WittベクトルとWitt環

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WittベクトルとWitt環、$p$-Witt環

定義 1 (Witt群)

$R$ を単位元を持つ可換環とし、$\mathbf{W}(R):=1+tR[{[t]}]$ とする。$P(t), Q(t)$ を $1+tR[{[t]}]$ の元とし、冪級数としての掛け算を足し算のように表す。すなわち、 $$ \omega(P(t)Q(t))=\omega(P(t))+\omega(Q(t)) $$ である。ただし、$P(t)Q(t)$ は $1+tR[{[t]}]\subset R[{[t]}]$ での普通の積であり、$\omega(P(t))\in W(R)$ は $P(t)\in 1+tR[{[t]}]$ に対応する元、右辺は $\mathbf{W}(R)$ の元としての足し算である。

$1+tR[{[t]}]$ の元 $P(t)$ に対して、$R$ の元の列 $(a_{1},a_{2},\ldots)$ がただ一つ存在して、 $$P(t)=\prod_{n\geq 1} (1-a_{n}t^{n})^{-1}$$ となる。$\mathbf{W}(R)$ の元としては、 $$ \omega(P(t))=\sum_{n\geq 1} \omega((1-a_{n}t^{n})^{-1}) $$ である。$(a_{1},a_{2},\ldots)$ のことを $P(t)$ のWitt座標という。$n$ 番目までのWitt座標がすべて $0$ であるような $\mathbf{W}(R)$ の部分集合を ${\rm Filt}^{n}\mathbf{W}(R)$ と書くことにする。これは部分加法群としては $1+t^{n+1}R[{[t]}]$ に等しく、$\{{\rm Filt}^{n}W(R)\}_{n\geq 0}$ は $\mathbf{W}(R)$ のフィルトレーションになる。さらに、$\mathbf{W}_{n}(R)=\mathbf{W}(R)/{\rm Filt}^{n}\mathbf{W}(R)$ とすると、 $$ \mathbf{W}(R)=\varprojlim \mathbf{W}_{n}(R) $$ である。すなわち、$\mathbf{W}(R)$ はこのフィルトレーションから定まる位相で完備である。

命題 1

$\mathbf{W}(R)$ には次のような掛け算が入る: $$ \omega((1-at^{m})^{-1}). \omega((1-bt^{n})^{-1})=\omega((1-a^{\frac{n}{r}}b^{\frac{m}{r}}t^{\frac{mn}{r}})^{-r}) $$ ただし、$r={\rm gcd}(m,n)$ である。この掛け算は $\mathbf{W}(R)$ に可換環の構造を定める。

Proof.

$R\longrightarrow R^{'}$ が環の間の単射なら、誘導される写像 $\mathbf{W}(R)\longrightarrow \mathbf{W}(R^{'})$ も単射である。このとき、$\mathbf{W}(R^{'})$ が命題の演算で環となれば、$\mathbf{W}(R)$ もそうである。また $R\longrightarrow R^{'}$ が全射であれば $\mathbf{W}(R)\longrightarrow \mathbf{W}(R^{'})$ もそうである。このとき、$\mathbf{W}(R)$ が命題の演算で環となれば、$\mathbf{W}(R^{'})$ もそうである。したがって、$R$ が $\mathbb{Z}$ 上の適当な濃度分の変数を持つ多項式環の商体の代数閉包の場合に考えれば十分である。$\alpha=a^{\frac{1}{m}}, \beta=b^{\frac{1}{n}}$ とすると $$ \omega((1-at^{m})^{-1}) =\sum_{i=1}^{m}\omega((1-\alpha\zeta^{i}_{m} t)^{-1}), ~ \omega((1-bt^{n})^{-1})=\sum_{j=1}^{n} \omega((1-\beta\zeta_{n}^{j}t)^{-1}) $$ なので、もしも命題が $n=m=1$ のときに正しければ、$\zeta=\zeta_{\frac{mn}{r}}$ と置くと、 \begin{align} \omega((1-at^{m})^{-1}). \omega((1-bt^{n})^{-1})&=\sum_{i=1}^{m}\sum_{j=1}^{n} \omega((1-\alpha\zeta_{m}^{i}t)^{-1})\omega((1-\beta\zeta_{n}^{j}t)^{-1}) \\ &=\sum_{i=1}^{m}\sum_{j=1}^{n}\omega((1-\alpha\beta\zeta_{m}^{i}\zeta_{n}^{j}t)^{-1}) \\ &=\sum_{i=1}^{m}\sum_{j=1}^{n}\omega((1-\alpha\beta\zeta^{\frac{n}{r}i+\frac{m}{r}j}t)^{-1}) \\ \end{align} となる。$\frac{n}{r}i+\frac{m}{r}j=\frac{n}{r}i^{'}+\frac{m}{r}j^{'}$ となるのは $(i,j)=(i^{'}+\frac{m}{r}k,j^{'}-\frac{n}{r}k)$ となる $k=1,\ldots, r$ が存在するときに限るので、 \begin{align} \sum_{i=1}^{m}\sum_{j=1}^{n}\omega((1-\alpha\beta\zeta^{\frac{n}{r}i+\frac{m}{r}j}t)^{-1}) &=r\sum_{i=1}^{\frac{m}{r}}\sum_{j=1}^{\frac{n}{r}}\omega((1-\alpha\beta\zeta^{\frac{n}{r}i+\frac{m}{r}j}t)^{-1}) \\ &=r\sum_{k=1}^{\frac{mn}{r}}\omega((1-\alpha\beta\zeta^{k}t)^{-1}) \\ &=r\omega((1-\alpha^{\frac{mn}{r}}\beta^{\frac{mn}{r}}t^{\frac{mn}{r}})^{-1}) \\ &=\omega((1-a^{\frac{n}{r}}b^{\frac{m}{r}}t^{\frac{mn}{r}})^{-r}) \end{align} となる。よって $m=n=1$ の場合に命題を確かめれば十分である。これは $$ \omega((1-at)^{-1})\omega(P(t))=\omega(P(at)) $$ という演算が $\omega(P(t))$ について加法的であることを確認すればよい。実際、これが分配法則を満たすことは容易に確認できる。


