Coxeter系

提供: Mathpedia






Coxeter系は 代数群の表現や建物の理論において本質的な応用を持つ。対称群二面体群などの馴染み深い群はCoxeter系の構造を持っている。

Coxeter系の定義

定義 1 (長さ関数(length function)、Coxeter系(Coxeter system))
  • 群 $W$ と $W$ の位数 $2$ の元からなる生成系 $S$ の組 $(W,S)$ に対して、

$$ \ell =\ell_{S}\colon W\longrightarrow \mathbb{Z}_{\geq 0}; w\longmapsto {\rm min}\left\{h\geq 0\mathrel{\vert} w=s_{1}\cdots s_{h}, s_{1},\ldots,s_{h}\in S \right\} $$ のことを長さ関数(length function)と呼ぶ。

  • 上記の組 $(W,S)$ に対し、対称関数

$$ m\colon S\times S\longrightarrow \{1,2,\ldots, \infty\} $$ があって、$W$ の関係式が二項関係 $\{(st)^{m(s,t)}\mathrel{\vert} s,t\in S\}$ で生成されているとき、すなわち $W=\langle s\in S\mathrel{\vert} (st)^{m(s,t)}=1 \rangle$ となっているとき $(W,S)$ のことをCoxeter系(Coxeter system)と呼ぶ。

  • Coxeter系 $(W,S)$ に対して、$S$ が空でない二つの部分集合の無縁和 $S=S_{1}\coprod S_{2}$ で書けて、任意の $s_{1}\in S_{1},s_{2}\in S_{2}$ に対して、$m(s_{1},s_{2})=2$ が成り立つとき、$(W,S)$ は可約(reducible)であるといい、そうでないとき、既約(irreducible)であるという。


-コメント: $m(s_{1},s_{2})=2$ であるとき、$s_{1}s_{2}s_{1}s_{2}=1$ で、$s_{1},s_{2}$ の位数が $2$ であるので、$s_{1}s_{2}=s_{2}s_{1}$ である。よって $m(s_{1},s_{2})=2$ は $s_{1}$ と $s_{2}$ が可換であることを意味する。

例 1
  • ルート系の中で、有限次元実ベクトル空間 $V$ におけるルート系 $R$ と基 $\Delta$ に対して、$S=\{s_{\alpha}\mathrel{\vert} \alpha\in \Delta\}$ を単純鏡映の集合とすると、$(W(R),S)$ はCoxeter系である。Coxeter系はこの意味で、Weyl群の一般化であると言える。
  • 正 $2n$ 角形の二面体群 $D_{2n}$ に対し、$s$ を $\frac{\pi}{n}$ 回転、$r$ を対角線での反転とする。このとき、$D_{2n}=\langle s,r \mathrel{\vert} s^{n}=r^{2}=1, rsr=s^{-1}\rangle$ であり、$S=\{rs,r\}$ とすると、$(D_{2n},S)$ はCoxeter系になる。
  • $W=S_{n+1}$ を $n+1$ 次対称群とし、$S=\{(i ~ i+1)\}_{i=1,\ldots,n}$ とすると、$(W,S)$ はCoxeter系である。


-コメント: 上記の例で $D_{12}$ を考えると、位数 $2$ の元からなる生成系 $S_{1},S_{2}$ を $S_{1}=\{rs,r\}, S_{2}=\{(sr)^{3},r,r(sr)^{2}\}$ とすれば、$(D_{12},S_{1}), (D_{12},S_{2})$ は共にCoxeter系であるが、$(D_{12},S_{1})$ は既約で、$(D_{12},S_{2})$ は可約である。一般にCoxeter系 $(W,S)$ の既約性は、生成系 $S$ に依存する。

幾何学的表現とルート

集合 $S$ に対して、$S$ で添え字付けられたベクトルの集合 $\{e_{s}\}_{s\in S}$ が生成するベクトル空間を $V_{S}$ と書く。Coxeter系 $(W,S)$ に対して内積 $B\colon V_{S}\times V_{S}\longrightarrow \mathbb{R}$ を $$ B(e_{s},e_{t}) =-\cos\dfrac{\pi}{m(s,t)} $$ を線形に拡張することで定める。ただし、$m(s,t)=\infty$ のときは $B(e_{s},e_{t})=-1$ とする。任意の $s\in S, v\in V_{S}$ に対して $$ \sigma_{s}(v)=v-2B(v,e_{s}) e_{s} $$ とする。

補題 1

異なる $s,t\in S$ に対して、$(\sigma_{s}\sigma_{t})^{m(s,t)}=1$ が成り立つ。特に、$\sigma\colon W\longrightarrow \mathrm{Aut}(V_{S})$ は $W$ の表現である。

Proof.

