単体複体の二元体係数ホモロジー3:鎖複体からホモロジーへ
前章の最後に述べたことを引用する:「ということで、単体複体に対応する代数的対象として鎖複体が定義できた。 しかし、これからは鎖複体から無駄な情報を削減し、単体複体が持つ特定の情報に注目していくことになる。 そのとき注目する情報として、単体複体の中に"非自明"な部分図形がどれだけあるか?というものを考えてみよう。 非自明な部分図形がないなら単体複体は単純そうだし、たくさんあるならそれだけ複雑そうである。 つまり、"非自明"な部分図形の数え上げは図形の複雑さの測定に他ならない。 これを数学的に定式化したものの一つこそがホモロジーである。」
この章では、前章で導入した鎖複体を用いて、遂にホモロジーを定義する。ホモロジーは単体複体に対して定まるベクトル空間の集まりのことである。 また、最後にて、鎖複体・ホモロジーの純代数的な定式化を紹介する。
- 単体複体の二元体係数ホモロジー0:二元体上の線型代数
- 単体複体の二元体係数ホモロジー1:単体複体
- 単体複体の二元体係数ホモロジー2:単体複体から鎖複体へ
- 単体複体の二元体係数ホモロジー3:鎖複体からホモロジーへ
単体複体のホモロジー
ホモロジーの数学的な定義を述べる前に、ホモロジーのコンセプトについて説明しよう。最初はよく分からないかもしれないが、そのときはひとまず定義を受け入れて、具体例の計算に触れてみられたい。そもそも本テキストの目的自体が「ホモロジーに必要最小限の知識で触れ、その正体に少しでも迫る」というものなので、ここですぐに納得する必要は全くない。
前書きを繰り返すと、我々は鎖複体から「単体複体の中に"非自明"な部分図形がどれだけあるか?」という情報を取り出し、その単体複体の複雑さを表したい。 問題は"非自明"な部分図形というのをどう表現するかであるが、ホモロジーの考え方は以下の通りである。
- 部分図形として何でもかんでも考えると情報量が多すぎるので、特に"閉じた"(へり・ふち・境界を持たない)ものだけを考えよう。たとえば、 $1$ 次元図形なら円周は閉じており(閉曲線)、線分は閉じていない; $2$ 次元図形なら球面や浮き輪は閉じており、円筒や円盤は閉じていない。このようなものを、高次元でも考える。
- 部分図形が"閉じて"いれば、それが取り囲む領域というのが考えられる。その領域内にもし空洞がなければ(領域が高次元の部分図形によって"敷き詰め"られれば)、当の閉じた部分図形は、小さくしぼんで領域内の一点に潰れることができるだろう。たとえば、円盤の上ではどんな円周も空洞を取り囲まない;穴の空いた円盤において穴のまわりを一周する円周は、その穴が空洞となっている。取り囲む領域にこのような"空洞"がないことを以て、閉じた部分図形は自明であると考えよう。
- つまり、ホモロジーのコンセプトは、"閉じた"部分図形であって、"空洞"を取り囲んでいるものを数え上げるというものである。
このコンセプトは、実は線型代数と非常に相性がよい。実際、
- 部分図形が"閉じている"ことを、境界作用素による像が $0$ になることだと言い換える。そのような( $q$ 次元の)部分図形は、 $\mathrm{Ker} \ \partial_q$ に棲んでいる。
- 閉じた部分図形が"空洞"を取り囲まない(中を高次元の部分図形で"敷き詰められる")ことを、その閉じた部分図形自身を境界作用素による像として表せることだと言い換える。そのような( $q$ 次元の)部分図形は、 $\mathrm{Im} \ \partial_{q + 1}$ に棲んでいる。
すると、"閉じた"部分図形であって"空洞"を取り囲んでいるものは、 $\mathrm{Ker} \ \partial_q$ の中で $\mathrm{Im} \ \partial_{q + 1}$ の要素を無視した空間、すなわち商空間 $\mathrm{Ker} \ \partial_q / \mathrm{Im} \ \partial_{q + 1}$ に棲んでいると思える。こうして、我々はホモロジーの定義に行き着く。
定義3.1(輪体群・境界群)
単体複体 $K$ に対して、その $q$ 次輪体群($q$ -th cycle group)を $$Z_q (K) = \mathrm{Ker} \ \partial_q \subset C_q (K)$$ で定義し、 $q$ 次境界群( $q$ -th boundary group)を $$B_q (K) = \mathrm{Im} \ \partial_{q + 1} \subset C_q (K)$$ によって定義する。また、 $q$ 次輪体群の要素を $q$ 次輪体($q$ -th cycle)、 $q$ 次境界群の要素を $q$ 次境界($q$ -th boundary)という。
定義3.2(ホモロジー群)
単体複体 $K$ に対して、その $q$ 次ホモロジーあるいは $q$ 次ホモロジー群($q$ -th homology group)を商空間 $$H_q (K) = \frac{Z_q (K)}{B_q (K)} = \frac{\mathrm{Ker} \ \partial_q}{\mathrm{Im} \ \partial_{q + 1}}$$ によって定義する。また、 $q$ 次ホモロジー群の要素を $q$ 次ホモロジー類($q$ -th homology class)といい、 $c \in \mathrm{Ker} \ \partial_q$ を代表元に持つホモロジー類を $[c]$ と表すことにする。
注意3.3
気持ちが先行したが、ホモロジー群の定義は数学的に注意を払うべき点が一つある。それは、そもそも商空間をとるにあたって包含関係 $\mathrm{Im} \ \partial_{q + 1} \subset \mathrm{Ker} \ \partial_q$ が成り立つ必要がある、ということである。しかし、それは前章で示した命題2.10が次のように保証してくれる。
Proof.
$\mathrm{Im} \ \partial_{q + 1}$ の要素をとると、それは $\partial_{q + 1} (c) \ (c \in C_{q + 1} (K))$ という形をしている。これを $\partial_q$ によって写すと、 $$\partial_q \circ \partial_{q + 1} (c) = 0 (c) = 0$$ となるから、 $\partial_{q + 1} (c) \in \mathrm{Ker} \ \partial_q$ である。 $\square$
□また、線型代数の事実から分かることをまとめておく。
- $\dim K = n$ とする。このとき
- - $\partial_0 = 0$ なので、 $\mathrm{Ker} \ \partial_0 = C_0 (K)$ である。故に $H_0 (K) = C_0 (K) / \mathrm{Im} \ \partial_1$ が成り立つ。
- - $\partial_{n + 1} = 0$ なので、 $\mathrm{Im} \ \partial_{n + 1} = 0$ である。故に $H_n (K) = \mathrm{Ker} \ \partial_q$ が成り立つ。
- - $q \le -1, \ n + 1 \le q$ においては、 $\partial_q = 0$ なので、 $\mathrm{Ker} \ \partial_q = 0$ である。故に $H_q (K) = 0$ が成り立つ。
特に最後のことから、 $H_q (K) \ne 0$ でない可能性があるのは $0 \le q \le n$ の範囲だけである。
- $\dim H_q (K) = \dim \mathrm{Ker} \ \partial_q - \dim \mathrm{Im} \ \partial_{q + 1}$ が成り立つ。
Proof.