上の命題により、$\mathbf{W}(R)$ は可換環となる。この環のことを $R$ のWitt環という。ちなみに積の単位元は $1_{\mathbf{W}(R)}=(1-t)^{-1}$ である。${\rm Filt}^{n}\mathbf{W}(R)$ が $\mathbf{W}(R)$ の環としてのフィルトレーションを与えないことには注意する必要があるだろう。

定義 2

整数 $n\geq 1$ に対して、Witt環上の次のような写像が考えられる。 $$ V_{n}\colon \mathbf{W}(R)\longrightarrow \mathbf{W}(R); \omega(P(t))\longmapsto \omega(P(t^{n})), $$ $$ \hspace{20pt} F_{n}\colon \mathbf{W}(R)\longrightarrow \mathbf{W}(R); \omega(P(t))\longmapsto \sum_{\zeta^{n}=1}\omega(P(\zeta t^{\frac{1}{n}})). $$ $F_{n}$ については各項 $\omega(P(\zeta t^{\frac{1}{n}}))$ は $\mathbf{W}(R)$ の元でないかもしれないが、その総和は $\mathbf{W}(R)$ に属することに注意する。$V_{n}$ のことを $\mathbf{W}(R)$ の $n$ 次Verschiebung写像 (日本語訳ないですか?)、$F_{n}$ のことを $\mathbf{W}(R)$ の $n$ 次Frobenius写像という。

補題 1

$n$ 次Frobenius写像 $F_{n}\colon \mathbf{W}(R)\longrightarrow \mathbf{W}(R)$ は $\mathbf{W}(R)$ の自己準同型である。

Proof.

$r$ を $m,n$ の最大公約数とすると、$F_{n}\omega((1-at^{m})^{-1})=\omega((1-a^{\frac{n}{r}}t^{\frac{m}{r}})^{-r})$ となることをまず示そう。実際、定義より \begin{align} F_{n}\omega((1-at^{m})^{-1})&=\sum_{i=1}^{n}\omega((1-a\zeta^{im}t^{\frac{m}{n}})^{-1}) \\ \end{align} であり、$1\leq i^{'}\leq i\leq n$ に対して $im\equiv i^{'}m ~{\rm mod}~n$ となるのは、$i=i^{'}+\frac{nk}{r}$ を満たす $k=1,\ldots,r$ がとれるときに限る。したがって、$F_{n}\omega((1-at^{m})^{-1})=\omega((1-a^{\frac{n}{r}}t^{\frac{m}{r}})^{-r})$ である。$F_{n}$ が $\mathbf{W}(R)$ の加法を保つことは明らかなので、乗法について考えてみる。 \begin{align} F_{n}(\omega((1-at)^{-1}).\omega((1-bt)^{-1}))&=F_{n}(\omega((1-abt)^{-1})) \\ &=\omega((1-(ab)^{\frac{n}{r}}t^{\frac{m}{r}})^{-r}) \\ &=\omega((1-a^{\frac{n}{r}}t^{\frac{m}{r}})^{-r}).\omega((1-b^{\frac{n}{r}}t^{\frac{m}{r}})^{-r}) \\ &=F_{n}(\omega((1-at)^{-1})).F_{n}(\omega((1-bt)^{-1})) \end{align} なので、$F_{n}$ は乗法を保つ。


$F_{n}$ とは異なり、$V_{n}\colon \mathbf{W}(R)\longrightarrow \mathbf{W}(R)$ は環の準同型にはならないが、$\mathbf{W}(R)$ の加法を保つ。$F_{n}$ と $V_{n}$ については次の基本的な事実をおさえておこう。

命題 2
  • (1) 任意の $\omega,\omega^{'}\in \mathbf{W}(R)$ に対して、$\omega.V_{n}(\omega^{'})=V_{n}(F_{n}(\omega).\omega^{'})$. 特に $V(\mathbf{W}(R))$ は $\mathbf{W}(R)$ のイデアルである。
  • (2) $F_{n}\circ V_{n}$ は $n$ 倍写像である。
  • (3) $V_{n}(\omega((1-at^{m})^{-1}))=\omega((1-at^{mn})^{-1})$ である。
  • (4) $r={\rm gcd}(m,n)$ とすると、$F_{n}(\omega((1-at^{m})^{-1}))=\omega((1-a^{\frac{n}{r}}t^{\frac{m}{r}})^{-r})$ である。
  • (5) $m,n$ が互いに素なら、$V_{n}$ と $F_{m}$ は交換する。
Proof.

