Dedekind整域

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Dedekind整域

Dedekind整域(Dedekind Domain)とは、零でない任意のイデアルが素イデアルの積に分解できる整域をいう。 この性質は有理整数環に於ける素因数分解をイデアルの言葉で言い換えた性質であり、 代数的整数論に於いては特に重要な役割を果たす。 Noether整域や離散付置整域に於ける特徴づけや、分数イデアルを用いた特徴付けが知られておりいずれも重要である。

単項イデアル整域はその性質の良さからイデアルおよび加群を詳しく調べることができるが、 整域が単項イデアル整域であるか否かは大変繊細な振る舞いをする。 これに対してDedekind整域であるか否かは比較的判定しやすく、 この理由の一つにNoether整域がDedekind整域であるか否かは局所的な性質のみで判定できることが挙げられる。 両者の振る舞いの違いは、任意の代数体の整数環はDedekind整域だが一般に単項イデアル整域であるとは限らないことにも表れている。

概要

Dedekind整域の特徴付けは沢山知られており、どれを定義としても差支えはない。 本ページでは歴史的な重要性に鑑みて素イデアル分解が可能であることを定義に採用して議論を進めていく。 本項では定義を端的に紹介した後、 基本的な特徴づけを一通り紹介した上で重要な例を挙げる。 論理的にはDedekind整域の定義を読んだ後、 直ぐに次項のイデアル論的性質に進み、 最後にDedekind整域の特徴づけに戻ってくることで循環しないように書かれている。

Dedekind整域の定義

整域 $A$ がDedekind整域であるとは、$A$ の零でない任意のイデアル $I$ が有限個の素イデアル $P_1, P_2, \ldots, P_n$ の積として順番を除き一意的に書けることである。 本稿ではこの性質をDedekind性と呼ぶことにするが、これは一般的な呼称ではないことに留意されたい。

Dedekind整域の特徴づけ

冒頭で述べた通りDedekind整域はいろいろな観点から特徴づけることができる。 詳しい証明については次の項目以降で具体的に見ていくが、 見通しをよくするために先にまとめておこう。

整域 $A$ について次は同値である。

  • $A$ はDedekind整域である。
  • $A$ の零でない任意のイデアル $I$ は有限個の素イデアル $P_1, P_2, \ldots, P_n$ の積として書かれる。
  • $A$ の零でない任意の分数イデアル $I$ は可逆である。
  • $A$ の零でないイデアル $I$、$J$ について、$I\subset J$ が成り立つならば $I=JK$ なるイデアル $K$が存在する。
  • $A$ は遺伝環である。

Noether整域 $A$ について次は同値である。

この特徴づけよりDedekind整域はKrull次元という観点で見ると体の次に簡単なクラスに属することが分かる。 この意味での高次元化としてKrull整域があり、 実際、Krull整域 $A$ について次は同値である。

  • $A$ はDedekind整域である。
  • $A$ のKrull次元は1である。

Dedekind整域の重要な例

Dedekind整域の例としては、先ず次の例が典型的である。

例(Dedekind整域である例:単項イデアル整域)

$A$ を単項イデアル整域とするとき、$A$ はDedekind整域でもある。 特に有理整数環 $\mathbb{Z}$ はDedekind整域である。

証明 $A$ はNoether整域であることに注意すると、 Dedekind整域の特徴づけより整閉整域かつKrull次元が1以下であることを示せばよい。 先ず後者については、単項イデアル整域の議論より単項イデアル整域のKrull次元は1である。 次に前者については、単項イデアル整域は特に一意分解整域でもあり、整閉整域であることが分かる。 整閉整域であることについての詳細は、整閉整域もしくは一意分解整域を参照されたい。 $\mathbb{Z}$ が単項イデアル整域であることは、単項イデアル整域を参照されたい。 証明終

なお、イデアル論的性質の分数イデアルとイデアル類群に於いて、 異なる証明を与えている。 別証明の方は本稿で完結しているため、そちらも必要に応じて参照されたい。

例(Dedekind整域である例:代数体の整数環)

$K$ を代数体とし、$\mathcal{O}_K$ を $K$ の代数体とする。 このとき $\mathcal{O}_K$ はDedekind整域である。

証明 $\mathbb{Z}$ がDedekind整域であること、 $\mathbb{Z}$ の全商体が $\mathbb{Q}$ であること、 代数体 $K$ は $\mathbb{Q}$ の有限次拡大体であること、 $K$ の整数環は $K$ の中での $\mathbb{Z}$ の整閉包であることに留意すれば、 次に紹介する定理より直ちに従う。 特に整数環が $K$ の中での整閉包であるという事実は整数環または整環を参照されたい。 証明終

