リーマン曲率テンソル
リーマン曲率テンソル
リーマン多様体の曲がり具合を表現するためのテンソル場がリーマン曲率テンソル(Riemannian curvature tensor)である。 リーマン曲率は曲面論におけるガウス曲率の一般化とみなすこともできる。 またリーマン曲率はリーマン同型類の不変量を与える。
3次元空間中の平面と曲面を見比べると曲面の方が2次元空間としてより曲がっているように見える。 これは我々が曲面を外から眺めたときの見解であるが、曲面上にへばりついた2次元的な生物(実際、人間は近似的には球面上の2次元的生物である)には自分たちの住む世界が曲がっているかどうか外から眺めずに分かるだろうか。 ここに以下で説明するリーマン曲率が登場する。 リーマン曲率は完全にリーマン多様体の内在的な情報のみから決定される。 すなわち、リーマン計量がリーマン接続を一意的に定め、リーマン接続からリーマン曲率が定義される。 従って、先の問の答えは Yes である。
リーマン多様体 $(M,g)$ のリーマン接続を $\nabla$ とする。 このとき、$(1,3)-$型テンソル場を $$ \begin{aligned} R(X,Y)Z:=\nabla_X\nabla_YZ-\nabla_Y\nabla_XZ-\nabla_{[X,Y]}Z,\ \ \ X,Y,Z\in\Gamma(TM) \end{aligned} $$ と定義する。 ここで $\Gamma(TM)$ は接バンドル $TM$ の滑らかな切断、すなわちベクトル場の全体である。 これをリーマン曲率テンソルと呼ぶ。
[$(1,3)-$型テンソル場となることの証明]
$R$ が$(1,3)$-型テンソル場であることを示すには、$R(X,Y)Z$ が $X,Y,Z$ に対して $C^\infty(M)$-線形でかつベクトル場であることを示せばよい。 $f\in C^\infty(M)$ に対して、 $$ \begin{aligned} R(fX,Y)Z&=f\nabla_X\nabla_YZ-f\nabla_Y\nabla_XZ-Y(f)\nabla_XZ-f\nabla_{[X,Y]}Z+Y(f)\nabla_XZ=f R(X,Y)Z \end{aligned} $$ が成り立つ。 $Y$ を $fY$ としても同様。 また $$ \begin{aligned} R(X,Y)fZ&=\nabla_X(Y(f)Z+f\nabla_YZ)-\nabla_Y(X(f)Z+f\nabla_XZ)-[X,Y](f)Z-f\nabla_{[X,Y]}Z\\ &=X(Y(f))Z+Y(f)\nabla_XZ+X(f)\nabla_YZ+f\nabla_X\nabla_YZ\\ &-Y(X(f))Z-X(f)\nabla_YZ-Y(f)\nabla_XZ-f\nabla_Y\nabla_XZ -[X,Y](f)Z-f\nabla_{[X,Y]}Z\\ &=fR(X,Y)Z \end{aligned} $$ が成り立つ。 定義より、$R(X,Y)Z$ がベクトル場を与えることは明らかである。
□チャート $(U,\{x^i\})$ に対して、リーマン曲率の成分を $$ \begin{aligned} R(\frac{\partial}{\partial x^k},\frac{\partial}{\partial x^l})\frac{\partial}{\partial x^j}=R^i_{jkl}\frac{\partial}{\partial x^i} \end{aligned} $$ と定義すると、$Z=Z^i\partial_i\in\Gamma(TM)$ に対して、定義より、 $$ \begin{aligned} R^i_{jkl}Z^j&=\nabla_k\nabla_lZ^i-\nabla_l\nabla_kZ^i \end{aligned} $$ が成り立つ。 ただし、$\nabla_i=\nabla_{\frac{\partial}{\partial x^i}}$ である。
局所表示
リーマン曲率のチャートに関する成分は $$ \begin{aligned} R^i_{jkl}=\partial_k\Gamma^i_{lj}-\partial_l\Gamma^i_{kj}+\Gamma^i_{ka}\Gamma^a_{lj}-\Gamma^i_{la}\Gamma^a_{kj} \end{aligned} $$ となる。
Proof.
