Spectral space/Spectral spaces

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spectral spaceについての記事である。この記事においての記法は原則として記法についての注意に従う。

序文

  • Spectral spaceは、位相空間論のみならず、環論・束論・スキーム論などで重要な概念として登場する。
  • できる限り予備知識を要さないように努めたいと考えているが、位相空間論についての基本的な用語や、順序数・基数や半順序集合といった集合論に関連するの非常に基本的な知識について、そして圏論についてのある程度の知識は仮定している(また一部可換環論について、非常に基本的な知識を仮定している)。
  • 現在執筆中である。(2020-10-22)

spectral spaceの導入

なんといってもspectral spaceの話をするためにはspectral spaceの定義をする必要がある。多少の準備のあと定義を述べたのちに、一般的な性質について調べる。

sober空間

導入(sober空間)

定義 1 (既約空間)

位相空間 $X$ の任意の閉集合 $Z_1$, $Z_2$ について、$Z_1\cup Z_2=X$ ならば $Z_1=X$ または $Z_2=X$ が成り立つとき、$X$ を既約であるという。

定義 2 (生成点)

位相空間 $X$ の閉集合 $Z$ について $z \in X$ が $Z$ の生成点であるとは、$Z=\mathrm{Cl}_X(z)$ を満たすことをいう。

命題 3 (既約性の閉包遺伝)

位相空間 $X$ と、既約な $X$ の部分空間 $Y$ について、$\mathrm{Cl}_X(Y)$ は既約である。

証明

$\mathrm{Cl}_X(Y)$ は $X$ の閉集合であるため、$\mathrm{Cl}_X(Y)$ の閉集合は $X$ の閉集合である。$\mathrm{Cl}_X(Y)$ が $X$ の閉集合 $Z_1$, $Z_2$ の合併として表されたとする。このとき、$Y=(Y\cap Z_1)\cup (Y\cap Z_2)$ が成り立つため、$Y=Y\cap Z_1$ もしくは $Y=Y\cap Z_2$ のいずれかが成り立つ。

$Y=Y\cap Z_1$ を仮定しても一般性を失わない。このとき、$Y\subset Z_1$ が成り立つ。従って $\mathrm{Cl}_X(Y)\subset Z_1$ である。よって $\mathrm{Cl}_X(Y)$ の既約性が言える。
系 4 (点の閉包の既約性)

位相空間 $X$ の点 $x$ について、$\mathrm{Cl}_X(\{x\})$ は既約である。

証明

命題 より、$\{x\}$ は既約空間であることから主張が成り立つ。
命題 5 ($T_0$ 空間の点の閉包)
  1. $T_0$ 空間 $X$ と、$X$ の点 $x$, $y$ について、$\overline{\{x\}}=\overline{\{y\}}$ ならば $x=y$ が成り立つ。
  2. 位相空間 $X$ の任意の点 $x$, $y$ について、$\overline{\{x\}}=\overline{\{y\}}$ ならば $x=y$ が成り立つとき、$X$ は $T_0$ 空間である。
証明

  • 「$\overline{\{x\}}=\overline{\{y\}}$」ならば「任意の開集合 $U$ について $x \in U$ $\Rightarrow$ $y \in U$」

$y \notin U$ ならば、$\overline{\{y\}}\cap U=\emptyset$ が成り立つ。よって、$\overline{\{x\}}\cap U=\emptyset$ より、$x \notin U$ が成り立つ。

  • 主張 1. について

任意の開集合 $U$ について $x \in U$ ならば $y \in U$ が示される。同様にして $y \in U$ ならば $x \in U$ も示される。よって $X$ の $T_0$ 性より、$x=y$ が成り立つ。

  • 主張 2. について
$X$ が $T_0$ 空間でなければ、ある相異なる $X$ の点 $x$, $y$ であって、$X$ の開集合 $U$ に対し $x \in U$ と $y \in U$ が同値となるようなものが取れる。このとき、$x \notin X-\overline{\{x\}}$ より $y \notin X-\overline{\{x\}}$ が成り立つ。よって $y \in \overline{\{x\}}$ が成り立ち、$\{y\}\subset \overline{\{x\}}$ が示される。同様にして $\{x\}\subset \overline{\{y\}}$ が示されるため、$\overline{\{x\}}=\overline{\{y\}}$ が成り立つ。これは仮定に矛盾する。よって $X$ は $T_0$ 空間である。
系 6 ($T_0$ 空間における生成点の一意性)

$T_0$ 空間 $X$ の既約閉集合 $Z$ について、$Z$ の生成点は存在すれば一意的である。

証明

命題 5 より明らか。
定義 7 (sober空間)

位相空間 $X$ がsober空間であるとは、$X$ の任意の既約閉集合が生成点をただひとつ持つことを言う。

観察 8 (sober $\Rightarrow$ $T_0$)

命題 5 より、sober空間は $T_0$ 空間であることが直ちに示される。

準コンパクト射

導入(準コンパクト射)

定義 9 (準コンパクト射)

位相空間の射 $f\colon X\to Y$ が準コンパクトであるとは、$Y$ の準コンパクトな開集合 $V$ について、$f^{-1}(V)$ が準コンパクトであることをいう。

基本的な性質(準コンパクト射)

命題 10 (準コンパクト射の合成は準コンパクト)

位相空間の射 $f\colon X\to Y$, $g\colon Y\to Z$ が準コンパクトならば、$g\circ f$ も準コンパクトである。

証明

$Z$ の準コンパクト開集合 $W$ に対して、$f^{-1}(W)$ は $Y$ の準コンパクト開集合である。よって $g^{-1}(f^{-1}(W))$ は $X$ の準コンパクト開集合である。
定理 11 (恒等射は準コンパクト)

位相空間の恒等射 $\mathrm{id}\colon X\to X$ は準コンパクトである。

証明

明らか。
定義 12 ($\mathsf{Top}_\mathrm{qc}$)

位相空間を対象とし、その間の準コンパクト射を射とする圏を $\mathsf{Top}_\mathrm{qc}$ と表記する。

spectral space

導入(spectral space)

定義 13 (spectral space)

位相空間 $X$ が spectral space であるとは、以下の条件を満たすことをいう。

  • $X$ はsober空間
  • $X$ は準コンパクト
  • $X$ の準コンパクト開集合 $U$, $V$ について $U\cap V$ は準コンパクト
  • $X$ の準コンパクト開集合からなる開基が存在する
定義 14 (spectral map)

位相空間の射 $f\colon X\to Y$ がspectralであるとは、$X$ と $Y$ とがspectral spaceであり、かつ $f$ が準コンパクトであることをいう。

注意 15 (spectral space の名称について)

spectral space について、このことを指してcoherent spaceともいうことがある。[Lur1, Appendix A.1] などにみられる。

定義 16 (spectral space のなす圏)

対象をspectral space全体とし、射をspectral な位相空間の射とする圏を $\mathsf{Spec}$ と表記する。

$\mathrm{KO}(-)$ による特徴付け

$\mathcal{O}(-)$

#半順序集合について、あるいは特に#frameを参照されたい。

命題 17 (開集合のなすframe)

位相空間 $X$ について、$X$ の開集合全体の集合を $\mathcal{O}(X)$ とおく。このとき以下のように順序を定めることができる:

  • $U\subset V$ であるとき、またそのときに限り $U \leq V$

この順序によって $\mathcal{O}(X)$ はframeとなる。

証明

$X$ の開集合の族 $\mathcal{U}$ について、$\bigvee_{U \in \mathcal{U}}U$ は $\bigcup_{U \in \mathcal{U}} U$ と一致する。また、有限個の開集合の族 $\mathcal{F}$ について、$\bigwedge_{U \in \mathcal{F}}U$ は $\bigcap_{U \in \mathcal{F}} U$ と一致する。このとき、一般に集合 $V$ と集合族 $\mathcal{U}$ について、$$ V \cap (\bigcup_{U \in \mathcal{U}}U)=\bigcup_{U \in \mathcal{U}}(V\cap U)$$ が成り立つため、$\mathcal{O}(X)$ はframeとなる。
定義 18 (開集合のなすframe)

位相空間 $X$ に対して、命題 17 の方法で定まるframeを $\mathcal{O}(X)$ と定める。

命題 19 (連続射により誘導されるframeの射)

位相空間の射 $f\colon X\to Y$ について、$Y$ の開集合 $V$ を $f^{-1}(V)$ に移すframeの射 $\mathcal{O}(f)\colon \mathcal{O}(Y)\to \mathcal{O}(X)$ が存在する。

証明

開集合族 $\mathcal{U}$ と有限開集合族 $\mathcal{F}$ について、$ f^{-1}(\bigcup_{U \in \mathcal{U}}U)=\bigcup_{U\in\mathcal{U}}(f^{-1}(U))$ かつ $ f^{-1}(\bigcap_{U \in \mathcal{F}}U)=\bigcap_{U\in\mathcal{F}}(f^{-1}(U))$ が成り立つため、$\mathcal{O}(f)$ はframeの射である。
定義 20 (連続射により誘導されるframeの射)

位相空間の射 $f\colon X\to Y$ に対して、命題 19 の方法で定まるframeの射を $\mathcal{O}(f)$ と定める。

命題 21 ($\mathcal{O}(-)$ の函手性)

位相空間の射 $f\colon X\to Y$, $g\colon Y\to Z$ と恒等射 $\mathrm{id}\colon X\to X$ について、以下が成り立つ。

  • $\mathcal{O}(g\circ f)=\mathcal{O}(f)\circ \mathcal{O}(g)$
  • $\mathcal{O}(\mathrm{id})=\mathrm{id}_{\mathcal{O}(X)}$
証明

明らか。
定義 22 ($\mathcal{O}$ 函手)

位相空間 $X$ について $\mathcal{O}(X)$ を、位相空間の射 $f$ についてlocaleの射 $\mathcal{O}(f)$ を対応させる函手 $\mathsf{Top}\to \mathsf{Loc}$ を $\mathcal{O}$ と表記する。

$\mathrm{KO}(-)$

命題 23 (準コンパクト開集合のなすlattice)

位相空間 $X$ について、$X$ の準コンパクト開集合全体の集合を $\mathrm{KO}(X)$ とおく。このとき以下のように順序を定めることができる:

  • $U\subset V$ であるとき、またそのときに限り $U \leq V$

$X$ がspectral spaceであるとき、この順序によって $\mathrm{KO}(X)$ はlatticeとなる。

証明

準コンパクト集合の有限和は準コンパクトであること、またspectral spaceにおいて準コンパクト開集合の有限交叉は準コンパクトであることに注意すると、$U,V \in \mathrm{KO}(X)$ について $U\vee V$ を $U \cup V$ と定め、また $U\wedge V$ を $U\cap V$ と定めれば $\mathrm{KO}(X)$ のlattice構造が入る。
定義 24 (準コンパクト開集合のなすlattice)

spectral space $X$ に対して、命題 23 の方法で定まるlatticeを $\mathrm{KO}(X)$ と定める。

命題 25 (準コンパクト射により誘導されるlatticeの射)

spectral map $f\colon X\to Y$ について、$Y$ の準コンパクト開集合 $V$ を 準コンパクト開集合 $f^{-1}(V)$ に移すlatticeの射 $\mathrm{KO}(f)\colon \mathrm{KO}(Y)\to \mathrm{KO}(X)$ が存在する。

