Euclid空間における微積分2

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本稿においては、Euclid空間における微積分1の続編として、Euclid空間に埋め込まれた $C^\infty$ 級多様体(Euclid空間内の多様体と呼ぶこととする)上の微積分を扱う。

ベクトル解析はこの記事の分割版です。

1 Euclid空間の部分集合の局所座標の定義

定義1.1(行列のランク)

$A\in \mathbb{M}_{n\times m}(\mathbb{R})$ に対し $\text{dim} (A(\mathbb{R}^m))$ ($\leq {\rm min}(n,m)$) を $A$ のランクと言い ${\rm rank}(A)$ と表す。

命題1.2(行列のランクの基本性質)

$A\in \mathbb{M}_{n\times m}(\mathbb{R})$ に対し次は互いに同値である。

  • $(1)$ ${\rm rank}(A)=k$.
  • $(2)$ $A$ の列ベクトルから $k$ 本まで線形独立なベクトルが取れる。
  • $(3)$ $A$ の行ベクトルから $k$ 本まで線形独立なベクトルが取れる。
Proof.

$(1)\Leftrightarrow(2)$ は $A(\mathbb{R}^m)$ が $A$ の列ベクトル全体の線型包であることと速習「線形空間論」命題4.3による。任意の $A\in \mathbb{M}_{n\times m}(\mathbb{R})$ に対し $A$ に左右から有限個の基本行列 (測度と積分8:Lebesgue測度の基本的性質定義37.2)を掛けることで対角成分以外 $0$ で対角成分に $1$ か $0$ のみが並ぶもの $D$ が得られる。 基本行列は正則行列であるから $A$ のランクと $D$ のランクは等しい。よって、 $$ {\rm rank}(A)={\rm rank}(D)={\rm rank}(D^t)={\rm rank}(A^t) $$ である。これより$(2)\Leftrightarrow(3)$ が成り立つ。

定義1.3(局所座標)

$M\subset \mathbb{R}^N$ とする。 $M$ の開集合 $U$ と $U$ から $\mathbb{R}^n$ への写像 $\varphi$ の組 $(U,\varphi)$ が $M$ の $n$ 次元局所座標であるとは次が成り立つことを言う。

  • $(1)$ $U$ は $M$ の開集合で $\varphi(U)$ は $\mathbb{R}^n$ の開集合。
  • $(2)$ $\varphi\colon U\rightarrow\varphi(U)$ は同相写像で $\varphi^{-1}\colon\varphi(U)\ni \varphi(p)\mapsto p\in \mathbb{R}^N$ は$C^\infty$ 級。
  • $(3)$ 任意の $p\in U$ に対し $\varphi^{-1}$ の $\varphi(p)$ における微分 ${\varphi^{-1}}'(\varphi(p))\in \mathbb{M}_{N\times n}(\mathbb{R})$ のランクは $n$.

$U$を局所座標 $(U,\varphi)$ の定義域と言う。$p\in M$ と $M$ の局所座標 $(U,\varphi)$ に対し $p\in U$ であるとき $(U,\varphi)$ を $p$ の周りの局所座標と言う。

命題1.4(局所座標の拡張)

$(U,\varphi)$を $M\subset \mathbb{R}^N$ の $n$ 次元局所座標とする。このとき任意の $p_0\in U$ に対し $\mathbb{R}^N$ の開集合 $V\ni p_0$、$\Phi(V)\ni (\varphi(p_0),0)$ と $C^\infty$ 級同相写像 $\Phi:V\rightarrow\Phi(V)$ で、 $$ \Phi(V\cap M)=\Phi(V)\cap (\mathbb{R}^n\times\{0\}),\quad \Phi(p)=(\varphi(p),0)\quad(\forall p\in V\cap M)\quad\quad(*) $$ なるものが存在する。

Proof.

$\varphi^{-1}\colon\varphi(U)\ni \varphi(p)\mapsto p\in \mathbb{R}^N$ の微分 ${\varphi^{-1}}'(\varphi(p_0))\in \mathbb{M}_{N\times n}(\mathbb{R})$ のランクが $n$ であるので命題1.2より ${\varphi^{-1}}'(\varphi(p_0))$ の行ベクトルから $n$ 本の線型独立なものが取れる。よって $N$ 次の置換 $\sigma$ で$C^\infty$ 級写像 $$ \varphi(U)\times \mathbb{R}^{N-n}\ni (\varphi(p),y)\mapsto p+\sum_{j=1}^{N-n}y_je_{\sigma(n+j)}\in \mathbb{R}^N $$ の $(\varphi(p_0),0)$ における微分が正則行列となるものが取れる。ゆえに逆関数定理(Euclid空間における微積分1定理7.1)より $\mathbb{R}^N$ の開集合 $V_1\ni p_0$、$V_2\ni p_0$ と $\mathbb{R}^{N-n}$ の開集合 $W\ni 0$ で、 $$ \varphi(V_1\cap M)\times W\ni (\varphi(p),y)\mapsto p+\sum_{j=1}^{N-n}y_je_{\sigma(n+j)}\in V_2\quad\quad(**) $$ が $C^\infty$ 級同相写像となるものが取れる。$V\colon=V_1\cap V_2$ とおき、$(**)$ の逆写像を $V$ 上に制限したものを $\Phi$ とおくと $\Phi(V)$ は $\mathbb{R}^N$ の開集合であり $(*)$ が成り立つ。

命題1.5(局所座標の重なり)

$(U_1,\varphi_1), (U_2,\varphi_2)$ をそれぞれ $M\subset \mathbb{R}^N$ の $n_1$ 次元、$n_2$ 次元局所座標とし $U_1\cap U_2\neq\emptyset$ とする。このとき同相写像 $$ \varphi_1(U_1\cap U_2)\ni \varphi_1(p)\mapsto \varphi_2(p)\in \varphi_2(U_1\cap U_2)\quad\quad(*) $$ は $C^\infty$ 級同相写像である。特に $n_1=n_2$ である。

Proof.

任意の $p_0\in U_1\cap U_2$ に対し命題1.4より $\mathbb{R}^N$ の開集合 $V_j\ni p_0$、$\Phi_j(V_j)\ni (\varphi_j(p_0),0)$ と $C^\infty$ 級同相写像 $\Phi_j\colon V_j\rightarrow\Phi_j(V_j)$ $(j=1,2)$で、 $$ \Phi_j(V_j\cap M)=\Phi_j(V_j)\cap (\mathbb{R}^{n_j}\times \{0\}),\quad \Phi_j(p)=(\varphi_j(p),0)\quad(\forall p\in V_j,j=1,2) $$ なるものが取れる。同相写像 $$ \varphi_1(V_1\cap V_2\cap M)\ni \varphi_1(p)\mapsto \varphi_2(p)\in \varphi_2(V_1\cap V_2)\quad\quad(**) $$ は $C^\infty$ 級写像 $$ \varphi_1(V_1\cap V_2\cap M)\ni \varphi_1(p)\mapsto (\varphi_1(p),0)=\Phi_1(p)\in \Phi_1(V_1\cap V_2\cap M), $$ $$ \Phi_1(V_1\cap V_2)\ni \Phi_1(p)\mapsto \Phi_2(p)\in \Phi_2(V_1\cap V_2), $$ $$ \mathbb{R}^{N}\ni (x_1,\ldots,x_N)\mapsto (x_1,\ldots,x_{n_2})\in \mathbb{R}^{n_2} $$ を合成したものであるから $C^\infty$ 級である。 $(**)$ の逆写像も全く同様に $C^\infty$ 級であることが分かる。よって $(*)$ は$C^\infty$ 級同相写像であり、チェインルール(Euclid空間における微積分1命題2.1)より $n_1=n_2$ である。

2. Euclid空間内の多様体の定義とその部分多様体の特徴付け

定義2.1(Euclid空間内の多様体)

$M\subset \mathbb{R}^N$ が $\mathbb{R}^N$ 内の $n$ 次元多様体であるとは任意の $p\in M$ に対し $p$ を定義域に含む $M$ の $n$ 次元局所座標が取れることを言う。このとき命題1.5より $M$ の任意の局所座標は $n$ 次元である。$M$ の局所座標の族 $\{(U_j,\varphi_j)\}_{j\in J}$ で $M=\bigcup_{j\in J}U_j$ なるものを $M$ のアトラスと言う。

例2.2

$\mathbb{R}^N$ 自体、$\mathbb{R}^N$ 内の $N$ 次元多様体である。実際、恒等写像 ${\rm id}\colon \mathbb{R}^N\rightarrow\mathbb{R}^N$ に対し $(\mathbb{R}^N,{\rm id})$ は $\mathbb{R}^N$ の $N$ 次元局所座標である。また $\mathbb{R}^N$ 内の $n$ 次元多様体 $M$ に対し $M$ の任意の開集合 $D$ は $\mathbb{R}^N$ 内の $n$ 次元多様体である。実際、$M$ の任意の局所座標 $(U,\varphi)$ に対し $(U\cap D,\varphi)$ は $D$ の $n$ 次元局所座標である。

定義2.3(部分多様体)

$M,H\subset \mathbb{R}^N$ がそれぞれ $\mathbb{R}^N$ 内の多様体であり $H\subset M$ であるとき $H$ は $M$ の部分多様体であると言う。

命題2.4(部分多様体の特徴付け1)

$M$ を Euclid空間内の $n$ 次元多様体とし、$H$ を $M$ の $k$ 次元部分多様体とする。このとき $k\leq n$ であり、$H$ の任意の局所座標 $(U,\varphi)$ に対し $M$ の局所座標 $(V,\psi)$ で $V\cap H\subset U$、 $$ \psi(V\cap H)=\psi(V)\cap (\mathbb{R}^k\times\{0\}),\quad \psi(p)=(\varphi(p),0)\quad(\forall p\in V\cap H) $$ なるものが存在する。

Proof.

任意の $p_0\in H$ を取り、$p_0$ の周りの $H$ の局所座標 $(U,\varphi)$ と $p_0$ の周りの $M$ の局所座標 $(V,\psi)$ を取る。命題1.4より、 $$ \varphi(U\cap V)\ni \varphi(p)\mapsto \psi(p)\in \psi(V)\quad\quad(*) $$ は $C^\infty$ 級写像である(命題1.5の証明の前半と全く同様にして示せる)。 と $C^\infty$ 級写像 $$ \psi(V)\ni \psi(p)\mapsto p\in \mathbb{R}^N $$ の合成が、 $$ \varphi(U\cap V)\ni \varphi(p)\mapsto p\in \mathbb{R}^N\quad\quad(**) $$ であり、$(**)$ の微分のランクは $k$ であるのでチェインルール(Euclid空間における微積分1命題2.1)より $(*)$ の微分 $\in\mathbb{M}_{n\times k}(\mathbb{R})$ のランクは $k$ である。よって $k\leq n$ である。 命題1.2より $(*)$ の $\varphi(p_0)$ における微分 $\in \mathbb{M}_{n\times k}(\mathbb{R})$ の $n$ 本の行ベクトルから $k$ 本の線型独立なものが取れる。よって $n$ 次の置換 $\sigma$ で $C^\infty$ 級写像 $$ \varphi(U\cap V)\times \mathbb{R}^{n-k}\ni (\varphi(p),y)\mapsto \psi(p)+\sum_{j=1}^{n-k}y_je_{\sigma(k+j)}\in \mathbb{R}^n $$ の $(\varphi(p_0),0)$ における微分が正則行列となるものが取れる。ゆえに逆関数定理(Euclid空間における微積分1命題7.1)より $p_0$ を含む $M$ の開集合 $V_1,V_2\subset V$ と $\mathbb{R}^{n-k}$ の開集合 $W\ni 0$ で、 $$ \varphi(U\cap V_1)\times W\ni (\varphi(p),y)\mapsto \psi(p)+\sum_{j=1}^{n-k}y_je_{\sigma(k+j)}\in \psi(V_2)\quad\quad(***) $$ が $C^\infty$ 級同相写像となるものが取れる。$V_0\colon=V_1\cap V_2$ とおき、 $(***)$ の逆写像を $\psi(V_0)$ に制限したものを $\omega$とおき $\psi_0=\omega\circ\psi:V_0\rightarrow \psi_0(V_0)$ とおけば $(V_0,\psi_0)$ は $p_0$ の周りの $M$ の局所座標であり、 $$ \psi_0(V_0\cap H)=\psi_0(V_0)\cap (\mathbb{R}^k\times\{0\}),\quad \psi_0(p)=(\varphi(p),0)\quad(\forall p\in V_0\cap H) $$ である。

命題2.5(部分多様体の特徴付け2)

$M$ をEuclid空間 $\mathbb{R}^N$ 内の $n$ 次元多様体とし $H\subset M$ とする。もし $k\in\{1,\ldots,n\}$ が存在し任意の $p_0\in H$ に対し $p_0$ の周りの $M$ の局所座標 $(V,\psi)$ で、 $$ \psi(V\cap H)=\psi(V)\cap(\mathbb{R}^k\times\{0\})\quad\quad(*) $$ なるものが取れるならば $H$ は $M$ の $k$ 次元部分多様体である。そして $(*)$ を満たす $p_0$ の周りの $M$ の局所座標 $(V,\psi)$ に対し、 $$ (\varphi(p),0)\colon=\psi(p)\quad(\forall p\in V\cap H)\quad\quad(**) $$ として $\varphi\colon V\cap H\rightarrow \mathbb{R}^k$ を定義すると $(V\cap H,\varphi)$ は $p_0$ の周りの $H$ の $k$ 次元局所座標である。

Proof.

$(*)$ より $\varphi(V\cap H)$ は $\mathbb{R}^k$ の開集合である。また $(**)$ と点列による連続性の特徴付けより $\varphi:V\cap H\rightarrow \varphi(V\cap H)$ は同相写像である。 $$ \varphi^{-1}\colon\varphi(V\cap H)\ni \varphi(p)\mapsto p\in \mathbb{R}^N\quad\quad(***) $$ は $C^\infty$ 級写像 $$ \varphi(V\cap H)\ni \varphi(p)\mapsto (\varphi(p),0)\in \psi(V),\quad\quad(****) $$ $$ \psi(V)\ni \psi(p)\mapsto p\in \mathbb{R}^N\quad\quad(*****) $$ の合成であるから $C^\infty$ 級写像であり、$(****)$ の微分 $\in \mathbb{M}_{n\times k}(\mathbb{R})$ のランクは $k$、$(*****)$ の微分 $\in \mathbb{M}_{N\times n}(\mathbb{R})$ のランクは $n$ であるからチェインルール(Euclid空間における微積分1命題2.1)より $(***)$ の 微分のランクは $k$ である。よって $(V\cap H,\varphi)$ は $p_0\in H$ の周りの $H$ の $k$ 次元局所座標である。$p_0\in H$ は任意であるから $H$ は $M$ の $k $次元部分多様体である。

3. Euclid空間内の多様体上の関数の局所座標による偏微分

定義3.1(Euclid空間内の多様体上の関数の微分可能性)

$M$ をEuclid空間内の多様体とする。$f\colon M\rightarrow \mathbb{R}^N$ が $p_0\in M$ において微分可能であるとは $p_0$ の周りの $M$ の任意の局所座標 $(U,\varphi)$ に対し $f\circ\varphi^{-1}\colon\varphi(U)\rightarrow \mathbb{R}^N$ が $\varphi(p_0)$ において微分可能であることを言う[1]

定義3.2(Euclid空間内の多様体上の$C^k$級関数)

$M$ をEuclid空間内の多様体とする。$f\colon M\rightarrow \mathbb{R}^N$ が $C^k$ 級であるとは $M$ の任意の局所座標 $(U,\varphi)$ に対し $f\circ\varphi^{-1}\colon\varphi(U)\rightarrow \mathbb{R}^N$ が $C^k$ 級であることを言う[2]

定義3.3(局所座標の成分表示)

$M$ をEuclid空間内の $n$ 次元多様体とする。$M$ の局所座標 $(U,\varphi)$ に対し $\varphi(p)=(x_1(p),\ldots,x_n(p))\text{ }(\forall p\in U)$ であるとき $(U,\varphi)$ を $(U,\varphi;x_1,\ldots,x_n)$ や $(U,x_1,\ldots,x_n)$ と表す。また局所座標の定義域 $U$ が本質的ではない場合、局所座標 $(U,x_1,\ldots,x_n)$ を単に局所座標 $(x_1,\ldots,x_n)$ と言うこともある。

定義3.4(Euclid空間の標準座標)

Euclid空間 $\mathbb{R}^N$ の局所座標 $(x_1,\ldots,x_N)$ で $(x_1(p),\ldots,x_N(p))=p\text{ }(\forall p\in \mathbb{R}^N)$ であるものを $\mathbb{R}^N$ の標準座標と言う。

定義3.5(局所座標に関する偏微分)

$M$ をEuclid空間内の $n$ 次元多様体、$f\colon M\rightarrow \mathbb{R}^N$ とする。 $M$ の局所座標 $(U,\varphi;x_1,\ldots,x_n)$ に対し、 $$ \frac{\partial f}{\partial x_j}(p)\colon=\partial_j(f\circ\varphi^{-1})(\varphi(p))\quad(\forall p\in U) $$ と定義する。また、 $$ \frac{\partial^2f}{\partial x_i\partial x_j}(p)\colon=\frac{\partial}{\partial x_i}\frac{\partial f}{\partial x_j}(p)=\partial_i\partial_j(f\circ\varphi^{-1})(\varphi(p))\quad(\forall p\in U) $$ などと定義する。

命題3.6(多様体上の関数の微分の基本性質)

$M,H$ をEuclid空間内の多様体とする。

  • $(1)$ $f\colon M\rightarrow H$、$g\colon H\rightarrow \mathbb{R}^N$ がそれぞれ $p_0\in M$、$f(p_0)\in H$ において微分可能であるならば $g\circ f\colon M\rightarrow \mathbb{R}^N$ は $p_0$ において微分可能である。
  • $(2)$ $f\colon M\rightarrow H$、$g\colon H\rightarrow \mathbb{R}^N$ がそれぞれ $C^k$ 級であるならば $g\circ f\colon M\rightarrow \mathbb{R}^N$ は $C^k$ 級である。
  • $(3)$ $f\colon M\rightarrow \mathbb{R}^N$ が $C^1$ 級ならば $f$ は $M$ の各点で微分可能である。
  • $(4)$ $f\colon M\rightarrow\mathbb{R}^N$ が $p_0\in M$ において微分可能ならば、$p_0\in M$ の周りの $M$ の任意の局所座標 $(x_1,\ldots,x_n)$ と $(y_1,\ldots,y_n)$ に対し、

$$ \frac{\partial f}{\partial x_j}(p_0)=\sum_{i=1}^{n}\frac{\partial y_i}{\partial x_j}(p_0)\frac{\partial f}{\partial y_i}(p_0) $$ が成り立つ。

  • $(5)$ $f\colon M\rightarrow \mathbb{R}^N$ が $C^2$ 級ならば $M$ の任意の局所座標 $(x_1,\ldots,x_n)$ と任意の $i,j\in\{1,\ldots,n\}$ に対し、

$$ \frac{\partial^2f}{\partial x_i\partial x_j}=\frac{\partial^2f}{\partial x_j\partial x_i}\quad\quad(*) $$ が成り立つ。

Proof.

  • $(1)$ $p_0$ の周りの $M$ の局所座標 $(U,\varphi)$ と $f(p_0)$ の周りの $H$ の局所座標 $(V,\psi)$ を取る。$f$ は $p_0$ において連続であるから $U\cap f^{-1}(V)$ は $p_0$ の近傍であり、命題1.4より、

$$ \psi\circ f\circ \varphi^{-1}\colon\varphi(U\cap f^{-1}(V))\rightarrow \psi(V)\quad\quad(**) $$ $\varphi(p_0)$ において微分可能である。よって、 $$ (g\circ f)\circ\varphi^{-1}=(g\circ \psi^{-1})\circ(\psi\circ f\circ \varphi^{-1}):\varphi(U\cap f^{-1}(V))\rightarrow\mathbb{R}^N\quad\quad(***) $$ は $\varphi(p_0)$ において微分可能であるから $g\circ f$ は $p_0$ において微分可能である。

  • $(2)$ $M$ の任意の局所座標 $(U,\varphi)$ と $H$ の任意の局所座標 $(V,\psi)$ を取る。命題1.4より $(**)$ は $C^k$ 級であるから $(***)$ は $C^k$ 級である。よって $g\circ f$ は $C^k$ 級である。
  • $(3)$ $M$ の任意の局所座標 $(U,\varphi)$ に対しEuclid空間における微積分1命題6.1より $f\circ\varphi^{-1}\colon\varphi(U)\rightarrow \mathbb{R}^N$ は各点で微分可能である。よって $f$ は $M$ の各点で微分可能である。
  • $(4)$ $\varphi=(x_1,\ldots,x_n)$、$\psi=(y_1,\ldots,y_n)$ とする。チェインルールより、

$$ (f\circ\varphi^{-1})'(\varphi(p_0))=(f\circ\psi^{-1})'(\psi(p_0))(\psi\circ\varphi^{-1})'(\varphi(p_0)) $$ である。ここで行列の縦ベクトル表記で、 $$ (f\circ\varphi^{-1})'(\varphi(p_0))=\left(\frac{\partial f}{\partial x_1}(p_0),\ldots,\frac{\partial f}{\partial x_n}(p_0)\right), $$ $$ (f\circ\psi^{-1})'(\psi(p_0))=\left(\frac{\partial f}{\partial y_1}(p_0),\ldots,\frac{\partial f}{\partial y_n}(p_0)\right) $$ であり、 $$ (\psi\circ\varphi^{-1})'(\varphi(p_0))=\left(\frac{\partial y_i}{\partial x_j}(p_0)\right)_{i,j} $$ であるから $(*)$ が成り立つ。

$$ \frac{\partial^2f}{\partial x_i\partial x_j}(p)=\partial_i\partial_j(f\circ\varphi^{-1})(\varphi(p)) =\partial_j\partial_i(f\circ\varphi^{-1})(\varphi(p))=\frac{\partial^2f}{\partial x_j\partial x_i}(p) $$ である。

4. Euclid空間内の多様体の接ベクトル空間

定義4.1(恒等写像の偏微分の表記)

$M$ を Euclid空間 $\mathbb{R}^N$ 内の $n$ 次元多様体とし、$C^\infty$ 級写像 $\iota\colon M\ni p\mapsto p\in \mathbb{R}^N$ を考える。$p\in M$ の周りの $M$ の任意の局所座標 $(x_1,\ldots,x_n)$ に対し、 $$ \frac{\partial}{\partial x_j}p\colon=\frac{\partial\iota}{\partial x_j}(p)\in \mathbb{R}^N\quad(j=1,\ldots,n) $$ と表す。$\varphi=(x_1,\ldots,x_n)$ とすると、 $$ {\varphi^{-1}}'(\varphi(p))=\left(\frac{\partial}{\partial x_1}p,\ldots,\frac{\partial}{\partial x_n}p\right)\in\mathbb{M}_{N\times n}(\mathbb{R}) $$ (右辺は縦ベクトル表記)であり局所座標の定義(定義1.3)より ${\varphi^{-1}}'(\varphi(p))$ のランクは $n$ であるから $\frac{\partial}{\partial x_1}p,\ldots,\frac{\partial}{\partial x_n}p$ は線形独立である。

定義4.2(Euclid空間内の多様体の接ベクトル空間)

$M$ をEuclid空間 $\mathbb{R}^N$ 内の $n$ 次元多様体とする。任意の $p\in M$ と $p$ の周りの $M$ の局所座標 $(x_1,\ldots,x_n)$ に対し $\mathbb{R}^N$ の $n$ 次元部分空間 $$ T_p(M)\colon=\text{span}\left\{\frac{\partial}{\partial x_1}p,\ldots,\frac{\partial}{\partial x_n}p\right\}\subset \mathbb{R}^N $$ を定義する[3]。$p$ の周りの $M$ の別の局所座標 $(y_1,\ldots,y_n)$ に対し命題3.6の $(4)$ より、 $$ \frac{\partial }{\partial x_j}p=\sum_{i=1}^{n}\frac{\partial y_i}{\partial x_j}(p)\frac{\partial}{\partial y_i}p $$ であるから、 $$ T_p(M)=\text{span}\left\{\frac{\partial}{\partial y_1}p,\ldots,\frac{\partial}{\partial y_n}p\right\} $$ でもある。よって $T_p(M)$ は $p$ の周りの $M$ の局所座標の取り方によらない。$T_p(M)$ を $p\in M$ における $M$ の接ベクトル空間と言う。

注意4.3(接ベクトル空間と定義域)

$M$ の空でない開集合 $D$ と任意の $p\in D$ に対し $(x_1,\ldots,x_n)$ が $p$ の周りの $M$ の局所座標ならば $(x_1,\ldots,x_n)$ は $p$ の周りの $D$ の局所座標でもあるから $T_p(M)=T_p(D)$ である。

注意4.4(Euclid空間の標準座標と標準基底)

Euclid空間 $\mathbb{R}^N$ の標準座標(定義3.4)$(x_1,\ldots,x_N)$ と標準基底 $(e_1,\ldots,e_N)$ に対し、 $$ e_j=\frac{\partial}{\partial x_j}p\quad(\forall p\in \mathbb{R}^N, j=1,\ldots,N) $$ である。よって任意の $p\in \mathbb{R}^N$ に対し $p$ における $\mathbb{R}^N$ の接ベクトル空間は $T_p(\mathbb{R}^N)=\text{span}\{e_1,\ldots,e_N\}=\mathbb{R}^N$ である。

5. Euclid空間内の多様体上の関数の全微分

定義5.1(Euclid空間内の多様体上の関数の全微分)

$M$ をEuclid空間内の $n$ 次元多様体、$f\colon M\rightarrow\mathbb{R}^N$ を $p\in M$ において微分可能な関数(定義3.1)とする。このとき $p$ の周りの $M$ の局所座標 $(x_1,\ldots,x_n)$ に対し、 $$ df_p\colon T_p(M)\ni \sum_{j=1}^{n}a_j\frac{\partial}{\partial x_j}p\mapsto \sum_{j=1}^{n}a_j\frac{\partial f}{\partial x_j}(p)\in \mathbb{R}^N $$ なる線形写像を定義する。 $p$ の周りの $M$ の別の局所座標 $(y_1,\ldots,y_n)$ に対し、 $$ \sum_{j=1}^{n}a_j\frac{\partial}{\partial x_j}p=\sum_{i=1}^{n}b_i\frac{\partial}{\partial y_i}p $$ ならば $(\frac{\partial}{\partial x_1}p,\ldots,\frac{\partial }{\partial x_n}p)$、$(\frac{\partial}{\partial y_1}p,\ldots,\frac{\partial}{\partial y_n}p)$ がそれぞれ $T_p(M)$ の基底であることと命題3.6の $(4)$ より、 $$ \sum_{j=1}^{n}a_j\frac{\partial f}{\partial x_j}(p) =\sum_{i=1}^{n}b_i\frac{\partial f}{\partial y_i}(p) $$ である[4]。よって線形写像 $df_p\colon T_p(M)\rightarrow \mathbb{R}^N$ は $p$ の周りの $M$ の局所座標 $(x_1,\ldots,x_n)$ の取り方によらない。$df_p$ を $f$ の $p$ における全微分と言う。

命題5.2(全微分に関するチェインルール)

$M,H$ をそれぞれEuclid空間内の多様体とし関数 $f\colon M\rightarrow H$ が $p\in M$ において微分可能であるとする。このとき、 $$ df_p(T_p(M))\subset T_{f(p)}(H)\quad\quad(*) $$ が成り立つ。また関数 $g\colon H\rightarrow \mathbb{R}^N$ が $f(p)$ において微分可能ならば、 $$ d(g\circ f)_p=dg_{f(p)}df_p\quad\quad(**) $$ が成り立つ。

Proof.

$p$ の周りの $M$ の局所座標 $(\varphi;x_1,\ldots,x_n)$ と $f(p)$ の周りの $H$ の局所座標 $(\psi;y_1,\ldots,y_k)$ に対しチェインルール(Euclid空間における微積分1命題2.1)より、 $$ \begin{aligned} df_p\frac{\partial}{\partial x_j}p&=\frac{\partial f}{\partial x_j}(p) =\partial_j(f\circ\varphi^{-1})(\varphi(p)) =\partial_j(\psi^{-1}\circ(\psi\circ f\circ\varphi^{-1}))(\varphi(p))\\ &=\sum_{i=1}^{k}\partial_i(\psi^{-1})(\psi(f(p)))\partial_j(y_i\circ f\circ\varphi^{-1})(\varphi(p))\\ &=\sum_{i=1}^{k}\left(\frac{\partial(y_i\circ f)}{\partial x_j}(p)\right)\frac{\partial}{\partial y_i}f(p)\in T_{f(p)}(H)\quad(j=1,\ldots,n)\quad\quad(***) \end{aligned} $$ である。よって $(*)$ が成り立つ。そして $(***)$ と全微分の定義より、 $$ dg_{f(p)}df_p\frac{\partial}{\partial x_j}p =\sum_{i=1}^{k}\left(\frac{\partial(y_i\circ f)}{\partial x_j}(p)\right)\frac{\partial g}{\partial y_i}(f(p)) $$ であり、チェインルールより、 $$ \begin{aligned} d(g\circ f)_p\frac{\partial}{\partial x_j}p &=\frac{\partial (g\circ f)}{\partial x_j}(p) =\partial_j(g\circ f\circ \varphi^{-1})(\varphi(p)) =\partial_j( (g\circ\psi^{-1})\circ(\psi\circ f\circ\varphi^{-1}) )(\varphi(p))\\ &=\sum_{i=1}^{k}\partial_i(g\circ\psi^{-1})(\psi(f(p)) )\partial_j(y_i\circ f\circ\varphi^{-1})(\varphi(p))\\ &=\sum_{i=1}^{k}\left(\frac{\partial(y_i\circ f)}{\partial x_j}(p)\right)\frac{\partial g}{\partial y_i}(f(p) )\quad(j=1,\ldots,n) \end{aligned} $$ であるから、$(**)$ が成り立つ。

6. Euclid空間内の多様体の余接ベクトル空間

定義6.1(Euclid空間内の多様体の余接ベクトル空間)

$M$ をEuclid空間内の $n$ 次元多様体とする。任意の $p\in M$ に対し $p$ における $M$ の接ベクトル空間 $T_p(M)$ の双対空間を $T_p^*(M)$ と表す。これを $p$ における $M$ の余接ベクトル空間と言う。

注意4.3より $p$ の周りの $M$ の任意の局所座標 $(x_1,\ldots,x_n)$ に対し $dx_{j,p}\in T_p^*(M)$ $(j=1,\ldots,n)$である。 $$ dx_{i,p}\frac{\partial}{\partial x_j}p=\frac{\partial x_i}{\partial x_j}(p)=\delta_{i,j}\quad(\forall i,j\in\{1,\ldots,n\}) $$ より $(dx_{1,p},\ldots,dx_{n,p})$ は $T_p(M)$ の基底 $(\frac{\partial}{\partial x_1}p,\ldots,\frac{\partial}{\partial x_n}p)$ に対する $T_p^*(M)$ の双対基底(速習「線形空間論」命題7.3を参照)であり、 $$ v=\sum_{j=1}^{n}(dx_{j,p}v)\frac{\partial}{\partial x_j}p\quad(\forall v\in T_p(M)) $$ である。よって $p$ において微分可能な任意の $f\colon M\rightarrow\mathbb{R}$ に対し、 $$ df_pv=\sum_{j=1}^{n}(dx_{j,p}v)\frac{\partial f}{\partial x_j}(p)\quad(\forall v\in T_p(M)) $$ であるから、 $$ df_p=\sum_{j=1}^{n}\frac{\partial f}{\partial x_j}(p)dx_{j,p} $$ である。

7. 多様体間の写像に関する逆関数定理, 埋め込み

定義7.1($C^k$ 級同相写像)

$M,H$ をEuclid空間内の多様体とする。$f\colon M\rightarrow H$ が全単射であり $f\colon M\rightarrow H$、$f^{-1}\colon H\rightarrow M$ がそれぞれ $C^k$ 級であるとき $f$ を $C^k$ 級同相写像と言う。

例7.2

$M$ をEuclid空間内の多様体とする。$M$ の任意の局所座標 $(U,\varphi)$ に対し $\varphi\colon U\rightarrow\varphi(U)$ は $C^\infty$ 級同相写像である。

命題7.3(多様体間の写像に関する逆関数定理)

$M,H$ をそれぞれEuclid空間内の $n$ 次元多様体とし、$f\colon M\rightarrow H$ を $C^k$ 級写像 $(k\geq1)$ とする。もし $p_0\in M$ において $df_{p_0}\colon T_{p_0}(M)\rightarrow T_{f(p_0)}(H)$ が単射ならば $p_0\in M$ の開近傍 $U\subset M$ と $f(p)\in H$ の開近傍 $V\subset H$ が存在し $U\ni p\mapsto f(p)\in V$ が $C^k$ 級同相写像となる。

Proof.

