P進数
\(\newcommand{\nat}{\mathbb{N}} \newcommand{\ord}{\mathrm{ord}}\)
素数 $p$ に対して、$p$ 進数とは、$p$ 進距離について収束するような整数・有理数からなる数列の「収束先」として考えられるような数のことをいう。
整数 $x$ と $p$ について、$x$ が $p$ で割り切れる最大の回数を $\ord_p(x)$ と表記する。このとき整数 $n$, $m$ についてこれらの $p$ 進距離とは、$\frac{1}{p^{\ord_p(n-m)}}$ として表すことのできる実数のことをいう。実際に $p$ 進距離により整数全体の空間は距離空間となる。さらに、$p$ 進距離について、整数の加法・減法・乗法は連続な演算となる。
ここで整数 $\mathbb{Z}$ を $p$ 進距離について完備化した距離空間を $\mathbb{Z}_p$ とよぶ。$\mathbb{Z}$ 上で演算は連続であったため、$\mathbb{Z}_p$ にも加法・減法・乗法を連続な演算として延長できる。こうして定まった位相環 $\mathbb{Z}_p$ について、その元を $p$ 進整数という。
また、同様の方法で $\mathbb{Q}$ を完備化することによって、位相体 $\mathbb{Q}_p$ が得られるが、その元を $p$ 進数とよぶ。このとき自然な包含により $\mathbb{Q}_p$ は $\mathbb{Z}_p$ の商体となっている。
$\mathbb{Z}_p$, $\mathbb{Q}_p$ の定義
ここでは、$\mathbb{Z}_p$, $\mathbb{Q}_p$ について、$p$ 進付値を用いる形で定義をおこなう。
定義 1 ($p$ 進付値)
- 整数 $x \neq 0$ について、$x$ の $p$ 進付値 $|x|_p$ を $p^{-\mathrm{ord}_p(x)}$ と定義する。ただし、$\mathrm{ord}_p(x)$ とは $p$ が $x$ を割り切る最大の回数のことをいう。
- 有理数 $x = \frac{t}{s}$ について、$x$ の $p$ 進付値 $|x|_p$ を $\frac{|t|_p}{|s|_p}$ として定義する。
- $0$ の付値 $|0|_p$ は $0$ であると定める。
注意 2 ($p$ 進付値の well-definedness)
有理数 $x$ が与えられたとき、$x$ を分数形に表示する方法は一通りには定まらないが、どの方法で表記しても $|x|_p$ は同じ値を取ることが示される。
補題 3 ($p$ 進付値の付値性)
有理数 $x$, $y$ について、以下の性質が成り立つ:
- $|x|_p=0$ $\Leftrightarrow$ $x=0$,
- $|xy|_p = |x|_p|y|_p$,
- $|x+y|_p \leq \mathrm{max}(|x|_p,|y|_p)$.
証明
初等的な議論による。□
定義 4 ($p$ 進距離)
有理数 $x$ と $y$ についてそれらの $p$ 進距離 $d(x,y)$ を $|x-y|_p$ として定める。
このとき、補題 3 より、$p$ 進距離は $\mathbb{Z}$ 上, $\mathbb{Q}$ 上に距離を定める。位相空間としての $\mathbb{Z}_p$, $\mathbb{Q}_p$ は、$\mathbb{Z}$, $\mathbb{Q}$ を $p$ 進距離で完備化することによって得られる。しかし、以下ではこれらを位相環または位相体として捉えたいため、演算の延長のための議論を行っていく。
補題 5 (演算の連続性)
$\mathbb{Z}$, $\mathbb{Q}$ において加法・減法・乗法(・除法)は連続である。
証明
$\mathbb{Z}$ における加法の連続性のみ証明を行うが、以下完全に同様の議論を行えばよい。
$a$, $b$, $c \in \mathbb{Z}$ について、$a+b = c$ が成り立つとする。このとき $\mathbb{Z}_p$ において点 $x$ から距離 $d$ 未満の点の集合を $B(x;d)$ と表記すると、$B(a;d)+B(b;d)\subset B(c;d)$ となるため、$\mathbb{Z}_p$ において加法は連続である。□補題 6 (演算の連続な拡張)
$\mathbb{Z}$, $\mathbb{Q}$ の加法・減法・乗法(・除法)について、$\mathbb{Z}_p$, $\mathbb{Q}_p$ への連続な拡張が一意的に存在する。
証明
$\mathbb{Z}_p$ への加法の拡張についてのみ証明を行うが、以下完全に同様の議論を行えばよい。
- 拡張の存在
$\mathbb{Z}$ 上のCauchy列 $\{a_\bullet\}$ と $\{b_\bullet\}$ について、$\{a_\bullet +b_\bullet\}$ を対応させる操作により $\mathbb{Z}_p$ 上の連続な拡張が誘導されることを示す。