$m=m(s,t)$ と置く。$V_{s,t}=\mathbb{R}e_{s}\oplus \mathbb{R}e_{t}$ 上に $B$ を制限すると、これは半正定値であり、さらに $m$ が有限なら非退化になっていることを示そう。実際、簡単な計算により任意の $y=ae_{s}+be_{t}$ に対して、 $$ B(y,y)=\left(a-b\cos \frac{\pi}{m} \right)^{2} +b^{2}\sin^{2}\frac{\pi}{m} \geq 0 $$ なので、半正定値であり、$m<\infty$ のとき、$\sin^{2}\frac{\pi}{m}\neq 0$ なので $B$ は正定値内積(特に非退化)である。$m$ が有限のとき、$\theta=\pi-\frac{\pi}{m}$ と置くと、これは $V_{s,t}$ 上の内積 $B$ のもとで $e_{s}$ と $e_{t}$ の間の角度を表している。簡単な計算により \begin{align} B(e_{s},e_{t})&=\cos \theta, \\ B(\sigma_{s}\sigma_{t}(e_{s}),e_{t})&=B(\sigma_{t}(e_{s}),\sigma_{s}(e_{t}))=\cos 3\theta, \\ B((\sigma_{s}\sigma_{t})^{2}(e_{s}),e_{t})&= \cos 5\theta, \\ \vdots \\ B((\sigma_{s}\sigma_{t})^{k}(e_{s}),e_{t})&= \cos (2k+1)\theta \end{align} となっていることが確かめられるので、 $$ B(e_{s}-(\sigma_{s}\sigma_{t})^{m}(e_{s}),e_{t})=2\sin (m+1)\theta \sin m\theta $$ である。$\theta=\pi-\frac{\pi}{m}$ だったことを思い出せば、この値は恒等的に $0$ と等しいことが分かる。また、 \begin{align} B(e_{s},e_{s})&=1, \\ B((\sigma_{s}\sigma_{t})^{k+1}(e_{s}),e_{s})&=-B((\sigma_{s}\sigma_{t})^{k}e_{s},\sigma_{t}(e_{s})) \\ &=-B((\sigma_{s}\sigma_{t})^{k}(e_{s}),e_{s})+2\cos \theta B((\sigma_{s}\sigma_{t})^{k}e_{s},e_{t}) \\ \end{align} である。$a_{k}=B((\sigma_{s}\sigma_{t})^{k}e_{s},e_{s})$ と置くと、 $$ a_{k+1}=-a_{k} +2\cos (2k+1)\theta\cos \theta $$ である。よって $a_{k+1}-\cos 2(k+1)\theta=-(a_{k}-\cos 2k\theta)=\cdots =(-1)^{k+1}(a_{o}-\cos 0)=0$ であり、一般項は $$ a_{k}=\cos 2k\theta $$ という形をしていることが分かる。$k=m$ を代入し、$B(e_{s}-(\sigma_{s}\sigma_{t})^{m}e_{s},e_{s})=0$ を得る。$e_{s},e_{t}$ は $V_{s,t}$ の基底なので $(\sigma_{s}\sigma_{t})^{m}=1$ を得る。$m=\infty$ の場合には、簡単な計算により、$(\sigma_{s}\sigma_{t})^{n}(e_{s})-e_{s}=2ne_{s}+2ne_{t}$ を得る。よって、$(\sigma_{s}\sigma_{t})$ という作用は何乗しても $1$ ではない。

$\sigma\colon W\longrightarrow \mathrm{Aut}(V_{S})$ のことを $W$ の幾何学的表現(geometric representation)と呼ぶ。$w\in W$ と $v\in V_{S}$ に対して、$\sigma_{w}(v)$ のことをしばしば $w(v)$ と書く。

定義 2

集合 $R=\{w(e_{s})\in V_{S}\mathrel{\vert} w\in W,s\in S\}$ のことをCoxeter系 $(W,S)$ のルート系(root system)と呼ぶ。

