リーマン沈め込み
リーマン多様体に等長変換群(のLie部分群)が作用しているとき、その作用の軌道空間がリーマン多様体となることがしばしばある。
このようにリーマン多様体の対称性を利用してより次元の低いリーマン多様体を作る操作を一般化したものがリーマン沈め込みである。
リーマン沈め込みはR.HermannやB.O'Neillなどが1960年ぐらいから研究し始めたが12、物理ではT.KaluzaやO.Kleinが1920年代に部分的に研究していた34。
総合的なリーマン沈め込みの教科書として5がある。
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リーマン沈め込みの定義
2つの擬リーマン多様体 $(M,g),(B,g_\ast)$ に対して、滑らかな全射 $\pi:M\to B$ が沈め込み (Submersion) であるとは、$M$ の任意の点において $\pi_\ast$ のランクが最大となることである。 陰関数の定理より $q\in B$ に対して、ファイバー $\pi^{-1}(q)$ は ${\rm dim}M-{\rm dim}B$ 次元の閉部分多様体である。 さらに全てのファイバーに誘導される計量は非退化であり、各ファイバーは擬リーマン部分多様体であると仮定する。
このとき、接分布 $\mathcal{V}$ を $$ M\ni p\mapsto \mathcal{V}_p:=\ker \pi_\ast(p) $$ と定義し、垂直分布 (vertical distribution) と呼ぶ。 $M$ の各点 $p$ に対して、接空間を $T_pM=\mathcal{V}_p\oplus \mathcal{H}_p$ と直交直和分解するとき、接分布 $\mathcal{H}$ を $$ M\ni p\mapsto \mathcal{H}_p $$ と定義し、水平分布 (Horizontal distribution) と呼ぶ。 準同型定理より、ベクトル空間としての同型 $\mathcal{H}_p\cong T_{\pi(p)}B$ が成り立つ。
任意の $p\in M$ に対して、計量ベクトル空間としての同型 $$ \pi_\ast|_{H_p}:(\mathcal{H}_p,g|_{\mathcal{H}_p})\to (T_{\pi(p)}B,(g_\ast)_{\pi(p)}) $$ が成り立つとき、$\pi$ をリーマン沈め込み (Riemannian submersion) という。
リーマン沈め込みの例
垂直ベクトル場、水平ベクトル場、基本ベクトル場
リーマン沈め込みにより関係付けられる2つのリーマン多様体間の種々の場や量の関係を計算するために、リーマン沈め込みと適合したベクトル場を考えると便利である。このようなベクトル場として垂直ベクトル場、水平ベクトル場、基本ベクトル場の3つのベクトル場を導入する。 この記事を通じて $M$ 上のベクトル場の全体を $\chi(M)$、$B$ 上のベクトル場の全体を $\chi(B)$ と表す。
リーマン沈め込みを $\pi:(M,g)\to(B,g_\ast)$ とする。垂直ベクトル場 (vertical vector field) とは垂直分布 $\mathcal{V}\subset TM$ の切断のことである。 垂直ベクトル場の全体を $\chi^v(M)$ と表す。 垂直分布 $\mathcal{V}$ はFrobenius可積分であるから $\chi^v(M)$ は $\chi(M)$ の部分Lie環をなす。
水平分布 $\mathcal{H}$ の切断を水平ベクトル場 (horizontal vector field)と呼び、$\chi^h(M)$ と表す。$\mathcal{H}$ はFrobenius可積分とは限らないから $\chi(M)$ の部分Lie環になるとは限らない。
$p\in M$ に対して、$T_pM=\mathcal{V}_p\oplus\mathcal{H}_p$ と直交直和分解できるから、$X\in\chi(M)$ のこの分解に関する成分を $X={}^vX+{}^hX$ と書くことにする。
$\chi(M)$ の元である $\chi(B)$ の元と $\pi$-関連となるものの全体を $\chi^\pi(M)$ で表す。 すなわち、ある $X_\ast\in\chi(B)$ があり、$\pi_\ast X=X_\ast$ となるような $X\in\chi(M)$ の全体である。
例 1 ($\pi$-関連ベクトル場の例)
リーマン沈め込み $\pi:\mathbb{R}^3\ni(x,y,z)\mapsto(x,y)\in\mathbb{R}^2$ に対して、$X=z\partial_x$ は $\pi$-関連ではない。 なぜなら $p_1=(x,y,z_1),\ p_2=(x,y,z_2),\ z_1\ne z_2$ に対して、$\pi_\ast|_{p_1}(X_{p_1})\ne \pi_\ast|_{p_2}(X_{p_2})$ となるからである。 一方、$Y=y\partial_x$ は $\pi$-関連である。$\square$
$\chi^b(M):=\chi^h(M)\cap\chi^\pi(M)$ の元を基本ベクトル場 (basic vector field) と呼ぶ。 $X_\ast\in\chi(B)$ に対して、$X_\ast$ と $\pi$-関連となる $M$ の基本ベクトル場を $X_\ast$ の水平リフト (horizontal lift) と呼ぶ。 基本ベクトル場と垂直ベクトル場はリーマン沈め込みの種々の幾何学的な量を計算する上で重要な役割を果たす。
次の命題は基本ベクトル場に関する基本的な事実である。
命題 2
$\pi:(M,g)\to(B,g_\ast)$ をリーマン沈め込みとし、$\nabla^M,\nabla^B$ をそれぞれ $g,g_\ast$ に関するリーマン接続とする。 $X,Y\in\chi^b(M)$ に対して、$X_\ast=\pi_\ast X,Y_\ast=\pi_\ast Y$ とするとき、次が成り立つ。
(1) $g(X,Y)=\pi^\ast(g_\ast(X_\ast,Y_\ast))$
(2) ${}^h[X,Y]$ は $[X_\ast,Y_\ast]$ の水平リフトである。
(3) ${}^h(\nabla^M_XY)$ は $\nabla^B_{X_\ast}Y_\ast$ の水平リフトである。
(4) 任意の垂直ベクトル場 $\xi$ に対して、$[\xi,X]\in\chi^v(M)$ である。
Proof.
(1) リーマン沈め込みの定義より明らかである。
(2) $[X,Y]$ は $[X_\ast,Y_\ast]$ と $\pi$-関連であることから従う。
(3) $Z\in\chi^b(M),Z_\ast=\pi_\ast Z$ とすると、Koszulの公式より、$2g(\nabla^M_XY,Z)=Xg(Y,Z)+Yg(X,Z)-Zg(X,Y)+g([X,Y],Z)+g([Z,X],Y)-g([Y,Z],X)$ であり、右辺は各ファイバー上で一定の値 $2g_\ast(\nabla^B_{X_\ast}Y_\ast,Z_\ast)$ を取る。 $Z_\ast$ は任意であり、$\pi_\ast|_{\mathcal{H}}$ は同型写像であることから主張が従う。
(4) $\pi_\ast[\xi,X]=[\pi_\ast \xi,\pi_\ast X]=[0,\pi_\ast X]=0$ なので、$[\xi,X]\in\ker\pi_\ast=\chi^v(M)$ である。 $\square$
□基本テンソル場とSchouten接続
リーマン沈め込み $\pi$ の全空間 $(M,g)$ のリーマン接続による共変微分を計算する際に、水平方向と垂直方向を分離して計算したい。そのために有用なのが基本テンソル場とSchouten接続 (スカウテン接続) である。 先の節では $(M,g)$ のリーマン接続を $\nabla^M$ と書いたが、数式が煩雑になるのでこの節では単に $\nabla$ と書く。
定義 3 (基本テンソル場)
$M$ 上の $(1,2)$-型テンソル場 $T,A$ を次のように定義する。 $$ \begin{align} T_EF&={}^h(\nabla_{{}^vE}{}^vF)+{}^v(\nabla_{{}^vE}{}^hF),\\ A_EF&={}^h(\nabla_{{}^hE}{}^vF)+{}^v(\nabla_{{}^hE}{}^hF),\\ &E,F\in\chi(M) \end{align} $$ これらを基本テンソル場 (fundamental tensor field) と呼ぶ。
また後で述べるが、 $A$ は水平分布がFrobenius可積分性となるときには0となるので、可積分テンソル場 (integrability tensor field) とも呼ばれることがある。
基本テンソル場 $T,A$ の正規直交フレームに関する表示も理解のために有用である。$\{e_i\}$ を垂直分布のの正規直交フレーム場、$\{e_p\}$ を水平分布の正規直交フレームとすると、$\{e_i,e_p\}$ は $M$ の正規直交フレームである。 このフレームに関して、リーマン接続の接続形式が $$ \omega^M=\begin{pmatrix}\omega^i_j & \omega^i_q \\ \omega^p_j & \omega^p_q\end{pmatrix} $$ で与えられているとすると、$T,A$ は定義より、 $$ \begin{align} T&=\begin{pmatrix}0 & {}^v(\omega^i_q) \\ {}^v(\omega^p_j) & 0\end{pmatrix},\\ A&=\begin{pmatrix}0 & {}^h(\omega^i_q) \\ {}^h(\omega^p_j) & 0\end{pmatrix} \end{align} $$ となる。 ここで、1形式 $\eta$ の垂直成分 ${}^v\eta$ は ${}^v\eta(X):=\eta({}^vX)$ と定義される。水平成分 ${}^h\eta$ も同様である。
定義 4 (Schouten接続)
$M$ 上の接続 $\hat\nabla$ を $$ \begin{align} \hat\nabla_EF={}^h(\nabla_E{}^hF)+{}^v(\nabla_E{}^vF),&\\ E,F\in\chi(M)&, \end{align} $$ と定義する。 これをSchouten接続と呼ぶ。
Schouten接続は垂直分布に制限して考えれば、各ファイバーをリーマン部分多様体と見なすときのリーマン接続である。また基本テンソル $T$ はファイバーに制限すれば、定義より、第二基本形式である。
$T,A$ に関する基本的な性質は以下である。
補題 5
$\nabla=\hat\nabla+T+A$
Proof.
$$ \begin{align} \nabla_EF&={}^h(\nabla_EF)+{}^v(\nabla_EF)\\ &={}^h(\nabla_{E}{}^hF)+{}^h(\nabla_{E}{}^vF)\\ &+{}^v(\nabla_{E}{}^hF)+{}^v(\nabla_{E}{}^vF)\\ &={}^h(\nabla_{E}{}^hF)+{}^h(\nabla_{{}^hE}{}^vF)+{}^h(\nabla_{{}^vE}{}^vF)\\ &+{}^v(\nabla_{{}^hE}{}^hF)+{}^v(\nabla_{{}^vE}{}^hF)+{}^v(\nabla_{E}{}^vF)\\ &=\hat\nabla_EF+T_EF+A_EF \end{align} $$ $\square$
□
補題 6
$$ \begin{align} g(T_EF,G)+g(F,T_EG)=0,&\\ g(A_EF,G)+g(F,A_EG)=0,&\\ E,F,G\in \chi(M)&. \end{align} $$
Proof.