$p_0$ の周りの $M$ の局所座標 $(U,\varphi;x_1,\ldots,x_n)$ と $f(p_0)$ の周りの $H$ の局所座標 $(V,\psi;y_1,\ldots,y_n)$ を取る。命題5.2の証明より、 $$ df_{p_0}\frac{\partial}{\partial x_j}{p_0}=\frac{\partial f}{\partial x_j}(p_0) =\sum_{i=1}^{n}\frac{\partial(y_i\circ f)}{\partial x_j}(p_0)\frac{\partial}{\partial y_i}f(p_0) $$ であるから線形写像 $df_{p_0}\colon T_{p_0}(M)\rightarrow T_{f(p_0)}(H)$ の $T_{p_0}(M)$ の基底 $(\frac{\partial}{\partial x_1}p_0,\ldots,\frac{\partial}{\partial x_n}p_0)$ と $T_{f(p_0)}(H)$ の基底 $(\frac{\partial}{\partial y_1}f(p_0),\ldots,\frac{\partial}{\partial y_n}f(p_0))$ に関する行列表現は、 $$ (\psi\circ f\circ\varphi^{-1})'(\varphi(p_0))=\left(\frac{\partial(y_i\circ f)}{\partial x_j}(p_0)\right)_{i,j}\in \mathbb{M}_{n\times n}(\mathbb{R})\quad\quad(*) $$ である。$df_{p_0}\colon T_{p_0}(M)\rightarrow T_{f(p_0)}(H)$ は単射なので $(*)$ は正則行列である。よって$C^k$ 級写像 $$ \psi\circ f\circ\varphi^{-1}:\varphi(U\cap f^{-1}(V))\rightarrow \psi(V)\quad\quad(**) $$ に対して逆関数定理(Euclid空間における微積分1定理7.1)を適用すれば $p_0$ の開近傍 $U_0\subset U\cap f^{-1}(V)$ が存在し $f(U_0)\subset V$ は $f(p_0)$ の開近傍であり、 $$ \psi\circ f\circ\varphi^{-1}:\varphi(U_0)\rightarrow \psi(f(U_0)) $$ は $C^k$ 級同相写像である。 $U_0\ni p\mapsto f(p)\in f(U_0)$ は $(**)$ と $C^\infty$ 級同相写像 $U_0\ni p\mapsto \varphi(p)\in \varphi(U_0)$、$\psi(f(U_0))\ni \psi(p)\mapsto p\in f(U_0)$ の合成なので $C^k$ 級同相写像である。

定義7.4(埋め込み)

$M,H$ をEuclid空間内の多様体とする。$f\colon M\rightarrow H$ が $M$ の $H$ への埋め込みであるとは次が成り立つことを言う。

  • $(1)$ $f$は$C^\infty$級。
  • $(2)$ $M\ni p\mapsto f(p)\in f(M)$ は同相写像。
  • $(3)$ 任意の $p\in M$ に対し $df_p\colon T_p(M)\rightarrow T_{f(p)}(H)$ は単射。

命題7.5(埋め込みの意味)

$M,H$ をEuclid空間内の多様体、$f\colon M\rightarrow H$ を埋め込みとする。このとき $f(M)$ は $H$ の部分多様体(定義2.3)であり、$M\ni f\mapsto f(p)\in f(M)$ は $C^\infty$ 級同相写像である。

Proof.

$M$($n$ 次元とする)の任意の局所座標 $(U,\varphi)$ を取る。$\varphi\circ f^{-1}\colon f(U)\rightarrow \varphi(U)$ は同相写像であ利、 $C^\infty$ 級写像 $$ f\circ\varphi^{-1}=(\varphi\circ f^{-1})^{-1}\colon \varphi(U)\ni \varphi(p)\mapsto p\in H $$ に対し命題5.2より、 $$ d(f\circ\varphi^{-1})_{\varphi(p)}=df_pd\varphi^{-1}_{\varphi(p)}\colon\mathbb{R}^n\rightarrow T_{f(p)}(H) $$ は単射である[5]。よって $(*)$ の微分のランクは $n$ であるから局所座標の定義(定義1.3)より $(f(U),\varphi\circ f^{-1})$ は $f(M)$ の $n$ 次元局所座標である。$(U,\varphi)$ は $M$ の任意の局所座標であるから $f(M)$ は $H$ の $n$ 次元部分多様体である。$M$ の任意の局所座標 $(U,\varphi)$ に対し $U\ni p\mapsto f(p)\in f(U)$ は $C^\infty$ 級同相写像 $\varphi\colon U\rightarrow\varphi(U)$ と $C^\infty$ 級同相写像 $(\varphi\circ f^{-1})^{-1}=f\circ\varphi^{-1}\colon\varphi(U)\rightarrow f(U)$ の合成であるから $C^\infty$ 級同相写像である。ゆえに $M\ni p\mapsto f(p)\in f(M)$ は $C^\infty$ 級同相写像である。

8. 陰関数定理、Lagrangeの未定乗数法

補題8.1

$M$ をEuclid空間内の $n$ 次元多様体、$U\subset M$ を開集合、$f_1,\ldots,f_n\colon U\rightarrow \mathbb{R}$ を $C^\infty$ 級関数とする。そして $p_0\in U$ に対し $df_{1,p_0},\ldots, df_{n,p_0}\in T_{p_0}^*(M)$ が線形独立であるとする。このとき $p_0$ の十分小さい開近傍 $U_0\subset U$ を取れば $(U_0,f_1,\ldots,f_n)$ は $M$ の局所座標である。

Proof.

$f(p)=(f_1(p),\ldots,f_n(p))$ $(\forall p\in U)$ として $f\colon U\rightarrow\mathbb{R}^n$ を定義する。 $$ df_{p_0}v=(df_{1,p_0}v,\ldots,df_{n,p_0}v)\in \mathbb{R}^n\quad(\forall v\in T_{p_0}(M)) $$ であるから $df_{p_0}v=0$ ならば $df_{j,p_0}v=0$ $(j=1,\ldots,n)$ である。$(df_{1,p_0},\ldots,df_{n,p_0})$ は $T_{p_0}^*(M)$ の基底であるからこれは $v=0$ を意味する。ゆえに $df_{p_0}\colon T_{p_0}(M)\rightarrow\mathbb{R}^n$ は単射であるので逆関数定理(命題7.3)より $p_0$ の開近傍 $U_0\subset U$ が存在し $f(U_0)\subset\mathbb{R}^n$ は開集合であり、$U_0\ni p\mapsto f(p)\in f(U_0)$ は $C^\infty$ 級同相写像である。よって $(U_0,f_1,\ldots,f_n)$ は $p_0$ の周りの $M$ の局所座標である。

定理8.2(陰関数定理、Lagrangeの未定乗数法)

$M$ をEuclid空間内の $n$ 次元多様体、$h_1,\ldots,h_k\colon M\rightarrow \mathbb{R}$ $(1\leq k\leq n-1)$ を $C^\infty$ 級関数とし、 $$ H\colon=\{p\in M:h_1(p)=0,\ldots,h_k(p)=0\} $$ とする。そして任意の $p\in H$ に対し $dh_{1,p},\ldots, dh_{k,p}\in T_p^*(M)$ は線形独立であるとする。このとき、

  • $(1)$(陰関数定理)$H$ は $M$ の $n-k$ 次元部分多様体であり、任意の $p_0\in H$ と $p_0$ の周りの $M$ の任意の局所座標 $(U,x_1,\ldots,x_n)$ に対し、 $n$ 次の置換 $\sigma$ と $p_0\in M$ の開近傍 $U_0\subset U$ が取れて、 $(U_0\cap H, x_{\sigma(1)},\ldots,x_{\sigma(n-k)})$ が $H$ の局所座標となる。
  • $(2)$(Lagrangeの未定乗数法)$C^1$ 級関数 $g\colon M\rightarrow \mathbb{R}$ の $H$ 上への制限 $H\ni p\mapsto g(p)\in \mathbb{R}$ が、$p_0\in H$ において極値を取るならば、$dg_{p_0}\in T_{p_0}^*(M)$ は $dh_{1,p_0},\dots,dh_{k,p_0}\in T_{p_0}^*(M)$ の線形結合で表せる。
Proof.

  • $(1)$ 任意の $p_0\in H$ と $p_0$ の周りの $M$ の局所座標 $(U,x_1,\ldots,x_n)$ を取る。$dh_{1,p_0},\ldots,dh_{k,p_0}\in T_{p_0}^*(M)$ は線形独立であるから、$T_{p_0}^*(M)$ の基底 $dx_{1,p_0},\ldots,dx_{n,p_0}$ のうち $k$ 個を $dh_{1,p_0},\ldots, dh_{k,p_0}$ に取り替えることで、ある$n$ 次の置換 $\sigma$ に対し $dx_{\sigma(1),p_0},\ldots,dx_{\sigma(n-k),p_0},dh_{1,p_0},\ldots,dh_{k,p_0}$ が $T_{p_0}^*(M)$ の基底となるようにできる。このとき補題8.1より $p_0$ の開近傍 $U_0\subset U$ が存在し $(U_0,x_{\sigma(1)},\ldots,x_{\sigma(n-k)},h_1,\cdots,h_k)$ は $p_0$ の周りの $M$ の局所座標である。

$$ U_0\cap H=\{p\in U_0:h_1(p)=\ldots=h_k(p)=0\} $$ であるから命題2.5より $(U_0\cap H,x_{\sigma(1)},\ldots,x_{\sigma(n-k)})$ は $H$ の $n-k$ 次元局所座標である。$p_0\in H$ は任意なので $H$ は $M$ の $n-k$ 次元部分多様体である。

  • $(2)$ $p_0\in H$ の周りの $M$ の局所座標 $(U,x_1,\ldots,x_n)$ を取る。$(1)$ の証明より $x_{n-k+j}=h_j$ $(j=1,\ldots,k)$、

$(U\cap H, x_1,\ldots,x_{n-k})$ は $H$ の局所座標であるとしてよい。$dg_{p_0}\in T_{p_0}^*(M)$ は、 $$ dg_{p_0}=\sum_{j=1}^{n}\frac{\partial g}{\partial x_j}(p_0)dx_{j,p_0} $$ と表され、$H\ni p\mapsto g(p)\in \mathbb{R}$ は $p_0$ において極値を取るので、 $$ \frac{\partial g}{\partial x_{j}}(p_0)=0\quad(j=1,\ldots,n-k) $$ である。よって、 $$ dg_{p_0}=\sum_{j=1}^{k}\frac{\partial g}{\partial x_{n-k+j}}(p_0)dx_{n-k+j,p_0} =\sum_{j=1}^{k}\frac{\partial g}{\partial x_{n-k+j}}(p_0)dh_{j,p_0} $$ である。よって $dg_{p_0}$ は $dh_{1,p_0},\ldots,dh_{k,p_0}$ の線形結合で表せる。

9. 微分形式

定義9.1(微分形式)

$M$ をEuclid空間内の $n$ 次元多様体、$E\subset M$、$r\in \mathbb{N}$ とする。任意の $p\in E$ に対し $T_p^*(M)$ の $r$ 階反対称テンソル $\omega_p\in \bigwedge^rT_p^*(M)$ (速習「線形空間論」定義9.1)が与えられているとする。このとき、 $$ \omega\colon=(\omega_p)_{p\in E}: E\ni p\mapsto \omega_p\in \bigwedge^rT_p^*(M) $$ を $E$ 上で定義された $M$ の $r$ 階微分形式と言う( $E=M$ の場合、単に $M$ の $r$ 階微分形式と言う。 また便宜上 $E$ 上の実数値関数 $f\colon E\rightarrow\mathbb{R}$ を $E$ 上で定義された $M$ の $0$ 階微分形式と言う)。 $T_p^*(M)$ は $n$ 次元であるから $r> n$ の場合は $\bigwedge^rT_p^*(M)=\{0\}$ である。$r\leq n$とする。$U\cap E\neq\emptyset$ なる $M$ の任意の局所座標 $(U,x_1,\ldots,x_n)$ と任意の $1\leq i_1<\ldots<i_r\leq n$ に対し、 $$ f_{i_1,\ldots,i_r}(p)\colon=\omega_p\left(\frac{\partial}{\partial x_{i_1}}p,\ldots,\frac{\partial}{\partial x_{i_r}}p\right)\quad(\forall p\in U\cap E)\quad\quad(*) $$ とおくと、 $$ \omega_p=\sum_{1\leq i_1<\ldots<i_r\leq n}f_{i_1,\ldots,i_r}(p)dx_{i_1,p}\wedge\ldots\wedge dx_{i_r,p}\quad(\forall p\in U\cap E)\quad\quad(**) $$ と表せる。

定義9.2(微分形式の連続性)

$E\subset M$ 上で定義された $M$ の $r$ 階微分形式 $\omega=(\omega_p)_{p\in E}$ が連続であるとは $U\cap E\neq\emptyset$ なる $M$ の任意の局所座標 $(U,x_1,\ldots,x_n)$ と任意の $i_1,\ldots,i_r\in \{1,\ldots,n\}$ に対し、 $$ U\cap E\ni p\mapsto \omega_p\left(\frac{\partial}{\partial x_{i_1}}p,\ldots,\frac{\partial}{\partial x_{i_r}}p\right)\in \mathbb{R} $$ が連続であることを言う。

定義9.3(微分形式の外微分可能性、$C^k$ 級性)

$M$ の $r$ 階微分形式 $\omega=(\omega_p)_{p\in M}$ が $p_0\in M$ において外微分可能であるとは $p_0$ の周りの $M$ の任意の局所座標 $(U,x_1,\ldots,x_n)$ に対し、 $$ U\ni p\mapsto \omega_p\left(\frac{\partial}{\partial x_{i_1}}p,\ldots,\frac{\partial}{\partial x_{i_r}}p\right)\in \mathbb{R}\quad(i_1,\ldots,i_r\in \{1,\ldots,n\})\quad\quad(*) $$ がそれぞれ $p_0$ において微分可能であることを言う。また $\omega$ が $C^k$ 級であるとは $M$ の任意の局所座標 $(U,x_1,\ldots,x_n)$ に対し $(*)$ が $C^k$ 級であることを言う。

注意9.4

命題3.6の $(3)$ より $C^1$ 級微分形式は各点で外微分可能である。

定義9.5(外微分)

Euclid空間内の $n$ 次元多様体 $M$ の $r$ 階微分形式 $\omega=(\omega_p)_{p\in M}$ が $p_0\in M$ において外微分可能であるとする。このとき $\omega$ の $p_0$ における外微分 $d\omega_{p_0}\in \bigwedge^{r+1}T_p^*(M)$ を次のように定義する。$r>n$ の場合は自明に定義する(つまり $d\omega_{p_0}=0$ とする)。$r\leq n$ の場合、$p_0$ の周りの局所座標 $(U,x_1,\ldots,x_n)$ に対し、 $$ \omega_p=\sum_{i_1<\cdots<i_r}f_{i_1,\ldots,i_r}(p)dx_{i_1,p}\wedge\ldots\wedge dx_{i_r,p}\quad(\forall p\in U) $$ であるとき[6]、 $$ d\omega_{p_0}\colon=\sum_{i_1<\ldots<i_r}df_{i_1,\ldots,i_r,p_0}\wedge dx_{i_1,p_0}\wedge\ldots\wedge dx_{i_r,p_0} $$ と定義する。この定義がwell-definedであることは次の命題9.6による。

命題9.6

Euclid空間内の $n$ 次元多様体 $M$ の $r$ ($<n$) 階微分形式 $\omega=(\omega_p)_{p\in M}$ が $p_0\in M$ において外微分可能であるとし、$p_0$ の周りの $2$ 通りの局所座標 $(U,x_1,\ldots,x_n)$、$(U,y_1,\ldots,y_n)$ に対し、 $$ \omega_p=\sum_{i_1<\ldots<i_r}f_{i_1,\ldots,i_r,p}dx_{i_1,p}\wedge\ldots\wedge dx_{i_r,p}\quad(\forall p\in U),\quad\quad(*) $$ $$ \omega_p=\sum_{j_1<\ldots<j_r}g_{i_1,\ldots,i_r,p}dy_{j_1,p}\wedge\ldots\wedge dy_{j_r,p}\quad(\forall p\in U)\quad\quad(**) $$ と表されているとする。このとき、 $$ \sum_{i_1<\ldots<i_r}df_{i_1,\ldots,i_r,p_0}\wedge dx_{i_1,p_0}\wedge\ldots\wedge dx_{i_r,p_0}=\sum_{j_1<\ldots<j_r}dg_{j_1,\ldots,j_r,p_0}\wedge dy_{j_1,p_0}\wedge\ldots\wedge dy_{j_r,p_0}\quad\quad(***) $$ が成り立つ。

Proof.

任意の $i_1<\ldots<i_r$ と $j_1<\ldots<j_r$ に対し、 $$ \Phi^{i_1,\ldots,i_r}_{j_1,\ldots,j_r}(p):={\rm det}\left(\frac{\partial x_{i_k}}{\partial y_{j_l}}(p)\right)_{k,l}\quad(\forall p\in U) $$ とおく。外積の反対称性(速習「線形空間論」命題9.6)より $(***)$ を示すには、 $$ \sum_{j_1<\ldots<j_r}dg_{j_1,\ldots,j_r,p_0}\wedge dy_{j_1,p_0}\wedge\ldots\wedge dy_{j_r,p_0}=\sum_{\substack{j_1<\ldots<j_r,\\i_1<\ldots<i_r}}\Phi^{i_1,\ldots,i_r}_{j_1,\ldots,j_r}(p_0)df_{i_1,\ldots,i_r,p_0}\wedge dy_{j_1,p_0}\wedge\ldots\wedge dy_{j_r,p_0}\quad\quad(****) $$ が成り立つことを示せばよい。任意の $j_1<\ldots<j_r$ に対し $(*), (**)$ と外積の反対称性より、 $$ g_{j_1,\ldots,j_r}(p_0)=\sum_{i_1<\ldots<i_r}\Phi^{i_1,\ldots,i_r}_{j_1,\ldots,j_r}(p_0)f_{i_1,\ldots,i_r}(p_0) $$ であるから、 $$ dg_{j_1,\ldots,j_r,p_0}=\sum_{i_1<\ldots<i_r}f_{i_1,\ldots,i_r}(p_0)(d\Phi^{i_1,\ldots,i_r}_{j_1,\ldots,j_r})_{p_0}+\sum_{i_1<\ldots<i_r}\Phi^{i_1,\ldots,i_r}_{j_1,\ldots,j_r}(p_0)df_{i_1,\ldots,i_r,p_0} $$ である。よって $(****)$ を示すには、任意の $i_1<\ldots<i_r$ を取り、 $$ \sum_{j_1<\ldots<j_r}d\Phi^{i_1,\ldots,i_r}_{j_1,\ldots,j_r}\wedge dy_{j_1}\wedge\ldots\wedge dy_{j_r}=0\quad\quad(*****) $$ が成り立つことを示せばよい。任意の $j_1<\ldots<j_{r+1}$ に対し $(*****)$ の左辺の $dy_{j_1}\wedge \ldots\wedge dy_{j_{r+1}}$ の係数関数は、 $$ \begin{aligned} &\sum_{k=1}^{r+1}(-1)^{k-1}\frac{\partial }{\partial y_{j_k}}\Phi^{i_1,\ldots,i_r}_{j_1,\ldots,\widehat{j_k},\ldots,j_{r+1}}\\ &=\sum_{k=1}^{l+1}(-1)^{k-1}\frac{\partial}{\partial y_{j_k}} {\rm det}\begin{pmatrix}\frac{\partial x_{i_1}}{\partial y_{j_1}}&\ldots &\widehat{\frac{\partial x_{i_1}}{\partial y_{j_{k}}}}&\ldots&\frac{\partial x_{i_1}}{\partial y_{j_{r+1}}}\\ \vdots&\vdots&\vdots&\vdots&\\ \frac{\partial x_{i_{r}}}{\partial y_{j_1}}&\cdots &\frac{\partial x_{i_r}}{\partial y_{j_{k}}}&\cdots&\frac{\partial x_{i_r}}{\partial y_{j_{r+1}}} \end{pmatrix}\quad( \widehat{\cdot}\text{ は } k \text{ 列を抜かす} )\\ &=\sum_{\substack{k,l\in\{1,\ldots,r+1\}\\k\neq l}}(-1)^{k-1}{\rm det}\begin{pmatrix}\frac{\partial x_{i_1}}{\partial y_{j_1}}&\ldots &\frac{\partial^2x_{i_1}}{\partial y_{j_{k}}\partial y_{j_l}}&\cdots&\widehat{\frac{\partial x_{i_1}}{\partial y_{j_{k}}}}&\ldots&\frac{\partial x_{i_1}}{\partial y_{j_{r+1}}}\\ \vdots&\vdots&\vdots &\vdots&\vdots&\vdots\\ \frac{\partial x_{i_{r}}}{\partial y_{j_1}}&\ldots &\frac{\partial^2x_{i_r}}{\partial y_{j_k}\partial y_{j_l}}&\ldots&\frac{\partial x_{i_r}}{\partial y_{j_{k}}}&\ldots&\frac{\partial x_{i_r}}{\partial y_{j_{r+1}}} \end{pmatrix}\quad\text{(同上)}\\ &=\sum_{\substack{k,l\in\{1,\ldots,r+1\}\\k\neq l}}(-1)^{k-1}(-1)^{k-1-l}{\rm det}\begin{pmatrix}\frac{\partial x_{i_1}}{\partial y_{j_1}}&\ldots &\widehat{\frac{\partial x_{i_1}}{\partial y_{j_{l}}}}&\ldots&\frac{\partial^2x_{i_1}}{\partial y_{j_{k}}\partial y_{j_l}}&\cdots&\frac{\partial x_{i_1}}{\partial y_{j_{r+1}}}\\ \vdots&\vdots&\vdots &\vdots&\vdots&\vdots\\ \frac{\partial x_{i_{r}}}{\partial y_{j_1}}&\cdots&\widehat{\frac{\partial x_{i_r}}{\partial y_{j_{l}}}}&\ldots&\frac{\partial^2x_{i_r}}{\partial y_{j_k}\partial y_{j_l}}&\ldots&\frac{\partial x_{i_r}}{\partial y_{j_{r+1}}} \end{pmatrix}\quad( \widehat{\cdot}\text{ は }l\text{ 列を抜かす} )\\ &=\sum_{\substack{k,l\in\{1,\ldots,r+1\}\\k\neq l}}(-1)^{l}{\rm det}\begin{pmatrix}\frac{\partial x_{i_1}}{\partial y_{j_1}}&\ldots &\widehat{\frac{\partial x_{i_1}}{\partial y_{j_{l}}}}&\cdots&\frac{\partial^2x_{i_1}}{\partial y_{j_{l}}\partial y_{j_k}}&\ldots&\frac{\partial x_{i_1}}{\partial y_{j_{r+1}}}\\ \vdots&\vdots&\vdots &\vdots&\vdots&\vdots\\ \frac{\partial x_{i_{r}}}{\partial y_{j_1}}&\ldots&\widehat{\frac{\partial x_{i_r}}{\partial y_{j_{l}}}}&\ldots&\frac{\partial^2x_{i_r}}{\partial y_{j_l}\partial y_{j_k}}&\ldots&\frac{\partial x_{i_r}}{\partial y_{j_{r+1}}} \end{pmatrix}\quad\text{(同上)}\\ &=\sum_{l=1}^{l+1}(-1)^{l}\frac{\partial}{\partial y_{j_l}} {\rm det}\begin{pmatrix}\frac{\partial x_{i_1}}{\partial y_{j_1}}&\ldots &\widehat{\frac{\partial x_{i_1}}{\partial y_{j_{l}}}}&\ldots&\frac{\partial x_{i_1}}{\partial y_{j_{r+1}}}\\ \vdots&\vdots&\vdots&\vdots&\\ \frac{\partial x_{i_{r}}}{\partial y_{j_1}}&\ldots &\frac{\partial x_{i_r}}{\partial y_{j_{l}}}&\ldots&\frac{\partial x_{i_r}}{\partial y_{j_{r+1}}} \end{pmatrix}\quad\text{(同上)}\\ &=\sum_{l=1}^{r+1}(-1)^{l}\frac{\partial }{\partial y_{j_l}}\Phi^{i_1,\ldots,i_r}_{j_1,\ldots,\widehat{j_l},\ldots,j_{r+1}} =-\sum_{k=1}^{r+1}(-1)^{k-1}\frac{\partial }{\partial y_{j_k}}\Phi^{i_1,\ldots,i_r}_{j_1,\ldots,\widehat{j_k},\ldots,j_{r+1}} \end{aligned} $$ である。ただし $3$ 行目から $4$ 行目で行列式の反対称性を用い、$4$ 行目から $5$ 行目で、 $$ \frac{\partial^2x_i}{\partial y_{j_k}\partial y_{j_l}} =\frac{\partial^2x_i}{\partial y_{j_l}\partial y_{j_k}}\quad(\forall k,l\in \{1,\ldots,n+1\}) $$ であることを用いた。よって、 $$ \sum_{k=1}^{r+1}(-1)^{k-1}\frac{\partial }{\partial y_{j_k}}\Phi^{i_1,\ldots,i_r}_{j_1,\ldots,\widehat{j_k},\ldots,j_{r+1}}=0 $$ であるので $(*****)$ が成り立つ。

定義9.6(微分形式の外積)

$M$ をEuclid空間内の多様体、$\omega,\theta$ をそれぞれ $E\subset M$ 上で定義された $r$階、$s$ 階微分形式とする。$E$ 上で定義された $M$ の $r+s$ 階微分形式 $\omega\wedge \theta$を、 $$ \omega\wedge \theta:=(\omega_p\wedge \theta_p)_{p\in E} $$ として定義する(速習「線形空間論」定義9.3を参照)。

微分形式は局所座標により定義9.1の $(**)$ のように表されることから、$\omega$, $\theta$ が連続(resp. ある点 $p$ で外微分可能、$C^k$級)ならば $\omega\wedge \theta$も連続(resp. ある点 $p$ で外微分可能、$C^k$級)である。

命題9.7(外微分の基本性質)

$M$ をEuclid空間内の $n$ 次元多様体とする。

  • $(1)$ $\omega,\theta$ を $M$ の $r$ 階、$s$ 階微分形式とし、$p\in M$ においてそれぞれ外微分可能であるとする。このとき$\omega\wedge \theta$ も $p$ で外微分可能であり、

$$ d(\omega\wedge \theta)_{p}=d\omega_{p}\wedge \theta_{p}+(-1)^r\omega_{p}\wedge d\theta_{p} $$ が成り立つ。

  • $(2)$ $f\colon M\rightarrow\mathbb{R}$を $C^2$ 級関数とすると $d^2f=ddf=0$ である。
  • $(3)$ $\omega$ を $M$ の $r$ 階 $C^2$ 級微分形式とすると $d^2\omega=dd\omega=0$ である。
Proof.

  • $(1)$ $p$ の周りの局所座標 $(U,x_1,\ldots,x_n)$ と $p$ において微分可能な $f,g\colon U\rightarrow\mathbb{R}$ に対し $\omega$, $\theta$ は $U$ 上で、

$$ \omega=fdx_{i_1}\wedge \ldots\wedge dx_{i_r},\quad \theta=gdx_{j_1}\wedge \ldots\wedge dx_{j_s} $$ と表されると仮定して示せば十分である。 $$ \omega\wedge \theta=fgdx_{i_1}\wedge \ldots\wedge dx_{i_r}\wedge dx_{j_1}\wedge \ldots\wedge dx_{j_s} $$ であり $d(fg)_{p}=g(p)df_p+f(p)dg_p$ であるから命題9.6と外積の反対称性より、 $$ \begin{aligned} d(\omega\wedge \theta)_{p}&=d(fg)_p\wedge dx_{i_1,p}\wedge \ldots\wedge dx_{i_r,p}\wedge dx_{j_1,p}\wedge \ldots\wedge dx_{j_s,p}\\ &=(df_p\wedge dx_{i_1,p}\wedge \ldots\wedge dx_{i_r,p})\wedge (g(p)dx_{j_1,p}\wedge \ldots\wedge dx_{j_s,p})\\ &+(-1)^r(f(p)dx_{i_1,p}\wedge \ldots\wedge dx_{i_r,p})\wedge (dg_p\wedge dx_{j_1,p}\wedge \ldots\wedge dx_{j_s})\\ &=d\omega_{p}\wedge \theta_{p}+(-1)^r\omega_{p}\wedge d\theta_{p} \end{aligned} $$ である。

  • $(2)$ 任意の $p\in M$ と $p$ の周りの $M$ の任意の局所座標 $(x_1,\ldots,x_n)$ に対し、

$$ df_p=\sum_{j=1}^{n}\frac{\partial f}{\partial x_j}(p)dx_{j,p} $$ であるから、 $$ \begin{aligned} d^2f_p=\sum_{i=1}^{n}\sum_{j=1}^{n}\frac{\partial^2f}{\partial x_i\partial x_j}(p)dx_{i,p}\wedge dx_{j,p} \end{aligned} $$ である。ここで、 $$ \frac{\partial^2f}{\partial x_i\partial x_j}(p)=\frac{\partial^2f}{\partial x_j\partial x_i}(p),\quad dx_{i,p}\wedge dx_{j,p}=-dx_{j,p}\wedge dx_{i,p} $$ であるから $d^2f_p=0$ である。

  • $(3)$ $M$ の局所座標 $(U,x_1,\ldots,x_n)$ と $C^2$ 級関数 $f:U\rightarrow\mathbb{R}$ に対し $\omega$ は $U$ 上で、

$$ \omega=fdx_{j_1}\wedge \ldots\wedge dx_{j_r} $$ と表されるとして示せば十分である。このとき、 $$ d\omega=df\wedge dx_{j_1}\wedge \ldots\wedge dx_{j_r} $$ であるから $(1),(2)$ より、 $$ d^2\omega=d^2f\wedge dx_{j_1}\wedge \ldots\wedge dx_{j_r}+\sum_{k=1}^{r}(-1)^{k}df\wedge dx_{j_1}\wedge \ldots \wedge d^2dx_{j_k}\wedge \ldots\wedge dx_{j_r}=0 $$ である。

定義9.8(微分形式の引き戻し)

$M, H$ をEuclid空間内の多様体、$f\colon M\rightarrow H$ を $C^1$ 級関数、$E\subset H$、$f^{-1}(E)\neq\emptyset$ とする。このとき $E$ 上で定義された $H$ の $r$ 階微分形式 $\omega=(\omega_p)_{p\in E}$ に対し $f^{-1}(E)$ 上で定義された $M$ の $r$ 階微分形式 $f^*\omega$ を、 $$ (f^*\omega)_p(v_1,\ldots,v_r)\colon=\omega_{f(p)}(df_pv_1,\ldots,df_pv_r)\quad(\forall v_1,\ldots,v_r\in T_p(M)) $$ と定義する[7]。 $f^*\omega$ を $\omega$ の $f$ による引き戻しと言う。

注意9.9(引き戻しと外積)

$\omega,\theta$ を $E\subset H$ で定義された $H$ の $r$階、$s$ 階微分形式とすると、 $$ f^*(\omega\wedge \theta)=f^*\omega\wedge f^*\theta $$ である。実際、反対称テンソルの外積の定義(速習「線形空間論」定義9.3)より任意の $p\in f^{-1}(E)$ に対し、 $$ \begin{aligned} &f^*(\omega\wedge \theta)_p(v_1,\ldots,v_{r+s}) =(\omega_{f(p)}\wedge \theta_{f(p)})(df_pv_1,\ldots,df_pv_{r+s})\\ &=\frac{1}{r!s!}\sum_{\sigma\in S_{r+s}}{\rm sgn}(\sigma)(\omega_{f(p)}\otimes\theta_{f(p)})(df_pv_{\sigma(1)},\ldots,df_pv_{\sigma(r+s)})\\ &=\frac{1}{r!s!}\sum_{\sigma\in S_{r+s}}{\rm sgn}(\sigma)((f^*\omega)_p\otimes (f^*\theta)_p)(v_{\sigma(1)},\ldots,v_{\sigma(r+s)})\\ &=(f^*\omega\wedge f^*\theta)_p(v_1,\ldots,v_{r+s}) \end{aligned} $$ である。

注意9.10(引き戻しと滑らかさ)

$U\cap f^{-1}(E\cap V)\neq\emptyset$ なる $H$ の任意の局所座標 $(V,y_1,\ldots,y_r)$ と $M$ の任意の局所座標 $(U,x_1,\ldots,x_n)$ を取る。全微分に関するチェインルール(命題5.2)より任意の $p\in U\cap f^{-1}(E\cap V)$ と任意の $v_1,\ldots,v_{r+s}\in T_p(M)$ に対し、 $$ \begin{aligned} &(f^*\omega)_p\left(\frac{\partial}{\partial x_{i_1}}p,\ldots,\frac{\partial}{\partial x_{i_r}}p\right) =\omega_{f(p)}\left(df_p\frac{\partial}{\partial x_{i_1}}p,\ldots,df_p\frac{\partial}{\partial x_{i_r}}p\right)\\ &=\omega_{f(p)}\left(\frac{\partial f}{\partial x_{i_1}}(p),\ldots,\frac{\partial f}{\partial x_{i_r}}(p)\right)\\ &=\sum_{j_1,\ldots,j_r=1}^{k}\frac{\partial(y_{j_1}\circ f)}{\partial x_{i_1}}(p)\ldots\frac{\partial(y_{j_r}\circ f)}{\partial x_{i_r}}(p)\left(\frac{\partial}{\partial y_{j_1}}f(p),\ldots,\frac{\partial}{\partial y_{j_r}}f(p)\right) \end{aligned} $$ である。これより $\omega$ が連続ならば $f^*\omega$ は連続、$\omega$ が $f(p)$ において外微分可能ならば $f^*\omega$ は $p$ において外微分可能、$\omega$ が $C^k$ 級で $f$ が $C^{k+1}$ 級ならば $f^*\omega$ は $C^k$ 級である。

注意9.11(引き戻しと合成)

$M,H,L$ をそれぞれEuclid空間内の多様体、$f\colon M\rightarrow H$, $g\colon H\rightarrow L$ をそれぞれ $C^1$ 級関数とし、$E\subset L$, $f^{-1}(g^{-1}(E))\neq\emptyset$ とする。このとき $E$ 上で定義された $L$ の $r$ 階微分形式 $\omega$ に対し、 $$ (g\circ f)^*\omega=f^*g^*\omega $$ が成り立つ。実際、任意の $p\in (g\circ f)^{-1}(E)=f^{-1}(g^{-1}(E))$ と任意の $v_1,\ldots,v_r\in T_p(M)$ に対し、全微分に関するチェインルール(命題5.2)より、 $$ \begin{aligned} &( (g\circ f)^*\omega)_p(v_1,\ldots,v_r)=\omega_{g(f(p) )}(d(g\circ f)_pv_1,\ldots, d(g\circ f)_pv_r)\\ &=\omega_{g(f(p) )}(dg_{f(p)}df_pv_1,\ldots,dg_{f(p)}df_pv_r) =(g^*\omega)_{f(p)}(df_pv_1,\ldots,df_pv_r)\\ &=(f^*g^*\omega)_p(v_1,\ldots,v_r) \end{aligned} $$ である。

命題9.12(引き戻しと外微分の可換性)

$M, H$ をEuclid空間内の多様体、$f\colon M\rightarrow H$ を $C^2$ 級関数、$\omega$ を $H$ の $C^1$ 級微分形式とする。このとき、 $$ df^*\omega=f^*d\omega $$ が成り立つ。

Proof.