- コメント: 記事ルート系において、ルート系 $R$ は基 $\Delta$ をWeyl群 $W(R)$ で写した全体 $W(R)\Delta$ と等しかった。上の定義は、この性質をCoxeter系に援用したものである。


$V_{S}$ の元は基底 $(e_{s})_{s\in S}$ の線形結合として一意的に書くことができる。もしもベクトル $\beta=\sum a_{s} e_{s}\in V_{S}$ の $0$ でない係数 $a_{s}$ がすべて正であれば、$\beta>0$ と書くことにする。同様に、$-\beta>0$ であることを $\beta<0$ と書くことにする。

簡約表示と長さ関数

Coxeter群のうち、最も簡単なものは、一元集合 $\{-1\}$ で生成される群 $\{\pm 1\}$ である。任意のCoxeter系 $(W,S)$ に対し、準同型 $$ \varepsilon\colon W\longrightarrow \{\pm 1\} $$ を $\varepsilon (S)=-1$ によって定めると、$\varepsilon (w)=(-1)^{\ell(w)}$ である。特に、任意の $w\in W$ と $s\in S$ に対して、$\ell(ws)=\ell(w)\pm 1$ である。$\ell(w)=h$ のとき、$s_{1},\ldots,s_{h}\in S$ があり $w=s_{1}\cdots s_{h} $ となる。この表示のことを $w$ の $S$ の元からなる簡約表示あるいは最短表示と呼ぶ。

定理 1

任意の $w\in W$ と $s\in S$ に対して、 $$ \ell(ws)=\ell(w)+1 \iff w(e_{s}) >0, \\ \ell(ws)=\ell(w)-1 \iff w(e_{s})<0 $$ が成り立つ。

Proof.

$w$ を $ws$ で置き換えれば、二番目の主張は最初の主張の言い換えであることがわかる。よって $\ell(ws)=\ell(w)+1$ ならば $w(e_{s}) >0$ であることを示せばよい。これは $\ell(w)$ についての帰納法で示そう。$\ell(w)=0$ のとき、$w=1$ であり、$w(e_{s})=e_{s}>0$ である。$\ell(w)\geq 1$ ならば $\ell(wt)=\ell(w)-1$ となるような元 $t\in S$ がある。$S^{'}=\{s,t\}$ と置いて、$S^{'}$ が生成する $W$ の部分群を $W^{'}$ と書けば、$(W^{'},S^{'})$ はCoxeter系になる。$W^{'}$ の長さ関数を $\ell^{'}$ としよう。このとき集合 $$ X=\{x\in W\mathrel{\vert} x^{-1}w\in W^{'}, \ell(w)=\ell(x)+\ell^{'}(x^{-1}w)\} $$ は $w\in X$ なので空でなく、長さ最小の元 $x\in X$ を取ることができる。さらにこの $x$ に対して $y=x^{-1}w\in W^{'}$ と置く。 長さ関数の定義から $\ell(y)\leq \ell^{'}(y)$ であり、一方で $\ell^{'}(y)=\ell(w)-\ell(x)\leq \ell(x^{-1}w)=\ell(y)$ なので、$\ell(y)=\ell^{'}(y)$ である。示したいことは $w(e_{s})=xy(e_{s})>0$ である。そのためには、次の二つのことを示せばよい。

  • (1) $y(e_{s})\in V_{S^{'}}=\mathbb{R}e_{s}\oplus \mathbb{R}e_{t}$ は $y(e_{s})>0$ である。
  • (2) $x(e_{s}),x(e_{t})>0$ である。

まず $\ell^{'}(ys)>\ell(y)$ である。もしそうでないなら、 $$ \ell(ws)=\ell(xx^{-1}ws)\leq \ell(x)+\ell(ys)\leq \ell(x)+\ell^{'}(ys)\leq \ell(x)+\ell(y)=\ell(w)<\ell(ws) $$ となり矛盾が生じる。特に $y\in W^{'}$ の簡約表示の最後の項は $t$ である。

  • (a) $m(s,t)=\infty$ のとき $y=(st)^{n}$ か $y=t(st)^{n}$ のどちらかの形をしている。

$$ (st)^{n}(e_{s})=(1+2n)e_{s}+2ne_{t}, t(st)^{n}(e_{s})=(1+2n)e_{s}+2(n+1)e_{t} $$ なので、どちらにせよ (1) が成り立つ。

