多重ゼータスター値
多重ゼータスター値
多重ゼータスター値 (multiple zeta star value, MZSV) とは、多重ゼータ値の変種のひとつである。多重ゼータ値が満たすさまざまな関係式がスターでも証明されているが、その多くは互いに同値であることが知られている。
$\newcommand{\bk}{\boldsymbol{k}}$ $\newcommand{\bl}{\boldsymbol{l}}$ $\newcommand{\cI}{\mathcal{I}}$ $\newcommand{\sh}{\text{ш}}$ $\newcommand{\be}{\boldsymbol{e}}$ $\newcommand{\bf}{\boldsymbol{f}}$ $\newcommand{\kak}[1]{\left(#1\right)}$ $\newcommand{\wt}{\mathrm{wt}}$ $\newcommand{\dep}{\mathrm{dep}}$ $\newcommand{\fH}{\mathfrak{H}}$ $\newcommand{\bbQ}{\mathbb{Q}}$ $\newcommand{\bbR}{\mathbb{R}}$ $\newcommand{\cR}{\mathcal{R}}$ $\newcommand{\emp}{\varnothing}$ $\newcommand{\KY}{\mathrm{KY}}$ $\newcommand{\cZ}{\mathcal{Z}}$ $\newcommand{\stast}{\mathbin{\overline{\ast}}}$ $\newcommand{\stsh}{\mathbin{\overline{\sh}}}$ $\newcommand{\stbullet}{\mathbin{\overline{\bullet}}}$
定義
インデックスに関する言葉遣いは多重ゼータ値と同様にする。多重ゼータ値とは許容インデックス $\bk=(k_1,\ldots,k_r)$ に対し \[\zeta(\bk)=\sum_{0<n_1<\cdots<n_r}\frac{1}{n_1^{k_1}\cdots n_r^{k_r}}\] で定まる実数 $\zeta(\bk)$ のことであったが、和の条件に等号を加えた \[\zeta^{\star}(\bk)=\sum_{0 < n_1 \le \cdots \le n_r}\frac{1}{n_1^{k_1}\cdots n_r^{k_r}}\] を 多重ゼータスター値 という。
縮約インデックス
空でないインデックス $\bk=(k_1,\ldots,k_r)$ に対し、いくつかのコンマ記号 , をプラス記号 + に変えて得られるインデックス $\bl$ を $\bk$ の 縮約インデックス といい $\bl\preceq\bk$ と書く。定義より $\bl\preceq\bk$ のとき $\wt(\bl)=\wt(\bk)$ かつ $\dep(\bl)\le\dep(\bk)$ が成り立つ。例えば $(3)\preceq (1,2)\preceq (1,1,1)$ である。
多重ゼータ値との関係
多重ゼータスター値の定義にある不等号を分解してゆくことで \[\zeta^{\star}(\bk)=\sum_{\bl\preceq\bk}\zeta(\bl)\] が成り立つ。ここで右辺の和は $\bk$ の縮約インデックス $\bl$ 全体を渡る。また逆の表示 \[\zeta(\bk)=\sum_{\bl\preceq\bk}(-1)^{\sigma(\bl)}\zeta^{\star}(\bl)\] も成り立つ ($\sigma(\bl)$ は縮約インデックスを作るにあたってコンマから変更したプラスの個数)。
代数的定式化
以後Hoffman代数の記号を用いる。また、写像 $\zeta^{\star}$ をインデックスの $\bbQ$ 係数線形和に対して拡張しておき、$z_{\bk}\mapsto\zeta^{\star}(\bk)$ によって $\bbQ$ 線形写像 $Z^{\star}\colon\fH^{0}\to\bbR$ を定めておく。
スター調和積
$\fH^1$ 上の $\bbQ$ 双線形な積 $\stast$ を次の規則で定める:
- $w\in\fH^1$ に対し $1\stast w=w\stast 1=w$
- $w,w'\in\fH^1$ と正整数 $k,l$ に対し
