有限体:有限体の構造
$\newcommand{\N}{\mathbb{N}}$ $\newcommand{\Z}{\mathbb{Z}}$ $\newcommand{\Q}{\mathbb{Q}}$ $\newcommand{\R}{\mathbb{R}}$ $\newcommand{\C}{\mathbb{C}}$ $\newcommand{\K}{\mathbb{K}}$ $\newcommand{\L}{\mathbb{L}}$ $\newcommand{\F}{\mathbb{F}}$ $\newcommand{\LCM}{\mathrm{LCM}}$ $\newcommand{\abs}[1]{\left\lvert#1\right\rvert}$ $\newcommand{\wenvert}[1]{\left\lvert\left\lvert#1\right\rvert\right\rvert}$ $\newcommand{\floor}[1]{\left\lfloor#1\right\rfloor}$ $\newcommand{\mathmod}[1]{\ \left(\mathrm{mod}\ #1\right)}$ $\newcommand{\relmid}[1]{\mathrel{}\middle|\mathrel{}}$
有限個の要素からなる体を有限体 (Finite field) という。
たとえば、$\F_p=\Z/p\Z$ とおくと、合同式:定理1.7より $\F_p$ は $p$ 個の要素からなる有限体であることがわかる。 一方、$n$ が合成数のとき $\Z/n\Z$ は体ではない。実際、$n=md, 1<m, d<n$ と分解すると、 $md\equiv 0\mathmod{n}$ であるから、$m\mathmod{n}, d\mathmod{n}$ は $\Z/n\Z$ における零因子となり、 $\Z/n\Z$ は整域でもないことがわかる。
有限体の標数
有限体は環であるから、自然に $\Z$-加群となる。つまり $F$ が有限体のとき、$a\in F$ と、$k\in\Z$ に対して $$0a=0, 1a=a, (k+1)a=ka+a, (-k)a=-(ka)$$ つまり $$ka=\overbrace{a+a+\cdots +a}^{k}$$ により、$F$ は $\Z$-加群となる。すなわち、つぎのような事実が成り立つ。
命題 1
$a\in F$ および $k, \ell\in\Z$ に対して $$(k+\ell) a=ka+\ell a$$ が成り立つ。
Proof.
$\ell=0$ のとき、$(k+0)a=ka=ka+0a$ より明らか。 $\ell=1$ のときも、$(k+1)a=ka+a=ka+1a$ より明らか。 $\ell\geq 1$ で $(k+\ell) a=ka+\ell a$ が成り立つとき $$(k+\ell +1)a=(ka+\ell)a+a=ka+\ell a+a=ka+(\ell+1)a$$ なので、$(k+\ell+1) a=ka+(\ell +1)a$ も成り立つ。
よって、任意の自然数 $\ell$ について $(k+\ell)a=ka+\ell a$ は成り立つ。 $\ell$ が負の整数のとき、 $$(k+\ell)a-\ell a=(k+\ell a)+(-(\ell a))=(k+\ell a)+((-\ell) a)=ka$$ より $ka+\ell a=(k+\ell) a$ が成り立つ。
□命題 2
$F$ の乗法単位元を $1_F$ とおくと、$k\in\Z$ に対して $$(k\times 1_F) a=ka$$ が成り立つ。
Proof.
$F$ の零元(加法単位元)を、$\Z$ の零元と区別する必要のある場合には、$0_F$ とおく。 $(0\times 1_F) a=0_F=0\times a$ は明らか、また $(k 1_F) a=ka$ ならば $$((k+1) 1_F) a=(k\times 1_F) a+1_F a=ka+a=(k+1)a$$ であるから、数学的帰納法より、$k\in\N$ について $(k 1_F)a=ka$ が成り立つ。 $k$ が負の整数のとき、$k=-\ell$ とおくと、 $$(k\times 1_F) a=(-\ell\times 1_F) a=-(\ell\times 1_F) a=-\ell a=ka$$ となる。
□命題 3
$a\in F$ および $k, m\in\Z$ に対して $$k(ma)=(km)a$$ が成り立つ。
Proof.
$k=0$ のとき、$0(ma)=0_F=0a=(0\times m)a$ は明らか、また $k(ma)=(km)a$ ならば $$(k+1)(ma)=k(ma)+ma=(km)a+ma=((k+1)m)a$$ であるから、数学的帰納法より、$k\in\N$ について $k(ma)=(km)a$ が成り立つ。 $k$ が負の整数のとき、$k=-\ell$ とおくと、 $$k(ma)=-\ell(ma)=-(\ell(ma))=-(\ell m)a=(-\ell m)a=(km)a$$ となる。
□命題 4
$a, b\in F$ および $k\in\Z$ に対して $$k(a+b)=ka+kb$$ が成り立つ。
Proof.
