Vietoris位相
Vietoris位相(Vietoris topology)とは、位相空間 $X$ に対して $X$ の非空な閉集合全体のなす集合上に定まる位相である。また、$\mathrm{Exp}(X)$ とは、$X$ のVietoris位相の定める位相空間である。
定義
位相の規定
記法 1 ($\mathrm{CL}_-(X)$)
位相空間 $X$ について、集合 $\mathrm{CL}_-(X)$ を $X$ の非空な閉集合全体のなす集合と定める。
記法 2 ($\mathcal{V}(U_1,\ldots,U_n)$)
位相空間 $X$ と自然数 $n$ と $X$ の開集合 $U_1$, $\ldots$, $U_n$ について、$\mathrm{CL}_-(X)$ の部分集合 $\mathcal{V}(U_1,\ldots,U_n)$ を以下のように定める。
- $X$ の非空な空集合 $F$ について、$F \in \mathcal{V}(U_1,\ldots,U_n)$ は $F \subset \bigcup_{1\leq i \leq n}U_i$ かつ任意の $1\leq i \leq n$ について $F\cap U_i \neq \emptyset$ であることと同値
このような $\mathrm{CL}_-(X)$ の部分集合を(一時的に)basic open setとよぶことにする。
定義 3 (Vietoris位相)
位相空間 $X$ について、$\mathrm{CL}_-(X)$ 上の位相がVietoris位相であるとは、basic open set全体の集合を開基として持つことを指していう。
開基の定義より、Vietoris位相が存在すれば一意に定まることが示される。
位相の存在
命題 4 (Vietoris位相の存在)
位相空間 $X$ について、Vietoris位相は存在する。
証明
任意の $X$ の閉集合 $F$ と、$F \in O = \mathcal{V}(U_1,\ldots,U_n)$, $F \in O' = \mathcal{V}(U'_1,\ldots,U'_m)$ なるbasic open set $O$, $O'$ が存在したとき、$O \cap O'$ に含まれ $F$ を元として含むようなbasic open set $O' '$を構成すればよい(ここで $n$, $m$ は自然数であり、$U_1$, $\ldots$, $U_n$, $U'_1$, $\ldots$, $U'_m$ は $X$ の開集合である)。
自然数 $1 \leq i \leq n$, $1 \leq j \leq m$ について、開集合 $U' '_{i,j}$ を $U_i \cap U'_j$ とおく。また、集合 $X$ を $\{(i,j)|1\leq i \leq n, \, 1\leq j \leq m, \, U' '_{i,j}\cap F \neq \emptyset\}$ と定める。ここで、$X$ の要素を $U' '_1$, $\ldots$, $U' '_r$ と並べたとき、$O' '=\mathcal{V}(U' '_1,\ldots,U' '_r)$ とおくと望むbasic open setが得られることを示す。
まず、$\left(\bigcup_{1\leq k \leq r}U' '_k\right) \cap F = \bigcup_{(i,j) \in X} (U' '_{i,j}\cap F) = \bigcup_{1 \leq i \leq n, \, 1\leq j \leq m} (U' '_{i,j}\cap F) = \left(\bigcup_{1 \leq i \leq n, \, 1\leq j \leq m} U' '_{i,j}\right) \cap F$ であることが計算される。
ここで、$\bigcup_{1 \leq i \leq n, \, 1\leq j \leq m} U' '_{i,j} = \bigcup_{1 \leq i \leq n, \, 1\leq j \leq m} U_i \cap U'_j =\left( \bigcup_{1\leq i \leq n} U_i\right) \cap \left( \bigcup_{1\leq j \leq m} U'_j\right)$ より、$F \subset \left( \bigcup_{1\leq i \leq n} U_i\right) \cap \left( \bigcup_{1\leq j \leq m} U'_j\right) = \bigcup_{1 \leq i \leq n, \, 1\leq j \leq m} U' '_{i,j}$ が成り立つ。したがって、$F \subset \bigcup_{1\leq k \leq r}U' '_k$ が成り立つ。