$H$ の任意の局所座標 $(V,y_1,\ldots,y_n)$ を取る。$V$ 上で $df^*\omega=f^*d\omega$ が成り立つことを示せばよい。$C^1$ 級関数 $h\colon V\rightarrow\mathbb{R}$ に対し $V$ 上で $\omega$ は、 $$ \omega=hdy_{j_1}\wedge \ldots\wedge dy_{j_r} $$ と表されるとして示せば十分である。 $$ d\omega=dh\wedge dy_{j_1}\wedge \ldots\wedge dy_{j_r} $$ であるから注意9.9注意9.11より、 $$ f^*d\omega=f^*dh\wedge f^*dy_{j_1}\wedge \ldots\wedge f^*dy_{j_r} =d(h\circ f)\wedge d(y_{j_1}\circ f)\wedge \ldots\wedge d(y_{j_r}\circ f) $$ である。一方、注意9.9注意9.11より、 $$ \begin{aligned} f^*\omega=(h\circ f)(f^*dy_{j_1})\wedge \ldots\wedge (f^*dy_{j_r})=(h\circ f)d(y_{j_1}\circ f)\wedge \ldots\wedge d(y_{j_r}\circ f) \end{aligned} $$ であるから、命題9.7の $(1), (3)$ より、 $$ \begin{aligned} df^*\omega&=d(h\circ f)\wedge d(y_{j_1}\circ f)\wedge \ldots\wedge d(y_{j_r}\circ f)\\ &+(h\circ f)\sum_{k=1}^{r}d(y_{j_1}\circ f)\wedge \ldots\wedge d^2(y_{j_k}\circ f)\wedge\ldots\wedge d(y_{j_r}\circ f)\\ &=d(h\circ f)\wedge d(y_{j_1}\circ f)\wedge \ldots\wedge d(y_{j_r}\circ f) \end{aligned} $$ である。よって $f^*d\omega=df^*\omega$ が成り立つ。

10. Euclid空間におけるHodgeの $\star$ 作用素

命題10.1(内積空間のテンソル積)

$V_1,\ldots,V_N$ をそれぞれ $\mathbb{R}$ 上の有限次元内積空間(位相線形空間1:ノルムと内積の1を参照)とする。このときテンソル積線形空間(速習「線形空間論」の8を参照) $\bigotimes_{j=1}^NV_j$ 上の内積で任意の $u_1,v_1\in V_1$, $\ldots$, $u_N,v_N\in V_N$に対し、 $$ (u_1\otimes\ldots\otimes u_N\mid v_1\otimes\ldots\otimes v_N) =(u_1\mid v_1)\ldots(u_N\mid v_N) $$ を満たすものが唯一つ存在する。

Proof.

一意性は自明である。存在を示す。任意の $u_1\in V_1$, $\ldots$, $u_N\in V_N$ に対し、 $$ V_1\times\ldots\times V_N\ni (v_1,\ldots,v_N)\mapsto (u_1\mid v_1)\ldots(u_N\mid v_N)\in \mathbb{R} $$ は多重線形汎関数であるから、テンソル積の普遍性(速習「線形空間論」定理8.4)より線形汎関数 $$ (u_1\mid\cdot)\otimes\ldots\otimes(u_N\mid\cdot):\bigotimes_{j=1}^{N}V_j\ni v_1\otimes\ldots\otimes v_N \mapsto (u_1\mid v_1)\ldots(u_N\mid v_N)\in \mathbb{R} $$ が定義できる。そして、 $$ V_1\times\ldots\times V_N\ni (u_1,\ldots,u_N)\mapsto (u_1\mid\cdot)\otimes\ldots\otimes(u_N\mid\cdot)\in \mathbb{L}(\bigotimes_{j=1}^{N}V_j,\mathbb{R}R) $$ は多重線形写像である。よってテンソル積の普遍性より線形写像 $$ M\colon \bigotimes_{j=1}^{N}V_j\ni u_1\otimes\ldots\otimes u_N\mapsto(u_1\mid\cdot)\otimes\ldots\otimes(u_N\mid\cdot)\in \mathbb{L}(\bigotimes_{j=1}^{N}V_j,\mathbb{R}) $$ が定義できる。そこで双線形汎関数 $(\cdot\mid\cdot):\bigotimes_{j=1}^{N}V_j\times \bigotimes_{j=1}^{N}V_j\rightarrow\mathbb{R}$ を、 $$ (S\mid T)\colon=M(S)(V)\quad(\forall S,T\in \bigotimes_{j=1}^{N}V_j) $$ として定義すると、任意の $u_1,v_1\in V_1$, $\ldots$, $u_N,v_N\in V_N$ に対し、 $$ (u_1\otimes\ldots\otimes u_N\mid v_1\otimes\ldots\otimes v_N) =(u_1\mid v_1)\ldots(u_N\mid v_N) $$ である。各 $j\in \{1,\ldots,N\}$ に対し $e_{j,1},\ldots,e_{j,n(j)}\in V_j$ を正規直交基底とする。このとき、任意の $T\in \bigotimes_{j=1}^{N}V_j$ に対し $\alpha_{k_1,\ldots,k_N}\in \mathbb{R}$ が取れて、 $$ T=\sum_{k_1=1}^{n(1)}\ldots\sum_{k_N=1}^{n(N)}\alpha_{k_1,\ldots,k_N}e_{1,k_1}\otimes\ldots\otimes e_{N,k_N} $$ と表せる。 $$ (T\mid T)=\sum_{k_1=1}^{n(1)}\ldots\sum_{k_N=1}^{n(N)}\lvert\alpha_{k_1,\ldots,k_N}\rvert^2\geq0 $$ であり、$(T\mid T)=0$ ならば $T=0$である。 ゆえに $(\cdot\mid\cdot)$ は $\bigotimes_{j=1}^{N}V_j$ の内積である。これで存在が示せた。

定義10.2(有限次元実内積空間におけるHodgeの $\star$ 作用素)

$V$ を $N$ 次元実内積空間とする。任意の $r\in \{0,1,\ldots,N\}$ に対し内積$(\cdot\mid\cdot)_r\colon\bigotimes^rV\times\bigotimes^rV\rightarrow\mathbb{R}$ を、 $$ (u_1\otimes\ldots\otimes u_r\mid v_1\otimes\ldots\otimes v_r)_r =\frac{1}{r!}(u_1\mid v_1)\ldots(u_r\mid v_r) $$ として定義する(命題10.1を参照)。これを反対称テンソル積空間(速習「線形空間論」定義9.1を参照) $\bigwedge^rV\subset \bigotimes^rV$ に制限した内積 $$ (\cdot\mid\cdot)_r\colon\bigwedge^rV\times \bigwedge^rV\rightarrow\mathbb{R} $$ を考える($r=0$ の場合は $\bigwedge^rV=\mathbb{R}$ とし、内積は積とする)。このとき任意の $u_1,\ldots,u_r,v_1,\ldots,v_r\in V$ に対し、 $$ \begin{aligned} (u_1\wedge\ldots\wedge u_r\mid v_1\wedge\ldots\wedge v_r)_r &=\frac{1}{r!}\sum_{\sigma\in S_r}{\rm sgn}(\sigma)\sum_{\tau\in S_r}{\rm sgn}(\tau)(u_{\sigma(1)}\mid v_{\tau(1)})\ldots(u_{\sigma(r)}\mid v_{\tau(r)})\\ &=\frac{1}{r!}\sum_{\sigma\in S_r}\sum_{\tau\in S_r}{\rm sgn}(\sigma\tau^{-1})(u_{\sigma\tau^{-1}(1)}\mid v_{1})\ldots(u_{\sigma\tau^{-1}(r)}\mid v_{r})\\ &=\frac{1}{r!}\sum_{\sigma\in S_r}{\rm sgn}(\sigma){\rm det}( (u_{i}\mid v_j) )_{i,j}\\ &={\rm det}( (u_i\mid v_j) )_{i,j}\quad\quad(*) \end{aligned} $$ である。今、$V$ の正規直交基底 $e_1,\ldots,e_N$ を取り固定する。任意の $r\in \{0,1,\ldots,N\}$、任意の $T\in \bigwedge^rV$ に対し、 $$ \bigwedge^{N-r}V\ni S\mapsto (e_1\wedge\ldots\wedge e_N\mid T\wedge S)_N\in \mathbb{R} $$ は線形汎関数である。有限次元内積空間上の線形汎関数は有界(位相線形空間1:ノルムと内積系4.4)なので、Rieszの定理(位相線形空間1:ノルムと内積定理6.13)より$\star T\in \bigwedge^{N-r}V$ で、 $$ (\star T\mid S)_{N-r}=(e_1\wedge\ldots\wedge e_N\mid T\wedge S)_N\quad(\forall S\in \bigwedge^{N-r}V)\quad\quad(**) $$ なるものが定まる。こうして線形写像 $$ \star\colon\bigwedge^{r}V\ni T\mapsto \star T\in \bigwedge^{N-r}V\quad\quad(***) $$ が定まり、これは明らかに単射であり、 $$ \text{dim}\bigwedge^rV=\begin{pmatrix}N\\r\end{pmatrix}=\frac{N!}{r!(N-r)!}=\begin{pmatrix}N\\N-r\end{pmatrix}=\text{dim}\bigwedge^{N-r}V $$ であるから、$(***)$ は線形同型写像である。$(***)$ を$e_1\wedge \ldots\wedge e_N$ に関するHodgeの $\star$ 作用素と言う。 $e_1,\ldots,e_N$ は正規直交基底であるから $(**)$ より任意の $\sigma\in S_N$ に対し、 $$ \star(e_{\sigma(1)}\wedge \ldots\wedge e_{\sigma(r)}) ={\rm sgn}(\sigma)e_{\sigma(r+1)}\wedge\ldots\wedge e_{\sigma(N)}\quad\quad(****) $$ である。これより任意の $T\in \bigwedge^rV$ に対し、 $$ \star \star T=(-1)^{r(N-r)}T\quad\quad(*****) $$ であり、任意の $S,T\in \bigwedge^rV$ に対し、 $$ (\star S\mid \star T)_{N-r}=(e_1\wedge\ldots\wedge e_N\mid S\wedge \star T)_N =(-1)^{r(N-r)}(e_1\wedge\ldots\wedge e_N\mid\star T\wedge S)_N =(T\mid S)_r\quad\quad(******) $$ である。

定義10.3($\mathbb{R}^N$ におけるHodgeの $\star$ 作用素)

$\mathbb{R}^N$ の標準基底 $(e_1,\ldots,e_N)$ に対し $e_1\wedge \ldots\wedge e_N\in \bigwedge^N\mathbb{R}^N$ に関するHodgeの $\star$ 作用素を $\mathbb{R}^N$ におけるHodgeの $\star$ 作用素と呼ぶ。


定義10.4(${\mathbb{R}^N}^*$ におけるHodgeの $\star$ 作用素)

任意の$u\in \mathbb{R}^N$ に対し $j(u)\in {\mathbb{R}^N}^*$ を、 $$ j(u)v\colon=u\cdot v\quad(\forall v\in \mathbb{R}^N) $$ とおき、線形同型写像 $j\colon\mathbb{R}^N\rightarrow {\mathbb{R}^N}^*$ を定義する。そして、 $$ j(u)\cdot j(v)\colon=u\cdot v\quad(\forall u,v\in \mathbb{R}^N) $$ として ${\mathbb{R}^N}^*$ における内積 ${\mathbb{R}^N}^*\times {\mathbb{R}^N}^*\ni (j(u),j(v))\mapsto j(u)\cdot j(v)\in\mathbb{R}$ を定義する。 $\mathbb{R}^N$ の標準基底 $(e_1,\ldots,e_N)$ に対し $(j(e_1),\ldots,j(e_N))$ は ${\mathbb{R}^N}^*$ の正規直交基底である。$j(e_1)\wedge\ldots\wedge j(e_N)\in \bigwedge^N{\mathbb{R}^N}^*$ に関するHodgeの $\star$ 作用素を ${\mathbb{R}^N}^*$ におけるHodgeの $\star$ 作用素と呼ぶ。

11. ベクトル積

定義11.1(ベクトル積)

任意の $v_1,\ldots,v_{N-1}\in \mathbb{R}^N$ に対し、 $$ v_1\times\ldots\times v_{N-1}\colon=\star(v_1\wedge \ldots\wedge v_{N-1})\in \mathbb{R}^N $$ とおく。これを $v_1,\ldots,v_{N-1}$ のベクトル積と呼ぶ。

命題11.2(ベクトル積の基本性質)

任意の $v_1,\ldots,v_{N-1}\in \mathbb{R}^N$ に対し、

  • $(1)$ $v_1\times\ldots\times v_{N-1}\neq0$ であることと $v_1,\ldots,v_{N-1}$ が線形独立であることは同値。
  • $(2)$ 

$$ \lvert v_1\times\ldots\times v_{N-1}\rvert^2={\rm det}(v_i\cdot v_j)_{i,j} $$ が成り立つ。

  • $(3)$ 

$$ (v_1\times\ldots\times v_{N-1})\cdot v= {\rm det}(v_1,\ldots,v_{N-1},v)\quad(\forall v\in \mathbb{R}^N) $$ が成り立つ(右辺は行列の縦ベクトル表記)。 特に $v_1\times\ldots\times v_{N-1}$ は $v_1,\ldots,v_{N-1}$ それぞれと直交する。

Proof.

  • $(1)$ 速習「線形空間論」命題9.6より $v_1\wedge\ldots\wedge v_{N-1}\neq0$ であることと $v_1,\ldots,v_{N-1}$ が線形独立であることは同値である。このこととHodgeの $\star$ 作用素は線形同型写像であることによる。
  • $(2)$ 定義10.2の $(*)$ と $(******)$ より、

$$ \lvert v_1\times \ldots\times v_{N-1}\rvert^2 =(v_1\wedge\ldots\wedge v_{N-1}\mid v_1\wedge \ldots\wedge v_{N-1})_{N-1} ={\rm det}(v_i\cdot v_j) _{i,j} $$ である。

  • $(3)$ 定義10.2の $(****)$ と外積の反対称性より、

$$ \begin{aligned} (v_1\times\ldots\times v_{N-1})\cdot v&= (e_1\wedge \cdots\wedge e_N\mid v_1\wedge \cdots\wedge v_{N-1}\wedge v)_N\\ &={\rm det}(v_1,\ldots,v_{N-1},v). \end{aligned} $$

注意11.3(ベクトル積の直観的な意味)

線形独立な $v_1,\ldots,v_{N-1}\in \mathbb{R}^N$ が張る面 $$ A\colon=\left\{t_1v_1+\ldots+t_{N-1}v_{N-1}: t_1,\ldots,t_{N-1}\in [0,1]\right\} $$ を考える。 $$ v_N\colon= v_1\times \ldots\times v_{N-1}\in\mathbb{R}^N $$ とおく。命題11.2の $(1), (2)$ より $v_N\neq0$ であり $v_N$ は面 $A$ と直交している。そして命題11.2の $(3)$ より、 $$ \lvert v_N\rvert^2= (v_1\times\ldots\times v_{N-1})\cdot v_N ={\rm det}(v_1,\ldots,v_{N-1},v_N) $$ である。よって $v_1,\ldots,v_{N-1},v_N$ が張る $\mathbb{R}^N$ における平行体 $$ B\colon=\{t_1v_1+\ldots+t_Nv_N:t_1,\ldots,t_N\in [0,1]\} $$ を考えると $\lvert v_N\rvert^2$ は $B$ の体積(Lebesgue測度)$\lvert B\rvert$ に等しい(測度と積分8:Lebesgue測度の基本的性質命題37.3を参照)。$v_N$ は $A$ と直交しているので、 $$ \lvert v_1\times\ldots\times v_{N-1}\rvert=\lvert v_N\rvert=\frac{\lvert B\rvert}{\lvert v_N\rvert} $$ は $A$ の面積とみなし得る。

12. Euclid空間内の多様体の計量、多様体上の関数の勾配

定義12.1(超曲面)

$\mathbb{R}^N$ 内の $N-1$ 次元多様体を $\mathbb{R}^N$ の超曲面と言う。

定義12.2(Euclid空間内の多様体の計量行列)

$M$ をEuclid空間 $\mathbb{R}^N$ 内の $n$ 次元多様体とする。$M$ の任意の局所座標 $(U,\varphi;x_1,\ldots,x_n)$ に対し、 $$ g_{(U,\varphi)}(p)\colon=\left(\frac{\partial}{\partial x_i}p\cdot \frac{\partial}{\partial x_j}p\right)_{i,j}\in \mathbb{M}_{n\times n}(\mathbb{R})\quad(\forall p\in U) $$ とおく。$C^\infty$ 級の行列値関数 $g_{(U,\varphi)}\colon U\ni p\mapsto g_{(U,\varphi)}(p)\in \mathbb{M}_{n\times n}(\mathbb{R})$ を $M$ の局所座標 $(U,\varphi)$ に関する計量行列と呼ぶこととする。また計量行列の行列式を、 $$ G_{(U,\varphi)}(p)\colon={\rm det} g_{(U,\varphi)}(p)\quad(\forall p\in U) $$ と表す。任意の $p\in U$ に対し $\frac{\partial}{\partial x_1}p,\ldots,\frac{\partial}{\partial x_n}p\in \mathbb{R}^N$ は線形独立であるので $\frac{\partial}{\partial x_1}p\wedge \ldots\wedge \frac{\partial}{\partial x_n}p\in \bigwedge^nT_p(\mathbb{R}^N)$ は $0$ ではない(命題11.2の$(1)$ )。そして定義10.2における $\bigwedge^nT_p(\mathbb{R}^N)$ の内積 $(\cdot\mid\cdot)_n$ に対し、 $$ G_{(U,\varphi)}(p)={\rm det}\left(\frac{\partial}{\partial x_i}p\cdot \frac{\partial}{\partial x_j}p\right)_{i,j}= \left(\frac{\partial}{\partial x_1}p\wedge\ldots\wedge \frac{\partial}{\partial x_n}p\mid \frac{\partial}{\partial x_1}p\wedge \ldots\wedge \frac{\partial}{\partial x_n}p\right)_n>0 $$ である。$M$ が $\mathbb{R}^N$ 内の超曲面である場合、$\mathbb{R}^N$ におけるベクトル積によって、 $$ \begin{aligned} G_{(U,\varphi)}(p)&=\left(\frac{\partial}{\partial x_1}p\wedge \ldots\wedge \frac{\partial}{\partial x_{N-1}}p\mid \frac{\partial}{\partial x_1}p\wedge \ldots\wedge \frac{\partial}{\partial x_{N-1}}p\right)_{N-1}\\ &=\left(\frac{\partial}{\partial x_1}p\times\ldots\times\frac{\partial}{\partial x_{N-1}}p\right)\cdot \left(\frac{\partial}{\partial x_1}p\times\ldots\times\frac{\partial}{\partial x_{N-1}}p\right)\\ &=\left\lvert \frac{\partial}{\partial x_1}p\times\ldots\times\frac{\partial}{\partial x_{N-1}}p\right\rvert^2>0 \end{aligned} $$ と表せる。よって注意11.3より $\sqrt{G_{(U,\varphi)}(p)}$ は $N-1$ 本のベクトル $\frac{\partial}{\partial x_1}p,\ldots,\frac{\partial}{\partial x_{N-1}}p\in \mathbb{R}^N$ の張る面の面積を表している(このことは後の小節で述べる超曲面の面積測度の直観的な意味を与える)。

命題12.3(計量行列の基本性質)

$M$ をEuclid空間内の $n$ 次元多様体、$(U,\varphi;x_1,\ldots,x_n)$、$(V,\psi;y_1,\ldots,y_n)$ を $U\cap V\neq\emptyset$ なる $M$ の局所座標とする。このとき任意の $p\in U\cap V$ に対し、 $$ \begin{aligned} \sqrt{G_{(U,\varphi)}(p)}&=\sqrt{G_{(V,\psi)}(p)}\left\lvert {\rm det}\left(\frac{\partial y_i}{\partial x_j}(p)\right)_{i,j}\right\rvert\\ &=\sqrt{G_{(V,\psi)}(p)}\left\lvert {\rm det}(\psi\circ\varphi^{-1})'(\varphi(p))\right\rvert \end{aligned} $$ が成り立つ。

Proof.

$$ \frac{\partial}{\partial x_j}p=\sum_{i=1}^{n}\frac{\partial y_i}{\partial x_j}(p)\frac{\partial}{\partial y_i}p $$ であるから、定義10.2の $(*)$ と外積の反対称性より、 $$ \begin{aligned} G_{(U,\varphi)}(p)&= \left(\frac{\partial}{\partial x_1}p\wedge \ldots\wedge \frac{\partial}{\partial x_n}p\mid \frac{\partial}{\partial x_1}p\wedge \ldots\wedge \frac{\partial}{\partial x_n}p\right)_n\\ &=\left\lvert{\rm det}\left(\frac{\partial y_i}{\partial x_j}(p)\right)_{i,j}\right\rvert^2 \left(\frac{\partial}{\partial y_1}p\wedge \ldots\wedge \frac{\partial}{\partial y_n}p\mid \frac{\partial}{\partial y_1}p\wedge \ldots\wedge \frac{\partial}{\partial y_n}p\right)_n\\ &=\left\lvert{\rm det}\left(\frac{\partial y_i}{\partial x_j}(p)\right)_{i,j}\right\rvert^2G_{(V,\psi)}(p). \end{aligned} $$

定義12.4(多様体上の関数の勾配)

$M$ をEuclid空間内の多様体、$f\colon M\rightarrow \mathbb{R}$ を $p\in M$ において微分可能な関数とする。$df_p\in T_p^*(M)$ に対しRieszの定理(位相線形空間1:ノルムと内積定理6.13)より ${\rm grad}_p(f)\in T_p(M)$ で、 $$ df_pv={\rm grad}_p(f)\cdot v\quad(\forall v\in T_p(M)) $$ なるものが定まる。${\rm grad}_p(f)\in T_p(M)$ を $f$ の $p$ における勾配と言う。

命題12.5(勾配の計量による表示)

$M$ をEuclid空間内の $n$ 次元多様体、$f\colon M\rightarrow \mathbb{R}$ を $p\in M$ において微分可能な関数とする。$p$ の周りの $M$ の局所座標 $(U,\varphi;x_1,\ldots,x_n)$ に対する計量行列 $(g_{i,j}(p))_{i,j}\in \mathbb{M}_{n\times n}(\mathbb{R})$ の逆行列を $(g^{i,j}(p))_{i,j}\in \mathbb{M}_{n\times n}(\mathbb{R})$ とおく。このとき、 $$ {\rm grad}_p(f)=\sum_{i=1}^{n}\sum_{j=1}^{n}g^{i,j}(p)\frac{\partial f}{\partial x_j}(p)\frac{\partial}{\partial x_i}p\quad\quad(*) $$ と表せる。

Proof.

$\frac{\partial}{\partial x_1}p,\ldots,\frac{\partial}{\partial x_n}p$ は $T_p(M)$ の基底であるから ${\rm grad}_p(f)\in T_p(M)$ はある $a_1,\ldots,a_n\in \mathbb{R}$ に対し、 $$ {\rm grad}_p(f)=\sum_{i=1}^{n}a_i\frac{\partial}{\partial x_i}p $$ と表せる。 $$ \frac{\partial f}{\partial x_i}(p)={\rm grad}_p(f)\cdot\frac{\partial}{\partial x_i}p=\sum_{j=1}^{n}a_j\frac{\partial}{\partial x_j}p\cdot\frac{\partial}{\partial x_i}p =\sum_{i=1}^{n}g_{i,j}(p)a_j $$ であるから、 $$ a_i=\sum_{j=1}^{n}g^{i,j}(p)\frac{\partial f}{\partial x_j}(p)\quad(i=1,\ldots,n) $$ である。よって $(*)$ が成り立つ。

13. 発散、回転、ラプラシアン

定義13.1(Euclid空間のベクトル場)

Euclid空間 $\mathbb{R}^N$ の部分集合 $E$ 上で定義された $\mathbb{R}^N$ 値関数 $u\colon E\rightarrow \mathbb{R}^N$ を $E$ 上で定義された $\mathbb{R}^N$ のベクトル場と呼ぶことがある。

定義13.2(Euclid空間のベクトル場に対応する $1$ 階微分形式)

Euclid空間 $\mathbb{R}^N$ の標準基底を $(e_1,\ldots,e_N)$、標準座標を $(x_1,\ldots,x_N)$ とおくと、 $$ e_k=\frac{\partial}{\partial x_k}p\quad(\forall p\in \mathbb{R}^N, k=1,\ldots,N) $$ である。よって定義10.4における同型写像 $j\colon\mathbb{R}^N\rightarrow {\mathbb{R}^N}^*$ に対し、 $$ j(e_k)=j\left(\frac{\partial}{\partial x_k}p\right)=dx_{k,p}\quad(\forall p\in \mathbb{R}^N, k=1,\ldots,N) $$ である。今、$E\subset \mathbb{R}^N$ 上で定義された $\mathbb{R}^N$ のベクトル場 $u\colon E\ni p\mapsto (u_1(p),\ldots,u_N(p))\in \mathbb{R}^N$ を考える。このとき、 $$ u(p)=\sum_{k=1}^{N}u_k(p)e_k=\sum_{k=1}^{N}u_k(p)\frac{\partial}{\partial x_k}p\quad(\forall p\in E) $$ であるから、 $$ j(u(p))=\sum_{k=1}^{N}u_k(p)j\left(\frac{\partial}{\partial x_k}p\right) =\sum_{k=1}^{N}u_k(p)dx_{k,p}\quad(\forall p\in E) $$ である。そこで、 $$ j(u)\colon=(j(u(p)))_{p\in E} $$ として $E$ 上で定義された $\mathbb{R}^N$ の $1$ 階微分形式 $j(u)$ を定義する。


定義13.3(Euclid空間の $C^1$ 級ベクトル場の発散)

$U\subset \mathbb{R}^N$ を開集合、$u\colon U\rightarrow \mathbb{R}^N$ を $C^1$ 級ベクトル場とする。$u$ に対応する $U$ の $1$ 階微分形式 $j(u)=(j(u(p)))_{p\in U}$ に ${\mathbb{R}^N}^*$ におけるHodgeの $\star$ 作用素(定義10.4)を各点ごとに作用させて $U$ の $N-1$ 階 $C^1$ 級微分形式 $$ \star j(u)=(\star j(u(p)))_{p\in U} $$ を定義する。そしてこの外微分(定義9.5)を取ることで $U$ の $1$ 階連続微分形式 $$ d\star j(u)=(d\star j(u(p)))_{p\in U} $$ を定義し、さらにこれに ${\mathbb{R}^N}^*$ におけるHodgeの $\star$ 作用素を各点ごとに作用させて $U$ 上の連続関数 $$ {\rm div}(u)\colon=\star d\star j(u)=(\star d\star j(u(p)))_{p\in U} $$ を定義する。${\rm div}(u)\colon U\rightarrow \mathbb{R}$ を $u$ の発散と言う。

定義13.4(Euclid空間の $C^2$ 級関数のラプラシアン)

$U\subset \mathbb{R}^N$ を開集合、$u\colon U\rightarrow \mathbb{R}$ を $C^2$ 級関数とする。$U$ の $C^1$ 級 $1$ 階微分形式 $du$ に ${\mathbb{R}^N}^*$ におけるHodgeの $\star$ 作用素を各点ごとに作用させて $U$ の $N-1$ 階 $C^1$ 級微分形式 $$ \star du=(\star du_p)_{p\in U} $$ を定義する。そしてこの外微分を取ることで $U$ の $N$ 階連続微分形式 $$ d\star du=(d\star du_p)_{p\in U} $$ を定義し、さらにこれに ${\mathbb{R}^N}^*$ における Hodgeの $\star$ 作用素を各点ごとに作用させて $U$ 上の連続関数 $$ \Delta u\colon=\star d\star du=(\star d\star du_p)_{p\in U} $$ を定義する。$\Delta u\colon U\rightarrow \mathbb{R}$ を $u$ のラプラシアンと言う。

定義13.5($\mathbb{R}^3$ の $C^1$ 級ベクトル場の回転)

$U\subset \mathbb{R}^3$ を開集合、$u\colon U\rightarrow \mathbb{R}^3$ を $C^1$ 級ベクトル場とする。$u$ に対応する $U$ の $1$ 階微分形式 $j(u)=(j(u(p)))_{p\in U}$ の外微分 $$ dj(u)=(dj(u(p)))_{p\in U} $$ に、${\mathbb{R}^N}^*$ におけるHodgeの $\star$ 作用素を各点ごとに作用させて $U$ の連続 $1$ 階微分形式 $$ \star dj(u)=(\star dj(u(p)))_{p\in U} $$ を定める。このとき、 $$ j({\rm rot}(u))=\star dj(u) $$ として定まる連続なベクトル場 ${\rm rot}(u)\colon U\rightarrow\mathbb{R}^3$ を $u$ の回転と言う。

定義13.6($\mathbb{R}^N$ の正の向きの直交座標)

$\mathbb{R}^N$ の局所座標 $(U,y_1,\ldots,y_N)$ が直交座標であるとは $i\neq j$ なる任意の $i,j\in \{1,\ldots,N\}$ に対し、 $$ \frac{\partial}{\partial y_i}p\cdot \frac{\partial}{\partial y_j}p=0\quad(\forall p\in U) $$ が成り立つことを言う。さらに直交座標 $(U,y_1,\ldots,y_N)$ が、 $$ {\rm det}\left(\frac{\partial}{\partial y_1}p,\ldots,\frac{\partial}{\partial y_N}p\right)>0\quad(\forall p\in U) $$ を満たすとき$ (U,y_1,\ldots,y_N)$ を正の向きの直交座標と言う。

注意13.7($\mathbb{R}^N$ の正の向きの直交座標とHodgeの $\star$ 作用素)

$\mathbb{R}^N$ の正の向きの直交座標 $(U,y_1,\ldots,y_N)$ に対し、 $$ h_k(p)\colon=\left\lvert\frac{\partial}{\partial y_k}p\right\rvert\quad(\forall p\in U,k=1,\ldots,N) $$ として $C^{\infty}$ 級関数 $h_1,\ldots,h_N\colon U\rightarrow (0,\infty)$ を定義する。このとき任意の $p\in U$ に対し、 $$ \frac{1}{h_1(p)}\frac{\partial}{\partial y_1}p,\ldots,\frac{1}{h_N(p)}\frac{\partial}{\partial y_N}p\in\mathbb{R}^N $$ は $\mathbb{R}^N$ の正規直交基底であるので、 $$ {\rm det}\left(\frac{1}{h_1(p)}\frac{\partial}{\partial y_1}p,\ldots,\frac{1}{h_N(p)}\frac{\partial}{\partial y_N}p\right) =1 $$ である[8] よって定義10.4における同型写像 $j:\mathbb{R}^N\rightarrow {\mathbb{R}^N}^*$ に対し外積の反対称性より、 $$ j\left(\frac{1}{h_1(p)}\frac{\partial}{\partial y_1}p\right)\wedge \ldots\wedge j\left(\frac{1}{h_N(p)}\frac{\partial}{\partial y_N}p\right)=j(e_1)\wedge\ldots\wedge j(e_N) $$ である。ここで、 $$ j\left(\frac{1}{h_k(p)}\frac{\partial}{\partial y_k}p\right) =h_k(p)dy_{k,p}\quad(k=1,\ldots,N) $$ であるから、 $$ (h_1dy_{1}\wedge\ldots\wedge h_Ndy_N)_p=j(e_1)\wedge \ldots\wedge j(e_N) $$ である。これより任意の $r\in \{1,\ldots,N\}$ と任意の $\sigma\in S_N$ に対し $U$上 の $r$ 階微分形式 $$ h_{\sigma(1)}dy_{\sigma(1)}\wedge \ldots\wedge h_{\sigma(r)}dy_{\sigma(r)} $$ に ${\mathbb{R}^N}^*$ におけるHodgeの $\star$ 作用素を各点ごとに作用させたものは、 $$ \star (h_{\sigma(1)}dy_{\sigma(1)}\wedge \ldots\wedge h_{\sigma(r)}dy_{\sigma(r)}) ={\rm sgn}(\sigma)h_{\sigma(r+1)}dy_{\sigma(r+1)}\wedge\ldots\wedge h_{\sigma(N)}dy_{\sigma(N)} $$ である。

例13.8

$\mathbb{R}^N$ の(正の向きの)直交座標としては、標準座標、極座標、円柱座標などがある。極座標に関しては後に述べる。


定義13.9(Levi-Civitaの記号)

$k,l,m\in \{1,2,3\}$ に対し $\epsilon_{k,l,m}\in \{-1,0,1\}$ を次のように定義する。$k,l,m$ のうち互いに等しいものがある場合は $\epsilon_{k,l,m}=0$ とする。$k,l,m$ が互いに異なる場合は $\sigma(1)=k$, $\sigma(2)=l$, $\sigma(3)=m$ として定まる $\sigma\in S_3$ に対し $\epsilon_{k,l,m}={\rm sgn}(\sigma)$ とする。


命題13.10(発散、ラプラシアン、回転の正の向きの直交座標による表示)

$(U,y_1,\ldots,y_N)$ を $\mathbb{R}^N$ の正の向きの直交座標とし、 $$ h_k(p)\colon=\left\lvert\frac{\partial}{\partial y_k}p\right\rvert\quad(\forall p\in U,k=1,\ldots,N) $$ とおく。 このとき、

  • $(1)$ $U$ 上の任意の $C^1$ 級ベクトル場

$$ u\colon U\ni p\mapsto \sum_{k=1}^{N}u_k(p)\frac{\partial}{\partial y_k}p\in \mathbb{R}^N $$ に対し $u$ の発散 ${\rm div}(u)\colon U\rightarrow\mathbb{R}$ は、 $$ {\rm div}(u)=\frac{1}{h_1\ldots h_N}\sum_{k=1}^{N}\frac{\partial(h_1\ldots h_Nu_k)}{\partial y_k} $$ と表される。

  • $(2)$ $U$ 上の任意の $C^2$ 級関数 $u\colon U\rightarrow\mathbb{R}$ に対し $u$ のラプラシアン $\Delta u$ は、

$$ \Delta u=\frac{1}{h_1\ldots h_N}\sum_{k=1}^{N}\frac{\partial}{\partial y_k}\left(\frac{h_1\ldots h_N}{h_k^2}\frac{\partial u}{\partial y_k}\right) $$ と表される。

  • $(3)$ $N=3$ の場合、$U$ 上の任意の $C^1$ 級ベクトル場

$$ u\colon U\ni p\mapsto \sum_{k=1}^{3}u_k(p)\frac{\partial}{\partial y_k}p\in \mathbb{R}^3 $$ に対し $u$ の回転 ${\rm rot}(u)\colon U\rightarrow\mathbb{R}^3$ は、 $$ {\rm rot}(u)(p)=\frac{1}{h_1(p)h_2(p)h_3(p)}\sum_{k,l,m=1}^{3}\epsilon_{k,l,m}\frac{\partial h_m^2u_m}{\partial y_l}(p)\frac{\partial}{\partial y_k}p\quad(\forall p\in U) $$ と表される。

Proof.