すべて定義から計算すれば確かめられる。

  • (1) $\omega=\omega(P(t)), \omega^{'}=\omega(Q(t))$ とする。線形性により、$P(t)=(1-at)^{-1}, Q(t)=(1-bt)^{-1}$ としてよい。このとき、

\begin{align} \omega(P(t)).V_{n}(\omega(Q(t)))&=\omega((1-at)^{-1})\omega((1-bt^{n})^{-1}) \\ &=\omega((1-a^{n}bt^{n})^{-1}) \\ &=\sum_{\zeta^{n}=1}\omega((1-a\beta\zeta t)^{-1}) \\ &=V_{n}(F_{n}(\omega(1-at)^{-1}).\omega((1-bt)^{-1})). \end{align}

  • (2) $F_{n}\circ V_{n}(\omega((1-at)^{-1}))=F_{n}(\omega((1-at^{n})^{-1}))=\sum_{\zeta^{n}=1}\omega((1-a\zeta t)^{-1})=\omega((1-a^{n}t)^{-1})=n.\omega((1-at)^{-1}).$
  • (3) $V_{n}$ の定義からただちに従う。
  • (4) 上記の補題の証明を参照せよ。
  • (5) これは(3)と(4)からすぐにわかる。


補題 2

$V_{n}\circ V_{m}=V_{mn}, F_{n}\circ F_{m}=F_{mn}$.

Proof.

$$\hspace{-50pt} V_{n}\circ V_{m}(\omega(P(t)))=V_{n}(\omega(P(t^{m})))=\omega(P(t^{mn}))=V_{mn}(\omega(P(t))),$$ $$F_{n}\circ F_{m}(\omega(P(t)))=F_{n}(\sum_{j=1}^{m}P(\zeta_{m}^{j}t^{\frac{1}{m}}))=\sum_{i=1}^{n}\sum_{j=1}^{m}P(\zeta_{n}^{i}\zeta_{m}^{j}t^{\frac{1}{mn}})=F_{mn}(\omega(P(t))).$$


定理 1

$R$ のWitt環 $\mathbf{W}(R)$ と無限直積環 $\prod_{\infty} R$ との間には次のような環準同型が存在する。 $$ {\rm log}_{\infty}=t\dfrac{d}{dt}{\rm log}~\colon~ \mathbf{W}(R)\longrightarrow (tR[{[t]}])^{+}\simeq \prod_{\infty} R~;~ \omega(P(t))\longmapsto \dfrac{tdP(t)/dt}{P(t)} $$ ただし、$\dfrac{tdP(t)}{dt}$ は係数を順番に取り出し、$\prod_{\infty} R$ の元に対応させる。

Proof.

例えば $P(t)=(1-at)^{-1}$ に対しては ${\rm log}_{\infty}(\omega((P(t)))=(a,a^{2},a^{3},\ldots)$ となる。例のごとく$R$ は代数閉体としてよく、またこのとき、Witt環の生成元は $(1-at)^{-1}$ という形をしているので、このような元に対してのみ考えればよい。$\omega=\omega((1-at)^{-1}), \omega^{'}=\omega((1-bt)^{-1})$ とすると、 \begin{align} {\rm log}_{\infty}(\omega.\omega^{'})&=(ab,a^{2}b^{2},a^{3}b^{3},\ldots) \\ &=(a,a^{2},a^{3},\ldots)(b,b^{2},b^{3},\ldots) \\ &={\rm log}_{\infty}(\omega){\rm log}_{\infty}(\omega^{'}). \end{align}


環の準同型 ${\rm log}_{\infty}\colon \mathbf{W}(R)\longrightarrow \prod_{\infty} R$ は $R$ が捻じれ元を持たなければ単射であり、さらに $R$ が $\mathbb{Q}$ 代数のとき同型になる。この準同型を通して、Verschiebung写像 $V_{n}\colon \mathbf{W}(R)\longrightarrow \mathbf{W}(R)$ とFrobenius自己準同型 $F_{n}\colon \mathbf{W}(R)\longrightarrow \mathbf{W}(R)$ を無限直積環 $\prod_{\infty} R$ に輸出しよう。

定義 3

整数 $n\geq 1$ に対して、無限直積環 $\prod_{\infty} R$ 上の次のような写像が考えられる。 $$ V_{n}\colon \prod_{\infty} R \longrightarrow \prod_{\infty} R; (x_{1},x_{2},\ldots)\longmapsto (0,\ldots, 0, nx_{1},0,\ldots,0,nx_{2},\ldots), $$ $$ \hspace{-82pt} F_{n}\colon \prod_{\infty} R \longrightarrow \prod_{\infty} R; (x_{1},x_{2},\ldots)\longmapsto (x_{n},x_{2n},\ldots). $$ ただし、$V_{n}(x_{1},\ldots)$ は$in$ 座標が $nx_{i}$ でそれ以外が $0$ である。こうして与えた写像 $V_{n},F_{n}$ は次の図式を可換にする。 \begin{xy} \xymatrix { \mathbf{W}(R) \ar[r]^{{\rm log}_{\infty}} \ar[d]_{V_{n}} & \prod_{\infty} R \ar[d]^{V_{n}} & & \mathbf{W}(R) \ar[r]^{{\rm log}_{\infty}} \ar[d]_{F_{n}} & \prod_{\infty} R \ar[d]^{F_{n}} \\ \mathbf{W}(R) \ar[r]_{{\rm log}_{\infty}} & \prod_{\infty} R & & \mathbf{W}(R) \ar[r]_{{\rm log}_{\infty}} & \prod_{\infty} R } \end{xy} これを確認するのは、読者に任せる。次に、$R$ が $\mathbb{Z}_{(p)}$ 代数のときに $\mathbf{W}(R)$ の $p$ 成分 $W(R)=W^{p}(R)$ を定義しよう。現代ではこちらの方を $R$ のWitt環と呼ぶのが主流である。


定理 2

$R$ を $\mathbb{Z}_{(p)}$ 代数とし、$I(p)=\{n\in \mathbb{N}_{\geq 1}\mathrel{\vert} p\nmid n \}$ を $p$ で割れない自然数全体のなす集合とする。 $$ \pi=\sum_{n\in I(p)}\dfrac{\mu(n)}{n}V_{n}F_{n}\colon \mathbf{W}(R)\longrightarrow \mathbf{W}(R) $$ はwell-definedな射影作用素である。ただし $\mu$ は Mobius関数のことである。

Proof.

