となるものが存在する。
  • (NB4) 任意の $x\in X,$ $U\in\mathcal{U}_x$ に対して、次のような $V\in\mathcal{U}_x$ が存在する:「任意の $y\in V$ に対して、$W\in\mathcal{U}_y$ が存在して $W\subset U$ となる。」
Proof.

(NB1) を示す。$x \in X$ とすると $X$ は $x$ の開近傍であるから、これに対して基本近傍系の定義から $U\in\mathcal{U}_x$ が存在することが分かる。したがって、$\mathcal{U}_x$ は空ではない。次に、(NB2) は基本近傍系および近傍の定義から明らかである。

(NB3) を示すため、$x\in X$, $U_1, U_2\in\mathcal{U}_x$ とする。$U_1$, $U_2$ は $x$ の近傍なので、$x\in V_i\subset U_i\,(i=1,2)$ となるような開集合 $V_i$ が存在する。すると、$V_1\cap V_2$ は $x$ の開近傍であるから、基本近傍系の定義により、$V\in\mathcal{U}_x$ であって $V\subset V_1\cap V_2\subset U_1\cap U_2$ となるものが存在する。これで (NB3) が示された。

(NB4) を示すため、$x\in X$, $U\in\mathcal{U}_x$ とする。$U$ は $x$ の近傍なので、$x\in U_0\subset U$ となるような開集合 $U_0$ が存在する。$U_0$ は $x$ の開近傍なので、$V\subset U_0$ となるような $V\in\mathcal{U}_x$ が存在する。この $V$ が求めるものであることを示そう。そこで、$y\in V$ とする。すると $y\in U_0$ で $U_0$ は開集合だから、$U_0$ は $y$ の開近傍である。よって、$W\subset U_0$ となるような $W\in\mathcal{U}_y$ が存在する。$U_0\subset U$ だったので、$W\subset U$ である。これで、$V$ が求めるものであることが分かり、(NB4) が示された。

この命題 2.10はやや複雑な形だが、基本近傍系を指定することで位相空間を定めるのに役に立つ。注意 1.5では、閉集合全体の集合を指定することで位相空間を定める方法を述べたが、次の命題 2.11から分かるように、それと同様のことが基本近傍系でもできるのである。(命題 2.11は証明が少々混み入っているので、初読の際は証明を読み飛ばしてもよい。)

命題 2.11 (基本近傍系から位相空間を定める)

$X$ を集合とする。各 $x\in X$ に対して、$X$ の部分集合からなる族 $\mathcal{U}_x$ が与えられ、条件 (NB1)-(NB4) を満たすとする。このとき、$X$ 上の位相 $\mathcal{O}$ であって、各 $x\in X$ に対して $\mathcal{U}_x$ が位相空間 $(X, \mathcal{O})$ における $x$ の基本近傍系となるものが一意的に存在する。

Proof.

まず、そのような位相 $\mathcal{O}$ が存在することを示そう。$\mathcal{O}$ を以下で定義する。 $$ \mathcal{O}=\{U\subset X\,|\,\text{任意の }x\in U\text{ に対してある }V\in\mathcal{U}_x\text{ が存在して }V\subset U\} $$ このとき、$\mathcal{O}$ が開集合系の公理 (O1)-(O3) を満たすことを示そう。

(O1) については、まず $\emptyset\in\mathcal{O}$ を示さなければならない。それには、任意の $x\in\emptyset$ に対してある $V\in\mathcal{U}_x$ が存在して $V\subset \emptyset$ となることを示す必要があるが、ここで $x\in\emptyset$ が偽であることから、示すべきことは真となる(命題 0.8および注意 1.3でも同様の議論を行った)。よって、$\emptyset\in\mathcal{O}$ である。次に、$X\in\mathcal{O}$ を示そう。そのため、$x\in X$ を任意に与える。(NB1)により、$V\in\mathcal{U}_x$ が少なくとも一つ存在する。このとき、もちろん $V\subset X$ である。$x\in X$ は任意だったので、$X\in\mathcal{O}$ が示された。

