演習問題解答:Matsumura 「Commutative Ring Theory」
ちまちまやっていくんで、気長に待ってください。 --Q-rad (トーク) 2020年11月9日 (月) 21:23 (JST)
section 1
1.1.
環 $A$ の元 $a$ が $A/I$ の単元に移るとき、ある $b \in A$ が存在して $ab \in 1+I$ が成り立つことがわかる。ある $u \in I$ によって $ab=1+u$ と表せる。よってある自然数 $n \in \mathbb{N}$ について $u^n=0$ が成り立つ。このとき、$ab(1+(-u)+(-u)^2+\ldots+(-u)^{n-1})=1$ が成り立つ。したがって $a\in A$ は単元である。
1.2.
環 $A_1\times \ldots \times A_n$ のイデアル $P$ が素イデアルであるとする。このとき、$1\leq i \leq n$ 成分だけが値 $1$ をとりその他の成分は値 $0$ をとるような元を $\delta_i$ とおく。このとき、$i\neq j$ について $\delta_i\delta_j=0$ が成り立つため、$\delta_i$ もしくは $\delta_j$ のいずれか一方は $P$ に含まれる。したがって、ある $1\leq k \leq n$ が存在して、$i\neq k$ なる $1\leq i\leq n$ について $\delta_i \in P$ が成り立つ。
$P$ の元 $x=(x_1,\ldots,x_k,\ldots,x_n)$ について、$x_k\delta_k=(0,\ldots,x_k,\ldots,0) \in P$ が成り立つ。したがって、射影 $\mathrm{pr}_k\colon A_1\times \ldots \times A_n \to A_k$ について $\mathrm{pr}_k(P)$ を $P_k$ とおいたとき、$P=A_1\times P_k\times A_n$ が成り立つ。
$P$ がイデアルであるため、$P_k$ はイデアルである。さらに、$r,s \in A_k$ について $rs \in P_k$ ならば、$(r\delta_k)(s\delta_k) \in P$ より $r \in P_k$ もしくは $s \in P_k$ が成り立つ。よって $P_k$ は素イデアルである。
1.3.
(a)
- $f(\mathrm{rad}(A))\subset \mathrm{rad}(B)$
$f\colon A\to B$ が全射環準同型であるとする。このとき、$a \in A$ が $a\in \mathrm{rad}(A)$ であることは、「任意の $x \in A$ について $1+ax$ が単元となる」ことと同値である。ここで、任意の $y \in B$ に対して、$f(x')=y$ となるような $x' \in A$ が存在する。このとき、$1+f(a)y=f(1+ax')$ であるため、$1+f(a)y$ は単元である。従って $f(a) \in \mathrm{rad}(B)$ が成り立つ。
- 等号の成立しない状況
$A=\mathbb{Z}$ かつ $B=\mathbb{Z}/4\mathbb{Z}$ なる状況において、$\mathrm{rad}(A)=0$, $\mathrm{rad}(B)=2\mathbb{Z}/4\mathbb{Z}$ より、$f(\mathrm{rad}(A))\neq \mathrm{rad}(B)$ が成り立つ。
(b)
$A$ の極大イデアルを $\mathfrak{m}_1,\ldots,\mathfrak{m}_n$ とおく。また、$A$ のイデアル $I=\mathrm{Ker}(f)$ を取る。極大イデアルの添字付けを変更して、ある $s$ について $I \subset \mathfrak{m}_1,\ldots,\mathfrak{m}_s$ かつ $I\subsetneq \mathfrak{m}_{s+1},\ldots,\mathfrak{m}_n$ が成り立つようにする。
$y \in \mathrm{rad}(B)$ について、適当な $x \in A$ が存在して、$f(x)=y$ が成り立つようにできる。このとき、$a \in \mathfrak{m}_1,\ldots,\mathfrak{m}_s$ が成り立つ。
このとき、$s\lt t \leq n$ について、$I\mathfrak{m}_{s+1}\ldots\mathfrak{m}_{t-1}+\mathfrak{m}_t =A$ が成り立つ。よって、$\chi_t \in I\mathfrak{m}_{s+1}\ldots\mathfrak{m}_{t-1}$ かつ $\chi_t \in 1+\mathfrak{m}_t$ なる $\chi_t \in A$ が存在する。
帰納的な議論により、$s\lt t\leq n$ について、$\chi_t$ のある線形和 $\chi$ によって、$x+\chi \in\mathrm{rad}(A)$ が成り立つようにできることがわかる。よって $f(\mathrm{rad}(A))=\mathrm{rad}(B)$ が成り立つ。
section 2
2.3.
完全列 $0 \to M \cap N \to M\oplus N \to M+N\to 0$ より、$M\oplus N$ は有限生成加群である。したがって、$M$, $N$ ともに有限生成である。
section 3
3.1.