証明

有限準コンパクト開集合族 $\mathcal{U}$ と有限準コンパクト開集合族 $\mathcal{F}$ について、$ f^{-1}(\bigcup_{U \in \mathcal{U}}U)=\bigcup_{U\in\mathcal{U}}(f^{-1}(U))$ かつ $ f^{-1}(\bigcap_{U \in \mathcal{F}}U)=\bigcap_{U\in\mathcal{F}}(f^{-1}(U))$ が成り立つため、$\mathrm{KO}(f)$ はlatticeの射である。
定義 26 (準コンパクト射により誘導されるlatticeの射)

spectral map $f\colon X\to Y$ に対して、命題 25 の方法で定まるlatticeの射を $\mathrm{KO}(f)$ と定める。

命題 27 ($\mathrm{KO}(-)$ の函手性)

spectral map $f\colon X\to Y$, $g\colon Y\to Z$ と恒等射 $\mathrm{id}\colon X\to X$ について、以下が成り立つ。

  • $\mathrm{KO}(g\circ f)=\mathrm{KO}(f)\circ \mathrm{KO}(g)$
  • $\mathrm{KO}(\mathrm{id})=\mathrm{id}_{\mathrm{KO}(X)}$
証明

明らか。
定義 28 ($\mathrm{KO}$ 函手)

spectral space $X$ について $\mathcal{O}(X)$ を、spectral map $f$ についてlatticeの射 $\mathcal{O}(f)$ を対応させる函手 $\mathsf{Spec}\to \mathsf{Lat}^{op}$ を $\mathrm{KO}$ と表記する。

$\mathrm{KO} \Rightarrow \mathcal{O}$

命題 29 ($\mathrm{KO}$ から $\mathcal{O}$ への自然な包含)

spectral space $X$ について、コンパクト開集合 $U$ を $U$ へ移すlatticeの射 $\mathrm{KO}(X) \to \mathcal{O}(X)$ が存在し、これは $X$ について自然である。

証明

明らか。
命題 30 ($\mathrm{KO}(X)\to \mathcal{O}(X)$ がlatticeの射であるとき)

位相空間 $X$ について、$\mathrm{KO}(X)$ がlatticeであり、かつ包含射 $i\colon\mathrm{KO}(X)\to \mathcal{O}(X)$ がlatticeの射であるとき以下が成り立つ。

  • $X$ は準コンパクトである
  • $X$ の準コンパクト開集合 $U$, $V$ について $U\cap V$ は準コンパクトである
証明

  • $\mathrm{KO}(X)$ の最大元 $\top_c$ は $i$ によって $\top=X$ に移るため、$X$ は準コンパクト開集合である。特に$X$ は準コンパクトである。
  • $X$ の準コンパクト開集合 $U$, $V$ について $i(U\wedge V)=U\cap V$ であるため、$U\cap V$ は準コンパクトである。

図形とイデアル

観察 31 (点に付随する $\mathrm{KO}$ の素イデアル)

spectral space $X$ の点 $x$ について、$x \notin U$ となるような $U$ の開集合全体は $\mathrm{KO}(X)$ のなかでイデアルをなす。このイデアルを $\mathcal{I}_x$ と表記すると、$X$ の準コンパクト開集合は $X$ の開基をなすため、$\bigcup_{U\in\mathcal{I}_x}U$ は $X-\mathrm{Cl}_X(\{x\})$ と一致する。$X$ はsober空間であるため、$\mathcal{I}_x=\mathcal{I}_y$ ならば $\overline{\{x\}}=\overline{\{y\}}$ より、$x=y$ が成り立つ。

ここで、$x \notin U\cap V$ であるとき、$x \notin U$ もしくは $x \notin V$ が成り立つ。よって $\mathcal{I}_x$ は $\mathrm{KO}(X)$ の素イデアルである。

命題 32 (spectral space における点と $\mathrm{KO}$ の素イデアルの等価性)

spectral space $X$ について、$X$ の点 $x$ に対し $\mathrm{KO}(X)$ の素イデアル $\mathcal{I}_x$ をあてる対応は、点と素イデアルとのあいだの全単射的な対応である。

証明

観察 31 より、点から素イデアルを構成する手順が得られる。

$\mathrm{KO}(X)$ の素イデアル $\mathcal{I}$ が与えられたとき、$\mathcal{I}$ が $X$ の開被覆ならば、$X$ の準コンパクト性より有限開被覆 $\{U_1,\ldots,U_n\}$ が取れる。このとき $\mathcal{I}$ はイデアルであるため、$U_1,\ldots, U_n$ のジョインが $\mathcal{I}$ に含まれなければならないが、これは $\mathcal{I}$ が真のイデアルであることに反する。$V=\bigcup_{U\in\mathcal{I}}U$ は $X$ 全体でない。よって、$F=X-V$ は空でない閉集合である。

このとき、$V$ に含まれる準コンパクト開集合 $W$ が $\mathcal{I}$ に含まれることを示す。$W=\bigcup_{U \in \mathcal{I}}(W\cap U)$ が成り立つが、$\mathcal{I}$ はイデアルであってかつ $W\cap U \subset W \in \mathcal{I}$ であるため、$W$ は $\mathcal{I}$ の元の合併として表される。$W$は準コンパクトであるため、実際には有限個の合併として表されるため、$W \in \mathcal{I}$ が成り立つ。

$F$ が既約でないならば、ある $F$ より真に小さい閉集合 $F_1$, $F_2$ によって $F_1\cup F_2=F$ と表すことができる。このとき、$X$ の準コンパクト開集合は $X$ の開基をなすため、$X-F_1$ は準コンパクト開集合の合併として表される。しかし、$\mathcal{I}$ に含まれるすべての準コンパクト開集合は $V$ に含まれるため、$W_1 \subset X-F_1$ であって $\mathcal{I}$ に属さないものが取れる。同様に、$W_2 \subset X-F_2$ であって $\mathcal{I}$ に属さないものを取ったとき、$W_1\cap W_2 \subset X-F=V$ が成り立つ。これは $\mathcal{I}$ の素イデアル性に矛盾する。よって $W$ は既約である。

$X$ はsober空間であるため、$W$ の生成点が唯一つ存在する。この点を $x$ とおくと、$\mathcal{I}=\mathcal{I}_x$ である。
命題 33 (点と $\mathrm{KO}$ の素イデアルが等価な状況)

位相空間 $X$ について、$X$ の点 $x$ に対し半順序集合 $\mathrm{KO}(X)$ の素イデアル $\mathcal{I}_x$ をあてる対応が点と素イデアルとのあいだの全単射的な対応であり、かつコンパクト開集合からなる開基を持つとする。$X$ はsober空間である。

証明

$\overline{\{x\}}=\overline{\{y\}}$ なる相異なる $X$ の点 $x$, $y$ が存在すれば、$\mathcal{I}_x=\mathcal{I}_y$ が成り立つ。よって既約閉集合について、生成点は存在すれば一意である。

既約閉集合 $F$ を取ったとき、$X-F$ に含まれる準コンパクト開集合全体は素イデアルをなすため、ある点 $x$ が存在し、$\mathcal{I}_x$ と一致する。このとき、任意の $y\notin \overline{\{x\}}$ について、$y$ を含み $x$ を含まないような開集合 $U$ が存在する。$X$ は準コンパクト開集合からなる開基を持つため、このような $U$ として準コンパクトであるようなものが取れる。そのため $U$ の準コンパクト性を仮定してよい。ここで $U\in \mathcal{I}_x$ が成り立つが、$\mathcal{I}_x$ はそもそも $X-F$ に含まれる準コンパクト開集合全体のなすイデアルであった。よって $U \subset X-F$ が成り立ち、$y \in X-F$ が言える。したがって $F\subset \overline{\{x\}}$ が言える。

$x \notin F$ ならば、$x$ を含み $X-F$ に含まれるような準コンパクト開集合 $V$ が存在するが、$V$ は $x$ を含むため、 $\mathcal{I}_x$ に属さない。しかし $\mathcal{I}_x$ はそもそも $X-F$ に含まれる準コンパクト開集合全体のなすイデアルであったため、これは矛盾である。よって $x \in F$ が成り立つため、$x$ は $F$ の生成点となる。よって $X$ はsober空間である。

spectral space の同値な定義

定理 34 (spectral spaceの $\mathrm{KO}$ を用いた同値な定義)

位相空間 $X$ について、$X$ がspectral spaceであることは、以下の条件を満たすことと同値である。

  • $\mathrm{KO}(X)$ はlatticeであり、$U \in \mathrm{KO}(X)$ を $U \in \mathcal{O}(X)$ に移す写像 $\mathrm{KO}(X)\to \mathcal{O}(X)$ はlatticeの射である。
  • $X$ のコンパクト開集合全体は開基である。
  • $X$ の点 $x$ について、$\mathcal{I}_x:=\{x \notin U|U \in \mathrm{KO}(X)\}$ をあてる対応は、$X$ と $\mathrm{KO}(X)$ の素イデアル全体の集合のあいだの全単射を引き起こす。
証明

命題 25命題 32命題 30命題 33 より明らか。

constructible topology

constructible set

構成可能集合の概念自体は、一般の位相空間に対しても定義される。一般の状況で定義を行ったのち、spectral spaceでの状況について調べる。

導入(constructible set)

定義 35 (retrocompact)

位相空間 $X$ の部分空間 $Z$ がretrocompactであるとは、包含射 $i\colon Z\to X$ が準コンパクト(定義 9)であることをいう。

定義 36 (basic constructible set)

位相空間 $X$ の部分空間 $Z$ がconstructible setであるとは、retrocompactな開集合 $U$, $V$ が存在して $U\cap (X-V)$ と表せることをいう。

定義 37 (constructible set)

位相空間 $X$ の部分空間 $Z$ がconstructible setであるとは、basic constructible setの有限和として表されることをいう。

基本的な性質(constructible set)

補題 38 (retrocompact開集合の有限交叉はretrocompact)
  1. 位相空間 $X$ のretrocompact開集合 $U$, $V$ について $U\cup V$ はretrocompactである。
  2. 位相空間 $X$ のretrocompact開集合 $U$, $V$ について $U\cap V$ はretrocompactである。
証明

  • 1. について

$X$ の準コンパクト開集合 $W$ について $V \cap W$ は準コンパクト開集合である。また $U\cap W$ も準コンパクト開集合である。このとき、$(U\cup V)\cap W=(U\cap W)\cup(V\cap W)$ であるため、$(U\cup V)\cap W$ は準コンパクト集合の有限和であるため準コンパクトである。また $(U\cup V)\cap W$ の開集合性は明らか。よって $U\cup V$ はretrocompactである。

  • 2. について
$X$ の準コンパクト開集合 $W$ について $V \cap W$ は準コンパクト開集合である。よって、$U \cap V\cap W$ もまた準コンパクトであるため、$U\cap V$ はretrocompactである。
補題 39 (constrctible set の有限和・有限交叉・補集合)

位相空間 $X$ について以下が成り立つ。

  1. $X$ の有限個のconstructible set $Z_1$, $\ldots$, $Z_n$ について、$Z_1\cup \ldots \cup Z_n$ はconstructible setである。
  2. $X$ の有限個のconstructible set $Z_1$, $\ldots$, $Z_n$ について、$Z_1\cap \ldots \cap Z_n$ はconstructible setである。
  3. $X$ のconstructible set $Z$ について、$X-Z$ はconstructible setである。
証明

