圏論の展開
この記事は、圏論についてのいくつかのトピックを解説することを目的としている。
On the classes of monomorphisms and epimorphisms
モノ射もしくはエピ射のなかでも、特に性質のよいものに着目することは、圏論における議論のなかでしばしば行われる。そこで、このセクションにおいてはそのような性質のよいもののクラスを導入し、また一般論を述べる。
モノ射についての議論は、原則としてエピ射についての議論の双対として得られるため、本記事においてはエピ射の解説に重点をおく。
epimorphism に関する述語
定義 1 (epimorphism)
圏 $\mathcal{C}$ の射 $f\colon a\to b$ がepimorphismであるとは、任意の対象 $c$ について $f$ によって誘導される集合の写像 $$\mathrm{Hom}(f,c) \colon \mathrm{Hom}(b,c) \to \mathrm{Hom}(a,c) $$ が単射であることを指していう。また、圏 $\mathcal{C}$ のepimorphismのクラスを $\mathrm{Epi}(\mathcal{C})$ と表記する。
定義 2 (extremal epimorphism)
圏 $\mathcal{C}$ の射 $f$ がextremal epimorphismであるとは、$f$ がepimorphismであって、かつ射分解 $f=m\circ g$ であって $m$ がmonomorphismであるようなものが取れたとき、$m$ がisomorphismとなることをいう。 \begin{xy} \xymatrix { \cdot \ar[r]^{g} & \cdot \ar[r]^{m} & \cdot \ar@{}[r]|{=} & f } \end{xy} また、圏 $\mathcal{C}$ のextremal epimorphismのクラスを $\mathrm{ExtrEpi}(\mathcal{C})$ と表記する。
定義 3 (strong epimorphism)
圏 $\mathcal{C}$ の射 $f$ がstrong epimorphismであるとは、$f$ がepimorphismであって、monomorphism $m$ と任意の図式 \begin{xy} \xymatrix { \cdot \ar[d]_{f} \ar[r] & \cdot \ar[d]_{m} \\ \cdot \ar[r] & \cdot } \end{xy} について、射 $l$ であって \begin{xy} \xymatrix { \cdot \ar[d]_{f} \ar[r] & \cdot \ar[d]_{m} \\ \cdot \ar[r] \ar@{.>}[ru]^{l} & \cdot } \end{xy} を可換にするものが存在することをいう。また、圏 $\mathcal{C}$ のstrong epimorphismのクラスを $\mathrm{StrongEpi}(\mathcal{C})$ と表記する。
定義 4 (strict epimorphism)
圏 $\mathcal{C}$ の射 $f$ について射の組 $(g, h)$ であって $f \circ g = f\circ h$ が成り立つようなものを、一時的に(指定されたdef \label=def:strict_epiは未宣言の定理環境です。 のなかで) $f$-pair とよぶことにする。
任意の $f$-pair $(g,h)$ について $k \circ g=k\circ h$ が成り立つような射 $k$ が存在したとき、$k = t\circ f$ なる $t$ が一意的に存在したとする。このとき $f$ をstrict epimorphismであるという。 \begin{xy} \xymatrix { \cdot \ar@<0.5ex>[r]^-{g} \ar@<-0.5ex>[r]_-{h} & \cdot \ar[r]^{f} \ar[dr]^{k} & \cdot \ar@{.>}[d]^{\exists! t} \\ & & \cdot } \end{xy} また、圏 $\mathcal{C}$ のstrict epimorphismのクラスを $\mathrm{StrictEpi}(\mathcal{C})$ と表記する。
定義 5 (regular epimorphism)
圏 $\mathcal{C}$ の射 $f$ がstrict epimorphismであるとは、射 $g$, $h$ であって以下の図式 \begin{xy} \xymatrix { \cdot \ar@<0.5ex>[r]^-g \ar@<-0.5ex>[r]_-h & \cdot \ar[r]^f & \cdot } \end{xy} がコイコライザ図式となるようなものが存在することをいう。また、圏 $\mathcal{C}$ のregular epimorphismのクラスを $\mathrm{RegEpi}(\mathcal{C})$ と表記する。
定義 6 (effective epimorphism)