商空間の次元に関する線型代数の事実を思い出そう。一般に有限次元ベクトル空間 $V$ とその部分空間 $W$ に対して、 $$\dim V / W = \dim V - \dim W \ \cdots (*)$$ が成り立つのであった。また、 $\mathrm{Ker} \ \partial_q$ は有限次元である。実際、 $\mathrm{Ker} \ \partial_q \subset C_q (K)$ であり、 $\dim C_q (K) = k_q < \infty$ である。( $k_q$ とは、有限集合 $K$ に含まれる $q$ 単体の総数だった。) したがって、 $(*)$ をホモロジー群 $H_q (K)$ に対して適用すれば、 $$\dim H_q (K) = \dim \mathrm{Ker} \ \partial_q - \dim \mathrm{Im} \ \partial_{q + 1}$$ を得る。 $\square$
□- さらに、 $\partial_q$ の表現行列を $M_q$ とするとき、 $\dim H_q (K) = k_q - \mathrm{rank} \ M_q - \mathrm{rank} \ M_{q + 1}$ が成り立つ。
Proof.
表現行列の階数と像の次元の関係から、 $$\dim \mathrm{Ker} \ \partial_q = \dim C_q (K) - \mathrm{rank} \ M_q = k_q - \mathrm{rank} M_q, \quad \dim \mathrm{Im} \ \partial_{q + 1} = \mathrm{rank} \ M_{q + 1}$$ である。これを先程の結果に当てはめればよい。 $\square$
□例3.4
これからホモロジー群の計算例を紹介する。ここで、「ホモロジー群を計算する」とはどういうことだろうか。ホモロジー群は $\mathbb{Z}_2$ 上の有限次元ベクトル空間であり、有限次元ベクトル空間は次元という自然数で分類されるのだった。すなわち、二つの有限次元ベクトル空間が線型同型になることと、両者の次元が等しいことは同値である。したがって、ここでは最も簡単な回答として、「ホモロジー群を計算する」とは「ホモロジー群の次元を求める」ことだとしよう。そしてその次元は、(上でも注意したように)境界作用素の階数を求めることで分かる。
境界作用素の階数を求めるためには、一般の線型代数と同様、境界作用素の表現行列を求め、それに掃き出し法を適用すればよい。
例3.4.1(単体)
$n$ 単体 $\sigma = |a_0 a_1 \cdots a_{n - 1} a_n|$ を多面体に持つ単体複体 $$K = K(\sigma) = \{\varnothing, |a_0|, |a_1|, \dots, |a_n|, \dots, |a_1 \cdots a_{n - 1} a_n|, \dots, |a_0 a_1 \cdots a_{n - 1}|, |a_0 a_1 \cdots a_{n - 1} a_n|\}$$ を考える。このホモロジー群はどうなるだろうか。一般の $n$ で計算することは難度が高いので、ここでは小さい数で感じを掴んでみよう。$n = 3$ まで来ると大変だが、演習と思って取り組まれたい。
[ $n = 0$ の場合] このとき $K = \{\varnothing, |a_0|\}$ (一点)である。
Proof.
まずは鎖複体を書いておこう。鎖群は \begin{align*} C_q (K) = \begin{cases} \mathbb{Z}_2 \cdot |a_0| & (q = 0) \\ 0 & (q \ne 0) \end{cases} \end{align*} である。そして、境界作用素はすべての $q$ で $\partial_q = 0$ になる。実際、どこの $q$ でも定義域か終域の少なくとも一方は零空間である。これを鎖複体で表すと、 $$\cdots \xrightarrow{0} 0 \xrightarrow{0} \mathbb{Z}_2 \cdot |a_0| \xrightarrow{0} 0 \xrightarrow{0} \cdots$$ ということである。
さて、$\dim K = 0$ なので、求めるべきホモロジー群は $0$ 次のみである。上のことから $\mathrm{rank} \ M_0 = \mathrm{rank} \ M_1 = 0$ であるし、 $k_0 = 1$ なので、 $$\dim H_0 (K) = 1 - 0 - 0 = 1$$ を得る。したがって、 \begin{align*} H_q (K) \cong \begin{cases} \mathbb{Z}_2 & (q = 0) \\ 0 & (q \ne 0) \end{cases} \end{align*} となる。 $\square$
□[ $n = 1$ の場合] このとき $K = \{\varnothing, |a_0|, |a_1|, |a_0 a_1|\}$ (線分)である。
Proof.
まずは鎖複体を書いておこう。鎖群は \begin{align*} C_q (K) = \begin{cases} \mathbb{Z}_2 \cdot |a_0| \oplus \mathbb{Z}_2 \cdot |a_1| & (q = 0) \\ \mathbb{Z}_2 \cdot |a_0 a_1| & (q = 1) \\ 0 & (q \ne 0, 1) \end{cases} \end{align*} である。そして、境界作用素は $q \ne 1$ で $\partial_q = 0$ になる。実際、 $q \ne 1$ では定義域か終域の少なくとも一方は零空間である。 $\partial_1$ はどうなるかと言うと、定義より $$\partial_1 (|a_0 a_1|) = |a_0| + |a_1|$$ である。すなわち \begin{align*} [\partial_1 (|a_0 a_1|)] = [|a_0| + |a_1|] \cdot \begin{bmatrix} 1 \\ 1 \end{bmatrix} \end{align*} なので、 $\partial_1$ の表現行列(とその階段標準形)は \begin{align*} M_1 = \begin{bmatrix} 1 \\ 1 \end{bmatrix} \left( \to \begin{bmatrix} 1 \\ 0 \end{bmatrix} \right) \end{align*} だと分かる。 これを鎖複体で表すと、 $$\cdots \xrightarrow{0} 0 \xrightarrow{0} \mathbb{Z}_2 \cdot |a_0 a_1| \xrightarrow{\begin{bmatrix} 1 \\ 1 \end{bmatrix}} \mathbb{Z}_2 \cdot |a_0| \oplus \mathbb{Z}_2 \cdot |a_1| \xrightarrow{0} 0 \xrightarrow{0} \cdots$$ ということである。
さて、$\dim K = 1$ なので、求めるべきホモロジー群は $0, 1$ 次のみである。
- - $H_0 (K)$ について。上のことから $\mathrm{rank} \ M_0 = 0, \ \mathrm{rank} \ M_1 = 1$ であるし、 $k_0 = 2$ なので、 $$\dim H_0 (K) = 2 - 0 - 1 = 1$$ を得る。
- - $H_1 (K)$ について。上のことから $\mathrm{rank} \ M_1 = 1, \ \mathrm{rank} \ M_2 = 0$ であるし、 $k_1 = 1$ なので、 $$\dim H_1 (K) = 1 - 1 - 0 = 0$$ を得る。
したがって、 \begin{align*} H_q (K) \cong \begin{cases} \mathbb{Z}_2 & (q = 0) \\ 0 & (q \ne 0) \end{cases} \end{align*} となる。 $\square$
□[ $n = 2$ の場合] このとき $K = \{\varnothing, |a_0|, |a_1|, |a_2|, |a_0 a_1|, |a_1 a_2|, |a_2 a_0|, |a_0 a_1 a_2|\}$ (三角形)である。
Proof.