$$ \begin{aligned} R^i_{jkl}Z^j&=\nabla_k\nabla_lZ^i-\nabla_l\nabla_kZ^i\\ &=\partial_k\nabla_lZ^i-\Gamma^a_{kl}\nabla_aZ^i+\Gamma^i_{ka}\nabla_lZ^a-(k,l入れ替え)\\ &=\partial_k(\partial_lZ^i+\Gamma^i_{lb}Z^b)-\Gamma^a_{kl}(\partial_aZ^i+\Gamma^i_{ab}Z^b)+\Gamma^i_{ka}(\partial_lZ^a+\Gamma^a_{lb}Z^b)-(k,l入れ替え)\\ &=(\partial_k\Gamma^i_{lj}-\partial_l\Gamma^i_{kj}+\Gamma^i_{ka}\Gamma^a_{lj}-\Gamma^i_{la}\Gamma^a_{kj})Z^j \end{aligned} $$
□リーマン曲率テンソルの幾何学的意味
リーマン曲率テンソルの幾何学的意味について解説する。 簡単に言えばリーマン曲率テンソルは各点の近傍がユークリッド空間に比べてどれぐらい歪んでいるかを表す量である。
リーマン多様体 $(M,g)$ の座標近傍 $(U,\{x^i\})$ 上の4つの点 $p,q,r,s$ と4つの曲線 $\gamma_i\ (i=1,2,3,4)$ を次のように定める。 $x^i(p)=0$ とする。 曲線 $\gamma_1:[0,a]\to U$ を $\gamma^i_1(t):=v^it$ と定め、$\gamma_1(a)=q$ とする。 曲線 $\gamma_2:[a,a+b]\to U$ を $\gamma^i_2(t):=v^ia+w^it$ と定め、$\gamma_2(a+b)=r$ とする。 曲線 $\gamma_3:[0,b]\to U$ を $\gamma^i_3(t):=w^it$ と定め、$\gamma_3(b)=s$ とする。 曲線 $\gamma_4:[b,a+b]\to U$ を $\gamma^i_4(t):=w^ib+v^it$ と定め、$\gamma_4(a+b)=s$ とする。
閉曲線を $\gamma=\gamma_4^{-1}\circ\gamma_3^{-1}\circ\gamma_2\circ\gamma_1$ とし、$\gamma$ に沿う平行移動を $P_\gamma:T_pM\to T_pM$ とする。 ユークリッド空間においては、$P_\gamma(X)=X$ なので $P_\gamma(X)-X$ がどれだけ0でないかを見れば、点 $p$ の近傍がどれぐらい曲がっているかが分かると考えられる。
$a,b\to0$ におけるこの量の無限小の極限がリーマン曲率テンソルと一致することを主張するのが次の命題である。
命題
上記の設定において、 $$ \lim_{a,b\to0}\frac{P_\gamma(X)-X}{ab}=R^i_{jkl}v^kw^lX^j\partial_i $$ が成り立つ。
Proof.