  • 1. について

定義より明らか。

  • 2. について

$X$ のconstructible set $Z_1$, $Z_2$ について $Z_1\cap Z_2$ がconstructible setであることをしめせばよい。このとき、有限個のbasic constructible set $W_{1,1},\ldots, W_{n,1},W_{1,2},\ldots, W_{m,2}$ が存在して、$Z_1=W_{1,1}\cup \ldots \cup W_{n,1}$ かつ $Z_2=W_{1,2}\cup\ldots \cup W_{m,2}$ が成り立つようにできる。$$ Z_1\cap Z_2 =\bigcup_{1\leq i \leq n\ ,\ 1\leq j \leq m}(W_{i,1}\cap W_{j,2})$$ が成り立つため、basic constructible setの有限交叉がconstructible setであるなら、主張 1. より主張 2. が従う。

basic constructible set $W_1$, $W_2$ について、retrocompactな開集合 $U_1$, $V_1$, $U_2$, $V_2$ が存在して、$W_1=U_1\cap (X-V_1)$ かつ $W_2=U_2\cap (X-V_2)$ が成り立つようにできる。このとき、$W_1 \cap W_2=U_1\cap (X-V_1) \cap U_2\cap (X-V_2) =(U_1\cap U_2)\cap (X-(V_1\cup V_2))$ が成り立つ。補題 38 より、$(U_1\cap U_2)\cap (X-(V_1\cup V_2))$ はconstructibleである。

  • 3. について

$X$ のcontsructible set $Z$ について、basic constructible set $W_1$, $\ldots$, $W_n$ の合併として表されているとする。このとき、$X-Z$ は $X-W_1$, $\ldots$, $X-W_n$ の交叉である。よって主張 2. より、basic constructible setの補集合がconstructible setであればよい。

basic constructible set $W$ について、$X$ のretrocompact開集合 $U$, $V$ であって $W = U\cap (X-V)$ が成り立っているとする。このとき $X-W=V\cup (X-U)$ が成り立つため、これはconstructible setである。
補題 40 (準コンパクト空間においてretrocompact開集合 $\Rightarrow$ 準コンパクト開集合)

準コンパクト空間 $X$ のretrocompact開集合 $U$ は準コンパクトである。

証明

$X$ は $X$ の準コンパクト開集合であるため、$U\cap X$ は準コンパクトである。
補題 41 (spectral spaceにおいて準コンパクト開集合 $\Leftrightarrow$ retrocompact開集合)

spectral space $X$ の準コンパクトな開集合はretrocompact開集合である。

証明

$X$ の準コンパクト開集合の有限個の交叉は準コンパクトであるため、補題の主張が成り立つ。

constructible topology

コンパクト性とその周辺#Alexander subbase theorem にてAlexander subbase theoremの証明がなされている。こちらも参照されよ。

導入(constructible topology)

定義 42 (constructible topology)

位相空間 $X$ について、constructible set全体を開基としてもつような $X$ 上の新しい位相を $X$ のconstructible topologyという。$X$ にconstructible topologyを入れた空間を、$X$ と区別して $X_\mathrm{con}$ と表記する。

観察 43 ($\mathrm{KO}$ を用いたconstructible topologyの定義)

spectral space において、constructible setは、準コンパクト開集合と準コンパクト開集合の補集合全体から有限合併・有限交叉を取る操作により得ることができる。ここで、位相空間 $X$ について $\mathrm{compKO}(X)$ を $\{X-U| U \in \mathrm{KO}(X)\}$ と定め、$X$ の部分集合全体のなすlatticeを $\mathcal{P}(X)$ と表記すると、$\mathrm{KO}(X)\cup \mathrm{compKO}(X)$ の生成する $\mathcal{P}(X)$ のsublatticeはconstructible set全体のlatticeと一致する。また、$\mathrm{KO}(X)\cup \mathrm{compKO}(X)$ の生成する $\mathcal{P}(X)$ のsubframeは $\mathcal{O}_{X_\mathrm{con}}$ と一致する。

注意 44 ($X_\mathrm{con}$ の開集合)

$X_\mathrm{con}$ の開集合は、constructible setの(無限を許す)合併として表されるため、必ずしもconstructible setであるとは限らない。同様に準コンパクトであるとも限らない。

基本的な性質(constructible topology)

命題 45 ($X_\mathrm{con}\to X$)

準コンパクト開集合からなる開基を持ち、有限個の準コンパクト開集合の交叉が準コンパクトとなる位相空間 $X$ において、台集合上の恒等射 $i:X_\mathrm{con}\to X$ は連続射である。

証明

$X$ の開集合について、これは $X$ の準コンパクト開集合の合併として表せる。このとき、$X$ の準コンパクト開集合の逆像が開集合ならば $i$ の連続性が言えるが、$X$ の準コンパクト開集合はconstructible setであるため、命題の主張が示される。
定理 46 (spectral space $X$ について $X_\mathrm{con}$ は全不連結準コンパクトHausdorff空間)

spectral space $X$ について、$X_\mathrm{con}$ は完全不連結準コンパクトHausdorff空間である。

証明

証明は stacks project を参考とした。

  • $X_\mathrm{con}$ の完全不連結Hausdorff性

$X$ の相異なる点 $x$, $y$ について、$X$ は $T_0$ 空間であるため、$x$ もしくは $y$ のいずれか一方のみを含む開集合 $U$ が存在する。$x \in U$ であると仮定したとき、$X$ の準コンパクト開集合全体は $X$ の開基であったため、$U$ を準コンパクト開集合で取り直すことができる。以下 $U$ が準コンパクト開集合であると仮定する。このとき、$U$, $X-U$ はconstructible setであるため、$x$ と $y$ の $X_\mathrm{con}$ における非交な開近傍が取れる。$y \in U$ の場合にも同様の議論を適用できるため、$X_\mathrm{con}$ はHausdorffであることが言える。さらに、$U$ は $X_\mathrm{con}$ において開かつ閉集合であるため、$x$ と $y$ は異なる連結成分に属することがわかる。したがって $X_\mathrm{con}$ は完全不連結である。

  • $X_\mathrm{con}$ の準コンパクト性

$X_\mathrm{con}$ の位相は、$\mathrm{KO}(X)\cup \mathrm{compKO}(X)$ を準開基として持つ。従ってAlexander subbase theoremより、$X$ の準コンパクト開集合または準コンパクト開集合の補集合からなる開被覆について、その有限細分であるような開被覆を取れることを示せばよい。

ここで、$X$ の準コンパクト開集合の補集合または準コンパクト開集合(すなわち、開基の要素の補集合として取れるもの)からなる有限交叉性を持つ族について、その交叉が非空であることが示せたとする。すると、$X$ の準コンパクト開集合または準コンパクト開集合の補集合からなる開被覆 $\{U_i\}_{i\in \Lambda}$ について、$\{X-U_i\}_{i\in \Lambda}$ は交叉性を持たない。よって有限交叉性を持たないため、$\{U_i\}$ に開被覆が存在することがわかる。

Zornの補題より、$X$ の準コンパクト開集合の補集合または準コンパクト開集合からなる有限交叉性を持つ族について、そのなかで極大な族をひとつ取ることができる。これを $\mathcal{T}$ とよぶ。$\mathcal{T}$ のなかで $X$ の閉集合である要素全体を $\mathcal{T}_{\mathrm{closed}}$ と表記する。このとき、$X$ は準コンパクトであり、かつ $\mathcal{T}_{\mathrm{closed}}$ は有限交叉性を持つため、$\mathcal{T}_{\mathrm{closed}}$ の交叉は空でない閉集合である。この閉集合を $F$ とおく。

$F$ が既約な閉集合であることを示す。$X$ の真の閉集合 $F_1$, $F_2$ であって $F_1\cup F_2=F$ であるものを取る(すなわち、$F_1$ の点であって $F_2$ に属さない点を取れ、同様に $F_2$ の点であって $F_1$ に属さない点が取れるようにする)。このとき、$X$ は準コンパクト開集合を開基に持つため、$X-F_1$ に含まれる準コンパクト開集合 $U_1$ であって $F_2$ の点のいずれかを含むもの、同様に $X-F_2$ に含まれる準コンパクト開集合 $U_2$ であって $F_1$ の点のいずれかを含むものが存在する。$X-U_1$, $X-U_2$ が $\mathcal{T}$ に含まれるなら、$\mathcal{T}_\mathrm{closed}$ に含まれるため、$F$ を含まねばならないが、これは $U_1$ が $F_2$ の点を含むことに反する。よって $\mathcal{T}$ の要素ではない。

従って、$\mathcal{T}$ の極大性より、ある有限個の $\mathcal{T}$ の要素 $T_{1,1}$, $\ldots$, $T_{n,1}$, $T_{1,2}$, $\ldots$, $T_{m,2}$ によって、$(X-U_1)\cap T_{1,1}\cap \ldots \cap T_{n,1}=\emptyset$ かつ $(X-U_2)\cap T_{1,2}\cap \ldots \cap T_{m,2}=\emptyset$ が成り立つようにできる。したがって、$F\subset (X-U_1)\cup (X-U_2)$ より$F\cap T_{1,1}\cap \ldots \cap T_{n,1}\cap T_{1,2}\cap \ldots \cap T_{m,2}=\emptyset$ が成り立つ。このとき、$T_{1,1}\cap \ldots \cap T_{n,1}\cap T_{1,2}\cap \ldots \cap T_{m,2}$ は準コンパクト空間の閉集合であるため準コンパクトであった。すると $\mathcal{T}_{\mathrm{closed}}$ は $T_{1,1}\cap \ldots \cap T_{n,1}\cap T_{1,2}\cap \ldots \cap T_{m,2}$ において有限交叉性が持てないことが言えるため、結局 $\mathrm{T}$ の有限交叉性に反する。よって $F$ は既約である。

$F$ の生成点を $x$ とおく。$\mathcal{T}$ の要素で $x$ を含まない要素 $U$ を取ったとき、$U$ は準コンパクトであることに注意すると、$\mathcal{T}_\mathrm{closed}$ は $U$ において有限交叉性を持たない。よって有限個の $\mathcal{T}_{\mathrm{closed}}$ の要素 $T_1,\ldots,T_s$ であって $U\cap T_1\cap \ldots \cap T_s$ は空となる。これは $\mathcal{T}$ の有限交叉性に反する。したがって $x \in U$ が成り立つ。よって $x$ は $\mathcal{T}$ の要素の交叉に含まれる。
命題 47 ($X_{\mathrm{con} }\to Y_{\mathrm{con} }$)

spectral space $X$, $Y$ とspectral map $f\colon X\to Y$ について、$f$ によって誘導される集合の写像 $f_\mathrm{con}\colon X_\mathrm{con}\to Y_\mathrm{con}$ は連続である。

証明

$Y_\mathrm{con}$ の位相は $Y$ のコンパクト開集合とその補集合により生成されるため、$Y$ のコンパクト開集合 $V$ について、$V$ の $f$ による逆像が $X_\mathrm{con}$ 開かつ閉集合であれば、これは $f_\mathrm{con}$ の連続性を導く。このとき$f^{-1}(V)$ は $f$ の準コンパクト性より準コンパクト開集合である。よって $X_\mathrm{con}$ において開かつ閉集合である。

副有限空間

導入(副有限空間)

定義 48 (副有限空間)

副有限空間とは、完全不連結準コンパクトHausdorff空間のことである。

注意 49 (名称について)

副有限空間について、これは一般の数学においても非常に重要な役割を持つ空間であり、Stone空間ともよばれる。また、Boolean空間と呼ばれることもある。

副有限空間の同値な定義

定義 50 (連結成分)

位相空間 $X$ について、$X$ の連結部分空間よりなる $\mathcal{P}(X)$ の部分半順序を一時的に(定義 50 において)$P$ とよぶとき、$P$ の極大な要素のことを $X$ の連結成分という。

観察 51 (連結成分への分解)

