測度と積分
測度と積分
本稿では測度と積分の基本事項について論じる。測度は位相と並び、無限次元解析学における基本言語である。~ $\mathbb{N}=\{1,2,3,\ldots\}$ とする。
分割版である入門テキスト「測度と積分」もご覧ください。
1. $\sigma$-加法族、可測空間、Borel集合族
定義1.1($\sigma$-加法族、可測空間)
$X$ を空でない集合とする。$\mathfrak{M}\subset 2^X$ が次の条件を満たすとき $\mathfrak{M}$ を $X$ 上の $\sigma$-加法族と言う。
- $X\in \mathfrak{M}$.
- 任意の $E\in \mathfrak{M}$ に対し $X\backslash E\in \mathfrak{M}$.
- $\mathfrak{M}$ の任意の可算部分族 $\{E_n\}_{n\in \mathbb{N}}$ に対し $\bigcup_{n\in \mathbb{N}}E_n\in \mathfrak{M}$.
$\sigma$-加法族が備わった集合のことを可測空間と言う。可測空間 $X$ に $\sigma$-加法族 $\mathfrak{M}$ が備わっていることを明示的に表す場合は可測空間 $(X,\mathfrak{M})$ と表現する。可測空間 $(X,\mathfrak{M})$ の部分集合 $E\subset X$ が可測集合であるとは $E\in \mathfrak{M}$ であることを言う。
命題1.2
可測空間 $(X,\mathfrak{M})$ に対し次が成り立つ。
- $\emptyset\in\mathfrak{M}$.
- $\mathfrak{M}$ の任意の可算部分族 $\{E_n\}_{n\in \mathbb{N}}$ に対し $\bigcap_{n\in \mathbb{N}}E_n\in \mathfrak{M}$.
- 任意の $E,F\in \mathfrak{M}$ に対し $E\cup F,E\cap F,E\backslash F\in \mathfrak{M}$.
証明
自明である。
定義1.3(相対 $\sigma$-加法族)
$(X,\mathfrak{M})$ を可測空間とする。空でない $A\subset X$ に対し、
$$\mathfrak{M}_A:=\{E\cap A:E\in \mathfrak{M}\}$$
は $A$ 上の $\sigma$-加法族である。これを $\mathfrak{M}$ から誘導される $A$ 上の相対 $\sigma$-加法族と言う。
定義1.4(部分集合族から生成される $\sigma$-加法族)
$X$ を空でない集合、$\mathcal{I}\subset 2^X$ とする。$\mathcal{I}$ を含む $X$ 上の $\sigma$-加法族全ての交叉は $\mathcal{I}$ を含む最小の $\sigma$-加法族である。これを $\sigma(\mathcal{I})$ と表し、$\mathcal{I}$ から生成される $X$ 上の $\sigma$-加法族と言う。
定義1.5(位相空間のBorel集合族)
$(X,\mathcal{O}_X)$ を位相空間とする。位相 $\mathcal{O}_X$ から生成される $X$ 上の $\sigma$-加法族
$$\mathcal{B}_X:=\sigma(\mathcal{O}_X)$$
を $X$ のBorel集合族と言い、$\mathcal{B}_X$ の要素を $X$ のBorel集合と言う。
補題1.6
$X$ を空でない集合、$A\subset X$ を空でない部分集合、$\mathcal{I}\subset 2^X$ とし、
$$\mathcal{I}\cap A:=\{I\cap A: I\in \mathcal{I}\},\quad \sigma(\mathcal{I})\cap A:=\{E\cap A:E\in \sigma(\mathcal{I})\}$$
とおく。そして $\mathcal{I}\cap A\subset 2^A$ から生成される $A$ 上の $\sigma$-加法族を $\sigma_A(\mathcal{I}\cap A)$ とおく。 このとき、
$$\sigma_A(\mathcal{I}\cap A)=\sigma(\mathcal{I})\cap A$$
が成り立つ。
証明
$\sigma(\mathcal{I})\cap A$ は $A$ 上の $\sigma$-加法族であるから、
$$\sigma_A(\mathcal{I}\cap A)\subset \sigma(\mathcal{I})\cap A$$
である。
$$\mathfrak{M}:=\{E\in 2^X:E\cap A\in\sigma_A(\mathcal{I}\cap A)\}$$
は $X$ 上の $\sigma$-加法族であり $\mathcal{I}$ を含むから $\sigma(\mathcal{I})\subset \mathfrak{M}$ である。よって、
$$\sigma(\mathcal{I})\cap A\subset \sigma_A(\mathcal{I}\cap A)$$
である。
命題1.7(相対位相と相対Borel集合族)
$(X,\mathcal{O}_X)$ を位相空間、$A\subset X$ を空でない部分集合とする。このとき相対位相による位相空間 $(A,\mathcal{O}_A)$ 上のBorel集合族 $\mathcal{B}_A$ は $X$ 上のBorel集合族 $\mathcal{B}_X$ から誘導される $A$ 上の相対 $\sigma$-加法族と一致する。
証明
命題1.4より、
$$\mathcal{B}_A=\sigma_A(\mathcal{O}_A)=\sigma_A(\mathcal{O}_X\cap A)=\sigma(\mathcal{O}_X)\cap A=\mathcal{B}_X\cap A.$$
2. 写像の可測性、直積可測空間
定義2.1(可測写像(可測関数))
可測空間 $(X,\mathfrak{M})$ から可測空間 $(Y,\mathfrak{N})$ への写像 $f:X\rightarrow Y$ が可測写像(可測関数)であるとは、任意の $E\in \mathfrak{N}$ に対し $f^{-1}(E)\in\mathfrak{M}$ が成り立つことを言う。
定義2.2(Borel写像(Borel関数))
位相空間 $X$ から位相空間 $Y$ への写像 $f:X\rightarrow Y$ がBorel集合族 $\mathcal{B}_X, \mathcal{B}_Y$ に関して可測写像であるとき、$f$ をBorel写像(Borel関数)と言う。
命題2.3(写像が可測であるための条件)
$(X,\mathfrak{M}), (Y,\mathfrak{N})$ を可測空間とし、$f:X\rightarrow Y$ とする。もしある $\mathcal{I}\subset 2^Y$ に対し $\mathfrak{N}=\sigma(\mathcal{I})$ であり、任意の $I\in \mathcal{I}$ に対し $f^{-1}(I)\in \mathfrak{M}$ であるならば、$f$ は可測写像である。
証明
$$\mathcal{I}\subset \{E\in 2^Y:f^{-1}(E)\in \mathfrak{M}\}$$
であり、右辺は $Y$ 上の $\sigma$-加法族であるから $\mathfrak{N}=\sigma(\mathcal{I})$ を含む。
系2.4(連続写像はBorel写像)
連続写像はBorel写像である。
定義2.5(直積 $\sigma$-加法族、直積可測空間)
$J$ を集合とし、各 $j\in J$ に対し可測空間 $(X_j,\mathfrak{M}_j)$ が与えられているとする。そして直積集合 $X=\prod_{j\in J}X_j$ から $X_j$ 上への自然な射影を $\pi_j:X\rightarrow X_j$ $(\forall j\in J)$ とおく。このとき $X$ 上の $\sigma$-加法族
$$\bigotimes_{j\in J}\mathfrak{M}_j:=\sigma(\{\pi_j^{-1}(E): j\in J,E\in \mathfrak{M}_j\})$$
を $(\mathfrak{M}_j)_{j\in J}$ の直積 $\sigma$-加法族と言い、可測空間
$$\left(\prod_{j\in J}X_j,\text{ } \bigotimes_{j\in J}\mathfrak{M}_j\right)$$
を $( (X_j,\mathfrak{M}_j) )_{j\in J}$ の直積可測空間と言う。
命題2.6(直積可測空間値写像が可測であるための条件)
$(X,\mathfrak{M}), (Y,\mathfrak{N})$ を可測空間とし、$(Y,\mathfrak{N})$ は可測空間の族 $( (Y_j,\mathfrak{N}_j) )_{j\in J}$ の直積可測空間であるとする。そして $\pi_j:Y\rightarrow Y_j$ ($\forall j\in J$) を自然な射影とする。このとき $f:X\rightarrow Y$ に対し次は互いに同値である。
- $(1)$ $f$ は可測写像である。
- $(2)$ 任意の $j\in J$ に対し $\pi_j\circ f:X\rightarrow Y_j$ は可測写像である。
証明
命題2.3による。
補題2.7(可算個の第二可算空間の直積位相空間は第二可算)
$J$ を可算集合とし、各 $j\in J$ に対し第二可算空間 $X_j$ が与えられているとする。このとき $(X_j)_{j\in J}$ の直積位相空間 $\prod_{j\in J}X_j$ は第二可算空間である。((直積位相空間についてはネットによる位相空間論の7やフィルターによる位相空間論の6を参照。))
証明
$J=\{j_n\}_{n\in \mathbb{N}}$ と表す。各 $n\in \mathbb{N}$ に対し位相空間 $X_{j_n}$ の可算基底を $\{U_{n,m}\}_{m\in\mathbb{N}}$ と表す。このとき、
$$\{\pi_{j_1}^{-1}(U_{1,m_1})\cap \ldots\cap\pi_{j_n}^{-1}(U_{n,m_n}):n\in\mathbb{N}, m_1,\ldots,m_n\in \mathbb{N}\}\quad\quad(*)$$
は直積位相空間 $\prod_{j\in J}X_j$ の基底であり、これは可算である。
命題2.8(可算個の第二可算空間の直積位相空間のBorel集合族は直積Borel集合族)
$J$ を可算集合とし、各 $j\in J$ に対し第二可算空間 $X_j$ が与えられているとする。このとき $(X_j)_{j\in J}$ の直積位相空間 $X=\prod_{j\in J}X_j$ のBorel集合族 $\mathcal{B}_X$ と $(\mathcal{B}_{X_j})_{j\in J}$ の直積 $\sigma$-加法族 $\bigotimes_{j\in J}\mathcal{B}_{X_j}$ に対し、
$$ \mathcal{B}_X=\bigotimes_{j\in J}\mathcal{B}_{X_j}$$
が成り立つ。
証明
各 $j\in J$ に対し自然な射影 $\pi_j:X\rightarrow X_j$ は連続写像であるので $\bigotimes_{j\in J}\mathcal{B}_{X_j}\subset \mathcal{B}_X$ が成り立つ。補題2.7より $X$ は第二可算空間であり、$X$ の任意の開集合 $U$ は補題2.7の $(*)$ に属する可算個の要素の合併で表せるので $U\in \bigotimes_{j\in J}\mathcal{B}_{X_j}$ である。よって $\mathcal{B}_X\subset \bigotimes_{j\in J}\mathcal{B}_{X_j}$ が成り立つ。
系2.9
$\mathcal{B}_{\mathbb{R}^N}=\bigotimes_{n=1}^{N}\mathcal{B}_{\mathbb{R}}$ が成り立つ。
3. 拡張された実数系 $[-\infty,\infty]$
定義3.1(拡張された実数系$[-\infty,\infty]$)
$\infty,-\infty\notin\mathbb{R}$ とし、$[-\infty,\infty]:=\mathbb{R}\cup\{\infty,-\infty\}$ とおく。$[-\infty,\infty]$ の二項関係 $\leq$ を $\mathbb{R}$ の全順序 $\leq$ の拡張として次のように定義する。
- $\infty\leq\infty$、$-\infty\leq-\infty$.
- 任意の $x\in \mathbb{R}\cup\{-\infty\}$ に対し $x\leq\infty$ であるが $-\infty\leq x$ ではない。
- 任意の $x\in \mathbb{R}\cup\{\infty\}$ に対し $-\infty\leq x$ であるが $x\leq \infty$ ではない。
このとき $\leq$ は $[-\infty,\infty]$ の全順序である。この全順序による全順序集合 $[-\infty,\infty]$ を拡張された実数系と言う。$\infty$、$-\infty$ はそれぞれ $[-\infty,\infty]$ の最大元、最小元であり、$[-\infty,\infty]$ の任意の空でない部分集合は上限(最小の上界)と下限(最大の下界)を持つ。(($\mathbb{R}$の任意の上に有界(resp.下に有界)な部分集合が上限(resp. 下限)を持つことによる。))
定義3.2(拡張された実数系における区間)
任意の $a,b\in [-\infty,\infty]$ に対し、
- $[a,b]:=\{x\in [-\infty,\infty]:a\leq x\leq b\}$
- $(a,b]:=\{x\in [-\infty,\infty]:a<x\leq b\}$
- $[a,b):=\{x\in [-\infty,\infty]:a\leq x<b\}$
- $(a,b):=\{x\in [-\infty,\infty]:a<x<b\}$
と定義する。
定義3.3(拡張された実数系における演算)
$\mathbb{R}$ における演算を次のように $[-\infty,\infty]$ に拡張する。
- 任意の $x\in (-\infty,\infty]$ に対し $x+\infty=\infty+x=\infty$.
- 任意の $x\in [-\infty,\infty)$ に対し $x-\infty=-\infty+x=-\infty$.
- $0\infty=\infty0=0$、$0(-\infty)=(-\infty)0=0$
- 任意の $x\in (0,\infty]$ に対し $x\infty=\infty x=\infty$、$x(-\infty)=(-\infty) x=-\infty$.
- 任意の $x\in [-\infty,0)$ に対し $x\infty=\infty x=-\infty$、$x(-\infty)=(-\infty) x=\infty$.
- $-(-\infty)=\infty$.
定義3.4(絶対値)
任意の $x\in [-\infty,\infty]$ に対し,
$$ \lvert x\rvert:=\text{max}(x,-x)\in [0,\infty]$$
とおく。これは $\mathbb{R}$ の絶対値の拡張である。
定義3.5(非負数の総和)
$J$ を空でない集合とし、各 $j\in J$ に対し $x_j\in [0,\infty]$ が与えられているとする。$J$ の有限部分集合全体 $\mathcal{F}_J$ に対し、
$$\sum_{j\in J}x_j=\sup_{F\in \mathcal{F_J}}\sum_{j\in F}x_j\in [0,\infty]$$
と定義する。(($\mathbb{R}$ の上に有界な単調増加ネットは上限に収束するから、この定義は $x_j\in [0,\infty)$ $(\forall j\in J)$ で $\sum_{j\in J}x_j$ が収束する場合と矛盾しない。総和についてはBanach空間と有界線型作用素を参照。))
4. $[-\infty,\infty]$, $\mathbb{C}$, $\mathbb{R}$ に値を取る関数の可測性
定義4.1($[-\infty,\infty]$ 値関数の可測性)
拡張された実数系 $[-\infty,\infty]$ の区間全体 $\mathcal{I}$ から生成される $[-\infty,\infty]$ 上の $\sigma$-加法族を $\mathcal{B}_{[-\infty,\infty]}=\sigma(\mathcal{I})$ とおき、これを $[-\infty,\infty]$ 上のBorel集合族と言う。可測空間 $X$ と関数 $f:X\rightarrow[-\infty,\infty]$ に対し $f$ が可測であるとは $\mathcal{B}_{[-\infty,\infty]}$ に関して可測であることを言う。
注意4.2
$\mathcal{B}_{[-\infty,\infty]}$ の $\mathbb{R}$ 上の相対 $\sigma$-加法族は補題1.6より $\mathcal{R}$ の区間全体 $\mathcal{I}\cap \mathbb{R}$ から生成される $\sigma$-加法族であるから $\mathbb{R}$ 上のBorel集合族 $\mathcal{B}_{\mathbb{R}}$ と一致する。(($\mathbb{R}$ の任意の開集合は可算個の開区間の合併であることに注意。))
定義4.3($\mathbb{R},\mathbb{C},\mathbb{R}^N$ 値関数の可測性)
可測空間 $X$ に対し $f:X\rightarrow\mathbb{R}$(resp. $f:X\rightarrow \mathbb{C}$, $f:X\rightarrow\mathbb{R}^N$) が可測関数であるとは、$\mathcal{B}_{\mathbb{R}}$(resp. $\mathcal{B}_{\mathbb{C}}$, $\mathcal{B}_{\mathbb{R}^N}$)に関して可測であることを言う。注意4.2より $\mathcal{B}_{\mathbb{R}}$ は $\mathcal{B}_{[-\infty,\infty]}$ の相対 $\sigma$-加法族であるから、この $\mathbb{R}$ 値関数の可測性の定義は $[-\infty,\infty]$ 値関数の可測性の定義3.1と矛盾しない。
注意4.4
可測空間 $X$ に対し $f=(f_1,\ldots,f_N): X\rightarrow \mathbb{R}^N$(resp. $f=f_1+if_2:X\rightarrow\mathbb{C}$)が可測関数であることは、系2.9と命題2.6より $f_1,\ldots,f_N:X\rightarrow\mathbb{R}$(resp. $f_1,f_2:X\rightarrow\mathbb{R}$)がそれぞれ可測関数であることと同値である。
定義4.5($(a<f)$など)
関数 $f:X\rightarrow [-\infty,\infty]$ と $a\in [-\infty,\infty]$ に対し、
$$(a<f):=\{x\in X:a<f(x)\},\quad(a\leq f):=\{x\in X:a\leq f(x)\}$$
と定義する。$a,b\in [-\infty,\infty]$ に対し $(f< a), (f\leq a),(f=a), (a\leq f<b), (a<f\leq b), (a\leq f\leq b)$ なども同様にして定義する。
次の命題は極めて基本的である。
命題4.6($[-\infty,\infty]$ 値関数の可測性の特徴付け)
$(X,\mathfrak{M})$ を可測空間とする。$f:X\rightarrow[-\infty,\infty]$ に対し次は互いに同値である。
- $(1)$ $f$ は可測関数である。
- $(2)$ 任意の $a\in \mathbb{R}$ に対し $(a<f)\in \mathfrak{M}$.
- $(3)$ 任意の $a\in \mathbb{R}$ に対し $(a\leq f)\in \mathfrak{M}$.
- $(4)$ 任意の $a\in \mathbb{R}$ に対し $(f<a)\in \mathfrak{M}$.
- $(5)$ 任意の $a\in \mathbb{R}$ に対し $(f\leq a)\in \mathfrak{M}$.
証明
$(1)\Rightarrow(2)$ は自明である。~ $(2)\Rightarrow(3)$ は $(a\leq f)=\bigcap_{n\in\mathbb{N}}(a-\frac{1}{n}<f)$ による。~ $(3)\Rightarrow(4)$ は $(f<a)=X\backslash (a\leq f)$ による。~ $(4)\Rightarrow(5)$ は $(f\leq a)=\bigcap_{n\in\mathbb{N}}(f<a+\frac{1}{n})$ であることによる。~ $(5)\Rightarrow(2)$ は $(a<f)=X\backslash (f\leq a)$ であることによる。~ $(2),(3),(4),(5)$ が成り立つならば $[-\infty,\infty]$ の任意の区間 $I$ に対し $f^{-1}(I)\in \mathfrak{M}$ であるから命題2.3より $(1)$ が成り立つ。
定義4.7(関数 $f:X\rightarrow [-\infty,\infty]$ の非負部分、非正部分、絶対値 $f_+,f_-,\lvert f\rvert:X\rightarrow[0,\infty]$ )
関数 $f:X\rightarrow[-\infty,\infty]$ に対し、
$$f_{\pm}:X\ni x\mapsto \text{max} (\pm f(x),0)\in [0,\infty]$$
と定義する。$f_+$ を $f$ の非負部分、$f_-$ を $f$ の非正部分と言う。
$$f(x)=f_+(x)-f_-(x),\quad \lvert f(x)\rvert=f_{+}(x)+f_-(x)\quad(\forall x\in X)$$
である。任意の $p\in (0,\infty)$ に対し、
$$\lvert f\rvert^p:X\ni x\mapsto \lvert f(x)\rvert^p\in [0,\infty]$$
と定義する。ただし $0^p=0$, $\infty^p=\infty$ とする。
命題4.8(可測関数の基本的な演算でできる関数は可測関数)
$(X,\mathfrak{M})$ を可測空間とする。次が成り立つ。
- $(1)$ 可測関数 $f:X\rightarrow [-\infty,\infty]$ と $a\in \mathbb{R}$ に対し $af:X\ni x\mapsto af(x)\in [-\infty,\infty]$ は可測関数である。
- $(2)$ 可測関数 $f,g:X\rightarrow [-\infty,\infty]$ に対し、$f+g:X\ni x\mapsto f(x)+g(x)\in [-\infty,\infty]$ は定義できる((つまり任意の $x\in X$ に対し $\{f(x),g(x)\}\neq\{\infty,-\infty\}$。)) 限り可測関数である。
- $(3)$ 有限個の可測関数 $f_1,\ldots,f_n:X\rightarrow [-\infty,\infty]$ に対し、
$$\text{max} (f_1,\ldots,f_n):X\ni x\mapsto \text{max} (f_1(x),\ldots,f_n(x))\in [-\infty,\infty]$$
$$\text{min} (f_1,\ldots,f_n):X\ni x\mapsto \text{min} (f_1(x),\ldots,f_n(x))\in [-\infty,\infty]$$ は可測関数である。
- $(4)$ $X\rightarrow [-\infty,\infty]$ の可測関数列 $(f_n)_{n\in \mathbb{N}}$ に対し、
$$\sup_{n\in \mathbb{N}}f_n:X\ni x\mapsto \sup_{n\in \mathbb{N}}f_n(x)\in [-\infty,\infty]$$
$$\inf_{n\in\mathbb{N}}f_n:X\ni x\mapsto \inf_{n\in \mathbb{N}}f_n(x)\in [-\infty,\infty]$$
は可測関数である。
- $(5)$ 可測関数 $f:X\rightarrow [-\infty,\infty]$ と $p\in (0,\infty)$ に対し、$f_+,f_-,\lvert f\rvert^p:X\rightarrow [0,\infty]$ は可測関数である。
- $(6)$ 可測関数 $f,g:X\rightarrow \mathbb{C}$ に対し $fg:X\ni x\mapsto f(x)g(x)\in \mathbb{C}$ は可測関数である。
証明
命題4.6を用いる。~
- $(1)$ 自明である。
- $(2)$ 任意の $a\in \mathbb{R}$ に対し、
$$(a<f+g)=\bigcup_{r\in \mathbb{Q}}(a-r<f)\cap (r<g)\in \mathfrak{M}.$$
- $(3)$ 任意の $a\in \mathbb{R}$ に対し、
$$(a<\text{max}(f_1,\ldots,f_n))=\bigcup_{k=1}^{n}(a<f_k)\in \mathfrak{M},\quad (\text{min}(f_1,\ldots,f_n)<a)=\bigcup_{k=1}^{n}(f_k<a)\in\mathfrak{M}.$$
- $(4)$ 任意の $a\in \mathbb{R}$ に対し、
$$(a<\sup_{n\in \mathbb{N}}f_n)=\bigcup_{n\in \mathbb{N}}(a<f_n)\in \mathfrak{M},\quad (\inf_{n\in \mathbb{N}}f_n<a)=\bigcup_{n\in \mathbb{N}}(f_n<a)\in\mathfrak{M}.$$
- $(5)$ $(3)$ より $f_{\pm}=\text{max} (\pm f,0)$ は可測関数である。よって $(2)$ より $\lvert f\rvert=f_++f_-$ も可測関数であり、したがって $\lvert f\rvert^p$ も可測関数である。
- $(6)$ 注意4.4より $f,g$ が共に実数値である場合を考えれば十分である。
$$fg=\frac{1}{4}(\lvert f+g\rvert^2-\lvert f-g\rvert^2)$$
であるから $(2),(5)$ より $fg$ は可測関数である。
5. 非負値可測関数の非負値可測単関数の各点単調増加列による近似
定義5.1(指示関数)
$X$ を集合とする。$E\subset X$ に対し $\chi_E:X\rightarrow \mathbb{R}$ を、
$$\chi_E(x)=\left\{\begin{array}{ll}1\quad&(x\in E)\\0&(x\in X\backslash E)\end{array}\right.$$
と定義する。$\chi_E$ を $E$ の指示関数と言う。
命題5.2(可測集合の指示関数の可測性)
$(X,\mathfrak{M})$ を可測空間、$E\in \mathfrak{M}$ とすると $\chi_E:X\rightarrow \mathbb{R}$ は可測関数である。
証明
任意の $a\in \mathbb{R}$ に対し、
$$(a<\chi_E)=\left\{\begin{array}{ll}X\quad&(a<0)\\E&(0\leq a<1)\\\emptyset&(1\leq a)\end{array}\right.$$
であるから $(a<\chi_E)\in \mathfrak{M}$ である。
定義5.3(可測関数の空間、可測単関数空間)
$(X,\mathfrak{M})$ を可測空間とする。命題4.8より、
$$\mathcal{L}(X,\mathfrak{M}):=\{f:X\rightarrow \mathbb{C}: f\text{は可測}\}$$
は各点ごとの演算で $\mathbb{C}$ 上の線型空間をなす。そこで可測集合の指示関数全体から生成される $\mathcal{L}(X,\mathfrak{M})$ の線型部分空間を、
$$\mathcal{S} (X,\mathfrak{M}):=\text{span}\{\chi_E:E\in \mathfrak{M}\}\subset \mathcal{L}(X,\mathfrak{M})$$
とおく。$\mathcal{S} (X,\mathfrak{M})$ の元を $(X,\mathfrak{M})$ 上の可測単関数と言う。
命題5.4(可測単関数の特徴付け)
$(X,\mathfrak{M})$ を可測空間とする。
$$\mathcal{S}(X,\mathfrak{M})=\{f\in \mathcal{L}(X,\mathfrak{M}):f(X) \text{は有限集合}\}$$
が成り立つ。
証明
$\subset$ は自明である。$f(X)$ が有限集合であるような $f\in \mathcal{L}(X,\mathfrak{M})$ に対し $f(X)=\{a_1,\ldots,a_n\}$ なる互いに異なる $a_1,\ldots,a_n\in \mathbb{C}$ を取ると、
$$(f=a_j)\in\mathfrak{M}\quad(j=1,\ldots,n)$$
であり、$f=\sum_{j=1}^{n}a_j\chi_{(f=a_j)}\in \mathcal{S}(X,\mathfrak{M})$ である。
定理5.5(非負値可測関数の非負値可測単関数の各点単調増加列による近似)
$(X,\mathfrak{M})$ を可測空間とする。任意の非負値可測関数 $f:X\rightarrow[0,\infty]$ に対し非負値可測単関数の列 $(f_n)_{n\in\mathbb{N}}$ を、
$$f_n(x):=\sum_{k=1}^{n2^n}\frac{k-1}{2^n}\chi_{(\frac{k-1}{2^n}\leq f<\frac{k}{2^n})}(x)+n\chi_{(n\leq f)}(x)\quad(\forall n\in\mathbb{N},\forall x\in X)$$
と定義する。このとき各 $x\in X$ に対し $(f_n(x))_{n\in \mathbb{N}}$ は単調増加列であり、$f(x)=\sup_{n\in \mathbb{N}}f_n(x)$ が成り立つ。
証明
任意の $x\in X$ と $n\in \mathbb{N}$ を取り、$f_n(x)\leq f_{n+1}(x)$ が成り立つことを示す。$n+1\leq f(x)$ ならば、 $f_n(x)=n<n+1=f_{n+1}(x)$ である。$n\leq f(x)<n+1$ ならば、
$$n2^{n+1}\leq k-1\leq f(x)2^{n+1}<k\leq (n+1)2^{n+1}$$
なる $k\in \mathbb{N}$ が取れるので、$f_n(x)=n\leq\frac{k-1}{2^{n+1}}=f_{n+1}(x)$ である。$f(x)<n$ ならば、$0\leq k-1\leq f(x)2^n<k\leq n2^n$なる $k\in \mathbb{N}$ が取れて、
$$f_n(x)=\frac{k-1}{2^n},\quad f_{n+1}(x)\in \left\{\frac{2k-2}{2^{n+1}},\text{ }\frac{2k-1}{2^{n+1}}\right\}$$
であるから $f_n(x)\leq f_{n+1}(x)$ である。次に $f(x)=\sup_{n\in\mathbb{N}}f_n(x)$ が成り立つことを示す。$f(x)=\infty$ ならば $f_n(x)=n$ $(\forall n\in \mathbb{N})$ であるから成り立つ。$f(x)<\infty$ の場合、任意の $\epsilon\in (0,\infty)$ に対し $f(x)<n_0$ かつ $\frac{1}{2^{n_0}}<\epsilon$ なる $n_0\in \mathbb{N}$ を取れば、 $$0\leq f(x)-f_n(x)\leq \frac{1}{2^n}<\epsilon\quad(\forall n\geq n_0)$$ である。よって $f(x)=\lim_{n\rightarrow\infty}f_n(x)=\sup_{n\in\mathbb{N}}f_n(x)$ が成り立つ。
6. 測度の定義と基本的性質
定義6.1(部分集合の列の呼び方)
$X$ を集合、$(E_n)_{n\in \mathbb{N}}$ を $X$ の部分集合の列とする。
- 任意の $n\in \mathbb{N}$ に対し $E_n\subset E_{n+1}$ が成り立つとき $(E_n)_{n\in \mathbb{N}}$ を単調増加列と言う。
- 任意の $n\in \mathbb{N}$ に対し $E_n\supset E_{n+1}$ が成り立つとき $(E_n)_{n\in \mathbb{N}}$ を単調減少列と言う。
- 互いに異なる任意の $n,m\in \mathbb{N}$ に対し $E_n\cap E_m=\emptyset$ が成り立つとき $(E_n)_{n\in \mathbb{N}}$ を非交叉列と言う。
定義6.2(測度)
$(X,\mathfrak{M})$ を可測空間とする。$\mu:\mathfrak{M}\rightarrow[0,\infty]$ が $(X,\mathfrak{M})$ 上の測度であるとは次が成り立つことを言う。
- $(1)$ $\mu(\emptyset)=0$.
