数論的関数の接合積
$\newcommand{\N}{\mathbb{N}}$ $\newcommand{\Z}{\mathbb{Z}}$ $\newcommand{\Q}{\mathbb{Q}}$ $\newcommand{\R}{\mathbb{R}}$ $\newcommand{\C}{\mathbb{C}}$ $\newcommand{\bbe}{\mathbb{e}}$ $\newcommand{\LCM}{\mathrm{LCM}}$ $\newcommand{\abs}[1]{\left\lvert#1\right\rvert}$ $\newcommand{\wenvert}[1]{\left\lvert\left\lvert#1\right\rvert\right\rvert}$ $\newcommand{\floor}[1]{\left\lfloor#1\right\rfloor}$ $\newcommand{\mathmod}[1]{\ \left(\mathrm{mod}\ #1\right)}$
数論的関数 $f, g$ の接合積 (convolution) $f*g$ を
$$(f*g)(N)=\sum_{d\mid N}f(d)g(N/d)$$
により定める。
基本的性質
明らかに $$(f*g)=(g*f),$$ $$((f*g)*h)(N)=(f*(g*h))(N)=\sum_{N=d_1 d_2 d_3}f(d_1)g(d_2)h(d_3)$$ が成り立つ。さらに、$\bbe(N)$ を数論的関数:定理5.1で考察した関数 $$\bbe(N)=\sum_{d\mid N}\mu(d)=\left\{\begin{array}{cl} 1 & (N=1)\\ 0 & (N>1)\end{array}\right.$$ と定めると、 $$\bbe *f=f*\bbe =f$$ が成り立つ。すなわち $\bbe$ は、convolutionに関する単位元とみることができる。
例 1
$\mathbb{1}(N)$ を、すべての整数に対して $1$ をとる関数とし、多項式 $P(x)$ に対し、$[P]$ を 整数 $N$ に対して $P(N)$ を値にとる関数とする(よって $\mathbb{1}=[x^0]$ となる)と、 約数関数 $d_k(N)$ について $$d_k=\mathbb{1}*[x^k]$$ が成り立つ。とくに $$d=\mathbb{1}*\mathbb{1}, \sigma=\mathbb{1}*[x]$$ が成り立つ。
つぎの一般的な定理が成り立つ。
定理 1
$2$つの数論的関数 $f(N), g(N)$ について $$f*g=e$$ となるとき、 $$f*a=b\Longleftrightarrow a=g*b$$ が成り立つ。
Proof.
$b=f*a$ ならば $$g*b=g*(f*a)=(g*f)*a=\bbe *a=a$$ となる。また $a=g*b$ ならば $$f*a=f*(g*b)=(f*g)*b=\bbe *b=b$$ となる。
□定義から $$\mathbb{1}*\mu=\bbe$$ となるので、次のMobiusの第1反転公式が得られる。
定理 2 (Mobiusの第1反転公式)
数論的関数 $f(N)$ に対し、 $$g(N)=\sum_{d\mid N}f(d)$$ により、$g(N)$ を定めると $$f(N)=\sum_{d\mid N}\mu(d)g(d)$$ が成り立つ。また、この逆もいえる。
Proof.
定理 1より $$\mathbb{1}*f=g\Longleftrightarrow f=\mu*g$$ から、すぐにわかる。
□例 2
von-Mangoldt関数 $\Lambda(n)$ を $n=p^e$ が素数のべきであるとき $\log p$, それ以外のとき $0$ をとる関数と定めると $$\mathbb{1}*\Lambda=\log$$ となる。実際 $n=\prod_{i=1}^r p_i^{e_i}$ と素因数分解すると $$\begin{split} \mathbb{1}*\Lambda(n)= & \sum_{d\mid n}\Lambda(n)=\sum_{p^e\mid n}\log p \\ = & \sum_{i=1}^r \sum_{e=1}^{e_i}\log p_i=\sum_{i=1}^r e_i\log p_i=\log n \end{split}$$ となる。よって $$\Lambda=\mu*\log$$ つまり $$\Lambda(n)=\sum_{d\mid n}\mu(d)\log\frac{n}{d}$$ が成り立つ。
また、次の定理も重要である。
定理 3
$f, g$ が乗法的関数ならば $f*g$ も乗法的関数である。
Proof.