well-definedness について、$\{a_\bullet\}$ と $\{a'_\bullet\}$ がおなじ収束先を定めるとする。このとき、「任意の $\epsilon \gt 0$ に対してある $N_0$ が存在し任意の $N, N' \gt N_0$ に対して $|(a_N-a'_{N'}| \lt \epsilon$」が成り立つ。このとき、$\{b_\bullet\}$ も収束列であったことに注意すると「任意の $\epsilon \gt 0$ に対してある $N_0$ が存在し任意の $N, N' \gt N_0$ に対して $|(a_N+b_N)-(a'_{N'}-b_{N'})| \lt \epsilon$」も成立するため、$\{a_\bullet\}$ と $\{b_\bullet\}$ の加法と $\{a'_\bullet\}$ と $\{b_\bullet\}$ の加法はおなじ収束先を定める。$\{b_\bullet\}$ についても同様であるため、この操作は $\mathbb{Z}_p$ 上well-definedである。
構成よりこれは $\mathbb{Z}_p$ 上の加法演算を定める(結合則・交換則・単位元則を誘導する)。以下演算の連続性を示す。
$[\{a_\bullet\}]+[\{b_\bullet\}] = [\{c_\bullet\}]$ が成り立つとする。このとき、$[\{a'_\bullet\}]$ が $[\{a_\bullet\}]$ と距離 $d$ 未満の位置にあるとする。このとき、ある $d$ 未満の正の実数 $d'$ が存在し、充分大きい $N$, $N'$ について $|a_N-a'_{N'}| \lt d'$ となる。したがってある $d$ 未満の正の実数 $d' '$ が存在し、充分大きい $N$, $N'$ について $|(a_N+b_N)-(a'_{N'}+b_{N'})| \lt d' '$ となる。よって $[\{a_\bullet\}]+[\{b_\bullet\}]$ と $[\{a'_\bullet\}]+[\{b_\bullet\}]$ の距離は $d$ 未満である。同様に $[\{b_\bullet\}]$ についても評価をおこなえば、$\mathbb{Z}_p$ における加法の連続性が示される。
- 一意性
定義 7 ($\mathbb{Z}_p$, $\mathbb{Q}_p$)
$\mathbb{Z}$, $\mathbb{Q}$ の $p$ 進距離による完備化に、$\mathbb{Z}$, $\mathbb{Q}$ から誘導される連続な演算を備えた位相環, 位相体を $\mathbb{Z}_p$, $\mathbb{Q}_p$ とよぶ。
完備離散付値環
定義 8 (付値)
整域 $R$ について、$R$ の商体を $K$ とおく。全順序アーベル群 $\Gamma$ について、$\Gamma$ を値に持つ環 $R$ 上の付値 $v$ とは、以下の条件をみたす写像 $v\colon K\to \Gamma\cup\{\infty\}$ のことである。
- $v(x)=\infty\Leftrightarrow x=0$
- $v(x) \in R \Leftrightarrow v(x) \geq 0$
- $v(xy)=v(x)+v(y)$
- $v(x+y)\geq \mathrm{min}\{v(x),v(y)\}$
定義 9 (付値環)
付値環とは、環 $R$ と $R$ 上の付値 $v$ の組 $(R,v)$ のことをいう。
定義 10 (離散付値環)
離散付値環とは、体でない環 $R$ と $\mathbb{Z}$ に値を持つ $R$ 上の付値 $v$ の組 $(R,v)$ のことをいう。
命題 11 (付値環は局所環)
付値環 $(R,v)$ は局所環である。
証明
$R$ の商体を $K$ とおく。このとき、$\mathfrak{m}=\{x \in K|v(x) \gt 0\}$ とおくと、$R\setminus \mathfrak{m}$ は $R$ の単元全体の集合となる。したがって $\mathfrak{m}$ は $R$ の唯一の極大イデアルである。□
定義 12 (完備離散付値環)
離散付値環 $R$ が完備であるとは、$R$ の極大イデアル $\mathfrak{m}$ と射影により誘導される射 $R \to \lim R/\mathfrak{m}^n$ が同型であることをいう。
注意 13 (定義の言い換え)
射影により誘導される射 $R \to \lim R/\mathfrak{m}^n$ が同型であるとは、次のことを指していう:
- 自然数 $n$ に対して $R/\mathfrak{m}^n$ の元 $x_n$ を選んできたときに、任意の $n \leq m$ に対して $x_m$ の $R/\mathfrak{m}^n$ への射影が $x_n$ に一致するならば、ただひとつの $R$ の元 $x$ が存在して、$x$ の $R/\mathfrak{m}^n$ への射影が $x_n$ と一致することをいう。
定理 14 ($\mathbb{Z}_p$ の完備性)
$\mathbb{Z}_p$ は完備離散付値環である。
証明