まずは鎖複体を書いておこう。鎖群は \begin{align*} C_q (K) = \begin{cases} \mathbb{Z}_2 \cdot |a_0| \oplus \mathbb{Z}_2 \cdot |a_1| \oplus \mathbb{Z}_2 \cdot |a_2| & (q = 0) \\ \mathbb{Z}_2 \cdot |a_0 a_1| \oplus \mathbb{Z}_2 \cdot |a_1 a_2| \oplus \mathbb{Z}_2 \cdot |a_2 a_0| & (q = 1) \\ \mathbb{Z}_2 \cdot |a_0 a_1 a_2| & (q = 2) \\ 0 & (q \ne 0, 1, 2) \end{cases} \end{align*} である。やはり境界作用素は $q \ne 1, 2$ で $\partial_q = 0$ になる。
- - $\partial_1$ はどうなるかと言うと、
\begin{align*} \begin{bmatrix} \partial_1 (|a_0 a_1|) & \partial_1 (|a_1 a_2|) & \partial_1 (|a_2 a_0|) \end{bmatrix} &= \begin{bmatrix} |a_0| + |a_1| & |a_1| + |a_2| & |a_2| + |a_0| \end{bmatrix} \\ &= \begin{bmatrix} |a_0| & |a_1| & |a_2| \end{bmatrix} \cdot \begin{bmatrix} 1 & 0 & 1 \\ 1 & 1 & 0 \\ 0 & 1 & 1 \end{bmatrix} \end{align*} なので、 $\partial_1$ の表現行列(とその階段標準形)は \begin{align*} M_1 = \begin{bmatrix} 1 & 0 & 1 \\ 1 & 1 & 0 \\ 0 & 1 & 1 \end{bmatrix} \left( \to \begin{bmatrix} 1 & 0 & 1 \\ 0 & 1 & 1 \\ 0 & 1 & 1 \end{bmatrix} \to \begin{bmatrix} 1 & 0 & 1 \\ 0 & 1 & 1 \\ 0 & 0 & 0 \end{bmatrix} \right) \end{align*} だと分かる。
- - $\partial_2$ はどうなるかと言うと、
\begin{align*} \begin{bmatrix} \partial_2 (|a_0 a_1 a_2|) \end{bmatrix} &= \begin{bmatrix} |a_0 a_1| + |a_1 a_2| + |a_2 a_0| \end{bmatrix} \\ &= \begin{bmatrix} |a_0 a_1| & |a_1 a_2| & |a_2 a_0| \end{bmatrix} \cdot \begin{bmatrix} 1 \\ 1 \\ 1 \end{bmatrix} \end{align*} なので、 $\partial_2$ の表現行列(とその階段標準形)は \begin{align*} M_2 = \begin{bmatrix} 1 \\ 1 \\ 1 \end{bmatrix} \left( \to \begin{bmatrix} 1 \\ 0 \\ 0 \end{bmatrix} \right) \end{align*} だと分かる。 これを鎖複体で表すと、 $$\cdots \xrightarrow{0} 0 \xrightarrow{0} \mathbb{Z}_2 \xrightarrow{\begin{bmatrix} 1 \\ 1 \\ 1 \end{bmatrix}} \mathbb{Z}_2^3 \xrightarrow{\begin{bmatrix} 1 & 0 & 1 \\ 1 & 1 & 0 \\ 0 & 1 & 1 \end{bmatrix}} \mathbb{Z}_2^3 \xrightarrow{0} 0 \xrightarrow{0} \cdots$$ ということである。(基底を明示すると長くなるため、鎖群は数ベクトル空間で表した。)
さて、$\dim K = 2$ なので、求めるべきホモロジー群は $0, 1, 2$ 次のみである。
- - $H_0 (K)$ について。上のことから $\mathrm{rank} \ M_0 = 0, \ \mathrm{rank} \ M_1 = 2$ であるし、 $k_0 = 3$ なので、 $$\dim H_0 (K) = 3 - 0 - 2 = 1$$ を得る。
- - $H_1 (K)$ について。上のことから $\mathrm{rank} \ M_1 = 2, \ \mathrm{rank} \ M_2 = 1$ であるし、 $k_1 = 3$ なので、 $$\dim H_1 (K) = 3 - 2 - 1 = 0$$ を得る。
- - $H_2 (K)$ について。上のことから $\mathrm{rank} \ M_2 = 1, \ \mathrm{rank} \ M_3 = 0$ であるし、 $k_2 = 1$ なので、 $$\dim H_2 (K) = 1 - 1 - 0 = 0$$ を得る。
したがって、 \begin{align*} H_q (K) \cong \begin{cases} \mathbb{Z}_2 & (q = 0) \\ 0 & (q \ne 0) \end{cases} \end{align*} となる。 $\square$
□[ $n = 3$ の場合] このとき $K = \{\varnothing, |a_0|, |a_1|, |a_2|, |a_3|, |a_0 a_1|, |a_0 a_2|, |a_0 a_3|, |a_1 a_2|, |a_1 a_3|, |a_2 a_3|, |a_0 a_1 a_2|, |a_0 a_1 a_3|, |a_0 a_2 a_3|, |a_1 a_2 a_3|, |a_0 a_1 a_2 a_3|\}$ (四面体)である。
Proof.
鎖群は \begin{align*} C_q (K) = \begin{cases} \mathbb{Z}_2 \cdot |a_0| \oplus \mathbb{Z}_2 \cdot |a_1| \oplus \mathbb{Z}_2 \cdot |a_2| \oplus \mathbb{Z}_2 \cdot |a_3| & (q = 0) \\ \mathbb{Z}_2 \cdot |a_0 a_1| \oplus \mathbb{Z}_2 \cdot |a_0 a_2| \oplus \mathbb{Z}_2 \cdot |a_0 a_3| \oplus \mathbb{Z}_2 \cdot |a_1 a_2| \oplus \mathbb{Z}_2 \cdot |a_1 a_3| \oplus \mathbb{Z}_2 \cdot |a_2 a_3| & (q = 1) \\ \mathbb{Z}_2 \cdot |a_0 a_1 a_2| \oplus \mathbb{Z}_2 \cdot |a_0 a_1 a_3| \oplus \mathbb{Z}_2 \cdot |a_0 a_2 a_3| \oplus \mathbb{Z}_2 \cdot |a_1 a_2 a_3| \oplus & (q = 2) \\ \mathbb{Z}_2 \cdot |a_0 a_1 a_2 a_3| & (q = 3) \\ 0 & (q \ne 0, 1, 2, 3) \end{cases} \end{align*} である。やはり境界作用素は $q \ne 1, 2, 3$ で $\partial_q = 0$ になる。
- - $\partial_1$ はどうなるかと言うと、
\begin{align*} \begin{bmatrix} \partial_1 (|a_0 a_1|) & \partial_1 (|a_0 a_2|) & \partial_1 (|a_0 a_3|) & \partial_1 (|a_1 a_2|) & \partial_1 (|a_1 a_3|) & \partial_1 (|a_2 a_3|) \end{bmatrix} &= \begin{bmatrix} |a_0| + |a_1| & |a_0| + |a_2| & |a_0| + |a_3| & |a_1| + |a_2| & |a_1| + |a_3| & |a_2| + |a_3| \end{bmatrix} \\ &= \begin{bmatrix} |a_0| & |a_1| & |a_2| & |a_3| \end{bmatrix} \cdot \begin{bmatrix} 1 & 1 & 1 & 0 & 0 & 0 \\ 1 & 0 & 0 & 1 & 1 & 0 \\ 0 & 1 & 0 & 1 & 0 & 1 \\ 0 & 0 & 1 & 0 & 1 & 1 \end{bmatrix} \end{align*} なので、 $\partial_1$ の表現行列(とその階段標準形)は \begin{align*} M_1 = \begin{bmatrix} 1 & 1 & 1 & 0 & 0 & 0 \\ 1 & 0 & 0 & 1 & 1 & 0 \\ 0 & 1 & 0 & 1 & 0 & 1 \\ 0 & 0 & 1 & 0 & 1 & 1 \end{bmatrix} \left( \to \begin{bmatrix} 1 & 1 & 1 & 0 & 0 & 0 \\ 0 & 1 & 1 & 1 & 1 & 0 \\ 0 & 1 & 0 & 1 & 0 & 1 \\ 0 & 0 & 1 & 0 & 1 & 1 \end{bmatrix} \to \begin{bmatrix} 1 & 0 & 0 & 1 & 1 & 0 \\ 0 & 1 & 1 & 1 & 1 & 0 \\ 0 & 0 & 1 & 0 & 1 & 1 \\ 0 & 0 & 1 & 0 & 1 & 1 \end{bmatrix} \to \begin{bmatrix} 1 & 0 & 0 & 1 & 1 & 0 \\ 0 & 1 & 0 & 1 & 0 & 1 \\ 0 & 0 & 1 & 0 & 1 & 1 \\ 0 & 0 & 0 & 0 & 0 & 0 \end{bmatrix} \right) \end{align*} だと分かる。