- $(2)$ ($\sigma$-加法性) $\mathfrak{M}$ の任意の非交叉列 $(E_n)_{n\in \mathbb{N}} $に対し $\mu\left(\bigcup_{n\in \mathbb{N}}E_n\right)=\sum_{n\in \mathbb{N}}\mu(E_n)$.
可測空間 $(X,\mathfrak{M})$ に測度 $\mu:\mathfrak{M}\rightarrow [0,\infty]$ が備わったもの $(X,\mathfrak{M},\mu)$ を測度空間と言う。
命題6.3(測度の基本性質)
$(X,\mathfrak{M},\mu)$ を測度空間とする。次が成り立つ。
- $(1)$ (有限加法性) 互いに交わらない任意の有限個の $E_1,\ldots,E_n\in \mathfrak{M}$ に対し $\mu(\bigcup_{j=1}^{n}E_j)=\sum_{j=1}^{n}\mu(E_j)$.
- $(2)$ (単調性) $E\subset F$ なる任意の $E,F\in\mathfrak{M}$ に対し $\mu(E)\leq \mu(F)$.
- $(3)$ (劣 $\sigma$-加法性) $\mathfrak{M}$ の任意の列 $(E_n)_{n\in \mathbb{N}}$ に対し $\mu(\bigcup_{n\in \mathbb{N}}E_n)\leq \sum_{n\in \mathbb{N}}\mu(E_n)$.
- $(4)$ (劣有限加法性) 任意の有限個の $E_1,\ldots,E_n\in \mathfrak{M}$ に対し $\mu(\bigcup_{j=1}^{n}E_j)\leq\sum_{j=1}^{n}\mu(E_j)$.
- $(5)$ (単調収束性) $\mathfrak{M}$ の任意の単調増加列 $(E_n)_{n\in \mathbb{N}}$に対し $\mu(\bigcup_{n\in \mathbb{N}}E_n)=\sup_{n\in \mathbb{N}}\mu(E_n)$.
- $(6)$ (単調収束性) $\mathfrak{M}$ の任意の単調減少列 $(E_n)_{n\in \mathbb{N}}$ で $\mu(E_1)<\infty$ なるものに対し $\mu(\bigcap_{n\in \mathbb{N}}E_n)=\inf_{n\in \mathbb{N}}\mu(E_n)$.
証明
- $(1)$ $E_k=\emptyset$ $(\forall k\geq n+1)$ とおけばよい。
- $(2)$ $F$が $E,F\backslash E\in \mathfrak{M}$ の合併で表せることによる。
- $(3)$ $F_1:=E_1$、$F_n:=E_n\backslash(E_1\cup\ldots\cup E_{n-1})$ $(\forall n\geq 2)$ とおけば $(F_n)_{n\in \mathbb{N}}$ は $\mathfrak{M}$ の非交叉列であり $\bigcup_{n\in \mathbb{N}}E_n=\bigcup_{n\in \mathbb{N}}F_n$ である。よって $\sigma$-加法性と単調性より従う。
- $(4)$ $E_k=\emptyset$ $(\forall k\geq n+1)$ とおき $\sigma$-劣加法性を用いればよい。
- $(5)$ $\mu(E_n)=\infty$ なる $n\in \mathbb{N}$ が存在する場合は単調性より成り立つ。$\mu(E_n)<\infty$ $(\forall n\in \mathbb{N})$ の場合、$E_0:=\emptyset$、$F_n:=E_n\backslash E_{n-1}$ $(\forall n\in \mathbb{N})$ とおけば $(F_n)_{n\in \mathbb{N}}$ は $\mathfrak{M}$ の非交叉列であり $\bigcup_{n\in \mathbb{N}}E_n=\bigcup_{n\in \mathbb{N}}F_n$ である。また有限加法性と $\mu(E_n)<\infty$ より $\mu(F_n)=\mu(E_n)-\mu(E_{n-1})$ $(\forall n\in \mathbb{N})$ である。よって、
$$\mu\left(\bigcup_{n\in\mathbb{N}}E_n\right)=\mu\left(\bigcup_{n\in\mathbb{N}}F_n\right)=\sum_{n\in \mathbb{N}}\mu(F_n) =\sum_{n=1}^{\infty}(\mu(E_n)-\mu(E_{n-1}))=\lim_{n\rightarrow\infty}\mu(E_n) =\sup_{n\in \mathbb{N}}\mu(E_n).$$
- $(6)$ $(E_1\backslash E_n)_{n\in \mathbb{N}}$ は $\mathfrak{M}$ の単調増加列であり、$\mu(E_1)<\infty$ であるから、有限加法性と $(5)$ より、
$$\mu(E_1)- \mu\left(\bigcap_{n\in\mathbb{N}}E_n\right)= \mu\left(E_1\backslash \bigcap_{n\in \mathbb{N}}E_n\right) =\mu\left(\bigcup_{n\in \mathbb{N}}(E_1\backslash E_n)\right) =\lim_{n\rightarrow\infty}\mu(E_1\backslash E_n) =\mu(E_1)-\lim_{n\rightarrow\infty}\mu(E_n). $$
定義6.4(測度の制限)
$(X,\mathfrak{M},\mu)$ を測度空間、$A\in \mathfrak{M}$、$A\neq\emptyset$ とする。このとき $\mathfrak{M}$ が誘導する $A$ 上の相対 $\sigma$-加法族は、
$$\mathfrak{M}_A=\{A\cap E: E\in \mathfrak{M}\}=\{E\in\mathfrak{M}:E\subset A\}\subset \mathfrak{M}$$
であるから、
$$\mu_A:\mathfrak{M}_A\ni E\mapsto \mu(E)\in [0,\infty] $$
として可測空間 $(A,\mathfrak{M}_A)$ 上の測度 $\mu_A$ が定義できる。以後、特に断らない限り、測度空間 $(X,\mathfrak{M},\mu)$ の空でない可測集合 $A\in \mathfrak{M}$ に対し、可測空間 $(A,\mathfrak{M}_A)$ には測度 $\mu_A$ が与えられているとする。また $\mu_A$ は混乱の恐れがない場合は単に $\mu$ と表す。
7. 非負値可測単関数の積分の定義
定義7.1(可測分割)
可測空間 $(X,\mathfrak{M})$ の有限可測分割とは、$\mathfrak{M}$ の互いに交わらない有限個の要素の組 $(E_1,\ldots,E_n)$ で、$X=E_1\cup\ldots \cup E_n$ となるもののことを言う。また可測空間 $(X,\mathfrak{M})$ の可算可測分割とは、$\mathfrak{M}$ の非交叉列 $(E_n)_{n\in \mathbb{N}}$ で、$X=\bigcup_{n\in\mathbb{N}}E_n$ となるもののことを言う。
定義7.2(非負値可測単関数の積分)
$(X,\mathfrak{M},\mu)$ を測度空間とする。非負値可測単関数 $f:X\rightarrow[0,\infty)$ に対し、命題5.4より $(X,\mathfrak{M})$ の有限可測分割 $(E_1,\ldots,E_n)$ と $a_1,\ldots,a_n\in [0,\infty)$ で、
$$f=\sum_{j=1}^{n}a_j\chi_{E_j}$$
を満たすものが取れる。そこで $f$ の $\mu$ による積分を、
$$\int_{X}f(x)d\mu(x)=\sum_{j=1}^{n}a_j\mu(E_j)$$
と定義する。これはwell-definedである。実際、$(X,\mathfrak{M})$ の有限可測分割 $(F_1,\ldots,F_m)$ と $b_1,\ldots,b_n\in [0,\infty)$ で、
$$f=\sum_{k=1}^{m}b_k\chi_{F_k}$$
とも表せるとすると、$E_j\cap F_k\neq\emptyset$ なる任意の $j,k$ に対し $a_j=f(x)=b_k$ ($x\in E_j\cap F_k$) であるから、任意の $j,k$ に対し$a_j\mu(E_j\cap F_k)=b_k\mu(E_j\cap F_k)$ である。よって測度の有限加法性より、
$$\sum_{j=1}^{n}a_j\mu(E_j)=\sum_{j=1}^{n}\sum_{k=1}^{m}a_j\mu(E_j\cap F_k) =\sum_{j=1}^{n}\sum_{k=1}^{m}b_k\mu(E_j\cap F_k)=\sum_{k=1}^{m}b_k\mu(F_k) $$ である。
命題7.3(非負値可測単関数の積分の基本性質)
$(X,\mathfrak{M},\mu)$ を測度空間とする。
- $(1)$ (非負斉次性) 任意の非負値可測単関数 $f$ と $a\in[0,\infty)$ に対し、
$$\int_{X}af(x)d\mu(x)=a\int_{X}f(x)d\mu(x)$$ が成り立つ。
- $(2)$ (加法性) 任意の非負値可測単関数 $f,g$ に対し、
$$\int_{X}f(x)+g(x)d\mu(x)=\int_{X}f(x)d\mu(x)+\int_{X}g(x)d\mu(x)$$ が成り立つ。
- $(3)$ (単調性) $f(x)\leq g(x)$ $(\forall x\in X)$ なる任意の非負値可測単関数 $f,g$ に対し、
$$\int_{X}f(x)d\mu(x)\leq \int_{X}g(x)d\mu(x)$$ が成り立つ。
証明
- $(1)$ 自明である。
- $(2)$ $(X,\mathfrak{M})$ の有限可測分割 $(E_1,\ldots,E_n), (F_1,\ldots,F_m)$と$a_1,\ldots,a_n,b_1,\ldots,b_m\in [0,\infty)$ で、
$$ f=\sum_{j=1}^{n}a_j\chi_{E_j},\quad g=\sum_{k=1}^{m}b_k\chi_{F_k}\quad\quad(*)$$ なるものを取る。このとき $(E_j\cap F_k)_{j,k}$ は $(X,\mathfrak{M})$ の有限可測分割であり、 $$ f+g=\sum_{j,k}(a_j+b_k)\chi_{E_j\cap F_k}$$ であるから、測度の有限加法性より、 $$ \int_{X}f(x)+g(x)d\mu(x)=\sum_{j,k}(a_j+b_k)\mu(E_j\cap F_k) =\sum_{j}a_j\mu(E_j)+\sum_{k}b_k\mu(F_k) =\int_{X}f(x)d\mu(x)+\int_{X}g(x)d\mu(x) $$ である。
- $(3)$ $(X,\mathfrak{M})$ の有限可測分割 $(E_1,\ldots,E_n), (F_1,\ldots,F_m)$と$a_1,\ldots,a_n,b_1,\ldots,b_m\in [0,\infty)$ で $(*)$ を満たすものを取る。$E_j\cap F_k\neq \emptyset$ なる $j,k$ に対し $a_j=f(x)\leq g(x)=b_k$ $(\forall x\in E_j\cap F_k)$ であるから、任意の $j,k$ に対し $a_j\mu(E_j\cap F_k)\leq b_k\mu(E_j\cap F_k)$ である。よって測度の有限加法性より、
$$ \int_{X}f(x)d\mu(x)=\sum_{j}a_j\mu(E_j)=\sum_{j,k}a_j\mu(E_j\cap F_k) \leq \sum_{j,k}b_k\mu(E_j\cap F_k)=\sum_{k}b_k\mu(E_j\cap F_k)=\sum_{k}b_k\mu(F_k)=\int_{X}g(x)d\mu(x)$$ である。
8. 非負値可測関数の積分の定義、単調収束定理
定義8.1(非負値可測関数の積分)
$(X,\mathfrak{M},\mu)$ を測度空間とする。非負値可測関数 $f:X\rightarrow[0,\infty]$ の $\mu$ による積分を、
$$ \int_{X}f(x)d\mu(x):=\sup\left\{\int_{X}s(x)d\mu(x):s\text{ は非負値可測単関数で任意の}x\in X\text{ に対し }s(x)\leq f(x)\right\}$$ と定義する。非負値可測単関数の積分の単調性 (命題7.3の(3)) より、この定義は非負値可測単関数の積分の定義と矛盾しない。
補題8.2
$(X,\mathfrak{M},\mu)$ を測度空間、$(f_n)_{n\in \mathbb{N}}$ を非負値可測単関数の各点単調増加列、$g$ を非負値可測単関数とし、$g(x)\leq \sup_{n\in\mathbb{N}}f_n(x)$ $(\forall x\in X)$ が成り立つとする。このとき、 $$\int_{X}g(x)d\mu(x)\leq \sup_{n\in \mathbb{N}}\int_{X}f_n(x)d\mu(x)\quad\quad(*)$$ が成り立つ。
証明
$A=(g>0)\in \mathfrak{M}$ とおく。$A=\emptyset$ ならば自明なので $A\neq\emptyset$ とする。
$$\alpha:=\text{min}(g(A))\in(0,\infty),\quad \beta:=\text{max}(g(A))\in (0,\infty)$$ とおき、 $$A_{k,n}:=A\cap \left(g-\frac{1}{k}<f_n\right)\quad(\forall n,k\in \mathbb{N})$$ とおく。このとき各 $k\in \mathbb{N}$ に対し $(A_{k,n})_{n\in\mathbb{N}}$ は単調増加列であり $A=\bigcup_{n\in\mathbb{N}}A_{k,n}$ であるから、測度の単調収束性 (命題6.3の(5)) より、 $$\mu(A)=\sup_{n\in\mathbb{N}}\mu(A_{k,n})\quad\quad(**)$$ である。$\mu(A)=\infty$ の場合、$\alpha-\frac{1}{k}>0$ なる $k\in\mathbb{N}$ を取ると、 $$ \left(\alpha-\frac{1}{k}\right)\chi_{A_{k,n}}(x) \leq \left(g(x)-\frac{1}{k}\right)\chi_{A_{k,n}}(x) \leq f_n(x)\quad(\forall x\in X, \forall n\in \mathbb{N}) $$ であるから、命題7.3の $(3)$ より、 $$\left(\alpha-\frac{1}{k}\right)\mu(A_{k,n})\leq \int_{X}f_n(x)d\mu(x)\quad(\forall n\in\mathbb{N})$$ である。よって $(**)$ より $\int_{X}f(x)d\mu(x)=\infty$ であるから $(*)$ が成り立つ。$\mu(A)<\infty$ の場合、測度の単調収束性 (命題6.3の(6)) より、 $$\lim_{n\rightarrow\infty}\mu(A\backslash A_{k,n})=0\quad(\forall k\in\mathbb{N})\quad\quad(***)$$ が成り立つ。任意の $n,k\in\mathbb{N}$、任意の $x\in X$ に対し、 $$\begin{aligned} g(x)&=g(x)\chi_A(x)=g(x)\chi_{A_{k,n}}(x)+g(x)\chi_{A\backslash A_{k,n}}(x)\\ &\leq \left(f_n(x)+\frac{1}{k}\right)\chi_{A_{k,n}}(x)+g(x)\chi_{A\backslash A_{k,n}}(x)\\ &\leq f_n(x)+\frac{1}{k}\chi_A(x)+\beta\chi_{A\backslash A_{k,n}}(x)\end{aligned}$$ であるから、命題7.3の $(2),(3)$ より、 $$ \int_{X}g(x)d\mu(x)\leq \sup_{m\in\mathbb{N}}\int_{X}f_m(x)d\mu(x)+\frac{1}{k}\mu(A)+\beta\mu(A\backslash A_{k,n})\quad(\forall k,n\in\mathbb{N})$$ である。任意の $\epsilon\in(0,\infty)$ を取る。$\frac{1}{k}\mu(A)<\frac{\epsilon}{2}$ なる $k\in \mathbb{N}$ に対し $(***)$ より $\beta\mu(A\backslash A_{k,n})<\frac{\epsilon}{2}$ なる $n\in \mathbb{N}$ が取れるので、 $$ \int_{X}g(x)d\mu(x)\leq \sup_{m\in\mathbb{N}}\int_{X}f_m(x)d\mu(x)+\epsilon $$ となる。よって$\epsilon\in(0,\infty)$ の任意性より $(*)$ が成り立つ。
命題8.3(非負値可測関数の積分の基本性質)
$(X,\mathfrak{M},\mu)$ を測度空間とする。
- $(1)$ (単調性) $f(x)\leq g(x)$ $(\forall x\in X)$ なる任意の非負値可測関数 $f,g$ に対し、
$$\int_{X} f(x)d\mu(x)\leq \int_{X}g(x)d\mu(x)$$ が成り立つ。
- $(2)$ (非負値可測単関数による単調近似) 非負値可測単関数の各点単調増加列 $(f_n)_{n\in \mathbb{N}}$ に対し、
$$ \int_{X}\sup_{n\in \mathbb{N}}f_n(x)d\mu(x)=\sup_{n\in\mathbb{N}}\int_{X}f_n(x)d\mu(x)$$ が成り立つ。($\sup_{n\in\mathbb{N}}f_n$の可測性については命題4.8を参照。)
- $(3)$ (非負斉次性) 任意の非負値可測単関数 $f$ と $a\in[0,\infty)$ に対し、
$$\int_{X}af(x)d\mu(x)=a\int_{X}f(x)d\mu(x)$$ が成り立つ。
- $(4)$ (加法性) 任意の非負値可測単関数 $f,g$ に対し、
$$\int_{X}f(x)+g(x)d\mu(x)=\int_{X}f(x)d\mu(x)+\int_{X}g(x)d\mu(x)$$ が成り立つ。
証明
$(1)$ は非負値可測関数の積分の定義より自明である。~ $(2)$ を示す。 $$ \sup_{n\in \mathbb{N}}\int_{X}f_n(x)d\mu(x)\leq \int_{X}\sup_{n\in\mathbb{N}}f_n(x)d\mu(x) $$ は非負値可測関数の積分の定義により成り立つ。また $s(x)\leq \sup_{n\in \mathbb{N}}f_n(x)$ $(\forall x\in X)$ なる任意の非負値可測単関数 $s$ に対し、補題8.2より、 $$ \int_{X}s(x)d\mu(x)\leq \sup_{n\in\mathbb{N}} \int_{X}f_n(x)d\mu(x) $$ であるから、非負値可測関数の積分の定義より、 $$ \int_{X}\sup_{n\in \mathbb{N}}f_n(x)d\mu(x)\leq \sup_{n\in\mathbb{N}} \int_{X}f_n(x)d\mu(x) $$ である。~ $(3),(4)$ を示す。定理5.5より非負値可測単関数の各点単調増加列 $(f_n)_{n\in \mathbb{N}}$と $(g_n)_{n\in \mathbb{N}}$ で、$f(x)=\sup_{n\ni \mathbb{N}}f_n(x)$, $g(x)=\sup_{n\in \mathbb{N}}g_n(x)$ $(\forall x\in X)$ を満たすものが取れる。よって $(2)$ と命題7.3の $(1),(2)$ より、 $$\begin{aligned} \int_{X}af(x)d\mu(x)=\sup_{n\in \mathbb{N}}\int_{X}af_n(x)d\mu(x) =a\sup_{n\in \mathbb{N}}\int_{X}f_n(x)d\mu(x)=a\int_{X}f(x)d\mu(x), \end{aligned}$$
$$\begin{aligned} &\int_{X}f(x)+g(x)d\mu(x)=\sup_{n\in\mathbb{N}}\int_{X}f_n(x)+g_n(x)d\mu(x) =\sup_{n\in\mathbb{N}}\left(\int_{X}f_n(x)d\mu(x)+\int_{X}g_n(x)d\mu(x)\right)\\ &=\sup_{n\in\mathbb{N}}\int_{X}f_n(x)d\mu(x)+\sup_{n\in\mathbb{N}}\int_{X}g_n(x)d\mu(x) =\int_{X}f(x)d\mu(x)+\int_{X}g(x)d\mu(x) \end{aligned} $$ である。
定理8.4(単調収束定理)
$(X,\mathfrak{M},\mu)$ を測度空間とする。非負値可測関数の各点単調増加列 $(f_n)_{n\in \mathbb{N}}$ に対し、 $$ \int_{X}\sup_{n\in \mathbb{N}}f_n(x)d\mu(x)=\sup_{n\in\mathbb{N}}\int_{X}f_n(x)d\mu(x)$$ が成り立つ。($\sup_{n\in\mathbb{N}}f_n$の可測性については命題4.8を参照。)
証明
$f(x):=\sup_{n\in\mathbb{N}}f_n(x)\in [0,\infty]$ $(\forall x\in X)$ とおく。積分の単調性より、 $$ \sup_{n\in\mathbb{N}}\int_{X}f_n(x)d\mu(x)\leq \int_{X}f(x)d\mu(x)\quad\quad(*) $$ である。逆の不等式を示す。各 $n\in\mathbb{N}$ に対し定理5.5より非負値可測単関数の各点単調増加列 $(f_{n,m})_{m\in\mathbb{N}}$ で $f_n(x)=\sup_{m\in\mathbb{N}}f_{n,m}(x)$ なるものが取れる。これに対し、 $$ g_m(x):=\text{max}(f_{1,m}(x),\ldots,f_{m,m}(x))\quad(\forall m\in \mathbb{N},\forall x\in X) $$ とおくと、$(g_m)_{m\in\mathbb{N}}$ は非負値可測単関数の各点単調増加列であり((各$g_m$が可測であることは命題4.8により、単関数であることは命題5.4による。))、 $$ g_m(x)\leq f_m(x)\quad(\forall m\in\mathbb{N},\forall x\in X)\quad\quad(**) $$ である。そして、 $$ f_n(x)=\sup_{m\in\mathbb{N}}f_{n,m}(x)=\sup_{m\geq n}f_{n,m}(x) \leq\sup_{m\in \mathbb{N}}g_m(x)\quad(\forall n\in\mathbb{N},\forall x\in X) $$ であるから、 $$ f(x)=\sup_{n\in \mathbb{N}}f_n(x)=\sup_{n\in \mathbb{N}}g_n(x)\quad(\forall x\in X) $$ である。よって命題8.3の $(2)$ より、 $$ \int_{X}f(x)d\mu(x)=\sup_{n\in\mathbb{N}}\int_{X}g_n(x)d\mu(x) $$ であるから、$(**)$ と積分の単調性より、 $$ \int_{X}f(x)d\mu(x)\leq \sup_{n\in \mathbb{N}}\int_{X}f_n(x)d\mu(x) $$ である。これで $(*)$ の逆の不等式が示せた。
注意8.5
