コンパクト性とAscoli-Arzelàの定理

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コンパクト性とAscoli-Arzelàの定理

<<執筆中>> ここでは距離空間の基本的な位相的性質を復習しつつ、いくつか用語と記法を導入し、距離空間のその中で特に重要なAscoli-Arzelàの定理を紹介する。

1.1. 有界性

定義1.1.1(直径)

距離空間 $(X,d)$ の部分集合 $A\subseteq X$ にたいし ${\rm diam}(A)$ を $${\rm diam}(A):=\sup\{d(x,y)|x,y\in A\}$$

と定義し、$A$ の直径(diameter)と呼ぶ。

定義1.1.2(部分集合の近傍)

距離空間 $(X,d)$ の部分集合 $A\subseteq X$ と実数 $r>0$ にたいし $B_d(A,r)$ を $$B_d(A,r):=\{y\in X|d(A,y)<r\}$$

と定義し、$A$ の $r$ (開)近傍と呼ぶ。

同様に $\overline{B}_d(A,r)$ を $$\overline{B}_d(A,r):=\{y\in X|d(A,y)\le r\}$$

と定義し、$A$ の $r$ 閉近傍と呼ぶ。

誤解の恐れがないときは、$d$ を省略する。

命題1.1.3(可分距離空間)

距離空間 $(X,d)$ について以下の条件は同値

  • $(1)$ $X$ は稠密な高々可算な部分集合を持つ(可分空間).
  • $(2)$ 任意の実数 $\epsilon>0$ にたいし、ある高々可算な部分集合 $S\subseteq X$ が存在し $X\subseteq B_d(S,\epsilon)$.
  • $(3)$ $X$ は第二可算.
  • $(4)$ $X$ はLindelöf.

証明

$(1)\Rightarrow (2)$ を示す。$\epsilon>0$ を任意に与える。仮定 $(1)$ から、$X$ の高々可算な稠密部分集合 $S$ が存在する。任意に $x\in X$ を与える。$S$ の稠密性から、ある $s\in S$ が存在して、$d(x,s)<\epsilon$ である。よって、$X\subseteq B_d(S,\epsilon)$ である。

$(2)\Rightarrow (1)$ を示す。仮定 $(2)$ から、各正整数 $n$ に対して、高々可算な $S_n\subseteq X$ であって、$B_d(S_n, 2^{-n})=X$ であるようなものが選べる。$S=\bigcup_{n=1}^\infty S_n$ は $X$ の高々可算な部分集合である。$S$ が $X$ において稠密であることを示そう。そのため、$x\in X$, $\epsilon>0$ とする。$B(x, \epsilon)\cap S\neq\emptyset$ を示せばよい。正整数 $n$ を $1/n<\epsilon$ であるように取る。$B_d(S_n, 2^{-n})=X$ によりある $s\in S_n$ が存在して $d(x, s)<2^{-n}$ である。すると、$s\in B_d(x, \epsilon)\cap S$ であるから $B_d(x, \epsilon)\cap S\neq\emptyset$ である。

$(1)\Rightarrow (3)$ を示す。仮定 $(1)$ により、高々可算な $X$ の稠密部分集合 $S$ が存在する。$\mathcal{B}=\{B_d(s, 2^{-n})\,|\,s\in S,\,n=1,2,\ldots\}$ とおこう。$\mathcal{B}$ は $X$ の開集合からなる高々可算な族であるが、これが $X$ の開基となることを証明しよう。そのため、$U\subseteq X$ を開集合とし、$x\in U$ とする。すると、ある正整数 $n$ が存在して、$B_d(x, 2^{-n})\subseteq U$ である。$S$ の稠密性により、点 $s\in S\cap B_d(x, 2^{-n-1})$ が存在する。$V=B_d(s, 2^{-n-1})$ とおくと、$V\in\mathcal{B}$ であり、$x\in V$ である。さらに、$V\subseteq U$ である。これを示すため、$y\in V$ とすると、$V$ の定義により $d(s, y)<2^{-n-1}$ であるので、

$$d(x, y)\leq d(x, s)+d(s, y)<2^{-n-1}+2^{-n-1}=2^{-n}$$

となる。よって、$y\in B_d(x, 2^{-n})\subseteq U$ である。これで、$V\subseteq U$ が示され、したがって $\mathcal{B}$ が $X$ の開基であることが示された。