- - $\partial_2$ はどうなるかと言うと、
\begin{align*} \begin{bmatrix} \partial_2 (|a_0 a_1 a_2|) & \partial_2 (|a_0 a_1 a_3|) & \partial_2 (|a_0 a_2 a_3|) & \partial_2 (|a_1 a_2 a_3|) \end{bmatrix} &= \begin{bmatrix} |a_0 a_1| + |a_1 a_2| + |a_2 a_0| & |a_0 a_1| + |a_1 a_3| + |a_3 a_0| & |a_0 a_2| + |a_2 a_3| + |a_3 a_0| & |a_1 a_2| + |a_2 a_3| + |a_3 a_1| \end{bmatrix} \\ &= \begin{bmatrix} |a_0 a_1| & |a_0 a_2| & |a_0 a_3| & |a_1 a_2| & |a_1 a_3| & |a_2 a_3| \end{bmatrix} \cdot \begin{bmatrix} 1 & 1 & 0 & 0 \\ 1 & 0 & 1 & 0 \\ 0 & 1 & 1 & 0 \\ 1 & 0 & 0 & 1 \\ 0 & 1 & 0 & 1 \\ 0 & 0 & 1 & 1 \end{bmatrix} \end{align*} なので、 $\partial_2$ の表現行列(とその階段標準形)は \begin{align*} M_2 = \begin{bmatrix} 1 & 1 & 0 & 0 \\ 1 & 0 & 1 & 0 \\ 0 & 1 & 1 & 0 \\ 1 & 0 & 0 & 1 \\ 0 & 1 & 0 & 1 \\ 0 & 0 & 1 & 1 \end{bmatrix} \left( \to \begin{bmatrix} 1 & 1 & 0 & 0 \\ 0 & 1 & 1 & 0 \\ 0 & 1 & 1 & 0 \\ 0 & 1 & 0 & 1 \\ 0 & 1 & 0 & 1 \\ 0 & 0 & 1 & 1 \end{bmatrix} \to \begin{bmatrix} 1 & 0 & 1 & 0 \\ 0 & 1 & 1 & 0 \\ 0 & 0 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 1 & 1 \\ 0 & 0 & 1 & 1 \\ 0 & 0 & 1 & 1 \end{bmatrix} \to \begin{bmatrix} 1 & 0 & 1 & 0 \\ 0 & 1 & 1 & 0 \\ 0 & 0 & 1 & 1 \\ 0 & 0 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 0 & 0 \end{bmatrix} \right) \end{align*} だと分かる。
- - $\partial_3$ はどうなるかと言うと、
\begin{align*} \begin{bmatrix} \partial_2 (|a_0 a_1 a_2 a_3|) \end{bmatrix} &= \begin{bmatrix} |a_0 a_1 a_2| + |a_0 a_1 a_3| + |a_0 a_2 a_3| + |a_1 a_2 a_3| \end{bmatrix} \\ &= \begin{bmatrix} |a_0 a_1 a_2| & |a_0 a_1 a_3| & |a_0 a_2 a_3| & |a_1 a_2 a_3| \end{bmatrix} \cdot \begin{bmatrix} 1 \\ 1 \\ 1 \\ 1 \end{bmatrix} \end{align*} なので、 $\partial_3$ の表現行列(とその階段標準形)は \begin{align*} M_3 = \begin{bmatrix} 1 \\ 1 \\ 1 \\ 1 \end{bmatrix} \left( \to \begin{bmatrix} 1 \\ 0 \\ 0 \\ 0 \end{bmatrix} \right) \end{align*} だと分かる。 これを鎖複体で表すと、 $$\cdots \xrightarrow{0} 0 \xrightarrow{0} \mathbb{Z}_2 \xrightarrow{\begin{bmatrix} 1 \\ 1 \\ 1 \\ 1 \end{bmatrix}} \mathbb{Z}_2^4 \xrightarrow{\begin{bmatrix} 1 & 1 & 0 & 0 \\ 1 & 0 & 1 & 0 \\ 0 & 1 & 1 & 0 \\ 1 & 0 & 0 & 1 \\ 0 & 1 & 0 & 1 \\ 0 & 0 & 1 & 1 \end{bmatrix}} \mathbb{Z}_2^6 \xrightarrow{\begin{bmatrix} 1 & 1 & 1 & 0 & 0 & 0 \\ 1 & 0 & 0 & 1 & 1 & 0 \\ 0 & 1 & 0 & 1 & 0 & 1 \\ 0 & 0 & 1 & 0 & 1 & 1 \end{bmatrix}} \mathbb{Z}_2^4 \xrightarrow{0} 0 \xrightarrow{0} \cdots$$ ということである。
さて、$\dim K = 3$ なので、求めるべきホモロジー群は $0, 1, 2, 3$ 次のみである。
- - $H_0 (K)$ について。上のことから $\mathrm{rank} \ M_0 = 0, \ \mathrm{rank} \ M_1 = 2$ であるし、 $k_0 = 4$ なので、 $$\dim H_0 (K) = 4 - 0 - 2 = 1$$ を得る。
- - $H_1 (K)$ について。上のことから $\mathrm{rank} \ M_1 = 3, \ \mathrm{rank} \ M_2 = 3$ であるし、 $k_1 = 6$ なので、 $$\dim H_1 (K) = 6 - 3 - 3 = 0$$ を得る。
- - $H_2 (K)$ について。上のことから $\mathrm{rank} \ M_2 = 3, \ \mathrm{rank} \ M_3 = 1$ であるし、 $k_2 = 4$ なので、 $$\dim H_2 (K) = 4 - 3 - 1 = 0$$ を得る。
- - $H_3 (K)$ について。上のことから $\mathrm{rank} \ M_3 = 1, \ \mathrm{rank} \ M_4 = 0$ であるし、 $k_3 = 1$ なので、 $$\dim H_3 (K) = 1 - 1 - 0 = 0$$ を得る。
したがって、 \begin{align*} H_q (K) \cong \begin{cases} \mathbb{Z}_2 & (q = 0) \\ 0 & (q \ne 0) \end{cases} \end{align*} となる。 $\square$
□我々は、次のような結果を期待する。実際にこれは正しいのだが、現段階で証明することは困難を極めるので保留しておく。
Proof.
\begin{align*} H_q (K) \cong \begin{cases} \mathbb{Z}_2 & (q = 0) \\ 0 & (q \ne 0) \end{cases} \end{align*}
□例3.4.2(単体の境界)
$n$ 単体 $\sigma = |a_0 a_1 \cdots a_{n - 1} a_n|$ の境界を多面体に持つ単体複体 $$K = K(\partial \sigma) = \{\varnothing, |a_0|, |a_1|, \dots, |a_n|, \dots, |a_1 \cdots a_{n - 1} a_n|, \dots, |a_0 a_1 \cdots a_{n - 1}|\}$$ を考える。このホモロジー群はどうなるだろうか。これも小さい数で感じを掴んでみよう。
[ $n = 1$ の場合] このとき $K = \{\varnothing, |a_0|, |a_1|\}$ (線分の端点、すなわち二点)である。
Proof.