位相空間 $X$ の点 $x$ を含む連結成分は唯一つ存在する。実際、$x$ を含む連結な $X$ の部分集合すべての合併は $x$ を含む連結成分となる。また $X$ の異なる連結成分は非交であることがこのことよりわかる。

観察 52 (開かつ閉集合の交叉)

一般の位相空間 $X$ において、$x$ を含む連結成分は、$x$ を含むような開かつ閉集合に常に含まれることがわかる。よって $x$ を含むすべての開かつ閉集合の交叉にも含まれることが言える。

補題 53 (準コンパクト集合の分離)

Hausdorff空間 $X$ の準コンパクト集合 $Z$, $Z'$ が非交であるとき、$Z\subset U$, $Z'\subset U'$ なる開近傍であって非交なものが存在する。

証明

$Z$ の点 $z$ を固定する。このとき、Hausdorff性より、任意の $z' \in Z'$ について $z \in U_{z'}$ かつ $z' \in U'_{z'}$ なる開近傍であって非交なものが存在する。このとき、$U'_{z'}$ 全体は $Z'$ の開被覆となるため、有限個の点 $z'_1,\ldots , z'_n$ によって $\bigcup_{1\leq i \leq n}U'_{z'_i}$ が $Z'$ を含むようにできる。このとき $U_{z'_i}$ 全体の交叉は $\bigcup_{1\leq i \leq n}U'_{z'_i}$ と非交な $z$ の近傍である。

任意の $z \in Z$ について $z \in V_{z}$ かつ $Z' \in V'_{z}$ なる開近傍であって非交なものが存在する。このとき、$V_{z}$ 全体は $Z$ の開被覆となるため、有限個の点 $z_1,\ldots , z_n$ によって $\bigcup_{1\leq i \leq n}V_{z_i}$ が $Z$ を含むようにできる。このとき $V'_{z_i}$ 全体の交叉は $\bigcup_{1\leq i \leq n}V_{z_i}$ と非交な $Z'$ の近傍である。よって補題の主張が示される。
補題 54 (コンパクト空間の連結成分)

準コンパクトHausdorffな位相空間 $X$ とその点 $x$ について、$x$ を含む連結成分は、$x$ を含む開かつ閉集合すべての交叉と一致する。

証明

$x$ を含む連結成分を $C$, $x$ を含む開かつ閉集合のすべての交叉を $D$ とおく。一般の位相空間の場合に $C \subset D$ は成立するため、$D\subset C$ を示す。そのためには $D$ が連結であることを示せばよい。

$D=A\coprod B$ と $D$ の開かつ閉集合により分解できたとする。このとき $X$ において $D$ は閉集合であるため、$A$, $B$ もまた $X$ の閉集合である。よってこれらは準コンパクト集合であり、また非交である。補題 53 より、$X$ の非交な開集合 $U_A$, $U_B$ であって $A\subset U_A$, $B\subset U_B$ なるものが存在する。このとき $X-U_A-U_B$ は準コンパクトであり、$D$ を含まない。よって、$X-U_A-U_B$ のコンパクト性より、ある $x$ を含む開かつ閉集合 $W$ であって $X-U_A-U_B$ と非交なものが存在する。よってこのとき $W\subset U_A\coprod U_B$ が言える。$W$ は連結であるため、$W\subset U_A$ または $W\subset U_B$ が成り立つ。

$W\subset U_A$ と仮定して以下の議論は一般性を失わない。$W\subset U_A$ であるとき、$D\subset U_A$ より $D\cap U_B=\emptyset $ である。よって $B=\emptyset $ が成り立つ。よって $D$ は連結である。
命題 55 (副有限性の同値条件)

位相空間 $X$ について以下は同値である。

  1. $X$ は副有限空間
  2. $X$ は有限離散空間の積空間のある閉部分空間として表される
  3. $X$ は有限離散空間の極限として表される
  4. $X$ は有限離散空間の有向極限として表される
証明

  • 4. $\Rightarrow$ 3. $\Rightarrow$ 2. $\Rightarrow$ 1.

4. $\Rightarrow$ 3. については明らか。3. $\Rightarrow$ 2. について、図式 $\{X_i;f_\lambda\}_{i \in I,\lambda \in \Lambda}$ の極限として位相空間 $X$ が表されたとする。このとき、$f_\lambda\colon X_{\lambda,1}\to X_{\lambda,2}$ ごとに積空間 $\prod_{i \in I} X_i$ の部分集合であって、$\lambda,1$ 成分を $f_\lambda$ で移した値が $\lambda,2$ 成分と一致するもの全体を考える。この部分集合を $G_\lambda$ とおくと、$G_\lambda$ は閉集合であることがわかる。よって $\bigcap_{\lambda \in \Lambda} G_\lambda$ は $\prod_{\lambda \in \Lambda}X_i $ の閉集合である。ここで圏論の一般論より、$\bigcap_{\lambda \in \Lambda} G_\lambda$ と $X$ は同相であるため、$X$ は有限離散空間の積空間の閉部分空間として表すことができる。

2. $\Rightarrow$ 1. について、$X$ が有限離散空間の積空間の閉集合として表されるとき、Tychonoffの定理より準コンパクトHausdorff性は明らかである。また有限離散空間の積空間は完全不連結であり、完全不連結性は部分空間に遺伝するため、$X$ は完全不連結である。

  • 1. $\Rightarrow$ 4. について

$X$ の開かつ閉集合への分解 $\coprod_{i \in I}U_i$ 全体の集合を $\mathcal{D}$ とおく。このとき、$X$ の点が $U_i$ に属するとき $i \in I$ をあてるような連続射 $f_I\colon X\to I$ が存在する。 ここで、$I, I' \in \mathcal{D}$ について、$I'$ が $I$ の細分であるとき、すなわち任意の $i' \in I'$ について $U_{i'} \subset U_i$ となるような $i \in I$ が存在するとき、$I\leq I'$ が成り立つような $\mathcal{D}$ 上の半順序を与える。これは明らかに有向な半順序である。 このとき、$i' \in I'$ について $U_{i'} \subset U_i$ となるような $i \in I$ は一意的に定まるため、有限離散空間の射 $t_{I',I}\colon I'\to I$ が定まる。このとき、$f_I=t_{I',I}\circ f_{I'}$ が成り立つことに注意すると、$\mathcal{D}$ 上の半順序に沿った極限 $\lim_{I \in D}I$ への写像 $$ f\colon X\to \lim_{I \in \mathcal{D}}I $$ が取れる。

$\lim_{I \in D}I$ は先ほどの議論によりHausdorffであることがわかる。このとき、$X$ は準コンパクトであるため、$f$ が全単射連続であるならば $f$ の同相性が言える。

単射性については、補題 54 により従う。また、全射性について、$\lim_{I \in D}I$ の点 $(i)_{I \in \Lambda}$ を取ったとき、$\{U_i\}$ は $X$ の閉集合よりなる有限交叉性を持つであり $X$ は準コンパクトであったため、空でない交叉を持つ。この交叉の点 $x$ について、$f(x)=(i)_{I\in \Lambda}$ が成り立つ。よって全単射性が言える。連続性は極限の圏論的性質により明らかである。よって $f$ は同相であり、$X$ は有限離散空間の有向極限として表すことができる。

spectral spaceにおいて

定理 56 (spectral spaceの副有限性)

spectral space $X$ について、以下は同値である。

  1. $X$ は副有限空間
  2. $X$ はHausdorff
  3. $X$ は完全不連結
  4. $X$ の準コンパクト開集合は閉集合
  5. $X$ は $T_1$ 空間
  6. $X$ と $X_\mathrm{con}$ は位相が一致
証明

  • 6. $\Rightarrow$ 1. $\Rightarrow$ 2. $\Rightarrow$ 4. $\Rightarrow$ 3. $\Rightarrow$ 5.

定理 46 より 6. $\Rightarrow$ 1. が成り立つ。また定義より明らかに 1. $\Rightarrow$ 2. が成り立つ。Hausdorff空間において準コンパクト集合は閉集合であるため、2. $\Rightarrow$ 4. が成り立つ。4. が成り立つとき、$X$ の異なる点 $x$, $y$ について、この二点を分離する開集合が存在するが、$X$ は準コンパクト開集合を開基として持つため、このような開集合として準コンパクト開集合を取れる。準コンパクト開集合は仮定より閉集合であるため、$x$ と $y$ とは同じ連結成分に属さない。よって 3. が成り立つ。3. が成り立つとき、$\overline{\{x\}}$ は既約であり従ってこれは連結であるため、$x$ を含む連結成分は $\overline{\{x\}}$ を含む。よって $\overline{\{x\}}=\{x\}$ が成り立つ、従って 5. が言える。

  • 5. $\Rightarrow$ 1.

spectral spaceかつ $T_1$ である位相空間 $X$ を取る。$X$ の準コンパクト性は定義より明らか。

$X$ の準コンパクト開集合 $U$ を取ると、$U$ は $X_\mathrm{con}$ において閉集合である。ここで、$U$ の閉包の点 $x$ を任意に取ると、$x$ を含む $X$ の開集合は $U$ と交わる。よって、$x$ を含む開集合 $V$ について $U\cap V$ と表すことのできる $U$ の部分集合系 $\mathcal{I}$ は有限交叉性を持ち、また $X_\mathrm{con}$ の位相において閉集合である。$U$ は $X_\mathrm{con}$ の位相において準コンパクトであるため、$\mathcal{I}$ は空でない交叉をもつ。ここで $x$ を含む $X$ の開集合全体の交叉は $X$ の $T_1$ 性より $\{x\}$ と一致するため、$x \in U$ が成り立つ。従って $X$ の準コンパクト開集合は閉集合であることがわかる(これは 4. の主張である)。

任意の $X$ の相異なる点 $x$, $y$ について、$x$ を含み $y$ を含まない準コンパクト開集合を取ることができるが、これは閉集合でもあるため、$X$ のHausdorff性、また完全不連結性が従う。

  • 4. $\Rightarrow$ 6.

$X$ のretrocompact setは準コンパクトであるため、$X$ のconstructible setは仮定より開集合である。よって $X_\mathrm{con}$ の開集合は $X$ の開集合である。命題 45 より $X_\mathrm{con}$ の位相と $X$ の位相は一致する。

spectral spaceの位相的構成

部分空間

観察 57 (spectral mapでない包含射)

spectral space $X$ の部分空間がすべてspectral spaceであるとは限らない。実際、$X$ の準コンパクトでない部分集合 $Y$ について、$Y$ はspectral spaceでない。すなわち、spectral spaceについて、安直な位相空間のレベルでの部分空間の概念を「spectral spaceのレベルにおける良い部分空間の概念」であると思うことは難しい。spectral subspaceの概念を定義するうえで、さらに考慮すべきこととして、$X$ の部分空間 $Y$ であってspectral spaceであるものを取ったとしても、包含射 $Y\to X$ がspectral mapであるとは限らないという事実がある。

例示 58 (spectral subspaceでない部分空間)

位相空間 $X$ を、集合 $\mathbb{N}\cup \{\infty,\infty'\}$ に以下のように位相を入れたものとする。

  • $\infty \notin U\subset X$ ならば $U$ は開集合
  • $\infty \in U \subset X$ ならば $\infty' \in U$ かつ $X-U$ が有限集合であるとき $U$ は開集合

このとき、$X$ はspectral spaceとなり、$\mathbb{N}\cup \{\infty'\}\subset X$ に部分位相を入れた空間を $Y$ と おくと、$Y$ もまたspectral spaceとなるが、包含射 $Y\to X$ はspectral mapでない。

定義 59 (spectral subspace)

spectral space $X$ の部分空間 $Y$ がspectral subspaceであるとは、$Y$ がspectral spaceであり、さらに包含射 $Y\to X$ がspectral mapであることをいう。

命題 60 (spectral subspace)

spectral space $X$ と $X$ の部分空間 $Y$ について、以下は同値。

  1. $Y$ は $X$ のspectral subspace
  2. $Y$ は $X_\mathrm{con}$ において閉集合
証明

  • 1. $\Rightarrow$ 2.

