アフィン代数的集合の基礎
$\newcommand{\N}{\mathbb{N}}$ $\newcommand{\Z}{\mathbb{Z}}$ $\newcommand{\Q}{\mathbb{Q}}$ $\newcommand{\R}{\mathbb{R}}$ $\newcommand{\C}{\mathbb{C}}$ $\newcommand{\A}{\mathbb{A}}$ $\newcommand{\K}{\mathbb{K}}$ $\newcommand{\L}{\mathbb{L}}$ $\newcommand{\F}{\mathbb{F}}$ $\newcommand{\SS}{\mathscr{S}}$ $\newcommand{\TT}{\mathscr{T}}$ $\newcommand{\Ker}{\mathrm{Ker}}$ $\newcommand{\abs}[1]{\left\lvert#1\right\rvert}$ $\newcommand{\wenvert}[1]{\left\lvert\left\lvert#1\right\rvert\right\rvert}$ $\newcommand{\floor}[1]{\left\lfloor#1\right\rfloor}$ $\newcommand{\mathmod}[1]{\ \left(\mathrm{mod}\ #1\right)}$ $\newcommand{\relmid}[1]{\mathrel{}\middle|\mathrel{}}$
本稿では、古典的な代数幾何学の最も基本的かつ研究対象であるアフィン代数的集合の基本的な事項について議論する。
アフィン代数的集合
$\K$ を任意の体とし、 $$\A^n(\K)=\{(a_1, a_2, \ldots, a_n): a_1, a_2, \ldots, a_n\in\K\}$$ を$\K$ 上の $n$ 次元アフィン空間とする。
$\K[X_1, X_2, \ldots, X_n]$ を $\K$ 上の $n$ 変数多項式環とする。 $\K$ 上の $n$ 変数多項式 $F\in \K[X_1, X_2, \ldots, X_n]$ と、 $n$ 次元アフィン空間 $\A^n(\K)$ 上の点 $P=(a_1, a_2, \ldots, a_n)$ について、 $F(a_1, a_2, \ldots, a_n)$ を点 $P$ における $F$ の値と定め、これを単に $F(P)$ であらわす。 $F(P)=0$ となる 点 $P$ を $F$ の零点 (zero) という。
$F$ の零点全体の集合を $$V(F)=\{(a_1, a_2, \ldots, a_n): a_1, a_2, \ldots, a_n\in\K, F(a_1, a_2, \ldots, a_n)=0\}$$ によりあらわし、$F$ により定まるアフィン超曲面 (affine hypersurface) という。 とくに $n=3$ で $F(X, Y, Z)$ が定数でないときはアフィン曲面 (affine surface)という。 $n=2$ で $F(X, Y)$ が定数でない場合、$V(F)$ をアフィン平面代数曲線 (affine plane algebraic curve) という。
$F$ が$1$次式のとき、$V(F)$ を$\A^n(\K)$ における超平面 (hyperplane)といい、とくに $n=3$ のときは平面 (plane)、 $n=2$ のときは直線 (line)という。
さらに一般に、$\K$ 上の $n$ 変数多項式からなる集合 $S\subset \K[X_1, X_2, \ldots, X_n]$ について、 $S$ の多項式すべての零点となる点全体の集合 $$V(S)=\bigcap_{F\in S}V(F)=\{(a_1, a_2, \ldots, a_n): a_1, a_2, \ldots, a_n\in\K, \forall F\in S[F(a_1, a_2, \ldots, a_n)=0]\}$$ を $S$ により定まるアフィン代数的集合 (affine algebraic set) という。
例 1
正の整数 $n\geq 1$ について、$F_n(X, Y)=X^n+Y^n-1$ とすると、$V(F_n)$ はアフィン平面代数曲線を与える。