$(3)\Rightarrow (4)$ を示す。$\mathcal{B}$ を、仮定 $(3)$ により存在する $X$ の高々可算な開基の一つとする。$\mathcal{U}$ を $X$ の開被覆とする。$\mathcal{U}$ が高々可算な部分被覆をもつことを示せばよい。集合族 $\mathcal{B}'$ を

$$ \mathcal{B}'=\{B\in\mathcal{B}\,|\, \text{ある }U\in\mathcal{U}\text{ に対して }B\subseteq U\}$$

で定義する。$\mathcal{B}'$ は $\mathcal{B}$ の部分族であるから、高々可算である。各 $B\in\mathcal{B}'$ に対して $U_B\in\mathcal{U}$ を、$B\subseteq U_B$ であるように選び、$\mathcal{U}'=\{U_B\,|\,B\in\mathcal{B}'\}$ と定義すると、$\mathcal{U}'$ は $\mathcal{U}$ の高々可算な部分族である。あとは $\mathcal{U}'$ が $X$ の被覆であることを示せばよい。そこで、$x\in X$ とする。$\mathcal{U}$ は被覆だから、$x\in U$ となる $U\in\mathcal{U}$ が存在する。$\mathcal{B}$ は開基なので、$x\in B\subseteq U$ を満たす $B\in\mathcal{B}$ が存在する。このとき、$\mathcal{B}'$ の定義により、$B\in\mathcal{B}'$ である。したがって、$U_B\in\mathcal{U}'$ が定義され、$B\subseteq U_B$ であるから $x\in U_B$ である。これで、 $\mathcal{U}'$ が $X$ の被覆であることが示された。

$(4)\Rightarrow (1)$ を示す。各正整数 $n$ に対して、$X$ の開被覆 $\mathcal{U}_n=\{B_d(x, 2^{-n})\,|\,x\in X\}$ を考える。仮定 $(4)$ により、各 $n$ に対して、$\mathcal{U}_n$ は高々可算な部分被覆をもつ。すなわち、$X$ の高々可算な部分集合 $S_n$ を選び、$\mathcal{V}_n=\{B_d(s, 2^{-n})\,|\,s\in S_n\}$ が $X$ の被覆になるようにできる。$S=\bigcup_{n=1}^\infty S_n$ は $X$ の高々可算集合であるが、これが $X$ において稠密であることを示そう。そのため、$x\in X$ とし、$\epsilon>0$ を任意に与える。$B_d(x, \epsilon)\cap S\neq\emptyset$ を言えばよい。正整数 $n$ を $2^{-n}<\epsilon$ となるように取る。$\mathcal{V}_n$ は $X$ の被覆だから、ある $s\in S_n\subseteq S$ に対して、$x\in B_d(s, 2^{-n})$ となり、したがって $d(x, s)<2^{-n}<\epsilon$ となる。よって、$s\in B_d(x, \epsilon)\cap S$ だから $B_d(x, \epsilon)\cap S\neq\emptyset$ である。

1.2. 完備性とコンパクト性の復習

定義1.2.1(完備)

距離空間の任意のCauchy列が収束するとき、その距離空間は完備 (complete)であるという。

定義1.2.2(完備化)

$X$ を距離空間、$Y$ を完備距離空間、$\iota\colon X\to Y$ を等長埋め込みとする(定義はLipschtz写像と関数空間参照)。$\overline{\iota(X)}=\iota(Y)$ が成り立つとき $(Y,\iota)$ または単に $Y$ を $X$ の完備化という。

定義1.2.3(点列コンパクト)

任意の点列が収束する部分列を持つ距離空間を点列コンパクトという。

定理1.2.4(点列コンパクトの特徴付け)

距離空間が全有界かつ完備であることは、距離空間が点列コンパクトである為の必要十分条件である。

命題1.2.5

距離空間では点列コンパクトとコンパクトは同値。

定義1.2.6(固有距離空間)

任意の有界閉集合がコンパクトになる距離空間を固有距離空間(proper metric space)という。

例1.2.7

よく知られているようにユークリッド空間は固有距離空間である(Heine–Borelの被覆定理)。より一般に完備リーマン多様体は固有距離空間(Hopf-Rinowの定理)。

命題1.2.8(固有距離空間の位相的性質)

固有距離空間は完備かつ局所コンパクトかつσコンパクトである。

逆は一般には言えないが弧長距離空間では完備かつ局所コンパクトだけから固有距離であることが従う(曲線の長さとHopf-Rinowの定理参照)。

1.3. Ascoli-Arzelàの定理

定義1.3.1 (同程度連続と各点全有界)

$\mathcal{F}$ を距離空間 $X$ から距離空間 $Y$ への写像からなる族とする。

任意の $x\in X$ と $\epsilon>0$ にたいして、ある $\delta>0$ が存在して、任意の $f\in\mathcal{F}$ と $y\in Y$ について「 $d(x,y)<\delta$ ならば $d(f(x),f(y))<\epsilon$ 」が成り立つときに、$\mathcal{F}$ は同程度連続だという。