初めに曲線に沿ってベクトルを平行移動してできる曲線上のベクトル場の2次までの展開公式を準備する。 $X\in T_pM$ を曲線 $\gamma_1$ に沿って平行移動して得られる$\gamma_1$上のベクトル場を $X(t)$ とする。 このとき、 $$ \begin{align} &\frac{dX^i(t)}{dt}+\Gamma^i_{jk}(t)X^j(t)v^k=0\\ &\therefore\ \frac{dX^i(t)}{dt}=-\Gamma^i_{jk}(t)X^j(t)v^k\ \cdots\ (1) \end{align} $$ が成り立つ。さらに(1)を $t$ で微分すると、 $$ \begin{align} &\frac{d^2X^i(t)}{dt^2}+\partial_l\Gamma^i_{jk}(t)v^lX^j(t)v^k+\Gamma^i_{jk}(t)\frac{dX^j(t)}{dt}v^k=0\\ &\therefore\ \frac{d^2X^i(t)}{dt^2}=-\partial_l\Gamma^i_{jk}(t)v^lX^j(t)v^k+\Gamma^i_{jk}(t)\Gamma^j_{lm}X^l(t)v^mv^k\ \cdots\ (2) \end{align} $$ を得る(途中で(1)を使った)。 さらに(1),(2)を使うと $$ \begin{align} X^h(t)&=X^h(0)+\frac{dX^h}{dt}(0)s+\frac{1}{2}\frac{d^2X^h}{dt^2}(0)s^2+o(t^3)\\ \therefore\ X^h(0)&=X^h(t)-\frac{dX^h}{ds}(0)t-\frac{1}{2}\frac{d^2X^h}{dt^2}(0)t^2+o(t^3)\\ &=X^h(t)+\Gamma^h_{ji}(0)v^jX^i(t)t +\frac{1}{2}(\partial_k\Gamma^h_{ji}(0)-\Gamma^h_{mi}(0)\Gamma^m_{kj}(0))v^kv^jX^i(t)t^2+o(t^3)\ \cdots\ (3) \end{align} $$ を得る。
$X\in T_sM$ を $\gamma_2\circ\gamma_1:[0,a+b]\to U$ に沿って平行移動したベクトル場を $X_{12}(t)$ とする。 また $X_{12}^h(a+b)=X^h$ と書くことにする。 (3)を2回繰り返し使うと、$X^h_{12}(0)$ を以下のように展開することができる。ただし、$a,b$ の3次以上の微小量の項を全て $R_3(a,b)$ などと書くことにする。 $$ \begin{align} X_{12}^h(0)&=X^h(a)+\Gamma^h_{ji}(0)v^jX^i(a)a\\ &+\frac{1}{2}((\partial_k\Gamma^h_{ji}(0)-\Gamma^h_{mi}(0)\Gamma^m_{kj}(0))v^kv^jX^i(a)a^2+R_3(a)\\ &=X^h(a+b)-\frac{dX^h}{dt}(a)b-\frac{1}{2}\frac{d^2X^h}{dt^2}(a)b^2+R_3(b)\\ &+\Gamma^h_{ji}(0)v^j(X^i(a+b)-\frac{dX^i}{dt}(a)b-\frac{1}{2}\frac{d^2X^i}{dt^2}(a)b^2+R_3(b))a\\ &+\frac{1}{2}((\partial_k\Gamma^h_{ji}(0)-\Gamma^h_{mi}(0)\Gamma^m_{kj}(0))v^kv^j(X^i(a+b)+o(b))a^2+R_3(a)\\ &=X^h+\Gamma^h_{ji}(a)w^jX^ib\\ &+\frac{1}{2}(\partial_k\Gamma^h_{ji}(a)-\Gamma^h_{mi}(a)\Gamma^m_{kj}(a))w^kw^jX^ib^2\\ &+\Gamma^h_{ji}(0)v^j(X^i+\Gamma^i_{ml}(a)w^mX^lb)a\\ &+\frac{1}{2}((\partial_k\Gamma^h_{ji}(0)-\Gamma^h_{mi}(0)\Gamma^m_{kj}(0))v^kv^jX^ia^2+R_3(a,b) \end{align} $$ となり、さらに $\Gamma^h_{ji}(a)=\Gamma^h_{ji}(0)+\partial_k\Gamma^h_{ji}(0)v^ka+R_2(a)$ を使うと、 $$ \begin{align} X_{12}^h(0)&=X^h+\Gamma^h_{ji}(0)w^jX^ib+\partial_k\Gamma^h_{ji}(0)v^kw^jX^iab\\ &+\frac{1}{2}(\partial_k\Gamma^h_{ji}(a)-\Gamma^h_{mi}(a)\Gamma^m_{kj}(a))w^kw^jX^ib^2\\ &+\Gamma^h_{ji}(0)v^j(X^i+\Gamma^i_{ml}(0)w^mX^lb)a\\ &+\frac{1}{2}(\partial_k\Gamma^h_{ji}(0)-\Gamma^h_{mi}(0)\Gamma^m_{kj}(0))v^kv^jX^ia^2+R_3(a,b)\\ &=X^h+\Gamma^h_{ji}(0)w^jX^ib+\Gamma^h_{ji}(0)v^jX^ia\\ &+\frac{1}{2}(\partial_k\Gamma^h_{ji}(a)-\Gamma^h_{mi}(a)\Gamma^m_{kj}(a))w^kw^jX^ib^2\\ &+(\Gamma^h_{km}(0)\Gamma^m_{ji}(0)+\partial_k\Gamma^h_{ji}(0))v^kw^jX^iab\\ &+\frac{1}{2}(\partial_k\Gamma^h_{ji}(0)-\Gamma^h_{mi}(0)\Gamma^m_{kj}(0))v^kv^jX^ia^2+R_3(a,b)\\ &=X^h+\Gamma^h_{ji}(0)w^jX^ib+\Gamma^h_{ji}(0)v^jX^ia\\ &+\frac{1}{2}(\partial_k\Gamma^h_{ji}(0)-\Gamma^h_{mi}(0)\Gamma^m_{kj}(0))w^kw^jX^ib^2\\ &+(\Gamma^h_{km}(0)\Gamma^m_{ji}(0)+\partial_k\Gamma^h_{ji}(0))v^kw^jX^iab\\ &+\frac{1}{2}(\partial_k\Gamma^h_{ji}(0)-\Gamma^h_{mi}(0)\Gamma^m_{kj}(0))v^kv^jX^ia^2+R_3(a,b)\ \cdots\ (4) \end{align} $$ となる。
$X\in T_sM$ を $\gamma_3\circ\gamma_4:[0,a+b]\to U$ に沿って平行移動したベクトル場を $X_{34}(t)$ とする。 さらに $X_{34}^h(a+b)=X_{12}^h(a+b)=X^h$ とする。 先とと同様の計算を行えば、(4)において、$v,w$ を入れ替え、$a,b$ を入れ替えた式が得られる。 よって $$ X_{12}^h-X^h_{34}=(\partial_k\Gamma^h_{ji}(0)-\partial_j\Gamma^h_{ki}(0)+\Gamma^h_{km}(0)\Gamma^m_{ji}(0)-\Gamma^h_{jm}(0)\Gamma^m_{ki}(0))v^kw^jX^iab\ \cdots\ (5) $$ を得る。 この左辺を $\gamma_i$ に沿って平行移動したベクトルと(5)の右辺のベクトルとの差は $a,b\to0$ の極限において $q,r,s\to p$ となるため0となる。 従って主張を得る。 $\square$
□リッチの恒等式
一般のテンソル場に対する共変微分の交換子は曲率テンソルで表され、以下の恒等式が成り立つ。 $$ \begin{aligned} (1)& \nabla_i\nabla_j f-\nabla_j\nabla_i f=0\\ (2)& \nabla_i\nabla_j u_k -\nabla_j\nabla_i u_k=-R^a_{kij}u_a\\ (3)& \nabla_i\nabla_jT^k_l-\nabla_i\nabla_jT^k_l=R^k_{aij}T^a_l-R^a_{lij}T^k_a \end{aligned} $$ より高階のテンソル場に対しても $(3)$ と同様な式が成り立つ。
Proof.