以下、$V=V(S)$ が $S$ により定まるアフィン代数的集合であるとき、これを $\K$ の部分集合 $L\subset \K$ に制限したものを $$V(L)=V(S/L)=V\cap L^n=\{(a_1, a_2, \ldots, a_n): a_1, a_2, \ldots, a_n\in L, \forall F\in S[F(a_1, a_2, \ldots, a_n)=0]\}$$ とかくことにすると、$V(F_1/\R)$ は直線 $Y=1-X$ に一致し、$V(F_2/\R)$ は原点を中心とする半径 $1$ の円となる。 また、Fermatの最終定理は、 $n$ が $3$ 以上の奇数のとき $V(F_n/\Q)=\{(1, 0), (0, 1)\}$ に、$n$ が $4$ 以上の偶数のとき $V(F_n/\Q)=\{(\pm 1, 0), (0, \pm 1)\}$ に一致すると言い換えることができる。
例 2
正の整数 $n\geq 1$ について、$F_n(X, Y, Z)=X^n+Y^n-Z^n$ とすると、$V(F_n)$ は $\A^3(\K)$ におけるアフィン代数曲面を与える。 $V(F_1/\R)$ は平面 $Z=1-X-Y$ に一致し、$V(F_2/\R)$ は円錐面 $X^2+Y^2-Z^2=0$ をあたえる。 また、Fermatの最終定理は、$n\geq 3$ のとき $$V(F_n/\Z)=\begin{cases} \{(0, t, \pm t): t\in\Z\}\cup \{(\pm t, 0, t): t\in\Z\}\cup \{(t, \pm t, 0): t\in \Z\} & (n\equiv 0\mathmod{2}) \\ \{(0, t, t): t\in\Z\}\cup \{(t, 0, t): t\in\Z\}\cup \{(t, -t, 0): t\in \Z\} & (n\equiv 1\mathmod{2}) \\ \end{cases}$$ と言い換えることができる。
定理 3
$V_1, V_2\in \A^n(\K)$ が代数的集合ならば、その共通部分 $V_1\cap V_2$ も代数的集合となる。
Proof.
$V_1=V(S/K), V_2=V(T/L)$ となる集合 $S, T, K, L$ をとると、 $$P\in V_1\cap V_2\Longleftrightarrow P\in (K\cap L)^n, \forall(F\in S\cup T)[F(P)=0]$$ より $$V_1\cap V_2=V((S\cup T)/(K\cap L))$$ となる。
□代数的集合とイデアル
つぎの定理は、代数的集合とイデアルの基本的な関係を与える。
定理 4
$\K$ を体とし、$L$ を $\K$ の部分集合、$S$ を $\K$ 上の多項式からなる集合とする。
- $1.$ $S\subset T\subset \K[X_1, X_2, \ldots, X_n]$ ならば $V(T/L)\subset V(S/L)$ となる。
- $2.$ $I$ を $S$ により生成される $\K[X_1, X_2, \ldots, X_n]$ 上のイデアルとすると、$V(S/L)=V(I/L)$ となる。
- $3.$ $\K[X_1, X_2, \ldots, X_n]$ のイデアル $I, J$ について $V((I+J)/L)=V(I/L)\cap V(J/L)$ となる。
また、$F, G\in \K[X_1, X_2, \ldots, X_n]$ のとき、
- $4.$ $V(FG/L)=V(F/L)\cup V(G/L)$,
- $5.$ $V(\{FG: F\in S, G\in T\}/L)=V(S/L)\cup V(T/L)$
が成り立つ。とくに
- $6.$ $\K[X_1, X_2, \ldots, X_n]$ のイデアル $I, J$ について $V(IJ/L)=V(I/L)\cup V(J/L)$ となる。
また、特殊な場合として、以下のことがいえる。
- $7.$ $V(0/L)=L^n$.
- $8.$ $c$ が $0$ でない定数のとき $V(c/L)=\emptyset$.
- $9.$ $a_1, a_2, \ldots, a_n\in L$ のとき $V((X_1-a_1, X_2-a_2, \ldots, X_n-a_n)/L)=\{(a_1, a_2, \ldots, a_n)\}$, $a_i\not\in L$ となる $a_i$ が存在するとき $V((X_1-a_1, X_2-a_2, \ldots, X_n-a_n)/L)=\emptyset$. とくに$1$点だけからなる集合 $\{(a_1, a_2, \ldots, a_n)\}$ は代数的集合となる。
$5.$ から、代数的集合の和集合も代数的集合であり、$9.$ とあわせて、有限個の点からなる集合は代数的集合であることがわかる。
Proof.
