自然数
[math] \newcommand{\mathsetextension}[1]{% \left\{ #1 \right\}% } \newcommand{\mathsetintension}[2]{% \left\{ #1 \left| #2 \right.\right\}% } \newcommand{\mathof}[2]{% \mathop{#1}\left(#2\right)% } \newcommand{\mathnat}{\mathbb{N}} \newcommand{\mathreal}{\mathbb{R}} \newcommand{\qed}{\blacksquare} \newcommand{\mathrelbar}{\mathrel{|}} [/math]
自然数(natural number)とは、素朴には “ $0, 1, 2, \ldots$ ” のように数えられる「数」のことである。 現代数学においてはPeanoの公理を満たす構造として自然数全体の集合 $\mathbb{N}$ を定義し、 その元のことを自然数と呼ぶ。
Peanoの公理
この節では自然数全体の集合の定義であるPeanoの公理について述べる。
定義 1 (Peanoの公理)
空でない集合 $\mathbb{N}$ 、単射写像 $s\colon \mathbb{N} \to \mathbb{N}$ と $\mathbb{N}$ の元 $0$ が 次の1、2を満たすとき $\left(\mathbb{N}, \mathop{s}, 0 \right)$ を自然数全体の集合や 自然数の集合と呼ぶ:
- $0 \notin \mathof{s}{\mathbb{N}}$;
- 任意の$X \subseteq \mathbb{N}$ について、$0 \in X $ かつ $ \mathof{s}{X} \subseteq X$ ならば、$X=\mathbb{N}$。
$\mathbb{N}$ が自然数全体の集合であるとき、$\mathbb{N}$の元は自然数と呼ばれる。
注意点として、ここでのPeanoの公理は一階述語論理で記述される $\mathsf{PA}$ とは区別される。
Peanoの公理を満たす具体例
この節ではPeanoの公理を満たす例をみる。
例 2 (集合系による)
以下のように帰納的に定義される最小の集合系 $\mathbf{N}$ はPeanoの公理を満たす構造と考えることができる。
- 空集合 $\emptyset$ は $\mathbf{N}$ の元である。
- $n \in \mathbf{N}$ であるとき, $n \cup \left\{ n \right\} \in \mathbf{N}$。
具体的には $\mathbb{N}=\mathbf{N}$, $0=\emptyset$, $\mathop{s}(n)=n \cup \mathsetextension{n}$ とすればよい。
例 3 (記号列による)
記号の集合 $\mathsetextension{z, s}$ 上の記号列であって、 以下のように帰納的に定義される最小の記号列の集合 $\mathbf{N}$ は Peanoの公理を満たす構造と考えることができる。
- 記号列 $z$ は $\mathbf{N}$ の元である。
- 記号列 $\mathbf{n}$ が $\mathbf{N}$ の元であるとき、文字列 $s\mathbf{n}$ は $\mathbf{N}$ の元である。
具体的には $\mathbb{N}=\mathbf{N}$, $0=z$, $\mathop{s}(\mathbf{n})=s\mathbf{n}$ とすればよい。
自然数全体の一意性
自然数の集合は同型を除いて一意に定まる。したがって通常数学を行うにあたっては、どのような自然数の実装法を用いても大きな混乱が生じることはない。
ただし注意点として、一階述語論理で書かれた公理系である $\mathsf{PA}$ について、このモデルは $\mathbb{N}$ と同型でないものが多く存在する。このようなモデルの元であって、$\mathbb{N}$ の元と対応しないようなものについてこれを超準自然数ということがある。
$0$ は自然数か?