自然数 $n$ に対して、$\mu(n)$ は $n$ が平方因子を持つとき、その値は $0$ であり、$n$ が平方因子を持たないとき、すなわち $n=p_{1}p_{2}\ldots p_{r}$ と異なる素数の積に分解したとき、その値は $(-1)^{r}$ である。簡単な計算により $V_{n}({\rm Filt}^{m}\mathbf{W}(R))\subset {\rm Filt}^{mn+n-1}\mathbf{W}(R)$ であることが確かめられるので、 $$ \pi=\sum_{n\in I(p)}\dfrac{\mu(n)}{n}V_{n}F_{n} $$ という無限和は収束する。$m\in I(p), m>1$ となる自然数 $m$ に対して、 \begin{align} F_{m}\circ \pi&=\sum_{n\in I(p)} \dfrac{\mu(n)}{n}F_{m}V_{n}F_{n} \\ &=\sum_{r\in I(p)}\sum_{n\in I(p),(m,n)=r}F_{\frac{m}{r}}F_{r}V_{r}V_{\frac{n}{r}}F_{\frac{n}{r}}F_{r} \\ &=\sum_{r\in I(p)}\sum_{n\in I(p),(m,n)=r}\dfrac{r\mu(n)}{n}V_{\frac{n}{r}}F_{\frac{nm}{r}} \\ &=\sum_{r\vert m}\sum_{k,(k,m)=1}\dfrac{\mu(kr)}{k}V_{k}F_{mk} \\ &=\sum_{k,(k,m)=1}\dfrac{1}{k}V_{k}F_{mk}\sum_{r\vert m}\mu(kr)=0 \end{align} となるので、$\pi^{2}=\pi+\sum_{m\in I(p),m>1}\dfrac{\mu(m)}{m}V_{m}\left(F_{m}\circ \pi\right)=\pi$ となり、$\pi\colon \mathbf{W}(R)\longrightarrow \mathbf{W}(R)$ は射影作用素である。


$\mathbb{Z}_{(p)}$ 代数 $R$ に対して $W^{p}(R)={\rm Im}(\pi)$ のことを $R$ の $p$ -Wittベクトルのなす環、あるいは単に $p$ -Witt環という。


命題 3

$R$ を $\mathbb{Z}_{(p)}$ 代数とする。このとき $\pi\colon \mathbf{W}(R)\longrightarrow W^{p}(R)$ は環の全射準同型である。

Proof.

$\pi$ が加法を保つのは明らかなので、乗法を保存することだけ確認しよう。$\omega,\omega^{'}\in \mathbf{W}(R)$ に対して $\pi(\omega.\omega^{'})=\pi(\omega).\pi(\omega^{'})$ を示す。$R$ は代数閉体であるとしてよく、このとき $R$ は捻じれ元を持たないので、環準同型 ${\rm log}_{\infty}\colon \mathbf{W}(R)\longrightarrow \prod_{\infty} R$ は単射である。$\pi$ の ${\rm log}_{\infty}$ による押し出しを ${\rm log}_{\infty,*}(\pi)\colon \prod_{\infty}R\longrightarrow \prod_{\infty} R$ と書くことにすると、これが無限直積環の間の準同型であることを示せば十分である。 $$ {\rm log}_{\infty,*}(\pi)\colon \prod_{\infty}R\longrightarrow \prod_{\infty} R; (x_{1},x_{2},\ldots)\longmapsto (x_{1},0,\ldots,0,x_{p},0,\ldots,0,x_{p^{2}},\ldots) $$ なので、これは明らかに積を保つ。


${\rm log}_{\infty,*}(\pi)\colon \prod_{\infty}R\longrightarrow \prod_{\infty} R$ が上記のようにして与えられることには説明が必要だろう。無限直積環において、Verschiebung写像とFrobenius写像が $$ V_{n}\colon \prod_{\infty} R \longrightarrow \prod_{\infty} R; (x_{1},x_{2},\ldots)\longmapsto (0,\ldots, 0, nx_{1},0,\ldots,0,nx_{2},\ldots), $$ $$ \hspace{-82pt} F_{n}\colon \prod_{\infty} R \longrightarrow \prod_{\infty} R; (x_{1},x_{2},\ldots)\longmapsto (x_{n},x_{2n},\ldots). $$ で与えられていたことを思い出そう。このとき、${\rm log}_{\infty,*}(\pi)=\sum_{n\in I(p)}\dfrac{\mu(n)}{n}V_{n}F_{n}$ である。$e_{m}\in \prod_{\infty} R$ を第 $m$ 成分が $1$ でそれ以外の成分が $0$ であるような元とする。このとき、$F_{n}(e_{m})$ の値はもし $n\vert m$ なら $e_{\frac{m}{n}}$ であり、そうでないとき $0=(0,0,\ldots)$ である。$n\vert m$ とする。$\dfrac{\mu(n)}{n}V_{n}F_{n}(e_{m})=\dfrac{\mu(n)}{n}V_{n}(e_{\frac{m}{n}})=\mu(n)e_{m}$ であり、 \begin{align} \sum_{n\in I(p)}\dfrac{\mu(n)}{n}V_{n}F_{n}(e_{m})&=\left(\sum_{n\in I(p),n\vert m}\mu(n)\right)e_{m} \end{align} である。$\left(\sum_{n\in I(p),n\vert m}\mu(n)\right)$ は $m$ が $p$ 冪なら $1$ でそれ以外の場合は $0$ である。$\pi$ の全射性から、$\mathbf{W}(R)$ の生成元は $W^{p}(R)$ の生成元に写る。$\mathbf{W}(R)$ の生成元は $\omega((1-at^{m})^{-1})$ という形をしていた。したがって、$W^{p}(R)$ は $\{\omega((1-at^{m})^{-1})\mathrel{\vert}m=(p {\text の冪})\}$ で生成される。