  • (b) $m(s,t)=m<\infty$ のとき、$m$ が偶数のとき $(st)^{\frac{m}{2}}=(ts)^{\frac{m}{2}}$ であり $m$ が奇数のとき $(ts)^{\frac{m-1}{2}}t=(st)^{\frac{m-1}{2}}s$ なので

$$ y=\left\{ \begin{array}{ll} (st)^{k} & (m \text{が偶数で} k<\frac{m}{2})\\ t(st)^{k} & (m \text{が奇数で} k<\frac{m-1}{2}) \end{array} \right. $$ の場合に考えれば十分である。$(st)^{m}=1$ なので $st$ の固有値は $\zeta^{\pm 1} (\zeta=\exp(\frac{2\pi i}{m}))$ であり、対応する固有ベクトルは $\zeta^{\pm 1}e_{s}+e_{t}$ である。したがって、計算により $$ y(e_{s})=\left\{ \begin{array}{ll} \dfrac{\sin \frac{(2k+1)\pi}{m}}{\sin \frac{\pi}{m}} e_{s} +\dfrac{\sin \frac{2k\pi}{m}}{\sin \frac{\pi}{m}} e_{t} & (m \text{が偶数}) \\ \dfrac{\sin \frac{(2k+1)\pi}{m}}{\sin \frac{\pi}{m}} e_{s} +\dfrac{\sin \frac{(2k+1)\pi}{m}}{\sin \frac{\pi}{m}} e_{t} & (m \text{が奇数}) \end{array} \right. $$ となり、どちらの場合でも $y(e_{s})>0$ である。次に $x(e_{s}),x(e_{t})>0$ を示そう。定義より $wt\in X$ なので $\ell(x)<\ell(w)$ なので、帰納法より $\ell(xs)>\ell(x),\ell(xt)>\ell(x)$ を示せばよい。$x$ の定義より、$xs,xt\in X$ を示せばよい。これは定義から従う。

系 1

幾何学的表現 $\sigma\colon W\longrightarrow \mathrm{Aut}(V_{S})$ は忠実である。

Proof.

$\sigma_{w}=1$ とする。$w\neq 1$ と仮定する。$\ell(w)>1$ であり $w$ の簡約表示の最後の項を $s\in S$ とすると $\ell(ws)<\ell(w)$ なので、$w(e_{s})<0$ である。一方で $\sigma_{w}=1$ なので $w(e_{s})=e_{s}>0$ である。よって背理法により $w=1$ であり、$\sigma\colon W\longrightarrow \mathrm{Aut}(V_{S})$ は単射である。

系 2

$R^{+}=\{v\in R\mathrel{\vert} v>0 \}, R^{-}=\{v\in R\mathrel{\vert} v<0\}$ と置くと $R=R^{+}\coprod R^{-}$ である。

Proof.

$R$ の元は $w(e_{s})$ という形をしている。$\ell(ws)=\ell(w)\pm 1$ であったので、複号同順で $w(e_{s})\in R^{\pm}$ である。

補題 2

任意の $s\in S$ に対して $s(R^{+}\backslash \{e_{s}\})=R^{+}\backslash \{e_{s}\}$ である。

Proof.

$\beta=\sum_{s\in S} c_{s}e_{s}\in R^{+}$ とする。$\beta$ が $e_{s}$ と異なるなら、$s$ ではない $t\in S$ があり、$c_{t}>0$ となるものがある。$s(\beta)$ における $e_{t}$ の係数も正である。$R$ の元を $\{e_{s}\}$ たちの線形結合で書いたとき、系 2より、その係数たちの符号はすべての等しい。よって、$s(\beta)$ に現れる $\{e_{s}\}$ たちの係数はすべて $0$ 以上であり、$s(\beta)\in R^{+}$ である。$s(\beta)\neq e_{s}$ であることは、$s(e_{s})=-e_{s}$ から分かる。よって、$s(R^{+}\backslash \{e_{s}\})=R^{+}\backslash \{e_{s}\}$ が成り立つ。

命題 1

$w\in W$ に対して $R(w)=R^{+}\cap w^{-1}(R^{-})$ とすると $\ell(w)=\mathrm{Card}(R(w))$ が成り立つ。

Proof.