\[wz_k\stast w'z_l=(w\stast w'z_l)z_k+(wz_k\stast w')z_l-(w\stast w')z_{k+l}\] $\fH^1$ とインデックスの張る $\bbQ$ 線型空間の同一視 $\bk\mapsto z_{\bk}$ によって $z_{\bk}\stast z_{\bl}$ を単に $\bk\stast\bl$ と書く。
命題 1 (Muneta1Proposition 2.3)
$\stast$ は可換で結合的な積となり、$\fH^{i}$ に $\stast$ を入れることで $\bbQ$ 代数 $\fH^{i}_{\stast}$ ($i\in\{0,1\}$) ができる。
定理 2 (スター調和関係式; Muneta1Proposition 2.4)
許容インデックス $\bk,\bl$ に対し \[\zeta^{\star}(\bk\stast\bl)=\zeta^{\star}(\bk)\zeta^{\star}(\bl)\] が成り立つ。
- この定理はIhara-Kajikawa-Ohno-Okuda1(Theorem 1)によって証明された等式
\[S_{1}(w_{1}\stast w_{2})=S_{1}(w_{1})\ast S_{1}(w_{2})\qquad (w_{1},w_{2}\in\fH^{1})\] によって通常の調和関係式から導かれる。ここで $\ast$ は通常の調和積。
スターシャッフル積
$\fH$ 上の $\bbQ$ 双線形な積 $\stsh$ を次の規則で定める:
- $w\in\fH$ に対し $1\stsh w=w\stsh 1=w$
- $w,w'\in\fH$ と $u,u'\in\{x,y\}$ に対し
\[uw\stsh u'w'=u(w\stsh u'w')+u'(uw\stsh w')-\delta_{1,w}\tau(u)w'u'-\delta_{1,w'}\tau(u')wu\] ここで $\tau$ は $x$ と $y$ を入れ替える $\fH$ の反自己同型、$\delta$ はKroneckerのデルタである。スター調和積と同様に $\bk\stsh\bl$ をインデックスの線型和として定義しておく。
命題 3 (Muneta1Proposition 2.6)
$\stsh$ は可換で結合的な積となり、$\fH^{i}$ に $\stsh$ を入れることで $\bbQ$ 代数 $\fH^{i}_{\stsh}$ ($i\in\{0,1\}$) ができる。
定理 4 (スターシャッフル関係式; Muneta1Proposition 2.7)
許容インデックス $\bk,\bl$ に対し \[\zeta^{\star}(\bk\stsh\bl)=\zeta^{\star}(\bk)\zeta^{\star}(\bl)\] が成り立つ。
- 調和関係式と同様、この定理はMuneta2((2.5))によって証明された等式
\[S_{1}(w_1\stsh w_2)=S_{1}(w_1)\sh S_{1}(w_2)\qquad (w_1,w_2\in\fH^1)\] によって通常のシャッフル関係式から導かれる。ここで $\sh$ は通常のシャッフル積。
スター正規化
補題 5 (Muneta1Lemma 2.10)
$\bullet\in\{\ast,\sh\}$ に対し同型 $\fH^{1}_{\stbullet}\simeq\fH^{0}_{\stbullet}[y]$ が成り立つ。
補題 5により、$\bullet\in\{\ast,\sh\}$ と任意のインデックス $\bk$ に対しある許容インデックスの列 $\bl_{0},\ldots,\bl_{n}$ が存在し
\[z_{\bk}=\sum_{i=0}^{n}z_{\bl_{i}}\stbullet\underbrace{y\stbullet\cdots\stbullet y}_{i}\]
が成り立つ(もちろん $\bullet$ の取り方によって $\bl_{i}$ は変わりうる)。これを用いて
\[\zeta^{\star,\bullet}(\bk;T)=\sum_{i=0}^{n}\zeta^{\star}(\bl_{i})T^{i}\in\bbR[T]\]
とおく。写像 $\bk\mapsto\zeta^{\star,\bullet}(\bk;T)$ を $\cR_{0}$ へと $\bbQ$ 線形に延長しておく。