$k=0$ のとき、$0(a+b)=0_F=0_F+0_F=0a+0b$ は明らか、また $k(a+b)=ka+kb$ ならば $$(k+1)(a+b)=k(a+b)+a+b=ka+kb+a+b=(k+1)a+(k+1)b$$ であるから、数学的帰納法より、$k\in\N$ について $k(a+b)=ka+kb$ が成り立つ。 $k$ が負の整数のとき、$k=-\ell$ とおくと、 $$k(a+b)=-(\ell(a+b))=-(\ell a+\ell b)=-\ell a+(-\ell b)=(-\ell)a+(-\ell) b$$ となる。
□
有限体に対する、基本的な事実として、つぎのような素数が一意的に定まる。
定理 5
$F$ を有限体とすると、$0$ 以外の $F$ の要素 $a$ について、$pa=0$ となる素数 $p$ が、$F$ によってのみ一意的に定まる。 さらに、任意の $a\neq 0$ について $$ka=0\Longleftrightarrow p\mid k$$ となる。
このような素数を $F$ の標数 (characteristic) という。たとえば $\F_p$ の標数は $p$ に一致する。 一般に、環 $R$ の乗法単位元 $1$ について、$n\times 1=0$ となる最小の正の整数 $n$ が存在するとき、$n$ を $R$ の標数といい、 そのような正の整数 $n$ が存在しないとき、$R$ の標数を $0$ と定める。 $R$ が整域ならば、$R$ の標数は $0$ かまたは素数である。
Proof.
$F$ は有限体だから、$\{ma: m\in\Z\}$ は有限集合である。よって $a\in F$ について $ma=na$ となる $2$ つの整数 $m\neq n$ がとれる。 したがって、$k=m-n$ とおくと、$k\neq 0$ かつ $ka=0$ となる。 よって、$ka=0$ となる $0$ でない整数 $k$ が必ず存在することがわかる。
$0$ 以外の $F$ の要素 $a\neq 0$ をひとつとると、$ka=0$ となる $0$ でない整数 $k$ が存在する。
$F$ の乗法単位元を $1_F$ とし、$k\times 1_F=0$ となる、最小の正の整数 $k$ を $k_1$ とおく。 $k_1=1$ のとき、$1_F=0$ となって矛盾する。 $k_1$ が合成数のとき、$k_1=md, 1<d, m<k_1$ と分解すると、命題 2および命題 3より $$(m\times 1_F)(d\times 1_F)=m(d\times 1_F)=(md) 1_F=0$$ となり、$R$ が整域であることに反する。よって $k_1$ は素数でなければならない。
ここから、$p=k_1$ ととれることを示す。 一般に、$ka=0$ となる最小の正の整数を $k_a$ とおく。 $ka=0$ かつ $m=kd$ ならば、$ma=kda=d(ka)=0$、 また、$ka=\ell a=0$ ならば $(k+\ell)a=ka+\ell a=0$ であるから 倍数と約数:定理2.3あるいは「環論の基礎4:UFD・PID」の命題 4.16より、 $\{k\in\Z: ka=0\}$ は $k_a$ の倍数全体と一致する。 $$k_1 a=(k_1\times 1_F)a=0_F \times a=0$$ となるから、任意の $a\in F$ について、$k_1 a=0$ が成り立つ。 よって $k_a$ は $k_1$ の約数であるが、$k_1$ は素数だから、$k_a=1$ または $k_1$ でなければならない。 $k_a=1$ ならば、$a=k_a a=0$ となる。つまり、$a\neq 0$ ならば $k_a$ は $k_1$ に一致する。さらに、 先に述べたことから、 $$ka=0\Longleftrightarrow k_1\mid k$$ となる。よって $p=k_1$ ととれる。
□
有限体の構造
$F$ が標数 $p$ の有限体とする。 $k\equiv \ell\mathmod{p}$ ならば、$ka=\ell a$ であるから、$\bar k=k\mathmod{p}\in \F_p$ について、$(\bar k)a=ka$ と定めることで、 $F$ は $\F_p$ 上のベクトル空間となる。 $F$ は有限体であるから、$\F_p$ 上のベクトル空間としての生成元 $a_1, a_2, \ldots, a_m$ がとれる。 このとき、$F$ のすべての要素は $$k_1 a_1+k_2 a_2+\cdots +k_m a_m, k_1, k_2, \ldots, k_m\in\F_p$$ と一意に表すことができる。よって、$F$ は $p^m$ 個の要素からなる。
このことから、標数 $p$ の有限体の要素の個数は $p$ の冪であることがわかる。
逆に、任意の正の整数 $e\geq 1$ について、$p^e$ 個の要素からなる有限体が存在する。これはつぎのように構成される。