$Y$ が $X$ のspectral subspaceなら、包含射 $Y\to X$ により誘導される $Y_\mathrm{con}\to X_\mathrm{con}$ は連続射であるが、$Y_\mathrm{con}$ は準コンパクトであり、$X_\mathrm{con}$ はHausdorff空間であるため、$Y_\mathrm{con}$ は $X_\mathrm{con}$ において閉な像を持つ。

  • 2. $\Rightarrow$ 1.

$Y$ が $X_\mathrm{con}$ の位相において閉集合であるとする。$X$ の準コンパクト開集合 $U$ について、$U\cap Y$ は $X_\mathrm{con}$ において閉集合である。よって $X_\mathrm{con}$ は準コンパクトであったため、$U\cap Y$ もまた準コンパクトである。よって $\{U\cap Y|U \in \mathrm{KO}(X)\}\subset \mathrm{KO}(Y)$ が成り立つ。

$\{U\cap Y|U \in \mathrm{KO}(X)\}$ は $Y$ の開基であることに注意すると、$V \in \mathrm{KO}(Y)$ について、$V$ の準コンパクト性より、有限個の準コンパクト開集合 $U_1$, $\ldots$, $U_n$ が存在して、$V=(U_1\cap Y)\cup (U_n\cap Y)$ が成り立つ。したがって $V=(\bigcup_{1\leq i \leq n}U_i)\cap Y$ が成り立ち、$\bigcup_{1\leq i \leq n}U_i$ は準コンパクト開集合であるため、$V \in \{U\cap Y|U \in \mathrm{KO}(X)\}$ が成り立つ。

このとき、$Y$ は準コンパクトであり、また $Y$ の準コンパクト開集合全体は $Y$ の開基となることが示される。また $Y$ の準コンパクト開集合 $V_1$, $V_2$ について、$X$ の準コンパクト開集合 $U_1$, $U_2$ が存在して $V_1=U_1\cap Y$, $V_2=U_2\cap Y$ が成り立つ。$V_1\cap V_2=(U_1\cap U_2)\cap Y$ が成り立つ。$U_1\cap U_2$ は $X$ の準コンパクト開集合であるため、$V_1\cap V_2$ は $Y$ の準コンパクト集合である。

以下 $Y$ のsober性を示す。$Y$ の既約閉集合 $F$ について、集合族 $\mathcal{F}=\{U \cap F|U \in \mathrm{KO}(X)\ , \ U\cap F=\neq \emptyset\}$ は $F$ の既約性より有限交叉性を持つ。$\mathcal{F}$ は $X_\mathrm{con}$ の位相において閉集合族であるため、$X_\mathrm{con}$ の準コンパクト性より $\mathcal{F}$ は空でない交叉を持つ。よって $x \in \bigcap \mathcal{F}$ を取ることができる。

$C$ は $Y$ の閉集合であるため、$\mathrm{Cl}_Y(\{x\})\subset F$ が成り立つ。$F\subset \mathrm{Cl}_X(\{x\})$ でないとすると、$y \in F-\mathrm{Cl}_X(\{x\})$ なる点が存在する。$X$ は準コンパクト開集合からなる開基をもつため、$y\in U$ かつ $U\subset X-\{x\}$ なる $X$ の準コンパクト開集合が存在する。このとき $U\cap F$ は空でなく、しかし $x$ を含まないため、$x \in \bigcap \mathcal{F}$ という仮定に反する。したがって $F\subset \mathrm{Cl}_X(\{x\})$ が成り立つ。よって $F=\mathrm{Cl}_Y(\{x\})$ が成り立ち、$Y$ は生成点を持つことが示される。$Y$ の $T_0$ 性は明らかである。

$X$ の準コンパクト開集合 $U$ について $Y\cup U$ は $Y$ の準コンパクト開集合であったため、包含射 $Y\to X$ はspectral mapである。

和空間

観察 61 (spectral spaceの無限和)

spectral spaceの和が常にspectral spaceになるとは限らない。実際、空でないspectral spaceの無限和は準コンパクトでないため、spectral spaceでない。

命題 62 (spectral spaceの有限和)

有限個のspectral space $X_1$, $\ldots$, $X_n$ について、和空間 $X=X_1\coprod \ldots \coprod X_n$ はspectral spaceである。

証明

$X$ の部分集合 $U$ が準コンパクトであることと、任意の $1\leq i \leq n$ について $U\cap X_i$ が準コンパクトであることは同値である。このことに注意すると、$X$ の準コンパクト性は明らかである。また $X$ は準コンパクト開集合からなる開基を持ち、$X$ の準コンパクト開集合の有限交叉は準コンパクトである。

$X$ のsober性について、$X$ の既約な閉集合 $F$ を取ったときに、ただ一つの $1\leq i \leq n$ が存在して $F\subset X_i$ が成り立ち、また $X_i$ はsoberであるため、$F$ は生成点を持つ。また $X$ の $T_0$ 性は明らかであるため、$X$ がsoberであることが示される。

積空間

命題 63 (spectral spaceの積空間)

spectral spaceの族 $\{X_i\}_{i \in \Lambda}$ について、積空間 $X=\prod_{i \in \Lambda}X_i$ はspectral spaceであり、さらに $X_\mathrm{con}\cong\prod_{i \in \Lambda}{X_i}_\mathrm{con}$ が成り立つ。

証明

準コンパクト空間の積はTychonoffの定理より準コンパクトである。

また $X$ は有限集合 $\Lambda' \subset \Lambda$ と $i \in \Lambda'$ ごとの $U_i \in \mathrm{KO}(X_i)$ によって $\prod_{i\in \Lambda'}U_i\times \prod_{i \in \Lambda-\Lambda'}X_i$ と表せる $X$ の部分集合全体を開基として持つ。このとき、$\prod_{i\in\Lambda'}U_i\times \prod_{i \in \Lambda-\Lambda'}X_i$ はTychonoffの定理より準コンパクトである。

先の開基を $\mathcal{B}$ とおく。このとき $\mathcal{B}$ の有限個の交叉は $\mathcal{B}$ の元であることに注意する。$X$ の準コンパクト開集合は、$\mathcal{B}$ の有限個の元の合併として表すことができる。よって $X$ の有限個の準コンパクト開集合の交叉は準コンパクトである。

以下 $X$ のsober性を示すため、$X_\mathrm{con}$ と $\prod_{i \in \Lambda} {X_i}_{\mathrm{con}}$ とが同相であることを示す。$i \in \Lambda$ と $X_i$ のconstructible set $C_i$ について $C_i\times \prod_{j \in \Lambda-\{i\}}X_i$ と表される集合全体は、$\prod_{i \in \Lambda} {X_i}_{\mathrm{con}}$ の準開基となる。このとき、$X_i$ の準コンパクト開集合 $U_i$, $V_i$ によって $C_i=U_i-V_i$ と表され、$C_i\times \prod_{j \in \Lambda-\{i\}}X_i=(U_i\times \prod_{j \in \Lambda-\{i\}}X_i)-(V_i\times \prod_{j \in \Lambda-\{i\}}X_i)$ が成り立つ。$X$ の有限個の準コンパクト開集合の交叉は準コンパクトであり、すなわち $X$ の準コンパクト開集合はretrocompactであるため、$C_i\times \prod_{j \in \Lambda-\{i\}}X_i$ は $X$ のconstructible setであることがわかる。$\prod_{i \in \Lambda} {X_i}_{\mathrm{con}}$ は $X_\mathrm{con}$ の開集合からなる準開基を持つ。よって $X_\mathrm{con}$ の位相は $\prod_{i \in \Lambda} {X_i}_{\mathrm{con}}$ の位相より細かい。

$X$ は準コンパクトであるため、$X$ のretrocompactな開集合は準コンパクトな開集合である。このとき、$X$ の準コンパクト開集合は $\mathcal{B}$ の元の有限交叉として表される集合の有限個の和として表されるため、$\mathcal{B}$ の元が $\prod_{i \in \Lambda} {X_i}_{\mathrm{con}}$ の開集合かつ閉集合であるなら、$X$ のconstructible setは $\prod_{i \in \Lambda} {X_i}_{\mathrm{con}}$ において開集合であることが言えるが、$X_i$ の準コンパクト開集合は ${X_i}_\mathrm{con}$ においては開かつ閉集合であるため、$\mathcal{B}$ の元は $\prod_{i \in \Lambda} {X_i}_{\mathrm{con}}$ の開集合かつ閉集合である。よって $X_\mathrm{con}$ は $\prod_{i \in \Lambda} {X_i}_{\mathrm{con}}$ の開集合からなる開基を持つ。よって $\prod_{i \in \Lambda} {X_i}_{\mathrm{con}}$ の位相は $X_\mathrm{con}$ の位相より細かい。したがってこれらの位相は一致する。Tychonoffの定理より、$X_\mathrm{con}$ の準コンパクト性が示される。

$X$ の既約閉集合 $F$ について、$\mathcal{F}=\{U\cap F|U \in \mathrm{KO}(X)\ ,\ U\cap F\neq\emptyset\}$ の要素は $X_\mathrm{con}$ において空でない閉集合となる。$\mathcal{F}$ は有限交叉性をもつため、$x \in \bigcap \mathcal{F}$ が取れる。このとき、$X$ は準コンパクト開集合全体を開基として持つため、$F-\overline{\{x\}}$ が空集合でなければ、$x$ を含まず $y$ を含むような準コンパクト集合が取れ、これは $x$ の取り方に矛盾する。よって $\overline{\{x\}}$ は $F$ を含むが、$F$ は閉集合であるため、これらは一致する。よって $F$ は生成点を持つ。

$T_0$ 空間の積は $T_0$ 空間であるため、$X$ は $T_0$ である。よって $F$ の生成点は一意である。従って $X$ はsober空間であることが示される。すべての議論により $X$ はspectral spaceであることが示される。
例示 64 (Sierpinski空間の冪)

Sierpinski空間とは、二点集合 $\mathbb{S}=\{0,1\}$ 上に以下のように位相を入れたものである。

  • $U\subset \mathbb{S}$ が開集合であることと、$U \in \{\emptyset , \{0\},\mathbb{S}\}$ であることは同値

このとき、Sierpinski空間はspectral spaceであるため、任意の集合 $D$ について $\prod_{d\in D} \mathbb{S}$ はspectral spaceである。

spectral spaceの部分クラス

sober Noether空間

定義 65 (Noether空間)

位相空間 $X$ がNoether空間であるとは、任意の $\mathcal{O}(X)$ の部分集合が包含についての極大元を持つことをいう。

命題 66 (Noether空間の準コンパクト性)

Noether空間 $X$ について、$X$ は準コンパクトである。

証明

$X$ の有限細分を持たない開被覆 $\mathcal{U}$ が存在したとして、$i \in \mathbb{N}$ に対して $U_i \subsetneq U_{i+1}$ が成り立ち、また $U_i$ が $\mathcal{U}$ の要素の有限和となるような開集合の列 $\{U_i\}_{i \in \mathbb{N}}$ を帰納的に定義する。