(1) $$ \begin{aligned} \nabla_i\nabla_jf=\partial_i\partial_jf-\Gamma^a_{ij}\partial_af \end{aligned} $$ と $\Gamma^a_{ij}=\Gamma^a_{ji}$ から分かる。
(2) $$ \begin{aligned} \nabla_i\nabla_ju_k-\nabla_j\nabla_iu_k=&\partial_i\nabla_ju_k-\Gamma^a_{ij}\nabla_au_k-\Gamma^a_{ik}\nabla_ju_a-(i,j入れ替え)\\ =&\partial_i(\partial_ju_k-\Gamma^a_{jk}u_a)-\Gamma^a_{ij}(\partial_au_k-\Gamma^b_{ak}u_b)-\Gamma^a_{ik}(\partial_ju_a-\Gamma^b_{ja}u_b)-(i,j入れ替え)\\ =&-\partial_i\Gamma^a_{jk}u_a+\partial_j\Gamma^a_{ik}u_a+\Gamma^a_{ik}\Gamma^b_{ja}u_b-\Gamma^a_{jk}\Gamma^b_{ia}u_b=-R^a_{kij}u_a \end{aligned} $$
(3)も同様の計算に単純な計算により示される。
□リッチの恒等式と可積分条件
リーマン多様体上で定義されたテンソル場に対するある種の微分方程式の解が存在する(可積分である)ための必要十分条件がその未知のテンソル場に対してリッチの恒等式が成り立つこととして理解することができる。 この事実はしばしば特定の性質を持つテンソル場の存在を判定することに役立てられる。 詳しくはリッチの恒等式と可積分条件を参照されたい。
リーマン曲率テンソルの対称性
$$ \begin{aligned} R(X,Y,Z,W)\colon=g(R(Z,W)Y,X) \end{aligned} $$ とおくと、次が成り立つ。 $$ \begin{aligned} (1)&\ R(X,Y,Z,W)=-R(X,Y,W,Z)=-R(Y,X,Z,W)\\ (2)&\ R(X,Y,Z,W)+R(X,Z,W,Y)+R(X,W,Y,Z)=0\\ (3)&\ R(X,Y,Z,W)=R(Z,W,X,Y) \end{aligned} $$ またチャートに関する成分表示では $$ \begin{aligned} R_{ijkl}&=g_{ia}R^a_{jkl} \end{aligned} $$ とするとき、 $$ \begin{aligned} (1)&\ R_{ijkl}=-R_{jikl}=-R_{ijlk}\\ (2)&\ R_{ijkl}+R_{iklj}+R_{iljk}=0\ \ \ (第一ビアンキ恒等式)\\ (3)&\ R_{ijkl}=R_{klij} \end{aligned} $$ となる。
Proof.
(1) 1つ目の等号は定義より明らかである。 二つ目の等号は $$ \begin{aligned} R(X,X,Z,W)=g(R(Z,W)X,X)=0 \end{aligned} $$ を示せば良い。 実際、 $$ \begin{aligned} R(X,X,Z,W)&=g(R(Z,W)X,X)=g(\nabla_Z\nabla_WX-\nabla_W\nabla_ZX-\nabla_{[Z,W]}X,X)\\ &=Zg(\nabla_WX,X)-Wg(\nabla_ZX,X)-\frac{1}{2}[Z,W]g(X,X)\\ &=\frac{1}{2}ZWg(X,X)-\frac{1}{2}WZg(X,X)-\frac{1}{2}[Z,W]g(X,X)=0 \end{aligned} $$ となる。
(2) $$ \begin{aligned} R(X,Y)Z&=\nabla_X\nabla_YZ-\nabla_Y\nabla_XZ-\nabla_{\nabla_XY}Z+\nabla_{\nabla_YX}Z\\ R(Y,Z)X&=\nabla_Y\nabla_ZX-\nabla_Z\nabla_YX-\nabla_{\nabla_YZ}X+\nabla_{\nabla_ZY}X\\ R(Z,X)Y&=\nabla_Z\nabla_XY-\nabla_X\nabla_ZY-\nabla_{\nabla_ZX}Y+\nabla_{\nabla_XZ}Y \end{aligned} $$ より $$ \begin{aligned} R(X,Y)Z+R(Y,Z)X+R(Z,X)Y&=[X,\nabla_YZ]+[\nabla_XZ,Y]+[Y,\nabla_ZX]+[\nabla_YX,Z]+[Z,\nabla_XY]+[\nabla_ZY,X]\\ &=[X,[Y,Z]]+[Y,[Z,X]]+[Z,[X,Y]]=0 \end{aligned} $$ であるから、(2)が示された。
