アーベル圏1:加法圏

提供: Mathpedia

入門テキスト「アーベル圏」


$ \newcommand{\cA}{\mathcal{A}} \newcommand{\cB}{\mathcal{B}} \newcommand{\cC}{\mathcal{C}} \newcommand{\cD}{\mathcal{D}} \newcommand{\cE}{\mathcal{E}} \newcommand{\cF}{\mathcal{F}} \newcommand{\cG}{\mathcal{G}} \newcommand{\cH}{\mathcal{H}} \newcommand{\cI}{\mathcal{I}} \newcommand{\cJ}{\mathcal{J}} \newcommand{\cK}{\mathcal{K}} \newcommand{\cL}{\mathcal{L}} \newcommand{\cM}{\mathcal{M}} $

$ \newcommand{\cU}{\mathcal{U}} \newcommand{\mN}{\mathbb{N}} \newcommand{\mZ}{\mathbb{Z}} \newcommand{\mQ}{\mathbb{Q}} \newcommand{\mR}{\mathbb{R}} \newcommand{\mC}{\mathbb{C}} \newcommand{\mF}{\mathbb{F}} \newcommand{\mH}{\mathbb{H}} \newcommand{\mM}{\mathbb{M}} $

$ \newcommand{\sS}{\mathscr{S}} \newcommand{\sP}{\mathscr{P}} $

$ \newcommand{\Hom}{\mathrm{Hom}} $

$ \newcommand{\Fo}{F_{ob}} \newcommand{\FH}{F_{H}} \newcommand{\Go}{G_{ob}} \newcommand{\GH}{G_{H}} $

$ \newcommand{\m}{\mathfrak{m}} $

$ \newcommand{\Az}{A\backslash\{0\}} \newcommand{\Fr}{Freb_q} $

$ \newcommand{\oK}{\overline{K}} \newcommand{\oL}{\overline{L}} $

$ \newcommand{\G}{Gal(L/K)} $

$ \newcommand{\set}[1]{\left\{#1\right\}} $

$ \newcommand{\ilim}[1]{\varinjlim\limits_{#1}} \newcommand{\plim}[1]{\varprojlim\limits_{#1}} $

$ \newcommand{\p}{\prime} $

$ \newcommand{\ra}{\rightarrow} \newcommand{\la}{\leftarrow} \newcommand{\Ra}{\Rightarrow} \newcommand{\La}{\Leftarrow} \newcommand{\LR}{\Leftrightarrow} \newcommand{\xr}[1]{\xrightarrow{#1}} \newcommand{\xlrs}[2]{\overset{#1}{\underset{#2}\leftrightarrows}} \newcommand{\xrls}[2]{\overset{#1}{\underset{#2}\rightleftarrows}} $

$ \newcommand{\Ker}{\mathrm{Ker}} \newcommand{\Coker}{\mathrm{Coker}} \newcommand{\coker}{\mathrm{coker}} \newcommand{\Image}{\mathrm{Im}} \newcommand{\Coim}{\mathrm{Coim}} \newcommand{\End}{\mathrm{End}} $

定義 1. (零射を持つ圏)

$\cC$を圏とする。

$\cC$が以下を満たすとき, $\cC$には零射が与えられていると言う。

(1)任意の対象$X,Y\in\cC$に対して, 零射と呼ばれる射$0_{X,Y}\in\cC(X,Y)$が存在する

(2)零射は任意の$X.Y,Z\in\cC$に対して以下を満たす

(a)任意の$f\in\cC(X,Y)$に対して$0_{Y,Z}\circ f=0_{X,Z}$

(b)任意の$g\in\cC(Y,Z)$に対して$g\circ 0_{X,Y}=0_{X,Z}$

命題 1. (恒等射が零射$\LR$零対象)

$\cC$を零射を持つ圏とする。

ある$C\in\cC$に対して以下は同値。

(1)$id_C=0$

(2)$C$は始対象

(3)$C$は終対象

(4)$C$は零対象

Proof.