(O2) を示すため、$U_1, U_2\in\mathcal{O}$ とする。$U_1\cap U_2\in\mathcal{O}$ を示すため、$x\in U_1\cap U_2$ とする。$i=1,2$ に対して、$U_i\in\mathcal{O}$ であることより、$V_i\in\mathcal{U}_x$ であって $V_i\subset U_i$ となるものが存在する。(NB3) により、$W\in\mathcal{U}_x$ であって $W\subset V_1\cap V_2$ となるものが存在する。すると、$W\subset V_1\cap V_2\subset U_1\cap U_2$ である。$x\in U_1\cap U_2$ は任意だったので、$U_1\cap U_2\in\mathcal{O}$ が分かった。

(O3) を示すため、$\{U_\lambda\,|\,\lambda\in \Lambda\}\subset\mathcal{O}$ とする。$x\in\bigcup_{\lambda\in \Lambda} U_\lambda$ とする。すると、ある $\lambda_0\in \Lambda$ に対して、$x\in U_{\lambda_0}$ である。$U_{\lambda_0}\in\mathcal{O}$ なので、ある $V\in \mathcal{U}_x$ に対して、$V\subset U_{\lambda_0}$ である。したがって、$V\subset\bigcup_{\lambda\in \Lambda} U_\lambda$ である。これで、$\bigcup_{\lambda\in \Lambda} U_\lambda\in\mathcal{O}$ が示された。

以上で、位相空間 $(X, \mathcal{O})$ が得られた。 次に、各 $x\in X$ に対して、$\mathcal{U}_x$ がこの位相空間 $(X, \mathcal{O})$ における $x$ の基本近傍系となることを示す。まず、$U\in\mathcal{O}$, $x\in U$ とするときに、$V\in\mathcal{U}_x$ であって $x\in V\subset U$ となるものが存在することは $\mathcal{O}$ の定義から明らかである。問題は、$\mathcal{U}_x$ の各要素が $(X, \mathcal{O})$ における $x$ の近傍になっていることの証明である。そのため、$U\in\mathcal{U}_x$ とする。次のようにおく。 $$ U'=\{y\in U\,|\,\text{ある }V\in\mathcal{U}_y\text{ が存在して }V\subset U\} $$ 明らかに $x\in U'\subset U$ である。$U'\in\mathcal{O}$ であることをいうため、$y\in U'$ とする。$U'$ の定義により、$V\in\mathcal{U}_y$ であって $V\subset U$ となるものが存在する。さらに、(NB4) により、次のような $V'\in\mathcal{U}_y$ が存在する:「任意の $z\in V'$ に対して、$W\in\mathcal{U}_z$ が存在して、$W\subset V$ である。」すると $V'$ の取り方と (NB2) から $V'\subset V$ であり、よって $V'\subset U$ である。さらにこのとき、$V'\subset U'$ である。実際、$z\in V'$ とすると、いま述べたことから $z\in U$ であり、さらに、$W\in\mathcal{U}_z$ が存在して $W\subset V$ となり、よって $W\subset U$ である。よって、$z\in U'$ である。したがって、$V'\subset U'$ である。これで、$U'\in\mathcal{O}$ であることが示された。$x\in U'\subset U$ であったから、$U$ は $x$ の $(X, \mathcal{O})$ における近傍である。これで、$\mathcal{U}_x$ の各要素が $(X, \mathcal{O})$ における $x$ の近傍であることが示された。以上で、各 $x\in X$ に対して、$\mathcal{U}_x$ が $(X, \mathcal{O})$ における $x$ の基本近傍系であることが示された。

