ベクトル束の直和・テンソル積
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この記事では、係数体 $\mathbb{K}$ とは $\mathbb{R}$ あるいは $\mathbb{C}$ のことを指すものとする。
位相空間 $X$ 上のベクトル束が与えられたときに、新しいベクトル束を構成する操作をここで提示する。ここでは、ベクトル束の直和・テンソル積について紹介する。
位相空間 $B$ と $B$ 上のベクトル束 $p_1 \colon E_1 \to B$, $p_2 \colon E_2 \to B$ が与えられたとする。このとき、$x \in B$ について $E_{1,x} := p_1^{-1}(x)$, $E_{2,x} := p_2^{-1}(x)$ はそれぞれベクトル空間である。ここで $E_x$ を $E_{1,x} \oplus E_{2,x}$ として定め、$E$ を $\bigcup E_x$ として定める。このとき、自然な射影 $p \colon E \to B$ はベクトル束の構造を持つ。
ベクトル束の構造についての説明
$E_1$, $E_2$ の局所自明化を可能にする $B$ の開集合 $U$ について、局所自明化 $t_1 \colon p_1^{-1}(U) \to U \times \mathbb{K}^{n_1}$, $t_2 \colon p_2^{-1}(U) \to U \times \mathbb{K}^{n_2}$ が与えられる。このとき、$(a, b) \in E_x$ に対して $(x, \mathrm{pr}_2(t_1((x,a))) + \mathrm{pr}_2(t_2((x,b)))) \in U \times \mathbb{K}^{n_1 + n_2}$ を充てる写像 $t \colon p^{-1}(U) \to U \times \mathbb{K}^{n_1 + n_2}$ を得られる。このようにして得られる射を局所自明化とするような位相・演算を $E$ に入れることができるが、これは $p$ にベクトル束の構造を与える。□
この方法で構成したベクトル束を、$E_1$ と $E_2$ の直和とよび、$E_1 \oplus E_2$ とよぶ。直和に関して、以下の性質が成り立つ。
- 自然な包含写像 $i_1 \colon E_1 \to E_1 \oplus E_2$, $i_2 \colon E_2 \to E_1 \oplus E_2$ が存在して、さらに $x \in B$ に対して $i_{1,x}$, $i_{2,x}$ は直和図式を構成する。
- ベクトル束 $E_1$, $E_2$, $E_3$ について、標準的な同型 $(E_1 \oplus E_2) \oplus E_3 \to E_1 \oplus (E_2 \oplus E_3)$ が存在する。
- ベクトル束 $E_1$ について、標準的な同型 $E_1 \oplus \mathrm{id}_B \to E_1$, $\mathrm{id}_B \oplus E_1 \to E_1$ が存在する。
位相空間 $B$ と $B$ 上のベクトル束 $p_1 \colon E_1 \to B$, $p_2 \colon E_2 \to B$ が与えられたとする。このとき、$x \in B$ について $E_{1,x} := p_1^{-1}(x)$, $E_{2,x} := p_2^{-1}(x)$ はそれぞれベクトル空間である。ここで $E_x$ を $E_{1,x} \otimes E_{2,x}$ として定め、$E$ を $\bigcup E_x$ として定める。このとき、自然な射影 $p \colon E \to B$ はベクトル束の構造を持つ。
ベクトル束の構造についての説明
$E_1$, $E_2$ の局所自明化を可能にする $B$ の開集合 $U$ について、局所自明化 $t_1 \colon p_1^{-1}(U) \to U \times \mathbb{K}^{n_1}$, $t_2 \colon p_2^{-1}(U) \to U \times \mathbb{K}^{n_2}$ が与えられる。このとき、$\sum_i a_i \otimes b_i \in E_x$ に対して $(x, \sum_i \mathrm{pr}_2(t_1((x,a_i))) \otimes \mathrm{pr}_2(t_2((x,b_i)))) \in U \times \mathbb{K}^{n_1n_2}$ を充てる写像 $t \colon p^{-1}(U) \to U \times \mathbb{K}^{n_1n_2}$ を得られる。このようにして得られる射を局所自明化とするような位相・演算を $E$ に入れることができるが、これは $p$ にベクトル束の構造を与える。□
