弦理論
この記事では,ボソン弦理論の基本的な解析力学についてまとめる. ボソン弦理論というのは,基本的には量子力学の1+1次元バージョンであり,それを相対論的にしたようなものである. D次元ミンコフスキー空間$\mathbb{R}^{1,D-1}$上の弦の運動を考える.
南部後藤作用
導入
質量$m$の相対論的な点粒子(1+0次元的物体)の作用汎関数は, その粒子の測地線の長さで与えられていた: $$ S=-m\int ds.$$ このアナロジーで, 相対論的な弦(1+1次元的な物体)の作用汎関数は, その弦の軌跡(世界面という)の面積で与えられる, とするのが南部後藤作用である: $$S_{NG}[X]=-\frac{1}{4\pi\alpha^\prime} \int d\tau d\sigma \sqrt{-h(X)}. $$
ただし $h_{ab}$は$\mathbb{R}^{1,D-1}$のミンコフスキー計量から誘導される世界面上の計量とし, $h$はその行列式である: $$h_{ab}=\partial_a X^\mu \partial_b X_\mu,~ h=\det h_{ab}.$$
対称性
この作用は,次のような2種類の変換に関する対称性を持つ. 1つ目は, 世界面上の微分同相変換: $$ (\tau,\sigma)\mapsto (\tau^\prime(\tau,\sigma), \sigma^\prime(\tau,\sigma)).$$ 2つ目は, $\mathbb{R}^{1,D-1}$上のポアンカレ変換(等長変換のこと): $$X^\mu\mapsto \Lambda^{\mu}_{\nu}X^{\nu}+a^\mu.$$
ポリャコフ作用
南部後藤作用は$X$について2次ではないため,経路積分に適さない(経路積分とは大雑把に言ってガウス積分の無限次元版である). そこでラグランジュの未定乗数法を用いて, $S_{NG}$を次のように書き換えたものをポリャコフ作用という: $$ S_P[X,\gamma]=-\frac{1}{2\pi\alpha^\prime}\int d\tau d\sigma \sqrt{-\gamma}\gamma^{ab}\partial_a X^\mu \partial_b X_\mu.$$ ただし, 未定乗数法により, $S_P[X,\gamma]$の $\gamma$についての変分はゼロである: $$ \frac{\delta S_P[X,\gamma]}{\delta \gamma^{ab}}=0.$$ この条件から, 先の $h_{ab}$との次のような関係が導かれる: $$ \sqrt{-\gamma}\gamma^{ab}=\sqrt{-h}h^{ab}.$$
ワイル対称性
ポリャコフ作用は,南部後藤作用にはない次のような変換に関する対称性がある:
$$\gamma_{ab}\rightarrow e^{\omega(\tau,\sigma)}\gamma_{ab}$$ ここで, $\omega(\tau,\sigma)$は $\tau,\sigma$に関する任意の関数. この変換をワイル変換といい, この対称性をワイル対称性という. このワイル対称性により, 世界面上の場の理論は, 共形場理論と呼ばれる著しい性質を持つ理論になる.