$\ell(w)=1$ のとき $w\in S$ であり、この場合は 補題 2 で見た通りである。$\nu(w)=\mathrm{Card}(R(w))$ と置く。このとき、各 $w\in W$ と $s\in S$ に対して $$ \nu(ws)=\nu(w)+1 \iff w(e_{s}) >0, \\ \nu(ws)=\nu(w)-1 \iff w(e_{s})<0 $$ が成り立つことを示せばよい。もし $w(e_{s})$ ならば $R^{+}\cap (ws)^{-1}R^{-}$ の濃度は $s(R^{+})\cap w^{-1}R^{-}$ の濃度と等しい。$s(R^{+})=(R^{+}\backslash \{e_{s}\})\coprod \{-e_{s}\}$ である。$w(e_{s})>0$ なので $-e_{s}\in w^{-1}R^{-}$ であり、$s(R^{+})\cap w^{-1}R^{-}=(R^{+}\cap w^{-1}R^{-})\coprod \{-e_{s}\}$ である。よって $\nu(ws)=\nu(w)+1$ である。$w(e_{s})<0$ ならば $-e_{s}\notin w^{-1}R^{-}$ より $\nu(ws)=\nu(w)-1$ である。以上のことから、$\ell$ と $\nu$ は $W$ 全体で一致し、任意の $w\in W$ に対して $\ell(w)=\mathrm{Card}(R(w))$ であることが確かめられた。

交換条件、消去条件

ここでは、群 $W$ とその位数 $2$ の元からなる生成系 $S$ の組 $(W,S)$ がCoxeter系になるための必要十分条件を与える。

条件 1 (交換条件)

群 $W$ と $W$ の位数 $2$ の元からなる生成系 $S$ の組 $(W,S)$ に対して、次の条件を交換条件と呼ぶ。

  • 任意の $w\in W$ に対して $w=s_{1}\cdots s_{h}$ を $S$ の元からなる積表示としたとき、もし $s\in S$ が $\ell_{S}(ws)<\ell(w)$ を満たすならば $ws=s_{1}\cdots \hat{s_{i}}\cdots s_{h}$ となるような $i$ がある。
条件 2 (消去条件)

群 $W$ と $W$ の位数 $2$ の元からなる生成系 $S$ の組 $(W,S)$ に対して、次の条件を交換条件と呼ぶ。

  • 任意の $w\in W$ に対して $w=s_{1}\cdots s_{h}$ が簡約表示でなければ、$w=s_{1}\cdots \hat{s_{i}}\cdots \hat{s_{j}}\cdots s_{h}$ を満たすような二つの添え字 $1\leq i<j\leq h$ が取れる。

これらの条件と $(W,S)$ がCoxeter系であることが実は同値な条件であることを以下に示す。

定義 3

$\beta=w(e_{s})\in R$ に付随する鏡映(reflection)を $$ s_{\beta}\colon V_{S}\longrightarrow V_{S};v-2B(v,\beta)\beta=v-2B(w^{-1}v,e_{s})we_{s} $$ と定義する。

補題 3

任意の $\alpha\in R$ と $w\in W$ に対して $\beta=w(\alpha)\in R$ と置く。このとき $ws_{\alpha}w^{-1}=s_{\beta}$ となる。

Proof.

$\lambda\in V_{S}$ を任意に取ると、 \begin{align} ws_{\alpha}w^{-1}(\lambda)&= w(w^{-1}(\lambda)-2B(w^{-1}(\lambda),\alpha)\alpha) \\ &=\lambda-2B(w^{-1}(\lambda),\alpha)w(\alpha) \\ &=\lambda-2B(\lambda,w(\alpha))w(\alpha) \\ &=\lambda-2B(\lambda,\beta)\beta \\ &=s_{\beta}(\lambda) \end{align} という等式があるので、$ws_{\alpha}w^{-1}=s_{\beta}$ が成り立つ。

特に $\alpha=e_{s}$ ならば $\beta=w(e_{s})$ に対して $s_{\beta}=wsw^{-1}$ である。$T=\bigcup_{w\in W} wSw^{-1}$ と置くと、$T$ は $R$ の元の鏡映全体のなす集合と等しい。

補題 4

任意の $w\in W$ と $\alpha\in R^{+}$ に対し $\ell(ws_{\alpha})>\ell(w)$ となるのは $w(\alpha)\in R^{+}$ となるとき、またそのときに限る。

Proof.

