演習問題解答:雪江明彦「代数学1 群論入門」

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本稿では、代数学の教科書である雪江明彦「代数学1 群論入門」の演習問題の解答を掲載する。著作権についての考え方にしたがい、書籍に解答が掲載されている問題については、補足すべきと判断される点がない問題は省き、例示を求める問題は書籍内で紹介された例以外の例を紹介する。

第1章 集合論

1.1.5

写像 $f \colon A \to B$ が全単射であるとする。各 $b \in B$ に対し、全射性から $f(a) = b$ なる $a \in A$ が存在し、単射性からこの $a$ は一意的である。ここで $b$ に対し $f(a) = b$ を満たす $a$ を対応づける写像[1]を $g \colon B \to A$ と定めると、$g$ は $f$ の逆写像である。実際、$g$ の定義により $$ a = g(b)\iff b = f(a) $$ であるから、$g(f(a)) = a$ かつ $f(g(b)) = b$ が成り立つ。これは $g \circ f$ が $A$ の、$f \circ g$ が $B$ の恒等写像であることを示している。

逆に $f \colon A \to B$ が逆写像 $g \circ B \to A$ をもつとする。$b \in B$ に対し $a := g(b)$ は $f(a) = f(g(b)) = b$ を満たし、$f$ は全射である。また $a$, $a' \in A$ が $f(a) = f(a')$ を満たせば $a = g(f(a)) = g(f(a')) = a'$、特に $f$ は単射である。$\square$

1.1.6

(1) $c \in C$ を任意にとる。$g$ の全射性から $c = g(b)$ なる $b \in B$ が存在し、$f$ の全射性から $b = f(a)$ なる $a \in A$ が存在する。取り方により $c = (g \circ f)(a)$ が成り立ち、$g \circ f$ は全射である。

(2) $a$, $a' \in A$ が $(g \circ f)(a) = (g \circ f)(a')$ を満たすとする。$g$ の単射性から $f(a) = f(a')$ であり、$f$ の単射性から $a = a'$ を得る。特に $g \circ f$ は単射である。

(3) $c \in C$ を任意にとる。$g \circ f$ の全射性から $(g \circ f)(a) = c$ なる $a \in A$ が存在する。このとき $b := f(a)$ は $g (b) = (g \circ f)(a) = c$ を満たし、$g$ は全射である。

(4) $a$, $a' \in A$ が $f(a) = f(a')$ を満たすとする。このとき $(g \circ f)(a) = g(f(a)) = g(f(a')) = (g \circ f)(a')$ であり、$g \circ f$ の単射性から $a = a'$ である。特に $f$ は単射である。$\square$

1.1.7

一般に、任意の写像 $f \colon A \to B$ と任意の部分集合 $S \subset B$ に対して $ f(f^{-1}(S)) \subset S$ が成り立つことに注意する。実際、任意の $a \in A$ に対して $$ a \in f^{-1}(S) \iff f(a) \in S$$ が成り立つ。

$f$ を全射とする。部分集合 $S \subset B$ を任意にとって固定する。上の注意により $S \subset f(f^{-1}(S))$ を示せばよい。任意の $b \in S$ に対し、$f$ の全射性から $f(a) = b$ なる $a \in A$ が存在する。定義により $a \in f^{-1}(S)$ なので $b = f(a) \in f(f^{-1}(S))$。$b$ の任意性から $S \subset f(f^{-1}(S))$ を得る。

任意の部分集合 $S \subset B$ に対し $f(f^{-1}(S)) = S$ が成り立つとする。任意の $b$ に対し、1点集合 $S = \{b\}$ にこの等式を適用しよう。$f^{-1}(S) = \emptyset$ とすると $f(f^{-1}(S)) = \emptyset \ne S$ で、これは仮定に反するから $f^{-1}(S) \ne \emptyset$ である。$a \in f^{-1}(S)$ をとれば $f(a) \in S = \{b\}$ から $f(a) = b$、特に $f$ は全射である。$\square$