- $1.$ $S\subset T\subset \K[X_1, X_2, \ldots, X_n]$ で $P\in V(T/L)$ ならば $P\in V(S/L)$ となることは明らか。
実際 $F\in S$ のとき $F\in T$ となるから $F(P)=0$ となる。$P\in L^n$ なので $P\in V(S/L)$ となる。 よって $V(T/L)\subset V(S/L)$ である。
- $2.$ $I$ が $S$ により生成されるイデアルならば、$S\subset I$ であるから、
$V(I/L)\subset V(S/L)$ となる。$F\in I$ のとき、 $$F=G_1 H_1+G_2 H_2+\cdots +G_r H_r$$ となる、$G_1, G_2, \ldots, G_r\in \K[X_1, X_2, \ldots, X_n]$ および $H_1, H_2, \ldots, H_r\in I$ がとれるので、$P\in V(S/L)$ ならば $$F(P)=G_1 H_1(P)+G_2 H_2(P)+\cdots +G_r H_r(P)=0$$ となるから、$P\in V(I/L)$ となる。つまり、$V(S/L)\subset V(I/L)$ となる。
- $3.$ $I, J\subset I+J$ だから
$V((I+J)/L)\subset V(I/L)\cap V(J/L)$ は明らかである。逆に $P\in V(I/L)\cap V(J/L)$ とする。 $F\in I+J$ ならば、 $$F=G_1 H_1+G_2 H_2$$ となる $H_1\in I$, $H_2\in J$, および $G_1, G_2\in \K[X_1, X_2, \ldots, X_n]$ がとれるが、$H_1(P)=H_2(P)=0$ となるから $F(P)=0$ となる。 よって $V(I/L)\cap V(J/L)\subset V((I+J)/L)$ となる。
- $4.$ $\K$ は体なので、
$$FG(P)=0\Longleftrightarrow F(P)=0\lor G(P)=0$$ となるから、 $V(FG/L)=V(F/L)\cup V(G/L)$, は明らかに成り立つ。
- $5.$ $F\in S$ のとき、$F(P)=0$ となるならば、$FG(P)=0$ となるから、
$$V(S/L)\subset V(\{FG: F\in S, G\in T\}/L)$$ は明らかに成り立つ。同様に $$V(T/L)\subset V(\{FG: F\in S, G\in T\}/L)$$ も明らかに成り立つ。したがって $$V(S/L)\cup V(T/L)\subset V(\{FG: F\in S, G\in T\}/L)$$ となる。また、 任意の $F\in S, G\in T$ に対して $FG(P)=0$ が成り立つ点 $P\in L^n$ をとる。 $P\not\in V(T/L)$ とすると、ある $G_0\in T$ について $G_0(P)\neq 0$ となる。 よって任意の $F\in S$ に対して $FG_0(P)=0$ より $F(P)=0$ となるから、$P\in V(F/L)$ となる。 つまり $P\in V(S/L)$ となる。
- $6.$ $5.$ において $S=I$, $T=J$ とおくと、左辺の集合は $IJ$ に一致するから、$V(IJ/L)=V(I/L)\cup V(J/L)$ となる。
$\A^n(\K)$ の部分集合 $V$ について、 $I(V)$ を、$V$ 上で値が $0$ となる $\K$ 上の多項式全体とする。つまり、$V\subset \A^n(\K)$ について $$I(V)=\{f\in \K[X_1, X_2, \ldots, X_n]: \forall (P\in V)[f(P)=0]\}$$ とすると、$I(V)$ は $L[X_1, X_2, \ldots, X_n]$ のイデアルとなる。
例 5
$\A^2(\C)$ の部分集合 $V=\{(\sqrt{2}, \sqrt{2})\}$ について、 $I(V)=(X-\sqrt{2}, Y-\sqrt{2})\subset \C[X, Y]$ は $\C[X, Y]$ のイデアルとなる。