任意の $x\in X$ について、$\{f(x)|f\in\mathcal{F}\}\subseteq Y$ が全有界となるとき、$\mathcal{F}$ は各点全有界だという。

補題1.3.2

$(f_n)_{n\in\mathbb{N}}$ を距離空間 $X$ から距離空間 $Y$ への写像の同程度連続な可算列であり、関数 $f\colon X\to Y$ に各点収束しているとするこのとき、$f$ は連続。

証明

今 $x\in X$ と $\epsilon>0$ を任意に取る。$(f_n)_{n\in\mathbb{N}}$ の同程度連続性から 、$\delta>0$ を任意の $y\in X$ と $n\in\mathbb{N}$ にたいし、「$d(x,y)<\delta$ ならば $d(f_n(x),f_n(y))<\epsilon$」を満たすように取る。さらに $d(x,y)<\delta$ を満たす $y\in X$ を任意に取る。今 $\delta$ の取り方から $d(f_n(x),f_n(y))<\epsilon$ であるが、$\displaystyle\lim_{n\to\infty}f_n(x)=f(x)$ かつ $\displaystyle\lim_{n\to\infty}f_n(y)=f(y)$ であるから $d(f(x),f(y))\le \epsilon$ となり $f$ は $x$ において連続となる。これがすべての $x\in X$ に対して成り立つので、$f$ は連続である。

補題1.3.3

$(f_n)_{n\in\mathbb{N}}$ を距離空間 $X$ から距離空間 $Y$ への写像の同程度連続な可算列であり、関数 $f\colon X\to Y$ に各点収束しているとするこのとき、$(f_n)_{n\in\mathbb{N}}$ は任意のコンパクト集合上で $f\colon X\to Y$ に一様収束する。

証明

$A\subseteq X$ をコンパクト集合とし、$\epsilon>0$を固定する。このとき $\delta_0:=\inf\{d(a,b)|n>0,a,b\in A,d(f_n(a),f_n(b))\ge\epsilon\}$ は正の実数である。

もしそうでないなら、ある$A\times X$ 上の点列 $( (a_i,b_i) )_{i\in\mathbb{N}}$ と $(f_n)_{n\in\mathbb{N}}$ の部分列 $(f_{n_i})_{i\in\mathbb{N}} $ が存在して、$\displaystyle\lim_{i\to\infty}d(a_i,b_i)=0$ かつ任意の $i\in\mathbb{N}$ にたいし $d(f_{n_i}(a_i),f_{n_i}(b_i))\ge\epsilon$ となる。$A$ は点列コンパクトなので必要なら部分列を取ることで $\displaystyle\lim_{i\to\infty}a_i(=:\alpha)\in A$ として良い。今 $(f_n)_{n\in\mathbb{N}}$ の同程度連続性から、$\delta>0$ を任意の $x\in X$ と $n\in\mathbb{N}$ にたいし、「$d(\alpha,x)<\delta$ ならば $d(f_n(\alpha),f_n(x))<\frac{1}{2}\epsilon$」を満たすように取る。今$\displaystyle\lim_{i\to\infty}a_i=\alpha$ および $\displaystyle\lim_{i\to\infty}d(a_i,b_i)=0$ に注意すると十分大きい $N\in\mathbb{N}$ にたいし、$d(\alpha,a_N),d(\alpha,b_N)<\delta$ が成立する。このとき $\delta$ の取り方から $d(f_{n_N}(\alpha), f_{n_N}(a_N))<\frac{1}{2}\epsilon$ かつ $d(f_{n_N}(\alpha), f_{n_N}(b_N))<\frac{1}{2}\epsilon$ となり、$d(f_{n_N}(a_N), f_{n_N}(b_N))<\epsilon$ が成立し矛盾する。

今 $d(a,b)<\delta_0$ を満たす $a,b\in A$ を任意に取る。$d(f_n(a),f_n(b))<\epsilon$ および $\displaystyle\lim_{n\to\infty}f_n(a)=f(a)$ 、$\displaystyle\lim_{n\to\infty}f_n(b)=f(b)$ から $d(f(a),f(b))\le \epsilon$ がいえる。