次の命題は、$W^{p}(R)$ が $\mathbf{W}(R)$ の情報をすべて持っていて、$\mathbf{W}(R)$ の構造について知りたい場合、$W^{p}(R)$ を調べれば十分であることを主張している(ように見えるだろう...)。

命題 4

$R$ を $\mathbb{Z}_{(p)}$ 代数とすると、 $$ \prod_{n\in I(p)}W^{p}(R)\longrightarrow \mathbf{W}(R);(\ldots,\omega_{n},\ldots)\longmapsto \sum_{n\in I(p)}\dfrac{1}{n}V_{n}(\omega_{n}) $$ は環の同型写像であり、その逆写像は $$ \prod_{n\in I(p)}\pi\circ F_{n}\colon \mathbf{W}(R)\longrightarrow \prod_{n\in I(p)}W^{p}(R) $$ で与えられる。

Proof.

証明の概略だけ説明すると $$ \dfrac{1}{n}\prod_{m\in I(p)}\pi\circ F_{m}\circ V_{n}\colon W^{p}(R)\longrightarrow \prod_{n\in I(p)} W^{p}(R) $$ は $n$ 成分への埋め込みである。よって $\prod_{n\in I(p)}W^{p}(R)\longrightarrow \mathbf{W}(R);(\ldots,\omega_{n},\ldots)\longmapsto \sum_{n\in I(p)}\dfrac{1}{n}V_{n}(\omega_{n})$ は $\prod_{n\in I(p)}\pi\circ F_{n}\colon \mathbf{W}(R)\longrightarrow \prod_{n\in I(p)}W^{p}(R)$ の逆写像である。$\pi$ も $F_{n}$ も環の準同型なので、環の同型 $\prod_{n\in I(p)}W^{p}(R)\simeq \mathbf{W}(R)$ を得る。

古典論との関係

前節では、Witt理論を非常に整備された形で紹介してきたが、歴史を遡れば、この理論の雛形は見通しの良いものではなかった。歴史的に仔細な経緯について詳しく述べることはできないが、この理論の元々の動機は、環の剰余に現れる正標数の世界の言葉を、剰余を取る前の標数 $0$ の世界へ戻すことを目的にしたものだった。ここで古典的な立場からあらためて、Witt理論を眺めてみよう。以降、全体を通して $p$ を固定した素数としよう。

定義 4 (Artin-Hasseの指数関数)

$E(t)={\rm exp}\left(\sum_{n=0}^{\infty}\dfrac{t^{p^{n}}}{p^{n}}\right)\in \mathbb{Z}_{(p)}[{[t]}]$ のことをArtin-Hasseの指数関数と呼ぶ。この関数の係数が $\mathbb{Z}_{(p)}$ に属するのは、$E(t)=\prod_{n\in I(p)}(1-t^{n})^{\frac{-\mu(n)}{n}}$ という積表示から確認できる。

注 1

Artin-Hasseの指数関数について補足しておこう。 $$ E(t)=\prod_{n\in I(p)}(1-t^{n})^{\frac{-\mu(n)}{n}} $$ という表示は $\mathbf{W}(\mathbb{Z}_{(p)})$ の元としては $$ E(t)=\sum_{n\in I(p)} \dfrac{\mu(n)}{n}\omega((1-t^{n})^{-1})=\pi(1) $$ となる。したがって、$E(t)$ は実は $W^{p}(\mathbb{Z}_{(p)})$ の単位元と等しい。$E(t).\omega((1-xt^{m})^{-1})$ の値はもし $m=p^{n}$ なら $E(xt^{p^{n}})$ であり、それ以外なら $0$ である。

定義 5 (Witt多項式)

任意の自然数 $n\in \mathbb{N}$ に対して $w_{n}\in \mathbb{Z}[X_{0},\ldots, X_{n}]$ を $$ w_{n}(X_{0},\ldots, X_{n})=\sum_{i=0}^{n}p^{i}X_{i}^{p^{n-i}}=X_{0}^{p^{n}}+pX_{1}^{p^{n-1}}+\cdots +p^{n}X_{n} $$ という多項式とする。$w_{n}(X_{0},\ldots, X_{n})$ のことを $n$ 次Witt多項式という。ただし、$w_{0}=X_{0}$ である。簡単な計算により $w_{n}(X_{0},\ldots, X_{n})=p^{n}X_{n}+w_{n-1}(X_{0}^{p},\ldots, X_{n-1}^{p})$ がわかる。

定義 6 ($p$-Witt環)

$R$ を $\mathbb{Z}_{(p)}$ 代数とする。集合の間の写像 $$ w\colon R^{\mathbb{N}}\longrightarrow R^{\mathbb{N}};(x_{n})_{n\in \mathbb{N}}\longmapsto (w_{n}(x_{1},\ldots, x_{n}))_{n\in \mathbb{N}} $$ により直積環 $R^{\mathbb{N}}$ の構造をその原像へと移植する。すなわち、定義域の二つの元 $X,Y\in R^{\mathbb{N}}$ に対して、その和 $S\in R^{\mathbb{N}}$ と積 $P\in R^{\mathbb{N}}$ を $$ w(S)=w(X)+w(Y), w(P)=w(X)w(Y) $$ とし、また $I(X)\in R^{\mathbb{N}}$ を $w(I(X))=-w(X)$ となる元とする。$w$ の定義域 $R^{\mathbb{N}}$ に加法、乗法、逆元を上記のようにして定めた環のことを $R$ の $p$-Witt環という。