$T$ についてのみ示す。$A$ についても同様である。 $$ \begin{align} g(T_EF,G)&=g({}^h\nabla_{{}^vE}{}^vF,{}^hG)+g({}^v\nabla_{{}^vE}{}^hF,{}^vG)\\ &=g(\nabla_{{}^vE}{}^vF,{}^hG)+g(\nabla_{{}^vE}{}^hF,{}^vG)\\ &=-g({}^vF,\nabla_{{}^vE}{}^hG)-g({}^hF,\nabla_{{}^vE}{}^vG)\\ &=-g({}^vF,{}^v\nabla_{{}^vE}{}^hG)-g({}^hF,{}^h\nabla_{{}^vE}{}^vG)\\ &=-g(F,T_E{}^hG)-g(F,T_E{}^vG)\\ &=-g(F,T_EG) \end{align} $$ $\square$
□補題 7
$\xi,\nu\in\chi^v(M),\ X,Y\in\chi^h(M)$ に対して、 $$ \begin{align} &T_\xi\nu=T_\nu\xi,\\ &A_XY=-A_YX=\frac{1}{2}{}^v[X,Y], \end{align} $$ が成り立つ。
Proof.
$T_\xi\nu={}^h(\nabla_\xi \nu)={}^h(\nabla_\nu\xi +[\xi ,\nu])={}^h(\nabla_\nu\xi )=T_\nu\xi .$
任意の $\xi \in\chi^v(M)$ に対して、$g(A_XX,\xi )=g(\nabla_XX,\xi )=-g(X,\nabla_X\xi )=-g(X,\nabla_\xi X+[X,\xi ])=-\frac{1}{2}\xi (g(X,X))$ であり、$g(X,X)$ は各ファイバー上で一定であるから、$g(A_XX,\xi )=0$ となる。 よって、$A_XY+A_YX=0$ である。 また $2A_XY=A_XY-A_YX={}^v(\nabla_XY-\nabla_YX)={}^v[X,Y]$ となる。 $\square$
□この補題より直ちに次が成り立つ。
系 8
水平分布がFrobenius可積分であることと、$A=0$ は同値である。
いくつかの重要な補題
ここではしばしば有効に使われるいくつかの補題を述べる。
補題 9
$X_\ast,Y_\ast\in\chi(B)$ と $B$ の小さい開近傍 $U$ に対して、$X,Y\in\chi^b(\pi^{-1}(U))$ で $\pi_\ast X=X_\ast,\ \pi_\ast Y=Y_\ast$ かつ $[X,Y]\in\chi^v(\pi^{-1}(U))$ となるものが存在する。
Proof.
$U$ の座標系を $\{x^i\}$ とする。 $U\ni p$ に対して、$\pi^{-1}(p)$ の座標系を $\{y^q\}$ とする。 このとき、$\{x^i,y^q\}$ を $\pi^{-1}(U)$ 上の関数に適当に拡張することで座標系にすることができる。 さらに $\{x^i\}$ を適当に定めることで、$X_\ast=\partial_{x^j},\ Y_\ast=\partial_{x^k}$ となっているとしてよい。 よって、$X=\partial_j+X^q(y)\partial_q,\ Y=\partial_k+Y^r(y)\partial_r$ となるから、$[X,Y]=\partial_jY^r\partial_r-\partial_kY^q\partial_q\in\chi^v(\pi^{-1}(U))$ となる。 $\square$
□
補題 10
$X,Y,Z\in\chi^b(M),\nu\in\chi^v(M)$ に対して、 $$ \mathfrak{S}_{XYZ}[g((\nabla_ZA)_XY,\nu)]=\mathfrak{S}_{XYZ}[g(A_XY,T_\nu Z)] $$ が成り立つ。 ここで、$X,Y,Z$ に関する数式 $f(X,Y,Z)$ に対して、$\mathfrak{S}_{XYZ}[f(X,Y,Z)]=f(X,Y,Z)+f(Y,Z,X)+f(Z,X,Y)$ である。
Proof.
補題9より $ [X,Y]=2A_XY$ とできるから $$ \begin{align} \frac{1}{2}g([[X,Y],Z]],\nu)&=g([A_XY,Z],\nu)=g(\nabla_{A_XY}Z,\nu)-g(\nabla_ZA_XY,\nu)\\ &=-g(Z,T_{A_XY}\nu)-g(\nabla_ZA_XY,\nu)=-g(Z,T_\nu A_XY)-g(\nabla_ZA_XY,\nu)\\ &=g(T_\nu Z,A_XY)-g(\nabla_ZA_XY,\nu) \end{align} $$ であり、Lie環のJacobi恒等式より $$ \mathfrak{S}_{XYZ}[g(T_\nu Z,A_XY)]=\mathfrak{S}_{XYZ}[g(\nabla_ZA_XY,\nu)] $$ となる。 さらに $$ \begin{align} g(\nabla_Z(A_XY),\nu)-g((\nabla_ZA)_XY,\nu)&=g(A_{\nabla_ZX}Y,\nu)+g(A_X\nabla_ZY,\nu)\\ &=-g(A_Y{}^h(\nabla_ZX),\nu)+g(A_X\nabla_ZY,\nu)\\ &=-g(A_Y(\nabla_XZ+[Z,X]),\nu)+g(A_X\nabla_ZY,\nu)\\ &=-g(A_Y\nabla_XZ,\nu)+g(A_X\nabla_ZY,\nu) \end{align} $$ となるから、 $$ \begin{align} &\mathfrak{S}_{XYZ}[g(\nabla_Z(A_XY),\nu)-g((\nabla_ZA)_XY,\nu)]\\ &=-g(A_Y\nabla_XZ,\nu)+g(A_X\nabla_ZY,\nu)\\ &\ -g(A_Z\nabla_YX,\nu)+g(A_Y\nabla_XZ,\nu)\\ &\ -g(A_X\nabla_ZY,\nu)+g(A_Z\nabla_YX,\nu)=0 \end{align} $$ となる。 よって $ \mathfrak{S}_{XYZ}[g(T_\nu Z,A_XY)]=\mathfrak{S}_{XYZ}[g(\nabla_ZA_XY,\nu)]=\mathfrak{S}_{XYZ}[g((\nabla_ZA)_XY,\nu)]$ が得られる。
$\square$
□補題 11
$X,Y,Z\in\chi^b(M),\nu,\zeta\in\chi^v(M)$ に対して、 $$ \begin{align} (1)\ g((\nabla_XA)_YZ,\nu)&=-g((\nabla_XA)_ZY,\nu)\\ (2)\ g((\nabla_\nu A)_X\zeta,Y)&= -g((\nabla_\nu A)_XY,\zeta) \end{align} $$ となる。
Proof.