$\ell(ws_{\alpha})>\ell(w)$ を仮定する。$w(\alpha)>0$ を示そう。$w=1$ なら自明である。$\ell(w)>1$ とすると $\ell(sw)<\ell(w)$ となる $s\in S$ がある。このとき $\ell(sws_{\alpha})\geq \ell(ws_{\alpha})-1>\ell(w)-1=\ell(sw)$ なので帰納法により $sw(\alpha)>0$ である。もし $w(\alpha)<0$ なら 補題 2より $w(\alpha)=-e_{s}$ なので、特に $sw(\alpha)=e_{s}$ かつ $$ (sw)s_{\alpha}(sw)^{-1}=s $$ である(補題 3)。よって $ws_{\alpha}=sw$ であり、これは $\ell(w)>\ell(sw)$ に矛盾する。したがって $w(\alpha)>0$ となる。逆向きの主張は $w$ を $ws_{\alpha}$ に置き換えればよい。


定理 2 (強交換条件)

$(W,S)$ をCoxeter系とし、$w\in W$ とする。$w=s_{1}\cdots s_{h}$ を $S$ の元からなる $w$ の積表示とする。任意の $t\in T$ に対し、$\ell(wt)<\ell(w)$ を満たすならば $$ wt=s_{1}\cdots \hat{s_{i}} \cdots s_{h} $$ となる $1\leq i \leq h$ が存在する。さらに $w=s_{1}\cdots s_{h}$ が簡約表示ならば、上記の $i$ は一意的である。

Proof.

$\alpha\in R^{+}$ を $t=s_{\alpha}$ となる元とすると、補題 4より $w(\alpha)<0$ である。したがって $$ s_{i+1}\cdots s_{h}(\alpha)>0, s_{i}s_{i+1}\cdots s_{h}(\alpha)<0 $$ となるような $i$ が存在する。補題 2より $s_{i+1}\cdots s_{h}(\alpha)=e_{s_{i}}$ なので補題 3から $$ (s_{i+1}\cdots s_{h})^{-1}t(s_{i+1}\cdots s_{h})=s_{i} $$ である。この式を使って $wt=s_{1}\cdots \hat{s_{i}} \cdots s_{h}$ を得る。さらに $\ell(w)=h$ とする。$i<j$ を条件を満たすような二つの添え字としたとき、 $$ wt=s_{1}\cdots \hat{s_{i}} \cdots s_{h}=s_{1}\cdots \hat{s_{j}} \cdots s_{h} $$ となるので、この式を計算すると $w=s_{1}\cdots \hat{s_{i}}\cdots \hat{s_{j}} \cdots s_{h}$ となってしまい、$\ell(w)=h$ に矛盾することになる。

特に $(W,S)$ がCoxeter系ならば交換条件を満たす。

補題 5

$(W,S)$ が交換条件を満たすならば、消去条件を満たす。

Proof.

$w\in W$ に対して $w=s_{1}\cdots s_{h}$ が簡約表示でないとすると $$ \ell(s_{1}\cdots s_{j})<\ell(s_{1}\cdots s_{j-1}) $$ となるような $j$ がある。交換条件より、 $$ s_{1}\cdots s_{j}=s_{1}\cdots \hat{s_{i}}\cdots s_{j-1} $$ となるような $i$ を見つけることができるので、$w=s_{1}\cdots \hat{s_{i}}\cdots \hat{s_{j}}\cdots s_{h}$ である。

定理 3

群 $W$ と $W$ の位数 $2$ の元からなる生成系 $S$ との組 $(W,S)$ が消去条件を満たすとき $(W,S)$ はCoxeter系である。

Proof.