この方法で構成したベクトル束を、$E_1$ と $E_2$ のテンソル積とよび、$E_1 \otimes E_2$ とよぶ。直和に関して、以下の性質が成り立つ。
- ベクトル束 $E_1$, $E_2$, $E_3$ について、標準的な同型 $(E_1 \otimes E_2) \otimes E_3 \to E_1 \otimes (E_2 \otimes E_3)$ が存在する。
このような方法で、ベクトル空間のあいだに施されるさまざまな構成・操作について、これをベクトル束の構成・操作に拡張することができる。例をあげると、双対をとる操作、$\mathrm{Hom}$ 構成、外積代数をとる操作、対称代数をとる操作などがある。
これらについてもほとんどまったく同様の方法でベクトル束の構成ができるが、しかしながら以下では別の統一的な形でベクトル束の構成を試みる。
ベクトル束 $p \colon E \to B$ について、局所自明化を可能にする $B$ の開被覆 $\{U_i\}$ と添字ごとに定められた局所自明化 $t_i \colon p^{-1}(U_i) \to U_i \times \mathbb{K}^n$ が与えられているとする。このとき、$t_{j,i} = t_j \circ t_i^{-1} \colon U_i \cap U_j \times \mathbb{K}^n \to U_i \cap U_j \times \mathbb{K}^n$ から、連続写像 $g_{j,i} \colon U_i \cap U_j \to \mathrm{GL}(\mathbb{K}^n)$ を構成することができる。この写像 $g_{j,i}$ をベクトル束 $E$ の変換関数という。
このとき、添字 $i$, $j$, $k$ について $g_{k,j}(x)g_{j,i}(x) = g_{k,i}(x)$ が成り立つことが観察される。この条件のことをコサイクル条件とよぶ。
逆に、コサイクル条件をみたす写像の族 $\{g_{j,i}\}$ について、$\{g_{j,i}\}$ を変換関数と持つような局所自明化を備えたベクトル束を構成することができ、またそのような局所自明化を持つようなベクトル束はいずれも同型であることが確かめられる。
ここで、コサイクル条件をみたす写像の族どうしに関する操作・構成を考えることによって、ベクトル束の操作・構成を実現することを試みる。
ベクトル空間 $V_1$, $V_2$ と変換関数 $\{g_{1,j,i}\colon U_i \cap U_j \to \mathrm{GL}(V_1)\}$, $\{g_{2,j,i}\colon U_i \cap U_j \to \mathrm{GL}(V_2)\}$ が与えられたとする。このとき、自然な連続写像 $\mathrm{GL}(V_1) \times \mathrm{GL}(V_2) \to \mathrm{GL}(V_1 \oplus V_2)$ によって $V_1 \oplus V_2$ をファイバーに持つベクトル束を構成することができる。これは上に述べたベクトル束の直和の構成と同型を除いて一致する。
同様に、自然な連続写像 $\mathrm{GL}(V_1) \times \mathrm{GL}(V_2) \to \mathrm{GL}(V_1 \otimes V_2)$ によって $V_1 \otimes V_2$ をファイバーに持つベクトル束を構成することができる。これは上に述べたベクトル束のテンソル積の構成と同型を除いて一致する。
このように、演算を保つ連続写像 $\mathrm{GL}(V_1) \times \ldots \times \mathrm{GL}(V_n) \to \mathrm{GL}(V)$ に対して、この写像を用いてファイバーが $V_1, \ldots, V_n$ であるベクトル束についてファイバーが $V$ であるようなベクトル束を構成することができる。
- ベクトル束 $E$ についてその双対 $\mathrm{Hom}(E,\mathbb{K})$ とは、転置を充てる連続写像 $\mathrm{GL}(\mathbb{K}^n) \to \mathrm{GL}(\mathbb{K}^n)$ によって実現される構成である。
- ベクトル束 $E$ についてその $k$ 次外積 $\bigwedge^k E$ とは、連続写像 $\mathrm{GL}(V) \to \mathrm{GL}(\bigwedge^k V)$ により実現される構成である。
- ベクトル束 $E$ についてその対称代数 $S(E)$ とは、連続写像 $\mathrm{GL}(V) \to \mathrm{GL}(S(V))$ により実現される構成である。
同様に、ベクトル空間における様々な操作をベクトル束の操作のレベルで実現することができる。