(1)
$g((\nabla_XA)_YY,\nu)=0$ を示せば良い。 単純な計算により $$ \begin{align} g((\nabla_XA)_YY,\nu)&=g(\nabla_X(A_YY)-A_{\nabla_XY}Y-A_Y\nabla_XY,\nu)=-g(A_{{}^h\nabla_XY}Y,\nu)-g(A_Y\nabla_XY,\nu)\\ &=g(A_Y{}^h\nabla_XY,\nu)-g(A_Y\nabla_XY,\nu)=0 \end{align} $$ となる。
(2) $$ \begin{align} g((\nabla_\nu A)_X\zeta ,Y)&=g(\nabla_\nu (A_X\zeta ),Y)-g(A_{\nabla_\nu X}\zeta ,Y)-g(A_X\nabla_\nu \zeta ,Y)\\ &=g(\nabla_\nu (A_X\zeta ),Y)+g(\zeta ,A_{\nabla_\nu X}Y)+g(\nabla_\nu \zeta ,A_XY) \end{align} $$ であり、さらに $g(\nabla_\nu (A_X\zeta ),Y)$ に以下を代入すれば主張が従う。 $$ \begin{align} g(\nabla_\nu (A_X\zeta ),Y)&=\nu g(A_X\zeta ,Y)-g(A_X\zeta ,\nabla_\nu Y) =\nu g(\nabla_X\zeta ,Y)-g(A_X\zeta ,\nabla_\nu Y)\\ &=-\nu g(\zeta ,\nabla_XY)+g(\zeta ,A_X\nabla_\nu Y) =-\nu g(\zeta ,A_XY)+g(\zeta ,A_X\nabla_\nu Y)\\ &=-g(\nabla_\nu \zeta ,A_XY)-g(\zeta ,\nabla_\nu A_XY)+g(\zeta ,A_X\nabla_\nu Y)\\ &=-g(\nabla_\nu \zeta ,A_XY)-g(\zeta ,(\nabla_\nu A)_XY)-g(\zeta ,A_{\nabla_\nu X}Y) \end{align} $$ $\square$
□以下では $(\nabla_XA)_YZ$ などを $(\nabla_XA)(Y,Z)$ などとも書く。
曲率の分解
リーマン沈め込み $\pi:(M,g)\to(B,h)$ に関して、全空間 $(M,g)$ の曲率と底空間 $(B,h)$ の曲率の関係を考えることができる。 $(M,g)$ の曲率を $(B,h)$ の曲率と基本テンソル $A,T$ により表すことができ、$(M,g)$ の曲率のリーマン沈め込み $\pi$ に関する分解とも呼ばれる。
$(M,g)$ のリーマン接続を $\nabla$ とし、そのリーマン曲率テンソルを $$ \begin{align} R^M(E,F)G=\nabla_E\nabla_FG-\nabla_F\nabla_EG-\nabla_{[E,F]}G,\ \ E,F,G\in\chi(M) \end{align} $$ とする。また $(B,h)$ のリーマン曲率テンソルを $R^B$ とするとき、$X,Y,Z\in\chi^b(M)$ に対して、$R^B(\pi_\ast X,\pi_\ast Y)\pi_\ast Z$ の水平リフトを $R^B_\ast(X,Y)Z$ と書くことにする。 さらに、各ファイバーを $M$ の部分リーマン多様体と見なしたときのリーマン曲率テンソルは $\hat R$ と書くことにする。 Schouten接続を $\hat\nabla$ とするとき、 $$ \begin{align} \hat{R}(u,v)w=\hat\nabla_u\hat\nabla_vw-\hat\nabla_v\hat\nabla_uw-\hat\nabla_{[u,v]}w,\ \ u,v,w\in\chi^v(M) \end{align} $$ である。
リーマン曲率テンソルの分解
$(M,g)$ のリーマン曲率テンソルは次のように分解される。
命題 12
$X,Y,Z,W\in\chi^b(M),\ \xi,\nu,\zeta,\eta\in\chi^v(M)$ に対して、 $$ \begin{align} (1)&\ R(\xi,\nu,\eta,\zeta)=\hat R(\xi,\nu,\eta,\zeta)+g(T_\nu \zeta,T_\xi \eta)-g(T_\xi \zeta,T_\nu \eta),\\ (2)&\ R(\xi,\nu,\zeta,X)=g((\nabla_\xi T)(\nu,\zeta),X)-g((\nabla_\nu T)(\xi,\zeta),X),\\ (3)&\ R(X,Y,Z,W)=R^B_\ast(X,Y,Z,W)-g(A_YZ,A_XW)+g(A_XZ,A_YW)+2g(A_XY,A_ZW),\\ (4)&\ R(X,Y,Z,\nu)=g(A_YZ,T_\nu X)+g(A_ZX,T_\nu Y)-g((\nabla_ZA)(X,Y),\nu)-g(A_XY,T_\nu Z),\\ (5)&\ R(X,\nu,Y,\zeta)=-g((\nabla_XT)(\nu,\zeta),Y)-g((\nabla_\nu A)(X,Y),\zeta)+g(T_\nu X,T_wY)-g(A_X\nu,A_Y\zeta),\\ (6)&\ R(X,Y,\nu,\zeta)=g((\nabla_\zeta A)(X,Y),\nu)-g((\nabla_\nu A)(X,Y),\zeta)+g(A_X\zeta,A_Y\nu)-g(A_X\nu,A_Y\zeta)+g(T_\nu X,T_\zeta Y)-g(T_\zeta X,T_\nu Y), \end{align} $$ が成り立つ。
(1) $R(\xi,\nu,\eta,\zeta)=\hat R(\xi,\nu,\eta,\zeta)+g(T_\nu \zeta,T_\xi \eta)-g(T_\xi \zeta,T_\nu \eta)$ の証明
Proof.
この式はリーマン部分多様体に関するガウスの方程式そのものである。 $$ \begin{align} R(\xi,\nu,\eta,\zeta)&=g(\nabla_\xi\nabla_\nu\eta-\nabla_\nu\nabla_\xi\eta-\nabla_{[\xi,\nu]}\eta,\zeta)\\ &=g(\nabla_\xi\hat\nabla_\nu\eta,\zeta)+g(\nabla_\xi T_\nu\eta,\zeta)\\ &-g(\nabla_\nu\hat\nabla_\xi\eta,\zeta)-g(\nabla_\nu T_\xi\eta,\zeta)\\ &-g(\hat\nabla_{[\xi,\nu]}\eta,\zeta)\\ &=g(\hat\nabla_\xi\hat\nabla_\nu\eta,\zeta)-g(T_\nu\eta,T_\xi\zeta)\\ &-g(\hat\nabla_\nu\hat\nabla_\xi\eta,\zeta)+g(T_\xi\eta,T_\nu\zeta)\\ &-g(\hat\nabla_{[\xi,\nu]}\eta,\zeta)\\ &=\hat R(\xi,\nu,\eta,\zeta)+g(T_\xi\eta,T_\nu\zeta)-g(T_\nu\eta,T_\xi\zeta) \end{align} $$ $\square$
□(2) $R(\xi,\nu,\zeta,X)=g((\nabla_\xi T)(\nu,\zeta),X)-g((\nabla_\nu T)(\xi,\zeta),X)$ の証明
Proof.
$ R(\xi,\nu,\zeta,X)=g(\nabla_\xi\nabla_\nu \zeta,X)-g(\nabla_\nu\nabla_\xi \zeta,X)-g(\nabla_{[\xi,\nu]}\zeta,X)$ である。 それぞれの項を計算すると、 $$ \begin{align} g(\nabla_\xi\nabla_\nu \zeta,X)& =g(\nabla_\xi(\hat\nabla_\nu w+T_\nu \zeta),X) =g(T_\xi(\hat\nabla_\nu \zeta),X)+g(\nabla_\xi(T_\nu \zeta),X) =g(T_\xi(\nabla_\nu \zeta),X)+g(\nabla_\xi(T_\nu \zeta),X),\\ -g(\nabla_\nu\nabla_\xi \zeta,X)& =-g(T_\nu(\nabla_\xi \zeta),X)-g(\nabla_\nu(T_\xi \zeta),X),\\ -g(\nabla_{[\xi,\nu]}\zeta,X)& =-g(\nabla_{\nabla_\xi \nu}\zeta,X)+g(\nabla_{\nabla_\nu\xi}\zeta,X) =-g(T_{\nabla_\xi \nu}\zeta,X)-g(A_{\nabla_\xi \nu}\zeta,X)+g(T_{\nabla_\nu\xi}\zeta,X)+g(A_{\nabla_\nu\xi}\zeta,X)\\ &=-g(T_{\nabla_\xi \nu}\zeta,X)-g(A_{\nabla_\xi \nu}\zeta,X)+g(T_{\nabla_\nu\xi}\zeta,X)+g(A_{\nabla_\xi \nu}\zeta,X) =-g(T_{\nabla_\xi \nu}\zeta,X)+g(T_{\nabla_\nu\xi}\zeta,X), \end{align} $$ となる。 途中で $g(A_{\nabla_\xi \nu}\zeta,X)=g(\nabla_{{}^h\nabla_\xi \nu}\zeta,X)=g(\nabla_{{}^h\nabla_\nu\xi}\zeta,X)+g(\nabla_{{}^h[\xi,\nu]}\zeta,X)=g(A_{\nabla_\nu\xi}\zeta,X)$ を使った。 よって $$ \begin{align} R(\xi,\nu,\zeta,X)&=g(T_\xi(\nabla_\nu \zeta),X)+g(\nabla_\xi(T_\nu \zeta),X)-g(T_\nu(\nabla_\xi \zeta),X)-g(\nabla_\nu(T_\xi \zeta),X)-g(T_{\nabla_\xi \nu}\zeta,X)+g(T_{\nabla_\nu\xi}\zeta,X)\\ &=g((\nabla_\xi T)_\nu\zeta,X)-g((\nabla_\nu T)_\xi \zeta,X) \end{align} $$ $\square$
□(3) $R(X,Y,Z,W)=R^B_\ast(X,Y,Z,W)-g(A_YZ,A_XW)+g(A_XZ,A_YW)+2g(A_XY,A_ZW)$ の証明
Proof.
証明すべき式はテンソル場に関する式であるから、補題9より $[X,Y]\in\chi^v(M)$ と仮定してよい。 補題7より $2A_XY={}^v[X,Y]=[X,Y]\in\chi^v(M)$ である。 また任意の $\xi\in\chi^v(M)$ に対して、${}^h\nabla_\xi X={}^h(\nabla_X\xi+[\xi,X])=A_X\xi$ が成り立つことを使うと、 $$ \begin{align} \nabla_{[X,Y]}Z&={}^h\nabla_{[X,Y]}Z+T_{[X,Y]}Z=2{}^h\nabla_{A_XY}Z+2T_{A_XY}Z=2A_ZA_XY+2T_{A_XY}Z \end{align} $$ となる。 また $$ \begin{align} \nabla_X\nabla_YZ=\nabla_X(\hat\nabla_YZ+A_YZ)=\hat\nabla_X\hat\nabla_YZ+A_X\hat\nabla_YZ+{}^v\nabla_XA_YZ+A_XA_YZ\\ \nabla_Y\nabla_XZ=\nabla_Y(\hat\nabla_XZ+A_XZ)=\hat\nabla_Y\hat\nabla_XZ+A_Y\hat\nabla_XZ+{}^v\nabla_YA_XZ+A_YA_XZ \end{align} $$ である。 よって $$ \begin{align} {}^hR(X,Y)Z&=[\hat\nabla_X,\hat\nabla_Y]Z+A_XA_YZ-A_YA_XZ-2A_ZA_XY,\\ {}^vR(X,Y)Z&=A_X\hat\nabla_YZ-A_Y\hat\nabla_XZ+{}^v\nabla_XA_YZ-{}^v\nabla_YA_XZ-2T_{A_XY}Z \end{align} $$ である。 また $$ \begin{align} R^B_\ast(X,Y)Z=[\hat\nabla_X,\hat\nabla_Y]Z-\hat\nabla_{{}^h[X,Y]}Z=[\hat\nabla_X,\hat\nabla_Y]Z \end{align} $$ であるから、 $$ \begin{align} {}^hR(X,Y)Z=R^B_\ast(X,Y)Z+A_XA_YZ-A_YA_XZ-2A_ZA_XY \end{align} $$ となる。 よって $$ \begin{align} R(X,Y,Z,W)=R^B_\ast(X,Y,Z,W)-g(A_YZ,A_XW)+g(A_XZ,A_YW)+2g(A_XY,A_ZW) \end{align} $$ が得られる。 $\square$
□(4) $R(X,Y,Z,\nu)=g(A_YZ,T_\nu X)+g(A_ZX,T_\nu Y)-g((\nabla_ZA)(X,Y),\nu)-g(A_XY,T_\nu Z)$ の証明
Proof.