代数体の整数環がDedekind整域であることの証明からも分かるとおり、 次の主張は具体例を構成する上で大変重要である。

定理 $A$ および $B$ を整域とする。 $A$ の全商体を $K$ と、$B$ の全商体を $L$ とするとき、 $L$ は $K$ の有限次拡大体であり、 $B$ は $L$ の中での $A$ の正閉包であるとする。 このとき $A$ がDedekind整域であるならば $B$ もDedekind整域である。

証明 Krull-秋月の定理の直接の系である。 証明終

このような一般的な主張の証明は易しくはない。 一方で、$L$ が $K$ の有限次分離拡大であることまでを課すと次のように簡単な証明が知られている。 ここで $\mathbb{Q}$ 上の有限次拡大は全て分離的である(体 $\mathbb{Q}$ の標数が0であるから完全体である。)ことから、 先の代数体の整数環に関する例に限ればこの弱い主張からも証明ができることに留意されたい。 なお、次の定理の証明はJ. P. SerreのLocal Fieldsを参考にした。

定理 $A$ および $B$ を整域とする。 $A$ の全商体を $K$ と、$B$ の全商体を $L$ とするとき、 $L$ は $K$ の有限次分離拡大体であり、 $B$ は $L$ の中での $A$ の正閉包であるとする。 このとき $A$ がDedekind整域であるならば $B$ もDedekind整域である。

証明 $L$ が $K$ 上分離拡大であることに留意すると$B$ が有限生成 $A$-加群であることが従う。 この事実はトレースを参照されたい。 よって先ずNoether整閉整域であることが分かるため、 $B$ のKrull次元が1であることを示せばよい。 ここで整拡大の一般論より、 $B$ の素イデアル $P$,$Q$ について、$P \cap A=Q \cap A$ が成り立つならば $P=Q$ が成り立つので、 もし $B$ が非自明な長さ $2$ 以上の素イデアル鎖が取れるならば、 $A$ に制限することで $A$ も非自明な長さ $2$ 以上の素イデアル鎖が取れる。 この対偶を取ると $A$ のKrull次元が $1$ 以下であることから $B$ も斯かる性質を満たすことが分かる。 証明終

以上の議論により、単項イデアル整域から始めて次々Dedekind整域の例を構成することが出来るようになったが、 可換環論の視座に立つとこの逆の問題、即ち「任意のDedekind整域が単項イデアル整域に上述の操作を施すことで得られるか」という問は興味深い。 この問はZariskiとSamuelにより明示的に言及され、L. Clabornにより反例が構成された。 詳しくはClabornの例を参照されたい。

また、全商体の有限次拡大のみならず無限次拡大を許す場合、最早Dedekind整域が得られるとは限らないが、 この場合はPruefer整域というクラスになることが知られている。 これに関連してPruefer整域より強く「Bezout整域になるのはどのような条件を満たすときか」「Dedekind整域になるのはどのような条件を満たすときか」という問題も考えらる。 この辺りの十分条件に関する話題はPruefer整域に記述する予定である。

イデアル論的性質

本項ではDedekind整域の定義からイデアル論的な基本性質を示していく。

分数イデアルとDedekind整域のイデアル論的特徴づけ

$A$ を整域とし、$K$ を $A$ の全商体としよう。 $K$ の部分 $A$-加群 $I$ について、 $I$ が $A$ の分数イデアルであるとは $A$ のとある非零元 $a$ を掛けることで $aI \subset A$ が成立するようにできることをいう。 特に $A$ は $K$ の部分 $A$-加群であるから分数イデアルであり、 $A$ のイデアルは $A$ の部分 $A$-加群ということもでき、元より $A$ の部分集合であるのでこれも分数イデアルである。 この分数イデアルについて、証明はイデアル類群の項に譲るが次の顕著な性質が知られている。

事実(イデアル類群の演算)

$A$の分数イデアル全体を $J_A$ と書くとき、 $J_A$ の元 $I$、$J$ について、 $I \star J=\langle\{ ij\ \in K \mid i \in I かつ j \in J \}\rangle_A$ と置くとこの演算 $\star$ により $J_A$ は $A$ を単位元とする可換モノイドを為す。