$I(V)$ を $\K$ の部分集合 $L$ 上に係数をもつ多項式に制限したものを $$I(V/L)=\{f\in L[X_1, X_2, \ldots, X_n]: \forall (P\in V)[f(P)=0]\}$$ とかくことにすると、 $$I(V/L)=I(V)\cap L[X_1, X_2, \ldots, X_n]$$ となる。$R$ が $\K$ の部分環ならば、$I(V/R)$ は $R[X_1, X_2, \ldots, X_n]$ のイデアルとなる。
先の例において、$I(V/\R)$ は $\R[X, Y]$ 上のイデアルとして、$I(V/\R)=(X-\sqrt{2}, Y-\sqrt{2})$ となる。 また、 $I(V/\Z)$ も $\Z[X, Y]$ のイデアルだが、 $$I(V/\Z)=(X^2-2, X-Y)\subset \Z[X, Y]$$ とあらわされる。実際、 $P(X, Y)\in I(V/\Z)$ に対して、 $$P(X, Y)=F_0(X, Y)(X^2-2)+G_1(Y)X+G_0(Y), G_0(Y), G_1(Y)\in\Z[Y], F_0(X, Y)\in\Z[X, Y]$$ とおくと、 $$P(X, Y)=F_0(X, Y)(X^2-2)+F_1(X, Y)(X-Y)+G_1(X)X+G_0(X), F_1(X, Y)\in\Z[X, Y]$$ とあらわされる。ここで $$G_1(X)X+G_0(X)=H(X)(X^2-2)+aX+b, H(X), aX+b\in \Z[X]$$ とおくと $$P(X, Y)=F_0(X, Y)(X^2-2)+F_1(X, Y)(X-Y)+H(X)(X^2-2)+aX+b$$ となるが、 $$P(\sqrt{2}, \sqrt{2})=a\sqrt{2}+b=0$$ より $a=b=0$ つまり $$P(X, Y)=(F_0(X, Y)+H(X))(X^2-2)+F_1(X, Y)(X-Y)\in (X^2-2, X-Y)$$ となる。
$S\subset \K[X_1, X_2, \ldots, X_n]$, $F\in S$ ならば、$V(S)$ の任意の点 $P$ において $F(P)=0$ となるから、$F\in I(V(S))$ となる。 また、$U\subset \A^n(\K)$, $P\in U$ ならば、$I(U)$ の任意の多項式 $F$ について、$F(P)=0$ となるから、$U\subset V(I(U))$ となる。
よって、任意の $S\subset \K[X_1, X_2, \ldots, X_n]$, $U\subset \A^n(\K)$ について $S\subset I(V(S))$, $U\subset V(I(U))$ がそれぞれ成り立つ。
逆の包含関係は一般には成り立たない。仮に $S\subset \K[X_1, \ldots, X_n]$ 自身がイデアルとしても、$S=I(V(S))$ となるとは限らない。 たとえば、$I=((X-Y)^2)$ とおくと、$V(I)=\{(x, x): x\in\K\}$ となるから、$I(V(I))=(X-Y)\neq I$ となる。 また、$V(I(U))=U$ も一般には成り立たない。$\K=\R$ または $\C$ で、$U=\{(x, 0): 0\leq x\leq 1\}$ とすると、 $[0, 1]$ でつねに $0$ をとる $1$ 変数多項式は、零多項式しか存在しないから、$I(U)=(Y)$, $V(I(U))=\{(x, 0): x\in\R\}$ となり、$U$ とは一致しない。
しかし、$S$ 自身が $I(U))$ の形のイデアルならば、逆の包含関係が成り立つし、$U$ 自身が代数的集合ならば、やはり逆の包含関係が成り立つ。 つまり、つぎの定理が成り立つ。
定理 6
任意の $U\subset \A^n(\K)$ について $I(U)=I(V(I(U)))$ が成り立つ。 また、任意の $S\subset \K[X_1, X_2, \ldots, X_n]$ について $V(S)=V(I(V(S)))$ が成り立つ。
Proof.
$V_0=V(I(U))$ とおくと、$U\subset V(I(U))=V_0$ であるから、$I(V(I(U)))=I(V_0)\subset I(U)$ となる。 また $I_0=I(V(S))$ とおくと、$S\subset I(V(S))=I_0$ であるから、$V(I(V(S)))=V(I_0)\subset V(S)$ となる。
□定理 7
$V, W$ が $\A^n(\K)$ 上の代数的集合であるとき、 $$V=W \Longleftrightarrow I(V)=I(W).$$
Proof.