$\mathbb{Z}_p$ 上の $p$ 進付値は $\mathbb{Z}_p$ 上の離散付値構造を定める。ここで、極大イデアルは $p\mathbb{Z}_p$ と一致し、また $(p\mathbb{Z}_p)^n=p^n\mathbb{Z}_p$ と計算される。
このとき $\mathbb{Z}_p/p^n\mathbb{Z}_p \cong \mathbb{Z}/p^n\mathbb{Z}$ が成り立ち、また $\mathbb{Z}_p \to \lim \mathbb{Z}/p^n\mathbb{Z}$ は同型であるため、$\mathbb{Z}_p$ は完備である。□位相的性質
$\mathbb{Z}_p$ は位相的にも $\mathbb{Z}/p^n\mathbb{Z}$ すなわち有限離散空間の逆極限として表すことができる。したがって $\mathbb{Z}_p$ は副有限空間となる。また $\mathbb{Q}_p$ についても全不連結性は成り立つが、コンパクト性については成り立たず、局所コンパクト空間となる。
副有限空間についてはSpectral spaceも参考にされたい。
$\mathrm{log}$, $\mathrm{exp}$
ここで、$\mathrm{log}$ という関数が次のような表示をもつことがテイラー展開をおこなうことで示される。$$ \mathrm{log}(1+x) = x - \frac{x^2}{2} + \frac{x^3}{3} - \ldots = \sum_{n = 1} ^ \infty (-1)^{n-1}\frac{x^n}{n} $$ このとき、$x$ の $p$ 進付値が充分小さければ、いま記した級数は $\mathbb{Q}_p$ において収束するであろうと予想がつく。実際 $x \in p\mathbb{Z}_p$ ならば $\mathrm{log}(1+x)$ は定義される。
補題 15 (付値の評価)
$x \in p\mathbb{Z}_p$ ならば充分大きな $n$ について $\frac{n}{2} \leq \mathrm{ord}_p((-1)^{n-1}\frac{x^n}{n})$ が成り立つ。
証明
充分大きな $n$ について $\mathrm{ord}_p(n) \geq \frac{n}{2}$ が成り立ち、また $n \leq \mathrm{ord}_p(x^n)$ であるため。□
命題 16 ($\mathrm{log}$ の収束)
$x \in p\mathbb{Z}_p$ について $\mathrm{log}(1+x)$ は収束する。
証明
$\mathrm{exp}$ という関数が次のような表示をもつことがテイラー展開をおこなうことで示される。$$ \mathrm{exp}(x) = 1 + x + \frac{x^2}{2!} + \frac{x^3}{3!} + \ldots = \sum_{n = 0} ^ \infty \frac{x^n}{n!} $$ このとき、$x$ の $p$ 進付値が充分小さければ、いま記した級数は $\mathbb{Q}_p$ において収束するであろうと予想がつく。
補題 17 (付値の評価)
$p$ が奇素数のとき $x \in p\mathbb{Z}_p$ であるか、もしくは $p = 2$ の場合 $x \in p^2\mathbb{Z}_p$ ならば任意の定数 $A$ について充分大きな $n$ で $A \leq \mathrm{ord}_p(\frac{x^n}{n!})$ が成り立つ。
証明
命題 18 ($\mathrm{exp}$ の収束)
$p$ が奇素数のとき $x \in p\mathbb{Z}_p$ であるかまたは $p = 2$ のとき $x \in p^2\mathbb{Z}_p$ なる $x$ について $\mathrm{exp}(x)$ は収束する。
証明
乗法群の構造
先程定義した $\mathrm{log}$ 関数を用いて、$\mathbb{Q}_p$ の乗法群の構造を調べる。
まず、$\mathbb{Z}_p$ の乗法群(単元群)を $\mathbb{Z}_p^\times$ と表記すると、$\mathbb{Q}_p$ の元は一意的に $\mathbb{Z}_p^\times$ の元と $p$ の冪の積として表現できるため、群としての同型 $\mathbb{Q}_p^\times \cong \mathbb{Z}_p^\times \times \mathbb{Z}$ が存在することがわかる。
次に、Henselの補題より、$x^{p-1} = 1$ の解は $\mathbb{Z}_p^\times$ に丁度 $p-1$ 個存在し、いずれも $p$ で割ったあまりが異なることに注意すると、任意の $\mathbb{Z}_p^\times$ の元は $1 + p\mathbb{Z}_p$ の元と $1$ の $p-1$ 乗根の積として表現できるため、群としての同型 $\mathbb{Z}_p^\times \cong \mathbb{Z}/p\mathbb{Z} \times (1 + p\mathbb{Z}_p)$ が存在する。
ここで、$\mathrm{log}$ 関数により、乗法を演算とする群 $1 + p\mathbb{Z}_p$ と加法を演算とする群 $\mathbb{Z}_p$ が同型であることが導かれる。