(3)は(1),(2)から以下のように代数的に導かれる。 $$ \begin{aligned} R(W,Z,X,Y)+R(W,X,Y,Z)+R(W,Y,Z,X)&=0\\ R(X,W,Y,Z)+R(X,Y,Z,W)+R(X,Z,W,Y)&=0\\ R(Y,X,Z,W)+R(Y,Z,W,X)+R(Y,W,X,Z)&=0\\ R(Z,Y,W,X)+R(Z,W,X,Y)+R(Z,X,Y,W)&=0 \end{aligned} $$ が成り立つから、これらを足すと $$ \begin{aligned} 2R(W,Y,Z,X)+2R(X,Z,W,Y)=0 \end{aligned} $$ となり、したがって $$ \begin{aligned} R(W,Y,Z,X)=R(Z,X,W,Y) \end{aligned} $$ となる。
□(第二)ビアンキ恒等式
リーマン曲率テンソルの共変微分に関しては次の恒等式が成り立つ。 これは(第二)ビアンキ恒等式(second Bianchi identity)と呼ばれる。 $$ \begin{aligned} \nabla_XR(Y,Z,W,T)+\nabla_YR(Z,X,W,T)+\nabla_ZR(X,Y,W,T)=0 \end{aligned} $$ チャートに関する成分表示は $$ \begin{aligned} \nabla_iR_{jklm}+\nabla_jR_{kilm}+\nabla_kR_{ijlm}=0 \end{aligned} $$ である。
Proof.
チャートに関する成分について示す。 テンソル場 $\nabla_lu_m$ に関するリッチの恒等式より $$ \begin{aligned} \nabla_i\nabla_j(\nabla_lu_m)-\nabla_j\nabla_i(\nabla_lu_m)=-R^a_{lij}\nabla_au_m-R^a_{mij}\nabla_lu_a \end{aligned} $$ となり、$i,j,l$ を巡回させると $$ \begin{aligned} \nabla_j\nabla_l(\nabla_iu_m)-\nabla_l\nabla_j(\nabla_iu_m)=-R^a_{ijl}\nabla_au_m-R^a_{mjl}\nabla_iu_a\\ \nabla_l\nabla_i(\nabla_ju_m)-\nabla_i\nabla_l(\nabla_ju_m)=-R^a_{jli}\nabla_au_m-R^a_{mli}\nabla_ju_a \end{aligned} $$ となり、3式を加えると、 $$ \begin{aligned} &\nabla_i(\nabla_j\nabla_lu_m-\nabla_l\nabla_ju_m)+\nabla_j(\nabla_l\nabla_iu_m-\nabla_i\nabla_lu_m)+\nabla_l(\nabla_i\nabla_ju_m-\nabla_j\nabla_iu_m)\\ =&-R^a_{mij}\nabla_lu_a-R^a_{mjl}\nabla_iu_a-R^a_{mli}\nabla_ju_a\\ &\nabla_i(-R^a_{mjl}u_a)+\nabla_j(-R^a_{mli}u_a)+\nabla_l(-R^a_{mij}u_a)\\ =&-R^a_{mij}\nabla_lu_a-R^a_{mjl}\nabla_iu_a-R^a_{mli}\nabla_ju_a \end{aligned} $$ となり、したがって $$ \begin{aligned} \nabla_iR^a_{mjl}+\nabla_jR^a_{mli}+\nabla_lR^a_{mij}=0 \end{aligned} $$ となる。
□リーマン曲率テンソルと平坦性
リーマン曲率テンソルが恒等的に0であるリーマン多様体は"平坦"(flat)であるという。 次の定理が成り立つ。
定理 平坦なリーマン多様体 $(M,g)$ の任意の点に対して、ある座標近傍 $(U,\{x^i\})$ が存在して $g_{ij}=\delta_{ij}$ となる。
Proof.
