位相線形空間

提供: Mathpedia

位相線形空間

本稿においては、$\mathbb{F}$ により $\mathbb{R}$ か $\mathbb{C}$ を表すこととする。また $\mathbb{N}=\{1,2,3,\ldots\}$ とする。


1. ノルム、Banach空間(環、*-環)の定義

定義1.1(ノルム空間、Banach空間)

$X$ を $\mathbb{F}$ 上の線型空間とする。 $$X\ni x\mapsto \lVert x\rVert \in [0,\infty)$$ が $X$ 上のノルムであるとは次が成り立つことを言う。

  • $(1)$ 任意の $x,y\in X$ に対し、$\lVert x+y\rVert\leq \lVert x\rVert+\lVert y\rVert$.
  • $(2)$ 任意の $x\in X$ と任意の $\alpha\in \mathbb{F}$ に対し、$\lVert \alpha x\rVert=\lvert\alpha\rvert\lVert x\rVert$.
  • $(3)$ $\lVert x\rVert=0$ $\Leftrightarrow$ $x=0$.

ノルムが備わった $\mathbb{F}$ 上の線型空間を $\mathbb{F}$ 上のノルム空間と言う。$\mathbb{F}$ 上のノルム空間 $X$ に対し、

$$X\times X\ni (x,y)\mapsto \lVert x-y\rVert\in[0,\infty)$$

は $X$ 上の距離である。ノルム空間はこの距離による距離空間とみなす。そして $\mathbb{F}$ 上のノルム空間で、この距離により完備距離空間であるものを $\mathbb{F}$ 上の Banach 空間と言う。


ユークリッド空間 $\mathbb{R}^N$ は $\mathbb{R}$ 上のBanach 空間、ユニタリ空間 $\mathbb{C}^N$ は $\mathbb{C}$ 上のBanach 空間である。

定義1.2(部分空間に誘導されるノルム)

ノルム空間の線形部分空間はのノルムをそのまま受け継いだノルム空間とみなす。

Banach空間の閉部分空間はBanach空間である。

定義1.3(多元環)

$\mathbb{F}$ 上の線形空間 $X$ に 乗法 $X\times X\ni (x,y)\mapsto xy\in X$ が定義されており、加法と乗法に関して環をなし、スカラー倍と乗法に関して、 $$ \alpha(xy)=(\alpha x)y=x(\alpha y)\quad(\forall \alpha\in \mathbb{F},\forall x,y\in X) $$ が成り立つとき、$X$ を $\mathbb{F}$ 上の多元環と言う。



定義1.4(ノルム環、Banach環)

$\mathbb{F}$ 上の多元環 $X$ がノルム空間( resp. Banach 空間)であり、

$$ \lVert xy\rVert\leq \lVert x\rVert\lVert y\rVert\quad(\forall x,y\in X) $$

が成り立つとき、$X$ を $\mathbb{F}$ 上のノルム環( resp. Banach 環)と言う。

定義1.5(*-環)

$\mathbb{F}$ 上の多元環 $X$ にさらに対合と呼ばれる演算 $X\ni x\mapsto x^*\in X$ が定義されており、次が成り立つとき $X$ を*-環と言う。

  • $(1)$ 任意の $x,y\in X$ に対し $(x+y)^*=x^*+y^*$
  • $(2)$ 任意の $x\in X$ と任意の $\alpha\in \mathbb{F}$ に対し $(\alpha x)^*=\overline{\alpha}x^*$.
  • $(3)$ 任意の $x,y\in X$ に対し $(xy)^*=y^*x^*$.
  • $(4)$ 任意の $x\in X$ に対し $x^{**}=x$.


定義1.6(ノルム*-環、Banach *-環)

$\mathbb{F}$ 上の*-環 $X$ がノルム環(resp. Banach環)でもあるとする。

$$ \lVert x^*\rVert=\lVert x\rVert\quad(\forall x\in X) $$

が成り立つとき $X$ を $\mathbb{F}$ 上のノルム*-環(resp. Banach *-環)と言う。

定義1.7($C^*$-環)

$\mathbb{F}$ 上の*-環 $X$ がBanach環でもあり、

$$ \lVert x^*x\rVert=\lVert x\rVert^2\quad(\forall x\in X)\quad\quad(*) $$

が成り立つとき $X$ を $\mathbb{F}$ 上の $C^*$-環と言う。また $(*)$ を $C^*$-ノルム条件と言う。任意の $x\in X$ に対し $C^*$-ノルム条件より、 $$ \lVert x\rVert^2=\lVert x^*x\rVert\leq \lVert x^*\rVert\lVert x\rVert $$ であるから $\lVert x\rVert\leq\lVert x^*\rVert$ 、したがって $\lVert x\rVert=\lVert x^*\rVert$ である。よって $C^*$-環は特にBanach *環である。


2 商ノルム

定義2.1(商ノルム)

$X$ を $\mathbb{F}$ 上のノルム空間、$M\subset X$ を閉部分空間とし、$X/M$ を商線形空間、

$$ X\ni x\mapsto [x]\in X/M $$ を商写像とする。このとき、 $$ \lVert [x]\rVert:=\inf\{\lVert x-y\rVert:y\in M\}\quad(\forall [x]\in X/M)\quad\quad(*) $$ として、$X/M$ 上のノルムが定義できる。(次の命題2.2による。)これを $X/M$ 上の商ノルムと言う。


命題2.2

定義2.1の $(*)$ によって $X/M$ 上のノルムが定義される。

証明

$[x_1]=[x_2]$ ならば $x_1-x_2\in M$ であるから、 $$ \{\lVert x_1-y\rVert:y\in M\}=\{\lVert x_1+(x_2-x_1)-y:y\in M\}=\{\lVert x_2-y\rVert:y\in M\} $$ である。よって $(*)$ により $X/M\ni [x]\mapsto \lVert [x]\rVert\in[0,\infty)$ が定義できる。任意の $[x_1],[x_2]\in X/M$ に対し、 $$ \begin{aligned} &\inf\{\lVert x_1+x_2-y\rVert:y\in M\}=\inf\{\lVert x_1-y_1+x_2-y_2\rVert:y_1,y_2\in M\}\\ &\leq \inf\{\lVert x_1-y_1\rVert:y_1\in M\}+\inf\{\lVert x_2-y_2\rVert:y_2\in M\} \end{aligned} $$ であるから $\lVert [x_1]+[x_2]\rVert\leq \lVert [x_1]\rVert+\lVert [x_2]\rVert$ が成り立つ。また任意の $[x]\in X/M$ と任意の $\alpha\in\mathbb{F}$ に対し、 $$ \inf\{\lVert \alpha x-y\rVert:y\in M\}=\inf\{\lVert \alpha x-\alpha y\rVert:y\in M\} =\lvert\alpha\rvert\inf\{\lVert x-y\rVert:y\in M\} $$ であるから $\lVert\alpha[x]\rVert=\lvert\alpha\rvert\lVert [x]\rVert$ が成り立つ。$\lVert [x]\rVert=0$ ならば下限の定義より任意の $\epsilon\in(0,\infty)$ に対し $\lVert x-y\rVert<\epsilon$ なる $y\in M$ が取れるので $x\in \overline{M}=M$、したがって $[x]=0$ である。

命題2.3(Banach空間の商ノルム空間はBanach空間)

$X$ を $\mathbb{F}$ 上のBanach空間、$M\subset X$ を閉部分空間とする。このとき $X/M$ は商ノルムによりBanach空間である。

証明

$(z_n)_{n\in \mathbb{N}}$ を $X/M$ のCauchy列とする。$(z_n)_{n\in \mathbb{N}}$ が収束する部分列を持つことを示せば十分である。Cauchy列であることから部分列 $(z_{k(n)})_{n\in \mathbb{N}}$ で、 $$ \lVert z_{k(n+1)}-z_{k(n)}\rVert<\frac{1}{2^n}\quad(\forall n\in \mathbb{N}) $$ を満たすものが取れる。これに対し商ノルムの定義と帰納法により $X$ の列 $(x_n)_{n\in\mathbb{N}}$ で、 $$ z_{k(n)}=x_n,\quad \lVert x_{n+1}-x_n\rVert<\frac{1}{2^n}\quad(\forall n\in \mathbb{N}) $$ を満たすものが取れ、$m\geq n$ なる任意の $n,m\in \mathbb{N}$ に対し、 $$ \lVert x_m-x_n\rVert<\frac{2}{2^n} $$ であるから $(x_n)_{n\in \mathbb{N}}$ は $X$ のCauchy列である。$X$ はBanach空間であるので $(x_n)_{n\in \mathbb{N}}$ はある $x\in X$ に収束する。よって、 $$ \lVert z_{k(n)}-[x]\rVert\leq \lVert x_{n}-x\rVert\rightarrow0\quad(n\rightarrow\infty) $$ であるから $(z_{k(n)})_{n\in \mathbb{N}}$ は収束する。


定義2.4(多元環のイデアル、*-環の *-イデアル)

$X$ を $\mathbb{F}$ 上の多元環とする。空でない $I\subset X$ が 加法とスカラー倍で閉じており、任意の $x\in X$ と任意の $y\in I$ に対し $xy,yx\in I$ が成り立つとき、$I$ を $X$ のイデアルと言う。~ $X$ を $\mathbb{F}$ 上の *-環とする。空でない $I\subset X$ が 加法とスカラー倍と対合で閉じており、任意の $x\in X$ と任意の $y\in I$ に対し $xy,yx\in I$ が成り立つとき、$I$ を $X$ のイデアルと言う。


命題2.5(商ノルム環、商Banach環)

$X$ を $\mathbb{F}$ 上のノルム環、$I\subset X$ を閉イデアルとする。このとき商多元環 $X/I$ は商ノルムによりノルム環である。また $X$ がBanach環ならば $X/I$ は商ノルムによりBanach環である。さらに $X$ が Banach *-環であり、$I$ が閉 *-イデアルならば $X/I$ は商ノルムによりBanach *-環である。

証明

任意の $[x_1],[x_2]\in X/I$ に対し、 $$ \begin{aligned} &\inf\{\lVert x_1x_2-y\rVert:y\in I\}\leq \inf\{\lVert (x_1-y_1)(x_2-y_2)\rVert:y_1,y_2\in I\}\\ &\leq \inf\{\lVert x_1-y_1\rVert:y_1\in I\}\inf\{\lVert x_2-y_2\rVert:y_2\in I\} \end{aligned} $$ であるから $\lVert [x_1][x_2]\rVert\leq \lVert [x_1]\rVert\lVert [x_2]\rVert$ が成り立つ。よって $X/I$ は商ノルムによりノルム環である。$X$ がBanach環ならば命題2.3より $X/I$ はBanach環である。$X$ がBanach *-環であり、$I$ が *-イデアルであるとき任意の $[x]\in X/I$ に対し、 $$ \{\lVert x^*-y\rVert:y\in I\}=\{\lVert x-y^*\rVert:y\in I\}=\{\lVert x-y\rVert:y\in I\} $$ であるから $\lVert [x]^*\rVert=\lVert [x]\rVert$ である。よって $X/I$ は商ノルムによりBanach *-環である。


3. 有界線形作用素、作用素ノルム

定義3.1($\mathbb{B}(X,Y)$ と作用素ノルム)

$X, Y$ を $\mathbb{F}$ 上のノルム空間とする。$X\rightarrow Y$ の線形作用素全体に各点ごとの演算を入れて得られる $\mathbb{F}$ 上の線形空間を $\mathbb{L}(X,Y)$ と表す。そして任意の $T\in \mathbb{L}(X,Y)$ に対し、

$$\lVert T\rVert=\sup\{\lVert Tx\rVert : x\in X, \lVert x\rVert\leq 1\}$$

とおき、

$$\mathbb{B}(X,Y)=\{T\in \mathbb{L}(X,Y):\lVert T\rVert<\infty\}$$

とおく。$\mathbb{B}(X,Y)$ の元を $X\rightarrow Y$ の有界線形作用素と言う。

$$\lVert Tx\rVert\leq\lVert T\rVert \lVert x\rVert\quad(\forall T\in \mathbb{B}(X,Y), \forall x\in X)$$

であるから、$\mathbb{B}(X,Y)$ は $\mathbb{L} (X,Y)$ の線形部分空間であり、

$$\mathbb{B}(X,Y)\ni T\mapsto \lVert T\rVert\in [0,\infty)$$

は $\mathbb{B}(X,Y)$ 上のノルムである。このノルムを作用素ノルムと言う。後の命題3.4で見るように $Y$ がBanach空間ならば $\mathbb{B}(X,Y)$ はBanach空間である。


定義3.2($\mathbb{B}(X)$)

ノルム空間 $X$ に対し、$X\rightarrow X$ の線形作用素全体のなす線形空間

$$\mathbb{L}(X):=\mathbb{L}(X,X)$$

は作用素の合成を乗法として多元環をなす。そこで、

$$\mathbb{B}(X):=\mathbb{B}(X,X)\subset \mathbb{L}(X)$$

とおくと、

$$\lVert STx\rVert\leq \lVert S\rVert \lVert Tx\rVert \leq \lVert S\rVert \lVert T\rVert \lVert x\rVert\quad (\forall S,T\in \mathbb{B}(X), \forall x\in X)$$


より $\mathbb{B}(X)$ はノルム環をなす。命題3.4で見るように $X$ がBanach空間ならば $\mathbb{B}(X)$ はBanach環である。


命題3.3(有界線形作用素の特徴付け)

$X,Y$ をノルム空間とする。$T\in \mathbb{L}(X,Y)$ に対し次は互いに同値である。

  • $(1)$ $T\in \mathbb{B}(X,Y)$.
  • $(2)$ $T$ は一様連続である。
  • $(3)$ $T$ は $0\in X$ において連続である。