  • $(1)$ 注意13.7より、

$$ j(u)=\sum_{k=1}^{N}h_ku_k(h_kdy_k), $$ $$ \star j(u)=\sum_{k=1}^{N}(-1)^{k-1}(h_1\ldots h_N)u_k(dy_1\wedge\ldots\wedge \widehat{dy_k}\wedge\ldots\wedge dy_N), $$ [9] $$ d\star j(u)=\sum_{k=1}^{N}\frac{\partial(h_1\ldots h_Nu_k)}{\partial y_k}(dy_1\wedge\ldots\wedge dy_N), $$ $$ {\rm div}(u)=\star d\star j(u)=\frac{1}{h_1\ldots h_N}\sum_{k=1}^{N}\frac{\partial(h_1\ldots h_Nu_k)}{\partial y_k}. $$

  • $(2)$ 注意13.7より、

$$ \star du=\sum_{k=1}^{N}(-1)^{k-1}\frac{h_1\ldots h_N}{h_k^2}\frac{\partial u}{\partial y_k}(dy_1\wedge\ldots\wedge \widehat{dy_k}\wedge\ldots\wedge dy_N) $$ $$ d\star du=\sum_{k=1}^{N}\frac{\partial}{\partial y_k}\left(\frac{h_1\ldots h_N}{h_k^2}\frac{\partial u}{\partial y_k}\right)(dy_1\wedge\ldots\wedge dy_N), $$ $$ \Delta u=\star d\star du=\frac{1}{h_1\ldots h_N}\sum_{k=1}^{N}\frac{\partial}{\partial y_k}\left(\frac{h_1\ldots h_N}{h_k^2}\frac{\partial u}{\partial y_k}\right). $$

  • $(3)$ 注意13.7より、

$$ j(u)=\sum_{k=1}^{3}h_ku_k(h_kdy_k)=\sum_{k=1}^{3}h_k^2u_kdy_k, $$ $$ dj(u)=\sum_{k,l,m=1}^{3}\frac{1}{h_lh_m}\epsilon_{k,l,m}\frac{\partial (h_m^2u_m)}{\partial y_l}(h_ldy_l\wedge h_mdy_m), $$ $$ \star dj(u)=\sum_{k,l,m=1}^{3}\frac{1}{h_lh_m}\epsilon_{k,l,m}\frac{\partial (h_m^2u_m)}{\partial y_l}h_kdy_k, $$ $$ {\rm rot}(u)(p)=j^{-1}(\star dj(u(p)))=\frac{1}{h_1(p)h_2(p)h_3(p)}\sum_{k,l,m=1}^{3}\epsilon_{k,l,m}\frac{\partial h_m^2u_m}{\partial y_l}(p)\frac{\partial}{\partial y_k}p. $$

14. Poincaréの補題

定義14.1(星形集合)

$\mathbb{R}^N$ の部分集合 $S$ が $a\in S$ を中心とする星形集合であるとは、任意の $x\in S$ に対し $a$ と $x$ を結ぶ線分 $\{a+t(x-a):t\in [0,1]\}$ が $S$ に含まれることを言う。

凸集合は星形集合である。

定理14.2(Poincaréの補題)

$U$ を $\mathbb{R}^N$ の星形開集合、$\omega$ を $U$ の $r$ 階($r\geq1$) $C^1$ 級微分形式とし $d\omega=0$ が成り立つと仮定する。このとき $U$ の $r-1$ 階 $C^1$ 級微分形式 $\theta$ で $d\theta=\omega$ を満たすものが存在する。

Proof.

$r\geq N+1$ ならば自明であるので $r\in\{1,\ldots,N\}$ であるとする。

  • $(1)$ $U$ が $0\in\mathbb{R}^N$ を中心とする星形開集合である場合を示す。

$$ f(t)=0\quad(\forall t\in (-\infty,0)),\quad 0\leq f(t)\leq1\quad(\forall t\in [0,1]),\quad f(t)=1\quad(\forall t\in (1,\infty)) $$ を満たす $f\in C^{\infty}(\mathbb{R})$ を取る[10]。そして $C^\infty$ 級写像 $$ \Phi\colon\mathbb{R}\times U\ni (t,x)\mapsto f(t)x\in U $$ を定義する。$\mathbb{R}^N$ の標準座標 $(x_1,\ldots,x_N)$ に対し、 $$ \omega_x=\sum_{i_1<\ldots<i_r}\alpha_{i_1,\ldots,i_r}(x)dx_{i_1}\wedge\ldots\wedge dx_{i_r}\quad(\forall x\in U)\quad\quad(**) $$ とおき、$\omega$ の $\Phi$ による引き戻しによって得られる $\mathbb{R}\times U$ の $r$ 階 $C^1$ 級微分形式 $\Phi^*\omega$ を、 $$ \begin{aligned} &(\Phi^*\omega)_{(t,x)}=\sum_{i_1<\ldots<i_r}\beta_{i_1,\ldots,i_r}(t,x)dx_{i_1}\wedge\ldots\wedge dx_{i_r}\\ &+\sum_{j_1<\ldots<j_{r-1}}\gamma_{j_1,\ldots,j_{r-1}}(t,x)dt\wedge dx_{j_1}\wedge\ldots\wedge dx_{j_{r-1}}\quad(\forall (t,x)\in\mathbb{R}\times U)\quad\quad(***) \end{aligned} $$ とおく。このとき、 $$ \beta_{i_1,\ldots,i_r}(t,x)=f(t)^r\alpha_{i_1,\ldots,i_r}(\Phi(t,x))\quad(\forall (t,x)\in \mathbb{R}\times U) $$ であるから $f(1)=1$, $\Phi(1,x)=x$, $\Phi(0,x)=0$ $(\forall x\in U)$ であることと微積分学の基本定理より、 $$ \alpha_{i_1,\ldots,i_r}(x)=\beta_{i_1,\ldots,i_r}(1,x)-\beta_{i_1,\ldots,i_r}(0,x) =\int_{0}^{1}\frac{\partial\beta_{i_1,\ldots,i_r}}{\partial t}(t,x)dt\quad(\forall x\in U)\quad\quad(****) $$ である。ここで $d\omega=0$ であることと、引き戻しと外微分の可換性(命題9.12)より、 $$ d\Phi^*\omega=\Phi^*d\omega=0 $$ であり、$(***)$ と外微分の定義(定義9.5)より、 $$ \begin{aligned} &(d\Phi^*\omega)_{(t,x)}=\sum_{j_1<\ldots<j_{r+1}}\sum_{k=1}^{r+1}(-1)^{k-1}\frac{\partial \beta_{j_1,\ldots,\widehat{j_k},\ldots,j_{r+1}}}{\partial x_k}(t,x)dx_{j_1}\wedge\ldots\wedge dx_{j_{t+1}}\\ &+\sum_{i_1<\ldots<i_r}\left(\frac{\partial\beta_{i_1,\ldots,i_r}}{\partial t}(t,x)+\sum_{k=1}^{r}(-1)^{k}\frac{\partial \gamma_{i_1,\ldots,\widehat{i_k},\ldots,i_r}}{\partial x_k}\right)dt\wedge dx_{i_1}\wedge\ldots\wedge dx_{i_r} \end{aligned} $$ であるから、任意の $1\leq i_1<\ldots<i_r\leq N$ に対し、 $$ \frac{\partial\beta_{i_1,\ldots,i_r}}{\partial t}(t,x)=\sum_{k=1}^{r}(-1)^{k-1}\frac{\partial \gamma_{i_1,\ldots,\widehat{i_k},\ldots,i_r}}{\partial x_k}(t,x)\quad(\forall (t,x)\in \mathbb{R}\times U)\quad\quad(*****) $$ である。よって $(****)$、$(*****)$ より、 $$ \alpha_{i_1,\ldots,i_r}(x)=\sum_{k=1}^{r}(-1)^{k-1}\int_{0}^{1}\frac{\partial \gamma_{i_1,\ldots,\widehat{i_k},\ldots,i_r}}{\partial x_k}(t,x)dt\quad(\forall (t,x)\in \mathbb{R}\times U)\quad\quad(******) $$ が成り立つ。そこで任意の $1\leq j_1<\ldots<j_{r-1}\leq N$ に対し、 $$ \delta_{j_1,\ldots,j_{r-1}}(x):=\int_{0}^{1}\gamma_{j_1,\ldots,j_{r-1}}(t,x)dt\quad(\forall x\in U) $$ とおき、$U$ の $r-1$ 階微分形式 $\theta$ を、 $$ \theta_x\colon=\sum_{j_1<\ldots<j_{r-1}}\delta_{j_1,\ldots,j_{r-1}}(x)dx_{j_1}\wedge\ldots\wedge dx_{j_{r-1}}\quad(\forall x\in U) $$ と定義する。任意の $1\leq j_1<\ldots<j_{r-1}\leq N$ と任意の $k\in\{1,\ldots,N\}$ に対しLebesgue優収束定理(測度と積分3:測度論の基本定理(1)定理11.2)より、 $$ \frac{\partial\delta_{j_1,\ldots,j_{r-1}}}{\partial x_k}(x)=\int_{0}^{1}\frac{\partial \gamma_{j_1,\ldots,j_{r-1}}}{\partial x_k}(t,x)dt\quad(\forall x\in U) $$ であるから $\theta$ は $U$ の $r-1$ 階 $C^1$ 級微分形式である。そして外微分の定義と $(******)$ より、 $$ \begin{aligned} d\theta_x&=\sum_{i_1<\ldots<i_r}\left(\sum_{k=1}^{r}(-1)^{k-1}\frac{\partial\delta_{i_1,\ldots,\widehat{i_k},\ldots,i_r}}{\partial x_k}(x)\right)dx_{i_1}\wedge \ldots\wedge dx_{i_r}\\ &=\sum_{i_1<\ldots<i_r}\left(\sum_{k=1}^{r}(-1)^{k-1}\int_{0}^{1}\frac{\partial \gamma_{i_1,\ldots,\widehat{i_k},\ldots,i_r}}{\partial x_k}(t,x)dt\right)dx_{i_1}\wedge \ldots\wedge dx_{i_r}\\ &=\sum_{i_1<\ldots<i_r}\alpha_{i_1,\ldots,i_r}(x)dx_{i_1}\wedge \ldots\wedge dx_{i_r}=\omega_x\quad(\forall x\in U) \end{aligned} $$ である。よって成り立つ。

  • $(2)$ $U$ が $a$ を中心とする星形開集合である場合を示す。このとき $U-a$ は $0$ を中心とする星形開集合である。そこで、

$$ \Psi\colon U-a\ni x\mapsto x+a\in U $$ なる $C^\infty$ 級同相写像を考え、$\Psi$ による $\omega$ の引き戻しによって得られる $U-a$ の $r$ 階 $C^1$ 級微分形式 $\Psi^*\omega$ を考える。引き戻しと外微分の可換性より $d\Psi^*\omega=\Psi^*d\omega=0$ であるから $(1)$ の結果より $U-a$ の $r-1$ 階 $C^1$ 級微分形式 $\theta$ で $\Psi^*\omega=d\theta$ を満たすものが存在する。$\Psi^{-1}:U\rightarrow U-a$ による $\theta$ の引き戻し ${\Psi^{-1}}^*\theta$ は $U$ 上の $r-1$ 階 $C^1$ 級微分形式であり、 $$ d{\Psi^{-1}}^*\theta={\Psi^{-1}}^*d\theta={\Psi^{-1}}^*\Psi^*\omega=(\Psi\circ\Psi^{-1})^*\omega =\omega $$ である。よって成り立つ。

14.3(Poincaréの補題の系)

$U\subset \mathbb{R}^3$ を星形開集合、$u:U\rightarrow\mathbb{R}^3$ を $C^1$ 級ベクトル場とする。

  • $(1)$ ${\rm div}(u)=0$ が成り立つならば $C^1$ 級ベクトル場 $v\colon U\rightarrow\mathbb{R}^3$ で $u={\rm rot}(v)$ なるものが存在する。
  • $(2)$ ${\rm rot}(u)=0$ が成り立つならば $C^1$ 級関数 $f\colon U\rightarrow\mathbb{R}$ で $u={\rm grad}(f)$ なるものが存在する。
Proof.

  • $(1)$ 発散の定義(定義13.3)より ${\rm div}(u)=\star d\star j(u)$ であるから ${\rm div}(u)=0$ ならば $d\star j(u)=0$ である。よって $U$ の $2$ 階 $C^1$ 級微分形式 $\star j(u)$ に対しPoincaréの補題を適用すればある $C^1$ 級ベクトル場 $v\colon U\rightarrow\mathbb{R}^3$ に対し、

$$ \star j(u)=dj(v) $$ となる。よって回転の定義(定義13.5)より、 $$ j(u)=\star dj(v)=j({\rm rot}(v)) $$ であるから $u={\rm rot}(v)$ である。

  • $(2)$ 回転の定義(定義13.5)より $j({\rm rot}(u))=\star dj(u)$ であるから ${\rm rot}(u)=0$ ならば $dj(u)=0$ である。よって $U$ の $1$ 階 $C^1$ 級微分形式 $j(u)$ にPoincaréの補題を適用すればある $C^1$ 級関数 $f:U\rightarrow \mathbb{R}$ に対し、

$$ j(u)=df $$ となる。よって勾配の定義(定義12.4)より $u={\rm grad}(f)$ である。

15. 多様体におけるUrysohnの補題と $1$ の分割

注意15.1(Euclid空間内の多様体は第二可算局所コンパクトHausdorff空間)

Euclid空間内の多様体の各点はEuclid空間の開集合と同相な開近傍を持つので局所コンパクトである。またEuclid空間は第二可算であるからEuclid空間内の多様体は第二可算である。

定義15.2($C^k(M), C^k_c(M)$)

$M$ をEuclid空間内の多様体とし、$M\rightarrow\mathbb{C}$の $C^k$ 級関数全体を $C^k(M)$ とする。そして、 $$ \begin{aligned} &C^k_c(M)\colon=\{f\in C^k(M):\text{supp}(f)\text{ はコンパクト}\},\\ &C^k_{c,\mathbb{R}}(M)\colon=\{f\in C^k_c(M):\forall p\in M,\text{ }f(p)\in \mathbb{R}\},\\ &C^k_{c,+}(M)\colon=\{f\in C^k_c(M):\forall p\in M,\text{ }f(p)\in [0,\infty)\} \end{aligned} $$ とおく。

補題15.3

次が成り立つ。

  • $(1)$

$$ h(t)\colon=\left\{\begin{array}{cl}e^{-\frac{1}{t}}&(t>0)\\0&(t\leq0)\end{array}\right. $$ として定義される $h\colon\mathbb{R}\rightarrow[0,\infty)$ は $C^\infty$ 級である。

  • $(2)$ 任意の $x_0\in \mathbb{R}^N$ と任意の $\epsilon\in (0,\infty)$ に対し $f\in C_{c,+}^{\infty}(\mathbb{R}^N)$ で、

$$ (f>0)=\{x\in\mathbb{R}^N:\lvert x-x_0\rvert<\epsilon\},\quad f(x)=f(y)\quad(\forall x,y\in\mathbb{R}^N\colon\lvert x-x_0\rvert=\lvert y-x_0\rvert) $$ なるものが存在する。

Proof.

  • $(1)$

$$ \lim_{t\rightarrow+0}\frac{1}{t^k}e^{-\frac{1}{t}}=0\quad(\forall k\in\mathbb{N}) $$ であることによる。

  • $(2)$ $(1)$ における $h$ に対し $f(x)\colon=h(\epsilon^2-\lvert x-x_0\rvert^2)$ $(\forall x\in\mathbb{R}^N)$ とおけばよい。

補題15.4

$M$ をEuclid空間内の多様体とする。次が成り立つ。

  • $(1)$ 任意の $p_0\in M$ と $p_0$ の開近傍 $V\subset M$ に対し $f\in C_{c,+}^\infty(M)$ で、

$$ f(p_0)>0,\quad \text{supp}(f)\subset U $$ を満たすものが存在する。

  • $(2)$ $K\subset V\subset M$ なる $M$ のコンパクト集合 $K$ と開集合 $V$ に対し $f\in C_{c,+}^\infty(M)$で、

$$ f(p)>0\quad(\forall p\in K),\quad \text{supp}(f)\subset V $$ を満たすものが存在する。

Proof.

  • $(1)$ $p_0$ の周りの $M$ の局所座標 $(U,\varphi)$ で $U\subset V$ なるものを取る。補題15.3の $(2)$ より $h\in C_{c,+}^{\infty}(\varphi(U))$ で $h(\varphi(p_0))>0$ なるものが取れる。$\varphi^{-1}(\text{supp}(h))$ は $U$ に含まれるコンパクト集合であることに注意して、

$$ f(p)\colon=\left\{\begin{array}{cl}h(\varphi(p))&(p\in U)\\0&(p\in M\backslash U)\end{array}\right. $$ として $f:M\rightarrow [0,\infty)$ を定義する。 $$ M=U\cup M\backslash \varphi^{-1}(\text{supp}(h)) $$ であり、$f$ は開集合 $U$ 上で $C^\infty$ 級であり、開集合 $M\backslash \varphi^{-1}(\text{supp}(h))$ 上で $0$ であるから、$f$ は $M$ 上で $C^\infty$ 級である。$\text{supp}(f)\subset \varphi^{-1}(\text{supp}(h))$ であり、右辺はコンパクトであるから $f\in C^\infty_{c,+}(M)$ である。$f(p_0)=h(\phi(p_0))>0$、$\text{supp}(f)\subset U\subset V$ であるから $f$ は条件を満たす。

  • $(2)$ 任意の $p\in K$ に対し $(1)$ より $f_p\in C_{c,+}^{\infty}(M)$ で $f_p(p)>0$, $\text{supp}(f_p)\subset V$ なるものが取れる。$K$ はコンパクトなので有限個の $p_1,\ldots,p_n\in K$ が取れて、

$$ K\subset \bigcup_{j=1}^{n}(f_{p_j}>0) $$ となる。$f\colon=\sum_{j=1}^{n}f_{p_j}\in C_{c,+}^{\infty}(M)$ とおけば、 $$ K\subset \bigcup_{j=1}^{n}(f_{p_j}>0)=(f>0)\subset \text{supp}(f)\subset \bigcup_{j=1}^{n}\text{supp}(f_{p_j})\subset V $$ である。

定理15.5(多様体におけるUrysohnの補題)

$M$ をEuclid空間内の多様体とする。$K\subset V\subset M$ なる $M$ のコンパクト集合 $K$ と開集合 $V$ に対し台がコンパクトな $C^\infty$級関数 $f\colon M\rightarrow[0,1]$ で、 $$ f(p)=1\quad(\forall p\in K),\quad \text{supp}(f)\subset V $$ なるものが存在する。

Proof.

補題15.4の $(2)$ より $f_1\in C_{c,+}^{\infty}(M)$ で、 $$ K\subset (f_1>0)\subset \text{supp}(f_1)\subset V $$ なるものが取れる。$\text{supp}(f_1)\backslash (f_1>0)\subset V\backslash K$ であり左辺はコンパクト、右辺は開集合なので再び補題15.4の $(2)$ より $f_2\in C_{c,+}^{\infty}(M)$ で、 $$ \text{supp}(f_1)\backslash (f_1>0)\subset (f_2>0)\subset \text{supp}(f_2)\subset V\backslash K $$ なるものが取れる。今、$f\colon M\rightarrow [0,1]$ を、 $$ f(p)\colon=\left\{\begin{array}{cl}\frac{f_1(p)}{f_1(p)+f_2(p)}&(p\in (f_1+f_2)>0) )\\ 0&(p\in (f_1+f_2=0) )\end{array}\right. $$ として定義する。$\text{supp}(f_1)\backslash (f_1>0)\subset (f_2>0)$ より $\text{supp}(f_1)\subset (f_1+f_2>0)$ であり、$M\backslash\text{supp}(f_1)$ 上で $f=0$ であるから $\text{supp}(f)\subset \text{supp}(f_1)\subset V$、$f\in C_{c,+}^{\infty}(M)$である。また $K\subset (f_1>0)\cap (f_2=0)$ であるから $K$ 上で $f=1$である。よって $f$ は条件を満たす。

系15.6(多様体における $1$ の有限分割)

$M$ をEuclid空間内の多様体、$K\subset M$ をコンパクト集合、 $V_1,\ldots,V_n\subset M$ を開集合とし $K\subset \bigcup_{j=1}^{n}V_j$ とする。 このとき台がコンパクトな $C^\infty$ 級関数 $f_1,\ldots,f_n\colon M\rightarrow [0,1]$ で、 $$ \text{supp}(f_j)\subset V_j\quad(j=1,\ldots,n),\quad \sum_{j=1}^{n}f_j(x)=1\quad(\forall x\in K) $$ を満たすものが存在する。

Proof.

定理15.5を用いて、測度と積分7:局所コンパクトHausdorff空間上のRadon測度定理27.7の証明と全く同様にして証明できる。

補題15.7

$X$ を第二可算局所コンパクトHausdorff空間とする。このとき閉包がコンパクトな $X$ の開集合の単調増加列 $(\Omega_n)_{n\in\mathbb{N}}$ で、 $$ X=\bigcup_{n\in\mathbb{N}}\Omega_n,\quad \overline{\Omega_n}\subset \Omega_{n+1}\quad(\forall n\in\mathbb{N}) $$ なるものが取れる。

Proof.

測度と積分7:局所コンパクトHausdorff空間上のRadon測度命題27.4より $X$ の開集合の可算基で閉包がコンパクトな開集合からなるもの $\{U_n\}_{n\in\mathbb{N}}$ が取れる。$X=\bigcup_{n\in \mathbb{N}}U_n$ である。$\Omega_1\colon=U_1$とおく。 $$ \overline{\Omega_1}\subset U_1\cup\ldots\cup U_{k(2)} $$ なる $k(2)>1$ を取り $\Omega_2:=U_1\cup\ldots\cup U_{k(2)}$ とおく。 $$ \overline{\Omega_2}\subset U_1\cup\ldots\cup U_{k(3)} $$ なる $k(3)>k(2)$ を取り $\Omega_3:=U_1\cup\ldots\cup U_{k(3)}$ とおく。同様のことを繰り返せば条件を満たす開集合の列 $(\Omega_n)_{n\in\mathbb{N}}$ が構成できる。

定理15.8(多様体における $1$ の可算分割)

$M$ をEuclid空間内の多様体とする。$M$ の任意の開被覆 $\mathcal{O}$ に対し $C_{c,+}^{\infty}(M)$ の列 $(f_i)_{i\in \mathbb{N}}$ で次の条件を満たすものが取れる。

  • $(1)$ 任意の $i\in \mathbb{N}$ に対し $\text{supp}(f_i)\subset V_i$ なる $V_i\in \mathcal{O}$ が存在する。
  • $(2)$ 任意の $i\in \mathbb{N}$ に対し $(f_i>0)\cap (f_j>0)\neq\emptyset$ なる $j\in \mathbb{N}$ は有限個である。
  • $(3)$ 任意の $p\in M$ に対し $\sum_{i\in \mathbb{N}}f_i(p)=1$.
Proof.

補題15.7より閉包がコンパクトな開集合の単調増加列 $(\Omega_n)_{n\in\mathbb{N}}$ で、 $$ M=\bigcup_{n\in\mathbb{N}}\Omega_n,\quad \overline{\Omega_n}\subset \Omega_{n+1}\quad(\forall n\in\mathbb{N}) $$ なるものが取れる。$\Omega_0=\Omega_{-1}=\emptyset$ とおく。 $$ \overline{\Omega_n}\backslash \Omega_{n-1}\subset \Omega_{n+1}\backslash\overline{\Omega_{n-2}}\quad(\forall n\in\mathbb{N})\quad\quad(*) $$ であり、 $$ M=\bigcup_{n\in\mathbb{N}}\overline{\Omega_n}\backslash \Omega_{n-1},\quad\quad(**) $$ $$ (\Omega_{n+1}\backslash\overline{\Omega_{n-2}})\cap (\Omega_{m+1}\backslash\overline{\Omega_{m-2}})=\emptyset\quad(\forall n,m\in\mathbb{N}:\lvert n-m\rvert\geq 3)\quad\quad(***) $$ である。任意の $n\in\mathbb{N}$ を取る。任意の $p\in \overline{\Omega_n}\backslash \Omega_{n-1}$ に対し $p\in V_p$ なる $V_p\in \mathcal{O}$ を取り $(*)$ とUrysohnの補題(定理15.5)により $C^\infty$ 級関数 $h_p\colon M\rightarrow[0,1]$ で、 $$ h_p(p)>0,\quad \text{supp}(h_p)\subset V_p\cap\Omega_{n+1}\backslash\overline{\Omega_{n-2}} $$ なるものを取る。$\overline{\Omega_n}\backslash \Omega_{n-1}$ はコンパクトなので有限個の $p_1,\ldots,p_k\in \overline{\Omega_n}\backslash \Omega_{n-1}$ が取れて、 $$ \overline{\Omega_n}\backslash \Omega_{n-1}\subset \bigcup_{j=1}^{k}(h_{p_j}>0)\subset \bigcup_{j=1}^{k}\text{supp}(h_{p_j})\subset\Omega_{n+1}\backslash \overline{\Omega_{n-2}} $$ となる。$h_{p_1},\ldots,h_{p_k}$ を改めて $h_{n,1},\ldots,h_{n,m(n)}\in C_{c,+}^{\infty}(M)$ と書き直す。そして $C_{c,+}^{\infty}(M)$ の列 $$ h_{1,1},\ldots,h_{1,m(1)},h_{2,1},\ldots,h_{2,m(2)},h_{3,1},\ldots,h_{3,m(3)},\ldots $$ を改めて $h_1,h_2,h_3,\ldots$ とする。このとき $(****)$ より任意の $i\in\mathbb{N}$ に対し $\text{supp}(h_i)\subset V_i$ なる $V_i\in \mathcal{O}$ が取れる。そして $(***)$ より任意の $i\in\mathbb{N}$ に対し $(h_i>0)\cap (h_j>0)\neq\emptyset$ なる $j\in\mathbb{N}$ は有限個である。また $(**)$ より $M=\bigcup_{i\in\mathbb{N}}(h_i>0)$ である。これより、 $$ h(p)\colon=\sum_{i\in \mathbb{N}}h_i(p)\quad(\forall p\in M) $$ として正数値 $C^\infty$ 級関数 $h:M\rightarrow(0,\infty)$ が定義できる。そこで任意の $i\in\mathbb{N}$ に対し $C^\infty$ 級関数 $f_i:M\rightarrow [0,1]$ を、 $$ f_i(p):=\frac{h_i(p)}{h(p)}\quad(\forall p\in M) $$ として定義すれば $(f_i)_{i\in\mathbb{N}}$ は条件 $(1),(2),(3)$ を満たす。

命題15.9

$M$ をEuclid空間内の多様体とする。$F\subset V\subset M$ とし $F$ を閉集合、 $V$ を開集合とする。このとき $C^\infty$ 級関数 $f\colon M\rightarrow [0,1]$ で、 $$ f(p)=1\quad(\forall p\in F),\quad f(p)=0\quad(\forall p\in M\backslash V) $$ なるものが取れる。

Proof.

$C_{c,+}^{\infty}(M)$ の列 $(f_i)_{i\in \mathbb{N}}$ で定理14.8の $(2),(3)$ の条件を満たすものを取る。各 $i\in\mathbb{N}$ に対し $F\cap \text{supp}(f_i)$ はコンパクトであるからUrysohnの補題(定理15.5)より $C^\infty$ 級関数 $\omega_i\colon M\rightarrow [0,1]$ で、 $$ \omega_i(p)=1\quad(\forall p\in F\cap \text{supp}(f_i)),\quad \text{supp}(\omega_i)\subset V $$ なるものが取れる。そこで、 $$ f(p)\colon=\sum_{i\in\mathbb{N}}f_i(p)\omega_i(p)\quad(\forall p\in M) $$ として $C^\infty$ 級関数 $f\colon M\rightarrow [0,1]$ を定義する。任意の $p\in F$ を取る。$f_i(p)>0$ なる任意の $i\in\mathbb{N}$ に対し $\omega_i(p)=1$ であるから $f(p)=1$ である。また任意の $p\in M\backslash V$、任意の $i\in\mathbb{N}$ に対し $\omega_i(p)=0$ であるから $f(p)=0$ である。

16. Euclid空間内の多様体のRiemann測度

定義16.1

$M$ をEuclid空間内の $n$ 次元多様体とする。$M$ の任意の局所座標 $(U,\varphi)$ に対し $U$ 上のBorel測度 $\mu_{(U,\varphi)}:\mathcal{B}_U\rightarrow [0,\infty]$ を、 $$ \mu_{(U,\varphi)}(B)\colon=\int_{\varphi(U)}\left(\chi_{B}\sqrt{G_{(U,\varphi)}}\right)(\varphi^{-1}(x))dx\quad(\forall B\in \mathcal{B}_U) $$ として定義する。ただし $G_{(U,\varphi)}(p)$ $(\forall p\in U)$ は $(U,\varphi)$ に対する計量行列の行列式(定義12.2)であり、右辺の積分は $\mathbb{R}^n$ のLebesgue測度に関する積分である。

注意16.2

任意の非負値Borel関数 $f\colon U\rightarrow [0,\infty]$ に対し、非負値Borel単関数による各点単調増加列による近似(測度と積分1:測度論の基礎用語定理5.5)と単調収束定理(測度と積分2:測度空間上の積分定理8.4)より、 $$ \int_{U}f(p)d\mu_{(U,\varphi)}(p)=\int_{\varphi(U)}\left(f\sqrt{G_{(U,\varphi)}}\right)(\varphi^{-1}(x))dx $$ である。

補題16.3

$M$をEuclid空間内の多様体、$(U,\varphi)$, $(V,\psi)$ を $M$ の局所座標で $U\cap V\neq\emptyset$ なるものとする。このとき任意の $B\in \mathcal{B}_{U\cap V}=\mathcal{B}_U\cap \mathcal{B}_V$ に対し、 $$ \mu_{(U,\varphi)}(B)=\mu_{(V,\psi)}(B) $$ が成り立つ。

Proof.