1.1.8

任意の写像 $f \colon A \to B$ に対して、以下が成り立つ。

  1. 任意の部分集合 $T \subset A$ に対して $f^{-1}(f(T)) \supset T$ が成り立つ。
  2. 任意の部分集合 $S \subset B$ に対して $ f(f^{-1}(S)) \subset S$ が成り立つ。

証明は前問 1.1.7 の解答を参照されたい。

包含関係 2. により $f(f^{-1}(S)) \subset S$ なので、両辺の逆像を取って $f^{-1}(f(f^{-1}(S))) \subset f^{-1}(S)$。一方 $T = f^{-1}(S)$ に包含関係 1. を適用すると $f^{-1}(f(T)) \supset T$、すなわち $f^{-1}(f(t^{-1}(S))) \supset f^{-1}(S)$。

1.3.1

(1) $X$ の全順序部分集合 $\{ (S_\lambda, f_\lambda) \}$ に対し、$S_m = \bigcup_\lambda S_\lambda$ とおき、写像 $f_m \colon S_m \to B$ を次のように定める。任意の $s \in S_m$ はある $S_\lambda$ に属するので、このとき $f_m(s) := f_\lambda(s)$ と定める。ここで、$s \in S_\lambda$ かつ $s \in S_\mu$ であったとすると、$X$ の順序の定義ことから $S_\lambda$ と $S_\mu$ の間には包含関係が存在し、かつ $f_\lambda$ と $f_\mu$ は $S_\lambda \cap S_\mu$ に制限すると同じ写像となる。ゆえに $f_\lambda(s) = f_\mu(s)$ であり、$f_m$ はwell-definedである。

$f_m$ の単射性を示そう。$s_1$, $s_2 \in S_m$ が $f_m(s_1) = f_m(s_2)$ を満たすとする。$S_t$ で $s_t \in S_t$ を満たすものをとる。$S_1$ と $S_2$ の間には包含関係があり、$S_1 \supset S_2$ の場合を示そう。このとき $s_1$, $s_2$ はともに $S_1$ に含まれ、$f_m(s_t) = f_1(s_t)$($t = 1$, $2$) である。$f_1$ は単射なので $s_1 = s_2$、ゆえに $f_m$ は単射である。

以上により $(S_m, f_m)$ が $\{ (S_\lambda, f_\lambda) \}$ の上界であり、Zornの補題により $X$ は極大元をもつ。

(2) 背理法による。(a)、(b) がともに成り立たないとする。$S_0 \ne A$ から $a \in A \setminus S_0$ が、$f_0(S_0) \ne B$ から $b \in B \setminus f_0(S_0)$ がとれて、$S_0 \cup \{a\}$ から $B$ への写像 $f$ を $$ f(x) := \begin{cases} f_0(x) & (x \in S_0) \\ b & (x = a) \end{cases}$$とすると $(S_0 \cup \{a\}, f) > (S_0, f_0)$、これは $(S_0,f_0)$ の極大性に反する。$\square$

第2章 群の基本

2.1.1

$0$ は逆元をもたない。

2.1.2

$a \circ b = (a+1)(b+1) - 1$ に注意すると、演算 $\circ$ は可換である。$$ (a \circ b) \circ c = (a \circ b + 1)(c+1) - 1 = (a+1)(b+1)(c+1) - 1,$$ 同様に $a \circ (b \circ c) = (a+1)(b+1)(c+1) - 1$ であり、結合則が成り立つ。また $a \circ 0 = (a+1) (0+1) - 1 = a$ なので、$0$ が $\circ$ に関する単位元である。

逆元を定義する等式 $a \circ b = 0$ を考える。先の注意から $(a+1)(b+1) = 1$ と整理されるので、$a+1 \ne 0$ のとき $b = - \frac{a}{a+1}$ が逆元を与える。ところが $a + 1 = 0$ のとき $a \circ b = 0$ を満たす $b$ は存在しない。逆元が存在しない数があることから、$(\mathbb{R}, \circ)$ は群ではない。

第4章 Sylowの定理

参考文献

  • 雪江明彦「代数学1 群論入門」
  1. 各 $b \in B$ にただ1つの $a \in A$ を割り当てる対応付けを写像というのであった。