まず $U_1 \in \mathcal{U}$ を任意に選ぶ。$n \in \mathbb{N}$ について、$\{U_i\}_{1\leq i\leq n}$ がすでに定まっていたとする。このとき、$x \in X-U_n$ を任意に取り、$x$ を含む $\mathcal{U}$ の元 $U'_n$ を選び、$U_{n+1}=U_n\cup U'_n$ と定めればよい。

こうして構成した $\{U_i\}_{i \in \mathbb{N}}$ について、この列は極大元を持たないため、$X$ のNoether性に反する。従って $X$ は準コンパクトである。
命題 67 (Noether空間の準コンパクト性)

Noether空間 $X$ と $X$ の部分空間 $Y$ について、$Y$ はNoether空間である。

証明

$Y$ の開集合族 $\mathcal{V}$ を任意にとる。このとき、$U \in \mathcal{O}(X)$ であって $U \cap Y \in \mathcal{V}$ が成り立つような $U$ 全体の集合を $\mathcal{U}$ とおき、$\mathcal{U}$ の極大元を $U_m$ とおく。このとき、$U_m \cap Y$ は $\mathcal{V}$ の極大元である。したがって $Y$ はNoether空間である。
命題 68 (spectralなNoether空間)

soberなNoether空間 $X$ について、$X$ はspectral spaceである。

証明

$X$ の任意の部分集合は準コンパクトであるため、$X$ はspectral spaceであることが示される。
観察 69 ($\mathrm{Spec}$ 構成とNoether環)

のちに $\mathrm{Spec}$ 構成という、可換環についてspectral spaceをあてる対応を導入する。

Noether環 $R$ について、$\mathrm{Spec}(R)$ はNoether空間である。しかし、すべてのNoetherなspectral space $X$ について、$\mathrm{Spec}(R)$ が $X$ と同相になるようなNoether環 $R$ が存在するわけではない。

実際、$X$ として以下のような空間を取ればよい。

  • $X$ は集合として $\{0,1,2,3,4,5\}$
  • $X$ の開集合は $\{0\},\{0,1\},\{0,1,2,3\},\{3\},\{3,4\},\{0,3,4,5\}$ の合併として表される $X$ の部分集合

$X=\mathrm{Spec}(R)$ なる環 $R$ について、点 $2$ に対応する素イデアル $\mathfrak{p}_2$ は高さ $2$ であるため、$R$ がNoether環ならば $\mathfrak{p}$ に含まれる $R$ の素イデアルが無限個存在しなければならない。よって $R$ はNoether環ではない。

副有限空間

命題 70 (副有限空間はspectral)

副有限空間はspectral spaceである。

証明

命題 55 より、副有限空間は有限離散空間の積空間のある閉集合と同相である。このとき、有限離散空間の積空間がspectral spaceならば、spectral spaceの閉集合はconstructible topologyにおいても閉集合であるため、命題 60 より副有限空間はspectral spaceであることが言える。

有限離散空間はspectral spaceである。よって命題 63 より、有限離散空間の積空間はspectral spaceである。したがって命題の主張は示される。

Stone双対

可換環論における $\mathrm{Spec}$ 構成

このセクションにおいては、初歩的な可換環論を仮定する。一般的な文献としては [AtM1] などが知られている。

$\mathrm{Spec}$ 構成

素イデアルの集合に位相を入れる

定義 71 (集合 $\mathrm{Spec}(R)$)

環 $R$ について、$R$ の素イデアル全体の集合を $\mathrm{Spec}(R)$ とよぶ。

定義 72 ($D(f)$)

環 $R$ と $R$ の元 $f$ について、$D(f)$ とは $\mathrm{Spec}(R)$ の $f$ を含まない素イデアルのなす部分集合のことである。

補題 73 ($D(f)$ について)

環 $R$ について、以下が成り立つ。

  1. $D(f)\cap D(g)=D(fg)$
  2. $D(1)=\mathrm{Spec}(R)$
  3. $D(0)=\emptyset$
証明

  • 1. について

$R$ の素イデアル $\mathfrak{p}$ が $f$ を含んでいると仮定すると、$\mathfrak{p}$ はイデアルであるため、$fg \in \mathfrak{p}$ が成り立つ。よって $D(fg)\subset D(f)$ が言える。同様に $D(fg)\subset D(g)$ が言えるため、$D(fg)\subset D(f)\cap D(g)$ が成り立つ。

次に $\mathfrak{p}$ が $fg$ を含んでいると仮定すると、$\mathfrak{p}$ の素イデアル性により、$f\in\mathfrak{p}$ または $g\in\mathfrak{p}$ が成り立つ。従って $D(f)\cap D(g)\subset D(fg)$ が成り立つ。これらをあわせて 1. の主張を得る。

  • 2. について

$R$ の素イデアルは $1$ を含まない。よって 2. の主張が従う。

  • 3. について
$R$ の素イデアルは $0$ を含む。よって 3. の主張が従う。
定義 74 (Zariski位相)

環 $R$ について、$\{D(f)\}_{f \in R}$ を開基とする $\mathrm{Spec}(R)$ 上の位相はただひとつ存在し、この位相をZariski位相という。以下、$\mathrm{Spec}(R)$ を断りなく位相空間だとみなす場合には、常に Zariski位相が入っているものとする。

注意 75 ($\mathrm{Spec}$ についての記法)

$\mathrm{Spec}(R)$ について、Zariski位相が入っているものと述べたが、実際にはZariski位相以外の位相を入れて議論することもある。たとえばのちに $\mathrm{Spec}(R)$ がspectral spaceであることが示されるが、$\mathrm{Spec}(R)$ 上にconstructible topologyを与えることもできる。またflat topologyとよばれる位相について議論することもある。これらの位相を入れる際には、異なる記法を用いるか(constructible topologyを入れる際には $\mathrm{Spec}(R)_\mathrm{con}$ などと表記する)、もしくはその旨を注意する。

$\mathrm{Spec}$ はspectral space

命題 76 (Zariski位相の準コンパクト性)

$R$ の元の集合 $\{f_i\}_{i \in \Lambda}$ について、$\bigcup_{i \in \Lambda}D(f_i)=\mathrm{Spec}(R)$ ならば、$I$ の有限部分集合 $\Lambda'$ が存在して、$\bigcup_{i \in \Lambda'}D(f_i)=\mathrm{Spec}(R)$ が成り立つ。

証明

$\bigcup_{i \in \Lambda}D(f_i)=\mathrm{Spec}(R)$ ならば、$\{f_i\}_{i \in \Lambda}$ を含む $R$ の素イデアルは存在しない。このとき、$\{f_i\}$ で生成されるイデアルを $I$ とおくと、$I\neq R$ ならば $I$ を含む極大イデアルが存在するため、$I=R$ が言える。よって、$\Lambda$ の有限部分集合 $\Lambda'$ であって、$\{f_i\}_{i \in \Lambda'}$ が $R$ を生成するものが取れる。このとき、$\Lambda'$ が求める有限部分集合である。
命題 77 (ひとつの元による局所化)

環 $R$ とその元 $f$ について、$\mathfrak{p} \in D(f) \subset \mathrm{Spec}(R)$ に対し $\mathfrak{p}R_f \in \mathrm{Spec}(R_f)$ をあてる対応は存在する。また、$\mathfrak{p}'\in \mathrm{Spec}(R_f)$ に対し標準的な環射 $i\colon R\to R_f$ について $i^{-1}(\mathfrak{p}')\in D(f)\subset \mathrm{Spec}(R)$ をあてる対応は存在し、これらの対応は互いに逆な同相写像である。

証明

  • $\mathfrak{p}R_f$ は素イデアル

$\mathfrak{p}R_f$ のイデアル性は明らか。$ab \in \mathfrak{p}R_f$ について、$a$, $b$ はそれぞれ $r_a,r_b \in \{1,f,f^2,\ldots\} \subset R-\mathfrak{p}$ と $s_a,s_b \in R$ について $a=\frac{s_a}{r_a}$, $b=\frac{s_b}{r_b}$ と表せる。このとき、$ab=\frac{s_as_b}{r_ar_b}$ が成り立ち、これはある $\mathfrak{p}$ の元 $p$ と $r \in \{1,f,f^2,\ldots\} \subset R-\mathfrak{p}$ と $s \in R$ について $\frac{s_as_b}{r_ar_b}=\frac{ps}{r}$ が成り立つことを意味する。

よって、ある $t \in \{1,f,f^2,\ldots\} \subset R=\mathfrak{p}$ が存在して $ts_as_br=tpsr_ar_b$ が成り立つが、$tpsr_ar_b \in \mathfrak{p}$ であり、かつ $t,r \notin \mathfrak{p}$ より、$s_a \in \mathfrak{p}$ または $s_b\in \mathfrak{p}$ である。よって $a \in \mathfrak{p}R_f$ または $b \in \mathfrak{p}R_f$ が成り立つ。

  • $i^{-1}(\mathfrak{p}') \in D(f)$

誘導される環射 $R/i^{-1}(\mathfrak{p}') \to R_f/\mathfrak{p}'$ は単射であるため、$R/i^{-1}(\mathfrak{p}')$ は整域である。よって $i^{-1}(\mathfrak{p}')$ は $R$ の素イデアルである。また、$f \in i^{-1}(\mathfrak{p}')$ ならば、$f \in\mathfrak{p}'$ が導かれるが、$f$ は $R_f$ において単元であるため、これは仮定に反する。よって $i^{-1}(\mathfrak{p}')$ は $D(f)$ の要素である。

  • 互いに逆の対応

$R$ の素イデアル $\mathfrak{p}$ について、明らかに $\mathfrak{p} \subset i^{-1}(\mathfrak{p}R_f)$ が成り立つ。$x \in i^{-1}(\mathfrak{p}R_f)$ について、$x$ は $R_f$ において、$p \in \mathfrak{p}$ と $r \in \{1,f,f^2,\ldots\} \subset R-\mathfrak{p}$ について $x=\frac{p}{r}$ と表すことができる。よってある $t \in \{1,f,f^2,\ldots\} \subset R-\mathfrak{p}$ によって $trx=tp$ が成り立つ。$tp \in \mathfrak{p}$ かつ $t,r \notin \mathfrak{p}$ より $x \in \mathfrak{p}$ が成り立つ。よって $\mathfrak{p} = i^{-1}(\mathfrak{p}R_f)$ が示される。

$R_f$ の素イデアル $\mathfrak{p}'$ について、明らかに $i^{-1}(\mathfrak{p}')R_f \subset \mathfrak{p}'$ が成り立つ。$x \in \mathfrak{p}'$ について、ある $r \in \{1,f,f^2,\ldots\} \subset R-\mathfrak{p}$ と $s \in R$ によって $x=\frac{s}{r}$ と表すことができる。このとき $s \in \mathfrak{p}'$ より、$s \in i^{-1}(\mathfrak{p}')$ が成り立つ。よって、$x=s\cdot \frac{1}{r} \in i^{-1}(\mathfrak{p}')R_f$ が成り立つ。よって $i^{-1}(\mathfrak{p}')R_f \subset \mathfrak{p}'$ が示される。

  • 同相性

$X$ の開集合は $R$ の元 $g$ について $D(g)$ と表せる集合の和として表せる。$D(f)\cap D(g)=D(fg)$ であることに注意して、$D(fg)\subset D(f)$ の形の集合が $\mathrm{Spec}(R_f)$ の開集合に移ることを示す。

$\mathfrak{p}' \in \mathrm{Spec}(R_f)$ について、$\mathfrak{p}' \in D(fg)$ であることは $fg \in \mathfrak{p}'$ と同値である。これは $fg \in i^{-1}(\mathfrak{p}')$ と同値である。よって $D(fg)\subset D(f)$ は $D(fg)\subset \mathrm{Spec}(R_f)$ に移る。