一つ上の公式の証明より $$ {}^vR(X,Y)Z=A_X\hat\nabla_YZ-A_Y\hat\nabla_XZ+{}^v\nabla_XA_YZ-{}^v\nabla_YA_XZ-2T_{A_XY}Z $$ である。 また $$ g(T_{A_XY}Z,\nu)=-g(Z,T_{A_XY}\nu)=-g(Z,T_\nu A_XY)=g(T_\nu Z,A_XY) $$ であり、 $$ \begin{align} &g(\nabla_XA_YZ,\nu)-g(\nabla_YA_XZ,\nu)\\ &=g((\nabla_XA)_YZ,\nu)-g((\nabla_YA)_XZ,\nu)+g(A_{[X,Y]}Z,\nu)+g(A_Y\nabla_XZ,\nu)-g(A_X\nabla_YZ,\nu)\\ &=g((\nabla_XA)_YZ,\nu)-g((\nabla_YA)_XZ,\nu)+g(A_Y\nabla_XZ,\nu)-g(A_X\nabla_YZ,\nu) \end{align} $$ である。 ただし、最後の等号では $X,Y\in\chi^b(M)$ を $[X,Y]\in\chi^v(M)$ を満たすように取っていることを仮定した。 よって $$ \begin{align} g(R(X,Y)Z,\nu)&=g(A_X\hat\nabla_YZ,\nu)-g(A_Y\hat\nabla_XZ,\nu)+g(\nabla_XA_YZ,\nu)\\ &-g(\nabla_YA_XZ,\nu)-2g(T_{A_XY}Z,\nu)\\ &=g(A_X\hat\nabla_YZ,\nu)-g(A_Y\hat\nabla_XZ,\nu)+g((\nabla_XA)_YZ,\nu)\\ &-g((\nabla_YA)_XZ,\nu)+g(A_Y\nabla_XZ,\nu)-g(A_X\nabla_YZ,\nu)-2g(T_\nu Z,A_XY)\\ &=g((\nabla_XA)_YZ,\nu)-g((\nabla_YA)_XZ,\nu)-2g(T_\nu Z,A_XY)\\ &=g((\nabla_XA)_YZ,\nu)+g((\nabla_YA)_ZX,\nu)-2g(T_\nu Z,A_XY) \end{align} $$ である。 ここで、最後の等号には補題11を使った。 さらに最後の式は、補題10より $$ \begin{align} &g((\nabla_XA)_YZ,\nu)+g((\nabla_YA)_ZX,\nu)-2g(T_\nu Z,A_XY)\\ &=g(A_XY,T_\nu Z)+g(A_YZ,T_\nu X)+g(A_ZX,T_\nu Y)-g((\nabla_ZA)_XY,\nu)-2g(T_\nu Z,A_XY)\\ &=-g(A_XY,T_\nu Z)+g(A_YZ,T_\nu X)+g(A_ZX,T_\nu Y)-g((\nabla_ZA)_XY,\nu) \end{align} $$ となる。 $\square$
□(5) $R(X,\nu,Y,\zeta)=-g((\nabla_XT)(\nu,\zeta),Y)-g((\nabla_\nu A)(X,Y),\zeta)+g(T_\nu X,T_wY)-g(A_X\nu,A_Y\zeta)$ の証明
Proof.
$$ \begin{align} g(\nabla_X\nabla_\nu \zeta,Y)&=g(\nabla_X(T_\nu \zeta+\hat\nabla_\nu \zeta),Y)=g(\nabla_XT_\nu \zeta,Y)+g(A_X\hat\nabla_\nu \zeta,Y)\\ g(\nabla_\nu \nabla_X\zeta,Y)&=g(\nabla_\nu (A_X\zeta+\hat\nabla_X\zeta),Y)=g(\hat\nabla_\nu A_X\zeta,Y)+g(T_\nu \hat\nabla_X\zeta,Y)\\ g(\nabla_{[X,\nu]}\zeta,Y)&=g(\nabla_{{}^v\nabla_X\nu }\zeta+\nabla_{A_X\nu }\zeta-\nabla_{T_\nu X}\zeta-\nabla_{A_X\nu }\zeta,Y)\\ &=g(T_{\nabla_X\nu }\zeta,Y)+g(A_{A_X\nu }\zeta,Y)-g(T_{T_\nu X}\zeta,Y)-g(A_{A_X\nu }\zeta,Y) \end{align} $$ であるから、 $$ \begin{align} R(X,\nu ,\zeta,Y)&=g(\nabla_XT_\nu \zeta ,Y)+g(A_X\hat\nabla_\nu \zeta ,Y)-g(\hat\nabla_\nu A_X\zeta ,Y)-g(T_\nu \hat\nabla_X\zeta ,Y)\\ &-g(T_{\nabla_X\nu }\zeta ,Y)-g(A_{A_X\nu }\zeta ,Y)+g(T_{T_\nu X}\zeta ,Y)+g(A_{A_X\nu }\zeta ,Y)\\ &=g((\nabla_XT)_\nu \zeta ,Y)+g(A_X\hat\nabla_\nu \zeta ,Y)-g(\hat\nabla_\nu A_X\zeta ,Y)-g(A_{A_X\nu }\zeta ,Y)+g(T_{T_\nu X}\zeta ,Y)+g(A_{A_X\nu }\zeta ,Y)\\ &=g((\nabla_XT)_\nu \zeta ,Y)-g((\nabla_\nu A)_X\zeta ,Y)-g(A_{\nabla_\nu X}\zeta ,Y)-g(A_{A_X\nu }\zeta ,Y)+g(T_\zeta T_\nu X,Y)+g(A_{A_X\nu }\zeta ,Y)\\ &=g((\nabla_XT)_\nu \zeta ,Y)-g((\nabla_\nu A)_X\zeta ,Y)-g(A_{A_X\nu }\zeta ,Y)-g(T_\nu X,T_\zeta Y) \end{align} $$ ここで $g(A_{A_X\nu }\zeta ,Y)=-g(\zeta ,A_{A_X\nu }Y)=g(\zeta ,A_YA_X\nu )=-g(A_Y\zeta ,A_X\nu )$ を使うと、 $$ \begin{align} R(X,\nu ,\zeta,Y)=g((\nabla_XT)_\nu \zeta ,Y)-g((\nabla_\nu A)_X\zeta ,Y)+g(A_Y\zeta ,A_X\nu )-g(T_\nu X,T_\zeta Y) \end{align} $$ となる。 これに補題11を使うと主張が従う。 $\square$
□
(6) $R(X,Y,\nu,\zeta)=g((\nabla_\zeta A)(X,Y),\nu)-g((\nabla_\nu A)(X,Y),\zeta)+g(A_X\zeta,A_Y\nu)-g(A_X\nu,A_Y\zeta)+g(T_\nu X,T_\zeta Y)-g(T_\zeta X,T_\nu Y)$ の証明
Proof.
(5)の公式より $$ \begin{align} R(X,\nu ,Y,\zeta )&=-g((\nabla_XT)(\nu ,\zeta ),Y)-g((\nabla_\nu A)(X,Y),\zeta )+g(T_\nu X,T_\zeta Y)-g(A_X\nu ,A_Y\zeta )\\ R(Y,\zeta ,X,\nu )&=-g((\nabla_YT)(\zeta ,\nu ),X)-g((\nabla_\zeta A)(Y,X),\nu )+g(T_\nu X,T_\zeta Y)-g(A_X\nu ,A_Y\zeta ) \end{align} $$ となり、リーマンテンソルの対称性からこれらは等しい。 よって $$ g((\nabla_XT)(\nu ,\zeta ),Y)+g((\nabla_\nu A)(X,Y),\zeta )=g((\nabla_YT)(\zeta ,\nu ),X)+g((\nabla_\zeta A)(Y,X),\nu )\cdots(\ast) $$ が得られる。
リーマンテンソルの第1Bianchi恒等式と(5)の公式を使えば $$ \begin{align} R(X,Y,\nu ,\zeta )&=R(X,\nu ,Y,\zeta )-R(Y,\nu ,X,\zeta )\\ &=-g((\nabla_XT)(\nu ,\zeta ),Y)-g((\nabla_\nu A)(X,Y),\zeta )+g(T_\nu X,T_\zeta Y)-g(A_X\nu ,A_Y\zeta )\\ &+g((\nabla_YT)(\nu ,\zeta ),X)+g((\nabla_\nu A)(Y,X),\zeta )-g(T_\nu Y,T_\zeta X)+g(A_Y\nu ,A_X\zeta ) \end{align} $$ であるから、主張を示すためには $$ \begin{align} &-g((\nabla_XT)(\nu ,\zeta ),Y)-g((\nabla_\nu A)(X,Y),\zeta )+g((\nabla_YT)(\nu ,\zeta ),X)+g((\nabla_\nu A)(Y,X),\zeta )\\ &=g((\nabla_\zeta A)(X,Y),\nu )-g((\nabla_\nu A)(X,Y),\zeta ) \end{align} $$ を示せば良いが、$(\ast)$ よりこの式が成り立つことが直ちに分かる。 $\square$
□断面曲率の分解
リーマン曲率テンソルの分解公式により断面曲率の分解公式が得られる。 $(M,g)$ の断面曲率を $K$ と表し、各ファイバーをリーマン部分多様体と見なしたときの断面曲率を $\hat K$ と表す。 また $(B,h)$ の断面曲率を $K^B$ とし、その引き戻しを $K^B_\ast:=\pi^\ast K^B$ と書くことにする。 このとき次が成り立つ。
命題 13
$\nu,\xi\in\chi^v(M),\ X,Y\in\chi^h(M)$ に対して、次が成り立つ。 $$ \begin{align} (1)&\ K(\nu ,\xi )=\hat K(\nu ,\xi )+\frac{||T_\nu \xi ||^2-g(T_\nu \nu ,T_\xi \xi )}{||\nu \wedge \xi ||^2}\\ (2)&\ K(X,\nu )||X||^2 ||\nu ||^2=g((\nabla_XT)(\nu ,\nu ),X)-||T_\nu X||^2+||A_X\nu ||^2\\ (3)&\ K(X,Y)=K^B_\ast(X,Y)-\frac{3||A_XY||^2}{||X\wedge Y||^2}\\ \end{align} $$ ここで、$||X\wedge Y||^2=||X||^2||Y||^2-g(X,Y)^2$ などである。
(1) $K(\nu ,\xi )=\hat K(\nu ,\xi )+\frac{||T_\nu \xi ||^2-g(T_\nu \nu ,T_\xi \xi )}{||\nu \wedge \xi ||^2}$ の証明
Proof.
