$\odot$-回帰的
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<<執筆中>>
$\odot$-回帰的
$\odot$-回帰的(サン-かいきてき、sun-reflexive)な空間とは、共役空間のある部分空間を取り出す操作を2回行うと元に戻るようなBanach空間のことである。回帰的でないBanach空間も $\odot$-回帰的であることがある。
「ある部分空間」の決め方は、あらかじめ $\odot$-operatorとよばれる閉作用素を1つ選ぶことによって定まる。とくに選んだ$\odot$-operatorがある $C_0$-半群の無限小生成作用素である場合は重要であり、抽象的Cauchy問題の軟解の構成への応用が知られている。本記事で主として述べるのは $C_0$-半群の無限小生成作用素について $\odot$-回帰的な空間である。
定義
定義のための準備1: $\odot$-adjoint space
定義 1
$X$ をBanach空間、$T(t)$ を $X$ 上の $C_0$-半群とする。$X^*$ の部分空間 $$X^\odot = \left\{ x^* \in X^* \middle| \lim_{h \downarrow 0} \| T^*(h)x^* - x^*\| = 0 \right\}$$ を $X$ の( $T(t)$ に関する) $\odot$-adjoint spaceという。ここで $T^*(t)$ とは共役空間 $X^*$ における $T(t)$ の共役作用素である。
命題 1
$X$ の( $T(t)$ に関する) $\odot$-adjoint space $X^\odot$ について次が成り立つ:
- (i) $X^\odot$ は $T^*(t)$-不変な $X^*$ の閉部分空間である。
- (ii) $X^\odot = \overline{D(A^*)}$ である。ここで $A^*$ は $T(t)$ の無限小生成作用素 $A$ の共役作用素であり、$T(t)$ のweak $*$ generatorに等しい。
Proof.
□
命題1より、$T^*(t)$ の定義域を $X^\odot$ に制限することで $X^\odot$ 上の $C_0$-半群 $T^\odot(t)$ が得られる。これの無限小生成作用素を $A^\odot$ とおく。
定理 1
$A^\odot$ は $X^\odot$ における $A^*$ の部分(part)である。すなわち、 $$D(A^\odot) = \{ x^* \in D(A^*) | A^* x^* \in X^\odot \},\ A^\odot x^* = A^* x^*$$ である。
Proof.
□
定義のための準備2: $X^{\odot \odot}$ への埋め込み
$X^\odot$ 上の $C_0$-半群 $T^\odot(t)$ が定義されたので、再び $\odot$-adjoint spaceをとって $X^{\odot \odot} = (X^\odot)^\odot$ を定義することができる。$X^{\odot *} = (X^\odot)^*$ 上の作用素として $T^\odot(t)$ の共役作用素 $T^{\odot *}(t)$が定義され、$T^{\odot *}(t)$ の定義域を $X^{\odot \odot}$ に制限すれば、$X^{\odot \odot}$ 上の $C_0$-半群 $T^{\odot \odot}(t)$ が定義される。いま、線形写像 $j\colon X \to X^{\odot *}$ を以下で定義する。
定義 2
$$\langle j(x), x^\odot \rangle = \langle x^\odot, x\rangle$$
$X^\odot$ は $X^*$ においてweak $*$ の意味で稠密であることから $j$ の単射性がしたがう。
定義 3
$X$ のノルム $\| \cdot \|^\prime$ を、 $$\| x \|^\prime = \sup \{ |\langle x^\odot, x\rangle | \colon x^\odot \in X^\odot, \| x^\odot \| \leq 1 \}$$ で定める。
補題 1
- (i) 任意の $x^* \in X^*$ と $h > 0$ について、
$$\int_0^h T^*(s)x^* ds \in D(A^*)$$ かつ $$A^* \int_0^h T^*(s)x^* ds = T^*(h)x^* - x^*$$
- (ii) 次が成り立つ:
$$\left\| \int_0^h T^*(s) x^* ds \right\| \leq \frac{M}{\omega} (e^{\omega h}-1) \|x^*\|$$
Proof.
□
補題 2
$$\| x \|^\prime \leq \| x \| \leq M \| x \|^\prime$$ が成り立つ。ここで $M$ はある $\omega$ について $\| T(t) \| \leq Me^{\omega t}$ となるようにとる。
Proof.
□
系 1
$j$ は $X$ から $X^{\odot *}$ への連続な埋め込みである。また、 $X$ にノルム $\| \cdot \|^\prime$ を入れると $j$ はノルムを保存する。
命題 2
- (i) $jT(t) = T^{\odot *}j.$
- (ii) $j(X) \subset X^{\odot \odot}.$
Proof.