命題1.5より、 $$ \psi\circ\varphi^{-1}:\varphi(U\cap V)\ni \varphi(p)\mapsto \psi(p)\in \psi(U\cap V) $$ は $C^\infty$ 級同相写像である。そして命題12.3より、 $$ \sqrt{G_{(V,\psi)}}(\psi^{-1}(x))=\sqrt{G_{(U,\varphi)}(\psi^{-1}(x))}\left\lvert {\rm det}(\varphi\circ\psi^{-1})'(x)\right\rvert $$ である。よって変数変換公式(測度と積分8:Lebesgue測度の基本的性質補題40.3)より、 $$ \begin{aligned} \mu_{(U,\varphi)}(B)&=\int_{\varphi(U\cap V)}\left(\chi_{B}\sqrt{G_{(U,\varphi)}}\right)(\varphi^{-1}(x))dx\\ &=\int_{\psi(U\cap V)}\left(\chi_{B}\sqrt{G_{(U,\varphi)}}\right)(\psi^{-1}(x))\left\lvert{\rm det}(\varphi\circ\psi^{-1})'(x)\right\rvert dx\\ &=\int_{\psi(U\cap V)}\left(\chi_{B}\sqrt{G_{(V,\psi)}}\right)(\psi^{-1}(x))dx\\ &=\mu_{(V,\psi)}(B). \end{aligned} $$

注意16.4

Euclid空間内の多様体 $M$ は第二可算性より可算なアトラス $\{(U_i,\varphi_i)\}_{i\in\mathbb{N}}$ を持つ。そして任意の $B\in \mathcal{B}_M$ に対し $\mathcal{B}_M$ の非交叉列 $(B_i)_{i\in\mathbb{N}}$ で、 $$ B=\bigcup_{i\in\mathbb{N}}B_i,\quad B_i\subset U_i\quad(\forall i\in \mathbb{N}) $$ なるものが取れる。実際、$B_1\colon=B\cap U_1$, $B_i\colon=(B\cap U_i)\backslash(U_1\cup\ldots\cup U_{i-1})$ $(\forall i\geq2)$ とおけばよい。

定理16.5(Euclid空間内の多様体上のRiemann測度の一意存在)

$M$ をEuclid空間内の多様体とする。このときBorel測度 $\mu_M\colon\mathcal{B}_M\rightarrow [0,\infty]$ で $M$ の任意の局所座標 $(U,\varphi)$ に対し、 $$ \mu_M(B)=\mu_{(U,\varphi)}(B)\quad(\forall B\in \mathcal{B}_U) $$ を満たすものが唯一つ存在する。

Proof.

一意性は注意16.4による。存在を示す。 $1$の分割(定理15.8)より $C_{c,+}^{\infty}(M)$ の列 $(f_i)_{i\in \mathbb{N}}$ と $M$ の局所座標の列 $( (U_i,\varphi_i) )_{i\in\mathbb{N}}$ で、 $$ \text{supp}(f_i)\subset U_i\quad(\forall i\in \mathbb{N}),\quad \sum_{i\in\mathbb{N}}f_i(p)=1\quad(\forall p\in M) $$ を満たすものが取れる。これに対し $\mu_M\colon\mathcal{B}_M\rightarrow [0,\infty]$ を、 $$ \mu_M(B)\colon=\sum_{i\in\mathbb{N}}\int_{U_i}f_i(p)\chi_{B}(p)d\mu_{(U_i,\varphi_i)}(p)\quad(\forall B\in \mathcal{B}_M) $$ として定義する。単調収束定理(測度と積分2:測度空間上の積分定理8.4)より $\mu_M$ は $\sigma$-加法性を持つ。$M$ の任意の局所座標 $(U,\varphi)$ を取る。任意の $B\in \mathcal{B}_U$ に対し ${\rm supp}(f_i \chi_B)\subset U_i\cap U$ であるから補題16.3より、 $$ \int_{U_i}f_i(p)\chi_{B}(p)d\mu_{(U_i,\varphi_i)}(p)=\int_{U}f_i(p)\chi_{B}(p)d\mu_{(U,\varphi)}(p)\quad(\forall i\in\mathbb{N}:U\cap U_i\neq\emptyset) $$ であるから、 $$ \begin{aligned} \mu_M(B)&=\sum_{i\in\mathbb{N}}\int_{U_i}f_i(p)\chi_{B}(p)d\mu_{(U_i,\varphi_i)}(p) =\sum_{i\in\mathbb{N}}\int_{U}f_i(p)\chi_{B}(p)d\mu_{(U,\varphi)}(p)\\ &=\int_{U}\sum_{i\in\mathbb{N}}f_i(p)\chi_{B}(p)d\mu_{(U,\varphi)}(p) =\mu_{(U,\varphi)}(B) \end{aligned} $$ である。これで存在が示された。

定義16.6(Euclid空間内の多様体上のRiemann測度)

$M$ をEuclid空間内の多様体とする。定理16.6よりBorel測度 $\mu_M\colon\mathcal{B}_M\rightarrow [0,\infty]$ で $M$ の任意の局所座標 $(U,\varphi)$ に対し、 $$ \mu_M(B)=\int_{\varphi(U)}\left(\chi_{B}\sqrt{G_{(U,\varphi)}}\right)(\varphi^{-1}(x))dx\quad(\forall B\in \mathcal{B}_U)\quad\quad(*) $$ を満たすものが唯一つ存在する。これを $M$ のRiemann測度と言う。


注意16.7

  • $M$ をEuclid空間内の多様体、$D\subset M$ を空でない開集合とする。このとき $D$ の任意の局所座標は $M$ の局所座標である。よって注意16.4より $D$ のRiemann測度は $M$ のRiemann測度の制限である。
  • $\mathbb{R}^N$ の標準座標 $(\mathbb{R}^N,\text{id})$ に対する計量行列は単位行列であるから、その行列式 $\sqrt{G_{(\mathbb{R}^N,\text{id})}}$ は $1$ である。よって定義16.6の $(*)$ より $\mathbb{R}^N$ のRiemann測度はLebesgue測度である。

定義16.8(超曲面の面積測度)

$M$ が $\mathbb{R}^N$ の超曲面の場合、$M$ の任意の局所座標 $(U,\varphi;x_1,\ldots,x_{N-1})$ と任意の $p\in U$ に対し、 $$ \sqrt{G_{(U,\varphi)}(p)}=\left\lvert \frac{\partial}{\partial x_1}p\times\ldots \times \frac{\partial}{\partial x_{N-1}}p\right\rvert $$ であり(定義12.2を参照)、これは $M$ の $p$ における接ベクトル $$ \frac{\partial}{\partial x_1}p,\ldots,\frac{\partial}{\partial x_{N-1}}p\in \mathbb{R}^N $$ が張る面の面積である(注意11.3を参照)。このことと定義16.6の $(*)$ より超曲面 $M$ のRiemann測度 $\mu_M$ は $M$ の面積を与えると考えられる。そこで超曲面のRiemann測度を面積測度と呼ぶ。

定義16.9($1$ 次元多様体の線測度)

$M$ が $\mathbb{R}^N$ 内の $1$ 次元多様体の場合、$M$ の任意の局所座標 $(U,x)$ と任意の $p\in U$ に対し、 $$ \sqrt{G_{(U,x)}(p)}=\left\lvert \frac{\partial}{\partial x}p\right\rvert\quad(\forall p\in U) $$ である(定義12.2を参照)。よって定義16.6の $(*)$ より $1$ 次元多様体 $M$ のRiemann測度 $\mu_M$ は $M$ の長さを与えると考えられる。そこで $1$ 次元多様体のRiemann測度を線測度と呼ぶ。

命題16.10(次元の小さい部分多様体のRiemann測度は$0$)

$M$ をEuclid空間内の $n$ 次元多様体、$H$ を $M$ の $k$ 次元部分多様体とし $k<n$ とする。このとき $\mu_M(H)=0$ である。

証明

命題2.5と第二可算性より $H$ を被覆する $M$ の局所座標の可算族 $\{(U_i,\varphi_i)\}_{i\in\mathbb{N}}$ で、 $$ \varphi_i(U_i\cap H)=\varphi_i(U_i)\cap (\mathbb{R}^k\times\{0\})\quad(\forall i\in \mathbb{N}) $$ を満たすものが取れる。$\mathbb{R}^k\times \{0\}$ の $\mathbb{R}^n$ におけるLebesgue測度は $0$ であるから任意の $i\in\mathbb{N}$ に対し、 $$ \begin{aligned} \mu_M(U_i\cap H)&=\int_{\varphi_i(U_i)}\left(\chi_{U_i\cap H}\sqrt{G_{(U_i,\varphi_i)}}\right)(\varphi_i^{-1}(x))dx\\ &=\int_{\varphi_i(U_i)\cap(\mathbb{R}^k\times\{0\})}\sqrt{G_{(U,\varphi)}(\varphi_i^{-1}(x))}dx=0 \end{aligned} $$ である。$H=\bigcup_{i\in\mathbb{N}}(U_i\cap H)$ であるから $\mu_M(H)\leq \sum_{i\in\mathbb{N}}\mu_M(U_i\cap H)=0$ である。

命題16.11(Riemann測度はRadon測度)

Riemann測度はRadon測度(測度と積分7:局所コンパクトHausdorff空間上のRadon測度定義29.3)である。

Proof.

$M$ をEuclid空間内の多様体、$\mu_M\colon\mathcal{B}_M\rightarrow [0,\infty]$ を $M$ のRiemann測度とする。$M$ は第二可算局所コンパクトHausdorff空間であるから、測度と積分7:局所コンパクトHausdorff空間上のRadon測度定理31.5より任意のコンパクト集合 $K\subset M$ に対し $\mu_M(K)<\infty$ であることを示せばよい。$K$ のコンパクト性より有限個の局所座標 $(U_i,\varphi_i)$ $(i=1,\ldots,k)$ で、 $$ K\subset \bigcup_{i=1}^{k}U_i $$ なるものが取れる。そして $1$ の有限分割(系15.6)より $f_1,\ldots,f_k\in C_{c,+}^{\infty}(M)$ で、 $$ \text{supp}(f_i)\subset U_i\quad(i=1,\ldots,k),\quad \sum_{i=1}^{k}f_i(p)=1\quad(\forall p\in K) $$ なるものが取れる。$\varphi_i(K\cap \text{supp}(f_i))$ はコンパクトであり、$\left(f_i\sqrt{G_{(U_i,\phi_i)}}\right)\circ\varphi_i^{-1}:\varphi_i(K\cap \text{supp}(f_i))\rightarrow [0,\infty)$ は連続であるから、 $$ \begin{aligned} \mu_M(K)&=\sum_{i=1}^{k}\int_{M}f_i(p)\chi_K(p)d\mu_{M}(p) =\sum_{i=1}^{k}\int_{U_i}f_i(p)\chi_{K\cap \text{supp}(f_i)}(p)d\mu_{(U_i,\varphi_i)}(p)\\ &=\sum_{i=1}^{k}\int_{\varphi_i(K\cap \text{supp}(f_i))}\left(f_i\sqrt{G_{U_i,\varphi_i}}\right)(\varphi_i^{-1}(x))dx<\infty \end{aligned} $$ である。よって $\mu_M$ はRadon測度である。

系16.12

$M$ をEuclid空間内の多様体、$\mu_M\colon\mathcal{B}_M\rightarrow[0,\infty]$ をRiemann測度とする。このとき次が成り立つ。

  • $(1)$ 任意の開集合 $V\subset M$ に対し、

$$ \mu_M(V)=\sup\left\{\int_{M}f(p)d\mu_M(p):f\in C_{c,+}^\infty(M),\text{ } \text{supp}(f)\subset V,\text{ }f(M)\subset [0,1]\right\}. $$

  • $(2)$ 任意のコンパクト集合 $K\subset M$ に対し、

$$ \mu_M(K)=\inf\left\{\int_{M}f(p)d\mu_M(p):f\in C_{c,+}^{\infty}(M),\text{ }f|_K=1,\text{ }f(M)\subset [0,1]\right\}. $$

  • $(3)$ 任意の $p\in [1,\infty)$ と任意の $f\in \mathcal{L}^p(M,\mathcal{B}_M,\mu_M)$ に対し $C_{c}^{\infty}(M)$ の列 $(f_i)_{i\in\mathbb{N}}$ で、

$$ \lim_{i\rightarrow\infty}\lVert f_i-f\rVert_{\mu_M,p}=0 $$ なるものが取れる。

Proof.

測度と積分7:局所コンパクトHausdorff空間上のRadon測度命題29.4命題32.1の証明で局所コンパクトHausdorff空間におけるUrysohnの補題を用いたところで、多様体におけるUrysohnの補題(定理15.5)を用いればよい。

注意16.13(Euclid空間内の多様体の直積)

$M_1,\ldots,M_k$ をそれぞれEuclid空間 $\mathbb{R}^{N_1},\ldots, \mathbb{R}^{N_k}$ 内の $n_1,\ldots,n_k$ 次元多様体とし、$(U_1,\varphi_1),\ldots,(U_k,\varphi_k)$ をそれぞれ $M_1,\ldots,M_k$ の任意の局所座標とする。 このとき、 $$ \varphi_1\times\ldots\times \varphi_k:U_1\times\ldots\times U_k\ni (p_1,\ldots,p_k)\mapsto (\varphi_1(p_1),\ldots,\varphi_k(p_k))\in \varphi_1(U_1)\times\ldots\times\varphi_k(U_k) $$ は $M_1\times\ldots\times M_k\subset \mathbb{R}^{N_1+\ldots+N_k}$ の局所座標である。 実際、 $$ \begin{aligned} \left\{(\varphi_1\times\ldots\times \varphi_k)^{-1}\right\}'(\varphi_1(p_1),\ldots,\varphi_k(p_k))\in \mathbb{M}_{(N_1+\ldots+N_k)\times (n_1+\ldots+n_k)}(\mathbb{R}) \end{aligned} $$ は $(\varphi_1^{-1})'(\varphi_1(p_1))\in \mathbb{M}_{N_1\times n_1}(\mathbb{R})$, $\ldots$, $(\varphi_k^{-1})'(\varphi_k(p_k))\in \mathbb{M}_{N_k\times n_k}(\mathbb{R})$ を対角に並べてその他を $0$ とした行列であるから、ランクは $n_1+\ldots+n_k$ である。$(U_1,\varphi_1),\ldots,(U_k,\varphi_k)$ は任意であるから $M_1\times\ldots\times M_k$ はEuclid空間 $\mathbb{R}^{N_1+\ldots+N_k}$ 内の $n_1+\ldots+n_k$ 次元多様体である。局所座標 $(U_1\times\ldots\times U_k,\varphi_1\times\ldots\times \varphi_k)$ に対する計量行列の行列式(定義12.2)は、 $$ G_{(U_1\times\ldots\times U_k,\varphi_1\times\ldots\times\varphi_k)}(p_1,\ldots,p_k)=G_{(U_1,\varphi_1)}(p_1)\ldots G_{(U_k,\varphi_k)}(p_k) $$ であるからTonelliの定理と直積測度の一意性(測度と積分3:測度論の基本定理(1)定理14.4定理14.1)より、 $$ \begin{aligned} \mu_{(U_1\times\ldots\times U_k,\varphi_1\times\ldots\times \varphi_k)}= \mu_{(U_1,\varphi_1)}\otimes\ldots\otimes\mu_{(U_k,\varphi_k)} =(\mu_{M_1}\otimes\ldots\otimes \mu_{M_k})|_{U_1\times\ldots\times U_k} \end{aligned} $$ である。よって注意16.4より $M_1\times\ldots\times M_k$ のRiemann測度は、 $$ \mu_{M_1\times\ldots\times M_k}=\mu_{M_1}\otimes\ldots\otimes \mu_{M_k} $$ である[11]

17. Riemann測度に関する変数変換公式

補題17.1

$M,H$ をEuclid空間内の $n$ 次元多様体、$\Phi\colon M\rightarrow H$ を $C^1$ 級関数とする。$B\in \mathcal{B}_M$ が $¥sigma$-コンパクトな $\mu_M$-零集合であるとき、$\Phi(B)$ は $\sigma$-コンパクトな $\mu_H$ 零集合である。

Proof.

$M$の局所座標 $(U,\varphi)$ と $H$ の局所座標 $(V,\psi)$ に対し $B\subset U\cap \Phi^{-1}(V)$ であるとして示せば十分である[12]。 $$ 0=\mu_M(B)=\int_{\varphi(U)}\left(\chi_{B}\sqrt{G_{(U,\varphi)}}\right)(\varphi^{-1}(x))dx =\int_{\varphi(B)}\sqrt{G_{(U,\varphi)}}(\varphi^{-1}(x))dx $$ であり $\sqrt{G_{(U,\varphi)}}>0$ であるから $\varphi(B)\subset\mathbb{R}^n$ のLebesgue測度は $0$ である。よって $\varphi(B)$ の $C^1$ 級関数 $$ \psi\circ \Phi\circ\varphi^{-1}:\varphi(U\cap \Phi^{-1}(V))\rightarrow \mathbb{R}^n $$ による像 $\psi(\Phi(B))\subset\mathbb{R}^n$ のLebesgue測度も $0$ である(測度と積分8:Lebesgue測度の基本的性質補題40.2)。ゆえに、 $$ \begin{aligned} \mu_H(\Phi(B))=\int_{\psi(V)}\left(\chi_{\Phi(B)}\sqrt{G_{(V,\psi)}}\right)(\psi^{-1}(x))dx =\int_{\psi(\Phi(B))}\sqrt{G_{(V,\psi)}}(\psi^{-1}(x))dx=0 \end{aligned} $$ である。

定義17.2(ヤコビアン)

$M,H$ をEuclid空間内の $n$ 次元多様体、$\Phi\colon M\rightarrow H$ を $C^1$ 級関数とする。任意の $p\in M$ に対し $p$ の周りの $M$ の局所座標 $(U,\varphi;x_1,\ldots,x_n)$ と $\Phi(p)$ の周りの $H$ の局所座標 $(V,\psi;y_1,\ldots,y_n)$ を取り、 $$ \begin{aligned} J\Phi(p):&=\frac{\sqrt{G_{(V,\psi)}(\Phi(p))}}{\sqrt{G_{(U,\varphi)}(p)}}\left\lvert{\rm det}\left(\frac{\partial(y_i\circ\Phi)}{\partial x_j}(p)\right)_{i,j}\right\rvert\\ &=\frac{\sqrt{G_{(V,\psi)}(\Phi(p))}}{\sqrt{G_{(U,\varphi)}(p)}}\left\lvert{\rm det}\left(\psi\circ\Phi\circ\varphi^{-1}\right)'(\varphi(p))\right\rvert \end{aligned} $$ と定義する。命題12.3より $J\Phi(p)$ は $p$ の周りの $M$ の局所座標 $(U,\varphi;x_1,\ldots,x_n)$ と $\Phi(p)$ の周りの $H$ の局所座標 $(V,\psi;y_1,\ldots,y_n)$ の取り方によらない。こうして定義される連続関数 $J\Phi\colon M\ni p\mapsto J\Phi(p)\in [0,\infty)$ を $\Phi$ のヤコビアンと言う。

注意17.3

$\left(\frac{\partial(y_i\circ\Phi)}{\partial x_j}(p)\right)_{i,j}\in \mathbb{M}_{n\times n}(\mathbb{R})$ は $T_p(M)$ の基底 $(\frac{\partial}{\partial x_j}p)_{j=1,\ldots,n}$ と $T_{\Phi(p)}(H)$ の基底 $(\frac{\partial}{\partial y_i}\Phi(p))_{i=1,\ldots,n}$ に関する $d\Phi_p\colon T_p(M)\rightarrow T_{\Phi(p)}(H)$ の行列表現である(命題5.2)から $J\Phi(p)>0$ であることと $d\Phi_p:T_p(M)\rightarrow T_{\Phi(p)}(H)$ が単射(つまり線形同型写像)であることは同値である。

補題17.4

$M,H$ をEuclid空間内の $n$ 次元多様体、$\Phi\colon M\rightarrow H$ を $C^1$ 級同相写像とする。このとき任意の非負値Borel関数 $f\colon H\rightarrow [0,\infty]$ に対し、 $$ \int_{H}f(p)d\mu_H(p)=\int_{M}f(\Phi(p))J\Phi(p)d\mu_M(p) $$ が成り立つ。

Proof.

非負値Borel関数の非負値Borel単関数による各点単調増加列による近似(測度と積分1:測度論の基礎用語定理5.5)と単調収束定理(測度と積分2:測度空間上の積分定理8.4)より、任意の $B\in \mathcal{B}_M$ に対し、 $$ \mu_H(\Phi(B))=\int_{B}J\Phi(p)d\mu_M(p) $$ が成り立つことを示せば十分である。さらに注意16.4より $M, H$ のある局所座標 $(U,\varphi)$, $(V,\psi)$ に対し $B\subset U\cap \Phi^{-1}(V)$ であると仮定して示せば十分である。像の上への $C^1$ 級同相写像 $$ \psi\circ\Phi\circ\varphi^{-1}:\varphi(U\cap \Phi^{-1}(V))\rightarrow \psi(\Phi(U\cap \Phi^{-1}(V))) $$ に対して変数変換公式(測度と積分8:Lebesgue測度の基本的性質補題40.3)を適用すれば、 $$ \begin{aligned} \mu_H(\Phi(B))&=\int_{\psi(V)}\left(\chi_{\Phi(B)}\sqrt{G_{(V,\psi)}}\right)(\psi^{-1}(x))dx\\ &=\int_{\psi(\Phi(U\cap \Phi^{-1}(V)))}\left(\chi_{\Phi(B)}\sqrt{G_{(V,\psi)}}\right)(\psi^{-1}(x))dx\\ &=\int_{\varphi(U\cap \Phi^{-1}(V))}\chi_B(\varphi^{-1}(x))\sqrt{G_{(V,\psi)}}(\Phi(\varphi^{-1}(x)))\left\lvert{\rm det}\left(\psi\circ\Phi\circ\varphi^{-1}\right)'(x)\right\rvert dx\\ &=\int_{\varphi(U)}\left(\chi_B\sqrt{G_{(U,\varphi)}}\right)(\varphi^{-1}(x))J\Phi(\varphi^{-1}(x))dx\\ &=\int_{B}J\Phi(p)d\mu_M(p) \end{aligned} $$ となる。よって成り立つ。

定理17.5(Riemann測度に関する変数変換公式)

$M,H$ をEuclid空間内の $n$ 次元多様体とする。$B\in \mathcal{B}_M$ とし $\Phi\colon B\rightarrow H$ を $B$ を含む $M$ の開集合上で定義された $C^1$ 級写像を $B$ 上に制限したものとする。また $B_0$ を $B$ に含まれる $M$ の開集合とする。そして次が成り立つとする。

  • $(1)$ $\Phi(B)\in \mathcal{B}_H$.
  • $(2)$ $\Phi$ は $B_0$ 上で単射であり任意の $p\in B_0$ に対し $J\Phi(p)>0$. [13]
  • $(3)$ $B\backslash B_0$ は $\sigma$-コンパクトな $\mu_M$-零集合に含まれる。

このとき任意の非負値Borel関数 $f\colon\Phi(B)\rightarrow [0,\infty]$ に対し、 $$ \int_{\Phi(B)}f(p)d\mu_H(p)=\int_{B}f(\Phi(p))J\Phi(p)d\mu_M(p) $$ が成り立つ。

Proof.

$(2)$ と多様体間の写像に関する逆関数定理(命題7.3)より $\Phi(B_0)$ は $H$ の開集合であり $B_0\ni p\mapsto \Phi(p)\in \Phi(B_0)$ は $C^1$ 級同相写像である。また$\Phi(B)\backslash \Phi(B_0)\subset \Phi(B\backslash B_0)$ であるから $(1),(3)$ と補題17.1より $\mu_H(\Phi(B)\backslash \Phi(B_0))=0$ である。ゆえに補題17.4より、 $$ \int_{\Phi(B)}f(p)d\mu_H(p)=\int_{\Phi(B_0)}f(p)d\mu_H(p) =\int_{B_0}f(\Phi(p))J\Phi(p)d\mu_M(p) =\int_{B}f(\Phi(p))J\Phi(p)d\mu_M(p) $$ である。

18. 極座標変換

定義18.1(単位球面)

$\mathbb{R}^N$ の原点を中心とする単位球面を、 $$ S_{N-1}\colon=\{x\in\mathbb{R}^N:\lvert x\rvert=1\} $$ と表す。定理8.2より $S_{N-1}$ は $\mathbb{R}^N$ の超曲面($N-1$次元多様体)である[14]

命題18.2(極座標変換の基本性質)

$$ \Phi_N\colon\mathbb{R}^N\ni (r,\theta_1,\ldots,\theta_{N-1})\mapsto \left(\begin{array}{l}r\cos(\theta_1)\\r\sin(\theta_1)\cos(\theta_2)\\ r\sin(\theta_1)\sin(\theta_2)\cos(\theta_3)\\ \vdots\\ r\sin(\theta_1)\ldots\sin(\theta_{N-2})\cos(\theta_{N-1})\\ r\sin(\theta_1)\ldots\sin(\theta_{N-2})\sin(\theta_{N-1})\end{array}\right)\in \mathbb{R}^N $$ なる $C^\infty$ 級関数を考える。このとき、

  • $(1)$

$$ [0,\pi]\times\ldots\times [0,\pi]\times[0,2\pi)\ni (\theta_1,\ldots,\theta_{N-1}) \mapsto \Phi_N(1,\theta_1,\ldots,\theta_{N-1})\in S_{N-1} $$ は全射であり、$(0,\pi)\times \ldots \times (0,\pi)\times (0,2\pi)$ 上で単射である。

  • $(2)$ 任意の $(r,\theta_1,\ldots,\theta_{N-1})\in\mathbb{R}^N$ に対し、

$$ {\rm det}\Phi_N'(r,\theta_1,\ldots,\theta_{N-1})=r^{N-1}\sin(\theta_1)^{N-2}\sin(\theta_2)^{N-3}\ldots\sin(\theta_{N-2}) $$ が成り立つ。特に任意の $(r,\theta_1,\ldots,\theta_{N-1})\in (0,\infty)\times (0,\pi)\times\ldots\times (0,\pi)\times(0,2\pi)$ に対し、 $$ {\rm det}\Phi_N'(r,\theta_1,\ldots,\theta_{N-1})>0 $$ が成り立つ。

  • $(3)$

$$ \Omega_N\colon=\Phi_N( (0,\infty)\times(0,\pi)\times\ldots\times(0,\pi)\times(0,2\pi) ) $$ は $\mathbb{R}^N$ の開集合であり、 $$ (r,\theta_1,\ldots,\theta_{N-1}):\Omega_N\ni x\mapsto \Phi_N^{-1}(x)\in (0,\infty)\times (0,\pi)\times\ldots\times (0,\pi)\times(0,2\pi)\quad\quad(**) $$ とおくと $(\Omega_N,r,\theta_1,\ldots,\theta_{N-1})$ は $\mathbb{R}^N$ の正の向きの直交座標(定義13.6)である。そして任意の $x\in \Omega_N$ に対し、 $$ \left\lvert\frac{\partial}{\partial r}x\right\rvert=1,\quad \left\lvert\frac{\partial}{\partial \theta_{k}}x\right\rvert=r\sin(\theta_1)\ldots\sin(\theta_{k-1})\quad(k=1,\ldots,N-1)\quad\quad(***) $$ であり、局所座標 $(\Omega_N,r,\theta_1,\ldots,\theta_{N-1})$ の計量行列の行列式 $G_{(\Omega_N,r,\theta_1,\ldots,\theta_{N-1})}$(定義12.2)の平方根は、 $$ \sqrt{G_{(\Omega_N,r,\theta_1,\ldots,\theta_{N-1})}(x)}=r^{N-1}\sin(\theta_1)^{N-2}\sin(\theta_2)^{N-3}\ldots\sin(\theta_{N-2}) $$ である。

  • $(3)$ $S_{N-1}$ の開集合

$$ S_{N-1,0}:=S_{N-1}\cap\Omega_N=\Phi_N(\{1\}\times(0,\pi)\times\ldots\times(0,\pi)\times(0,2\pi)) $$ に対し、 $$ \Phi_{N}^{-1}(x)=(1,\Theta_{N-1}(x))\quad(\forall x\in S_{N-1,0}) $$ として、 $$ \Theta_{N-1}=(\theta_1,\ldots,\theta_{N-1}):S_{N-1}\rightarrow(0,\pi)\times\ldots\times(0,\pi)\times(0,2\pi) $$ を定義すると $(S_{N-1,0},\Theta_{N-1})$ は超曲面 $S_{N-1}$ の局所座標である。そして任意の $x\in S_{N-1,0}$ に対し $S_{N-1}$ の接ベクトル $$ \frac{\partial}{\partial \theta_1}x,\ldots,\frac{\partial}{\partial_{N-1}}x\in \mathbb{R}^N $$ は互いに直交し、 $$ \left\lvert\frac{\partial}{\partial\theta_k}x\right\rvert=\sin(\theta_1)\ldots\sin(\theta_{k-1})\quad(k=1,\ldots,N -1) $$ であり、局所座標 $(S_{N-1,0},\Theta_{N-1})$ に対する計量行列の行列式 $G_{(S_{N-1,0},\Theta_{N-1})}$ の平方根は、 $$ \sqrt{G_{(S_{N-1,0},\Theta_{N-1})}(x)}=\sin(\theta_1)^{N-2}\sin(\theta_2)^{N-3}\ldots\sin(\theta_{N-2})\quad\quad(******) $$ である。

  • $(4)$ 超曲面 $S_{N-1}$ の面積測度 $\mu_{S_{N-1}}\colon\mathcal{B}_{S_{N-1}}\rightarrow[0,\infty)$ に対し、

$$ \mu_{S_{N-1}}(S_{N-1}\backslash S_{N-1,0})=0 $$ が成り立ち、 $$ \mu_{S_{N-1}}(S_{N-1})=2\pi\int_{0}^{\pi}\int_{0}^{\pi}\ldots\int_{0}^{\pi}\sin(\theta_1)^{N-2}\sin(\theta_2)^{N-3}\ldots\sin(\theta_{N-2})d\theta_1\ldots d\theta_{N-2} $$ が成り立つ。

Proof.