証明

$(1)\Rightarrow(2)$ は $\lVert Tx\rVert\leq \lVert T\rVert \lVert x\rVert$ であることによる。 $(2)\Rightarrow(3)$ は自明である。$(3)\Rightarrow(1)$ を示す。 $T$ が $0\in X$ において連続であるとすると、$\delta\in(0,\infty)$ が存在し $\lVert x\rVert\leq \delta$ を満たす任意の $x\in X$ に対し $\lVert Tx\rVert\leq 1$ となる。よって $T$ の線形性より、

$$\lVert T\rVert=\sup\{\lVert Tx\rVert: \lVert x\rVert\leq 1\}\leq \delta^{-1}$$

であるから、$T$ は有界線形作用素である。

命題3.4($Y$ がBanach空間ならば $\mathbb{B}(X,Y)$ は Banach 空間)

$X$ をノルム空間、$Y$ をBanach空間とする。このとき $\mathbb{B}(X,Y)$ は Banach 空間である。

証明

$(T_n)_{n\in \mathbb{N}}$ を $\mathbb{B}(X,Y)$ の Cauchy 列とする。任意の $x\in X$ に対し、

$$\lVert T_nx-T_mx\rVert\leq \lVert T_n-T_m\rVert \lVert x\rVert\quad(\forall n,m\in\mathbb{N})$$

であるから、$(T_nx)_{n\in \mathbb{N}}$ はBanach空間 $Y$ の Cauchy 列である。よって、

$$Tx=\lim_{n\rightarrow\infty} T_nx\quad(\forall x\in X)$$

として $T:X\rightarrow Y$ が定義でき、$T$ は明らかに線型作用素である。任意の $\epsilon\in (0,\infty)$ に対し $n_0\in\mathbb{N}$ で、

$$\lVert T_n-T_m\rVert\leq \epsilon\quad(\forall n,m\geq n_0)$$

なるものを取る。このとき任意の $m\geq n_0$と、$\lVert x\rVert\leq 1$ なる任意の $x\in X$ に対し、

$$\lVert Tx-T_mx\rVert=\lim_{n\rightarrow\infty}\lVert T_nx-T_mx\rVert=\inf_{n\in\mathbb{N}}\sup_{k\geq n}\lVert T_kx-T_mx\rVert\leq \sup_{k\geq n_0}\lVert T_kx-T_mx\rVert \leq \epsilon$$

であるから $T=(T-T_m)+T_m\in \mathbb{B}(X,Y)$ であり、$(T_n)_{n\in\mathbb{N}}$ は $T$ に収束する。よって $\mathbb{B}(X,Y)$ は Banach 空間である。

定義3.5(ノルム空間 $X$ の双対空間 $X^*$ )

$X$ を $\mathbb{F}$ 上のノルム空間とする。命題3.4より $X$ 上の有界線形汎関数全体 $\mathbb{B}(X,\mathbb{F})$ はBanach空間である。これを $X$ の双対空間と言い、$X^*$ と表す。

命題3.6(有界線形作用素の閉包上への一意拡張)

$X$ をノルム空間、$Y$ をBanach空間、$M\subset X$ を部分空間とする。このとき任意の $T\in \mathbb{B}(M,Y)$ に対し $\overline{T}\in \mathbb{B}(\overline{M},Y)$ で、 $\overline{T}|_M=T$ を満たすものが唯一つ存在する。そして $\lVert \overline{T}\rVert=\lVert T\rVert$ である。


証明


一意性は $M\subset \overline{M}$ の稠密性と $\mathbb{B}(\overline{M},Y)$ の元の連続性による。存在を示す。任意の $x\in \overline{M}$ に対し $x$ に収束する $M$ の列 $(x_n)_{n\in\mathbb{N}}$ が取れ、$\lVert Tx_n-Tx_m\rVert\leq \lVert T\rVert \lVert x_n-x_m\rVert$ $(\forall n,m\in\mathbb{N})$ であるから $(T_nx)_{n\in\mathbb{N}}$ はBanach空間 $Y$ の Cauchy 列である。よって $(Tx_n)_{n\in\mathbb{N}}$ は収束する。$(x_n)_{n\in\mathbb{N}}$ とは別に $x$ に収束する $M$ の列 $(x_n')_{n\in \mathbb{N}}$ を取ると、

$$\lVert Tx_n-Tx_n'\rVert\leq \lVert T\rVert \lVert x_n-x_n'\rVert\leq \lVert T\rVert( \lVert x_n-x\rVert +\lVert x-x_n'\rVert)\rightarrow0\quad(n\rightarrow\infty)$$

であるから、$(Tx_n)_{n\in \mathbb{N}}$ と $(Tx_n')_{n\in \mathbb{N}}$ が収束する点は一致する。よって $\overline{T}x=\lim_{n\rightarrow\infty} Tx_n$ として $\overline{T}:\overline{M}\rightarrow Y$ が定義できる。$\overline{T}$ は明らかに線型作用素であり、$T$ の拡張である。そして、

$$\lVert \overline{T}x\rVert=\lim_{n\rightarrow\infty}\lVert Tx_n\rVert \leq \lim_{n\rightarrow\infty}\lVert T\rVert \lVert x_n\rVert=\lVert T\rVert \lVert x\rVert$$

であるから $\overline{T}\in \mathbb{B}(\overline{M},Y)$、$\lVert \overline{T}\rVert\leq \lVert T\rVert$である。逆の不等式は $\overline{T}$ は $T$ の拡張であるから成り立つ。

4. 有限次元ノルム空間

命題4.1(基本命題)

$X$ を $\mathbb{F}$ 上の有限次元ノルム空間、$e_1,\ldots, e_N$ を $X$ の基底とし、線型同型写像

$$\Phi: \mathbb{F}^N\ni (t_1,\ldots, t_N)\mapsto \sum_{j=1}^{N}t_je_j\in X$$

を定義する。このとき $\Phi^{-1}:X\rightarrow \mathbb{F}^N$ は有界線形作用素である。

証明

$$B=\{t\in \mathbb{F}^N: \lvert t\rvert<1\},\quad S=\{t\in \mathbb{F}^N:\lvert t\rvert=1\},\quad E=\{t\in \mathbb{F}^N: \lvert t\rvert>1\}$$

とおく。$\Phi$ は連続であり、$S$ はコンパクトであるから $\Phi(S)$ は $X$ のコンパクト集合、したがって閉集合である。そして $0\in X\backslash \Phi(S)$ であるから、

$$\overline{B}_X(0,\delta)=\{x\in X:\lVert x\rVert\leq\delta\}\subset X\backslash \Phi(S)=\Phi(B\cup E)$$

なる $\delta\in(0,\infty)$ が取れる。

$$\Phi^{-1}(\overline{B}_X(0,\delta))\subset B\cup E$$

であり、$\Phi^{-1}(\overline{B}_X(0,\delta))$ は凸集合ゆえ(弧状)連結であるから、

$$\Phi^{-1}(\overline{B}_X(0,\delta))\subset B$$

が成り立つ。これより、

$$\lVert \Phi^{-1}(x)\rVert\leq \delta^{-1}\lVert x\rVert\quad(\forall x\in X)$$

が成り立つので、$\Phi^{-1}:\mathbb{F}^N\rightarrow X$ は有界線形作用素である。


系4.2(有限次元ノルム空間はBanach空間)

任意の有限次元ノルム空間はBanach空間である。

証明

$X$ を $\mathbb{F}$ 上の $N$ 次元ノルム空間とし、命題3.1における同相写像 $\Phi:\mathbb{F}^N\rightarrow X$ を考える。$(x_n)_{n\in\mathbb{N}}$ を $X$ の Cauchy 列とすると、$(\Phi^{-1}(x_n))_{n\in \mathbb{N}}$ は $\mathbb{F}^N$ の Cauchy 列であり、$\mathbb{F}^N$ は Banach 空間であるので $(\Phi^{-1}(x_n))_{n\in \mathbb{N}}$ は収束する。よって $(x_n)_{n\in\mathbb{N}}$ は収束する。

系4.3(ノルム空間の有限次元部分空間は自動的に閉)

ノルム空間の有限次元部分空間は閉である。

証明

$X$ をノルム空間、$M\subset X$ を有限次元部分空間とする。任意の $x\in \overline{M}$ に対し $x$ に収束する $M$ の点列 $(x_n)_{n\in \mathbb{N}}$ が取れる。$M$ はBanach空間なので $(x_n)_{n\in\mathbb{N}}$ は $M$ において収束する。ゆえに $x\in M$ である。


系4.4(有限次元ノルム空間からノルム空間への線形作用素は自動的に有界)

$X$ を $\mathbb{F}$ 上の有限次元ノルム空間、$Y$ を$\mathbb{F}$ 上の任意のノルム空間とする。このとき任意の線形作用素 $T:X\rightarrow Y$ に対し $T$ は有界線形作用素である。


証明

$X$ を $\mathbb{F}$ 上の $N$ 次元ノルム空間とし、命題3.1における同相写像 $\Phi:\mathbb{F}^N\rightarrow X$ を考える。

$$\hat{T}: \mathbb{F}^N\ni (t_1,\ldots,t_N)\mapsto \sum_{j=1}^{N}t_jTe_j\in Y$$

は連続な線形作用素なので有界線形作用素である。$T$ は有界線形作用素 $\Phi^{-1}$ と $\hat{T}$ の合成なので、有界線形作用素である。


5. Banach空間における総和

定義5.1(総和 $\sum_{j\in J}x_j$ の収束)

$X$ をノルム空間、$J$ を集合とし、各 $j\in J$ に対し $x_j\in X$ が与えられているとする。そして $\mathcal{F}_J$ を $J$ の有限部分集合全体に集合の包含関係による順序を入れた有向集合とする。$\mathcal{F}_J$ によって添字付けられた $X$ のネット $(\sum_{j\in F}x_j)_{F\in \mathcal{F}_J}$ が収束するとき、$\sum_{j\in J}x_j$ は収束すると言い、その収束点を、

$$\sum_{j\in J}x_j=\lim_{F\rightarrow J}\sum_{j\in F}x_j$$

と表す。

ネットについてはネットによる位相空間論を参照されたい。


注意5.2( $\sum_{n=1}^{\infty}x_n$ と $\sum_{n\in\mathbb{N}}x_n$ )

$\sum_{n\in\mathbb{N}}x_n$ が収束するならば $\sum_{n=1}^{\infty}x_n$ は $\sum_{n\in\mathbb{N}}x_n$ に収束する。しかし逆は一般に成り立たない。

命題5.3(総和が収束するならば可算個を除いて $0$ )

$\sum_{j\in J}x_j$ が収束するならば、$\{j\in J:x_j\neq 0\}$ は可算集合である。

証明

任意の $\epsilon\in(0,\infty)$ に対し $J_{\epsilon}=\{j\in J:\lVert x_j\rVert\geq\epsilon\}$ とおくと、

$$\{j\in J:x_j\neq0\}=\bigcup_{n\in\mathbb{N}}J_{\frac{1}{n}}$$

である。これより任意の $\epsilon\in(0,\infty)$ に対し $J_{\epsilon}$ が有限集合であることを示せばよい。$\sum_{j\in J}x_j$ は収束するので、$F_{\epsilon}\in \mathcal{F}_J$ が存在し $F\supset F_{\epsilon}$ なる任意の $F\in \mathcal{F}_J$ に対し、

$$\left\lVert \sum_{j\in F}x_j-\sum_{j\in F_{\epsilon}}x_j\right\rVert<\epsilon$$

となる。よって任意の $j\in J\backslash F_{\epsilon}$ に対し $\lVert x_j\rVert<\epsilon$ であるから、$J_{\epsilon}\subset F_{\epsilon}$ である。ゆえに $J_{\epsilon}$ は有限集合である。



定義5.4(非負数の総和)

$J$ を空でない集合とし、各 $j\in J$ に対し $x_j\in [0,\infty]$ が与えられているとする。$J$ の有限部分集合全体 $\mathcal{F}_J$ に対し、

$$\sum_{j\in J}x_j=\sup_{F\in \mathcal{F_J}}\sum_{j\in F}x_j\in [0,\infty]$$

と定義する。$\mathbb{R}$ の上に有界な単調増加ネットは上限に収束するから、この定義は $x_j\in [0,\infty)$ $(\forall j\in J)$ で $\sum_{j\in J}x_j$ が収束する場合と矛盾しない。

定義5.5(総和の絶対収束)

$X$ をノルム空間、$J$ を集合とし、各 $j\in J$ に対し $x_j\in X$ が与えられているとする。$\sum_{j\in J}\lVert x_j\rVert<\infty$ が成り立つとき $\sum_{j\in J}x_j$ は絶対収束すると言う。



命題5.6(Banach空間における総和について絶対収束 $\Rightarrow$ 収束)

$X$をBanach空間、$J$を集合とし、各 $j\in J$ に対し $x_j\in X$ が与えられているとする。そして $\sum_{j\in J}x_j$ が絶対収束するとする。このとき $\sum_{j\in J}x_j$ は収束する。


証明

$J_0=\{j\in J:x_j\neq0\}$ とおく。 命題5.3より $J_0$ は可算集合である。もし $J_0$ が有限集合ならば明らかに $\sum_{j\in J}x_j$ は $\sum_{j\in J_0}x_j$ に収束する。 そこで $J_0$ は可算無限集合であるとし $\mathbb{N}\ni n\mapsto j_n\in J_0$ を全単射とする。

$$\sum_{n=1}^{\infty}\lVert x_{j_n}\rVert=\sum_{n\in \mathbb{N}}\lVert x_{j_n}\rVert=\sum_{j\in J_0}\lVert x_j\rVert=\sum_{j\in J}\lVert x_j\rVert<\infty$$

であり、$N>M$ なる任意の $N,M\in \mathbb{N}$ に対し、

$$\left\lVert\sum_{n=1}^{N}x_{j_n}-\sum_{n=1}^{M}x_{j_n}\right\rVert \leq \sum_{n=M+1}^{N}\lVert x_{j_n}\rVert =\sum_{n=1}^{N}\lVert x_{j_n}\rVert-\sum_{n=1}^{M}\lVert x_{j_n}\rVert$$

であるから $X$ の完備性より$\sum_{n=1}^{\infty}x_{j_n}$ は収束する。任意の $\epsilon\in(0,\infty)$ に対し $N\in \mathbb{N}$ で、 $$\left\lVert \sum_{n=1}^{\infty}x_{j_n}-\sum_{n=1}^{N}x_{j_n}\right\rVert<\frac{\epsilon}{2},\quad \sum_{n\geq N+1}\lVert x_{j_n}\rVert<\frac{\epsilon}{2}$$ なるものを取ると、$F\supset \{j_1,\ldots,j_N\}$ なる任意の $F\in \mathcal{F}_J$に対し,

$$\left\lVert \sum_{n=1}^{\infty}x_{j_n}-\sum_{j\in F}x_j\right\rVert \leq \lVert \sum_{n=1}^{\infty}x_{j_n}-\sum_{n=1}^{N}x_{j_n}\rVert+\sum_{n\geq N+1}\lVert x_{j_n}\rVert<\epsilon$$

となるので $\sum_{j\in J}x_j$ は $\sum_{n=1}^{\infty}x_{j_n}$ に収束する。


6. 内積、Hilbert空間、直交分解、Rieszの定理

定義6.1(内積、内積空間、Hilbert空間)

$\mathcal{H}$ を $\mathbb{F}$ 上の線形空間とする。 $$ (\cdot\mid \cdot):\mathcal{H}\times \mathcal{H}\ni (u,v)\mapsto (u\mid v)\in \mathbb{F} $$ が $\mathcal{H}$ 上の内積であるとは次が成り立つことを言う。

  • $(1)$ 任意の $u\in\mathcal{H}$ に対し $\mathcal{H}\ni v\mapsto (u\mid v)\in \mathbb{F}$ は線形汎関数。
  • $(2)$ 任意の $u,v\in \mathcal{H}$ に対し $\overline{(u\mid v)}=(v\mid u)$.
  • $(3)$ 任意の $v\in \mathcal{H}$ に対し $(v\mid v)\geq0$.
  • $(4)$ $(v\mid v)=0$ $\Leftrightarrow$ $v=0$.


