到達不能基数
到達不能基数 (inaccessible cardinal) とは、集合論における巨大基数概念の最も基本的かつ重要なひとつである。集合論以外の文脈においても、Grothendieck宇宙などの概念とも関連する重要な基数である。しかしながらこの存在はZFC公理系においては証明できない。
定義
基数 $\kappa$ が弱到達不能基数 (weakly inaccessible cardinal) であるとは、次の条件をみたすことをいう:
- $\kappa$ は正則基数である、
- $\kappa$ は極限基数。
基数 $\kappa$ が(強)到達不能基数 (inaccessible cardinal) であるとは、次の条件をみたすことをいう:
- $\kappa$ は正則基数である、
- $\kappa$ は強極限基数($\lambda \lt \kappa$ について $2^\lambda \lt \kappa$)。
性質
到達不能基数の存在は、ZFC公理系のもとでは示すことができない。これは不完全性定理による帰結である。実際、$\mathbb{V}$-累積階層のもとで $\kappa$ が到達不能基数であれば、$\mathbb{V}_\kappa$ はZFCのモデルとなり、したがってZFCの無矛盾性を証明できてしまうことになるが、これは矛盾である。
到達不能基数 $\kappa$ について $\mathbb{V}_\kappa$ はGrothendieck宇宙となる。逆にすべてのGrothendieck宇宙がこの形であることは容易に示される。
記述不能基数の言葉でいえば、$\kappa$ が到達不能基数であることと $\Sigma^1_1$-記述不能基数であることは同値である。
到達不能基数と弱到達不能基数の無矛盾性の強さはZFC上で同値である。実際到達不能基数は構成可能宇宙 \(L\)と共存し、\(L\) では一般連続体仮説が成り立つため、到達不能基数と弱到達不能基数は一致する。またShoenfield–Lévyの絶対性補題から \(\Sigma^1_2\)-論理式に対して、到達不能基数の存在と弱到達不能基数の存在の証明可能性は変わらない。