$V=W$ ならば $I(V)=I(W)$ であることは明らか。 $V, W$ はともに代数的集合だから、$V(I(V))=V$, $V(I(W))=W$ がそれぞれ成り立つので、 $I(V)=I(W)$ より $$V=V(I(V))=V(I(W))=W.$$
□一方、逆に、$V(I)=V(J)$ のとき、$I=J$ となることは一般にはいえない。 たとえば $I=(X-Y), J=I^2=((X-Y)^2)$ とおくと、$I\neq J$ であるが、$V(I)=V(J)=\{(x, x): x\in\K\}$ となる。
定理 8
$(X_1-a_1, X_2-a_2, \ldots, X_n-a_n)$ は $\K[X_1, X_2, \ldots, X_n]$ の極大イデアルである。
Proof.
多項式環:定理3より $$F(X_1, X_2, \ldots, X_n)\equiv F(X_1, X_2, \ldots, X_{n-1}, a_n)\mathmod{X_n-a_n}$$ となるから、帰納的に $$F(X_1, X_2, \ldots, X_n)\equiv F(a_1, a_2, \ldots, a_n)\mathmod{(X_1-a_1, X_2-a_2, \ldots, X_n-a_n)}$$ が成り立つ。よって、$F\not\in (X_1-a_1, X_2-a_2, \ldots, X_n-a_n)$ ならば $F(a_1, a_2, \ldots, a_n)\neq 0$ となる。 $\K$ は体だから $$(X_1-a_1, X_2-a_2, \ldots, X_n-a_n, F)=(F(a_1, a_2, \ldots, a_n))=(1)=\K$$ が成り立つ。
□定理 9
$\K$ を体、$V$ を $\A^n(\K)$ の代数的集合とし、$P\in \A^n(\K)$ が $V$ 上の点ではないとすると、 $F(P)=1$ となる多項式 $F\in I(V)$ がとれる。 より一般に、$P_1, \ldots, P_r\in \A^n(\K)$ が、互いに相異なり、かついずれも $V$ 上にはない点とすると、 $i=1, \ldots, r$ について $F_i(P_i)=1$ だが、$1\leq i, j\leq r$ かつ $i\neq j$ のとき $F_i(P_j)=0$ となる $F_1, F_2, \ldots, F_r\in I(V)$ がとれる。
Proof.
各 $P_i$ は $V$ 上の点ではないので、 定理 4より、$V_0=V\cup \{P_j:j=1, \ldots, r\}$ は、$V_i=V\cup \{P_j:j\neq i\}$ とは異なる代数的集合となる。 定理 7より、$I(V_0)\subsetneq I(V_i)$ となるから、 $I(V_i)$ に含まれるが $I(V_0)$ に含まれない多項式 $G_i$ がとれる。 $G_i\in I(V_i)$ だから $G_i\in I(V)$ かつ $j\neq i$ のとき $G_i(P_j)=0$ となる。 しかし $G_i(P_i)=0$ とすると、$G_i$ は $I(V_0)$ に含まれてしまうから、$G_i(P_i)=c_i\neq 0$ となる。 $F_i=G_i/c_i$ とおくと、$F_i(P_i)=1$ だが、$1\leq i, j\leq r$ かつ $i\neq j$ のとき $F_i(P_j)=0$ となる。
□定理 10
任意の代数的集合は有限個の超曲面の共通部分としてあらわされる。
Proof.
$V=V(S)$ を集合 $S\in \K[X_1, \ldots, X_n]$ によって定まる代数的集合とする。 $S$ によって生成されるイデアルを $I$ とおくと $V=V(I)$ となる。 $\K$ は体なのでNoether環である。Hilbertの基底定理より、$\K[X_1, \ldots, X_n]$ もNoether環となるから、 $$I=(F_1, \ldots, F_r)=(F_1)+(F_2)+\cdots +(F_r)$$ は有限生成である。よって $$V=V((F_1)+(F_2)+\cdots +(F_r))=\bigcap_{i=1}^r V(F_i)$$ となる。
□例 11
$\A^3$ 上の曲線 $$C: X=1+6t^3, Y=1-6t^3, Z=-6t^2$$ は $$C=V(\{X^3+Y^3+Z^3-2, X+Y=2\})=V(X^3+Y^3+Z^3-2)\cap V(X+Y=2)$$ とアフィン代数曲面の共通部分としてあらわされる。実際、$Y=2-X$ のとき $$Z^3=2-(X^3+Y^3)=2-X^3-(2-X)^3=-6(X-1)^2$$ より $Z=-6u^2$ とおくと、$X=1+6u^3, Y=2-X=1-6u^3$ あるいは $X=1-6u^3, Y=1+6u^3$ となるので $t$ を$\pm u$ から、うまく選ぶと $$X=1+6t^3, Y=1-6t^3, Z=-6t^2$$ となる。
代数的集合とイデアルの根基
$$\sqrt{I}=\{x: \exists(n\in \N_{>0})[x^n\in I]\}$$ を $I$ の根基 (radical) とする(環論の基礎3:素イデアル・極大イデアルを参照)と、 $V(I)$ は $V(\sqrt{I})$ に一致することがわかる。
定理 12
$V(I)=V(\sqrt{I})$.