$A$ の分数イデアル $I$ が可換モノイド $J_A$ に於ける可逆元であるとき、可逆であるという。 $I$ が可逆な分数イデアルであるとき、$I^{-1}=\{ k \in K \mid kI \subset A \}$ と置けば $I \star I^{-1}=R$が成立する。 $A$ がDedekind整域であることは、分数イデアルの可逆性の言葉を用いてに関して次のように特徴づけることができる。

命題(Dedekind整域のイデアル論的な特徴づけ)

$A$ を整域とするとき、次は同値である。

  • $A$ はDedekind整域である。
  • $A$ の零でない任意のイデアル $I$ は有限個の素イデアル $P_1, P_2, \ldots, P_n$ の積として書かれる。
  • $A$ の零でない任意の分数イデアル $I$ は可逆である。
  • $A$ の零でないイデアル $I$、$J$ について、$I\subset J$ が成り立つならば $I=JK$ なるイデアル $K$が存在する。

証明 先ず(3)と(4)との同値性を示す。 (3)ならば(4)について、 零でない分数イデアル $I$ を任意にとる。 分数イデアルの定義より $A$ の元 $a$ であって $Ia \subset A$ を成立させるものが取れる。 $Ia$ は $A$ のイデアルであるから仮定より $(Ia) \star J = A$ が成立するイデアル $J$ が取れる。 ここで $A = (Ia) \star J = (I \star \langle a \rangle_A) \star J = I \star (\langle a \rangle_A \star J)= I \star (aJ)$ が成立するので $I$ が可逆であることが分かった。 (4)ならば(3)について、$I\subset J$ が成り立つような零でないイデアル $I$、$J$ について考える。 このとき $J$ の可逆元 $J^{-1}$ が取れるので、 $I = A \star I = ( J \star J^{-1} ) \star I = J \star ( J^{-1} \star I )$ が成立する。 よって $K=J^{-1} \star I$ と置けばよい。

次に(1)、(2)、(3)の同値性を示す。 (1)ならば(2)は明白である。 (2)ならば(3)について、$I\subset J$ が成り立つような零でないイデアル $I$、$J$ について考える。 仮定より $I = P_1^{x_1} \cdots P_n^{x_n}$ および $J = P_1^{y_1} \cdots P_n^{y_n}$ と書くことができ、 $I \subset J$ より $y_n \leq x_n$ が成立する。 よって $K=P_1^{y_1-x_1} \cdots P_n^{y_n-x_n}$ と置けばこれは $I=J \star K$ が成立する $A$ のイデアルである。

(3)ならば(1)について、$A$ のイデアル $I$ を任意にとる。 先ず素イデアル分解の存在を示す。 $I$ を含む素イデアル $P_1$ を取るとき、もし $I=P_1$ が成立するなら示すことはないので $I$ よりも $P_1$ は真に大きいと仮定してよい。 このとき(3)より $I=P_1 \star I_1$ なるイデアル $I_1$ が取れる。 この操作を $I_j$ に対して適用することで再帰的に $I_j$ が素イデアルでなければ $I_j=P_{j+1} \star I_{j+1}$ なる素イデアル $P_{j+1}$ とイデアル $I_{j+1}$ とが取れる。 もしこの再帰的ステップが止まらなかったと仮定しよう。 このとき各 $j$ について $I_j=P_{j+1} \star I_{j+1}$ という関係式より $I_j \subset I_{j+1}$ が成立し、仮定よりこれは真の包含である。 よって $I \subset I_1 \subset I_2 \subset \cdots \subset I_n \subset \cdots$ という無限昇鎖の存在が分かり、 $A$ はNoetherではない。 任意の分数イデアルが可逆であるならばNoether整域であるということの対偶より、 とある分数イデアルが可逆でないこと、即ち(4)の否定が従うが、 既に示した通り(3)と(4)とは同値であったのでこれは矛盾である。 よって先の再帰は有限ステップで止まり、止まるステップ数を $N$ と置けば $I=P_1 \star P_2 \star \cdots \star P_N$ が得られる。 次に素イデアル分解の一意性を示す。 $I$ の二つの素イデアル分解 $I=P_1\cdots P_n=Q_1\cdots Q_m$ を任意にとる。 $P_1=Q_i$ なる素イデアル $Q_i$ が存在すること(☆)が示されれば、 順番を付け替えることで $P_1=Q_1$ としてよい。 イデアルは分数イデアルであるため(4)より $P_1$ が $J_A$ の可逆元であることが分かり、 $P_1^{-1}$ を左から掛けることで $P_2\cdots P_n=Q_2\cdots Q_m$ を得られ、 帰納的に順番を除いて一意であることが従う。 最後に(☆)を示す。 $P_1\supset Q_1\cdots Q_m$ が成立するので $P_1\supset Q_i$ なる $i$ が取れる。 このとき Krull次元が $1$ であることに留意すれば $Q_i$ は極大イデアルであり、 $P_1=Q_i$ が成立する。 以上より証明できた。 証明終