$(X,\mathfrak{M},\mu)$ を測度空間とする。任意の非負値可測関数 $f:X\rightarrow[0,\infty]$ に対し、 $$ \int_{X}\infty f(x)d\mu(x)=\infty\int_{X}f_n(x)d\mu(x) $$ が成り立つ。実際、単調収束定理と積分の非負斉次性より、 $$ \int_{X}\infty f(x)d\mu(x)=\int_{X}\sup_{n\in \mathbb{N}}nf(x)d\mu(x) =\sup_{n\in \mathbb{N}}n\int_{X}f(x)d\mu(x)=\infty\int_{X}f(x)d\mu(x) $$ である。
系8.6(非負値可測関数列の和の項別積分)
$(X,\mathfrak{M},\mu)$ を測度空間、$(f_n)_{n\in\mathbb{N}}$ を非負値可測関数の列とする。このとき、 $$ \int_{X}\sum_{n\in \mathbb{N}}f_n(x)d\mu(x)=\sum_{n\in \mathbb{N}}\int_{X}f_n(x)d\mu(x) $$ が成り立つ。
証明
$F_n(x):=\sum_{k=1}^{n}f_k(x)$ $(\forall n\in\mathbb{N},\forall x\in X)$ として非負値可測関数の各点単調増加列 $(F_n)_{n\in \mathbb{N}}$ を定義すると、単調収束定理と積分の加法性より、 $$ \int_{X}\sum_{n\in \mathbb{N}}f_n(x)d\mu(x)= \int_{X}\sup_{n\in \mathbb{N}}F_n(x)d\mu(x) =\sup_{n\in \mathbb{N}}\int_{X}F_n(x)d\mu(x) =\sup_{n\in \mathbb{N}}\sum_{k=1}^{n}\int_{X}f_k(x)d\mu(x) =\sum_{n\in \mathbb{N}}\int_{X}f_n(x)d\mu(x) $$ である。
9. 測度 $\mu$ に関してほとんど全ての点で $\cdots$( $\mu$-a.e.で $\cdots$)
定義9.1(零集合)
$(X,\mathfrak{M},\mu)$ を測度空間とする。$N\in \mathfrak{M}$ で $\mu(N)=0$ であるものを $\mu$-零集合と言う。
定義9.2(測度 $\mu$ に関してほとんど全ての点で $\cdots$( $\mu$-a.e.で $\cdots$))
$(X,\mathfrak{M},\mu)$ を測度空間とし、各点 $x\in X$ に対し命題 $P(x)$ が与えられているとする。$\mu$ に関してほとんど全ての $x\in X$で $P(x)$ が成り立つ(略して $\mu$-a.e. $x\in X$ で $P(x)$ が成り立つ)とは、$\mu$-零集合 $N\in \mathfrak{M}$ が存在し任意の $x\in X\backslash N$ に対し $P(x)$ が成り立つことを言う。
命題9.3
$(X,\mathfrak{M},\mu)$ を測度空間、$N$ を $\mu$-零集合とする。このとき任意の非負値可測関数 $f:X\rightarrow[0,\infty]$ に対し、
$$ \int_{X}f(x)\chi_N(x)d\mu(x)=0 $$
が成り立つ。
証明
$f$ が非負値可測単関数であれば自明である。一般の非負値可測関数 $f$ に対し定理5.5より非負値可測単関数の各点単調増加列 $(f_n)_{n\in \mathbb{N}}$ で $f=\sup_{n\in \mathbb{N}}f_n$ なるものが取れる。よって単調収束定理より、 $$ \int_{X}f(x)\chi_N(x)d\mu(x)=\sup_{n\in \mathbb{N}}\int_{X}f_n(x)\chi_N(x)d\mu(x)=0 $$ である。
命題9.4(非負値可測関数の積分と零集合)
$(X,\mathfrak{M},\mu)$ を測度空間とする。非負値可測関数 $f:X\rightarrow [0,\infty]$ に対し次が成り立つ。
- $(1)$
$$\int_{X}f(x)d\mu(x)=0\quad\Leftrightarrow\quad f(x)=0\quad(\mu\text{-a.e.} x\in X) $$
- $(2)$
$$\int_{X}f(x)d\mu(x)<\infty\quad\Rightarrow\quad f(x)<\infty\quad(\mu\text{-a.e.} x\in X) $$
証明
- $(1)$ $\Leftarrow$ は命題9.3による。$\Rightarrow$ を示す。$\int_{X}f(x)d\mu(x)=0$ とする。
$$ (0<f)=\bigcup_{n\in\mathbb{N}}\left(\frac{1}{n}<f\right) $$ であり、積分の単調性より、任意の $n\in \mathbb{N}$ に対し、 $$ \frac{1}{n}\mu\left(\frac{1}{n}<f\right)=\int_{X}\frac{1}{n}\chi_{(\frac{1}{n}<f)}(x)d\mu(x)\leq \int_{X}f(x)d\mu(x)=0 $$ である。よって $\mu(\frac{1}{n}<f)=0$ であるから、測度の $\sigma$-劣加法性より、 $$ \mu(0<f)=\mu\left(\bigcup_{n\in\mathbb{N}}\left(\frac{1}{n}<f\right) \right)\leq\sum_{n\in \mathbb{N}}\mu\left(\frac{1}{n}<f\right)=0. $$
- $(2)$ $\mu(f=\infty)=0$ を示せばよい。
$$ (f=\infty)=\bigcap_{n\in \mathbb{N}}(n\leq f ) $$ であり、$( (n\leq f) )_{n\in\mathbb{N}}$ は $\mathfrak{M}$ の単調減少列である。そして積分の単調性より任意の $n\in \mathbb{N}$ に対し、 $$ n\mu(n\leq f)=\int_{X}n\chi_{(n\leq f)}(x)d\mu(x)\leq \int_{X}f(x)d\mu(x)<\infty $$ である。よって測度の単調収束性 (命題6.3の$(6)$) より、 $$ \mu(f=\infty)=\lim_{n\rightarrow\infty}\mu(n\leq f)=0. $$
10. 実数値、複素数値可測関数の積分の定義、積分の線型性
定義10.1(実数値可測関数の可積分性と積分)
$(X,\mathfrak{M},\mu)$ を測度空間とする。実数値可測関数 $f:X\rightarrow \mathbb{R}$ が $\mu$ に関して可積分(略して $\mu$-可積分)であるとは、 $$ \int_{X}\lvert f(x)\rvert d\mu(x)<\infty $$ が成り立つことを言う。$\lvert f\rvert=f_++f_-$ (定義4.7を参照)であるから、非負値可測関数の積分の加法性より、これは、 $$ \int_{X}f_{\pm}(x)d\mu(x)<\infty $$ が成り立つことと同値である。実数値可測関数 $f:X\rightarrow \mathbb{R}$ が $\mu$ に関して可積分であるとき $f=f_+-f_-$ の $\mu$ による積分を、 $$ \int_{X}f(x)d\mu(x):=\int_{X}f_+(x)d\mu(x)-\int_{X}f_-(x)d\mu(x)\in \mathbb{R} $$ と定義する。$f$ が非負値ならば $f=f_+$, $f_-=0$ であるから、この定義は非負値可測関数の積分の定義と矛盾しない。$(X,\mathfrak{M})$ 上の実数値可測関数全体に各点ごとの演算を入れた $\mathbb{R}$ 上の線型空間 $\mathcal{L}_{\mathbb{R}}(X,\mathfrak{M})$ に対し、
$$ \mathcal{L}^1_{\mathbb{R}}(X,\mathfrak{M},\mu)
- =\left\{f\in \mathcal{L}_{\mathbb{R}}(X,\mathfrak{M}): f\text{ は }\mu\text{ に関して可積分 }\right\}
$$ とおく。
命題10.2(実数値関数の積分の線型性)
測度空間 $(X,\mathfrak{M},\mu)$ に対し、$\mathcal{L}^1_{\mathbb{R}}(X,\mathfrak{M},\mu)$ は各点ごとの演算で $\mathbb{R}$ 上の線型空間である。そして積分 $$ \mathcal{L}^1_{\mathbb{R}}(X,\mathfrak{M},\mu)\ni f\mapsto \int_{X}f(x)d\mu(x)\in \mathbb{R} $$ は線型汎関数である。
証明
- $(1)$ 任意の $f,g\in \mathcal{L}^1_{\mathbb{R}}(X,\mathfrak{M},\mu)$ に対し $f+g\in \mathcal{L}^1_{\mathbb{R}}(X,\mathfrak{M},\mu)$ であることと、
$$ \int_{X}f(x)+g(x)d\mu(x)=\int_{X}f(x)d\mu(x)+\int_{X}g(x)d\mu(x)\quad\quad(*) $$ が成り立つことを示す。非負値可測関数の積分の単調性と加法性より、 $$ \int_{X}\lvert f(x)+g(x)\rvert d\mu(x) \leq \int_{X} \lvert f(x)\rvert+\lvert g(x)\rvert d\mu(x) =\int_{X}\lvert f(x)\rvert d\mu(x)+\int_{X}\lvert g(x)\rvert d\mu(x)<\infty $$ であるから $f+g\in \mathcal{L}^1_{\mathbb{R}}(X,\mathfrak{M},\mu)$ である。また、 $$ f=f_+-f_-,\quad g=g_+-g_-,\quad f+g=(f+g)_+-(f+g)_- $$ より、 $$ (f+g)_++f_-+g_-=(f+g)_-+f_++g_+ $$ であるから、非負値可測関数の積分の加法性より $(*)$ を得る。
- $(2)$ 任意の $f\in \mathcal{L}^1_{\mathbb{R}}(X,\mathfrak{M},\mu)$ と任意の $\alpha\in \mathbb{R}$ に対し、$\alpha f\in \mathcal{L}^1_{\mathbb{R}}(X,\mathfrak{M},\mu)$ であることと、
$$ \int_{X}\alpha f(x)d\mu(x)=\alpha\int_{X}f(x)d\mu(x)\quad\quad(**) $$ が成り立つことを示す。非負値可測関数の積分の非負斉次性より、 $$ \int_{X}\lvert \alpha f(x)\rvert d\mu(x)=\lvert \alpha\rvert\int_{X}\lvert f(x)\rvert d\mu(x)<\infty $$ であるから $\alpha f\in \mathcal{L}^1_{\mathbb{R}}(X,\mathfrak{M},\mu)$ である。$\alpha\geq0$ ならば、 $$ (\alpha f)_{\pm}=\text{max}(\pm \alpha f,0)=\alpha\text{max}(\pm f,0)=\alpha f_{\pm} $$ であり、$\alpha<0$ ならば、 $$ (\alpha f)_{\pm}=\text{max}(\pm \alpha f,0) =\text{max}(\mp (-\alpha) f,0)=(-\alpha) \text{max}(\mp f,0)=(-\alpha) f_{\mp} $$ である。よって非負値可測関数の積分の非負斉次性より $(**)$ を得る。
定義10.3(複素数値可測関数の可積分性と積分)
$(X,\mathfrak{M},\mu)$ を測度空間とする。複素数値可測関数 $f:X\rightarrow\mathbb{C}$ が $\mu$ に関して可積分(略して $\mu$-可積分)であるとは、 $$ \int_{X} \lvert f(x)\rvert d\mu(x)<\infty $$ が成り立つことを言う。 $$ \lvert\text{Re}(f(x))\rvert,\lvert \text{Im}(f(x))\rvert\leq \lvert f(x)\rvert\leq \lvert\text{Re}(f(x))\rvert+\lvert \text{Im}(f(x))\rvert $$ であるから、これは実数値可測関数 $\text{Re}(f):X\ni x\mapsto \text{Re}(f(x))\in \mathbb{R}$、$\text{Im}(f):X\ni x\mapsto \text{Im}(f(x)) \in\mathbb{R}$ がそれぞれ $\mu$ に関して可積分であることと同値である。複素数値可測関数 $f:X\rightarrow\mathbb{C}$ が $\mu$ に関して可積分であるとき、$f$ の $\mu$ による積分を、 $$ \int_{X} f(x)d\mu(x):=\int_{X}\text{Re}(f(x))d\mu(x)+i\int_{X}\text{Im}(f(x))d\mu(x)\in\mathbb{C} $$ と定義する。$(X,\mathfrak{M})$ 上の複素数値可測関数全体に各点ごとの演算を入れた $\mathbb{C}$ 上の線型空間 $\mathcal{L}(X,\mathfrak{M})$ に対し、
$$ \mathcal{L}^1(X,\mathfrak{M},\mu)
- =\left\{f\in \mathcal{L}(X,\mathfrak{M}): f\text{ は }\mu\text{ に関して可積分 }\right\}
$$ とおく。
命題10.4(複素数値関数の積分の線型性と絶対不等式)
測度空間 $(X,\mathfrak{M},\mu)$ に対し、$\mathcal{L}^1(X,\mathfrak{M},\mu)$ は各点ごとの演算で $\mathbb{C}$ 上の線型空間である。そして積分 $$ \mathcal{L}^1(X,\mathfrak{M},\mu)\ni f\mapsto \int_{X}f(x)d\mu(x)\in \mathbb{C} $$ は線型汎関数である。また任意の $f\in \mathcal{L}^1(X,\mathfrak{M},\mu)$ に対し、 $$ \left\lvert\int_{X}f(x)d\mu(x)\right\rvert\leq \int_{X}\lvert f(x)\rvert d\mu(x)\quad\quad(*) $$ が成り立つ。
証明
$\mathcal{L}^1(X,\mathfrak{M},\mu)$ が $\mathbb{C}$ 上の線型空間であることと積分が線型汎関数であることは命題10.1より明らかである。任意の $f\in \mathcal{L}^1(X,\mathfrak{M},\mu)$ に対し $(*)$ が成り立つことを示す。 $$ \alpha\int_{X}f(x)d\mu(x)=\left\lvert \int_{X}f(x)d\mu(x)\right\rvert,\quad\lvert \alpha\rvert=1 $$ なる $\alpha\in \mathbb{C}$ を取れば、積分の線型性と単調性より、 $$ \left\lvert\int_{X}f(x)d\mu(x)\right\rvert =\text{Re}\int_{X}\alpha f(x)d\mu(x) =\int_{X}\text{Re}(\alpha f(x))d\mu(x) \leq \int_{X} \lvert f(x)\rvert d\mu(x) $$ である。
命題10.5(a.e.で $0$ であるための条件)
$(X,\mathfrak{M},\mu)$ を測度空間、$f:X\rightarrow\mathbb{C}$ を可測関数とする。次は互いに同値である。
- $(1)$ $\mu$-a.e. $x\in X$ で $f(x)=0$.
- $(2)$ $\int_{X}\lvert f(x)\rvert d\mu(x)=0$.
- $(3)$ 任意の $E\in \mathfrak{M}$ に対し $\int_{X}f(x)\chi_E(x)d\mu(x)=0$.
証明
$(1)\Leftrightarrow(2)\Rightarrow(3)$ は命題9.4の $(1)$ による。$(3)\Rightarrow(2)$ を示す。虚部と実部に分ければよいので $f$ は実数値であると仮定して示せば十分であるが、 $$ \int_{X}f_+(x)d\mu(x)=\int_{X}f(x)\chi_{(f>0)}(x)d\mu(x)=0, $$ $$ \int_{X}f_-(x)d\mu(x)=\int_{X}-f(x)\chi_{(f<0)}(x)d\mu(x)=0 $$ であるから、 $$ \int_{X}\lvert f(x)\rvert d\mu(x)=\int_{X}f_+(x)d\mu(x)+\int_{X}f_-(x)d\mu(x)=0 $$ である。
11. Fatouの補題、Lebesgue優収束定理
補題11.1(Fatouの補題)
$(X,\mathfrak{M},\mu)$ を測度空間、$(f_n)_{n\in \mathbb{N}}$ を非負値可測関数の列とする。このとき、 $$ \int_{X}\sup_{n\in \mathbb{N}}\inf_{k\geq n}f_k(x)d\mu(x)\leq \sup_{n\in\mathbb{N}}\inf_{k\geq n}\int_{X}f_k(x)d\mu(x)\quad\quad(*) $$ が成り立つ。( $\inf_{k\geq n}f_k$、$\sup_{n\in \mathbb{N}}\inf_{k\geq n}f_k$ の可測性については命題4.8を参照。 )
証明
$g_n:=\inf_{k\geq n}f_k$ とおくと $(g_n)_{n\in \mathbb{N}}$ は非負値可測関数の各点単調増加列であるから、単調収束定理より、 $$ \int_{X}\sup_{n\in\mathbb{N}}g_n(x)d\mu(x)=\sup_{n\in\mathbb{N}}\int_{X}g_n(x)d\mu(x) $$ が成り立つ。また積分の単調性より、 $$ \int_{X}g_n(x)d\mu(x)\leq \inf_{k\geq n}\int_{X}f_k(x)d\mu(x)\quad(\forall n\in\mathbb{N}) $$ が成り立つ。よって、 $$ \int_{X}\sup_{n\in\mathbb{N}}g_n(x)d\mu(x)=\sup_{n\in\mathbb{N}}\int_{X}g_n(x)d\mu(x)\leq \inf_{k\geq n}\int_{X}f_k(x)d\mu(x) $$ であるので $(*)$ を得る。
定理11.2(Lebesgue優収束定理)
$(X,\mathfrak{M},\mu)$ を測度空間、$(f_n)_{n\in \mathbb{N}}$ を複素数値可測関数の列とし、次が成り立つとする。
- $(1)$ 任意の $x\in X$ に対し $f(x):=\lim_{n\rightarrow\infty}f_n(x)\in \mathbb{C}$ が存在する。
- $(2)$ 非負値の $h\in \mathcal{L}^1(X,\mathfrak{M},\mu)$ で $\lvert f_n(x)\rvert\leq h(x)$ $(\forall n\in\mathbb{N},\forall x\in X)$ を満たすものが存在する。
このとき $f,f_n\in \mathcal{L}^1(X,\mathfrak{M},\mu)$ $(\forall n\in\mathbb{N})$ であり、
$$ \int_{X}f(x)d\mu(x)=\lim_{n\rightarrow\infty}\int_{X}f_n(x)d\mu(x)\quad\quad(*) $$
が成り立つ。
証明
実部と虚部に分けて考えればよいので各 $f_n$ は実数値関数であるとして示せば十分である。 $$ f(x)=\lim_{n\rightarrow\infty} f_n(x)=\sup_{n\in\mathbb{N}}\inf_{k\geq n}f_k(x)=\inf_{n\in \mathbb{N}}\sup_{k\geq n}f_k(x)\quad(\forall x\in X)$$ であるので $f:X\rightarrow\mathbb{R}$ は可測関数である。 $$ \lvert f(x)\rvert=\lim_{n\rightarrow\infty}\lvert f_n(x)\rvert\leq h(x)\quad(\forall x\in X)\quad\quad(**) $$ であるから積分の単調性より $f,f_n\in \mathcal{L}(X,\mathfrak{M},\mu)$ $(\forall n\in \mathbb{N})$ である。$(h\pm f_n)_{n\in \mathbb{N}}$ は非負値可測関数の列であるのでFatouの補題と $(**)$ より、 $$ \int_{X}h(x)\pm f(x)d\mu(x)\leq \sup_{n\in \mathbb{N}}\inf_{k\geq n}\int_{X}h(x)\pm f_k(x)d\mu(x) $$ である。よって積分の線型性より、 $$ \int_{X}f(x)d\mu(x)\leq \sup_{n\in \mathbb{N}}\inf_{k\geq n}\int_{X}f_k(x)d\mu(x), $$
$$ -\int_{X}f(x)d\mu(x)\leq \sup_{n\in \mathbb{N}}\inf_{k\geq n}\left(-\int_{X}f_k(x)d\mu(x)\right)=-\inf_{n\in \mathbb{N}}\sup_{k\geq n}\int_{X}f_k(x)d\mu(x) $$ である。これより、 $$ \inf_{n\in \mathbb{N}}\sup_{k\geq n}\int_{X}f_k(x)d\mu(x) \leq \int_{X}f(x)d\mu(x)\leq \sup_{n\in \mathbb{N}}\inf_{k\geq n}\int_{X}f_k(x)d\mu(x) $$ であるから $(*)$ が成り立つ。
12. 半集合代数、有限加法族、単調族、単調族定理
定義12.1(半集合代数)
$X$ を空でない集合とする。$\mathcal{I}\subset 2^X$ が次の条件を満たすとき $\mathcal{I}$ を $X$ 上の半集合代数と言う。
- $(1)$ $\emptyset\in\mathcal{I}$.
- $(2)$ 任意の $E,F\in \mathcal{I}$ に対し $E\cap F\in \mathcal{I}$.
- $(3)$ 任意の $E\in\mathcal{I}$ に対し $X\backslash E$ は互いに交わらない有限個の $\mathcal{I}$ の要素の合併である。
定義12.2(有限加法族)
$X$ を空でない集合とする。$\mathcal{A}\subset 2^X$ が次の条件を満たすとき $\mathcal{A}$ を $X$ 上の有限加法族と言う。
- $(1)$ $X\in \mathcal{A}$.
- $(2)$ 任意の $E\in\mathcal{A}$ に対し $X\backslash E\in \mathcal{A}$.
- $(3)$ 任意の $E,F\in \mathcal{A}$ に対し $E\cup F\in \mathcal{A}$.
命題12.3
$\mathcal{A}$ を $X$ 上の有限加法族とする。このとき任意の $E,F\in \mathcal{A}$ に対し $E\cap F, E\backslash F\in \mathcal{A}$ が成り立つ。また有限加法族は半集合代数である。
証明
自明である。
定義12.4(単調族)
$X$ を空でない集合とする。$\mathcal{M}\subset 2^X$ が次の条件を満たすとき $\mathcal{M}$ を $X$ 上の単調族と言う。
- $(1)$ $\mathcal{M}$ の任意の単調増加列 $(E_n)_{n\in\mathbb{N}}$ に対し $\bigcup_{n\in \mathbb{N}}E_n\in \mathcal{M}$.
- $(2)$ $\mathcal{M}$ の任意の単調減少列 $(E_n)_{n\in \mathbb{N}}$ に対し $\bigcap_{n\in \mathbb{N}}E_n\in \mathcal{M}$.