任意の $X,Y\in R^{\mathbb{N}}$ に対して、上記のような和 $S$, 積 $P$ 及び $X$ の逆元 $I(X)$ がただ一つ存在することを証明する必要がある。

補題 3

$R$ を $\mathbb{Z}_{(p)}$ 代数とし、$m\geq 1$ を自然数とする。このとき

  • (1) 任意の $x,y\in R$ に対して $x\equiv y ~{\rm mod}~ p^{m}$ ならば $x^{p}\equiv y^{p} ~{\rm mod}~ p^{m+1}$ である。
  • (2) $x=(x_{n}), y=(y_{n})\in R^{\mathbb{N}}$ とし、任意の $n\geq 1$ に対して $x_{n}\equiv y_{n} ~{\rm mod}~ p^{m}$ ならば $w_{n}(x_{0},\ldots, x_{n})\equiv w_{n}(y_{0},\ldots, y_{n}) ~{\rm mod}~ p^{n+m}$ である。
Proof.

}

  • (1) $x^{p}-y^{p}\in p^{m+1}R$ を示そう。$x^{p}-y^{p}=(x-y)(x^{p-1}+x^{p-2}y+\cdots +y^{p-1})=(x-y)\sum_{i=0}^{p-1}x^{i}y^{p-1-i}$ であり、仮定より $x\equiv y ~{\rm mod}~ p^{m}$ なので $\sum_{i=0}^{p-1}x^{i}y^{p-1-i}\equiv px^{p-1} ~{\rm mod}~ p^{m}$ である。したがって、

$$ x^{p}-y^{p}\equiv (x-y)px^{p-1} \equiv 0 ~{\rm mod}~ p^{m+1} $$ である。

  • (2) $n$ についての帰納法で証明しよう。$n=0$ のときは仮定からただちに従う。

$$ w_{n}(x_{0},\ldots, x_{n})-w_{n}(y_{0},\ldots, y_{n})=w_{n-1}(x_{0}^{p},\ldots,x_{n-1}^{p})-w_{n-1}(y_{0}^{p},\ldots,y_{n-1}^{p})+p^{n}(x_{n}-y_{n}). $$ 帰納法の仮定から $$ w_{n-1}(x_{0},\ldots,x_{n-1})\equiv w_{n-1}(y_{0},\ldots,y_{n-1}) ~{\rm mod}~ p^{m+n-1} $$ であり (1) より $$ w_{n-1}(x_{0}^{p},\ldots,x_{n-1}^{p})\equiv w_{n-1}(y_{0}^{p},\ldots,y_{n-1}^{p}) ~{\rm mod}~ p^{m+n} $$ である。命題の仮定より $$ p^{n}(x_{n}-y_{n})\equiv 0 ~{\rm mod}~ p^{m+n} $$ なので、$w_{n}(x_{0},\ldots, x_{n})\equiv w_{n}(y_{0},\ldots, y_{n}) ~{\rm mod}~ p^{n+m}$ がわかる。

命題 5

$R$ を $\mathbb{Z}_{(p)}$ 代数とし、$\sigma\colon R\longrightarrow R$ を 剰余環 $R/pR$ 上で $x\longmapsto x^{p}$ を誘導するような $R$ の自己準同型とする。このとき $w(R^{\mathbb{N}})=\{(a_{0},a_{1},\dots)\in R^{\mathbb{N}}\mathrel{\vert} a_{n}\equiv \sigma(a_{n-1}) ~{\rm mod}~ p^{n}\}$ である。

Proof.

まず $w(R^{\mathbb{N}})\subset \{(a_{0},a_{1},\dots)\in R^{\mathbb{N}}\mathrel{\vert} a_{n}\equiv \sigma(a_{n-1}) ~{\rm mod}~ p^{n}\}$ を示す。$w\colon R^{\mathbb{N}}\longrightarrow R^{\mathbb{N}}$ の定義域から元 $(x_{0},x_{1},\ldots)$ を任意にとったとき、それが $$ w_{n}(x_{0},\ldots,x_{n})\equiv w_{n-1}(\sigma(x_{0}),\ldots,\sigma(x_{n-1})) ~{\rm mod}~ p^{n} $$ を満たすことを示せばよい。 $$ w_{n}(x_{0},\ldots,x_{n})=w_{n-1}(x_{0}^{p},\ldots, x_{n-1}^{p})+p^{n}x_{n}\equiv w_{n-1}(x_{0}^{p},\ldots, x_{n-1}^{p}) ~{\rm mod}~ p^{n} $$ である。上の補題の(2)において、$m=1$ とし $x_{i}$ を $\sigma(x_{i})$ で、$y_{i}$ を $x_{i}^{p}$ でそれぞれ置き換えると $$ w_{n-1}(\sigma(x_{0}),\ldots,\sigma(x_{n-1}))\equiv w_{n-1}(x_{0}^{p},\ldots, x_{n-1}^{p}) ~{\rm mod}~ p^{n} $$ となる。次に、$\{(a_{0},a_{1},\dots)\in R^{\mathbb{N}}\mathrel{\vert} a_{n}\equiv \sigma(a_{n-1}) ~{\rm mod}~ p^{n}\}\subset w(R^{\mathbb{N}})$ を示す。左辺から $(a_{0},\ldots)$ を任意にとる。$x_{0}=a_{0}$ とする。$x_{0},\ldots,x_{n-1}$ を $a_{i}=w_{i}(x_{0},\ldots,x_{i}), i=0,\ldots, n-1$ を満たすような $R$ の元の列としよう。 $$ a_{n}-w_{n-1}(\sigma(x_{0}),\ldots,\sigma(x_{n-1})) ~{\rm mod}~ p^{n} $$ なので、$x_{n}\in R$ を $a_{n}-w_{n-1}(\sigma(x_{0}),\ldots,\sigma(x_{n-1}))=p^{n}x_{n}$ を満たす元とすると、$a_{n}=w_{n}(x_{0},\ldots,x_{n})$ となる。したがって $\{(a_{0},a_{1},\dots)\in R^{\mathbb{N}}\mathrel{\vert} a_{n}\equiv \sigma(a_{n-1}) ~{\rm mod}~ p^{n}\}\subset w(R^{\mathbb{N}})$ である。

