数学の基礎の概要
数学の基礎の概要
ここでは、主に大学の学部1~2年程度で扱われる数学の基礎を概観する。一般的な数学科の課程においては、まず学部1年生で線形代数学や微積分を学び、学部2年生で群論や集合論、位相空間に慣れ親しんだのちに学部3年生以降で各々の専門分野に分化していく流れが主流であろう。それぞれの専門分野については代数学の概要、幾何学の概要、解析学の概要を参照されたい。ただし、授業で扱われること自体は少ないが本節では圏論も数学の基礎の一部とする。
定義
現代数学は代数学、幾何学、解析学、数理論理学など多様な分野が存在し、それぞれにおいて必要とされる基礎数学の知識は異なる。しかしながら、どの分野を学ぶにあたっても一般教養として必要となるベースの数学的知識は一定存在する。本節ではそれを「数学の基礎」と呼び、紹介することとしたい。ただし、「どの範囲までが基礎なのか」という点に関しては、明確な線引きは存在しない。
一般的な大学のカリキュラム
一般的な大学の1年次のカリキュラムにおいては、線形代数学と微分積分学が中心となる。これらは高校数学における行列や微積分の延長に位置するものであり、直感的な理解が出来る計算が中心であった高校までの内容を丁寧に基礎付けしていく作業が中心となる。数学科以外のカリキュラムにおいても、これらは一般教養科目として必修科目に指定されていることが多いが、工学部ではラプラス変換の計算など、よりそれぞれの分野への応用を視野に入れたカリキュラムになっていることが一般的であり、数学科で取り扱う抽象理論とは若干色合いが異なる点も見られる。大学数学を学ぶ準備としてこれらを学ぶ場合は、抽象数学寄りの内容の教科書を選ぶことを推奨する。
2年次以降に関しては、「集合と位相」という形で集合論と位相空間論の初歩を学習するのが一般的である。これらは抽象数学を行ううえでの基礎言語であり、代数学、幾何学、解析学、数理論理学等いずれの分野を学習するにあたっても避けることは出来ない。ただし、ここで意図している内容はあくまで集合・位相の初歩中の初歩であり、研究分野としての公理的集合論や位相空間論への入門については各記事を参照されたい。
線形代数学
大学1年次における線形代数学のカリキュラムにおいては、行列式の算術から始まり、線形空間の導入、線形写像の導入及び行列による表現、行列式、固有値問題などが取り扱われる。これらは高校数学における「行列」や「連立一次方程式」の問題を抽象化したものと捉えることが出来るため、一見初等的な数学的対象に見えるものの、抽象的かつの高度な数学を扱うにおいても重要な位置を占める。その重要性に関しては、線形代数学の項の「何故線形代数を学ぶのか」に関する記述も参考にされたい。
微積分
大学1年次における微積分のカリキュラムにおいては、高校数学で習った直観的な手法による微積分の理論が、ε-δ論法などの「集合と論理」の言葉を使った精緻な形式を用いて再度定式化される。これらは一見極めて「明らか」に思われる事柄を抽象的な言語を用いて再定義するため、その取扱いに困惑する初学者も少なくないだろう。現代数学においてこのような抽象化を行うモチベーションについては、「何故ε-δ論法を考えるのか」の記述を参考にされたい。
集合論
前述の微積分の内容と重複するところも多いが、主に数学専門課程の2年次における「集合と位相」の一部として、「集合と論理」が取り扱われる。ここでは、従来の初等数学において曖昧にしてきた「二つの集合が同じという定義は何か」「そもそも写像とは何か」といった事項を定式化し、まずは一見「直観的には明らか」と思われる事項を「定義に従って精緻に証明」する事を通して、今後遭遇する「直観が通用しない抽象的な操作」に耐えうる準備を行う。これらの抽象的な定式化に習熟することは現代数学を学ぶにおいて避けられないステップである。これらの抽象化を行うモチベーションについては、こちらの記述も参考にされたい。
位相空間論
主に大学2年次の専門課程で取り扱われる位相空間は、現代数学を行うにおいて基礎言語となる空間概念である。位相空間の公理は、より親しみやすいであろう空間概念である距離空間の性質を一般化したものと言えるが、両者の間のギャップは大きく、例えばHausdorff空間が成り立たない空間などは一見直感に反するため初学者は困惑する可能性もあるだろう。実際のところ、位相空間の一般論である位相空間論などは数学の専門家にとっても難解であるとされる分野であり、学部課程の「集合と位相」においては、一定の抽象的な集合と論理の取り扱いに習熟することが目標となり、速習コース「位相空間論の基礎事項」程度の内容を習得すれば十分である。
圏論
後で書く。Kan拡張。
学習の順序
上述の事項はすべて基礎的な内容であり、どれかを学ぶために別の分野の知識が必要になるといった性質のものではない。そのため、各人が興味を持ったものから勉強すればよい。また、上述した全ての分野を完全に習得することは、個別の専門分野を学ぶ上での絶対的な必要条件ではない。抽象数学において集合と論理の扱いに慣れておくことは必須であるが、分野によっては微積分論や線形代数学でさえ、本質的にあまり用いないケースも存在する。そのため、一定の基礎的な事実を身に着ければ、まず専門分野の学習に進み、その後適宜基礎分野を必要に応じて復習するという学習方法も考えられるだろう。