$W$ の関係式が必ず $(st)^{m(s,t)}=1, (s,t\in S)$ という形の関係式から生成されていることを示せばよい。関係式 $$ s_{1}\cdots s_{h}=1 $$ があるとする。これが $\{(st)^{m(s,t)}=1\mathrel{\vert} s,t\in S\}$ から生成された関係式であることを示せばよい。消去により、 $$ \varepsilon\colon W\longrightarrow \{\pm 1\};w\longmapsto (-1)^{\ell(w)} $$ はwell-definedである。よって $h$ は偶数でないといけない。$h=2k$ とし、$k$ に関する帰納法で証明しよう。$k=1$ のとき $h=2$ であり、$s_{1}=s_{2}$ である。$h=2k-2$ までの長さの関係式がすべて $\{(st)^{m(s,t)}=1\mathrel{\vert} s,t\in S\}$ によって生成されていると仮定しよう。このとき、 $$ s_{1}\cdots s_{h}=1 $$ より、 $$ s_{1}\cdots s_{k+1}=s_{2k}\cdots s_{k+2} $$ という等式を得る。この式の左辺は長さ $k+1$ であり右辺は $k-1$ なので左辺は簡約表示では有り得ないことが分かる。消去条件により $s_{i+1}\cdots s_{j}=s_{i}\cdots s_{j-1}$ となる $1\leq i<j\leq k+1$ が取れる。よって長さ $2(j-i)$ の関係式 $$ s_{i}\cdots s_{j-1}s_{j}\cdots s_{i+1}=1 $$ を得る。この長さが $2k$ 未満であれば、それは $\{(st)^{m(s,t)}=1\mathrel{\vert} s,t\in S\}$ から生成された関係式であって $$ s_{1}\cdots s_{h}=s_{1}\cdots \hat{s_{i}}\cdots \hat{s_{j}}\cdots s_{h}=1 $$ もそうである。なので、$j-i=k$ の場合のみ考えればよい。これが可能になるのは、$i=1,j=k+1$ の場合のみである。$s_{i+1}\cdots s_{j}=s_{i}\cdots s_{j-1}$ に $i=1,j=k+1$ を代入して $$ s_{2}\cdots s_{k+1}=s_{1}\cdots s_{k} $$ を得る。今、最初に仮定した関係式 $s_{1}\cdots s_{2k}=1$ に代入すると長さ $2k-2$ の関係式 $$ s_{2}\cdots s_{k+1}s_{k+1}\cdots s_{2k}=s_{2}\cdots s_{k}s_{k+2}\cdots s_{2k}=1 $$ を得るので、帰納法より、これは $\{(st)^{m(s,t)}=1\mathrel{\vert} s,t\in S\}$ から生成された関係式である。


系 3

群 $W$ と $W$ の位数 $2$ の元からなる生成系 $S$ の組 $(W,S)$ に対して、以下の条件はすべて同値である。

  • $(W,S)$ はCoxeter系である。
  • $(W,S)$ は交換条件を満たす。
  • $(W,S)$ は消去条件を満たす。

放物型部分群

定義 4

Coxeter系 $(W,S)$ に対し、$S$ の部分集合 $I$ で生成された $W$ の部分群を $W_{I}$ とすると $(W_{I},I)$ はCoxeter系になる。このように $S$ の部分集合で生成された $W$ の部分群のことを放物型部分群(parabolic subgroup)と呼ぶ。

命題 2

$w\in W_{I}$ に対して、$w=s_{1}\cdots s_{h} (s_{i}\in S)$ が簡約表示なら、すべての $s_{i}$ は $I$ の元である。特に、$W_{I}\cap S=I$ であり、$\ell_{I}=\ell\vert_{W_{I}}$ である。

Proof.

$W_{I}\cap S=I$ なので $I\longmapsto W_{I}$ は $S$ の部分集合と $W$ の放物型部分群とは一対一に対応している。

系 4

$I,J,K$ を $S$ の部分集合とする。このとき

  • (1) $W_{I}\cap (W_{J}\cdot W_{K})=(W_{I}\cap W_{J})\cdot (W_{I}\cap W_{K}),$
  • (2) $W_{I}\cdot (W_{J}\cap W_{K})=(W_{I}\cdot W_{J})\cap (W_{I}\cdot W_{K}).$
命題 3

$I,J$ を $S$ の部分集合とする。$W_{I}\backslash W/W_{J}$ の各両側剰余類 $W_{I}wW_{J}$ の中で、以下の条件を満たすような $w\in W_{I}wW_{J}$ が唯一つ存在する。

  • $W_{I}wW_{J}$ の任意の元は $\ell(xwy)=\ell(x)+\ell(w)+\ell(y)$ を満たすような適切な $x\in W_{I}$ と $y\in W_{J}$ を用いて $xwy$ と書ける。
Proof.

