モデル圏
モデル圏
モデル圏(Model Category)とは、ホモトピー論を行なうために十分な構造を備えた圏である。 現代では$\infty$-圏論に於いて幾つかのモデルを比較する為めの基礎言語として用いられ、基本的である。 具体的には弱同値、ファイブレーション、コファイブレーションと呼ばれる射のクラスが互いに整合しているとき、 この三つ組をモデル構造と呼び、 モデル構造を備えた圏をモデル圏と呼ぶ。 モデル圏は位相空間の為す圏や、単体的集合の為す圏および鎖複体の為す圏などから抽象化されたものである。 この概念はD. G. Quillenによって導入された。
定義
まず駆け足で定義をし、例や細かい性質は次節以降で述べる。 本節のおおまかな流れとしては、 まず持ち上げ可能性に関する概念としてD-対を導入し、 射の分解に関する概念として弱分解系を導入する。 次いで同値と見做すべき射の情報だけを持っている相対圏を定義し、 ホモトピー的圏を定義する。 これらの言葉を用いるとモデル圏は次のように定式化できる。
$\mathcal{M}$ を圏とする。 $\mathcal{M}$ の射のクラスの三つ組 $\langle\mathcal{W}, \mathcal{C}, \mathcal{F}\rangle$ がQuillenの意味でモデル構造であるとは、
- 組 $\langle\mathcal{M}, \mathcal{W}\rangle$ はホモトピー的圏である。
- 組 $\langle\mathcal{C}\cap\mathcal{W}, \mathcal{F}\rangle$ は弱分解系である。
- 組 $\langle\mathcal{C}, \mathcal{F}\cap\mathcal{W}\rangle$ は弱分解系である。
を満たすことである。 この節ではこの定義の意味を最短で理解することを目指す。
D-対
$\mathcal{M}$ を圏とする。 $\mathcal{M}$ の射のクラス $\mathcal{S}$、$\mathcal{T}$ について、 $\mathcal{S}$ が $\mathcal{T}$ に関する左持ち上げ性質を満たすとは、
- $\mathcal{S}$ の元 $f$ から $\mathcal{T}$ の元 $g$ への 矢圏 $\mathsf{Arr}(\mathcal{M})$ の射 $\langle a, b\rangle$ について、$h\circ f=a$ かつ $g\circ h=b$ を満たす射 $h$ が存在する。
を満たすことである。 $\mathcal{T}$ は $\mathcal{S}$ に関する右持ち上げ性質を満たすともいう。 この関係を $\mathcal{S}\mathrel{\square}\mathcal{T}$ と書く。
$\mathcal{S}$ が $\mathcal{T}$ に関する左持ち上げ性質を満たすような組をここでは持ち上げ可能対と呼ぶことにしよう。 このとき持ち上げ可能対 $\langle \mathcal{S}, \mathcal{T} \rangle$ に対して $$ \mathcal{}^{\square}\mathcal{T}=\{ f \mid f\mathrel{\square}\mathcal{T} \},\\ \mathcal{S}^{\square}=\{ g \mid \mathcal{S}\mathrel{\square}g \}, $$ と置くと、 定義から組 $\langle \mathcal{S}, \mathcal{S}^{\square}\rangle$ は第一成分が $\mathcal{S}$ であるような持ち上げ可能対の中で最大のものである。 組 $\langle \mathcal{}^{\square}\mathcal{T}, \mathcal{T}\rangle$ は第二成分が $\mathcal{T}$ であるような持ち上げ可能対の中で最大のものである。 このことに留意すると $\langle {}^{\square}\mathcal{T}^{\square}, {}^{\square}\mathcal{S}^{\square}\rangle$ は $\langle\mathcal{S}, \mathcal{T}\rangle$ を含む最大の持ち上げ可能対である。 この意味での最大性を満たす持ち上げ可能対をD-対と呼ぶ。
弱分解系
$\mathcal{M}$ を圏とする。 $\mathcal{M}$ の二つの射のクラスの組 $\langle \mathcal{L}, \mathcal{R} \rangle$ が弱分解系(Weak Factorization System)であるとは、
- 組 $\langle \mathcal{L}, \mathcal{R} \rangle$ はD-対である。
- 圏 $\mathcal{M}$ の任意の射 $f$ は、$\mathcal{R}$ の射 $r$ と $\mathcal{L}$ の射 $l$ を用いて $f=l\circ r$ と書かれる。
を満たすことである。
相対圏
相対圏はBarwickとKanにより導入されたホモトピー圏を考える上で必要な最小限の構造である。
$\mathcal{M}$ を圏とする。 $\mathcal{M}$ の射のクラス $\mathcal{W}$ との組 $\langle \mathcal{M}, \mathcal{W}\rangle$ が相対圏(Relative Category)であるとは、
- 恒等射は $\mathcal{W}$ の元である。
- $\mathcal{M}$は合成で閉じている。
を満たすことである。 $\mathcal{M}$の元を弱同値という。
ホモトピー的圏
$\mathcal{M}$ を圏とする。 $\mathcal{M}$ の射のクラス $\mathcal{W}$ との組 $\langle \mathcal{M}, \mathcal{W}\rangle$ がホモトピー的圏(Homotopical Category)であるとは、
- 組 $\langle \mathcal{M}, \mathcal{W}\rangle$ は相対圏である。
- 合成可能な3つの射 $f$、$g$、$h$について、$g\circ f$ および $h\circ f$ が$\mathcal{W}$ に属するならば、$f$、$g$、$h$、$h\circ g\circ f$ は $\mathcal{W}$ に属する。
を満たすことである。 二つ目の条件を2 out of 6性質といい、後述するようにこの性質から同型射を含むことや2 out of 3性質が成り立つことが分かる。
以下、工事中。