3.3.
極大イデアル $\mathfrak{m}$ の生成元として $r$ を取る。このとき、任意の $x \in R$ について、$x$ は単元であるかもしくは $x \in (r)$ が成り立つ。よって、ある自然数 $n$ と $R$ の単元 $u$ が存在して $x=r^nu$ と表記できるか、もしくは任意の $n \in \mathbb{N}$ について $x \in (r^n)$ である。このとき、$\bigcap \mathfrak{m}^n=(0)$ であるため、非零な $R$ の要素については、ある自然数 $n$ と $R$ の単元 $u$ により $x=r^nu$ と表記できる。このような $n$ の最小値を $v(x)$ と表す。
このとき、任意の非零なイデアル $I$ について、$\mathrm{min}\{v(i)|i \in I\}$ を $e$ とおくと、$I=(r^e)=\mathfrak{m}^e$ が成り立つ。よって $R$ はNoether環であり、特に主イデアル整域である。
section 10
10.1.
付値環 を参照されよ。
$R$ の元 $x$, $y$ について、$x\in (y)$ または $y\in (x)$ が成り立つため、$2$ 元生成イデアルは単項生成イデアルである。よって帰納的に、有限生成イデアルが単項生成イデアルであることが示される。
10.2.
- 平坦 $\Rightarrow$ 捻れなし
$M$ が平坦 $R$-加群であると仮定する。このとき、$R$ は整域であったため、 $a \in R$ について $R$ 上の $a$ 倍写像を $a_R$ と表記することにすると、$ 0\neq a$ について $a_R:R\to R$ は単射であることがわかる。従って、以下の図式 \begin{xy} \xymatrix { 0 \ar[r] & R \ar[r]^{a_R} & R } \end{xy} は完全列である。
このとき、$M$ は $R$-平坦であるため、以下の図式 \begin{xy} \xymatrix { 0 \ar[r] & R\otimes_R M \ar[r]^{a_R} & R\otimes_R M } \end{xy} は完全列である。従って、$M$ の $a$ 倍写像 $a_M\colon M\to M$ は単射である。したがって $M$ は $R$-捻れを持たない。
- 捻れなし $\Rightarrow$ 平坦
$R$-加群 $M$ が平坦であるための必要充分条件として、「任意の $R$ の有限生成イデアル $I$ について $I\otimes_R M\to R\otimes_R M$ が単射となる」ことが挙げられる(これはホモロジー代数における基本的な結果である)。このとき、$R$ は整域であり、また $I$ は主イデアルであるため、同型 $f\colon R\cong I$ が存在する。包含射 $i\colon I\to R$ との合成 $i\circ f$ はある $0\neq a\in R$ について $a$ 倍写像 $a_R$ と等しくなる。このとき $M$ は捻れがないため、$a_R\otimes_R \mathrm{id}_M$ は単射である。よって $i \otimes_R \mathrm{id}_M$ は単射である。したがって $M$ は平坦。
10.3.
10.4.
$R$ の極大でない非零な素イデアル $\mathfrak{p}$ の非零な元 $a$ をとる。このとき、$R$ の商体を $K$ とおくと、$K[ [X] ]$ において $K$ が標数 $2$ でないならば $a^2+X$ は平方根を持つ(Henselの補題より)。これは $R[ [X] ]$ には含まれないが、$R[ [X] ]$ の商体に含まれる。
10.5.
10.6.
$v(\alpha) \lt v(\beta)$ であるとする。このとき $v(\alpha+ \beta) \gt v(\alpha)$ であるなら、$v(\alpha)\geq \mathrm{min}(v(\alpha+\beta), v(\beta))$ に違反するため、$v(\alpha+ \beta) = v(\alpha)$ が成り立つ。
10.7.
$\alpha_\bullet$ のなかで付値が最小のものがただひとつ存在した場合、それを $\alpha_1$ とおくと、$v(a_2+\ldots+a_n)$ は $v(a_1)$ よりも大きいため、$v(a_1+a_2+\ldots+a_n)=v(a_1)$ となる。従って $a_1 \neq 0$ よりこれは仮定に反する。
10.8.
10.9.
10.10.
10.11.
補足
10.2. の別解について述べる。任意の加群は、その有限生成部分加群の余極限として表示されるため、任意の $R$ 上有限生成捻れ無し加群が平坦であることを示せばよい。しかし、実際にはこれは自由加群となる。
有限生成捻れなし加群 $M$ について、$M$ の生成系 $m_1, \ldots, m_n$ であって濃度が最小であるものを取る。このあいだに非自明な $R$-関係式があったとすると、ある $r_1, \ldots, r_n$ なる $R$ の元であって、$a_\bullet$ のいずれかが $0$ でなく、$r_1m_1+\ldots r_nm_n=0$ となるものが存在する。このとき最も付値が大きい($0$ から遠い)ものが $r_1$ であると仮定してよい。このとき $M$ は捻れなし加群であるため、関係式を $r_1$ で割ることができるが、このとき生成系の最小性に違反するため、$M$ は自由加群であることが示される。
section 16
16.2.