命題 6
任意のインデックス $\bk$ に対し \[\zeta^{\star,\bullet}(\bk;T)=\sum_{\bl\preceq\bk}\zeta^{\bullet}(\bl;T)\] が成り立つ。ここで $\zeta^{\bullet}(\bl;T)$ は通常の正規化多項式である。
定理 7 (スター正規化複シャッフル関係式; Muneta1Theorem 2.12)
任意のインデックス $\bk,\bl$ と $\bullet\in\{\ast,\sh\}$ に対し \[\zeta^{\star,\bullet}(\bk\stast\bl;T)=\zeta^{\star,\bullet}(\bk\stsh\bl;T)\] が成り立つ。
多重ゼータスター値には $\zeta^{\star,\sh}(\bk;T)$ とは別種のシャッフル正規化も発見されている: Yamamoto積分の記法を用いて
\[\zeta^{\star,\KY}(\bk;T)=(Z^{\sh}_{T}\circ W)\left(\begin{xy}
{(0,0)*{\bullet} \ar @{-} (10,0)*++[F]{\bk}}
\end{xy}\right)
\]
と定める。
定理 8 (Hirose-Murahara-Ono1Theorem 2.1)
インデックス $\bk$ に対し \[\zeta^{\star,\sh}(\bk;T)-\zeta^{\star,\KY}(\bk;T)\in\zeta(2)\cZ[T]\] が成り立つ。
正規化定理で用いた写像 $\rho$ のスター類似を導入する: $\bbR$ 線型写像 $\rho^{\star}\colon\bbR[T]\to\bbR[T]$ を
\[\exp(TX)\Gamma_{0}(X)^{-1}=\sum_{n=0}^{\infty} \rho^{\star}(T^{n})\frac{X^{n}}{n!}\]
によって定める。
定理 9 (Kaneko-Yamamoto1Corollary 4.7)
インデックス $\bk$ に対し \[\zeta^{\star,\KY}(\bk;T)=\rho^{\star}(\zeta^{\star,\ast}(\bk;T))\] が成り立つ。
- 有限複シャッフル関係式を仮定すると、この定理と正規化定理、導分関係式、大野型関係式、積分級数等式はすべて同値である。
Machideのシャッフル正規化対称和公式 の類似も発見されている。
定理 10 (Machide1Theorem 1.1)
インデックス $\bk=(k_{1},\ldots,k_{r})$ に対し \[\sum_{\sigma\in S_{r}}\zeta^{\star,\KY}(k_{\sigma(1)},\ldots,k_{\sigma(r)};0)=\sum_{B_{1},\ldots,B_{l}}\prod_{i=1}^{l}\chi(\bk;B_{i})(|B_{i}|-1)!\zeta^{\star,\KY}\left(\sum_{j\in B_{i}}k_{j};0\right)\] が成り立つ。ここで $B_{1},\ldots,B_{l}$ は $\{1,\ldots,r\}$ の分割全体を渡る。
- 右辺のゼータ値は常に深さ $1$ であるから正規化の方法に $\ast,\sh,(\star,\ast),(\star,\sh),(\star,\KY)$ のどれを用いても同じである。
さまざまな関係式
定理 11 (スター和公式)
整数 $k>r>0$ に対し \[\sum_{\substack{k_1,\ldots,k_{r-1}\ge 1,k_r\ge 2\\k_1+\cdots+k_r=k}}\zeta^{\star}(k_1,\ldots,k_r)=\binom{k-1}{r-1}\zeta(k)\] が成り立つ。
- この関係式は、多重ゼータ値に対する和公式が証明される以前から、Hoffman3によって同値性が指摘されていた。Granvilleによってその和公式が証明されたので、スター和公式も証明されたことになる。
定理 12 (スター巡回和公式; Ohno-Wakabayashi1Theorem 1)