自然数の集合の定義には $0$ を自然数に含む流儀と $0$ を自然数に含まない流儀がある。 この節ではそのことについて述べる。
Mathpediaでのスタンス
Mathpediaにおいては「$0$ を自然数とするかどうか」について、 各分野ごとの習慣やそれぞれで行っている議論における利便性に応じて、 適宜筆者の判断に委ねることとしている。 そのためこの記事以外のMathpediaの記事においては、 $0$ を自然数に含まない流儀が採用されることがある。 個別の記事を読む際には注意されたい。
$0$ を自然数に含まない流儀の場合のPeano の公理
$0$ を自然数に含まない流儀の場合の自然数の集合は定義 1の $0$ をすべて $1$ に書き換えれば良い。
この記事でのスタンス
この記事においては、次の観点から $0$ を含む流儀を採用した。
- Peano の公理の具体例を構成する際、$0$ を含まない流儀を採用すると不自然になる。
- 自然数の加法に単位元がほしい。
- 集合論などでは $0$ を含む流儀が普通である。
落ち穂拾い
ISO 80000-2:2009
数学記号について定義している国際規格であるISO 80000-2:2009 によると、
Item No. | Sign, Symbol, expression | Meaning, verbal equivalent | Remarks and examples |
---|---|---|---|
2-6.1 | $\mathbf{N}$ | the set of natural numbers, the set of positive integers and zero |
$\mathbf{N}=\mathsetextension{0, 1, 2, 3, \ldots}$ $\mathbf{N^{*}}=\mathsetextension{1, 2, 3, \ldots}$ Other restrictions can be indicate in an obvious way, as shown below. $\mathbf{N_{\lt 5}}=\mathsetintension{ n \in \mathbf{N} }{n \lt 5}$ The symbols $\mathrm{I\! N}$ and $\mathbb{N}$ are also used. |
と定義されている。日本語訳は以下のようになる。
番号 | 記号、記号列 | 意味 | 注意および例 |
---|---|---|---|
2-6.1 | $\mathbf{N}$ | 自然数の集合、 正の整数およびゼロからなる集合 |
$\mathbf{N}=\mathsetextension{0, 1, 2, 3, \ldots}$ $\mathbf{N^{*}}=\mathbf{N^{*}}=\mathsetextension{1, 2, 3, \ldots}$ 他の制限については以下のように表記できる。 $\mathbf{N_{\lt 5}}=\mathsetintension{ n \in \mathbf{N} }{n\lt 5}$ 記号$\mathrm{I\! N}$や$\mathbb{N}$もまた使われる。 |
Peano範疇性に対する逆数学
Peanoシステムの範疇性定理については良く知られた事実であるが、この範疇性に対する逆数学として以下のような結果が知られている。
定義(Peanoシステム)
$ A\subseteq\mathbb{N},i\in A,f\colon A\to A$ の組 $\langle A,i,f\rangle$ をシステム (system) という。システム $\langle A,i,f\rangle$ がPeanoシステム (Peano system) であるとは、以下の条件を満たすことである。
- $i\notin\mathrm{rng}(f)$ である。
- $f$ は単射である。
- 任意の $X\subseteq A$ に対して、$i\in X$ かつ、任意の $x\in\mathbb{N}$ に対して $x\in X$ ならば $f(x)\in X$ であると仮定する。このとき $X=A$ である。
また $\langle \mathbb{N},0,\mathrm{suc}\rangle$ を標準的なPeanoシステムという。ここで $\mathrm{suc}(x):=x+1$ である。
定義(同型)
Peanoシステム $\langle A,i,f\rangle$ が $\langle \mathbb{N},0,\mathrm{suc}\rangle$ に同型 (isomorphic) であるとは全単射 $\sigma\colon A\to\mathbb{N}$ で以下を満たすようなものが存在することである。
- $\sigma(i)=0$ である。
- 任意の $x\in A$ に対し $\sigma(f(x))=\mathrm{suc}(\sigma(x))$ である。
またPeanoシステム $\langle A,i,f\rangle$ が $\langle \mathbb{N},0,\mathrm{suc}\rangle$ にほとんど同型 (almost isomorphic) であるとは、任意の $x\in A$ に対して、ある $n\in\mathbb{N}$ が存在し、$a=f^n(x)$ が成り立つことである。
定理(Simpson–横山1)
$\mathsf{RCA}^*_0$ 上で以下は同値である。
- $\mathsf{RCA}_0$ 。
- 任意の $\langle\mathbb{N},0,\mathrm{suc}\rangle$ にほとんど同型なPeanoシステムは $\langle\mathbb{N},0,\mathrm{suc}\rangle$ に同型である。
- 任意の無限集合 $C\subseteq \mathbb{N}$ に対し、単射 $f\colon\mathbb{N}\to C$ が存在する。
- 任意の無限集合 $C\subseteq \mathbb{N}$ 、任意の $n\in\mathbb{N}$ に対し $C$ の部分集合で濃度が $n$ となるものが存在する。
また$\mathsf{RCA}^*_0$ 上で以下は同値である。
- $\mathsf{WKL}^*_0$ 。
- 任意のPeano構造は $\langle\mathbb{N},0,\mathrm{suc}\rangle$ にほとんど同型である。
同様に $\mathsf{RCA}^*_0$ 上で以下は同値である。
- $\mathsf{WKL}_0$ 。
- 任意のPeano構造は $\langle\mathbb{N},0,\mathrm{suc}\rangle$ に同型である。
出典
- 1 S. G. Simpson, and K. Yokoyama. (2013) "Reverse mathematics and Peano categoricity". Annals of Pure and Applied Logic 164(3) : 284–293.