鎖群は \begin{align*} C_q (K) = \begin{cases} \mathbb{Z}_2 \cdot |a_0| \oplus \mathbb{Z}_2 \cdot |a_1| & (q = 0) \\ 0 & (q \ne 0) \end{cases} \end{align*} である。やはり境界作用素はすべての $q$ で $\partial_q = 0$ になる。これを鎖複体で表すと、 $$\cdots \xrightarrow{0} 0 \xrightarrow{0} \mathbb{Z}_2 \cdot |a_0| \oplus \mathbb{Z}_2 \cdot |a_1| \xrightarrow{0} 0 \xrightarrow{0} \cdots$$ ということである。
さて、$\dim K = 0$ なので、求めるべきホモロジー群は $0$ 次のみである。上のことから $\mathrm{rank} \ M_0 = 0, \ \mathrm{rank} \ M_1 = 0$ であるし、 $k_0 = 2$ なので、 $$\dim H_0 (K) = 2 - 0 - 0 = 2$$ を得る。したがって、 \begin{align*} H_q (K) \cong \begin{cases} \mathbb{Z}_2^2 & (q = 0) \\ 0 & (q \ne 0) \end{cases} \end{align*} となる。 $\square$
□[ $n = 2$ の場合] このとき $K = \{\varnothing, |a_0|, |a_1|, |a_2|, |a_0 a_1|, |a_1 a_2|, |a_2 a_0|\}$ (三角形の周)である。
Proof.
鎖群は \begin{align*} C_q (K) = \begin{cases} \mathbb{Z}_2 \cdot |a_0| \oplus \mathbb{Z}_2 \cdot |a_1| \oplus \mathbb{Z}_2 \cdot |a_2| & (q = 0) \\ \mathbb{Z}_2 \cdot |a_0 a_1| \oplus \mathbb{Z}_2 \cdot |a_1 a_2| \oplus \mathbb{Z}_2 \cdot |a_2 a_0| & (q = 1) \\ 0 & (q \ne 0, 1) \end{cases} \end{align*} である。やはり境界作用素は $q \ne 1$ で $\partial_q = 0$ になる。$\partial_1$ はどうなるかと言うと、例3.4.1の $n = 2$ の場合と同様、 \begin{align*} \begin{bmatrix} \partial_1 (|a_0 a_1|) & \partial_1 (|a_1 a_2|) & \partial_1 (|a_2 a_0|) \end{bmatrix} &= \begin{bmatrix} |a_0| + |a_1| & |a_1| + |a_2| & |a_2| + |a_0| \end{bmatrix} \\ &= \begin{bmatrix} |a_0| & |a_1| & |a_2| \end{bmatrix} \cdot \begin{bmatrix} 1 & 0 & 1 \\ 1 & 1 & 0 \\ 0 & 1 & 1 \end{bmatrix} \end{align*} なので、 $\partial_1$ の表現行列(とその階段標準形)は \begin{align*} M_1 = \begin{bmatrix} 1 & 0 & 1 \\ 1 & 1 & 0 \\ 0 & 1 & 1 \end{bmatrix} \left( \to \begin{bmatrix} 1 & 0 & 1 \\ 0 & 1 & 1 \\ 0 & 1 & 1 \end{bmatrix} \to \begin{bmatrix} 1 & 0 & 1 \\ 0 & 1 & 1 \\ 0 & 0 & 0 \end{bmatrix} \right) \end{align*} だと分かる。これを鎖複体で表すと、 $$\cdots \xrightarrow{0} 0 \xrightarrow{0} \mathbb{Z}_2^3 \xrightarrow{\begin{bmatrix} 1 & 0 & 1 \\ 1 & 1 & 0 \\ 0 & 1 & 1 \end{bmatrix}} \mathbb{Z}_2^3 \xrightarrow{0} 0 \xrightarrow{0} \cdots$$ ということである。
さて、$\dim K = 1$ なので、求めるべきホモロジー群は $0, 1$ 次のみである。
- - $H_0 (K)$ について。上のことから $\mathrm{rank} \ M_0 = 0, \ \mathrm{rank} \ M_1 = 2$ であるし、 $k_0 = 3$ なので、 $$\dim H_0 (K) = 3 - 0 - 2 = 1$$ を得る。
- - $H_1 (K)$ について。上のことから $\mathrm{rank} \ M_1 = 2, \ \mathrm{rank} \ M_2 = 0$ であるし、 $k_1 = 3$ なので、 $$\dim H_0 (K) = 3 - 2 - 0 = 1$$ を得る。
したがって、 \begin{align*} H_q (K) \cong \begin{cases} \mathbb{Z}_2 & (q = 0, 1) \\ 0 & (q \ne 0, 1) \end{cases} \end{align*} となる。 $\square$
□[ $n = 3$ の場合] このとき $K = \{\varnothing, |a_0|, |a_1|, |a_2|, |a_0 a_1|, |a_1 a_2|, |a_2 a_0|\}$ (四面体の表面)である。
Proof.