ある座標 $(U,\{x^i\})$ に関して、$\Gamma^i_{jk}$ が全て同時に0ではないとする。 リーマン接続の係数が常に0であることと、平坦であることは同値であるから、適当な座標 $(U,\{\bar{x}^i\})$ が存在し、この座標に関して、$\overline{\Gamma}^i_{jk}=0$ となることを示せばよい。 $$ \begin{aligned} \frac{\partial \bar{x}^i}{\partial x^a}\Gamma^a_{bc}=\frac{\partial \bar{x}^j}{\partial x^b}\frac{\partial \bar{x}^k}{\partial x^c}\overline{\Gamma}^i_{jk}+\frac{\partial^2\bar{x}^i}{\partial x^b\partial x^c} \end{aligned} $$ であるから、$\overline{\Gamma}^i_{jk}=0$ となることと、$\bar{x}^i$ が $$ \begin{aligned} \frac{\partial \bar{x}^i}{\partial x^a}\Gamma^a_{bc}=\frac{\partial^2\bar{x}^i}{\partial x^b\partial x^c} \end{aligned} $$ を満たすことは同値である。 従って、$\dim M=n$ とするとき、$n+n^2$ 個の未知関数 $\bar{x}^i,\ \bar{x}^i_{\ j}$ に対する連立偏微分方程式 $$ \begin{aligned} \frac{\partial \bar{x}^i}{\partial x^a}&=\bar{x}^i_{\ a},\\ \frac{\partial \bar{x}^i_{\ b}}{\partial x^c}&=\bar{x}^i_{\ a}\Gamma^a_{bc} \end{aligned} $$ が解を持てばよい。 可積分条件は $$ \begin{aligned} \frac{\partial}{\partial x^b}\left(\frac{\partial \bar{x}^i}{\partial x^a}\right)-\frac{\partial}{\partial x^a}\left(\frac{\partial \bar{x}^i}{\partial x^b}\right)=\frac{\partial \bar{x}^i_{\ a}}{\partial x^b}-\frac{\partial \bar{x}^i_{\ b}}{\partial x^a}=\bar{x}^i_{\ c}\left(\Gamma^c_{ab}-\Gamma^c_{ba}\right)=0,\\ \frac{\partial}{\partial x^d}\left(\frac{\partial \bar{x}^i_{\ b}}{\partial x^c}\right) -\frac{\partial}{\partial x^c}\left(\frac{\partial \bar{x}^i_{\ b}}{\partial x^d}\right) =\frac{\partial}{\partial x^d}\left(\bar{x}^i_{\ a}\Gamma^a_{bc}\right) -\frac{\partial}{\partial x^c}\left(\bar{x}^i_{\ a}\Gamma^a_{bd}\right) =\bar{x}^i_{\ a}R^a_{bdc}=0 \end{aligned} $$ であるから、任意の初期条件に対して(必要なら近傍を取り直すことで)、$U$ 上で上の連立偏微分方程式の解が存在する。 従って適当な初期条件の下で望みの座標近傍が存在することが示された。
□この定理のポイントは、ある近傍全体で計量 $g$ がユークリッド計量となっているという点である。 平坦でない一般のリーマン多様体でもある1点 $p$ において $g_{ij}(p)=\delta_{ij}$ となるような座標近傍 $(U,\{x^i\})$ は存在する。 しかし、そのような場合でも点 $p$ 以外の $U$ 上の点では $g_{ij}$ は必ずしも0ではない。
リッチテンソル
リッチ曲率テンソルはリーマン曲率テンソルを縮約して得られる(リーマン曲率テンソルのトレース部分と見なせる)曲率であり、リーマンテンソルより保有する情報量は少ないがそれでもかなり多くのことが分かり使い勝手もよい。
リーマン曲率テンソルに対して、線形写像 $$ \begin{aligned} X\mapsto R(X,Y)Z \end{aligned} $$ のトレースは2階の共変テンソル場 $$ \begin{aligned} {\rm Ric}(Y,Z)\colon={\rm tr}(X\mapsto R(X,Y)Z) \end{aligned} $$ を定める。 チャートに関する成分は ${\rm Ric}_{ij}=R_{ij}$ とよく書かれ $$ \begin{aligned} R_{ij}=R^a_{jai} \end{aligned} $$ である。
リッチテンソルの対称性
リッチテンソルは対称テンソルである。 すなわち $$ \begin{aligned} {\rm Ric}(X,Y)&={\rm Ric}(Y,X)\\ R_{ij}&=R_{ji} \end{aligned} $$ が成り立つ。
Proof.