$X$ の構成より、任意の $(i,j) \in X$ について $U' '_{i,j} \cap F$ は非空であるため、任意の $1\leq k \leq r$ について $U' '_k \cap F$ は非空である。よって $O' '$ は $F$ を含むbasic open setである。
$O' ' \subset O$ であることを示す。閉集合(($G$ の閉集合性は用いない。)) $G$ について、$G\subset \bigcup_{1\leq k \leq r}U' '_k=\bigcup_{(i,j) \in X} U' '_{i,j}$ であるとする。このとき、任意の $i$ について、$U' '_{i,j} \subset U_i$ であるため、$G\subset \bigcup_{(i,j) \in X} U' '_{i,j} \subset \bigcup_{1\leq i \leq n}U_i$ が成り立つ。
次に、任意の $1\leq i \leq n$ についてある $1\leq j \leq m$ が存在して $(i,j) \in X$ が成り立つことを示す。すべての $1\leq j\leq m$ について $(i,j) \notin X$ ならば、$U_i \cap U'_j \cap F=\emptyset$ であるため、$U_i\cap F = U_i \cap \left( \bigcup_{1\leq j\leq m}U'_j\right) \cap F = \emptyset$ が成り立ってしまい、仮定に反する。
このとき、任意の $k$ に対して $U' '_k\cap G\neq\emptyset$ ならば、任意の $i$ についてある $j$ が存在し、$U_i \cap U'_j \cap G\neq \emptyset$ が成り立つ。従って、任意の $i$ について $U_i \cap G \neq \emptyset$ が成り立つ。
従って $O' '\subset O$ が成り立つ。同様に、$O' '\subset O'$ が成り立つため、$O' '$ は望むbasic open setであることが確かめられた。よって、basic open set全体からなる $\mathrm{CL}_-(X)$ 上の開基は存在し、これはVietoris位相となる。□定義 5 ($\mathrm{Exp}(X)$)
$X$ のVietoris位相の定める位相空間を $\mathrm{Exp}(X)$ と表記する。
有限個の点のなす空間
以下 $X$ を位相空間とする。また $k$ を自然数とする。
定義 6 (濃度 $k$ 以下の図形のなす空間)
$\mathrm{Exp}(X)$ の部分空間 $\mathrm{Exp}_k(X)$ を、以下のように定める。
- $F \in \mathrm{Exp}_k(X)$ であることと $F$ の濃度が $k$ 以下であることは同値
命題 7 ($X \cong \mathrm{Exp}_1(X)$)
$T_1$-空間 $X$ の点 $x$ について、$X$ の閉集合 $\{x\}$ を充てる対応 $j_1\colon X\to \mathrm{Exp}_1(X)$ は同相写像である。
証明
$X$ は $T_1$-空間であるため、$j_1$ はwell-definedであり、また全単射である。
Vietoris位相の定め方より、$\mathrm{Exp}_1(X)$ は、有限個の $X$ の開集合 $U_1$, $\ldots$, $U_n$ によって $\mathcal{V}(U_1,\ldots, U_n) \cap \mathrm{Exp}_1(X)$ と表せる集合全体を開基として持つ。
$\mathcal{V}(U_1,\ldots,U_n)\cap \mathrm{Exp}_1(X)=j_1[\bigcap_{1\leq i \leq n}U_i]$ であるため、$j_1$ は同相写像となる。□事実
- $1$ 次元円周 $S^1$ について、$\mathrm{Exp}_3(S^1)$ は $3$ 次元球面 $S^3$ と同相であることが知られている。この事実はBottの論文 "On the third symmetric potency of $S^1$" により示されたが、これはBorsukの論文 "On the third symmetric potency of the circumference" の誤りの訂正という形で提出された。さらに、自然な包含 $\mathrm{Exp}_1(S^1)\to \mathrm{Exp}_3(S^1)$ は三葉結び目(trefoil) $S^1\to S^3$ と射として同型であることが知られている。これはTuffleyの論文 "Finite subset spaces of $S^1$" にて確認できる。