  • $(1)$ 任意の $x\in S_{N-1}$ を取る。$\lvert x_1\rvert\leq1$ であり $\cos$ は $[0,\pi]$ で狭義単調減少であるから中間値の定理より $x_1=\cos(\theta_1)$ なる $\theta_1\in [0,\pi]$ が取れる。$x_2^2+x_3^2+\cdots +x_N^2=1-\cos^2(\theta_1)=\sin^2(\theta_1)$ より

$\lvert x_2\rvert\leq \sqrt{1-\lvert x_1\rvert^2}=\sin(\theta_1)$ であるから中間値の定理より $x_2=\sin(\theta_1)\cos(\theta_2)$ なる $\theta_2\in [0,\pi]$ が取れる。 $x_3^2+x_4^2+\cdots +x_N^2=\sin^2(\theta_1)-\sin^2(\theta_1)\cos^2(\theta_2)=\sin^2(\theta_1)\sin^2(\theta_2)$ より $\lvert x_3\rvert \leq \sin(\theta_1)\sin(\theta_2)$ であるから中間値の定理より $x_3=\sin(\theta_1)\sin(\theta_2)\cos(\theta_3)$ なる $\theta_3\in [0,\pi]$ が取れる。 以下同様にして、 $$ \begin{pmatrix}x_1\\x_2\\\vdots\\ x_{N-2}\end{pmatrix} =\left(\begin{array}{l}\cos(\theta_1)\\\sin(\theta_1)\cos(\theta_2)\\\vdots\\\sin(\theta_1)\cdots\sin(\theta_{N-3})\cos(\theta_{N-2})\end{array}\right) $$ を満たす $\theta_1,\ldots,\theta_{N-2}\in [0,\pi]$ が取れる。 $$ \lvert(x_{N-1},x_N)\rvert=\sqrt{1-(x_1^2+\ldots+x_{N-2}^2)}=\sin(\theta_1)\ldots\sin(\theta_{N-2}) $$ であるから $\theta_{N-1}\in [0,2\pi)$で、 $$ \begin{pmatrix}x_{N-1}\\x_N\end{pmatrix} =\left(\begin{array}{l}\sin(\theta_1)\ldots\sin(\theta_{N-3})\sin(\theta_{N-2})\cos(\theta_{N-1})\\\sin(\theta_1)\ldots\sin(\theta_{N-3})\sin(\theta_{N-2})\sin(\theta_{N-1})\end{array}\right) $$ なるものがとれる。ゆえに $(*)$ は全射である。$(*)$ が $(0,\pi)\times \cdots \times (0,\pi)\times (0,2\pi)$ 上で単射であることは $\cos$ が $(0,\pi)$ で単射であり、$\sin$ が $(0,\pi)$ 上で $0$ を取らないこと、$(0,2\pi)\ni \theta\mapsto (\cos(\theta),\sin(\theta))\in S_1$ が単射であることから分かる。

  • $(2)$ $N$に関する帰納法で示す。$N=2$の場合は自明である。ある $N-1\geq2$ に対して成り立つと仮定する。

$$ \Phi_N(r,\theta_1,\ldots,\theta_{N-1})=(r\cos(\theta),\Phi_{N-1}(r\sin(\theta_1),\theta_2,\ldots,\theta_{N-1})) $$ であるから $\Phi_N$ は、 $$ \mathbb{R}^N\ni (r,\theta_1,\ldots,\theta_{N-1})\mapsto (r\cos(\theta_1),r\sin(\theta_1),\theta_2,\ldots,\theta_{N-1})\in \mathbb{R}^N $$ と、 $$ \mathbb{R}^N\ni(x,y,\theta_2,\ldots,\theta_{N-1})\mapsto (x,\Phi_{N-1}(y,\theta_2,\ldots,\theta_{N-1}))\in\mathbb{R}^N $$ の合成である。よってチェインルールと帰納法の仮定より、 $$ \begin{aligned} {\rm det}\Phi_N'(r,\theta_1,\ldots,\theta_{N-1}) &={\rm det}\Phi_{N-1}'(r\sin(\theta_1),\theta_2,\ldots,\theta_{N-1})\cdot {\rm det}\begin{pmatrix}\cos(\theta_1)&-r\sin(\theta_1)\\\sin(\theta_1)&r\cos(\theta_1)\end{pmatrix}\\ &=\left( (r\sin(\theta_1))^{N-2}\sin(\theta_2)^{N-3}\ldots\sin(\theta_{N-2})\right)r\\ &=r^{N-1}\sin(\theta_1)^{N-2}\sin(\theta_2)^{N-3}\ldots\sin(\theta_{N-2}) \end{aligned} $$ である。よって $N$ の場合も成り立つ。

  • $(3)$ $(1)$ より $\Phi_N$ は $(0,\infty)\times(0,\pi)\times\ldots\times(0,\pi)\times(0,2\pi)$ 上で単射であり、$(2)$ より $\Phi_N$ の各点での微分は正則行列である。よって逆関数定理より $\Omega_N$ は $\mathbb{R}^N$ の開集合であり、

$$ (0,\infty)\times(0,\pi)\times\cdots\times(0,\pi)\times(0,2\pi)\ni (r,\theta_1,\ldots,\theta_{N-2},\theta_{N-1})\mapsto \Phi_N(r,\theta_1,\ldots,\theta_{N-2},\theta_{N-1})\in \Omega_N $$ は $C^\infty$ 級同相写像であるからその逆写像である $(**)$ は $\mathbb{R}^N$ の局所座標である。任意の $x=\Phi_N(r,\theta_1,\ldots,\theta_{N-1})\in \Omega_N$ に対し、 $$ \begin{aligned} &{\rm det}\left(\frac{\partial}{\partial r}x,\frac{\partial}{\partial\theta_1}x,\ldots,\frac{\partial}{\partial\theta_{N-1}}x\right)={\rm det}\Phi_N'(r,\theta_1,\ldots,\theta_{N-1})\\ &=r^{N-1}\sin(\theta_1)^{N-2}\sin(\theta_2)^{N-3}\ldots\sin(\theta_{N-2})>0 \end{aligned} $$ である。また、 $$ \frac{\partial}{\partial r}x= \left(\begin{array}{l}\cos(\theta_1)\\\sin(\theta_1)\cos(\theta_2)\\ \sin(\theta_1)\sin(\theta_2)\cos(\theta_3)\\ \vdots\\ \sin(\theta_1)\ldots\sin(\theta_{N-2})\cos(\theta_{N-1})\\ \sin(\theta_1)\ldots\sin(\theta_{N-2})\sin(\theta_{N-1})\end{array}\right) $$ であり、 $$ \frac{\partial}{\partial\theta_k}x=r\sin(\theta_1)\ldots\sin(\theta_{k-1}) \left(\begin{array}{l}0\\\vdots\\0\\-\sin(\theta_k)\\ \cos(\theta_k)\cos(\theta_{k+1})\\ \cos(\theta_k)\sin(\theta_{k+1})\cos(\theta_{k+2})\\\vdots\\ \cos(\theta_k)\ldots\sin(\theta_{N-2})\cos(\theta_{N-1})\\ \cos(\theta_k)\ldots\sin(\theta_{N-2})\sin(\theta_{N-1})\end{array}\right)\quad(k=1,\ldots,N-1), $$ $$ \frac{\partial}{\partial\theta_{N-1}}x=r\sin(\theta_1)\ldots\sin(\theta_{N-2})\left(\begin{array}{l}0\\\vdots\\0\\-\sin(\theta_{N-1})\\\cos(\theta_{N-1})\end{array}\right) $$ であるから、 $$ \frac{\partial}{\partial r}x,\frac{\partial}{\partial \theta_1}x,\ldots,\frac{\partial}{\partial\theta_{N-1}}x\in \mathbb{R}^N $$ は互いに直交する。よって $(\Omega_N,r,\theta_1,\ldots,\theta_{N-1})$ は $\mathbb{R}^N$ の正の向きの直交座標である。そして $(***)$ が成り立ち、 $$ \sqrt{G_{(\Omega_N,r,\theta_1,\ldots,\theta_{N-1})}(x)} =\left\lvert\frac{\partial}{\partial r}x\right\rvert\left\lvert\frac{\partial}{\partial\theta_1}x\right\rvert\ldots\left\lvert\frac{\partial}{\partial\theta_{N-1}}x\right\rvert =r^{N-1}\sin(\theta_1)^{N-2}\sin(\theta_2)^{N-3}\ldots\sin(\theta_{N-2}) $$ である。

  • $(4)$ $(1)$ より、

$$ \Phi_N^{-1}(S_{N-1}\cap \Omega_N)=\{1\}\times(0,\pi)^{N-2}\times(0,2\pi)=\Phi_N^{-1}(\Omega_N)\cap (\{1\}\times\mathbb{R}^{N-1}) $$ であるから命題2.4より $\Phi_N^{-1}(x)=(1,\Theta_{N-1}(x))$ $(\forall x\in S_{N-1,0}=S_{N-1}\cap\Omega_N)$ とおけば $(S_{N-1,0},\Theta_{N-1})$ は超曲面 $S_{N-1}$ の局所座標である。 $(****)$ が互いに直交することと $(*****)$ が成り立つことは $(3)$ による。そしてこれより、 $$ \sqrt{G_{(S_{N-1,0},\Theta_{N-1})}(x)} =\left\lvert\frac{\partial}{\partial\theta_1}x\right\rvert\ldots\left\lvert\frac{\partial}{\partial\theta_{N-1}}x\right\rvert =\sin(\theta_1)^{N-2}\sin(\theta_2)^{N-3}\ldots\sin(\theta_{N-2}) $$ である。

  • $(5)$ $\mathbb{R}^{N-1}$ の部分集合

$$ E:=([0,\pi]^{N-2}\times[0,2\pi])\backslash ( (0,\pi)^{N-2}\times(0,2\pi) ) $$ は $\sigma$-コンパクトなLebesgue測度 $0$ の集合である。そして $C^\infty$ 級写像 $$ \Psi:\mathbb{R}^{N-1}\ni(\theta_1,\ldots,\theta_{N-1})\mapsto \Phi_N(1,\theta_1,\ldots,\theta_{N-1})\in S_{N-1} $$ に対し $S_{N-1}\backslash S_{N-1,0}\subset \Psi(E)$ であるから補題17.1より $\mu_{S_{N-1}}(S_{N-1}\backslash S_{N-1,0})\leq\mu_{S_{N-1}}(\Psi(E))=0$ である。よって、 $$ \begin{aligned} \mu_{S_{N-1}}(S_{N-1})&=\mu_{S_{N-1}}(S_{N-1,0})\\ &=\int_{(0,\pi)^{N-2}\times(0,2\pi)}\sqrt{G_{(S_{N-1,0},\Theta_{N-1})}(\Theta_{N-1}^{-1}(\theta_1,\ldots,\theta_{N-1}))}d\theta_1\ldots d\theta_{N-1}\\ &=2\pi\int_{(0,\pi)^{N-2}}\sin(\theta_1)^{N-2}\sin(\theta_2)^{N-3}\ldots\sin(\theta_{N-2})d\theta_1\ldots d\theta_{N-2} \end{aligned} $$ である。

定義18.3(極座標)

命題18.2の $(3)$ における $\mathbb{R}^N$ の局所座標 $(\Omega_N,r,\theta_1,\ldots,\theta_{N-1})$ を $N$ 次元極座標と言う。また命題18.2の $(4)$ における $S_{N-1}$ の極座標 $(S_{N-1,0},\theta_1,\ldots,\theta_{N-1})$ を $S_{N-1}$ の極座標と言う。

定理18.4(極座標変換)

$a\in \mathbb{R}^N$ を中心とする半径 $R\in(0,\infty]$ の球 $$ B(a,R)=\{x\in \mathbb{R}^N:\lvert x-a\rvert<R\} $$ 上の任意の非負値Borel関数 $f\colon B(a,R)\rightarrow [0,\infty]$ に対し、 $$ \int_{B(a,R)}f(x)dx=\int_{0}^{R}\int_{S_{N-1}}f(a+r\omega)r^{N-1}d\mu_{S_{N-1}}(\omega)dr $$ が成り立つ。

Proof.

$$ \Phi\colon\mathbb{R}\times S_{N-1}\ni (r,\omega)\mapsto a+r\omega\in \mathbb{R}^N $$ なる $C^\infty$ 級関数を考えると、 $$ \Phi([0,R)\times S_{N-1})=B(a,R) $$ である。$S_{N-1}$ の極座標 $(S_{N-1,0},\Theta_{N-1})$ を考える。命題18.2の $(3),(4)$ より任意の $(r,\omega)\in (0,R)\times S_{N-1,0}$ に対し $\Phi$の $(r,\omega)$ におけるヤコビアン(定義17.2)は、 $$ \begin{aligned} J\Phi(r,\omega)&=\frac{1}{\sqrt{G_{(S_{N-1,0},\Theta_{N-1})}(\omega)}}\left\lvert{\rm det}(\Phi\circ( \text{id}\times\Theta_{N-1}^{-1} )'(r,\Theta_{N-1}(\omega)))\right\rvert\\ &=\frac{1}{\sin(\theta_1)^{N-2}\ldots\sin(\theta_{N-2})}r^{N-1}\sin(\theta_1)^{N-2}\ldots\sin(\theta_{N-2})\\ &=r^{N-1}>0 \end{aligned} $$ である。また $\Phi$ は $(0,R)\times S_{N-1,0}$ 上で単射である。命題18.2の $(4)$ より $\mu_{S_{N-1}}(S_{N-1}\backslash S_{N-1,0})=0$ であるから、 $$ ([0,R)\times S_{N-1})\backslash ((0,R)\times S_{N-1,0}) $$ は $\mathbb{R}\times S_{N-1}$ の $\sigma$-コンパクトなRiemann測度零の集合である。よってRiemann測度に関する変数変換公式(定理17.5)より、 $$ \begin{aligned} \int_{B(a,R)}f(x)dx&=\int_{\Phi([0,R)\times S_{N-1})}f(x)dx =\int_{[0,R)\times S_{N-1}}f(\Phi(r,\omega))J\Phi(r,\omega)drd\mu_{S_{N-1}}(\omega)\\ &=\int_{[0,R)}\int_{S_{N-1}}f(a+r\omega)r^{N-1}d\mu_{S_{N-1}}(\omega)dr \end{aligned} $$ である。

19. 多様体の向きと体積要素

定義19.1(互いに同じ向きの局所座標)

$M$ をEuclid空間内の $n$ 次元多様体とする。$M$ の局所座標 $(U,x_1,\ldots,x_n)$ と $(V,y_1,\ldots,y_n)$ が互いに同じ向きであるとは、$U\cap V\neq \emptyset$ であり、 $$ {\rm det}\left(\frac{\partial y_i}{\partial x_j}(p)\right)_{i,j}>0\quad(\forall p\in U\cap V) $$ が成り立つことを言う。

定義19.2(互いに同じ向きの局所座標からなるアトラス、向き付け可能性)

$M$ をEuclid空間内の多様体とする。$M$ のアトラス(定義2.1)が互いに同じ向きの局所座標からなるアトラスであるとは、そのアトラスに属するどの $2$ つの局所座標もそれらが交わる限り互いに同じ向きであることを言う。 $M$ が向き付け可能であるとは、互いに同じ向きの局所座標からなるアトラスが取れることを言う。

定義19.3(多様体の向き、向き付けられた多様体の正の向きの局所座標)

$M$ をEuclid空間内の向き付け可能な多様体とし、$\mathcal{A}_1$ と $\mathcal{A}_2$ がそれぞれ互いに同じ向きの局所座標からなる $M$ のアトラスとする。$\mathcal{A}_1\cup \mathcal{A}_2$ が互いに同じ向きの局所座標からなるアトラスであるとき、$\mathcal{A}_1\sim \mathcal{A}_2$ と表すこととする。$U\cap V\cap W\neq \emptyset$ なる 任意の $M$ の局所座標 $(U,x_1,\ldots,x_n)$, $(V,y_1,\ldots,y_n)$, $(W,z_1,\ldots,z_n)$ に対し、 $$ \left(\frac{\partial z_i}{\partial x_j}(p)\right)_{i,j}=\left(\sum_{k=1}^{n}\frac{\partial z_i}{\partial y_k}(p)\frac{\partial y_k}{\partial x_j}(p)\right)_{i,j}\quad(\forall p\in U\cap V\cap W) $$ であるから、 $$ {\rm det}\left(\frac{\partial z_i}{\partial x_j}(p)\right)_{i,j}= {\rm det}\left(\frac{\partial z_i}{\partial y_j}(p)\right)_{i,j}{\rm det}\left(\frac{\partial y_i}{\partial x_j}(p)\right)_{i,j} $$ である。よって $\sim$ は互いに同じ向きの局所座標からなるアトラス全体における同値関係である。この同値関係による同値類のそれぞれを $M$ の向きと言う。 そして $M$ の向きが $1$ つ指定されているとき $M$ は向き付けられていると言う。$M$ が向き付けられているとき、$M$ の向きに属するアトラス全ての合併は $M$ の向きに属する最大のアトラスである。このアトラスに属する局所座標を $M$ の正の向きの局所座標と言う。

定義19.4(向き付けられた多様体の開集合の向き)

$M$ をEuclid空間内の向き付けられた多様体とし、$D\subset M$ を空でない開集合とする。$D$ の局所座標は定義域が $D$ に含まれる $M$ の局所座標である。よって $D$ には、その正の向きの局所座標が $M$ の正の向きの局所座標となるような自然な向きが定まる(定義域が $D$ に含まれるような $M$ の正の向きの局所座標全体からなる $D$ のアトラスを考え、その同値類を $D$ の向きと定めればよい)。以後、特に断らない限り向き付けられた多様体の開集合はこうして向き付けられているものとする。

定義19.5(Euclid空間の向き)

Euclid空間 $\mathbb{R}^N$ の向きを標準座標 $(x_1,\ldots,x_N)$ が正の向きとなるように定義する。

注意19.6

定義13.6で述べた正の向きの直交座標はEuclid空間の正の向きの局所座標である。

命題19.7(向き付けられた多様体の体積要素の一意存在)

$M$ をEuclid空間内の向き付けられた $n$ 次元多様体とする。このとき $M$ の $n$ 階微分形式 $\Omega_M$ で $M$ の任意の正の向きの局所座標 $(U,x_1,\ldots,x_n)$ に対し、 $$ \Omega_{M,p}=\sqrt{G_{(U,x_1,\ldots,x_n)}(p)} dx_{1,p}\wedge\ldots\wedge dx_{n,p}\quad(\forall p\in U) $$ を満たすものが唯一つ存在する。ただし $G_{(U,x_1,\ldots,x_n)}(p)$ は $(U,x_1,\ldots,x_n)$ に対する計量行列の行列式(定義12.2)である。

Proof.

$U\cap V\neq\emptyset$ を満たす $M$ の任意の正の向きの局所座標 $(U,x_1,\ldots,x_n)$, $(V,y_1,\ldots,y_n)$ と任意の $p\in U\cap V$ に対し、 $$ \sqrt{G_{(U,x_1,\ldots,x_n)}(p)} dx_{1,p}\wedge\ldots\wedge dx_{n,p} =\sqrt{G_{(V,y_1,\ldots,y_n)}(p)} dy_{1,p}\wedge \ldots \wedge dy_{n,p} $$ が成り立つことを示せばよい。$(U,x_1,\ldots,x_n)$, $(V,y_1,\ldots,y_n)$ が互いに同じ向きであることと命題12.3より、 $$ \begin{aligned} \sqrt{G_{(U,x_1,\ldots,x_n)}(p)}&=\sqrt{G_{(V,y_1,\ldots,y_n)}(p)}\left\lvert{\rm det}\left(\frac{\partial y_i}{\partial x_j}(p)\right)_{i,j}\right\rvert\\ &=\sqrt{G_{(V,y_1,\ldots,y_n)}(p)}{\rm det}\left(\frac{\partial y_i}{\partial x_j}(p)\right)_{i,j} \end{aligned} $$ である。また、 $$ dy_{i,p}=\sum_{j=1}^{n}\frac{\partial y_i}{\partial x_j}(p)dx_{j,p} $$ であることと外積の反対称性より、 $$ dy_{1,p}\wedge \ldots\wedge dy_{n,p}={\rm det}\left(\frac{\partial y_i}{\partial x_j}(p)\right)_{i,j}dx_{1,p}\wedge \ldots\wedge dx_{n,p} $$ である。よって、 $$ \begin{aligned} \sqrt{G_{(U,x_1,\ldots,x_n)}(p)}dx_{1,p}\wedge\ldots\wedge dx_{n,p} &=\sqrt{G_{(V,y_1,\ldots,y_n)}(p)}{\rm det}\left(\frac{\partial y_i}{\partial x_j}(p)\right)_{i,j}dx_{1,p}\wedge\ldots\wedge dx_{n,p}\\ &=\sqrt{G_{(V,y_1,\ldots,y_n)}(p)}dy_{1,p}\wedge\ldots\wedge dy_{n,p} \end{aligned} $$ である。

定義19.8(向き付けられた多様体の体積要素)

$M$ をEuclid空間内の向き付けられた$n$次元多様体とする。命題19.7における $M$ の$n$ 階 微分形式 $\Omega_M$ を $M$ の体積要素と呼ぶ。

$U\ni p\mapsto \sqrt{G_{(U,x_1,\ldots,x_n)}(p)}\in(0,\infty)$ は $C^\infty$ 級であるから体積要素 $\Omega_M$ は $C^\infty$級である。

命題19.9(正の向きの局所座標であるための条件)

$M$ をEuclid空間内の向き付けられた $n$ 次元多様体とし、$\Omega_M$ をその体積要素とする。このとき $M$ の局所座標 $(U,x_1,\ldots,x_n)$ に対し次は互いに同値である。

  • $(1)$ $(U,x_1,\ldots,x_n)$ は $M$ の正の向きの局所座標である。
  • $(2)$ 任意の $p\in U$ に対し $\Omega_{M,p}\left(\frac{\partial}{\partial x_1}p,\ldots,\frac{\partial}{\partial x_n}p\right)>0$.
Proof.

$(1)\Rightarrow(2)$ を示す。$(1)$ が成り立つならば、 $$ \Omega_{M,p}=\sqrt{G_{(U,x_1,\ldots,x_n)}(p)}dx_{1,p}\wedge \ldots\wedge dx_{n,p}\quad(\forall p\in U) $$ であるから、 $$ \Omega_{M,p}\left(\frac{\partial}{\partial x_1}p,\ldots,\frac{\partial}{\partial x_n}p\right)=\sqrt{G_{(U,x_1,\ldots,x_n)}(p)}>0\quad(\forall p\in U) $$ である。よって $(2)$ が成り立つ。
$(2)\Rightarrow(1)$ を示す。$(2)$ が成り立つとする。$U\cap V\neq\emptyset$ なる $M$ の任意の正の向きの局所座標 $(V,y_1,\ldots,y_n)$ を取る。任意の $p\in U\cap V$ に対し、 $$ dy_{i,p}=\sum_{j=1}^{n}\frac{\partial y_i}{\partial x_j}(p)dx_{j,p} $$ であることと外積の反対称性より、 $$ \begin{aligned} \Omega_{M,p}&=\sqrt{G_{(V,y_1,\ldots,y_n)}(p)}dy_{1,p}\wedge\ldots\wedge dy_{n,p}\\ &=\sqrt{G_{(V,y_1,\ldots,y_n)}(p)}{\rm det}\left(\frac{\partial y_i}{\partial x_j}(p)\right)_{i,j}dx_{1,p}\wedge\ldots\wedge dx_{n,p} \end{aligned} $$ であるから、 $$ 0<\Omega_{M,p}\left(\frac{\partial}{\partial x_1}p,\ldots,\frac{\partial}{\partial x_n}p\right) =\sqrt{G_{(V,y_1,\ldots,y_n)}(p)}{\rm det}\left(\frac{\partial y_i}{\partial x_j}(p)\right)_{i,j} $$ である。よって、 $$ {\rm det}\left(\frac{\partial y_i}{\partial x_j}(p)\right)_{i,j}\quad(\forall p\in U\cap V) $$ である。ゆえに $(U,x_1,\ldots,x_n)$ は $M$ の任意の正の向きの局所座標と(交わる限り)同じ向きであるから正の向きの局所座標である。

20. 向き付けられた超曲面上の正の向きの単位法線ベクトル場

命題20.1(向き付けられた超曲面上の単位法線ベクトル場の存在)

$M$をEuclid空間 $\mathbb{R}^N$ 内の向き付けられた超曲面(向き付けられた $N-1$ 次元多様体)とする。このときベクトル場 $\nu\colon M\rightarrow \mathbb{R}^N$ で $M$ の任意の正の向きの局所座標 $(U,x_1,\ldots,x_{N-1})$ に対し、 $$ \nu(p)=\frac{1}{\sqrt{G_{(U,x_1,\ldots,x_{N-1})}(p)}}\left(\frac{\partial}{\partial x_1}p\times\ldots\times \frac{\partial}{\partial x_{N-1}}p\right)\quad(\forall p\in U) $$ を満たすものが唯一つ存在する(右辺はベクトル積(定義11.1)である)。そしてこの $\nu\colon M\rightarrow\mathbb{R}^N$ は $C^\infty$ 級であり、 $$ \nu(p)\in (T_p(M))^{\perp},\quad\lvert\nu(p)\rvert=1\quad(\forall p\in M) $$ を満たす。

Proof.

条件を満たす $\nu\colon M\rightarrow\mathbb{R}^N$ が一意存在することを示すためには $U\cap V\neq\emptyset$ なる $M$ の任意の正の向きの局所座標 $(U,x_1,\ldots,x_{N-1})$, $(V,y_1,\ldots,y_{N-1})$ と任意の $p\in U\cap V$ を取り、 $$ \frac{1}{\sqrt{G_{(U,x_1,\ldots,x_{N-1})}(p)}}\left(\frac{\partial}{\partial x_1}p\times\ldots\times \frac{\partial}{\partial x_{N-1}}p\right) =\frac{1}{\sqrt{G_{(V,y_1,\ldots,y_{N-1})}(p)}}\left(\frac{\partial}{\partial y_1}p\times\ldots\times \frac{\partial}{\partial y_{N-1}}p\right)\quad\quad(*) $$ が成り立つことを示せばよい。$(U,x_1,\ldots,x_{N-1})$, $(V,y_1,\ldots,y_{N-1})$ が互いに同じ向きであることと命題12.3より、 $$ \sqrt{G_{(U,x_1,\ldots,x_{N-1})}(p)}={\rm det}\left(\frac{\partial y_i}{\partial x_j}(p)\right)_{i,j} \sqrt{G_{(V,y_1,\ldots,y_{N-1})}(p)} $$ である。また、 $$ \frac{\partial }{\partial x_j}p=\sum_{i=1}^{N-1}\frac{\partial y_i}{\partial x_j}(p)\frac{\partial}{\partial y_i}p $$ であることとベクトル積の反対称性より, $$ \left(\frac{\partial}{\partial x_1}p\times\ldots\times \frac{\partial}{\partial x_{N-1}}p\right) ={\rm det}\left(\frac{\partial y_i}{\partial x_j}(p)\right)_{i,j} \left(\frac{\partial}{\partial y_1}p\times\ldots\times \frac{\partial}{\partial y_{N-1}}p\right) $$ である。よって $(*)$ が成り立つ。 $\nu(p)\in (T_p(M))^{\perp}$ であることは命題11.2の $(3)$ による。$\lvert \nu(p)\rvert=1$ であることについては定義12.2を参照。 $\nu:M\rightarrow \mathbb{R}^N$ が $C^\infty$ 級であることは $U\ni p\mapsto \frac{\partial }{\partial x_j}p\in \mathbb{R}^N$ や $U\ni p\mapsto G_{U,x_1,\ldots,x_{N-1}}(p)\in (0,\infty)$ が $C^\infty$ 級であることによる。

定義20.2(向き付けられた超曲面上の正の向きの単位法線ベクトル場)

$M$ をEuclid空間 $\mathbb{R}^N$ 内の向き付けられた超曲面とする。このとき命題20.1よりベクトル場 $\nu\colon M\rightarrow \mathbb{R}^N$ で $M$ の任意の正の向きの局所座標 $(U,x_1,\ldots,x_{N-1})$ に対し、 $$ \nu_M(p)=\frac{(-1)^{N-1}}{\sqrt{G_{(U,x_1,\ldots,x_{N-1})}(p)}}\left(\frac{\partial}{\partial x_1}p\times\ldots\times \frac{\partial}{\partial x_{N-1}}p\right)\quad(\forall p\in U) $$ を満たすものが一意的に定まる。そしてこの $\nu_M\colon M\rightarrow\mathbb{R}^N$ は $C^\infty$ 級であり、 $$ \nu_M(p)\in (T_p(M))^{\perp},\quad\lvert\nu_M(p)\rvert=1\quad(\forall p\in M) $$ を満たす。$\nu:M\rightarrow \mathbb{R}^N$ を向き付けられた超曲面 $M$ 上の正の向きの単位法線ベクトル場と呼ぶ。

21. 多様体内の滑らかな境界を持つ開集合

定義21.1(直方体局所座標)

$M$ をEuclid空間内の $n$ 次元多様体とする。$M$ の局所座標 $(U,\varphi)$ が直方体局所座標であるとは $\mathbb{R}^n$ の開集合 $\varphi(U)$ が $n$個の有界開区間の直積であることを言う。

注意21.2(直方体局所座標と向き)

$M$ をEuclid空間内の向き付けられた $n$ 次元多様体とし、$(U,\varphi,x_1,\ldots,x_n)$ を $M$ の任意の直方体局所座標とする。このとき $(U,x_1,\ldots,x_n)$ か $(U,-x_1,x_2,\ldots,x_n)$ のいずれか一方は $M$ の正の向きの局所座標である。実際、直方体 $\varphi(U)$ の連結性ゆえ $U$ は連結であるから、$M$ の体積要素 $\Omega_M$ に対し連続関数 $$ U\ni p\mapsto \Omega_{M,p}\left(\frac{\partial}{\partial x_1}p,\ldots,\frac{\partial}{\partial x_n}p\right)\in \mathbb{R}\backslash \{0\}\quad\quad(*) $$ は常に正か常に負である。もし $(*)$ が常に正ならば命題19.9より $(U,x_1,\ldots,x_n)$ は正の向きであり、$(*)$ が常に負ならば、 $$ \Omega_{M,p}\left(\frac{\partial}{\partial (-x_1)}p,\ldots,\frac{\partial}{\partial x_n}p\right) =-\Omega_{M,p}\left(\frac{\partial}{\partial x_1}p,\ldots,\frac{\partial}{\partial x_n}p\right)>0 $$ であるから $(U,-x_1,x_2\ldots,x_n)$ は正の向きである。


定義21.3(多様体内の滑らかな境界を持つ開集合)

$M$ をEuclid空間内の $n$ 次元多様体とする。開集合 $D\subset M$ が滑らかな境界を持つとは、任意の $p\in \partial D=\overline{D}\backslash D$ に対し $p$ の周りの $M$ の直方体局所座標 $(U,\varphi)$ で、 $$ \begin{aligned} &\varphi(U\cap \partial D)=\varphi(U)\cap (\mathbb{R}^{n-1}\times \{0\}),\\ &\varphi(U\cap D)=\varphi(U)\cap (\mathbb{R}^{n-1}\times (0,\infty))\quad\quad(*) \end{aligned} $$ を満たすものが取れることを言う。このとき命題2.5より $\partial D$ は $M$ の $n-1$ 次元部分多様体である。

補題21.4

$M$ をEuclid空間内の向き付けられた $n$ 次元多様体とし、$D\subset M$ を滑らかな境界を持つ開集合とする。このとき任意の $p\in \partial D$ に対し $p$ の周りの $M$ の正の向きの直方体局所座標 $(U,\varphi)$ で定義21.3の $(*)$ を満たすものが取れる。

Proof.

定義21.3より任意の $p\in \partial D$ に対し $p$ の周りの $M$ の直方体局所座標 $(U,\varphi,x_1,\ldots,x_n)$ で定義21.3の $(*)$ を満たすものが取れる。$(U,x_1,\ldots,x_n)$ が $M$ の正の向きの局所座標ではないとすると、注意21.2より $(U,-x_1,x_2\ldots,x_n)$ は正の向きの直方体局所座標である。そしてこれは定義21.3の $(*)$ を満たす。

命題21.5(滑らかな境界の向き付け可能性)

$M$ をEuclid空間内の向き付けられた $n$ 次元多様体とし、$D\subset M$ を滑らかな境界を持つ開集合とする。そして $M$ の正の向きの直方体局所座標 $(U,\varphi,x_1,\ldots,x_n)$ で、 $$ \varphi(U\cap \partial D)=\varphi(U)\cap (\mathbb{R}^{n-1}\times \{0\}),\quad \varphi(U\cap D)=\varphi(U)\cap (\mathbb{R}^{n-1}\times (0,\infty))\quad\quad(*) $$ を満たすもの全体を $\mathcal{A}$ とおく。このとき、 $$ \{(U\cap \partial D, x_1,\ldots,x_{n-1}): (U,x_1,\ldots,x_n)\in \mathcal{A}\}\quad\quad(**) $$ は $n-1$ 次元部分多様体 $\partial D\subset M$ の互いに同じ向きの局所座標からなるアトラスである。

Proof.