長さ関数は下に有界なので、$W_{I}wW_{J}$ の中で長さ最小な元 $w$ が存在する。これが上の条件を満たすことを示そう。まず $xwy\in W_{I}wW_{J}$ を与えるような $x\in W_{I},y\in W_{J}$ を任意に取る。もし $$ \ell(xwy)<\ell(x)+\ell(w)+\ell(y) $$ ならば、簡約表示 $x=u_{1}\cdots u_{\ell},w=s_{1}\cdots s_{h},y=t_{1}\cdots t_{k}$ に対して、 $$ xwy=u_{1}\cdots u_{\ell}s_{1}\cdots s_{h}t_{1}\cdots t_{k} $$ は簡約表示ではないので、消去条件により、適当な二つの元を省くことができる。$s_{1},\ldots,s_{h}$ のどれかが省ける場合には、$w$ が $W_{I}wW_{J}$ の中で長さ最小であることに矛盾する。よって、省けるのは $u_{1},\ldots,u_{\ell},t_{1},\ldots,t_{k}$ のうちの二つである。さらに省ける元が二つとも $u_{i}$ のどれかの場合には、$x=u_{1}\cdots u_{\ell}$ の簡約性に矛盾する。$y=t_{1}\cdots t_{k}$ についても同様。結局、 $$ xwy=u_{1}\cdots \hat{u_{i}}\cdots u_{\ell}s_{1}\cdots s_{h}t_{1}\cdots \hat{t_{j}}\cdots t_{k} $$ この操作を繰り返すことで、部分列 $(i_{1},\ldots,i_{m})\leq (1,\ldots,\ell)$ と $(j_{1},\ldots,j_{m})\leq (1,\ldots,k)$ を $x^{'}=u_{i_{1}}\cdots u_{i_{m}}, y^{'}=t_{j_{1}}\cdots t_{j_{m}}$ と $u_{i_{1}}\cdots u_{i_{m}}s_{1}\cdots s_{h}t_{j_{1}}\cdots t_{j_{m}}$ が簡約かつ $xwy=x^{'}wy^{'}$ となるようにできる。この $x^{'},y^{'}$ が条件を満たす。最短元 $w$ の一意性は簡単に確かめられる。

命題 4

$S$ の部分集合 $J$ と各右剰余類、$wW_{J}\in W/W_{J}$ の代表元 $w\in wW_{J}$ が存在して、任意の $w_{J}\in W_{J}$ に対して、$\ell(ww_{J})=\ell(w)+\ell(w_{J})$ を満たす。

Proof.

Bruhat順序

$T=\bigcup_{w\in W} wSw^{-1}$ はルート系 $R$ の鏡映全体の集合だった。

定義 5 (Bruhat順序)

任意の $w_{1},w_{2}\in W$ に対して、$w_{1}\rightarrow w_{2}$ と書けば $\ell(w_{1})<\ell(w_{2})$ かつ $w_{1}t=w_{2}$ となる $t\in T$ が取れることを意味する。二つの元 $v,w\in W$ に対して、列 $v=w_{0}\rightarrow w_{1}\rightarrow \ldots \rightarrow w_{n}=w$ が存在するとき $v<w$ と書く。これは $W$ に順序関係を定義する。この順序のことを $(W,S)$ のBruhat順序(Bruhat ordering)という。

定理 4

任意の $w_{1},w_{2}\in W$ に対して $w_{1}\leq w_{2}$ であるのは、$w_{2}$ の簡約表示 $w_{2}=s_{1}\cdots s_{h}$ と部分列 $1\leq i_{1}\leq \ldots i_{m}\leq h$ があって $w_{1}=s_{i_{1}}\cdots s_{i_{m}}$ となる。

Proof.

例 2

Tits錐

有限Coxeter系

分類

参考文献

  • H.S.M.Coxeter, The complete enumeration of finite groups of the form $R_{i}^{2}=(R_{i}R_{j})^{k_{ij}}=1$, J. Lpndon Math. Soc. 10(1935), 21-25.
  • James E. Humphreys, Reflection Groups and Coxeter Groups, Cambridge studies in advanced mathematics 29.