系 1

任意の $\Psi\in R[X,Y]$ 及び任意の $n\in\mathbb{N}$ に対して  $$ w_{n}(\psi_{0},\ldots, \psi_{n})=\Psi(w_{n}(X_{0},\ldots, X_{n}),w_{n}(Y_{0},\ldots,Y_{n})) $$ を満たす $R[X_{0},\ldots, X_{n},\ldots, Y_{0},\ldots, Y_{n},\ldots]$ の元の列 $(\psi_{0},\ldots, \psi_{n},\ldots)$ がただ一つ存在する。


この命題を $\Psi(X,Y)=X+Y, \Psi(X,Y)=XY$ に適用したとき、得られる列 $S=(S_{0},\ldots, S_{n},\ldots),P=(P_{0},\ldots,P_{n},\ldots)$ は $w(S)=w(X)+w(Y),w(P)=w(X)w(Y)$ を満たすただ一つの $R^{\mathbb{N}}$ の元である。具体的な表示は $$ S_{0}=X_{0}+Y_{0}, ~ S_{1}=X_{1}+Y_{1}+\dfrac{X_{0}^{p}+Y_{0}^{p}-(X_{1}+Y_{1})^{p}}{p}, \ldots, $$ $$ \hspace{-65pt} P_{0}=X_{0}Y_{0}, ~ P_{1}=X_{1}Y_{0}^{p}+X_{0}^{p}Y_{1}+pX_{1}Y_{1}, \ldots $$ となる。このようにして $R^{\mathbb{N}}$ は可換環を成し加法と乗法の単位元はそれぞれ $0=(0,\ldots),1=(1,0,\ldots)$ である。こうして得られる環のことを $R$ の $p$-Witt環と呼ぶのであった。とはいえ我々は既に、可換環 $W^{p}(R)$ にこの名前を付けている。次の命題は、この二つの $p$-Witt環が同じ環であることを主張している。

命題 6

$R$ を $\mathbb{Z}_{(p)}$ 代数とし、$R^{\mathbb{N}}$ を上で定義した $p$-Witt環とする。このとき、 $$ R^{\mathbb{N}}\longrightarrow W^{p}(R);(a_{0},a_{1},\ldots)\longmapsto \prod_{i=0}^{\infty} E(a_{i}t^{p^{i}})=\sum_{i}\omega((1-a_{i}t^{p^{i}})^{-1}).E(t) $$ は環の同型写像である。ここで $E(t)$ はArtin-Hasseの指数関数のことである。

Proof.

$W^{p}(R)$ は $\{\omega((1-xt^{p^{i}})^{-1})\mathrel{\vert} x\in R \}$ で生成されていたことを思い出せば、全単射であることは明らかである。なので、準同型であることのみ確認すればよい。


Verschiebung写像 $V=V_{p}$ は $R^{\mathbb{N}}$ と $W^{p}(R)$ のそれぞれの表示で $$ V\colon R^{\mathbb{N}} \longrightarrow R^{\mathbb{N}};(a_{0},a_{1},\ldots)\longmapsto (0,a_{0},a_{1},\ldots) $$ $$ V\colon W^{p}(R)\longrightarrow W^{p}(R);\omega((1-at^{p^{n}})^{-1})\longmapsto \omega((1-at^{p^{n+1}})^{-1}) $$ となっており、 \begin{xy} \xymatrix { R^{\mathbb{N}} \ar[r]^{V} \ar[d]_{\simeq} & R^{\mathbb{N}} \ar[d]^{\simeq} \\ W^{p}(R) \ar[r]_{V} & W^{p}(R) } \end{xy} は可換である。Frobenius写像 $F=F_{p}$ については、$W^{p}(R)$ 上で $$ F\colon W^{p}(R)\longrightarrow W^{p}(R);\omega((1-at^{p^{n}})^{-1})\longmapsto p\omega((1-at^{p^{n-1}})^{-1}) $$ となっている。$p$-Witt環 $R^{\mathbb{N}}$ の元 $a=(a_{0},a_{1},\ldots)$ に対して $$ F(a)=(f_{0}(a),f_{1}(a),\ldots) $$ となる。ただし、$f_{n}(a)$ は $$ f_{0}(a)^{p^{n}}+pf_{1}(a)^{p^{n-1}}+\cdots +p^{n}f_{n}(a)=a_{0}^{p^{n+1}}+pa_{1}^{p^{n}}+\cdots +p^{n+1}a_{n+1} $$ かつ $$ f_{n}(a)=a_{n}^{p} ~{\rm mod}~ p $$ を満たすような $R$ の元である。