いずれかの成分が $2$ 以上であるような重さ $k$ のインデックス $\bk=(k_1,\ldots,k_r)$ に対し \[\sum_{i=1}^r\sum_{j=0}^{k_i-2}\zeta^{\star}(j+1,k_{i+1},\ldots,k_r,k_1,\ldots,k_{i-1},k_i-j)=k\zeta(k+1)\] が成り立つ。
定理 13 (スターOhno型関係式; Hirose-Imatomi-Murahara-Saito1Theorem 1.5)
非負整数 $h$ と許容インデックス $\bk=(k_1,\ldots,k_r)$ に対し \[\sum_{\substack{\be\in\mathbb{Z}_{\ge 0}^{\mathrm{dep}(\bk)}\\\mathrm{wt}(\be)=h}}b_1(\bk;\be)\zeta^{\star}(\bk\oplus\be)=\sum_{\substack{\bf\in \mathbb{Z}_{\ge 0}^{\mathrm{dep}(\bk^{\dagger})}\\\mathrm{wt}(\bf)=h}}\zeta^{\star}((\bk^{\dagger}\oplus\bf)^{\dagger})\] が成り立つ。ここで \[b_1(k_1,\ldots,k_r;e_1,\ldots,e_r)=\prod_{i=1}^r\binom{k_i+e_i+\delta_{i,1}-2}{e_i}\] とおいた。
定理 14 (スター導分関係式; Li-Qin1Theorem 2.5(f))
正整数 $h$ に対し $\bbQ$ 線形写像 $\partial^{\star}_{h}\colon\fH^{1}\to\fH^{1}$ を \[\partial^{\star}_{h}(x)=y^{h}x,\qquad\partial^{\star}_{h}(y)=-y^{h}x,\qquad \partial^{\star}_{h}(ww')=\partial^{\star}_{h}(w)w'+w(\widetilde{S}^{-1}\circ\partial_{h}\circ\widetilde{S})(w')\] で定める ($w,w'\in\fH$) と、任意の $w\in\fH^{0}$ に対し $Z^{\star}(\partial^{\star}_{h}(w))=0$ が成り立つ。ここで $\partial_{h]}$ は多重ゼータ値の導分関係式で用いた写像である。
系 15 (スターHoffman関係式; Muneta1Theorem 3.2)
許容インデックス $\bk=(k_{1},\ldots,k_{r})$ に対し \[\sum_{i=1}^r (k_i-1+\delta_{r,i})\zeta^{\star}(\bk_{[i-1]},k_i+1,\bk^{[i]})=\sum_{i=1}^r\sum_{j=0}^{k_i-2}\zeta^{\star}(\bk_{[i-1]},j+1,k_i-j,\bk^{[i]})\] が成り立つ。
定理 16 (Bowman-Bradley型定理; Yamamoto1Theorem 1.1)
非負整数の組 $(k_1,k_2)\neq (0,0)$ に対し \begin{align} &\sum_{\substack{n_1,\ldots,n_{2k_1+1}\ge 0\\ n_1+\cdots+n_{2k_1+1}=k_2}} \zeta^{\star}(\{2\}^{n_1},1,\{2\}^{n_2},3,\ldots,\{2\}^{n_{2k_1-1}},1,\{2\}^{n_{2k_1}},3,\{2\}^{n_{2k_1+1}})\\ &=\sum_{\substack{2i+k+u=2k_1\\ j+l+v=k_2}}(-1)^{k_2+u}(2^{2k+2l}-2)(2^{2u+2v}-2)\binom{k+l}{k}\binom{u+v}{u}\binom{2i+j}{j}\\ &\qquad\cdot\frac{B_{2k+2l}B_{2u+2v}}{(2i+1)(4i+2j+1)!(2k+2l)!(2u+2v)!}\pi^{4k_1+2k_2} \end{align} が成り立つ。ここで $B_{n}$ は \[\frac{x}{e^{x}-1}=\sum_{n=0}^{\infty}\frac{B_{n}}{n!}x^{n}\] で定まる有理数列 (Bernoulli数) である。
定理 17 (Li-Qin1Theorem 3.27)