最後に、条件を満たす位相の一意性を示そう。そこで、$X$ 上の位相 $\mathcal{O}_1$, $\mathcal{O}_2$ がともに命題の条件を満たしたとする。$\mathcal{O}_1\subset\mathcal{O}_2$ を示すため、$U\in\mathcal{O}_1$ とする。このとき、$U\in\mathcal{O}_2$ となること、つまり $U$ が位相空間 $(X, \mathcal{O}_2)$ の開集合であることを命題 2.4を用いて示す。そのため、$x\in U$ とする。$\mathcal{U}_x$ は $x$ の $(X, \mathcal{O}_1)$ における基本近傍系だから、ある $V\in\mathcal{U}_x$ が存在して、$V\subset U$ である。ところが、$\mathcal{U}_x$ は $x$ の $(X, \mathcal{O}_2)$ における基本近傍系でもあり、$V\in\mathcal{U}_x$ であるから、$V$ は $x$ の $(X, \mathcal{O}_2)$ における近傍である。したがって、命題 2.4により、$U$ は $(X, \mathcal{O}_2)$ の開集合、つまり $U\in\mathcal{O}_2$ である。これで、$\mathcal{O}_1\subset\mathcal{O}_2$ が示された。全く同様に、$\mathcal{O}_2\subset\mathcal{O}_1$ も示されるから、結局 $\mathcal{O}_1=\mathcal{O}_2$ を得る。

どの点においても高々可算個の近傍からなる基本近傍系が存在するような位相空間には名前がついている。

定義 2.12 (第一可算)

位相空間 $X$ が第一可算(first countable)である、あるいは第一可算公理を満たすとは、任意の $x\in X$ に対して、高々可算な $x$ の基本近傍系 $\mathcal{U}$ が存在することをいう。$\square$

例 2.13 (距離空間は第一可算)

距離空間は第一可算である。実際、$X$ を距離空間とするとき、各 $x\in X$ に対して例 2.8の基本近傍系 $\mathcal{V}_x=\{B(x,1/n)\,|\,n\in\mathbb{N}\}$ は高々可算となるからである。また、例 2.9から分かるように離散空間も第一可算である(一点からなる集合も高々可算であることに注意)。この結果は、離散空間が距離化可能であるという例1.20の結果からも分かる。なお、距離化可能空間についてもその位相を定める距離の一つを選べば同じ議論ができるので、距離化可能空間は第一可算である。後に例 4.14において、第一可算だが距離化可能でない位相空間の例を与える。 $\square$

例 2.14 (補有限位相と第一可算性)

$X$ を無限集合とし、$X$ を補有限位相(例 1.8)によって位相空間と考える。$X$ が可算無限集合の場合、$X$ は第一可算となる。実際、このときは $X=\{p_i\,|\,i\in\mathbb{N}\}$(ただし、$i\neq j$ のとき $p_i\neq p_j$)と表すことができるが、$p_i$ の基本近傍系 $\mathcal{U}_i$ として $$ \mathcal{U}_i=\{\{p_i\}\cup(X\setminus\{p_1,\ldots, p_n\})\,|\,n\in\mathbb{N}\} $$ というものが取れる(確かめよ)。$\mathcal{U}_i$ は高々可算集合であるから、これで $X$ が第一可算であることが示された。

$X$ が非可算集合である場合、$X$ は第一可算ではないことを示そう。そのため、点 $p_0\in X$ を何でもよいので一つ固定する。$p_0$ が高々可算な基本近傍系をもたないことを示せばよい。もし、$p_0$ が高々可算な基本近傍系 $\mathcal{U}$ をもてば、$\mathcal{U}=\{U_i\,|\,i\in\mathbb{N}\}$ と表すことができる。各 $i$ に対して、$p_0\in V\subset U_i$ となる開集合 $V$ が存在するが、このとき補有限位相の定義より $X\setminus V$ は有限であり、よって $X\setminus U_i$ も有限である。したがって、和集合 $\bigcup_{i=1}^\infty (X\setminus U_i)=X\setminus \bigcap_{i=1}^\infty U_i$ は高々可算となるので、$X$ の非可算性により、$X\setminus (X\setminus \bigcap_{i=1}^\infty U_i)=\bigcap_{i=1}^\infty U_i$ は非可算である。よって、それから一点を除いた $\bigcap_{i=1}^\infty U_i\setminus \{p_0\}$ はもちろん空ではない。そこで、点 $p\in \bigcap_{i=1}^\infty U_i\setminus \{p_0\}$ を一つとる。このとき、$U=X\setminus \{p\}$ は $p_0$ の近傍であるが、どの $i$ に対しても $U_i\subset U$ は成立しない。実際、$p\in U_i$, $p\notin U$ となるからである。これは、$\mathcal{U}$ が $p_0$ の基本近傍系であることに反する。よって、$p_0$ は高々可算な基本近傍系をもたないので、$X$ は第一可算ではない。また、このことから $X$ が距離化可能でないことも分かる。もし距離化可能なら、例 2.13により、第一可算となってしまうからである。$\square$