命題12.5(有限加法族かつ単調族 $\Leftrightarrow$ $\sigma$-加法族)
集合 $X$ の部分集合族 $\mathfrak{M}\subset 2^X$ に対し、次は互いに同値である。
- $(1)$ $\mathfrak{M}$ は $X$ 上の $\sigma$-加法族である。
- $(2)$ $\mathfrak{M}$ は有限加法族かつ単調族である。
証明
$(1)\Rightarrow(2)$ は自明である。$(2)$ が成り立つとする。$\mathfrak{M}$ の任意の列 $(E_n)_{n\in \mathbb{N}}$ に対し、 $$ A_n:=\bigcup_{k=1}^{n}E_k\quad(\forall n\in \mathbb{N}) $$ とおけば、$(A_n)_{n\in \mathbb{N}}$ は $\mathfrak{M}$ の単調増加列であるから、 $$ \bigcup_{n\in \mathbb{N}}E_n=\bigcup_{n\in \mathbb{N}}A_n\in \mathfrak{M} $$ である。よって $\mathfrak{M}$ は $\sigma$-加法族である。
定義12.6(部分集合族から生成される有限加法族、単調族)
$X$ を空でない集合とする。空でない $\mathcal{I}\subset 2^X$ に対し $\mathcal{I}$ を含む $X$ 上の有限加法族(resp. 単調族)全ての交叉は $\mathcal{I}$ を含む 最小の有限加法族(resp. 単調族)である。これを $\mathcal{I}$ から生成される有限加法族(resp. 単調族)と言い、$\mathcal{A}(\mathcal{I})$、$\mathcal{M}(\mathcal{I})$ と表す。
命題12.7(半集合代数から生成される有限加法族の特徴付け)
$X$ 上の半集合代数 $\mathcal{I}$ から生成される有限加法族 $\mathcal{A}(\mathcal{I})$ は、 $$ \mathcal{A}(\mathcal{I})=\left\{\text{互いに交わらない有限個の }\mathcal{I}\text{ の要素の合併} \right\} $$ である。
証明
右辺を $\mathcal{A}$ とおく。$\mathcal{A}$ が有限加法族であることを示せば十分である。半集合代数の定義の $(2)$ より $\mathcal{A}$ は有限交叉で閉じているから、半集合代数の定義の $(3)$ より 任意の $E,F\in \mathcal{A}$ に対し $X\backslash E, F\backslash E\in \mathcal{A}$ である。$E, F\backslash E$ は互いに交わらないから $E\cup F=E\cup(F\backslash E)\in\mathcal{A}$ である。よって $\mathcal{A}$ は有限加法族である。
定理12.8(単調族定理)
$X$ 上の有限加法族 $\mathcal{A}$ に対し、$\sigma(\mathcal{A})=\mathcal{M}(\mathcal{A})$ が成り立つ。
証明
$\mathcal{M}(\mathcal{A})$ が $\sigma$-加法族であることを示せば十分である。 そのためには命題12.5より $\mathcal{M}(\mathcal{A})$ が有限加法族であることを示せばよい。任意の $A\in 2^X$ に対し、
$$ \mathcal{M}_A:=\{B\in 2^X: A\cup B,A\backslash B, B\backslash A\in \mathcal{M}(\mathcal{A})\} $$
とおくと、$\mathcal{M}_A$ は $X$ 上の単調族であり、$A,B\in 2^X$ に対し、 $$ B\in \mathcal{M}_A\quad\Leftrightarrow \quad A\in \mathcal{M}_B\quad\quad(*) $$ である。任意の $A,B\in \mathcal{A}$ に対し $B\in \mathcal{M}_A$ であるから、 $$ \mathcal{M}(\mathcal{A})\subset \mathcal{M}_A\quad(\forall A\in \mathcal{A}) $$ であるので $(*)$ より、 $$ \mathcal{M}(\mathcal{A})\subset \mathcal{M}_B\quad(\forall B\in \mathcal{M}(A)) $$ である。ゆえに $\mathcal{M}(\mathcal{A})$ は有限加法族である。
13. 半集合代数、有限加法族上の測度とCarathéodoryの拡張定理
定義13.1(半集合代数上の測度)
$X$ を空でない集合、$\mathcal{I}\subset 2^X$ を半集合代数とする。 $\mu:\mathcal{I}\rightarrow [0,\infty]$ が次の条件を満たすとき、$\mu$ を $\mathcal{I}$ 上の有限加法的測度と言う。
- $(1)$ $\mu(\emptyset)=0$.
- $(2)$ (有限加法性) 互いに交わらない有限個の $C_1,\ldots,C_n\in \mathcal{I}$ で $\bigcup_{j=1}^nC_j\in \mathcal{I}$ なるものに対し $\mu(\bigcup_{j=1}^{n}C_j)=\sum_{j=1}^{n}\mu(C_j)$.
さらに $\mu:\mathcal{I}\rightarrow[0,\infty]$ が次の条件を満たすとき $\mu$ を $\mathcal{I}$ 上の $\sigma$-加法的測度と言う。
- $(3)$ ($\sigma$-加法性) $\mathcal{I}$ の非交叉列 $(C_n)_{n\in\mathbb{N}}$ で $\bigcup_{n\in \mathbb{N}}C_n\in \mathcal{I}$ なるものに対し $\mu(\bigcup_{n\in \mathbb{N}}C_n)=\sum_{n\in \mathbb{N}}\mu(C_n)$.
命題13.2(半集合代数 $\mathcal{I}$ 上の測度の $\mathcal{A}(\mathcal{I})$ 上の測度への一意拡張)
$\mathcal{I}\subset 2^X$ を集合 $X$ 上の半集合代数とし、$\mu_0:\mathcal{I}\rightarrow [0,\infty]$ を有限加法的測度とする。このとき $\mu_0$ は $\mathcal{A}(\mathcal{I})$ 上の有限加法的測度 $\mu$ に一意拡張できる。またもし $\mu_0$ が $\sigma$-加法的測度ならば $\mu$ も $\sigma$-加法的である。
証明
一意性は命題12.7による。存在を示す。任意の $A\in \mathcal{A}(\mathcal{I})$ に対し命題12.7より互いに交わらない有限個の $C_1,\ldots,C_n\in \mathcal{I}$ が存在し $A=\bigcup_{j=1}^{n}C_j$ と表せる。そこで、 $$ \mu(A):=\sum_{j=1}^{n}\mu_0(C_j) $$ と定義する。これはwell-definedである。実際、有限個の互いに交わらない $D_1,\ldots,D_m\in \mathcal{I}$ に対し $A=\bigcup_{k=1}^{m}D_k$ とも表せるとすると、$\mu_0$ の有限加法性より、 $$ \sum_{j=1}^{n}\mu_0(C_j)=\sum_{j=1}^{n}\sum_{k=1}^{m}\mu_0(C_j\cap D_k) =\sum_{k=1}^{m}\mu_0(D_k) $$ である。こうして定義される $\mu:\mathcal{A}(\mathcal{I})\rightarrow [0,\infty]$ は明らかに $\mu_0$ の拡張であり、有限加法的測度である。~ $\mu_0$ が $\sigma$-加法的測度であると仮定して $\mu$ が $\sigma$-加法的測度であることを示す。 まず $\mathcal{I}$ の非交叉列 $(C_n)_{n\in \mathbb{N}}$ が $\bigcup_{n\in \mathbb{N}}C_n\in\mathcal{A}(\mathcal{I})$ を満たすとき $\mu(\bigcup_{n\in \mathbb{N}}C_n)=\sum_{n\in \mathbb{N}}\mu(C_n)$ が成り立つことを示す。命題12.7より互いに交わらない有限個の $D_1,\ldots,D_m\in \mathcal{I}$ が存在し、 $$ \bigcup_{n\in\mathbb{N}}C_n=\bigcup_{k=1}^{m}D_k $$ と表せる。よって $\mu$ の定義と $\mu_0$ の $\sigma$-加法性より、 $$ \mu\left(\bigcup_{n\in \mathbb{N}}C_n\right)=\sum_{k=1}^{m}\mu_0(D_k) =\sum_{k=1}^{m}\sum_{n\in\mathbb{N}}\mu_0(C_n\cap D_k) =\sum_{n\in \mathbb{N}}\sum_{k=1}^{m}\mu_0(C_n\cap D_k) =\sum_{n\in \mathbb{N}}\mu_0(C_n) $$ である。次に $\mathcal{A}(\mathcal{I})$ の非交叉列 $(A_n)_{n\in \mathbb{N}}$ が $\bigcup_{n\in \mathbb{N}}A_n\in \mathcal{A}(\mathcal{I})$ を満たすとき $\mu(\bigcup_{n\in \mathbb{N}}A_n)=\sum_{n\in \mathbb{N}}\mu(A_n)$ が成り立つことを示す。命題12.7より各 $n\in \mathbb{N}$ に対し互いに交わらない有限個の $C_{n,1},\ldots,C_{n,m(n)}\in \mathcal{I}$ が存在し $A_n=\bigcup_{k=1}^{m(n)}C_{n,k}$ と表せる。このとき $(C_{n,k})_{n,k}$ は互いに交わらず、$\bigcup_{n\in \mathbb{N}}A_n=\bigcup_{n\in \mathbb{N}}\bigcup_{k=1}^{m(n)}C_{n,k}$ であるから上で示したことより、 $$ \mu\left(\bigcup_{n\in \mathbb{N}}A_n\right) =\mu\left(\bigcup_{n\in \mathbb{N}}\bigcup_{k=1}^{n}C_{n,k}\right) =\sum_{n\in \mathbb{N}}\sum_{k=1}^{n}\mu(C_{n,k}) =\sum_{n\in \mathbb{N}}\mu(A_n) $$ である。これで $\mu$ の $\sigma$-加法性が示された。
命題13.3(有限加法族上の測度の基本性質)
$\mathcal{A}\subset 2^X$ を集合 $X$ 上の有限加法的測度とし、$\mu:\mathcal{A}\rightarrow[0,\infty]$ を有限加法的測度とする。次が成り立つ。
- $(1)$ (単調性) $A\subset B$ なる任意の $A,B\in \mathcal{A}$ に対し $\mu(A)\leq \mu(B)$.
- $(2)$ (有限劣加法性) 任意の有限個の $A_1,\ldots,A_n\in \mathcal{A}$ に対し $\mu(\bigcup_{j=1}^{n}A_j)\leq \sum_{j=1}^{n}\mu(A_j)$.
また、もし $\mu$ が $\sigma$-加法的測度であるならば、
- $(3)$ ($\sigma$-劣加法性) $\mathcal{A}$ の列 $(A_n)_{n\in \mathbb{N}}$ で $\bigcup_{n\in \mathbb{N}}A_n\in \mathcal{A}$ なるものに対し $\mu(\bigcup_{n\in \mathbb{N}}A_n)\leq \sum_{n\in \mathbb{N}}\mu(A_n)$.
証明
- $(1)$ $\mu(B)=\mu(A)+\mu(B\backslash A)\geq \mu(A)$.
- $(2)$ $B_1:=A_1$、$B_k:=A_k\backslash(A_1\cup\ldots\cup A_{k-1})\in \mathcal{A}$ $(k=2,\ldots,n)$ とおくと $B_1,\ldots,B_n$ は互いに交わらず $\bigcup_{j=1}^{n}A_j=\bigcup_{j=1}^{n}B_j$ である。よって $\mu(\bigcup_{j=1}^{n}A_j)=\mu(\bigcup_{j=1}^{n}B_j)=\sum_{j=1}^{n}\mu(B_j)\leq \sum_{j=1}^{n}\mu(A_j)$ である。
- $(3)$ $B_1:=A_1$、$B_n:=A_n\backslash (A_1\cup\ldots A_{n-1})\in\mathcal{A}$ $(\forall n\geq 2)$ とおくと $(B_n)_{n\in\mathbb{N}}$ は非交叉列であり $\bigcup_{n\in \mathbb{N}}A_n=\bigcup_{n\in \mathbb{N}}B_n$ である。よって $\mu(\bigcup_{n\in \mathbb{N}}A_n)=\mu(\bigcup_{n\in\mathbb{N}}B_n)=\sum_{n\in\mathbb{N}}\mu(B_n)\leq \sum_{n\in\mathbb{N}}\mu(A_n)$ である。
定義13.4($\sigma$-有限性)
$\mathcal{I}\subset 2^X$ を集合 $X$ 上の半集合代数とし、$\mu:\mathcal{I}\rightarrow [0,\infty]$ を測度とする。$\mu$ が $\sigma$-有限であるとは $\mathcal{I}$ の列 $(C_n)_{n\in \mathbb{N}}$ で、 $$ X=\bigcup_{n\in\mathbb{N}}C_n,\quad \mu(C_n)<\infty\quad(\forall n\in \mathbb{N}) $$ を満たすものが存在することを言う。
命題13.5(有限加法族上の測度の $\sigma$-有限性に関して)
$\mathcal{A}\subset 2^X$ を集合 $X$ 上の有限加法族とし、$\mu:\mathcal{A}\rightarrow[0,\infty]$ を $\sigma$-有限測度とする。このとき、
- $(1)$ $\mathcal{A}$ の非交叉列 $(A_n)_{n\in \mathbb{N}}$ で $X=\bigcup_{n\in\mathbb{N}}A_n$、$\mu(A_n)<\infty$ $(\forall n\in\mathbb{N})$ なるものが取れる。
- $(2)$ $\mathcal{A}$ の単調増加列 $(A_n)_{n\in \mathbb{N}}$ で $X=\bigcup_{n\in\mathbb{N}}A_n$、$\mu(A_n)<\infty$ $(\forall n\in\mathbb{N})$ なるものが取れる。
証明
$\sigma$-有限性より $X=\bigcup_{n\in\mathbb{N}}E_n$、$\mu(E_n)<\infty$ $(\forall n\in \mathbb{N})$ を満たす $\mathcal{A}$ の列 $(E_n)_{n\in \mathbb{N}}$ が取れる。$(1)$ については $A_1:=E_1$、$A_n:=E_n\backslash (E_1\cup\ldots \cup E_{n-1})$ $(\forall n\geq2)$ とおけばよく、$(2)$ については$A_n=\bigcup_{j=1}^{n}E_j$ $(\forall n\in \mathbb{N})$ とおけばよい。(有限加法族上の測度の単調性と有限劣加法性に注意。)
補題13.6(Carathéodory外測度)
$\mathcal{A}\subset 2^X$ を集合 $X$ 上の有限加法族、$\mu:\mathcal{A}\rightarrow[0,\infty]$ を $\sigma$-加法的測度とする。そして任意の $E\in 2^X$ に対し、 $$ \mu^*(E):=\inf\left\{\sum_{n\in \mathbb{N}}\mu(A_n):\{A_n\}_{n\in\mathbb{N}}\subset \mathcal{A},\text{}E\subset \bigcup_{n\in\mathbb{N}}A_n\right\} $$ として $\mu^*:2^X\rightarrow[0,\infty]$ を定義し、 $$ \mathfrak{M}:=\{A\in 2^X:\mu^*(E\cap A)+\mu^*(E\backslash A)=\mu^*(E)\text{ }(\forall E\in 2^X)\} $$ とおく。このとき次が成り立つ。
- $(1)$ $\mu^*(\emptyset)=0$. また $\mu^*$ は単調、すなわち $E\subset F$ なる任意の $E,F\in 2^X$ に対し $\mu^*(E)\leq \mu^*(F)$.
- $(2)$ $\mu^*$ は劣 $\sigma$-加法的、すなわち $2^X$ の任意の列 $(E_n)_{n\in \mathbb{N}}$ に対し $\mu^*(\bigcup_{n\in\mathbb{N}}E_n)\leq \sum_{n\in \mathbb{N}}\mu^*(E_n)$.
- $(3)$ $\mathfrak{M}$ は $X$ 上の有限加法族。
- $(4)$ $\mathfrak{M}$ の任意の非交叉列 $(E_n)_{n\in \mathbb{N}}$ に対し、
$$ \mu^*(E)=\sum_{n=1}^{N}\mu^*(E\cap A_n)+\mu^*\left(E\backslash \bigcup_{n=1}^{N}A_n\right)\quad(\forall E\in 2^X, \forall N\in \mathbb{N}). $$
- $(5)$ $\mathfrak{M}$ は $X$ 上の $\sigma$-加法族。
- $(6)$ $\mathfrak{M}\ni A\mapsto \mu^*(A)\in [0,\infty]$ は測度。
- $(7)$ $\mathcal{A}\subset \mathfrak{M}$.
- $(8)$ $\mu^*$ は $\mu$ の拡張。
証明
- $(1)$ 自明である。
- $(2)$ $\sum_{n\in \mathbb{N}}\mu^*(E_n)<\infty$ と仮定して示せばよい。任意の $\epsilon\in(0,\infty)$、任意の $n\in \mathbb{N}$ に対し $\{A_{n,m}\}_{m\in\mathbb{N}}\subset \mathcal{A}$ で、
$$ E_n\subset \bigcup_{m\in\mathbb{N}}A_{n,m},\quad \sum_{m\in\mathbb{N}}\mu^*(A_{n,m})<\mu^*(E_n)+\frac{\epsilon}{2^n} $$ なるものが取れる。このとき $\bigcup_{n\in \mathbb{N}}E_n\subset \bigcup_{n,m\in\mathbb{N}}A_{n,m}$ であり、 $$ \sum_{n,m\in\mathbb{N}}\mu(A_{n,m})<\sum_{n\in\mathbb{N}}\left(\mu^*(E_n)+\frac{\epsilon}{2^n} \right)=\sum_{n\in\mathbb{N}}\mu^*(E_n)+\epsilon $$ であるから、$\mu^*(\bigcup_{n\in \mathbb{N}}E_n)\leq \sum_{n\in \mathbb{N}}\mu^*(E_n)+\epsilon$ である。$\epsilon\in(0,\infty)$ は任意なので $\mu^*(\bigcup_{n\in \mathbb{N}}E_n)\leq \sum_{n\in \mathbb{N}}\mu^*(E_n)$ が成り立つ。
- $(3)$ $X\in \mathfrak{M}$ であることと任意の $A\in \mathfrak{M}$ に対し $X\backslash A\in \mathfrak{M}$ であることは自明である。任意の $A,B\in \mathfrak{M}$、任意の $E\in 2^X$ に対し、劣加法性より、
$$ \begin{aligned} &\mu^*(E\cap(A\cup B))+\mu^*(E\backslash(A\cup B))\\ &\leq \mu^*(E\cap A\cap B)+\mu^*((E\cap A)\backslash B)+\mu^*((E\backslash A) \cap B)+\mu^*((E\backslash A)\backslash B)\\ &=\mu^*(E\cap A)+\mu^*(E\backslash A)=\mu^*(E) \end{aligned} $$ である。よって $\mu^*(E\cap(A\cup B))+\mu^*(E\backslash (A\cup B))\leq\mu^*(E)$ であり、逆の不等式も劣加法性より成り立つので $A\cup B\in \mathfrak{M}$ である。ゆえに $\mathfrak{M}$ は有限加法族である。
- $(4)$ $N$ に関する帰納法で示す。$N=1$ の場合は自明。ある $N\in \mathbb{N}$ に対して成り立つと仮定する。
$$ E\cap A_{N+1}=\left(E\backslash \bigcup_{n=1}^{N}A_n\right)\cap A_{N+1},\quad E\backslash \bigcup_{n=1}^{N+1}A_n=\left(E\backslash \bigcup_{n=1}^{N}A_n\right)\backslash A_{N+1} $$ であるから、 $$ \begin{aligned} &\sum_{n=1}^{N+1}\mu^*(E\cap A_n)+\mu^*\left(E\backslash \bigcup_{n=1}^{N+1}A_n\right) =\sum_{n=1}^{N}\mu^*(E\cap A_n)+\mu^*(E\cap A_{N+1})+\mu^*\left(E\backslash \bigcup_{n=1}^{N+1}A_n\right)\\ &=\sum_{n=1}^{N}\mu^*(E\cap A_n)+\mu^*\left(E\backslash \bigcup_{n=1}^{N}A_n\right)=\mu^*(E) \end{aligned} $$ である。よって $N+1$ の場合も成り立つ。
- $(5)$ $\mathfrak{M}$ の任意の非交叉列 $(A_n)_{n\in \mathbb{N}}$ と任意の $E\in 2^X$ に対し $(4)$ と単調性、劣 $\sigma$-加法性より、
$$ \mu^*(E)\geq \sum_{n\in \mathbb{N}}\mu^*(E\cap A_n)+\mu^*\left(E\backslash \bigcup_{n\in\mathbb{N}}A_n\right) \geq \mu^*\left(E\cap \bigcup_{n\in\mathbb{N}} A_n\right)+\mu^*\left(E\backslash \bigcup_{n\in\mathbb{N}}A_n\right) $$ であるから $\bigcup_{n\in \mathbb{N}}A_n\in \mathfrak{M}$ である。このことと $\mathfrak{M}$ が有限加法族であることから、$\mathfrak{M}$ の任意の非交叉列 $(A_n)_{n\in \mathbb{N}}$ に対し $\bigcup_{n\in \mathbb{N}}A_n\in \mathfrak{M}$ であるので、$\mathfrak{M}$ は $\sigma$-加法族である。
- $(6)$ $\mathfrak{M}$ の任意の非交叉列 $(A_n)_{n\in \mathbb{N}}$ に対し $E=\bigcup_{n\in \mathbb{N}}A_n$ とおくと、$(4)$ より、
$$ \mu^*(E)\geq\sum_{n\in\mathbb{N}}\mu^*(E\cap A_n)=\sum_{n\in \mathbb{N}}\mu^*(A_n) $$ である。劣 $\sigma$-加法性より逆の不等式も成り立つ。よって $\mathfrak{M}\ni A\mapsto \mu^*(A)\in [0,\infty]$ は測度である。
- $(7)$ 任意の $A\in \mathcal{A}$、任意の $E\in 2^X$ に対し、
$$ \mu^*(E\cap A)+\mu^*(E\backslash A)\leq \mu^*(E)\quad\quad(*) $$ が成り立つことを示せばよい。$\mu^*(E)<\infty$ とすると、任意の $\epsilon\in(0,\infty)$ に対し $\mathcal{A}$ の列 $(A_n)_{n\in \mathbb{N}}$ で、 $$ E\subset \bigcup_{n\in\mathbb{N}}A_n,\quad\sum_{n\in \mathbb{N}}\mu(A_n)<\mu^*(E)+\epsilon $$ なるものが取れる。$\mathcal{A}$ の列 $(A_n\cap A)_{n\in \mathbb{N}}$ と $(A_n\backslash A)_{n\in\mathbb{N}}$ はそれぞれ $E\cap A$ と $E\backslash A$ を被覆するから、 $$ \begin{aligned} \mu^*(E\cap A)+\mu^*(E\backslash A)\leq \sum_{n\in\mathbb{N}}\mu(A_n\cap A)+\sum_{n\in \mathbb{N}}\mu(A_n\backslash A)=\sum_{n\in \mathbb{N}}\mu(A_n)<\mu^*(E)+\epsilon \end{aligned} $$ である。よって $(*)$ が成り立つ。
- $(8)$
任意の $A\in \mathcal{A}$ を取る。$\mu^*(A)\leq \mu(A)$ は自明。逆の不等式を示す。$A\subset \bigcup_{n\in \mathbb{N}}A_n$ なる $\mathcal{A}$ の任意の列 $(A_n)_{n\in \mathbb{N}}$ に対し、$\mu$ の劣 $\sigma$-加法性と単調性 (命題13.3) より、 $$ \mu(A)=\mu\left(\bigcup_{n\in \mathbb{N}}(A\cap A_n)\right) \leq \sum_{n\in \mathbb{N}}\mu(A_n) $$ であるから $\mu(A)\leq \mu^*(A)$ が成り立つ。
定理13.7(Carathéodoryの拡張定理)
$\mathcal{A}\subset 2^X$ を集合 $X$ 上の有限加法族、$\mu:\mathcal{A}\rightarrow[0,\infty]$ を $\sigma$-加法的測度とする。このとき $\mu$ は $\sigma(\mathcal{A})$ 上の測度に拡張できる。そしてもし $\mu$ が $\sigma$-有限ならば、その拡張は一意的である。
証明