次に、$\mathrm{Spec}(R_f)$ の開集合は $R_f$ の元 $g'$ について $D(g')$ と表せる集合の和として表せる。ここで、$r \in \{1,f,f^2,\ldots\}$ と $s \in R$ について $g'=\frac{s}{r}$ と表すことができる。$r$ は $R_f$ において単元であるため、$R_f$ の素イデアル $\mathfrak{p}'$ が $g'$ を含まないことと、$s$ を含まないことは同値である。よって $D(g')=D(s)$ が成り立つ。ここで、$\mathfrak{p}'\in D(s)$ は $s\notin i^{-1}(\mathfrak{p}')$ と同値である。よって $D(g')\subset \mathrm{Spec}(R_f)$ は $D(s)\subset D(f)\subset \mathrm{Spec}(R)$ に移る。
補題 78 (Zariski位相の閉集合)

環 $R$ と $R$ のイデアル $I$ について、$V(I)\subset \mathrm{Spec}(R)$ とは、$I$ を含む $R$ の素イデアル全体の集合のことを指す。ここで、$\mathrm{Spec}(R)$ の閉集合は、ある $R$ のイデアル $I$ について $V(I)$ と表される。

証明

$\mathrm{Spec}(R)$ の閉集合 $F$ について、$F$ の補集合を $U$ とおくと、$U$ は $R$ の元の集合 $\Lambda$ について $U=\bigcup_{f \in \Lambda}D(f)$ と表されることがわかる。よって $\mathfrak{p}\in F$ であることは、$\Lambda \subset \mathfrak{p}$ であることと同値である。このとき、$\Lambda$ で生成される $R$ のイデアルを $I$ とおくと、これが求めるものである。
補題 79 ($V(I)$ について)

環 $R$ について、以下が成り立つ。

  1. $R$ のイデアル $I$, $J$ について、$V(I)\cap V(J)=V(I+J)$
  2. $R$ のイデアル $I$, $J$ について、$V(I)\cup V(J)=V(I\cap J)=V(IJ)$
  3. $V((0))=\mathrm{Spec}(R)$, $V(R)=\emptyset$
証明

  • 1. について

$\mathfrak{p} \in V(I)\cap V(J)$ であることは、$I\cup J \subset \mathfrak{p}$ であることと同値である。よってこれは $I+J \subset \mathfrak{p}$ であることと同値である。

  • 2. について

$\mathfrak{p} \in V(I)$ について、$I\cap J\subset I\subset \mathfrak{p}$ より、$V(I)\subset V(I\cap J)$ が成り立つ。同様に $V(J)\subset V(I\cap J)$ であるため、$V(I)\cup V(J)\subset V(I\cap J)$ が成り立つ。また $IJ\subset I\cap J$ より、$V(I\cap J)\subset V(IJ)$ が成り立つ。ここで、 $\mathfrak{p}\notin V(IJ)$ ならば、ある $a \in I$ と $b \in J$ によって $ab \notin \mathfrak{p}$ とできる。したがって、$a\notin \mathfrak{p}$ または $b \notin \mathfrak{p}$ が成り立つ。よって $V(IJ)\subset V(I)\cap V(J)$ が成り立つ。

  • 3. について
すべての $R$ の素イデアルは $(0)$ を含む。またすべての $R$ の素イデアルは $1$ を含まない。
命題 80 (既約閉集合)

環 $R$ について、$\mathrm{Spec}(R)$ の既約閉集合は、ある $R$ の素イデアル $\mathfrak{p}$ について $V(\mathfrak{p})$ と表せる。

証明

$\mathrm{Spec}(R)$ の既約閉集合 $F$ について、指定されたremは未宣言の定理環境です。 より、$R$ のイデアル $I$ が存在して $F=V(I)$ が成り立つようにできる。

$V(I)=F$ となるような $R$ のイデアル $I$ 全体の集合に、包含関係による半順序を与えたものを $P$ とおくと、$P$ は空でない。また、$P$ の全順序部分集合 $Q$ が与えられたとき、$Q$ に含まれるイデアル全体の合併として得られるイデアルを $J$ とおくと、$V(J)=F$ が成り立つ。実際、$\mathfrak{p}\in F$ ならば、任意の $I'\in Q$ について $I'\subset \mathfrak{p}$ が成り立つ。従ってZornの補題より、$P$ の極大元を取ることができる。以下 $I$ を、$V(I)=F$ を満たす極大なものとする。

このとき、$I$ が素イデアルでなければ、環 $R$ の元 $a$, $b$ であって $ab\in I$ かつ $a,b\notin I$ なるものが取れる。補題 79 より、$V(I)\subset V((I,a)(I,b))= V((I,a))\cup V((I,b))\subset V(I)$ が成り立つ。$V(I)$ の既約性より、$V((I,a))$ または $V((I,b))$ のいずれかは $V(I)$ と一致する。

$V(I)=V((I,a))$ であるならば、$I$ の極大性より $a\in I$ が成り立つ。また同様に $V(I)=V((I,b))$ であるならば、$b\in I$ が成り立つ。従ってこれは $a$, $b$ の取り方に反する。

よって $I$ は素イデアルである。
定理 81 ($\mathrm{Spec}(R)$ はspectral space)

環 $R$ について、$\mathrm{Spec}(R)$ はspectral spaceである。

証明

命題 76 より、$\mathrm{Spec}(R)$ は準コンパクトである。また、$\mathrm{Spec}(R)$ の開基として $f\in R$ について $D(f)$ と表される開集合全体を取ることができるが、$D(f)$ は $\mathrm{Spec}(R_f)$ と同相であるため、$D(f)$ は準コンパクトである。よって $\mathrm{Spec}(R)$ には準コンパクト開集合からなる開基が存在する。

$\mathrm{Spec}(R)$ の準コンパクト開集合 $U$ について、$\mathrm{Spec}(R)$ は $\{D(f)\}_{f\in R}$ による開基を持つため、準コンパクト開集合による開被覆 $\mathcal{I}$ が存在する。よって $U$ の準コンパクト性より、$\mathcal{I}$ の有限細分であって $U$ の開被覆であるようなものが取れる。従って $U$ は $D(f)$ の形の開集合の有限和として表される。

ここで、$U=D(f_1)\cup \ldots \cup D(f_n)$, $V=D(g_1)\cup \ldots \cup D(g_m)$ について、$$U\cap V=\bigcup_{1\leq i\leq n, 1\leq j\leq m}D(f_i)\cap D(g_j)=\bigcup_{1\leq i\leq n,1\leq j\leq m} D(f_ig_j)$$ が成り立つ。これは準コンパクト開集合の有限和であるため、準コンパクトである。従って準コンパクト開集合の有限交叉は準コンパクト開集合である。

$\mathrm{Spec}(R)$ の $T_0$ 性を示す。$R$ の異なる素イデアル $\mathfrak{p}$, $\mathfrak{q}$ について、$\mathfrak{p}\not\subset \mathfrak{q}$ または $\mathfrak{q}\not\subset \mathfrak{p}$ が成り立つ。

以下の議論は $\mathfrak{p}\not\subset \mathfrak{q}$ を仮定しても一般性を失わない。$\mathrm{Spec}(R)-V(\mathfrak{p})$ は $\mathfrak{p}$ と $\mathfrak{q}$ を分離する開集合となる。よって $\mathrm{Spec}(R)$ は $T_0$ 空間である。

$\mathrm{Spec}(R)$ のsober性を示す。$\mathrm{Spec}(R)$ の既約閉集合について、これはある $R$ の素イデアル $\mathfrak{p}$ について $V(\mathfrak{p})$ と表すことができる。このとき、明らかに $\mathfrak{p}\in V(\mathfrak{p})$ である。また、点 $\mathfrak{p}$ を含む閉集合 $V(I)$ について、$I\subset \mathfrak{p}$ より $V(\mathfrak{p})\subset V(I)$ が成り立つ。よって $V(\mathfrak{p})$ は点 $\mathfrak{p}$ の閉包である。$\mathrm{Spec}(R)$ の $T_0$ 性よりこのような点は一意的である。従って $\mathrm{Spec}(R)$ はsober空間である。

以上の議論より、$\mathrm{Spec}(R)$ はspectral spaceであることが示される。

Hochsterの結果

Hochsterは、「spectral spaceのクラスは可換環の $\mathrm{Spec}$ 取って得られる空間のクラスと一致する」ことを示した。

大雑把な戦略としては、springという道具を導入して、spectral space $X$ についてspringを構成できるようにする。springというのは、$X$ の各点に「値域」を設定して、その「値域」に値を取るような $X$ 上の関数空間を用意した、一種の舞台装置のようななものとして理解される。で次にspring上のindexっていう概念を導入する。これは特殊化 $x \rightsquigarrow y$ について($y \in \overline{\{x\}}$ について)点 $x$ に設定された値域上の「付値」についてのデータを与えたものである。

springがあれば $X$ からなにがしかの環 $A$ についてspectral mapであるような埋込 $X \to \mathrm{Spec}(A)$ が取れることが示せるが、しかしこれが適当なspringだと同相にはなってくれないっていう状況となる。ここからspringを修正していくことで、修正された環 $A'$ について $X\to \mathrm{Spec}(A')$ を同相とすることができる。このような方針で以下進めていく。

spring

定義 82 (spring)

以下のデータ

  • spectral space $X$
  • $X$ の各点 $x$ ごとに割り当てられた整域 $A_x$
  • $\prod_{x \in X}A_x$ の部分環 $A$

の組 $(X,\{A_x\},A)$ であって、次の条件を満たすものをspringという。

  • 包含射 $A\to \prod_{x \in X}A_x$ と射影 $\prod_{x \in X}A_x\to A_x$ の合成 $A\to A_x$ は全射(この射によって $a \in A$ の移る値を $a(x)$ と表記する)
  • $a \in A$ について $X$ の部分集合 $\{x \in X|a(x)\neq 0\}$ は $X$ の準コンパクト開集合(この開集合を $d(a)$ と表記し、また $d(a)$ の補集合を $z(a)$ と表記する)
  • $\{d(a)\}_{a \in A}$ は $X$ の準開基
補題 83 ($d$-開集合)

spring $(X,\{A_x\},A)$ について以下が成り立つ。

  • 環 $A$ の元 $a$, $b$ について、$d(a)\cap d(b)=d(ab)$
証明

$A_x$ は整域であるため、$ab(x)=a(x)b(x)\neq 0$ であることと $a(x)\neq 0$ かつ $b(x)\neq 0$ が成り立つことは同値である。
観察 84 (準開基性)

spring $(X,\{A_x\},A)$ について、$\{d(a)\}_{a \in A}$ が準開基であることを定義に要請したが、補題 83 より、集合族 $\{d(a)\}_{a \in A}$ は有限交叉を取る操作について閉じている。よってこの開集合族は $X$ の開基となる。

命題 85 (springと位相埋込)

spring $S=(X,\{A_x\},A)$ について、以下で定まる写像 $E_S:X\to \mathrm{Spec}(A)$ は位相空間の埋込射でありかつspectral mapである:

  • $x \in X$ について、$E_S(x)$ を全射 $A\to A_x$ の核 $\mathfrak{p}_x$ と定める。
証明

  • 単射性

$X$ の異なる点 $x$, $y$ について、$X$ は $T_0$ 空間であるため、このうちの一方のみを含む $X$ の開集合が存在する。$\{d(a)\}_{a \in A}$ は $X$ の開基であったため、ある $a \in A$ について $d(a)$ が $x$ もしくは $y$ の一方のみを含むようにできる。