Proof.
$I\subset\sqrt{I}$ だから、$V(\sqrt{I})\subset V(I)$ は明らか。
$P\in V(I)$ かつ $F\in\sqrt{I}$ とすると、$F^n\in I$ となる整数 $n>0$ が存在するので、 $F^n(P)=0$ より、$F(P)=0$ となって、結局、$P\in V(\sqrt{I})$ となる。つまり、$V(I)\subset V(\sqrt{I})$ も成り立つ。
□定理 13
$\sqrt{I}\subset I(V(I))$.
Proof.
先述のように、$F\in\sqrt{I}$ とすると、$V(I))$ 上の点 $P$ について、つねに $F(P)=0$ となるから、$F\in I(V(I))$ となる。よって $\sqrt{I}\subset I(V(I))$ となる。
□$\K$ が代数閉体ならば、この逆の包含関係が成り立つ、つまり $I(V(I))=\sqrt{I}$ となるというのが、後に示すHilbertの零点定理である。
既約な代数的集合
代数的集合 $V$ が $V$ とは異なる $2$ つの代数的集合 $W_1, W_2$ によって $V=W_1\cup W_2$ とあらわされないとき、 $V$ を既約 (irreducible)という。既約なアフィン代数的集合をアフィン代数多様体 (affine algebraic variety) という。
定理 14
代数的集合 $V$ が既約 $\Longleftrightarrow$ $I(V)$ が素イデアル。
Proof.
代数的集合 $V$ が既約でないとし、$V$ とは異なる $2$ つの代数的集合 $W_1, W_2$ によって $V=W_1\cup W_2$ とあらわされるとすると、 $I(W_1), I(W_2)$ は $I(V)$ より真に大きいイデアルとなる。$F_1\in I(W_1), F_2\in I(W_2)$ がともに $I(V)$ に含まれないとする。 $P\in V$ に対して、$P\in W_i$ となる $i$ をとると、$F_i(P)=0$ だから、必ず $F_1 F_2(P)=0$ となる。よって、$F_1 F_2\in I(V)$ となるが、$F_1, F_2$ はともに $I(V)$ には含まれないから、$I(V)$ は素イデアルではない。
逆に、$I(V)$ が素イデアルでないとすると、$F_1 F_2\in I(V)$ となるが、いずれも $I(V)$ に属さない多項式 $F_1, F_2$ がとれる。 $V\cap V(F_1)$, $V\cap V(F_2)$ も代数的集合で、$F_1, F_2$ は $I(V)$ に属さないから、$F_1(P)\neq 0, F_2(Q)\neq 0$ となる $P, Q\in V$ がとれる。よって $V\cap V(F_1)$, $V\cap V(F_2)$ はともに $V$ より真に小さい代数的集合で $$V=(V\cap V(F_1))\cup (V\cap V(F_2))$$ となるから、$V$ は既約ではない。
□さらに、任意の代数的集合が、有限個の既約代数的集合の和集合に、本質的には一意的に分解される。正確にいうと、次の定理が成り立つ。
定理 15
任意の代数的集合 $V$ は有限個の既約代数的集合の和集合 $$V=V_1\cup V_2\cup \cdots \cup V_r$$ としてあらわされ、かつ、どの $2$つの $V_i, V_j$ も互いに包含関係にないという条件の下では、順序を除いて一意的にあらわされる。
このような $V_i$ を $V$ の既約成分 (irreducible component) といい、 上記のようにあらわすことを、$V$ の既約成分への分解 (decomposition) という。
Proof.