鎖群は \begin{align*} C_q (K) = \begin{cases} \mathbb{Z}_2 \cdot |a_0| \oplus \mathbb{Z}_2 \cdot |a_1| \oplus \mathbb{Z}_2 \cdot |a_2| & (q = 0) \\ \mathbb{Z}_2 \cdot |a_0 a_1| \oplus \mathbb{Z}_2 \cdot |a_1 a_2| \oplus \mathbb{Z}_2 \cdot |a_2 a_0| & (q = 1) \\ 0 & (q \ne 0, 1) \end{cases} \end{align*} である。やはり境界作用素は $q \ne 1, 2$ で $\partial_q = 0$ になる。$\partial_1, \partial_2$ の表現行列(とその階段標準形)はどうなるかと言うと、例3.4.1の $n = 3$ の場合と同様、 \begin{align*} M_1 = \begin{bmatrix} 1 & 1 & 1 & 0 & 0 & 0 \\ 1 & 0 & 0 & 1 & 1 & 0 \\ 0 & 1 & 0 & 1 & 0 & 1 \\ 0 & 0 & 1 & 0 & 1 & 1 \end{bmatrix} \left( \to \begin{bmatrix} 1 & 0 & 0 & 1 & 1 & 0 \\ 0 & 1 & 0 & 1 & 0 & 1 \\ 0 & 0 & 1 & 0 & 1 & 1 \\ 0 & 0 & 0 & 0 & 0 & 0 \end{bmatrix} \right) \end{align*} \begin{align*} M_2 = \begin{bmatrix} 1 & 1 & 0 & 0 \\ 1 & 0 & 1 & 0 \\ 0 & 1 & 1 & 0 \\ 1 & 0 & 0 & 1 \\ 0 & 1 & 0 & 1 \\ 0 & 0 & 1 & 1 \end{bmatrix} \left( \to \begin{bmatrix} 1 & 0 & 1 & 0 \\ 0 & 1 & 1 & 0 \\ 0 & 0 & 1 & 1 \\ 0 & 0 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 0 & 0 \end{bmatrix} \right) \end{align*} だと分かる。これを鎖複体で表すと、 $$\cdots \xrightarrow{0} 0 \xrightarrow{0} \mathbb{Z}_2^4 \xrightarrow{\begin{bmatrix} 1 & 1 & 0 & 0 \\ 1 & 0 & 1 & 0 \\ 0 & 1 & 1 & 0 \\ 1 & 0 & 0 & 1 \\ 0 & 1 & 0 & 1 \\ 0 & 0 & 1 & 1 \end{bmatrix}} \mathbb{Z}_2^6 \xrightarrow{\begin{bmatrix} 1 & 1 & 1 & 0 & 0 & 0 \\ 1 & 0 & 0 & 1 & 1 & 0 \\ 0 & 1 & 0 & 1 & 0 & 1 \\ 0 & 0 & 1 & 0 & 1 & 1 \end{bmatrix}} \mathbb{Z}_2^4 \xrightarrow{0} 0 \xrightarrow{0} \cdots$$ ということである。
さて、$\dim K = 2$ なので、求めるべきホモロジー群は $0, 1, 2, 3$ 次のみである。
- - $H_0 (K)$ について。上のことから $\mathrm{rank} \ M_0 = 0, \ \mathrm{rank} \ M_1 = 2$ であるし、 $k_0 = 4$ なので、 $$\dim H_0 (K) = 4 - 0 - 2 = 1$$ を得る。
- - $H_1 (K)$ について。上のことから $\mathrm{rank} \ M_1 = 3, \ \mathrm{rank} \ M_2 = 3$ であるし、 $k_1 = 6$ なので、 $$\dim H_1 (K) = 6 - 3 - 3 = 0$$ を得る。
- - $H_2 (K)$ について。上のことから $\mathrm{rank} \ M_2 = 3, \ \mathrm{rank} \ M_3 = 0$ であるし、 $k_2 = 4$ なので、 $$\dim H_2 (K) = 4 - 3 - 0 = 1$$ を得る。
したがって、 \begin{align*} H_q (K) \cong \begin{cases} \mathbb{Z}_2 & (q = 0, 2) \\ 0 & (q \ne 0, 2) \end{cases} \end{align*} となる。 $\square$
□我々は、次のような結果を期待する。これも実際に成り立つのだが、やはり保留しておく。
Proof.
$n \ge 2$ ならば、 \begin{align*} H_q (K) \cong \begin{cases} \mathbb{Z}_2 & (q = 0, n - 1) \\ 0 & (q \ne 0, n - 1) \end{cases} \end{align*}
□例3.4.1( $k$ 点集合)
$k$ は正の整数とする。 $k$ 点集合を表す単体複体 $$K = \{\varnothing, |a_1|, \dots, |a_k|\}$$ を考える。このホモロジー群はどうなるだろうか。
Proof.
鎖群は \begin{align*} C_q (K) = \begin{cases} \mathbb{Z}_2 \cdot |a_1| \oplus \cdots \oplus \mathbb{Z}_2 \cdot |a_k| & (q = 0) \\ 0 & (q \ne 0) \end{cases} \end{align*} である。そして、境界作用素はすべての $q$ で $\partial_q = 0$ になる。実際、どこの $q$ でも定義域か終域の少なくとも一方は零空間である。これを鎖複体で表すと、 $$\cdots \xrightarrow{0} 0 \xrightarrow{0} \mathbb{Z}_2^k \xrightarrow{0} 0 \xrightarrow{0} \cdots$$ ということである。
さて、$\dim K = 0$ なので、求めるべきホモロジー群は $0$ 次のみである。上のことから $\mathrm{rank} \ M_0 = \mathrm{rank} \ M_1 = 0$ であるし、 $k_0 = k$ なので、 $$\dim H_0 (K) = k - 0 - 0 = k$$ を得る。したがって、 \begin{align*} H_q (K) \cong \begin{cases} \mathbb{Z}_2^k & (q = 0) \\ 0 & (q \ne 0) \end{cases} \end{align*} となる。 $\square$
□演習問題3.5
$n$ は 正の整数とする。以下の単体複体に対して、ホモロジー群を計算してみよ。
- (1) 例1.12.3の単体複体 $K$
- (2) 例1.12.4の単体複体 $K'$
- (3) 例1.12.5の単体複体 $K$
また、単体複体の絵・計算結果・そして本章冒頭のコンセプトを照らし合わせてみられたい。
Proof.
- (1) $H_q (K) \cong \begin{cases} \mathbb{Z}_2 & (q = 0) \\ 0 & (q \ne 0) \end{cases}$
- (2) $H_q (K) \cong \begin{cases} \mathbb{Z}_2 & (q = 0) \\ 0 & (q \ne 0) \end{cases}$
- (3) $H_q (K) \cong \begin{cases} \mathbb{Z}_2 & (q = 0) \\ \mathbb{Z}_2^2 & (q = 1) \\ 0 & (q \ne 0, 1) \end{cases}$
例3.6
ここまでは、ホモロジー群の( $\mathbb{Z}_2$ 上のベクトル空間としての)次元だけを求めた。しかし、もう少し踏み込んで求めてみたいものがある。それは、ホモロジー群の基底である。一般の線型代数においても"よい"基底の選定は重要な技術であり、それは今回学んでいるホモロジー理論においてもそうである。また、ホモロジー群の基底を知ることは、単体複体の情報をより深く知ることになるだろう。ただし、 $0$ 次ホモロジー群に関する事項は次章でまとめて解説する。
以下で、基底の求め方に飛び道具は要らない。実際、核の基底は表現行列に行基本変形を、像の基底は表現行列に列基本変形を施せば得られるのだった!線型代数の技術として、次のことを思い出しておこう:ホモロジー群に限らず、商空間の基底を求めるコツは、割る空間(今は $\mathrm{Im} \ \partial_{q + 1}$ )の基底を求めて、それを延長したものとして割られる空間(今は $\mathrm{Ker} \ \partial_q$ )の基底を求めることである。
あまり非自明な例ではないが、例3.4.2(単体の境界)の $n = 2$ の場合を例にとって、ホモロジー群の基底を求めてみよう。 $n = 3$ の場合は演習問題としてある。
Proof.