拡張の存在は補題13.6による。$\mu$ が $\sigma$-有限であるとして拡張の一意性を示す。測度 $\mu_1,\mu_2:\sigma(\mathcal{A})\rightarrow[0,\infty]$ がそれぞれ $\mu$ の拡張であるとする。$\sigma$-有限性より $\mathcal{A}$ の非交叉列 $(A_n)_{n\in \mathbb{N}}$ で $X=\bigcup_{n\in\mathbb{N}}A_n$、$\mu(A_n)<\infty$ $(\forall n\in \mathbb{N})$ なるものが取れる(命題13.5)。任意の $n\in \mathbb{N}$ に対し、 $$ \mathcal{M}_n:=\{E\in \sigma(\mathcal{A}):\mu_1(E\cap A_n)=\mu_2(E\cap A_n)\} $$ とおくと、$\mathcal{M}_n$ は $\mathcal{A}$ を含む。また $\mu(A_n)<\infty$ であることと測度の単調収束性(命題6.3)より $\mathcal{M}_n$ は単調族である。よって単調族定理より、 $$ \mathcal{M}_n=\sigma(\mathcal{A})\quad(\forall n\in \mathbb{N}) $$ であるから、 $$ \mu_1(E\cap A_n)=\mu_2(E\cap A_n)\quad(\forall E\in \sigma(\mathcal{A}),\forall n\in\mathbb{N}) $$ が成り立つ。ゆえに任意の $E\in \sigma(\mathcal{A})$ に対し、 $$ \mu_1(E)=\sum_{n\in \mathbb{N}}\mu_1(E\cap A_n)=\sum_{n\in \mathbb{N}}\mu_2(E\cap A_n)=\mu_2(E) $$ である。これで一意性が示せた。
14. 直積測度、Tonelliの定理、Fubiniの定理
定理14.1($\sigma$-有限測度の直積測度の一意存在)
$(X_j,\mathfrak{M}_j,\mu_j)$ $(j=1,\ldots,N)$ をそれぞれ $\sigma$ 有限測度空間とする。このとき直積可測空間 $(\prod_{j=1}^NX_j,\bigotimes_{j=1}^{N}\mathfrak{M}_j)$ 上の測度 $\mu$ で、 $$ \mu(E_1\times\ldots\times E_N)=\mu_1(E_1)\ldots \mu_N(E_N)\quad(\forall E_1\in\mathfrak{M}_1,\ldots,E_N\in \mathfrak{M}_N)\quad\quad(*) $$ を満たすものが唯一つ存在する。
証明
$\prod_{j=1}^{N}X_j$ 上の半集合代数
$$\mathfrak{M}_1\times\ldots\times\mathfrak{M}_N:=\{E_1\times\ldots\times E_N:E_1\in \mathfrak{M}_1,\ldots,E_N\in \mathfrak{M}_N\}
$$
に対し、$\mu:\mathfrak{M}_1\times\ldots\times\mathfrak{M}_N\rightarrow[0,\infty]$ を $(*)$ により定義する。このとき $\mu$ は半集合代数上の $\sigma$-加法的である。実際、$\mathfrak{M}_1\times\ldots\times \mathfrak{M}_N$ の非交叉列 $(E_{1,n}\times\ldots\times E_{N,n})_{n\in \mathbb{N}}$ で、
$$
\bigcup_{n\in\mathbb{N}}E_{1,n}\times\ldots\times E_{N,n}\in \mathfrak{M}_1\times\ldots\times \mathfrak{M}_N
$$
なるものを考え、$E_1\times\ldots\times E_N=\bigcup_{n\in\mathbb{N}}E_{1,n}\times\ldots\times E_{N,n}$ とおくと、
$$
\chi_{E_1}(x_1)\ldots\chi_{E_N}(x_N)=\sum_{n\in\mathbb{N}}\chi_{E_{1,n}}(x_1)\ldots\chi_{E_{N,n}}(x_N)\quad(\forall (x_1,\ldots,x_N)\in X_1\times\ldots\times X_N)
$$
であるから、各変数ごとに単調収束定理(非負値可測関数列の和の項別積分)を順次適用することで、
$$
\mu_1(E_1)\ldots\mu_N(E_N)=\sum_{n\in\mathbb{N}}\mu_1(E_{1,n})\ldots\mu_N(E_{N,n})
$$
を得る。 よって $\mu$ は $\sigma$-加法的である。命題13.2より $\mu$ は $\mathcal{A}(\mathfrak{M}_1\times\ldots\times\mathfrak{M}_N)$ 上の $\sigma$-加法的測度に一意拡張できる。そして $\mu_1,\ldots,\mu_N$ の $\sigma$-有限性より $\mu$ は $\sigma$-有限であるから、Carathéodoryの拡張定理より、$\mu$ は $\bigotimes_{j=1}^{N}\mathfrak{M}_j=\sigma(\mathfrak{M}_1\times\ldots\times\mathfrak{M}_N)$ 上の測度に一意拡張できる。
定義14.2($\sigma$-有限測度の直積測度)
定理14.1における直積可測空間 $(\prod_{j=1}^NX_j,\bigotimes_{j=1}^{N}\mathfrak{M}_j)$ 上の測度 $\mu$ を $\mu_1,\ldots,\mu_N$ の直積測度と言い、$\mu_1\otimes\ldots\mu_N$ や $\otimes_{j=1}^{N}\mu_j$ などと表す。
補題14.3(基本補題)
$(X_j,\mathfrak{M}_j,\mu_j)$ $(j=1,\ldots,N)$ をそれぞれ $\sigma$ 有限測度空間、$f:\prod_{j=1}^{N}X_j\rightarrow[0,\infty]$ を直積可測空間上の非負値可測関数とする。このとき任意の $k\in\{1,\ldots,N\}$、任意の $x_j\in X_j$ $(j\neq k)$ に対し、 $$ X_k\ni x_k\mapsto f(x_1,\ldots,x_k,\ldots,x_N)\in [0,\infty]\quad\quad(*) $$ は可測関数であり、 $$ X_1\times\ldots\widehat{X_k}\ldots\times X_N\ni (x_1,\ldots,\widehat{x_k},\ldots,x_N) \mapsto \int_{X_k}f(x_1,\ldots,x_k,\ldots,x_N)d\mu_k(x_k)\in [0,\infty]\quad\quad(**) $$ ($\widehat{X_k}$、 $\widehat{x_k}$ はそれぞれ $X_k$、$x_k$ を飛ばすことを意味する)は直積可測空間上の可測関数である。
証明
$x_j\in X_j$ $(j\neq k)$ を固定し、 $$ \iota_k:X_k\ni x_k\mapsto (x_1,\ldots,x_k,\ldots,x_N)\in X_1\times\ldots\times X_N $$ とおく。任意の $E_1\in\mathfrak{M}_1,\ldots,E_N\in \mathfrak{M}_N$ に対し $\iota_k^{-1}(E_1\times\ldots\times E_N)$ は $E_k$ か $\emptyset$ であるから $\iota_k$ は可測写像である(命題2.3)。$(*)$ は可測関数 $\iota_k$ と $f$ の合成であるから可測関数である。$(**)$ が可測関数であることを示すには、非負値可測関数の可測単関数の各点単調増加列による近似(定理5.5)と単調収束定理 より、ある $E\in\bigotimes_{j=1}^{N}\mathfrak{M}_j$ に対し $f=\chi_E$ であるとして示せば十分である。さらにそのためには $\mu_k$ の $\sigma$-有限性と単調収束定理より $\mu_k(A_k)<\infty$ なる $A_k\in\mathfrak{M}_k$ を取り、 $$ X_1\times\ldots\widehat{X_k}\ldots\times X_N\ni (x_1,\ldots,\widehat{x_k},\ldots,x_N) \mapsto \int_{X_k}\chi_E(x_1,\ldots,x_k,\ldots,x_N)\chi_{A_k}(x_k)d\mu_k(x_k)\in [0,\infty)\quad\quad(***) $$ が可測関数であることを示せば十分である。$E\in \mathfrak{M}_1\times\ldots\times\mathfrak{M}_N$ の場合は $(***)$ は明らかに可測関数である。よって命題12.7より $E\in \mathcal{A}(\mathfrak{M}_1\times\ldots\times \mathfrak{M}_N)$ の場合も $(**)$ は可測関数である。$x_j\in X_j$ $(j\neq k)$ を固定したとき、 $$ \bigotimes_{j=1}^{N}\mathfrak{M}_j\ni E\mapsto \int_{X_k}\chi_E(x_1,\ldots,x_k,\ldots,x_N)\chi_{A_k}(x_k)d\mu_k(x_k)\in [0,\infty) $$ は有限測度であるから、測度の単調収束性(命題6.3)より、 $(**)$ が可測関数となるような $E\in \bigotimes_{j=1}^{N}\mathfrak{M}_j$ 全体は単調族である。よって単調族定理より、任意の $E\in \bigotimes_{j=1}^{N}\mathfrak{M}_j=\sigma(\mathcal{A}(\mathfrak{M}_1\times\ldots\times\mathfrak{M}_N))$ に対し、$(**)$ は可測関数である。
定理14.4(Tonelliの定理)
$(X_j,\mathfrak{M}_j,\mu_j)$ $(j=1,\ldots,N)$ をそれぞれ $\sigma$ 有限測度空間、$f:\prod_{j=1}^{N}X_j\rightarrow[0,\infty]$ を直積可測空間上の非負値可測関数、$\sigma$ を $N$ 次の置換とする。このとき、 $$ \begin{aligned} &\int_{\prod_{j=1}^{N}X_j}f(x_1,\ldots,x_N)d\otimes_{j=1}^{N}\mu_j(x_1,\ldots,x_N)\\ &=\int_{X_{\sigma(1)}}\left(\ldots\left(\int_{X_{\sigma(N)}}f(x_1,\ldots,x_N)d\mu_{\sigma(N)}(x_{\sigma(N)})\right)\ldots\right)d\mu_{\sigma(N)}(x_N) \end{aligned} $$ が成り立つ。(右辺の累次積分が意味を持つのは補題14.3による。)
証明
非負値可測関数の可測単関数の各点単調増加列による近似(定理5.5)と単調収束定理 より、ある $E\in\bigotimes_{j=1}^{N}\mathfrak{M}_j$ に対し $f=\chi_E$ であるとして示せば十分である。任意の $E\in \bigotimes_{j=1}^{N}\mathfrak{M}_j$ に対し、 $$ \mu(E):=\int_{X_{\sigma(1)}}\left(\ldots\left(\int_{X_{\sigma(N)}}\chi_E(x_1,\ldots,x_N)d\mu_{\sigma(N)}(x_{\sigma(N)})\right)\ldots\right)d\mu_{\sigma(N)}(x_N) $$ とおけば単調収束定理(非負値可測関数列の和の項別積分)より $\mu:\bigotimes_{j=1}^{N}\mathfrak{M}_j\rightarrow[0,\infty]$ は測度である。また明らかに、 $$ \mu(E_1\times\ldots\times E_N)=\mu_1(E_1)\ldots\mu_N(E_N)\quad(\forall E_1\in\mathfrak{M}_1,\ldots,E_N\in \mathfrak{M}_N) $$ である。よって直積測度の一意性(定理14.1)より $\mu=\otimes_{j=1}^{N}\mu_j$ である。ゆえに成り立つ。
定理14.5(Fubiniの定理)
$(X_1,\mathfrak{M}_1,\mu_1)$, $(X_2,\mathfrak{M}_2,\mu_2)$ をそれぞれ $\sigma$-有限測度空間、$f\in \mathcal{L}^1(X_1\times X_2,\mathfrak{M}_1\otimes\mathfrak{M}_2,\mu_1\otimes\mu_2)$ とする。$j,k\in\{1,2\}$、$j\neq k$ として、 $$ N_k:=\left\{x_k\in X_k:\int_{X_j}\lvert f(x_1,x_2)\rvert d\mu_j(x_j)<\infty\right\} $$ とおき、$F_k:X_k\rightarrow\mathbb{C}$ を、 $$ F_k(x_k):=\left\{\begin{array}{cl}\int_{X_j}f(x_1,x_2)d\mu_j(x_j)\quad&(x_k\in N_k)\\0&(x_j\in X_k\backslash N_k)\end{array}\right. $$ として定義する。このとき $N_k$ は $\mu_k$-零集合であり、$F_k\in\mathcal{L}^1(X_k,\mathfrak{M}_k,\mu_k)$ である。そして、 $$ \int_{X_k}F_k(x_k)d\mu_k(x_k)=\int_{X_1\times X_2}f(x_1,x_2)d(\mu_1\otimes\mu_2)(x_1,x_2)\quad\quad(*) $$ が成り立つ。
証明
補題14.3より、 $$ X_k\ni x_k\mapsto \int_{X_j}\lvert f(x_1,x_2)\rvert d\mu_j(x_j)\in [0,\infty] $$ は可測関数であり、Tonelliの定理より、 $$ \int_{X_k}\left(\int_{X_j}\lvert f(x_1,x_2)\rvert d\mu_j(x_j)\right)d\mu_k(x_k) =\int_{X_1\times X_2}f(x_1,x_2)d(\mu_1\otimes\mu_2)(x_1,x_2)<\infty $$ であるから、命題9.4より $N_k$ は $\mu_k$-零集合である。以後、$F_k\in \mathcal{L}^1(X_k,\mathfrak{M}_k,\mu_k)$ であることと $(*)$ を示すが、実部と虚部に分けて考えればよいので、 $f$ は実数値関数であるとして示す。 $$ F_k(x_k)=\int_{X_j}f_+(x_1,x_2)d\mu_j(x_j)-\int_{X_j}f_-(x_1,x_2)d\mu_j(x_j)\quad(\forall x_k\in X_k\backslash N_k) $$ であるので、補題14.3より $F_k:X_k\rightarrow \mathbb{R}$ は可測関数である。そしてTonelliの定理より、 $$ \int_{X_k}\lvert F_k(x_k)\rvert d\mu_k(x_k) \leq \int_{X_k}\int_{X_j}\lvert f(x_1,x_2)\rvert d\mu_j(x_j)d\mu_k(x_k) =\int_{X_1\times X_2}\lvert f(x_1,x_2)\rvert d(\mu_1\otimes\mu_2)(x_1,x_2)<\infty $$ であるから $F_k\in \mathcal{L}^1(X_k,\mathfrak{M}_k,\mu_k)$ であり、$N_k$ が $\mu_k$-零集合であることとTonelliの定理より、
$$ \begin{aligned} \int_{X_k}F_k(x_k)d\mu_k(x_k)&=\int_{X_k}\int_{X_j}f_+(x_1,x_2)d\mu_j(x_j)d\mu_k(x_k)-\int_{X_k}\int_{X_j}f_-(x_1,x_2)d\mu_j(x_j)d\mu_k(x_k)\\ &=\int_{X_1\times X_2}f_+(x_1,x_2)d(\mu_1\otimes\mu_2)(x_1,x_2)- \int_{X_1\times X_2}f_-(x_1,x_2)d(\mu_1\otimes\mu_2)(x_1,x_2)\\ &=\int_{X_1\times X_2}f(x_1,x_2)d(\mu_1\otimes\mu_2)(x_1,x_2) \end{aligned} $$ である。
15. 複素数値(実数値)測度の定義と基本的性質
定義15.1(複素数値測度、実数値測度)
$(X,\mathfrak{M})$ を可測空間とする。$\nu:\mathfrak{M}\rightarrow\mathbb{C}$(resp. $\nu:\mathfrak{M}\rightarrow\mathbb{R}$)が次の条件を満たすとき $\nu$ を $(X,\mathfrak{M})$ 上の複素数値測度(resp. 実数値測度)と言う。
- ($\sigma$-加法性)$\mathfrak{M}$ の任意の非交叉列 $(E_n)_{n\in \mathbb{N}}$ に対し $\nu\left(\bigcup_{n\in\mathbb{N}}E_n\right)=\sum_{n\in \mathbb{N}}\nu(E_n)$.((右辺の総和 $\sum_{n\in \mathbb{N}}\mu(E_n)$ についてはBanach空間と有界線型作用素を参照。 ))
命題15.2(複素数値測度の基本性質)
$(X,\mathfrak{M})$ を可測空間、$\nu:\mathfrak{M}\rightarrow\mathbb{C}$ を複素数値測度とする。次が成り立つ。
- $(1)$ $\nu(\emptyset)=0$.
- $(2)$ (有限加法性) 互いに交わらない任意の有限個の $E_1,\ldots,E_n\in \mathfrak{M}$ に対し $\nu(\bigcup_{j=1}^{n}E_j)=\sum_{j=1}^{n}\nu(E_j)$.
- $(3)$ (単調収束性) $\mathfrak{M}$ の任意の単調増加列 $(E_n)_{n\in \mathbb{N}}$ に対し $\nu(\bigcup_{n\in\mathbb{N}}E_n)=\lim_{n\rightarrow\infty}\nu(E_n)$.
- $(4)$ (単調収束性) $\mathfrak{M}$ の任意の単調減少列 $(E_n)_{n\in \mathbb{N}}$ に対し $\nu(\bigcap_{n\in\mathbb{N}}E_n)=\lim_{n\rightarrow\infty}\nu(E_n)$.
証明
- $(1)$ $\mathfrak{M}$ の非交叉列 $(E_n)_{n\in \mathbb{N}}$ を $E_n=\emptyset$ $(\forall n\in \mathbb{N})$ として定義すれば、
$$ \nu(\emptyset)=\nu\left(\bigcup_{n\in \mathbb{N}}E_n\right)=\sum_{n\in\mathbb{N}}\nu(E_n)=\lim_{N\rightarrow\infty}N\nu(\emptyset) $$ であるから $\nu(\emptyset)=0$ である。
- $(2)$ $(1)$ と $\sigma$-加法性による。
- $(3)$ $E_0:=\emptyset$、$F_n:=E_n\backslash E_{n-1}$ $(\forall n\in\mathbb{N})$ とおくと $(F_n)_{n\in\mathbb{N}}$ は $\mathfrak{M}$ の非交叉列であり $\bigcup_{n\in\mathbb{N}}E_n=\bigcup_{n\in \mathbb{N}}F_n$ である。また有限加法性より $\nu(F_n)=\nu(E_n)-\nu(E_{n-1})$ である。よって $$\nu(\bigcup_{n\in \mathbb{N}}E_n)=\nu(\bigcup_{n\in\mathbb{N}}F_n)=\sum_{n\in\mathbb{N}}\nu(F_n)=\sum_{n\in\mathbb{N}}(\nu(E_n)-\nu(E_{n-1})=\lim_{n\rightarrow\infty}\nu(E_n).$$
- $(4)$ $(X\backslash E_n)_{n\in \mathbb{N}}$ は $\mathfrak{M}$ の単調増加列であるから $(3)$ より、
$$ \nu\left(X\backslash \bigcap_{n\in\mathbb{N}}E_n\right) =\nu\left(\bigcup_{n\in\mathbb{N}}X\backslash E_n\right) =\lim_{n\rightarrow\infty}\nu(X\backslash E_n) $$ である。また有限加法性より、 $$ \nu(X\backslash E_n)=\nu(X)-\nu(E_n)\quad(\forall n\in\mathbb{N}),\quad \nu\left(X\backslash \bigcap_{n\in\mathbb{N}}E_n\right)=\nu(X)-\nu(\bigcap_{n\in \mathbb{N}}E_n) $$ であるから、$\nu(\bigcap_{n\in \mathbb{N}}E_n)=\lim_{n\rightarrow\infty}\nu(E_n)$ が成り立つ。
命題15.3(密度関数を持つ測度 $\mu_f$)
$(X,\mathfrak{M},\mu)$ を測度空間とする。
- $(1)$ 任意の非負値可測関数 $f:X\rightarrow[0,\infty]$ に対し、
$$ \mu_f:\mathfrak{M}\ni E\mapsto \int_{E}f(x)d\mu(x)\in [0,\infty] $$ は $(X,\mathfrak{M})$ 上の測度である。
- $(2)$ 任意の $f\in \mathcal{L}^1_{\mathbb{R}}(X,\mathfrak{M},\mu)$ に対し、
$$ \mu_f:\mathfrak{M}\ni E\mapsto \int_{E}f(x)d\mu(x)\in \mathbb{R} $$ は $(X,\mathfrak{M})$ 上の実数値測度である。
- $(3)$ 任意の $f\in \mathcal{L}^1(X,\mathfrak{M},\mu)$ に対し、
$$ \mu_f: \mathfrak{M}\ni E\mapsto \int_{E}f(x)d\mu(x)\in \mathbb{C} $$ は $(X,\mathfrak{M})$ 上の複素数値測度である。
証明
- $(1)$ 単調収束定理(非負値可測関数列の和の項別積分)による。
- $(2)$ $f$ の非負部分と非正部分 $f_{\pm}:X\rightarrow[0,\infty)$ (定義4.7)に対し $(1)$ より $\mu_{f_{\pm}}:\mathfrak{M}\rightarrow[0,\infty)$ は測度であり、
$$ \mu_f(E)=\mu_{f_+}(E)-\mu_{f_-}(E)\quad(\forall E\in\mathfrak{M}) $$ であるから、$\mu_f$ は $\sigma$-加法性を持つ。よって $\mu_f$ は実数値測度である。
- $(3)$ $f$ の実部と虚部 $f_1,f_2\in \mathcal{L}^1_{\mathbb{R}}(X,\mathfrak{M},\mu)$ に対し $(2)$ より $\mu_{f_1},\mu_{f_2}:\mathfrak{M}\rightarrow \mathbb{R}$ は実数値測度であり、
$$ \mu_f(E)=\mu_{f_1}(E)+i\mu_{f_2}(E)\quad(\forall E\in\mathfrak{M}) $$ であるから、$\mu_f$ は $\sigma$-加法性を持つ。よって $\mu_f$ は複素数測度である。
16. 実数値測度に関するHahn分解
定義16.1(実数値測度に関して非負(非正)な集合)
$(X,\mathfrak{M})$ を可測空間、$\nu:\mathfrak{M}\rightarrow\mathbb{R}$ を実数値測度とする。$P\in \mathfrak{M}$ が $\nu$ に関して非負であるとは、$\nu(E\cap P)\geq0$ $(\forall E\in \mathfrak{M})$ が成り立つことを言う。また $N\in\mathfrak{M}$ が $\nu$ に関して非正であるとは、$\nu(E\cap N)\leq0$ $(\forall E\in \mathfrak{M})$ が成り立つことを言う。
命題16.2(実数値測度に関して非負な集合の可算合併は非負)
$\nu:\mathfrak{M}\rightarrow\mathbb{R}$ を可測空間 $(X,\mathfrak{M})$ 上の実数値測度とし、$(P_n)_{n\in \mathbb{N}}$ を $\nu$ に関して非負な集合の列とする。このとき $P:=\bigcup_{n\in\mathbb{N}}P_n$ は $\nu$ に関して非負である。
証明
任意の $E\in \mathfrak{M}$ に対し、 $$ E_1:=E\cap P_1,\quad E_n:=(E\cap P_n)\backslash (P_1\cup\ldots\cup P_{n-1})\quad(\forall n\geq2) $$ とおくと $(E_n)_{n\in\mathbb{N}}$ は $\mathfrak{M}$ の非交叉列であり、 $E\cap P=\bigcup_{n\in \mathbb{N}}E\cap P_n=\bigcup_{n\in\mathbb{N}}E_n$ である。任意の $n\in \mathbb{N}$ に対し $E_n\subset P_n$ より $\nu(E_n)\geq0$ であるから、 $$ \nu(E\cap P)=\sum_{n\in\mathbb{N}}\nu(E_n)\geq0 $$ である。よって $P$ は $\nu$ に関して非負である。
補題16.3
$\nu:\mathfrak{M}\rightarrow\mathbb{R}$ を可測空間 $(X,\mathfrak{M})$ 上の実数値測度とする。このとき、
- $(1)$ 任意の $A\in \mathfrak{M}$と任意の $\epsilon\in(0,\infty)$ に対し、$B\subset A$、$\nu(B)\geq\nu(A)$ なる $B\in \mathfrak{M} $ で、 $\nu(E)\geq-\epsilon$ $(\forall E\in \mathfrak{M}:E\subset B)$ を満たすものが存在する。
- $(2)$ 任意の $A\in \mathfrak{M}$ に対し $\nu$ に関して非負な $P\in \mathfrak{M}_A$ で $\nu(P)\geq \nu(A)$ を満たすものが存在する。
- $(3)$ $\sup\{\nu(A): A\in \mathfrak{M}\}<\infty$.