$\Phi_d(X)$ を $1$ の $d$ 乗根に関する円分多項式とする。 素数 $p$ と、正の整数 $e\geq 1$ をとる。 $\Phi_{p^e-1}(T)$ の $\F_p[T]$ における既約因子をひとつとり、それを $f(T)$ とおく。 多項式環:多項式の除法の原理 にあるように、$\F_p[T]$ はユークリッド整域だから 「環論の基礎4:UFD・PID」の命題4.16よりPIDなので、 「環論の基礎4:UFD・PID」の命題4.13より$(f)$ は素イデアルである。 「環論の基礎4:UFD・PID」の命題4.14よりPIDにおいて素イデアルは極大イデアルとなるから $(f)$ は極大イデアルである。よって $\F_p[T]/(f(T))$ は体となる。
重要なことは、この体が $p^e$ 個の要素からなる体となることである。
定理 6
$\F_p[T]/(f(T))$ は $p^e$ 個の要素からなる体である。実際、
$$\F_p[T]/(f)=\{0, 1, T, \ldots, T^{p^e-2}\}$$ かつ、$\F_p[T]/(f)$ 上の方程式 $$X^{p^e}-X=0 \ \ \ (1)$$ は重解をもたず、$\F_p[T]/(f)$ は、その解の集合となる。つまり $$X^{p^e}-X=X(X-1)(X-T)\cdots (X-T^{p^e-2})$$ と分解される。
このことから、$\F_p[T]/(f)$ は $p^e$ 個の要素からなる有限体であることがわかる。これにより、 任意の素数 $p$ と、正の整数 $e\geq 1$ について、$p^e$ 個の要素からなる有限体が存在することがわかる。
Proof.
$0, 1, T, \ldots, T^{p^e-2}$ は $\F_p[T]/(f)$ に含まれることは明らかである。
つぎに、$(1)$ の解は、$0, 1, T, \ldots, T^{p^e-2}$ で与えられることを示す。 そこで、先に $0, 1, T, \ldots, T^{p^e-2}$ は相異なることを示す。 $0$ は $1, T, \ldots, T^{p^e-2}$ のいずれとも相異なることは明らかである。 $T^i=T^j, 0\leq i, j\leq p^e-2$ かつ $i\neq j$ であるとすると、$d=\abs{i-j}$ とおくと、$T^d=1$ かつ $1\leq d\leq p^e-2$ となる。 $T^g=1$ となる最小の正の整数を $g$ とおくと、 $p^e-1$ は $g$ で割り切れ、かつ $g<p^e-1$ となる。円分多項式:命題1より、$\Z[T]$ において $$\frac{T^{p^e-1}-1}{T^g-1}\equiv \frac{p^e-1}{g}\mathmod{T^g-1}$$ となる。つまり、 $$\frac{T^{p^e-1}-1}{T^g-1}-g(T)(T^g-1)=\frac{p^e-1}{g}$$ となる $g(T)\in\Z[T]$ がとれる。よって、$\F_p[T]$ においても、この等式が成り立つ。 しかし、$F_p[T]$ において、 $$f\mid \Phi_{p^e-1}(T)\mid (T^{p^e-1}-1)/(T^g-1)$$ かつ $$f\mid (T^g-1)$$ であるから、$\F_p[T]$ において、左辺は $f(T)$ で割り切れなければならない。つまり $\F_p[T]$ において、$(p^e-1)/g$ が $f(T)$ で割り切れることになって矛盾する。
よって、$0, 1, T, \ldots, T^{p^e-2}$ は $\F_p[T]/(f)$ の相異なる $p^e$ 個の要素である。 さて、$X$ を未知数とする方程式 $(1)$ は $\F_p[T]/(f)$ において、$0, 1, T, \ldots, T^{p^e-2}$ を解にもつ。 実際、$(1)$ の左辺は $X$ で割り切れるから、$0$ は $(1)$ の解で、また $T^{p^e-1}=1$ だから、$T^{k(p^e-1)}=1$ も成り立つので、$T^k$ の形の要素は $(1)$ の解である。 一方、$\F_p[T]/(f)$ は体だから、この方程式は高々 $p^e$ 個の解しかもたない。よって $(1)$ の解は $0, 1, T, \ldots, T^{p^e-2}$ で与えられる。
つぎに、$\F_p[T]/(f)$ の要素はすべて $(1)$ の解であることを示す。 $1$ は明らかに $(1)$ の解である。また、$f$ のとり方から、$T$ も $(1)$ の解である。 $a, b$ が $(1)$ の解ならば、 $$(ab)^{p^e}=a^{p^e} b^{p^e}=ab$$ より $ab$ は $(1)$ の解である。
