完全写像
定義
位相空間 $X$, $Y$ について、$f\colon X\to Y$ が完全写像であるとは、$f$ が連続写像であり、かつ閉写像であり、かつ $y \in Y$ について $y$ のファイバー $f^{-1}(y)$ がコンパクトであることをいう。
基本的な性質
命題 1 (コンパクト空間からHausdorff空間への連続射は完全)
コンパクト空間 $X$ とHausdorff空間 $Y$ について、連続写像 $f\colon X\to Y$ は完全写像である。
命題 1の証明:
- $f$ の連続性は仮定より明らかである。
- $f$ が閉写像であることを示す。$X$ の閉集合 $Z$ を任意に取ったとき、コンパクト空間の閉集合はコンパクトであるため、$Z$ はコンパクトである。コンパクト空間の連続写像による像はコンパクトであるため、$f(Z)$ はコンパクトである。このとき、Hausdorff空間においてコンパクト集合は閉集合であるため、$f(Z)$ は $Y$ の閉集合である。よって $f$ は閉写像である。
- $y \in Y$ について $f^{-1}(y)$ がコンパクトであることを示す。Hausdorff空間において一点は閉であるため、$f^{-1}(y)$ は閉集合である。コンパクト空間の閉集合はコンパクトであるため、$f^{-1}(y)$ はコンパクトである。
よって $f$ は完全写像である。
(Q.E.D.)命題 2 (完全写像の制限の完全性)
完全写像 $f\colon X\to Y$ と部分集合 $W\subset Y$ について、$f$ の制限 $\tilde{f}\colon f^{-1}(W)\to W$ は完全写像である。
命題 2の証明:
- $\tilde{f}$ の連続性は明らかである。
- $\tilde{f}$ が閉写像であることを示す。$f^{-1}(W)$ の閉集合 $Z'$ を任意に取ったとき、ある $X$ の閉集合 $Z$ について $Z'=Z\cap f^{-1}(W)$ なるものが取れる。このとき、$\tilde{f}(Z')=f(Z \cap f^{-1}(W))=f(Z) \cap W$ が成り立つ。$f$ の閉写像性より $f(Z)$ は $Y$ の閉集合であるため、$\tilde {f}(Z')$ もまた $W$ の閉集合である。
- $y \in Y$ について $\tilde{f}^{-1}(y)$ がコンパクトであることは明らかである。
よって $\tilde{f}$ は完全写像である。
(Q.E.D.)命題 3 (コンパクト集合の完全逆像はコンパクト)
完全写像 $f\colon X\to Y$ について、$Y$ がコンパクトならば $X$ はコンパクトである。
命題 3の証明:
$X$ の開被覆 $\mathcal{U}$ を固定する。このとき、$\mathcal{U}$ の有限部分族 $\mathcal{V}$ について、$U_\mathcal{V}=\bigcup_{V \in \mathcal{V}} V$ と定める。
- $Y$ の点 $y$ について、$f^{-1}(y)$ はコンパクトであるため、ある $\mathcal{U}$ の有限部分族 $\mathcal{V}$ について $f^{-1}(y)\subset U_\mathcal{V}$ が成り立つ。よって、$y\notin f(X-U_\mathcal{V})$ すなわち $y \in Y-f(X-U_\mathcal{V})$ が示される。
- $\mathcal{U}$ の有限部分族全体の集合を $S$ とおく。このとき $Y\subset \bigcup_{\mathcal{V}\in S} Y-f(X-U_\mathcal{V})$ が成り立つ。ここで $f$ の閉写像性より $Y-f(X-U_\mathcal{V})$ は $Y$ の開集合であるため、$\{Y-f(X-U_\mathcal{V})\}_{\mathcal{V} \in S}$ は $Y$ の開被覆となっている。よって有限個の $\mathcal{V}_1$, $\ldots$, $\mathcal{V}_n$ によって $Y=\bigcup_{1\leq i \leq n}Y-f(X-U_{\mathcal{V}_i})$ を成り立たせることができる。
- $X=f^{-1}(Y)=\bigcup_{1\leq i \leq n}f^{-1}(Y-f(X-U_{\mathcal{V}_i}))\subset \bigcup_{1\leq i \leq n}U_{\mathcal{V}_i}$ が成り立つ。ここで、$U_{\mathcal{V}_i}$ はもともと $\mathcal{U}$ の要素の有限和であったため、$X$ は $\mathcal{U}$ の要素の有限和である。
以上の議論より、$X$ のコンパクト性が示される。
(Q.E.D.)定理 4 (完全写像の合成の完全性)
$f\colon X\to Y$, $g\colon Y\to Z$ が完全写像ならば、$g\circ f\colon X\to Z$ は完全写像である。
定理 4の証明:
位相的性質の遺伝
さまざまな位相的性質が、完全写像による像、もしくは完全写像による逆像によって遺伝することが知られている。以下、完全写像による像のことを完全像とよび、完全写像による逆像のことを完全逆像とよぶ。完全像(resp. 完全逆像)についてある位相的性質 $P$ が遺伝するとは、完全写像 $f:X\to Y$ があったときに、$X$ が性質 $P$ を満たすならば $f(X)$ も性質 $P$ を満たす(resp. $Y$ が性質 $P$ を満たすならば $X$ も性質 $P$ を満たす)ことを指していう。
- Hausdorff性、正規性、正則性は完全像について遺伝する。
- 局所コンパクト性は完全像について遺伝する。
- パラコンパクト性は完全逆像について遺伝する。
- Lindelöf性は完全逆像について遺伝する。
information
参考文献
- [RE1] Ryszard Engelking, "General Topology", 1989
外部リンク
- Wikibooks (2020-10-21 有効なリンク)
- Lindelöf空間の深淵, 湯地 智紀 (2020-10-21 有効なリンク)