□
定義
命題2より、$j$ は $X$ から $X^{\odot \odot}$ への埋め込みであり、$x \in X$ と $j(x) \in X^{\odot \odot}$ を同一視すれば $X \subset X^{\odot \odot}$ である。$\odot$-回帰的な空間とは、$X = X^{\odot \odot}$ であるようなBanach空間のことである。
定義 4
$j(X) = X^{\odot \odot}$ のとき、$X$ は $T(t)$ に関して $\odot$-回帰的であるという。
例
例 1
$X$ が回帰的ならば $\odot$-回帰的でもある。
例 2
$X=C(S^1)$, $T(t)$ :shift semigroupのとき $X$ は $\odot$-回帰的である。
例 3
$X=C^0(\R)$, $T(t)$ :shift semigroupのとき $X$ は $\odot$-回帰的でない。
$\odot$-回帰的であるための必要十分条件
定理 2
Banach空間 $X$ が $C_0$-半群 $T(t)$ に関して $\odot$-回帰的となるためには、$X^\odot$ が $T^\odot(t)$ に関して $\odot$-回帰的となることが必要かつ十分である。
Proof.
□
定理 3
(Phillips)
Banach空間 $X$ が $C_0$-半群 $T(t)$ に関して $\odot$-回帰的となるためには、$T(t)$ の無限小生成作用素 $A$ のレゾルベント $(\lambda I-A)^{-1}$ が $\sigma(X, X^\odot)$-コンパクトとなることが必要かつ十分である。
Proof.
□
de Pagter によって、より強い次の結果が与えられている。
定理 4
(de Pagter)
Banach空間 $X$ が $C_0$-半群 $T(t)$に関して $\odot$-回帰的となるためには、$T(t)$ の無限小生成作用素 $A$ のレゾルベント $(\lambda I-A)^{-1}$ が弱コンパクトとなることが必要かつ十分である。
Proof.
□
抽象的Cauchy問題への応用
定理 5
$T_0(t)$ を $X$ 上の $C_0$-半群、$A_0$ を $T_0(t)$ の無限小生成作用素とし、$X$ は $T_0(t)$ に関して $\odot$-回帰的であるとする。$B\colon X \to X^{\odot *}$ を有界線形作用素とする。このとき、$X$ 上の $C_0$-半群 $T(t)$ で、variation-of-constants formula $$T(t)x = T_0(t)x + \int_0^t T_0^{\odot *}(t-s) BT(s)x ds,\ x\in X, t\geq 0$$ を任意の$x \in X, t \geq 0$ についてみたすものが唯一つ存在する。さらに、$T_0(t)$ が以下の条件 $$\| T(t) \| \leq Me^{\omega t},\ M \geq 1,\ \omega \in \R$$ をみたすならば、 $$\| T(t) \| \leq Me^{\bar\omega t},\ t\geq 0$$ が成り立つ。ここで $\bar\omega = \omega + M \| B \|$ である。
Proof.
□
定理5は抽象的Cauchy問題 $u^\prime (t)=A_0u(t)$ の解がわかっているときに、摂動項の加わった $u^\prime (t) = (A_0 + B)u(t)$ の解を考察する道具を与える。
一般の $\odot$-adjoint space
最後にHille, Phillipsによるより一般的な $\odot$-adjoint spaceの定義も述べておく。
定義 5
$X$ をBanach空間とする。閉作用素 $U\colon X\to X$ が以下の2条件
- (i) $D(U)$ は $X$ において稠密
- (ii) $\lambda \to \infty$において$\|(\lambda I - A)^{-1}\| = O(1/\lambda)$
をみたすとき、$U$ を $\odot$-operatorという。$\odot$-operator $U$ が与えられたとき、$X$ の共役空間 $X^*$ の部分空間 $$\overline{D(U^*)} \subset X^*$$ を$U$ に関する $X$ の $\odot$-adjoint spaceといい、$X^\odot$ と書く。
線形作用素 $A$ が $C_0$-半群の無限小生成作用素ならば $A$ は $\odot$-operatorであり、命題1より定義4と定義5による $\odot$-adjoint spaceは一致する。
参考文献
- Clement, Heijmans, Angenent, van Duijn, de Pagter (1987), “One-Paramter Semigroups”, CWI Monograph
- Diekmann, van Gils, Verduyn Lunel, Walther (1994), “Delay Equations Functional-, Complex-, and Nonlinear Analysis”, Springer-Verlag
- Hille, Phillips (1957), “Functional Analysis and Semi-Groups”, American Mathematical Society Colloquium Publications
- de Pagter (1989), “A Characterization of Sun-Reflexivity”, Math. Ann. 283, 511–518