また、 $$(a+b)^{p^e}=\sum_{k=0}^{p^e} \binom{p^e}{k} a^{p^e-k} b^k$$ となるが、二項係数が整数値をとることの証明からわかるように、 $0<k<p^e$ のとき、素数 $p$ が $\binom{p^e}{k}$ を割り切る指数は $$\sum_{j=1}^{\infty} \left(\floor{\frac{p^e}{p^j}}-\floor{\frac{k}{p^j}}-\floor{\frac{n-k}{p^j}}\right) \geq \floor{\frac{p^e}{p^e}}-\floor{\frac{k}{p^e}}-\floor{\frac{p^e-k}{p^e}}=1$$ となる。つまり、$0<k<p^e$ のとき $p$ は $\binom{p^e}{k}$ を割り切る。よって $\F_p[X]/(f)$ において $$(a+b)^{p^e}=a^{p^e}+b^{p^e}$$ となる。
よって、$a, b$ が $(1)$ の解ならば、$ab, a+b$ も $(1)$ の解である。 $\F_p[T]/(f(T))$ の要素は $$a_{d-1} T^{d-1}+\cdots+a_0$$ の形の代表元をもつから、積と和を有限回繰り返すことで、 $\F_p[T]/(f(T))$ の要素はすべて $(1)$ の解であることがわかる。
□さらに、$p^e$ 個の要素からなる体は、同型を除いて一意的に定まる。まず、Fermatの小定理の一般化を示す。
定理 7 (Fermatの小定理の一般化)
$F$ が $p^e$ 個の要素からなる体のとき、$0$ 以外の $F$ の要素 $a$ に対し、つねに $$a^{p^e-1}=1$$ が成り立つ。言い換えると、$a\in F$ に対し、つねに $$a^{p^e}=a$$ が成り立つ。
Proof.
$F$ を $p^e$ 個の要素からなる体とする。$F\setminus \{0\}$ は $p^e-1$ 個の要素からなる乗法群となるので、 「群論の基礎3:正規部分群」の命題 3.6より、 $0$ 以外の $F$ の要素 $a$ の位数は $p^e-1$ の約数である。よって $$a^{p^e-1}=1$$ が成り立つ。よって、 $a\in F$ が $0$ でも、$0$ でなくても $$a^{p^e}=a$$ が成り立つ。
□定理 8
$\Phi_{p^e-1}(X)$ の $\F_p[X]$ における既約因子 $f(X)$ をひとつとると、 $p^e$ 個の要素からなる体は、$\F_p[T]/(f(T))$ に同型である。
Proof.
$F$ を $p^e$ 個の要素からなる体とする。定理 7より、$0$ 以外の $F$ の要素 $a$ に対し、つねに $$a^{p^e-1}=1$$ が成り立つ。よって $F$ 上の方程式 $$X^{p^e-1}-1=0$$ は $F$ において、$p^e-1$ 個の解をもつから、$X^{p^e-1}-1\in F[X]$ は $$X^{p^e-1}-1=\prod_{a\in F, a\neq 0}(X-a)$$ と因数分解される。とくに $f(X)$ は $X^{p^e-1}-1$ の因数でもあるから、 $f(X)$ も $F[X]$ において$1$次式の積に因数分解されるので、 $f(X)=0$ は $F$ において解 $X=t$ を少なくとも$1$つもつ。したがって、$\F_p(t)\subset F$ となるが、 $\F_p(t)$ は $\F_p[T]/(f(T))$ に同型であり、定理 6より、$\F_p(t)$ は $p^e$ 個の要素からなる体である。 よって、$F=\F_p(t)$ は $\F_p[T]/(f(T))$ に同型である。
□それで、この $p^e$ 個の要素からなる有限体を $\F_{p^e}$ であらわす。定理 6より、$\F_{p^e}$ は $\F_p$ の単拡大である。逆に、定理 8より、$\F_p$ の単拡大は $\F_{p^e}$ の形のものに同型であることがわかる。それで、$\F_p$ の代数閉包は $$\overline{\F_p}=\bigcup_{e\geq 1}\F_{p^e}$$ で与えられる。
例 9
$4$ 個の要素からなる有限体は $$\F_4=\F_2[T]/(T^2+T+1)=\{0, 1, T, T^2\}=\{0, 1, T, T+1\}$$ により定まる。実際、この体における演算は $$T^2=T+1, T(T+1)=(T+1)T=1, (T+1)^2=T$$ により定まる($\Z/4\Z$ や $(\Z/2\Z)\oplus(\Z/2\Z)$ は $4$ 個の要素からなる環ではあるが体ではない。$\F_4$ の演算は、これらの環の演算とは異なることに注意)。
参考文献
Rudolf Lidl and Harald Niederreiter, Finite fields, Encyclopedia of Mathamatics and its applications, 2nd edition, Cambridge University Press, 1997, reprinted 2000.