内積が備わった $\mathbb{F}$ 上の線形空間を $\mathbb{F}$ 上の内積空間と言う。 $$ \lVert v\rVert:=\sqrt{(v\mid v)}\quad(\forall v\in \mathcal{H}) $$ とおくと、Schwarzの不等式(次の命題6.2) $$ \lvert (u\mid v)\rvert\leq \lVert u\rVert \lVert v\rVert\quad(\forall u,v\in\mathcal{H}) $$ が成り立つので、$\mathcal{H}\ni v\mapsto \lVert v\rVert \in [0,\infty)$ は $\mathcal{H}$ 上のノルムである。このノルムを内積から誘導されるノルムと言う。内積空間はこの内積から誘導されるノルムによるノルム空間とみなす。内積空間でBanach空間であるものをHilbert空間と言う。


ユークリッド空間 $\mathbb{R}^N$ は $\mathbb{R}$ 上のHilbert空間、ユニタリ空間 $\mathbb{C}^N$ は $\mathbb{C}$ 上のHilbert空間である。

命題6.2(Schwarzの不等式)

$\mathcal{H}$ を内積空間とすると、任意の $u,v\in \mathcal{H}$ に対し、 $$ \lvert(u\mid v)\rvert\leq \lVert u\rVert\lVert v\rVert,\quad \lVert u+v\rVert\leq \lVert u\rVert+\lVert v\rVert \quad(\forall u,v\in \mathcal{H}) $$ が成り立つ。

証明

$v=0$ ならば自明であるので $v\neq0$ とする。任意の $\alpha\in \mathbb{F}$ に対し、 $$ 0\leq (u-\alpha v\mid u-\alpha v)=\lVert u\rVert^2-\overline{\alpha(u\mid v)}-\alpha(u\mid v)+\lvert\alpha\rvert^2\lVert v\rVert^2 $$ であるから、 $$ \alpha:=\frac{(v\mid u)}{\lVert v\rVert^2} $$ とおけば、 $$ 0\leq \lVert u\rVert^2-\frac{\lvert (u\mid v)\rvert^2}{\lVert v\rVert^2} $$ を得る。よって $\lvert (u\mid v)\rvert\leq \lVert u\rVert\lVert v\rVert$ が成り立つ。そしてこれより、 $$ \lVert u+v\rVert^2=(u+v\mid u+v)=\lVert u\rVert^2+2\text{Re}(u\mid v)+\lVert v\rVert^2\leq \lVert u\rVert^2+2\lVert u\rVert\lVert v\rVert+\lVert v\rVert^2 =(\lVert u\rVert+\lVert v\rVert)^2 $$ であるから $\lVert u+v\rVert\leq \lVert u\rVert+\lVert v\rVert$ が成り立つ。


定義6.3(反線形写像)

$V,W$ を $\mathbb{F}$ 上の線形空間とする。$T:V\rightarrow W$ が反線形写像であるとは、 $$ T(u+v)=Tu+Tv,\quad T\alpha v=\overline{\alpha}Tv\quad(\forall u,v\in V,\forall \alpha\in \mathbb{F}) $$ が成り立つことを言う。$\mathbb{F}=\mathbb{R}$ の場合、反線形写像は線形写像である。


定義6.4(準双線形写像(汎関数))

$U,V,W$ を $\mathbb{F}$ 上の線形空間とする。

$$ \Phi:U\times V\ni (u,v)\mapsto \Phi(u,v)\in W $$ が準双線形写像であるとは、任意の $u\in U$ に対し $V\ni v\mapsto \Phi(u,v)\in W$ が線形写像であり、任意の $v\in V$ に対し $U\ni u\mapsto \Phi(u,v)\in W$ が反線形写像であることを言う。$W=\mathbb{F}$ である場合は準双線形汎関数と言う。


定義6.5(有界(準)双線形写像)

$U,V,W$ を $\mathbb{F}$ 上のノルム空間とする。(準)双線形写像 $\Phi:U\times V\rightarrow W$ に対し、 $$ \lVert \Phi\rVert:=\sup\{\lVert \Phi(u,v)\rVert:\lVert u\rVert\leq1,\lVert v\rVert\leq1\} $$ とおく。$\lVert \Phi\rVert<\infty$ であるとき $\Phi$ は有界であると言い、$\lVert\Phi\rVert$ を $\Phi$ のノルムと言う。 $$ \lVert \Phi(u,v)\rVert\leq \lVert \Phi\rVert\lVert u\rVert\lVert v\rVert\quad(\forall u\in U,\forall v\in V) $$ であるから有界(準)双線形写像 $\Phi:U\times V\rightarrow W$ は直積位相に関して連続である。

注意6.6(内積はノルムが $1$ 以下の有界準双線形汎関数)

Schwarzの不等式より内積 $\mathcal{H}\times\mathcal{H}\ni (u,v)\mapsto (u\mid v)\in \mathbb{F}$ はノルムが $1$ 以下の有界準双線形汎関数である。上で述べているように内積は直積位相で連続である。


定義6.7(直交、直交補空間)

$\mathcal{H}$ を内積空間とする。$u,v\in \mathcal{H}$ に対し $(u\mid v)=0$ が成り立つとき $u$ と $v$ は互いに直交すると言う。また $E,F\subset \mathcal{H}$ に対し $(u\mid v)=0$ $(\forall u\in E,\forall v\in F)$ が成り立つとき $E,F$ は互いに直交すると言う。$E\subset \mathcal{H}$ に対し、 $$ E^{\perp}:=\{v\in \mathcal{H}:\forall u\in E, (u\mid v)=0\} $$ を $E$ の直交補空間と言う。内積の連続性より $E^{\perp}\subset \mathcal{H}$ は閉部分空間であり、$E^{\perp}=(\overline{E})^{\perp}$ である。

注意6.8(中線定理)

$\mathcal{H}$ を内積空間とする。任意の $u,v\in \mathcal{H}$ に対し、 $$ \lVert u+v\rVert^2+\lVert u-v\rVert^2=2(\lVert u\rVert^2+\lVert v\rVert^2) $$ が成り立つ。

補題6.9(Hilbert空間の閉凸集合と最適近似)

$\mathcal{H}$ をHilbert空間、$C\subset \mathcal{H}$ を閉凸集合とする。このとき任意の $u\in \mathcal{H}$ に対し、 $$ \lVert u-v_0\rVert=d(u,C) $$ を満たす $v_0\in C$ が唯一つ存在する。ただし $d(u,C)$ は $u$ と $C$ の距離、すなわち、 $$ d(u,C)=\inf\{\lVert u-v\rVert:v\in C\} $$ である。

証明

下限の定義より $C$ の列 $(v_n)_{n\in \mathbb{N}}$ で、 $$ d(u,C)=\lim_{n\rightarrow\infty}\lVert u-v_n\rVert $$ を満たすものが取れる。中線定理より任意の $n,m\in \mathbb{N}$ に対し、 $$ \lVert (u-v_n)+(u-v_m)\rVert^2+\lVert v_n-v_m\rVert^2 =2(\lVert u-v_n\rVert^2+\lVert u-v_m\rVert^2) $$ であり、$C$ が凸集合であることから、 $$ \lVert (u-v_n)+(u-v_m)\rVert^2 =4\left\lVert u-\frac{1}{2}(v_n+v_m)\right\rVert^2\geq 4d(u,C)^2 $$ であるので、 $$ \lVert v_n-v_m\rVert^2\leq 2\{(\lVert u-v_n\rVert^2-d(u,C)^2)+(\lVert u-v_m\rVert^2-d(u,C)^2)\} $$ である。よって $(v_n)_{n\in \mathbb{N}}$ はCauchy列である。$\mathcal{H}$ はHilbert空間であり $C$ は閉であるから $(v_n)_{n\in \mathbb{N}}$ はある $v_0\in C$ に収束し、 $$ \lVert u-v_0\rVert=\lim_{n\rightarrow\infty}\lVert u-v_n\rVert=d(u,C) $$ である。もし $v_0'\in C$ も $\lVert u-v_0'\rVert=d(u,C)$ を満たすならば、中線定理より、 $$ \begin{aligned} 4d(u,C)^2&=\lVert (u-v_0)+(u-v_0')\rVert^2+\lVert v_0-v_0'\rVert^2\\ &=4\left\lVert u-\frac{1}{2}(v_0+v_0')\right\rVert^2+\lVert v_0-v_0'\rVert^2\\ &\geq 4d(u,C)^2+\lVert v_0-v_0'\rVert^2 \end{aligned} $$ である。よって $\lVert v_0-v_0'\rVert=0$ であるから $v_0=v_0'$ である。

注意6.10(互いに直交する部分空間の和は直和)

$\mathcal{H}$ を内積空間、$M,N\subset \mathcal{H}$ を互いに直交する部分空間とする。このとき任意の $v\in M\cap N$ に対し $\lVert v\rvert^2=(v\mid v)=0$ であるので $M\cap N=\{0\}$ である。よって和空間 $M+N=\{u+v:u\in M,v\in N\}$ は直和 $M\oplus N$ である。

定理6.11(Hilbert空間の直交分解)

$\mathcal{H}$ をHilbert空間、$M\subset \mathcal{H}$ を閉部分空間とする。このとき、 $$ \mathcal{H}=M\oplus M^{\perp} $$ が成り立つ。

証明

任意の $v\in \mathcal{H}$ に対し補題6.9より $\lVert v-v_1\rVert=d(v,M)$ なる $v_1\in M$ が一意存在する。$v_2:=v-v_1$ とおき、$v_2\in M^{\perp}$ が成り立つことを示せばよい。任意の $u\in M$ と任意の $\epsilon\in(0,\infty)$ に対し、 $$ \lVert v_2\mp\epsilon u\rVert=\lVert v-(v_1\pm \epsilon u)\rVert \geq d(v,M)=\lVert v_2\rVert $$ であるから、 $$ \lVert v_2\rVert^2\leq \lVert v_2\rVert^2\mp 2\epsilon\text{Re}(v_2\mid u)+\epsilon^2\lVert u\rVert^2 $$ である。したがって、 $$ \pm2\text{Re}(v_2\mid u)\leq\epsilon\lVert u\rVert^2\quad(\forall u\in M,\forall \epsilon\in (0,\infty)) $$ が成り立つ。よって $u\in M$ と $\epsilon\in(0,\infty)$ の任意性より、 $$ {\rm Re}(v_2\mid u)=0\quad(\forall u\in M) $$ である。$\mathcal{H}$ が $\mathbb{C}$ 上のHilbert空間の場合は、 $$ {\rm Im}(v_2\mid u)={\rm Re}(v_2\mid iu)=0\quad(\forall u\in M) $$ である。よって $v_2\in M^{\perp}$ である。

命題6.12(Hilbert空間の部分空間の閉包は第二直交補空間)

Hilbert空間 $\mathcal{H}$ の部分空間 $M$ に対し、 $$ M^{\perp\perp}=\overline{M} $$ が成り立つ。

証明

$(M)^{\perp}=(\overline{M})^{\perp}$ であるから、$M$ は閉部分空間であるとして示せば十分である。$M\subset M^{\perp\perp}$ は自明である。逆の包含関係を示す。任意の $v\in M^{\perp\perp}$ に対し定理6.11より、 $$ v=v_1+v_2,\quad v_1\in M,\quad v_2\in M^{\perp} $$ と表され、$v_1\in M\subset M^{\perp\perp}$ より、 $$ v_2=v-v_1\in M^{\perp}\cap M^{\perp\perp}=\{0\} $$ である。よって $v=v_1\in M$ である。


定理6.13(Rieszの定理)

Hilbert空間 $\mathcal{H}$ に対し、 $$ \mathcal{H}\ni v\mapsto (v\mid \cdot)\in \mathcal{H}^* $$ はノルムを保存する全単射反線形写像である。