命題12の(1) $$ R(\xi,\nu,\eta,\zeta)=\hat R(\xi,\nu,\eta,\zeta)+g(T_\nu \zeta,T_\xi \eta)-g(T_\xi \zeta,T_\nu \eta) $$ より $$ K(\nu ,\xi )||\nu \wedge \xi ||^2=R(\nu ,\xi ,\xi ,\nu )=\hat R(\nu ,\xi ,\xi ,\nu )+g(T_\xi \nu ,T_\nu \xi )-g(T_\nu \nu ,T_\xi \xi ) $$ であるから、 $$ K(\nu ,\xi )=\hat K(\nu ,\xi )+\frac{||T_\nu \xi ||^2-g(T_\nu \nu ,T_\xi \xi )}{||\nu \wedge \xi ||^2} $$ を得る。 $\square$
□(2) $K(X,\nu )||X||^2 ||\nu ||^2=g((\nabla_XT)(\nu ,\nu ),X)-||T_\nu X||^2+||A_X\nu ||^2$ の証明
Proof.
命題12(5) $$ R(X,\nu,Y,\zeta)=-g((\nabla_XT)(\nu,\zeta),Y)-g((\nabla_\nu A)(X,Y),\zeta)+g(T_\nu X,T_wY)-g(A_X\nu,A_Y\zeta) $$ より $$ \begin{align} K(X,\nu )||X\wedge \nu ||^2&=-R(X,\nu ,X,\nu )=g((\nabla_XT)(\nu ,\nu ),X)+g((\nabla_\nu A)(X,X),\nu )-g(T_\nu X,T_\nu X)+g(A_X\nu ,A_X\nu )\\ &=g((\nabla_XT)(\nu ,\nu ),X)-||T_\nu X||^2+||A_X\nu ||^2 \end{align} $$ $\square$
□(3) $K(X,Y)=K_\ast(X,Y)-\frac{3||A_XY||^2}{||X\wedge Y||^2}$ の証明
Proof.
命題12(3) $$ R(X,Y,Z,W)=R^B_\ast(X,Y,Z,W)-g(A_YZ,A_XW)+g(A_XZ,A_YW)+2g(A_XY,A_ZW) $$ より $$ \begin{align} K(X,Y)||X\wedge Y||^2&=R(X,Y,Y,X)=R^B_\ast(X,Y,Y,X)-g(A_YY,A_XX)+g(A_XY,A_YX)+2g(A_XY,A_YX)\\ &=R^B_\ast(X,Y,Y,X)-3||A_XY||^2 \end{align} $$ $\square$
□リッチテンソルの分解
リーマン曲率テンソルの分解公式よりリッチテンソルの分解公式が得られる。 垂直分布 $\mathcal{V}$ の正規直交基底を $\{\nu_p\}$ とし、水平分布 $\mathcal{H}$ の正規直交基底を $\{X_i\}$ とする。 さらに、$\epsilon_p=||\nu_p||^2=\pm1,\ \epsilon_i=||X_i||^2=\pm1$ とおく。 またファイバーをリーマン部分多様体とみなしたときのリッチテンソルは $\hat {\rm R}{\rm ic}$ と書き、ファイバーの平均曲率ベクトルを $$ H=\sum_p\epsilon_pT_{\nu_p}\nu_p $$ と書き、$(B,h)$ のリッチテンソル ${\rm Ric}^B$ の引き戻しを $$ {\rm Ric}^B_\ast(X,Y):=\sum_i\epsilon_i g(R^B_\ast(X_i,X)Y,X_i) $$ と書くことにする。
命題 14
$\nu,\xi\in\chi^v(M),\ X,Y\in\chi^b(M)$ に対して、次が成り立つ。 $$ \begin{align} (1)&\ {\rm Ric}(\nu ,\xi )=\hat {\rm R}{\rm ic}(\nu ,\xi )-g(H,T_\nu \xi )+\sum_i\epsilon_i g((\nabla_{X_i}T)(\nu ,\xi ),{X_i})+\sum_i\epsilon_ig(A_{X_i}\nu ,A_{X_i}\xi )\\ (2)&\ {\rm Ric}(X,Y)={\rm Ric}_\ast(X,Y)+\frac{1}{2}(g(\nabla_XH,Y)+g(\nabla_YH,X))-\sum_p\epsilon_p g(T_{\nu_p }X,T_{\nu_p }Y)-2\sum_i\epsilon_ig(A_XX_i,A_YX_i)\\ (3)&\ {\rm Ric}(X,\nu )=g(\nabla_\nu H,X)-\sum_p\epsilon_p g((\nabla_{\nu_p }T)(\nu ,\nu_p ),X)+\sum_i\epsilon_i g((\nabla_{X_i}A)(X_i,X),\nu )-2\sum_i\epsilon_ig(A_X{X_i},T_\nu X_i) \end{align} $$
(1) ${\rm Ric}(\nu ,\xi )=\hat {\rm R}{\rm ic}(\nu ,\xi )-g(H,T_\nu \xi )+\sum_i\epsilon_i g((\nabla_{X_i}T)(\nu ,\xi ),{X_i})+\sum_i\epsilon_ig(A_{X_i}\nu ,A_{X_i}\xi )$ の証明
Proof.
$$ \begin{align} Ric(\nu ,\xi )&=\sum_p\epsilon_p R(\nu_p ,\nu ,\xi ,\nu_p )-\sum_i\epsilon_i R(X_i,\nu ,X_i,\xi )\\ &=\sum_p\epsilon_p \hat R(\nu_p ,\nu ,\xi ,\nu_p )+\sum_p\epsilon_p g(T_\nu \nu_p ,T_{\nu_p }\xi )-\sum_p\epsilon_p g(T_{\nu_p }\nu_p ,T_\nu \xi )\\ &+\sum_i\epsilon_ig((\nabla_{X_i}T)(\nu ,\xi ),{X_i})+\sum_i\epsilon_ig((\nabla_\nu A)({X_i},{X_i}),\xi )-\sum_i\epsilon_ig(T_\nu {X_i},T_\xi {X_i})+\sum_i\epsilon_ig(A_{X_i}\nu ,A_{X_i}\xi )\\ &=\hat Ric(\nu ,\xi )-g(H,T_\nu \xi )+\sum_i\epsilon_ig((\nabla_{X_i}T)(\nu ,\xi ),{X_i})+\sum_i\epsilon_ig(A_{X_i}\nu ,A_{X_i}\xi )\\ &+\sum_p\epsilon_p g(T_\nu \nu_p ,T_\xi {\nu_p })-\sum_i\epsilon_ig(T_\nu {X_i},T_\xi {X_i}) \end{align} $$ である。 ここで $$ \sum_p\epsilon_pg(T_\nu \nu_p,T_\xi {n_p})=\sum_{p,i}\epsilon_p\epsilon_ig(T_\xi \nu_p,X_i)g(T_\nu \nu_p,X_i)=\sum_{p,i}\epsilon_p\epsilon_ig(\nu_p,T_\xi X_i)g(\nu_p,T_\nu X_i)=\sum_{i}\epsilon_ig(T_\xi X_i,T_\nu X_i) $$ であるから、上の式に代入すれば主張が従う。 $\square$
□(2) ${\rm Ric}(X,Y)={\rm Ric}_\ast(X,Y)+\frac{1}{2}(g(\nabla_XH,Y)+g(\nabla_YH,X))-\sum_p\epsilon_p g(T_{\nu_p }X,T_{\nu_p }Y)-2\sum_i\epsilon_ig(A_XX_i,A_YX_i)$ の証明
Proof.