$\mathfrak{b}:\mathfrak{a}=\mathfrak{b}$ であることと $\mathrm{Hom}_A(A/\mathfrak{a}, A/\mathfrak{b}) = 0$ であることは同値である。したがって定理 16.9 より従う。
16.3.
$I \subset \mathfrak{p}$ より $\mathrm{grade}(I) \leq \mathrm{grade}(\mathfrak{p}) $ が成り立つ。また、Exercise 16.2 より $\mathrm{grade}(I) \lt \mathrm{grade}(\mathfrak{p})$ ならば $I:\mathfrak{p}=I$ が導かれてしまうが、これは $\mathfrak{p}$ が $I$ の素因子であることに矛盾するため、$\mathrm{grade}(I) = \mathrm{grade}(\mathfrak{p})$ が成り立つ。
16.5.
$a_\bullet$ は $A$-準正則列であるため、定義より $a_\bullet$ は単元ではない。ここで、$k$-係数多項式 $F(x_\bullet) \neq 0$ であって $F(a_\bullet) = 0$ なるものが存在したとする。このとき、$F$ の最低次部分を $G$ とおくと、$G(a_\bullet)$ は $(a_\bullet)^{\mathrm{deg}(G)+1}$ に値を取るため、これは準正則列性に矛盾する。
section 22
22.1
$\mathfrak{q}$ は $\mathfrak{m}$-準素イデアルであるため、$A/\mathfrak{q}$ はArtin環である。よって $A/\mathfrak{q}$ の $A$-長さは有限である。同様に $\mathfrak{q}B$ は $\mathfrak{n}$-準素イデアルであるため、$B/\mathfrak{q}B$, $B/\mathfrak{m}$ の $B$-長さは有限である。
ここで、$A/\mathfrak{q}$ の $A$-長さを $n$ とおき、$A/\mathfrak{q}$ の部分 $A$-加群 $M_1, \ldots, M_n$ であって $$ A/\mathfrak{q} \supset M_1 \supset \ldots \supset M_n = 0 $$ なるものをとる。ただし $M_\bullet$ はいずれも相異なるとする。このとき、$M_i/M_{i+1}$ は $A$-加群として $A/\mathfrak{m}$ と同型である。
$B$ が $A$-平坦であるならば、自然に $M_i \otimes_A B$ は $B$ の部分加群への単射を持つ。この像は $M_iB$ と一致する。このとき、テンソル積の右完全性より $M_iB/M_{i+1}B \cong B/\mathfrak{m}B$ が成り立つため、$l_B(B/\mathfrak{q}B)=l_A(A/\mathfrak{q})l_B(B/\mathfrak{m}B)$ が成り立つ。
逆に $l_B(B/\mathfrak{q}B) = l_A(A/\mathfrak{q})l_B(B/\mathfrak{m}B)$ が成り立つと仮定する。このとき、定理 22.3 より、$B/\mathfrak{q}B$ が $A/\mathfrak{q}$-平坦であることを示せばよい。ここで、再び定理 22.3 より、$(\mathfrak{m}/\mathfrak{q}) \otimes_{A/\mathfrak{q}} (B/\mathfrak{q}B) \to B/\mathfrak{q}B$ が単射であることを示せばよい。
$A/\mathfrak{q}$ のフィルトレーション $\{M_\bullet\}$ について、包含射の列 $$0 = M_n \to \ldots \to M_1 \to A$$ に $\otimes_{A/\mathfrak{q}} B/\mathfrak{q}B$ を施した列 $$0 = M_n\otimes_{A/\mathfrak{q}} B/\mathfrak{q}B \to \ldots \to M_1\otimes_{A/\mathfrak{q}} B/\mathfrak{q}B \to A\otimes_{A/\mathfrak{q}} B/\mathfrak{q}B$$ を考える。このとき、$(M_i\otimes_{A/\mathfrak{q}} B/\mathfrak{q}B)/(M_{i+1}\otimes_{A/\mathfrak{q}} B/\mathfrak{q}B)$ は $B/\mathfrak{m}B$ と同型であるため、帰納的に $M_i$ の長さは $(n-i)l_A(A/\mathfrak{q})$ 以上であることが示される。しかし $M_n$ の長さは明らかに $0$ であるため、$M_{i+1}\otimes_{A/\mathfrak{q}} B/\mathfrak{q}B \to M_i\otimes_{A/\mathfrak{q}} B/\mathfrak{q}B$ はいずれも単射である必要がある。したがって主張は示された。