$(**)$ が $\partial D$ のアトラスであることは補題21.4による。$(**)$ が互いに同じ向きの局所座標からなることを示す。任意の $(U,x_1,\ldots,x_n), (V,y_1,\ldots,y_n)\in \mathcal{A}$ と任意の $p\in U\cap V\cap\partial D$ を取る。$(*)$ より、 $$ \frac{\partial y_n}{\partial x_j}(p)=0\quad(j=1,\ldots,n-1),\quad \frac{\partial y_n}{\partial x_n}(p)>0 $$ であるから、 $$ {\rm det}\left(\frac{\partial y_i}{\partial x_j}(p)\right)_{i,j=1,\ldots,n-1}=\left(\frac{\partial y_n}{\partial x_n}(p)\right)^{-1}{\rm det}\left(\frac{\partial y_i}{\partial x_j}(p)\right)_{i,j=1,\ldots,n}>0 $$ である。よって $(U\cap\partial D,x_1,\ldots,x_{n-1})$, $(V\cap\partial D,y_1,\ldots,y_{n-1})$ は互いに同じ向きであるので $(**)$ は $\partial D$ の互いに同じ向きの局所座標からなるアトラスである。

定義21.6(滑らかな境界の向き)

$M$ をEuclid空間内の向き付けられた $n$ 次元多様体とし、$D\subset M$ を滑らかな境界を持つ開集合とする。このとき命題21.5より $n-1$ 次元部分多様体 $\partial D\subset M$ は向き付け可能であり、命題21.5における $\mathcal{A}$ に対し、 $$ \{(U\cap \partial D, (-1)^{n}x_1,\ldots,x_{n-1}): (U,x_1,\ldots,x_n)\in \mathcal{A}\} $$ の要素が $\partial D$ の正の向きの局所座標となるような $\partial D$ の向きが定義できる。この $\partial D$ の向きを $M$ の向きに整合する $\partial D$ の向きと言う。

22. 外向き単位法線ベクトル場

定義22.1(外向き単位法線ベクトル場)

$D\subset \mathbb{R}^N$ を滑らかな境界を持つ開集合(定義21.3)とする。そして $\partial D$ に $\mathbb{R}^N$ の向き(定義19.5)に整合する向き(定義21.6)を入れる。このとき超曲面 $\partial D$ の正の向きの単位法線ベクトル場(定義20.2) $\nu\colon\partial D\rightarrow \mathbb{R}^N$ を $D$ の境界 $\partial D$ 上の外向き単位法線ベクトル場と言う。この名称の妥当性は次による。任意の $p\in \partial D$ に対し $p$ の周りの $\mathbb{R}^N$ の正の向きの直方体局所座標 $(U,\varphi,x_1,\ldots,x_N)$ で、 $$ \varphi(U\cap \partial D)=\varphi(U)\cap (\mathbb{R}^{N-1}\times\{0\}),\quad \varphi(U\cap D)=\varphi(U)\cap (\mathbb{R}^{N-1}\times(0,\infty))\quad\quad(*) $$ を満たすものが取れる。定義21.6より $(U\cap\partial D,(-1)^Nx_1,x_2,\ldots,x_{N-1})$ は $\partial D$ の正の向きの局所座標であるから、正の向きの単位法線ベクトル場の定義(定義20.2)より、 $$ \begin{aligned} \nu(p)&=\frac{(-1)^{N-1}}{\sqrt{G_{(U\cap\partial D,(-1)^Nx_1,\ldots,x_{N-1})}(p)}}\left(\frac{\partial}{\partial(-1)^{N}x_1}p\times\ldots\times\frac{\partial}{\partial x_{N-1}}p\right)\\ &=\frac{-1}{\sqrt{G_{(U\cap\partial D,x_1,\ldots,x_{N-1})}(p)}}\left(\frac{\partial}{\partial x_1}p\times\ldots\times\frac{\partial}{\partial x_{N-1}}p\right) \end{aligned} $$ である。$(*)$ より $\frac{\partial}{\partial x_N}p\in\mathbb{R}^N$ は $p\in \partial D$ から $D$の内側を向いており、ベクトル積の性質(命題11.2)より、 $$ \nu(p)\cdot\frac{\partial}{\partial x_N}p=\frac{-1}{\sqrt{G_{(U\cap\partial D,x_1,\ldots,x_{N-1})}(p)}}{\rm det}\left(\frac{\partial}{\partial x_1}p,\ldots,\frac{\partial}{\partial x_N}p\right)<0 $$ である[15]。 よって $\nu(p)$ は $p\in \partial D$ から $D$ の外側を向いている。

命題22.2(外向き単位法線ベクトル場と勾配)

$f\colon\mathbb{R}^N\rightarrow \mathbb{R}$ を $C^\infty$ 級関数とする。$\mathbb{R}^N$ の開集合 $D=\{p\in \mathbb{R}^N:f(p)>0\}$ に対し、 $$ \partial D=\{p\in \mathbb{R}^N:f(p)=0\},\quad df_p\neq0\quad(\forall p\in\partial D)\quad\quad(*) $$ が成り立つと仮定する。このとき $D$ は滑らかな境界を持つ開集合であり、$\partial D$ 上の外向き単位法線ベクトル場(定義22.1)$\nu\colon \partial D\rightarrow \mathbb{R}^N$ に対し、 $$ {\rm grad}_p(f)=-\lvert {\rm grad}_p(f)\rvert \nu(p)\quad(\forall p\in\partial D) $$ が成り立つ。

Proof.

$(*)$ と定理8.2より任意の $p_0\in\partial D$ に対し $p_0$ の周りの $\mathbb{R}^N$ の局所座標 $(U,\varphi;x_1,\ldots,x_N)$ で、 $$ x_N(p)=f(p)\quad(\forall p\in U)\quad\quad(**) $$ なるものが取れる。必要ならば $p_0$ の開近傍 $U$ を小さく取り直し $(U,\varphi)$ は $\mathbb{R}^N$ の直方体局所座標であるとしてよい。$(**)$ より、 $$ \begin{aligned} &\varphi(U\cap D)=\varphi(U)\cap (\mathbb{R}^{N-1}\times(0,\infty)),\\ &\varphi(U\cap\partial D)=\varphi(U)\cap (\mathbb{R}^{N-1}\times\{0\}) \end{aligned} $$ である。$p_0\in\partial D$ は任意であるから $D$ は滑らかな境界を持つ開集合である。上述した $p_0\in\partial D$ の周りの局所座標 $(U,x_1,\ldots,x_N)$ について必要ならば $x_1$ を $-x_1$ に置き換えることにより $(U,x_1,\ldots,x_N)$ は $\mathbb{R}^N$ の正の向きの直方体局所座標であるとする。$(U,x_1,\ldots,x_N)$ に対する計量行列(定義12.2) $$ \left(\frac{\partial }{\partial x_i}p\cdot\frac{\partial }{\partial x_j}p\right)_{i,j}\in\mathbb{M}_{N\times N}(\mathbb{R})\quad(\forall p\in U)\quad\quad(***) $$ の逆行列を $(g^{i,j}(p))_{i,j}$ $(\forall p\in U)$ とおくと命題12.5より、 $$ {\rm grad}_p(f)=\sum_{i,j=1}^{N}g^{i,j}(p)\frac{\partial f}{\partial x_j}(p)\frac{\partial}{\partial x_i}p\quad(\forall p\in U) $$ である。ここで $(**)$ より任意の $p\in U$ に対し、 $$ \frac{\partial f}{\partial x_j}(p)=0\quad(j=1,\ldots,N-1),\quad \frac{\partial f}{\partial x_N}(p)=1 $$ であるから、 $$ {\rm grad}_p(f)=\sum_{i=1}^{N}g^{i,N}(p)\frac{\partial}{\partial x_i}p\quad(\forall p\in U)\quad\quad(****) $$ である。また $(U\cap\partial D,x_1,\ldots,x_{N-1})$ は $\partial D$ の局所座標であるから、 $$ T_p(\partial D)=\text{span}\left\{\frac{\partial}{\partial x_1}p,\ldots,\frac{\partial}{\partial x_{N-1}}p\right\}\quad(\forall p\in U\cap\partial D) $$ であり、勾配の定義(定義12.4)と $(****)$ より、 $$ {\rm grad}_p(f)\cdot\frac{\partial}{\partial x_j}p=\frac{\partial f}{\partial x_j}(p)=0\quad(\forall p\in U,j=1,\ldots,N-1) $$ であるから、 $$ {\rm grad}_p(f)\in (T_p(\partial D))^{\perp}=\text{span}\{\nu(p)\}\quad(\forall p\in U\cap\partial D)\quad\quad(*****) $$ である。外向き単位法線ベクトル場の定義(定義22.1)より、 $$ \nu(p)=\frac{-1}{\sqrt{G_{(U\cap\partial D,x_1,\ldots,x_{N-1})}(p)}}\left(\frac{\partial}{\partial x_1}p\times\ldots\times\frac{\partial}{\partial x_{N-1}}p\right)\quad(\forall p\in U\cap\partial D) $$ であるから、任意の $p\in U\cap\partial D$ に対し $(****)$ とベクトル積の性質(命題11.2)より、 $$ {\rm grad}_p(f)\cdot\nu(p)=-\frac{g^{N,N}(p)}{\sqrt{G_{(U\cap\partial D,x_1,\ldots,x_{N-1})}(p)}}{\rm det}\left(\frac{\partial}{\partial x_1}p,\ldots,\frac{\partial}{\partial x_N}p\right) $$ となる。ここで計量行列 $(***)$ の逆行列 $(g^{i,j}(p))_{i,j}$ の $(N,N)$ 成分 $g^{N,N}(p)$ を余因子展開で表すと、 $$ G_{(U\cap\partial D,x_1,\ldots,x_{N-1})}(p)={\rm det}\left(\frac{\partial}{\partial x_i}p\cdot\frac{\partial}{\partial x_j}p\right)_{i,j=1,\ldots,N-1}\quad(\forall p\in U\cap\partial D) $$ より、 $$ g^{N,N}(p)=\frac{G_{(U\cap\partial D,x_1,\ldots,x_{N-1})}(p)}{G_{(U,x_1,\ldots,x_N)}(p)}\quad(\forall p\in U\cap\partial D) $$ となる。また $(U,x_1,\ldots,x_N)$ は $\mathbb{R}^N$ の正の向きの局所座標であるので計量行列 $(***)$ の行列式は、 $$ \sqrt{G_{(U,x_1,\ldots,x_N)}(p)}=\left\lvert{\rm det}\left(\frac{\partial}{\partial x_1}p,\ldots,\frac{\partial}{\partial x_N}p\right)\right\rvert ={\rm det}\left(\frac{\partial}{\partial x_1}p,\ldots,\frac{\partial}{\partial x_N}p\right) $$ である。よって、 $$ {\rm grad}_p(f)\cdot\nu(p)=-\frac{g^{N,N}(p)}{\sqrt{G_{(U\cap\partial D,x_1,\ldots,x_{N-1})}(p)}}\sqrt{G_{(U,x_1,\ldots,x_N)}(p)}=-\frac{\sqrt{G_{(U\cap\partial D,x_1,\ldots,x_{N-1})}(p)}}{\sqrt{G_{(U,x_1,\ldots,x_N)}(p)}}<0 $$ である。これと $(*****)$ より、 $$ {\rm grad}_p(f)=-\lvert {\rm grad}_p(f)\rvert\nu(p)\quad(\forall p\in U\cap\partial D) $$ を得る。

23. Stokesの定理

定義23.1(向き付けられた $n$ 次元多様体上の $n$ 階微分形式の積分)

$M$ をEuclid空間内の向き付けられた $n$ 次元多様体とし、$E\subset M$ をBorel集合、$\omega=(\omega_p)_{p\in E}$ を $E$ 上で定義された $M$ の $n$ 階微分形式とする。このとき $M$ の体積要素 $\Omega_M$(定義19.8)に対し、 $$ \omega_p=f(p)\Omega_{M,p}\quad(\forall p\in E) $$ なる関数 $f\colon E\rightarrow \mathbb{R}$が定まる。$f$ が $M$ のRiemann測度 $\mu_M\colon \mathcal{B}_M\rightarrow [0,\infty]$(定義16.6)に関して可積分であるとき $\omega$ の積分を、 $$ \int_{E}\omega\colon=\int_{E}f(p)d\mu_M(p) $$ として定義する。

注意23.2

$E\subset \mathbb{R}^N$ をBorel集合、$f\colon E\rightarrow \mathbb{R}$ をBorel関数とする。$E$ 上で定義された $\mathbb{R}^N$ の $N$ 階微分形式 $\star f\colon=(\star f(p))_{p\in E}$ は $\mathbb{R}^N$ の標準座標 $(x_1,\ldots,x_N)$ に対し、 $$ \star f=fdx_1\wedge \ldots\wedge dx_N $$ と表される。標準座標 $(x_1,\ldots,x_N)$ は $\mathbb{R}^N$ の正の向きの局所座標であるから $dx_1\wedge \ldots\wedge dx_N$ は $\mathbb{R}^N$ の体積要素である。よって $f:E\rightarrow \mathbb{R}$ がLebesgue測度($\mathbb{R}^N$ のRiemann測度はLebesgue測度である)に関して可積分であるとき、 $$ \int_{E}\star f=\int_{E}f(x)dx $$ である。

定理23.3(Stokesの定理)

$M$ をEuclid空間内の向き付けられた $n$ 次元多様体、$D\subset M$ を滑らかな境界を持つ開集合(定義21.3)とし、$\overline{D}\subset M$ はコンパクトであるとする。このとき $M$ の $n-1$ 階 $C^1$ 級微分形式 $\omega$ に対し、 $$ \int_{D}d\omega=\int_{\partial D}\iota_{\partial D}^*\omega\quad\quad(*) $$ が成り立つ。ただし $\iota_{\partial D}^*\omega$ は $C^\infty$ 級関数 $\iota_{\partial D}\colon \partial D\ni p\mapsto p\in M$ による $\omega$ の引き戻し(定義9.8)であり、$\partial D$ には $M$ の向きに整合する向き(定義21.6)が入っているものとする。

Proof.

補題21.4より正の向きの直方体局所座標からなる $M$ のアトラス $\mathcal{A}$ で、$U\cap\partial D\neq\emptyset$ なる任意の $(U,\varphi)\in\mathcal{A}$ に対し、 $$ \varphi(U\cap\partial D)=\varphi(U)\cap (\mathbb{R}^{n-1}\times \{0\}),\quad \varphi(U\cap D)=\varphi(U)\cap (\mathbb{R}^{n-1}\times(0,\infty))\quad\quad(**) $$ を満たすものが取れる。$\overline{D}$ はコンパクトであるから有限個の $(U_1,\varphi_1),\ldots,(U_m,\varphi_m)\in \mathcal{A}$で、 $$ \overline{D}\subset \bigcup_{i=1}^{m}U_i $$ なるものが取れ、$1$ の有限分割(系15.6)より $h_1,\ldots,h_m\in C_{c,+}^{\infty}(M)$ で、 $$ \text{supp}(h_i)\subset U_i\quad(i=1,\ldots,m),\quad \sum_{i=1}^{m}h_i(p)=1\quad(\forall p\in \overline{D}) $$ を満たすものが取れる。このとき、 $$ \int_{D}d\omega=\int_{D}d\left(\sum_{i=1}^{m}h_i\omega\right) =\sum_{i=1}^{m}\int_{D}d(h_i\omega), $$ $$ \int_{\partial D}\iota_{\partial D}^*\omega=\int_{\partial D}\iota_{\partial D}^*\left(\sum_{i=1}^{m}h_i\omega\right)=\sum_{i=1}^{m}\int_{\partial D}\iota_{\partial D}^*(h_i\omega) $$ であるから $(*)$ を示すには任意の $i\in \{1,\ldots,m\}$ に対し、 $$ \int_{D}d(h_i\omega)=\int_{\partial D}\iota_{\partial D}^*(h_i\omega) $$ が成り立つことを示せばよい。よって最初から $\omega$ はある $(U,\varphi;x_1,\ldots,x_n)\in \mathcal{A}$ に対し、 $$ \text{supp}(\omega)=\overline{\{p\in M:\omega_p\neq0\}}\subset U $$ を満たし、$\text{supp}(\omega)$ はコンパクトであると仮定して $(*)$ を示せば十分である。 $$ \omega_p=\sum_{k=1}^{n}(-1)^{k-1}f_k(p)(dx_{1,p}\wedge \ldots\wedge \widehat{dx_{k,p}}\wedge\ldots\wedge dx_{n,p})\quad(\forall p\in U)\quad\quad(***) $$ ($\widehat{dx_{k,p}}$ は $dx_{k,p}$ を飛ばすことを意味する)として $f_1,\ldots,f_n\in C^1_{c,\mathbb{R}}(U)$ を定義する。このとき外微分の定義(定義9.5)と体積要素の定義(定義19.8)より、 $$ d\omega_p=\sum_{k=1}^{m}\frac{\partial f_k}{\partial x_k}(p)(dx_{1,p}\wedge \ldots\wedge dx_{n,p})=\left(\sum_{k=1}^{n}\frac{\partial f_k}{\partial x_k}(p)\frac{1}{\sqrt{G_{(U,x_1,\ldots,x_n)}(p)}}\right)\Omega_{M,p} $$ である。$\varphi(U)\subset \mathbb{R}^n$ は開直方体であり $\varphi(\text{supp}(\omega))$ は $\varphi(U)$ のコンパクト集合であるから、 $$ \varphi(\text{supp}(f_k))\subset\varphi(\text{supp}(\omega))\subset \prod_{i=1}^{n}(a_i,b_i)\subset \prod_{i=1}^{n}[a_i,b_i]\subset \varphi(U)\quad(k=1,\ldots,n)\quad\quad(****) $$ なる閉直方体 $\prod_{i=1}^{n}[a_i,b_i]$ が取れる。 $\varphi(U)$ は連結ゆえ $U$ も連結であるから、 $$ U\subset D,\quad U\subset M\backslash \overline{D},\quad U\cap \partial D\neq\emptyset $$ のうちのいずれかが成り立つ。

  • $(1)$ $U\subset D$ の場合。 $\text{supp}(\omega)\subset U$であることと $(***)$、および微分形式の積分の定義(定義23.1)より、

$$ \int_{D}d\omega=\int_{U}d\omega=\sum_{k=1}^{n}\int_{U}\frac{\partial f_k}{\partial x_k}(p)\frac{1}{\sqrt{G_{(U,x_1,\ldots,x_n)}(p)}}d\mu_M(p) $$ であり、Riemann測度の定義(定義16.6)と $(****)$ より各 $k\in\{1,\ldots,n\}$ に対し、 $$ \begin{aligned} &\int_{U}\frac{\partial f_k}{\partial x_k}(p)\frac{1}{\sqrt{G_{(U,x_1,\ldots,x_n)}(p)}}d\mu_M(p) =\int_{\varphi(U)}\partial_k(f_k\circ\varphi^{-1})(x)dx\\ &=\int_{\prod_{i=1}^{n}[a_i,b_i]}\partial_k(f_k\circ\varphi^{-1})(x_1,\ldots,x_n)dx_1\ldots dx_n \end{aligned} $$ である。$(****)$ より、 $$ \begin{aligned} &(f_k\circ\varphi^{-1})(x_1,\ldots,a_k,\ldots,x_n)=0,\\ &(f_k\circ\varphi^{-1})(x_1,\ldots,b_k,\ldots,x_n)=0 \end{aligned} $$ であるからFubiniの定理(測度と積分3:測度論の基本定理(1)定理14.5)と微積分学の基本定理より、 $$ \int_{\prod_{i=1}^{n}[a_i,b_i]}\partial_k(f_k\circ\varphi^{-1})(x_1,\ldots,x_n)dx_1\ldots dx_n=0 $$ である。よって、 $$ \int_{D}d\omega=\sum_{k=1}^{n}\int_{\prod_{i=1}^{n}[a_i,b_i]}\partial_k(f_k\circ\varphi^{-1})(x_1,\ldots,x_n)dx_1\ldots dx_n=0 $$ である。一方、$\text{supp}(\omega)\subset U\subset D$ より、 $$ (\iota_{\partial D}^*\omega)_p=0\quad(\forall p\in \partial D) $$ である。よって、 $$ \int_{D}d\omega=0=\int_{\partial D}\iota_{\partial D}^*\omega $$ である。

  • $(2)$ $U\subset M\backslash \overline{D}$ の場合。$\text{supp}(\omega)\subset U$ より $\text{supp}(\omega)\cap D=\emptyset$, $\text{supp}(\omega)\cap \partial D=\emptyset$ であるから、

$$ \omega_p=0\quad(\forall p\in D),\quad (\iota_{\partial D}^*\omega)_p=0\quad(\forall p\in \partial D) $$ である。よって、 $$ \int_{D}d\omega=0=\int_{\partial D}\iota_{\partial D}^*\omega $$ である。

  • $(3)$ $U\cap\partial D\neq\emptyset$ の場合。このとき $(U,\varphi;x_1,\ldots,x_n)$ は $(**)$ を満たす。$\text{supp}(\omega)\subset U$ であることと微分形式の積分の定義(定義23.1)より、

$$ \int_{D}d\omega=\int_{U\cap D}d\omega=\sum_{k=1}^{n}\int_{U\cap D}\frac{\partial f_k}{\partial x_k}(p)\frac{1}{\sqrt{G_{(U,x_1,\ldots,x_n)}(p)}}d\mu_M(p) $$ であり、Riemann測度の定義(定義16.6)と $(**)$, $(****)$ より各 $k\in \{1,\ldots,n \}$ に対し、 $$ \begin{aligned} &\int_{U\cap D}\frac{\partial f_k}{\partial x_k}(p)\frac{1}{\sqrt{G_{(U,x_1,\ldots,x_n)}(p)}}d\mu_M(p) =\int_{\varphi(U\cap D)}\partial_k(f_k\circ\varphi^{-1})(x_1,\ldots,x_n)dx_1\ldots dx_n\\ &=\int_{\prod_{i=1}^{n-1}[a_i,b_i]\times [0,b_i]}\partial_k(f_k\circ\varphi^{-1})(x_1,\ldots,x_n)dx_1\ldots dx_n \end{aligned} $$ である。Fubiniの定理、微積分学の基本定理より上式の右辺は $k=1\ldots,n-1$ の場合は $0$ であり、$k=n$ の場合、 $$-\int_{\prod_{i=1}^{n-1}[a_i,b_i]}(f_n\circ\varphi^{-1})(x_1,\ldots,x_{n-1},0)dx_\ldots dx_{n-1} $$ である。よって、 $$ \begin{aligned} \int_{D}d\omega&=\sum_{k=1}^{n}\int_{\prod_{i=1}^{n-1}[a_i,b_i]\times [0,b_i]}\partial_k(f_k\circ\varphi^{-1})(x_1,\ldots,x_n)dx_1\ldots dx_n\\ &=-\int_{\prod_{i=1}^{n-1}[a_i,b_i]}(f_n\circ\varphi^{-1})(x_1,\ldots,x_{n-1},0)dx_1\ldots dx_{n-1} \end{aligned} $$ である。一方、$\text{supp}(\omega)\subset U$ より、 $$ \int_{\partial D}\iota_{\partial D}^*\omega=\int_{U\cap\partial D}\iota_{\partial D}^*\omega $$ であり、$(**)$ より $\iota_{\partial D}^*dx_n=0$ であるから $(***)$ より、 $$ (\iota_{\partial D}^*\omega)_p=(-1)^{n-1}f_n(p)(dx_{1,p}\wedge\ldots\wedge dx_{n-1,p})\quad(\forall p\in U\cap\partial D) $$ である。ここで $(U\cap\partial D, (-1)^nx_1,x_2,\ldots,x_{n-1})$ は $\partial D$ の正の向きの局所座標であるから $\partial D$ の体積要素は、 $$ \Omega_{\partial D,p}=(-1)^n\sqrt{G_{(U\cap\partial D,x_1,\ldots,x_{n-1})}(p)}dx_{1,p}\wedge\ldots\wedge dx_{n-1,p}\quad(\forall p\in U\cap\partial D) $$ である。よって、 $$ (\iota_{\partial D}^*\omega)_p=-f_n(p)\frac{1}{\sqrt{G_{(U\cap\partial D,x_1,\ldots,x_{n-1})}(p)}}\Omega_{\partial D,p}\quad(\forall p\in U\cap\partial D) $$ であるから、微分形式の積分の定義(定義23.1)より、 $$ \int_{\partial D}\iota_{\partial D}^*\omega=\int_{U\cap\partial D}\iota_{\partial D}^*\omega =-\int_{U\cap\partial D}f_n(p)\frac{1}{\sqrt{G_{(U\cap\partial D,x_1,\ldots,x_{n-1})}(p)}}d\mu_{\partial D}(p) $$ である。Riemann測度の定義(定義16.6)と $(**)$, $(****)$ より、 $$ \begin{aligned} &\int_{U\cap\partial D}f_n(p)\frac{1}{\sqrt{G_{(U\cap\partial D,x_1,\ldots,x_{n-1})}(p)}}d\mu_{\partial D}(p)\\ &=\int_{\varphi(U\cap\partial D)}(f_n\circ\varphi^{-1})(x_1,\ldots,x_{n-1},0)dx_1\ldots dx_{n-1}\\ &=\int_{\prod_{i=1}^{n-1}[a_i,b_i]}(f_n\circ\varphi^{-1})(x_1,\ldots,x_{n-1},0)dx_1\ldots dx_{n-1} \end{aligned} $$ であるから、 $$ \int_{\partial D}\iota_{\partial D}^*\omega=-\int_{\prod_{i=1}^{n-1}[a_i,b_i]}(f_n\circ\varphi^{-1})(x_1,\ldots,x_{n-1},0)dx_1\ldots dx_{n-1} $$ である。よって、 $$ \int_{D}d\omega=-\int_{\prod_{i=1}^{n-1}[a_i,b_i]}(f_n\circ\varphi^{-1})(x_1,\ldots,x_{n-1},0)dx_1\ldots dx_{n-1}=\int_{\partial D}\iota_{\partial D}^*\omega $$ である。

24. Gaussの発散定理、古典的なStokesの定理

補題24.1

$M$ をEuclid空間 $\mathbb{R}^N$ の向き付けられた超曲面、$\nu\colon M\rightarrow \mathbb{R}^N$ を正の向きの単位法線ベクトル場(定義20.2)、 $\Omega_M$ を $M$ の体積要素(定義19.8)とし、$M$ 上で定義された $\mathbb{R}^N$ のベクトル場 $u\colon M\rightarrow \mathbb{R}^N$ を考える。$u$ に対応する $\mathbb{R}^N$ の $1$ 階微分形式を $j(u)=(j(u(p)))_{p\in M}$(定義13.2)とし、それにHodgeの $\star$ 作用素を各点ごとに作用させて得られる $\mathbb{R}^N$ の $N-1$ 階微分形式を $\star j(u)=(\star j(u(p)))_{p\in M}$ とする。そして $C^\infty$ 級関数 $\iota_M\colon M\ni p\mapsto p\in \mathbb{R}^N$ によっ て $\star j(u)$ を引き戻すことによって得られる $M$ の $N-1$ 階微分形式 $\iota_M^*\star j(u)$ を考える。このとき、 $$ (\iota_M^*\star j(u))_p=(u(p)\cdot\nu(p))\Omega_{M,p}\quad(\forall p\in M) $$ が成り立つ。

Proof.

$u(p)=(u_1(p),\ldots,u_N(p))$ $(\forall p\in M)$ とすると、$\mathbb{R}^N$ の標準座標 $(t_1,\ldots,t_N)$ に対し、 $$ j(u)=\sum_{k=1}^{N}u_kdt_{k}, $$ $$ \star j(u)=\sum_{k=1}^{N}(-1)^{k-1}u_k(dt_1\wedge\ldots\wedge\widehat{dt_k}\wedge\ldots\wedge dt_N) $$ である($\widehat{dt_k}$ は $dt_k$ を飛ばすことを意味する)。$M$ の任意の正の向きの局所座標 $(U,x_1,\ldots,x_{N-1})$ に対し外積の反対称性より、 $$ \begin{aligned} &(\iota_M^*\star j(u))_p=\sum_{k=1}^{N}(-1)^{k-1}u_k(p)(dt_{1,p}\wedge\ldots\wedge\widehat{dt_{k,p}}\wedge\ldots\wedge dt_{N,p}\\ &={\rm det}\left(u(p),\frac{\partial}{\partial x_1}p,\ldots,\frac{\partial}{\partial x_{N-1}}p\right)(dx_{1,p}\wedge\ldots\wedge dx_{N-1,p})\quad(\forall p\in U) \end{aligned} $$ である。ここで体積要素の定義と正の向きの単位法線ベクトル場の定義より、 $$ \Omega_{M,p}=\sqrt{G_{(U,x_1,\ldots,x_{N-1})}(p)}(dx_{1,p}\wedge\ldots\wedge dx_{N-1,p})\quad(\forall p\in U), $$ $$ \nu(p)=\frac{(-1)^{N-1}}{\sqrt{G_{(U,x_1,\ldots,x_{N-1})}(p)}}\left(\frac{\partial}{\partial x_1}p\times\ldots\times\frac{\partial}{\partial x_{N-1}}p\right)\quad(\forall p\in U) $$ であり、ベクトル積の性質(命題11.2)より、 $$ \begin{aligned} u(p)\cdot\nu(p)&=\frac{(-1)^{N-1}}{\sqrt{G_{(U,x_1,\ldots,x_{N-1})}(p)}}{\rm det}\left(\frac{\partial}{\partial x_1}p,\ldots,\frac{\partial}{\partial x_{N-1}}p,u(p)\right)\\ &=\frac{1}{\sqrt{G_{(U,x_1,\ldots,x_{N-1})}(p)}}{\rm det}\left(u(p),\frac{\partial}{\partial x_1}p,\ldots,\frac{\partial}{\partial x_{N-1}}p\right)\quad(\forall p\in U) \end{aligned} $$ であるから、 $$ (\iota_M^*\star j(u))_p=(u(p)\cdot\nu(p))\Omega_{M,p}\quad(\forall p\in U) $$ である。よって $(*)$ が成り立つ。

定理24.2(Gaussの発散定理)

$D\subset \mathbb{R}^N$ を滑らかな境界を持つ有界開集合、$\nu\colon\partial D\rightarrow \mathbb{R}^N$ を外向き単位法線ベクトル場(定義22.1)、$\mu_{\partial D}\colon\mathcal{B}_{\partial D}\rightarrow [0,\infty)$を面積測度(定義16.8)とする。このとき $\overline{D}$ を含む $\mathbb{R}^N$ の開集合 $M$ 上で定義された $C^1$ 級ベクトル場 $u\colon M\rightarrow \mathbb{R}^N$ に対し、 $$ \int_{D}{\rm div}(u)(x)dx=\int_{\partial D}(u(p)\cdot\nu(p))d\mu_{\partial D}(p) $$ が成り立つ。

Proof.

発散の定義(定義13.3)より、 $$ {\rm div}(u)=\star d\star j(u) $$ であるから、 $$ \star {\rm div}(u)=d\star j(u) $$ である。よって注意23.2より、 $$ \int_{D}{\rm div}(u)(x)dx=\int_{D}\star {\rm div}(u)=\int_{D}d\star j(u) $$ である。また補題24.1より、 $$ (\iota_{\partial D}^*\star j(u))_p=(u(p)\cdot\nu(p))\Omega_{\partial D,p}\quad(\forall p\in \partial D) $$ である。そして向き付けられた $N$ 次元多様体 $M$ の $N-1$ 階 $C^1$ 級微分形式 $\star j(u)$ と、$M$ の滑らかな境界を持つ開集合 $D$ に対しStokesの定理(定理23.3)を適用すると、 $$ \int_{D}d\star j(u)=\int_{\partial D}\iota_{\partial D}^*\star j(u) $$ となる。ゆえに、 $$ \int_{D}{\rm div}(u)(x)=\int_{D}d\star j(u) =\int_{\partial D}\iota_{\partial D}^*\star j(u) =\int_{\partial D}(u(p)\cdot\nu(p))d\mu_{\partial D}(p) $$ である。

定義24.3(向き付けられた $1$ 次元多様体上の正の向きの単位接ベクトル場)

$M$ をEuclid空間 $\mathbb{R}^N$ 内の向き付けられた $1$ 次元多様体とする。このときベクトル場 $\ell\colon M\rightarrow \mathbb{R}^N$ で任意の正の向きの局所座標 $(U,x)$ に対し、 $$ \ell(p)=\left\lvert\frac{\partial}{\partial x}p\right\rvert^{-1}\frac{\partial}{\partial x}p\quad(\forall p\in U) $$ を満たすものが一意的に定まる[16]。 $\ell$ は $C^\infty$ 級であり、 $$ \ell(p)\in T_p(M),\quad \lvert \ell(p)\rvert=1\quad(\forall p\in M) $$ を満たす。この $\ell\colon M\rightarrow\mathbb{R}^N$ を $M$ の正の向きの単位接ベクトル場と言う。

定義24.4(右手系)

$\mathbb{R}^3$ の正規直交基底 $(u_1,u_2,u_3)$ が右手系をなすとは、 $$ {\rm det}(u_1,u_2,u_3)=1 $$ が成り立つことを言う。ただし左辺は行列の縦ベクトル表記である。

注意24.5(向き付けられた曲面の滑らかな境界の正の向きの単位接ベクトル場の直観的意味)

$M$ を $\mathbb{R}^3$ 内の向き付けられた曲面、$D\subset M$ を滑らかな境界を持つ開集合とし、$\partial D$ には $M$ の向きに整合する向き(定義21.6)が入っているものとする。$M$ の正の向きの単位法線ベクトル場 $\nu\colon M\rightarrow\mathbb{R}^3$(定義20.2)と $\partial D$ の正の向きの単位接ベクトル場 $\ell\colon\partial D\rightarrow\mathbb{R}^3$(定義24.3)を考える。任意の $p\in \partial D$ に対し $p$ の周りの $M$ の正の向きの直方体局所座標 $(U,\varphi;x_1,x_2)$ で、 $$ \varphi(U\cap D)=\varphi(U)\cap (\mathbb{R}\times(0,\infty)),\quad \varphi(U\cap\partial D)=\varphi(U)\cap (\mathbb{R}\times \{0\})\quad\quad(*) $$ なるものを取ると、 $$ \nu(p)=\frac{1}{\sqrt{G_{(U,x_1,x_2)}(p)}}\left(\frac{\partial}{\partial x_1}p\times\frac{\partial}{\partial x_2}p\right)\in (T_p(M))^{\perp} $$ であり、定義21.6より $(U\cap\partial D, x_1)$ は $\partial D$ の正の向きの局所座標であるから、 $$ \ell(p)=\left\lvert \frac{\partial}{\partial x_1}p\right\rvert^{-1}\frac{\partial}{\partial x_1}p $$ である。ベクトル積の性質(命題11.2)より、 $$ {\rm det}\left(\frac{\partial}{\partial x_1}p,\frac{\partial}{\partial x_2}p,\frac{\partial}{\partial x_1}p\times\frac{\partial}{\partial x_2}p\right)= \left\lvert\frac{\partial}{\partial x_1}p\times\frac{\partial}{\partial x_2}p\right\rvert^2>0 $$ であるから、 $$ {\rm det}\left(\ell(p),\frac{\partial}{\partial x_2}p,\nu(p)\right)>0\quad\quad(**) $$ である。ここで $(*)$ より $\frac{\partial}{\partial x_2}p\in T_p(M)$ は $p\in\partial D$ から $D$ の内側を向いているから、 $$ \frac{\partial}{\partial x_2}p-\left(\frac{\partial}{\partial x_2}p\cdot\ell(p)\right)\ell(p)\in T_p(M) $$ を正規化したもの $\ell(p)^{\perp}\in T_p(M)$ は $p\in \partial D$ から $D$の内側を向き $\ell(p)$ と直交する単位ベクトルである。そして $(**)$ より、 $$ {\rm det}(\ell(p),\ell(p)^{\perp},\nu(p))=1 $$ である。よって $p\in\partial D$ における $\partial D$ の正の向きの単位接ベクトル $\ell(p)\in T_p(M)$ と $p$ から $D$ の内側を向き $\ell(p)$ と直交する単位ベクトル $\ell(p)^{\perp}\in T_p(M)$ と $p$ における $M$ の正の向きの単位法線ベクトル $\nu(p)$ に対し $(\ell(p),\ell(p)^{\perp},\nu(p))$ は右手系をなす。

補題24.6

$M$をEuclid空間 $\mathbb{R}^N$ の向き付けられた $1$ 次元多様体とし、$\ell\colon M\rightarrow \mathbb{R}^N$ を正の向きの単位接ベクトル場(定義24.3)、$\Omega_M$ を $M$ の体積要素とし、$M$ 上で定義された $\mathbb{R}^N$ のベクトル場 $u\colon M\rightarrow \mathbb{R}^N$ を考える。$u$ に対応する $\mathbb{R}^N$ の $1$ 階微分形式を $j(u)=(j(u(p)))_{p\in M}$(定義13.2)とする。そして $C^\infty$ 級関数 $\iota_M\colon M\ni p\mapsto p\in \mathbb{R}^N$ によって $j(u)$ を引き戻すことによって得られる $M$ の $1$ 階微分形式 $\iota_M^*j(u)$ を考える。このとき、 $$ (\iota_M^*j(u))_p=(u(p)\cdot\ell(p))\Omega_{M,p}\quad(\forall p\in M) $$ が成り立つ。

Proof.