したがって、$\mathbb{Q}_p^\times \cong \mathbb{Z} \times \mathbb{Z}/(p-1)\mathbb{Z} \times \mathbb{Z}_p$ なる群の同型が存在することが導かれる。
$\mathbb{Q}_p$ の自己同型
実は、$\mathbb{Q}_p$ の自己同型は恒等写像以外存在しない。このことを示そうと思う。そのため以下 $f$ を $\mathbb{Q}_p$ 上の自己同型とする。また $v_p$ を $\mathbb{Q}_p$ 上の $p$ 進付値とする。
補題 19 (Henselの補題の系)
$x \in \mathbb{Q}_p$ について、$v_p(x)$ が $p$ の倍数でなく、かつ $p^{-v_p(x)}x \in \mathbb{Z}_p$ の剰余体 $\mathbb{Z}_p/p\mathbb{Z}_p$ への像が $1$ と一致するとき、$y^{v_p(x)}=x$ なる $y \in \mathbb{Q}_p$ が存在する。
証明
$x$ を $p^{-v_p(x)}$ 倍したものを $x'$ とおくと、仮定より $x' \in \mathbb{Z}_p$ かつ $x' \equiv 1 \mod p\mathbb{Z}_p$ となる。ここで、法 $p$ においては明らかに $y^{v_p(x)}=x'$ の解は存在する。このとき、Henselの補題より、$y^{v_p(x)}=x'$ の解は $\mathbb{Z}_p$ で存在することが示される。従って $y^{v_p(x)}=x$ の解も存在する。□
補題 20 (付値の保存)
$x \in \mathbb{Q}_p$ について、$x$ の付値と $f(x)$ の付値は一致する。
証明
まず、任意の $x \in \mathbb{Q}_p$ について、ある非零な整数 $z$ が存在して、$a = xz$ であって $v_p(a)$ が $p$ の倍数でなく、かつ $p^{-v_p(a)}a \in \mathbb{Z}_p$ の剰余体 $\mathbb{Z}_p/p\mathbb{Z}_p$ への像が $1$ と一致するようなものがとれる。このとき、$f$ は体の自己同型であり、そのため $f(z) = z$ を充たすため、$v_p(x) = v_p(f(x))$ は $v_p(xz) = v_p(f(xz))$ と同値である。したがって、$x$ は補題 19 の仮定を充たすものとしてよい。以下そのように仮定する。
上記の仮定のもとで、$y^{v_p(x)}=x$ なる $y \in \mathbb{Q}_p$ をとると、$f(y)^{v_p(x)}=f(x)$ を充たすため、$f(x)$ の付値は $v_p(x)$ の倍数となる。
ここで、充分大きな整数 $N$ について $xp^{pN}$ に対しても同様の議論を行えば、$v_p(f(x))+pN$ は $v_p(x)+pN$ の倍数となるため、$v_p(x)=v_p(f(x))$ を言うことができる。よって補題が示された。□定理 21 ($\mathbb{Q}_p$ 上の自己同型は恒等写像)
$\mathbb{Q}_p$ 上の自己同型 $f$ について、$f = \mathrm{id}$ が成り立つ。
証明
補題 20 より、$v_p(f(x))=v_p(x)$ が成り立つ。したがって、$f$ は $\mathbb{Z}_p$ を $\mathbb{Z}_p$ へ移す。ここで、$f(x) \neq x$ なる $x \in \mathbb{Z}_p$ が存在したとすると、ある整数 $z \in \mathbb{Z}$ であって $v_p(x-z) \neq v_p(f(x)-z)$ なるものが存在するが、これは $v_p(x-z) \neq v_p(f(x-z))$ であることに反する。したがって $x \in \mathbb{Z}_p$ ならば $f(x) = x$ である。
任意の $\mathbb{Q}_p$ の元は $\mathbb{Z}_p$ の元の商として表せるため、$x \in \mathbb{Q}_p$ について $f(x) = x$ を言うことができる。よって定理は示された。□$\mathbb{Q}_p$ と $\mathbb{Q}_q$ の非同型
異なる素数 $p$, $q$ について、$\mathbb{Q}_p$ と $\mathbb{Q}_q$ は非同型である。実際、$q-1$ が $p$ の倍数でない場合には、$p^{q-1}$ は $\mathbb{Q}_p$ においては $p$ 乗根は存在しないが、$\mathbb{Q}_q$ においては存在する。
記法に関する注意
$\mathbb{Z}$ を $p$ で局所化した環について、これを $\mathbb{Z}_{(p)}$ と表記されることがある。これは $\mathbb{Z}_p$ とは異なる対象である。また、一部の文脈では $\mathbb{Z}_p$ の記号で $\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}$ を表すことがあることに注意する。