正整数 $k,r,a$ ($k\ge r$, $a\ge 2$) に対し \[\sum_{\substack{\bk=(k_1,\ldots,k_r)\in I(k,r)}}\zeta^{\star}(ak_1,\ldots,ak_r)=\sum_{i=0}^{k-r}(-1)^i\binom{k-i}{r}\zeta(\{a\}^i)\zeta^{\star}(\{a\}^{k-i})\] が成り立つ。
定理 18 (Muneta1Theorem A)
正整数 $k,r$ に対し \[\zeta^{\star}(\{2k\}^r)=(-1)^{rk}\sum_{\substack{n_1,\ldots,n_k\ge 0\\ n_1+\cdots+n_k=rk}}\left(\prod_{j=1}^k\frac{(2-4^{n_j})B_{2n_j}\exp(2\pi\sqrt{-1}jn_j/k)}{(2n_j)!}\right)\pi^{2rk}\] が成り立つ。
系 19 (Zlobin1)
正整数 $r$ に対し \[\zeta^{\star}(\{2\}^r)=\left(1-\frac{1}{2^{2r-1}}\right)\frac{(-1)^{r+1}(2\pi)^{2r}B_{2r}}{(2r)!}\] が成り立つ。
定理 20 (Aoki-Kombu-Ohno1(3.1))
冪級数の等式 \[\sum_{k,r,s\ge 0}\left(\sum_{\bk\in I_0(k,r,s)}\zeta^{\star}(\bk)\right)x^{k-r-s}y^{r-s}z^{2s-2}=\frac{1}{(1-x)(1-y)-z^2}{}_3F_2\left(\begin{array}{c}1-x,~1,~1\\ 2-\alpha,~2-\beta\end{array};1\right)\] が成り立つ。ここで $\alpha$ と $\beta$ は \[\alpha+\beta=x+y,\qquad\alpha\beta=xy-z^2\] から決まる値であり、${}_3F_2$ は超幾何級数 \[{}_3F_2\left(\begin{matrix}a,~b,~c\\ d,~e\end{matrix};x\right)=\sum_{n=0}^{\infty}\left(\prod_{i=0}^{n-1}\frac{(a+i)(b+i)(c+i)}{(d+i)(e+i)(1+i)}\right)x^n\] である。
系 21 (Aoki-Ohno1Theorem 1)
正整数 $k$, $s$ ($k\ge s$) に対し \[\sum_{r=s}^{k-1}\sum_{\bk\in I_0(k,r,s)}\zeta^{\star}(\bk)=2\binom{k-1}{2s-1}\left(1-\frac{1}{2^{k-1}}\right)\zeta(k)\] が成り立つ。
定理 22 (Li1Corollary 2.3)
正整数 $k,r,s$ ($k>r\ge s$) に対し \[X^{\star}_{0}(k,r,s)=\sum_{\bk\in I_{0}(k,r,s)}\zeta^{\star}(\bk)\] とおくと、正整数 $m,n,s$ に対し \[(-1)^{m}X^{\star}_{0}(m+n+1,n+1,s)-(-1)^{n}X^{\star}_{0}(m+n+1,m+1,s)\in\bbQ[\zeta(2),\zeta(3),\ldots]\] が成り立つ。
系 23 (Kaneko-Ohno1Theorem 1)
正整数 $k,l$ に対し \[(-1)^{l}\zeta^{\star}(\{1\}^{k},l+1)-(-1)^{k}\zeta^{\star}(\{1\}^{l},k+1)\in\bbQ[\zeta(2),\zeta(3),\ldots]\] が成り立つ。
定理 24 (Zagier1Theorem 4)
非負整数 $k_1,k_2$ に対し \[\zeta^{\star}(\{2\}^{k_1},3,\{2\}^{k_2})=-2\sum_{i=1}^{k_1+k_2+1}\left(\binom{2i}{2k_1}-\delta_{1,k_1}-\left(1-\frac{1}{2^{2i}}\right)\binom{2i}{2k_2+1}\right)\zeta^{\star}(\{2\}^{k_1+k_2+1-i})\zeta(2i+1)\] が成り立つ。