証明
- $(1)$ 背理法で示す。ある $A\in \mathfrak{M}$ と $\epsilon\in (0,\infty)$ に対しては、$B\subset A$、$\nu(B)\geq \nu(A)$ なるいかなる $B\in \mathfrak{M}$ を取っても、$E\subset B$、$\nu(E)<-\epsilon$ を満たす $E\in \mathfrak{M}$ が存在すると仮定して矛盾を導く。まず $B$ として $A$ 自身を考えれば、$E_1\subset A$、 $\nu(E_1)<-\epsilon$ を満たす $E_1\in \mathfrak{M}$ が取れる。次に $B$ として $A\backslash E_1$ を考えれば $E_2\subset A\backslash E_1$ で $\nu(E_2)<-\epsilon$ を満たす $E_2\in \mathfrak{M}$ が取れる。同様のことを繰り返すことによって $\mathfrak{M}$ の列 $(E_n)_{n\in \mathbb{N}}$ で、
$$ E_{n+1}\subset A\backslash (E_1\cup\ldots \cup E_n),\quad \nu(E_n)<-\epsilon\quad(\forall n\in \mathbb{N})\quad\quad(*) $$ を満たすものが取れることが分かる。このとき $(*)$ の左の式より $(E_n)_{n\in \mathbb{N}}$ は非交叉列であるから、$\nu(\bigcup_{n\in \mathbb{N}}E_n)=\sum_{n\in \mathbb{N}}\nu(E_n)$ である。しかし $(*)$ の右の式より $\sum_{n\in \mathbb{N}}\nu(E_n)$ は収束しないので矛盾する。
- $(2)$ $A_1:=A\in \mathfrak{M}$ とおく。$(1)$ より $\mathfrak{M}$ の列 $(A_n)_{n\in \mathbb{N}}$ で、任意の $n\geq 2$ に対し、
$$ A_{n}\subset A_{n-1},\quad \nu(A_{n})\geq \nu(A_{n-1}),\quad \nu(E)\geq -\frac{1}{n}\quad(\forall E\in \mathfrak{M}:E\subset A_n) $$ を満たすものが取れる。$P:=\bigcap_{n\in \mathbb{N}}A_n\in \mathfrak{M}$ とおくと $P\subset A$ であり、$\nu$ の単調収束性(命題15.2)より、 $$ \nu(P)=\lim_{n\rightarrow\infty}\nu(A_n)=\sup_{n\in \mathbb{N}}\nu(A_n)\geq \nu(A) $$ である。そして $E\subset P$ なる任意の $E\in \mathfrak{M}$ に対し $\nu(E)\geq -\frac{1}{n}$ $(\forall n\in \mathbb{N})$ であるから $\nu(E)\geq0$ である。ゆえに $P$ は $\nu$ に関して非負である。
- $(3)$ もし $\sup\{\nu(A):A\in \mathfrak{M}\}=\infty$ ならば、任意の $n\in \mathbb{N}$ に対し、$n<\nu(A_n)$ なる $A_n\in \mathfrak{M}$ が取れる。そして $(2)$ より $\nu$ に関して非負な $P_n\in \mathfrak{M}$ で $\nu(P_n)\geq \nu(A_n)$ なるものが取れる。命題16.2 より $P:=\bigcup_{n\in \mathbb{N}}P_n$ は $\nu$ に関して非負であるから、
$$ \nu(P)=\nu(P_n)+\nu(P\backslash P_n)\geq \nu(P_n)\geq\nu(A_n)>n\quad(\forall n\in \mathbb{N}) $$ となる。これは $\nu(P)=\infty$ を意味するので矛盾を得る。
定理16.4(実数値測度に関するHahn分解の存在)
$\nu$ を可測空間 $(X,\mathfrak{M})$ 上の実数値測度とする。このとき $X$ の可測分割 $P, N$ で、それぞれ $\nu$ に関して非負と非正であるようなものが存在する。
証明
$s:=\sup\{\nu(A):A\in \mathfrak{M}\}$ とおく。補題16.3の $(3)$ より $s<\infty$ であるから、任意の $n\in \mathbb{N}$ に対し $s-\frac{1}{n}<\nu(A_n)$ なる $A_n\in \mathfrak{M}$ が取れ、補題16.3の $(2)$ より $\nu$ に関して非負な $P_n\in \mathfrak{M}$ で $\nu(P_n)\geq \nu(A_n)$ なるものが取れる。命題16.2 より $P:=\bigcup_{n\in \mathbb{N}}P_n$ は $\nu$ に関して非負であるから、 $$ \nu(P)=\nu(P_n)+\nu(P\backslash P_n)\geq \nu(P_n)\geq\nu(A_n)>s-\frac{1}{n}\quad(\forall n\in \mathbb{N}) $$ である。よって $\nu(P)=s$ であるから $E\subset X\backslash P$ なる任意の $E\in \mathfrak{M}$ に対し $\nu(E)+s=\nu(E)+\nu(P)=\nu(E\cup P)\leq s$ である。ゆえに $\nu(E)\leq0$ であるから $X\backslash P$ は非正である。
定義16.5(実数値測度に関するHahn分解)
$(X,\mathfrak{M})$ を可測空間、$\nu:\mathfrak{M}\rightarrow\mathbb{R}$ を実数値測度とする。定理16.4 より、$X$ の可測分割 $P, N$ で、それぞれ $\nu$ に関して非負と非正であるようなものが存在する。この $P,N$ を $\nu$ に関する $X$ のHahn分解と言う。
17. 互いに特異な測度、実数値測度のJordan分解
定義17.1(互いに特異な測度)
$\mu_1,\mu_2$ を可測空間 $(X,\mathfrak{M})$ 上の測度か複素数値測度とする。$\mu_1$ と $\mu_2$ が互いに特異であるとは、$X$ の可測分割 $A_1,A_2$ で、 $$\mu_1(E)=\mu(E\cap A_1),\quad \mu_2(E)=\mu(E\cap A_2)\quad(\forall E\in \mathfrak{M})$$ なるものが存在することを言う。また $\mu_1,\mu_2$ が互いに特異であることを $\mu_1\perp \mu_2$ と表す。
定理17.2(実数値測度のJordan分解)
$\nu$ を可測空間 $(X,\mathfrak{M})$ 上の実数値測度とする。このとき有限測度の組 $\nu_+,\nu_-:\mathfrak{M}\rightarrow [0,\infty)$ で、 $$ \nu=\nu_+-\nu_-,\quad \nu_+\perp \nu_-\quad\quad(*) $$ を満たすものが唯一つ存在する。
証明
$X$ の$\nu$ に関するHahn分解 $A_+,A_-$ に対し、有限測度 $\nu_+,\nu_-:\mathfrak{M}\rightarrow[0,\infty)$ を、 $$ \nu_{\pm}(E)=\pm \nu(E\cap A_{\pm})\quad(\forall E\in \mathfrak{M})\quad\quad(**) $$ として定義する。このとき $\nu_+,\nu_-$ は $(*)$ を満たす。一意性を示す。有限測度の組 $\mu_+,\mu_-:\mathfrak{M}\rightarrow [0,\infty)$ も、 $$ \nu=\mu_+-\mu_-,\quad \mu_+\perp \mu_- $$ を満たすとする。$\mu_+\perp \mu_-$ であるから、$X$ の可測分割 $B_+,B_-$ で、 $$ \mu_{\pm}(E)=\mu_{\pm}(E\cap B_{\pm})\quad(\forall E\in \mathfrak{M}) $$ なるものが取れる。$B_+\cap B_-=\emptyset$ より $\mu_{\pm}(B_{\mp})=0$ であるから、 $$ \nu(E\cap B_{\pm})=\pm \mu_{\pm}(E\cap B_{\pm})=\pm\mu_{\pm}(E)\quad(\forall E\in \mathfrak{M})\quad\quad(***) $$ である。よって $B_+,B_-$ はそれぞれ $\nu$ に関して非負、非正であるから、 $$ \nu(E\cap A_{\pm}\cap B_{\mp})=0\quad(\forall E\in \mathfrak{M}) $$ であり、したがって、 $$ \nu(E\cap A_{\pm})=\nu(E\cap A_{\pm}\cap B_{\pm})=\nu(E\cap B_{\pm})\quad(\forall E\in \mathfrak{M}) $$ である。これと $(**),(***)$ より $\nu_{\pm}=\mu_{\pm}$ を得る。
定義17.3(実数値測度のJordan分解、非負部分、非正部分)
$\nu$ を可測空間 $(X,\mathfrak{M})$ 上の実数値測度とする。定理17.2より有限測度の組 $\nu_+,\nu_-:\mathfrak{M}\rightarrow [0,\infty)$ で、 $$ \nu=\nu_+-\nu_-,\quad \nu_+\perp \nu_- $$ を満たすものが唯一つ存在する。$\nu_+,\nu_-$ を $\nu$ の非負部分、非正部分と言い、これらを $\nu$ のJordan分解と言う。定理17.2の証明より $\nu$ のJordan分解 $\nu_{+},\nu_-$ は、$\nu$ に関する $X$ のHahn分解 $A_{+},A_-$ により、 $$ \nu_{\pm}(E)=\pm \nu(E\cap A_{\pm})\quad(\forall E\in \mathfrak{M}) $$ と表される。
例17.4
$(X,\mathfrak{M},\mu)$ を測度空間、$f\in \mathcal{L}^1_{\mathbb{R}}(X,\mathfrak{M},\mu)$ とする。実数値測度 $$ \mu_f:\mathfrak{M}\ni E\mapsto \int_{E}f(x)d\mu(x)\in\mathbb{R} $$ に対し $(f\geq0), (f< 0)\in \mathfrak{M}$ は $\mu_f$ に関する$X$ のHahn分解であり、有限測度 $$ \mu_{f_{\pm}}:\mathfrak{M}\ni E\mapsto \int_{E}f_{\pm}(x)d\mu(x)\in [0,\infty) $$ は、$f_+=f\chi_{(f\geq0)}$、$f_-=-f\chi_{(f<0)}$ より、 $$ \mu_{f_{+}}(E)=\mu_f(E\cap (f\geq0)),\quad \mu_{f_{-}}(E)=-\mu_f(E\cap (f<0))\quad(\forall E\in \mathfrak{M}) $$ を満たすので、$\mu_{f_+},\mu_{f_-}$ は $\mu_f$ のJordan分解である。
18. 絶対連続性、Radon-Nikodymの定理
定義18.1(絶対連続性)
$(X,\mathfrak{M},\mu)$ を測度空間、$\nu$ を $(X,\mathfrak{M})$ 上の測度か複素数値測度とする。$\nu$ が $\mu$ に関して絶対連続であるとは $\mu(E)=0$ なる任意の $E\in \mathfrak{M}$ に対し $\nu(E)=0$ が成り立つことを言う。$\nu$ が $\mu$ に関して絶対連続であることを $\nu\ll \mu$ と表す。
例18.2
命題15.3における(複素数値)測度 $\mu_f$ は $\mu$ に関して絶対連続である。
補題18.3
$(X,\mathfrak{M})$ を可測空間、$\mu,\nu:\mathfrak{M}\rightarrow [0,\infty)$ を有限測度とする。このとき $\mu$ に関して可積分な $f:X\rightarrow[0,\infty)$ と有限測度 $\lambda:\mathfrak{M}\rightarrow [0,\infty)$ で、
$$ \nu=\mu_f+\lambda,\quad \lambda\perp \mu $$
を満たすものが存在する。
証明
$$ \mathcal{F}:=\left\{f:X\rightarrow [0,\infty):f \text{は可測関数で } \mu_f(E)\leq \nu(E)\text{ }(\forall E\in \mathfrak{M})\right\} $$ とおく。任意の $f,g\in \mathcal{F}$ に対し $\text{max}(f,g)\in \mathcal{F}$ である。実際、任意の $E\in \mathfrak{M}$ に対し、
$$ \begin{aligned} \mu_{\text{max}(f,g)}(E)=\mu_{f}(E\cap (f\geq g))+\mu_g(E\cap (f<g)) \leq \nu(E\cap (f\geq g))+\nu(E\cap (f<g))=\nu(E) \end{aligned} $$ である。今、
$$ s:=\sup\left\{\int_{X}f(x)d\mu(x): f\in \mathcal{F}\right\}\leq \nu(X)<\infty $$
とおき、$\mathcal{F}$ の列 $(g_n)_{n\in \mathbb{N}}$ で、
$$ s-\frac{1}{n}<\int_{X}g_n(x)d\mu(x)\quad(\forall n\in \mathbb{N}) $$
なるものを取る。各 $n\in \mathbb{N}$ に対し $f_n:=\text{max}(g_1,\ldots,g_n)$ とおけば、$f_{n+1}=\text{max}(f_n,g_{n+1})$ であるから、$(f_n)_{n\in \mathbb{N}}$ は $\mathcal{F}$ の各点単調増加列である。よって $f:=\sup_{n\in \mathbb{N}}f_n$ とおけば単調収束定理より、 $$ \mu_f(E)=\sup_{n\in \mathbb{N}}\mu_{f_n}(E)\leq \nu(E)\quad(\forall E\in \mathfrak{M}) $$ である。 これより $f\in \mathcal{F}$ であり、(($f$ は $\mu$に関して可積分であるので $\mu$-a.e. $x\in X$ で $f(x)<\infty$ である(命題9.4)。よって必要ならば $f$ を $f\chi_{(f<\infty)}$ に置き換えて任意の $x\in X$ に対し $f(x)<\infty$としてよい。)) $$ s-\frac{1}{n}<\int_{X}g_n(x)d\mu(x)\leq \int_{X}f(x)d\mu(x)\leq s\quad(\forall n\in \mathbb{N}) $$ であるから、 $$ \int_{X}f(x)d\mu(x)=\sup_{n\in \mathbb{N}}\int_{X}f_n(x)d\mu(x)=s\quad\quad(*) $$ である。有限測度 $\lambda:=\nu-\mu_f:\mathfrak{M}\rightarrow[0,\infty)$ が $\lambda\perp \mu$ を満たすことを示せば証明は終わる。そこで各 $n\in \mathbb{N}$ に対し実数値測度 $\lambda-\frac{1}{n}:\mathfrak{M}\rightarrow\mathbb{R}$ に関する $X$ のHahn分解(定義16.5)を $P_n,N_n$ とおき、 $$ P:=\bigcup_{n\in \mathbb{N}}P_n,\quad N:=\bigcap_{n\in \mathbb{N}}N_n=X\backslash P $$ とおく。 $$ 0\leq \lambda(N)\leq \frac{1}{n}\mu(N)\quad(\forall n\in \mathbb{N}) $$ であるから $\lambda(N)=0$ である。よって $\lambda\perp \mu$ を示すには $\mu(P)=0$ を示せばよい。$\mu(P)\leq \sum_{n\in \mathbb{N}}\mu(P_n)$ であるから任意の $n\in \mathbb{N}$ を取り $\mu(P_n)=0$ を示せばよい。可測関数 $h_n:=f+\frac{1}{n}\chi_{P_n}$ を考える。$P_n$ は $\lambda-\frac{1}{n}\mu$ に関して非負であるから、 $$ \mu_{h_n}(E)=\mu_f(E)+\frac{1}{n}\mu(E\cap P_n)\leq \mu_f(E)+\lambda(E)=\nu(E)\quad(\forall E\in \mathfrak{M}) $$ である。よって $h_n\in \mathcal{F}$ であるから $(*)$ より、 $$ s\geq \int_{X}h_n(x)d\mu(x)=\int_{X}f(x)d\mu(x)+\frac{1}{n}\mu(P_n)=s+\frac{1}{n}\mu(P_n) $$ である。ゆえに $\mu(P_n)=0$ である。
定理18.4(Radon-Nikodyimの定理($\sigma$-有限測度版))
$(X,\mathfrak{M})$ を可測空間、$\mu,\nu:\mathfrak{M}\rightarrow [0,\infty]$ を $\sigma$-有限測度とする。このとき非負値可測関数 $f:X\rightarrow[0,\infty)$ と $\sigma$-有限測度 $\lambda:\mathfrak{M}\rightarrow [0,\infty]$ で、
$$ \nu=\mu_f+\lambda,\quad \lambda\perp \mu $$
を満たすものが存在する。
証明
$\mu,\nu$ の $\sigma$-有限性より $\mathfrak{M}$ の非交叉列 $(A_n)_{n\in \mathbb{N}}$ で、 $$ X=\bigcup_{n\in \mathbb{N}}A_n,\quad \mu(A_n)<\infty,\quad\nu(A_n)<\infty\quad(\forall n\in \mathbb{N}) $$ なるものが取れる。そこで各 $n\in \mathbb{N}$ に対し有限測度
$$ \mu_n:\mathfrak{M}\ni E\mapsto \mu(E\cap A_n)\in [0,\infty),\quad \nu_n:\mathfrak{M}\ni E\mapsto \nu(E\cap A_n)\in [0,\infty) $$ を定義する。補題18.3より $\mu_n$ に関して可積分な $f_n:X\rightarrow[0,\infty)$ と有限測度 $\lambda_n:\mathfrak{M}\rightarrow [0,\infty)$ で、
$$ \nu_n=\mu_{n,f_n}+\lambda_n,\quad \lambda_n\perp \mu_n $$
なるものが取れる。
$$ \lambda:\mathfrak{M}\ni E\mapsto \sum_{m\in \mathbb{N}}\lambda_m(E)\in [0,\infty] $$ とおくと、$\mathfrak{M}$ の任意の非交叉列 $(E_n)_{n\in \mathbb{N}}$ に対し、 $$ \lambda\left(\bigcup_{n\in \mathbb{N}}E_n\right) =\sum_{m\in \mathbb{N}}\sum_{n\in \mathbb{N}} \lambda_m(E_n) =\sum_{n\in \mathbb{N}}\sum_{m\in \mathbb{N}} \lambda_m(E_n) =\sum_{n\in \mathbb{N}}\lambda(E_n) $$ であるから $\lambda$ は測度である。また $\mu_{m,f_m}\ll \mu_n$ $(\forall m\in\mathbb{N})$ より、 $$ \lambda_m(A_n)=\nu_m(A_n)-\mu_{m,f_m}(A_n)=0\quad(n\neq m) $$ であるから、 $$ \lambda(A_n)=\sum_{m\in \mathbb{N}}\lambda_m(A_n)=\lambda_n(A_n)<\infty\quad(\forall n\in \mathbb{N})\quad\quad(*) $$ である。よって $\lambda$ は $\sigma$-有限である。非負値可測関数 $$ f:X\ni x\mapsto \sum_{n\in\mathbb{N}}f_n(x)\chi_{A_n}(x)\in [0,\infty) $$ を考えると、単調収束定理(非負値可測関数列の和の項別積分)より、 $$ \mu_f(E)=\sum_{n\in\mathbb{N}}\mu_{f_n}(E\cap A_n)=\sum_{n\in \mathbb{N}}\mu_{n,f_n}(E)\quad(\forall E\in \mathfrak{M}) $$ であるから、 $$ \mu_f(E)+\lambda(E)=\sum_{n\in \mathbb{N}}(\mu_{n,f_n}(E)+\lambda_n(E))=\sum_{n\in \mathbb{N}}\nu_n(E)=\nu(E)\quad(\forall E\in \mathbb{N}) $$ である。後は $\lambda\perp \mu$ を示せばよい。各 $n\in \mathbb{N}$ に対し $\lambda_n\perp \mu_n$ であるから $B_n,C_n\in \mathfrak{M}$ で、 $$ C_n=X\backslash B_n,\quad \mu_n(B_n)=0,\quad \lambda_n(C_n)=0 $$ なるものが取れる。 $$ B:=\bigcup_{n\in \mathbb{N}}(B_n\cap A_n),\quad C:=X\backslash B=\bigcap_{n\in\mathbb{N}}(C_n\cup (X\backslash A_n)) $$ とおくと、 $$ \mu(B)\leq \sum_{n\in \mathbb{N}}\mu(B_n\cap A_n)=\sum_{n\in \mathbb{N}}\mu_n(B_n)=0 $$ であり、$(*)$ より、 $$ \lambda(C)=\sum_{n\in\mathbb{N}}\lambda_n(C)\leq \sum_{n\in \mathbb{N}}(\lambda_n(C_n)+ \lambda_n(X\backslash A_n))=0 $$ である。よって$\lambda\perp \mu$ が成り立つ。
定理18.5(Radon-Nikodyimの定理(実数値測度版))
$(X,\mathfrak{M},\mu)$ を $\sigma$-有限測度空間、$\nu:\mathfrak{M}\rightarrow \mathbb{R}$ を実数値測度とする。このとき $\mu$ に関して可積分な $f:X\rightarrow \mathbb{R}$ と実数値測度 $\lambda:\mathfrak{M}\rightarrow\mathbb{R}$ で、 $$ \nu=\mu_f+\lambda,\quad \lambda\perp \mu $$ を満たすものが存在する。
証明
$\nu$ のJordan分解(定義17.3)$\nu_+,\nu_-:\mathfrak{M}\rightarrow[0,\infty)$ に対し、定理18.4より $\mu$ に関して可積分な $f^{+},f^{-}:X\rightarrow [0,\infty)$ と有限測度 $\lambda_+,\lambda_-:\mathfrak{M}\rightarrow [0,\infty)$ で、 $$ \nu_{\pm}=\mu_{f^{\pm}}+\lambda_{\pm},\quad \lambda_{\pm}\perp \mu $$ を満たすものが取れる。これに対し $\mu$ に関して可積分な $f:=f^{+}-f^{-}:X\rightarrow \mathbb{R}$ と実数値測度 $\lambda=\lambda_+-\lambda_-:\mathfrak{M}\rightarrow\mathbb{R}$ を定義する。明らかに $\nu=\mu_f+\lambda$ である。$\lambda\perp \mu$ を示す。$\lambda_{\pm}\perp\mu$ より $B_{\pm},C_{\pm}\in \mathfrak{M}$ で、 $$ C_{\pm}=X\backslash B_{\pm},\quad \mu(B_{\pm})=0,\quad \lambda_{\pm}(C_{\pm})=0 $$ なるものが取れる。 $$ B:=B_+\cup B_-,\quad C:=C_+\cap C_-=X\backslash B $$ とおくと $\mu(B)\leq \mu(B_+)+\mu(B_-)=0$ であり、$\lambda_{\pm}(C)\leq \lambda_{\pm}(C_{\pm})=0$ より $\lambda(C)=\lambda_+(C)-\lambda_-(C)=0$ である。よって $\lambda\perp \mu$ である。
定理18.6(Radon-Nikodyimの定理(複素数値測度版))
$(X,\mathfrak{M},\mu)$ を $\sigma$-有限測度空間、$\nu:\mathfrak{M}\rightarrow \mathbb{C}$ を複素数値測度とする。このとき $\mu$ に関して可積分な $f:X\rightarrow \mathbb{C}$ と複素数値測度 $\lambda:\mathfrak{M}\rightarrow\mathbb{C}$ で、 $$ \nu=\mu_f+\lambda,\quad \lambda\perp \mu $$ を満たすものが存在する。
証明
実数値測度 $\nu_1,\nu_2:\mathfrak{M}\rightarrow \mathbb{R}$で $\nu=\nu_1+i\nu_2$ なるものを取る。このとき定理18.5より $\mu$ に関して可積分な $f_1,f_2:X\rightarrow\mathbb{R}$ と実数値測度 $\lambda_1,\lambda_2:\mathfrak{M}\rightarrow \mathbb{R}$ で、 $$ \nu_j=\mu_{f_j}+\lambda_j,\quad \lambda_j\perp \mu\quad(j=1,2) $$ を満たすものが取れる。これに対し $\mu$ に関して可積分な $f:=f_1+if_2:X\rightarrow\mathbb{C}$ と複素数値測度 $\lambda:=\lambda_1+i\lambda_2:\mathfrak{M}\rightarrow\mathbb{C}$ を定義する。明らかに $\nu=\mu_f+\lambda$ である。$\lambda\perp \mu$ を示す。$\lambda_j\perp\mu$ より $B_j,C_j\in \mathfrak{M}$ $(j=1,2)$ で、 $$ \mu(B_j)=0,\quad \lambda_j(E\cap C_j)=0\quad(\forall E\in \mathfrak{M},j=1,2) $$ なるものが取れる。 $$ B:=B_1\cup B_2,\quad C:=C_1\cap C_2=X\backslash B $$ とおくと $\mu(B) \leq \mu(B_1)+\mu(B_2)=0$ であり、 $$ \lambda(E\cap C)=\lambda_1(E\cap C\cap C_1)+i\lambda_2(E\cap C\cap C_2)=0\quad(\forall E\in \mathfrak{M}) $$ であるから $\lambda\perp\mu$ である。
系18.7(Radon-Nikodymの定理(絶対連続版))
$(X,\mathfrak{M},\mu)$ を $\sigma$-有限測度空間 を満たすとする。
- $(1)$ $\sigma$-有限測度 $\nu:\mathfrak{M}\rightarrow [0,\infty]$ が $\nu\ll\mu$ を満たすとき非負値可測関数 $f:X\rightarrow[0,\infty)$ で $\nu=\mu_f$ を満たすものが取れる。
- $(2)$ 実数値測度 $\nu:\mathfrak{M}\rightarrow\mathbb{R}$ が $\nu\ll\mu$ を満たすとき $\mu$に関して可積分な $f:X\rightarrow\mathbb{R}$ で $\nu=\mu_f$ を満たすものが取れる。
- $(3)$ 複素数値測度 $\nu:\mathfrak{M}\rightarrow\mathbb{C}$ が $\nu\ll\mu$ を満たすとき $\mu$に関して可積分な $f:X\rightarrow\mathbb{C}$ で $\nu=\mu_f$ を満たすものが取れる。
証明
$(1),(2),(3)$ に対しそれぞれ定理18.4、定理18.5、定理18.6を適用すればよい。$\nu\ll\mu$ であることから $\lambda$ は $\lambda\perp \mu$ かつ $\lambda\ll\mu$ を満たす。$\lambda\perp \mu$ より $X$ の可測分割 $A,B\in \mathfrak{M}$ で、任意の $E\in \mathfrak{M}$ に対し $\lambda(E)=\lambda(E\cap A)$、$\mu(E)=\mu(E\cap B)$ を満たすものが取れる。 $\mu(E\cap A)=\mu(E\cap A\cap B)=0$ であるから、 $\lambda\ll\mu$ より $\lambda(E)=\lambda(E\cap A)=0$ である。