後々のために次のことを示しておく。

命題 2.15 (第一可算空間の基本近傍系を減少列にとれること)

$X$ を第一可算な空間とする。このとき、各 $x\in X$ に対して、$x$ の $X$ における基本近傍系 $\{V_n\,|\,n\in\mathbb{N}\}$ であって各 $n\in\mathbb{N}$ に対して $V_{n+1}\subset V_n$ となるものが存在する。

Proof.

$X$ を第一可算空間とし、$x\in X$ とする。第一可算性の定義から、$x$ の高々可算な基本近傍系 $\mathcal{U}$ が存在する。$\mathcal{U}$ は高々可算なので、$\mathcal{U}=\{U_n\,|\,n\in\mathbb{N}\}$ と表すことができる。そこで、各 $n\in\mathbb{N}$ に対して $V_n=U_1\cap\cdots\cap U_n$ とおくと、命題 2.3により $V_n$ は $x$ の近傍であり、$V_{n+1}\subset V_n$ を満たす。$x$ の $X$ における近傍 $V$ を任意に与える。$\mathcal{U}$ は $x$ の $X$ における基本近傍系だから、ある $n\in\mathbb{N}$ に対して、$U_n\subset V$ である。定義により $V_n\subset U_n$ であるから、$V_n\subset V$ である。これで $\{V_n\,|\,n\in\mathbb{N}\}$ が $x$ の $X$ における基本近傍系であることが示された。

次に、位相空間における点列の収束の概念を定義する。これは、実数直線 $\mathbb{R}$ における数列の収束の一般化である。点列の収束が威力を発揮するのは主に第一可算な空間(たとえば距離空間)においてであるが、定義そのものは一般の位相空間で行うことができる。

位相空間 $X$ に対して、$X$ の点列とは、くだけた言い方では、$X$ の点からなる列 $x_1, x_2,\ldots$ のことで、これを $(x_n)_{n=1}^\infty$ で表す。正式には、$X$ の点列 $(x_n)_{n=1}^\infty$ とは、$f(n)=x_n$ で定義される写像 $f\colon \mathbb{N}\to X$ のことである。点列 $(x_n)_{n=1}^\infty$ は $X$ の部分集合 $\{x_n\,|\,n\in\mathbb{N}\}$ とは違うものなので注意が必要である。

定義 2.16 (点列の収束)

$X$ を位相空間、$(x_n)_{n=1}^\infty$ を $X$ の点列とし、$x\in X$ とする。このとき、$(x_n)_{n=1}^\infty$ が $x$ に収束(converge)するとは、

$x$ の任意の近傍 $V$ に対して、ある $N\in\mathbb{N}$ が存在して、$n\geq N$ のとき常に $x_n\in V$ となる

ことをいう。このとき、$x$ は点列 $(x_n)_{n=1}^\infty$ の極限(limit) であるといい、$x_n\to x$ と書く。$\square$

なお、上の定義において、「任意の近傍 $V$」を「任意の開近傍 $V$」に置き換えても同値な定義となる(確かめよ。なお、このことは例 2.7とこの後の命題 2.18を組み合わせても分かる)。

注意 2.17 (点列の極限が一意的と限らないこと)