- まず、任意の代数的集合 $V$ は有限個の既約代数的集合の和集合としてあらわされることを示す。
$\A^n(\K)$ の代数的集合で、有限個の既約代数的集合の和集合としてあらわされないものが存在すると仮定し、それら全体の集合を $\SS$ とおく。また、$\SS$ に対応するイデアルの集合を $\TT=\{I(V), V\in\SS\}$ とおく。 Hilbertの基底定理より、 $\K[X_1, X_2, \ldots, X_n]$ はNoether環なので、Noether環の性質から、 $\TT$ は極大元 $I_0$ をもつ。$I_0=I(V_0)$ となる $V_0$ をとると、$V_0$ は $\SS$ の極小元となる。 $\SS$ に属する代数的集合は、当然それ自体既約ではありえないので、$V_0=W_1\cup W_2$ となる、$W_1, W_2\subsetneq V_0$ がとれる。 $V_0$ は $\SS$ の極小元だから、$W_1, W_2$ は有限個の既約代数的集合の和集合としてあらわされるので、 $V_0=W_1\cup W_2$ も有限個の既約代数的集合の和集合としてあらわされる。これは矛盾である。
- よって、任意の代数的集合 $V$ は
$$V=V_1\cup V_2\cup \cdots \cup V_r$$ と有限個の既約代数的集合の和集合としてあらわされるので、そのようなあらわし方が(定理に記した条件のもとで)一意的であることを示す。 $V_i\subset V_j$ となるときに $V_i$ をすべて取り除いても、和集合に変化はないので、 $V$ は、どの $2$つの $V_i, V_j$ も互いに包含関係にないようにあらわすことができる。 $$V=W_1\cup W_2\cup \cdots \cup W_s$$ なおかつ、どの $2$つの $W_i, W_j$ も互いに包含関係にないように有限個の既約代数的集合の和集合としてあらわされたとする。 各 $i=1, \ldots, r$ について $$V_i=\bigcup_{j=1}^s (V_i\cap W_j)$$ となるが、$V_i$ は既約だから $V_i\cap W_{j(i)}=V_i$ つまり $V_i\subset W_{j(i)}$ となる $j(i)$ が存在する。 同様にして、 $W_{j(i)}\subset V_{k(i)}$ となる $k(i)$ が存在するが、$V_i\subset V_{k(i)}$ となるので、仮定より $i=k(i)$ でなければならず、 $V_i=W_{j(i)}$ となる。 このことから $s\geq r$ となる。 同様にして、各 $j=1, \ldots, s$ について $W_j=V_{i(j)}$ となる $i(j)$ が存在するから、$r\geq s$ となるので、 結局 $s=r$ で、$W_j$ は $V_i$ の順序を並び替えたものとなる。
□例 16
$$XY^2=0\Longleftrightarrow X=0\lor Y=0$$ だが、$(X), (Y)$ は素イデアルなので、$V(X), V(Y)$ はともに既約な代数的集合となる。よって $$V(XY^2)=V(X)\cup V(Y)$$ と既約成分に分解される。
Hilbertの零点定理
代数的集合とイデアルの根基の節で述べたように、$\K$ が代数閉体のときには 定理 13 の逆の包含関係が成り立ち、$I(V(I))=\sqrt{I}$ となるというのが、Hilbertの零点定理 (Hilbert's Nullstellensatz) である。 この節では、Hilbertの零点定理を証明する。この節での証明はFulton, 1.7節から1.10節を参考としている。 証明の本質的部分は体上有限生成環の理論によるので、詳しくは同記事を参照されたい。
まず、特殊な場合に相当する、次の定理を示す。
定理 17 (弱い零点定理)
$\K$ が代数閉体とする。このとき $\K[X_1, \ldots, X_n]$ 上のイデアル $I$ について $$V(I)=\emptyset \Longleftrightarrow I=\K[X_1, \ldots, X_n].$$
$I(V(I))=\K[X_1, \ldots, X_n]$ ならば、$1\in I(V(I))$ より、$V(I)=\emptyset$ となるので、 $I=\K[X_1, \ldots, X_n]$ となる。つまり、この定理はHilbertの零点定理の特殊な場合を与える。
Proof.