証明

内積の定義とSchwarzの不等式より反線形写像であり、任意の $v\in \mathcal{H}$ に対し $\lVert (v\mid \cdot)\rVert\leq\lVert v\rVert$ である。また、

$$ \lVert v\rVert^2=(v\mid v)\leq \lVert (v\mid\cdot)\rVert\lVert v\rVert $$ であるから $\lVert (v\mid \cdot)\rVert=\lVert v\rVert$ である。後は全射であることを示せばよい。任意の $\varphi\in \mathcal{H}^*$ を取る。$\varphi=0$ ならば $\varphi=(0\mid\cdot)$ であるから $\varphi\neq0$ とする。このとき閉部分空間 $\text{Ker}(\varphi)$(閉であることは $\varphi$ の連続性による)に対し、$\text{Ker}(\varphi)\neq\mathcal{H}$ であるから、定理6.11より、$v_0\in (\text{Ker}(\varphi))^{\perp}$ で $\varphi(v_0)\neq0$ なるものが取れる。 線形性より $\varphi(v_0)=1$ としてよい。このとき任意の $v\in \mathcal{H}$ に対し $v-\varphi(v)v_0\in \text{Ker}(\varphi)$ であるから、 $$ 0=(v_0\mid v-\varphi(v)v_0)=(v_0\mid v)-\lVert v_0\rVert^2\varphi(v) $$ である。よって $\varphi=(\lVert v_0\rVert^{-2}v_o\mid \cdot)$ であるから、全射である。


7. Hilbert空間上の有界線形作用素の共役作用素

定理7.1(Hilbert空間上の有界準双線形汎関数に対応する有界線形作用素)

$\mathcal{H},\mathcal{K}$ を $\mathbb{F}$ 上のHilbert空間とし、$\Phi:\mathcal{H}\times \mathcal{K}\rightarrow\mathbb{F}$ を有界準双線形汎関数とする。このとき、 $$ \Phi(u,v)=(u\mid Tv)\quad(\forall u\in \mathcal{H}, \forall v\in \mathcal{K}) $$ を満たす $T\in \mathbb{B}(\mathcal{K},\mathcal{H})$ が唯一つ存在する。そして $\lVert \Phi\rVert=\lVert T\rVert$ が成り立つ。

証明

一意性は内積の定義より自明である。任意の $v\in \mathcal{K}$ に対し $\overline{\Phi(\cdot,v)}\in \mathcal{H}^*$ であるから、Rieszの定理より、$T:\mathcal{K}\rightarrow\mathcal{H}$ で、 $$ \Phi(u,v)=(u\mid Tv)\quad(\forall u\in \mathcal{H}) $$ なるものが定まる。 このとき $\Phi$ と内積の準双線形性より $T:\mathcal{K}\rightarrow\mathcal{H}$ は線形写像であり、 $$ \lVert Tv\rVert^2=(Tv\mid Tv)=\Phi(Tv,v)\leq \lVert \Phi\rVert\lVert Tv\rVert\lVert v\rVert\quad(\forall v\in \mathcal{K}) $$ であるから、$T\in\mathbb{B}(\mathcal{K},\mathcal{H})$、$\lVert T\rVert\leq \lVert \Phi\rVert$ である。またSchwarzの不等式より、 $$ \lvert\Phi(u,v)\rvert=\lvert(u\mid Tv)\rvert\leq \lVert u\rVert\lVert Tv\rVert\leq \lVert T\rVert\lVert u\rVert\lVert v\rVert\quad(\forall u\in \mathcal{H},\forall v\in \mathcal{K}) $$ であるから、$\lVert\Phi\rVert\leq \lVert T\rVert$ である。

命題7.2 

$\mathcal{H},\mathcal{K}$ を $\mathbb{F}$ 上のHilbert空間とし、$T\in \mathbb{B}(\mathcal{H},\mathcal{K})$ とする。このとき、 $$ \Phi:\mathcal{H}\times \mathcal{K}\ni (u,v)\mapsto (Tu\mid v)\in \mathbb{K} $$ はノルムが $\lVert T\rVert$ の有界準双線形汎関数である。

証明

Schwarzの不等式より、 $$ \lvert\Phi(u,v)\rvert=\lvert (Tu\mid v)\rvert\leq \lVert Tu\rVert\lVert v\rVert\leq \lVert T\rVert\lVert u\rVert\lVert v\rVert\quad(\forall u\in \mathcal{H},\forall v\in \mathcal{K}) $$ であるから $\lVert \Phi\rVert\leq \lVert T\rVert$ である。また、 $$ \lVert Tu\rVert^2=\Phi(u,Tu)\leq \lVert \Phi\rVert\lVert u\rVert\lVert Tu\rVert \leq \lVert \Phi\rVert\lVert T\rVert\lVert u\rVert^2\quad(\forall u\in \mathcal{H}) $$ であるから $\lVert T\rVert^2\leq \lVert \Phi\rVert\lVert T\rVert$、よって $\lVert T\rVert\leq \lVert\Phi\rVert$ である。

定義7.3(Hilbert空間上の有界線形作用素の共役作用素)

$\mathcal{H},\mathcal{K}$ を $\mathbb{F}$ 上のHilbert空間とし、$T\in \mathbb{B}(\mathcal{H},\mathcal{K})$ とする。このとき定理7.1命題7.2より、 $T^*\in \mathcal{B}(\mathcal{K},\mathcal{H})$ で、 $$ (Tu\mid v)=(u\mid T^*v)\quad(\forall u\in \mathcal{H},\forall v\in \mathcal{K}) $$ を満たすものが唯一つ存在し、 $\lVert T\rVert=\lVert T^*\rVert$ である。$T^*$ を $T$ の共役作用素と言う。


命題7.4(共役作用素の基本性質)

$\mathcal{H},\mathcal{K},\mathcal{L}$ を $\mathbb{F}$ 上のHilbert空間とする。次が成り立つ。

  • $(1)$ 任意の $S,T\in \mathbb{B}(\mathcal{H},\mathcal{K})$ に対し $(S+T)^*=S^*+T^*$.
  • $(2)$ 任意の $T\in \mathbb{B}(\mathcal{H},\mathcal{K})$ と任意の $\alpha\in\mathbb{F}$ に対し $(\alpha T)^*=\overline{\alpha}T^*$.
  • $(3)$ 任意の $T\in \mathbb{B}(\mathcal{H},\mathcal{K})$、$S\in \mathbb{B}(\mathcal{K},\mathcal{L})$ に対し $(ST)^*=T^*S^*$.((ただし $ST$ は $S$ と $T$ の合成である。))
  • $(4)$ 任意の $T\in \mathbb{B}(\mathcal{H},\mathcal{K})$ に対し $T^{**}=T$.
  • $(5)$ 任意の $T\in \mathbb{B}(\mathcal{H},\mathcal{K})$ に対し $\lVert T^*T\rVert=\lVert T\rVert^2$.

証明

$(1)\sim(4)$ は共役作用素の定義より容易に確かめられる。$(5)$ は、 $$ \lVert Tv\rVert^2=(Tv\mid Tv)=(v\mid T^*Tv)\leq \lVert v\rVert\lVert T^*Tv\rVert\leq \lVert T^*T\rVert\lVert v\rVert^2\quad(\forall v\in \mathcal{H}) $$ より $\lVert T\rVert^2\leq \lVert T^*T\rVert\leq \lVert T^*\rVert\lVert T\rVert=\lVert T\rVert^2$ であるから成り立つ。

系7.5(Hilbert空間 $\mathcal{H}$ に対し $\mathbb{B}(\mathcal{H})$ は $C^*$-環)

$\mathbb{F}$ 上のHilbert空間 $\mathcal{H}$ に対しBanach環 $\mathbb{B}(\mathcal{H})$ は、$\mathbb{B}(\mathcal{H})\ni T\mapsto T^*\in \mathbb{B}(\mathcal{H})$ を対合として $\mathbb{F}$ 上の $C^*$-環である。

8. セミノルム位相

定義8.1(位相線形空間)

$X$ を $\mathbb{F}$ 上の線形空間とする。$X$ がHausdorff空間でもあり、加法とスカラー倍

  • $X\times X\ni (x,y)\mapsto x+y\in X$,
  • $\mathbb{F}\times X\ni (\alpha,x)\mapsto \alpha x\in X$ ~

が共に直積位相に関して連続であるとき、$X$ を位相線形空間と言う。

ノルム空間は位相線形空間である。

定義8.2(セミノルム)

$X$ を $\mathbb{F}$ 上の線形空間とする。 $p:X\rightarrow[0,\infty)$ が $X$ 上のセミノルムであるとは、

  • $(1)$ 任意の $x,y\in X$ に対し $p(x+y)\leq p(x)+p(y)$.
  • $(2)$ 任意の $x\in X$ と任意の $\alpha\in \mathbb{F}$ に対し $p(\alpha x)=\lvert\alpha\rvert p(x)$.

が成り立つことを言う。

定義8.3(セミノルムの分離族(separating family of seminorms))

$X$ を $\mathbb{F}$ 上の線形空間とする。$X$ 上のセミノルムの集合か$\mathcal{P}$ が $X$ を分離するとは、 $$ \{x\in X:\forall p\in \mathcal{P}, p(x)=0\}=\{0\} $$ が成り立つことを言う。$X$ を分離する $X$ 上のセミノルムの集合を $X$ 上のセミノルムの分離族と呼ぶこととする。


定義8.4(セミノルムの分離族が誘導するセミノルム位相、セミノルム空間)

$X$ を $\mathbb{F}$ 上の線形空間、$\mathcal{P}$ を $X$ 上のセミノルムの分離族とする。任意の $(p,a)\in \mathcal{P}\times X$ に対し、 $$ p_a:X\ni x\mapsto p(x-a)\in [0,\infty) $$ と定義する。このとき $(p_a:X\rightarrow[0,\infty))_{(p,a)\in \mathcal{P}\times X}$ が $X$ 上に誘導する始位相を $\mathcal{P}$ が誘導するセミノルム位相と言う。(始位相に関してはネットによる位相空間論を参照。)次の命題8.6より $X$ はセミノルム位相により位相線形空間である。セミノルム位相による位相線形空間をセミノルム空間と言う。

定義8.5(絶対凸(absolutely convex))

$X$ を $\mathbb{F}$ 上の線形空間とする。凸集合 $C\subset X$ が絶対凸であるとは、任意の $x\in C$ と $\lvert\alpha\rvert\leq 1$ を満たす任意の $\alpha\in\mathbb{F}$ に対し $\alpha x\in C$ が成り立つことを言う。

命題8.6(セミノルム位相の基本性質)

$X$ を $\mathbb{F}$ 上の線形空間、$\mathcal{P}$ を $X$ 上のセミノルムの分離族とする。$\mathcal{P}$ が誘導するセミノルム位相について次が成り立つ。

  • $(1)$ $X$ のネット $(x_{\lambda})_{\lambda\in\Lambda}$ と $x\in X$ に対し、

$$ x_{\lambda}\rightarrow x\quad\Leftrightarrow\quad p(x_{\lambda}-x)\rightarrow0\quad(\forall p\in \mathcal{P}). $$

  • $(2)$ $X$ は位相線形空間である。
  • $(3)$ 任意の有限個の $p_1,\ldots,p_n\in \mathcal{P}$ と任意の $\epsilon\in(0,\infty)$ に対し、

$$ V(p_1,\ldots,p_n;\epsilon):=\bigcap_{k=1}^{n}p_k^{-1}([0,\epsilon))\quad\quad(*) $$ は $0\in X$ の絶対凸な開近傍であり、 $$ \{V(p_1,\ldots,p_n;\epsilon):n\in \mathbb{N},p_1,\ldots,p_n\in \mathcal{P},\epsilon\in (0,\infty)\}\quad\quad(**) $$ は $0\in X$ の基本近傍系である。


証明

$$ x_{\lambda}\rightarrow x\quad\Leftrightarrow\quad \lvert p_a(x_{\lambda})-p_a(x)\rvert\rightarrow0\quad(\forall (p,a)\in \mathcal{P}\times X) $$ である。そして任意の $(p,a)\in \mathcal{P}\times X$ に対しセミノルムの定義より、 $$ \lvert p_a(x_{\lambda})-p_a(x)\rvert\leq p(x_{\lambda}-x),\quad p_x(x_{\lambda})-p_x(x)=p_x(x_{\lambda}-x)\quad(\forall \lambda\in\Lambda) $$ であるから、 $$ \lvert p_a(x_{\lambda})-p_a(x)\rvert\rightarrow0\quad(\forall (p,a)\in \mathcal{P}\times X)\quad\Leftrightarrow\quad p(x_{\lambda}-x)\rightarrow0\quad(\forall p\in \mathcal{P}) $$ である。よって成り立つ。

  • $(2)$ 加法とスカラー倍の連続性は、$(1)$ と、連続性のネットによる特徴付け(ネットによる位相空間論定理3)により分かる。$\mathcal{P}$ はセミノルムの分離族であるから、$x\neq y$ なる $x,y\in X$ に対し、$p_a(x)\neq p_a(y)$ なる $(p,a)\in \mathcal{P}\times X$ が取れる。$p_a(x),p_a(y)$ を分離する $[0,\infty)$ の開集合 $U,V$ を取れば、$p_a^{-1}(U), p_a^{-1}(V)$ は $x,y$ を分離する $X$ の開集合である。よって $X$ はHausdorff空間である。
  • $(3)$ $(1)$ より任意の $p\in\mathcal{P}$ に対し $p:X\rightarrow[0,\infty)$ は連続なので、任意の $\epsilon\in (0,\infty)$ に対し $p^{-1}([0,\epsilon))$ は $0\in X$ の開近傍である。またこれは明らかに絶対凸である。よって $(*)$ は $0\in X$ の絶対凸な開近傍である。$0\in X$ の任意の近傍 $V$ に対し始位相の定義より有限個の $(p_1,a_1),\ldots,(p_n,a_n)\in \mathcal{P}\times X$ と $\epsilon\in(0,\infty)$ が取れて、

$$ \bigcap_{k=1}^{n}p_{k,a_k}^{-1}(B(p_{k,a_k}(0),\epsilon))\subset V $$ となる。ここで、 $$ \lvert p_{k,a_k}(x)-p_{k,a_k}(0)\rvert\leq p_k(x)\quad(\forall x\in X,k=1,\ldots,n) $$ であるから、 $$ p_k^{-1}([0,\epsilon))\subset p_{k,a_k}^{-1}(B(p_k(a_k),\epsilon))\quad(k=1,\ldots,n) $$ である。よって、 $$ V(p_1,\ldots,p_n;\epsilon)\subset \bigcap_{k=1}^{n}p_{k,a_k}^{-1}(B(p_{k,a_k}(0),\epsilon))\subset V $$ であるから $(**)$ は $0\in X$ の基本近傍系である。