一般には、点列の極限が存在しても、それは一意的とは限らない。例えば $X=\{0, 1\}$ とし、$X$ を密着位相によって位相空間と考える。$X$ の点列 $(x_n)_{n=1}^\infty$ を、すべての $n\in\mathbb{N}$ に対して $x_n=0$ とすることで定義する。このとき、$x_n\to 0$ かつ $x_n\to 1$ である。$\square$

この後で示されるように(命題 2.20)、距離空間においては点列の極限は存在すれば一意的となる。一般に、位相空間 $X$ の点列 $(x_n)_{n=1}^\infty$ が一意的な極限 $x$ をもつとき、 $$ \lim_{n\to\infty} x_n=x $$ と書く。

次の命題で分かるように、ある点への点列の収束を議論するためには、その点の近傍すべては必要ではなく、基本近傍系を考えれば十分である。

命題 2.18 (基本近傍系と点列の収束)

$X$ を位相空間、$(x_n)_{n=1}^\infty$ を $X$ の点列、$x\in X$ とし、$\mathcal{U}$ を $x$ の $X$ における基本近傍系とする。このとき、$(x_n)_{n=1}^\infty$ が $x$ に収束するためには、

任意の $U\in\mathcal{U}$ に対して、ある $N\in\mathbb{N}$ が存在して、$n\geq N$ のとき常に $x_n\in U$ となる

ことが必要十分である。

Proof.

必要性は明らかである。十分性を示す。「任意の $U\in\mathcal{U}$ に対して、ある $N\in\mathbb{N}$ が存在して、$n\geq N$ のとき常に $x_n\in U$ となる」ことを仮定する。$x$ の近傍 $V$ を任意に与える。$\mathcal{U}$ は $x$ の基本近傍系なので、$U\in\mathcal{U}$ が存在して、$U\subset V$ となる。仮定により、$n\geq N$ のとき常に $x_n\in U$ であり、よって $x_n\in V$ である。したがって、$(x_n)_{n=1}^\infty$ は $x$ に収束する。

命題 2.19 (距離空間における点列の収束)

$X$ を距離空間とする。$X$ の点列 $(x_n)_{n=1}^\infty$ と点 $x\in X$ に対して、次は同値である。

  • (1) $x_n\to x$ である。すなわち、$(x_n)_{n=1}^\infty$ は $x$ に収束する。
  • (2) 任意の $\varepsilon>0$ に対して、$N\in\mathbb{N}$ が存在して、$n\geq N$ のとき常に $d(x_n, x)<\varepsilon$ である。
  • (3) $d(x_n, x)\to 0$ である。すなわち、$\mathbb{R}$ の点列 $(d(x_n, x))_{n=1}^\infty$ が $0$ に収束する。
Proof.

$\{B(x,r)\,|\,r>0\}$ は $x$ の $X$ における基本近傍系だから、命題 2.18により、 (1) が成り立つこと、つまり $x_n\to x$ となることは、

任意の $\varepsilon>0$ に対して、ある $N\in\mathbb{N}$ が存在して、$n\geq N$ のとき常に $x_n\in B(x,\varepsilon)$

となることと同値である。$x_n\in B(x,\varepsilon)$ は $d(x_n,x)<\varepsilon$ と同値だから、これは言い換えれば (2) が成り立つということである。以上で、(1)と(2)の同値性が示された。

いま示された (1)と(2)の同値性を、$\mathbb{R}$ の点列 $(d(x_n, x))_{n=1}^\infty$ に適用すると、(3) が成り立つこと、つまり $d(x_n, x)\to 0$ であることは、

任意の $\varepsilon>0$ に対して、ある $N$ が存在して、$n\geq N$ のとき $|d(x_n, x)-0|<\varepsilon$

であことと同値であり、これは (2) と明らかに同値である。これで、(2)と(3)の同値性も示された。

命題 2.20 (距離空間における点列の極限は存在すれば一意的)

$(X, d)$ を距離空間、$(x_n)_{n=1}^\infty$ を $X$ の点列とし、$x, y\in X$ とする。もし、$x_n\to x$ かつ $x_n\to y$ ならば、$x=y$ である。

Proof.