件の単体複体 $K = \partial K(|a_0 a_1 a_2|)$ のホモロジー群は、 $0, 1$ 次のみが零空間ではなかった。
まずは $0$ 次ホモロジー群 $H_0 (K)$ を見よう。 $H_0 (K)$ は $\mathrm{Ker} \ \partial_1 = C_0 (K)$ の $\mathrm{Im} \ \partial_1$ による商空間なので、それぞれの基底を求める。
- $M_1 = \begin{bmatrix} 1 & 0 & 1 \\ 1 & 1 & 0 \\ 0 & 1 & 1 \end{bmatrix}$ に列基本変形を施すと $M_1 \to \begin{bmatrix} 1 & 1 & 0 \\ 1 & 0 & 0 \\ 0 & 1 & 0 \end{bmatrix}$ となる。よって、 $\mathrm{Im} \ \partial_1$ の基底として $\{|a_0| + |a_1|, |a_0| + |a_2|\}$ がとれる。
- $\mathrm{Ker} \ \partial_0$ の基底を $\{|a_0| + |a_1|, |a_0| + |a_2|\}$ から延長して求めよう。たとえばここに $|a_0|$ を追加すれば、 $\{|a_0|, |a_0| + |a_1|, |a_0| + |a_2|\}$ は $\mathrm{Ker} \ \partial_0$ の基底となる。
以上のことから、 $H_0 (K)$ の基底として $\{[|a_0|]\}$ がとれる。ここで、ホモロジー群においては $[|a_0|] = [|a_1|] = [|a_2|]$ であることを注意しておく。実際、これらの差[1]は $\mathrm{Im} \ \partial_1$ に属する。
次に $1$ 次ホモロジー群 $H_1 (K)$ を見よう。 $H_1 (K)$ は $\mathrm{Ker} \ \partial_1$ の $\mathrm{Im} \ \partial_2$ による商空間なので、それぞれの基底を求める。
- $\partial_2 = 0$ なので、 $\mathrm{Im} \ \partial_2$ の基底は $\{ \}$ (空集合)である。あるいは $$H_1 (K) = \mathrm{Ker} \ \partial_1 / 0 = \mathrm{Ker} \ \partial_1$$ なので、この場合は $\mathrm{Ker} \ \partial_1$ の基底を求めさえすればよい。
- $M_1 = \begin{bmatrix} 1 & 0 & 1 \\ 1 & 1 & 0 \\ 0 & 1 & 1 \end{bmatrix}$ に行基本変形を施すと $M_1 = \begin{bmatrix} 1 & 0 & 1 \\ 1 & 1 & 0 \\ 0 & 0 & 0 \end{bmatrix}$ となる。よって、 $x \cdot |a_0 a_1| + y \cdot |a_1 a_2| + z \cdot |a_2 a_0| = \begin{bmatrix} x \\ y \\ z \end{bmatrix} \in \mathrm{Ker} \ \partial_1$ とすると、 $$\begin{cases} x + y = 0 \\ x + z = 0 \end{cases}$$ すなわち $x = y = z$ が成り立つ。したがって、 $$\mathrm{Ker} \ \partial_1 = \{x \cdot (|a_0 a_1| + |a_1 a_2| + |a_2 a_0|) \ | \ x \in \mathbb{Z}_2\} = \mathbb{Z}_2 \cdot (|a_0 a_1| + |a_1 a_2| + |a_2 a_0|)$$ が成り立つ。
以上のことから、 $H_1 (K)$ の基底として $\{[|a_0 a_1| + |a_1 a_2| + |a_2 a_0|]\}$ がとれる。
さて、 $1$ 次ホモロジー群について図形的な考察をしてみよう。上の $H_1 (K)$ の基底は図形として何であったかというと、三角形の周そのもの―― $K$ において閉じた図形であって、空洞を取り囲んだもの――である。例3.4.1(単体)の $n = 2$ の場合と比較してみると、あの場合では $1$ 次ホモロジー群は零空間となっていた。それは、三角形の周の中身が面で埋まっており、空洞を取り囲んではいなかったからだと思える。
□演習問題3.7
例3.4.2(単体の境界)の $n = 3$ の場合や、例1.12.5(ちょうちょ)における $K$ についても、ホモロジー群の基底を求め、考察してみよ。
Proof.
基底の一例を挙げておく。
- 例3.4.2(単体の境界)の $n = 3$ の場合、
- $H_0 (\partial K(|a_0 a_1 a_2 a_3|))$ の基底は、たとえば $\{ [|a_0|] \}$
- $H_2 (\partial K(|a_0 a_1 a_2 a_3|))$ の基底は、たとえば $\{ [|a_0 a_1 a_2| + |a_0 a_1 a_3| + |a_0 a_2 a_3| + |a_1 a_2 a_3|] \}$
- 例1.12.5(ちょうちょ)における $K$ の場合、
- $H_0 (K)$ の基底は、たとえば $\{ [|a_0|] \}$
- $H_1 (K)$ の基底は、たとえば $\{ [|a_0 a_1| + |a_1 a_2| + |a_2 a_0|], [|a_0 a_3| + |a_3 a_4| + |a_4 a_0|] \}$
単体複体の簡約ホモロジー
ここまで扱ってきたホモロジーは、鎖複体を添加鎖複体に取り替えても定義できる。変化する点は、 $-1$ 次鎖群が $0$(零空間)でなく $\mathbb{Z}_2 \cdot \varnothing$ となる部分である。
定義3.8(簡約ホモロジー群)
単体複体 $K$ に対して、その簡約 $q$ 次ホモロジーあるいは簡約 $q$ 次ホモロジー群(reduced $q$ -th homology group)を商空間 $$\tilde{H}_q (K) = \frac{\mathrm{Ker} \ \tilde{\partial}_q}{\mathrm{Im} \ \tilde{\partial}_{q + 1}}$$ によって定義する。
もしかすると、あなたは「鎖複体は添加したのに、ホモロジー群が簡約とはこれいかに?」と思ったかもしれない。そして、以下の二つの命題を見れば納得がいくかもしれない。
命題3.9
単体複体 $K$ はその多面体が空集合でないとする。このとき、 $0$ でない総ての整数 $q$ に対して $$\tilde{H}_q (K) = H_q (K)$$ が成り立つ。すなわち、普通のホモロジーと簡約ホモロジーの違いは $0$ 次のみで発生する。
Proof.
単体複体の鎖複体と添加鎖複体は $-1$ 次鎖群と $C_0 (K)$ からの境界作用素のみが異なり、それらが関与するホモロジー群は $0, -1$ 次の二つのみであるから、 $-1$ 次のホモロジー群と簡約ホモロジー群が等しいことを示せばよい。
- 定義から $C_{-1} (K) = 0$ なので、 $H_{-1} (K) = 0$ である。
- 仮定から添加写像 $\varepsilon \ \colon \ C_0 (K) \to \mathbb{Z}_2 \cdot \varnothing$ は全射なので、 $\mathrm{Ker} \ \partial_{-1} = C_{-1} (K) \subset \mathrm{Im} \ \varepsilon$ が成り立つ。したがって、 $\tilde{H}_1 (K) = \mathrm{Ker} \ \partial_{-1} / \mathrm{Im} \ \varepsilon = 0$ となる。
よって、両者は $-1$ 次で等しい。 $\square$
□命題3.10
単体複体 $K$ はその多面体が空集合でないとする。このとき、 $\dim \tilde{H}_0 (K) = \dim H_0 (K) - 1$ が成り立つ。すなわち、 $$\tilde{H}_0 (K) \oplus \mathbb{Z}_2 \cong H_0 (K)$$ が成り立つ。
Proof.