$u(p)=(u_1(p),\ldots,u_N(p))$ $(\forall p\in M)$ とすると、$\mathbb{R}^N$ の標準座標 $(t_1,\ldots,t_N)$ に対し、 $$ j(u(p))=\sum_{k=1}^{N}u_k(p)dt_{k,p}\quad(\forall p\in M) $$ である。$M$ の任意の正の向きの局所座標 $(U,x)$ に対し体積要素の定義(定義19.8)より、 $$ \Omega_{M,p}=\sqrt{G_{(U,x)}(p)}dx_{p}=\left\lvert\frac{\partial}{\partial x}p\right\rvert dx_p\quad(\forall p\in U) $$ であり、正の向きの単位接ベクトル場の定義より、 $$ \ell(p)=\left\lvert\frac{\partial}{\partial x}p\right\rvert^{-1}\frac{\partial}{\partial x}p\quad(\forall p\in U) $$ であるから、任意の $p\in U$ に対し、 $$ (\iota_M^*j(u))_p=\sum_{k=1}^{N}u_k(p)\frac{\partial t_k}{\partial x}(p)dx_p =\left(u(p)\cdot\frac{\partial}{\partial x}p\right)dx_p =(u(p)\cdot\ell(p))\Omega_{M,p} $$ である。

定理24.7(古典的なStokesの定理)

$M$ を $\mathbb{R}^3$ 内の向き付けられた曲面、$D\subset M$ を滑らかな境界を持つ開集合で $\overline{D}\subset M$ がコンパクトであるものとし、$\partial D$ には $M$ の向きに整合する向き(定義21.6)が入っているものとする。$M$ の正の向きの単位法線ベクトル場を $\nu\colon M\rightarrow\mathbb{R}^3$(定義20.2)、$\partial D$ の正の向きの単位接ベクトル場を $\ell\colon \partial D\rightarrow\mathbb{R}^3$(定義24.3)とする。また $u\colon M\rightarrow\mathbb{R}^3$ を $M$ を含む $\mathbb{R}^3$ の開集合上の $C^1$ 級ベクトル場 を $M$ 上に制限したものとする。このとき、 $$ \int_{D}({\rm rot}(u)(p)\cdot \nu(p))d\mu_D(p)=\int_{\partial D}(u(p)\cdot \ell(p))d\mu_{\partial D}(p)\quad\quad(*) $$ が成り立つ。ただし $\mu_D\colon\mathcal{B}_{D}\rightarrow [0,\infty)$ は $D$ の面積測度(定義16.8)、$\mu_{\partial D}\colon\mathcal{B}_{\partial D}\rightarrow [0,\infty)$ は $\partial D$ の線測度(定義16.9)である。

Proof.

回転の定義(定義13.5)より、 $$ j({\rm rot}(u))=\star dj(u) $$ であるから、 $$ \star j({\rm rot}(u))=(-1)^{1\cdot (3-1)}dj(u)=dj(u) $$ である。よって補題24.1より、 $$ ({\rm rot}(u)(p)\cdot \nu(p))\Omega_{M,p}=(\iota_{M}^*\star j({\rm rot}(u)))_p =(\iota_M^*dj(u))_p=(d\iota_M^*j(u))_p\quad(\forall p\in M) $$ である。ここで $3$ 番目の等号で引き戻しと外微分の可換性(命題9.12)を用いた。よってStokesの定理(定理23.3)より、 $$ \int_{D}({\rm rot}(u)(p)\cdot \nu(p))d\mu_D(p) =\int_{ D}d\iota_M^*j(u) =\int_{\partial D}\iota_{\partial D}^*\iota_M^*j(u) =\int_{\partial D}\iota_{\partial D}^*j(u)\quad\quad(**) $$ である。ここで $3$ 番目の等号は $\iota_{\partial D}^*\iota_M^*=(\iota_M\circ\iota_{\partial D})^*=\iota_{\partial D}^*$(注意9.11)による。そして補題24.6より、 $$ \int_{\partial D}\iota_{\partial D}^*j(u)=\int_{\partial D}(u(p)\cdot \ell(p))d\mu_{\partial D}(p) $$ であるから $(**)$ と合わせて $(*)$ を得る。

25. 曲方体上の微分形式に関するStokesの定理

定義25.1(Euclid空間内の $n$ 次の曲方体、曲方体の $C^k$ 級性、曲方体の跡)

Euclid空間 $\mathbb{R}^N$ 内の $n$ 次の曲方体 $(n=1,2,\ldots,N)$ とは $\mathbb{R}^n$ のある閉直方体 $I$($n$ 個の有界閉区間の直積)上で定義された連続関数 $c\colon I\rightarrow \mathbb{R}^N$ であって、$I$ を含むある 開直方体($n$個の開区間の直積)上で定義された $C^1$ 級関数に拡張できるもののことを言う。特に $1$ 次の曲方体を曲線と言う。曲方体 $c\colon I\rightarrow\mathbb{R}^N$ が $I$ を含む開直方体上で定義された $C^k$ 級関数に拡張できるとき $c$ は $C^k$ 級であると言う。曲方体 $c\colon I\rightarrow\mathbb{R}^N$ に対し $c^*=c(I)$ を $c$ の跡と言う。

定義25.2($n$ 次の曲方体上で定義された$n$階連続微分形式の積分)

$c\colon I\rightarrow\mathbb{R}^N$ を $\mathbb{R}^N$ 内の $n$ 次の曲方体とし、$\omega=(\omega_p)_{p\in c^*}$ を $c^*\subset \mathbb{R}^N$ 上で定義された $\mathbb{R}^N$ の $n$ 階連続微分形式(定義9.1)とする。曲方体の定義より $c$ は $I$ を含む開直方体上の $C^1$ 級関数に拡張できるから $c$ による引き戻し(定義9.8)により $I$ 上で定義された $\mathbb{R}^n$ の $n$ 階連続微分形式 $c^*\omega=((c^*\omega)_x)_{x\in I}$ が定義できる。そしてこれに対し各点ごとにHodgeの $\star$ 作用素(定義10.4)を作用させることで連続関数 $$ \star c^*\omega\colon I\ni x\mapsto \star(c^*\omega)_x\in\mathbb{R} $$ が得られる。そこで $\omega$ の $c$ 上での積分を、 $$ \int_{c}\omega\colon=\int_{I}\star(c^*\omega)_xdx_1\ldots dx_n $$ として定義する。

命題25.3

$c_k\colon I_k\rightarrow\mathbb{R}^N$ $(k=1,2)$ をそれぞれ $\mathbb{R}^N$ 内の $n$ 次の曲方体とし、$c_1^*=c_2^*$ が成り立ち、$C^1$ 級同相写像 $\Phi\colon I_1^{\circ}\rightarrow I_2^{\circ}$ で $c_2(\Phi(x))=c_1(x)$ $(\forall x\in I_1^{\circ})$ を満たすものが存在するとする。そして $\omega$ を $c_1^*=c_2^*$ 上で定義された $\mathbb{R}^N$ の $n$ 階連続微分形式とする。このとき、

  • $(1)$ ${\rm det}\Phi'(x)>0$ $(\forall x\in I_1^{\circ})$ ならば、

$$ \int_{c_1}\omega=\int_{c_2}\omega $$ が成り立つ。

  • $(2)$ ${\rm det}\Phi'(x)<0$ $(\forall x\in I_1^{\circ})$ ならば、

$$ \int_{c_1}\omega=-\int_{c_2}\omega $$ が成り立つ[17]

Proof.

$$ f\colon=\star c_1^*\omega\colon I_1\rightarrow\mathbb{R},\quad g\colon=\star c_2^*\omega\colon I_2\rightarrow\mathbb{R} $$ とおき $\mathbb{R}^n$ の標準座標を $(x_1,\ldots,x_n)$ とおくと、 $$ c_1^*\omega=fdx_1\wedge\ldots \wedge dx_n,\quad c_2^*\omega=gdx_1\wedge\ldots\wedge dx_n $$ である。$c_2(\Phi(x))=c_1(x)$ $(\forall x\in I_1^{\circ})$ であることと引き戻しの基本性質(注意9.9注意9.11)と外積の反対称性より $I_1^{\circ}$ 上で、 $$ \begin{aligned} &fdx_1\wedge\ldots\wedge dx_n=c_1^*\omega=(c_2\circ\Phi)^*\omega=\Phi^*c_2^*\omega=\Phi^*(gdx_1\wedge\ldots\wedge dx_n)\\ &=(g\circ\Phi)d\Phi_1\wedge\ldots\wedge d\Phi_n=(g\circ\Phi)({\rm det}\Phi')dx_1\wedge\ldots\wedge dx_n \end{aligned} $$ である。よって、 $$ f(x)=g(\Phi(x)){\rm det}\Phi'(x)\quad(\forall x\in I_1^{\circ}) $$ である。ここで変数変換公式(測度と積分8:Lebesgue測度の基本的性質補題40.3)より、 $$ \int_{c_2}\omega=\int_{I_2^{\circ}}g(x)dx=\int_{I_1^{\circ}}g(\Phi(x))\lvert {\rm det}\Phi'(x)\rvert dx $$ であるから、$(1)$ が成り立つとき、 $$ \int_{c_2}\omega=\int_{I_1^{\circ}}g(\Phi(x)) {\rm det}\Phi'(x) dx =\int_{I_1^{\circ}}f(x)dx=\int_{c_1}\omega $$ であり、$(2)$ が成り立つとき、 $$ \int_{c_2}\omega=-\int_{I_1^{\circ}}g(\Phi(x)) {\rm det}\Phi'(x) dx =-\int_{I_1^{\circ}}f(x)dx=-\int_{c_1}\omega $$ である。

定義25.4(互いに同値な曲方体、互いに逆な曲方体)

$c_k\colon I_k\rightarrow \mathbb{R}^N$ $(k=1,2)$ をそれぞれ $\mathbb{R}^N$ 内の $n$ 次の曲方体とし、$c_1^*=c_2^*$ が成り立ち、$C^1$ 級同相写像 $\Phi\colon I_1^{\circ}\rightarrow I_2^{\circ}$ で $c_2(\Phi(x))=c_1(x)$ $(\forall x\in I_1^{\circ})$ を満たすものが存在するとする。命題25.3の$(1)$ が成り立つとき $c_1,c_2$ は互いに同値であると言い、命題25.3の $(2)$ が成り立つとき $c_1,c_2$ は互いに逆であると言う。そしてこのような $\Phi$ をパラメータ変換と言う。~ 曲方体 $c$ と逆である曲方体を $-c$ と表す。

定義25.5(曲方体の和とその上の連続微分形式の積分)

$c_1,\ldots,c_m$ をそれぞれ $\mathbb{R}^N$ 内の $n$ 次の曲方体とする。このとき曲方体の形式的な和 $$ c\colon=c_1+\ldots+c_m $$ に対し、その跡を、 $$ c^*\colon=c_1^*\cup\ldots\cup c_n^* $$ と定義し、$c^*$ 上で定義された $\mathbb{R}^N$ の $n$ 階連続微分形式 $\omega$ に対し $c$ 上での $\omega$ の積分を、 $$ \int_{c}\omega\colon=\sum_{k=1}^{m}\int_{c_k}\omega $$ と定義する。

定義25.6(曲方体の境界)

$\mathbb{R}^N$ 内の $n$ 次 $(n\geq2)$ の曲方体 $c\colon I=\prod_{k=1}^{n}[a_{k,0},a_{k,1}]\rightarrow\mathbb{R}^N$ を考える。任意の $k\in \{1,\ldots,n\}$ に対し $I$ から $k$ 番目の区間 $[a_{k,0},a_{k,1}]$ を飛ばして得られる $\mathbb{R}^{n-1}$ の閉直方体を、 $$ I^{(k)}\colon=[a_{1,0},a_{1,1}]\times\ldots\times\widehat{[a_{k,0},a_{k,1}]}\times\ldots\times [a_{n,0},a_{n,1}] $$ とおき、任意の $k\in \{1,\ldots,n\}$ と $\alpha\in \{0,1\}$ に対し、 $$ \iota^{(k,\alpha)}:I^{(k)}\ni (t_1,\ldots,t_{k-1},t_{k+1},\ldots,t_n)\mapsto (t_1,\ldots,t_{k-1},a_{k,\alpha},t_{k+1},\ldots,t_n)\in I\quad\quad(*) $$ とおく。そして任意の $k\in \{1,\ldots,n\}$ と $\alpha\in \{0,1\}$ に対し $\mathbb{R}^N$ 内の $n-1$ 次の曲方体 $c^{(k,\alpha)}$ を、 $$ c^{(k,\alpha)}\colon c\circ\iota^{(k,\alpha)}\colon I^{(k)}\rightarrow \mathbb{R}^N $$ と定義する。このとき $\mathbb{R}^N$ 内の $n-1$ 次の曲方体の和 $$ \partial c\colon=\sum_{k=1}^{n}\sum_{\alpha=0,1}(-1)^{k+\alpha}c^{(k,\alpha)} $$ を $c$ の境界と言う。 $$ (\partial c)^*=\bigcup_{k=1}^{n}\bigcup_{\alpha=0,1}(c^{(k,\alpha)})^*\subset c^* $$ である。

定理25.7(曲方体上の微分形式の積分に関するStokesの定理)

$\mathbb{R}^N$ 内の $n$次 $(n\geq2)$ の $C^2$ 級曲方体 $c\colon I=\prod_{k=1}^{n}[a_{k,0},a_{k,1}]\rightarrow\mathbb{R}^N$ と、跡 $c^*=c(I)$ を含む $\mathbb{R}^N$ の開集合上の $n-1$ 階 $C^1$ 級微分形式 $\omega$ に対し、 $$ \int_{\partial c}\omega=\int_{c}d\omega $$ が成り立つ。

Proof.

引き戻しと外微分の可換性(命題9.12)より、 $$ \int_{c}d\omega=\int_{I}\star c^*d\omega=\int_{I}\star dc^*\omega\quad\quad(*) $$ であり、定義25.6における記号により、 $$ \int_{\partial c}\omega=\sum_{k=1}^{n}\sum_{\alpha=0,1}(-1)^{k+\alpha}\int_{c^{(k,\alpha)}}\omega,\quad\quad(**) $$ $$ \int_{c^{(k,\alpha)}}\omega=\int_{I^{(k)}}\star (c\circ\iota^{(k,\alpha)})^*\omega =\int_{I^{(k)}}\star (\iota^{(k,\alpha)})^*c^*\omega\quad(\forall k\in\{1,\ldots,n\},\forall\alpha\in\{0,1\})\quad\quad(***) $$ である。$\mathbb{R}^n$ の標準座標 $(x_1,\ldots,x_n)$ に対し、$I$ を含む $\mathbb{R}^n$ の開集合上の $n-1$ 階微分形式 $c^*\omega$ を、 $$ c^*\omega=\sum_{k=1}^{n}(-1)^{k-1}f_kdx_1\wedge\ldots\wedge\widehat{dx_k}\wedge \ldots\wedge dx_n\quad\quad(****) $$ と表す(ただし $\widehat{dx_k}$ は $dx_k$ を飛ばすことを意味する)。このとき、 $$ dc^*\omega=\sum_{k=1}^{n}\partial_kf_kdx_1\wedge\ldots\wedge dx_n $$ であるからFubiniの定理と微積分学の基本定理より、 $$ \begin{aligned} &\int_{I}\star dc^*\omega=\int_{I}\sum_{k=1}^{n}\partial_kf_k(x_1,\ldots,x_n)dx_1\ldots dx_n\\ &=\sum_{k=1}^{n}\sum_{\alpha=0,1}(-1)^{\alpha+1}\int_{I^{(k)}}f_k(\iota^{(k,\alpha)}(x_1,\ldots,\widehat{x_k},\ldots,x_n))dx_1\ldots\widehat{dx_k}\ldots dx_n\quad\quad(*****) \end{aligned} $$ である。また $(****)$と定義25.6の $(*)$ より、任意の $k\in \{1,\ldots,n\}$ と $\alpha\in \{0,1\}$ に対し、 $$ \int_{I^{(k)}}\star (\iota^{(k,\alpha)})^*c^*\omega=(-1)^{k-1}\int_{I^{(k)}}f_k(\iota^{(k,\alpha)}(x_1,\ldots,\widehat{x_k},\ldots,x_n))dx_1\ldots\widehat{dx_k}\ldots dx_n $$ であるから、 $$ \begin{aligned} &\sum_{k=1}^{n}\sum_{\alpha=0,1}(-1)^{k+\alpha}\int_{I^{(k)}}\star (\iota^{(k,\alpha)})^*c^*\omega\\ &=\sum_{k=1}^{n}\sum_{\alpha=0,1}(-1)^{\alpha+1}\int_{I^{(k)}}f_k(\iota^{(k,\alpha)}(x_1,\ldots,\widehat{x_k},\ldots,x_n))dx_1\ldots\widehat{dx_k}\ldots dx_n \end{aligned} $$ である。よって $(*****)$ より、 $$ \int_{I}\star dc^*\omega=\sum_{k=1}^{n}\sum_{\alpha=0,1}(-1)^{k+\alpha}\int_{I^{(k)}}\star (\iota^{(k,\alpha)})^*c^*\omega $$ であるから $(*),(**),(***)$ より、 $$ \int_{c}d\omega=\int_{\partial c}\omega $$ が成り立つ。

26. 曲方体上のGaussの発散定理と古典的なStokesの定理

定義26.1($\mathbb{R}^N$ のベクトル場の曲線に沿った線積分)

曲線 $c\colon [\alpha,\beta]\rightarrow \mathbb{R}^N$ と $c$ の跡 $c^*=c([\alpha,\beta])\subset\mathbb{R}^N$ 上で定義された $\mathbb{R}^N$ のベクトル場 $u=(u_1,\ldots,u_N)\colon c^*\rightarrow \mathbb{R}^N$ を考える。$u$ に対応する $\mathbb{R}^N$ の $1$ 階微分形式 $j(u)=(j(u(p)))_{p\in c^*}$(定義13.2)の $c$ 上での積分 $$ \int_{c}j(u)=\int_{[\alpha,\beta]}\star c^*j(u) $$ を $u$ の $c$ に沿った線積分と言う。$(x_1,\ldots,x_N)$ を $\mathbb{R}^N$ の標準座標とすると、 $$ j(u)=\sum_{k=1}^{N}u_kdx_k $$ であるから、 $$ (c^*j(u))_t=\sum_{k=1}^{N}(u_k(c(t)))(dc_k)_t =\sum_{k=1}^{N}u_k(c(t))\frac{dc_k}{dt}(t)dt =\left(u(t)\cdot c'(t)\right)dt $$ である。よって $u$ の $c$ に沿った線積分は、 $$ \int_{c}j(u)=\int_{[\alpha,\beta]}\star c^*j(u)=\int_{[\alpha,\beta]}\left(u(t)\cdot c'(t)\right)dt $$ である。

定義26.2($\mathbb{R}^N$ のベクトル場の $N-1$ 次曲方体上での面積分)

$\mathbb{R}^N$ 内の $N-1$ 次の曲方体 $c\colon I\rightarrow \mathbb{R}^N$ と $c$ の跡 $c^*=c(I)\subset \mathbb{R}^N$ 上で定義された $\mathbb{R}^N$ のベクトル場 $u=(u_1,\ldots,u_N)\colon c^*\rightarrow \mathbb{R}^N$ を考える。そして $u$ に対応する $\mathbb{R}^N$ の $1$ 階微分形式 $j(u)=(j(u(p)))_{p\in c^*}$(定義13.2)に各点ごとにHodgeの $\star$ 作用素を作用させて得られる $\mathbb{R}^N$ の $N-1$ 階微分形式 $\star j(u)=(\star j(u(p)))_{p\in c^*}$ を考える。このとき $\star j(u)$ の $c$ 上での積分 $$ \int_{c}\star j(u)=\int_{I}\star c^*\star j(u) $$ を $u$ の $c$ 上での面積分と言う。$(x_1,\ldots,x_N)$ を $\mathbb{R}^N$ の標準座標とすると、 $$ \star j(u)=\sum_{k=1}^{N}(-1)^{k-1}u_kdx_1\wedge\ldots\wedge \widehat{dx_k}\wedge \ldots\wedge dx_N $$ であるから、 $$ \begin{aligned} (c^*\star j(u))_t&=\sum_{k=1}^{N}(-1)^{k-1}u_k(c(t))dc_{1,t}\wedge\ldots\wedge \widehat{dc_{k,t}}\wedge \ldots\wedge dc_{N,t}\\ &={\rm det}\left(u(c(t)),\frac{\partial c}{\partial t_1}(t),\ldots,\frac{\partial c}{\partial t_{N-1}}(t)\right)dt_1\wedge\ldots\wedge dt_{N-1}\\ &=(-1)^{N-1}\left(u(t)\cdot \left(\frac{\partial c}{\partial t_1}(t)\times \ldots\times\frac{\partial c}{\partial t_{N-1}}(t)\right)\right)dt_1\wedge\ldots\wedge dt_{N-1} \end{aligned} $$ である。ただし $(t_1,\ldots,t_{N-1})$ は $\mathbb{R}^{N-1}$ の標準座標であり、右辺はベクトル積(定義11.1)である。よって $u$ の $c$ 上での面積分は、 $$ \int_{c}\star j(u)=\int_{I}\star c^*\star j(u) =\int_{I}(-1)^{N-1}\left(u(t)\cdot \left(\frac{\partial c}{\partial t_1}(t)\times \ldots\times\frac{\partial c}{\partial t_{N-1}}(t)\right)\right)dt_1\ldots dt_{N-1} $$ と表される。

定義26.3($\mathbb{R}^N$ の $N$ 次の曲方体上での体積分)

$\mathbb{R}^N$ 内の $N$ 次の曲方体 $c\colon I\rightarrow \mathbb{R}^N$ と $c$ の跡 $c^*=c(I)\subset \mathbb{R}^N$ 上で定義された連続関数 $u\colon c^*\rightarrow\mathbb{R}$ を考える。$\mathbb{R}^N$ の $N$ 階連続微分形式 $\star u=(\star u(p))_{p\in c^*}$ の $c$ 上での積分 $$ \int_{c}\star u=\int_{I}\star c^*\star u $$ を $u$ の $c$ 上での体積分と言う。$\mathbb{R}^N$ の標準座標を $(x_1,\ldots,x_N)$ とすると、 $$ \begin{aligned} c^*\star u&=c^*(udx_1\wedge\ldots\wedge dx_N) =(u\circ c)dc_1\wedge\ldots\wedge dc_N\\ &=(u\circ c)({\rm det}(c'))dx_1\wedge\ldots\wedge dx_N \end{aligned} $$ であるから $u$ の $c$ 上での体積分は、 $$ \int_{c}\star u=\int_{I}\star c^*\star u=\int_{I}u(c(x)){\rm det}(c')(x)dx $$ である。

命題26.4(曲方体上のGaussの発散定理)

$\mathbb{R}^N$ の $N$ 次の曲方体 $c\colon I\rightarrow\mathbb{R}^N$ と、跡 $c^*=c(I)\subset \mathbb{R}^N$ を含む $\mathbb{R}^N$ の開集合上で定義された $\mathbb{R}^N$ の $C^1$ 級ベクトル場 $u$ に対し、 $$ \int_{c}\star {\rm div}(u)=\int_{\partial c}\star j(u) $$ が成り立つ。左辺は ${\rm div}(u)$ の $c$ 上での体積分(定義26.3)、右辺は $u$ の $\partial c$ 上での面積分(定義26.2)である。

Proof.

発散の定義(定義13.3)より $\star{\rm div}(u)=d\star j(u)$ である。よってStokesの定理(定理25.7)より、 $$ \int_{c}\star {\rm div}(u)=\int_{c}d\star j(u)=\int_{\partial c}\star j(u) $$ である。

命題26.5(曲方体上の古典的なStokesの定理)

$\mathbb{R}^3$ の $2$ 次の $c\colon I\rightarrow \mathbb{R}^3$と、跡 $c^*=c(I)\subset \mathbb{R}^3$ を含む $\mathbb{R}^3$ の開集合上で定義された $\mathbb{R}^3$ の $C^1$ 級ベクトル場 $u$ に対し、 $$ \int_{c}\star j({\rm rot}(u))=\int_{\partial c}j(u) $$ が成り立つ。左辺は ${\rm rot}(u)$ の $c$ 上での面積分(定義26.2)であり、右辺は $u$ の $\partial c$ 上での線積分(定義26.1)である。

Proof.

回転の定義(定義13.5)より $j({\rm rot}(u))=\star dj(u)$ であるから $\star j({\rm rot}(u))=dj(u)$ である。よってStokesの定理(定理25.7)より、 $$ \int_{c}\star j({\rm rot}(u))=\int_{c}dj(u)=\int_{\partial c}j(u) $$ である。


参考文献

脚注

  1. 命題1.5より $p_0$ の周りの $M$ のある局所座標 $(U,\varphi)$ に対し $f\circ\varphi^{-1}\colon\varphi(U)\rightarrow \mathbb{R}^N$ が $\varphi(p_0)$ において微分可能であるならば $p_0$ の周りの $M$ の別の局所座標 $(V,\psi)$ に対しても $f\circ\psi^{-1}\colon\psi(V)\rightarrow \mathbb{R}^N$ は $\psi(p_0)$ において微分可能である。
  2. 命題1.5より $M$ の $1$ つのアトラス(定義2.1) $\{(U_j,\varphi_j)\}_{j\in J}$ を取り任意の $j\in J$ に対し $f\circ\varphi_j^{-1}\colon\varphi_j(U_j)\rightarrow \mathbb{R}^N$ が $C^k$ 級ならば $f$ は $C^k$ 級である。
  3. 定義4.1で述べているように $\frac{\partial}{\partial x_1}p,\ldots,\frac{\partial}{\partial x_n}p$ は線形独立であるから $T_p(M)$ の基底である。
  4. $b_i=\sum_{j=1}^{n}a_j\frac{\partial y_i}{\partial x_j}(p)\frac{\partial}{\partial y_i}p$ $(i=1,\ldots,n)$ であることによる。
  5. $d\varphi^{-1}_{\varphi(p)}\colon\mathbb{R}^n\rightarrow T_p(M)$ と $df_p\colon T_p(M)\rightarrow T_{f(p)}(H)$ がいずれも単射であることによる。
  6. $f_{i_1,\ldots,i_r}(p)$ は定義9.1の $(*)$ のように表せるから $p_0$ において微分可能である。
  7. $(f^*\omega)_p\colon T_p(M)\times\ldots\times T_p(M)\rightarrow\mathbb{R}$ は反対称多重線型写像であるから $(f^*\omega)_p\in \bigwedge^rT^*_p(M)$ である。
  8. $u_1,\ldots,u_N\in\mathbb{R}^N$ が正規直交基底ならば $A=(u_1,\ldots,u_N)\in \mathbb{M}_{N\times N}(\mathbb{R})$ に対し $A^tA=1$ であるので ${\rm det}(u_1,\ldots,u_N)={\rm det}(A)\in\{-1,1\}$ である。
  9. $\widehat{dy_k}$ は $dy_k$ を飛ばすことを意味する。
  10. Urysohnの補題(定理15.5)より $g\in C_{c,+}^{\infty}(\mathbb{R})$ で $\text{supp}(g)\subset (0,1)$、 $\int_{0}^{1}g(t)dt=1$ を満たすものが取れる。これに対し $f(t):=\int_{0}^{t}g(s)ds$ $(\forall t\in \mathbb{R})$ とおけば $f\in C^{\infty}(\mathbb{R})$ は条件 $(*)$ を満たす。
  11. 第二可算性より $M_i$ は $\sigma$-コンパクトであるからRadon測度 $\mu_{M_i}$ は $\sigma$-有限である。また測度と積分1:測度論の基礎用語命題2.8より $\mathcal{B}_{M_1\times\ldots\times M_k}=\mathcal{B}_{M_1}\otimes\ldots\otimes \mathcal{B}_{M_k}$ である。
  12. $M$ の可算なアトラス $\{(U_i,\varphi_i)\}_{i\in\mathbb{N}}$ と $H$ の可算なアトラス $\{(V_j,\psi_j)\}_{j\in\mathbb{N}}$ に対し $\{U_i\cap \Phi^{-1}(V_j)\}_{i,j\in\mathbb{N}}$ は $M$ の開被覆である。$M$ の開集合は $\sigma$-コンパクトであるから各 $i,j\in\mathbb{N}$ に対し $B\cap U_i\cap \Phi^{-1}(V_j)$ は $\sigma$-コンパクトな $mu_M$-零集合である。そして $\Phi(B)=\bigcup_{i,j\in\mathbb{N}}\Phi(B\cap U_i\cap \Phi^{-1}(V_j) )$ である。
  13. 注意17.3より任意の $p\in B_0$ に対し $d\Phi_p\colon T_p(M)\rightarrow T_{\Phi(p)}(H)$ は単射である。
  14. $f\colon\mathbb{R}^N\rightarrow \mathbb{R}$ を $f(x)\colon=\lvert x\rvert^2-1$ とおけば $S_{N-1}=\{x\in\mathbb{R}^N:f(x)=0\}$ であり任意の $x\in S_{N-1}$ に対し $df_x=\sum_{j=1}^{N}2x_jdx_j\neq0$ である。
  15. $(U,x_1,\ldots,x_N)$ は $\mathbb{R}^N$ の正の向きの局所座標なので ${\rm det}\left(\frac{\partial}{\partial x_1}p,\ldots,\frac{\partial}{\partial x_N}p\right)>0$である。
  16. 実際、任意の $p\in M$ と $p$ の周りの任意の正の向きの局所座標 $(U,x),(V,y)$ に対し $\frac{\partial}{\partial x}p=\frac{\partial y}{\partial x}(p)\frac{\partial}{\partial y}p=\left\lvert \frac{\partial y}{\partial x}(p)\right\rvert\frac{\partial}{\partial y}p$ であるから $\left\lvert\frac{\partial}{\partial x}p\right\rvert^{-1}\frac{\partial}{\partial x}p=\left\lvert\frac{\partial}{\partial y}p\right\rvert^{-1}\frac{\partial}{\partial y}p$ である。
  17. ${\rm det}\Phi'(x)\neq0$ $(\forall x\in I_1^{\circ})$ であり、$I_1^{\circ}$ は連結であるから ${\rm det}\Phi'(x)>0$ $(\forall x\in I_1^{\circ})$ か ${\rm det}\Phi'(x)<0$ $(\forall x\in I_1^{\circ})$ のうちいずれかが成り立つことに注意。