$$ \begin{aligned} R^i_{jkl}+R^i_{klj}+R^i_{ljk}=0 \end{aligned} $$ で $i,k$ を縮約すると \begin{aligned} R_{jl}-R_{lj}=0 \end{aligned} となるから得られる。
□これまでの証明から接続が捻じれ0のとき(第一)ビアンキ恒等式が成り立ち、そのときリッチテンソルが対称となることが分かる。
リッチ曲率
ベクトル場 $u$ に対して、${\rm Ric}(u)\colon={\rm Ric}(u,u)$ を $u$ 方向の"リッチ曲率"という。
リッチ作用素
リッチ曲率テンソルは $(0,2)$-型テンソル場であるが、これから $(1,1)$-型テンソル場である"リッチ作用素"(Ricci operator)が得られる。 すなわち $$ \begin{aligned} g(X,Q(Y))={\rm Ric}(X,Y) \end{aligned} $$ を満たす $(1,1)$-型テンソル場 $Q$ が定義される。 チャートに関する成分表示は $$ \begin{aligned} Q^i_{\ j}=R^i_{\ j} \end{aligned} $$ である。 リッチ作用素はリッチ曲率テンソルと本質的に同じであるが、種々の公式に登場する。
リーマン曲率テンソルのdivergenceとリッチテンソル
ビアンキ恒等式を縮約することで次の恒等式を得る。 $$ \begin{aligned} \nabla_aR^a_{ijk}=\nabla_jR_{ki}-\nabla_kR_{ji}. \end{aligned} $$
スカラー曲率(Scalar curvature)
リッチ作用素のトレースとして"スカラー曲率"(Scalar curvature)が定義される。 すなわち、スカラー曲率 $S$ が $$ \begin{aligned} S\colon={\rm tr}(X\mapsto Q(X)) \end{aligned} $$ で定義される。 チャートに関する成分表示は $$ \begin{aligned} S=R^i_{\ i} \end{aligned} $$ である。
スカラー曲率の持つ情報量はリーマン曲率テンソルに比べてかなり落ちるが、スカラー関数であるから扱いやすいという利点がある。
リッチ曲率テンソルのdivergenceとスカラー曲率
$\nabla_aR^a_{ijk}=\nabla_jR_{ki}-\nabla_kR_{ji}$ の $k,i$ を縮約することで $$ \begin{aligned} \nabla_aR^a_j&=\nabla_jR-\nabla_aR^a_j\\ \therefore\ \nabla_jR&=2\nabla_aR^a_j \end{aligned} $$ を得る。
断面曲率(Sectional curvature)
$X,Y \in T_pM$ が一次独立であるとき、 $$ \begin{aligned} K(X,Y)\colon=\frac{g(R(X,Y)Y,X)}{||X||^2||Y||^2-g(X,Y)^2} \end{aligned} $$ を点 $p$ における $X,Y$ の張る平面の"断面曲率"(Sectional curvature)という。
$g(R(X,Y)Z,W)$ と $g(X,W)g(Y,Z)-g(X,Z)g(Y,W)$ が $X,Y$ と $Z,W$ に関してそれぞれ反対称テンソルであることから、 $X'=aX+bY,\ Y'=cX+dY$ に対して、 $$ \begin{aligned} K(X',Y')=\frac{g(R(X',Y')Y',X')}{||X'||^2||Y'||^2-g(X',Y')^2}= \frac{(ad-bc)^2g(R(X,Y)Y,X)}{(ad-bc)^2(||X||^2||Y||^2-g(X,Y)^2)}=K(X,Y) \end{aligned} $$ であるから、$K(X,Y)$ は $X,Y$ が張る平面のみで決まる。
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