$N=p_1^{e_1} p_2^{e_2} \cdots p_r^{e_r}$ と素因数分解すると $$\begin{split} (f*g)(N)= & \sum_{d\mid N}f(N/d) g(d) \\ = & \sum_{0\leq f_i\leq e_i (1\leq i\leq k)} f(p_1^{e_1-f_1}p_2^{e_2-f_2}\cdots p_k^{e_k-f_k})g(p_1^{f_1}p_2^{f_2}\cdots p_k^{f_k}) \\ = & \sum_{0\leq f_i\leq e_i (1\leq i\leq k)} \prod_{i=1}^k f(p_i^{e_i-f_i})g(p_i^{f_i}) \\ = & \prod_{i=1}^k \sum_{f_i=0}^{e_i} f(p_i^{e_i-f_i})g(p_i^{f_i}) \\ = & \prod_{i=1}^k (f*g)(p_i^{e_i}) \end{split}$$ となるので、$f*g$ も乗法的関数である。
□この定理は数論的関数:定理4.4を含んでいる。実際、すべての整数 $N$ に対して $g(N)=1$ となる関数 $g$ は乗法的関数だから、 $f$ が乗法的関数ならば $h(N)=\sum_{d\mid N}f(N)$ により定義される関数 $h$ も乗法的関数である。
Dirichlet級数との関係
$$\sum_{n=1}^\infty \frac{f(n)}{n^s}$$ の形の級数を数論的関数 $f(n)$ のDirichlet級数といい、このDirichlet級数であらわされる $s$ の関数を $f(n)$ の生成関数という。
例 3
たとえば $1$ を $n=1$ 以外の係数が $0$ のDirichlet級数とみると、これは $\bbe$ の生成関数である。またRiemannの $\zeta$関数 $\zeta(s)$ は$\mathbb{1}$ の生成関数である。
次の定理は、数論的関数の接合積がDirichlet級数の乗法と対応していることを示している。
定理 4
$s$ を複素数とする。 $\sum_{n=1}^\infty f(n)/n^s$, $\sum_{n=1}^\infty g(n)/n^s$ がともに絶対収束するとき、 $h=f*g$ とおくと $\sum_{n=1}^\infty h(n)/n^s$ も絶対収束し、 $$\sum_{n=1}^\infty\frac{h(n)}{n^s}=\left(\sum_{n=1}^\infty\frac{f(n)}{n^s}\right)\left(\sum_{n=1}^\infty\frac{g(n)}{n^s}\right).$$
Proof.
$\sum_{n=1}^\infty f(n)/n^s$, $\sum_{n=1}^\infty g(n)/n^s$ がともに絶対収束するので $$\left(\sum_{d=1}^M\abs{\frac{f(d)}{d^s}}\right)\left(\sum_{m=1}^M\abs{\frac{g(m)}{m^s}}\right)\rightarrow \left(\sum_{d=1}^\infty \abs{\frac{f(d)}{d^s}}\right)\left(\sum_{m=1}^\infty \abs{\frac{g(m)}{m^s}}\right)\ (M\rightarrow\infty)$$ が成り立つ。よって任意の $\epsilon>0$ に対して、$M$ が十分大きいとき $$\abs{\left(\sum_{d=1}^\infty \abs{\frac{f(d)}{d^s}}\right)\left(\sum_{m=1}^\infty \abs{\frac{g(m)}{m^s}}\right)-\left(\sum_{d=1}^M\abs{\frac{f(d)}{d^s}}\right)\left(\sum_{m=1}^M\abs{\frac{g(m)}{m^s}}\right)}<\epsilon$$ が成り立つ。