$\tilde{H}_0 (K)$ の次元を計算しよう。 $$\tilde{H}_0 (K) = \frac{\mathrm{Ker} \ \varepsilon}{\mathrm{Im} \ \partial_1}$$ なので、次元は $$\dim \tilde{H}_0 (K) = \dim \mathrm{Ker} \ \varepsilon - \mathrm{Im} \ \partial_1 \quad \cdots (*)$$ である。
今、次元定理を添加写像 $\varepsilon \ \colon \ C_0 (K) \to \mathbb{Z}_2 \cdot \varnothing$ に適用すれば $$\mathrm{Ker} \ \varepsilon = k_0 - \dim \mathrm{Im} \ \varepsilon \quad \cdots (**)$$ が分かる。仮定から $\varepsilon$ は全射なので、 $$\dim \mathrm{Im} \ \varepsilon = \dim \mathbb{Z}_2 \cdot \varnothing = 1$$ である。これを $(**)$ に当てはめると $$\mathrm{Ker} \ \varepsilon = k_0 - 1$$ となる。さらにこれを $(**)$ に当てはめれば、 \begin{align*} \dim \tilde{H}_0 (K) &= \dim \mathrm{Ker} \ \varepsilon - \mathrm{Im} \ \partial_1 \\ &= k_0 - 1 - \mathrm{Im} \ \partial_1 \\ &= (k_0 - 0 - \mathrm{Im} \ \partial_1) - 1 \\ &= \dim H_0 (K) - 1 \end{align*} と計算でき、所望の結果を得た。 $\square$
□これで、通常のホモロジー群と簡約ホモロジー群の関係が分かったことになる。 $0$ 次を見ると分かるように、簡約ホモロジー群は通常のホモロジー群よりも次元が低い。この事実は、以下で見るように、ホモロジー群の計算結果の記述を綺麗な形にしてくれる。
例3.11
先の例3.4で扱った単体複体について、簡約ホモロジー群を求めてみよう。とは言っても、やることは $0$ 次の次元を $1$ だけ落とすことのみである。
例3.11.1(単体)
例3.4.1同様、$n$ 単体 $\sigma = |a_0 a_1 \cdots a_{n - 1} a_n|$ を多面体に持つ単体複体 $$K = K(\sigma) = \{\varnothing, |a_0|, |a_1|, \dots, |a_n|, \dots, |a_1 \cdots a_{n - 1} a_n|, \dots, |a_0 a_1 \cdots a_{n - 1}|, |a_0 a_1 \cdots a_{n - 1} a_n|\}$$ を考える。この簡約ホモロジー群を計算しよう。
Proof.
$n = 0, 1, 2, 3$ いずれの場合も $$H_q (K) \cong \begin{cases} \mathbb{Z}_2 & (q = 0) \\ 0 & (q \ne 0) \end{cases}$$ であった。したがって、 $$\tilde{H}_q (K) = 0 \quad (q \in \mathbb{Z})$$ となる。 $\square$
□例3.11.2(単体の境界)
例3.4.2同様、 $n$ 単体 $\sigma = |a_0 a_1 \cdots a_{n - 1} a_n|$ の境界を多面体に持つ単体複体 $$K = K(\partial \sigma) = \{\varnothing, |a_0|, |a_1|, \dots, |a_n|, \dots, |a_1 \cdots a_{n - 1} a_n|, \dots, |a_0 a_1 \cdots a_{n - 1}|\}$$ を考える。この簡約ホモロジー群を計算しよう。
Proof.
$n = 1$ の場合のみ $$H_q (K) \cong \begin{cases} \mathbb{Z}_2^2 & (q = 0) \\ 0 & (q \ne 0) \end{cases}$$ であった。 一方、$n = 2, 3$ いずれの場合も $$H_q (K) \cong \begin{cases} \mathbb{Z}_2 & (q = 0, n - 1) \\ 0 & (q \ne 0, n - 1) \end{cases}$$ であった。 しかし、簡約ホモロジー群ではまとめて $$H_q (K) \cong \begin{cases} \mathbb{Z}_2 & (q = n - 1) \\ 0 & (q \ne n - 1) \end{cases}$$ と記述できる。
□ホモロジー代数における鎖複体・ホモロジー
ここまで、鎖複体やホモロジーは単体複体に対して定義されてきた。しかし、現代数学においては、それらは単体複体に由来しない純代数的な定義を持つ。そして、そのように定義された鎖複体・ホモロジーに関する理論のことをホモロジー代数(homological algebra)という。
本節では、鎖複体・ホモロジーの代数的な定義を紹介することで、ホモロジー代数の導入とする。この抽象化において幾何的な足場を撤去する代わりに、代数的に非常に洗練された武器を多く得ることができる。これは、線型代数において数ベクトル空間から抽象ベクトル空間の公理を抽出したことに匹敵する大躍進である。その一端は、本テキストの中盤の章「蛇の補題」でも垣間見ることができる。
なお本テキストのスタンスに則り、ここでは $\mathbb{Z}_2$ 上の線型代数の範囲に留めた解説をする。進んだ知識を持つ読者は、適宜「 $\mathbb{Z}_2$ 上のベクトル空間」・「 $\mathbb{Z}_2$ 線型写像」を「環上の加群」・「加群の準同型」などと置き換えて構わない。
定義3.12(鎖複体)
$\mathbb{Z}_2$ 上のベクトル空間が成す鎖複体(chain complex)とは、整数で添字づけられた $\mathbb{Z}_2$ 上のベクトル空間の族 $\{C_q\}_{q \in \mathbb{Z}}$ と $\mathbb{Z}_2$ 線型写像の族 $\{\partial_q \ \colon \ C_q \to C_{q - 1}\}_{q \in \mathbb{Z}}$ の組 $\mathcal{C} = (C_\bullet, \partial_\bullet)$ であって、各 $q \in \mathbb{Z}$ について $\partial_{q - 1} \circ \partial_q = 0$ が成り立つものをいう。 また、このとき、 $C_q$ を $q$ 次鎖群( $q$ -th chain group)、 $\partial_q$ を境界作用素(boundary operator)という。
定義3.13(ホモロジー群)
$\mathcal{C} = (C_\bullet, \partial_\bullet)$ を $\mathbb{Z}_2$ 上のベクトル空間が成す鎖複体とする。このとき、商空間 $$H_q (\mathcal{C}) = \frac{\mathrm{Ker} \ \partial_q}{\mathrm{Im} \ \partial_{q + 1}}$$ を、 $\mathcal{C}$ の $q$ 次ホモロジー群( $q$ -th homology group)という。
例3.14
- 単体複体 $K$ のホモロジー群は、 $K$ の鎖複体 $\mathcal{C}(K)$ に対するホモロジー群である。
- 単体複体 $K$ の簡約ホモロジー群は、 $K$ の添加鎖複体 $\tilde{\mathcal{C}}(K)$ に対するホモロジー群である。
上記の鎖複体・ホモロジー群の定義において、幾何的な情報はほとんど残っていない。しかしながら、ホモロジー群を定義するのには境界作用素の合成が零写像になることだけで充分であり(注意3.3参照)、そのような性質を持つ線型写像が到るところで発見されてきたのである。たとえば微分形式の外微分が顕著な例であり、それは我々をde Rhamコホモロジーの理論へと導いた。
この章のおわりに
この章では、次の事柄を学んだ。
- ホモロジー群という、単体複体の空洞を検出するベクトル空間の定義と例。
- 簡約ホモロジー群という、ホモロジー群の亜種にあたる概念の定義と例。
- 鎖複体とホモロジー群の代数的に抽象化された定義。
次章では、ホモロジー群が持つ基本的な性質を見ていく。そのとき、特別な単体複体のクラスやそのホモロジー群について触れることになるだろう。
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脚注
- ↑ 本テキストでは $\mathbb{Z}_2$ 上のベクトル空間なので和でもよいのだが。