$I=\K[X_1, \ldots, X_n]$ のとき、$1\in I$ より、$V(I)=\emptyset$ となる。
そこで、$I\neq \K[X_1, \ldots, X_n]$ と仮定する。 Hilbertの基底定理より $\K[X_1, \ldots, X_n]$ はNoether環だから、 Noether環:定理2 より $I$ を含む $\K[X_1, \ldots, X_n]$ の極大イデアル $J$ が存在する。 $\L=\K[X_1, \ldots, X_n]/J$ は $\K$ の拡大体に同型であるが、$\K$ 上環として有限生成だから、 体上有限生成環:定理2より $\L=\K$ となる。よって、各 $i=1, \ldots, n$ について $$X_i\equiv a_i\mathmod J$$ となる $a_i\in\K$ が存在する。このとき $X_i-a_i\in J$ となるから、 $$(X_1-a_1, \ldots, X_n-a_n)\subset J$$ となる。しかし、定理 8より $(X_1-a_1, \ldots, X_n-a_n)$ は極大イデアルであるから、 $J=(X_1-a_1, \ldots, X_n-a_n)$ でなければならない。 よって、$(a_1, \ldots, a_n)\in V(J)\subset V(I)$ となって、 $V(I)\neq\emptyset$ となることがわかる。
□これを利用して、一般的な零点定理を示す。
定理 18 (Hilbertの零点定理)
$\K$ が代数閉体ならば、$\K[X_1, \ldots, X_n]$ 上のイデアル $I$ について、$I(V(I))=\sqrt{I}.$
Proof.
$\sqrt{I}\subset I(V(I))$ は 定理 13 で既に示しているので、 $I(V(I))\subset\sqrt{I}$ を示す。
$I=(F_1, \ldots, F_r), F_i\in\K[X_1, \ldots, X_n]$ とおき、多項式 $G\in \K[X_1, \ldots, X_n]$ が $I(V(F_1, \ldots, F_r))$ に属するとする。 $$J=(F_1, \ldots, F_r, X_{n+1}G-1)$$ とおくと、これは $\K[X_1, \ldots, X_{n+1}]$ のイデアルである。 どの $i$ についても $F_i(a_1, \ldots, a_n)=0$ となるとき、$X_{n+1}G-1=-1\neq 0$ となる。 よって、$V(J)=\emptyset$ となるから、定理 14 より $1\in J$ となる。 $$1=\sum_{i=1}^r A_i(X_1, \ldots, X_{n+1}) F_i+B(X_1, \ldots, X_{n+1})(X_{n+1}G-1)$$ となる $A_1, \ldots, A_r, B\in\K[X_1, \ldots, X_{n+1}]$ がとれる。 $Y=1/X_{n+1}$ とおくと、 $$1=Y^{-N}\sum_{i=1}^r C_i(X_1, \ldots, Y) F_i+D(X_1, \ldots, Y)(G-Y)$$ つまり $$Y^N=\sum_{i=1}^r C_i(X_1, \ldots, Y) F_i+D(X_1, \ldots, Y)(G-Y)$$ となる整数 $N\geq 0$ と、$C_1, \ldots, C_r, D\in\K[X_1, \ldots, X_n, Y]$ がとれる。 たとえば $$B(X_1, \ldots, X_{n+1})=\sum_{i=0}^d H_i(X_1, \ldots, X_n)X_{n+1}^i$$ に対して、 $$D(X_1, \ldots, Y)=\sum_{i=0}^d H_i(X_1, \ldots, X_n)Y_{n+1}^{d-i}$$ とおくとよい。 とくに$Y=G(X_1, \ldots, X_n)$ とおくと $$G^N=\sum_{i=1}^r C_i(X_1, \ldots, X_n, G(X_1, \ldots, X_n)) F_i$$ となるので、$G^N\in (F_1, \ldots, F_r)=I$ となる。これは $G$ が $\sqrt{I}$ に属することを示している。
□
参考文献
- William Fulton, Algebraic Curves, 3rd version, 2008, online version, Chapter 1.