$A$ はコンパクトなのである有限集合 $S\subseteq A$ が存在して $A\subseteq B_d(S,\delta_0)$ となる。$S$ が有限集合であること、$(f_n)_{n\in\mathbb{N}}$ が $f$ に各点収束していることから、$M\in\mathbb{N}$ を、「任意の $i>M$ と $s\in S$ について $d(f_i(s),f(s))<\epsilon$ が成立する」ように取る。今 $a\in A$ と $i>M$ を任意に取る。このときある $s\in S$ が存在して、$d(a,s)<\delta_0$ となり、$\delta_0,M$ の取り方から、$d(f_i(s),f_(s))<\epsilon$ および $d(f_i(a),f_i(s))<\epsilon$ 、$d(f(s),f(a))\le \epsilon$ がいえ、$d(f_i(a),f(a))<3\epsilon$ となる。$a$ と $\epsilon$ は任意だったので、一様収束が示せた。

定理1.3.4(Ascoli-Arzelàの定理)

$(f_n)_{n\in\mathbb{N}}$ を可分距離空間 $X$ から完備距離空間 $Y$ への写像の可算列とする。$(f_n)_{n\in\mathbb{N}}$ が同程度連続かつ各点全有界ならある部分列が存在して、連続写像にコンパクト一様収束する。

証明

補題1.3.2および補題1.3.3より、各点収束だけ示せば良い。

$(s_i)_{i\in\mathbb{N}}$ を $X$ の稠密な部分集合を成す可算列とする。$(\iota_i\colon\mathbb{N}\to\mathbb{N})_{i\in\mathbb{N}}$ を以下のように再帰的に取る。

  • step 0

$\{f_n(s_0)|n\in\mathbb{N}\}$ は完備距離空間の全有界な部分集合なので相対コンパクトである。これより $f_{\iota_0(i)}(s_0)$ を $(f_n(s_0))_{n\in\mathbb{N}}$ の収束する部分列として取り、その収束先を $f(s_0)$ と表記する。

  • step i

同様に $(f_{\iota_i(n)}(s_i))_{n\in\mathbb{N}}$ を $(f_{\iota_{i-1}(n)}(s_{i-1}))_{n\in\mathbb{N}}$ の収束する部分列((つまりある狭義単調増加列 $\sigma\colon\mathbb{N}\to\mathbb{N}$ が存在して $\iota_i=\iota_{i-1}\circ\sigma$))として取り、その収束先を $f(s_i)$ と表記する。

このとき、$(\iota_n(n))_{n\ge i}$ は $(\iota_i(n))_{n\ge i}$ の部分列になっているのに注意すると、任意の $i\in\mathbb{N}$ について $\displaystyle\lim_{n\to\infty}f_{\iota_n(n)}(s_i)=f(s_i)$ が成り立つ。数列 $(\iota(n))_{n\in\mathbb{N}}$ を $\iota(n):=\iota_n(n)$ と定義する。 このとき、$(\iota_n(n))_{n\ge i}$ は $(\iota_i(n))_{n\ge i}$ の部分列になっているのに注意すると、任意の $i\in\mathbb{N}$ について $\displaystyle\lim_{n\to\infty}f_{\iota_n(n)}(s_i)=f(s_i)$ が成り立つ。数列 $(\iota(n))_{n\in\mathbb{N}}$ を $\iota(n):=\iota_n(n)$ と定義する。

今 $x\in X$ と $\epsilon>0$ を任意に固定。 $(f_n)_{n\in\mathbb{N}}$ の同程度連続性から $\delta>0$ を任意の $y\in X$ と $n\in\mathbb{N}$ にたいし、 「$d(x,y)<\delta$ ならば $(f_n(x),f_(y))<\frac{1}{3}\epsilon$ 」を満たすように取る。さらに、$(s_i)_{i\in\mathbb{N}}$ の稠密性から $s_j$ を $d(x,s_j)<\delta$ となるように取る。 このとき $(f_{\iota(n)}(s_i))_{n\in\mathbb{n}}$ は収束列なので、十分大きい $n,m\in\mathbb{N}$ について $d(f_{\iota(m)}(s_j),f_{\iota(n)}(s_j))<\frac{1}{3}\epsilon$ が成立。さらに $\delta$ の取り方から $d(f_{\iota(m)}(s_j),f_{\iota(m)}(x))<\frac{1}{3}\epsilon$ と $d(f_{\iota(n)}(s_j),f_{\iota(n)}(x))<\frac{1}{3}\epsilon$ もいえるので $d(f_{\iota(m)}(x),f_{\iota(n)}(x))<\epsilon$ となる。よって $f_{\iota(n)}(x)$ はCauchy列であり $Y$ の完備性から収束する。その収束先を $f(x)$ と置けば、$(f_{\iota(n)})_ {n\in\mathbb{N}}$ は $f\colon X\to Y$ に各点収束する。

関連項目