命題13(1),(2)を使うと、$X\in\chi^h(M)$ に対して、 $$ \begin{align} Ric(X,X)&=\epsilon_p R(\nu_p ,X,X,\nu_p )+\epsilon_iR(X_i,X,X,X_i)\\ &=\sum_p||X||^2K(\nu_p ,X)+\sum_i\epsilon_iK(X,X_i)||X\wedge X_i||^2\\ &=\sum_p\epsilon_p (g((\nabla_XT)({\nu_p },{\nu_p }),X)-||T_{\nu_p }X||^2+||A_X{\nu_p }||^2)\\ &+\sum_i(\epsilon_iK^B_\ast(X,X_i)||X\wedge X_i||^2-3\epsilon_i||A_XX_i||^2)\\ &=\sum_p\epsilon_p (g((\nabla_XT)({\nu_p },{\nu_p }),X)-||T_{\nu_p }X||^2+||A_X{\nu_p }||^2)\\ &+Ric_\ast(X,X)-3\sum_i\epsilon_i||A_XX_i||^2 \end{align} $$ である。 さらに $$ \sum_p\epsilon_p ||A_X{\nu_p }||^2=\sum_{i,p}\epsilon_p \epsilon_ig(A_X\nu_p ,X_i)g(A_X\nu_p ,X_i)=\sum_{p,i}\epsilon_p \epsilon_ig(\nu_p ,A_XX_i)g(\nu_p ,A_XX_i)=\sum_i\epsilon_{i}\epsilon_i||A_XX_i||^2 $$ であるから、 $$ Ric(X,X)=Ric_\ast(X,X)+\sum_p\epsilon_p g((\nabla_XT)({\nu_p },{\nu_p }),X)-\sum_p\epsilon_p ||T_{\nu_p }X||^2-2\sum_i\epsilon_i||A_XX_i||^2 $$ となる。 さらに $$ \begin{align} \sum_pg((\nabla_XT)({\nu_p },{\nu_p }),X)&=\sum_pg(\nabla_XH,X)-\sum_pg(T_{\nabla_X\nu_p }\nu_p ,X)-\sum_pg(T_{\nu_p }{\nabla_X\nu_p },X)\\ &=g(\nabla_XH,X)+2\sum_pg(T_{\nu_p }X,\nabla_X\nu_p )\\ &=g(\nabla_XH,X)+2\sum_{p,q}g(T_{\nu_p }X,\nu_q )g(\nu_q ,\nabla_X\nu_p )\\ &=g(\nabla_XH,X) \end{align} $$ となるから、 $$ Ric(X,X)=Ric_\ast(X,X)+g(\nabla_XH,X)-\sum_p\epsilon_p ||T_{\nu_p }X||^2-2\sum_i\epsilon_i||A_XX_i||^2 $$ が得られる。 よって $$ \begin{align} 2Ric(X,Y)&=Ric(X+Y,X+Y)-Ric(X,X)-Ric(Y,Y)\\ &=2Ric_\ast(X,Y)+g(\nabla_XH,Y)+g(\nabla_YH,X)-2\sum_p\epsilon_p g(T_{\nu_p }X,T_{\nu_p }Y)-4\sum_i\epsilon_ig(A_XX_i,A_YX_i) \end{align} $$ となる。 $\square$
□(3) ${\rm Ric}(X,\nu )=g(\nabla_\nu H,X)-\sum_p\epsilon_p g((\nabla_{\nu_p }T)(\nu ,\nu_p ),X)+\sum_i\epsilon_i g((\nabla_{X_i}A)(X_i,X),\nu )-2\sum_i\epsilon_ig(A_X{X_i},T_\nu X_i)$ の証明
Proof.
命題12の(2),(4) $$ \begin{align} (2)&\ R(\xi,\nu,\zeta,X)=g((\nabla_\xi T)(\nu,\zeta),X)-g((\nabla_\nu T)(\xi,\zeta),X),\\ (4)&\ R(X,Y,Z,\nu)=g(A_YZ,T_\nu X)+g(A_ZX,T_\nu Y)-g((\nabla_ZA)(X,Y),\nu)-g(A_XY,T_\nu Z) \end{align} $$ を使う。 $$ \begin{align} Ric(X,\nu )&=\epsilon_p R(\nu_p ,X,\nu ,\nu_p )+\epsilon_iR(X_i,X,\nu ,X_i)\\ &=\epsilon_p R(\nu ,\nu_p ,\nu_p ,X)-\epsilon_iR(X_i,X,X_i,\nu )\\ &=\epsilon_p g((\nabla_\nu T)(\nu_p ,\nu_p ),X)-\epsilon_p g((\nabla_{\nu_p }T)(\nu ,\nu_p ),X)\\ &-\epsilon_ig(A_XX_i,T_\nu X_i)-\epsilon_ig(A_{X_i}X_i,T_\nu X)+\epsilon_ig((\nabla_{X_i}A)(X_i,X),\nu )+\epsilon_ig(A_{X_i}X,T_\nu X_i)\\ &=\epsilon_p g((\nabla_\nu T)(\nu_p ,\nu_p ),X)-\epsilon_p g((\nabla_{\nu_p }T)(\nu ,\nu_p ),X)+\epsilon_ig((\nabla_{X_i}A)(X_i,X),\nu )-2\epsilon_ig(A_X{X_i},T_\nu X_i) \end{align} $$ であり、(2)の証明と全く同様に $$ \sum_pg((\nabla_XT)({n_p},{n_p}),X)=g(\nabla_XH,X) $$ が成り立つから $$ Ric(X,\nu )=g(\nabla_\nu H,X)-\epsilon_p g((\nabla_{\nu_p }T)(\nu ,\nu_p ),X)+\epsilon_ig((\nabla_{X_i}A)(X_i,X),\nu )-2\epsilon_ig(A_X{X_i},T_\nu X_i) $$ を得る。 $\square$
□Killingベクトル場の軌道に関する分解
上記の公式において $T,A$ などのテンソル場の明示的な表示はリーマン沈め込みのより詳細な情報に依存している。 しかし、Killingベクトル場の軌道に関する分解については明示的な表示をある程度一般的に与えることができる。
$(M,g)$ を擬リーマン多様体とし、$\xi$ をKillingベクトル場とする。 $p,q\in M$ が $\xi$ のある一つの積分曲線上に存在するとき、$p\sim q$ と同値関係を定めると商空間 $M/\xi$ を $\xi$ の軌道空間と呼ぶ。 $M/\xi$ は多様体になるとは限らないが、$M$ の任意の点の適当な近傍 $V$ に対して、$B:=V/\xi$ は多様体となる。 さらに $X_\ast,Y_\ast\in \chi(B)$ の水平リフトを $X,Y\in \chi(V)$ とし、$B$ 上のリーマン計量 $h$ を $$ h(X_\ast,Y_\ast):=g(X,Y) $$ で定義すれば、$\pi:(V,g)\to(B,h)$ はリーマン沈め込みとなる。 $||\xi||^2=\epsilon e^{2U},\ \epsilon=\pm1,\ U\in C^\infty(V)$ とし、$\eta={}^\flat\xi,\ \hat\xi=e^{-U}\xi,\ \omega=\eta\wedge d\eta$ とする。 さらに $\{\hat\xi,X_1,\cdots,X_n\}$ を正規直交フレームとする。
命題 15
上の設定において次が成り立つ。 $$ \begin{align} (1)&\ Ric(\xi ,\xi )=-\epsilon e^{2U}||dU||_h^2-\epsilon e^{2U}\Delta^hU+\frac{1}{2}\epsilon e^{-2U}||\omega||^2_s\\ (2)&\ Ric(X,\xi )=-\epsilon_i X_i(U)d\eta(X_i,X)-\epsilon_i\frac{1}{2}(\nabla_{X_i}d\eta)(X_i,X)=-\frac{s_h(-1)^ne^{-U}}{2}(\ast_hd\ast\omega)(X)\\ (3)&\ Ric(X,Y)=Ric_\ast(X,Y)+X(U)Y(U)- \frac{1}{2}(XY(U)+YX(U)+\nabla_XY(U)+\nabla_YX(U))\\ &\ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ -\frac{1}{2}\epsilon e^{-2U}\sum_i\epsilon_id\eta(X_i,X)d\eta(X_i,Y)\\ \end{align} $$ ここで、$s_h=\pm1$ は $\det(h)$ の符号であり、$X,Y\in\chi^h(V)$ である。 また $\ast$ は $g$ に関するHodge作用素であり、$\ast_h$ は $h$ に関するHodge作用素である。
(1)の証明
Proof.