分数イデアルとイデアル類群

既に示したように整域 $A$ がDedekind整域であることは分数イデアルの可逆性で特徴づけられるから、 $A$ がDedekind整域の場合、またその時に限り $J_A$ は群を為す。 ここで $K$ の乗法群から $J_A$ への群準同型写像 $\varphi\colon K \rightarrow J_A$ を $\varphi(x)=\langle x \rangle_A$ と書く。 このとき $\varphi$ の核は $A$ の乗法群であり、余核は $J_A$ を単項分数イデアル全体 $P_A$ で割った剰余群となる。 この剰余群をイデアル類群といい、$\mathop{\mathsf{Cl}}(A)$ と書く。 これは代数的整数論に於いて重要な役割を果たす。

$G$を任意の可換群とするとき、$G\cong\mathop{\mathsf{Cl}}(A)$ が成り立つようなDedekind整域 $A$ の存在が知られている。 また定義からも分かる通り、単項イデアル整域 $A$ のイデアル類群 $\mathop{\mathsf{Cl}}(A)$ は一元集合であるから特に群を為しており、 よって単項イデアル整域ならばDedekind整域であることが分かる。 逆に、$A$ がDedekind整域であるとき、$A$ のイデアル類群が自明ならば単項イデアル整域であることも再び定義より分かる。

Noether性とその次元

先ず分数イデアルに関する次の事実を思い出そう。

命題(可逆な分数イデアルの有限生成性)

$A$ を整域とするとき、 $A$ の分数イデアルは可逆ならば有限生成である。

証明 $I$ を $A$ の可逆な分数イデアルとする。 このとき $I \star I^{-1}=A$ が成立するので $I$ の元と $I^{-1}$ の元の積の和として $A$ の任意の元が書かれ、特に $i_1k_1+\cdots+i_nk_n=1$ が成立するように $I$ の元 $i_j$ と $I^{-1}$ の元 $k_j$ とが取れる。 以下では $\langle i_1,\ldots,i_n \rangle_A = I$ が成立することを示す。 $I$ の元 $i$ を任意にとると、先に示した関係式より $i_1k_1i+\cdots+i_nk_ni=i$ が成立する。 $I^{-1}$ の定義より $k_ji\in A$ が成立するので、$i$ は $i_j$ 達の $A$ 線型和として書くことができた。 よって $i\in\langle i_1,\ldots,i_n \rangle_A$ が得られる。 証明終

この命題よりDedekind整域の任意のイデアルが有限生成であることが分かるため、 系としてDedekind整域のNoether性が分かることが重要である。

さて、Dedekind整域がNoetherであることが分かったので次はKrull次元を計算しよう。 そのために素イデアルについて調べていく。 Dedekind整域の素イデアルとして、整域であることからまず零イデアル $(0)$ が挙げられる。 $(0)$ 以外の素イデアルについては次の事実が成り立つ。

補題(Dedekind整域の素イデアル)

$A$ をDedekind整域とするとき、$A$ の零でない素イデアルは総て極大である。

証明 $A$ の零でない素イデアル $P$ を任意にとるとき、$A$ は単位的であるから $P$ を含む極大である $M$ が存在し、同様の理由から素イデアルである。 よって $A$ がDedekind整域であることに留意すると $P=QI$ なるイデアル $I$ が存在し、 $I$ も有限個の素イデアルの積に分解できる。 ここで素イデアル分解の一意性より$P=Q$ が従う。 証明終

補題の帰結として次が得られる:

定理(Dedekind整域の次元)

Dedekind整域のKrull次元は $1$ 以下である。

Noether整域に於けるDedekind整域

Noether整域に於いて、Dedekind整域は次のように特徴づけることができる。 この項以降は整閉整域に関する基本的な事柄を仮定する。

命題(体でないDedekind整域は1次元Noether整域である)