圏 $\mathcal{C}$ の射 $f\colon a\to b$ がeffective epimorphismであるとは、以下の引き戻し図式 \begin{xy} \xymatrix { a\times_b a \ar[d]_{p_1} \ar[r]^{p_2} & a \ar[d]_{f} \\ a \ar[r]^{f} & b } \end{xy} が存在して、かつ \begin{xy} \xymatrix { a\times_b a \ar@<0.5ex>[r]^-{p_1} \ar@<-0.5ex>[r]_-{p_2} & a \ar[r]^{f} & b } \end{xy} がコイコライザ図式となることをいう。また、圏 $\mathcal{C}$ のeffective epimorphismのクラスを $\mathrm{EffEpi}(\mathcal{C})$ と表記する。
定義 7 (split epimorphism)
圏 $\mathcal{C}$ の射 $f$ がsplit epimorphismであるとは、$f\circ g$ が恒等射となるような射 $g$ が存在することをいう。また、圏 $\mathcal{C}$ のsplit epimorphismのクラスを $\mathrm{SplitEpi}(\mathcal{C})$ と表記する。
圏論的操作における安定性
命題 8 ($\mathrm{Epi}$ と合成)
圏 $\mathcal{C}$ の射 $f\colon a\to b$, $g\colon b\to c$ について、$g\circ f$ はepimorphismである。
証明
圏 $\mathcal{C}$ の対象 $d$ について、集合の写像 $ \mathrm{Hom}(g\circ f,d)\colon \mathrm{Hom}(c,d)\to \mathrm{Hom}(a,d)$ は、$\mathrm{Hom}(g,d)\circ \mathrm{Hom}(f,d)$ と一致するが、これは単射である。よって $g\circ f$ はepimorphismである。□
命題 9 ($\mathrm{Epi}$ と恒等射)
圏 $\mathcal{C}$ の対象 $a$ について、恒等射 $\mathrm{id}_a\colon a\to a$ はepimorphismである。
証明
圏 $\mathcal{C}$ の対象 $d$ について、集合の写像 $ \mathrm{Hom}(\mathrm{id}_a,d)\colon \mathrm{Hom}(a,d)\to \mathrm{Hom}(a,d)$ は、$\mathrm{Hom}(a,d)$ 上の恒等写像である。よって $\mathrm{id}_a$ はepimorphismである。□
定理 10 (epi性の同値条件)
圏 $\mathcal{C}$ の射 $f\colon a\to b$ について、以下は同値である。
- $f$ はepimorphism
- 以下の図式 \begin{xy} \xymatrix { a \ar[d]_{f} \ar[r]^{f} & b \ar[d]_{\mathrm{id}_b} \\ b \ar[r]^{\mathrm{id}_b} & b } \end{xy} は押し出し図式
証明
- 1. $\Rightarrow$ 2. について
\begin{xy} \xymatrix { a \ar[d]_{f} \ar[r]^{f} & b \ar@/^/[ddr]^{g} & \\ b \ar@/_/[drr]_{h} & &\\ & & c } \end{xy} なる可換図式が存在したとき、$g\circ f=h\circ f$ が成り立つが、$f$ のepi性より $g=h$ が成り立つ。よって \begin{xy} \xymatrix { a \ar[d]_{f} \ar[r]^{f} & b \ar[d]_{\mathrm{id}_b} \ar@/^/[ddr]^{g} & \\ b \ar[r]^{\mathrm{id}_b} \ar@/_/[drr]_{h} & b \ar@{.>}[dr]|{k} &\\ & & c } \end{xy} を可換にするような $k$ は $g=h$ ただひとつである。よって \begin{xy} \xymatrix { a \ar[d]_{f} \ar[r]^{f} & b \ar[d]_{\mathrm{id}_b} \\ b \ar[r]^{\mathrm{id}_b} & b } \end{xy} は押し出し図式である。
- 2. $\Rightarrow$ 1. について
$g\circ f=h\circ f$ なる $g,h\colon b\to c$ が存在したならば \begin{xy} \xymatrix { a \ar[d]_{f} \ar[r]^{f} & b \ar@/^/[ddr]^{g} & \\ b \ar@/_/[drr]_{h} & &\\ & & c } \end{xy} は可換図式となる。よって \begin{xy} \xymatrix { a \ar[d]_{f} \ar[r]^{f} & b \ar[d]_{\mathrm{id}_b} \ar@/^/[ddr]^{g} & \\ b \ar[r]^{\mathrm{id}_b} \ar@/_/[drr]_{h} & b \ar@{.>}[dr]|{k} &\\ & & c } \end{xy} を可換にするような $k$ が存在するが、明らかに $g=k=h$ が成り立つ。よって $f$ はepimorphismである。