このとき、$x \in d(a)$ ならば、$a \notin E_S(x)$ かつ $a \in E_S(y)$ であるため、$E_S(x)\neq E_S(y)$ が成り立つ。$y \in d(a)$ の場合も同様である。

  • $X$ と $E_S(X)$ の同相性

$\mathrm{Spec}(A)$ は $\{D(a)\}_{a \in A}$ を開基として持つため、$E_S(X)$ は $\{E_S(X) \cap D(a)\}_{a \in A}$ を開基として持つ。このとき、$E_S(x)$ が $D(a)$ に含まれることは、$a(x) \neq 0$ であることと同値であることに注意すると、集合族 $\{d(a)\}_{a \in A}$ と $\{E_S(X) \cap D(a)\}_{a\in A}$ は $E_S$ によって全単射的に移りあう。これらはいずれも $X$, $E_S(X)$ の開基であるため、これらは同相である。

  • $E_S$ はspectral map
$\mathrm{Spec}(A)$ の準コンパクト開集合は、有限個の $A$ の元 $a_1,\ldots,a_n$ によって $D(a_1)\cup \ldots \cup D(a_n)$ と表すことができる。このとき、$E_S^{-1}(\bigcup_{1\leq i \leq n}D(a_i))=\bigcup_{1\leq i \leq n}E_S^{-1}(D(a_i)) = \bigcup_{1\leq i \leq n}d(a_i)$ が成り立ち、$\bigcup_{1\leq i \leq n}d(a_i)$ は準コンパクトである。従って、$E_S$ はspectral mapである。
定義 86 (アフィンなspring)

spring $S=(X,\{A_x\},A)$ について、埋込 $E_S:X\to \mathrm{Spec}(A)$ が同相写像となるとき、$S$ をアフィンであるという。

index

定義 87 (特殊化)

位相空間 $X$ の点 $x$, $y$ について、$ y \in \overline{\{x\}}$ であることを、$y$ が $x$ の特殊化であるといい、$x \rightsquigarrow y$ と表記する。

定義 88 (index)

spring $S=(X,\{A_x\},A)$ について、以下のデータ

  • $y \in \overline{\{x\}}$ なる $X$ の点 $x,y$ について、$A_x$ の商体 $\mathrm{Frac}(A_x)$ からの離散付値 $v_{x\rightsquigarrow y}: \mathrm{Frac}(A_x)\to \mathbb{Z}\cup\{\infty\}$

の組であって、以下の条件を満たすものをindexという。

  • $a \in A$ と $x\rightsquigarrow y$ に対して、$0\leq v_{x\rightsquigarrow y}(a(x))$
  • $a \in A$ と $x\rightsquigarrow y$ に対して、$0= v_{x\rightsquigarrow y}(a(x)) \Leftrightarrow a(y)\neq 0$
  • $a \in A$ に対して、$\{v_{x \rightsquigarrow y}(a(x))|a(x)\neq 0,x \rightsquigarrow y\}$ は有限集合

springとその上のindexの組を、index付きspringとよぶ。

定義 89 (simple index)

spring $S=(X,\{A_x\},A)$ について、$S$ 上のindex $v$ が以下の条件を満たすとき、simple indexであるという。

  • 体 $K$ が存在し、$A_x\subset K$ が成り立ち、さらに $\{a(x)|x \in X\}\subset K$ は任意の $a \in A$ について有限集合

springとその上のsimple indexの組を、simple index付きspringとよぶ。

spectral spaceに伴うindex付きspring

観察 90 (springの構成)

spectral spaceについて、springを構成する方法を述べる。

以下体 $k$ を固定する。spectral space $X$ について、環 $k[T_U|U \in \mathrm{KO}(X)]$ を考える。この環を $B$ と表記する。また、$x \in X$ について元の $x$ 成分を対応させる自然な射影 $B^X\to B$ を $\pi_x$ とよぶ。

$U \in \mathrm{KO}(X)$ について、$\xi_U \in B^X$ を $x \in U$ ならば $\pi_x(\xi_U)=T_x$ が、$x \notin U$ ならば $\pi_x(\xi_U)=0$ が成り立つような元としてとる。$B^X$ の部分 $k$ 代数であって $\{\xi_U\}_{U \in \mathrm{KO}(X)}$ で生成されるものを $A$ とおき、また $\pi_x(A)$ を $A_x\subset B$ とおく。

このとき、$(X,\{A_x\},A)$ がspringであることを示す。$a \in A$ は有限個の $k$ の非零な元 $c_1,\ldots, c_n$ と $\{\xi_U\}$ の形の元を変数に持つ有限個の相異なるモニック多項式 $m_1,\ldots,m_n$ によって $k=c_1m_1+\ldots +c_nm_n$ と表せる。このとき、$x \in d(a)$ であることは、$x \in \bigcup_{1\leq i \leq n}d(m_i)$ であることと同値である。よって $d(m_i)$ のいずれもが準コンパクト開集合なら $d(a)$ が準コンパクト開集合であることが言える。

$\{\xi_U\}$ の形の元を変数に持つモニック多項式 $m$ は、有限個の正整数 $e_1,\ldots,e_n$ と $U_1,\ldots,U_n \in \mathrm{KO}(X)$ について $m=\prod_{1\leq i \leq n}\xi_{U_i}^{e_i}$ と表せる。このとき、$d(m)$ は $\bigcap_{1\leq i\leq n}d(\xi_{U_i})$ が成り立つ。ここで、$d(\xi_{U_i})=U_i$ であり、また $X$ の準コンパクト開集合の有限交叉は準コンパクト開集合であるため、$d(m)$ は準コンパクト開集合である。

従って任意の $a \in A$ について $d(a)$ は準コンパクト開集合であることがわかる。また $U\in \mathrm{KO}(X)$ について $d(\xi_U)$ は $U$ と等しいため、$\{d(a)\}_{a\in A}$ を開基として持つ集合 $X$ 上の位相は $X$ 上の位相より細かい。しかし $a \in A$ について $d(a)$ は開集合であるため、$X$ は $\{d(a)\}_{a \in A}$ を開基として持つ。よって $(X,\{A_x\},A)$ はspringである。このspringを $S_X$ とよぶ。

観察 91 (indexの構成)

観察 90 によって、任意のspectral space $X$ についてspring $S_X=(X,\{A_x\},A)$ が構成されることがわかる。このとき、spectralな埋込 $X\to \mathrm{Spec}(A)$ が存在するため、$X$ は $\mathrm{Spec}(A)$ のspectral subspaceであることがわかる。

観察 92 (indexの構成)

観察 90 にて構成されたspring $(X,\{A_x\},A)$ 上にindexを構成する。構成にあたって、$A_x$ は $x \in U$ をみたす $U \in \mathrm{KO}(X)$ 全体を変数に持つ $k$ 係数多項式環であることを注意しておく。

特殊化 $x \rightsquigarrow y$ について、$\mathrm{Frac}(A_x)$ 上の付値 $v_{x\rightsquigarrow y}$ であって、次の条件を満たすものは唯一つ存在する。

  • $y \notin U$ なる $U \in \mathrm{KO}(X)$ について、$v_{x \rightsquigarrow y}(\xi_U) = 1$
  • $y \in U$ なる $U \in \mathrm{KO}(X)$ について、$v_{x \rightsquigarrow y}(\xi_U) = 0$
  • 相異なる単項式 $m_1,\ldots,m_n$ と非零な $k$ の元 $c_1,\ldots,c_n$ について $v_{x \rightsquigarrow y}(c_1m_1+\ldots+c_nm_n)=\min_{1\leq i \leq n}\{v_{x\rightsquigarrow y}(m_i)\}$

この付値の組が $(X,\{A_x\},A)$ 上のindexであることを示す。明らかに構成より、$a \in A$ について $a(x) \in A_x$ であるため、$0\leq v_{x\rightsquigarrow y}(a(x))$ が成り立つ。

また、$a \in A$ について、相異なる単項式 $m_1,\ldots,m_n$ と非零な $k$ の元 $c_1,\ldots,c_n$ について $a=c_1m_1+\ldots c_nm_n$ と表せたとする。このとき、$v_{x\rightsquigarrow y}(a(x))\gt 0$ となることは、すべての $1\leq i \leq n$ について $v_{x\rightsquigarrow y}(m_i(x))\gt 0$ となることと同値である。このとき、$m_i$ の因子として、$y \notin U$ なる $U \in \mathrm{KO}(X)$ によって $\xi_U$ と表せるものが存在するため、$m_i(y)=0$ が成り立つ。逆に、単項式 $m_i$ について $m_i(y)=0$ が成り立つならば $v_{x\rightsquigarrow y}(m_i(x))\gt 0$ が成り立つことに注意する。このことから $0= v_{x\rightsquigarrow y}(a(x))$ と $a(y)\neq 0$ とが同値であることが言える。

$a \in A$ は高々有限個の変数を持つ多項式として表せるため、$v_{x\rightsquigarrow y}$ によって移る値は高々有限個である。よって $\{v_{x\rightsquigarrow y}\}$ は $(X,\{A_x\},A)$ 上のindexである。

$v$-extension

cuttingの方法

simple index付きspring と $d$-開集合

Hochster環

スキームの底空間

記法についての注意

  • 位相空間 $X$ が準コンパクトであるとは、$X$ の任意の開被覆についてその有限細分であって開被覆となるものが取れることをいう。
  • 位相空間 $X$ がコンパクトであるとは、$X$ が準コンパクトかつHausdorffであることをいう。
  • 位相空間 $X$ と $X$ の部分集合 $Y$ について、$Y$ の $X$ における閉包について、これを $\mathrm{Cl}_X(Y)$ と表記する。ただし、文脈上明らかな場合は $\overline{Y}$ と表記することがある。
  • 集合 $X$, $Y$ について、$X\subset Y$ と表記したときに、$X=Y$ であることを許容する。
  • 本記事においてlatticeとは、一般にbounded latticeと言われるもののことを指す。またlatticeの射として、一般にbounded latticeの射として呼ばれるものを指している。この語法は[nlab1]の立場に従っている。
  • 本記事において環とは、可換環のことを指している。

information

関連項目

参考文献

  • [DST1] "Spectral spaces", Max Dickmann; Niels Schwartz; Marcus Tressl, 2019
  • [Lur1] "Spectral Algebraic Geometry", Jacob Lurie, under construction
  • [Joh1] "Sketches of an Elephant - A Topos Theory Compendium", Peter T. Johnstone, 2002
  • [Joh2] "Stone spaces", Peter T. Johnstone, 1982
  • [AtM1] "Introduction to Commutative Algebra", M.F. Atiyah; I.G. MacDonald, 1969
  • [Hoc1] "Prime Ideal Structure in Commutative Rings", M. Hochster, 1969

[DST1] においては、本記事において述べられていないさまざまなトピックについても解説されている。散在的に存在していたspectral spaceに関する知見を体系化したモノグラフであるため、興味のある方は是非読まれるとよい。

[Joh1] の C.1. 節にはさまざまな半順序集合のクラス(圏)と、それらの包含についての随伴の存在についての記述がある。

[Joh2] においては 2 章にcoherent space/localeとしてspectral spaceについての話題が扱われている。この文献は歴史的にも重要である。

[Lur1] について、本記事で参考にした部分はAppendixの最初の 1 節のみである。この論文自体は高次圏をベースにした代数幾何学の展開をテーマとしている。

[Hoc1] はHochsterの元論文である。

外部リンク

[Sta004C] においてはスキーム論でしばしば使われる位相空間論の命題や議論についてまとまっている。こちらも参考にされるとよいであろう。