例8.7(ノルム空間はセミノルム空間)

$\mathbb{F}$ 上のノルム空間 $(X,\lVert \cdot\rVert)$ は、$1$ つのセミノルムからなるセミノルムの分離族 $\{\lVert \cdot\rVert\}$ から誘導されるセミノルム位相によるセミノルム空間である。

9. 汎弱位相

定義9.1(線形汎関数の分離族)

$X$ を $\mathbb{F}$ 上の線形空間とする。$X$ 上の線形汎関数からなる集合 $\mathcal{F}$ が $X$ を分離するとは、 $$ \{x\in X: \forall \varphi\in \mathcal{F},\varphi(x)=0\}=\{0\} $$ が成り立つことを言う。$X$ を分離する $X$ 上の線形汎関数からなる集合を $X$ 上の線形汎関数の分離族と呼ぶこととする。


定義9.2(線形汎関数の分離族が誘導する汎弱位相)

$X$ を $\mathbb{F}$ 上の線形空間、$\mathcal{F}$ を $X$ 上の線形汎関数の分離族とする。任意の $\varphi\in \mathcal{F}$ に対しセミノルム $\lvert\varphi(\cdot)\rvert:X\ni x\mapsto \lvert\varphi(x)\in [0,\infty)$ を定義する。このとき、 $$ \mathcal{P}:=\{\lvert\varphi(\cdot)\rvert:\varphi\in \mathcal{F}\} $$ は $X$ 上のセミノルムの分離族である。$\mathcal{P}$が誘導する $X$ 上のセミノルム位相を $\mathcal{F}$ が誘導する $X$ 上の汎弱位相と言う。

命題9.3(汎弱位相の基本性質)

$X$ を $\mathbb{F}$ 上の線形空間、$\mathcal{F}$ を $X$ 上の線形汎関数の分離族とする。$\mathcal{F}$ が誘導する $X$ 上の汎弱位相について次が成り立つ。

  • $(1)$ $X$ のネット $(x_{\lambda})_{\lambda\in\Lambda}$ と $x\in X$ に対し、

$$ x_{\lambda}\rightarrow x\quad\Leftrightarrow \quad\varphi(x_{\lambda})\rightarrow\varphi(x)\quad(\forall \varphi\in \mathcal{F}). $$

  • $(2)$ $X$ は位相線形空間である。
  • $(3)$ 任意の有限個の $\varphi_1,\ldots,\varphi_n\in \mathcal{F}$ と任意の $\epsilon\in(0,\infty)$ に対し、

$$ V(\varphi_1,\ldots,\varphi_n;\epsilon):=\bigcap_{k=1}^{n}\{x\in X:\lvert\varphi_k(x)\rvert<\epsilon\} $$ は $0\in X$ の絶対凸な開近傍であり、 $$ \{V(\varphi_1,\ldots,\varphi_n;\epsilon):n\in \mathbb{N},\varphi_1,\ldots,\varphi_n\in \mathcal{F},\epsilon\in (0,\infty)\} $$ は $0\in X$ の基本近傍系である。

証明


命題8.6による。


補題9.4

$X$ を $\mathbb{F}$ 上の線形空間、$\varphi,\varphi_1,\ldots,\varphi_n$ を $X$ 上の線形汎関数とし、 $$ \bigcap_{k=1}^{n}\text{Ker}(\varphi_k)\subset \text{Ker}(\varphi)\quad\quad(*) $$ が成り立つとする。このとき $\varphi$ は $\varphi_1,\ldots,\varphi_n$ の線形結合で表される。

証明

$$ \Phi:X\ni x\mapsto (\varphi_1(x),\ldots,\varphi_n(x))\in \mathbb{F}^n $$ なる線形作用素を考えると、$(*)$ より線形汎関数 $$ \Phi(X)\ni \Phi(x)\mapsto \varphi(x)\in \mathbb{F}\quad\quad(**) $$ が定義できる。そこで、 $$ \mathbb{F}^n=\Phi(X)\oplus M $$ なる部分空間 $M\subset \mathbb{F}^n$ を取り、$(**)$ を $\mathbb{F}^n$ 上の線形汎関数 $$ \psi:\mathbb{K}^n=\Phi(X)\oplus M\ni \Phi(x)+m\mapsto \varphi(x)\in \mathbb{F} $$ に拡張する。$\mathbb{F}^n$ の標準基底 $e_1,\ldots,e_n$ に対し、 $$ \varphi(x)=\psi(\Phi(x))=\psi\left(\sum_{k=1}^{n}\varphi_k(x)e_k\right) =\sum_{k=1}^{n}\psi(e_k)\varphi_k(x)\quad(\forall x\in X) $$ であるから $\varphi$ は $\varphi_1,\ldots,\varphi_n$ の線形結合である。


命題9.5(汎弱位相に関して連続な線形汎関数全体)

$X$ を $\mathbb{F}$ 上の線形空間、$\mathcal{F}$ を $X$ 上の線形汎関数の分離族とする。このとき $\mathcal{F}$ が誘導する汎弱位相に関して連続な線形汎関数全体は $\text{span}(\mathcal{F})$ である。ただし $\text{span}(\mathcal{F})$ は $\mathcal{F}$ の元の線形結合全体である。 $$

証明

$\text{span}(\mathcal{F})$ の元が汎弱位相に関して連続であることは命題9.3の $(1)$ による。(ネットによる位相空間論のネットによる連続性の特徴付けを参照。)$\varphi$ を汎弱位相に関して連続な線形汎関数とする。 このとき $\{x\in X:\lvert\varphi(x)\rvert<1\}$ は $0\in X$ の開近傍であるから、命題9.3の $(3)$ より有限個の $\varphi_1,\ldots,\varphi_n\in \mathcal{F}$ と $\epsilon\in(0,\infty)$ で、 $$ \bigcap_{k=1}^{n}\{x\in X:\lvert\varphi_k(x)\rvert<\epsilon\}\subset\{x\in X:\lvert\phi(x)\rvert<1\} $$ なるものが取れる。これより、 $$ \lvert\varphi(x)\rvert\leq \epsilon^{-1}\text{max}(\varphi_1(x),\ldots,\varphi_n(x))\quad(\forall x\in X) $$ が成り立つ。よって補題9.4より $\phi$ は $\varphi_1,\ldots,\varphi_n$ の線形結合で表されるから $\varphi\in \mathcal{F}$ である。


10. ノルム空間の双対空間の弱 *-位相、Alaogluの定理

定義10.1(弱 *-位相)

$X$ を $\mathbb{F}$ 上のノルム空間とする。任意の $x\in X$ に対し $X^*$ 上の線形汎関数 $$ \iota(x):X^*\ni \varphi\mapsto \varphi(x)\in \mathbb{F} $$ を定義する。このとき $\iota(X)=\{\iota(x):x\in X\}$ は $X^*$ を分離する。$\iota(X)$ が誘導する$X^*$ 上の汎弱位相を弱 *-位相と言う。


注意10.2(弱 *-位相に関する収束の特徴付け)

命題9.3より $X^*$ のネット $(\varphi_{\lambda})_{\lambda\in\Lambda}$ と $\varphi\in X^*$ に対し、 $$ \text{弱 *-位相に関して }\varphi_{\lambda}\rightarrow\varphi\quad\Leftrightarrow\quad\text{任意の }x\in X\text{ に対して }\varphi_{\lambda}(x)\rightarrow\varphi(x) $$ である。また命題9.5より弱 *-位相に関して連続な $X^*$ 上の線形汎関数全体は $\iota(X)$ に一致する。

定理10.3(Alaogluの定理)

$X$ を $\mathbb{F}$ 上のノルム空間とする。$X$ の双対空間 $X^*$ の単位ノルム閉球 $(X^*)_1:=\{\varphi\in X^*:\lVert \varphi\rVert\leq 1\}$ は弱 *-位相でコンパクトである。

証明

ネットによる位相空間論のコンパクト性の特徴付けより $(X^*)_1$ の任意の普遍ネット $(\varphi_{\lambda})_{\lambda\in\Lambda}$ が弱 *-位相で収束することを示せばよい。任意の $x\in X$ に対し $(\varphi_{\lambda}(x))_{\lambda\in\Lambda}$ は $\mathbb{F}$ のコンパクト集合 $\{t\in \mathbb{F}:\lvert t\rvert\leq \lVert x\rVert\}$ の普遍ネットであるから収束する。よって $\varphi: X\rightarrow \mathbb{F}$ で、 $$ \varphi(x)=\lim_{\lambda\in\Lambda}\varphi_{\lambda}(x)\quad(\forall x\in X) $$ なるものが定まる。 このとき $\varphi\in (X^*)_1$ であり、 弱 *-位相で $\varphi_{\lambda}\rightarrow\varphi$ である。



11. Hahn-Banachの拡張定理

定義11.1(Minkowski汎関数)

$X$ を $\mathbb{F}$ 上の線形空間とする。$m:X\rightarrow \mathbb{R}$ が次を満たすとき $m$ を $X$ 上のMinkowski汎関数と言う。

  • $(1)$ 任意の $x,y\in X$ に対し $m(x+y)\leq m(x)+m(y)$.
  • $(2)$ 任意の $x\in X$ と任意の $\alpha\in [0,\infty)$ に対し $m(\alpha x)=\alpha m(x)$.

定理11.2(Hahn-Banachの拡張定理1)

$X$ を $\mathbb{R}$ 上の線形空間、$m:X\rightarrow\mathbb{R}$ をMinkowski汎関数、$M\subset X$ を部分空間とし、$M$ 上の線形汎関数 $\varphi$ が $\varphi(x)\leq m(x)$ $(\forall x\in M)$ を満たすとする。このとき $X$ 上の線形汎関数 $\widetilde{\varphi}$ で、$\widetilde{\varphi}|_M=\varphi$ かつ $\widetilde{\varphi}(x)\leq m(x)$ $(\forall x\in X)$ を満たすものが存在する。

証明

$$ \Lambda:=\{(N,\psi):N\text{ は} M\text{ を含む} X\text{ の部分空間、}\psi\text{ は }N\text{ 上の線形汎関数で }\psi|_M=\varphi,\psi(x)\leq m(x)\text{ }(\forall x\in N) \} $$ とおき $\Lambda$ に次のように順序 $\leq$ を定義する。

$$ (N_1,\psi_1)\leq (N_2,\psi_2)\quad\Leftrightarrow\quad N_1\subset N_2,\text{ }\psi_2|_{N_1}=\psi_1. $$ このとき $(\Lambda,\leq)$ は帰納的順序集合である。実際、$\{(N_j,\psi_j)\}_{j\in J}\subset \Lambda$ が全順序部分集合ならば全順序性より $N=\bigcup_{j\in J}N_j$ は $X$ の部分空間であり $\psi|_{N_j}=\psi_j$ $(\forall j\in J)$ なる $N$ 上の線形汎関数 $\psi$ が定義できる。このとき $(N,\psi)$ は $\{(N_j,\psi_j)\}_{j\in J}$ の上界である。よってZornの補題より $(\Lambda,\leq)$ は極大元を持つ。それを $(N,\psi)$ とおく。 $N=X$ であることを示せば証明は終わる。そこで $x_0\in X\backslash N$ が存在すると仮定して矛盾を導く。任意の $s\in \mathbb{R}$ に対し、 $$ \psi_s:N\oplus \mathbb{R}x_0\ni x+\alpha x_0\mapsto \psi(x)+\alpha s\in \mathbb{R} $$ として $N\oplus\mathbb{R}x_0$ 上の線形汎関数 $\psi_s$ を定義すると、$\psi_s$ は $\psi$ の拡張である。 $$ \psi_{s_0}(x+\alpha x_0)\leq m(x+\alpha x_0)\quad(\forall x\in N,\forall \alpha\in\mathbb{R})\quad\quad(*) $$ を満たす $s_0\in \mathbb{R}$ の存在を示せば $(N\oplus \mathbb{R}x_0,\psi_{s_0})>(N,\psi)$ となるので $(N,\psi)$ の極大性との矛盾が言える。Minkowski汎関数の定義の $(1)$ の性質より、任意の $x,y\in N$ に対し、 $$ (m(x+x_0)-\psi(x))-(\psi(y)-m(y-x_0))\geq m(x+y)-\psi(x+y)\geq0 $$ が成り立つので、 $$ \inf_{x\in N}(m(x+x_0)-\psi(x))\geq s_0\geq \sup_{y\in N}(\psi(y)-m(y-x_0)) $$ なる $s_0\in \mathbb{R}$ が存在する。このとき、 $$ \psi(x)\pm s_0\leq m(x\pm x_0)\quad(\forall x\in N) $$ であるから、Minkowski汎関数の定義の $(2)$ の性質より、 $$ \psi(x)+\alpha s_0\leq m(x+\alpha x_0)\quad(\forall x\in N,\forall \alpha\in \mathbb{R}) $$ が成り立つ。よって $s_0$ は $(*)$ を満たす。

定理11.3(Hahn-Banachの拡張定理2)

$X$ を $\mathbb{F}$ 上の線形空間、$p:X\rightarrow[0,\infty)$ をセミノルム、$M\subset X$ を部分空間とし、$M$ 上の線形汎関数 $\varphi$ が $\lvert \varphi(x)\rvert\leq p(x)$ $(\forall x\in M)$ を満たすとする。このとき $X$ 上の線形汎関数 $\widetilde{\varphi}$ で、$\widetilde{\varphi}|_M=\varphi$ かつ $\lvert\widetilde{\varphi}(x)\rvert\leq p(x)$ $(\forall x\in X)$ を満たすものが存在する。