命題 11 (epiの射分解)
圏 $\mathcal{C}$ のepimorphism $e\colon a\to b$ について、$f\colon a\to c$, $g\colon c\to b$ によって $e=g\circ f$ と $e$ の射分解を行ったとき、$g$ はepimorphismである。
証明
射 $h,k\colon b\to d$ であって $h\circ g=k\circ g$ なるものを取る。このとき、$e=g\circ f$ はepimorphismであるため、$h\circ e=k\circ e$ から $h=k$ が従う。よって $g$ はepimorphismである。□
命題 12 (押し出し安定性)
圏 $\mathcal{C}$ の射 $f\colon a\to b$ と任意の射 $g\colon a\to c$ について、$f$ の $g$ による押し出し $\tilde{f}:c\to b\coprod_a c$ はepimorphismである。
証明
押し出し図式 \begin{xy} \xymatrix { a \ar[d]_{f} \ar[r]^{g} & c \ar[d]_{\tilde{f}} \\ b \ar[r]^-{\tilde{g}} & b\coprod_a c } \end{xy} が存在したとする。このとき、誘導される図式 \begin{xy} \xymatrix { \mathrm{Hom}(a,d) & \mathrm{Hom}(c,d) \ar[l]_{\mathrm{Hom}(g,d)} \\ \mathrm{Hom}(b,d) \ar[u]^{\mathrm{Hom}(f,d)} & \mathrm{Hom}(b\coprod_a c,d) \ar[u]^{\mathrm{Hom}(\tilde{f},d)} \ar[l]_-{\mathrm{Hom}(\tilde{g},d)} } \end{xy}
は引き戻し図式である。このとき、$\mathsf{Set}$ において単射の引き戻しは単射であるので、$\mathrm{Hom}(\tilde{f},d)$ は任意の対象 $d$ について単射となる。よって $\tilde{f}$ はepimorphismである。□クラスの包含関係
観察 13 ($\mathrm{ExtrEpi}\subset \mathrm{Epi}$)
射がextremal epimorphismであることの条件のひとつにepimorphismであることを課しているため、$\mathrm{ExtrEpi}\subset \mathrm{Epi}$ であることは明らかである。
観察 14 (イコライザを持つ圏において)
定義 2 において $f$ がepimorphismであることを要請したが、イコライザを持つ圏においてはこの仮定は直接的には不要となる。実際、$g\circ f=h\circ f$ なる $g$, $h$ について $g$ と $h$ のイコライザ $m$ を取ると、$f=m\circ f'$ と射分解できる。 \begin{xy} \xymatrix { \cdot \ar[dr]^f \ar@{.>}[d]_{f'} & & \\ \cdot \ar[r]^m & \cdot \ar@<0.5ex>[r]^-g \ar@<-0.5ex>[r]_-h & \cdot } \end{xy} ここで、イコライザとしてあらわれる射はmonomorphismであるため、$f$ の仮定より $m$ はisomorphismとなる。$g\circ m=h\circ m$ より、$g=h$ が成り立つ。よって $f$ はepimorphismである。
命題 15 ($\mathrm{StrongEpi}\subset \mathrm{ExtrEpi}$)
圏 $\mathcal{C}$ の射 $f$ がstrong epimorphismであるならば、extremal epimorphismである。
証明
strong epimorphism $f$ について、$f=m\circ g$ なる射分解であって $m$ がmonomorphismであるものを取れたとする。このとき \begin{xy} \xymatrix { \cdot \ar[d]_{m\circ g} \ar[r]^{g} & \cdot \ar[d]_{m} \\ \cdot \ar[r]^{\mathrm{id}} \ar@{.>}[ru]^{l} & \cdot } \end{xy}
を可換にする $l$ が存在する。よって、$m\circ l=\mathrm{id}$ が成り立つ。このとき、$m \circ l \circ m =m\circ \mathrm{id}$ であるため、$m$ のmono性から $l\circ m=\mathrm{id}$ が成り立つ。従って $m$ はisomorphismである。$f$ のepi性については定義より明らか。□観察 16 (イコライザを持つ圏において)
観察 14 の議論を鑑みると、イコライザを持つ圏において、strong epimorphismの定義に $f$ の直接的なepi性の要請は不要であることがわかる。
((dummy subsection))
true desire