$x_n\to x,$ $x_n\to y,$ $x\neq y$ であるとして矛盾を導こう。$x\neq y$ により、$r=d(x,y)$ とおくと $r>0$ である。$x_n\to x$ であるから、命題 2.19により $N_1\in\mathbb{N}$ が存在して、$n\geq N_1$ のとき常に $d(x_n,x)<r/2$ である。また、$x_n\to y$ であるから、同様に $N_2\in\mathbb{N}$ が存在して、$n\geq N_2$ のとき常に $d(x_n,y)<r/2$ である。このとき $N=\max\{N_1, N_2\}$ とおけば、 $$ r=d(x,y)\leq d(x,x_N)+d(x_N,y)<r/2+r/2=r $$ となり矛盾する。

最後に、Euclid 空間の部分集合における点列の収束について補足しておく。$A$ がEuclid空間 $\mathbb{R}^n$ の部分集合であるとき、$A$ は $\mathbb{R}^n$ のEuclid距離の制限(注意 1.13)により距離空間とみなすのであった。以下で見るように、$A$ における点列の収束は、座標に関する「成分ごとの収束」と同値である。

命題 2.21 (Euclid空間の部分集合における点列の収束)

$A$ をEuclid空間 $\mathbb{R}^n$ の部分集合とし、$(p_j)_{j=1}^\infty$ を $A$ の点列、$p=(x_1,\ldots,x_n)\in A$ とする。$p_j=(x_{1,j},\ldots, x_{n,j})\,(j\in\mathbb{N})$ とすると $\mathbb{R}$ の点列 $(x_{i,j})_{j=1}^\infty\,(i=1,\ldots,n)$ が得られるが、このとき次は同値である。

  • (1) $(p_j)_{j=1}^\infty$ は $p$ に収束する。
  • (2) 各 $i=1,\ldots,n$ に対して、$(x_{i,j})_{j=1}^\infty$ は $x_i$ に収束する。
Proof.

(1) $\Rightarrow$ (2) を示す。$(p_j)_{j=1}^\infty$ が $p$ に収束すると仮定する。$i\in\{1,\ldots,n\}$ を任意に与える。このとき、$\mathbb{R}$ の点列 $(x_{i,j})_{j=1}^\infty$ が $x_i$ に収束していることを示そう。$\varepsilon>0$ を任意に与える。$N\in\mathbb{N}$ が存在して、$j\geq N$ のとき常に $\|p_j-p\|<\varepsilon$ となる。ここで、$\|\phantom{x}\|$ はEuclidノルムを表す。いま $$ |x_{i,j}-x_i|=\sqrt{(x_{i,j}-x_i)^2}\leq\sqrt{\sum_{i'=1}^n (x_{i',j}-x_{i'})^2}=\|p_j-p\| $$ であるから、$j\geq N$ のとき常に $|x_{i,j}-x_i|\leq\varepsilon$ となる。これで、$(x_{i,j})_{j=1}^\infty$ が $x_i$ に収束することが示された。

(2) $\Rightarrow$ (1) を示す。各 $i=1,\ldots,n$ に対して、$(x_{i,j})_{j=1}^\infty$ が $x_i$ に収束すると仮定する。$(p_j)_{j=1}^\infty$ が $p$ に収束することを示すため、$\varepsilon>0$ を任意に与える。各 $i=1,\ldots, n$ に対して、$N_i\in\mathbb{N}$ を取り、$j\geq N_i$ のとき常に $|x_{i,j}-x_i|<\varepsilon/\sqrt{n}$ となるようにできる。$N=\max\{N_1,\ldots, N_n\}$ としよう。このとき、$j\geq N$ ならば $$ \|p_j-p\|^2=\sum_{i=1}^n (x_{i,j}-x_i)^2<n\cdot(\varepsilon/\sqrt{n})^2=\varepsilon^2 $$ であり、よって $\|p_j-p\|<\varepsilon$ である。これで、$(p_j)_{j=1}^\infty$ が $p$ に収束することが示された。



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