定義18.8(Radon-Nikodym微分)
系18.7における $f$ を $\nu$ の $\mu$ に関するRadon-Nikodym微分と言う。$f_1,f_2$ が共に $\nu$ の $\mu$ に関するRadon-Nikodym微分ならば、命題10.5より $\mu$-a.e. $x\in X$ で $f_1(x)=f_2(x)$ が成り立つ。
19. 複素数値測度の全変動、複素数値測度による積分
定義19.1(複素数値測度の全変動)
$(X,\mathfrak{M})$ を可測空間、$\nu:\mathfrak{M}\rightarrow\mathbb{C}$ を複素数値測度とし、$\lvert\nu\rvert:\mathfrak{M}\rightarrow [0,\infty]$ を、 $$ \lvert \nu\rvert(E):=\sup\left\{\sum_{j=1}^{n}\lvert \nu(E_j)\rvert: E_1,\ldots,E_h\text{ は }E\text{ の有限可測分割} \right\} $$ として定義する。$\lvert\nu\rvert$ を $\nu$ の全変動と言う。次の系19.4で見るように $\lvert\nu\rvert$ は$(X,\mathfrak{M})$ 上の有限測度である。
注意19.2(実数値測度の全変動とJordan分解)
$\nu:\mathfrak{M}\rightarrow \mathbb{R}$ が実数値測度の場合、$\nu$ のJordan分解 $\nu_+,\nu_-$ (定義17.3)は $\nu$ に関する $X$ のHahn分解 $A_+,A_-$ により、 $$ \nu_{\pm}(E)=\pm\nu(E\cap A_{\pm})=\lvert\nu(E\cap A_{\pm})\rvert\quad(\forall E\in \mathfrak{M}) $$ で与えられるから、 $$ \nu_+(E)+\nu_-(E)\leq \lvert\nu\rvert(E)\quad(\forall E\in \mathfrak{M}) $$ である。また、 $$ \lvert\nu(E)\rvert=\lvert\nu_+(E)-\nu_-(E)\rvert\leq \nu_+(E)+\nu_-(E)\quad(\forall E\in \mathfrak{M}) $$ であるから、 $$ \lvert\nu\rvert(E)=\nu_+(E)+\nu_-(E)\quad(\forall E\in \mathfrak{M}) $$ である。
命題19.3($\mu_f$ の全変動は $\mu_{\lvert f\rvert}$)
$(X,\mathfrak{M},\mu)$ を測度空間、$f\in \mathcal{L}^1(X,\mathfrak{M},\mu)$ とする。このとき複素数値測度 $$ \mu_f:\mathfrak{M}\ni E\mapsto \int_{E}f(x)d\mu(x)\in \mathbb{C} $$ の全変動 $\lvert\mu_f\rvert$ は有限測度 $$ \mu_{\lvert f\rvert}:\mathfrak{M}\ni E\mapsto \int_{E}\lvert f(x)\rvert d\mu(x)\in[0,\infty) $$ と一致する。
証明
積分の絶対不等式より $\lvert\mu_f(E)\rvert\leq\mu_{\lvert f\rvert}(E)$ $(\forall E\in \mathfrak{M})$ であるから、全変動の定義より $\lvert\mu_f\rvert (E)\leq \mu_{\lvert f\rvert}(E)$ $(\forall E\in \mathfrak{M})$ である。逆の不等式を示す。可測関数 $\omega:X\rightarrow\mathbb{C}$ を、 $$ \omega(x):=\left\{\begin{array}{cl}\frac{\lvert f(x)\rvert}{f(x)}&(x\in (\lvert f\rvert>0))\\1&(x\in (\lvert f\rvert=0))\end{array}\right. $$ として定義すると、 $$ f(x)\omega(x)=\lvert f(x)\rvert,\quad \lvert \omega(x)\rvert=1\quad(\forall x\in X) $$ である。$\omega_1,\omega_2:X\rightarrow\mathbb{R}$ を $\omega$ の実部と虚部とし、$\omega_{j,+},\omega_{j,-}:X\rightarrow [0,1]$ をそれぞれの非負部分と非正部分とする。$\omega_{j,\pm}$ は有界な非負値可測関数であるから定理5.5の証明より、$\omega_{j,\pm}$ に一様収束する非負値可測単関数の各点単調増加列 $(s_{j,\pm,n})_{n\in \mathbb{N}}$ が取れる。 $$ s_n:=(s_{1,+,n}-s_{1,-,n})+i(s_{2,+,n}-s_{2,-,n})\quad(\forall n\in \mathbb{N}) $$ として可測単関数列 $(s_n)_{n\in \mathbb{N}}$ を定義すると、 $s_{j,\pm,n}(x)\leq \omega_{j,\pm}(x)$ より、 $$ \lvert s_{j,+,n}(x)-s_{j,-,n}(x)\rvert\leq \lvert \omega_{j,+}(x)-\omega_{j,-}(x)\rvert=\lvert \omega(x)\rvert=1\quad(\forall x\in X,\forall n\in \mathbb{N}, j=1,2) $$ であるから、 $$ \lvert s_n(x)\rvert\leq \lvert\omega(x)\rvert=1\quad(\forall x\in X,\forall n\in \mathbb{N})\quad\quad(*) $$ である。また、 $$ \lvert f(x)\rvert=f(x)\omega(x)=\lim_{n\rightarrow\infty}f(x)s_n(x)\quad(\forall x\in X) $$ であるからLebesgue優収束定理より、 $$ \mu_{\lvert f\rvert}(E)=\int_{E}\lvert f(x)\rvert d\mu(x)=\lim_{n\rightarrow\infty}\left\lvert\int_{X}f(x)s_n(x)d\mu(x)\right\rvert\quad(\forall E\in \mathfrak{M})\quad\quad(**) $$ である。ここで任意の $n\in \mathbb{N}$ に対し $(*)$ より $s_n$ は $X$ の可測分割 $A_{n,1},\ldots,A_{n,m(n)}\in \mathfrak{M}$ と絶対値が $1$ 以下の $\alpha_{n,1},\ldots,\alpha_{n,m(n)}\in \mathbb{C}$ により、 $$ s_n(x)=\sum_{j=1}^{m(n)}\alpha_{n,j}\chi_{A_{n,j}}(x)\quad(\forall x\in X) $$ と表せるから任意の $E\in \mathfrak{M}$ に対し、 $$ \left\lvert\int_{E}f(x)s_n(x)d\mu(x)\right\rvert\leq \sum_{j=1}^{m(n)}\lvert\alpha_{n,j}\rvert\lvert \mu_f(E\cap A_{n,j})\rvert\leq \lvert\mu_f\rvert(E) $$ である。よって $(**)$ より $\mu_{\lvert f\rvert}(E)\leq \lvert\mu_f\rvert(E)$ $(\forall E\in \mathfrak{M})$ である。
系19.4(複素数値測度の全変動は有限測度)
複素数値測度の全変動は有限測度である。
証明
$(X,\mathfrak{M})$ を可測空間、$\nu:\mathfrak{M}\rightarrow\mathbb{C}$ を複素数値測度とする。$\nu$ の実部と虚部を $\nu_1,\nu_2:\mathfrak{M}\rightarrow\mathbb{R}$ とおき、それらのJordan分解を $\nu_{j,+},\nu_{j,-}$ $(j=1,2)$とおく。有限測度 $$ \mu:=\nu_{1,+}+\nu_{1,-}+\nu_{2,+}+\nu_{2,-}:\mathfrak{M}\rightarrow[0,\infty) $$ に対し $\lvert \nu(E)\rvert \leq \mu(E)$ $(\forall E\in \mathfrak{M})$ であるから $\nu$ は $\mu$ に関して絶対連続である。よってRadon-Nikodymの定理より $\mu$ に関して可積分な $f:X\rightarrow\mathbb{C}$ で $\nu=\mu_f$ なるものが取れる。命題19.3より $\lvert \nu\rvert=\mu_{\lvert f\rvert}$ であるから $\lvert \nu\rvert$ は有限測度である。
定義19.5(複素数値測度による積分)
$(X,\mathfrak{M})$ を可測空間、$\nu:\mathfrak{M}\rightarrow\mathbb{C}$ を複素数値測度とする。全変動 $\lvert \nu\rvert:\mathfrak{M}\rightarrow[0,\infty)$ に対し $\lvert\nu(E)\rvert\leq \lvert \nu\rvert (E)$ $(\forall E\in \mathfrak{M})$ であるから $\nu$ は $\lvert\nu\rvert$ に関して絶対連続である。よって $\nu$ の $\lvert\nu\rvert$ に関するRadon-Nikodym微分 $ h\in \mathcal{L}^1(X,\mathfrak{M},\lvert\nu\rvert)$ が取れる。$h$ を $\nu$ の $\lvert\nu\rvert$ に関するRadon-Nikodym微分とすると $\nu=\lvert \nu\rvert_{h}$ であるから、命題19.3より $\lvert\nu\rvert=\lvert \nu\rvert_{\lvert h\rvert}$ である。よって命題10.5より、
$$ \lvert h(x)\rvert=1\quad(\lvert\nu\rvert \text{-a.e.} x\in X ) $$
である。そこで任意の $f\in \mathcal{L}^1(X,\mathfrak{M},\lvert\nu\rvert)$ に対し $f$ の $\nu$ による積分を、$\nu$ の $\lvert\nu\rvert$ に関するRadon-Nikodym微分 $h$ を用いて、 $$ \int_{X}f(x)d\nu(x):=\int_{X}f(x)h(x)d\lvert\nu\rvert(x) $$ と定義する。
命題19.6($\mu_f$ による積分)
$(X,\mathfrak{M},\mu)$ を測度空間とする。
- $(1)$ 非負値可測関数 $f:X\rightarrow[0,\infty]$ に対し測度 $\mu_f:\mathfrak{M}\ni E\mapsto \int_{E}f(x)d\mu(x)\in [0,\infty]$ を考える。このとき任意の非負値可測関数 $g:X\rightarrow[0,\infty]$ に対し、
$$ \int_{X}g(x)d\mu_f(x)=\int_{X}f(x)g(x)d\mu(x) $$ が成り立つ。
- $(2)$ $f\in \mathcal{L}^1(X,\mathfrak{M},\mu)$ に対し複素数値測度 $\mu_f:\mathfrak{M}\ni E\mapsto \int_{E}f(x)d\mu(x)\in \mathbb{C}$ を考える。このとき任意の可測関数 $g:X\rightarrow\mathbb{C}$ に対し、
$$ g\in \mathcal{L}^1(X,\mathfrak{M},\lvert\mu_f\rvert)\quad\Leftrightarrow\quad fg\in\mathcal{L}^1(X,\mathfrak{M},\mu)\quad\quad(*) $$ であり、任意の $g\in \mathcal{L^1}(X,\mathfrak{M},\lvert\mu_f\rvert)$ に対し、 $$ \int_{X}g(x)d\mu_f(x)=\int_{X}f(x)g(x)d\mu(x) $$ が成り立つ。
- $(3)$ 複素数値測度 $\nu:\mathfrak{M}\rightarrow\mathbb{C}$ と $f\in \mathcal{L}^1(X,\mathfrak{M},\lvert\nu\rvert)$ に対し複素数値測度 $\nu_f:\mathfrak{M}\ni E\mapsto \int_{E}f(x)d\nu(x)\in \mathbb{C}$ を考える。このとき、
$$ g\in \mathcal{L}^1(X,\mathfrak{M},\lvert\nu_f\rvert)\quad\Leftrightarrow\quad fg\in \mathcal{L}^1(X,\mathfrak{M},\lvert \nu\rvert)\quad\quad(**) $$ であり、任意の $g\in \mathcal{L^1}(X,\mathfrak{M},\lvert\nu_f\rvert)$ に対し、 $$ \int_{X}g(x)d\nu_f(x)=\int_{X}f(x)g(x)d\nu(x) $$ が成り立つ。
証明
- $(1)$ $g$ が非負値可測単関数の場合は明らかに成り立つ。$g$ が一般の非負値可測関数の場合は、$g$ を非負値可測単関数の各点単調増加列で近似し単調収束定理を用いれば成り立つことが分かる。
- $(2)$ 命題19.3より $\lvert \mu_f\rvert=\mu_{\lvert f\rvert}$ であるから $(1)$ より $(*)$ が成り立つ。$\mu_f$ の $\lvert\mu_f\rvert=\mu_{\lvert f\rvert}$ に関するRadon-Nikodym微分を $h\in \mathcal{L}^1(X,\mathfrak{M},\lvert\mu_f\rvert)$ とすると、
$$ \int_{E}f(x)d\mu(x)=\mu_f(E)=(\mu_{\lvert f\rvert})_h(E)=\int_{E}h(x)\lvert f(x)\rvert d\mu(x)\quad(\forall E\in \mathfrak{M}) $$ であるから $\mu$-a.e. $x\in X$ で $f(x)=h(x)\lvert f(x)\rvert$ が成り立つ(命題10.5)。よって任意の $g\in \mathcal{L^1}(X,\mathfrak{M},\lvert\mu_f\rvert)$ に対し、 $$ \int_{X}g(x)d\mu_f(x)=\int_{X}g(x)h(x)d\mu_{\lvert f\rvert}(x)=\int_{X}g(x)h(x)\lvert f(x)\rvert d\mu(x)=\int_{X}f(x)g(x)d\mu(x) $$ である。
- $(3)$ $\nu$ の $\lvert\nu\rvert$ に関するRadon-Nikodym微分を $h\in \mathcal{L}^1(X,\mathfrak{M},\lvert\nu\rvert)$ とすると、
$$ \nu_f(E)=\int_{E}f(x)d\nu(x)=\int_{E}f(x)h(x)d\lvert\nu\rvert(x)=\lvert\nu\rvert_{fh}(E)\quad(\forall E\in \mathfrak{M}) $$ であるから命題19.3より $\lvert\nu_f\rvert=\lvert\nu\rvert_{\lvert fh\rvert}=\lvert\nu\rvert_{\lvert f\rvert}$ である。($\lvert\nu\rvert$-a.e. $x\in X$ で $\lvert h(x)\rvert=1$ であることに注意。)よって $(1)$ より $(**)$ が成り立つ。また任意の $g\in \mathcal{L}^1(X,\mathfrak{M},\lvert\nu_f\rvert)$ に対し $(2)$ より、 $$ \int_{X}g(x)d\nu_f(x)=\int_{X}g(x)h(x)d\lvert\nu\rvert_{fh}(x) =\int_{X}f(x)g(x)h(x)d\lvert\nu\rvert(x)=\int_{X}f(x)g(x)d\nu(x) $$ である。
20. Hölderの不等式、Minkowskiの不等式
定義20.1(共役指数)
$p,q\in [1,\infty]$ が互いに共役な指数であるとは、 $$ \frac{1}{p}+\frac{1}{q}=1 $$ が成り立つことを言う。ただし $\{p,q\}=\{1,\infty\}$ の場合も含む。
補題20.2
任意の $t\in [0,1]$ と $x,y\in (0,\infty)$ に対し、 $$ x^{1-t}y^t\leq (1-t)x+ty $$ が成り立つ。
証明
対数関数は上に凸であるから、 $$ (1-t)\log(x)+t\log(y)\leq \log((1-t)x+ty) $$ である。よって指数関数の単調性より、 $$ x^{1-t}y^t=\exp\left((1-t)\log(x)+t\log(y)\right)\leq (1-t)x+ty. $$
定理20.3(Hölderの不等式)
$(X,\mathfrak{M})$ を可測空間、$p,q\in (1,\infty)$ を互いに共役な指数、$f,g:X\rightarrow [0,\infty]$ を可測関数とする。このとき、 $$ \int_{X}f(x)g(x)d\mu(x)\leq \left(\int_{X}f(x)^pd\mu(x)\right)^{\frac{1}{p}}\left(\int_{X}g(x)^qd\mu(x)\right)^{\frac{1}{q}}\quad\quad(*) $$ が成り立つ。(ただし $\infty^p=\infty$、$0^p=0$ とする。)
証明
$\int_{X}f(x)^pd\mu(x)=0$ ならば命題9.4より $\mu$-a.e. $x\in X$ で $f(x)=0$ であるから $(*)$ の両辺共に $0$ である。$\int_{X}g(x)^qd\mu(x)=0$ の場合も同様である。よって、 $$ \int_{X}f(x)^pd\mu(x),\quad \int_{X}g(x)^qd\mu(x)\in (0,\infty) $$ と仮定して示せば十分である。非負値可測関数 $F,G:X\rightarrow[0,\infty]$ を、 $$ F(x):=\left(\int_{X}f(x)^pd\mu(x)\right)^{-\frac{1}{p}}f(x),\quad G(x):=\left(\int_{X}g(x)^qd\mu(x)\right)^{-\frac{1}{q}}g(x)\quad(\forall x\in X) $$ として定義すると、 $$ \int_{X}F(x)^pd\mu(x)=1,\quad \int_{X}G(x)^qd\mu(x)=1 $$ であり、補題20.2より、 $$ F(x)G(x)=(F(x)^p)^{\frac{1}{p}}(G(x)^q)^{\frac{1}{q}}\leq \frac{1}{p}F(x)^p+\frac{1}{q}G(x)^q\quad(\forall x\in X) $$ であるから、両辺を積分すれば、 $$ \int_{X}F(x)G(x)d\mu(x)\leq \frac{1}{p}+\frac{1}{q}=1 $$ となる。この両辺に $(\int_{X}f(x)^pd\mu(x))^{\frac{1}{p}}(\int_{X}g(x)^qd\mu(x))^{\frac{1}{q}}$を掛ければ $(*)$ を得る。
定理20.4(Minkowskiの不等式)
$(X,\mathfrak{M})$ を可測空間、$p\in (1,\infty)$、$f,g:X\rightarrow[0,\infty]$ を可測関数とする。このとき、 $$ \left(\int_{X}(f(x)+g(x))^pd\mu(x)\right)^{\frac{1}{p}}\leq \left(\int_{X}f(x)^pd\mu(x)\right)^{\frac{1}{p}}+\left(\int_{X}g(x)^pd\mu(x)\right)^{\frac{1}{p}}\quad\quad(*) $$ が成り立つ。
証明
$$ \int_{X}f(x)^pd\mu(x)<\infty,\quad\int_{X}g(x)^pd\mu(x)<\infty,\quad 0<\int_{X}(f(x)+g(x))^pd\mu(x)\quad\quad(**) $$ と仮定して示せば十分である。$(0,\infty)\ni x\mapsto x^p\in (0,\infty)$は、 $2$ 階の導関数が $p(p-1)x^{p-2}\geq0$ $(\forall x\in (0,\infty))$ であるから、下に凸である。よって、 $$ \frac{1}{2^p}(f(x)+g(x))^p\leq \frac{1}{2}f(x)^p+\frac{1}{2}g(x)^p\quad(\forall x\in X) $$ である。この両辺を積分すれば $(**)$ より、 $$ 0<\int_{X}(f(x)+g(x))^pd\mu(x)<\infty $$ を得る。 $$ (f(x)+g(x))^p=f(x)(f(x)+g(x))^{p-1}+g(x)(f(x)+g(x))^{p-1}\quad(\forall x\in X) $$ の両辺を積分し、$p$ の共役指数 $q$ に対し $(p-1)q=p$ であることに注意してHölderの不等式を用いると、 $$ \int_{X}(f(x)+g(x))^pd\mu(x) \leq \left(\int_{X}f(x)^pd\mu(x)+\int_{X}g(x)^pd\mu(x)\right)\left(\int_{X}(f(x)+g(x))^pd\mu(x)\right)^{\frac{1}{q}} $$ を得る。この両辺を 正実数 $(\int_{X}(f(x)+g(x))^pd\mu(x))^{\frac{1}{q}}$ で割れば $(*)$ を得る。
21. $L^p$空間の定義、$L^p$空間の完備性
定義21.1(a.e.で等しい可測関数を同一視したもの全体)
$(X,\mathfrak{M},\mu)$ を測度空間とする。$(X,\mathfrak{M})$ 上の複素数値可測関数全体 ${\cal L}(X,\mathfrak{M})$ における二項関係 $\sim$ を次のように定義する。 $$ f\sim g\quad\Leftrightarrow\quad f(x)=g(x)\quad(\mu\text{-a.e. }x\in X) . $$ このとき $\sim$ は同値関係である。そこでこの同値関係による商集合を、 $$ L(X,\mathfrak{M},\mu):=\mathcal{L}(X,\mathfrak{M})/\sim $$ と表し、商写像を、 $$ \mathcal{L}(X,\mathfrak{M})\ni f\mapsto [f]\in L(X,\mathfrak{M},\mu) $$ と表す。$\mathcal{L}(X,\mathfrak{M})$ は各点ごとの和、複素数倍、積、複素共役で閉じている。これに対し任意の $[f],[g]\in L(X,\mathfrak{M},\mu)$ と任意の $\alpha\in \mathbb{C}$ に対し、 $$ [f]+[g]:=[f+g],\quad \alpha[f]:=[\alpha f],\quad [f][g]:=[fg],\quad \overline{[f]}:=[\overline{f}] $$ として $L(X,\mathfrak{M},\mu)$ における和、複素数倍、積、複素共役を定義する。これはwell-definedである。特に和と複素数倍で $L(X,\mathfrak{M},\mu)$ は $\mathbb{C}$ 上の線型空間をなす。
定義21.2($L^p$空間($p\in[1,\infty)$))
$(X,\mathfrak{M},\mu)$ を測度空間、$p\in [1,\infty)$ とする。任意の $f\in \mathcal{L}(X,\mathfrak{M})$ に対し、 $$ \lVert f\rVert_{\mu,p}:=\left(\int_{X}f(x)^pd\mu(x)\right)^{\frac{1}{p}}\in [0,\infty] $$ とおく。これを $f$ の $\mu$ に関する $L^p$ノルムと言う。 $[f],[g]\in L(X,\mathfrak{M},\mu)$ が $[f]=[g]$(つまり $\mu$-a.e. $x\in X$ で $f(x)=g(x)$) ならば、$\lVert f\rVert_{\mu,p}=\lVert g\rVert_{\mu,p}$ であるから、任意の $[f]\in L(X,\mathfrak{M},\mu)$ に対し $[f]$ の $L^p$ ノルムを、 $$ \lVert [f]\rVert_{\mu,p}:=\lVert f\rVert_{\mu,p} $$ と定義する。そして、 $$ \mathcal{L}^p(X,\mathfrak{M},\mu):=\{f\in \mathcal{L}(X,\mathfrak{M}):\lVert f\rVert_{\mu,p}<\infty\}, $$ $$ L(X,\mathfrak{M},\mu):=\{[f]\in L(X,\mathfrak{M},\mu):\lVert [f]\rVert_{\mu,p}<\infty\} $$ とおく。Minkowskiの不等式より $\mathcal{L}^p(X,\mathfrak{M},\mu)$ と $L^p(X,\mathfrak{M},\mu)$ は $\mathbb{C}$ 上の線型空間であり、$\mathcal{L}^p(X,\mathfrak{M},\mu)$ 上の $L^p$ ノルムはセミノルム、$L(X,\mathfrak{M},\mu)$ 上の $L^p$ ノルムはノルムである。$L^p$ ノルムによる $\mathbb{C}$ 上のノルム空間 $L^p(X,\mathfrak{M},\mu)$ を $(X,\mathfrak{M},\mu)$ 上の $L^p$ 空間と言う。次の定理21.4で見るように $L^p$ 空間はBanach空間である。
定義21.3($L^\infty$ 空間)
$(X,\mathfrak{M},\mu)$ を測度空間とする。任意の $f\in \mathcal{L}(X,\mathfrak{M})$ に対し、 $$ \lVert f\rVert_{\mu,\infty}:=\inf\{\alpha\in[0,\infty):\mu( (\alpha<\lvert f\rvert) )=0\}\quad\quad(*) $$ とおく。(ただし右辺の集合が空集合ならば右辺は $\infty$ とする。)これを $f$ の $\mu$ に関する $L^\infty$ノルムと言う。 $[f],[g]\in L(X,\mathfrak{M},\mu)$ が $[f]=[g]$(つまり $\mu$-a.e. $x\in X$ で $f(x)=g(x)$) ならば、$\lVert f\rVert_{\mu,\infty}=\lVert g\rVert_{\mu,p}$ であるから、任意の $[f]\in L(X,\mathfrak{M},\mu)$ に対し $[f]$ の $L^\infty$ ノルムを、 $$ \lVert [f]\rVert_{\mu,\infty}:=\lVert f\rVert_{\mu,\infty} $$ と定義する。 そして、 $$ \mathcal{L}^\infty(X,\mathfrak{M},\mu):=\{f\in \mathcal{L}(X,\mathfrak{M}):\lVert f\rVert_{\mu,\infty}<\infty\}, $$ $$ L(X,\mathfrak{M},\mu):=\{[f]\in L(X,\mathfrak{M},\mu):\lVert [f]\rVert_{\mu,\infty}<\infty\} $$ とおく。 任意の $f\in \mathcal{L}(X,\mathfrak{M})$ に対し、 $$ \left(\lVert f\rVert_{\mu,\infty}<\lvert f\rvert\right)=\bigcup_{n\in \mathbb{N}}\left(\lVert f\rVert_{\mu,\infty}+\frac{1}{n}<\lvert f\rvert\right) $$ であり、$(*)$ より $\mu( (\lVert f\rVert_{\mu,\infty}+\frac{1}{n}<\lvert f\rvert) )=0$ $(\forall n\in \mathbb{N})$ であるから測度の $\sigma$-劣加法性より、 $$ \mu( (\lVert f\rVert_{\mu,\infty}<\lvert f\rvert) )=0\quad\quad(**) $$ である。これより $\mathcal{L}^\infty(X,\mathfrak{M},\mu)$ と $L^\infty(X,\mathfrak{M},\mu)$ は $\mathbb{C}$ 上の線型空間であり、$\mathcal{L}^\infty(X,\mathfrak{M},\mu)$ 上の $L^\infty$ ノルムはセミノルム、$L^\infty(X,\mathfrak{M},\mu)$ 上の $L^\infty$ ノルムはノルムである。$L^\infty$ ノルムによる $\mathbb{C}$ 上のノルム空間 $L^\infty(X,\mathfrak{M},\mu)$ を $(X,\mathfrak{M},\mu)$ 上の $L^\infty$ 空間と言う。次の定理21.4で見るように $L^\infty$ 空間はBanach空間である。
