Lipschtz写像と関数空間

提供: Mathpedia

Lipschtz写像と関数空間

ここでは距離空間の間の写像の中で最も距離構造を反映するLipschtz写像を紹介し、任意の距離空間がBanach空間に埋め込めることを証明する。

2.1. Lipschitz写像

定義2.1.1($L$-Lipschitz写像)

距離空間 $(X,d_X)$ から $(Y,d_Y)$ への写像 $f\colon X\to Y$ と実数 $L\ge 0$ が任意 $x_0,x_1\in X$ について $$d_Y(f(x_0),f(x_1))\le L\cdot d_X(x_0,x_1)$$ を満たすとき、$f$ は $L$-Lipschitzであるといい、$L$-Lipschitzな写像を $L$-Lipschitz写像という。ある実数 $L\ge 0$ が存在して $L$-Lipschitzになる写像を単にLipschitz写像という((Lipschitz写像は連続なのでLipschitz連続ともいう))。 ある実数 $0<L<1$ が存在して $L$-Lipschtz となる写像を縮小写像(contraction map)という。

以下、(拡張擬)距離空間とLipschtz写像からなる圏を $\mathbf{Lip}$、(拡張擬)距離空間と $1$-Lipschtz写像からなる圏を $\mathbf{Lip}_1$ と書く。

定義2.1.2(Lipschitzノルム)

距離空間 $(X,d_X)$ から $(Y,d_Y)$ への写像 $f\colon X\to Y$ にたいし $L(f)$ を $$L(f):=\inf\{L| f\text{ は }L\text{-Lipschitz}\}$$ と定義し、$f$ のLipschitzノルムと呼ぶ。定義からLipschitzノルムが有限であることと、Lipschitz写像であることは同値。

注意2.1.3

$f$ がLipschitz写像なら $L(f)$-Lipschitzになる。

例2.1.4

距離空間 $(X,d)$ 上の点 $x\in X$ にたいし、関数 $d_x\colon X\to\mathbb{R}$ $$d_x(y):=d(x,y)$$ と定義する。このとき、任意の $x\in X$ にたいし $d_x$ は $1$-Lipschitzである。

2.2. 等長埋め込みと等長同型写像

定義2.2.1(等長埋め込みと同値同型写像)

距離空間 $(X,d_X)$ から $(Y,d_Y)$ への写像 $f\colon X\to Y$ が任意 $x_0,x_1\in X$ について $$d_Y(f(x_0),f(x_1))= d_X(x_0,x_1)$$ を満たすとき、$f$ は等長埋め込み(写像)(isometric embedding)であるという。また全単射な等長埋め込みを等長同型写像(または単に等長同型)(isometric isomorphism)という((等長同型または単に等長埋め込みのことを等長写像(isometry)ということも多い。))。距離空間 $X$ と $Y$ の間に等長同型写像が存在するとき、$X$ と $Y$ は等長同型(isometric)だという。

以下、距離空間と等長埋め込みからなる圏を $\mathbf{Isom}$と書く。

命題2.2.2(準同型定理)

距離空間 $(X,d_X)$ から $(Y,d_Y)$ への写像 $f\colon X\to Y$ について、

  • $(0)$ $f$ が等長同型写像である.
  • $(1)$ $f$ が $1$-Lipschitz写像かつ全単射でその逆写像も $1$-Lipschitz写像である.

は同値。

例2.2.3

2.3.関数空間と埋め込み定理

定義2.3.1(Lipschtz関数による双対)

$(X,d,b)$ を基点付き距離空間とする(ただし $b\in X$)。このとき距離空間 $\rm{Lip}(X,b)$ を $$\rm{Lip}(X,b):=\{f\colon X\to\mathbb{R}|f{\small\,はLipschtzかつ\,}f(b)=0\}$$ に $d_{\rm Lip}(f,g):=L(f-g)$ と距離を入れたものとする(ただし $f,g\in\rm{Lip}(X,b)$)。

命題2.3.2

任意の基点付き距離空間 $(X,d,b)$ にたいし、$\rm{Lip}(X,b)$ はBanach空間

命題2.3.3

任意の距離空間はBanach空間に等長に埋め込める。

証明

$(X,d)$ を距離空間とし、$b\in X$ を一つ固定する。$\iota\colon X\to\rm{Map}(\rm{Lip}(X,b),\mathbb{R})$ を $\iota(x)(f):=f(x)$ のように定義する。

$x\in X$ とする。任意の $f,g\in\rm{Lip}(X,b)$ にたいし $|\iota(x)(f)-\iota(x)(g)|=|f(x)-g(x)|=|(f-g)(x)-(f-g)(b)|<L(f-g)d(x,b)$ となるので $L(\iota(x))\le d(x,b)$ となり、$\iota(x)\in\rm{Lip}(\rm{Lip}(X,b),0)$ 。

今 $x,y\in X$ を任意に取り固定。このとき任意の $f,g\in\rm{Lip}(X,b)$ について $d_{\rm Lip}(f,g)=L(f-g)$ の定義から $|(\iota(x)-\iota(y))(f)-(\iota(x)-\iota(y))(g)|=|(f-g)(x)-(f-g)(y)|\le L(f-g)d(x,y)=d(x,y)d_{\rm Lip}(f,g)$ が成り立つ。よって $d_{\rm Lip}(\iota(x),\iota(y))\le d(x,y)$ 。

次に $f(\cdot):=d(x,\cdot)-d(x,b)$ 、$g:=0$ とおくと、 $|f(a)-f(b)|=|d(x,a)-d(x,b)|\le 1\cdot d(a,b)$ かつ $|f(x)-f(y)|=|d(x,y)|=1\cdot d(x,y)$ から $d_{\rm Lip}(f,g)=L(f-g)=L(f)=1$ であり、$|(\iota(x)-\iota(y))(f)-(\iota(x)-\iota(y))(g)|=|(d(x,y)-d(x,b))-(0-d(x,b))|=d(x,y)=d(x,y)\cdot 1$ なので $d_{\rm Lip}(\iota(x),\iota(y))\ge d(x,y)$

以上から $d_{\rm Lip}(\iota(x),\iota(y))=d(x,y)$ がいえ、よって $\iota$ はBanach空間 $\rm{Lip}(\rm{Lip}(X,b),0) $ への等長埋め込み((より強く、$\rm{Lip}(X,b)$ の位相線形双対空間に埋め込まれていることが分かる))。

2.3.4(命題2.3.3の別証明)

$(X,d,b)$ を基点付き距離空間とする(ただし $b\in X$)。このとき $X$ から$\ell^p$ 空間 $\ell^\infty(X)$ への写像 $\iota\colon X\to \ell^\infty(X)$ を $$\iota(x):=d_x-d_b$$ と定義する(ただし $x\in X$)。後は上記の証明と同様に $\iota$ が等長埋め込みであることが示せる((より強く、有界なLipschtz関数全体に一様距離を入れた空間 $\rm{Lip}_b^\infty(X)$ に埋め込まれていることが分かる。))。

系2.3.5(完備化の存在)

任意の距離空間にたいし完備距離空間への稠密な等長埋め込みが存在する。

証明

Banach空間への埋め込みの終域を像の閉包に制限すれば良い。

2.4 縮小写像と不動点定理。

関連項目