証明

$\mathbb{F}=\mathbb{R}$ の場合は定理11.2より直ちに分かる。$\mathbb{F}=\mathbb{C}$ とする。$X,M$ を自然に $\mathbb{R}$ 上の線形空間とみなしたものを $X_{\mathbb{R}}, M_{\mathbb{R}}$ とおく。 $$ M_{\mathbb{R}}\ni x\mapsto \text{Re}(\varphi(x))\in \mathbb{R} $$ は $M_{\mathbb{R}}$ 上の線形汎関数であり、$\lvert \text{Re}(\varphi(x))\rvert\leq p(x)$ $(\forall x\in M_{\mathbb{R}})$ であるから、$X_{\mathbb{R}}$ 上の線形汎関数 $\psi$ で、 $$ \psi(x)=\text{Re}(\varphi(x))\quad(\forall x\in M),\quad \lvert \psi(x)\rvert\leq p(x)\quad(\forall x\in X) $$ なるものが取れる。$\widetilde{\varphi}:X\rightarrow\mathbb{C}$ を、 $$ \widetilde{\varphi}(x):=\psi(x)-i\psi(ix)\quad(\forall x\in X) $$ と定義すると、$\widetilde{\varphi}$ は $\mathbb{C}$ 上の線形汎関数であり、任意の $x\in M$ に対し、 $$ \widetilde{\varphi}(x)=\text{Re}(\varphi(x))-i\text{Re}(\varphi(ix))=\varphi(x) $$ である。そして任意の $x\in X$ に対し $\alpha\in \mathbb{C}$ で $\lvert \widetilde{\varphi}(x)\rvert=\alpha\widetilde{\varphi}(x)$、$\lvert\alpha\rvert=1$ なるものを取れば、 $$ \lvert \widetilde{\varphi}(x)\rvert=\text{Re}(\varphi(\alpha x))=\psi(\alpha x)\leq p(\alpha x)=p(x) $$ である。よって $\mathbb{F}=\mathbb{C}$ の場合も成り立つ。

定理11.4(Hahn-Banachの拡張定理3)

$X$ を $\mathbb{F}$ 上のノルム空間、$M\subset X$ を部分空間、$\varphi\in M^*$ とする。このとき $\widetilde{\varphi}\in X^*$ で、$\widetilde{\varphi}|_M=\varphi$、$\lVert \widetilde{\varphi}\rVert=\lVert \varphi\rVert$ を満たすものが存在する。

証明

$X$ 上のセミノルム $X\ni x\mapsto \lVert \varphi\rVert\lVert x\rVert\in[0,\infty)$ に対し、定理11.3を適用すれば、$X$ 上の線形汎関数 $\widetilde{\varphi}$ で、 $$ \widetilde{\varphi}|_M=\varphi,\quad \lvert\widetilde{\varphi}(x)\rvert\leq \lVert\varphi\rVert\lVert x\rVert \quad(\forall x\in X) $$ を満たすものが取れる。上式の右の式より $\widetilde{\varphi}\in X^*$、$\lVert\widetilde{\varphi}\rVert\leq \lVert \varphi\rVert$ であり、左の式より $\lVert \varphi\rVert\leq \lVert \widetilde{\varphi}\rVert$ である。

定理11.5(Hahn-Banachの拡張定理4)

$X$ を $\mathbb{F}$ 上のノルム空間、$x_0\in X\backslash\{0\}$ とする。このとき $\varphi\in X^*$ で、 $$ \varphi(x_0)=\lVert x_0\rVert,\quad \lVert \varphi\rVert=1 $$ なるものが存在する。

証明

部分空間 $\mathbb{F}x_0$ 上のノルムが $1$ の有界線形汎関数 $\mathbb{F}x_0\ni \alpha x_0\mapsto \alpha\lVert x_0\rVert\in\mathbb{F}$ に対し定理11.4を適用すればよい。


12. ノルム空間の第二双対空間への埋め込み、ノルム空間の弱位相

定義12.1(ノルム空間の第二双対空間への埋め込み)

$X$ を $\mathbb{F}$ 上のノルム空間とする。任意の $x\in X$ に対し $\iota(x)\in X^{**}$ を、 $$ \iota(x):X^*\ni \varphi\mapsto \varphi(x)\in \mathbb{F} $$ と定義する。このとき線形写像 $$ \iota:X\ni x\mapsto \iota(x)\in X^{**} $$ は定理11.4よりノルムを保存する。$\iota:X\rightarrow X^{**}$ を $X$ の第二双対空間への埋め込みと言う。

定義12.2(ノルム空間の弱位相)

$X$ を $\mathbb{F}$ 上のノルム空間とする。定理11.4より $X^*$ は $X$ 上の線形汎関数の分離族である。$X^*$ が誘導する $X$ 上の汎弱位相を $X$ の弱位相と言う。

注意12.3(弱位相に関する収束の特徴付け)

命題9.3より $X$ のネット $(x_{\lambda})_{\lambda\in\Lambda}$ と $x\in X$ に対し、 $$ \text{弱位相に関して }x_{\lambda}\rightarrow\phi\quad\Leftrightarrow\quad\text{任意の }\varphi\in X^*\text{ に対して }\varphi(x_{\lambda})\rightarrow\varphi(x) $$ である。

注意12.4(ノルム空間 $X$ の弱位相に関して連続な線形汎関数全体は $X^*$)

命題9.5より弱位相に関して連続な $X$ 上の線形汎関数全体は $X^*$ に一致する。


13. Hahn-Banachの分離定理

補題13.1

$X$ を $\mathbb{F}$ 上の位相線形空間、$C\subset X$ を $0\in X$ の凸開近傍とし、$m:X\rightarrow [0,\infty)$ を、 $$ m(x):=\inf\left\{\lambda\in (0,\infty):\frac{1}{\lambda}x\in C\right\}\quad(\forall x\in X) $$ と定義する。このとき $m$ はMinkowski汎関数であり、 $$ C=\{x\in X:m(x)<1\} $$ が成り立つ。

証明

明らかに $m(0)=0$ であり、任意の $x\in X$ と任意の $\alpha\in (0,\infty)$ に対し、 $$ \alpha m(x)=\inf\left\{\alpha\lambda\in(0,\infty):\frac{1}{\alpha\lambda}\alpha\lambda x\in C\right\}=\inf\left\{\lambda\in(0,\infty):\frac{1}{\lambda}\alpha\lambda x\in C\right\}=m(\alpha x) $$ である。また任意の $x,y\in X$ と $\frac{1}{\lambda}x, \frac{1}{\mu}x\in C$ なる任意の $\lambda,\mu\in(0,\infty)$ に対し、 $C$ が凸集合であることから、 $$ \frac{1}{\lambda+\mu}(x+y)=\frac{\lambda}{\lambda+\mu}\frac{1}{\lambda}x+\frac{\mu}{\lambda+\mu}\frac{1}{\mu} y\in C $$ である。よって $m(x+y)\leq \lambda+\mu$ であり、$\lambda,\mu$ の任意性より、$m(x+y)\leq m(x)+m(y)$ が成り立つ。ゆえに $m$ はMinkowski汎関数である。任意の $x\in C$ に対し、$C$ が開集合であることとスカラー倍の連続性より $\lambda\in(0,1)$ で $\frac{1}{\lambda} x\in C$ なるものが取れる。よって $m(x)<1$ である。また $m(x)<1$ ならば、下限の定義より $\frac{1}{\lambda}x\in C$ なる $\lambda\in(0,1)$ が取れ、$C$ は $0$ を含む凸集合なので、 $$ x=\lambda\frac{1}{\lambda}x+(1-\lambda)0\in C $$ である。よって $C=\{x\in X:m(x)<1\}$ が成り立つ。


定理13.2(Hahn-Banachの分離定理)

$X$ を $\mathbb{F}$ 上の位相線形空間、$A,B\subset X$ を凸集合とし、$A$ は開集合で、$A\cap B=\emptyset$ とする。このとき $X$ 上の連続線形汎関数 $\varphi$ と $t\in \mathbb{R}$ で、 $$ \text{Re}(\varphi(x))<t\leq \text{Re}(\varphi(y))\quad(\forall x\in A, \forall y\in B) $$ を満たすものが存在する。

証明

  • $(1)$ $\mathbb{F}=\mathbb{R}$ の場合。任意の $x_0\in A$ と $y_0\in B$ を取り、$z_0:=y_0-x_0$ とおく。

$$ C:=A-B+z=\bigcup_{y\in B}(A-y+z_0) $$ は $0$ の凸開近傍であるから、補題13.1よりMinkowski汎関数 $m:X\rightarrow[0,\infty)$ で、 $$ C=\{x\in X:m(x)<1\} $$ なるものが取れる。$z_0\notin C$ より $1\leq m(z_0)$ であるから、線形汎関数 $\varphi_0:\mathbb{R}z_0\ni \alpha z_0\mapsto \alpha\in \mathbb{R}$ に対し、$\varphi_0(\alpha z_0)=\alpha\leq m(\alpha z_0)$ $(\forall \alpha\in \mathbb{R})$ である。よってHahn-Banachの拡張定理1より、$X$ 上の線形汎関数 $\varphi$ で、 $$ \varphi(\alpha z_0)=\alpha\quad(\forall \alpha\in\mathbb{R}),\quad\varphi(x)\leq m(x)\quad(\forall x\in X) $$ なるものが取れる。$\varphi$ が連続であることを示す。$0\in X$ において連続であることを示せば十分である。任意の $\epsilon\in (0,\infty)$ に対し $(\epsilon C)\cap (-\epsilon C)$ は $0$ の開近傍であり、 $$ \pm\frac{1}{\epsilon}\varphi(x)=\varphi\left(\pm\frac{1}{\epsilon}x\right)\leq m\left(\pm\frac{1}{\epsilon} x\right)<1\quad(\forall x\in (\epsilon C)\cap (-\epsilon C)) $$ であるから、 $$ \lvert\varphi(x)\rvert<\epsilon\quad(\forall x\in (\epsilon C)\cap (-\epsilon C)) $$ である。よって $\varphi$ は連続である。任意の $x\in A$ と任意の $y\in B$ に対し、 $$ \varphi(x)-\varphi(y)+1=\varphi(x-y+z_0)\leq m(x-y+z_0)<1 $$ であるから、 $$ \varphi(x)<\varphi(y)\quad(\forall x\in A,\forall y\in B) $$ が成り立つ。$t:=\sup(\varphi(A))$ とおけば、 $$ \varphi(x)\leq t\leq \varphi(y)\quad(\forall x\in A, \forall y\in B) $$ である。後は $t\notin \varphi(A)$ を示せばよい。$t=\varphi(x)$ なる $x\in A$ が存在すると仮定して矛盾を導く。$\varphi\neq0$ より $\varphi(w)>0$ なる $w\in X$ が取れる。$A$ は $x$ の開近傍なので十分小さい $\delta\in (0,\infty)$ を取れば $x+\delta w\in A$ となる。よって $t<t+\delta\varphi(w)=\varphi(x+\delta w)\in\varphi(A)$ となり、$t=\sup(\varphi(A))$ に矛盾する。

  • $(2)$ $\mathbb{F}=\mathbb{C}$ の場合。$X$ を自然に $\mathbb{R}$ 上の位相線形空間とみなしたものを $X_{\mathbb{R}}$ とおく。このとき $(1)$ より連続線形汎関数 $\psi:X_{\mathbb{R}}\rightarrow\mathbb{R}$ と $t\in \mathbb{R}$ で、

$$ \psi(x)<t\leq\psi(y)\quad(\forall x\in A,\forall y\in B) $$ なるものが取れる。$\varphi:X\rightarrow\mathbb{C}$ を、 $$ \varphi(x):=\psi(x)-i\psi(ix)\quad(\forall x\in X) $$ とおけば $\varphi$ は $X$ 上の連続線形汎関数であり、 $$ \text{Re}(\varphi(x))<t\leq\text{Re}(\varphi(y))\quad(\forall x\in A,\forall y\in B) $$ である。

系13.3 

$\mathbb{F}$ 上の線形空間 $X$ が $2$ つのセミノルム位相 $\mathcal{O}_1,\mathcal{O}_2$ を持つとし、$\mathcal{O}_1$ に関して連続な線形汎関数全体が $\mathcal{O}_2$ に関して連続な線形汎関数全体と一致するとする。このとき $X$ の凸集合 $C$ について、$C$ が $\mathcal{O}_1$ に関して閉であることと $\mathcal{O}_2$ に関して閉であることは同値である。

証明

$C$ が $\mathcal{O}_1$ に関して閉であるとして $\mathcal{O}_2$ に関しても閉であることを示せばよい。任意の $x_0\in X\backslash C$ に対し 命題8.6の $(3)$ より $\mathcal{O}_1$ に関する $x_0$ の凸開近傍で $C$ と交わらないものが取れる。よってHahn-Banachの分離定理より $\mathcal{O}_1$ に関して連続な線形汎関数 $\varphi$ と $t\in \mathbb{R}$ で、 $$ \text{Re}(\varphi(x_0))<t\leq \text{Re}(\varphi(x))\quad(\forall x\in C) $$ なるものが取れる。$\varphi$ は $\mathcal{O}_2$ に関しても連続であるので、 $$ V:=\{x\in X:\text{Re}(\varphi(x))<t\}\in \mathcal{O}_2 $$ であり、 $$ x_0\in V\subset X\backslash C $$ である。よって $x_0$ は $\mathcal{O}_2$ に関して $X\backslash C$ の内点である。$x_0$ は $X\backslash C$ の任意の点であるので、$X\backslash C\in \mathcal{O}_2$ である。ゆえに $C$ は $\mathcal{O}_2$ に関して閉集合である。


系13.4(ノルム空間の凸集合についてノルム閉であることと弱閉であることは同値)

$X$ を $\mathbb{F}$ 上のノルム空間とし、$C\subset X$ を凸集合とする。このとき $C$ がノルム位相で閉であることと弱位相で閉であることは同値である。

証明

注意12.4で述べたように $X$ の弱位相に関して連続な線形汎関数全体は $X^*$ と一致する。よって系13.3より成り立つ。

14. Krein-Milmanの端点定理

定義14.1(凸集合のフェイスと端点)

$X$ を $\mathbb{F}$ 上の線形空間、$C\subset X$ を凸集合とする。$F\subset C$ が次を満たすとき $F$ を $C$ のフェイスと言う。

  • $(1)$ $F$ は凸集合。
  • $(2)$ $\{(x,y)\in C\times C: \exists t\in (0,1)\text{ s.t. }(1-t)x+ty\in F\}\subset F\times F$.

