有理関数体
$\newcommand{\N}{\mathbb{N}}$ $\newcommand{\Z}{\mathbb{Z}}$ $\newcommand{\Q}{\mathbb{Q}}$ $\newcommand{\R}{\mathbb{R}}$ $\newcommand{\C}{\mathbb{C}}$ $\newcommand{\K}{\mathbb{K}}$ $\newcommand{\L}{\mathbb{L}}$ $\newcommand{\F}{\mathbb{F}}$ $\newcommand{\Ker}{\mathrm{Ker}}$ $\newcommand{\abs}[1]{\left\lvert#1\right\rvert}$ $\newcommand{\wenvert}[1]{\left\lvert\left\lvert#1\right\rvert\right\rvert}$ $\newcommand{\floor}[1]{\left\lfloor#1\right\rfloor}$ $\newcommand{\mathmod}[1]{\ \left(\mathrm{mod}\ #1\right)}$ $\newcommand{\relmid}[1]{\mathrel{}\middle|\mathrel{}}$
$T$ を体 $\K$ 上の不定元とするとき、$\K$ 係数の $T$ の有理式の全体 $$\K(T)=\left\{ \dfrac{f(T)}{g(T)}~\middle|~f(T), g(T) \in\K[T],~g(T) \neq 0 \right\}$$ は体をなす。この体を $\K$ 上の有理関数体 (The field of rational functions) と呼ぶ。
一般に、$n$ 変数の有理関数体を次のように定める。体 $\K$ 上の代数独立な要素 $T_1, \ldots, T_n$ について、 $$\K(T_1, \ldots, T_n)=\left\{ \dfrac{f(T_1, \ldots, T_n)}{g(T_1, \ldots, T_n)}~\middle|~f, g\in\K[T_1, \ldots, T_n],~g(T_1, \ldots, T_n) \neq 0 \right\}$$ は体をなす。この体を $\K$ 上の$n$変数有理関数体と呼ぶ。
それで、$\K(T_1, \ldots, T_n)$ は、多項式環 $\K[T_1, \ldots, T_n]$ の局所化として実現される。
基本的事実
まず、体上有限生成環の記事にもあるように、有理関数体は、環としては有限生成でない。
定理 1
関数体 $\K(t_1, \ldots, t_n)$ は体としては$\K$ 上有限生成だが、$\K$ 上の環としては有限生成ではない。
Proof.
$\K(t_1, \ldots, t_n)$ が $\K$ 上の環として有限生成とすると、 $$\K(t_1, \ldots, t_n)=\K[X_1, X_2, \ldots, X_r]$$ となる $X_1, \ldots, X_r\in\K(t_1, \ldots, t_n)$ が存在する。それで $$X_i=\frac{f_i(t_1, \ldots, t_n)}{g_i(t_1, \ldots, t_n)}\ (i=1, 2, \ldots, r)$$ となる $f_i, g_i\in \K[t_1, \ldots, t_n]$ が存在する。 $\K$ の代数閉包を $\overline{\K}$ とすると、 どの $i=1, 2, \ldots, r$ についても $g_i(\alpha_1, \ldots, \alpha_n)\neq 0$ となる $\alpha_1, \alpha_2, \ldots, \alpha_n\in\overline{\K}$ が存在する(多項式環:多変数の多項式を参照)。このとき $$\varphi(X_i)=\frac{f_i(\alpha_1, \ldots, \alpha_n)}{g_i(\alpha_1, \ldots, \alpha_n)}\ (i=1, 2, \ldots, r)$$ により、$\K[X_1, X_2, \ldots, X_r]$ から $\overline{\K}$ への環準同型が定まる。 しかし$\K[X_1, X_2, \ldots, X_r]=\K(t_1, \ldots, t_n)$ は体だから、 「環論の基礎2:イデアルと剰余環」の命題 2.11より $\varphi$ は単射である。これは $\K(t_1, \ldots, t_n)$ は $\K$ 上代数的であることになってしまい、矛盾する。
□有理関数体に関して、次の2つの事実が成り立つ。とくに後者の事実はHilbertの零点定理の証明に用いられる(Fultonの1.9節および1.10節を参照)。
補題 2 (Fulton, 1.49a)
$\K$ が体で、$\L=\K(X)$ が $\K$ 上の有理関数体とする。 $z\in \L$ が $\K[X]$ 上整ならば、$z\in \K[X]$ である。
Proof.
$z$ は $\K[X]$ 上整なので、 $$z^d+a_1 z^{d-1}+\cdots a_d=0$$ となる $a_1, \ldots, a_d\in \K[X]$ がとれる。 $z=F/G, F, G\in \K[X], \gcd(F, G)=1$ とあらわされるから、 $$F^d+a_1 F^{d-1} G+\cdots +a_d G^d=0$$ とある。よって、 $$F^d=-G(a_1 F^{d-1}+\cdots +a_d G^{d-1})$$ より、$\K[X]$ において $G$ は $F^d$ を割り切る。 しかし $\gcd(F, G)=1$ だから、$\gcd(F^n, G)=1$ となる。よって $G$ は定数でなければならず、$z=F/G\in \K[X]$ となる。
□補題 3 (Fulton, 1.49b)
「任意の $z\in \K(X)$ について、$F^n z$ が $\K[X]$ 上整となる自然数 $n>0$ が存在する」ような多項式 $F\in \K[X]$ は $F=0$ しか存在しない。
Proof.
$0$ でない多項式 $F\in \K[X]$ をとり、任意の $z\in \K(X)$ について、$F^n z$ が $\K[X]$ 上整となる自然数 $n>0$ が存在すると仮定する。 $F$ が定数多項式でないとき、$G=F+1$ とし、$F$ が $0$ でない定数多項式のとき $G=F+X$ とおくと、 $G$ は定数ではない多項式で、かつ $\gcd(F, G)=1$ となる。ここで $z=1/G$ とおく。 ある自然数 $n>0$ をとれば、$F^n/G$ が $\K[X]$ 上整となるから、 $$(F^n/G)^d+a_1 (F^n/G)^{d-1}+\cdots a_d=0$$ となる $a_1, \ldots, a_d\in \K[X]$ がとれる。よって $$F^{nd}+a_1 F^{n(d-1)} G+\cdots +a_d G^d=0$$ となるので、$G$ は $F^{nd}$ を割り切る。$\gcd(F, G)=1$ だから、$\gcd(F^{nd}, G)=1$ なので、$G$ は定数でなければならないが、これは$G$ のとり方に反する。
□
参考文献
- William Fulton, Algebraic Curves, 3rd version, 2008, online version.
- Serge Lang, Algebra, Revised 3rd ed., Graduate Texts in Mathematics, 211, Springer, 2002, Chapter X, doi:10.1007/978-1-4613-0041-0.