$(1)\Ra(2)$

任意の$X\in\cC$に対して$\cC(C,X)=\set{0}$を示す。

任意に$f\in\cC(C,X)$を取る。

\[ f=f\circ id_C=f\circ 0=0 \]

よって、$C$は始対象。

$(2)\La(1)$

$\cC(C,C)=\set{0}$より明らか。

$(1)\LR(3)$も双対的に示される。$(4)$は$(2)$かつ$(3)$なので$(1)\LR(4)$

命題 1. (零対象は零射を定める)

圏$\cC$が零対象を持つとする。

任意の$X,Y\in\cC$に対して零射$X\ra Y$を零対象を経由する射として定義する。

この方法で$\cC$に零射を与える事ができる。

命題 1. (零対象をうつす関手$\LR$零射をうつす関手)

$\cC,\cD$を零対象を持つ圏とする。以下が成り立つ。

関手$F:\cC\ra\cD$は零対象を零対象にうつす$\LR$関手$F:\cC\ra\cD$は零射を零射にうつす。

命題 1. ()

圏$\cC$に零射が与えられているとする。対象$X_1,X_2\in\cC$に対して以下が成り立つ。

積$(X_1\times X_2,p_1,p_2)$および余積$(X_1\coprod X_2,\iota_1,\iota_2)$が存在するとき、以下を満たす射$\eta\in\cC(X_1\coprod X_2,X_1\times X_2)$が一意に存在する。

\[ p_1\circ\eta\circ\iota_1=id_{X_1},\ p_2\circ\eta\circ\iota_1=0 \] \[ p_1\circ\eta\circ\iota_2=0,\ p_2\circ\eta\circ\iota_2=id_{X_2} \]

Proof.


定義 1. (直和)

$\cC$に零射が与えられているとする。

$X_1,X_2\in\cC$に対して、積$(X_1\times X_2,p_1,p_2)$および余積$(X_1\coprod X_2,\iota_1,\iota_2)$が存在し、上記命題で得られた$\eta:X_1\coprod X_2\ra X_1\times X_2$が同型となるとき、$X_1$と$X_2$の直和が存在するという。 このとき、$X_1,X_2$の(余)積を$X_1\oplus X_2$で表し$X_1$と$X_2$の直和という。

定義 1. (前加法圏)

圏$\cC$が以下を満たすとき、$\cC$を前加法圏(プレ加法圏)という。

(1)任意の$X,Y\in\cC$に対して、$\cC(X,Y)$がアーベル群となる。

(2)任意の$X,Y,Z$に対して、射の合成写像

\[ -\circ-:\cC(Y,Z)\times\cC(X,Y)\ra\cC(X,Z) \]

は双線形写像となる。


命題 1. (前加法圏における単射/全射性と同値な条件)

$\cC$を前加法圏とする。 以下が成り立つ。

(1)射$f:X\ra Y$が単射$\LR$

任意の$w\in\cC(W,X)$に対して、

\[ f\circ w=0\Ra w=0 \]

(1)射$f:X\ra Y$が全射$\LR$

任意の$z\in\cC(Y,Z)$に対して、

\[ z\circ f=0\Ra z=0 \]

Proof.


命題 1. ()

$\cC$を前加法圏とする。以下が成り立つ。

$X_1,X_2\in\cC$の積が存在する$\LR$$X_1,X_2\in\cC$の余積が存在する。

また、これらは存在すれば同型となるので実際には直和となる。

Proof.



定義 1. (直和因子)

$\cC$を前加法圏とする。

$X,X^\p\in\cC$に対して、ある$Y\in\cC$が存在して$X\cong X^\p\bigoplus Y$が成り立つとき、$X^\p$を$X$の直和因子という。


定義 1. (加法圏)

圏$\cC$が以下を満たすとき、$\cC$を加法圏とよぶ。

(1)$\cC$は前加法圏である。

(2)$\cC$には零対象$0\in\cC$が存在する。

(3)任意の$X,Y\in\cC$に対して、直和$X\bigoplus Y$が存在する。


命題 1. (加法圏は任意の有限直和を持つ)

$\cC$を加法圏とする。

任意の$X_1,\cdots X_n(n\in\mN)$に対して、直和$X_1\bigoplus\cdots\bigoplus X_n$が存在する。

零対象が0個の直和とみなせることと合わせて、この性質は任意の有限直和を持つと呼ばれる。

定義 1. (加法関手)

$\cC,\cD$を前加法圏とする。

関手$F:\cC\ra\cD$が加法的な関手であるとは、任意の$X,Y\in\cC$に対して

\[ F:\cC(X,Y)\ra\cD(FX,FY) \]

がアーベル群の準同型となることを言う。

命題 1. (加法関手は直和を保つ)

$\cC,\cD$を加法圏、$F:\cC\ra\cD$を加法関手とする。以下は同値。

(1)$F$は加法関手

(2)$F$は有限積を保つ

(3)$F$は有限余積を保つ

(4)$F$は複積を保つ


命題 1. ()

命題 1. ()

命題 1. ()

Proof.





Proof.


Proof.


Proof.


Proof.