$x\in C$ に対し $\{x\}$ が $C$ のフェイスであるとき $x$ を $C$ の端点と言う。 $C$ の端点全体を $\text{ext}(C)$ と表す。


定義14.2(凸包)

$X$ を $\mathbb{F}$ 上の線形空間とする。$E\subset X$ に対し、 $$ \text{conv}(E):=\left\{\sum_{j=1}^{n}t_jx_j:n\in\mathbb{N},\text{ }t_1,\ldots,t_n\geq0,\text{ }\sum_{j=1}^{n}t_j=1,\text{ }x_1,\ldots,x_n\in E\right\} $$ は $E$ を含む最小の凸集合である。これを $E$ の凸包と言う。

定理14.3(Krein-Milmanの端点定理)

$X$ を $\mathbb{F}$ 上のセミノルム空間、$C\subset X$ を空でないコンパクトな凸集合とする。このとき $\text{ext}(C)\neq\emptyset$ であり、 $$ C=\overline{\text{conv}(\text{ext}(C))}\quad\quad(*) $$ が成り立つ。

証明

  • $(1)$ $\text{ext}(C)\neq\emptyset$ を示す。$\mathcal{F}$ を $C$ の空でないコンパクトなフェイス全体に集合の逆包含関係による順序を入れた順序集合とする。このとき $\mathcal{F}$ は帰納的順序集合である。実際、$\{F_j\}_{j\in J}\subset \mathcal{F}$ を全順序部分集合とすると、全順序性とコンパクト性より $\bigcap_{j\in J}F_j\neq\emptyset$ であり、$\bigcap_{j\in J}F_j$ は $C$ のコンパクトなフェイスである。よってZornの補題より $C$ の空でないコンパクトなフェイスの中で(集合の包含関係による順序に関して)極小なものが存在する。それを $F$ とする。$F$ が一点集合であることを示せばよい。そこで互いに異なる $x_1,x_2\in F$ が存在すると仮定して矛盾を導く。命題8.6の $(3)$ より $x_1$ の凸開近傍で $x_2$ を含まないものが取れる。よってHahn-Banachの分離定理より $X$ 上の連続線形汎関数 $\varphi$ で、

$$ \text{Re}(\varphi(x_1))<\text{Re}(\varphi(x_2))\quad\quad(**) $$ なるものが取れる。$F$ はコンパクトで $\varphi$ は連続なので、 $$ s:=\text{min}\{\text{Re}(\varphi(x)):x\in F\} $$ が存在する。そこで空でないコンパクト集合 $$ F_0:=\{x\in F:\text{Re}(\varphi(x))=s\} $$ を考えれば、これは明らかに $F$ のフェイスである。したがって $F_0$ は $C$ のフェイスでもある。よって $F$ の極小性より $F=F_0$ であるが、これは $(**)$ に矛盾する。

  • $(2)$ $(*)$ を示す。$\overline{\text{conv}(\text{ext}(C))}\subset C$ は自明である。逆の包含関係を示すため $x_0\in C\backslash \overline{\text{conv}(\text{ext}(C))}$ が存在すると仮定して矛盾を導く。命題8.6より $x_0$ の凸開近傍で $\overline{\text{conv}(\text{ext}(C))}$ と交わらないものが取れる。よってHahn-Banachの分離定理より $X$ 上の連続線形汎関数 $\varphi$ で、

$$ \text{Re}(\varphi(x_0))<\text{Re}(\varphi(x))\quad(\forall x\in \overline{\text{conv}(\text{ext}(C))})\quad\quad(***) $$ なるものが取れる。$C$ はコンパクトで $\varphi$ は連続であるので、 $$ s:=\text{min}\{\text{Re}(\varphi(x)):x\in C\} $$ が存在する。そこで空でないコンパクト集合 $$ F:=\{x\in C:\text{Re}(\varphi(x))=s\} $$ を考えれば、これは $C$ のフェイスである。よって $\text{ext}(F)\subset \text{ext}(C)$ である。$F$ は空でないコンパクトな凸集合であるので $(1)$ より $\text{ext}(F)\neq\emptyset$ である。そこで $x_1\in \text{ext}(F)$ を取れば、$\text{Re}(\varphi(x_1))=s$、$x_1\in \text{ext}(C)$ である。また $x_0\in C$ より $s\leq \text{Re}(\varphi(x_0))$ である。よって $(***)$ より、 $$ s\leq\text{Re}(\varphi(x_0))<\text{Re}(\varphi(x_1))=s $$ となり矛盾を得る。

15. Fréchet空間の定義、Fréchet空間に適合する完備平行移動不変距離

定義15.1(位相線形空間のCauchy列)

$X$ を $\mathbb{F}$ 上の位相線形空間とする。$X$ の点列 $(x_n)_{n\in \mathbb{N}}$ が $X$ のCauchy列であるとは、$0\in X$ の任意の近傍 $V$ に対し $n_0\in\mathbb{N}$ が存在し、 $$ x_n-x_m\in V\quad(\forall n,m\geq n_0) $$ が成り立つことを言う。


定義15.2(Fréchet空間)

$\mathbb{F}$ 上のセミノルム空間 $X$ が $\mathbb{F}$ 上のFréchet空間であるとは、$X$ のセミノルム位相を誘導するセミノルムの分離族として可算なものが取れ、$X$ の任意のCauchy列が収束することを言う。

Banach空間はFréchet空間である。

定義15.3(Fréchet空間に適合する平行移動不変距離)

$X$ を $\mathbb{F}$ 上のFréchet空間とし、$\{p_n\}_{n\in\mathbb{N}}$ を $X$ のセミノルム位相を誘導する可算分離族とする。$d:X\times X\rightarrow[0,\infty)$ を、 $$ d(x,y):=\underset{n\in\mathbb{N}}\text{max}\frac{1}{n}\frac{p_n(x-y)}{1+p_n(x-y)}\quad(\forall x,y\in X)\quad\quad(*) $$ とおくと、次の命題15.4で見るように、$d$ は次を満たす。

  • $(1)$ $d$ は平行移動不変、すなわち任意の $x,y,z\in X$ に対し $d(x+z,y+z)=d(x,y)$.
  • $(2)$ $d$ は $X$ 上の距離である。
  • $(3)$ $d$ に関する $0\in X$ を中心とする任意の開球 $B(0,r)=\{x\in X:d(x,0)<r\}$ はFréchet空間の絶対凸な開集合である。
  • $(4)$ $d$ が誘導する距離位相はFréchet空間 $X$ の位相と一致する。特に $X$ は $d$ に関して完備距離空間である。

$d$ をFréchet空間 $X$ に適合する平行移動不変距離と呼ぶこととする。


命題15.4

定義15.3の $(*)$ によって定義される $d:X\times X\rightarrow[0,\infty)$ は $(1),(2),(3),(4)$ を満たす。

証明

$(1)$ は自明である。 $$ [0,\infty)\ni t\mapsto \frac{t}{1+t}=1-\frac{1}{1+t}\in [0,1)\quad\quad(*) $$ は狭義単調増加であるから、任意の $n\in \mathbb{N}$ と任意の $x,y,z\in X$ に対し、 $$ \frac{p_n(x-y)}{1+p_n(x-y)}\leq \frac{p_n(x-y)+p_n(y-z)}{1+p_n(x-y)+p_n(y-z)} \leq \frac{p_n(x-y)}{1+p_n(x-y)}+\frac{p_n(y-z)}{1+p_n(y-z)} $$ である。これより $(2)$ が成り立つことが分かる。 $$ B(0,r)=\bigcap_{n\in\mathbb{N}}\left\{x\in X:\frac{1}{n}\frac{p_n(x)}{1+p_n(x)}<r\right\}=\bigcap_{n\in\mathbb{N},nr<1}\left\{x\in X:p_n(x)<\frac{nr}{1-nr}\right\} $$ であり、$nr<1$ を満たす $n\in\mathbb{N}$ は有限個で、各$\{x\in X:p_n(x)<\frac{nr}{1-nr}\}$ はFréchet空間 $X$の絶対凸な開集合であるから $(3)$ が成り立つ。~ 任意の $N\in \mathbb{N}$ と $\epsilon\in(0,\infty)$ に対し、 $$ r:=\frac{1}{N}\frac{\epsilon}{1+\epsilon} $$ とおくと、$(*)$ が狭義単調増加であることから、 $$ B(0,r)\subset \bigcap_{n=1}^{N}\{x\in X:p_n(x)<\epsilon\} $$ が成り立つ。よって命題8.6の $(3)$ より $\{B(0,r)\}_{r\in (0,\infty)}$ はFréchet空間 $X$ における $0\in X$ の基本近傍系である。$d$ は平行移動不変であるから $d$ が誘導する距離位相とFréchet空間 $X$ の位相は一致する。


16. Baireのカテゴリ定理

定理16.1(Baireのカテゴリ定理)

$(X,d)$ を完備距離空間とし、$(V_n)_{n\in \mathbb{N}}$ を $X$ において稠密な開集合からなる列とする。このとき $\bigcap_{n\in\mathbb{N}}V_n$ も $X$ において稠密である。

証明

任意の $x_0\in X$ と $r_0\in (0,\infty)$ に対し、 $$ B(x_0,r_0)\cap \bigcap_{n\in \mathbb{N}}V_n\neq\emptyset\quad\quad(*) $$ が成り立つことを示せばよい。$x_0\in X=\overline{V_1}$ より $B(x_0,r_0)\cap V_1\neq\emptyset$ である。よって、 $$ \overline{B}(x_1,r_1)\subset B(x_0,r_0)\cap V_1,\quad 0<r_1\leq\frac{r_0}{2} $$ なる閉球 $\overline{B}(x_1,r_1)=\{x\in X:d(x,x_1)\leq r_1\}$ が取れる。$x_1\in X=\overline{V_2}$ より $B(x_1,r_1)\cap V_2\neq\emptyset$ であるから、 $$ \overline{B}(x_2,r_2)\subset B(x_1,r_1)\cap V_2,\quad 0<r_2\leq\frac{r_0}{2^2} $$ なる閉球 $\overline{B}(x_2,r_2)$ が取れる。同様のことを繰り返せば閉球の列 $(\overline{B}(x_n,r_n))_{n\in \mathbb{N}}$ で、 $$ \overline{B}(x_{n},r_{n})\subset B(x_{n-1},r_{n-1})\cap V_{n},\quad 0<r_n\leq\frac{r_0}{2^n}\quad(\forall n\in \mathbb{N})\quad\quad(**) $$ を満たすものが取れる。このとき、 $$ \bigcap_{n\in \mathbb{N}}\overline{B}(x_n,r_n)\subset B(x_0,r_0)\cap \bigcap_{n\in \mathbb{N}}V_n $$ である。よって $(*)$ を示すためには $\bigcap_{n\in \mathbb{N}}\overline{B}(x_n,r_n)\neq\emptyset$ を示せばよい。$m>n$ なる任意の $n,m\in \mathbb{N}$ に対し $(**)$ より、 $$ d(x_m,x_n)\leq d(x_m,x_{m-1})+\ldots+d(x_{n+1},x_n)\leq r_{m-1}+\ldots+r_n\leq2\frac{r_0}{2^n} $$ である。これより $(x_n)_{n\in \mathbb{N}}$ はCauchy列であるので、完備性よりある $x\in X$ に収束する。$x\in \bigcap_{n\in \mathbb{N}}\overline{B}(x_n,r_n)$ が成り立つことを示せばよい。任意の $n\in \mathbb{N}$ と $\epsilon\in (0,\infty)$に対し、 $m\geq n$ かつ $d(x_m,x)<\epsilon$ を満たす $m\in \mathbb{N}$ を取れば、 $x_m\in B(x,\epsilon)\cap \overline{B}(x_n,r_n)\neq\emptyset$ である。よって $\epsilon$ の任意性より $x\in \overline{B}(x_n,r_n)$ であり、$n\in \mathbb{N}$ の任意性より $x\in \bigcap_{n\in \mathbb{N}}\overline{B}(x_n,r_n)$ である。


系16.2

$X$ を完備距離空間、$(F_n)_{n\in \mathbb{N}}$ を $X$ の閉集合からなる列とし、$X=\bigcup_{n\in \mathbb{N}}F_n$ とする。 このときある $n\in \mathbb{N}$ に対し $F_n^{\circ}\neq\emptyset$ が成り立つ。

証明

任意の $n\in \mathbb{N}$ に対し $F_n^{\circ}=\emptyset$ であると仮定する。このとき $V_n:=X\backslash F_n$ $(\forall n\in \mathbb{N})$ とおけば $(V_n)_{n\in \mathbb{N}}$ は $X$ において稠密な開集合からなる列である。よってBaireのカテゴリ定理より $\bigcap_{n\in\mathbb{N}}V_n$ は $X$ において稠密である。しかし $\bigcap_{n\in \mathbb{N}}V_n=X\backslash \bigcup_{n\in \mathbb{N}}F_n=\emptyset$ であるから $X\neq\emptyset$ であることに矛盾する。


17. Fréchet空間における一様有界性定理

定義17.1(セミノルム空間の部分集合の有界性)

$X$ をセミノルム空間とする。 $B\subset X$ が有界であるとは、任意の絶対凸な開集合 $V$ に対し $r\in (0,\infty)$ が存在し $B\subset rV=\{rx:x\in V\}$ が成り立つことを言う。命題8.6の $(3)$ より $B$ が有界であることは、任意の連続なセミノルム $p:X\rightarrow[0,\infty)$ に対し $r\in(0,\infty)$ が存在し $B\subset \{x\in X:p(x)<r\}$ が成り立つことと同値である。

