可換モノイド論/群
\(\newcommand{\ker}{\mathrm{ker}} \newcommand{\im}{\mathrm{im}} \newcommand{\nat}{\mathbb{N}} \newcommand{\gp}{^\mathrm{gp}}\)
群
定義 1 (群)
モノイド $M$ が群であるとは、任意の $m \in M$ について $m+n=0$ を充たす元 $n \in M$ が存在することをいう。このような $n$ を $m$ の逆元という。
補題 2 (逆元の一意性)
モノイド $M$ の元 $m \in M$ について、$m$ の逆元は存在すれば一意である。
証明
$m+n=0=m+n'$ ならば、両辺に $n$ を足すと $n=n'$ が示される。□
記法 3 (逆元についての記法)
モノイド $M$ の元 $m$ について、$m$ の逆元が存在するならばこれは一意であるため、$-m$ と表記する。
単元群
補題 4 (可逆性は和・逆元に閉じる)
モノイド $M$ の可逆元 $m,n \in M$ について、$m+n$, $-m$ は可逆元である。
証明
それぞれ $(-m)+(-n)$, $m$ が逆元となる。□
定義 5 (単元群)
モノイド $M$ について、$M$ の可逆元全体のなす $M$ の部分モノイドを $M^*$ と表記し、これを $M$ の単元群とよぶ。
命題 6 (単元群の特徴付け)
モノイド $M$ について、$M^*$ は $M$ に含まれる群のなかで最大のものである。
証明
$M^*$ の任意の元は $M^*$ に逆元を持つため $M^*$ は群となる。また、$M$ の部分群 $N$ について $N$ の任意の元は可逆であるため $N\subset M^*$ が成り立つ。よって $M^*$ の最大性が言える。□
群化
定義 7 (群化)
モノイド $M$ に対して、$M^2$ 上の二項関係 $R$ を以下で定める。
- $(a,b),(c,d) \in M^2$ に対して $(a,b)R(c,d)$ $\Leftrightarrow$ $\exists x \in M, \ a+d+x=b+c+x$
このとき、$R$ は合同関係となり、商モノイド $M^2/R$ を $M\gp$ と表記し、$M$ の群化という。また $(a,b)$ の同値類を $a-b$ と表記する。また $a \in M$ に対して $a-0 \in M\gp$ を充てる自然なモノイドの射が存在する。また $a-0 \in M\gp$ についてこの元を $a$ とも表記する。
補題 8 (群化は群である)
モノイド $M$ の群化 $M\gp$ は群である。
証明
$M\gp$ の任意の元は $M$ の元 $a,b$ によって $a-b$ と表せる。このとき、$b-a$ は $a-b$ の逆元となっている。□
随伴
定義 9 (忘却函手 $\mathsf{Grp}\to \mathsf{Mon}$)
(可換)群の圏からモノイドの圏への忘却函手とは、群 $G$ に対して群 $G$ を充てる対応のことをいう。
命題 10 (右随伴対応)
群 $G$ とモノイド $M$ について、以下で与えられる集合の射 $f\colon \mathrm{Hom}_\mathrm{Grp}(G,M^*)\to \mathrm{Hom}_\mathrm{Mon}(G,M)$ は全単射である。
- $g\colon G\to M^*$ について、$f(g)(x)=g(x)$
証明
モノイドの射 $h\colon G\to M$ に対して、$h$ の像は $M^*$ に含まれるため、$h'(x)=h(x)$ なる群の射 $h'\colon G\to M^*$ をつくることができる。このとき $h$ に対して $h'$ を充てる対応は $f$ の逆対応となる。□
命題 11 (忘却函手の右随伴)
群の圏からモノイドの圏への函手は右随伴を持つ。
証明
命題 12 (左随伴対応)
群 $G$ とモノイド $M$ について、以下で与えられる集合の射 $f\colon \mathrm{Hom}_\mathrm{Grp}(M\gp,G)\to \mathrm{Hom}_\mathrm{Mon}(M,G)$ は全単射である。
- $g\colon M\gp\to G$ について、$f(g)(m)=g(m-0)$
証明
モノイドの射 $h\colon M\to G$ に対して、$h'(a-b)=h(a)-h(b)$ と定めると、$h$ に対して $h'$ を充てる対応は $f$ の逆対応となる。□
命題 13 (忘却函手の左随伴)
群の圏からモノイドの圏への函手は左随伴を持つ。
証明
information
情報源
- P. A. Grillet. "Commutative Semigroups". Springer, Netherlands (2001).