任意の $\epsilon>0$ に対して、上記のように整数 $M$ をとると、$N>M^2$ のとき $$\begin{split} \sum_{n=1}^N \frac{h(n)}{n^s}= & \sum_{n=1}^N \sum_{d\mid n}\frac{f(d)g(n/d)}{n^s} \\ = & \sum_{n=1}^N \sum_{n=dm}\frac{f(d)}{d^s}\times\frac{g(m)}{m^s} \\ = & \sum_{d\geq 1, m\geq 1, dm\leq N}\frac{f(d)}{d^s}\times\frac{g(m)}{m^s} \end{split}$$ となるが、 $$\begin{split} & \abs{\left(\sum_{d=1}^\infty \frac{f(d)}{d^s}\right)\left(\sum_{m=1}^\infty \frac{g(m)}{m^s}\right) -\left(\sum_{d\geq 1, m\geq 1, dm\leq N}\frac{f(d)}{d^s}\times\frac{g(m)}{m^s}\right)} \\ & \qquad \leq \sum_{dm>N}\abs{\frac{f(d)}{d^s}\times\frac{g(m)}{m^s}} \\ & \qquad \leq \abs{\left(\sum_{d=1}^\infty \abs{\frac{f(d)}{d^s}}\right)\left(\sum_{m=1}^\infty \abs{\frac{g(m)}{m^s}}\right)-\left(\sum_{d=1}^M \abs{\frac{f(d)}{d^s}}\right)\left(\sum_{m=1}^M \abs{\frac{g(m)}{m^s}}\right)} \\ & \qquad <\epsilon \end{split}$$ となるから、 $$\begin{split} \sum_{n=1}^\infty \frac{h(n)}{n^s}= & \lim_{N\rightarrow\infty}\left(\sum_{d\geq 1, m\geq 1, dm\leq N}\frac{f(d)}{d^s}\times\frac{g(m)}{m^s}\right) \\ = & \left(\sum_{n=1}^\infty\frac{f(n)}{n^s}\right)\left(\sum_{n=1}^\infty\frac{g(n)}{n^s}\right) \end{split}$$ となる。
□例 4
$$F(s)=\sum_{n=1}^\infty\frac{\mu(n)}{n^s}$$ とおくと、$\abs{\mu(n)}\leq 1$ であるから、 $F(s)$, $\zeta(s)$ はともに $\mathrm{Re} s>1$ で絶対収束する。 $\mu*\mathbb{1}=\bbe$ であるから、定理 4より $\mathrm{Re} s>1$ で $$F(s)\zeta(s)=1$$ つまり $$\frac{1}{\zeta(s)}=\sum_{n=1}^\infty\frac{\mu(n)}{n^s}$$ が成り立つ。
$\zeta(s)$ は $s=1$ に$1$位の極をもち、その他の点で正則な関数に解析接続される。よって $F(s)$ であらわされる関数は $\zeta(s)$ の零点において極をもち、その他の点で正則な関数 $G(s)$ に解析接続される。
ただし、 $0<\mathrm{Re} s\leq 1$ となる $s$ について $$G(s)=\sum_{n=1}^\infty\frac{\mu(n)}{n^s}$$ と級数表示できるかは($\zeta(s)\neq 0$ となる $s$ に対しても)自明ではなく、$\mathrm{Re} s\leq 0$ のときは、右辺が(通常の意味でも)収束しないため、このような級数表示は成り立たない。 たとえば $$G(1)=\lim_{s\rightarrow 1}\frac{1}{\zeta(s)}=0$$ は明らかだが、 $$F(1)=\sum_{n=1}^\infty\frac{\mu(n)}{n}=G(1)=0$$ となるかは自明ではない。結論から言えば $\sum_n \mu(n)/n=0$ は成り立つが、これは素数定理と同値であることが知られている。
参考文献
Hardy and E. M. Wright, An Introduction to the Theory of Numbers, 6th Ed. revised by D. R. Heath-Brown and J. H. Silverman, Oxford University Press, 2008, Chapter 16.
D. P. Parent, Exercices des théorie des nombres, BORDAS, 1978, English translation: Exercises in Number Theory, Springer-Verlag, 1984, 日本語訳「数論問題ゼミ (1)」(訳:村田玲音)、シュプリンガー・フェアラーク東京、1987, Chapter 1, Introduction も参照。