セミノルム空間の部分集合の有界性はノルム空間の部分集合の有界性と矛盾しない。

補題17.2

$X$ をセミノルム空間とする。$0\in X$ の任意の近傍 $V$ に対し、絶対凸開集合 $W$ で $\overline{W}\subset V$ を満たすものが取れる。

証明

加法の連続性と命題8.6の $(3)$ より絶対凸な開集合 $W$ で、 $$ W+W=\{x+y:x,y\in W\}\subset V $$ なるものが取れる。このとき、 $$ W\cap ((X\backslash V)-W)=\emptyset $$ であり、$(X\backslash V)-W=\{x-y: x\in X\backslash V,y\in W\}=\bigcup_{x\in X\backslash V}(x-W)$ は開集合であるから、 $$ \overline{W}\cap ((X\backslash V)-W)=\emptyset $$ である。よって $\overline{W}\cap (X\backslash V)=\emptyset$ であるから、$\overline{W}\subset V$ である。

定理17.3(一様有界性定理)

$X$ を $\mathbb{F}$ 上のFréchet空間、$Y$ を $\mathbb{F}$ 上のセミノルム空間とし、$J$ を空でない集合とし、各 $j\in J$ に対し連続線形写像 $T_j:X\rightarrow Y$ が与えられているとする。そして各 $x\in X$ に対し $\{T_jx\}_{j\in J}$ が $Y$ の有界集合であるとする。このとき $0\in Y$ の任意の開近傍 $V$ に対し、$0\in X$ の開近傍 $U$ で $T_j(U)\subset V$ $(\forall j\in J)$ を満たすものが存在する。

証明

補題17.2より $Y$ の絶対凸開集合 $W$ で $\overline{W}\subset V$ なるものが取れる。このとき $\overline{W}$ は絶対凸閉集合(($\overline{W}$の点は $W$ のネットの収束点によって表されることに注意。ネットによる位相空間論命題2.4を参照。))である。各 $T_j:X\rightarrow Y$ は連続線形写像であるので、 $$ F:=\bigcap_{j\in J}T_j^{-1}(\overline{W}) $$ は $X$ の絶対凸閉集合である。任意の $x\in X$ に対し、$\{T_jx\}_{j\in J}$ は $Y$ の有界集合であるから、ある $n\in \mathbb{N}$ に対し、 $$ \{T_jx\}_{j\in J}\subset nW, $$ すなわち、 $$ \frac{1}{n}x\in \bigcap_{j\in J}T_j^{-1}(W)\subset F $$ が成り立つ。これより、 $$ X=\bigcup_{n\in \mathbb{N}}nF $$ であるので、Baireのカテゴリ定理(系16.2)より、 $F^{\circ}\neq\emptyset$ が成り立つ。$F$ は絶対凸なので、任意の $x\in F^{\circ}$ に対し、 $$ 0=\frac{1}{2}x-\frac{1}{2}x\in \frac{1}{2}F^{\circ}-\frac{1}{2}x\subset F $$ であり、$\frac{1}{2}F^{\circ}-\frac{1}{2}x$ は開集合なので、$0\in F^{\circ}$ である。そして任意の $j\in J$ に対し $T_j(F^{\circ})\subset\overline{W}\subset V$ であるから、$U$ を $F^{\circ}$ とすればよい。

系17.4

$X$ を $\mathbb{F}$ 上のFréchet空間、$Y$ を $\mathbb{F}$ 上のノルム空間とし、各 $n\in \mathbb{N}$ に対し連続線形写像 $T_n:X\rightarrow Y$ が与えられているとする。そして各 $x\in X$ に対し $(T_nx)_{n\in \mathbb{N}}$ は収束するとする。このとき、 $$ Tx:=\lim_{n\rightarrow\infty} T_nx\quad(\forall x\in x) $$ として定義される線形写像 $T:X\rightarrow Y$ は連続である。


証明

$T$ の連続性を示すには $0\in X$ における連続性を示せば十分である。$0\in Y$ の任意の近傍 $V$ を取る。任意の $x\in X$ に対し $\{T_nx\}_{n\in \mathbb{N}}$ は有界なので、一様有界性定理より、$0\in X$ の近傍 $U$ で $T_n(U)\subset V$ $(\forall n\in \mathbb{N})$ を満たすものが取れる。よって $T(U)\subset \overline{V}$ であるから $T$ は $0\in X$ において連続である。


18. Fréchet空間における開写像定理

定義18.1(開写像)

$X,Y$ を位相空間とする。写像 $f:X\rightarrow Y$ が開写像であるとは、$X$ の任意の開集合 $U$ に対し $f(U)$ が $Y$ の開集合であることを言う。

定理18.2(開写像定理)

$X,Y$ を $\mathbb{F}$ 上のFréchet空間とし、$T:X\rightarrow Y$ を全射連続線形写像とする。このとき $T$ は開写像である。

証明

  • $(1)$ $0\in X$ の任意の近傍 $U$ に対し $T(U)$ が $0\in Y$ の近傍であることを示す。$d:X\times X\rightarrow[0,\infty)$ をFréchet空間 $X$ に適合する平行移動不変距離(定義15.3)とし、

$$ \{x\in X:d(x,0)\leq r\}\subset U $$ なる $r\in (0,\infty)$ を取る。そして、 $$ U_0:=\{x\in X:d(x,0)\leq r\},\quad U_n:=\{x\in X:d(x,0)<\frac{r}{2^n}\}\quad(\forall n\in \mathbb{N}) $$ とおく。各 $n\in \mathbb{N}$ に対し $U_n$ は $0\in X$ の開近傍であるから、スカラー倍の連続性より、 $$ X=\bigcup_{k\in\mathbb{N}}kU_n $$ である。$T:X\rightarrow Y$ は全射線形写像であるから、 $$ Y=T(X)=\bigcup_{k\in\mathbb{N}}kT(U_n)=\bigcup_{k\in\mathbb{N}}k\overline{T(U_n)} $$ である。よってBaireのカテゴリ定理(系16.2)より $(\overline{T(U_n)})^{\circ}\neq\emptyset$ であり、$\overline{T(U_n)}$ は絶対凸であるから、 $$ 0\in (\overline{T(U_n)})^{\circ}\quad(\forall n\in \mathbb{N})\quad\quad(*) $$ が成り立つ。((実際、任意の $y\in (\overline{T(U_n)})^{\circ}$ に対し $0=\frac{1}{2}y-\frac{1}{2}y=\frac{1}{2} (\overline{T(U_n)})^{\circ}-\frac{1}{2}y\in \overline{T(U_n)}$ であり、$\frac{1}{2} (\overline{T(U_n)})^{\circ}-\frac{1}{2}y$ は開集合であるので、$0\in (\overline{T(U_n)})^{\circ}$ である。))これより $T(U)$ が $0\in Y$ の近傍であることを示すには、 $$ \overline{T(U_1)}\subset T(U_0)\quad\quad(**) $$ が成り立つことを示せばよい。任意の $y_1\in \overline{T(U_1)}$ を取る。$(*)$ より $y_1-\overline{T(U_2)}$ は $y_1$ の近傍であるから、 $$ (y_1-\overline{T(U_2)}))\cap T(U_1)\neq\emptyset $$ が成り立つ。よって $y_2\in \overline{T(U_2)}$ と $x_1\in U_1$ で、 $$ y_1-y_2=Tx_1 $$ なるものが取れる。また $(*)$ より $y_2-\overline{T(U_3)}$ は $y_2$ の近傍であるから、 $$ (y_2-\overline{T(U_3)}))\cap T(U_2)\neq\emptyset $$ が成り立つ。よって $y_3\in \overline{T(U_3)}$ と $x_2\in U_2$ で、 $$ y_2-y_3=Tx_2 $$ なるものが取れる。同様のことを繰り返すことで $X$ の点列 $(x_n)_{n\in \mathbb{N}}$ と $Y$ の点列 $(y_n)_{n\in \mathbb{N}}$ で、 $$ y_n-y_{n+1}=Tx_n,\quad y_n\in\overline{T(Y_n)},\quad x_n\in U_n\quad(\forall n\in\mathbb{N}) $$ なるものが取れる。$\{U_n\}_{n\in \mathbb{N}}$ は $0\in X$ の基本近傍系であり、 $(U_n)_{n\in \mathbb{N}}$ は単調減少列で、 $T$ は連続であるから、 $y_n\in \overline{T(U_n)}$ $(\forall n\in \mathbb{N})$ は、$\lim_{n\rightarrow\infty}y_n=0$ を意味する。よって、 $$ y_1=\lim_{N\rightarrow\infty}(y_1-y_{N+1})=\lim_{N\rightarrow\infty}\sum_{n=1}^{N}Tx_n\quad\quad(***) $$ である。$d$ は平行移動不変距離であるから $M>N$ なる任意の $N,M\in \mathbb{N}$ に対し、 $$ d\left(\sum_{n=1}^{M}x_n,\text{ }\sum_{n=1}^{N}x_n\right) =d\left(\sum_{n=N+1}^{M}x_n,\text{} 0\right)\leq \sum_{n=N+1}^{M}d(x_n,0)<2\frac{r}{2^N} $$ である。((平行移動不変性と三角不等式より任意の $u,v\in X$ に対し $d(u+v,0)=d(u+v,v)+d(v,0)=d(u,0)+d(v,0)$ となることに注意。))よって $(\sum_{n=1}^{N}x_n)_{N\in \mathbb{N}}$ はFréchet空間 $X$ のCauchy列であるから、 $$ x:=\lim_{N\rightarrow\infty}\sum_{n=1}^{N}x_n\in X $$ が存在する。$T$ の連続性と $(***)$ より $y_1=Tx$ である。$d$ の平行移動不変性より、 $$ d\left(\sum_{n=1}^{N}x_n,\text{ } 0\right)\leq \sum_{n=1}^{N}d(x_n,0)\leq r\quad(\forall N\in \mathbb{N}) $$ であり、 $$ \left\lvert d(x,0)-d\left(\sum_{n=1}^{N}x_n,\text{ }0\right)\right\rvert\leq d\left(x,\sum_{n=1}^{N}x_n\right)\rightarrow0\quad(N\rightarrow\infty) $$ であるので $d(x,0)\leq r$ である。よって $x\in U_0$ であるから、 $y_1=Tx\in T(U_0)$ である。これで $(**)$ が示された。

  • $(2)$ $X$ の開集合 $U$ に対し $T(U)$ が $Y$ の開集合であることを示す。そのためには任意の $x_0\in U$ に対し $Tx_0\in T(U)^{\circ}$ が成り立つことを示せばよい。$0\in X$ の近傍 $U_0$ で $x_0+U_0\subset U$ なるものを取る。$(1)$ より $T(U_0)$ は $0\in Y$ の近傍であるから $Tx_0+T(U_0)$ は $Tx_0\in Y$ の近傍である。$Tx_0+T(U_0)=T(x_0+U_0)\subset T(U)$ であるから $Tx_0\in T(U)^{\circ}$ である。


系18.3

$X,Y$ を $\mathbb{F}$ 上のFréchet空間、$T:X\rightarrow Y$ を連続な線形同型写像とする。このとき $T^{-1}:Y\rightarrow X$ は連続である。

19. Fréchet空間における閉グラフ定理

注意19.1(Fréchet空間の閉部分空間)

Fréchet空間 $X$ の閉部分空間 $M\subset X$ は自然にFréchet空間である。実際、$\{p_n\}_{n\in \mathbb{N}}$ を $X$ のセミノルム位相を誘導するセミノルムの可算分離族とすると、$\{p_n|_M\}_{n\in \mathbb{N}}$ は $M$ 上のセミノルムの可算分離族であり、これが $M$ に誘導するセミノルム位相は $X$ の相対位相である。そして $M\subset X$ は閉であるから、 $M$ の元からなるCauchy列は $M$ の元に収束するので、$M$ はFréchet空間である。

注意19.2(Fréchet空間の直積はFréchet空間)

$X,Y$ を $\mathbb{F}$ 上のFréchet空間とすると、直積線形空間 $X\times Y$ は直積位相によりFréchet空間である。実際、$\{p_{X,n}\}_{n\in \mathbb{N}}, \{p_{Y,n}\}_{n\in \mathbb{N}}$ をそれぞれ $X,Y$ のセミノルム位相を誘導するセミノルムの可算分離族とし、 $$ p_n:X\times Y\ni (x,y)\mapsto p_{X,n}(x)+p_{Y,n}(y)\in [0,\infty)\quad(\forall n\in \mathbb{N}) $$ として $X\times Y$ 上のセミノルムの可算分離族 $\{p_n\}_{n\in \mathbb{N}}$ を定義すれば、これが $X\times Y$ に誘導するセミノルム位相は直積位相であり、これにより $X\times Y$ はFréchet空間である。

定理19.3(閉グラフ定理)

$X,Y$ を $\mathbb{F}$ 上のFréchet空間、$T:X\rightarrow Y$ を線形写像とし、$T$ のグラフ $$ G(T)=\{(x,Tx):x\in X\}\subset X\times Y $$ を考える。このとき次は互いに同値である。

  • $(1)$ $T$ は連続である。
  • $(2)$ $G(T)$ は閉である。


証明


$(1)\Rightarrow(2)$ は自明である。$(2)\Rightarrow(1)$ を示す。$(2)$ が成り立つとする。注意19.1注意19.2より $G(T)$ はFréchet空間である。射影 $$ \pi_1:G(T)\ni (x,Tx)\mapsto x\in X,\quad \pi_2:G(T)\ni (x,Tx)\mapsto Tx\in Y $$ はそれぞれ連続線形写像であり、$\pi_1$ は全単射であるから、系18.3より、$\pi_1^{-1}:X\rightarrow G(T)$ は連続である。よって $T=\pi_2\pi_1^{-1}:X\rightarrow Y$ は連続である。

関連事項