定理 25 (Muneta1Theorem B)
正整数 $r$ に対し \[\zeta^{\star}(\{1,3\}^r)=\sum_{i=0}^r \zeta(\{1,3\}^i)\zeta^{\star}(\{4\}^{r-i})\] が成り立つ。
定理 26 (Bachmann-Yamasaki1Corollary 3.6(3.23))
非負整数 $r$ に対し \[\zeta^{\star}(3,\{1,3\}^r)=\sum_{i=0}^r \left(-\frac{1}{4}\right)^i\zeta(4i+3)\zeta^{\star}(\{1,3\}^{r-i})\] が成り立つ。
定理 27 (Zhao1Theorem 6.1(ii))
非負整数 $r$ に対し \[\zeta^{\star}(2,\{1,3\}^r)=\frac{1}{2r+1}\sum_{i=0}^r\zeta^{\star}(\{1,3\}^i)\zeta^{\star}(\{2\}^{2r-2i+1})\] が成り立つ。
定理 28 ($2$-$1$ 公式; Zhao1Theorem 1.2)
許容インデックス $\bk=(k_{1},\ldots,k_{r})$ に対し \[\zeta^{\star}(1,\{2\}^{k_{1}-1},\ldots,1,\{2\}^{k_{r}-1})=2^{r}\zeta^{1/2}(2k_{1}-1,\ldots,2k_{r}-1)\] が成り立つ。ここで右辺は補間多重ゼータ値 $\zeta^{t}(\bk)$ の $t=1/2$ の場合である。
- $r=1$ の場合はZlobin4((1))で、$r=2$ の場合はOhno-Zudilin5(Theorem 1)で証明されていた(一般のケースの予想もOhno-Zudilinで提起された)。
- 右辺を交代多重ゼータ値に拡張することにより、一般のインデックスに対する $2$-$1$ 公式の拡張が得られることもわかっている: $\bbQ$ 線形写像 $\tilde{Z}\colon\fH^{1}\to\fH$ を非負整数 $s,n$ と正整数 $a_{1},b_{1},\ldots,a_{s},b_{s}$ に対し $y^{a_{1}}x^{b_{1}}\cdots y^{a_{s}}x^{b_{s}}y^{n}\mapsto y^{a_{1}-1}xy^{b_{1}-1}x\cdots y^{a_{s}-1}xy^{b_{s}-1}xy^{n}$ によって定め、インデックス $\bk=(k_{1},\ldots,k_{r})$ に対し
\[\bk^{\diamond}=\begin{cases}y\tilde{Z}(z_{\bk_{[1]}}) & (k_{1}=1)\\ y^{k_{1}-1}x\tilde{Z}(z_{\bk_{[1]}}) & (k_{1}\ge 2)\end{cases}\text{ に対応するインデックス}\] と定める。このとき任意の許容インデックス $\bk$ に対し $\zeta^{\star}(\bk)=(-1)^{\wt(\bk)-\dep(\bk^{\diamond})}\zeta^{\#}(\bk^{\diamond})$ が成り立つ。ここで \[\zeta^{\#}(k_{1},\ldots,k_{r})=\sum_{0<n_{1}\le\cdots\le n_{r}}\frac{(-1)^{n_{1}(k_{1}-1)+\cdots+n_{r}(k_{r}-1)}2^{\#\{n_{1},\ldots,n_{r}\}}}{n_{1}^{k_{1}}\cdots n_{r}^{k_{r}}}\] とおいた。
脚注
参考文献
- 1 K. Ihara, J. Kajikawa, Y. Ohno and J. Okuda. (2011) "Multiple zeta values vs. multiple zeta-star values". J. Algebra 332 : 187-208.
- 2 S. Muneta. (2009) "Algebraic setup of non-strict multiple zeta values". Acta Arith. 136 : 7-18.
- 3 M. E. Hoffman. (1992) "Multiple harmonic series". Pacific J. Math. 152 : 275-290.