Witt環の理論が特に役立つのは、標数 $p$ の完全体を考える場合である。$k$ を標数 $p$ の完全体とすると、$k$ にはFronebius写像 $$ \sigma\colon k\longrightarrow k;x\longmapsto x^{p} $$ という同型が備わっている。このとき $k$ の $p$-Witt環 $W(k):=k^{\mathbb{N}}(\simeq W^{p}(k))$ のFrobenius写像は $$ F=W(\sigma)\colon W(k)\longrightarrow W(k);(a_{0},a_{1},\ldots)\longmapsto (a_{0}^{p},a_{1}^{p},\ldots) $$ となる。

補題 4
  • (1) $V\circ F=F\circ V\colon W(k)\longrightarrow W(k)$ は $p$ 倍写像である。
  • (2) 任意の $x,y\in W(k)$ に対して $x.V(y)=V(F(x).y)$ である。特に $V(W(k))$ は $W(k)$ のイデアルである。
  • (3) $W(k)$ はイデアルからなるフィルトレーション $\{V^{n}W(k)\}$ で完備である。
Proof.

  • (1) $FV$ と $VF$ は共に

$$ W(k)\longrightarrow W(k);(a_{0},a_{1},\ldots) \longmapsto (0,a_{0}^{p},a_{1}^{p},\ldots) $$ である。$(0,a_{0}^{p},a_{1}^{p},\ldots)=p.(a_{0},a_{1},\ldots)$ を言えばよい。 $p=(0,1,0,\ldots)$ であり、$(0,1,0,\ldots).(a_{0},a_{1},\ldots)=(0,a_{0}^{p},a_{1}^{p},\ldots)$ なので (1) が言えた。$W^{p}(k)$ の方の言葉で言えば、$FV(\omega((1-at^{p^{n}})^{-1}))=VF(\omega((1-at^{p^{n}})^{-1}))=\omega((1-at^{p^{n}})^{-p})$ である。

  • (2) も定義から直接示せる。というより同様の主張を既に示している。
  • (3) $k$ は標数 $p$ の完全体なので、$F\colon W(k)\longrightarrow W(k)$ は同型写像であり、$V^{n}W(k)=p^{n}W(k)$ となる。$\varprojlim_{n} W(k)/V^{n}W(k)$ の任意の元は $\{(a_{0},a_{1},\ldots,a_{n},0,\ldots)\}_{n}$ という形で与えられ、これは $W(k)$ の元 $(a_{0},a_{1},\ldots)$ に収束する。$\cap_{n}V^{n}W(k)=0$ なので、$W(k)$ は $p$ 進位相で完備である。


$W(k)$ は $k$ を剰余体に持つような標数 $0$ の完備離散付値環であり、その素元は $p=(0,1,0,\ldots)$ である。剰余環 $W(k)/V^{n}W(k)$ のことを $W_{n}(k)$ と書く。 $$ W(k)\simeq \varprojlim_{n} W_{n}(k) $$ である。

Witt環スキーム

$\mathbb{Z}_{p}$ 代数 $R$ に対して、$W(R)$ を対応させる関手 $W\colon \mathbb{Z}_{p}{\text -}{\rm Alg}\longrightarrow {\rm Ring};R\longrightarrow W(R)$ は表現可能である。実際、 $$ w\colon \mathbb{Z}[w_{0},w_{1},\ldots] \longrightarrow \mathbb{Z}[X_{0},X_{1},\ldots] $$ を \begin{align} w_{0}&=X_{0}, \\ w_{1}&=pX_{1}+X_{0}^{p}, \\ \vdots \\ w_{n}&=p^{n}X_{n}+\cdots X_{0}^{p^{n}}, \\ \vdots \end{align} という関係式によって定めると ${\rm Spec}~\mathbb{Z}[X_{0},X_{1},\ldots]$ は $W={\rm Spec}~\mathbb{Z}[w_{0},w_{1},\ldots]$ の閉部分スキームになる。閉埋め込み $$ w\colon {\rm Spec}~\mathbb{Z}[X_{0},X_{1},\ldots] \longrightarrow W $$ の $R$ 有理点は $w\colon R^{\mathbb{N}}\longrightarrow R^{\mathbb{N}}$ を誘導する。さらに $$ S,P\colon \mathbb{Z}[w_{0},w_{1},\ldots]\longrightarrow \mathbb{Z}[w_{0},w_{1},\ldots]\otimes \mathbb{Z}[w_{0},w_{1},\ldots], \\ \hspace{-60pt}I\colon \mathbb{Z}[w_{0},w_{1},\ldots]\longrightarrow \mathbb{Z}[w_{0},w_{1},\ldots] $$ を \begin{align} S(w_{n})&=1\otimes w_{n}+w_{n}\otimes 1, \\ P(w_{n})&=w_{n}\otimes w_{n}, \\ I(w_{n})&=-w_{n} \end{align} とすると、$S,P,I$ は $W={\rm Spec}~\mathbb{Z}[w_{0},w_{1},\ldots]$ に環スキームの構造を定め、$R$ 有理点のなす集合 $W(R)$ は構成より、$p$-Witt環となる。環スキーム $W={\rm Spec}~\mathbb{Z}[w_{0},w_{1},\ldots]$ のことをWitt環スキームという。自然数 $n$ と $\mathbb{Z}_{(p)}$ 代数 $R$ に対して、剰余環 $W_{n}(R)=W(R)/V^{n}W(R)$ を与える関手 $$ W_{n}\colon \mathbb{Z}_{p}{\text -}{\rm Alg}\longrightarrow {Ab} $$ は、Witt環スキームの閉部分スキームで表現される。