$A$ をNoether整域とするとき、次は同値である。

  • $A$ はDedekind整域である。
  • $A$ は整閉整域であり、Krull次元が $1$ 以下である。

証明 既にDedekind整域であるならばKrull次元が $1$ 以下であることを示しているので、 $1$ 次元Noether整域に対してDedekind整域であることと整閉整域であることとの同値性を示せばよい。 (準備中)

全く同じことであるが、Dedekind整域は1次元Noether整閉整域か体であるといえる。 ここまででNoether整域に於けるDedekind整域の立ち位置が分かったが、 Noether整域がDedekind整域か否かが局所的に判定可能であることも重要である。 ここからは離散付値整域に関する幾つかの性質を認める。

命題(Noether整域のDedekind性が局所的であること)

$A$ をNoether整域とするとき、次は同値である。

  • $A$ はDedekind整域である。
  • $P$ を $A$ の零でない任意の素イデアルとするとき、$A_P$は離散付値整域である。
  • $P$ を $A$ の零でない任意の素イデアルとするとき、$A_P$は単項イデアル整域である。

証明 (準備中)

ここで、$A$ のNoether性の仮定を外すとこの命題は成り立たないことに注意されたい。 即ち、Dedekind整域ではないが局所的には離散付値整域である例が知られている。 このようなクラスの可換環を概Dedekind整域といい、詳細の情報は概Dedekind整域を参照されたい。

Krull整域に於けるDedekind整域

Dedekind整域が1次元Noether整閉整域か体であることを既に見てきたが、 この1次元であるという性質は強いものである。 そこでこの条件を緩めた概念を考えるのは可換環論の立場で見れば自然であり、 程よい整域のクラスにKrull整域がある。 以下ではKrull整域に関する性質を認めた上で、 Dedekind整域がよいKrull整域として特徴づけられることを見る。

命題(Krull整域に於けるDedekind性)

$A$ をKrull整域とするとき、次は同値である。

  • $A$ はDedekind整域である。
  • $A$ のKrull次元は $1$ 以下である。

証明 (準備中)

加群の性質

Dedekind整域上の加群の構造は、単項イデアル整域の上の加群の構造論の一般化がある程度成り立つことが知られている。 (以下準備中)

まずは入射加群に関する顕著な性質から確かめる。 以下の証明は加群論的には大変見通しがよいが、本稿で取り扱っていないPruefer整域に関する事実を用いている。 このことを踏まえて構造定理の系として与えられることを最後に述べるので、これは一旦読み飛ばしても差し支えない。

命題(Dedekind整域における入射加群の特徴づけ)

$A$ をDedekind整域とし、$M$ を $A$ 加群とする。このとき、次は同値である。

  • $M$ は入射加群である。
  • $M$ は絶対純(absolutely pure)加群である。
  • $M$ は可除加群である。

証明 入射的ならば絶対純、および絶対純ならば可除は一般に成立するので、逆を考える。 いま $A$ は整域なので、$A$ のNoether性は「可除ならば絶対純」という性質で特徴づけられる。 また、$A$ が整域なので、$A$ がPruefer性は「絶対純ならば入射的」という性質で特徴づけられる。 よって $A$ が整域のとき、三つの性質が同値であることはNoetherかつPrueferであることにより特徴づけられるが、 これはDedekind整域であることに他ならない。


命題(Dedekind整域における有限生成加群の構造定理)

$A$ をDedekind整域とし、$M$ を有限生成 $A$-加群とする。 このときイデアルの昇鎖 $I_1 \subset I_2 \subset\cdots\subset I_n$ および自由 $A$-加群 $F$、可逆イデアル $I$ であって、 $M \cong R / I_1 \oplus R / I_2 \oplus\cdots\oplus R / I_n \oplus F \oplus I$ が成り立つものが存在する。

注意 $M$ は有限生成なので $F$ の階数は有限である。また、$I$ のみでなくイデアルの昇鎖も $M$ に対して一意的に定まるため、$F$ も一意的に決まることが分かる。 また次の概証は幾つかの補題を要するものであり、これは追って加筆する。

概証 $M$ を捻じれ部分 $\mathop{T}(M)$ とその剰余の直和に分解する。 $M / \mathop{T}(M)$ が射影加群であることが分かると自由加群と可逆イデアルとに直和分解できる。 捻じれ部分加群 $\mathop{T}(M)$ に対して条件を満たすようなイデアルの昇鎖を取ることができる。 以上より $M$ の構造が分かった。 証明終


関連項目