定理21.4($L^p$ 空間($p\in[1,\infty]$)はBanach空間)
任意の測度空間 $(X,\mathfrak{M},\mu)$ と任意の $p\in [1,\infty]$ に対し、$L^p$ 空間 $L^p(X,\mathfrak{M},\mu)$ は $\mathbb{C}$ 上のBanach空間である。
証明
$([f_n])_{n\in \mathbb{N}}$ を $L^p(X,\mathfrak{M},\mu)$ のCauchy列とし、これが収束することを示す。
- $(1)$ $p\in[1,\infty)$ の場合。$([f_n])_{n\in \mathbb{N}}$ はCauchy列であるので部分列 $([f_{k(n)}])_{n\in \mathbb{N}}$ で、
$$ \lVert f_{k(n+1)}-f_{k(n)}\rVert_{\mu,p}<\frac{1}{2^n}\quad(\forall n\in\mathbb{N}) $$ なるものが取れる。これに対し、 $$ g_N(x):=\sum_{n=1}^{N}\lvert f_{k(n+1)}(x)-f_{k(n)}(x)\rvert^p\quad(\forall x\in X,\forall N\in \mathbb{N}) $$ とおくと、Minkowskiの不等式より、 $$ \lVert g_N\rVert_{\mu,p}\leq\sum_{n=1}^{N}\lVert f_{k(n+1)}-f_{k(n)}\rVert_{\mu,p}\leq1\quad(\forall N\in \mathbb{N}) $$ である。よって、 $$ g(x):=\sup_{N\in \mathbb{N}}g_N(x)=\sum_{n=1}^{\infty}\lvert f_{k(n+1)}(x)-f_{k(n)}(x)\rvert\quad(\forall x\in X) $$ とおくと、単調収束定理より、 $$ \int_{X}g(x)^pd\mu(x)=\sup_{N\in \mathbb{N}}\int_{X}g_N(x)^pd\mu(x) =\sup_{N\in\mathbb{N}}\lVert g_N\rVert_{\mu,p}^p\leq 1<\infty $$ であるから、命題9.4より、$\mu$-零集合 $N$ が存在し、 $$ \sum_{n=1}^{\infty}\lvert f_{k(n+1)}(x)-f_{k(n)}(x)\rvert<\infty\quad(\forall x\in X\backslash N) $$ が成り立つ。これより任意の $x\in X\backslash N$ に対し、 $$ \lim_{n\rightarrow\infty}f_{k(n)}(x)=f_{k(1)}(x)+\sum_{n=1}^{\infty}(f_{k(n+1)}(x)-f_{k(n)}(x))\in\mathbb{C} $$ が存在する。そこで、 $$ f(x):=\lim_{n\rightarrow\infty}f_{k(n)}(x)\chi_{X\backslash N}(x)\quad(\forall x\in X) $$ として可測関数 $f:X\rightarrow\mathbb{C}$ を定義する。今、任意の $\epsilon\in(0,\infty)$ に対し $n_0\in \mathbb{N}$ で、 $$ \lVert f_n-f_m\rVert_{\mu,p}\leq\epsilon\quad(\forall n,m\geq n_0) $$ なるものを取る。任意の $m\geq n_0$ に対し、 $$ \lvert f(x)-f_m(x)\rvert^p=\lim_{n\rightarrow\infty}\lvert f_{k(n)}(x)-f_m(x)\rvert^p\quad(\forall x\in X\backslash N) $$ であるから、$N$ が $\mu$-零集合であることとFatouの補題より、 $$ \begin{aligned} \lVert f-f_m\rVert_{\mu,p}^p&\leq \sup_{n\in \mathbb{N}}\inf_{j\geq n}\int_{X}\lvert f_{k(j)}(x)-f_m(x)\rvert^pd\mu(x)\leq \inf_{n\in \mathbb{N}}\sup_{j\geq n}\int_{X}\lvert f_{k(j)}(x)-f_m(x)\rvert^pd\mu(x)\\ &\leq \sup_{n\geq n_0}\int_{X}\lvert f_{k(n)}(x)-f_m(x)\rvert^pd\mu(x) =\sup_{n\geq n_0}\lVert f_{k(n)}-f_m\rVert_{\mu,p}^p\leq\epsilon^p \end{aligned} $$ である。よって $f=(f-f_m)+f_m\in \mathcal{L}^p(X,\mathfrak{M},\mu)$ であり、 $$ \lVert f-f_m\rVert_{\mu,p}\leq\epsilon\quad(\forall m\geq n_0) $$ であるから、$([f_n])_{n\in \mathbb{N}}$ は $[f]\in L^p(X,\mathfrak{M},\mu)$ に収束する。
- $(2)$ $p=\infty$ の場合。
$$ N:=\bigcup_{n,m\in\mathbb{N}}(\lVert f_n-f_m\rVert_{\mu,\infty}<\lvert f_n-f_m\rvert) $$ は $\mu$-零集合の可算合併なので $\mu$-零集合である。 $$ \lvert f_n(x)-f_m(x)\rvert\leq \lVert f_n-f_m\rVert_{\mu,\infty}\quad(\forall x\in X\backslash N,\forall n,m\in\mathbb{N}) $$ より $(f_n)_{n\in \mathbb{N}}$ は $X\backslash N$ 上で一様Cauchy条件を満たすので一様収束する。((距離空間の位相の基本的性質を参照。))そこで、 $$ f(x):=\lim_{n\rightarrow\infty}f_n(x)\chi_{X\backslash N}(x)\quad(\forall x\in X) $$ として可測関数 $f:X\rightarrow\mathbb{C}$ を定義する。 $(f_n)_{n\in \mathbb{N}}$ は $X\backslash N$ 上で $f$ に一様収束するので、任意の $\epsilon\in(0,\infty)$ に対し $n_0\in \mathbb{N}$ が存在し、 $$ X\backslash N\subset (\lvert f-f_n\rvert\leq \epsilon)\quad(\forall x\in X\backslash N,\forall n\geq n_0) $$ が成り立つ。よって、 $$ \mu( (\epsilon< \lvert f_n-f_m\rvert) )\leq \mu(N)=0\quad(\forall n\geq n_0) $$ であるから、$f=(f-f_n)+f_n\in \mathcal{L}^\infty(X,\mathfrak{M},\mu)$ であり、 $$ \lVert f-f_n\rVert_{\mu,\infty}\leq\epsilon\quad(\forall n\geq n_0) $$ である。よって $([f_n])_{n\in \mathbb{N}}$ は $[f]\in L^\infty(X,\mathfrak{M},\mu)$ に収束する。
22. $L^p$関数の可測単関数列による近似
命題22.1($L^p$関数の可測単関数近似)
$(X,\mathfrak{M},\mu)$ を測度空間とする。任意の $p\in [1,\infty]$、任意の $f\in \mathcal{L}^p(X,\mathfrak{M},\mu)$ に対し、可測単関数の列 $(s_n)_{n\in \mathbb{N}}$ で、 $$ \lvert s_n(x)\rvert\leq \lvert f(x)\rvert\quad(\forall x\in X,\forall n\in \mathbb{N}),\quad\lim_{n\rightarrow\infty}\lVert f-s_n\rVert_{\mu,p}=0 $$ を満たすものが取れる。
証明
$f$ を実部と虚部 $f_1,f_2:X\rightarrow\mathbb{R}$ に分け、さらにそれらを非負部分と非正部分 $f_{j,\pm}:X\rightarrow[0,\infty)$ に分ける。定理5.5より非負値可測単関数の各点単調増加列 $(s_{j,\pm,n})_{n\in \mathbb{N}}$ で、 $$ f_{j,p}(x)=\lim_{n\rightarrow\infty}s_{j,\pm,n}(x)\quad(\forall x\in X) $$ を満たすものが取れる。 $$ s_n:=(s_{1,+,n}-s_{1,-,n})+i(s_{2,+,n}-s_{2,-,n})\quad(\forall n\in \mathbb{N}) $$ として可測単関数列 $(s_n)_{n\in \mathbb{N}}$ を定義すると、$f(x)=\lim_{n\rightarrow\infty}s_n(x)$ $(\forall x\in X)$ であり、$s_{j,\pm,n}(x)\leq f_{j,\pm}(x)$ より、 $$ \lvert s_{j,+,n}(x)-s_{j,-,n}(x)\rvert\leq \lvert f_{j,+}(x)-f_{j,-}(x)\rvert=\lvert f_j(x)\rvert\quad(\forall x\in X,\forall n\in \mathbb{N}) $$ であるから、 $$ \lvert s_n(x)\rvert\leq \lvert f(x)\rvert\quad(\forall x\in X,\forall n\in \mathbb{N}) $$ である。よって $p\in[1,\infty)$ の場合、Lebesgue優収束定理より $\lim_{n\rightarrow\infty}\lVert f-s_n\rVert_{\mu,p}=0$ が成り立つ。$p=\infty$ の場合、$(\lvert f\rvert\leq \lVert f\rVert_{\mu,\infty})$ 上で $f_{j,\pm}$ は有界であるから、定理5.5の証明より非負値可測単関数の各点単調増加列 $(s_{j,\pm,n})_{n\in \mathbb{N}}$ で、$(\lvert f\rvert\leq\lVert f\rVert_{\mu,\infty})$ 上で $f$ に一様収束するものが取れる。このとき $(s_n)_{n\in \mathbb{N}}$ は $(\lvert f\rvert\leq \lVert f\rVert_{\mu,\infty})$ 上で $f$ に一様収束するので、任意の $\epsilon\in(0,\infty)$ に対し $n_0\in \mathbb{N}$ が存在し、 $$ (\lvert f\rvert\leq \lVert f\rVert_{\mu,\infty})\subset (\lvert f-s_n\rvert\leq\epsilon)\quad(\forall n\geq n_0) $$ が成り立つ。よって、 $$ \mu( (\epsilon<\lvert f-s_n\rvert) )\leq \mu( (\lVert f\rVert_{\mu,\infty}\leq \lvert f\rvert) )=0\quad(\forall n\geq n_0) $$ であるから、$\lim_{n\rightarrow\infty}\lVert f-s_n\rVert_{\mu,\infty}=0$ が成り立つ。
命題22.2(有界可測関数の可測単関数列による一様近似)
$(X,\mathfrak{M})$ を可測空間、$f:X\rightarrow\mathbb{C}$ を有界可測関数とする。このとき $f$ に一様収束する可測単関数の列が取れる。
証明
命題22.1の $p=\infty$ の場合と全く同様にして(より簡単に)示せる。
23. $L^2$ 内積、$L^p$-$L^q$ 双対性
命題23.1
$(X,\mathfrak{M},\mu)$ を測度空間、$p,q\in [1,\infty]$ を互いに共役指数とする。このとき、任意の $[f]\in L^p(X,\mathfrak{M},\mu)$ と任意の $[g]\in L^q(X,\mathfrak{M},\mu)$ に対し $[f][g]\in L^1(X,\mathfrak{M},\mu)$ であり、 $$ \lVert [f][g]\rVert_{\mu,1}\leq \lVert [f]\rVert_{\mu,p}\lVert [g]\rVert_{\mu,\infty} $$ が成り立つ。
証明
$p,q\in (1,\infty)$ の場合はHölderの不等式により、$p=1,q=\infty$ の場合は $\mu$ -a.e. $x\in X$ で $\lvert g(x)\rvert\leq \lVert [g]\rVert_{\mu,\infty}$ であることによる。
定義23.2($L^2$ 内積、Hilbert空間としての $L^2$ 空間)
$(X,\mathfrak{M},\mu)$ を測度空間とする。$2,2$ は互いに共役指数であるから、任意の $[f],[g]\in L^2(X,\mathfrak{M},\mu)$ に対し、 $$ ([f]\mid [g])_{\mu,2}:=\int_{X}\overline{f(x)}g(x)d\mu(x)\in \mathbb{C} $$ として、内積 $$ (\cdot\mid\cdot)_{\mu,2}:L^2(X,\mathfrak{M},\mu)\times L^2(X,\mathfrak{M},\mu)\ni ([f],[g]) \mapsto ([f]\mid [g])_{\mu,2}\in \mathbb{C} $$ が定義できる。この内積を $L^2$ 内積と言う。$L^2$ 内積が誘導するノルムは $L^2$ ノルムであるから、$L^2$ 空間はHilbert空間である。$L^2$ 空間は断ることなくこの $L^2$ 内積が備わったHilbert空間とみなす。
定義23.3($L^p$-$L^q$ ペアリング)
$(X,\mathfrak{M},\mu)$ を測度空間、$p,q\in [1,\infty]$ を互いに共役指数とする。このとき命題23.1より任意の $[f]\in L^p(X,\mathfrak{M},\mu)$、$[g]\in L^q(X,\mathfrak{M},\mu)$ に対し、 $$ ([f],[g])_{\mu,p,q}:=\int_{X}f(x)g(x)d\mu(x)\in \mathbb{C} $$ として有界双線型汎関数 $$ (\cdot,\cdot)_{\mu,p,q}:L^p(X,\mathfrak{M},\mu)\times L^q(X,\mathfrak{M},\mu)\ni ([f],[g])\mapsto ([f],[g])_{\mu,p,q}\in \mathbb{C} $$ が定義できる。
定理23.4($L^p$-$L^q$ 双対性)
$(X,\mathfrak{M},\mu)$ を $\sigma$-有限測度空間、$p\in [1,\infty)$ とし、$q$ を $p$ の共役指数とする。このとき、
$$ L^q(X,\mathfrak{M},\mu)\ni [g]\mapsto (\cdot,[g])_{\mu,p,q}\in (L^p(X,\mathfrak{M},\mu))^*\quad\quad(*) $$
はノルムを保存する線型同型写像である。
証明
$(*)$ がノルムが $1$ 以下の有界線型写像であることは命題23.1より明らかである。$\sigma$-有限性より $\mathfrak{M}$ の非交叉列 $(A_n)_{n\in \mathbb{N}}$ で、 $$ X=\bigcup_{n\in \mathbb{N}}A_n,\quad \mu(A_n)<\infty\quad(\forall n\in \mathbb{N}) $$ なるものが取れる。
- $(1)$ 単射性の証明。
$(\cdot,[g])_{\mu,p,q}=0$ として $[g]=0$ が成り立つことを示せばよい。そのためには任意の $n\in \mathbb{N}$ に対し $\mu$-a.e. $x\in X$ で $g(x)\chi_{A_n}(x)=0$ が成り立つことを示せばよいが、任意の $E\in \mathfrak{M}$ に対し $\mu(A_n)<\infty$ より $\chi_{E\cap A_n}\in \mathcal{L}^p(X,\mathfrak{M},\mu)$ であるので、 $$ \int_{E}g(x)\chi_{A_n}(x)d\mu(x)=([\chi_{E\cap A_n}],[g])_{\mu,p,q}=0\quad(\forall E\in \mathfrak{M}) $$ である。よって命題10.5より $\mu$-a.e. $x\in X$ で $g(x)\chi_{A_n}(x)=0$ が成り立つ。
- $(2)$ $\mu(X)<\infty$ の場合の全射性とノルム保存性の証明
任意の $\Phi\in (L^p(X,\mathfrak{M},\mu))^*$ を取る。$\mu(X)<\infty$ より任意の $E\in \mathfrak{M}$ に対し $\chi_E\in {\cal L}^p(X,\mathfrak{M},\mu)$ であるから、 $$ \nu(E):=\Phi([\chi_E])\quad(\forall E\in \mathfrak{M}) $$ として $\nu:\mathfrak{M}\rightarrow\mathbb{C}$ が定義できる。$\Phi$ の線型性より $\nu$ は有限加法的である。そして $\mathfrak{M}$ の任意の単調増加列 $(E_n)_{n\in \mathbb{N}}$ に対し $E=\bigcup_{n\in \mathbb{N}}E_n$ とおくと、測度の単調収束性より、 $$ \lvert\nu(E)-\nu(E_n)\rvert\leq\lVert\Phi\rVert\lVert \chi_E-\chi_{E_n}\rVert_{\mu,p}=\lVert\Phi\rVert\mu(E\backslash E_n)^{\frac{1}{p}}\rightarrow0\quad(n\rightarrow\infty) $$ であるから $\nu$ は複素数値測度である。$\lvert\nu(E)\rvert\leq \lVert \Phi\rVert\mu(E)^{\frac{1}{p}}$ $(\forall E\in \mathfrak{M})$ であるから $\nu$ は $\mu$ に関して絶対連続である。そこで $\nu$ の $\mu$ に関するRadon-Nikodym微分を $g\in \mathcal{L}^1(X,\mathfrak{M},\mu)$ とすると、
$$ \Phi([\chi_E])=\nu(E)=\int_{E}g(x)d\mu(x)=([\chi_E],[g])_{\mu,\infty,1}\quad(\forall E\in \mathfrak{M}) $$
であるから、任意の可測単関数 $s:X\rightarrow\mathbb{C}$ に対し、
$$ \Phi([s])=([s],[g])_{\mu,\infty,1} $$ が成り立つ。任意の $[f]\in L^\infty(X,\mathfrak{M},\mu)$ に対し命題22.1より可測単関数の列 $(s_n)_{n\in \mathbb{N}}$ で $\lim_{n\rightarrow\infty}\lVert f-s_n\rVert_{\mu,\infty}=0$ なるものが取れる。$\mu(X)<\infty$ より $L^\infty(X,\mathfrak{M},\mu)\subset L^p(X,\mathfrak{M},\mu)$ であり、 $$ \lVert f-s_n\rVert_{\mu,p}\leq \mu(X)^{\frac{1}{p}}\lVert f-s_n\rVert_{\mu,\infty}\rightarrow0\quad(n\rightarrow\infty) $$ であるから、 $$ \Phi([f])=\lim_{n\rightarrow\infty}\Phi([s_n])=\lim_{n\rightarrow\infty}([s_n],[g])_{\mu,\infty,1}=([f],[g])_{\mu,\infty,1} $$ である。ゆえに、 $$ \Phi([f])=([f],[g])_{\mu,\infty,1}\quad(\forall [f]\in L^\infty(X,\mathfrak{M},\mu)\subset L^p(X,\mathfrak{M},\mu))\quad\quad(**) $$ が成り立つ。今、 $$ [g]\in L^q(X,\mathfrak{M},\mu),\quad \lVert [g]\rVert_{\mu,q}\leq \lVert \Phi\rVert\quad\quad(***) $$ が成り立つことを示す。$p=1,q=\infty$ の場合、 $$ \left\lvert\int_{E}g(x)d\mu(x)\right\rvert=\lvert\Phi([\chi_E])\rvert\leq\lVert\Phi\rVert\mu(E)\quad(\forall E\in \mathfrak{M}) $$ であるから、命題19.3より、 $$ \int_{E}\lvert g(x)\rvert d\mu(x)\leq \lvert\Phi([\chi_E])\rvert\leq\lVert\Phi\rVert\mu(E)\quad(\forall E\in \mathfrak{M}) $$ が成り立つ。よって、 $$ \int_{E}(\lvert g(x)\rvert-\lVert \Phi\rVert)d\mu(x)<\infty\quad(\forall E\in \mathfrak{M}) $$ であるから、 $$ \int_{(\lVert \Phi\rVert<\lvert g\rvert)}(\lvert g(x)\rvert-\lVert \Phi\rVert)d\mu(x)=0 $$ である。ゆえに命題9.4より、 $$ \mu( (\lVert\Phi\rVert<\lvert g\rvert) )=0 $$ であるから、$p=1,q=\infty$ の場合、$(***)$ が成り立つ。$p,q\in (1,\infty)$ の場合を考える。 $$ \omega(x):=\left\{\begin{array}{cl}\frac{\lvert g(x)\rvert}{g(x)}&(x\in (\lvert g\rvert>0))\\1&(x\in (\lvert g\rvert=0))\end{array}\right. $$ として可測関数 $\omega:X\rightarrow\mathbb{C}$ を定義すると、 $$ \omega(x)g(x)=\lvert g(x)\rvert,\quad \lvert \omega(x)\rvert=1\quad(\forall x\in X) $$ である。$E_n:=(\lvert g\rvert\leq n)$ $(\forall n\in \mathbb{N})$ とおき、 $$ f_n:=\chi_{E_n}\lvert g\rvert^{q-1}\omega\in \mathcal{L}^\infty(X,\mathfrak{M},\mu)\quad(\forall n\in \mathbb{N}) $$ とおくと、 $$ f_ng=\chi_{E_n}\lvert g\rvert^{q},\quad \lvert f_n\rvert^p=\chi_{E_n}\lvert g\rvert^q\quad(\forall n\in \mathbb{N}) $$ である($pq-p=q$に注意)。よって $(**)$ より、 $$ \int_{E_n}\lvert g(x)\rvert^qd\mu(x)=\int_{X}f_n(x)g(x)d\mu(x) =\Phi([f_n])\leq\lVert\Phi\rVert\left(\int_{E}\lvert g(x)\rvert^qd\mu(x)\right)^{\frac{1}{p}}\quad(\forall n\in \mathbb{N}) $$ であるから、 $$ \left(\int_{E_n}\lvert g(x)\rvert^qd\mu(x)\right)^{\frac{1}{q}}\leq \lVert \Phi\rVert\quad(\forall n\in \mathbb{N}) $$ が成り立つ。$(E_n)_{n\in\mathbb{N}}$ は単調増加列で $X=\bigcup_{n\in\mathbb{N}}E_n$ であるから単調収束定理より、 $$ \left(\int_{X}\lvert g(x)\rvert^qd\mu(x)\right)^{\frac{1}{q}} =\sup_{n\in\mathbb{N}}\left(\int_{E_n}\lvert g(x)\rvert^qd\mu(x)\right)^{\frac{1}{q}}\leq \lVert \Phi\rVert $$ である。よって $(***)$ が成り立つ。~ 任意の $[f]\in L^p(X,\mathfrak{M},\mu)$ に対し命題22.1より可測単関数の列 $(s_n)_{n\in \mathbb{N}}$ で、$\lim_{n\rightarrow\infty}\lVert f-s_n\rVert_{\mu,p}=0$ なるものが取れるので、$(**)$ と $[g]\in L^q(X,\mathfrak{M},\mu)$ であることから、 $$ \Phi([f])=\lim_{n\rightarrow\infty}\Phi([s_n])=\lim_{n\rightarrow\infty}([s_n],[g])_{\mu,\infty,1}=\lim_{n\rightarrow\infty}([s_n],[g])_{\mu,p,q}=([f],[g])_{\mu,p,q} $$ である。よって $\Phi=(\cdot,[g])_{\mu,p,q}$ である。 $$ \lVert [g]\rVert_{\mu,q}\leq \lVert\Phi\rVert\leq \lVert [g]\rVert_{\mu,q} $$ であるから、全射性とノルム保存性が示された。
- $(3)$ $\mu(X)=\infty$ の場合の全射性とノルム保存性の証明。
$$ \omega(x):=\sum_{n\in\mathbb{N}}\frac{1}{2^n(\mu(A_n)+1)}\chi_{A_n}(x)\in(0,1)\quad(\forall x\in X) $$ とおき、有限測度 $$ \mu_{\omega}:\mathfrak{M}\ni E\mapsto \int_{E}\omega(x)d\mu(x)\in [0,1] $$ を定義する。命題19.6の $(1)$ より任意の $r\in [1,\infty]$ に対し、 $$ L^r(X,\mathfrak{M},\mu_{\omega})\ni [f]\mapsto [f\omega^{\frac{1}{r}}]\in L^r(X,\mathfrak{M},\mu) $$ はノルムを保存する線型同型写像である。よって任意の $\Phi\in (L^p(X,\mathfrak{M},\mu))^*$ に対し、$\Psi\in (L^p(X,\mathfrak{M},\mu_{\omega}))^*$ を、 $$ \Psi([f])=\Phi([f\omega^{\frac{1}{r}}])\quad(\forall [f]\in L^p(X,\mathfrak{M},\mu_{\omega})) $$ と定義すれば $\lVert \Psi\rVert=\lVert\Phi\rVert$ である。$(2)$ の結果より $[g\omega^{-\frac{1}{q}}]\in L^q(X,\mathfrak{M},\mu_{\omega})$ で、 $$ \Psi([f])=\int_{X}f(x)g(x)\omega(x)^{-\frac{1}{q}}d\mu(x)\quad(\forall [f]\in L^p(X,\mathfrak{M},\mu_{\omega})), $$ $$ \lVert g\omega^{-\frac{1}{q}}\rVert_{\mu_{\omega},q}=\lVert\Psi\rVert $$ なるものが取れる。命題19.6の $(1)$ より、 $$ \begin{aligned} \Phi([f])&=\Psi([f\omega^{-\frac{1}{p}}])=\int_{X}f(x)g(x)\omega(x)^{-(\frac{1}{p}+\frac{1}{q})}d\mu_{\omega}(x)=\int_{X}f(x)g(x)d\mu(x)\quad(\forall [f]\in L^p(X,\mathfrak{M},\mu)) \end{aligned} $$ であり、 $$ \lVert [g]\rVert_{\mu,q}=\lVert [g\omega^{-\frac{1}{q}}]\rVert_{\mu_{\omega},q} =\lVert \Psi\rVert=\lVert \Phi\rVert $$ である。これで全射性とノルム保存性が示された。