命題14(1)より $$ Ric(\xi ,\xi )=-g(H,T_\xi \xi )+\epsilon_ig((\nabla_{X_i}T)(\xi ,\xi ),{X_i})+\epsilon_i||A_{X_i}\xi||^2 $$ である。 この各項を以下のように計算する。
(i) $-g(H,T_\xi \xi )=-\epsilon e^{2U}||dU||_h^2$
計算
$ \hat \xi =e^{-U}\xi $ とおくと $ H=\epsilon T_{\hat \xi }\hat \xi =\epsilon e^{-2U}T_\xi \xi $ より $ -g(H,T_\xi \xi )=-\epsilon e^{-2U}||T_\xi \xi ||^2$ である。 さらに $$ g(T_\xi \xi ,X_i)=-g(\nabla_{X_i}\xi ,\xi )=-\frac{1}{2}X_i||\xi ||^2=-X_i(U)||\xi ||^2 $$ なので $$ T_\xi \xi =\epsilon_ig(T_\xi \xi ,X_i)X_i=-\epsilon_iX_i(U)||\xi ||^2X_i=-\epsilon\epsilon_iX_i(U)e^{2U}X_i $$ となり、よって $$ -g(H,T_\xi \xi )=-\epsilon e^{-2U}||T_\xi \xi ||^2=-\epsilon e^{2U}\sum_i\epsilon_iX_i(U)^2=-\epsilon e^{2U}||dU||_h^2 $$ である。
□(ii) $\epsilon_ig((\nabla_{X_i}T)(\xi ,\xi ),{X_i})=-\epsilon e^{2U}\Delta^hU$
計算
$$ \begin{align} \sum_i\epsilon_ig((\nabla_{X_i}T)(\xi ,\xi ),{X_i})&=\sum_i\epsilon_i g(\nabla_{X_i}(T_\xi \xi ),X_i)-\sum_i\epsilon_ig(T_{\nabla_{X_i}\xi }\xi ,X_i)-\sum_i\epsilon_ig(T_\xi \nabla_{X_i}\xi ,X_i)\\ &=\sum_i\epsilon_i g(\nabla_{X_i}(T_\xi \xi ),X_i)-\sum_i\epsilon_ig(T_\xi {\nabla_{X_i}\xi },X_i)+\sum_i\epsilon_ig(\nabla_{X_i}\xi ,T_\xi X_i)\\ &=\sum_i\epsilon_i g(\nabla_{X_i}(T_\xi \xi ),X_i)+2\sum_i\epsilon_ig({\nabla_{X_i}\xi },T_\xi X_i)\\ &=\sum_i\epsilon_i g(\nabla_{X_i}(T_\xi \xi ),X_i)-2\sum_ig(\nabla_{T_\xi X_i}\xi ,X_i)\\ &=\sum_i\epsilon_i g(\nabla_{X_i}(T_\xi \xi ),X_i)-2\sum_ig(\nabla_\xi {T_\xi X_i},X_i)\\ &=\sum_i\epsilon_i g(\nabla_{X_i}(T_\xi \xi ),X_i)+2\sum_i||T_\xi X_i||^2\\ &=\sum_i\epsilon_i g(\nabla_{X_i}(T_\xi \xi ),X_i)+2\epsilon_i||T_\xi X_i||^2 \end{align} $$ である。
$ T_\xi \xi =-\epsilon\epsilon_iX_i(U)e^{2U}X_i$ であるから $$ \begin{align} \sum_i\epsilon_i g(\nabla_{X_i}(T_\xi \xi ),X_i)&=-\sum_i\epsilon_i g(\nabla_{X_i}(\sum_j\epsilon\epsilon_j X_j(U)e^{2U}X_j),X_i)\\ &=-\sum_i\epsilon\epsilon_i X_i(X_i(U)e^{2U})-\sum_{i,j}\epsilon\epsilon_i\epsilon_j X_j(U)e^{2U}g(\nabla_{X_i}X_j,X_i)\\ &=-\sum_i\epsilon\epsilon_i(e^{2U}X_iX_iU+2e^{2U}X_i(U)^2)-\sum_{i,j}\epsilon\epsilon_i\epsilon_j X_j(U)e^{2U}g(\nabla_{X_i}X_j,X_i) \end{align} $$ である。
また $$ \begin{align} g(T_\xi X_i,\xi )=-g(X_i,\nabla_\xi \xi )=g(\xi ,\nabla_{X_i}\xi )=\frac{1}{2}X_i||\xi ||^2=\frac{\epsilon}{2}X_i(e^{2U})=\epsilon e^{2U}X_i(U) \end{align} $$ より $T_\xi X_i=\epsilon g(T_\xi X_i,\hat \xi )\hat \xi =X_i(U)\xi $ となる。 よって $ 2\epsilon_i||T_\xi X_i||^2=2\epsilon_i\epsilon e^{2U}X_i(U)^2$ である。
従って、 $$ \begin{align} \sum_i\epsilon_ig((\nabla_{X_i}T)(\xi ,\xi ),{X_i})&=-\sum_i\epsilon\epsilon_ie^{2U}X_iX_iU-\sum_{i,j}\epsilon\epsilon_i\epsilon_j X_j(U)e^{2U}g(\nabla_{X_i}X_j,X_i)\\ &=-\sum_i\epsilon\epsilon_ie^{2U}X_iX_iU+\sum_{i,j}\epsilon\epsilon_i\epsilon_j X_j(U)e^{2U}g(X_j,\nabla_{X_i}X_i)\\ &=-\sum_i\epsilon\epsilon_ie^{2U}X_iX_iU+\sum_{i}\epsilon\epsilon_i e^{2U}(\nabla_{X_i}X_i)(U)\\ &=-\sum_i\epsilon e^{2U}\epsilon_i(X_iX_i(U)-(\nabla_{X_i}X_i)U)=-\epsilon e^{2U}\Delta^hU \end{align} $$ である。
□(iii) $\epsilon_i||A_{X_i}\xi ||^2=\frac{1}{2}\epsilon e^{-2U}||\omega||^2_s$
計算
$X,Y\in\chi^b(U)$ に対して、 $$ \begin{align} d\eta(X,Y)&=Xg(\xi ,Y)-Yg(\xi ,X)-\eta([X,Y])\\ &=g(\nabla_X\xi ,Y)-g(\nabla_Y\xi ,X)=2g(\nabla_X\xi ,Y) =2g(A_X\xi ,Y) \end{align} $$ となる。よって $$ \begin{align} ||\omega||^2_s&=\frac{1}{3!}\omega_{ijk}\omega^{ijk} =\sum_{i,j}\frac{\epsilon\epsilon_i\epsilon_j}{2}\omega(\hat \xi ,X_i,X_j)^2\\ &=\sum_{i,j}\frac{\epsilon\epsilon_i\epsilon_j}{2}\eta(\hat \xi )^2d\eta(X_i,X_j)^2=2\sum_{i,j}\epsilon\epsilon_i\epsilon_je^{2U}g(A_{X_i}\xi ,X_j)^2=2\sum_{i}\epsilon\epsilon_i e^{2U}||A_{X_i}\xi ||^2 \end{align} $$ となることから分かる。
□$\square$
□(2)の証明
Proof.
命題14(3)より $$ Ric(X,\xi )=g(\nabla_\xi H,X)-\epsilon e^{-2U}g((\nabla_{\xi }T)(\xi ,\xi ),X)+\sum_i\epsilon_ig((\nabla_{X_i}A)(X_i,X),\xi )-2\sum_i\epsilon_ig(A_{X}{X_i},T_\xi X_i) $$ である。 このとき以下が成り立つ。
(i) $g(\nabla_\xi H,X)-\epsilon e^{-2U}g((\nabla_{\xi }T)(\xi ,\xi ),X)=-\frac{1}{2}\sum_i\epsilon_i X_i(U)d\eta(X_i,X)$
計算
$$ H=\epsilon T_{\hat \xi }\hat \xi =\epsilon e^{-2U}T_\xi \xi $$ であるから、 $$ g(\nabla_\xi H,X)=\epsilon e^{-2U} g(\nabla_\xi (T_\xi \xi ),X) $$ である。 また $$ -\epsilon e^{-2U}g((\nabla_{\xi }T)(\xi ,\xi ),X)=-\epsilon e^{-2U}g(\nabla_\xi (T_\xi \xi ),X)+\epsilon e^{-2U}g(T_{\nabla_\xi \xi }\xi ,X)+\epsilon e^{-2U}g(T_\xi \nabla_\xi \xi ,X) $$ なので、 $$ \begin{align} g(\nabla_\xi H,X)-\epsilon e^{-2U}g((\nabla_{\xi }T)(\xi ,\xi ),X)&=\epsilon e^{-2U}g(T_{\nabla_\xi \xi }\xi ,X)+\epsilon e^{-2U}g(T_\xi \nabla_\xi \xi ,X)\\ &=\epsilon e^{-2U}g(T_{\nabla_\xi \xi }\xi ,X)+\epsilon e^{-2U}g(\nabla_\xi {}^v (\nabla_\xi \xi ),X) \end{align} $$ となる。 ここで $ g(\nabla_\xi \xi ,\xi )=\xi ||\xi ||^2/2=0$ より $ \nabla_\xi \xi \in\Gamma(H)$ であるから、 $$ g(\nabla_\xi H,X)-\epsilon e^{-2U}g((\nabla_{\xi }T)(\xi ,\xi ),X)=\epsilon e^{-2U}g(T_{\nabla_\xi \xi }\xi ,X) =-\epsilon e^{-2U}g(\nabla_X\xi ,\nabla_\xi \xi ) $$ である。 さらに $$ -\epsilon e^{-2U}g(\nabla_{X}\xi ,\nabla_\xi \xi )=\epsilon e^{-2U}g(\xi ,A_{X}\nabla_\xi \xi )=-\frac{1}{2}\epsilon e^{-2U}d\eta(X,\nabla_\xi \xi ) $$ であり、$ \nabla_\xi \xi =-\epsilon\epsilon_iX_i(U)e^{2U}X_i$ を使うと、 $$ -\epsilon e^{-2U}g(\nabla_{X}\xi ,\nabla_\xi \xi ) =-\frac{1}{2}\epsilon_i X_i(U)d\eta(X_i,X) $$ を得る。
□(ii) $ \epsilon_ig((\nabla_{X_i}A)(X_i,X),\xi )-2\epsilon_ig(A_{X}{X_i},T_\xi X_i)=-\frac{1}{2}\sum_i\epsilon_i X_i(U)d\eta(X_i,X)-\frac{1}{2}\sum_i\epsilon_i(\nabla_{X_i}d\eta)(X_i,X)$
計算
$ X,Y,Z\in\chi^h(V)$ に対して、 $$ \begin{align} d\eta(X,Y)&=-2g(A_XY,\xi )\\ \nabla_Z(d\eta(X,Y))&=-2\nabla_Z(g(A_XY,\xi ))\\ (\nabla_Zd\eta)(X,Y)&=-2g((\nabla_ZA)(X,Y),\xi )-2g(A_XY,\nabla_Z\xi )\\ g((\nabla_ZA)(X,Y),\xi )&=-\frac{1}{2}(\nabla_Zd\eta)(X,Y)-g(A_XY,\nabla_Z\xi ) \end{align} $$ であるから、 $$ \sum_i\epsilon_ig((\nabla_{X_i}A)(X_i,X),\xi )=-\sum_i\epsilon_i\frac{1}{2}(\nabla_{X_i}d\eta)(X_i,X)-\sum_i\epsilon_ig(A_{X_i}X,\nabla_{X_i}\xi ) $$ となる。 さらに $ {}^v \nabla_{X}\xi =\epsilon g(\nabla_{X}\xi ,\hat \xi )\hat \xi =X(U)\xi $ より $$ g(A_{X_i}X,\nabla_{X_i}\xi )=g(A_{X_i}X,{}^v \nabla_{X_i}\xi )=X_i(U)g(A_{X_i}X,\xi )=-\frac{1}{2}X_i(U)d\eta(X_i,X) $$ であるから、 $$ \sum_i\epsilon_ig((\nabla_{X_i}A)(X_i,X),\xi )-2\sum_i\epsilon_ig(A_{X}{X_i},T_\xi X_i)=-\frac{1}{2}\sum_i\epsilon_i X_i(U)d\eta(X_i,X)-\sum_i\epsilon_i\frac{1}{2}(\nabla_{X_i}d\eta)(X_i,X) $$ を得る。
□よって $$ Ric(X,\xi )=-\epsilon_i X_i(U)d\eta(X_i,X)-\epsilon_i\frac{1}{2}(\nabla_{X_i}d\eta)(X_i,X) $$ が得られる。 さらに、(2)式の最後の等号 $$ \epsilon_i X_i(U)d\eta(X_i,X)+\epsilon_i\frac{1}{2}(\nabla_{X_i}d\eta)(X_i,X)=\frac{s_h(-1)^ne^{-U}}{2}(\ast_hd\ast\omega)(X) $$ は以下の計算から従う。
計算
(途中)
□(3)の証明
Proof.
(途中)
□スカラー曲率の分解
リッチテンソルの分解を使うとスカラー曲率の分解の式が導かれる。 各ファイバーをリーマン部分多様体と見なしたときのスカラー曲率を $\hat R$ とし、$(B,h)$ のスカラー曲率 $R^B$ の引き戻しを $R^B_\ast(=\pi^\ast R^B)$ とする。
命題 16
$$ \begin{align} R=\hat R+R^B_\ast-||H||^2+2\sum_i\epsilon_ig(\nabla_{X_i}H,X_i)-\frac{1}{2}||A||^2-\frac{1}{2}||T||^2 \end{align} $$ が成り立つ。 ここで $\{X_i\}$ は水平分布 $\mathcal{H}$ の正規直交基底であり、$||X_i||^2=\epsilon_i=\pm1$ とする。
Proof.
垂直分布 $\mathcal{V}$ の正規直交基底を $\{\nu_p\}$ とし、$\epsilon_p=||\nu_p||^2=\pm1$ とおく。 命題14(1),(2)を使うと $$ \begin{align} R&=\sum_p\epsilon_pR(\nu_p,\nu_p)+\sum_i\epsilon_iRic(X_i,X_i)\\ &=\sum_p\epsilon_pRic(\nu_p,\nu_p)-\sum_p\epsilon_pg(H,T_{\nu_p}\nu_p)+\sum_{i,p}\epsilon_p\epsilon_ig((\nabla_{X_i}T)(\nu_p,\nu_p),{X_i})+\sum_{i,p}\epsilon_p\epsilon_ig(A_{X_i}\nu_p,A_{X_i}\nu_p)\\ &+\sum_i\epsilon_iRic^B_\ast(X_i,X_i)+\frac{1}{2}\sum_i\epsilon_i(g(\nabla_{X_i}H,X_i)+g(\nabla_{X_i}H,X_i))-\sum_{i,p}\epsilon_i\epsilon_pg(T_{\nu_p}X_i,T_{\nu_p}X_i)-2\sum_{i,j}\epsilon_i\epsilon_jg(A_{X_i}X_j,A_{X_i}X_j)\\ &=\hat R+R^B_\ast-||H||^2+\sum_{i,p}\epsilon_p\epsilon_ig((\nabla_{X_i}T)(\nu_p,\nu_p),{X_i})+\sum_{i,p}\epsilon_p\epsilon_i||A_{X_i}\nu_p||^2\\ &+\sum_i\epsilon_ig(\nabla_{X_i}H,X_i)-\sum_{i,p}\epsilon_i\epsilon_p||T_{\nu_p}X_i||^2 -2\sum_{i,j}\epsilon_i\epsilon_jg(A_{X_i}X_j,A_{X_i}X_j)\\ &=\hat R+R^B_\ast-||H||^2+2\sum_i\epsilon_ig(\nabla_{X_i}H,X_i)+\sum_{i,p}\epsilon_p\epsilon_i||A_{X_i}\nu_p||^2-\sum_{i,p}\epsilon_i\epsilon_p||T_{\nu_p}X_i||^2 -2\sum_{i,j}\epsilon_i\epsilon_j||A_{X_i}X_j||^2\end{align} $$ である。 さらに $$ \begin{align} ||A||^2&=\sum_{i,j}\epsilon_i\epsilon_jg(A_{X_i}X_j,A_{X_i}X_j)+\sum_{i,p}\epsilon_i\epsilon_pg(A_{X_i}\nu_p,A_{X_i}\nu_p)=2\sum_{i,p}\epsilon_i\epsilon_p||A_{X_i}\nu_p||^2=2\sum_{i,j}\epsilon_i\epsilon_j||A_{X_i}X_j||^2\\ ||T||^2&=\sum_{p,q}\epsilon_p\epsilon_qg(T_{\nu_p}\nu_q,T_{\nu_p}\nu_q)+\sum_{p,i}\epsilon_p\epsilon_ig(T_{\nu_p}X_i,T_{\nu_p}X_i) =2\sum_{p,i}\epsilon_p\epsilon_i||T_{\nu_p}X_i||^2 \end{align} $$ であるから、 $$ \begin{align} R&=\hat R+R^B_\ast-||H||^2+2\epsilon_ig(\nabla_{X_i}H,X_i)+\frac{1}{2}||A||^2-\frac{1}{2}||T||^2-||A||^2\\ &=\hat R+R^B_\ast-||H||^2+2\epsilon_ig(\nabla_{X_i}H,X_i)-\frac{1}{2}||A||^2-\frac{1}{2}||T||^2 \end{align} $$ となる。 $\square$
□
全測地リーマン沈め込み
リーマン沈め込み $\pi:(M,g)\to(B,h)$ の各ファイバーが全測地的リーマン部分多様体であるとき、$\pi$ を全測地的リーマン沈め込み (totally geodesic Riemannian submersion) という。 全測地的リーマン沈め込みは扱いやすい性質を多く持っているのでこれまでに多くの研究がなされてきた。
命題 17
$\pi:(M,g)\to(B,h)$ が全測地的リーマン沈め込みであることと、$T=0$ であることは同値である。
Proof.
$\pi:(M,g)\to(B,h)$ が全測地的リーマン沈め込みであるとする。 定義より、$v,w\in\chi^v(M)$ に対して、$T_vw=0$ である。 また $X\in\chi^h(M)$ に対して、$g(T_vX,w)=-g(X,T_vw)=0$ である。 よって任意の $E,F\in\chi(M)$ に対して、$T_EF=0$ となるので $T=0$ である。
逆は明らかである。 $\square$
□Killing沈め込み
全測地的リーマン沈め込みの具体例として単純で有名なものは単位的Killingベクトル場によるリーマン沈め込みである。 擬リーマン多様体 $(M,g)$ において、単位的Killingベクトル場 $\xi$ とはKillingベクトル場であり、かつ $||\xi||^2=\epsilon=\pm1$ となるもののことである。 $p,q\in M$ が $\xi$ のある一つの積分曲線上に存在するとき、$p\sim q$ と同値関係を定めると商空間 $B=M/\xi$ は多様体となる。 $B$ を $\xi$ の軌道空間とも呼ぶ。
命題 18
上の設定において、$\pi:M\to B=M/\xi$ は全測地的リーマン沈め込みとなる。
Proof.
$X_\ast,Y_\ast\in \chi(B)$ の水平リフトを $X,Y\in \chi(M)$ とする。 $B$ 上のリーマン計量 $h$ を $$ h(X_\ast,Y_\ast):=g(X,Y) $$ で定義すれば、$\pi:(M,g)\to(B,h)$ はリーマン沈め込みである。
また $X\in\chi^h(M)$ に対して、 $$ g(T_\xi\xi,X)=g(\nabla_\xi\xi,X)=-g(\nabla_X\xi,\xi)=-\frac{1}{2}X||\xi||^2=0 $$ であるから、全測地的リーマン沈め込みである。 $\square$
□定義 19
$(M,g)$ を擬リーマン多様体、単位的Killingベクトル場を $\xi$ とするとき、全測地的リーマン沈め込み $\pi:M\to B=M/\xi$ をKilling沈め込み(Killing submersion)という。 (${\rm dim}M=3$ のときのみKilling submersionと呼ぶことも多い)
命題 20
$\pi:M\to B=M/\xi$ をKilling沈め込みとし、$||\xi||^2=\epsilon=\pm1,\ \eta={}^\flat\xi$ とし、水平分布の正規直交基底を $\{X_i\}$ とする。 このときRicciテンソルの分解は次のようになる。 $$ \begin{align} (1)&\ Ric(\xi,\xi)=\frac{1}{2}||d\eta||_s^2\\ (2)&\ Ric(X,\xi)=-\frac{1}{2}\sum_i\epsilon_i(\nabla_{X_i}d\eta)(X_i,X)\\ (3)&\ Ric(X,Y)=Ric^B_\ast(X,Y)-\frac{\epsilon}{2}\sum_i\epsilon_id\eta(X,X_i) d\eta(Y,X_j),\\ \end{align} $$ ここで $X,Y\in\chi^h(M)$ である。
概エルミート沈め込み
いくつかの例
出典
- 1 Robert Hermann. (1959) "A SUFFICIENT CONDITION THAT A MAPPING OF RIEMANNIAN MANIFOLDS BE A FIBRE BUNDLE". Proceedings of the American Mathematical Society 11.2 (1960): 236-242. .
- 2 Barrett ONeill. (1966) "The fundamental equations of a submersion.". Michigan Mathematical Journal 13.4 (1966): 459-469 .
- 3 T. Kaluza.. (1921) "{{{title}}}". Sitzungsber. Preuss. Akad. Wiss. Phys. Math. Kl. 2. 966 (1921). .